*トワイライト・ゾーン*
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#501 [スピーディ]
その巨大な天幕の宮殿のあたりを行き来する人びとは、なかには金持らし、きらびやかな服装をしている者もいるが、多くはユ―タと似たり寄ったりの身なりだった。

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#502 [スピーディ]
門の外には、ずっと小さなテントがいくつも集まっていて、見るからに即製という感じの木材の小屋も見える。

こちらのほうでは、人びとがもっと気楽そうに、食べたり買い物をしたりお喋りをしたりしている。

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#503 [スピーディ]
あのせわしなく動きまわる人群れの中に、顔に傷のある男がいるのにちがいない。

村はお祭り会場になっていた。

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#504 [スピーディ]
このお祭り会場のどこかに、トニ―・パーカ―がいて、革ひもや馬具に異常がないか、点検しているのだろうか。

そうだといいな、とユ―タは思った。

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#505 [スピーディ]
大天幕周辺にいる人びとが、すぐに自分たちとの違いに気づいてこちらをじろじろ見るのではないか、とユ―タは心配した。

しかし宮殿の前にいる大人たちは一人としてユ―タに注意もしてないことが、しだいにわかってきた。

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#506 [スピーディ]
あるものはせかせか、あるものはぶらぶら歩き回り、小さなテントの店先に並べられた、敷物や壺や腕輪などを吟味したり、

木製のカップで飲物をのんだり、門の前に立っている番兵と議論したり、という具合。

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#507 [スピーディ]
みんながそれぞれ自分のことだけに気をとられていた。

ユ―タのお芝居など、てんから不必要だったのだ。

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#508 [スピーディ]
彼はしゃんと身を立てなおすと、ぐるりと迂回して、門のほうへ進んでいった。

だがすぐに、そう簡単にはなかに入れそうにないことがわかった。

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#509 [スピーディ]
番兵が宮殿に入ろうとする人びとを呼び止めては、なにやら問い質しているのだ。

呼び止められたほうは身分証明書を見せるか、出入り許可証のバッジなりを見せなければならないらしい。

⏰:11/04/08 00:18 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#510 [スピーディ]
傷痕のある隊長を見つけないかぎり、宮殿内には入れそうにない。

すると、番兵のもとは微妙にちがう軍服を着た、背の高い男が、姿をあらわした。

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#511 [スピーディ]
この男の軍服にはひだえりが付いていない。

また帽子も三角帽ではなかった。

どうやら将校か何からしい。

⏰:11/04/08 00:22 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#512 [スピーディ]
将校らしい男が番兵になにごとか言っている。

そのとき、彼の右目の下から顎の線のすぐ上にかけて、長く青い稲妻のような傷痕が、ジグザグに走っているのを、ユ―タは見た。

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#513 [スピーディ]
将校らしい男は番兵たちにうなずくと、きびきびした足取りで遠ざかっていった。

右も左も見ず、群衆の間を縫うようにして進んでいく。

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#514 [スピーディ]
ユ―タはそのあとを追って走り出した。

「あの…」

と声を掛けてみたが、相手はゆっくり動く人の波を縫ってずんずん先へ歩いてく。

ユ―タはようやく手を伸ばして彼のひじに触れた。

⏰:11/04/08 00:30 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#515 [スピーディ]
「隊長さん」

隊長がいきなりこちらに向き直ったので、ユ―タは思わずその場に凍りついたようになった。

⏰:11/04/08 00:32 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#516 [スピーディ]
近くで見ると、傷痕は太く切れ切れになっていて、たとえ傷がなかったとしてめ、その顔はおそろしく短気そうに見えただろう。

「なんだ?」

と、隊長は訊いた。

⏰:11/04/08 00:34 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#517 [スピーディ]
「隊長さん、ぼくはあなたに会わなければならないことになっていたんです
―女の人に会うんだけど、宮殿には入れそうにもないから。

ああそうだ、これを見てください」

⏰:11/04/08 00:36 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#518 [スピーディ]
ズボンのポケットに手を突っ込んで、三角形の物をひっぱり出した。

掌をひらいてみて、あまりのショックに茫然となった。

⏰:11/04/08 00:38 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#519 [スピーディ]
手に持っていたのは、ギター・ピックではなく、長い歯だったのだ。

たぶんサメの歯か何かで、そこに金筋の複雑な模様がきざまれている。

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#520 [スピーディ]
トニ―からもらったギター・ピックは、こちらの世界では姿形が変わっていた。

⏰:11/04/08 06:47 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#521 [スピーディ]
ぶん殴られることを予想して、隊長の顔を見上げ、そこにも同じようなショックの色が浮かんでいるのを、ユ―タら見た。

これまでの短気そうな苛立ちの表情がすっかり影をひそめている。

⏰:11/04/08 21:06 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#522 [スピーディ]
一瞬、不安と恐怖に近い色が、たくましい顔をゆがめさせた。

隊長が手を出してユ―タの手に触れた。

⏰:11/04/08 21:07 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#523 [スピーディ]
少年は彼が装飾のあるその歯を取ろうとしたのだと思った。

そうなら渡すつもりだったが、隊長は掌の上の歯を隠すように、指を折り曲げさせただけだった。

⏰:11/04/08 21:09 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#524 [スピーディ]
「ついてきなさい」

と、彼は言った。

二人は巨大な天幕の横手へ回っていった。

⏰:11/04/08 21:10 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#525 [スピーディ]
そして、大きな帆の形をした、青白い色の硬い布地の垂れ幕の裏側へ入っていった。

「その品をどこで手に入れたんだ?」

と、彼は落ち着きはらった声で訊いた。

⏰:11/04/08 21:12 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#526 [スピーディ]
「トニ―・パ―カ―から渡されたんです。

あなたを見つけて、これを見せるようにと言って」

相手はかぶりを振った。

⏰:11/04/08 21:13 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#527 [スピーディ]
「私の知らない名前だ。

その品をこっちによこしなさい。さあ」

そしてユ―タの手首をぎゅっとつかんだ。

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#528 [スピーディ]
「よこすんだ。 そしてどこで盗んだのか言え」

「本当です」

ユ―タは言った。

「トニ―・パ―カ―にもらったんです。

でも彼から渡されたときは、歯じゃなかった。

ギター・ピックでした」

⏰:11/04/08 21:17 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#529 [スピーディ]
「私に逆らったら、どういう目に遭うか、わかっていないようだな」

「あなたは彼を知ってるはずだ」

ユ―タは必死だった。

⏰:11/04/09 00:00 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#530 [スピーディ]
「彼があなたのことを話してくれたんだ、親衛隊の隊長だって。

トニ―があなたを探すように言ったんですよ」


隊長は、ユ―タの手首をつかんだ手にいっそう力を入れた。

⏰:11/04/09 00:02 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#531 [スピーディ]
「それはどんな男か話してみろ。

それでおまえが嘘をついているかどうかはっきりする。

私がおまえなら、いまのうちに正直にいうがね」

⏰:11/04/09 00:03 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#532 [スピーディ]
「トニ―は老人です。 昔はミュージシャンだったんです」

隊長の目に、なにか思い当たることがあるらしい。

⏰:11/04/09 00:04 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#533 [スピーディ]
「彼は黒人なんです。

髪は白く、顔に深いしわがあって、それにすごく痩せているけど、見かけよりはずっと強いんです」

「黒人? 」

⏰:11/04/09 00:06 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#534 [スピーディ]
「パ―カ―という黒人か」

隊長はユ―タの手首をそっと放した。

「ここではパ―カスと呼ばれている。

するとおまえはあっちから…」

⏰:11/04/09 00:07 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#535 [スピーディ]
「そうです」

「それではパ―カス…いや、パ―カ―…が、おまえを女王に会わせるためによこしたのだな」


「ぼくにその女の人に会えといいました。 あなたが合わせてくれるだろうって」

⏰:11/04/09 00:10 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#536 [スピーディ]
「急がなければ」

と、隊長は言った。

「なんとかできると思うが、時間を無駄にするわけにはいかんのだ」

軍人らしく、頭の切り替えも迅速だった。

⏰:11/04/09 00:11 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#537 [スピーディ]
「いいか、よく聞け。 ここには敵が大勢いる。

だからおまえは出来の悪い私の息子だということにする。

私の言い付けに従わなかったので、そのことで私がおまえに腹を立てているというわけだ。」

⏰:11/04/09 00:13 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#538 [スピーディ]
「うまくやれば、だれにも見咎められなくてすむだろう。

少なくともおまえを中に入れてやることはできる。

しかし、中に入ったら、もうちょっと芸当が必要になるかもしれん。

できるか? いかにも私の息子らしく振舞うんだぞ」

⏰:11/04/09 00:15 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#539 [スピーディ]
「ぼくの母は女優です」

ユ―タは誇りをもって言った。

「そうか、なら行くぞ」

と言うなり、垂れ幕の外に出ていき、なかば引きずられる格好でユ―タがそのあとに続いた。

⏰:11/04/09 00:17 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#540 [スピーディ]
「台所の裏の敷石を洗えと言ったら、言われたとおりにしろ」

隊長がユ―タのほうは見ないで怒鳴った。

⏰:11/04/09 00:19 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#541 [スピーディ]
「わかったか? 自分の仕事をちゃんとやれ。

やらなければお仕置きだぞ」

「だけど、何枚か洗ったよ…」

と、ユ―タも負けじと演技をする。

⏰:11/04/09 00:20 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#542 [スピーディ]
「何枚か、と言ったんじゃないぞ!」

隊長は後ろ手にユ―タを引きずりながら、さらに怒鳴った。

あたりの人びとは左右に道をあけた。

⏰:11/04/09 00:22 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#543 [スピーディ]
隊長は番兵のほうはちらりとも見ずに、ユ―タを門のほうへ引っ張っていき、中へ引きずり込んだ。

「やめてよ、父さん!」

と、ユ―タがわめく。

⏰:11/04/09 00:23 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#544 [スピーディ]
「痛いよ!」

「この程度で痛いとは、なんだ!」

隊長は広い中庭を、ぐいぐい引っぱりながら横切ってゆく。

⏰:11/04/09 00:25 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#545 [スピーディ]
中庭の反対端まで来ると、木の階段を登って、宮殿の中へと入った。

「ここからが演技の見せどころだぞ」

そうささやくなり、ユ―タの腕をあざが残るくらいきつくつかんで、長い廊下を進みだした。

⏰:11/04/09 00:27 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#546 [スピーディ]
「いい子になるって約束するよ!」

と、ユ―タが叫ぶ。

宮殿の内部は、とてもテントの内部とは思えないほどだった。

⏰:11/04/09 00:28 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#547 [スピーディ]
通路や小部屋が迷路のように入り組んでいて、煙と獣脂のにおいが充ちている。

「約束しろ!」

隊長がどなりつけた。

「約束する! するったら!」

⏰:11/04/09 00:30 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#548 [スピーディ]
「おまえの体から悪い虫をたたき出してやる」

と、隊長が大声で言った。

2、3人が笑い声をたてた。

⏰:11/04/09 00:32 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#549 [スピーディ]
かれらは柔らかそうなつば広の帽子をかぶり、長靴を履いていた。

欲深そうで、見るからに頭がからっぽという顔つきをしている。

⏰:11/04/09 00:34 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#550 [スピーディ]
かれらは、急いで通りすぎようとする少年と隊長の姿を、食い入るようにみつめていた。

「やめて!」

ユ―タが泣きわめく。

「お願い!」

⏰:11/04/09 00:35 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#551 [スピーディ]
「お願いと言うたびに、むちの回数がふえるぞ」

隊長がどなると、男たちがまた笑った。

⏰:11/04/09 00:37 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#552 [スピーディ]
隊長はほこりをかぶった木造家具が置いてある無人の部屋に、少年を引き入れた。

そこでやっと、ユ―タの腕を放した。

⏰:11/04/09 00:38 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#553 [スピーディ]
「あいつらは 奴の部下だ」
とささやく。

「あいつらには柔和さのかけらもない。

ただ奪い取ることしか知らない。

あいつらが欲しているのは富と、それに―」

⏰:11/04/09 00:40 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#554 [スピーディ]
その先を言う気がしないのか、それとも言えないのか、目をつり上げて宙を睨んだ。

それからまた、少年に目をもどす。

⏰:11/04/09 00:41 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#555 [スピーディ]
「ゆっくり説明しているひまはないが、宮殿内には奴の部下たちがまだ気づいていない秘密が2、3あるんだ」

そう言って、色あせた板壁のほうに顎をしゃくって見せた。

⏰:11/04/09 00:43 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#556 [スピーディ]
隊長が、ほこりっぽい板の端にむき出しのままになっている茶色い鋲の頭のうちの2つを押したとき、ユ―タには彼の言った意味がわかった。

壁が内側に動き、せいぜい棺桶を立てたていどの高さの、狭く暗い通路が現れたのだ。

⏰:11/04/09 00:45 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#557 [スピーディ]
「女王のお姿はちらりとしか見ることができないだろうが、それでも充分だろう。

どっちみちそれが精いっぱいだ」

⏰:11/04/09 00:47 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#558 [スピーディ]
ユ―タは無言で促されて、通路内に足を踏み入れた。

「よしと言うまでまっすぐ進め」

隊長はささやいた。

⏰:11/04/09 00:58 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#559 [スピーディ]
通路は右へ左へ曲りくねり、ところどころで、隠し扉のすきまとか、頭上につけられている窓から漏れる、かすかな光に照らされていた。

「よし」

隊長が言った。

⏰:11/04/09 00:59 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#560 [スピーディ]
「ここでおまえを抱き上げてやる。

腕を上げろ」

「ほんとに見えるんですか?」

「やってみるばわかる」

⏰:11/04/09 01:00 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#561 [スピーディ]
隊長は、手をユ―タの両わきの下にさし入れて、彼の体を床から持ち上げた。

「目の前に羽目板があるだろう。

それを左に動かしてみろ」

⏰:11/04/09 01:02 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#562 [スピーディ]
暗闇で前方へ手を伸ばすと、板はたやすく横にすべり、さっと光が通路内にさし込んできた。

ユ―タの目はホテルのロビーくらいの広さの部屋を見おろしていた。

⏰:11/04/09 01:04 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#563 [スピーディ]
白衣の女が大勢いて、家具にはやたらと装飾が施されていた。

部屋の中央には、おそろしく大きなベッドがあった。

⏰:11/04/09 01:05 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#564 [スピーディ]
その上に、眠っているのか意識不明なのか、1人の女が頭と肩だけを出して横たわっていた。

ユ―タは驚愕とショックであやうく叫びそうになった。

⏰:11/04/09 01:07 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#565 [スピーディ]
ベッドに寝ているのは彼の母だったのだ。

まちがいなく母だ。

それも死にかけている…。

⏰:11/04/09 01:07 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#566 [スピーディ]
「見えたか」

隊長がささやき、ユ―タを支えている腕にさらに力を入れた。

⏰:11/04/09 01:08 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#567 [スピーディ]
ユ―タは茫然として母をみつめていた。

彼女が死にかけていることは、一見してわかった。

⏰:11/04/09 01:09 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#568 [スピーディ]
看護にあたっている女たちは、シ―ツのしわをのばしたり、卓上の書物をそろえ直したりして動きまわっているが、

そのじつ病人を助ける方法の見当がつかなくて、ただ忙しげにふるまっているにすぎない。

⏰:11/04/09 01:13 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#569 [スピーディ]
死をせめて1週間でも、先に延ばすことができれば、それで精いっぱい、と思っているようだった。

少ししてユ―タは、ベッドに寝ている女が、どこか母とは違っていることに気づいた。

⏰:11/04/09 01:15 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#570 [スピーディ]
母よりは顎の形がいくらか丸みを帯び、鼻の形もわずかに古典的な感じがする。

死にかけているあの女は、母のツイナ―(分身者)、ローラ・デラシアンにちがいない。

⏰:11/04/09 01:17 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#571 [スピーディ]
「もういいです」

小声でささやいて、羽目板をもとにもどすと、隊長は下におろしてくれた。

⏰:11/04/09 13:05 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#572 [スピーディ]
暗闇でユ―タは訊いてみた。

「どこがお悪いんですか?」

「だれにもわからんのだ」

⏰:11/04/09 15:05 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#573 [スピーディ]
「女王は見ることも、しゃべることも、動くことすらできない…」

一瞬の沈黙があってから、隊長がユ―タの手を取った。

「もうもどらなければ」

⏰:11/04/09 15:06 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#574 [スピーディ]
二人は闇を抜けて、ほこりっぽい無人の部屋に出た。

隊長はじっと、ユ―タを見た。

「さて、こんどは私の質問に答えてもらおうか」

⏰:11/04/09 15:08 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#575 [スピーディ]
「はい」

「おまえはあのお方を救うためによこされたのか?

女王を救うために?」

ユ―タはうなずいた。

⏰:11/04/09 15:09 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#576 [スピーディ]
「たぶん―それも目的のひとつだと思います。

ひとつだけ教えてください」

ちょっと言い淀んだ。

⏰:11/04/09 15:10 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#577 [スピーディ]
「あの連中は、どうしてここを乗っ取ってしまわないんですか?

だって、攻め込まれても、女王にはあの連中を押しとどめる力はないでしょう」

⏰:11/04/09 15:11 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#578 [スピーディ]
隊長は微笑した。

ユ―モアのかけらもない、凄みのある笑いだった。

「私がいるからだ」

と言う。

⏰:11/04/09 15:12 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#579 [スピーディ]
「私の部下が、連中を押しとどめる。

ここではわれわれが女王を守っている」

両の拳をきつく合わせている。

⏰:11/04/09 15:13 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#580 [スピーディ]
「それで、おまえの行き先、おまえの受けた命令は、いったい…

あ、そうか、西へ行くこと、そうだな?」

「そうです」

と、ユ―タは答えた。

⏰:11/04/09 15:15 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#581 [スピーディ]
「西へ行くこと。 そうじゃないんですか?

間違いなんですか? ぼくはアルハンブラという街に行くのじゃないんですか?」

⏰:11/04/09 15:16 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#582 [スピーディ]
「私にはなんとも言えん」

隊長は一歩後退った。

「とにかくおまえは、今すぐここから出なければ。
おまえが何をすべきか、私の口から言うわけにはいかんのだ」

⏰:11/04/09 15:18 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#583 [スピーディ]
彼はユ―タの顔から目をそらしていた。

「これ以上ぐずぐずしてはいかん― ナオトがやって来る前に、おまえをここから出してやらなくては」

⏰:11/04/09 15:20 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#584 [スピーディ]
「ナオト?」

ユ―タは聞き違いかと思った。

「井上ナオト? 彼がここに来るんですか?」

⏰:11/04/09 15:20 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#585 [スピーディ]
「それはどんな人ですか?」
彼は急きこんで訪ねた。

「ナオトが?」

隊長は聞き返した。

⏰:11/04/09 15:22 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#586 [スピーディ]
「ふとっていますか?

ずんぐりふとって、禿げかけて?」

「いいや」

と隊長は答えた。

⏰:11/04/09 15:26 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#587 [スピーディ]
「ナオト卿は長身だ。

髪は長くのばしている、それに片方の足が悪い。

かかとを高くした長靴をはいているが―」

肩をすぼめた。

⏰:11/04/09 15:28 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#588 [スピーディ]
「でも、あなたは一瞬わかったような目をしましたよ!

きっとあなたは―」

「し―っ! 大きな声を出すんじゃない!」

⏰:11/04/09 15:29 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#589 [スピーディ]
ユ―タは声を落とした。

「彼を知ってるんでしょう」

と言ってはじめて、ユ―タは事の重大さを悟って、急に恐ろしくなった…

⏰:11/04/09 15:30 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#590 [スピーディ]
まだこの世界のことはよくわからないながらも、何かがわかりかけてきた。

(ナオト叔父さんがここにくる!)

⏰:11/04/09 15:31 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#591 [スピーディ]
「さあ、早くここから出るんだ」

隊長の手がまたユ―タの上腕をぎゅっと掴んだ。

ユ―タは痛さにひるんだが、我慢した。

⏰:11/04/09 15:33 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#592 [スピーディ]
(パ―カ―がこっちではパ―カスなのに、ナオト叔父さんは…そうするとやっぱり!)

「ちょっと待って」

と、彼は言った。

⏰:11/04/09 15:34 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#593 [スピーディ]
別の疑問がわいてきたのだ。

「あの方には男の子がいましたか?」

「女王のことか?」

「ええ」

⏰:11/04/09 15:35 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#594 [スピーディ]
「1人いた」

隊長がしぶしぶ答える。

「その子のことを話してください!」

「話すことなど何もない」
隊長は答える。

⏰:11/04/09 15:42 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#595 [スピーディ]
「子供は赤児のときに死んだ。

生後6週間たらずでだ。

ナオト卿の部下 ―たぶんオズモンドだろう―

が赤児を窒息死させたのだという噂があった。

それで…おい、どうした?」

⏰:11/04/09 15:45 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#596 [スピーディ]
ユ―タはあたりがすべて灰色一色になったような気がした。

めまいがして、隊長に支えられた。

⏰:11/04/09 15:46 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#597 [スピーディ]
ユ―タは赤ん坊のとき、死にかけたことがあったのだ。

母が話してくれたのだが、ユ―タは赤ん坊のとき、ベビーベッドで、見るからに生気を失って動かなくなっているのを発見されたことがあったという。

⏰:11/04/09 15:47 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#598 [スピーディ]
母はユ―タを抱き上げると、泣き叫びながら居間に駆け込んでいった。

居間では父とナオト叔父さんが床に座り込み、ワインの酔いでいいご機嫌で、テレビの野球の試合を観ていた。

⏰:11/04/16 11:23 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#599 [スピーディ]
その数分前のこと…

ワインをたくさん飲むと、トイレが近くなる。

居間からトイレに行くには、赤ん坊の寝ている部屋を通り抜けることになるのだ。

⏰:11/04/16 11:26 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#600 [スピーディ]
いま、ユ―タにはその光景が見えている。

ナオト叔父さんが、笑顔を見せて、『ちょっと失礼するよ』とか何とか言いながら立ち上がる。

⏰:11/04/16 11:27 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


#601 [スピーディ]
テレビの画面では、ちょうど終盤にさしかかったところで、父はろくにナオト叔父さんのほうを見もしない。

ナオト叔父さんはテレビが光を投げかけている居間を出て、ほの暗い子供部屋に入ってゆく。

⏰:11/04/16 11:29 📱:SH07B 🆔:☆☆☆


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