†horror†
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#65 [輪廻◆j6ceQ96kak]
第2話 【怪奇なる旅路】


響歌の仕事仲間だった中野敬太がこの世を去ってから早5ヶ月。


響歌の会社と学校は明日からしばらくの大型連休に入る。


そんな中…


優斗『なあ明日から3日間くらい旅館にでも泊まりに行かね?』


それはある日の仕事の休憩中、響歌の先輩の吉田優斗のこの発言から始まった―

⏰:11/05/03 22:09 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#66 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『旅館…ですか?』


休憩室のソファ。

吉田の左隣に座る響歌が訪ねる。


優斗『そっ! 最近残業も多かったし、気分転換にでもどうかって思ってよ』


雪乃『いいねえ!』


今度は吉田の右隣に座る雪乃が嬉しそうに言った。

⏰:11/05/03 22:11 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#67 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃の反応を確認した吉田は、響歌の方に目をやり、何かを訴える眼差しを示した。


響歌は空気を読むように


響歌『楽しそうですね! 行きたいです!』


と笑顔で答えたものの、その笑いはほぼ苦笑いに近かった。

⏰:11/05/03 22:27 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#68 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その表情を見逃さなかったであろう雪乃の視線が響歌を捉える。


雪乃『響歌、行きたくないなら無理しなくていいんだよ?』


響歌『えっ? そんな事…ないよ』


自分で苦笑いをしているのも気づかない響歌に吉田は眉をしかめた。

⏰:11/05/03 22:29 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#69 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『行きたくねーの?』


その真顔の吉田から放たれるプレッシャーは尋常ではない。


普段はおちゃらけている吉田だが、真顔になる吉田と普段の吉田とのギャップに響歌はいつも驚かされている。


響歌『いえ、ぜひ行きたいです!』


響歌は嫌な事は嫌だとハッキリ言えない自分を呪いたい気分だった。

⏰:11/05/03 22:32 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#70 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『よし、じゃあ決まりだな!』

吉田は安心した顔をすると、バッグから1枚の紙を取り出した。


雪乃『なにそれ。もしかしてパンフレット?』


優斗『あたり! コンビニにあったから貰ってきた』


雪乃『準備いいじゃん。で…どんなとこなの?』

話は響歌を置いて段々と進んでいく。

⏰:11/05/04 10:45 📱:T004 🆔:3WqBaJiw


#71 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『この旅館ネットで調べたんだけど、実は…出るらしいんだよ』


響歌『出る…?』


雪乃『出る…?』

響歌と雪乃はほぼ同時に聞いた。


吉田のニヤけ顔を察した雪乃が更に訪ねる。


雪乃『もしかして…霊的なやつ?』


優斗『…あたり』

静かにつぶやくように答えた。

⏰:11/05/04 10:50 📱:T004 🆔:3WqBaJiw


#72 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『なにそれ〜ウケるね』

しかし雪乃は驚くそぶりを見せず、むしろ楽しげに言う。


響歌『雪乃…怖くないの?』


雪乃『ちょっと耳貸して』

雪乃が響歌の耳元で小声で言った。


雪乃『冗談だと思うよ。ここは一応ホラ、騙されたと思っとこうよ』

その言葉に響歌は内心ホッとした。

⏰:11/05/04 10:56 📱:T004 🆔:3WqBaJiw


#73 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『おい、何話してんだよ〜』


雪乃『なんでもないよ。明日楽しみだねって話ししてたの』


優斗『2人共、霊が出てもチビるなよ!』


こうして明日からの3日間…響歌、吉田、雪乃の旅路が始まる。


この時の3人は、この3日間が地獄の旅路になるとは誰も予想などしていなかった―

⏰:11/05/04 11:03 📱:T004 🆔:3WqBaJiw


#74 [輪廻◆j6ceQ96kak]
翌日―


朝5時。

起床した響歌は早速準備に取りかかる。


昨夜吉田から連絡があり、明日の7時に吉田の車で迎えに来るという事を伝えられた。


泊まる旅館は車で片道5時間はかかる山中にあるという。


それだけでも充分霊が出そうな雰囲気だと感じた響歌。

⏰:11/05/04 11:13 📱:T004 🆔:3WqBaJiw


#75 [輪廻◆j6ceQ96kak]
昨日の雪乃の『冗談』という言葉を信じてその日は通話を終えた。


響歌『あ〜ん…服が決まらない』

女性はそういった身支度に時間がかかる。


お洒落街道まっしぐらの響歌もその1人だ。


響歌『なにやってんだろ私。人のいなさそうな山の中に行くのに服なんかにこだわっちゃって…』

現実に引き戻された響歌は、適当に動きやすそうな服をチョイスした。

⏰:11/05/04 11:19 📱:T004 🆔:3WqBaJiw


#76 [輪廻◆j6ceQ96kak]
結果…

上は黄色いTシャツにピンク色のパーカー。

下は丈の短いジーンズというシンプルなものになった。


洗顔などを含め、ここまでに時間は1時間以上も経過していた。


時計の針は早くも午前6時20分を指した。


響歌は最終的な準備に取りかかる。

⏰:11/05/04 11:27 📱:T004 🆔:3WqBaJiw


#77 [輪廻◆j6ceQ96kak]
大きめのバッグから3日分の荷物の整理。


着替えや生理用品などを細かく確認しながらバッグに入れていく。


響歌『こんなもんでいっか』


チェックが終わり、バッグを玄関に置く。


あとは吉田と雪乃が迎えに来るだけだ。

⏰:11/05/05 15:52 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#78 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『まだ時間あるしゴミでも捨ててくるかな』


脱衣場に向かい、2日分ほどたまったゴミ袋を手にして部屋を出た。


ゴミ捨て場には見慣れた顔の人が。


響歌の部屋の隣人である武田だ。


彼女はほうきを手にして掃除中のようだった。

⏰:11/05/05 15:57 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#79 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌はゆっくり近づいて声をかけた。


響歌『武田さん、おはようございます!』


武田『あら村井さん。おはよう、早いんだね』


響歌『はい。実は今日から3日間泊まりに行くんです』


武田『そうなの? いいわね、羨ましいわ』

ほがらかに笑いながら言った。

⏰:11/05/05 16:02 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#80 [輪廻◆j6ceQ96kak]
武田『どこに泊まるの?』


響歌『ええと…確か池崎旅館っていう所だったと思います』


武田『…池崎…旅館か。楽しんできてね』


響歌『ありがとうございます!』

軽く一礼し、ゴミをゆっくり置いてから部屋に戻った。


いつもは乱暴に投げているが、この時は武田が見ているためにゆっくり置いた。

⏰:11/05/05 16:07 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#81 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しばらくして響歌の携帯電話が鳴った。


響歌『吉田さんだ』

慌てて通話ボタンを押して電話に出る。


吉田『村井? もう着くから家の前で待ってて』


響歌『わかりました』

通話を切り、玄関に置いたバッグを手にして早々と部屋を出た。

⏰:11/05/05 16:12 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#82 [輪廻◆j6ceQ96kak]
外に出て1分もしない内にアパートの前に白い車がやってきた。


雪乃『響歌、おはよー。乗って乗って!』

助手席から雪乃が顔を覗かせて言った。


響歌『うん』

乗ろうとした際、掃除中の武田が近づいてきた。

⏰:11/05/05 16:17 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#83 [輪廻◆j6ceQ96kak]
武田『村井さん、どうか気をつけてね』


響歌『……はい?』

何を気をつけろというのかと聞き返したくなったが、背後で吉田が早く乗れと言ってくるので、何も言わずに早々と車に乗り込んだ。


武田『後悔しなさんな』

武田はそうポツリとつぶやいて、走り行く車を見えなくなるまでただ見ていた。

⏰:11/05/05 16:22 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#84 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『今のババア誰?』


響歌『あ、隣の部屋に住んでる武田さんです』


雪乃『さっきなんて言ってたの?』


響歌『確か…気をつけてって言ってたような…』


雪乃『あ〜優斗の運転荒いからね』

クスっと笑いながら雪乃が言う。

⏰:11/05/05 16:29 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#85 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『うっせーよ。大体あのババア俺の運転の仕方知らねーじゃん?』

それもそうだ。

ならば何に気をつけろと言っていたのだろうと響歌は疑問を感じていた。


雪乃『あ、山の中だからさ〜熊とかに気をつけろって事じゃないかな?』


優斗『なるほどな。それなら納得だぜ』


響歌『そうだよね?』

少し安心した響歌はホッと胸をなで下ろす。

⏰:11/05/05 16:34 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#86 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『そういえばさ、池崎旅館だっけ? あんま人来ない所だってネットで見たんだけどホント?』


優斗『らしいな。でも人少ない方が気楽でいっしょ』


雪乃『私達だけだったりして〜?』

雪乃と吉田2人してケラケラ笑う。

響歌だけは苦笑いだった。

⏰:11/05/06 11:26 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#87 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『なあなあ、もし俺達だけだったら夜肝試しとかやらねえ?』


雪乃『肝試し? 面白そうじゃん。ね、響歌?』

突然振られた響歌は戸惑った。


響歌『でも危なくないですか?』

運転席のミラー越に映る吉田の顔を見て言う。

⏰:11/05/06 11:32 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#88 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『3人で行動すれば大丈夫だって! なんかあったら守ってやるからよ』


雪乃『そりゃ頼もしいね。でもこういうのって意外と女の方が強かったりするんだよね』


優斗『お前を見りゃ霊も驚いて消えるか!』


雪乃『それどういう意味さぁ!』

カップルの会話が始まってしまった。

肩身の狭くなった響歌は窓から外の景色を見ながら2人の会話を聞き流した。

⏰:11/05/06 11:37 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#89 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それから数時間後、車は山の中へと入った。


雪乃『なんか暗くない? まだ10時なのに』


優斗『おもしれ〜じゃん。なんか出そうだな』

山の中は自然で静かな空気だが、木々が何かを訴えるようにざわついていて、なんとも不気味だ。

⏰:11/05/06 11:45 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#90 [輪廻◆j6ceQ96kak]
何分か置きに別の車とすれ違いながらも、車は奥へ奥へと進んで行く。


雪乃『眠たくなってきちゃった…ちょっと寝るね』


優斗『…ああ。村井は? 眠たいなら寝ていいよ』


響歌『私は大丈夫です』

せっかくの遠出。

車の窓から見る景色が好きな響歌はじっと窓辺に顔を近づけて外を見る。

⏰:11/05/06 11:52 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#91 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『じゃあ着いたら起こして。おやすみ〜!』


雪乃が眠りについてから、車内は驚くほどの沈黙に支配された。


優斗『音楽でもかけっか!』

沈黙は苦なのか、吉田は前を見ながら片手でカセットテープを手探りで探し、それを見つけるとセットし再生ボタンを押した。

⏰:11/05/06 11:57 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#92 [輪廻◆j6ceQ96kak]
吉田の好きそうなロックの歌が車内に流れる。


山の中には不釣り合いな曲だな、と響歌は少々ガッカリしていた。


その曲がサビに入ろとした瞬間だった。


『ザザザザザザザザザ…』

カセットテープが壊れたのか、男性の声は一瞬にしてノイズのような音に変わった。

⏰:11/05/06 12:00 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#93 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『あ? なんだこりゃ』


しばらく聞き流していると…


『ザザッ…ココデ……ワタシハ…ザザザザザ』


優斗『なんだ? この曲にそんな歌詞ないぜ?』

吉田は独り言のように自分に問いかける。

⏰:11/05/06 12:04 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#94 [輪廻◆j6ceQ96kak]
ここで響歌が何かに気づき、問いかける。


響歌『あの…この曲って男性だけで歌ってるんですか?』


優斗『ああ。それがどうかした?』


響歌『今の声…女の人でしたよ?』


優斗『…マジ?』

吉田はミラー越に響歌の顔を見て、響歌も吉田と目を見合わせた。

⏰:11/05/06 12:08 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#95 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『気味悪ィな』

手探りで停止ボタンを押す。

しかし反応がない。


優斗『ちょっと車止めるぞ』

山の中は険しくなってきていて他の車が来なくなった為に車を一旦停止した。


改めてテープの停止ボタンを連打するものの、全くノイズは止まらない。

⏰:11/05/06 12:12 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#96 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そこで、止まっている車に気がついたのか雪乃が目を覚ました。


雪乃『あれ、もう着いたの?』


優斗『これ聞こえるか? さっきから鳴りっぱなしなんだよ。停止押しても反応ねえし』

少しイライラモードの吉田。


それを悟った雪乃は冷静に言った。


雪乃『一回エンジン切ればいいんじゃない?』

⏰:11/05/06 12:17 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#97 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『あ、そっか』


雪乃『しっかりしてよ〜。もう着いたのかと思ったし。せっかくいい夢見てたのにな』


優斗『起こして悪ィな』

そう言ってエンジンを切ると同時に音はピタリと止んだ。


優斗『よし、じゃあ気を取り直して行くか!』

再びエンジンを入れ、車を急発進させた。

⏰:11/05/06 12:20 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#98 [輪廻◆j6ceQ96kak]
30分後、山の中を進むにつれて霧が発生してきていた。


響歌はいつの間にか眠りについている。


雪乃『霧出てきたね…』


優斗『こんくらい大丈夫だって。それよりもうそろそろ着くから村井起こして』


雪乃『響歌! 着くぞ〜!』

雪乃のバカでかい声で響歌はパッと驚いたように起きた。

⏰:11/05/06 12:28 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#99 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あ…寝てた…?』


優斗『もう着くぜい!』

やがて近くに茶色い建物が見えてきた。

外観はお世辞にもよいとは言えない木造の造りだ。


雪乃『もしかしてあれ? なんか古臭いね〜』


優斗『安いからいいじゃん。なんか出そうだし』

吉田は何かとそればかりを繰り返す。

⏰:11/05/06 12:33 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#100 [輪廻◆j6ceQ96kak]
建物が完全に見えて来た所で車を停止した。


見れば見るほど古臭い外観に、響歌は不気味とさえ思っていた。


優斗『行くぞ』

吉田に続いて雪乃が歩き出し、響歌もそれに続いた。


戸は痛んでいるらしく、開けるとミシミシと音が響く。

⏰:11/05/06 12:41 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#101 [輪廻◆j6ceQ96kak]
小さい外観と打って違って玄関は広いものであった。


優斗『すいませ〜ん!』

吉田が大声で言うと、しばらくして1人の着物を着た女将が姿を現した。


年齢は50代前半くらいだろうか、くたびれた感じの顔をしている。

⏰:11/05/06 12:44 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#102 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『ようこそいらっしゃいました。私、ここの旅館を切り盛りさせて頂いている池崎吉美と申します。本日は遠い所をわざわざお越し頂きましてありがとうございます』

女将、池崎は礼儀正しく挨拶をした。


優斗『昨日電話した吉田ですけど』


池崎『吉田様ですね、昨日はお電話ありがとうございます。お部屋は開いておりますので案内します。どうか私の後にお続きください』

⏰:11/05/06 12:50 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#103 [輪廻◆j6ceQ96kak]
3人は言われた通りに女将の後に続いた。


歩く度にミシミシと軋む長い廊下を歩く。


池崎『こちらのお部屋になります。何かあれば、なんなりとお申し付けくださいませ』


そこは鬼の間と書かれている部屋。


不吉な名前だと思いながらも3人は部屋の中に。

⏰:11/05/06 12:56 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#104 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『結構綺麗な部屋じゃん』


池崎『恐縮でございます。昼食の前にお風呂に浸かってみては?』


優斗『こんなとこに風呂とかあんの?』


雪乃『ちょっと優斗。こんなところって失礼だよ』


池崎『この廊下を突き当たりに進んでいただくと男湯、女湯と書かれたお風呂がございますので』

女将は一切表情を変えずに言い切った。

⏰:11/05/06 13:02 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#105 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『では私はこれで。昼食はご用意しておきますので、ゆっくりお湯に浸かってくださいませ』

座りながら大きくお辞儀をし、立ち上がった女将は早々と戻って行った。


優斗『じゃあ風呂行ってくるわ』


雪乃『響歌は? 一緒に入らない?』


響歌『そうだね、入ろうか』

みんなそれぞれ荷物からバスタオルなどを取り出し、お風呂へ向かった。

⏰:11/05/06 13:09 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#106 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『うわ〜響歌見て! お風呂も広いよ!』

雪乃は大きな浴室を見てはしゃぐようにして言う。


響歌『確かに広いね。建物はちっちゃく感じたのに』


雪乃『もう! そういう話はやめようよ〜。ここは細かい事気にしないで純粋に楽しもう?』


響歌『そうだね、ごめんごめん』

こうして、まるで貸切にでもなったような誰もいない湯船に浸かった。

⏰:11/05/06 13:15 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#107 [輪廻◆j6ceQ96kak]
風呂から戻ると、部屋には豪勢な昼食が用意されていた。


野菜から魚介類まで様々なジャンルの料理に響歌達は絶賛。


雪乃『なにこれすごいね!』


響歌『旅館といえば料理だよね』

その料理に興奮している2人だが、ふと雪乃が吉田がまだ戻っていない事に気がつく。

⏰:11/05/09 12:26 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#108 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『そういえば優斗まだお風呂入ってるのかな…』


響歌『確かに…。もう上がってるかと思ったよ』


雪乃『ちょっと見てくるね』


響歌『いってらっしゃい』

着物姿の雪乃は部屋を出て行った。

響歌は改めて料理を凝視しながら座椅子に座る。

⏰:11/05/09 12:30 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#109 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そして、ちょっとつまみ食いをしようと野菜料理に添えられたミニトマトに手を伸ばした瞬間だった。


雪乃『いやあああああ!!』

お風呂場の方から雪乃の今まで聞いた事のないような絶叫が。


響歌『雪乃!?』

伸ばした手を引っ込め、響歌はすぐに声のする方へ向かった。

⏰:11/05/09 12:36 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#110 [輪廻◆j6ceQ96kak]
廊下へ出た時、ちょうど同じく悲鳴を聞きつけたであろう女将の池崎と鉢合わせた。


池崎『今の声はなに事でいらっしゃいますか?』


響歌『わかりません。お風呂の方から…』

2人は顔を見合わせ、雪乃が向かった男湯へ。

⏰:11/05/09 12:42 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#111 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男湯の脱衣場を見ると、座り込む雪乃がいた。


池崎『お客様…どうかなされましたか?』

女将の声に気づいた雪乃はゆっくり振り向いて、風呂場の方を指さした。


その方向に2人が目をやると、奥に真っ赤な何かが見える。

⏰:11/05/09 12:54 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#112 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『え…?』

その赤いものが何なのか、響歌にはすぐわかった。


響歌『血…?』


池崎『なんでございますって!?』

女将は一瞬腰を抜かしそうになったが、何かに気づいたように体制を戻し…

そして一言つぶやいた。


池崎『まさか…狼鬼様が…?』

⏰:11/05/09 12:58 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#113 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『狼鬼? それって何ですか…?』

恐る恐る響歌が聞くと、女将は震えながら答えた。


池崎『狼鬼様は…この山に言い伝えのある神様です…』


響歌『…神様?』


池崎『私は見た事がありません。しかし言い伝えによると、その狼鬼様は狼の顔で鬼のような形相をした、山を守る神様だと言われています』

⏰:11/05/09 13:05 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#114 [輪廻◆j6ceQ96kak]
吉田が聞いたら、嘘だと言ってバカにするような話だ。


しかし女将の震えた体と表情からは嘘とは感じられない。


響歌『とにかく! その話しは後で聞かせてください。女将さんはお風呂場の様子をお願いします。私は雪乃を部屋に連れて行きます!』


池崎『か、かしこまりました!』

響歌は床に崩れ落ちた雪乃の肩に手をやり、ゆっくりと立たせた。

⏰:11/05/09 13:11 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#115 [輪廻◆j6ceQ96kak]
部屋の料理はすっかり冷めていた。


雪乃を座椅子に座わらせ、響歌はその隣に座る。


響歌『…雪乃。一体何があったの?』


雪乃『…………』

よっぽど信じられない光景を見たのだろうか、雪乃の響歌を見る目は焦点が合っていない。

⏰:11/05/09 13:15 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#116 [我輩は匿名である]
つづきよみたい

⏰:11/05/10 18:28 📱:SH706iw 🆔:Ca8bmaZw


#117 [輪廻◆j6ceQ96kak]
>>116

ありがとうございますm(_ _)m

少しですが更新します。

⏰:11/05/10 23:40 📱:T004 🆔:HiXM/dJ.


#118 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『吉田さんは…?』


雪乃『ゆ、優斗が…』


響歌『どうしたの…?』

尋常ではない雪乃の表情。

この先を聞くのが怖かったが、響歌は問いただす。


雪乃『血まみれで…倒れてた…』


響歌『他に誰かいなかったの?』

ここまで言うと、雪乃の首がカクンと下がり響歌の問いに答える間もなく気を失った―

⏰:11/05/10 23:46 📱:T004 🆔:HiXM/dJ.


#119 [輪廻◆j6ceQ96kak]
気絶した雪乃をその場に寝かせると、奥からバタバタと足音が。


女将の池崎は響歌達の部屋に入るなり大声で叫ぶように言った。


池崎『大変でございます! 吉田様が浴場からいなくなられているんです!』


響歌『どういう事ですか!』

パニック寸前の女将に対して冷静に問う響歌。

⏰:11/05/10 23:52 📱:T004 🆔:HiXM/dJ.


#120 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『よ、浴室は血まみれで…吉田様の姿はありませんでした…。ああ、まさか狼鬼様の仕業…』


響歌『わ、私はそういうのは信じないんですけど…』


池崎『狼鬼様は汚れた心を持った者を襲います。そして身体を一つ残らず噛み砕いて食べると言われています…。もし吉田様が狼鬼様に食べられてしまったとしたら…あああ』

⏰:11/05/11 00:01 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#121 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌にとっては空想のような話だが、女将は狼鬼というものの存在をまるで信じているかのようだ。


池崎『ああ狼鬼様…』


響歌『とにかく警察を呼んだ方がいいと思います!』


池崎『…それは私にはできません』

響歌の一言で女将の顔色が元に戻った。

⏰:11/05/11 00:08 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#122 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『どうしてですか!』


池崎『狼鬼様はこの山の神様なのです! 神様を警察の前に突き出すなんて…』


響歌『(なにこの人…)』

初めて会った時から不思議な雰囲気の人だとは感じていたが、狼鬼という言葉が出てきてからの女将はまるで別人だ。

⏰:11/05/11 00:11 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#123 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『じゃ、じゃあ雪乃が起きたら…私達帰ります!』

このままここにいたら何か嫌な事が起きそうな予感がし、帰る事を決めた響歌。


池崎『それはいけません。狼鬼様は神様とはいえ、心の汚れた人間を食べるのです。もし道中で出会ってしまったらどうなさるのですか?』

この女将の言葉は、まるで響歌らを心が汚い人間だと決めつけているかのようだった。

⏰:11/05/11 00:20 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#124 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『それに、吉田様は3日間こちらに泊まられると仰いました。私には3日間あなた方をおもてなしする責任があるのです』


響歌『(意味わかんない…。とにかくここから逃げないと…!)』


池崎『それでは私は浴場の血の後片付けを…。失礼します』

女将が部屋を出て浴場の方へ向かったのを確認した響歌は、すぐに着ていた浴衣を脱いで私服に着替えた。

雪乃を起こして逃げる為だ。

⏰:11/05/11 00:26 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#125 [輪廻◆j6ceQ96kak]
自分の身支度を完了させ、雪乃の荷物もまとめた。


吉田のバッグは隅っこに寂しく置かれている。


響歌『雪乃! 雪乃!』

雪乃の体を激しく揺らす。

反応はない。

口元に耳を近づけて呼吸を確認する。

息はちゃんとしている事に安心したが、それ以上にここにいる事が不安で仕方がない。

⏰:11/05/11 00:30 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#126 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃は大切な友達の一人だ。

一瞬だけ、一人でも逃げようという考えが浮かんだ自分を恨みたくなった。


部屋の障子をそっと開け、奥を確認する。


浴場からはなぜか女将の陽気な鼻歌が聞こえた。


それに背筋が凍った響歌は、なんとしても逃げなくてはと思い雪乃の身体を更に激しく揺らす。

⏰:11/05/11 00:36 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#127 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『雪乃…起きてよ!』

まるで睡眠薬でも飲んで深い眠りに入っているかのように、何度起こしても全く反応がない。


やがて廊下から足音。


血の後始末が終わったのか、まだ鼻歌を続けながら歩いている。


そして響歌達の部屋の前で足音と鼻歌はピタリと止んだ。

⏰:11/05/11 00:50 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#128 [輪廻◆j6ceQ96kak]
障子がスーッと開いて、女将が顔を覗かせた。


その表情はニヤリとしていて不気味にも思える。


ふと女将の口元に目をやると、何やら赤いものが付着していた。


響歌にはそれが何なのかわかるのに時間はかからなかった。


響歌『あ、あの…それって…』

震えた手で女将の口元を指さす。

⏰:11/05/11 00:54 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#129 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『ああこれですか? 言いましたでしょう? 血の後片付けをする、と…』

そうニヤリ顔で言い放つ女将に響歌は恐怖を覚えた。


体が震える。


視線を反らそうとするが、なぜか視線は女将の顔に固定されて動かない。


何者かに操られているかのごとく、自分の意思が働かなくなっていた。

⏰:11/05/11 01:00 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#130 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その状態が3分くらい続き、突然催眠術にかけられたような感覚に陥った響歌は、目を見開いたままその場に倒れ込んだ。


響歌『(私…死んじゃうの…?)』

心の中でそう自分に問いかけながら…。

何度も…何度も…。


やがて意識は完全に消えていった―

⏰:11/05/11 01:07 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#131 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『……歌! 響歌!』

聞き覚えのある声。

ゆっくりと目を開ける。


響歌『雪…乃…』

まだ状況が把握できない。

意識がハッキリしてくるにつれて、頭痛がしてきた。


響歌『私…どうしたの?』

辺りを見回す。

そこは気絶する前と変わらない池崎旅館の鬼の間。

⏰:11/05/11 01:29 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#132 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『私が起きたら、響歌が倒れてたから…。びっくりさせないでよ』


響歌『ちょっと、びっくりしたのはこっちだよ…。いきなり気絶するんだもん』


雪乃『心配かけてごめんね』


響歌『そういえば…お風呂場で何見たの?』

響歌が唐突に聞くと、雪乃は唾をゴクリと飲んでから口を開いた。

⏰:11/05/11 01:32 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#133 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『私、優斗の姿は見てないの…。浴場を覗いたら床に血が沢山あって…。私、何が何だかわからなくなって叫び声をあげたの』


響歌『私と女将さんが行った時だよね?』


雪乃『うん…。あ、そういえばその女将さんは? 池崎さん』

響歌は雪乃が気絶している間の出来事を話した。

⏰:11/05/11 01:39 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#134 [輪廻◆j6ceQ96kak]
信じてもらえる自信はなかったが、雪乃は黙って響歌の話に耳を傾けていた。


雪乃『信じられないけど…私は響歌の言うことは信じるよ』


響歌『ありがとう。とにかく、早くここから逃げようよ』


雪乃『そうだね。途中で車見つけて乗せてもらおうよ』

こうして2人は気味の悪いこの旅館からの帰還を決意。


時計の針は午後3時を指した所だった。

⏰:11/05/11 01:47 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#135 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『帰る前にちょっと待ってて。あの女将さんがどこにいるか見てくるから』


雪乃『…気をつけてね』

雪乃を残して長い廊下へ出る。

まだ午後の3時だというのに廊下はやけに薄暗い。


女将の気配はない。


忍び足でゆっくりと歩く。


そこに“狼の間”と書かれた部屋が目に入った。

⏰:11/05/11 01:52 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#136 [輪廻◆j6ceQ96kak]
障子を開ける前に、すぐ人がいる気配に気づいて一旦引き返した。


雪乃『どうだった?』


響歌『すぐそこの部屋に誰かいる…。今出て行ったら気づかれちゃうかも…』


雪乃『そっか…。もう少し様子見る?』

慌てる事はない、という事で少しの間この部屋で待機する事になった。

⏰:11/05/11 01:56 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#137 [輪廻◆j6ceQ96kak]
沈黙の中、2人のいじる携帯電話のカチカチという音だけが響く。


そこで雪乃が何かにひらめいたように立ち上がった。


雪乃『そうだよ…携帯で警察呼べばいいんじゃない?』


響歌『ダメ…画面よく見てよ』

携帯電話のディスプレイの左上には“圏外”という文字。


人里離れた山の中だから仕方がない。

⏰:11/05/11 17:06 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#138 [輪廻◆j6ceQ96kak]
圏外の表示を見た雪乃は力が抜けたように再び座り込んだ。


雪乃『もうこんなとこやだ…』


響歌『本当に吉田さんは狼鬼ってやつに食べられちゃったのかな…?』

改めて聞いてみる。


雪乃『私が見た時にはもうどこにもいなかったし…本当なんじゃない…?』

大事だった彼氏が死んだというのに雪乃の表情からは悲しみに明け暮れているという様子はない。

⏰:11/05/11 17:08 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#139 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『雪乃、一つ聞いてもいい? 大切な彼氏がいなくなったのに、なんでそんなに寂しそうじゃないの?』

雪乃の態度に違和感を覚えた響歌は思い切って訪ねた。


雪乃『…寂しいよ。でも、今は悲しくて泣きたいっていうよりは…さっきの響歌の話を聞いて怖いっていう気持ちの方が強いの』


響歌『そ…そうだよね。変なこと聞いてごめん』

やっぱりいつもの雪乃だと安心した。

⏰:11/05/11 17:10 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#140 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『響歌だって…敬太くんが死んだ時、怖くならなかった?』


響歌『…うん、怖かった』

それからしばらくはどちらも口を開かなかった。


響歌は部屋の隅で体育座りをし、雪乃は圏外で繋がりもしない携帯電話を落ち着きなくいじっている。

⏰:11/05/11 17:11 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#141 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ガラガラ…ピシャリ』

しばらくして狼の間の戸が開いた音がし、足音が廊下を歩いて行った。


響歌『ちょっと隣の部屋見てくるね』


雪乃『ちょっと響歌…』

そっと戸を開けて廊下へ出る。

女将の気配はない。

⏰:11/05/16 18:43 📱:SH001 🆔:9mqGtq4o


#142 [輪廻◆j6ceQ96kak]
狼の間の戸をゆっくりと開けて響歌一人で中に入る。


響歌『…ひっ!』

部屋を見て響歌は驚愕した。


敷かれている白い布団には、白を彩るかのような大量の血。


そしてその布団に寝かされているのは人間のようだが、人間としての原型を留めてはいない。

⏰:11/05/16 18:51 📱:SH001 🆔:9mqGtq4o


#143 [輪廻◆j6ceQ96kak]
まるで何かに引き裂かれたかのように、皮膚が所々剥き出しになっている。


その光景に、響歌は思わずその場に座り込んで後ずさりをする。


異変に気づいたのか、隣の部屋から雪乃が駆け付けてきた。


雪乃『響歌? …え!?』

布団のものを見た雪乃も思わず絶句する。

⏰:11/05/16 19:08 📱:SH001 🆔:9mqGtq4o


#144 [輪廻◆j6ceQ96kak]
部屋中は生臭い異臭を放っている。


雪乃『響歌…。は、早く逃げよう?』

震えた声で床に座り込む響歌の肩に手をやる。


雪乃『響歌! 早く!』


響歌『…………』

響歌は残虐な光景を見たショックで放心状態になっていた。

⏰:11/05/19 08:10 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#145 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『ここで何をしている!』

突然、雪乃の背後から今までの女将のものとは異なる声がした。


まるで低い声の男と女の声が混じり合っているような奇声。


振り返ると片手に血まみれの包丁を持った女将、池崎の姿。


そのあまりにもおぞましい女将の姿を見た雪乃も床に座り込む。

⏰:11/05/19 08:18 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#146 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『ご…ごめんなさいごめんなさい!』

後ずさりしながら必死に謝る雪乃に詰め寄る女将。


池崎『ふふふ…』

薄ら笑いを浮かべながらまるで、殺して欲しい?と問いかけるような目で雪乃に一歩一歩近づいていく。


異臭を放った布団の上のそれを避けていくと、とうとう逃げ場のない壁に追い込まれた。

⏰:11/05/19 08:23 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#147 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『やめて…』

夢であって欲しい。

心の中でそう何度も自分に言い聞かせる。


目をつむって何度も何度も。


…………。


…………。


…………。


ゆっくりと目をあける。

⏰:11/05/19 08:36 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#148 [輪廻◆j6ceQ96kak]
辺りを見回す。


敷いてある布団に目をやると血は残っていたものの、あの物体は跡形もなく消えていた。


そのすぐそばに気絶した響歌の姿。


雪乃『響歌!』

身体を大きく揺らす。


響歌『……ううん』


雪乃『響歌! しっかりして!』

目を開きそうな響歌の身体をゆっくり起こす。

⏰:11/05/19 08:41 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#149 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『…雪乃』


雪乃『そう、雪乃だよ! よかった…』


響歌『…泣いてるの?』


雪乃『心配したんだから』


響歌『…ごめん』

2人は立ち上がった。

⏰:11/05/19 08:45 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#150 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あの女将さんは…?』


雪乃『わからない…。気づいたらいなくなってた』


響歌『今の内に早く帰ろう…?』

人の気配のない廊下へ出る。


2人がふと足元を見ると、血が玄関へ向かって垂れていっているのが目に入った。

⏰:11/05/19 08:49 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#151 [我輩は匿名である]
血を目で追っていた先にある玄関の戸が開いている。


響歌はすぐに状況を察知できた。


響歌『あの人、ここから外にあれを捨てに行ったんじゃない?』


雪乃『気味の悪い事言わないでよ…』


響歌『ねえ…帰る準備ができたら、あの女将さんが何してるか見に行かない?』

⏰:11/05/21 00:28 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#152 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌の言葉に、雪乃は顔をしかめた。


雪乃『やめようよ。見つかったら何されるかわからないよ』


響歌『大丈夫。こっそり…ね?』


雪乃『…………』

響歌の表情はさっきまでとは違い好奇心に満ち溢れていた。

⏰:11/05/21 01:12 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#153 [輪廻◆j6ceQ96kak]
鬼の間に戻り、荷物をまとめた2人は立ち去るように旅館の外へ出た。


外に垂れている血を目印に響歌はゆっくりと歩いていく。


雪乃は不安な顔をしつつも、それに続いた。


そして―


雪乃『ねえ…何か煙臭くない?』


響歌『うん…それに臭い』

かすかな煙の匂いと、鼻にツンとくる異臭がする。

⏰:11/05/21 09:00 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#154 [輪廻◆j6ceQ96kak]
匂いを辿っていくと、裏庭らしき所に女将の姿があった。


すぐそばには大きな古びた焼却炉。


煙と異臭はその焼却炉から出ているようだ。


2人は木の影から息を殺して女将の行動を見る事にした。


女将は鼻歌を歌いながら地面にしゃがみ込んで何かをしている。

⏰:11/05/21 09:24 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#155 [輪廻◆j6ceQ96kak]
やがて立ち上がり、2人の気配に気づいたのか後ろを振り返った。


手には血まみれの包丁。


そして女将の顔に視線をやると、その顔はまるで肉を食い漁った獣のようで、血走った目で口元には大量の血。


響歌『うっ!』

あまりの光景に吐き気がしてきた響歌。

⏰:11/05/23 12:49 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#156 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『大丈夫?』


響歌『は、早く行こう!』

逃げようと木からそっと離れる。


それとほぼ同時だった―


2人に気づいた女将が、突然2人に向かって走り出してきたのだ。


響歌『きゃあああ!』


雪乃『早く!』

雪乃が響歌の腕を素早く掴み、逆方向へと走る。

⏰:11/05/23 12:55 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#157 [輪廻◆j6ceQ96kak]
どこまで走ったのかわからなくなるほど、とにかく前へ前へと走る。


捕まったら殺される―


それだけを考えながらとにかく走る。


しばらく走って、後ろから追ってくる気配はなかったが決して一度も後ろを振り返らなかった。

⏰:11/05/23 13:02 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#158 [輪廻◆j6ceQ96kak]
気づくと山の中に座り込んでいた。


雪乃『はあ…はあ…』


響歌『はあ…はあ…』

2人は無我夢中で走った為に息切れ状態になりつつある。


女将の気配はすでになく、山の中は小鳥のさえずりだけが聞こえていた。


雪乃『結構深い所まで来ちゃったね…』


響歌『私達、帰れるのかな…』

辺りはすでに夕暮れ時。

木はまるで唸るように、風によってざわざわと音をたてて動いている。

⏰:11/05/23 15:05 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#159 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌はバッグから携帯電話を取り出した。


圏外―


その表示がある限り、助けを求める事はできない。


響歌『どうするの? これから』


雪乃『わからないけど…とにかく歩いてみよう』

2人はあてもなく山中を歩き始めた。

⏰:11/05/23 15:11 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#160 [輪廻◆j6ceQ96kak]
沈黙の中、ザクザクと歩く音が響く。


東西南北のどの方向に進んでいるのかもわからずに歩く。


歩いて行けば、じきに携帯電話が繋がる範囲の場所にたどり着けると信じながら。


響歌は携帯電話のディスプレイをちらちらと見ながら圏外の文字が消えるのを待った。

⏰:11/05/23 15:16 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#161 [輪廻◆j6ceQ96kak]
歩いて歩いて…


10分…。


20分…。


30分…。


ディスプレイには相変わらず圏外の文字。


時間は夜の19時を指した所だ。


体力に限界が来たのか、雪乃はその場に座り込んでしまった。

⏰:11/05/23 15:25 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#162 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『もうだめ…無理』


響歌『雪乃、大丈夫?』


雪乃『このまま飢え死になるのかな…』


響歌『何弱気になってるの。さっき逃げる時私を引っ張ってくれたじゃん。嬉しかったんだからね』


雪乃『響歌…』


響歌『頑張ろうよ。こんな山の中で夜を過ごすなんて危なすぎるよ』

⏰:11/05/23 15:29 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#163 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『そうだよね…。行こうか』


響歌『うん!』

雪乃はゆっくり立ち上がり、2人は再び歩き出す。


それから30分くらい歩いた所で、辺りはすでに暗い闇に包まれようとしていた。


その中で響歌の携帯電話の光だけが小さく浮かび上がる。

⏰:11/05/23 15:37 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#164 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『なんか同じ所をずっと歩いてるみたいだよね…』


響歌『そんな事ないよ。山の中だし』


お互いの顔は携帯電話の光がなければ完全に見えない状態だった。


雪乃『そういえばさ…あの部屋にあったやつ何だったんだろうね?』


響歌『何かの死体…みたいだったよ。まさかとは思うけど…吉田さん?』

⏰:11/05/23 15:44 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#165 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『優斗…』


響歌『あ、ごめん…なんか変な事聞いちゃったね』


雪乃『ううん、いいの』

会話はここで途切れ、しばしの沈黙が訪れた。


その沈黙を破ったのは匂いだ。

⏰:11/05/23 15:48 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#166 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『ねえ…この匂い…』

それは嗅ぎ覚えのある匂いだった。


それは、あの旅館の狼の間に漂った血なまぐさい異臭だ。


響歌『うっ!』

あまりの異臭に鼻をグッとつまんだ。


その異臭は2人の至近距離から放たれている。


しかし暗闇なので、どこに何があるのかハッキリと見る事はできない。

⏰:11/05/23 15:54 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#167 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『雪乃…?』

携帯電話の小さな光を辺りにちらす。


一瞬、光の先に何かの物体が見えた。


再び光を当てて確認する。


そこには黒くて焦げたような何かがあった。


異臭はその物体からしている事がわかった響歌は、思わずその場から後ずさりする。

⏰:11/05/23 15:59 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#168 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『わっ!』


響歌『きゃっ!』

背後から雪乃が響歌の肩を掴んで驚かす。


驚いた響歌はその場にしりもちをつくようにして座り込んだ。


雪乃『ごめんごめん!』


響歌『もう! こんな時に…!』


雪乃『ごめんね。それよりこの匂いなんだろうね…』

⏰:11/05/24 22:19 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#169 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あそこに何かあるよ…黒いのが…』


雪乃『ちょっと携帯貸して』

雪乃は響歌の指差す方に携帯電話の光を当てながら歩き出す。


雪乃『うわっ! なにこれぇ…』


響歌『ね? なんだろう…』


雪乃『何かが焼けたような…臭い!』

あまりの異臭にその場からとっさに離れる雪乃。

⏰:11/05/24 22:25 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#170 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『大丈夫…?』


雪乃『な、なんとかね…』


響歌『もしかしてあれって…あの女将が焼却炉で焼いた何かの死体だったりして…』


雪乃『まさか…。旅館からすごい離れたとこに来ちゃったし、それはないんじゃない…』


響歌『そ、そうだよね…』

⏰:11/05/24 22:58 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#171 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『とにかく早く行こうよ!』


響歌『…うん』

2人は気を取り直して再び真っ暗闇な山の中を歩き出した。



時間はあっという間に過ぎていく。


圏外の表示は相変わらず消えない。


どこに進んでいるのかわからず、とにかく車道を目指して歩いた。

⏰:11/05/24 23:07 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#172 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しばらく歩くと、古びたお堂が姿を見せた。


小さな電気が灯っている。


雪乃『見て響歌! あそこ誰かいるかもよ』


人の気配は感じられないが、響歌は走っていく雪乃に続いてお堂内に足を踏み入れた。

⏰:11/06/07 22:56 📱:T004 🆔:UWAOdbyY


#173 [輪廻◆j6ceQ96kak]
中は異様にカビ臭く、湿気でいっぱいだ。


奥にはいくつかの仏像が並んでいる。


小さな明かりに浮かび上がるそれは2人にとって不気味な光景であった。


雪乃『ねえ、今日はここで過ごそうよ』


響歌『え? 大丈夫かな…』


雪乃『もう外は真っ暗だし、また明日行こうよ。さすがに疲れた…』

雪乃の言葉に一理ある。

⏰:11/06/08 10:07 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#174 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『そうだね。なんか気味悪いけど電気もあるし、まだマシかもね…』

2人は荷物を置いて、薄黒く汚れた床に腰をおろした。


雪乃『なんか寒いね…』


響歌『うん…私も思ってた。ここに入るまではなんともなかったのに』

部屋を見回す。

異様な雰囲気が漂う堂内。

長袖を着てても、冷たい風が中に入ってくるようだ。

⏰:11/06/08 10:15 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#175 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『…早く寝ようか』


雪乃『変な夢見そうで怖いけど仕方ないよね』


響歌『おやすみ』


雪乃『おやすみ』

こうして2人は床に寝転がり、深い眠りについた。

⏰:11/06/08 10:25 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#176 [輪廻◆j6ceQ96kak]
2日目の朝がきた。


できれば夢であって欲しいと願っていた響歌だが、目を覚まして辺りを見て夢ではない事を改めて実感する。


外からは清々しい日の光と、小鳥の囀りが聞こえる。


響歌『ふわぁ〜』

そのほんわかした空気は、大きな欠伸が出るほどだ。

⏰:11/06/08 23:00 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#177 [輪廻◆j6ceQ96kak]
昨日までの出来事がまるで嘘のようにも思えた。


雪乃の方に目をやる。


まだ眠っているようだ。


携帯のディスプレイを見る。


時間は朝の7時35分。


電波は相変わらず“圏外”のままだ。

⏰:11/06/08 23:04 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#178 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌は寝ている雪乃を残して一人で外に出た。


澄んだ空気に包まれた山の中で大きく深呼吸をする。


響歌『頑張ろう!』

そして空に向かって大声で叫んだ。


響歌『…ふう』

スッキリした響歌は、そのままゆっくりと歩き出した。

⏰:11/06/08 23:09 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#179 [輪廻◆j6ceQ96kak]
お堂のある位置がわかるようにチラチラと振り返りながら朝の山中を散策。


期待はできないが、山登りなどをしている人がいるかもしれないと思ったからだ。


しかし期待はあっさりと裏切られた。


お堂から数キロ離れた所まで歩いてきたが、人の気配は全く感じられない。

⏰:11/06/08 23:18 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#180 [輪廻◆j6ceQ96kak]
仕方なくお堂まで戻ろうと思い反対に振り返って歩き出そうとした時だった。


背後から何かが歩いてくる気配がする。


さっきまで人の気配すらしなかったというのに、それは突然後ろから感じた。


間違いなく聞こえる。


ザクザク…と木の枝や落ち葉を踏む音と共に何かがやってくる。

⏰:11/06/08 23:25 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#181 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しかし、なぜか後ろを振り返ったはいけない気がした。


気配は響歌の方へと確実に近づいてくる。


足がすくんで体が思うように動かない。


まるで脚を何者かに強い力で掴まれているような感覚に陥った。


そしてそれは現実となる―

⏰:11/06/12 23:01 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#182 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ガッ!』


掴まれた感覚が残ったまま、響歌はゆっくりと自分の足元を見る。


池崎『ミツケタ…』

血まみれの女将が薄ら笑いを浮かべ、響歌を見上げて言った。


響歌『きゃっ!』

それは幻でもなんでもない。


現実だ。


とっさに逃げようとしたが、女将はものすごい強い力で響歌の脚を掴んでいて動けない。

⏰:11/06/12 23:08 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#183 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その拍子に響歌の身体は前に折れるようにして倒れ込んだ。


無我夢中で体を前に進めようとバタバタさせるが、女将の手の力は男性と同等のようであり、全くビクともしない。


響歌は手で女将の手を放そうと、腕をひっかいた。


放れるまでガリガリと必死に―

⏰:11/06/12 23:17 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#184 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ガリガリ』

女将の手の甲や腕をどれくらいひっかいただろう。


ふと見ると、女将の手と腕の皮膚が所々剥がれている。


普通であれば、こんなひっかき回されれば力が劣り響歌の脚から手が離れるはずだが、全くそんな様子はない。


それどころか、ますます力が強くなっているようだった。

⏰:11/06/12 23:25 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#185 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そして対する女将が反撃を始める。


響歌の脚の皮膚に長い爪を立て、ぎゅっと押しだした。


響歌『痛っ!』

ものすごい激痛が走る。


鋭く尖った爪はすぐに皮膚の肉に入った。


響歌『やめてェェ!!』

もはや恐怖心よりも痛みの方が強く、想像を絶する痛みに絶叫した。

⏰:11/06/12 23:36 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#186 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その絶叫と共に、気を失っていった―


…………。


…………。


雪乃『響歌! 響歌!』


響歌『………雪乃…』

雪乃の声がかすかに聞こえて目を開ける。


響歌『痛っ!』

同時に下半身に激しい痛み。


今にも再び気を失いそうだが、なんとか気力で起き上がった。

⏰:11/06/12 23:41 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#187 [輪廻◆j6ceQ96kak]
辺りは気を失う瞬間までいた森。

足元に目をやる。

そこにはくっきりと、掴まれた時のアザと深く刺さった女将の爪の傷痕が残っていた。


雪乃『…大丈夫?』


響歌『な、なんとか……痛っ!』


雪乃『手当てしないと…。鞄から包帯持ってくるから待ってて!』

そう言ってお堂の方へと走っていった。

⏰:11/06/12 23:47 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#188 [輪廻◆j6ceQ96kak]
数分して、鞄を手にした雪乃が戻ってきた。


雪乃『こんな時の為に救急セット持ってきてたんだよね…よかった』


響歌『雪乃、ありがとう…』

雪乃は消毒液、ガーゼ、包帯を取り出して響歌の脚の傷の手当てを行った。


雪乃『…これでよし、と。大丈夫? 痛くない?』


響歌『うん大丈夫…ありがと』

⏰:11/06/20 09:17 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#189 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『それにしても、これからどうする…?』


響歌『私は歩けるから…行ける所まで行こう』


雪乃『無理はしないでよ。響歌に何かあったら…』


響歌『心配ありがとね。でも大丈夫だから』

よろめきながらも響歌はその場から立ち上がる。


響歌『私の荷物取りに行ってくるから待ってて…』

⏰:11/06/20 09:21 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#190 [輪廻◆j6ceQ96kak]
心配する雪乃を残し、ゆっくりと脚を引きずるようにしてお堂へ向かった。


相変わらずカビ臭さと湿気が漂う堂内から荷物を手にし、雪乃の元へ急ぐ。


響歌『…お待たせ』


雪乃『本当に大丈夫?』


響歌『なんとか…。それよりも早くこの山から抜け出さないと…』

2人は再び出発した。

⏰:11/06/20 09:30 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#191 [輪廻◆j6ceQ96kak]
進むにつれて、まだ朝方だというのに辺りは薄暗く異様な雰囲気が漂ってくる。


鳥の囀りも全く聞こえなくなっていた。


聞こえるのは2人の歩く音だけだ。


まるで樹海のようなその山に、2人は完全に支配されつつあった。

⏰:11/06/20 09:39 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#192 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『道、こっちで合ってるのかな…。なんか歩けば歩くほど出口があるようには思えなくなってくるけど…』


響歌『携帯さえ繋がってくれれば…。とにかく圏外の文字が消えるまで歩こうよ』


雪乃『…そうだね』


携帯電話を片手にディスプレイを見ながら進む。

⏰:11/06/20 09:46 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#193 [輪廻◆j6ceQ96kak]
30分…


1時間…


2時間…


所々で休みながら歩いたが、そろそろ体力的にも限界がきていた。


一向に出口が見えてこない山中。


繋がらない携帯電話。


疲れとストレスが一緒に溜まり、肉体的にも精神的にも共に限界だ。

⏰:11/06/20 09:52 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#194 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『もう無理…。私達、一生ここから出られないのかな…』


響歌『ハア…ハア…』

木陰に座り込んだ2人。


もはや息切れ寸前だった時―



『ザクザク…』

どこからか歩く音がした。


響歌『…!!』

雪乃『…!!』

その音に2人は同時に反応する。

⏰:11/06/20 09:57 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#195 [輪廻◆j6ceQ96kak]
お互い顔を見合わせて静かに耳を澄ます。


間違いなく、その音は2人の背後からした。


雪乃『人…かな…』


響歌『待って。あの女将かもしれないし、もう少し様子見よう』

2人は太い木の影から息を殺して気配を消した。

⏰:11/06/20 10:04 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#196 [輪廻◆j6ceQ96kak]
音は段々と近づいてくる。


まるでさっきから2人の後をつけてきたかのように、音が近づく。


響歌と雪乃はお互いの手を握って祈るように目をつむった。


『ザクザク…』


『ザク!』

足音が止まった。


2人はゆっくりと目を開ける。

⏰:11/06/20 10:11 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#197 [輪廻◆j6ceQ96kak]
ゆっくりと木の影から後ろを見ると、そこには体格のいいリュックを背負った男性の後ろ姿があった。


2人はホッと胸をなで下ろすと、立ち上がって男性に声をかけようと近づいた。


響歌『あ、あの…』


男『…ん!?』

背後からの突然の声に驚いたのか、男はビクッとして振り返った。

⏰:11/06/20 10:18 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#198 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『こ、こんな所に女の子が一人で…何しているんだい?』


響歌『あ。もう一人います…雪乃が…』

響歌は目を疑った。


そこに雪乃の姿はなかった。


響歌『え…雪乃…? どこ…?』

辺りを見回すが雪乃の姿どころか気配すらなくなっている。


響歌『雪乃! 冗談はやめてよ! ねえ雪乃!』

大きな声で雪乃の名前を叫ぶが、返事はない。

⏰:11/06/20 10:23 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#199 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『一体どうしたのかな?』

男が心配そうに声をかける。


響歌『雪乃…私の友達が…』


男『友達? さっきから君の姿は見えていたけど、ずっと一人じゃなかったかい?』


響歌『…!!』

響歌は、男の衝撃的な発言に言葉を失った。

⏰:11/06/20 21:59 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#200 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『そんな…。冗談はやめてください!』


男『い、いや…そう言われてもね…』

困った表情で返す男の顔からは冗談を言っているようには感じられない。


響歌『雪乃! いるんでしょ!? 出てきてよ…!』

頭の中が真っ白になりつつあった。

その場に崩れ落ちる。

⏰:11/06/20 22:02 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#201 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『ちょっと! 大丈夫?』

心配した男が声をかけるが、響歌は下を向いたまま放心状態だった。


響歌『雪乃…どうして…』


男『お嬢さん、一人でこんな山奥に何しにきたの?』


響歌『………』


男『ちょっと歩いた先に小屋があるから、とりあえずそこで休みなさい…』

男は響歌の肩に手を回し、ゆっくり立ち上がらせる。

⏰:11/06/20 22:12 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#202 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌の脚に力が入らない事がわかった男は、その体格を活かして響歌を背中におぶった。


そして小屋へ向かって歩き出す。


響歌の目から一筋の涙がこぼれ落ちた―

⏰:11/06/20 22:19 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#203 [輪廻◆j6ceQ96kak]
…………。


…………。


響歌『ん、んん…』


男『目が覚めたかい?』

目を開けると、男が優しい目で響歌を見つめていた。


響歌『ここは…』


男『登山家達が休む用に作られた小屋だよ』

小屋内を見回す。


内装は、最近できたように綺麗だ。


木材でできた机や椅子、更には自動販売機まで設置されている。

⏰:11/06/20 22:29 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#204 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『さっきも聞いたけど答えられない状態だったからもう一度聞くよ。一体何でこんな山奥に来てたんだい? それも一人で…』


響歌『……一人じゃありません…雪乃が…』


男『その雪乃って…もしかして松下雪乃って子?』


響歌『ど、どうして知ってるんですか…?』

思わず身構える響歌。

⏰:11/06/20 22:40 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#205 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『いやね、私は昨日からここに登山に来てて…。昨夜ここに向かってる途中で携帯電話を見つけたんだよ』


響歌『携帯…?』

嫌な予感がした。


聞くのを一瞬ためらったが、更に問いかける。


響歌『…どんな携帯…ですか?』


男『山を下りたら警察に届けようと思って拾っておいたよ』

そう言ってリュックからピンク色の携帯電話を取り出した。

⏰:11/06/20 22:47 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#206 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それを見た響歌は顔色を変えた。


響歌『これ…雪乃の…』


男『その子とはぐれちゃったのかな…?』


響歌『そんな! だってさっきまで私の隣にいて…』

あたふたとする響歌に、男は優しく問いかける。


男『とりあえず山を下りたら警察に届けを出しなさいよ。それが一番いいと思う』

⏰:11/07/01 00:45 📱:T004 🆔:NqNNTXYQ


#207 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『……そう、ですよね』


男『ここから30分も歩けば旧道へ出れる。一緒に行くかい?』


響歌『お願いします!』


希望の光が見えた気がした。


いつの間にかいなくなっていた雪乃も、警察が見つけてくれるだろう。


そう思って、この男と行動を共にする事にした。

⏰:11/07/01 00:52 📱:T004 🆔:NqNNTXYQ


#208 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それから30分くらいの時間を小屋で過ごし、外へ出る事にした。


男『大丈夫かい?』


響歌『は、はい…』

歩く度に女将につけられた傷がヒリヒリと痛む。


男が響歌の怪我した脚をチラっと見る。


男『そこ…何か怪我でもしたの?』


響歌『い、いえ…なんでもないんです』

小さく笑い飛ばしてごまかした。

⏰:11/07/01 01:00 📱:T004 🆔:NqNNTXYQ


#209 [輪廻◆j6ceQ96kak]
言っても信じてもらえないと思ったからだ。


雪乃の携帯電話を片手に握りしめ、男の後ろに続いて歩き出す。


男『そういえば、そろそろ聞かせてくれるかな? どうしてこんな山の中に雪乃って子といたんだい?』


響歌『言ったら信じてくれますか…?』


男『もちろんだよ。何かあったんだろう?』


響歌は笑って聞き流される覚悟も踏まえ、今までの出来事を男に全て話した。

⏰:11/07/01 01:07 📱:T004 🆔:NqNNTXYQ


#210 [なみ]
続きが気になります(^〇^)頑張ってくださいっ

⏰:11/07/01 21:21 📱:N906imyu 🆔:ouJvu54w


#211 [輪廻◆j6ceQ96kak]
>>210さん

ありがとうございます。

2話も異様に長くなってしまいましたが、ここからラストまで一気に下り坂でいきます(^^)

⏰:11/07/03 22:55 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#212 [輪廻◆j6ceQ96kak]
話し終わった後、男は突然首をしかめた。


男『池崎旅館…? 確かそこは半年前に経営不振で女将が焼身自殺して、後に廃館になったはずだけど…』


響歌『…え? そんなはずは…。だって私達、現に昨日そこに来て…』


男『夢か何か見てたんだろうね…』

この男は何を言っているのだろうと思ったが、今の言葉の中の一つがひっかかった。

⏰:11/07/03 23:01 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#213 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『女将が焼身…自殺?』


男『ああ。新聞にも取り上げられてたはずだけどね。旅館の裏に焼却炉があるんだけど、そこに自ら入って自殺…だったかな』

ここへ来て、響歌の中で何かが繋がり始めていた。


焼身自殺した女将…


焼却炉…


旅館の狼の間にあった何かの焼けた物体…


昨夜、山の中で見た同じ物体と臭い…

⏰:11/07/03 23:05 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#214 [輪廻◆j6ceQ96kak]
途端に背筋が凍った。


男『だ、大丈夫かい? 顔が青白いけど…』


響歌『わからない…』

男の言葉を無視して独り言のように小さくつぶやいた。


強烈な目まいと吐き気が響歌を襲う。


男『しっかりしなさい!』

意識が飛びそうになる瞬間、男の大声でハッと我に帰った。

⏰:11/07/03 23:10 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#215 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『もう少しで旧道だ。そこからなら携帯電話も繋がると思う』


響歌『は、はい…』

目まいと吐き気も一瞬の出来事だったかのように、スッと収まった。


男に言われるがまま、再び歩き出す。


唯一、吉田と雪乃の事が気がかりで警察に頼めばなんとかしてくれると信じて…。

⏰:11/07/03 23:17 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#216 [輪廻◆j6ceQ96kak]
10分ほど歩いた所で、車道が姿を現した。


樹海のような山から脱出できたこの感覚に、響歌は神様に感謝したくなるほどであった。


男『携帯電話は、と…。私のは大丈夫みたいだ』

響歌も迷わず自分の携帯電話のディスプレイに目をやる。


アンテナは2つと不安定ではあるが、繋がらないよりはマシだという事で早速警察に電話をした。

⏰:11/07/03 23:26 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#217 [輪廻◆j6ceQ96kak]
110のボタンを押して、最後に通話ボタンを押そうとした時だった。


隣にいた男の手が響歌の腕を掴んだ。


響歌『な、なにするんですか…?』


男『せっかくここまで案内してやったんだ。礼くらいはしてもらわないとな』

男の目はさっきまでとは断然違っていた。

⏰:11/07/03 23:30 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#218 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『ちょっと放してください!』

手を振り払おうとするが男の力は強く、放れない。


男『アンタも雪乃って子と同じようにして欲しいのかい?』

男はニヤリと笑って言った。


響歌はその目つきと発言に何かとてつもない恐怖を感じ、体が震える。

⏰:11/07/03 23:34 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#219 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男は更に詰め寄る。


男『雪乃って子がどうなったか知りたい?』


響歌『…雪乃をどこにやったんですか…?』

聞くのが怖い。


しかし今はそんな事を言っている場合ではなかった。


男『あの子なら昨日の深夜、森の中を歩いてるのを見かけてね…』


響歌『…それで雪乃はどこに!』

男は裂けそうになるくらいに口を大きく開けてニカッと笑うと、響歌に止めをさすような一言を言い放った。

⏰:11/07/04 00:01 📱:T004 🆔:wweJ6902


#220 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『殺したよ…』


響歌『……え……?』


男『聞こえなかったかい? 殺したって言ったんだよ』

それを聞いた瞬間、もう全てが終わったと思った…。


冗談を言っている様子はない。


男の視線は響歌をずっと捕らえている。


この場から一刻も早く逃げないと殺される…


そう直で感じた響歌は、男の手を最大限の力を使って振り払った。

⏰:11/07/04 00:11 📱:T004 🆔:wweJ6902


#221 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しかしその衝撃で、片手に持っていた携帯電話を地面に落としてしまった。


響歌は拾おうとしたが、男がとっさにそれを拾い上げる。


男『残念だったね。これがないと警察に電話ができないねえ〜』

挑発的な態度で言う。


響歌『そうだ…雪乃の携帯…』

ポケットに入れていた雪乃の携帯電話を取り出して電源ボタンを押す。

⏰:11/07/04 00:18 📱:T004 🆔:wweJ6902


#222 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しかし反応がない。


必死で電源ボタンを長押しする響歌を見た男が突然高らかに笑い出した。


男『あははっ! その携帯電話ならつかないよ。電池を抜いてあるんだもの』


響歌『え…』

後ろの蓋を取ると、電池パックが抜けているではないか。


男『昨日あの子を見つけた時、声かけたら怖がっちゃって…あの怯える顔なんとも言えなかったな〜』

⏰:11/07/04 00:23 📱:T004 🆔:wweJ6902


#223 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『…最低…!』


男『その顔…いいねぇ。若い子の強気だけど実は怯えている感じ…もっと見せてよ!』

この男、明らかにおかしい。


このまま捕まったら何をされるからわからないと思った響歌はその場から全速力で走り出した。


森の中に入るとまた同じ繰り返しになると考え車道を前へ前へと、とにかく無我夢中で走った。

⏰:11/07/04 00:29 📱:T004 🆔:wweJ6902


#224 [輪廻◆j6ceQ96kak]
どれくらい走っただろう。


止まって後ろを振り返ってみる。


追ってくる様子はなかった。


安心して、ゆっくりと歩き出す。


響歌『お願い…車…来て…』

車道の脇を歩きながら唯一の頼みである車が走ってくるのを待った。


その中で携帯電話があの男の手に渡ってしまったのが悔やまれて仕方がなかった。

⏰:11/07/04 00:35 📱:T004 🆔:wweJ6902


#225 [輪廻◆j6ceQ96kak]
個人情報が詰まっている携帯電話。


悪用される可能性は十分にあった。


響歌の住所はもちろん、友達や家族の連絡先の情報も全て詰まっている。


嫌な胸騒ぎを感じつつも、歩いていた時だった。


向こうから白いワゴン車がやってくるのが見えた。


響歌は車道の真ん中に立って、停車してくれるように手を上げて合図する。

⏰:11/07/04 00:41 📱:T004 🆔:wweJ6902


#226 [輪廻◆j6ceQ96kak]
車は迷わず停車した。


しばらくして中から二人の男女が車から降りてきた。


男性『おい、何だいきなり!』


響歌『助けてください!』


女性『どうかしたの?』

男性の態度とは裏腹に女性が心配そうな表情で言う。


響歌は例の男の事などを話すと、事情を把握した二人は響歌を車に乗せた。

⏰:11/07/04 09:16 📱:T004 🆔:wweJ6902


#227 [輪廻◆j6ceQ96kak]
女性『危なかったね。それにしたって、なんでこんな所にいたの?』


響歌『昨日アルバイト先の先輩と友達とで旅館に来たんですけど…先輩が…』

旅館で起きた事も話した。


しかし二人はあの男と同様に首をかしげる。


そしてハンドルを握りながら男性が言った。


男性『池崎旅館って、確かもうやってないんじゃなかった?』

⏰:11/07/04 09:23 📱:T004 🆔:wweJ6902


#228 [輪廻◆j6ceQ96kak]
女性『うん…そのはずだけど』


男性『響歌ちゃん…だっけ? 行った旅館を間違えたんじゃないの?』


響歌『間違えてなんかいません! パンフレットにもちゃんと池崎旅館って…』


鞄の中をまさぐってパンフレットを探すも、見当たらない。


あの旅館に置き忘れていたのだ。

⏰:11/07/04 09:29 📱:T004 🆔:wweJ6902


#229 [輪廻◆j6ceQ96kak]
女性『あの旅館って確か今、心霊スポットになってるよね』


男性『そうそう。異臭とか女の霊とか目撃談もあるしな』

心霊関係に興味があるのか、二人はなぜか微笑んでいる。


そんな中、男性が唐突に言った…



男性『今から行ってみる?』

⏰:11/07/04 09:33 📱:T004 🆔:wweJ6902


#230 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『…なっ!』

言葉を失った。

この時、言わなければよかった…と後悔する事になる。


女性『行っちゃうの?』


男性『行っちゃいますか?』


響歌『私は嫌です!』

断固拒否する。


男性『じゃあ響歌ちゃんは車の中に入ってなよ。俺達が君の先輩の事を調べてくるからさ』

⏰:11/07/04 09:37 📱:T004 🆔:wweJ6902


#231 [輪廻◆j6ceQ96kak]
車は旅館へ向けて急発進した。


走って数分もしない内に、車道の少し先に見覚えのある男の姿があった。


響歌『あっ、あの人!』


男性『なに? あのオッサンがどうかしたの?』


響歌『あの人が私の携帯を持ってるんです! お願いします…取り返してもらえませんか?』

⏰:11/07/04 09:42 📱:T004 🆔:wweJ6902


#232 [輪廻◆j6ceQ96kak]
体格のいいこの男性なら、あの男に太刀打ちできるだろうと思った響歌。


男性『よっしゃ。なんなら轢いてやるか?』


響歌『い、いや…そこまでは…』

さすがに冗談だと思っていた。


しかし車は猛スピードを出して男に突進していく。


車に気づいた男は、脇道にそれようとしたが、運転する男性はそれをさせなかった。

⏰:11/07/04 09:46 📱:T004 🆔:wweJ6902


#233 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男を轢こうとしたその一瞬、ブレーキをかけたのは助手席に乗っている女性だった。


男性『おい何すんだよ!』


女性『さすがにこれは笑えないよ』

響歌の思いが女性に通じたのだろうか。


一方のあの男は、目を白黒させながら地面に尻餅をついていた。

⏰:11/07/04 09:52 📱:T004 🆔:wweJ6902


#234 [輪廻◆j6ceQ96kak]
今だ、と思った響歌はすぐに車を降りた。


男性と女性も後に続いて車を降りる。


男の元へ向かうと強気に


響歌『携帯返してください!』

と言い放った。


男『へ、へへ…そう来るんだ…』

ヘラヘラ笑う男に腹が立った響歌は、男の左頬に向かってビンタした。

⏰:11/07/04 09:56 📱:T004 🆔:wweJ6902


#235 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男性『なあ、こいつ警察に突き出そうぜ』


響歌『そのつもりです!』

すっかりいつもの調子に戻った響歌。


女性『この子に携帯電話返しなよ!』

そう女性に言われた男は、ニヤニヤ笑いを続ける。


男性『何笑ってんだよオッサン!』

男はゆっくりと立ち上がると、大きなリュックから何かを取り出した。

⏰:11/07/04 10:01 📱:T004 🆔:wweJ6902


#236 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男の出した物に、ここにいる三人誰もが言葉を失った。


男『これが何だかわかるよね?』

それは、山の凶暴な動物などを狩る為に使われる捕獲銃だった。


男性『な…なんのつもりだよオッサン…』

男性は顔は強気だが、明らかに声が震えている。


男『君らはさっき、この私を轢き殺そうとしたよね? だから今度は私の番という事だよ』

⏰:11/07/04 10:12 📱:T004 🆔:wweJ6902


#237 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男はそう言って銃口を男性の方に向けて構えた。


男性『お、落ち着けよ! 別に殺すつもりなんか…』


男『そこの女の子二人は、後で私がゆっくりと料理してあげるからね』

そして男は迷わず引き金をひいた。


『バンッ!』

大きな一発の銃声が鳴り響いた―

⏰:11/07/04 23:42 📱:T004 🆔:wweJ6902


#238 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌はつぶっていた目をゆっくりと開いた。


辺りを見て男性の安否を確認する。


男『チッ…外したか…』

ポツリとつぶやく男の声をしっかり聞いたであろう女性は男性の元へ駆け寄った。


女性『剛史、大丈夫!?』


男性『ああ…。なんとか避けた』

男がリュックの中身を探っているのを見た男性は、一目散に男に向かって行った。

⏰:11/07/04 23:50 📱:T004 🆔:wweJ6902


#239 [輪廻◆j6ceQ96kak]
銃を取り上げようとしたのだろう。


二人がもみ合っている最中、女性が車に戻る。


響歌があたふたしていると女性はすぐに携帯電話を持って戻ってきた。


女性『警察…すぐ来てくれるかな…』

彼女の素早い行動で、今度こそ助かると思った。


一方の男二人は、男性が男の銃を取り上げて地面に叩きつけている所だった。

⏰:11/07/04 23:56 📱:T004 🆔:wweJ6902


#240 [輪廻◆j6ceQ96kak]
女性『安心して! 少し遅くなるけど、これから警察が来るよ!』


響歌『…よかった…』

安心したせいか、身体の力が抜けて地面に崩れ落ちる。



男性『いい加減にしろよ!』

形勢逆転といった所だろうか、調子が戻った男性が男を殴る。


男は気絶したのか、その場に倒れピクリともしなくなった。

⏰:11/07/05 00:02 📱:T004 🆔:Ps175YeA


#241 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男性がとっさにリュックを手に取って中身を確認する。


男性『響歌ちゃん! 携帯ってこれ?』


響歌『…そ、それです!』

男性が倒れた男に背を向けてリュックの中身の確認を続けている時―


男性の後ろで、動かなくなっていると思っていた男が静かにポケットからナイフを取り出した瞬間を響歌は目撃した。

⏰:11/07/05 00:12 📱:T004 🆔:Ps175YeA


#242 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『うっ、後ろ!!』

響歌がそう叫んだのとほぼ同時だった―


男性『……ぐふっ!』

男は背後から男性の下腹部を一瞬にして刺した。


そして一瞬にして男性はその場に倒れた。


地面に大量の血が広がっていく。


響歌『いやああああああああああ!!』


女性『……え?』

響歌の隣にいた女性も、男性の変わり果てた姿を見てその場に崩れ落ちた。

⏰:11/07/05 00:18 📱:T004 🆔:Ps175YeA


#243 [輪廻◆j6ceQ96kak]
血まみれのナイフを持ったまま男が立ち上がり二人に向かってゆっくりと歩み寄ってくる。


男『次は君達の番…』


響歌『…お、お姉さん…く、車…車で早く逃げないと…』


女性『む、無理だよ…。ウチ、免許取ったばっかだし…』


響歌『い、今はそんな事言ってる場合じゃないです!』

二人はなんとか立ち上がって、車へとフラフラ向かう。

⏰:11/07/05 00:24 📱:T004 🆔:Ps175YeA


#244 [輪廻◆j6ceQ96kak]
なんとかたどり着いたが、運転席を見た女性が困り顔をした。


女性『あれ…? 車のキーがない……あっ!』


響歌『ど、どうしたんですか? 早くしないと…』


女性『車のキー、確か剛史が車を降りる時にポケットに…』


響歌『…じゃ、じゃあ鍵はあの人のポケットにあるって事ですか…?』

⏰:11/07/05 00:31 📱:T004 🆔:Ps175YeA


#245 [輪廻◆j6ceQ96kak]
女性『ど、どうしよう…』

男性はあの男の後ろに倒れていて、男性と響歌達がいる車を挟んで男がこちらに迫ってきている状態だ。


鍵を取りに行くとしても、正面にいる男を突破しなければ彼の元へはたどり着けない。


警察はいつ到着するかわからない。


選択肢は二つしかなかった。

⏰:11/07/05 00:38 📱:T004 🆔:Ps175YeA


#246 [輪廻◆j6ceQ96kak]
警察の到着までの間ひたすら逆方向に逃げるか、男の脇を全速力で走って突破して鍵を取りに行くかだった。


しかしこの状況で逃げた場合、後々警察との行き違いや誤解などが発生するという問題もある。


響歌は覚悟を決めた。


響歌『あ、あの…私が鍵を取りに行くのでお姉さんは車の中で待っててください!』

⏰:11/07/05 00:47 📱:T004 🆔:Ps175YeA


#247 [輪廻◆j6ceQ96kak]
女性『で、でも…』


響歌『お姉さん達がいなかったら私…どうなっていたかわかりません…。だからお礼させてください』


女性『…わかった。気をつけて…!』

響歌は軽く礼をし、回れ右をして男の方へ振り返った。


ニヤニヤ顔でゆっくりと、そして確実に近づいてくる男。

⏰:11/07/06 10:20 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#248 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌は唾を飲み込んで、車道の左脇へと移動する。


ふと、下を見ると小さな石が散らばっていた。


響歌はそれを数個手に取って男の方に投げると、男が石に気を取られている間に向こう側へと一目散に駆け抜けた。


血まみれで倒れる男性の元へとたどり着き、ポケットを探り鍵を探す。

⏰:11/07/06 10:25 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#249 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あった…』


見つけた車の鍵を空に掲げて車に戻ろうとするも、男は方向を変えて響歌の元へと向かってきた。


周りを見て石を探す。


石はなく、変わりに男が先ほど撃った捕獲銃が置かれていた。


それを見た響歌は反射的にその銃を手に取ると、男に銃口を向けた。

⏰:11/07/06 10:34 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#250 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『アンタのせいで雪乃は…! このお兄さんは!』

銃の扱いはわからない。

しかし、この引き金をひけば弾が出る事はわかっていた。


男『素人の君に、弾を私に当てる事なんてできないよ…。それはレーザーポインタがついてない限り、狙いを定めて撃つのは難しいんだから』


響歌『黙れ!』

気づくと、頭で考えて発するより先に言葉が出ていた。

⏰:11/07/06 10:40 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#251 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そのまま震えた手で引き金に指をかけた。


その時―


女性『響歌ちゃん! 撃っちゃダメ! その人を撃ったら…どうなるかわかってるよね!』


響歌『……!!』

女性の言葉で、ふっと我に帰り、自身の手にしていた銃を見てそれをとっさに落とす。


この時、響歌の意思とは関係なく銃を手にしていた事に気がついた。

⏰:11/07/06 10:48 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#252 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『そろそろ楽にさせてあげるよ!』

先ほどまで歩いていた男が、響歌が銃を落としたタイミングを見計らってか、走り出してきた。


女性『響歌ちゃん逃げて!』

またしても頭で考えるより先に足が動いた。


まるで誰かに操られているかのような感覚だった。


響歌はその足で森の中へと駆け抜ける。

⏰:11/07/06 10:53 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#253 [輪廻◆j6ceQ96kak]
夢中だった。


体が響歌の思うように動かない。


足が勝手に動いていた。


だが男が追ってくる気配は背後からちゃんと感じられた。


男『なんで逃げるのさぁ!』

響歌は半泣き状態になりつつも、全速力で男を振り切ようと走り続ける。

⏰:11/07/06 10:56 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#254 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しばらくして、追ってくる気配が消えた。


走り続けた結果、ふと見るとあの車が見える。


しっかりとさっきの場所へと戻っていたのだ。


どこをどう走っていたのかわからない響歌だった。


まるで見えない誰かに導かれていたようだった。

⏰:11/07/06 11:01 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#255 [輪廻◆j6ceQ96kak]
すぐに車へと向かう。


響歌『お姉さん!!』


女性『…響歌ちゃん! 無事だったんだね!』

片手にずっと握りしめていた血がついた車の鍵を女性に渡し、響歌も助手席に乗った時。


警察のパトカーのサイレンが聞こえてきた。


女性『来たみたい…よかったね』


響歌『もうダメかと思いました…』

車から降りて向こうから来るパトカーに向かって手を振る。

⏰:11/07/06 11:05 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#256 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それから響歌と女性で事情を話した。


女性といた男性を刺した男はすぐに捜索隊によって発見。


殺人や銃刀法違反などの容疑で逮捕となった。


パトカーに乗せられる時、男は響歌達を見てニヤっと小さく笑った。


その後、響歌の証言であの旅館にも捜査が入る。

⏰:11/07/06 11:11 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#257 [輪廻◆j6ceQ96kak]
あの男が言っていた通り、あの旅館は半年前に経営不振により女将の池崎が、他の従業員を焼却炉で焼き殺してから、最後に自身をも入れて焼身自殺を図ったという。


それから取り調べ室で響歌は、女将の事を話すも、信じてもらえなかった。


響歌の先輩、吉田優斗は現在も行方不明。


あの男が殺したという、松下雪乃の死体も未だ見つかっていない。

⏰:11/07/06 11:20 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#258 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌にはただ一つ思う所がある。


あの時、道を導いてくれたのは雪乃だったのかもしれない、と。


雪乃が助けてくれたのだろうと、信じる事にした。

⏰:11/07/06 11:22 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#259 [輪廻◆j6ceQ96kak]
数日後―


女性『今日、剛史のお葬式なんだ』


響歌『そうなんですか…』


女性『ねえ…あの男の人、どうなると思う?』


響歌『あの男は…私の友達も殺したと言ってました。私は一生許す気にはなれないです』


女性『そうだよね…ウチも同じ。ねえ響歌ちゃん…復讐したいと思わない?』

女性の言葉に、響歌は一瞬戸惑った。

⏰:11/07/06 11:26 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#260 [輪廻◆j6ceQ96kak]
女性『だって、元々悪いのはあの男でしょ? あの時のバカにしたような笑い顔…今でも忘れない』


響歌『私もですけど…やっぱり罪に関しては警察に任せようと思ってます』


女性『そう…響歌ちゃんはそれでいいんだね?』


響歌『……はい』

二人は握手をしてから、別れた。

⏰:11/07/06 11:30 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#261 [輪廻◆j6ceQ96kak]
もう彼女に会う事はない。


そう思っていた。


少なくとも今の段階では―



第2話 怪奇なる旅路【完】

⏰:11/07/06 11:31 📱:T004 🆔:poCJnCg.


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