†horror†
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#1 [輪廻◆j6ceQ96kak]
全5話構成の長編ホラーノベルをまったりと書いていきます。


主人公は全話共通です。


※台詞に名前がつきます
┗小説というよりはゲームをやっている感覚で見ていただけると幸いです。

※文才ないです
┗初心者の為、台詞回しや文など変な所があるかもしれませんが、どうか大目に。

⏰:11/04/24 03:51 📱:T004 🆔:spXS9mck


#2 [輪廻◆j6ceQ96kak]
プロローグ




………。



私の名前は村井 響歌(むらい きょうか)


21歳。

都内で一人暮らしをしている大学生。


学校とアルバイトを両立しながら生活をしている、いたって普通の学生。



今回は私の身の回りに起きた5つの物語をあなたに…

⏰:11/04/24 04:02 📱:T004 🆔:spXS9mck


#3 [輪廻◆j6ceQ96kak]
第1話【狂気なる隣人】


今日も学校とアルバイトを終えて帰宅した。

家賃が1ヶ月8000円という格安なアパートに一人暮らしをしている私。

安いからといって、特に曰く付きの物件という事ではない。

私自身が霊感が強くないだけかもしれないが。


響歌『あ〜疲れた』

バッグと上着をベッドに投げ捨て、シャワーを浴びるべくシャワールームに。

⏰:11/04/24 04:08 📱:T004 🆔:spXS9mck


#4 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ゴッ! ゴッ!』

それは丁度、体を洗い終えシャンプーを手に取った時だった。

壁の向こうから何かをぶつけるような音がした。


響歌『なに…?』

しばらくすると、音は止まった。


隣の部屋の人が何かしているのだろう、と思った響歌は首を傾げながらも頭を洗う。

⏰:11/04/26 11:09 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#5 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ!』

頭をお湯で流し、今度はリンスを手に取った時に再びあの音がした。


今度はぶつける回数が先程より多い。


しかし響歌は学校とアルバイトの疲れが溜まっており、特に気にする事なくシャワーを続けた。

⏰:11/04/26 11:14 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#6 [輪廻◆j6ceQ96kak]
シャワーを終え着替えて部屋に戻った響歌。

テレビをつけてドライヤーのコンセントをつけようとした時だった。


『ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ!』

またあの音だ。


響歌『マジなんなの…うっさいな…』

疲れと同時にストレスも溜まっている響歌。

⏰:11/04/26 11:18 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#7 [輪廻◆j6ceQ96kak]
アパートが格安なのは部屋と部屋の壁が薄い為だろうと悟った響歌は、明日管理人さんに苦情を入れようと決意し、ドライヤーで頭の乾かしに入った。


『ゴッ! ゴッ! ゴッ!』

今度はドライヤーの音を掻き消すほどの大きな音がする。

隣人がドライヤーの音に対して『うるさい』とサインを送っているのだろうか。

⏰:11/04/26 11:23 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#8 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しかし響歌がドライヤーの電源を落とした後も、しばらくその音は続いていた。


響歌『意味わかんない。言いたい事あんなら直接言えっての』

イライラが頂点に達した響歌は、その音がする壁に向かってキックをかました。


すると同時に音がピタッと止んだ。

⏰:11/04/26 11:26 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#9 [輪廻◆j6ceQ96kak]
これはもう我慢ならないと、ついに隣人の部屋へ向かう事を決めた。


ベッドに置いていた上着を羽織り、サンダルを履いて隣の部屋へバタバタと向かった。


チャイムを押す。


しかし返事はない。


部屋の電気も消えているようだ。


それよりも気になったのが、人の気配が感じられない事だ。

⏰:11/04/26 11:35 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#10 [輪廻◆j6ceQ96kak]
少し背筋が凍ったが、音がした以上は人がいる事は確かだと推理した響歌はチャイムを連打する。


響歌『すみませーん!』

右手でチャイムを押し、左手でドアをガンガン叩きながら呼んだ。


しかし一切返事はない。


すると、その部屋の隣の部屋から人が出てきた。


いつも朝にゴミ出しをしているおばさんだ。


会うと必ず挨拶をする。

⏰:11/04/26 11:40 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#11 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『武田さん…』


武田『村井さんじゃない、どうしたの? こんな時間に』

響歌は音について武田さんに話した。


武田『ああ、私も聞いた事あるよ。この部屋にはね、奥村さんという女性が一人で住んでるんだよ。管理人さんから聞いたんだけど、どうやら壁に自分のおでこをぶつけてるらしいね』

⏰:11/04/26 11:45 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#12 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『暗い部屋で、なんでそんな事を…?』


武田『さあねえ…ここの人ちょっと変わってるから。あまり関わらない方がいいよ』


響歌『でもうるさいんですよね…これじゃ寝られないかもしれないです』


武田『私も管理人さんに言ってるのよ。でも管理人さんってホラ、気の弱そうな人じゃない…だからなかなかねえ』

⏰:11/04/26 11:51 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#13 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌はしばらく武田の話しに付き合わされ『そろそろ寝るから』と一方的に話を打ち切ってニヤニヤ顔で部屋に戻って行った。


響歌『さすがオバチャンパワー』


真面目に見えていた武田の別の一面を見た響歌はため息をついてから自分の部屋へ戻った。


髪は武田との長い会話中に、半分は乾ききっていた。


残りの半分を乾かす為、再びドライヤーの電源を入れた。

⏰:11/04/26 11:56 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#14 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ゴッ! ゴッ! ゴッ!』

凝りもせず音がする。


武田は壁におでこをぶつけていると言っていたがこのくらい大きな音であれば出血しているはずだ。


響歌『隣の人も隣の人だけど、黙ってる管理人も管理人じゃない…』

響歌は隣人よりも管理人に呆れかけていた。

⏰:11/04/26 12:05 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#15 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その日は全く眠れなかった。

なぜなら、あの音は深夜にも定期的にしていたのだから。



―翌日


結局音のせいでまともに寝れなかった響歌。


今日もアルバイトへ行く為、眠たい目をこすりながら準備を始めた。


音はしていない。


深夜にずっと起きて壁におでこをぶつけていたせいか、もう眠っているのだろうと響歌は勝手に解釈した。

⏰:11/04/26 12:09 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#16 [輪廻◆j6ceQ96kak]
洗顔などを終え、着替えてから化粧を簡単に済ませ、早々と部屋を後にする。


帰ってきたら管理人に言おうと決めていた。


その日の昼休み、バイト仲間にあの事を話すと『ぜひ聞いてみたい』という声があがった。


響歌は『どうせなら泊まって行く?』という提案をいれるとバイト仲間は嬉しそうにして首を縦に振った。

⏰:11/04/26 12:16 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#17 [輪廻◆j6ceQ96kak]
アルバイトが終わり、大学へと向かう。


学校が終わったらバイト仲間に連絡を入れて、家に泊まりに来てもらう事になった。


一人でいるのが少し怖いと思っていた響歌には好都合だった。


学校が終わると早速バイト仲間にメールを入れた。


返事はすぐに来て内容は『これから行く』というものだった。

⏰:11/04/26 12:24 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#18 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌は、せっかく来てくれるのだからとコンビニでお菓子や夜食を適当に買ってからアパートに帰った。


荷物を一旦部屋に置いてから、アパートの前で友達を待っている事にした。


10分くらいして、男女2人組がやって来た。


男性の方は、響歌の仕事場の数年先輩である吉田 優斗(よしだ ゆうと)


女性は、吉田と交際している同僚の松下 雪乃(まつした ゆきの)

⏰:11/04/26 12:32 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#19 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『よっ! お待たせ』


雪乃『遅くなってごめんね、響歌!』


響歌『いや大丈夫だよ。あとは中野君だけだね』


雪乃と同様、仕事場の同僚の中野 敬太(なかの けいた)


以上の3人が響歌の部屋に泊まる事になった。

⏰:11/04/26 12:41 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#20 [輪廻◆j6ceQ96kak]
待っている間、吉田は響歌にひっそりと言った。


優斗『なあ村井、お前って中野の事好きなんだろ?』


響歌『なっ! い、いきなりなんですか?』


優斗『顔赤いぞ。わかりやすいなー』


響歌『な、中野君はただの同僚です! なんであんな奴なんか…』


優斗『ふーん。いやよいやよも好きの内ってな』


雪乃『優斗くんやめなよ、今はそんな話してる時じゃないでしょ』

雪乃のフォローで、恋愛の話は途切れた。

⏰:11/04/26 12:47 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#21 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『チェッ、わかったよ』

それから5分後、向こうから中野がやってきた。


優斗『中野! 遅いぞ』


中野『いやあ、すみません。準備に手間取ったんで』

中野は肩に大きなリュックを背負っていた。


1泊するだけなのにその荷物は大袈裟だなと思いつつも彼らを部屋に招き入れた。

⏰:11/04/26 12:52 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#22 [輪廻◆j6ceQ96kak]
みんながそれぞれ荷物を置いて、響歌の周りに集まった。


響歌『あの音なんですけど、多分そろそろするかもしれません』


優斗『確かババアがデコぶつけてる音なんでしょ? ただの異常者なんじゃねーの?』


吉田の表情からは一切の恐怖という感情が見られない。


逆にそのおばさんを小バカにしているようだ。

⏰:11/04/26 13:04 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#23 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『でも怖いよね。夜中もずっとぶつけてたんでしょ? 警察とか呼ばなくていいのかな…』


優斗『雪乃、お前に何かあったら俺が守ってやるよ。だから心配すんな』


雪乃『あ、ありがとう』

吉田が雪乃の肩に手を回しているのを見て、少々気まずい雰囲気になった。

⏰:11/04/26 13:08 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#24 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しかしそれはすぐに打ち切られた。


『ゴッ! ゴッ! ゴッ!』


雪乃『キャっ!』

その音に敏感に反応した雪乃は小さな悲鳴をあげた。



敬太『今の音?』


響歌『そう…』


優斗『きたかババア!』

吉田はそう言って突然立ち上がり、音のする壁の方に向かった。

⏰:11/04/26 13:12 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#25 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そして躊躇する事なくその壁をガンガンと強く叩き出した。


優斗『おいババア! うっせーんだよ!』


『ゴッ! ゴッ! ゴッ!』

しかし音は止まない。


響歌『おかしいな…いつもは止まるのに』

吉田は言葉を続ける。

⏰:11/04/26 13:22 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#26 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『さっさとくたばれババア! こっちは寝れなくて迷惑してんだよ!』

するとピタリと止んだ。


優斗『もう大丈夫かもしれないぜ』


響歌『あ、ありがとうございます』


優斗『でも一応泊まってくわ。ババアとはいえ、なんかやり返してくるかもしれねーし』


みんなは荷物から寝袋を取り出した。

⏰:11/04/26 13:26 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#27 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『響歌、私達はこれで大丈夫だから、ベッドでゆっくり寝てね』


響歌『雪乃、ありがとう』


優斗『その前に腹減ったな』


響歌『これ適当に買ったので、よかったら食べてください』

響歌はコンビニで買ったものを吉田に渡した。

⏰:11/04/26 13:31 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#28 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『サンキューな』

中野『じゃ、俺もいただきます』

それからは4人でたわいもない世間話などに没頭し、あの音の事などを忘れていった。


時計は午後23時を迎えた。


3人は話の最中で順番に『もう寝る』と言い、深い眠りについていた。


起きているのは響歌ただ一人だ。


暗い部屋でベッドに横になって携帯電話をいじっていた。

⏰:11/04/26 13:40 📱:SH003 🆔:5Bo.qlGs


#29 [輪廻◆j6ceQ96kak]
すると、まるで響歌が一人になるのを見計らうように…


『ゴッ! ゴッ! ゴッ』

すっかり音の事を忘れていた響歌は、ハッと我に帰ってから壁の方を見る。


3人を起こそうと思ったが、悪い気もするので厚い毛布を被って音がなるべく聞こえないようにした。

⏰:11/04/27 11:23 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#30 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しかし…

『ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ!』

音は更に大きくなり、まるで響歌のすぐ耳元で聞こえるような感覚に陥った。


響歌『もうやめて…』

耳を塞ぐも、音はそれを遮って聞こえてくる。

響歌は我慢の限界に達した。


3人を起こす事にしたのだ。

⏰:11/04/27 11:27 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#31 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『吉田さん! 吉田さん!』

響歌はベッドから下り、頼りになりそうな吉田から起こそうと、体を揺する。


優斗『………』

反応がない。


響歌『雪乃! 雪乃!』


雪乃『ん…』

雪乃は目をこすりながらゆっくりと目を開けた。

⏰:11/04/27 11:32 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#32 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『響歌…どしたの…』


響歌『雪乃! 聞こえる? 音が…』


雪乃『み、耳が…』

両耳を塞ぐ雪乃。


しかし…


雪乃『音が…中に…入ってくる!!』


響歌『雪乃! 落ち着いて!』

雪乃は人格が変わったように、まるで別人のような目つきに変わった。

⏰:11/04/27 11:37 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#33 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『鼓膜が…ギャアアアアアアアアアア!!』

そして、この世のものとは思えない悲鳴をあげ、その場に倒れ込んだ。


響歌『雪乃!!』

どうやら気絶しているようだった。

響歌は再び吉田の元に来て体を大きく揺らす。

⏰:11/04/27 11:40 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#34 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『吉田さん! 起きてください! 雪乃が!』

俯せになっている吉田の体を仰向けにしてその顔を見た時、響歌は言葉を失った。


吉田の目は白目を向いていて、顔は青白いのだ。

まるで首を強く締められている時のような顔。


響歌『よ、吉田…さん』

ベッドの方に後ずさりする響歌。

⏰:11/04/27 12:00 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#35 [輪廻◆j6ceQ96kak]
音は相変わらずうるさく鳴っている。

しかし今はその音よりも吉田の顔に恐怖心を抱いていた。


響歌『け…けいさつ…』

響歌はベッドに置いてある携帯電話を手にし、震えた手で『110』を押した。


警察が出て訳を話し、通話を切った響歌は中野敬太の元へ。

⏰:11/04/27 12:04 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#36 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『中野君! 中野君!』

大きく体を揺らすと、彼はすぐに目を覚ました。


敬太『響歌ちゃん…?』

響歌は涙しながら無言で敬太に抱きついた。


響歌『中野君…吉田さんが…うう…』


敬太『な、何があったんだよ?』

泣きながらも響歌は訳を話す。

⏰:11/04/27 12:11 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#37 [輪廻◆j6ceQ96kak]
敬太『警察は呼んだんだよね?』


響歌『うん…。でも私が…3人を巻き込んじゃったんだよね…』


敬太『響歌ちゃんは悪くないよ。もしかしたら、例のおばさんの呪いかもしれない。吉田さん、何度も馬鹿にしてたからさ…』


響歌『吉田さん…』

警察が来るまでの間、2人は寄り添い合っていた。

⏰:11/04/27 12:17 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#38 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ピンポーン』


警官『警察です! 開けてください!』

チャイムと声に気づいた響歌はすぐに玄関に向かってドアを開けた。


響歌『早く来てください!』

警官の手を引っ張り、部屋の中へ案内した。


そして吉田の元へ誘導。

⏰:11/04/27 12:22 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#39 [輪廻◆j6ceQ96kak]
警官『彼が吉田優斗さんですか?』


響歌『そうです! 早く調べてください!』

響歌は部屋の電気をつけた。


あの音はしていない。


警官が吉田の顔を覗き込む。


響歌は見ないように両手で顔を塞いだ。

⏰:11/04/27 12:26 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#40 [輪廻◆j6ceQ96kak]
すると、警官の口から意外な言葉が出てきた。


警官『あの、彼がどうかしましたか?』


響歌『…え?』

警官の言葉に唖然とした響歌は両手を下ろして吉田の方に顔を向けた。


見ると、吉田の顔はいたって正常であった。

⏰:11/04/27 12:29 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#41 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『そ、そんな…』


警官『もしかしてイタズラで電話したのですか?』


響歌『違います! 確かに吉田さんの顔が…』


警官『いい加減にしてくださいよ…こっちだって暇じゃないんです!』

警官はものすごい形相で言い放ち、帰っていった。

⏰:11/04/27 12:35 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#42 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その場に崩れ落ちた響歌の元に敬太がすぐにやってきた。


敬太『…響歌ちゃん、大丈夫?』


響歌『私…確かに見たのに』


敬太『部屋暗かったんでしょ? 見間違えても仕方がないって!』

彼の支えに助けられながらも、平静を保った響歌に急に眠気が訪れた。

⏰:11/04/27 12:41 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#43 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『ごめん…もう寝るね』


敬太『ああ』

そしてあの音はそれからは一度もする事がないまま朝を迎えた。


優斗『あーよく寝た!』


響歌『おはようございます』


優斗『あれ村井? なんか暗いじゃん』

響歌は深夜の事を吉田に話した。

⏰:11/04/27 12:45 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#44 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『マジかよ、俺がそんな顔に?』


雪乃『響歌を驚かす為に変顔してたんじゃないの?』


優斗『ばーか。誰がそんな事するか』

いつもの楽しい会話が始まった。

しかしそれを中野敬太が遮るように口を開いた。


敬太『そういえばあの音しなくなりましたよね』

響歌はそれに疑問を抱かずにはいられなかった。

⏰:11/04/27 12:49 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#45 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『そういえば中野君、私が起こしたらすぐに目を開けたよね。起きてたの?』


敬太『ん? いや、寝てたけど。…俺って寝起きがいい方なんだよね』


響歌『でも、私が吉田さんの顔見た時に部屋が暗かった事も知ってたよね。だからちょっと気になって』

敬太は苦笑いをした。

⏰:11/04/27 12:52 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#46 [輪廻◆j6ceQ96kak]
敬太『だって、元から暗かったじゃん? だからそう思っただけ』


響歌『…そうなんだ』


優斗『さ、今日も仕事だ。俺は先に行かせてもらうわ』

吉田は一人黙々と片付けと準備を始めた。

⏰:11/04/27 12:59 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#47 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そんな中、雪乃が響歌のそばに来て耳元で言った。


雪乃『そういえば響歌、私が悲鳴あげて気絶したって事は優斗くんには内緒にしてね。からかわれちゃうから』


響歌『うん、わかったよ』

響歌は、あれから吉田が起きる前に目を覚ました雪乃に報告していたのだ。

⏰:11/04/27 13:01 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#48 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃が準備に入り、今度は中野が響歌の元へ。


敬太『なあなあ、俺達はまだ時間あるし隣の部屋行ってみない?』


響歌『えっ?』

彼の意外な提案に一瞬戸惑う響歌。


敬太『だって俺そのおばさん見てみたいし。いいだろ?』

⏰:11/04/27 13:07 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#49 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『やめたほうがいいよ…。部屋の鍵もかかってると思うし』


敬太『鍵なら任せとけって。隣のおばさんは俺の親戚の人だって言えば管理人から鍵を貸してもらえるかもしれないだろ?』


響歌『無理があるような…。だって変わった人なんだよ? 管理人さんもおばさんの家族の事はわかってると思うし』

⏰:11/04/27 13:10 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#50 [輪廻◆j6ceQ96kak]
敬太『大丈夫。俺、演技は得意だし。俺も変わった人を演じればいいんだよ』


響歌『大丈夫かなあ…』

昔から嫌な事は嫌と言えない性格の響歌は彼に言われるがまま、その提案に乗る事にした。


吉田と雪乃がいち早く仕事に向かったのを確認した中野は、実行に入った。

⏰:11/04/27 13:15 📱:SH003 🆔:t3.q0Fzo


#51 [輪廻◆j6ceQ96kak]
中野『じゃあ管理人の部屋に案内して』

響歌は止める事もなく、一緒に部屋を出て管理人の住む下の階の部屋へ。


部屋の前に来ると、中野はためらいもなくチャイムを押す。


しばらくして気の弱い男性の管理人が姿を現した。

⏰:11/04/29 10:50 📱:T004 🆔:WQld2gLY


#52 [輪廻◆j6ceQ96kak]
管理人『はあ、何か?』


中野『あの、上の部屋に住んでる変わったばあさんの事なんですけど』


管理人『はあ、奥村さんの事ですか?』

中野は響歌の耳元で『奥村でいいんだよな?』と聞いてきて、私が首を縦に振ると再び管理人の方に目をやった。

⏰:11/04/29 10:54 📱:T004 🆔:WQld2gLY


#53 [輪廻◆j6ceQ96kak]
敬太『俺、奥村のおばちゃんの親戚なんです。久しぶりに会いに来たんで中に入れてもらえませんか…?』

中野は少し暗めの表情と口調で言った。

すると管理人は顔をしかめて


管理人『あれ…奥村さんに親戚はいなかったと思いますけどね』


敬太『マジで…?』

小さく舌打ちしてから、何か考え込んでいた。

⏰:11/04/30 11:05 📱:T004 🆔:ohciiaqk


#54 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『ねえ、もうやめようよ…』


敬太『いや、どんな奴か見るまでは引き下がれないし』


響歌『私、部屋に戻るよ?』


敬太『いいよ。後は俺に任せといて!』

中野の自信満々の顔を見た響歌は『やれやれ』と言わんばかりのため息をこぼして部屋に戻った。

⏰:11/04/30 11:08 📱:T004 🆔:ohciiaqk


#55 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌が自分の部屋に戻ると


『ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ!』

隣の奥村さんが起きたのか、壁をぶつける音が。


音はうるさいが、霊的なものではないとわかっていた響歌は気にする事もなく仕事へ行く準備をした。

⏰:11/04/30 11:12 📱:T004 🆔:ohciiaqk


#56 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『これでよし、と』

時計の針は午前8時半を指した所だった。

準備が完了した響歌が部屋を出ると、奥村の部屋の前に管理人と中野の姿があった。


敬太『おっ響歌ちゃん。もう行くの?』


響歌『今日は9時からだもん。早く行かなきゃ』

⏰:11/04/30 11:20 📱:T004 🆔:ohciiaqk


#57 [輪廻◆j6ceQ96kak]
敬太『そっか。俺はちょっと用事で遅れるって言っといてくれよ』


響歌『うん、わかった。でもホントに会うの?』


敬太『当たり前! さっき管理人に、俺は孫だって言ったら会わしてくれるってさ』

と、管理人に聞こえないように響歌の耳元で囁いた。

⏰:11/05/01 09:55 📱:T004 🆔:cVsjVqv2


#58 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『後からバレても知らないよ。じゃあまた後でね』


敬太『おう!』

響歌は中野を置いて、早々とアパートを後にした。

⏰:11/05/01 09:58 📱:T004 🆔:cVsjVqv2


#59 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その後、管理人から響歌の携帯電話に連絡があった。


中野敬太が奥村の部屋で死んでいる…と。


それを聞いた響歌、吉田、雪乃は言葉を失った。


管理人は中野を奥村の部屋に1人で入れ、数分してから部屋に行った所、額の部分を鋭利な刃物で刺されており血まみれの状態で発見されたと。

⏰:11/05/03 10:28 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#60 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌は仕事と大学をしばらく休む事を店長と学校にそれぞれ伝えた。


中野敬太の死に絶大なるショックを受け、立ち直るのに時間がかかりそうだからだ。


その日の夜、中野の知り合いという事で響歌らは警察から事情聴取を受けた。


肝心の中野の一件は殺人事件と断定。

⏰:11/05/03 10:36 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#61 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しかしおかしな事に、奥村の部屋から凶器と思われるものが見つからなかった。


そして管理人が部屋に入った際、奥村自身も部屋で額から血を流して死んでいたという。


響歌らは中野を誰もが奥村が殺したんだと警察に主張したが、彼女自身も死んでいるという事で主張を受け入れてもらえなかった。

⏰:11/05/03 10:47 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#62 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それから犯人は見つからず捜査は打ち切られた。


響歌らは悔しい気持ちでいっぱいだった。


それからして吉田が響歌に話した。


中野は響歌に密かに恋心を抱いていた、と…。


吉田は前もって中野から度々相談を受けていたらしい。

⏰:11/05/03 10:59 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#63 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌の家への泊まりが決まった時、吉田は中野に告白のチャンスだという事で連絡をしていた。


それで響歌はわかった。


あの夜…吉田と雪乃が寝た後、中野は響歌に告白するタイミングを伺う為に実は起きていた事。


だから部屋の電気が消えていた事も当然知っていたんだと。

⏰:11/05/03 11:03 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#64 [輪廻◆j6ceQ96kak]
数日後…

中野の事はショックだが、何日も仕事を休む訳にはいかないと思い、響歌は今日から仕事に復帰した。


もうあの音はしない。


しかし響歌は時々ふと何かの気配と殺気を感じる時がある。


それは霊的なものなのか…


それとも―



第1話 狂気なる隣人【完】

⏰:11/05/03 11:08 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#65 [輪廻◆j6ceQ96kak]
第2話 【怪奇なる旅路】


響歌の仕事仲間だった中野敬太がこの世を去ってから早5ヶ月。


響歌の会社と学校は明日からしばらくの大型連休に入る。


そんな中…


優斗『なあ明日から3日間くらい旅館にでも泊まりに行かね?』


それはある日の仕事の休憩中、響歌の先輩の吉田優斗のこの発言から始まった―

⏰:11/05/03 22:09 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#66 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『旅館…ですか?』


休憩室のソファ。

吉田の左隣に座る響歌が訪ねる。


優斗『そっ! 最近残業も多かったし、気分転換にでもどうかって思ってよ』


雪乃『いいねえ!』


今度は吉田の右隣に座る雪乃が嬉しそうに言った。

⏰:11/05/03 22:11 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#67 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃の反応を確認した吉田は、響歌の方に目をやり、何かを訴える眼差しを示した。


響歌は空気を読むように


響歌『楽しそうですね! 行きたいです!』


と笑顔で答えたものの、その笑いはほぼ苦笑いに近かった。

⏰:11/05/03 22:27 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#68 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その表情を見逃さなかったであろう雪乃の視線が響歌を捉える。


雪乃『響歌、行きたくないなら無理しなくていいんだよ?』


響歌『えっ? そんな事…ないよ』


自分で苦笑いをしているのも気づかない響歌に吉田は眉をしかめた。

⏰:11/05/03 22:29 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#69 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『行きたくねーの?』


その真顔の吉田から放たれるプレッシャーは尋常ではない。


普段はおちゃらけている吉田だが、真顔になる吉田と普段の吉田とのギャップに響歌はいつも驚かされている。


響歌『いえ、ぜひ行きたいです!』


響歌は嫌な事は嫌だとハッキリ言えない自分を呪いたい気分だった。

⏰:11/05/03 22:32 📱:T004 🆔:OE1aqJIY


#70 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『よし、じゃあ決まりだな!』

吉田は安心した顔をすると、バッグから1枚の紙を取り出した。


雪乃『なにそれ。もしかしてパンフレット?』


優斗『あたり! コンビニにあったから貰ってきた』


雪乃『準備いいじゃん。で…どんなとこなの?』

話は響歌を置いて段々と進んでいく。

⏰:11/05/04 10:45 📱:T004 🆔:3WqBaJiw


#71 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『この旅館ネットで調べたんだけど、実は…出るらしいんだよ』


響歌『出る…?』


雪乃『出る…?』

響歌と雪乃はほぼ同時に聞いた。


吉田のニヤけ顔を察した雪乃が更に訪ねる。


雪乃『もしかして…霊的なやつ?』


優斗『…あたり』

静かにつぶやくように答えた。

⏰:11/05/04 10:50 📱:T004 🆔:3WqBaJiw


#72 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『なにそれ〜ウケるね』

しかし雪乃は驚くそぶりを見せず、むしろ楽しげに言う。


響歌『雪乃…怖くないの?』


雪乃『ちょっと耳貸して』

雪乃が響歌の耳元で小声で言った。


雪乃『冗談だと思うよ。ここは一応ホラ、騙されたと思っとこうよ』

その言葉に響歌は内心ホッとした。

⏰:11/05/04 10:56 📱:T004 🆔:3WqBaJiw


#73 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『おい、何話してんだよ〜』


雪乃『なんでもないよ。明日楽しみだねって話ししてたの』


優斗『2人共、霊が出てもチビるなよ!』


こうして明日からの3日間…響歌、吉田、雪乃の旅路が始まる。


この時の3人は、この3日間が地獄の旅路になるとは誰も予想などしていなかった―

⏰:11/05/04 11:03 📱:T004 🆔:3WqBaJiw


#74 [輪廻◆j6ceQ96kak]
翌日―


朝5時。

起床した響歌は早速準備に取りかかる。


昨夜吉田から連絡があり、明日の7時に吉田の車で迎えに来るという事を伝えられた。


泊まる旅館は車で片道5時間はかかる山中にあるという。


それだけでも充分霊が出そうな雰囲気だと感じた響歌。

⏰:11/05/04 11:13 📱:T004 🆔:3WqBaJiw


#75 [輪廻◆j6ceQ96kak]
昨日の雪乃の『冗談』という言葉を信じてその日は通話を終えた。


響歌『あ〜ん…服が決まらない』

女性はそういった身支度に時間がかかる。


お洒落街道まっしぐらの響歌もその1人だ。


響歌『なにやってんだろ私。人のいなさそうな山の中に行くのに服なんかにこだわっちゃって…』

現実に引き戻された響歌は、適当に動きやすそうな服をチョイスした。

⏰:11/05/04 11:19 📱:T004 🆔:3WqBaJiw


#76 [輪廻◆j6ceQ96kak]
結果…

上は黄色いTシャツにピンク色のパーカー。

下は丈の短いジーンズというシンプルなものになった。


洗顔などを含め、ここまでに時間は1時間以上も経過していた。


時計の針は早くも午前6時20分を指した。


響歌は最終的な準備に取りかかる。

⏰:11/05/04 11:27 📱:T004 🆔:3WqBaJiw


#77 [輪廻◆j6ceQ96kak]
大きめのバッグから3日分の荷物の整理。


着替えや生理用品などを細かく確認しながらバッグに入れていく。


響歌『こんなもんでいっか』


チェックが終わり、バッグを玄関に置く。


あとは吉田と雪乃が迎えに来るだけだ。

⏰:11/05/05 15:52 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#78 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『まだ時間あるしゴミでも捨ててくるかな』


脱衣場に向かい、2日分ほどたまったゴミ袋を手にして部屋を出た。


ゴミ捨て場には見慣れた顔の人が。


響歌の部屋の隣人である武田だ。


彼女はほうきを手にして掃除中のようだった。

⏰:11/05/05 15:57 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#79 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌はゆっくり近づいて声をかけた。


響歌『武田さん、おはようございます!』


武田『あら村井さん。おはよう、早いんだね』


響歌『はい。実は今日から3日間泊まりに行くんです』


武田『そうなの? いいわね、羨ましいわ』

ほがらかに笑いながら言った。

⏰:11/05/05 16:02 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#80 [輪廻◆j6ceQ96kak]
武田『どこに泊まるの?』


響歌『ええと…確か池崎旅館っていう所だったと思います』


武田『…池崎…旅館か。楽しんできてね』


響歌『ありがとうございます!』

軽く一礼し、ゴミをゆっくり置いてから部屋に戻った。


いつもは乱暴に投げているが、この時は武田が見ているためにゆっくり置いた。

⏰:11/05/05 16:07 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#81 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しばらくして響歌の携帯電話が鳴った。


響歌『吉田さんだ』

慌てて通話ボタンを押して電話に出る。


吉田『村井? もう着くから家の前で待ってて』


響歌『わかりました』

通話を切り、玄関に置いたバッグを手にして早々と部屋を出た。

⏰:11/05/05 16:12 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#82 [輪廻◆j6ceQ96kak]
外に出て1分もしない内にアパートの前に白い車がやってきた。


雪乃『響歌、おはよー。乗って乗って!』

助手席から雪乃が顔を覗かせて言った。


響歌『うん』

乗ろうとした際、掃除中の武田が近づいてきた。

⏰:11/05/05 16:17 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#83 [輪廻◆j6ceQ96kak]
武田『村井さん、どうか気をつけてね』


響歌『……はい?』

何を気をつけろというのかと聞き返したくなったが、背後で吉田が早く乗れと言ってくるので、何も言わずに早々と車に乗り込んだ。


武田『後悔しなさんな』

武田はそうポツリとつぶやいて、走り行く車を見えなくなるまでただ見ていた。

⏰:11/05/05 16:22 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#84 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『今のババア誰?』


響歌『あ、隣の部屋に住んでる武田さんです』


雪乃『さっきなんて言ってたの?』


響歌『確か…気をつけてって言ってたような…』


雪乃『あ〜優斗の運転荒いからね』

クスっと笑いながら雪乃が言う。

⏰:11/05/05 16:29 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#85 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『うっせーよ。大体あのババア俺の運転の仕方知らねーじゃん?』

それもそうだ。

ならば何に気をつけろと言っていたのだろうと響歌は疑問を感じていた。


雪乃『あ、山の中だからさ〜熊とかに気をつけろって事じゃないかな?』


優斗『なるほどな。それなら納得だぜ』


響歌『そうだよね?』

少し安心した響歌はホッと胸をなで下ろす。

⏰:11/05/05 16:34 📱:T004 🆔:YT9SDRIA


#86 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『そういえばさ、池崎旅館だっけ? あんま人来ない所だってネットで見たんだけどホント?』


優斗『らしいな。でも人少ない方が気楽でいっしょ』


雪乃『私達だけだったりして〜?』

雪乃と吉田2人してケラケラ笑う。

響歌だけは苦笑いだった。

⏰:11/05/06 11:26 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#87 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『なあなあ、もし俺達だけだったら夜肝試しとかやらねえ?』


雪乃『肝試し? 面白そうじゃん。ね、響歌?』

突然振られた響歌は戸惑った。


響歌『でも危なくないですか?』

運転席のミラー越に映る吉田の顔を見て言う。

⏰:11/05/06 11:32 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#88 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『3人で行動すれば大丈夫だって! なんかあったら守ってやるからよ』


雪乃『そりゃ頼もしいね。でもこういうのって意外と女の方が強かったりするんだよね』


優斗『お前を見りゃ霊も驚いて消えるか!』


雪乃『それどういう意味さぁ!』

カップルの会話が始まってしまった。

肩身の狭くなった響歌は窓から外の景色を見ながら2人の会話を聞き流した。

⏰:11/05/06 11:37 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#89 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それから数時間後、車は山の中へと入った。


雪乃『なんか暗くない? まだ10時なのに』


優斗『おもしれ〜じゃん。なんか出そうだな』

山の中は自然で静かな空気だが、木々が何かを訴えるようにざわついていて、なんとも不気味だ。

⏰:11/05/06 11:45 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#90 [輪廻◆j6ceQ96kak]
何分か置きに別の車とすれ違いながらも、車は奥へ奥へと進んで行く。


雪乃『眠たくなってきちゃった…ちょっと寝るね』


優斗『…ああ。村井は? 眠たいなら寝ていいよ』


響歌『私は大丈夫です』

せっかくの遠出。

車の窓から見る景色が好きな響歌はじっと窓辺に顔を近づけて外を見る。

⏰:11/05/06 11:52 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#91 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『じゃあ着いたら起こして。おやすみ〜!』


雪乃が眠りについてから、車内は驚くほどの沈黙に支配された。


優斗『音楽でもかけっか!』

沈黙は苦なのか、吉田は前を見ながら片手でカセットテープを手探りで探し、それを見つけるとセットし再生ボタンを押した。

⏰:11/05/06 11:57 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#92 [輪廻◆j6ceQ96kak]
吉田の好きそうなロックの歌が車内に流れる。


山の中には不釣り合いな曲だな、と響歌は少々ガッカリしていた。


その曲がサビに入ろとした瞬間だった。


『ザザザザザザザザザ…』

カセットテープが壊れたのか、男性の声は一瞬にしてノイズのような音に変わった。

⏰:11/05/06 12:00 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#93 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『あ? なんだこりゃ』


しばらく聞き流していると…


『ザザッ…ココデ……ワタシハ…ザザザザザ』


優斗『なんだ? この曲にそんな歌詞ないぜ?』

吉田は独り言のように自分に問いかける。

⏰:11/05/06 12:04 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#94 [輪廻◆j6ceQ96kak]
ここで響歌が何かに気づき、問いかける。


響歌『あの…この曲って男性だけで歌ってるんですか?』


優斗『ああ。それがどうかした?』


響歌『今の声…女の人でしたよ?』


優斗『…マジ?』

吉田はミラー越に響歌の顔を見て、響歌も吉田と目を見合わせた。

⏰:11/05/06 12:08 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#95 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『気味悪ィな』

手探りで停止ボタンを押す。

しかし反応がない。


優斗『ちょっと車止めるぞ』

山の中は険しくなってきていて他の車が来なくなった為に車を一旦停止した。


改めてテープの停止ボタンを連打するものの、全くノイズは止まらない。

⏰:11/05/06 12:12 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#96 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そこで、止まっている車に気がついたのか雪乃が目を覚ました。


雪乃『あれ、もう着いたの?』


優斗『これ聞こえるか? さっきから鳴りっぱなしなんだよ。停止押しても反応ねえし』

少しイライラモードの吉田。


それを悟った雪乃は冷静に言った。


雪乃『一回エンジン切ればいいんじゃない?』

⏰:11/05/06 12:17 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#97 [輪廻◆j6ceQ96kak]
優斗『あ、そっか』


雪乃『しっかりしてよ〜。もう着いたのかと思ったし。せっかくいい夢見てたのにな』


優斗『起こして悪ィな』

そう言ってエンジンを切ると同時に音はピタリと止んだ。


優斗『よし、じゃあ気を取り直して行くか!』

再びエンジンを入れ、車を急発進させた。

⏰:11/05/06 12:20 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#98 [輪廻◆j6ceQ96kak]
30分後、山の中を進むにつれて霧が発生してきていた。


響歌はいつの間にか眠りについている。


雪乃『霧出てきたね…』


優斗『こんくらい大丈夫だって。それよりもうそろそろ着くから村井起こして』


雪乃『響歌! 着くぞ〜!』

雪乃のバカでかい声で響歌はパッと驚いたように起きた。

⏰:11/05/06 12:28 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#99 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あ…寝てた…?』


優斗『もう着くぜい!』

やがて近くに茶色い建物が見えてきた。

外観はお世辞にもよいとは言えない木造の造りだ。


雪乃『もしかしてあれ? なんか古臭いね〜』


優斗『安いからいいじゃん。なんか出そうだし』

吉田は何かとそればかりを繰り返す。

⏰:11/05/06 12:33 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#100 [輪廻◆j6ceQ96kak]
建物が完全に見えて来た所で車を停止した。


見れば見るほど古臭い外観に、響歌は不気味とさえ思っていた。


優斗『行くぞ』

吉田に続いて雪乃が歩き出し、響歌もそれに続いた。


戸は痛んでいるらしく、開けるとミシミシと音が響く。

⏰:11/05/06 12:41 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#101 [輪廻◆j6ceQ96kak]
小さい外観と打って違って玄関は広いものであった。


優斗『すいませ〜ん!』

吉田が大声で言うと、しばらくして1人の着物を着た女将が姿を現した。


年齢は50代前半くらいだろうか、くたびれた感じの顔をしている。

⏰:11/05/06 12:44 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#102 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『ようこそいらっしゃいました。私、ここの旅館を切り盛りさせて頂いている池崎吉美と申します。本日は遠い所をわざわざお越し頂きましてありがとうございます』

女将、池崎は礼儀正しく挨拶をした。


優斗『昨日電話した吉田ですけど』


池崎『吉田様ですね、昨日はお電話ありがとうございます。お部屋は開いておりますので案内します。どうか私の後にお続きください』

⏰:11/05/06 12:50 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#103 [輪廻◆j6ceQ96kak]
3人は言われた通りに女将の後に続いた。


歩く度にミシミシと軋む長い廊下を歩く。


池崎『こちらのお部屋になります。何かあれば、なんなりとお申し付けくださいませ』


そこは鬼の間と書かれている部屋。


不吉な名前だと思いながらも3人は部屋の中に。

⏰:11/05/06 12:56 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#104 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『結構綺麗な部屋じゃん』


池崎『恐縮でございます。昼食の前にお風呂に浸かってみては?』


優斗『こんなとこに風呂とかあんの?』


雪乃『ちょっと優斗。こんなところって失礼だよ』


池崎『この廊下を突き当たりに進んでいただくと男湯、女湯と書かれたお風呂がございますので』

女将は一切表情を変えずに言い切った。

⏰:11/05/06 13:02 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#105 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『では私はこれで。昼食はご用意しておきますので、ゆっくりお湯に浸かってくださいませ』

座りながら大きくお辞儀をし、立ち上がった女将は早々と戻って行った。


優斗『じゃあ風呂行ってくるわ』


雪乃『響歌は? 一緒に入らない?』


響歌『そうだね、入ろうか』

みんなそれぞれ荷物からバスタオルなどを取り出し、お風呂へ向かった。

⏰:11/05/06 13:09 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#106 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『うわ〜響歌見て! お風呂も広いよ!』

雪乃は大きな浴室を見てはしゃぐようにして言う。


響歌『確かに広いね。建物はちっちゃく感じたのに』


雪乃『もう! そういう話はやめようよ〜。ここは細かい事気にしないで純粋に楽しもう?』


響歌『そうだね、ごめんごめん』

こうして、まるで貸切にでもなったような誰もいない湯船に浸かった。

⏰:11/05/06 13:15 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#107 [輪廻◆j6ceQ96kak]
風呂から戻ると、部屋には豪勢な昼食が用意されていた。


野菜から魚介類まで様々なジャンルの料理に響歌達は絶賛。


雪乃『なにこれすごいね!』


響歌『旅館といえば料理だよね』

その料理に興奮している2人だが、ふと雪乃が吉田がまだ戻っていない事に気がつく。

⏰:11/05/09 12:26 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#108 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『そういえば優斗まだお風呂入ってるのかな…』


響歌『確かに…。もう上がってるかと思ったよ』


雪乃『ちょっと見てくるね』


響歌『いってらっしゃい』

着物姿の雪乃は部屋を出て行った。

響歌は改めて料理を凝視しながら座椅子に座る。

⏰:11/05/09 12:30 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#109 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そして、ちょっとつまみ食いをしようと野菜料理に添えられたミニトマトに手を伸ばした瞬間だった。


雪乃『いやあああああ!!』

お風呂場の方から雪乃の今まで聞いた事のないような絶叫が。


響歌『雪乃!?』

伸ばした手を引っ込め、響歌はすぐに声のする方へ向かった。

⏰:11/05/09 12:36 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#110 [輪廻◆j6ceQ96kak]
廊下へ出た時、ちょうど同じく悲鳴を聞きつけたであろう女将の池崎と鉢合わせた。


池崎『今の声はなに事でいらっしゃいますか?』


響歌『わかりません。お風呂の方から…』

2人は顔を見合わせ、雪乃が向かった男湯へ。

⏰:11/05/09 12:42 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#111 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男湯の脱衣場を見ると、座り込む雪乃がいた。


池崎『お客様…どうかなされましたか?』

女将の声に気づいた雪乃はゆっくり振り向いて、風呂場の方を指さした。


その方向に2人が目をやると、奥に真っ赤な何かが見える。

⏰:11/05/09 12:54 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#112 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『え…?』

その赤いものが何なのか、響歌にはすぐわかった。


響歌『血…?』


池崎『なんでございますって!?』

女将は一瞬腰を抜かしそうになったが、何かに気づいたように体制を戻し…

そして一言つぶやいた。


池崎『まさか…狼鬼様が…?』

⏰:11/05/09 12:58 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#113 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『狼鬼? それって何ですか…?』

恐る恐る響歌が聞くと、女将は震えながら答えた。


池崎『狼鬼様は…この山に言い伝えのある神様です…』


響歌『…神様?』


池崎『私は見た事がありません。しかし言い伝えによると、その狼鬼様は狼の顔で鬼のような形相をした、山を守る神様だと言われています』

⏰:11/05/09 13:05 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#114 [輪廻◆j6ceQ96kak]
吉田が聞いたら、嘘だと言ってバカにするような話だ。


しかし女将の震えた体と表情からは嘘とは感じられない。


響歌『とにかく! その話しは後で聞かせてください。女将さんはお風呂場の様子をお願いします。私は雪乃を部屋に連れて行きます!』


池崎『か、かしこまりました!』

響歌は床に崩れ落ちた雪乃の肩に手をやり、ゆっくりと立たせた。

⏰:11/05/09 13:11 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#115 [輪廻◆j6ceQ96kak]
部屋の料理はすっかり冷めていた。


雪乃を座椅子に座わらせ、響歌はその隣に座る。


響歌『…雪乃。一体何があったの?』


雪乃『…………』

よっぽど信じられない光景を見たのだろうか、雪乃の響歌を見る目は焦点が合っていない。

⏰:11/05/09 13:15 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#116 [我輩は匿名である]
つづきよみたい

⏰:11/05/10 18:28 📱:SH706iw 🆔:Ca8bmaZw


#117 [輪廻◆j6ceQ96kak]
>>116

ありがとうございますm(_ _)m

少しですが更新します。

⏰:11/05/10 23:40 📱:T004 🆔:HiXM/dJ.


#118 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『吉田さんは…?』


雪乃『ゆ、優斗が…』


響歌『どうしたの…?』

尋常ではない雪乃の表情。

この先を聞くのが怖かったが、響歌は問いただす。


雪乃『血まみれで…倒れてた…』


響歌『他に誰かいなかったの?』

ここまで言うと、雪乃の首がカクンと下がり響歌の問いに答える間もなく気を失った―

⏰:11/05/10 23:46 📱:T004 🆔:HiXM/dJ.


#119 [輪廻◆j6ceQ96kak]
気絶した雪乃をその場に寝かせると、奥からバタバタと足音が。


女将の池崎は響歌達の部屋に入るなり大声で叫ぶように言った。


池崎『大変でございます! 吉田様が浴場からいなくなられているんです!』


響歌『どういう事ですか!』

パニック寸前の女将に対して冷静に問う響歌。

⏰:11/05/10 23:52 📱:T004 🆔:HiXM/dJ.


#120 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『よ、浴室は血まみれで…吉田様の姿はありませんでした…。ああ、まさか狼鬼様の仕業…』


響歌『わ、私はそういうのは信じないんですけど…』


池崎『狼鬼様は汚れた心を持った者を襲います。そして身体を一つ残らず噛み砕いて食べると言われています…。もし吉田様が狼鬼様に食べられてしまったとしたら…あああ』

⏰:11/05/11 00:01 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#121 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌にとっては空想のような話だが、女将は狼鬼というものの存在をまるで信じているかのようだ。


池崎『ああ狼鬼様…』


響歌『とにかく警察を呼んだ方がいいと思います!』


池崎『…それは私にはできません』

響歌の一言で女将の顔色が元に戻った。

⏰:11/05/11 00:08 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#122 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『どうしてですか!』


池崎『狼鬼様はこの山の神様なのです! 神様を警察の前に突き出すなんて…』


響歌『(なにこの人…)』

初めて会った時から不思議な雰囲気の人だとは感じていたが、狼鬼という言葉が出てきてからの女将はまるで別人だ。

⏰:11/05/11 00:11 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#123 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『じゃ、じゃあ雪乃が起きたら…私達帰ります!』

このままここにいたら何か嫌な事が起きそうな予感がし、帰る事を決めた響歌。


池崎『それはいけません。狼鬼様は神様とはいえ、心の汚れた人間を食べるのです。もし道中で出会ってしまったらどうなさるのですか?』

この女将の言葉は、まるで響歌らを心が汚い人間だと決めつけているかのようだった。

⏰:11/05/11 00:20 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#124 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『それに、吉田様は3日間こちらに泊まられると仰いました。私には3日間あなた方をおもてなしする責任があるのです』


響歌『(意味わかんない…。とにかくここから逃げないと…!)』


池崎『それでは私は浴場の血の後片付けを…。失礼します』

女将が部屋を出て浴場の方へ向かったのを確認した響歌は、すぐに着ていた浴衣を脱いで私服に着替えた。

雪乃を起こして逃げる為だ。

⏰:11/05/11 00:26 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#125 [輪廻◆j6ceQ96kak]
自分の身支度を完了させ、雪乃の荷物もまとめた。


吉田のバッグは隅っこに寂しく置かれている。


響歌『雪乃! 雪乃!』

雪乃の体を激しく揺らす。

反応はない。

口元に耳を近づけて呼吸を確認する。

息はちゃんとしている事に安心したが、それ以上にここにいる事が不安で仕方がない。

⏰:11/05/11 00:30 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#126 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃は大切な友達の一人だ。

一瞬だけ、一人でも逃げようという考えが浮かんだ自分を恨みたくなった。


部屋の障子をそっと開け、奥を確認する。


浴場からはなぜか女将の陽気な鼻歌が聞こえた。


それに背筋が凍った響歌は、なんとしても逃げなくてはと思い雪乃の身体を更に激しく揺らす。

⏰:11/05/11 00:36 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#127 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『雪乃…起きてよ!』

まるで睡眠薬でも飲んで深い眠りに入っているかのように、何度起こしても全く反応がない。


やがて廊下から足音。


血の後始末が終わったのか、まだ鼻歌を続けながら歩いている。


そして響歌達の部屋の前で足音と鼻歌はピタリと止んだ。

⏰:11/05/11 00:50 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#128 [輪廻◆j6ceQ96kak]
障子がスーッと開いて、女将が顔を覗かせた。


その表情はニヤリとしていて不気味にも思える。


ふと女将の口元に目をやると、何やら赤いものが付着していた。


響歌にはそれが何なのかわかるのに時間はかからなかった。


響歌『あ、あの…それって…』

震えた手で女将の口元を指さす。

⏰:11/05/11 00:54 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#129 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『ああこれですか? 言いましたでしょう? 血の後片付けをする、と…』

そうニヤリ顔で言い放つ女将に響歌は恐怖を覚えた。


体が震える。


視線を反らそうとするが、なぜか視線は女将の顔に固定されて動かない。


何者かに操られているかのごとく、自分の意思が働かなくなっていた。

⏰:11/05/11 01:00 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#130 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その状態が3分くらい続き、突然催眠術にかけられたような感覚に陥った響歌は、目を見開いたままその場に倒れ込んだ。


響歌『(私…死んじゃうの…?)』

心の中でそう自分に問いかけながら…。

何度も…何度も…。


やがて意識は完全に消えていった―

⏰:11/05/11 01:07 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#131 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『……歌! 響歌!』

聞き覚えのある声。

ゆっくりと目を開ける。


響歌『雪…乃…』

まだ状況が把握できない。

意識がハッキリしてくるにつれて、頭痛がしてきた。


響歌『私…どうしたの?』

辺りを見回す。

そこは気絶する前と変わらない池崎旅館の鬼の間。

⏰:11/05/11 01:29 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#132 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『私が起きたら、響歌が倒れてたから…。びっくりさせないでよ』


響歌『ちょっと、びっくりしたのはこっちだよ…。いきなり気絶するんだもん』


雪乃『心配かけてごめんね』


響歌『そういえば…お風呂場で何見たの?』

響歌が唐突に聞くと、雪乃は唾をゴクリと飲んでから口を開いた。

⏰:11/05/11 01:32 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#133 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『私、優斗の姿は見てないの…。浴場を覗いたら床に血が沢山あって…。私、何が何だかわからなくなって叫び声をあげたの』


響歌『私と女将さんが行った時だよね?』


雪乃『うん…。あ、そういえばその女将さんは? 池崎さん』

響歌は雪乃が気絶している間の出来事を話した。

⏰:11/05/11 01:39 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#134 [輪廻◆j6ceQ96kak]
信じてもらえる自信はなかったが、雪乃は黙って響歌の話に耳を傾けていた。


雪乃『信じられないけど…私は響歌の言うことは信じるよ』


響歌『ありがとう。とにかく、早くここから逃げようよ』


雪乃『そうだね。途中で車見つけて乗せてもらおうよ』

こうして2人は気味の悪いこの旅館からの帰還を決意。


時計の針は午後3時を指した所だった。

⏰:11/05/11 01:47 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#135 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『帰る前にちょっと待ってて。あの女将さんがどこにいるか見てくるから』


雪乃『…気をつけてね』

雪乃を残して長い廊下へ出る。

まだ午後の3時だというのに廊下はやけに薄暗い。


女将の気配はない。


忍び足でゆっくりと歩く。


そこに“狼の間”と書かれた部屋が目に入った。

⏰:11/05/11 01:52 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#136 [輪廻◆j6ceQ96kak]
障子を開ける前に、すぐ人がいる気配に気づいて一旦引き返した。


雪乃『どうだった?』


響歌『すぐそこの部屋に誰かいる…。今出て行ったら気づかれちゃうかも…』


雪乃『そっか…。もう少し様子見る?』

慌てる事はない、という事で少しの間この部屋で待機する事になった。

⏰:11/05/11 01:56 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#137 [輪廻◆j6ceQ96kak]
沈黙の中、2人のいじる携帯電話のカチカチという音だけが響く。


そこで雪乃が何かにひらめいたように立ち上がった。


雪乃『そうだよ…携帯で警察呼べばいいんじゃない?』


響歌『ダメ…画面よく見てよ』

携帯電話のディスプレイの左上には“圏外”という文字。


人里離れた山の中だから仕方がない。

⏰:11/05/11 17:06 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#138 [輪廻◆j6ceQ96kak]
圏外の表示を見た雪乃は力が抜けたように再び座り込んだ。


雪乃『もうこんなとこやだ…』


響歌『本当に吉田さんは狼鬼ってやつに食べられちゃったのかな…?』

改めて聞いてみる。


雪乃『私が見た時にはもうどこにもいなかったし…本当なんじゃない…?』

大事だった彼氏が死んだというのに雪乃の表情からは悲しみに明け暮れているという様子はない。

⏰:11/05/11 17:08 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#139 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『雪乃、一つ聞いてもいい? 大切な彼氏がいなくなったのに、なんでそんなに寂しそうじゃないの?』

雪乃の態度に違和感を覚えた響歌は思い切って訪ねた。


雪乃『…寂しいよ。でも、今は悲しくて泣きたいっていうよりは…さっきの響歌の話を聞いて怖いっていう気持ちの方が強いの』


響歌『そ…そうだよね。変なこと聞いてごめん』

やっぱりいつもの雪乃だと安心した。

⏰:11/05/11 17:10 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#140 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『響歌だって…敬太くんが死んだ時、怖くならなかった?』


響歌『…うん、怖かった』

それからしばらくはどちらも口を開かなかった。


響歌は部屋の隅で体育座りをし、雪乃は圏外で繋がりもしない携帯電話を落ち着きなくいじっている。

⏰:11/05/11 17:11 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#141 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ガラガラ…ピシャリ』

しばらくして狼の間の戸が開いた音がし、足音が廊下を歩いて行った。


響歌『ちょっと隣の部屋見てくるね』


雪乃『ちょっと響歌…』

そっと戸を開けて廊下へ出る。

女将の気配はない。

⏰:11/05/16 18:43 📱:SH001 🆔:9mqGtq4o


#142 [輪廻◆j6ceQ96kak]
狼の間の戸をゆっくりと開けて響歌一人で中に入る。


響歌『…ひっ!』

部屋を見て響歌は驚愕した。


敷かれている白い布団には、白を彩るかのような大量の血。


そしてその布団に寝かされているのは人間のようだが、人間としての原型を留めてはいない。

⏰:11/05/16 18:51 📱:SH001 🆔:9mqGtq4o


#143 [輪廻◆j6ceQ96kak]
まるで何かに引き裂かれたかのように、皮膚が所々剥き出しになっている。


その光景に、響歌は思わずその場に座り込んで後ずさりをする。


異変に気づいたのか、隣の部屋から雪乃が駆け付けてきた。


雪乃『響歌? …え!?』

布団のものを見た雪乃も思わず絶句する。

⏰:11/05/16 19:08 📱:SH001 🆔:9mqGtq4o


#144 [輪廻◆j6ceQ96kak]
部屋中は生臭い異臭を放っている。


雪乃『響歌…。は、早く逃げよう?』

震えた声で床に座り込む響歌の肩に手をやる。


雪乃『響歌! 早く!』


響歌『…………』

響歌は残虐な光景を見たショックで放心状態になっていた。

⏰:11/05/19 08:10 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#145 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『ここで何をしている!』

突然、雪乃の背後から今までの女将のものとは異なる声がした。


まるで低い声の男と女の声が混じり合っているような奇声。


振り返ると片手に血まみれの包丁を持った女将、池崎の姿。


そのあまりにもおぞましい女将の姿を見た雪乃も床に座り込む。

⏰:11/05/19 08:18 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#146 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『ご…ごめんなさいごめんなさい!』

後ずさりしながら必死に謝る雪乃に詰め寄る女将。


池崎『ふふふ…』

薄ら笑いを浮かべながらまるで、殺して欲しい?と問いかけるような目で雪乃に一歩一歩近づいていく。


異臭を放った布団の上のそれを避けていくと、とうとう逃げ場のない壁に追い込まれた。

⏰:11/05/19 08:23 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#147 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『やめて…』

夢であって欲しい。

心の中でそう何度も自分に言い聞かせる。


目をつむって何度も何度も。


…………。


…………。


…………。


ゆっくりと目をあける。

⏰:11/05/19 08:36 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#148 [輪廻◆j6ceQ96kak]
辺りを見回す。


敷いてある布団に目をやると血は残っていたものの、あの物体は跡形もなく消えていた。


そのすぐそばに気絶した響歌の姿。


雪乃『響歌!』

身体を大きく揺らす。


響歌『……ううん』


雪乃『響歌! しっかりして!』

目を開きそうな響歌の身体をゆっくり起こす。

⏰:11/05/19 08:41 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#149 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『…雪乃』


雪乃『そう、雪乃だよ! よかった…』


響歌『…泣いてるの?』


雪乃『心配したんだから』


響歌『…ごめん』

2人は立ち上がった。

⏰:11/05/19 08:45 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#150 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あの女将さんは…?』


雪乃『わからない…。気づいたらいなくなってた』


響歌『今の内に早く帰ろう…?』

人の気配のない廊下へ出る。


2人がふと足元を見ると、血が玄関へ向かって垂れていっているのが目に入った。

⏰:11/05/19 08:49 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#151 [我輩は匿名である]
血を目で追っていた先にある玄関の戸が開いている。


響歌はすぐに状況を察知できた。


響歌『あの人、ここから外にあれを捨てに行ったんじゃない?』


雪乃『気味の悪い事言わないでよ…』


響歌『ねえ…帰る準備ができたら、あの女将さんが何してるか見に行かない?』

⏰:11/05/21 00:28 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#152 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌の言葉に、雪乃は顔をしかめた。


雪乃『やめようよ。見つかったら何されるかわからないよ』


響歌『大丈夫。こっそり…ね?』


雪乃『…………』

響歌の表情はさっきまでとは違い好奇心に満ち溢れていた。

⏰:11/05/21 01:12 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#153 [輪廻◆j6ceQ96kak]
鬼の間に戻り、荷物をまとめた2人は立ち去るように旅館の外へ出た。


外に垂れている血を目印に響歌はゆっくりと歩いていく。


雪乃は不安な顔をしつつも、それに続いた。


そして―


雪乃『ねえ…何か煙臭くない?』


響歌『うん…それに臭い』

かすかな煙の匂いと、鼻にツンとくる異臭がする。

⏰:11/05/21 09:00 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#154 [輪廻◆j6ceQ96kak]
匂いを辿っていくと、裏庭らしき所に女将の姿があった。


すぐそばには大きな古びた焼却炉。


煙と異臭はその焼却炉から出ているようだ。


2人は木の影から息を殺して女将の行動を見る事にした。


女将は鼻歌を歌いながら地面にしゃがみ込んで何かをしている。

⏰:11/05/21 09:24 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#155 [輪廻◆j6ceQ96kak]
やがて立ち上がり、2人の気配に気づいたのか後ろを振り返った。


手には血まみれの包丁。


そして女将の顔に視線をやると、その顔はまるで肉を食い漁った獣のようで、血走った目で口元には大量の血。


響歌『うっ!』

あまりの光景に吐き気がしてきた響歌。

⏰:11/05/23 12:49 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#156 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『大丈夫?』


響歌『は、早く行こう!』

逃げようと木からそっと離れる。


それとほぼ同時だった―


2人に気づいた女将が、突然2人に向かって走り出してきたのだ。


響歌『きゃあああ!』


雪乃『早く!』

雪乃が響歌の腕を素早く掴み、逆方向へと走る。

⏰:11/05/23 12:55 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#157 [輪廻◆j6ceQ96kak]
どこまで走ったのかわからなくなるほど、とにかく前へ前へと走る。


捕まったら殺される―


それだけを考えながらとにかく走る。


しばらく走って、後ろから追ってくる気配はなかったが決して一度も後ろを振り返らなかった。

⏰:11/05/23 13:02 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#158 [輪廻◆j6ceQ96kak]
気づくと山の中に座り込んでいた。


雪乃『はあ…はあ…』


響歌『はあ…はあ…』

2人は無我夢中で走った為に息切れ状態になりつつある。


女将の気配はすでになく、山の中は小鳥のさえずりだけが聞こえていた。


雪乃『結構深い所まで来ちゃったね…』


響歌『私達、帰れるのかな…』

辺りはすでに夕暮れ時。

木はまるで唸るように、風によってざわざわと音をたてて動いている。

⏰:11/05/23 15:05 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#159 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌はバッグから携帯電話を取り出した。


圏外―


その表示がある限り、助けを求める事はできない。


響歌『どうするの? これから』


雪乃『わからないけど…とにかく歩いてみよう』

2人はあてもなく山中を歩き始めた。

⏰:11/05/23 15:11 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#160 [輪廻◆j6ceQ96kak]
沈黙の中、ザクザクと歩く音が響く。


東西南北のどの方向に進んでいるのかもわからずに歩く。


歩いて行けば、じきに携帯電話が繋がる範囲の場所にたどり着けると信じながら。


響歌は携帯電話のディスプレイをちらちらと見ながら圏外の文字が消えるのを待った。

⏰:11/05/23 15:16 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#161 [輪廻◆j6ceQ96kak]
歩いて歩いて…


10分…。


20分…。


30分…。


ディスプレイには相変わらず圏外の文字。


時間は夜の19時を指した所だ。


体力に限界が来たのか、雪乃はその場に座り込んでしまった。

⏰:11/05/23 15:25 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#162 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『もうだめ…無理』


響歌『雪乃、大丈夫?』


雪乃『このまま飢え死になるのかな…』


響歌『何弱気になってるの。さっき逃げる時私を引っ張ってくれたじゃん。嬉しかったんだからね』


雪乃『響歌…』


響歌『頑張ろうよ。こんな山の中で夜を過ごすなんて危なすぎるよ』

⏰:11/05/23 15:29 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#163 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『そうだよね…。行こうか』


響歌『うん!』

雪乃はゆっくり立ち上がり、2人は再び歩き出す。


それから30分くらい歩いた所で、辺りはすでに暗い闇に包まれようとしていた。


その中で響歌の携帯電話の光だけが小さく浮かび上がる。

⏰:11/05/23 15:37 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#164 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『なんか同じ所をずっと歩いてるみたいだよね…』


響歌『そんな事ないよ。山の中だし』


お互いの顔は携帯電話の光がなければ完全に見えない状態だった。


雪乃『そういえばさ…あの部屋にあったやつ何だったんだろうね?』


響歌『何かの死体…みたいだったよ。まさかとは思うけど…吉田さん?』

⏰:11/05/23 15:44 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#165 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『優斗…』


響歌『あ、ごめん…なんか変な事聞いちゃったね』


雪乃『ううん、いいの』

会話はここで途切れ、しばしの沈黙が訪れた。


その沈黙を破ったのは匂いだ。

⏰:11/05/23 15:48 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#166 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『ねえ…この匂い…』

それは嗅ぎ覚えのある匂いだった。


それは、あの旅館の狼の間に漂った血なまぐさい異臭だ。


響歌『うっ!』

あまりの異臭に鼻をグッとつまんだ。


その異臭は2人の至近距離から放たれている。


しかし暗闇なので、どこに何があるのかハッキリと見る事はできない。

⏰:11/05/23 15:54 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#167 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『雪乃…?』

携帯電話の小さな光を辺りにちらす。


一瞬、光の先に何かの物体が見えた。


再び光を当てて確認する。


そこには黒くて焦げたような何かがあった。


異臭はその物体からしている事がわかった響歌は、思わずその場から後ずさりする。

⏰:11/05/23 15:59 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#168 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『わっ!』


響歌『きゃっ!』

背後から雪乃が響歌の肩を掴んで驚かす。


驚いた響歌はその場にしりもちをつくようにして座り込んだ。


雪乃『ごめんごめん!』


響歌『もう! こんな時に…!』


雪乃『ごめんね。それよりこの匂いなんだろうね…』

⏰:11/05/24 22:19 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#169 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あそこに何かあるよ…黒いのが…』


雪乃『ちょっと携帯貸して』

雪乃は響歌の指差す方に携帯電話の光を当てながら歩き出す。


雪乃『うわっ! なにこれぇ…』


響歌『ね? なんだろう…』


雪乃『何かが焼けたような…臭い!』

あまりの異臭にその場からとっさに離れる雪乃。

⏰:11/05/24 22:25 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#170 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『大丈夫…?』


雪乃『な、なんとかね…』


響歌『もしかしてあれって…あの女将が焼却炉で焼いた何かの死体だったりして…』


雪乃『まさか…。旅館からすごい離れたとこに来ちゃったし、それはないんじゃない…』


響歌『そ、そうだよね…』

⏰:11/05/24 22:58 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#171 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『とにかく早く行こうよ!』


響歌『…うん』

2人は気を取り直して再び真っ暗闇な山の中を歩き出した。



時間はあっという間に過ぎていく。


圏外の表示は相変わらず消えない。


どこに進んでいるのかわからず、とにかく車道を目指して歩いた。

⏰:11/05/24 23:07 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#172 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しばらく歩くと、古びたお堂が姿を見せた。


小さな電気が灯っている。


雪乃『見て響歌! あそこ誰かいるかもよ』


人の気配は感じられないが、響歌は走っていく雪乃に続いてお堂内に足を踏み入れた。

⏰:11/06/07 22:56 📱:T004 🆔:UWAOdbyY


#173 [輪廻◆j6ceQ96kak]
中は異様にカビ臭く、湿気でいっぱいだ。


奥にはいくつかの仏像が並んでいる。


小さな明かりに浮かび上がるそれは2人にとって不気味な光景であった。


雪乃『ねえ、今日はここで過ごそうよ』


響歌『え? 大丈夫かな…』


雪乃『もう外は真っ暗だし、また明日行こうよ。さすがに疲れた…』

雪乃の言葉に一理ある。

⏰:11/06/08 10:07 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#174 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『そうだね。なんか気味悪いけど電気もあるし、まだマシかもね…』

2人は荷物を置いて、薄黒く汚れた床に腰をおろした。


雪乃『なんか寒いね…』


響歌『うん…私も思ってた。ここに入るまではなんともなかったのに』

部屋を見回す。

異様な雰囲気が漂う堂内。

長袖を着てても、冷たい風が中に入ってくるようだ。

⏰:11/06/08 10:15 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#175 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『…早く寝ようか』


雪乃『変な夢見そうで怖いけど仕方ないよね』


響歌『おやすみ』


雪乃『おやすみ』

こうして2人は床に寝転がり、深い眠りについた。

⏰:11/06/08 10:25 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#176 [輪廻◆j6ceQ96kak]
2日目の朝がきた。


できれば夢であって欲しいと願っていた響歌だが、目を覚まして辺りを見て夢ではない事を改めて実感する。


外からは清々しい日の光と、小鳥の囀りが聞こえる。


響歌『ふわぁ〜』

そのほんわかした空気は、大きな欠伸が出るほどだ。

⏰:11/06/08 23:00 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#177 [輪廻◆j6ceQ96kak]
昨日までの出来事がまるで嘘のようにも思えた。


雪乃の方に目をやる。


まだ眠っているようだ。


携帯のディスプレイを見る。


時間は朝の7時35分。


電波は相変わらず“圏外”のままだ。

⏰:11/06/08 23:04 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#178 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌は寝ている雪乃を残して一人で外に出た。


澄んだ空気に包まれた山の中で大きく深呼吸をする。


響歌『頑張ろう!』

そして空に向かって大声で叫んだ。


響歌『…ふう』

スッキリした響歌は、そのままゆっくりと歩き出した。

⏰:11/06/08 23:09 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#179 [輪廻◆j6ceQ96kak]
お堂のある位置がわかるようにチラチラと振り返りながら朝の山中を散策。


期待はできないが、山登りなどをしている人がいるかもしれないと思ったからだ。


しかし期待はあっさりと裏切られた。


お堂から数キロ離れた所まで歩いてきたが、人の気配は全く感じられない。

⏰:11/06/08 23:18 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#180 [輪廻◆j6ceQ96kak]
仕方なくお堂まで戻ろうと思い反対に振り返って歩き出そうとした時だった。


背後から何かが歩いてくる気配がする。


さっきまで人の気配すらしなかったというのに、それは突然後ろから感じた。


間違いなく聞こえる。


ザクザク…と木の枝や落ち葉を踏む音と共に何かがやってくる。

⏰:11/06/08 23:25 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#181 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しかし、なぜか後ろを振り返ったはいけない気がした。


気配は響歌の方へと確実に近づいてくる。


足がすくんで体が思うように動かない。


まるで脚を何者かに強い力で掴まれているような感覚に陥った。


そしてそれは現実となる―

⏰:11/06/12 23:01 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#182 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ガッ!』


掴まれた感覚が残ったまま、響歌はゆっくりと自分の足元を見る。


池崎『ミツケタ…』

血まみれの女将が薄ら笑いを浮かべ、響歌を見上げて言った。


響歌『きゃっ!』

それは幻でもなんでもない。


現実だ。


とっさに逃げようとしたが、女将はものすごい強い力で響歌の脚を掴んでいて動けない。

⏰:11/06/12 23:08 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#183 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その拍子に響歌の身体は前に折れるようにして倒れ込んだ。


無我夢中で体を前に進めようとバタバタさせるが、女将の手の力は男性と同等のようであり、全くビクともしない。


響歌は手で女将の手を放そうと、腕をひっかいた。


放れるまでガリガリと必死に―

⏰:11/06/12 23:17 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#184 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ガリガリ』

女将の手の甲や腕をどれくらいひっかいただろう。


ふと見ると、女将の手と腕の皮膚が所々剥がれている。


普通であれば、こんなひっかき回されれば力が劣り響歌の脚から手が離れるはずだが、全くそんな様子はない。


それどころか、ますます力が強くなっているようだった。

⏰:11/06/12 23:25 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#185 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そして対する女将が反撃を始める。


響歌の脚の皮膚に長い爪を立て、ぎゅっと押しだした。


響歌『痛っ!』

ものすごい激痛が走る。


鋭く尖った爪はすぐに皮膚の肉に入った。


響歌『やめてェェ!!』

もはや恐怖心よりも痛みの方が強く、想像を絶する痛みに絶叫した。

⏰:11/06/12 23:36 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#186 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その絶叫と共に、気を失っていった―


…………。


…………。


雪乃『響歌! 響歌!』


響歌『………雪乃…』

雪乃の声がかすかに聞こえて目を開ける。


響歌『痛っ!』

同時に下半身に激しい痛み。


今にも再び気を失いそうだが、なんとか気力で起き上がった。

⏰:11/06/12 23:41 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#187 [輪廻◆j6ceQ96kak]
辺りは気を失う瞬間までいた森。

足元に目をやる。

そこにはくっきりと、掴まれた時のアザと深く刺さった女将の爪の傷痕が残っていた。


雪乃『…大丈夫?』


響歌『な、なんとか……痛っ!』


雪乃『手当てしないと…。鞄から包帯持ってくるから待ってて!』

そう言ってお堂の方へと走っていった。

⏰:11/06/12 23:47 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#188 [輪廻◆j6ceQ96kak]
数分して、鞄を手にした雪乃が戻ってきた。


雪乃『こんな時の為に救急セット持ってきてたんだよね…よかった』


響歌『雪乃、ありがとう…』

雪乃は消毒液、ガーゼ、包帯を取り出して響歌の脚の傷の手当てを行った。


雪乃『…これでよし、と。大丈夫? 痛くない?』


響歌『うん大丈夫…ありがと』

⏰:11/06/20 09:17 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#189 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『それにしても、これからどうする…?』


響歌『私は歩けるから…行ける所まで行こう』


雪乃『無理はしないでよ。響歌に何かあったら…』


響歌『心配ありがとね。でも大丈夫だから』

よろめきながらも響歌はその場から立ち上がる。


響歌『私の荷物取りに行ってくるから待ってて…』

⏰:11/06/20 09:21 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#190 [輪廻◆j6ceQ96kak]
心配する雪乃を残し、ゆっくりと脚を引きずるようにしてお堂へ向かった。


相変わらずカビ臭さと湿気が漂う堂内から荷物を手にし、雪乃の元へ急ぐ。


響歌『…お待たせ』


雪乃『本当に大丈夫?』


響歌『なんとか…。それよりも早くこの山から抜け出さないと…』

2人は再び出発した。

⏰:11/06/20 09:30 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#191 [輪廻◆j6ceQ96kak]
進むにつれて、まだ朝方だというのに辺りは薄暗く異様な雰囲気が漂ってくる。


鳥の囀りも全く聞こえなくなっていた。


聞こえるのは2人の歩く音だけだ。


まるで樹海のようなその山に、2人は完全に支配されつつあった。

⏰:11/06/20 09:39 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#192 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『道、こっちで合ってるのかな…。なんか歩けば歩くほど出口があるようには思えなくなってくるけど…』


響歌『携帯さえ繋がってくれれば…。とにかく圏外の文字が消えるまで歩こうよ』


雪乃『…そうだね』


携帯電話を片手にディスプレイを見ながら進む。

⏰:11/06/20 09:46 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#193 [輪廻◆j6ceQ96kak]
30分…


1時間…


2時間…


所々で休みながら歩いたが、そろそろ体力的にも限界がきていた。


一向に出口が見えてこない山中。


繋がらない携帯電話。


疲れとストレスが一緒に溜まり、肉体的にも精神的にも共に限界だ。

⏰:11/06/20 09:52 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#194 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『もう無理…。私達、一生ここから出られないのかな…』


響歌『ハア…ハア…』

木陰に座り込んだ2人。


もはや息切れ寸前だった時―



『ザクザク…』

どこからか歩く音がした。


響歌『…!!』

雪乃『…!!』

その音に2人は同時に反応する。

⏰:11/06/20 09:57 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#195 [輪廻◆j6ceQ96kak]
お互い顔を見合わせて静かに耳を澄ます。


間違いなく、その音は2人の背後からした。


雪乃『人…かな…』


響歌『待って。あの女将かもしれないし、もう少し様子見よう』

2人は太い木の影から息を殺して気配を消した。

⏰:11/06/20 10:04 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#196 [輪廻◆j6ceQ96kak]
音は段々と近づいてくる。


まるでさっきから2人の後をつけてきたかのように、音が近づく。


響歌と雪乃はお互いの手を握って祈るように目をつむった。


『ザクザク…』


『ザク!』

足音が止まった。


2人はゆっくりと目を開ける。

⏰:11/06/20 10:11 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#197 [輪廻◆j6ceQ96kak]
ゆっくりと木の影から後ろを見ると、そこには体格のいいリュックを背負った男性の後ろ姿があった。


2人はホッと胸をなで下ろすと、立ち上がって男性に声をかけようと近づいた。


響歌『あ、あの…』


男『…ん!?』

背後からの突然の声に驚いたのか、男はビクッとして振り返った。

⏰:11/06/20 10:18 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#198 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『こ、こんな所に女の子が一人で…何しているんだい?』


響歌『あ。もう一人います…雪乃が…』

響歌は目を疑った。


そこに雪乃の姿はなかった。


響歌『え…雪乃…? どこ…?』

辺りを見回すが雪乃の姿どころか気配すらなくなっている。


響歌『雪乃! 冗談はやめてよ! ねえ雪乃!』

大きな声で雪乃の名前を叫ぶが、返事はない。

⏰:11/06/20 10:23 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#199 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『一体どうしたのかな?』

男が心配そうに声をかける。


響歌『雪乃…私の友達が…』


男『友達? さっきから君の姿は見えていたけど、ずっと一人じゃなかったかい?』


響歌『…!!』

響歌は、男の衝撃的な発言に言葉を失った。

⏰:11/06/20 21:59 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#200 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『そんな…。冗談はやめてください!』


男『い、いや…そう言われてもね…』

困った表情で返す男の顔からは冗談を言っているようには感じられない。


響歌『雪乃! いるんでしょ!? 出てきてよ…!』

頭の中が真っ白になりつつあった。

その場に崩れ落ちる。

⏰:11/06/20 22:02 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#201 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『ちょっと! 大丈夫?』

心配した男が声をかけるが、響歌は下を向いたまま放心状態だった。


響歌『雪乃…どうして…』


男『お嬢さん、一人でこんな山奥に何しにきたの?』


響歌『………』


男『ちょっと歩いた先に小屋があるから、とりあえずそこで休みなさい…』

男は響歌の肩に手を回し、ゆっくり立ち上がらせる。

⏰:11/06/20 22:12 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#202 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌の脚に力が入らない事がわかった男は、その体格を活かして響歌を背中におぶった。


そして小屋へ向かって歩き出す。


響歌の目から一筋の涙がこぼれ落ちた―

⏰:11/06/20 22:19 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#203 [輪廻◆j6ceQ96kak]
…………。


…………。


響歌『ん、んん…』


男『目が覚めたかい?』

目を開けると、男が優しい目で響歌を見つめていた。


響歌『ここは…』


男『登山家達が休む用に作られた小屋だよ』

小屋内を見回す。


内装は、最近できたように綺麗だ。


木材でできた机や椅子、更には自動販売機まで設置されている。

⏰:11/06/20 22:29 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#204 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『さっきも聞いたけど答えられない状態だったからもう一度聞くよ。一体何でこんな山奥に来てたんだい? それも一人で…』


響歌『……一人じゃありません…雪乃が…』


男『その雪乃って…もしかして松下雪乃って子?』


響歌『ど、どうして知ってるんですか…?』

思わず身構える響歌。

⏰:11/06/20 22:40 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#205 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『いやね、私は昨日からここに登山に来てて…。昨夜ここに向かってる途中で携帯電話を見つけたんだよ』


響歌『携帯…?』

嫌な予感がした。


聞くのを一瞬ためらったが、更に問いかける。


響歌『…どんな携帯…ですか?』


男『山を下りたら警察に届けようと思って拾っておいたよ』

そう言ってリュックからピンク色の携帯電話を取り出した。

⏰:11/06/20 22:47 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#206 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それを見た響歌は顔色を変えた。


響歌『これ…雪乃の…』


男『その子とはぐれちゃったのかな…?』


響歌『そんな! だってさっきまで私の隣にいて…』

あたふたとする響歌に、男は優しく問いかける。


男『とりあえず山を下りたら警察に届けを出しなさいよ。それが一番いいと思う』

⏰:11/07/01 00:45 📱:T004 🆔:NqNNTXYQ


#207 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『……そう、ですよね』


男『ここから30分も歩けば旧道へ出れる。一緒に行くかい?』


響歌『お願いします!』


希望の光が見えた気がした。


いつの間にかいなくなっていた雪乃も、警察が見つけてくれるだろう。


そう思って、この男と行動を共にする事にした。

⏰:11/07/01 00:52 📱:T004 🆔:NqNNTXYQ


#208 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それから30分くらいの時間を小屋で過ごし、外へ出る事にした。


男『大丈夫かい?』


響歌『は、はい…』

歩く度に女将につけられた傷がヒリヒリと痛む。


男が響歌の怪我した脚をチラっと見る。


男『そこ…何か怪我でもしたの?』


響歌『い、いえ…なんでもないんです』

小さく笑い飛ばしてごまかした。

⏰:11/07/01 01:00 📱:T004 🆔:NqNNTXYQ


#209 [輪廻◆j6ceQ96kak]
言っても信じてもらえないと思ったからだ。


雪乃の携帯電話を片手に握りしめ、男の後ろに続いて歩き出す。


男『そういえば、そろそろ聞かせてくれるかな? どうしてこんな山の中に雪乃って子といたんだい?』


響歌『言ったら信じてくれますか…?』


男『もちろんだよ。何かあったんだろう?』


響歌は笑って聞き流される覚悟も踏まえ、今までの出来事を男に全て話した。

⏰:11/07/01 01:07 📱:T004 🆔:NqNNTXYQ


#210 [なみ]
続きが気になります(^〇^)頑張ってくださいっ

⏰:11/07/01 21:21 📱:N906imyu 🆔:ouJvu54w


#211 [輪廻◆j6ceQ96kak]
>>210さん

ありがとうございます。

2話も異様に長くなってしまいましたが、ここからラストまで一気に下り坂でいきます(^^)

⏰:11/07/03 22:55 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#212 [輪廻◆j6ceQ96kak]
話し終わった後、男は突然首をしかめた。


男『池崎旅館…? 確かそこは半年前に経営不振で女将が焼身自殺して、後に廃館になったはずだけど…』


響歌『…え? そんなはずは…。だって私達、現に昨日そこに来て…』


男『夢か何か見てたんだろうね…』

この男は何を言っているのだろうと思ったが、今の言葉の中の一つがひっかかった。

⏰:11/07/03 23:01 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#213 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『女将が焼身…自殺?』


男『ああ。新聞にも取り上げられてたはずだけどね。旅館の裏に焼却炉があるんだけど、そこに自ら入って自殺…だったかな』

ここへ来て、響歌の中で何かが繋がり始めていた。


焼身自殺した女将…


焼却炉…


旅館の狼の間にあった何かの焼けた物体…


昨夜、山の中で見た同じ物体と臭い…

⏰:11/07/03 23:05 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#214 [輪廻◆j6ceQ96kak]
途端に背筋が凍った。


男『だ、大丈夫かい? 顔が青白いけど…』


響歌『わからない…』

男の言葉を無視して独り言のように小さくつぶやいた。


強烈な目まいと吐き気が響歌を襲う。


男『しっかりしなさい!』

意識が飛びそうになる瞬間、男の大声でハッと我に帰った。

⏰:11/07/03 23:10 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#215 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『もう少しで旧道だ。そこからなら携帯電話も繋がると思う』


響歌『は、はい…』

目まいと吐き気も一瞬の出来事だったかのように、スッと収まった。


男に言われるがまま、再び歩き出す。


唯一、吉田と雪乃の事が気がかりで警察に頼めばなんとかしてくれると信じて…。

⏰:11/07/03 23:17 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#216 [輪廻◆j6ceQ96kak]
10分ほど歩いた所で、車道が姿を現した。


樹海のような山から脱出できたこの感覚に、響歌は神様に感謝したくなるほどであった。


男『携帯電話は、と…。私のは大丈夫みたいだ』

響歌も迷わず自分の携帯電話のディスプレイに目をやる。


アンテナは2つと不安定ではあるが、繋がらないよりはマシだという事で早速警察に電話をした。

⏰:11/07/03 23:26 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#217 [輪廻◆j6ceQ96kak]
110のボタンを押して、最後に通話ボタンを押そうとした時だった。


隣にいた男の手が響歌の腕を掴んだ。


響歌『な、なにするんですか…?』


男『せっかくここまで案内してやったんだ。礼くらいはしてもらわないとな』

男の目はさっきまでとは断然違っていた。

⏰:11/07/03 23:30 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#218 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『ちょっと放してください!』

手を振り払おうとするが男の力は強く、放れない。


男『アンタも雪乃って子と同じようにして欲しいのかい?』

男はニヤリと笑って言った。


響歌はその目つきと発言に何かとてつもない恐怖を感じ、体が震える。

⏰:11/07/03 23:34 📱:T004 🆔:kUqtO3H2


#219 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男は更に詰め寄る。


男『雪乃って子がどうなったか知りたい?』


響歌『…雪乃をどこにやったんですか…?』

聞くのが怖い。


しかし今はそんな事を言っている場合ではなかった。


男『あの子なら昨日の深夜、森の中を歩いてるのを見かけてね…』


響歌『…それで雪乃はどこに!』

男は裂けそうになるくらいに口を大きく開けてニカッと笑うと、響歌に止めをさすような一言を言い放った。

⏰:11/07/04 00:01 📱:T004 🆔:wweJ6902


#220 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『殺したよ…』


響歌『……え……?』


男『聞こえなかったかい? 殺したって言ったんだよ』

それを聞いた瞬間、もう全てが終わったと思った…。


冗談を言っている様子はない。


男の視線は響歌をずっと捕らえている。


この場から一刻も早く逃げないと殺される…


そう直で感じた響歌は、男の手を最大限の力を使って振り払った。

⏰:11/07/04 00:11 📱:T004 🆔:wweJ6902


#221 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しかしその衝撃で、片手に持っていた携帯電話を地面に落としてしまった。


響歌は拾おうとしたが、男がとっさにそれを拾い上げる。


男『残念だったね。これがないと警察に電話ができないねえ〜』

挑発的な態度で言う。


響歌『そうだ…雪乃の携帯…』

ポケットに入れていた雪乃の携帯電話を取り出して電源ボタンを押す。

⏰:11/07/04 00:18 📱:T004 🆔:wweJ6902


#222 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しかし反応がない。


必死で電源ボタンを長押しする響歌を見た男が突然高らかに笑い出した。


男『あははっ! その携帯電話ならつかないよ。電池を抜いてあるんだもの』


響歌『え…』

後ろの蓋を取ると、電池パックが抜けているではないか。


男『昨日あの子を見つけた時、声かけたら怖がっちゃって…あの怯える顔なんとも言えなかったな〜』

⏰:11/07/04 00:23 📱:T004 🆔:wweJ6902


#223 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『…最低…!』


男『その顔…いいねぇ。若い子の強気だけど実は怯えている感じ…もっと見せてよ!』

この男、明らかにおかしい。


このまま捕まったら何をされるからわからないと思った響歌はその場から全速力で走り出した。


森の中に入るとまた同じ繰り返しになると考え車道を前へ前へと、とにかく無我夢中で走った。

⏰:11/07/04 00:29 📱:T004 🆔:wweJ6902


#224 [輪廻◆j6ceQ96kak]
どれくらい走っただろう。


止まって後ろを振り返ってみる。


追ってくる様子はなかった。


安心して、ゆっくりと歩き出す。


響歌『お願い…車…来て…』

車道の脇を歩きながら唯一の頼みである車が走ってくるのを待った。


その中で携帯電話があの男の手に渡ってしまったのが悔やまれて仕方がなかった。

⏰:11/07/04 00:35 📱:T004 🆔:wweJ6902


#225 [輪廻◆j6ceQ96kak]
個人情報が詰まっている携帯電話。


悪用される可能性は十分にあった。


響歌の住所はもちろん、友達や家族の連絡先の情報も全て詰まっている。


嫌な胸騒ぎを感じつつも、歩いていた時だった。


向こうから白いワゴン車がやってくるのが見えた。


響歌は車道の真ん中に立って、停車してくれるように手を上げて合図する。

⏰:11/07/04 00:41 📱:T004 🆔:wweJ6902


#226 [輪廻◆j6ceQ96kak]
車は迷わず停車した。


しばらくして中から二人の男女が車から降りてきた。


男性『おい、何だいきなり!』


響歌『助けてください!』


女性『どうかしたの?』

男性の態度とは裏腹に女性が心配そうな表情で言う。


響歌は例の男の事などを話すと、事情を把握した二人は響歌を車に乗せた。

⏰:11/07/04 09:16 📱:T004 🆔:wweJ6902


#227 [輪廻◆j6ceQ96kak]
女性『危なかったね。それにしたって、なんでこんな所にいたの?』


響歌『昨日アルバイト先の先輩と友達とで旅館に来たんですけど…先輩が…』

旅館で起きた事も話した。


しかし二人はあの男と同様に首をかしげる。


そしてハンドルを握りながら男性が言った。


男性『池崎旅館って、確かもうやってないんじゃなかった?』

⏰:11/07/04 09:23 📱:T004 🆔:wweJ6902


#228 [輪廻◆j6ceQ96kak]
女性『うん…そのはずだけど』


男性『響歌ちゃん…だっけ? 行った旅館を間違えたんじゃないの?』


響歌『間違えてなんかいません! パンフレットにもちゃんと池崎旅館って…』


鞄の中をまさぐってパンフレットを探すも、見当たらない。


あの旅館に置き忘れていたのだ。

⏰:11/07/04 09:29 📱:T004 🆔:wweJ6902


#229 [輪廻◆j6ceQ96kak]
女性『あの旅館って確か今、心霊スポットになってるよね』


男性『そうそう。異臭とか女の霊とか目撃談もあるしな』

心霊関係に興味があるのか、二人はなぜか微笑んでいる。


そんな中、男性が唐突に言った…



男性『今から行ってみる?』

⏰:11/07/04 09:33 📱:T004 🆔:wweJ6902


#230 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『…なっ!』

言葉を失った。

この時、言わなければよかった…と後悔する事になる。


女性『行っちゃうの?』


男性『行っちゃいますか?』


響歌『私は嫌です!』

断固拒否する。


男性『じゃあ響歌ちゃんは車の中に入ってなよ。俺達が君の先輩の事を調べてくるからさ』

⏰:11/07/04 09:37 📱:T004 🆔:wweJ6902


#231 [輪廻◆j6ceQ96kak]
車は旅館へ向けて急発進した。


走って数分もしない内に、車道の少し先に見覚えのある男の姿があった。


響歌『あっ、あの人!』


男性『なに? あのオッサンがどうかしたの?』


響歌『あの人が私の携帯を持ってるんです! お願いします…取り返してもらえませんか?』

⏰:11/07/04 09:42 📱:T004 🆔:wweJ6902


#232 [輪廻◆j6ceQ96kak]
体格のいいこの男性なら、あの男に太刀打ちできるだろうと思った響歌。


男性『よっしゃ。なんなら轢いてやるか?』


響歌『い、いや…そこまでは…』

さすがに冗談だと思っていた。


しかし車は猛スピードを出して男に突進していく。


車に気づいた男は、脇道にそれようとしたが、運転する男性はそれをさせなかった。

⏰:11/07/04 09:46 📱:T004 🆔:wweJ6902


#233 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男を轢こうとしたその一瞬、ブレーキをかけたのは助手席に乗っている女性だった。


男性『おい何すんだよ!』


女性『さすがにこれは笑えないよ』

響歌の思いが女性に通じたのだろうか。


一方のあの男は、目を白黒させながら地面に尻餅をついていた。

⏰:11/07/04 09:52 📱:T004 🆔:wweJ6902


#234 [輪廻◆j6ceQ96kak]
今だ、と思った響歌はすぐに車を降りた。


男性と女性も後に続いて車を降りる。


男の元へ向かうと強気に


響歌『携帯返してください!』

と言い放った。


男『へ、へへ…そう来るんだ…』

ヘラヘラ笑う男に腹が立った響歌は、男の左頬に向かってビンタした。

⏰:11/07/04 09:56 📱:T004 🆔:wweJ6902


#235 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男性『なあ、こいつ警察に突き出そうぜ』


響歌『そのつもりです!』

すっかりいつもの調子に戻った響歌。


女性『この子に携帯電話返しなよ!』

そう女性に言われた男は、ニヤニヤ笑いを続ける。


男性『何笑ってんだよオッサン!』

男はゆっくりと立ち上がると、大きなリュックから何かを取り出した。

⏰:11/07/04 10:01 📱:T004 🆔:wweJ6902


#236 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男の出した物に、ここにいる三人誰もが言葉を失った。


男『これが何だかわかるよね?』

それは、山の凶暴な動物などを狩る為に使われる捕獲銃だった。


男性『な…なんのつもりだよオッサン…』

男性は顔は強気だが、明らかに声が震えている。


男『君らはさっき、この私を轢き殺そうとしたよね? だから今度は私の番という事だよ』

⏰:11/07/04 10:12 📱:T004 🆔:wweJ6902


#237 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男はそう言って銃口を男性の方に向けて構えた。


男性『お、落ち着けよ! 別に殺すつもりなんか…』


男『そこの女の子二人は、後で私がゆっくりと料理してあげるからね』

そして男は迷わず引き金をひいた。


『バンッ!』

大きな一発の銃声が鳴り響いた―

⏰:11/07/04 23:42 📱:T004 🆔:wweJ6902


#238 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌はつぶっていた目をゆっくりと開いた。


辺りを見て男性の安否を確認する。


男『チッ…外したか…』

ポツリとつぶやく男の声をしっかり聞いたであろう女性は男性の元へ駆け寄った。


女性『剛史、大丈夫!?』


男性『ああ…。なんとか避けた』

男がリュックの中身を探っているのを見た男性は、一目散に男に向かって行った。

⏰:11/07/04 23:50 📱:T004 🆔:wweJ6902


#239 [輪廻◆j6ceQ96kak]
銃を取り上げようとしたのだろう。


二人がもみ合っている最中、女性が車に戻る。


響歌があたふたしていると女性はすぐに携帯電話を持って戻ってきた。


女性『警察…すぐ来てくれるかな…』

彼女の素早い行動で、今度こそ助かると思った。


一方の男二人は、男性が男の銃を取り上げて地面に叩きつけている所だった。

⏰:11/07/04 23:56 📱:T004 🆔:wweJ6902


#240 [輪廻◆j6ceQ96kak]
女性『安心して! 少し遅くなるけど、これから警察が来るよ!』


響歌『…よかった…』

安心したせいか、身体の力が抜けて地面に崩れ落ちる。



男性『いい加減にしろよ!』

形勢逆転といった所だろうか、調子が戻った男性が男を殴る。


男は気絶したのか、その場に倒れピクリともしなくなった。

⏰:11/07/05 00:02 📱:T004 🆔:Ps175YeA


#241 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男性がとっさにリュックを手に取って中身を確認する。


男性『響歌ちゃん! 携帯ってこれ?』


響歌『…そ、それです!』

男性が倒れた男に背を向けてリュックの中身の確認を続けている時―


男性の後ろで、動かなくなっていると思っていた男が静かにポケットからナイフを取り出した瞬間を響歌は目撃した。

⏰:11/07/05 00:12 📱:T004 🆔:Ps175YeA


#242 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『うっ、後ろ!!』

響歌がそう叫んだのとほぼ同時だった―


男性『……ぐふっ!』

男は背後から男性の下腹部を一瞬にして刺した。


そして一瞬にして男性はその場に倒れた。


地面に大量の血が広がっていく。


響歌『いやああああああああああ!!』


女性『……え?』

響歌の隣にいた女性も、男性の変わり果てた姿を見てその場に崩れ落ちた。

⏰:11/07/05 00:18 📱:T004 🆔:Ps175YeA


#243 [輪廻◆j6ceQ96kak]
血まみれのナイフを持ったまま男が立ち上がり二人に向かってゆっくりと歩み寄ってくる。


男『次は君達の番…』


響歌『…お、お姉さん…く、車…車で早く逃げないと…』


女性『む、無理だよ…。ウチ、免許取ったばっかだし…』


響歌『い、今はそんな事言ってる場合じゃないです!』

二人はなんとか立ち上がって、車へとフラフラ向かう。

⏰:11/07/05 00:24 📱:T004 🆔:Ps175YeA


#244 [輪廻◆j6ceQ96kak]
なんとかたどり着いたが、運転席を見た女性が困り顔をした。


女性『あれ…? 車のキーがない……あっ!』


響歌『ど、どうしたんですか? 早くしないと…』


女性『車のキー、確か剛史が車を降りる時にポケットに…』


響歌『…じゃ、じゃあ鍵はあの人のポケットにあるって事ですか…?』

⏰:11/07/05 00:31 📱:T004 🆔:Ps175YeA


#245 [輪廻◆j6ceQ96kak]
女性『ど、どうしよう…』

男性はあの男の後ろに倒れていて、男性と響歌達がいる車を挟んで男がこちらに迫ってきている状態だ。


鍵を取りに行くとしても、正面にいる男を突破しなければ彼の元へはたどり着けない。


警察はいつ到着するかわからない。


選択肢は二つしかなかった。

⏰:11/07/05 00:38 📱:T004 🆔:Ps175YeA


#246 [輪廻◆j6ceQ96kak]
警察の到着までの間ひたすら逆方向に逃げるか、男の脇を全速力で走って突破して鍵を取りに行くかだった。


しかしこの状況で逃げた場合、後々警察との行き違いや誤解などが発生するという問題もある。


響歌は覚悟を決めた。


響歌『あ、あの…私が鍵を取りに行くのでお姉さんは車の中で待っててください!』

⏰:11/07/05 00:47 📱:T004 🆔:Ps175YeA


#247 [輪廻◆j6ceQ96kak]
女性『で、でも…』


響歌『お姉さん達がいなかったら私…どうなっていたかわかりません…。だからお礼させてください』


女性『…わかった。気をつけて…!』

響歌は軽く礼をし、回れ右をして男の方へ振り返った。


ニヤニヤ顔でゆっくりと、そして確実に近づいてくる男。

⏰:11/07/06 10:20 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#248 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌は唾を飲み込んで、車道の左脇へと移動する。


ふと、下を見ると小さな石が散らばっていた。


響歌はそれを数個手に取って男の方に投げると、男が石に気を取られている間に向こう側へと一目散に駆け抜けた。


血まみれで倒れる男性の元へとたどり着き、ポケットを探り鍵を探す。

⏰:11/07/06 10:25 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#249 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あった…』


見つけた車の鍵を空に掲げて車に戻ろうとするも、男は方向を変えて響歌の元へと向かってきた。


周りを見て石を探す。


石はなく、変わりに男が先ほど撃った捕獲銃が置かれていた。


それを見た響歌は反射的にその銃を手に取ると、男に銃口を向けた。

⏰:11/07/06 10:34 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#250 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『アンタのせいで雪乃は…! このお兄さんは!』

銃の扱いはわからない。

しかし、この引き金をひけば弾が出る事はわかっていた。


男『素人の君に、弾を私に当てる事なんてできないよ…。それはレーザーポインタがついてない限り、狙いを定めて撃つのは難しいんだから』


響歌『黙れ!』

気づくと、頭で考えて発するより先に言葉が出ていた。

⏰:11/07/06 10:40 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#251 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そのまま震えた手で引き金に指をかけた。


その時―


女性『響歌ちゃん! 撃っちゃダメ! その人を撃ったら…どうなるかわかってるよね!』


響歌『……!!』

女性の言葉で、ふっと我に帰り、自身の手にしていた銃を見てそれをとっさに落とす。


この時、響歌の意思とは関係なく銃を手にしていた事に気がついた。

⏰:11/07/06 10:48 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#252 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『そろそろ楽にさせてあげるよ!』

先ほどまで歩いていた男が、響歌が銃を落としたタイミングを見計らってか、走り出してきた。


女性『響歌ちゃん逃げて!』

またしても頭で考えるより先に足が動いた。


まるで誰かに操られているかのような感覚だった。


響歌はその足で森の中へと駆け抜ける。

⏰:11/07/06 10:53 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#253 [輪廻◆j6ceQ96kak]
夢中だった。


体が響歌の思うように動かない。


足が勝手に動いていた。


だが男が追ってくる気配は背後からちゃんと感じられた。


男『なんで逃げるのさぁ!』

響歌は半泣き状態になりつつも、全速力で男を振り切ようと走り続ける。

⏰:11/07/06 10:56 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#254 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しばらくして、追ってくる気配が消えた。


走り続けた結果、ふと見るとあの車が見える。


しっかりとさっきの場所へと戻っていたのだ。


どこをどう走っていたのかわからない響歌だった。


まるで見えない誰かに導かれていたようだった。

⏰:11/07/06 11:01 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#255 [輪廻◆j6ceQ96kak]
すぐに車へと向かう。


響歌『お姉さん!!』


女性『…響歌ちゃん! 無事だったんだね!』

片手にずっと握りしめていた血がついた車の鍵を女性に渡し、響歌も助手席に乗った時。


警察のパトカーのサイレンが聞こえてきた。


女性『来たみたい…よかったね』


響歌『もうダメかと思いました…』

車から降りて向こうから来るパトカーに向かって手を振る。

⏰:11/07/06 11:05 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#256 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それから響歌と女性で事情を話した。


女性といた男性を刺した男はすぐに捜索隊によって発見。


殺人や銃刀法違反などの容疑で逮捕となった。


パトカーに乗せられる時、男は響歌達を見てニヤっと小さく笑った。


その後、響歌の証言であの旅館にも捜査が入る。

⏰:11/07/06 11:11 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#257 [輪廻◆j6ceQ96kak]
あの男が言っていた通り、あの旅館は半年前に経営不振により女将の池崎が、他の従業員を焼却炉で焼き殺してから、最後に自身をも入れて焼身自殺を図ったという。


それから取り調べ室で響歌は、女将の事を話すも、信じてもらえなかった。


響歌の先輩、吉田優斗は現在も行方不明。


あの男が殺したという、松下雪乃の死体も未だ見つかっていない。

⏰:11/07/06 11:20 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#258 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌にはただ一つ思う所がある。


あの時、道を導いてくれたのは雪乃だったのかもしれない、と。


雪乃が助けてくれたのだろうと、信じる事にした。

⏰:11/07/06 11:22 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#259 [輪廻◆j6ceQ96kak]
数日後―


女性『今日、剛史のお葬式なんだ』


響歌『そうなんですか…』


女性『ねえ…あの男の人、どうなると思う?』


響歌『あの男は…私の友達も殺したと言ってました。私は一生許す気にはなれないです』


女性『そうだよね…ウチも同じ。ねえ響歌ちゃん…復讐したいと思わない?』

女性の言葉に、響歌は一瞬戸惑った。

⏰:11/07/06 11:26 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#260 [輪廻◆j6ceQ96kak]
女性『だって、元々悪いのはあの男でしょ? あの時のバカにしたような笑い顔…今でも忘れない』


響歌『私もですけど…やっぱり罪に関しては警察に任せようと思ってます』


女性『そう…響歌ちゃんはそれでいいんだね?』


響歌『……はい』

二人は握手をしてから、別れた。

⏰:11/07/06 11:30 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#261 [輪廻◆j6ceQ96kak]
もう彼女に会う事はない。


そう思っていた。


少なくとも今の段階では―



第2話 怪奇なる旅路【完】

⏰:11/07/06 11:31 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#262 [輪廻◆j6ceQ96kak]
第3話【消失なる射影】



このカメラで撮影された者は1週間以内に必ず死ぬ。



その名も


『デスカメラ』


これは数年前、村井響歌が中学生の時の話である―

⏰:11/07/06 11:42 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#263 [輪廻◆j6ceQ96kak]
中学2年生の夏、響歌の中学校ではよからぬ噂が広まっていた。


生徒A『ねえ、デスカメラって知ってる?』


生徒B『もち! そのカメラで写された人は1週間以内に死ぬんだよね』


生徒C『そのカメラ、普通じゃ手に入れられないんだって。闇市場っていう携帯サイトで頼めるらしいよ』


響歌『くだらない』

そんな噂で持ちきりの中、響歌は興味なさそうな顔で教室の椅子に座っていた。

⏰:11/07/06 11:48 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#264 [輪廻◆j6ceQ96kak]
くだらない話ほど、みんな真面目に聞きたがる。


授業ではいつもふざけて先生の話を聞かないくせに、といつも心の声を発していた。


響歌の親友、井本七瀬もその話の虜であった。


七瀬『ねえ響歌! 響歌!』

気づくと机の前に七瀬の顔。


響歌『なに?』

どうせ例のカメラの話だろうと、そっけない表情で返事をした。

⏰:11/07/06 11:58 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#265 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬『デスカメラ…』

七瀬がここまで言うと


響歌『はいはい、私そういうの興味ないから』


七瀬『なにさー! まだ何も言ってないじゃん!』

言ってなくても、周りが話しているのを散々聞いている響歌には、今から七瀬が言う事を全て把握していた。


響歌『そういうの馬鹿らしくない?』

容赦ない響歌の言葉に、七瀬の顔は不機嫌な表情に一瞬にして変わった。

⏰:11/07/06 12:07 📱:T004 🆔:poCJnCg.


#266 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬『とかいって…響歌、ホントは怖いんじゃないの?』


響歌『…は? なんでそうなるの?』

ここで二人の険悪ムードに割って入ってきたのは…


蓮『お前ら怖い顔してるけど、どうかしたの?』

クラス一の明るい男、桐谷蓮だった。


七瀬『あ、キリ。聞いて聞いて! 響歌ね、デスカメラが怖いんだって』

⏰:11/07/07 20:45 📱:T004 🆔:sszp4/nU


#267 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『デスカメラ…ああ! 今流行ってる都市伝説だろ?』


七瀬『都市伝説じゃないよ! 実際そのカメラ売ってるらしいし』


蓮『へー。どこに売ってんの?』


七瀬『闇市場っていうサイト。あたし携帯もパソコンもないから、そのサイト見た事ないんだよねー』

すっかり二人の世界になってしまった。


響歌は勢いよく席を立って、教室を出た。

⏰:11/07/07 20:49 📱:T004 🆔:sszp4/nU


#268 [輪廻◆j6ceQ96kak]
向かったのは屋上。


休み時間などに一人になりたい時は必ずここへ来る。


響歌にとっては最高の息抜き場所だった。


響歌『デスカメラかぁ…』

雲を見上げてポツリとつぶやく。


写された者は死ぬ―

この言葉が頭を駆け巡る。


響歌『やっぱ馬鹿らし…』

再び雲に向かって言った。

⏰:11/07/07 20:54 📱:T004 🆔:sszp4/nU


#269 [輪廻◆j6ceQ96kak]
学校が終わり、いつも一緒に帰っている七瀬に声をかけた。


響歌『ああ終わったー! 今日も眠かったよね』


七瀬『……』


響歌『ナナ? 聞いてる?』


七瀬『もう話しかけないでくれない?』


響歌『…え?』

衝撃的な発言に、一瞬聞き間違えたのかと思った。

⏰:11/07/07 21:02 📱:T004 🆔:sszp4/nU


#270 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬『そういう事だから。悪いけど今日から一人で帰って』

七瀬の裏を返したような態度に、響歌はそれ以上何も言えなかった。


帰り道、響歌はずっと七瀬の事を考えていた。


出会ったのは小学校5年の時。


それから3年間、かけがえのない親友としてやってきた七瀬の突然の絶交宣言。

⏰:11/07/07 21:09 📱:T004 🆔:sszp4/nU


#271 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『ナナ…私が悪いの? 私が、あの噂を否定したから?』

自分のあの時の発言に後悔した。


それからしばらくの間、学校はデスカメラに関する噂で持ちきりだった。


もちろん七瀬とはそれから全く口を聞いていない。


ちょくちょく話しかけたりもしたが、向こうは完全無視を続けた。

⏰:11/07/07 21:14 📱:T004 🆔:sszp4/nU


#272 [輪廻◆j6ceQ96kak]
休日は部屋に閉じこもるようになった響歌。


七瀬が携帯電話を持つようになったが、連絡先は教えてくれず、謝罪のメールを送ろうにも送れない状態が続く。


ある日、学校の休み時間にて七瀬達の話を偶然耳にした。


七瀬『ねえ! 闇市場ってサイト発見しちゃったさー!』


生徒A『マジで? 見して見して!』

⏰:11/07/07 21:25 📱:T004 🆔:sszp4/nU


#273 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬『もう見つけるのに苦労したよ! おかげで寝不足〜』


生徒B『でさ…デスカメラはあったの?』


七瀬『あったんだけどさ…なんか注文が殺到してるみたいで品切れだったの…まじショック!』


生徒B『あらら…残念。でもさ、注文殺到してるって事はウチの学校でも頼んでる人多いのかな?』

⏰:11/07/07 21:29 📱:T004 🆔:sszp4/nU


#274 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬『だとしたら危ないよね! 盗撮とかされたら洒落にならないよ〜』


生徒B『写されないように気をつけないとね!』

…と、冗談混じりの笑い声で話す七瀬達を見た響歌は、一瞬だけ悪魔のような発想をした。


響歌『写された人が死ぬ…』

響歌の視線の先には七瀬。


響歌『…って何考えてんだろ私…』

⏰:11/07/07 21:35 📱:T004 🆔:sszp4/nU


#275 [輪廻◆j6ceQ96kak]
絶交しているとはいえ、少し前までは親友だった七瀬。


さすがに死までくると洒落にならないと思った響歌は、デスカメラの事を忘れる事にした。


しかし、学校では毎日のようにデスカメラの話題があがる為、忘れようにも忘れられないでいた。


休み時間、桐谷蓮が響歌に話しかけてきた。

⏰:11/07/07 21:39 📱:T004 🆔:sszp4/nU


#276 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『お前、最近井本とつるまないのな。喧嘩でもしたの?』


響歌『…別に』


蓮『女同士って色々あって怖ェよな』


響歌『何か用?』


蓮『昨日オレの兄ちゃんがさ、デスカメラだっけ…それを注文したんだってよ』


響歌『…えっ!!』

思わず大きい声を出して席を立った瞬間、周りの視線が一斉に響歌に集中する。

⏰:11/07/07 21:45 📱:T004 🆔:sszp4/nU


#277 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『おい、どした?』


響歌『…ちょっと来て!』

そう言って顔を赤くしながら教室を出た。


蓮『おいどこまで行くんだよ?』

屋上へと蓮を呼んだ。


響歌『さっきの話…ホントなの?』


蓮『さっきの話って?』


響歌『だから…デスカメラ』


蓮『ああ。兄ちゃんの学校でも有名になってんだってさ』

⏰:11/07/07 21:48 📱:T004 🆔:sszp4/nU


#278 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『それ、もう届いたの? ていうかそもそもお金ってかかるの?』


蓮『なんでお前がそんな事気にすんだよ? お前、ただの噂だって興味なさそうに言ってたじゃん』


響歌『そ、そうだけど…』

先ほどの七瀬達の話を聞いた限り、噂では片付けられないだろうと内心感じつつあった。

⏰:11/07/07 21:53 📱:T004 🆔:sszp4/nU


#279 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『えーと…確か金はかからなかったって言ってたな』


響歌『もしかして、そんな殺人カメラがタダで売ってるって事…?』


蓮『悪いな。そこらへんの事オレもよくわからねえんだ。自分で調べてくれ。な?』


蓮は小さく手を振って屋上を後にした。


その時、好奇心が響歌の心をくすぐった。

⏰:11/07/07 21:59 📱:T004 🆔:sszp4/nU


#280 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その夜、家で携帯電話を片手に机に向かった響歌は普段はあまり見ないネットを繋いだ。


『闇市場』

で検索。


何件もの検索結果が見つかった。


しかし次々にクリックするも、どれも閉鎖しているらしくページが見つからない状態が続いた。


1時間…


諦めかけた時、一つのページが突如現れた。

⏰:11/07/07 22:06 📱:T004 🆔:sszp4/nU


#281 [輪廻◆j6ceQ96kak]
闇市場


あなたにとってお得な物、売ります―


入会費用、商品購入における金利などは一切頂きません―


ただし、注文いただきましたお客様の個人情報は当サイトの方でお預かりさせていただきます―


また、当サイトの事は内密にお願いします―


お約束が守れない場合は購入履歴から個人情報を特定し第三者に提供させていただきます―


購入はあくまで自己責任でお願いします―

⏰:11/07/09 02:53 📱:T004 🆔:C7bXKdJM


#282 [輪廻◆j6ceQ96kak]
注意


商品のキャンセル、商品に対するクレームなどは一切承りません。


購入された商品で万が一、何かトラブルが起こった場合も当サイトは一切の責任を負いません。



…と書かれていた。


響歌はその場で引き返そうとしたが好奇心が抑えられず、気がつくと商品リストのページを開いていた。

⏰:11/07/09 02:57 📱:T004 🆔:C7bXKdJM


#283 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その中で今、学校中で話題になっているデスカメラの名前を発見する。


しかし


『品切れ中。入荷日未定』

との表示。


他の商品もほとんどが品切れ状態。


響歌『ふう…』

小さなため息をつき、電源ボタンを押して携帯電話を閉じた。

⏰:11/07/09 03:06 📱:T004 🆔:C7bXKdJM


#284 [輪廻◆j6ceQ96kak]
数日後の休日―


『ピンポーン』


家に鳴ったインターホンが全ての始まりとなる―

⏰:11/07/09 03:09 📱:T004 🆔:C7bXKdJM


#285 [輪廻◆j6ceQ96kak]
母『…響歌、アンタに何か届いてるよ』

響歌の母親が小さな箱を抱えて部屋に入ってきた。


響歌『…なにそれ』


母『知らないよ。アンタが頼んだんでしょ?』

母親はそう言うが、響歌には全く見に覚えがなかった。


首をかしげながらも手渡されたダンボールを開ける。


響歌『…え? これって…』

それは黒い奇抜なデザインのインスタントカメラだった。

⏰:11/07/09 03:18 📱:T004 🆔:C7bXKdJM


#286 [輪廻◆j6ceQ96kak]
箱の中の隅には、予備と思われるフィルムも1つ同梱されていた。


響歌『なんで…? 私、こんなの頼んでなんか…』

ふと箱の底に、二つ折りにされた紙が目に入った。


ゆっくり開くと…

⏰:11/07/09 03:25 📱:T004 🆔:C7bXKdJM


#287 [輪廻◆j6ceQ96kak]
村井響歌 様


今回は当サイトをご利用、商品をご注文いただきまして誠にありがとうございます。


ご注文いただいた内容は以下の通りです。

商品名:デスカメラ

注文日:8月22日(月)

商品No:42219


尚、商品のキャンセルは承っておりませんのでご了承ください。

詳しくは当サイトの注意事項をご覧ください。


闇市場.com

⏰:11/07/09 03:36 📱:T004 🆔:C7bXKdJM


#288 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『は…? 嘘…』

注文したはずがないのに注文した事になっている。


そして実際に商品が届いた。


響歌『なんで、なんで、なんで…!?』

頭の中でパニックを起こしかけていた。


電話で問い合わせしようにも、電話番号が書かれていない。


サイトへ繋ごうにも、ページをブックマークしていなかった為、再び探すのには時間がかかる。


そもそもまた見つかるという保証もない。

⏰:11/07/09 03:45 📱:T004 🆔:C7bXKdJM


#289 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『そ、そうだよ…捨てちゃえばいいんだよね…』


このカメラで写された者は死ぬ―


この言葉が頭から離れない。


好奇心と罪悪感が響歌の心を揺るがす。


響歌『し、死ぬなんて嘘に決まってるよね…』

自分に言い聞かせる。


結局捨てられないまま机の引き出しの中にカメラをしまい、翌日を迎えた。

⏰:11/07/09 03:50 📱:T004 🆔:C7bXKdJM


#290 [輪廻◆j6ceQ96kak]
学校では、相変わらずデスカメラに関する話題。


休み時間を知らせるチャイムが鳴ってからすぐに桐谷蓮が響歌の席に近づいてきた。


蓮『よっ。そういえばデスカメラ、昨日家に届いたぜ』


響歌『ほ、ホントに!?』

思わず身を乗り出す。


蓮『でさ、兄ちゃんの奴、自分を撮っちゃって…』

⏰:11/07/09 03:54 📱:T004 🆔:C7bXKdJM


#291 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その時、蓮の言葉を聞いた七瀬とその友達数人がバタバタとこっちに向かってきた。


七瀬『キリ! 今の話、ホント!?』


蓮『…うわびっくりした! ああホントだけど』

七瀬は目の色をとことん輝かせている。


七瀬『やばいんじゃないの〜? キリのお兄さん』


蓮『大丈夫だと思うよ。カメラで写されたくらいで死ぬなら、とっくに事件になってサイトも閉鎖されてるって言ってたし』

⏰:11/07/10 15:58 📱:T004 🆔:AwgsUca.


#292 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬『あ、それなんだけど…サイトっていくつもあったらしいよ。ほとんどが摘発されて運営者も逮捕されたって』


蓮『でもそのカメラで人が死んだってニュース聞いた事ないだろ?』


七瀬『そ、それはそうだけどさ…』

反論できない七瀬を見て響歌は少しだけ、いい気味だなと思った。

⏰:11/07/10 16:12 📱:T004 🆔:AwgsUca.


#293 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『そんなもんだよ、都市伝説ってさ』

同時にあっけらかんとした蓮の表情を見て安心もした。


七瀬『とにかく! お兄さんに何かあったら教えてね』

そう言って友達を引き連れて教室を出ていった。

⏰:11/07/10 16:16 📱:T004 🆔:AwgsUca.


#294 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『あいつの目、やばかったな』


響歌『自分を見失わなきゃいいけど』


蓮『明日カメラ持ってこようかな。借りれたらだけどな』


響歌『やめときなよ。また七瀬がうるさいよ』


蓮『…だな!』

顔を見合わせて笑いながら言った。

⏰:11/07/10 16:21 📱:T004 🆔:AwgsUca.


#295 [輪廻◆j6ceQ96kak]
この流れで響歌の家に届いたカメラの事を言おうとしたが、タイミングが掴めずに結局言えなかった。



下校時間―


帰ろうとした矢先、元親友の七瀬が久しぶりに響歌に話しかけた。


七瀬『響歌、ちょっといい?』


響歌『……もう私とは話さないんじゃなかったの?』

⏰:11/07/10 16:26 📱:T004 🆔:AwgsUca.


#296 [輪廻◆j6ceQ96kak]
帰り道、しばらくの沈黙が続いた後、七瀬が口を開いた。


七瀬『…カメラ届いた?』


響歌『……は? どういう事?』


七瀬『ごめん! 悪いとは思ったんだけどさ…。あのデスカメラ一つだけあって、配送先に思わず響歌の名前と家の住所使っちゃったんだよね』


響歌『…………え?』

突然の告白に、理解するのにしばらく時間がかかった。

⏰:11/07/10 16:34 📱:T004 🆔:AwgsUca.


#297 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『な、なんで! 馬鹿じゃないの!?』

やっと理解した響歌は道の真ん中で七瀬に怒鳴る。


しかし七瀬の表情からは反省している様子は感じられない。


七瀬『別にいいじゃん。どっちに届いても同じ事だよ』


響歌『ちょっと! 何、開き直ってんの!?』


七瀬『うるさいなぁ…そんな大きい声出したら、なんか恥ずかしいじゃん』

響歌は七瀬の態度と言葉に、怒りが頂点に達した。

⏰:11/07/10 16:42 📱:T004 🆔:AwgsUca.


#298 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あり得ない! アンタに縁切ってもらえてせいせいしたわ!』


七瀬『響歌、落ち着きなよ〜。ごめんね?』


響歌『もう話しかけないで! 最低!』

走り去ろうとする響歌の腕を七瀬の手が素早く掴んだ。


七瀬『ちょっと待ってよ。響歌の家にデスカメラ取りに行くからさ』

⏰:11/07/10 16:46 📱:T004 🆔:AwgsUca.


#299 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『勝手にすれば!』

気まずい雰囲気の中、響歌は七瀬の一歩前を歩いて家に向かった。


七瀬『お邪魔しま〜す』


響歌『取りに行ってくるからそこにいて』

七瀬を玄関で待たせ、響歌は部屋にカメラを取りに行った。


入っていたダンボールに全部戻し、箱の口にガムテープを貼って元通りにし、それを七瀬に渡した。

⏰:11/07/10 16:53 📱:T004 🆔:AwgsUca.


#300 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬『…ありがと。もう話しかけないから安心して。でも本当に悪いと思ってるから』


響歌『……早く帰ってよ』

再び部屋に戻るなり、制服も脱がずにベッドにうつ伏せになって寝転んだ。


響歌『悪いと思ってるなら最初からすんなよ。ばーか』

やがて眠気がやってきて、そのまま眠りについていた―

⏰:11/07/10 16:58 📱:T004 🆔:AwgsUca.


#301 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それからは、学校などでデスカメラに関する死の話は一切出なかった。


響歌は拍子抜けしたと同時に安心したと思っていたが―


その翌日、朝学校に来てみると、そこに桐谷蓮の姿はなかった。


いつもは誰よりも早く来ている事が多い彼。


やがて朝の号令のチャイムが鳴る。


結局、蓮が登校してくる様子はなかった。

⏰:11/07/12 23:17 📱:T004 🆔:r0z5wdWM


#302 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そこで心配した蓮の友達の一人が先生に尋ねた。


男子生徒が、桐谷はどうしたのかと聞くと


先生『桐谷はしばらく学校を休む事になった』

先生はそう重い表情で言い、それ以上は口にしなかった。


響歌は直感的に思った。


『蓮に何かあったんだ』

…と。

⏰:11/07/12 23:25 📱:T004 🆔:r0z5wdWM


#303 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それからも蓮の事が気がかりで授業も集中できないでいた。


休み時間―


いてもたってもいられなくなった響歌は急ぎ足で職員室へと向かった。


胸騒ぎがしてならなかったのだ。


響歌『…真島先生はいますか?』


先生『おお、村井。どした? そんな急いで…』

先生はコーヒーカップにコーヒーを注いでいる所だった。

⏰:11/07/12 23:30 📱:T004 🆔:r0z5wdWM


#304 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『ちょっといいですか?』

先生を廊下に呼び出す。


先生『なんだなんだ? 何か相談事か?』


響歌『蓮…桐谷君に何かあったんですか?』

単刀直入に言うと、途端に先生の表情が曇った。


先生『どうしてそう思うんだ?』


響歌『朝、先生が険しい顔してたから…』

⏰:11/07/12 23:39 📱:T004 🆔:r0z5wdWM


#305 [輪廻◆j6ceQ96kak]
先生『参ったな…。いやな、言ったら騒ぎになると思って言わなかったんだ』


響歌『やっぱり何かあったんですね!?』


先生『帰りの号令の時に改めて言うよ。だからホラ、教室戻って戻って!』

背中を押されて、仕方なく教室に戻る響歌。

⏰:11/07/12 23:43 📱:T004 🆔:r0z5wdWM


#306 [輪廻◆j6ceQ96kak]
席に着くと、七瀬とその友達数人が響歌の机の前に集まってきた。


七瀬『ねえ響歌…。キリに何かあったのかなぁ…』


響歌『…さあね。ところで話かけないって言ったのそっちだよね?』


七瀬『ぷっ。ちょっと、そんな怖い顔しないでよ。心配だと思ってさ』


響歌『…心配?』

七瀬はここで思わぬ言葉を発した。

⏰:11/07/12 23:48 📱:T004 🆔:r0z5wdWM


#307 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬『あれ? 響歌ってキリの事が好きなんでしょ?』


響歌『……はっ?』


七瀬『だから心配するかと思ってたんだけど…そうでもなかったね。キリかわいそ〜』

七瀬が笑いながら言うと、他の友達数人も馬鹿にするように笑い出す。


響歌『ちょっと待ってよ、意味不明。誰があんなやつ…』


七瀬『だって二人、最近いつも一緒にいるじゃん』

⏰:11/07/12 23:54 📱:T004 🆔:r0z5wdWM


#308 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あれは……』


七瀬『ねえ、響歌。写真撮ったげようか?』

そう言って自分のバッグから取り出したのは、響歌にも見覚えのあるデスカメラだった。


響歌『ちょっと、なに考えてんの?』


七瀬『あれ? 響歌ってデスカメラの事、バカバカしいとか言って信じなかったよね? だから問題ないじゃん?』

七瀬のこの言葉に、響歌は思い知らされる。


『口は災いのもと』

という言葉に…。

⏰:11/07/13 00:00 📱:T004 🆔:zQgRlO2E


#309 [輪廻◆j6ceQ96kak]
先生『ほらほら授業始まるぞー!』

助け舟が出されたのは、七瀬がカメラのレンズを響歌に向けた時だった。


響歌『……』

顔では余裕な表情を見せていた響歌だが、内心では動揺を通り越していた。


七瀬は慌ててカメラを素早くバッグにしまい、席に着いた。


この日を境に、響歌は七瀬に恐怖心を抱くようになる―

⏰:11/07/13 00:11 📱:T004 🆔:zQgRlO2E


#310 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬の言うことに少しでも反論すると、写真を撮られる―


そんな無言の圧力のような状態が続いた。


そして帰りの号令。


日直の生徒二人が席に戻ると、先生は重い口を開いた。


先生『桐谷の事なんだけどな。あいつのお兄さんが、昨日事故にあったんだ』

先生の言葉に、クラスは一瞬にしてざわめき始めた。

⏰:11/07/13 00:24 📱:T004 🆔:zQgRlO2E


#311 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『うそー!』

『マジで!?』

『蓮が事故ったのかと思った…』

様々な発言があちこちで飛び交う。


先生『静かに! 話はまだ終わってないぞ!』

そう言うと、今度は教室内が一瞬にして静寂に包まれた。


先生『桐谷の方も昨夜、突然原因不明の高熱で倒れたそうだ』


響歌『…蓮が…』


先生『お見舞いに行ってやってくれな。あと、お兄さんの容態については…命に別状はないとの事だ』

⏰:11/07/13 00:31 📱:T004 🆔:zQgRlO2E


#312 [輪廻◆j6ceQ96kak]
先生の言葉に響歌は安心したと同時に不安も感じ始めた。


『デスカメラに写された者は1週間以内に死ぬ』


蓮の兄の事故、そして蓮自身の原因不明の高熱。


『デスカメラの呪い』

こんな言葉が脳裏をよぎった。

⏰:11/07/14 22:43 📱:T004 🆔:W1BRf24k


#313 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌の不安をよそに、七瀬が一人手を挙げた。


先生『ん? …どうした井本?』


七瀬『桐谷君のお見舞いは誰か一人が代表して行けばいいと思います』


先生『…ああ。それもそうだが…ここは桐谷と仲良くしてるやつ皆で行った方が桐谷も喜ぶんじゃないか?』

七瀬の発言。

響歌は少し嫌な予感がした。


そしてそれはすぐに的中する―

⏰:11/07/14 22:49 📱:T004 🆔:W1BRf24k


#314 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬『あたしは代表に村井響歌さんを推薦します』


響歌『…ちょ、ちょっと!?』

止める間もなく、七瀬の友達も揃いに揃って


『賛成!』

と大喝采の渦。


先生『村井、行ってくれるか?』


響歌『な、なんで私が…』

七瀬がニヤリと響歌を見つめる。

⏰:11/07/14 22:59 📱:T004 🆔:W1BRf24k


#315 [輪廻◆j6ceQ96kak]
先生『じゃあ頼むな…村井』


響歌『ちょっ…!』

結局何も言えず、蓮のお見舞いの代表に選ばれた。


下校時間―

玄関で靴を履く響歌の前に七瀬と、その友達が現れた。


七瀬『じゃあ響歌、キリによろしく言っといてね』


響歌『さっきの…どういうつもりなの?』

七瀬を睨みつけながら問う。

⏰:11/07/14 23:05 📱:T004 🆔:W1BRf24k


#316 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬『だって響歌、キリと二人きりになりたいかな、と思って…』


響歌『勝手な事しないでよ! 誰がそんな事頼んだ? 大体、蓮の事なんか別に好きじゃないし!』


七瀬『そんなムキにならないでよ。あたしは響歌の恋を応援してるだけで…』


響歌『…は? 応援? 縁切られた人に応援なんてされる義理なんてないし!』

どこか、からかっているような七瀬の言葉に腹が立った響歌は、靴箱に上履きを乱暴に入れてその場から走り去った。

⏰:11/07/14 23:13 📱:T004 🆔:W1BRf24k


#317 [輪廻◆j6ceQ96kak]
自分の家に向かう途中、蓮の住むアパートの前を横切った。


響歌『……』

その場で足を止め、後ろを振り返る。


響歌『お見舞い…だもんね』

自分にそう言い聞かせ、アパートの階段を上って蓮の住む部屋へ向かった。


インターホンを押してしばらく待っていると、蓮の母親が姿を現した。


『…あら、村井さんの』

笑顔でそう言って部屋に響歌を招き入れた。

⏰:11/07/14 23:20 📱:T004 🆔:W1BRf24k


#318 [輪廻◆j6ceQ96kak]
中に入ると、奥の布団で蓮が寝ているのが見えた。


響歌『あの…桐谷君、大丈夫ですか?』


響歌の問いに

『熱がなかなか下がらなくて…』

…と重い表情で母親は答えた。

⏰:11/07/14 23:24 📱:T004 🆔:W1BRf24k


#319 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あの、お兄さんの方は…?』

深追いをするつもりはなかったが、この時はなぜか口が勝手に動いた。


『剛史も、左足を骨折しちゃってね…』


響歌『そうなんですか…』

これ以上かける言葉が見つからなかった。


しばらくの重い沈黙が続いた後、蓮がゆっくりと布団から起き上がった。

⏰:11/07/14 23:31 📱:T004 🆔:W1BRf24k


#320 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『蓮、具合はどう?』

母親が心配そうに言う。


蓮『まあまあ…かな』

熱で弱っているせいか、いつもの学校での元気な態度とのギャップを感じた響歌。


蓮『村井…やっぱり村井の声だったか…』


響歌『大丈夫…?』


蓮『まあな…。バカは風邪ひかないって言うけど、あれは嘘なんだな』


響歌『…ばーか』

冗談混じりに笑い合いながら言った。

⏰:11/07/14 23:37 📱:T004 🆔:W1BRf24k


#321 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『村井さん、来てくれてありがとうね』

母親が優しい目で響歌を見ながら言う。


響歌『あ、いえ…どういたしまして…』


『蓮、よくあなたの話をするのよ』


蓮『おい! 勝手な事ベラベラ喋んなよ!』

顔を赤らめながら言う蓮に、響歌は一瞬だけキュンとした。

⏰:11/07/14 23:43 📱:T004 🆔:W1BRf24k


#322 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『あと少しの間だけど…蓮と仲良くしてあげてね』

母親は、思わず聞き返したくなるような意味ありげな言葉を発した。


響歌『あの…あと少しって…?』


『剛史の脚がだいぶよくなったら、私達引っ越すのよ』


響歌『え…引っ越し…』

響歌にとってはショック以外の何物でもなかった。

⏰:11/07/14 23:51 📱:T004 🆔:W1BRf24k


#323 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『それまだ隠しとくつもりだったんだけどな…』


響歌『どこに引っ越すんですか?』


『私の知り合いが旅館をやっててね。結構な田舎なんだけど』


響歌『そんな…』

響歌の目から一粒の涙がこぼれ落ちた。

⏰:11/07/14 23:56 📱:T004 🆔:W1BRf24k


#324 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『でも引っ越すってもさ…今の中学を卒業してからだし、当分の間はいれるぜ』


響歌『…それは…そうなんだろうけど…』


蓮『お、おい村井! 泣くなって…!』

涙が止まらなかった。


必死に腕をこすりつけても溢れ出てくる涙。


それからは目の回りが赤くなるまで泣き続けた。


蓮とその母親はそんな響歌をただ、黙って見ていた―

⏰:11/07/15 00:01 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#325 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それから1週間後―


蓮は元気になって学校に登校してきた。


蓮『よお村井、久しぶり!』


響歌『おはよ…』


蓮『俺の兄ちゃんも脚よくなってきたよ。…やっぱりあのデスカメラってやつ、結局は都市伝説だったんだよな』


響歌『…だね』

時間を忘れて色々な話をしていると、副担任が教室にやって来た。

⏰:11/07/15 00:54 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#326 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『皆さん、ちょっと座ってください。大事なお話があります!』

小柄な女の副担任がそう言って皆を席に座らせる。


そして皆の視線は副担任に一点に集中した。


『…担任の真島先生が、昨夜亡くなりました…』

その衝撃的な言葉に、クラス内は一斉にざわめいた。

⏰:11/07/15 12:41 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#327 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『お静かに!』

しかし一向におさまる気配はない。


『どういう事ですか!?』


『詳しく聞かせてください!』

一人一人が副担任に問い詰める。


『いいから静かになさい!』

副担任の今までにない大声で、騒ぎはピタリと止んだ。

⏰:11/07/15 12:47 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#328 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『真島先生は昨夜…車の運転中に事故に遭いました。打ち所が悪かったようで病院に運ばれましたが、数時間後に息を引き取りました』

再びざわめき始める。


響歌『先生……』

響歌は立て続けに起きる不慮の事故に、ただの偶然とは思えなくなった。


『この後、体育館で全校集会を行います。皆さん準備をしてください』

そう言って副担任は教室を出て行った。

⏰:11/07/15 12:54 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#329 [輪廻◆j6ceQ96kak]
午前9時―


1年生から3年生まで全校生徒が体育館に集合し、集会が始まった。


ステージの上に重苦しい表情をした校長先生が上ってくる。


校長『えー、皆さんもお聞きの事と思いますが…2年A組の担任をしています真島啄也先生が昨夜、事故により落命しました』

所々でガヤガヤとざわめきが起こる。


校長『昨夜車を運転中に、別の軽自動車と衝突し致命傷を受け病院に運ばれましたが、しばらくして病院で息を引き取りました』

⏰:11/07/15 13:12 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#330 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それだけ言うと、校長先生はステージを降りた。


続いて校長とすれ違いに上がってきたのは教頭先生。


教頭『…教育委員会にはすでに事情をお話ししました。皆さんも、できるだけこの事実を口外しないようお願いします。少し早いですが、これで全校集会を終わります』

教頭の合図で、それぞれの学年のクラスの担任が動く。

⏰:11/07/15 13:23 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#331 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『1年生から順番に教室に戻ります』

担任の誘導で、ぞろぞろと退場する。


『2年A組、戻ります』

響歌のクラスが、副担任の誘導で教室へと戻った。


教室へ向かう途中、泣いている女子生徒が多かった。

⏰:11/07/15 13:29 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#332 [輪廻◆j6ceQ96kak]
皆が席につき、副担任が重い口を開く。


『皆、悲しいよね…』

生徒のほとんどが無言でコクリと頷いた。


『実を言うと私も悲しいです。真島先生には研修の時、かなりお世話になりました』

それからしばらくの間、沈黙が続いた―

⏰:11/07/15 13:35 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#333 [輪廻◆j6ceQ96kak]
この後の授業も、皆おとなしく受けていた。


時間はあっという間に過ぎ、下校時間を迎える―


いつもなら皆が騒いでいる時間帯だが、今日はシーンとしていた。


教室を出て帰ろうとする響歌の元に七瀬がやってきた。


七瀬『響歌、一緒に帰ろ?』


響歌『……』

無視して歩き続ける響歌に、後ろから七瀬が衝撃的な言葉を投げかける。

⏰:11/07/15 22:25 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#334 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬『あたし、あのカメラで真島先生を写したの』


響歌『……えっ?』

思わず七瀬の方を振り返る。


七瀬『でも響歌は信じてないんだよね? あんなカメラの事…』


響歌『……』

何と言えばいいのか、言葉が思いつかなかった。

⏰:11/07/15 22:30 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#335 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬『でも仕方ないじゃん! 真島先生と副担が二人で会ってるのを見たから、あたし…』


響歌『だから…それを撮ったの?』


七瀬『写したらカメラのシャッターの音に二人が気づいて…現像された写真、真島先生に取り上げられた』


響歌『…馬鹿じゃないの…七瀬』

帰り道、二人は下を向きながら歩いた。

⏰:11/07/15 22:38 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#336 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬『響歌…怒ってる?』

響歌の顔色を伺うように言う。


響歌『…当たり前じゃん。今更謝られても許す気ないよ』


七瀬『キリの事は嫌がらせした訳じゃないよ。キリが休みって聞かされた時、あたしも心配になっちゃって…お昼にキリの家に電話してみたの。そしたら熱があるって』


響歌『…だから気をきかしたって訳?』


七瀬『響歌…本当にごめん! あたし、あのカメラの事を響歌に否定されて、ちょっとだけムカッときたの…だからつい』

⏰:11/07/15 22:49 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#337 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬はそのまま黙り込んでしまった。


響歌も正直戸惑っていた。


響歌『真島先生が死んだのはあのカメラのせい…私も今ならそう思える気がする』


七瀬『……え?』


響歌『蓮のお兄さんがあのカメラを買って自分を写して事故…それに蓮までもが原因不明の熱。蓮が風邪引いて熱出たなんて事、私が知る限り一度もない』

⏰:11/07/15 22:57 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#338 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬『…そう…だね』


響歌『私はあのカメラの事、色々と調べてみる。七瀬は…とにかくあのカメラをもう持ち歩かない事…いい?』


七瀬『…うん、わかったよ。あたしもさすがに怖い。自分のした事に…』


響歌『もう一度言っておくけど…私、まだ七瀬の事許した訳じゃないから』


七瀬『うん…わかってる』

そして二人は別れた。

⏰:11/07/15 23:04 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#339 [輪廻◆j6ceQ96kak]
家に着いた響歌は、制服を着たままで鞄をベッドに投げ机に向かった。


携帯電話を取り出し、ネット検索を行う。


『デスカメラ 真相』

検索。


検索結果の一番上から順にクリックしていく。


その中で


『デスカメラを使ってみた』

という掲示板のスレッドが表示された。

⏰:11/07/15 23:12 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#340 [輪廻◆j6ceQ96kak]
――――――――――
1:名無しさん

今話題のデスカメラを闇市で買った。

届いてからとりあえずこっそり妹を撮ってみた。

それから3日後くらいかな

妹が自転車との衝突事故にあった。

結果死ななかったんだが、1週間以内になんらかの事故が起こるっていうのがわかった気がする。
――――――――――


という内容だった。

⏰:11/07/15 23:18 📱:T004 🆔:YEuL6JbI


#341 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『やっぱりあのカメラの…』

偶然にしては出来過ぎている話に、ついにカメラを疑う他なくなった。


そのスレッドにきたコメントをゆっくりとスクロールして見る。


――――――――――
2:名無しさん

そんなん信じてんの?w

アホくさくて見てられんわ
――――――――――
3:名無しさん

噂では、その写真に写ってる人だけじゃなく、その人の身の回りの人にも不幸がくるらしいとの事。

妹さんの事を他人事みたいに言ってるけど、主さんも気をつけなね。
――――――――――

⏰:11/07/16 00:39 📱:T004 🆔:d7rYdsw.


#342 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それ以降の書き込みを見たが、スレッドを立てた本人の書き込みはなかった。


掲示板の最後に


――――――――――
500:名無しさん

500なら主は既に死亡
――――――――――


と書き込みされて終了されている。

⏰:11/07/20 23:29 📱:T004 🆔:NYqv5DJI


#343 [輪廻◆j6ceQ96kak]
結局、真相がわからないまま響歌は携帯電話を閉じた。



翌日―


教室に入るなり、先に来ていた七瀬が友達の元から響歌の方へと走ってきた。


七瀬『響歌…あのカメラについて何かわかった?』


響歌『…わからない。七瀬はあれからカメラ触ったりしてないよね?』


七瀬『うん、大丈夫。箱に入れて机の引き出しの中にしまったよ』

それを聞いてとりあえず安心して席に座った。

⏰:11/07/20 23:36 📱:T004 🆔:NYqv5DJI


#344 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しばらくして登校してきた蓮も鞄を置いて響歌と七瀬の元にやってきた。


蓮『よっ! お、久しぶりに見る光景。お前ら仲直りしたんだな』


響歌『…ばーか』


七瀬『…ははは』

一瞬、なんとも言えない空気が漂う。


蓮『…そうだ。昨日、兄ちゃんの部屋に兄ちゃんの撮った写真あったから持ってきたよ』

さりげなく言った蓮の言葉に、二人の目の色が一瞬にして変わった。

⏰:11/07/20 23:46 📱:T004 🆔:NYqv5DJI


#345 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『ほんと!? 見せて!』


七瀬『キリ! 早く!』


蓮『な、なんだよお前らその変わり様は…』

言われるがまま、蓮は自分の鞄から二枚の写真を取り出した。


響歌は差し出された写真を素早く取り上げて七瀬と恐る恐る見る。


一枚目には蓮の兄が写っている。


そして二枚目を見た二人は、一瞬にして言葉を失った。

⏰:11/07/20 23:52 📱:T004 🆔:NYqv5DJI


#346 [輪廻◆j6ceQ96kak]
七瀬『これ…キリだよね?』

暗い部屋で寝ている蓮が撮られている。


蓮『俺もそれ見つけた時はびっくりしてさ…』


響歌『これって、いつ撮られたの?』


蓮『俺が風邪にやられる前じゃない? だから多分、兄ちゃんがカメラ買った夜だと思う』


七瀬『これでバカなキリが風邪ひいたのも納得できる…のかな?』


蓮『おい、一言多いぞ井本!』

⏰:11/07/21 00:00 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#347 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『とにかくこの写真、焼いて捨てようよ』


蓮『…いいのか? こういう場合はまずお祓いしに行くもんじゃないの?』


響歌『お金かかるでしょ。引っ越しだってするんだし…』


七瀬『え? え? どういう事?』

二人の間に七瀬が割って入ってきた。

⏰:11/07/21 00:05 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#348 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『まあまあ、いいから! じゃあその写真の始末は村井に任せるわ。はいじゃあこの話は終わり! またな!』

そそくさと自分の席に戻っていく蓮を見送った七瀬は、視線を響歌に向けた。


七瀬『響歌…キリ、引っ越すの?』


響歌『…うん。卒業まではいるみたいだけどね』


七瀬『そうなんだ…』

七瀬の切ない表情から、何かを悟った響歌。

⏰:11/07/21 00:11 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#349 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『七瀬ってさ…』


七瀬『ん? なに?』


響歌『…なんでもない。そろそろチャイム鳴るから席戻りなよ』

そう言って、写真を鞄の中にそっとしまった。

⏰:11/07/21 00:19 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#350 [輪廻◆j6ceQ96kak]
下校時間―


蓮『村井! 写真の事、頼んだからな』


響歌『うん、わかってる』

七瀬も写真の始末に同行したいと言ってきたが、断った。


一旦家に帰り、マッチを持ち出して近くの河原へ向かう。


夕暮れ時の河原。

周りには小学生数人が野球をしている。

⏰:11/07/21 00:24 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#351 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その小学生の集団からなるべく離れた所に行き、写真を取り出す。


マッチをこすって火をつけると、二枚の写真に着火させる。


火がついた写真はみるみる内に姿形を変え、灰だけがボロボロと落ち、やがて消えた。


これでデスカメラによる呪いの連鎖は終わる…。


響歌は地面に残った灰を見下ろして、そう確信した―

⏰:11/07/21 00:32 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#352 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それから5日経った今、響歌はあの確信を撤回せざるを得なくなる―


それは日曜日の夜、買い物帰りに信号待ちをしていた時に起こった。


信号が青に切り替わり渡ろうとした瞬間…まさに一瞬の出来事だった。


響歌『……!!』

猛スピードでやってきた一台の軽自動車が響歌の身体をはねた。

ボンネットの上にはね上げられた響歌は声をあげる間もなく、その場に倒れ、やがて意識を失った―

⏰:11/07/21 00:42 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#353 [輪廻◆j6ceQ96kak]
目を覚ますと、響歌は病院で天井を見上げていた。


意識がハッキリした瞬間、下半身に今まで経験した事もない激痛が走った。


響歌『痛っ!!』

耐えながらも首だけを動かして自分の下半身を見る。


右脚には何重にも巻かれた包帯、そしてコルセットでガッシリと固められていた。


この時、自分の置かれた状況を把握する。

⏰:11/07/21 00:47 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#354 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『私…骨折しちゃったんだ…』

時間が経過するにつれ、今までの記憶もハッキリしてくる。


買い物帰りに車にはねられた事も思い出した。


自分がしっかりと生きている事を実感し、そっと目を閉じ再び眠りについた―

⏰:11/07/21 00:50 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#355 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌は夢を見た。


一人、暗闇にいる。

周りからは音が何もしない。

ただ、自分の呼吸の音と心臓の動く音だけが響く。


体が動かなかった。

まるで、両手両足を誰かに掴まれているような感覚。


次第に息苦しくなってくる。

誰かに口元を押さえられているような感覚。


響歌『くっ!』

やがて呼吸が困難になり意識が薄れてゆく。

⏰:11/07/21 00:55 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#356 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『…歌! 響歌!』


響歌『誰かが…呼んでる?』

ここでハッと目を覚ました。


ふと横を見ると、泣いている母親の姿があった。


母『響歌! 気がついた?』


響歌『お母さん…』

母親は両手で響歌の左手をぎゅっと握っていた。

⏰:11/07/21 01:01 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#357 [輪廻◆j6ceQ96kak]
母『桐谷君から響歌が事故にあったって電話があったの』


響歌『……蓮が?』


母『桐谷君、ちょうど現場の近くにいたらしいの』


響歌『…そうなんだ…』


母『倒れてるのがすぐに響歌だとわかって、近くの公衆電話から救急車を呼んでくれたのよ』


響歌『……ありがとう……蓮』

母親が泣く隣で、響歌も涙を流した―

⏰:11/07/21 01:09 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#358 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それからの響歌はリハビリを受けながらの入院生活が続いた。


蓮や七瀬、その他のクラスメイトも定期的にお見舞いに来てくれていた。



時期はあっという間に過ぎ―


無事退院した響歌はいつも通りの学校生活へと戻って行く―


久しぶりの学校、そして教室。


周りは普段通りワイワイと騒いでいる。

⏰:11/07/21 01:16 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#359 [輪廻◆j6ceQ96kak]
生徒A『ねえ! 出会い系殺人ネットって知ってる?』


生徒B『聞いた聞いた。出会った女の人を次々にリンチして殺してく集団なんだよね〜。怖くない?』


周りはすでに違う話題で盛り上がり、次第にデスカメラの事は忘れ去られていった。


しかし響歌だけは、忘れたくても忘れられないものとなった。


響歌には恐怖のフィルムが嫌な思い出として心の中に焼き付いたままだ―

⏰:11/07/21 01:27 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#360 [輪廻◆j6ceQ96kak]
中学三年生。

早くも卒業の春を迎えた。


卒業式を終えた翌日、桐谷蓮とその家族は父親の運転する車で遠くへと越していった。


響歌と七瀬はその車が見えなくなるまで見送る。


七瀬『行っちゃった…かぁ』


響歌『やっぱ寂しいんでしょ? ナナ』


七瀬『べ、別に!』


響歌『…顔赤いよ』

こうして呪いの連鎖は終わった…と響歌は今度こそ信じた。

⏰:11/07/21 01:35 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#361 [輪廻◆j6ceQ96kak]
自分自身の身に起きた事故はただの偶然。


そう思う事にし、新しい出会いと希望が待っている高校へと進んだ。


七瀬とは学校は離れ離れにはなったが、二人は今も親友として交友を深めている―


新しい高校生活のスタート。


しかしそれは同時に現在の彼女にもおける“魔のスタート”でもあった―



第3話 消失なる射影【完】

⏰:11/07/21 01:49 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#362 [輪廻◆j6ceQ96kak]
またあの夢だ。


暗闇の中で手足の自由がきかず、次第に息苦しくなり意識が薄れる。


そこで目を覚ます。


中学生の時に事故を起こした時から稀に見る夢。


夢から覚めた後も、まるで現実のようにハッキリと覚えている。


あの感覚を…。


思えばあの時から全ては始まっていたのかもしれない―

⏰:11/07/21 01:54 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#363 [輪廻◆j6ceQ96kak]
第4話【共鳴なる戦慄】


響歌『はっ!』

意識が途切れる瞬間に目を覚ます。

いつものアパートの部屋。


鳥の囀りが朝を伝える。

中学生の時のあの頃を思い出していた時に、またあの夢を見るようになっていた。


身体が重かった。

無理もない。


アルバイト先の仲間であり友達だった松下雪乃を亡くし、同じくアルバイト先の先輩だった吉田優斗が行方不明で響歌には精神的にショックが大きかった。

⏰:11/07/21 02:03 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#364 [輪廻◆j6ceQ96kak]
夜も二人の事やあの旅館での出来事などを考えると、寝られずにいる事も多々ある。


おかげでアルバイトには遅れる事もあり、店長にも幾度となく怒られる毎日が続く。


大学へは事情を話して休学届けを出している。


朝7時30分―


なんとか重い身体を起こして、キッチンに向かい冷蔵庫を開ける。

⏰:11/07/21 02:10 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#365 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『そりゃ何もないよね』

ここ最近はアルバイトから帰って来てもすぐに布団に入る事が多く、食べ物は買い溜めしておいたカップラーメンしかない状態だった。


仕方なくコンビニ袋に入った大量のカップラーメンの中から一つを出し、携帯電話を手に取る。


いつもはここらへんで雪乃からのおはようメールが送られてくる。


しかし、もう来る事はない。


そんな事はわかりきっているのに、ついつい携帯電話を開いてみる。


響歌『………』

⏰:11/07/21 02:16 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#366 [輪廻◆j6ceQ96kak]
電話帳を開いて、松下雪乃と吉田優斗のデータを消去し、携帯電話をベッドの上に乱暴に投げつけた。


途端に食欲が無くなり、カップラーメンのフタを中途半端に開けたままアルバイトの準備に入った。


午前8時を過ぎ、溜まったゴミ袋を持って早めに部屋を出る。


ゴミ捨て場にはいつも通り、掃除をしている隣人の武田の姿があった。


武田『あら村井さん、もう出掛けるの?』

⏰:11/07/21 02:30 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#367 [輪廻◆j6ceQ96kak]
精神的にも不安定でイライラしていた響歌は、武田の言葉を無視してゴミ袋をこれまた乱暴に投げ入れ、早歩きでその場を立ち去った。


武田『…………』

武田は首を傾げながら響歌の後ろ姿を黙って見ていた。


いつものバスに乗ってアルバイト先へと向かう。


店の店長や従業員は、雪乃や優斗の事を知らずにいる。


二人とは旅館に行ったという事で響歌に色々聞いてきたが、響歌は言っても信じてもらえないと思い、わからないと言い張った。

⏰:11/07/21 02:38 📱:T004 🆔:XtjzSh4A


#368 [でりーと]
でりーと

⏰:11/07/22 13:20 📱: 🆔:・・・


#369 [輪廻◆j6ceQ96kak]
今日も聞かれるのかと思うと、鬱になってくる。


二人の事を考えながらバスに揺られて外を眺めていると、窓の外に見覚えのある人物が目に入った。


響歌『…!!』

茶髪で長い髪をしたスラっとした体型の女性。


間違いなく、あの山の中で彼氏と思われる男性と一緒にいた女性だ。


響歌の命の恩人でもある人物だった。

⏰:11/07/22 13:32 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#370 [輪廻◆j6ceQ96kak]
早めにアパートを出た為、出勤にはまだ時間あると踏んだ響歌は、次の停留所でバスを降りて女性の元へ向かった。


響歌『あ、あの…』

女性は最初はキョロキョロしていたが、やがて振り返る。


『…はい?』

その特徴的なハスキー声にも聞き覚えがあった。


響歌『私の事、覚えてませんか?』

女性は首を傾げながら響歌の顔をジッと見つめる。

⏰:11/07/22 13:38 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#371 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『…あっ! もしかして響歌ちゃん?』


響歌『はい! あの時はありがとうございました!』

数週間ぶりの再会。

二人はすぐに意気投合した。


女性の名前は杉本麗奈、26歳という事だ。


麗奈に誘われ近くの喫茶店に入り、色々と話をする事にした。

⏰:11/07/22 13:46 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#372 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『それでどうなの? 行方不明の友達の事はまだわかってないの?』


響歌『…はい。手かがりが何もないそうで』


麗奈『そう…』

そう言って店員の運んできた珈琲を一口飲む。


麗奈『ウチはね…まだ許してないよ、あの男の事。…というか一生許さないと思う』


響歌『剛史さん…でしたっけ? あの、彼氏さんだったんですか?』

⏰:11/07/22 13:52 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#373 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『まあね。剛史はウチがまだ高校の時にウチの学校に転校してきた後輩で…そこで出会ったんだよ』


響歌『…なんか運命の出会いって感じですね』

それからは、俗に言うガールズトークで少しづつ盛り上がっていった。


時間も忘れて―

⏰:11/07/22 13:59 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#374 [輪廻◆j6ceQ96kak]
現実に戻されたのは一本の電話。


ディスプレイを見ると


『店長』の文字。


響歌『あっ、やばい! バイト!』


麗奈『え? そうだったの!? ごめん…ウチのせいだね』

あたふたしながら、電話に出ると店長の怒鳴り声。


そして最後に言い渡された。


『明日からもう来なくていい』

絶望的だった。

⏰:11/07/22 14:04 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#375 [輪廻◆j6ceQ96kak]
暗い表情で携帯電話を閉じる。


麗奈『…響歌ちゃん? 大丈夫?』

心、ここにあらず。

響歌は遠い目をしていた。


少し落ち着いた響歌は麗奈に話す。


麗奈『ほんとごめん!』


響歌『いえ…時間を忘れてた私が悪いんです』


麗奈『ウチにも責任あるよ。何かお詫びさせて? ね?』

二人は店を出ると、麗奈がどこかに電話をし始めた。

⏰:11/07/22 14:10 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#376 [輪廻◆j6ceQ96kak]
数分して電話を終えた麗奈が戻ってきた。


麗奈『よかったらこれから私の家に来ない? ちょっと紹介したい人もいるんだ』


響歌『誰ですか…?』

少し不安になりながら聞いた。


麗奈『剛史の弟だよ。響歌ちゃんって彼氏はいるの?』


響歌『……私、やっぱり帰ってもいいですか?』


麗奈『待って! というかね、剛史の弟が響歌ちゃんに会いたがってるの』

⏰:11/07/22 14:17 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#377 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『…どういう事ですか?』

なぜか胸騒ぎがした。


麗奈『あの後ね、みんなに話したの。全部。そして響歌ちゃんの話をしたら剛史の弟の目の色が変わってさ…』


響歌『そんな事言われても…』


麗奈『とにかくこれから行こ。近くの駐車場に車止めてあるから』

言われるがまま、響歌は麗奈について行った。

⏰:11/07/22 14:22 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#378 [輪廻◆j6ceQ96kak]
30分くらいして、車は一軒家の前で停止した。


麗奈『じゃ、入って入って』


響歌は車から降りて何気なく見た表札に驚愕した。


『桐谷』


響歌『ま、まさか…』

心の中でそう思いながらも胸騒ぎは大きくなる。


麗奈『どうしたの?』


響歌『い、いえ。それより麗奈さんの苗字って…』

⏰:11/07/22 14:30 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#379 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『ああ…。ウチ一人でアパートに住んでるのもなんだからって剛史の両親が一緒に住もうって言ってくれたの』


響歌『はあ…なるほど』


麗奈『ちょっと先にいってもらってていい? 車、車庫に閉まってくるから』

麗奈は車の中に入り、響歌は門の前に立ち尽くす。


震えた手でチャイムを鳴らすと、しばらくしてドアから男性が一人出てきた。

⏰:11/07/22 14:35 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#380 [輪廻◆j6ceQ96kak]
背が高く、髪は茶色。

服装などもどこか今風の容姿だ。


『どちらさんすか?』

男性が響歌の顔を見るなり聞く。


名乗るのを一瞬ためらうも、口が勝手に動いた。


響歌『村井…響歌です』

そう名前を言うと、男性はピンときたように目を大きく見開いた。

⏰:11/07/22 15:48 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#381 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『やっぱり村井か!』


響歌『え…?』

男性が近づいてくると、響歌は後ずさりしていく。


そこにやってきた麗奈の身体にぶつかった。


麗奈『わっ! 響歌ちゃんどうしたの?』


響歌『あっ、すみません…』

響歌はあからさまに動揺した。

当然である。

⏰:11/07/22 15:52 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#382 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『蓮ちゃん、響歌ちゃんに何かしたの?』

麗奈のその言葉でハッキリした。


響歌『……蓮……なの?』


蓮『よっ、久しぶり』

二人のこの異様な雰囲気に麗奈はニヤけた。


麗奈『やっぱり蓮ちゃん、響歌ちゃんと知り合いだったんだ?』


蓮『中学ん時の同級生だよ。な? 村井』


響歌『え? あ、うん…』

⏰:11/07/22 15:56 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#383 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『とにかく、話は中でしよ。さ、響歌ちゃんも入って』


中に入り、リビングのソファに響歌を座らせた。


向かいに蓮が座り、麗奈はキッチンで何かをしている。


蓮『村井、お前かなり変わったな…』


響歌『それはこっちのセリフだよ。何そのチャラチャラした格好。全然似合ってないし』


蓮『お前こそなんだよその長い髪。中学ん時は短くて男っぽかったのに』


響歌『…男っぽいは余計だし』

響歌にはこういうやりとりの感覚がとても懐かしく思えた。

⏰:11/07/22 16:06 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#384 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『はい、こんなのしかないけど』

そう言って紅茶とお菓子を持ってきた。


響歌『あ。ありがとうございます…』

麗奈は響歌の隣に座るなり、話を始めた。


麗奈『響歌ちゃん…。デスカメラって知ってる?』


響歌『…ぶっ!!』

麗奈の言葉に思わず口にした紅茶を少し吐き出す。


その名前を聞くのは数年ぶりだったからだ。

⏰:11/07/22 16:14 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#385 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『村井、驚きすぎ…』

蓮がティッシュを数枚取って響歌に渡す。


麗奈『驚かせちゃったのかな…?』

響歌は申し訳なさそうな麗奈を気づかって、何度も気にしないでくださいと言った。


麗奈『蓮ちゃんから聞いたの。響歌ちゃん達が中学生の時に流行ってたんだよね? デスカメラ』


響歌『はい…まあ』

なぜか嫌な予感が遮る。

⏰:11/07/22 16:21 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#386 [輪廻◆j6ceQ96kak]
もう一度その名前を聞く事になるとは思っていなかった。


いや、むしろ聞きたくはなかった。


響歌にとっては苦い思い出ばかりだからだ。


その思いを堪えて、麗奈の話を黙って聞く。


麗奈『それ、剛史が以前使った事があるんだって。それで自分を撮った数日後に事故に遭ったって』


蓮『…………』

蓮も黙って下を向いている。

⏰:11/07/22 16:25 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#387 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『剛史…蓮ちゃんも撮ってたみたいで、蓮ちゃんも原因不明の風邪ひいたでしょ』


響歌『……』


麗奈『ウチ、それ聞いて偶然とは思えなくなって、色々と調べてみたの』

と、ソファを離れて棚から一冊のノートを取り出してきた。


麗奈『まず、デスカメラは購入金額がなんで無料なのかを調べたのね。それは、お金の変わりに買った人の個人情報を取ってどこかに売ったりしてるみたいなんだよね』

それを聞いた響歌の背筋が凍った。

⏰:11/07/22 16:31 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#388 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『響歌ちゃん? 大丈夫? 顔色悪いけど…』


響歌『い、いえ…なんでもないんです…』

そう言って見せる余裕の表情とは裏腹に心の中はひどく動揺していた。


数年前、なぜか響歌の家に届いたデスカメラ。


理由は、当時の響歌の親友による個人情報の悪用により響歌の家に届いた。

⏰:11/07/22 16:35 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#389 [輪廻◆j6ceQ96kak]
当時は、その個人情報が裏で取り引きされているなんて想像さえしていなかった。


今の麗奈の言葉を聞くまでは…。


麗奈『その後…剛史は個人情報を悪用されたみたい。出会い系殺人ネットっていう会員制のサイトに登録されて…』


蓮『もうやめてくれよ…その話!』

そこで麗奈の話を遮った蓮。

その表情は苦しそうだった。

⏰:11/07/22 16:44 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#390 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『蓮…?』

今まで見た事がない蓮の表情に、戸惑う響歌。


麗奈『蓮ちゃん…ウチはその連鎖を止めたいだけなの。あの山で剛史を殺したあの男ももしかしたら…』

そこまで言うと、蓮はその場から立ち上がって二階へと上がっていった。


麗奈『なんかごめんね、響歌ちゃん…』


響歌『お兄さんが死んで一番苦しんでるのは蓮だと思うんです…私も何かしてあげられたら…』

⏰:11/07/22 16:49 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#391 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『……復讐……』

彼女は遠い目をしながらそう一言呟いた。


響歌『えっ?』


麗奈『そうだよ…あの男に復讐しなきゃ、剛史が浮かばれないんだよ…』

自分で自分に言い聞かせるように言った。


その麗奈の表情は静かだが、どこか暗かった。


麗奈の心の奥底に眠っているもう一人の自分が目覚めたように―

⏰:11/07/22 16:54 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#392 [輪廻◆j6ceQ96kak]
静まり返ったリビングには時計の針の音だけが響く。


響歌『あ、あの…』

異様な雰囲気の中、麗奈に声をかける響歌。


麗奈『…なあに?』

彼女はそう笑顔で答えたが、その表情に違和感を感じた。


何かに取り憑かれたような、何か不自然な笑顔に。


響歌『わ、私…そろそろ帰りますね』

座っていたソファから立ち上がると、麗奈の手が響歌の腕を掴んだ。

⏰:11/07/22 18:47 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#393 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そして腕を掴んだまま、下に引っ張って再び響歌をソファに座らせる。


響歌『な、なんですか?』

少し恐怖を覚え、麗奈の手を逆の手で振り払おうとするがガッシリ掴んで離れない。


麗奈はゆっくりと響歌の方に視線を向けた。


その顔は不自然な笑顔のままだ。

⏰:11/07/22 18:53 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#394 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『響歌ちゃん…前に言ったよね。何かお礼させてくださいって…』


響歌『…た、確かに言いましたけど、あれはちゃんと車の鍵を持ってきましたし…』


麗奈『でもウチらがあの場所を通らなかったら響歌ちゃん、今頃どうなってたかわからないよね…?』

まるで脅すような物言いだ。


今までの彼女とは別人のような豹変ぶりだった。

⏰:11/07/22 19:01 📱:T004 🆔:7DA9vZNk


#395 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そして単刀直入に言った。


麗奈『あの男に復讐しようよ…』


響歌『…復讐…?』


麗奈『響歌ちゃんも親友の女の子をあの男に殺されたんでしょ? だったら…』

麗奈の手が少し緩んだのを見計らって、思い切り手から腕を放した。


響歌『麗奈さん…どうかしちゃったんですか…? そんな事しても同じ繰り返しになっちゃいますよ!』


麗奈『……』

彼女はしばらく下を向いて黙っていたが、やがて顔を上げる。

その目からは涙が溢れ出ていた。

⏰:11/07/23 00:04 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#396 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『だって…剛史はもう帰って来ないんだよ…。ウチはこれからどうやって生きてけばいいの…?』

かける言葉が見つからなかった。


彼女の泣き顔をただ黙って見ていると、階段から蓮が下りてきた。


蓮『…どうかしたの?』


響歌『麗奈さんが…』

蓮が麗奈の元へ歩み寄る。

⏰:11/07/23 00:10 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#397 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『元気出せよ…。俺も悲しいけど、復讐なんてくだらないよ。警察に任せようぜ』

蓮が優しい言葉をかけると、麗奈は声を出して泣き始めた。


蓮『村井、悪いけど今日は帰ってくんない?』


響歌『う、うん…』

蓮の威圧感を放つ表情を見た響歌は、一言だけうなずいて家を出た。

⏰:11/07/23 00:18 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#398 [輪廻◆j6ceQ96kak]
外へ出たのはいいものの、帰り道がわからなかった為にタクシーを呼んで自分のアパートへ帰る事にした。


部屋に帰るなり、服も着替えずにベッドに身を投げる。


響歌『バイトどうしよ…』

本日付でアルバイトを辞めさせられてしまった響歌。


これからの生活の事を考えると、まさに一寸先は闇というべき事態だ。

⏰:11/07/23 00:23 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#399 [輪廻◆j6ceQ96kak]
翌日―


響歌は昨日の状態のままベッドで寝ていた。


気がつくと朝になっていた。


重い身体を起こして、洗面所で冷たい水で顔を洗う。


響歌『……』

鏡に映った自分の顔をジッと見つめる。


響歌『なんつー顔してんだろ私…』

目の回りの化粧を洗い残したまま洗面所を出て座椅子に座った。

⏰:11/07/23 00:30 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#400 [輪廻◆j6ceQ96kak]
携帯電話を開く。


新着の電話もメールもない。


ふと昨日、喫茶店で話の流れから麗奈と電話番号とメールアドレスを交換したのを思い出した。


昨日あれからどうなったのか気になった響歌はメール画面を開く。


『大丈夫ですか?』

と、宛先を麗奈に設定して送信した。

⏰:11/07/23 00:34 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#401 [輪廻◆j6ceQ96kak]
意外にも返事は早く返ってきた。


『大丈夫。昨日はごめんね』

響歌はこの文章を見て安心し胸をなで下ろす。


続けてメールを打つ。


『私にできる事だったら何でもするのでいつでも言ってくださいね。あと何か仕事があったら紹介してください』

…と、送信。

⏰:11/07/23 00:43 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#402 [輪廻◆j6ceQ96kak]
これまたすぐの返事。


『ありがとね。昨日はウチのせいでホントごめん!

うん、仕事あったらすぐ連絡するね』

彼女が落ち着いた事に安心した途端、突然空腹に襲われた。


響歌『そーいえば昨日からご飯食べてないや…』

お腹が大きく鳴る。


すぐにキッチンに向かいお湯を沸かし、袋から大量にあるカップラーメンを一つ取り出した。

⏰:11/07/23 00:51 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#403 [輪廻◆j6ceQ96kak]
ラーメンを無我夢中ですすり、気がつくと2個目までいっていた。


食べ終わってベッドで寝転がっていると、携帯電話の着信音が響いた。


慌ててテーブルの上にあるのを取りに行って電話に出る。


響歌『…はい?』


『ザザザザザ……………あ゙あ゙あ゙あ゙……』

ノイズと共に人の唸り声のようなものが聞こえてくる。

⏰:11/07/23 01:02 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#404 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その声に、お昼前だというのに急に薄気味悪く感じて通話をすぐに切った。


着信履歴を見てみると


『非通知』

の文字。


何かのイタズラだと思い携帯電話の電源を切ってその場に放置し、再びベッドに寝転んだ。

⏰:11/07/23 01:06 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#405 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そして本を読んだりしていると、次第にあの電話の事は忘れていった。


…………。


響歌『もう17時か…』

窓からは赤い夕日が雲と雲の間から覗き込んでいる。


ベッドから起き上がって携帯電話を取り電源をつけた。


画面が現れてしばらくしてから出た表示に響歌は驚く。


『新着通知:101件』


響歌『は…? なにこれ…』

そのほとんどが着信履歴だった。

⏰:11/07/23 01:16 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#406 [輪廻◆j6ceQ96kak]
順番に見ていくと全てが非通知で、更に留守録が入っている。


どうせさっきのようなイタズラだろうと思った響歌は、留守録を一つも聞く事なく履歴を全て消去した。


メールも来ていたので、受信ボックスを見る。


いわゆるメルマガなどがほとんどであったが、中に件名に『登録完了』と書かれたメールを発見した。

⏰:11/07/23 01:23 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#407 [輪廻◆j6ceQ96kak]
恐る恐るそのメールの中身を見た。


――――――――――
Frm:DEATH net
Sb:登録完了

kyouka murai 様

この度はDEATH netに
登録頂きまして
誠にありがとうございます。

ID:******
PASS:******

お客様のポイント:500P

ポイント追加購入はコチラへ
――――――――――


…と、まるでどこかの出会い系サイトに勝手に登録され送られてくるメールのようだった。

⏰:11/07/23 01:37 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#408 [輪廻◆j6ceQ96kak]
すぐに削除するが、メールは次々に送られてきた。


内容は


『人を殺してスッキリしませんか?』などという意味不明なものだった。


当然身に覚えのない響歌は、メールアドレスを変更する。


アドレス変更の知らせを他の友達や麗奈に送った。


メールが来なくなって安心したのも束の間、それから非通知の電話が何度もかかってきた。

⏰:11/07/23 10:47 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#409 [輪廻◆j6ceQ96kak]
試しに出ると、相変わらずノイズに人の唸り声。


『あ゙あ゙あ゙あ゙……ザザザザザザ……』


響歌『いい加減にしてください! 警察に通報しますよ?』

そう言った途端―


『ザザザザザ……コロス!』

そこで電話はプツっと切れた。

⏰:11/07/23 10:53 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#410 [輪廻◆j6ceQ96kak]
電話の向こうで何者かが最後に発した言葉に『戦慄』という言葉が脳裏をよぎり、恐怖を覚えた。


なんとなく落ち着かなくなり、部屋の鍵が閉まっているのを確認しにいき、他の窓なども閉め切った。


それからあの電話がきてからというもの部屋の中で誰かに見られていたり、背後から誰かにつけられているような錯覚に陥り、ベッドに潜り込んで引きこもる日々が続く。


電話は毎日のように、ひどい時は1日に200件近くの着信があり、ノイローゼになりつつあった。

⏰:11/07/23 11:02 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#411 [輪廻◆j6ceQ96kak]
>>2-64 1話
>>65-261 2話
>>262-361 3話

時系列は現在3話→1話→2話となっておりますが、1話目から見て頂ければ幸いですm(_ _)m

⏰:11/07/23 12:04 📱:T004 🆔:SaD6jMfQ


#412 [輪廻◆j6ceQ96kak]
数日後―


響歌の携帯に再びDEATH netからのメールがきた。


内容は、メールアドレスの変更が完了したという事を伝えるものだった。


電話も相変わらず鳴る中、響歌はとうとうある疑惑を持ち始める。


響歌『誰かが…私の個人情報を悪用してる…?』

響歌のメールアドレスを変更した内容を伝えた人物は限られている。


その人物ら中に、響歌のメールアドレスを使って悪質なサイトに登録したのかもしれないと考えた。

⏰:11/07/25 01:59 📱:T004 🆔:.qVFQkJU


#413 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その時、一瞬頭の中に一人の人物の顔が浮かんだ。


響歌『…麗奈…さん…?』

首を横にブルブルと振る。


響歌『あ、あり得ないよ。何考えてんの私…』

彼女を疑うなんてどうかしてる、と自分に言い聞かせた所で再びメール着信。


そっと携帯を開くと、そこには信じられない文章が待っていた―

⏰:11/07/25 02:04 📱:T004 🆔:.qVFQkJU


#414 [輪廻◆j6ceQ96kak]
――――――――――
Frm:DEATH net
Sb:おめでとうございます


kyouka murai 様

おめでとうございます。

あなたはこの度、142人目のターゲットに選ばれました。

近々、あなたの元へ会員の皆様がお伺いします。

栄光を称え、ポイントを進呈致します。


進呈ポイント:500P
――――――――――


…目を疑った。

その時、すぐにわかった。


『DEATH net』とは麗奈が言っていた『出会い系殺人ネット』の事であると。

⏰:11/07/25 02:12 📱:T004 🆔:.qVFQkJU


#415 [輪廻◆j6ceQ96kak]
突如、とてつもない恐怖と寒さを肌に感じた響歌は携帯電話の電源を切ってベッドに潜り込んだ。


響歌『なんで…なんで私なの…!』

あまりの恐怖と戦慄に涙がボロボロとこぼれ落ちる。



あの日からよく見ていた夢―


あの夢は、これから起きる出来事を予知していたのだろうか―?


そう考えれば考えるほど、眠りにつくのが怖くなった。


そして一日一日が過ぎるのも怖くなり、一日中部屋に閉じ込もる日々が続く。

⏰:11/07/25 02:20 📱:T004 🆔:.qVFQkJU


#416 [輪廻◆j6ceQ96kak]
携帯電話の電源も一切つけないで放置している。


それからあの夢は毎日見る様になった。


しかし不思議な事に、その夢は見る度に少しづつ内容が変わっていた。


手足を縛られ息ができない状態でいると、暗闇の向こうから少しづつ誰かが近づいてくるのだ。


顔は全く見えない。

男なのか女なのかさえも判別がつかない。


ただゆっくりとその人物は確実に響歌の元へ向かって進んできている。

⏰:11/07/25 02:26 📱:T004 🆔:.qVFQkJU


#417 [輪廻◆j6ceQ96kak]
夢が現実となる日―


運命は交錯する―



とある深夜の2時を過ぎた頃、響歌の部屋のチャイムが鳴らされた。


もうあの夢を見るのが精神的にも限界になった響歌は眠らずに明かりのついた部屋のベッドの上で体育座りをしていた。


深夜に鳴ったチャイムに鳥肌が立ち、嫌な汗が流れる。

⏰:11/07/25 02:33 📱:T004 🆔:.qVFQkJU


#418 [輪廻◆j6ceQ96kak]
すぐに部屋の電気を消して息を殺した。


チャイムが2、3回鳴らされた所でかすかに声がした。


『村井さん、村井さん!』

聞き覚えのある声だ。


響歌『武田さん…?』

響歌の部屋の隣に住む隣人の武田の声である。

⏰:11/07/25 23:23 📱:T004 🆔:.qVFQkJU


#419 [輪廻◆j6ceQ96kak]
再び部屋の電気をつけて玄関へ向かう。


ドアにある覗き穴からそっと外を見ると間違いなく武田の姿があり、安心した響歌はドアを開けた。


武田『遅くにごめんなさいね。あのね、最近村井さんの部屋の前になんか変な人達がいる事が多いから気になって』


響歌『…え?』

一瞬背筋が凍る。

⏰:11/07/25 23:41 📱:T004 🆔:.qVFQkJU


#420 [輪廻◆j6ceQ96kak]
武田『夜とかね、ゴミを捨てに行く時に見かけるのよ。おばさんの顔見たらすぐに逃げていくんだけど。何か心当たりとかあったりするの?』


響歌『ありませんありません!』

首を横に思い切り振って否定した。


武田『それで今さっきも見かけたのよ。怪しかったから注意しようとしたんだけど…すぐに逃げてったわ』


響歌『ど、どんな人達だったんですか…?』

怖いが思い切って聞いてみた。

⏰:11/07/25 23:46 📱:T004 🆔:.qVFQkJU


#421 [輪廻◆j6ceQ96kak]
武田『男の二人組よお。年齢は一人が30代、もう一人が40代くらいだったわ』

そんな二人と知り合った事もないが、響歌はすぐに彼らの正体を理解した。


響歌『デスネット…会員…』

響歌の独り言のようなその呟きを聞いた武田は首をかしげている。


響歌『わざわざ教えてくれてありがとうございます…』


武田『戸締まりはきちんとしておいた方がいいわよ。今は物騒だからねえ』

と、寒いのか体をぶるぶると震わせながら自分の部屋に帰っていった。

⏰:11/07/25 23:57 📱:T004 🆔:.qVFQkJU


#422 [輪廻◆j6ceQ96kak]
部屋に戻った響歌。


そのまま一睡もする事なく朝を迎えた。


朝の眩しい日差しが室内を照らす。


久しぶりに、ずっと放置していた携帯を拾い上げて電源をつける。


『新着通知:48件』

予想とは違い、以前よりは減っている着信。


電話とメールが半々で来ていた。


電話着信の履歴を見ると、非通知の中に麗奈の名前を発見する。

⏰:11/07/26 23:13 📱:T004 🆔:sv3qIVXs


#423 [輪廻◆j6ceQ96kak]
履歴によると昨日のお昼頃からの着信。


留守録も残されていたので、それを聞いてみる事にした。


『…響歌ちゃん? 麗奈です。ええと…昨日から蓮ちゃんが行方不明になりました。どこか心当たりがあったら教えて欲しいのでこれを聞いたら連絡ください。待ってます』

その留守録を聞き終わった後の響歌は放心状態で、力のなくなった手から携帯電話が床に落ちた。

⏰:11/07/26 23:25 📱:T004 🆔:sv3qIVXs


#424 [輪廻◆j6ceQ96kak]
数分後―


我に帰り、落とした携帯電話を手に取って麗奈に電話した。


『……もしもし?』

暗い声で彼女が出る。


響歌『麗奈さんすみません! 私…携帯の電源切ってて…』


『気にしないで…。それよりこれから会える?』


響歌『大丈夫です! あの! 蓮が行方不明って…』


『詳しい事は後で話すよ。響歌ちゃんの家の住所教えてくれる? すぐ行くから』

響歌は電話口で住所を言って、もう一度一言だけ謝ってから通話を切った。

⏰:11/07/26 23:36 📱:T004 🆔:sv3qIVXs


#425 [輪廻◆j6ceQ96kak]
携帯電話をテーブルに置いて部屋を見渡すと、あまりの汚さに気がつき片付けを始めた。


脱ぎっぱなしにしてある服などを洗濯機に放り込んでいる時、部屋のチャイムが鳴った。


響歌『は、早いな…』

先ほどの麗奈との通話が終わってから5分もしない間に、もうやって来たのかと驚く。


しかし麗奈しかいないと思った響歌はドアの覗き穴から外を確認する事もなくドアチェーンと鍵を外してドアを開ける―


あの日、麗奈が同居している蓮の家からタクシーでアパートへ帰宅する際、片道1時間近くかかった事を響歌は忘れていた―


ドアを開けた先には、二人組の見知らぬ中年の男が響歌を待ち受けていた―

⏰:11/07/26 23:50 📱:T004 🆔:sv3qIVXs


#426 [みゆ]
続き気になりますっ!


もう結末とか決めてたりはされてるんですか〜??

⏰:11/07/27 19:38 📱:841SH 🆔:apuPnhgg


#427 [輪廻◆j6ceQ96kak]
>>426さん

そう言ってくださると非常にやる気が出て嬉しいです。

結末は…構想はできてますね。

私はどんでん返し系のお話が大好きなので、この作品もできたらやりたいですね(^^)

というか内容がホラー路線からかなりズレちゃってますね(笑)

⏰:11/07/27 23:09 📱:T004 🆔:WPC53TuY


#428 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男性二人は怪しい笑みを浮かべながら響歌の顔を凝視していた。


すぐにドアを閉めようとしたが、男性の一人がとっさにドアノブを向こうから力強く引っ張った。


そのあまりの力に響歌の身体ごと外へと引っ張り出される。


響歌『きゃあっ!』

小さな悲鳴をあげると、もう一人の男性が今度はいやらしい目つきで響歌を見た。

⏰:11/07/27 23:17 📱:T004 🆔:WPC53TuY


#429 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『かわいいね。こんなかわいい子がターゲットなんて可哀想だなぁ』

そう言って次は同情の目をした。


響歌『な、なんですかあなた達…』

身の危険を感じたらすぐ逃げれるように、階段側の方にゆっくりと歩み寄りながら言った。


『デスネットから連絡あったでしょ? 僕達、事務局から言われて君を殺すように言われてきたの』

そう言う男の顔は決して冗談を言っている表情ではない。

⏰:11/07/27 23:24 📱:T004 🆔:WPC53TuY


#430 [輪廻◆j6ceQ96kak]
ここいたらやばい。


直感でそう感じた響歌はとっさに後ろを振り向いて階段の方へ走った。


しかし、そこで階段を上がってきた誰かの体とぶつかる。


思わずその場にしりもちをつくようにして倒れた。


ゆっくり上を見上げると、見知らぬ男の姿があった。


『大丈夫?』

20代後半くらいの男はそう言って手を差し出したが、響歌はその男の体の横をすり抜けようとした。

⏰:11/07/27 23:31 📱:T004 🆔:WPC53TuY


#431 [輪廻◆j6ceQ96kak]
が―


男はその行動を読んでいたかのごとく、一瞬で後ずさりして階段の道を体で塞いだ。


反対側には中年の二人組がいる。


完全に行き場を失った響歌は、ふと右に目をやる。


『武田』

と書かれたプレート。

そう、隣人の武田の部屋が目についたのだ。

⏰:11/07/27 23:36 📱:T004 🆔:WPC53TuY


#432 [輪廻◆j6ceQ96kak]
彼女に助けを求めようと、武田の部屋のインターホンを押した。


本来ならばここで阻もうと男達が血相を変えてこちらへ走ってくると思っていたが、全くそんなそぶりを見せる事なく男達は黙って見ていた。


しばらく待つも、中から武田が出てくる様子はない。


その時、理解した。

この男達は武田が留守だと知っている…と。


『残念だったね。さあ、行こうか』

と、中年二人がゆっくりと近づいてくる。

⏰:11/07/27 23:45 📱:T004 🆔:WPC53TuY


#433 [輪廻◆j6ceQ96kak]
もうダメだと思いその場に崩れ落ちた時―


一台のパトカーがアパート前に停車した。


男達は『まさか!』と言わんばかりの表情を見せて逃げようとするも、パトカーから素早く降りてきた二人の警官にあっけなく取り押さえられた。


響歌は安心の溜め息を小さく吐いて立ち上がった。

⏰:11/07/27 23:51 📱:T004 🆔:WPC53TuY


#434 [輪廻◆j6ceQ96kak]
警官の一人が階段を上って、響歌の元へやってきた。


『大丈夫ですか?』

頼りになりそうなガタイのよう警官に言われ、すぐに『大丈夫』と答えた。


『このアパートの住人と名乗る方から、怪しい男数人がウロウロしていると通報がありましてね…』

それを聞いてすぐに通報したのが武田だとわかった。

⏰:11/07/27 23:54 📱:T004 🆔:WPC53TuY


#435 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そしてその警官は響歌の耳元で小さく呟くように言った。


『命拾いしたな』

その言葉に、ゾクッと顔から背中にかけて冷たい風を感じた。


警官はニヤっと笑うと、階段を降りてパトカーへと乗り込んでいった。


響歌は完全に言葉を失った―

⏰:11/07/29 11:18 📱:T004 🆔:t7jC03ts


#436 [輪廻◆j6ceQ96kak]
武田『村井さん村井さん!』

ほうきを手にした武田が現れ響歌の名を呼ぶ。


彼女は心配そうな顔で階段を上ってくる。


武田『村井さん大丈夫? 怪我はない?』


響歌『はい、なんとか…』

力なく答えた。


武田『この近くを掃除してたら3人の男がアパートの前でウロウロしてたからね、気になって通報したのよ』

⏰:11/07/29 12:00 📱:T004 🆔:t7jC03ts


#437 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『ありがとうございます…』

彼女に感謝の気持ちを伝え、部屋に戻って麗奈が来るのを待った。



20分後―


チャイムが鳴った。

警戒しつつドアの覗き穴から外を確認。


向こう側には、茶髪で髪の長い麗奈が確かにいた。


安心してドアを開け彼女を中へ招き入れた。

⏰:11/07/29 12:07 📱:T004 🆔:t7jC03ts


#438 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『コーヒーでいいですか?』


麗奈『…ありがとう』

元気がないようだ。

よく見ると、寝ていないのか目が虚ろになっている。


温かいコーヒーを差し出し、麗奈の前に座った。


響歌『あの…大丈夫ですか?』


麗奈『…………』

返事がない。

ふと見ると、麗奈は下を向いたまま何やらぶつぶつと呟いていた。

⏰:11/07/29 12:13 📱:T004 🆔:t7jC03ts


#439 [輪廻◆j6ceQ96kak]
彼女にただならぬ雰囲気を感じた響歌は、思わずその場から後ずさりした。


同時に麗奈の口にした言葉が聞き取れてしまった。


『コ…ロ…シ…テ…ヤ…ル』

そう言って彼女はゆっくりと立ち上がる。


響歌は視線を麗奈の顔にやった。


麗奈の目は何か別のものを見ているような、まるで獲物を狙う獣のようである。


よく見ると唇も青紫色に変色していた。

⏰:11/07/29 12:19 📱:T004 🆔:t7jC03ts


#440 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌は身動きが取れず固まった状態で彼女を見ていた。


視線を外そうとしても、何かの力が働いているようで彼女の顔から外れない。


響歌『麗奈さん…?』

彼女はその獣のような目を響歌へ向けると、ゆっくり歩み寄ってきた。


『私、殺されるの…?』

そう心の中で問いかける。

⏰:11/07/29 12:25 📱:T004 🆔:t7jC03ts


#441 [輪廻◆j6ceQ96kak]
目をぎゅっとつぶり『これは夢だ!』と必死に心の中で言い続けた。


『ピンポーン』

チャイムの音で夢から現実に引き戻されたような感覚になりゆっくりと目を開けると、そこにさっきまでの麗奈の姿はなかった。


『響歌ちゃん、ウチ』

玄関の方から声がする。

麗奈のいつもの健康そうな声だ。

⏰:11/07/29 12:34 📱:T004 🆔:t7jC03ts


#442 [輪廻◆j6ceQ96kak]
急いでドアを開けた響歌は、外で待っていた麗奈に思い切り抱きついた。


麗奈『ど、どうしたの?』

響歌は子供のように泣きながら『麗奈さん』と何度も言い続けた。


なんとか落ち着きを取り戻し、再びコーヒーを麗奈に差し出す。


麗奈『ありがとう。ところで…何かあったの?』


響歌『いえ…なんでもないんです』

先ほどの事を話しても信じてもらえないと思い、口をつぐんで喋らなかった。

⏰:11/07/29 12:45 📱:T004 🆔:t7jC03ts


#443 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『それより、蓮がいなくなったって本当ですか?』


麗奈『うん。一昨日、朝起きたらいなくて…。蓮ちゃん携帯持ってないから連絡とれない状態なんだよね。結局それから家に戻ってきてないの』


響歌『心当たりとかは…?』


麗奈『わからない…。ウチとお父さんで探しに行ったりもしたんだけどね…』

それを聞いて心配と同時に胸騒ぎがした。

⏰:11/07/29 12:56 📱:T004 🆔:t7jC03ts


#444 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮とは中学の頃からお互いをよく知り合っていた存在だっただけに他人事とは思えなくなった響歌。


響歌『私も探します!』


麗奈『ありがとう。ウチも蓮ちゃんと親しかった人を当たってみる』

しばらくして、麗奈の携帯電話の着信音が鳴った。


麗奈『蓮ちゃんのお父さんからだ。ちょっと待ってね』

麗奈が電話で話をしている中、響歌は出掛ける準備に取りかかった。

⏰:11/07/29 13:08 📱:T004 🆔:t7jC03ts


#445 [輪廻◆j6ceQ96kak]
数分して、通話を終えた麗奈がゆっくりと言った。


麗奈『蓮ちゃん…見つかったって』


響歌『ほ、ホントですか?』

嬉しい報告に胸がホッとして体の力が段々抜けていくのがわかった。


麗奈『警察に…あの男に面会に行ってたみたい』


響歌『あの男って…』

安心したのも束の間、すぐに嫌な汗が流れる。

⏰:11/07/30 11:01 📱:T004 🆔:u/Ao7u1E


#446 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『これから、蓮ちゃんのお父さんが警察に迎えに行くって』


響歌『あの! 私も行ってもいいでしょうか?』


麗奈『うん、行こう。じゃあウチの車乗って!』

二人はすぐに車に乗り込んで、蓮が行ったという警察署に向かった。

⏰:11/07/30 11:05 📱:T004 🆔:u/Ao7u1E


#447 [輪廻◆j6ceQ96kak]
1時間近くの距離を走った所で大きな警察署が見えてきた。


近くのコンビニに車を停車し、二人は門の方へ。


そこに蓮とその父親の姿があり、警官に頭を下げている所だった。


麗奈『蓮ちゃん!』

蓮は麗奈の声に反応し、後ろを振り返る。

⏰:11/07/30 11:18 📱:T004 🆔:u/Ao7u1E


#448 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『…なんで村井までいるの?』

麗奈から響歌へ視線を向けて言う。


麗奈『響歌ちゃんはアンタの事をすごい心配してたんだよ? そんな言い方ないんじゃない?』

麗奈が強い口調で言うと、蓮は無言でポケットに手を突っ込んでそっぽを向いた。


『おい蓮、ちゃんとこの子に礼を言うんだぞ。こんなお前でも心配してくれてる人がいるんだから』

父親がそう言って頭をポンと叩くと、蓮は拳をぶるぶると震わせはじめた。

⏰:11/07/30 11:31 📱:T004 🆔:u/Ao7u1E


#449 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『うるせーよ! ホントの親父でもない癖に偉そうに言ってんじゃねーよ!』

突然の蓮の暴言に響歌は唖然とする。


そこには今まで見た事がない蓮の姿があった。


蓮『麗奈、悪いけど車乗せて』

響歌が、とりつく島がないとはこの事だと実感した時だった。

⏰:11/07/30 11:37 📱:T004 🆔:u/Ao7u1E


#450 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈の車に乗り込んだ三人。


運転中はシーンとした沈黙がずっと続く。


麗奈『お、音楽でもかけよっか』

この空気に息苦しくなったのか、麗奈はカセットテープを取り出しステレオにセットした。


陽気な音楽が流れると、今までの深い霧が一気に晴れたようだ。

⏰:11/07/30 11:48 📱:T004 🆔:u/Ao7u1E


#451 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮に聞きたい事が沢山あるが、思うように聞けないでいた。


中学の頃はお互い気さくに話しかけ合ったりしていたのに、今は昔の彼の面影はなかった。


麗奈『響歌ちゃん、今日うちに泊まってかない?』

ミラー越しに響歌の顔を見て問う。


響歌『い、いえ…大丈夫です』

やんわりと断ると、彼女は残念そうな顔を見せて視線を前に戻した。

⏰:11/07/31 19:15 📱:T004 🆔:U7g8LGbo


#452 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌のアパート近くに車は到着し、降りてお礼を言うと車は帰っていった。


部屋に帰ろうとしてふとアパートの方を見ると、数人の警官とパトカーが目に入る。


近くにいた警官を捕まえて響歌は尋ねた。


響歌『あの…何かあったんですか?』

響歌は警官に衝撃的な事実を聞かされる。



『このアパートの管理人が強盗殺人にあったんです。君はここの住人?』

⏰:11/07/31 19:28 📱:T004 🆔:U7g8LGbo


#453 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌は身体が凍りついたまま首を縦にゆっくりと振った。


『とにかく…君はすぐに部屋に戻って戸締まりをするようお願いします。犯人はまだ見つかっておりませんので。十分警戒してください』

固まっていた足を一歩一歩と動かしながら部屋に戻った。


テレビをつけると、丁度その事件が報道されていた。


管理人が殺されたという時間は今日の午後1時頃。


先ほど響歌がアパートに帰ってくる30分前の事だった。

⏰:11/07/31 19:37 📱:T004 🆔:U7g8LGbo


#454 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌の周りで次々と不幸が訪れる人々―


ただの偶然なのだろうか。



響歌はすぐに麗奈に連絡をした。

彼女は驚いた様子で『やっぱりうち泊まっていきなよ』と言うと、響歌は一言…


『お願いします』

と呟くように言った。

⏰:11/07/31 19:44 📱:T004 🆔:U7g8LGbo


#455 [輪廻◆j6ceQ96kak]
数分後、車のエンジンの音に気づいて外を出る。


麗奈の車である事を確認し、大きな鞄を持って早々と乗り込んだ。


麗奈『大丈夫?』


響歌『はい…お願いします』

車は麗奈と蓮の家へ向けて発車した。

⏰:11/07/31 19:49 📱:T004 🆔:U7g8LGbo


#456 [輪廻◆j6ceQ96kak]
車内では響歌と麗奈の会話に蓮が入ってくる事は一度もなく、彼はただ黙って窓の外を見ているだけだった。



1時間後―


彼女らの家に車が停車すると、エンジン音に気づいたのか玄関から蓮の父親が姿を現した。


『蓮、降りろ』

蓮は大きな舌打ちしてからドアを開ける。

⏰:11/08/01 10:07 📱:T004 🆔:bJ4AUl8A


#457 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『なんだよ?』

二人の間になんとも言えない空気が漂う中、父親は思わぬ事を言い始める。


『今さっき警察から電話があった。お前が面会に行った男についてだ…』


蓮『…!!』

蓮の表情が一瞬変わったのを響歌は見逃さなかった。


『剛史を殺した男なんだってな。どうしてそれを今まで黙っていた?』

父親は怒鳴る寸前だ。

⏰:11/08/01 10:18 📱:T004 🆔:bJ4AUl8A


#458 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『どうだっていいだろ。テメェは俺らの…』

ここまで言うと、父親は蓮の頬を拳で殴りつけた。


勢いでその場に倒れそうになった瞬間でとっさに胸ぐらを掴む。


麗奈が二人を止めにかかるのを見て響歌も駆け寄る。


麗奈『やめてください! 蓮ちゃんもほら…』

蓮は再び舌打ちをし、家に戻っていった。

⏰:11/08/01 10:26 📱:T004 🆔:bJ4AUl8A


#459 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あ、あの…私やっぱり帰った方が…』


麗奈『気にしないで。いつもの事なんだ…』


響歌『あの、蓮に何があったのか聞かせてくれませんか?』

麗奈はコクリと頷いて、家に響歌を招き入れた。


2階の麗奈の部屋に案内されると、お茶とお菓子を出されすぐに話を始めた。

⏰:11/08/01 10:32 📱:T004 🆔:bJ4AUl8A


#460 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『蓮ちゃんと初めて会ったのは、剛史と付き合い始めてからだから…もう何年も前かな。その時はこの家じゃなくて田舎の家だったのね』


響歌『田舎の…家…』


麗奈『中学一緒だったなら…蓮ちゃんが中学卒業してから引っ越したのは覚えてる?』


響歌『はい、覚えてます』


麗奈『そしてお兄さんの剛史がウチの学校に転校してきて、付き合ってから挨拶で行った剛史の家で蓮ちゃんと会ったんだよ』

⏰:11/08/01 10:44 📱:T004 🆔:bJ4AUl8A


#461 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『そうなんですか…。ちなみにその時はお父さんはいたんでしょうか…?』


麗奈『本当のお父さん? うんいたよ。でもある日、仕事の帰りに事故にあって死んだの。思えばその時からかも…蓮ちゃんが変わっていったのって』


響歌『今のお父さんは…蓮の本当のお父さんじゃないんですよね?』


麗奈『今のお父さんとはお母さんが勤めてた仕事場で出会ったんだよ。どっかの旅館だって聞いたけど…』


旅館―

このキーワードにピンときた響歌。

⏰:11/08/01 10:53 📱:T004 🆔:bJ4AUl8A


#462 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『池崎旅館…』


麗奈『…え?』

響歌のつぶやきに反応する麗奈。


響歌『池崎旅館…。あの日、私達がいった場所…』


麗奈『響歌ちゃん?』


響歌『あ、あの! ちなみにお母さんはどうなったんですか?』

身を乗り出して目の色を変えた響歌が尋ねる。

⏰:11/08/01 10:57 📱:T004 🆔:bJ4AUl8A


#463 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『剛史と蓮ちゃんのお母さんは…実は今のお父さんと再婚してから…自殺したって…』

麗奈の一言で部屋の中に薄暗い雰囲気が漂い始める。


響歌『麗奈さん…一ついいですか?』


麗奈『ん? どうしたの?』

響歌は眉をしかめて麗奈を見つめる。

⏰:11/08/01 11:01 📱:T004 🆔:bJ4AUl8A


#464 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『麗奈さん達…あの日、もしかしてその旅館に行こうとしてたんじゃないですか?』


麗奈『えっ…』


響歌『あの時、どこに向かうつもりだったんですか?』

麗奈は黙り込んだままで、響歌は話を続ける。


響歌『麗奈さん達は今の蓮のお父さんから旅館の名前を聞いてあの旅館に向かっていたんじゃないですか?』

⏰:11/08/02 14:37 📱:T004 🆔:b3cETUus


#465 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『…すごいね、響歌ちゃん』

そう言って小さなため息をついた。


麗奈『蓮ちゃんの為にも旅館に行って調べてみようって事になったの』


響歌『そこで私と会った訳ですか…』


麗奈『車の中で響歌ちゃんが旅館って言ったから、その時に剛史と顔を見合わせて確信したの。私達が探してる旅館はそこだろうって』

そこまで言うと目に涙が溢れ、やがてこぼれ落ちていった―

⏰:11/08/02 14:45 📱:T004 🆔:b3cETUus


#466 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『麗奈さん…』


麗奈『ごめ…』

かける言葉も見つからなかった。


そのまま夜を迎える―


麗奈『ちょっと見てもらいたいものがあるの』

落ち着きを取り戻した麗奈は棚の引き出しから黒い携帯電話を取り出してきた。

⏰:11/08/02 14:51 📱:T004 🆔:b3cETUus


#467 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『これ剛史の携帯。あの日の一週間前くらいに変な電話とかメールが来たの』


響歌『えっ?』

響歌は目の色を変えた。

自分にも覚えのある出来事だったからだ。


麗奈『前にも言ったけど…多分、出会い系殺人ネットって所からだと思う…』


響歌『ちょっと見せてください』

彼にきた受信メールを読む。

⏰:11/08/02 14:57 📱:T004 🆔:b3cETUus


#468 [輪廻◆j6ceQ96kak]
――――――――――
Frm:DEATH net
Sb:おめでとうございます

tsuyoshi kiritani 様

おめでとうございます。

あなたはこの度、138人目のターゲットに選ばれました。

近々、あなたの元へ会員の皆様がお伺いします。

栄光を称え、ポイントを進呈致します。

進呈ポイント:500P
――――――――――


響歌『これって…』


麗奈『何か知ってるの?』

響歌はすべてを麗奈に話した。

⏰:11/08/02 15:01 📱:T004 🆔:b3cETUus


#469 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『そんな…響歌ちゃんにもこのメールが…』


響歌『その会員が私の所にきた時、隣に住んでる武田さんに通報してもらってなかったら…私どうなっていたんだろうって考えると怖くなります…』


麗奈『そう…だね。…ところでお腹減ったよね? 何か作ってくるから待ってて』

時計を見ると午後19時を過ぎていた。

⏰:11/08/02 15:06 📱:T004 🆔:b3cETUus


#470 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その日の夜食はスパゲティをいただき、麗奈の部屋で寝る事になった。



深夜の2時を回った頃―


響歌はふと目を覚ました。


隣にはスースーと静かに寝息をたてた麗奈の姿。


枕元に置いてあった携帯電話を開くと、一件のメールがきていた。

⏰:11/08/02 15:16 📱:T004 🆔:b3cETUus


#471 [輪廻◆j6ceQ96kak]
――――――――――
Frm:DEATH net
Sb:ペナルティー

kyouka murai 様

DEATH net事務局です。

あなたはこの度、会員に罪を問わせ、自らターゲットを辞退されたという事でペナルティーを与えさせて頂きます。


近々、あなたの元へ事務局の局員らがお伺いします。


現在のポイント 1000P

マイナスポイント -1000

累計ポイント 0P
――――――――――

⏰:11/08/02 15:28 📱:T004 🆔:b3cETUus


#472 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『いやっ!』

その文章を見た響歌はたまらず携帯電話を壁に投げつけた。


その音に麗奈の体が反応して起き上がる。


麗奈『響歌ちゃん…?』


響歌『あ…ご、ごめんなさい…』

すぐに投げた携帯電話を拾いにいった。

⏰:11/08/02 15:31 📱:T004 🆔:b3cETUus


#473 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『何かあったの?』


響歌『い、いえ…なんでもないんです。ちょっと怖い話を見てて』

余計な心配をかけまいと、そうごまかした。


麗奈『そう…ならいいけど。でもほどほどにね』


響歌『…はい』

すぐにメールを削除し、寝て忘れる事にした。

⏰:11/08/02 15:40 📱:T004 🆔:b3cETUus


#474 [輪廻◆j6ceQ96kak]
気がつくと朝を迎えていた。


朝の日差しが照りつける。


麗奈『おはよう。あれからよく寝れた?』


響歌『はい、なんとか…』


麗奈『今、朝ご飯作るね。下でみんなで食べようか』

麗奈に蓮を起こすよう言われ、朝食を作っている間、響歌は麗奈の部屋の隣にある蓮の部屋のドアをノックしていた。

⏰:11/08/02 15:46 📱:T004 🆔:b3cETUus


#475 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『誰?』

返事は意外にも早く返ってきた。

響歌は緊張した面もちでドアの向こうに話しかける。


響歌『あ、蓮? 今から朝ご飯だから麗奈さんが下りてこいって』


蓮『…ああ、すぐ行く』

いつもの声にちょっとだけ安心し、階段を下りてリビングへ向かった。

⏰:11/08/02 15:53 📱:T004 🆔:b3cETUus


#476 [輪廻◆j6ceQ96kak]
キッチン側のテーブルではスーツを着た蓮の父親がコーヒーカップを片手に新聞を読んでいた。


これだけ見れば、なんの変哲もない平和な日常だと思いながら父親に軽く頭を下げ、テレビのある居間のソファーに座る。


やがて二階から蓮が下りてきた。


あれから父親とは話をしていないのだろうか、父親のいるテーブルを避けて響歌のいるソファーに座った。

⏰:11/08/02 16:02 📱:T004 🆔:b3cETUus


#477 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『おはよう村井』


響歌『あ、うん…おはよ』


蓮『昨日何かあったの?』


響歌『え…何かって?』


蓮『何かぶつけてたろ。俺の部屋の壁に響いてたから』


響歌『ごめん…ちょっとね』

そこにいるのは、あの中学時代明るくおちゃらけていた桐谷蓮のはずなのに、なぜか別人のような感じがした。

⏰:11/08/02 16:07 📱:T004 🆔:b3cETUus


#478 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『まあいいや…』


麗奈『蓮ちゃん、響歌ちゃん。ご飯できたよ』


蓮『こっち持ってきて』


響歌『ちょっと蓮…』

麗奈はすぐに二人分の朝食を運んできた。


響『あ、ありがとうございます』

目玉焼きや味噌汁など、いかにも一般的な朝食。


実家の事を少し懐かしく思いながら、朝食に手をつけた。

⏰:11/08/02 16:31 📱:T004 🆔:b3cETUus


#479 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『ウチ、今日午前中からバイトなんだけど響歌ちゃん達はどうする?』


響歌『あ、私は帰ります』


麗奈『今日もとりあえずゆっくりしていったら? まだ強盗犯がうろついてるかもしれないし…』


響歌『いいんでしょうか…』


『いいじゃないか。もう少しいなさいよ』

恐縮する響歌に、奥のテーブルに座っている蓮の父親が笑いながら言った。

⏰:11/08/05 12:08 📱:T004 🆔:tlZw1/iQ


#480 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『じゃ、じゃあ…お言葉に甘えて…』


『女の子が多いと蓮の奴も嬉しいだろう』

まるで蓮を挑発するかのような発言に、一瞬ヒヤっとした響歌だったが、蓮は黙ってご飯を口にしていた。


もはや反発する気もなかったのだろうか。


『じゃあ行ってくる。村井さんだったかな? こんな所でもよかったらいつでも遊びにきていいぞ』

にこやかにそう言って家を後にしていった。

⏰:11/08/05 12:09 📱:T004 🆔:tlZw1/iQ


#481 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『村井さ…』


響歌『ん? なに?』


蓮『兄ちゃんが死んだ時って村井もそこにいたんだよな?』


響歌『…うん。あの光景、今でも忘れられない…』


蓮『麗奈から聞いたけど、村井の親友も殺されたんだよな?』

響歌はコクリと頷いた。

⏰:11/08/05 12:10 📱:T004 🆔:tlZw1/iQ


#482 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『その親友ってもしかして井本のこと?』


響歌『…ナナ…?』

数年ぶりにその名前を聞く事になった。


蓮『ふと気になっただけ。今でも連絡とか取ってんの?』


響歌『ナナ…か。高校も別だったし、メールとかはちょくちょくしてたけど、いきなり連絡取れなくなっちゃったんだよね』


蓮『そっか。元気にしてんのかね』

この感覚に当時の懐かしさを覚えた。

これこそが響歌の知っているいつもの蓮だと。

⏰:11/08/05 12:11 📱:T004 🆔:tlZw1/iQ


#483 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『私、ナナに未だにちょっとだけ許せない事があるんだよね』


蓮『…ん?』


響歌『デスカメラだよ。もしかしたら私の実家の個人情報が売られたりしてるかもしれないんだよね』


蓮『それと井本と何の関係があんの?』

響歌は、中学時代に話す事ができなかった事をすべて話した。

⏰:11/08/05 12:11 📱:T004 🆔:tlZw1/iQ


#484 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮はかなり驚いた様子だった。


蓮『人の住所勝手に使うとか、確かに許せないな』


響歌『まあ、別に何か起こったりはしてないからいいんだけど…』


蓮『闇市場だっけ…まだそのサイトあんのかな』


響歌『ううん…わからないけど、あるんじゃない?』

その時、麗奈が二人の間に割り込んだ。

⏰:11/08/05 12:13 📱:T004 🆔:tlZw1/iQ


#485 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『響歌ちゃん。今の話ってホントなの?』


響歌『はい、まあ…』

なぜか嫌な予感がした。


麗奈『その子、最低じゃない? 警察には言ったの?』


響歌『言ってませんけど…』


麗奈『そういうのは被害届を出すべきなんだよ。親友といってもやってる事は犯罪じゃない?』

彼女は正論だが、当時の響歌には個人情報売買が行われているとは知らなかった為、何もできなかったのだ。

⏰:11/08/05 12:14 📱:T004 🆔:tlZw1/iQ


#486 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『麗奈、身乗り出しすぎ。ガキじゃないんだから』


麗奈『いや、ウチ汚い事するやつ大嫌いだからさ…。なんかごめんね響歌ちゃん』

そう言って苦笑いしながら階段を上がっていった。


蓮『なあ村井。井本に電話してみね?』


響歌『…ナナに?』

彼の予想外の提案に一瞬戸惑う。


蓮『あいつがデスカメラで中学ん時の先生を撮ったって言ってたよな? で、結局その先生も事故って死んだじゃん』

⏰:11/08/05 12:28 📱:T004 🆔:tlZw1/iQ


#487 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『真島先生…』


蓮『引っ越す前の日にあいつから家と携帯の番号教えてもらってたから、かけてみる?』


響歌『…出るかな』

蓮はすぐに棚から紙と、テーブルに置かれた電話の子機を手に取る。


090…

蓮は紙に書かれた番号を見ながらボタンを押している中、響歌は心臓が高鳴っていた。

⏰:11/08/05 12:43 📱:T004 🆔:tlZw1/iQ


#488 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『……あれ?』


響歌『ど、どうしたの? 繋がったの?』


蓮『この番号は現在使われてないってさ…』


響歌『携帯変えたのかもね…。ねえ、もうやめない?』

止めようとするも、蓮はすでに家の電話番号を押し始めていた。


蓮『………あ、もしもし?』

響歌の期待を裏切るかのように七瀬の家へ繋がった。

⏰:11/08/05 12:50 📱:T004 🆔:tlZw1/iQ


#489 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『えーと……井本さんのお宅さんですか?』

繋がった途端、突然緊張しだす蓮。


慣れていないのか、敬語が不自然だった。


蓮『七瀬さんはいらっしゃいますか? 俺、中学の時同級生だった桐谷といいます』

それから通話は数分続いた。


電話の向こうから聞こえる声は、低い男性のもので響歌にも聞き覚えのある声。

⏰:11/08/05 13:05 📱:T004 🆔:tlZw1/iQ


#490 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮は電話に向かって頭を下げながらハイハイ言って頷いている。


そして最後に『失礼しました』と言って通話を切った。


通話を終えた蓮から思わぬ言葉が飛び出す。


蓮『井本、高校中退してから家出ていったんだってさ』


響歌『え? な、なんでなの?』


蓮『わかんね…それ以上は教えてくれなかった。それから一度も連絡来てないってさ』

かつての親友に対して不安を抱いた。

⏰:11/08/05 13:14 📱:T004 🆔:tlZw1/iQ


#491 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『村井、どうかした?』


響歌『ナナ、もしかしたら…』


蓮『…?』


響歌『ナナは…もう死んでるかもしれない…』


蓮『…へっ?』

響歌の予想外の発言に蓮は拍子抜けしたような表情を見せる。

⏰:11/08/07 00:12 📱:T004 🆔:lEByWk0Q


#492 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あのカメラ…写された人だけじゃなくて写した本人にもなんらかの不幸がくる…そんな感じがするんだよね』


蓮『それ本気で言ってんの?』


響歌『だって蓮のお兄さんだってあの時…』


蓮『それは…なんていうか…』

言葉に詰まる蓮。


響歌『それにお兄さんの携帯にきたメールも…』


蓮『あんなのふざけたイタズラに決まってるだろ。俺は信じないね』

そう自信満々に言い放った。

⏰:11/08/07 00:19 📱:T004 🆔:lEByWk0Q


#493 [輪廻◆j6ceQ96kak]
一方、響歌は納得できない表情をしていた。


響歌『…蓮には言っておいた方がいいかな』

そう言ってポケットから携帯電話を取り出すと、メール画面を蓮につきつけた。


蓮『な、なんだよこれ…』


響歌『私にもきたの。昨日の夜…』


蓮『い、イタズラじゃねーの?』

まだ言うかと思わんばかりの往生際の悪さに我慢できなくなった響歌は昨日身に起きた体験も話した。

⏰:11/08/07 00:26 📱:T004 🆔:lEByWk0Q


#494 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その話を聞き終えた蓮は黙ってしまった。


響歌『デスカメラとデスネット…蓮のお兄さんに起きた事はこの二つがものすごく関係してると思う』


蓮『で、でも…デスネットなんてサイト、兄ちゃんが入会してるなんて聞いた事ないよ』


響歌『私だってそんなのに入った覚えはないよ。でもこうしてメールは来てるんだよ!』

少し強気に言うと、蓮はなぜか小さく微笑んだ。

⏰:11/08/07 00:32 📱:T004 🆔:lEByWk0Q


#495 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『やっぱお前変わってないや』


響歌『なんでこんな時に笑ってるの?』


蓮『お前だってなんだよその真剣な顔。ガラじゃねえって』


響歌『なっ…』


蓮『よし、肩の力抜けたとこでお前の所に来るっていうデスネットの局員について調べようぜ』

一番辛いのは彼のはずなのに、なぜこんな呑気に笑っていられるのか?


いや、それが響歌の知っている桐谷蓮だったからだ。

⏰:11/08/07 00:39 📱:T004 🆔:lEByWk0Q


#496 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『じゃあお前の携帯で調べてくんない?』


響歌『…私が…?』


蓮『俺、携帯もパソコンもないし』

響歌は小さくため息をついてから、ネットへ繋いだ。


『デスネット 局員』

検索。


あっという間にページが何個か現れた。


一番上から順にページを閲覧していく。

⏰:11/08/07 00:46 📱:T004 🆔:lEByWk0Q


#497 [輪廻◆j6ceQ96kak]
とある掲示板が表示され、スクロールしていく。


――――――――――
1:名無しさん

登録した覚えのないデスネットというサイトからポイントが0になりました、みたいな感じで局員がお伺いしますってメールがきたんですけどこれって本当にきたりするんですか?

親はイタズラだろうと言いましたが、内心怖いです…。
――――――――――


この書き込みをした者と同じく内心ドキっとなった響歌はゆっくりとページをスクロールした。

⏰:11/08/07 01:02 📱:T004 🆔:lEByWk0Q


#498 [輪廻◆j6ceQ96kak]
――――――――――
2:名無しさん

当然だけどメールアドレスだけで住所までは特定できない。

放っておけば大丈夫。

しつこく来るようならアドレス変更。

架空請求みたいなもんだよ。
――――――――――
3:名無しさん

↑デスネットは別だよ。

主は闇サイトで闇商品買ったりした事ある?

買う時に名前とか住所書く所あるから、そこから情報が色んな所に漏れるよ。
――――――――――


響歌『これだ…』

画面に向かって一人で頷いた。

⏰:11/08/07 01:11 📱:T004 🆔:lEByWk0Q


#499 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『なんかわかった?』


響歌『ナナがデスカメラ買った時に私の名前とか住所使ってた…。だから今になってこのメールが…』


蓮『え…でもおかしくね? お前って中学の時、井本が携帯買ってから連絡先は交換してなかったんだよな? ならなんでアドレスとか番号とかわかんの?』

蓮の言うとおりだった。


それだけが不可解だった。

⏰:11/08/07 01:18 📱:T004 🆔:lEByWk0Q


#500 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そんな中、一人の男の顔が思い浮かぶ。


響歌『あの男…』


蓮『…どした?』


響歌『私が山の中で会ったあの男なら…』


蓮『…!!』

響歌の中で何かが繋がりはじめていた―


すべてを知る為には、響歌はもう一度あの男に会わなければならないのかもしれない―


その日の夜、またしてもあの夢を見た。


身動きができない状態。


そして暗闇から段々と近づいてくる見えない人物。


それは響歌のすぐ目の前まで迫っていた―


第4話 共鳴なる戦慄【完】

⏰:11/08/07 01:27 📱:T004 🆔:lEByWk0Q


#501 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『響歌…響歌…響歌…響歌』

夢の中で誰かが響歌の名前を連呼している。


この夢を見る度に、目の前に立つ見えない人物は必死に何かを訴えているようにも思えた。


それがなんなのか、わかるはずもなかった。


ただ一つわかる事は、この声を響歌は聞き覚えがあるという事だけだ―


響歌『中野くん…?』

ここで目が覚めた。


辺りは暗い。


時計の音がコチコチと聞こえる中、響歌は寝汗をびっしょりとかいていた。

⏰:11/08/07 01:35 📱:T004 🆔:lEByWk0Q


#502 [輪廻◆j6ceQ96kak]
最終話【終幕なる連鎖】


あまりの息苦しさにハアハアと大きく息をしていると、隣に寝ている麗奈が起き上がった。


麗奈『響歌ちゃん…大丈夫?』


響歌『すみません、変な夢を見ちゃって…』


麗奈『水持ってくるよ』

そう言って立ち上がり、部屋の電気をつけた。


ふと時計に目をやると針は午前4時50分を指している。

⏰:11/08/07 01:43 📱:T004 🆔:lEByWk0Q


#503 [輪廻◆j6ceQ96kak]
明け方近くだというのにやけに薄暗い外。


しばらくしてコップ一杯の水を麗奈から貰い、それを一気飲みした。


麗奈『ねえ、どんな夢見てたの?』


響歌『説明しずらいんですけど、暗闇で誰かが私を呼んでるんです。私自身は身体が動かなくて…』


麗奈『その誰かに心当たりはないの?』


響歌『声は男の人で…どこかで聞いたような声なんです』

夢ではその人物を把握できそうになるも、現実に戻ると記憶がリセットされるように思い出せなくなった。

⏰:11/08/07 01:52 📱:T004 🆔:lEByWk0Q


#504 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『そういうのって何か暗示してたりするんだよね』

あの日から見るようになった夢。

近づいてくる人物は何を訴えようとしているのか…考えれば考えるほど頭が混乱していく。


麗奈『まあ、あまり気にしない方がいいよ。夢はただの夢じゃん?』

彼女が微笑みながら言う。


麗奈『じゃあウチそろそろ起きるから。響歌ちゃんはまだ寝てなよ』

そう言って服を着替えた。

⏰:11/08/08 07:54 📱:T004 🆔:jFWiLo7I


#505 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あの、私…今日帰るので送ってもらえませんか?』


麗奈『ん、了解』

すっかり眠気がなくなった響歌も麗奈と一緒に一階に下りる事にした。


リビングに行くと、ソファに蓮の姿があった。


麗奈『あれ蓮ちゃん…早くない?』


蓮『なんか寝れなかった』

心配した麗奈がそばに行く。

その姿は、まるで本当の姉弟のようだった。

⏰:11/08/08 08:00 📱:T004 🆔:jFWiLo7I


#506 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈『とにかく身体には気をつけなよ?』

念を押して朝食作りにキッチンに向かう。


響歌もソファに座った。


蓮『村井…。俺、今日もう一回警察行ってくる』

麗奈に聞こえないように小さく言った。


響歌『えっ!?』

思わず大きな声で反応するも、麗奈には気がつかなかった。

⏰:11/08/08 08:18 📱:T004 🆔:jFWiLo7I


#507 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『前に奴に面会行った時は動機について問い詰めたんだけど、あいつずっとニヤニヤ笑ってて何も喋らなくてさ』


響歌『……』


蓮『だから今度こそ聞くつもり。で、絶対に有罪に追い込んでやる』

蓮の目は真っ直ぐで本気だった。


響歌『私も行っていい?』


蓮『よし、行くか。麗奈も父さんも午前から仕事だし』

麗奈達には言わないという事を約束した。

⏰:11/08/08 08:27 📱:T004 🆔:jFWiLo7I


#508 [輪廻◆j6ceQ96kak]
>>2-64 1話
>>65-261 2話
>>262-361 3話
>>362-500 4話

⏰:11/08/08 10:23 📱:T004 🆔:jFWiLo7I


#509 [輪廻◆j6ceQ96kak]
数時間後―


蓮の父親が会社へ向かい、続いて麗奈がアルバイトへと向かった。


蓮『じゃあ行くか』


響歌『歩きだよね? ここから何分くらいだっけ?』


蓮『30分くらい歩くかも。かったるいなら俺一人で行くけど?』

響歌は首を横に大きく振った。

⏰:11/08/09 01:46 📱:T004 🆔:2k340WRo


#510 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『じゃあ行くぞ』

こうして二人はあの男に会う為、警察署へ向かって歩いた。



蓮『麗奈が言ってたけどさ…兄ちゃんを殺したあの男、そのデスネットとかいうサイトの会員なのかな』


響歌『わからない…。あの山で初めて会った時は、ただの登山が趣味の人なのかなって思ってたし…』


蓮『人を見た目で判断しちゃ駄目って事だな』

そんな会話を交わしながら街中を歩いていく。

⏰:11/08/09 01:51 📱:T004 🆔:2k340WRo


#511 [輪廻◆j6ceQ96kak]
それから30分ほど歩いた所で、昨日の警察署が見えてきた。


蓮『ちょっと待ってて』

そう言って署の前に立っている警官の元へ向かい、何かを話している。


蓮『村井』

そしてすぐに手招きをして響歌を呼んだ。


蓮『面会OKだってさ』


響歌『なんか緊張してきた…』

響歌にとっては最悪な思い出しかない、あの男との再会。

⏰:11/08/16 01:37 📱:T004 🆔:hJAl410Q


#512 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『村井、大丈夫? 顔色よくないけど』


響歌『だ、大丈夫』

警官に案内され、3階にある留置場の面会室へと通された。


『只今連れてきますので、しばらくお待ちください』

警官がそう言って面会室を去り、二人は用意された椅子に座ると、響歌は落ち着きなく辺りをキョロキョロと見回した。


響歌『私、警察署なんて初めてきた…』


蓮『そんな簡単に来れるような所じゃないからな』

⏰:11/08/16 01:53 📱:T004 🆔:hJAl410Q


#513 [我輩は匿名である]
あげ!

⏰:11/08/18 23:06 📱:SH01B 🆔:/OHOFH66


#514 [輪廻◆j6ceQ96kak]
>>513さん
ありがとうございます(^^)

――――――――――



『お待たせしました』

数分後、警官がそう言って男を連れてきた。


響歌は男の動きを目で追い、男が椅子に座った所で視線をそらした。


『会田久志さんです。面会時間は15分間のみと決まっておりますので、厳守ください』

この男の名前を知るのは響歌にとって初めてである。


響歌が視線を合わせないようにしている中、一方の蓮はものすごい形相で会田を睨みつけていた。

⏰:11/08/23 10:57 📱:T005 🆔:qOK7xnyA


#515 [輪廻◆j6ceQ96kak]
少しの沈黙の後、最初に口を開いたのは会田だ。


『今日もまた来るなんて、物好きもいるもんだなぁ』

会田は余裕のある表情で、ヘラヘラと笑いながら言った。


それを見た蓮の顔が更に強張る。


『何ヘラヘラ笑ってんだよ…。アンタ、自分のした事わかってんのか?』


『これはまた随分な挨拶だねぇ…』

蓮を挑発するかのような言葉に、響歌もついに頭にきた。

⏰:11/08/23 11:06 📱:T005 🆔:qOK7xnyA


#516 [輪廻◆j6ceQ96kak]
アンカー
>>2-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500

⏰:11/08/23 11:17 📱:T005 🆔:qOK7xnyA


#517 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『アンタ、いい加減にしてよ! どういうつもりだよ!』

怒りと同時に悲しみもこみ上げてくる。


しかし会田の表情からは全く反省の色は見られない。


会田『あ、響歌ちゃんじゃない。久しぶりだねぇ』

今、響歌の存在に気づいたそぶりを見せ、ニヤニヤ笑いながら言う。


響歌『なんで私の名前…』


会田『あの時、私が殺した男が君の名前呼んでたじゃない。それに…』

会田がここまで言うと、蓮が突然椅子から立ち上がった。

⏰:11/08/23 11:26 📱:T005 🆔:qOK7xnyA


#518 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『ふざけんな! テメェのせいで俺のたった一人の兄ちゃんが…』

拳をぶるぶると震わせて叫ぶように言う蓮は、今まで溜めていた深い悲しみを今、爆発させたようだった。


『君! 落ち着くように!』

会田の後ろにいる、響歌達に背を向けてパソコン画面を見ていた警官が異変に気がついて振り返り、蓮をなだめるように注意する。

⏰:11/08/23 11:37 📱:T005 🆔:qOK7xnyA


#519 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『…………』

かける言葉が見つからない響歌は、ただ蓮の悔しそうな横顔を見つめる。


会田『まあまあ、落ち着きなさいよ。どんなに取り乱した所で君のお兄さんはもうこの世にはいないんだからさぁ』


蓮『絶対テメェのした事は一生許さねぇ…帰るぞ村井』


響歌『え…ちょ…』

響歌が返事する前に蓮は乱暴に椅子から立ちがって面会室を出ていった。

すぐにその後を追うとした時、会田と目が合い、彼は言った。


会田『デスネットの局員はまだ来てないのかなぁ?』

そうニヤけて言った一言に響歌は確信を持った。

⏰:11/08/27 23:00 📱:T005 🆔:KnYTPhDU


#520 [輪廻◆j6ceQ96kak]
麗奈が言っていた通り、この男もデスネットの会員であると。


帰り道で異様な雰囲気の中、蓮は一言も喋る事なく響歌の一歩先を歩く。


蓮のあそこまで感情的な姿を見たのは初めてだった。


だが唯一の兄を殺されたのだから無理もないと思い何も言わずに蓮の後ろを歩く。



蓮『ジュースでも買ってくる』

途端に後ろを振り返る事なく言い、近くにある自動販売機に駆け寄った。

⏰:11/08/27 23:13 📱:T005 🆔:KnYTPhDU


#521 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『はいよ…』

戻って買った缶コーラの一つを響歌に手渡しタブを開ける。


『あ、ありが…』


『村井、後で話ある』

響歌のお礼の言葉を遮るように言い、背を向けて蓮は歩き出しす。


その態度と後ろ姿は、またしても響歌の知る蓮ではなかった。


家に着いてリビングのソファに二人、無言のまま腰かける。

⏰:11/08/29 08:13 📱:T005 🆔:BR564fFM


#522 [輪廻◆j6ceQ96kak]
沈黙の中、時計の針の音だけがカチカチと時を刻む。


ソファにうつむきながら座る二人はまるで病院の手術室の前で手術が終わるのをそわそわしながら待っているようだ。


蓮『あ、あのさ…村井』


響歌『…な、なに?』

柄にもなく少し口ごもった様子で話しかける蓮に、響歌は戸惑いを隠せないでいた。

⏰:11/09/10 22:11 📱:S004 🆔:w1pFl2Mw


#523 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『俺、アイツに復讐するわ…』


響歌『…復…讐…?』

聞き間違いでありたかった。


蓮『アイツ…自分のした事ただの軽いゲームとしか思ってないんだよ!』

そう声を荒げて頭を抱える蓮を見た響歌は、無言でそっと彼を抱きしめた。

⏰:11/09/11 09:10 📱:S004 🆔:ihm0PsH6


#524 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『蓮…』

しばらくその状態を続けていると、蓮の感情が響歌の中に痛いほど染み込んでくる。


復讐したいと気持ちはこんなにも人の心を冷たくさせ、やがて闇へと変わる。


蓮『村井…』


響歌『何も言わないで蓮…』

彼の心を変えられるのは自分しかいないと思った。


それを噛みしめながら精一杯抱きしめ続けた。

⏰:11/09/13 17:20 📱:S004 🆔:x0bAJc16


#525 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『…テレビでもつけるか』

少しだけ落ち着いた蓮はリモコンを手にしてテレビの電源をつける。


蓮『あれ、これって…』

テレビの画面を凝視しながら言う蓮に、響歌も自然に視線を画面にやった。


丁度何かのニュース報道をしているようだ。


そして、画面にはどこか見覚えのある場所が映し出されている。

⏰:11/09/13 19:42 📱:S004 🆔:x0bAJc16


#526 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『ここ…私のアパートだ…』


蓮『やっぱり? 昨日の強盗の事やってるんじゃない?』

現場には男性レポーターがカメラに向かって中継していた。


そして何気なく視線をやった画面右上の文字を見て響歌は愕然する。


“強盗殺人事件の犯人は現場アパート住人の女性か?警察が行方を捜索中”


蓮もすぐその文字に気が付いた。

⏰:11/09/13 20:16 📱:S004 🆔:x0bAJc16


#527 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『この女性って村井…お前の事じゃないよな…?』


響歌『やめてよ! 大体、管理人さんが殺された時間は私達、麗奈さんの車に乗ってたじゃん!』

必死に否定する響歌を見て蓮は小さく笑った。


蓮『…冗談だって。お前がそんな事するわけないってのは俺がよく知ってる』

そんな蓮の言葉に響歌は心が救われた気がした。

⏰:11/09/15 11:52 📱:S004 🆔:t5z3siic


#528 [輪廻◆j6ceQ96kak]
再び、テレビのニュース報道を画面を食い入るように見つめる。


『ここで新たな情報が入ってきました。
殺害された管理人の部屋から、アパートの住人の部屋の合鍵が全て無くなっていたという事です。
犯人は一体何が目的で部屋の合鍵を盗んだのでしょうか』

レポーターが目を光らせて情報を伝える。


この情報を聞いて、とある言葉が響歌の頭に浮かんだ。


響歌『デスネット…局員…』

嫌な胸騒ぎがして、途端に息が苦しくなってきた。

⏰:11/09/15 12:05 📱:S004 🆔:t5z3siic


#529 [輪廻◆j6ceQ96kak]
テレビ画面を見ていた蓮が響歌の異変に気付く。


蓮『村井? 大丈夫?』


響歌『だ、大丈夫…』

心配かけたくない一心で平静を装った。


だが、蓮はそれを見透かしたように


蓮『麗奈の部屋で少し寝なよ』

と優しい言葉をかけた。

⏰:11/09/15 12:16 📱:S004 🆔:t5z3siic


#530 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『ありがと…でも大丈夫だから…』

寝たら、またあの夢を見てしまうかもしれない。


それに、いつデスネットの局員が響歌の前に現れるかわからない。


そんな2つの恐怖が交錯している。


蓮『そっか、でも無理はすんなよ』


響歌『うん』

そう返事したのとほぼ同時だった。


『ピンポーン』

…家のインターホンが鳴らされたのは。

⏰:11/09/15 12:27 📱:S004 🆔:t5z3siic


#531 [輪廻◆j6ceQ96kak]
蓮『…誰だろな』

そう言って蓮がソファから立ち上がった。


響歌『待って! もしデスネットの局員だったら…』


蓮『まさか…。ここに村井がいるって知ってるはずはないだろ?』

心配そうな響歌に背を向けて玄関の方に向かう蓮。


しばらくして、ドアを何度もガチャガチャ開けようとする音がした。

⏰:11/09/16 00:16 📱:S004 🆔:v7UPVMbU


#532 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そして廊下をバタバタと走って、青ざめた表情の蓮が響歌の元に戻ってきた。


響歌『蓮、どうしたの? 誰…?』


蓮『ド、ドア開けようとしたらいきなり引っ張られて…』

とにかく蓮を落ち着かせようとソファに誘導し座らせる。


響歌『…誰だったの?』


蓮『わかんねえよ…。でもすごい力だったから男だとは思うけど…』

玄関の方からはまだドアを必死に開けようとするガチャガチャという音が響いている。

⏰:11/09/16 00:28 📱:S004 🆔:v7UPVMbU


#533 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『蓮! どうするの!』

あたふたしながらポケットから携帯電話を取り出す。


今にもドアを壊して入ってきそうな勢いに怖くなり、警察に電話をしようと110番を押した。


蓮『待て村井!』

最後に通話ボタンを押そうとした響歌を止めた。


響歌『何!? 入ってきちゃうよ!』


蓮『いいから落ち着けって!』

大きな声を張り上げる蓮に驚いた響歌はハッとして我に帰る。

⏰:11/09/17 14:26 📱:S004 🆔:q6vwXN2E


#534 [輪廻◆j6ceQ96kak]
ドアの音は、諦めたのだろうかしなくなっていた。


ホッと胸を撫で下ろして残った缶コーラの中身を一気に飲み干す。


蓮『しばらく家にいなよ』


響歌『そういうわけにもいかないよ…。今日で帰る』


蓮『そっか…。でも何かあったらすぐ連絡しろよ?』


響歌『うん…』

そして再びの沈黙から数分後、テレビから思わぬニュースが飛び込んだ。

⏰:11/09/20 10:21 📱:S004 🆔:1jjLJZ2o


#535 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『先ほど11時20分頃、3番地の廃工場となっていた場所で女性の変死体が発見されました。
死後数時間は経過していて、死亡推定時刻は今日午前8時から9時の間という事と、遺体には背中から刃物で刺された跡がある事から、警察は殺人事件と断定し捜査を進める方針。
現場付近には女性が乗ってきたと思われる白いワゴン車を発見。
また車内から見つかったバッグの中に免許証も発見。
遺体の顔は免許証の顔と一致したという事で、この白ワゴン車は被害者の女性のものでまず間違いはない模様』

ニュースキャスターからそう伝えられ、数秒間そのワゴン車が映し出されると、蓮が突然ソファから立ち上がった。

⏰:11/09/20 18:04 📱:S004 🆔:1jjLJZ2o


#536 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『蓮、いきなりどうしたの?』

蓮はじっと画面を穴の空くほど見つめた後、衝撃的な一言を呟いた。


蓮『この車…麗奈の…』


響歌『えっ!?』

視線を蓮からテレビ画面に戻すも、そのニュースは終わっていた。


『ピンポーン』

そんな時、再び鳴らされたインターホン―


その音はいつもより大きく聞こえ、呆然とした響歌の鼓膜を揺らした―

⏰:11/09/20 18:14 📱:S004 🆔:1jjLJZ2o


#537 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『コンコン』

玄関の外にいる者はインターホンを鳴らしてノック、これを繰り返す。


蓮がテレビの電源を消して黙っていると、やがて声がした。


『桐谷さん! いらっしゃいますか? 警察です!』

男性の声、そして警察という言葉がハッキリと聞こえ、響歌と蓮はすぐに玄関に向かう。

⏰:11/09/21 00:11 📱:S004 🆔:Rl1V8ouE


#538 [輪廻◆j6ceQ96kak]
鍵を開けてチェーンを外しドアを開けると、2人の男性の警察官が真顔で立っていた。


一人は小太りの中年警察官。


そしてもう一人は若い警察官。


警官2人は無言で警察手帳を響歌達に提示してから、中年の警官が手に持っていた黒いバッグを差し出してきた。


蓮『こ、これ…』

そのバッグを見た蓮の顔色が一瞬にして変わる。

⏰:11/09/21 00:23 📱:S004 🆔:Rl1V8ouE


#539 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『こちらは杉本麗奈さんが住んでいる宅で間違いはありませんか?』

中年警官が蓮にバッグを渡してから問う。


蓮『じゃ、じゃあやっぱり…さっきのニュース…』

蓮は警官の目ではなく、どこか遠くを見ながら言った。


『お察しの通り、遺体となって発見されました。バッグの中に免許証が入っていたのですぐ身元が特定できました』

警官の言葉で響歌は状況を完全に理解した。

⏰:11/09/21 00:35 📱:S004 🆔:Rl1V8ouE


#540 [輪廻◆j6ceQ96kak]
だが理解したと同時に悲しみと絶望感が突如襲いかかり、その場にペタリと座り込んだ。


響歌『麗奈…さんが…?』

不思議な事に涙は出てこなかった。


悲しいはずなのに、響歌にとっては頼れるお姉さん的存在の麗奈がこの世から去ったというのに。


蓮『オッサン! なんで…なんで麗奈は廃工場なんかにいたんだよ!』

一方の蓮は涙を流しながら中年警官の胸ぐらに掴みかかる。


若い警官がすぐ止めに入るが、中年警官は『いいから』という合図を目でする。

⏰:11/09/21 00:48 📱:S004 🆔:Rl1V8ouE


#541 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そして話を続けた。


『それでまず被害者のご家族に遺留品を渡そうと思って来たんだけど、どうして表札の名字と被害者の名字が違うのか教えてくれる?』

警官の質問に、蓮は腕で涙を拭いながら答える。


蓮『ここは麗奈の実家ではないです。俺の兄ちゃんと結婚を決めててここに同居する事になって…』

そう説明すると警官は『なるほど』と納得するように頷いた。

⏰:11/09/22 13:55 📱:S004 🆔:9TodJUh2


#542 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『じゃあ杉本麗奈さんの実家の住所を教えてくれるかな?』

そう言ってメモ用紙とボールペンを渡す警官。


だが蓮はそれを受け取る事なく首を横に振った。


蓮『俺は知りません』

キッパリ言い放つと、警官2人は困惑した表情を見せる。

⏰:11/09/22 14:02 📱:S004 🆔:9TodJUh2


#543 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『どうしてわからないのかな?』

中年警官の目は疑いの目つきへと変わる。


蓮『俺の父さ…いや…その…』

いやに口ごもる蓮に我慢できなくなったのか、若い警官が拳を震わせながら前に出た。


『これは重要な事なんですよ! なぜわからないんだ!』

今にも蓮に飛びかかっていきそうな警官を中年警官が『まあまあ』と抑える。

⏰:11/09/22 14:12 📱:S004 🆔:9TodJUh2


#544 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『お前は下がっていろ』


『いやしかし…』


『…下がっていろ』

中年警官の威圧に負けた若い警官は、言われた通り一歩下がる。


そして再び蓮の顔を見て言った。


『この家に他のご家族の方はいるの? その、さっき言ってた君のお兄さんとか』

そう聞かれた瞬間、蓮の肩がピクリと動いたのを響歌は見逃さなかった。

⏰:11/09/22 14:34 📱:S004 🆔:9TodJUh2


#545 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 

響歌『あ、あの! 蓮のお父さんなら住所わかると思います…』

立ち上がって言うと、3人の視線が一斉に響歌に集中した。


『なるほど…。じゃあその、お父さんは今いらっしゃる?』

響歌と蓮は顔を見合わせ、やがて警官らに視線を戻す。


蓮『今いねえよ…』

そして、そう不機嫌そうに一言答えると今度は警官2人が顔を見合わせた。

⏰:11/09/22 17:51 📱:S004 🆔:9TodJUh2


#546 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
そして何やら小さい声で話し合い、中年警官の言葉に対しうんうん頷く若い警官。


『…ではまた来ます』

帽子を取って軽く頭を下げ、再び被り2人は出ていった。


響歌と蓮はほぼ同時といっていいくらいに小さな溜め息をついてからリビングに戻る。

⏰:11/09/22 18:03 📱:S004 🆔:9TodJUh2


#547 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 

ソファに座った蓮は警官から渡された麗奈のバッグの中を見る。


響歌は下を向いて麗奈の事を考えた。


一体、誰が麗奈を殺したのだろうか?


犯人の動機は?


全く見当もつかなかった。


蓮『あれ…麗奈の携帯がない…』


響歌『…警察が調べてるんじゃないかな』


蓮『ああ、そうだな』

それからしばらくなんの会話もないまま時間は過ぎ去った―

⏰:11/09/22 18:14 📱:S004 🆔:9TodJUh2


#548 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 

『ただいま』

夕方5時をさした時、その一言と共に蓮の父が帰宅した。


『ん? 部屋の電気消したままでどうしたんだ?』

リビングのソファに座り込む2人の元に駆け寄り声をかける。


その声に反応した響歌は、反射的に蓮の父の方を見て挨拶をした。


響歌『あ…どうも』

暗い態度の響歌に首を傾げながらも部屋の電気をつける。

⏰:11/09/23 11:56 📱:S004 🆔:LffOtOgg


#549 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 

『蓮。麗奈はまだ帰ってないのか…?』

部屋をざっと見回しながら聞く。


蓮『…ニュース見てないのかよ?』

父に背を向けたままそう答えると、驚いた表情で隣のソファに座った。


『蓮、どういう事なんだ? 麗奈に何かあったのか!?』

響歌と蓮は昼のニュースの事や警官の事を全て話した。

⏰:11/09/23 12:07 📱:S004 🆔:LffOtOgg


#550 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 

『剛史の次は…麗奈が…』

さすがにショックが大きすぎたのか、放心状態になりつつあった。


蓮『村井、ちょっといい?』


響歌『あ、うん…』

蓮は立ち上がって、響歌もその後に続く。


2階へ上がって蓮の部屋に入る。


蓮『村井、もしかして…麗奈にもデスネットからメールが来てたんじゃない?』


響歌『れ、麗奈さんにも? でもそんな事言ってなかったような…』


蓮『俺や村井に心配かけたくなくて黙ってたのかもしれない。それ以外に麗奈が殺される理由なんてないだろ…』

響歌にとっては納得できる話ではあった。

⏰:11/09/23 12:22 📱:S004 🆔:LffOtOgg


#551 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 

蓮『それに麗奈は3番地の廃工場で殺されたんだろ? 麗奈はなんでそんな所にいたんだ?』


響歌『そ、それは…』

もちろん答えようがなかった。


蓮『とにかく俺、明日またあの男の面会に行ってくる。デスネットの仕組みを全て聞き出してやる』


響歌『じゃあ私も…』

だが蓮は首を横に振った。

⏰:11/09/23 12:37 📱:S004 🆔:LffOtOgg


#552 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 

蓮『お前はしばらくここにいろ。何か嫌な予感がするんだよ…』


響歌『嫌な予感…って?』


蓮『とにかく、アパートには帰るな。着替えも麗奈の服使っとけ』

蓮はそれ以上何も言わなかった。


2人は再びリビングに戻る。


蓮の父はソファに座って麗奈の遺留品のバッグの中を見ていた。

⏰:11/09/23 12:44 📱:S004 🆔:LffOtOgg


#553 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 

蓮『何やってんだよ?』

蓮の声に気が付くと、手を止めた。


『ああ…何か手がかりになるようなものがないか探してたんだ』


蓮『…麗奈の事には必死になれるんだな。兄ちゃんの時とは違って』

そうポツリとヒヤヒヤするような言葉を投げ掛けると、父は駆け寄る事も殴りかかってくる事もなく、再びバッグの中を探る。

⏰:11/09/23 12:56 📱:S004 🆔:LffOtOgg


#554 [我輩は匿名である]
更新待ってます(^O^)/

⏰:11/09/29 00:25 📱:SH01B 🆔:s1zt/l4g


#555 [輪廻◆j6ceQ96kak]
>>554さん
前にあげてくれた方ですかね?(違ったらごめんなさい)

ありがとうございます。

仕事が忙しくなってきたのでしばらくは不定期亀更新になりますが、どうか最後までお付き合いください(^^)

アンカー
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500
>>501-550

⏰:11/09/29 13:12 📱:S004 🆔:3UOUz5M2


#556 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
蓮『チッ』

父親に聞こえるように大きく舌打ちをしてから、キッチン側のテーブルの椅子に座る。


響歌『わ、私ちょっと外の空気吸ってくるね』

この重い空気に今にも押し潰されそうな響歌は下を向く蓮に言って玄関に向かった。


外へ出ると冷たい風が襲い、それが夏の終わり、そして秋の始まりを示している。

⏰:11/09/29 13:26 📱:S004 🆔:3UOUz5M2


#557 [我輩は匿名である]
>>555
そうです(^O^)/
気長に待ってます★

他の読者様達に悪いのでsageにしときます。

⏰:11/09/29 21:35 📱:SH01B 🆔:s1zt/l4g


#558 [輪廻◆j6ceQ96kak]
>>557さん
そう言って頂けると力が湧きます。
ありがとうございます(^^)
――――――――――


何かに導かれるように、すっかり日が落ちた住宅街を歩く。


見慣れない風景に新鮮さを感じつつ麗奈の事を思い出しながら。


響歌『…………』

初めて出会った時の事や、自分の事をまるで身内のように扱ってくれた事を思うと、やがて涙が溢れ出しこぼれ落ちていった。


自分は麗奈に何もしてあげられなかった。


ただ隣にいて話を聞く事しかできなかった自分を呪いたい気分だった。

⏰:11/09/30 00:41 📱:S004 🆔:hh6EMtw6


#559 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
麗奈の代わりに自分が死ねばよかったんだとさえ思う。


自分の無力さをつくづく思い知り、人目を阻からずその場で泣きじゃくった。


まるで小さな子供のように―

⏰:11/09/30 13:23 📱:S004 🆔:hh6EMtw6


#560 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
どれくらいの時間泣いただろうか。


辺りはすっかり暗く、人の姿が見当たらない。


そんな中、響歌の背後から足音が聞こえてきた。


それは段々とこっちに近づいてくるようだ。


なぜか後ろを振り返ってはいけない気がし、響歌はその場で固まっていた。


響歌『(こ、この感じ…)』

この気配には覚えがあった。

⏰:11/09/30 13:31 📱:S004 🆔:hh6EMtw6


#561 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
数週間前に山で起こった出来事。


背後から近づいて襲いかかってきた、とある旅館のこの世に存在しないはずの女将。


あの体験と同じ感じがした。


響歌『(逃げなきゃ…)』

雪乃や麗奈の顔を思い浮かべた途端、さっきまで動かなかった足が動き、考えるより先に走っていた。


“あの時”と同じく―

⏰:11/09/30 18:44 📱:S004 🆔:hh6EMtw6


#562 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
以前は雪乃、そして今回は麗奈と導かれるように走った末、足を止めて上を見上げると蓮の家にたどり着いていた。


ここらへんの道は全くわからないというのに迷いもせず、そして背後から近づいてきた人物と鉢合わせする事もなく家に戻ってきた事を不思議に思った。


今度は麗奈が助けてくれたのかもしれないと思うと再び涙が溢れてくる。


蓮『村井?』

響歌の泣き声を聞きつけたのか、蓮が家のドアを開けて駆け寄る。

⏰:11/09/30 18:57 📱:S004 🆔:hh6EMtw6


#563 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
その後に続くように中から1人の警官と、蓮の父親も出てきた。


『大丈夫かい?』

警官がそう言って響歌の肩をトンと叩く。


響歌『……!!』

その時、何かゾクっとするような寒気を感じて警官の方に目をやると、そこには響歌の見覚えのある顔があった。

⏰:11/09/30 19:19 📱:S004 🆔:hh6EMtw6


#564 [我輩は匿名である]
めちゃくちゃ面白いです!
一気に読んでしまいましたw
続きが気になるけど終わってほしくない…そんな気持ちです。
本当におもしろいです!
今後の更新楽しみにしていますので、無理をなさらず頑張ってくださいね\(^-^)/

⏰:11/10/02 04:52 📱:Android 🆔:eCyYU7o.


#565 [輪廻◆j6ceQ96kak]
>>564さん
そんなお言葉…私にはもったいないです。

でも嬉しいです(^^)
ありがとうございます!

これから過去篇など入る予定なのでお話はまだまだ続きます!

どうか最後までお付き合いください(^^)

⏰:11/10/02 21:44 📱:S004 🆔:LMa5fxW2


#566 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『…あ、あの時の…』

震えた手で警官を指さしながら言うと、彼はニヤリと微笑んだ。


蓮『村井、この人の事知ってんの?』

響歌と警官の顔を交互に見ながら聞く。


響歌『こ、この人…』


『とにかく、またお話を伺う事になるかと思うので、その時はご協力よろしくお願いします』

警官は響歌の言葉を遮り、蓮の父に向かってそう言うと、早々とその場を後にしていった。

⏰:11/10/02 21:46 📱:S004 🆔:LMa5fxW2


#567 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
『村井さん、寒いから家に入りなさい』

蓮の父に言われ、蓮と一緒に家に入った。


リビングのソファに3人座り、少しの沈黙の後、最初に口を開いたのは蓮だった。


蓮『村井、さっきの警官知り合い?』


響歌『…あの時の…』

数年前の記憶が今、蘇ろうとしていた。


5年前…


響歌が高校生だった頃の記憶が今―

⏰:11/10/02 21:49 📱:S004 🆔:LMa5fxW2


#568 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
 
 
 
追憶〜村井 響歌 16才〜
 
 
 
 
 
 

⏰:11/10/02 21:51 📱:S004 🆔:LMa5fxW2


#569 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
中学校3年間の内の2年を共に過ごしてきた桐谷蓮が中学卒業を機に遠くに引越し、小学校の頃から親友だった井本七瀬とは中学卒業後、それぞれ別の高校へ。


新しい高校生活のスタートは、響歌にとっては魔のスタートとなった。


全てのはじまりは、当時ほとんどの学校で話題になっていた


『出会い系殺人ネット』


先ほど見た警官の顔が響歌を過去へと誘った―

⏰:11/10/02 22:39 📱:S004 🆔:LMa5fxW2


#570 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
生徒A『ねえ、昨日のニュース見た?』


生徒B『見た見た! 女子高生が出会い系で会った男達に殺されたんだよね』


生徒C『やっぱ出会い系殺人ネットじゃない?』

…まただ。

デスカメラの時と同じ。


“デスカメラで撮影された者は1週間以内に必ず死ぬ”


普通の人にしてみればそんなのはただの迷信、実にくだらないと思うかもしれない。


私も最初はその一人だった。

⏰:11/10/03 00:57 📱:S004 🆔:2Pxn6/H.


#571 [我輩は匿名である]
全然怖くない。

内容がよくわからない。


=面白くない。

⏰:11/10/04 19:31 📱:W62P 🆔:.ni/x2UA


#572 [りん]
めっちゃ面白いし
話しわかりやすい

↑の人が理解出来てないだけ(笑)

⏰:11/10/05 00:05 📱:P08A3 🆔:8YJtt5.A


#573 [輪廻◆j6ceQ96kak]
>>571さん
はい、自分が一番わかっておりますm(_ _)m

意見などは以後どうかこちらでお願いします。

感想板
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4968/


>>572さん
ありがとうございます。

もっとわかりやすいように書いていきますので、最後までお付き合いくださいm(_ _)m

⏰:11/10/06 12:51 📱:S004 🆔:BJ2RkxJg


#574 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
でも今の私はデスカメラの効果を信じざるを得なくなっている。


中学の時、私の親友がそのカメラで学校の担任を写した。


その担任は数日後、交通事故で亡くなった。


また、中学卒業を機に引っ越していった同級生の蓮のお兄さんもそのカメラを購入し、自分を撮影。


死にはしなかったものの、数日後に交通事故で脚を怪我し入院。


その夜、なぜか弟の蓮も原因不明の高熱で学校をしばらく休む事になった。

⏰:11/10/06 12:56 📱:S004 🆔:BJ2RkxJg


#575 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
これだけ不幸が続くのはただの偶然だとは思えなくなった私は、ここへきてデスカメラの効果に半信半疑になった。


熱が治まって学校に復帰した蓮から見せられた写真。


そこにはデスカメラで撮られたであろう、暗い部屋で寝ている蓮が写っていた。


それでデスカメラの効果に半信半疑だったのが確信へと変わりつつあった。


でも連鎖はまだ終わらなかった…。

⏰:11/10/06 12:57 📱:S004 🆔:BJ2RkxJg


#576 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
ある休日の夜、買い物の帰りに信号待ちをしていた私の身体を一台の車がはねた。


信号が青に変わり、渡ろうと足を一歩車道に踏み出したその一瞬に起きた出来事。


ボンネットにはね上げられた私の身体は軽く宙を舞い、やがて地面に思いきり叩きつけられた。


下半身に今まで経験した事のない激痛が走って、私はその場で意識を失った。

⏰:11/10/06 12:58 📱:S004 🆔:BJ2RkxJg


#577 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
目を覚ますと病院にいて、生きている事を実感した。


これもデスカメラの効果かもしれないと思ったけど、私はそのカメラで撮られた覚えはない。


よって、ただの偶然だと思う事にした。


それからデスカメラの話題はピタリと止み、身近で誰かが事故に巻き込まれたり死亡したという話は聞かないまま中学を卒業し、高校へ入った。


でも高校ではまたしても別の『出会い系殺人ネット』という噂が広まりつつある。

⏰:11/10/06 13:00 📱:S004 🆔:BJ2RkxJg


#578 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
この高校に入って数週間。


せっかく気持ちを切り替えて高校生活を過ごしていこうと思ったのに、こうもまた嫌な話が広まると正直嫌になる。


昨日、初めて噂になっている『出会い系殺人ネット』が関係した事件が起こったらしい。


でも私は出会い系サイトを通じた事件なんて珍しくはないだろうと特に気には止めていなかった。



『村井さん』

帰りの号令が終わり、教室を出ようとした私を誰かが呼び止めた。

⏰:11/10/06 13:02 📱:S004 🆔:BJ2RkxJg


#579 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『…黒川さん』

黒川さん…黒川奈穂さんは、高校受験の時に受験会場でふとしたきっかけで知り合った子だ。


このクラスで一緒になってからは休み時間に喋ったり、お昼に一緒にお弁当を食べたりと、仲良くしている。


響歌『どうかしたんですか?』

向こうから『タメ口でいいよ』と言われないとタメ口になれない私は未だに敬語を使う。


黒川さんも、逆に私からそう言われるのを待っているかもしれない。

⏰:11/10/06 13:05 📱:S004 🆔:BJ2RkxJg


#580 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
奈穂『村井さん…今日一緒に…帰れる…かな』

何やら困った様子で口ごもりながら聞いてくる。


響歌『いいですよ』

私が即答すると黒川さんはいつもの笑顔を見せた。


いつも通る河原を2人並んで歩く。


黒川さんに話しかけようと顔を見ると、なぜか辺りを警戒するように落ち着きなく左右を交互に見ている。

⏰:11/10/06 13:06 📱:S004 🆔:BJ2RkxJg


#581 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『…黒川さん?』


奈穂『…あっ! な、なんでしょう?』

私の声に必要以上に驚く黒川さんを見て、いつもの彼女じゃないとすぐ感じる事ができた。


響歌『どうかしたんですか?』


奈穂『い、いや…なんでもないの…』

手を小さく振り苦笑いしながら言う。


黒川さんの態度に違和感を感じつつも、追求する事なく別れ際まで歩いた。

⏰:11/10/08 16:45 📱:S004 🆔:vN/kwjkY


#582 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
河原を過ぎると、私の家がある住宅街が見えてくる。


響歌『じゃあ、私こっちなので』


奈穂『一緒に帰ってくれてありがとうございます』


響歌『あの…そろそろ敬語やめませんか? タメ口で!』

流れ的にチャンスだと思い、言いたかった事を思いきって吐き出した。

⏰:11/10/08 16:46 📱:S004 🆔:vN/kwjkY


#583 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
奈穂『あ、うん、そうですね…。じゃあ…改めてよろしくね』


響歌『…こちらこそ』

吐き出した途端、肩の力が抜けていくのがわかった。


それから黒川さんを姿が見えなくなるまで手を振りながら見送った。


高校に入って初めてできた友達。


これから彼女との友情を大事にしていこうと心に誓い、家に帰った。

⏰:11/10/08 16:50 📱:S004 🆔:vN/kwjkY


#584 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
その夜、お風呂からあがって部屋でぐうたらしていると、久しぶりにナナからの電話があった。


お互いの高校生活について語り明かし、気が付くと髪が自然に半乾きになるまで話し込んでいた。


響歌『…じゃあね』

通話を切って中途半端に湿った髪をドライヤーで乾かし、その日は眠りについた。

⏰:11/10/08 16:52 📱:S004 🆔:vN/kwjkY


#585 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
次の日学校に来ると、いつも早く来ているはずの黒川さんが登校していない。


昨日はなんともなかったような気がしたけど、今日になって風邪でもひいたのかと思い席に座って携帯電話を取り出し、前に交換した黒川さんの携帯番号に電話をかけた。


「おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか…」

どうやら電源を切っているようだ。


なぜだか胸騒ぎがした。

⏰:11/10/08 16:55 📱:S004 🆔:vN/kwjkY


#586 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
“黒川さんに何かあったのではないか?”

不安が募る。


その時、あの名前が脳裏をよぎった。


“出会い系殺人ネット”


まさか次の被害者に黒川さんが…?


いや、単なる私の考え過ぎかもしれない。

⏰:11/10/08 17:00 📱:S004 🆔:vN/kwjkY


#587 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
でも昨日、下校途中の黒川さんの態度には終始違和感を感じていた。


黒川さんが私に一緒に帰ろうと言ってきたのは昨日が初めての事であることから、一人では帰りたくない理由が何かあったのだろうか。


それから休み時間やお昼の時間に彼女の携帯電話にかけたが、ずっと電源を切っているようで一向に繋がらない。


ここまでくると、ますます不安が高まる。


胸騒ぎが収まらず、真意を確かめたくなった私は休み時間、学校に黒川さんから連絡が来てるか確認する為に担任がいる職員室へ向かった。

⏰:11/10/08 17:02 📱:S004 🆔:vN/kwjkY


#588 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『失礼します…川島先生はいますか?』

ノックして入り担任の名前を呼ぶと、背を向けていた先生がすぐに振り向いた。


『村井…どうかしたか?』

私はすぐに先生の元に駆け寄って単刀直入に聞いた。


響歌『あの、黒川さんって今日はどうして欠席なんですか?』


『ああ、黒川か? 実は今、連絡が取れない状態なんだ。家にかけても誰も出ない』

それを聞いて、やっぱり黒川さんの身に何かあったんだと確信する。

⏰:11/10/08 17:04 📱:S004 🆔:vN/kwjkY


#589 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『あの、黒川さんの家の住所教えてください。帰りに行ってみます』


『おお、頼めるか。ちょっと待っててくれ』

先生は自分のデスクに行き調べものをした後、紙に何かを書いてそれを私に手渡した。


『ほい、ここな』

渡された紙には黒川さんの家の住所がボールペンで走り書きされている。

⏰:11/10/08 17:05 📱:S004 🆔:vN/kwjkY


#590 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
紙を制服のポケットにそっとしまって教室に戻った。


放課後、私は学校を出てすぐに住所が書かれた紙と携帯電話のナビを見ながら黒川さんの家へ向かう。


響歌『ここかな?』

どこにでもある木造二階建ての一軒家の前で足を止めて表札を見る。


“佐伯”

名字が“黒川”ではない事から家を間違えたのかと思ったが、携帯電話のナビは間違いなくこの場所を示していた。

⏰:11/10/08 17:07 📱:S004 🆔:vN/kwjkY


#591 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
インターホンを押して、もしも違ったらどうしようかと思いつつも、その佐伯と書かれた表札の家のインターホンを押した。


しかし数分たっても誰かが出てくる様子はない。


やはり留守なのだろうか。


仕方なく、先生から渡すように頼まれていたプリントを郵便受けにいれて回れ右をして帰ろうとした時、通行人のおじさんと目が合ってしまった。

⏰:11/10/09 12:31 📱:S004 🆔:mzPsbm9g


#592 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
怪しい人に見られたかもしれないという不安にかられる。


5秒くらい時が止まったようにおじさんと目を合わせた後、そのおじさんは私の元に歩み寄り一言切り出した。


『ここの人に何か用なのかい?』


響歌『え、えっと…』

やはり家を間違ったのかもしれない。

⏰:11/10/09 12:32 📱:S004 🆔:mzPsbm9g


#593 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
でもこのおじさんはここらへんに住んでる人っぽいので、もしかしたら黒川さんの事を知っているかもしれない。


響歌『あ、あの…ここらへんに黒川さんという人の家はありませんか?』


『黒川? それならそこでいいんだよ』


響歌『あ…そうなんですか』

おじさんの言葉を聞いた限り、黒川さんの家はここで間違いはないらしい。


ホッと胸を撫で下ろしてから、私は更に話を聞く事にした。

⏰:11/10/09 12:34 📱:S004 🆔:mzPsbm9g


#594 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『あの、黒川奈穂さんはここに一緒に住んでるんですか?』


『そーだよ。ばあさんとお母さんと3人で暮らしてるよ。奈穂ちゃんの兄ちゃんもいるけど、かなり前に家を出ていってもういないみたいだよ。どこで何をしてるんだかね』

お父さんがいないのが気になるけど、何か事情があるのかもしれないと深くまで聞かなかった。


『お母さんはいつも朝から仕事で家を空けてるよ。だから奈穂ちゃんも寂しいだろうさ』


響歌『でもおばあちゃんもいるんですよね?』

私がそう言うとおじさんはかゆそうな顔をし案の定、首筋をポリポリとかいた。

⏰:11/10/09 12:36 📱:S004 🆔:mzPsbm9g


#595 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
『ここだけの話、ここのばあさんはちょっとおかしいんだよね。たまに朝散歩してるの見かけるけど、近所の人と会っても挨拶もしない。それになんか魚が死んだような目でぼーっとしながら歩いてるんだよ。あれは完全にイっちゃってるだろうね』

嬉しそうに話すおじさんに少し腹が立ってきたが、なんとか抑えた。


響歌『そうなんですか…。ところで奈穂さんってどこにいるか知りませんか? 今日学校に来てなかったんで…』


『あれ、おかしいね。奈穂ちゃんとなら今日の朝会ったよ。制服もちゃんと着ていたし、ワタシにもちゃんと挨拶していったし』


黒川さんを見たのは朝。

制服は着ていたものの学校へは登校していない。

⏰:11/10/09 12:38 📱:S004 🆔:mzPsbm9g


#596 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
家の人に、学校へ行ってくると嘘をついてまでどこか行く所があったのか、それとも学校へ向かう途中で彼女の身に何かが起きたのか…。


電話が繋がらないのも、もしかしたら家や学校から黒川さんの携帯電話に連絡が来るのを断つため?


それとも、何者かに襲われて携帯電話を手にして警察へ電話しようとした所で犯人に取られて電源を切られてしまったのか…?


いや、嫌な方向へ想像を膨らませても仕方がない。


響歌『あの! 奈穂さんが行きそうな場所とか…心当たりとかありませんか?』


『…さあね。でも奈穂ちゃんが学校を休むなんて珍しいな。何か事情があるんじゃないかい?』

おじさんに聞けるのはこれくらいだろう。


私は軽く礼をし、黒川さんを探す為、その場から走り出した。

⏰:11/10/09 12:40 📱:S004 🆔:mzPsbm9g


#597 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
電話を何度もかけながら探した結果、結局黒川さんを見つける事はできないまま夜を迎えた。


響歌『はあはあ…』

こんなに走ったのは、小学校の時のマラソン以来だ。


あの河原に座り込んで呼吸を落ち着かせる。


なんとか落ち着いてきたと思っていた時、後ろから『ガシャン』と自転車を止める音がして誰かが私に近づいてくるのを感じた。

⏰:11/10/09 12:41 📱:S004 🆔:mzPsbm9g


#598 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
その気配に私は反射的に後ろを振り返る。


もしかしたら黒川さん?という期待を膨らましたが、そこにいたのは中年の男の警察官だった。


『こんな所で何をしてるの? 制服着たままだけど、どこの学校?』

警官の職務質問は厄介だが、答えなければすんなりと帰れそうにもないので、生徒手帳を提示してから警官の出す質問に全て答えた。

⏰:11/10/09 12:42 📱:S004 🆔:mzPsbm9g


#599 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
『…ふうん、なるほどね。で…そのいなくなった友達は名前なんていうの?』


響歌『はい、黒川奈穂さんといいます』


『黒川奈穂ね…。わかった。警察の方でも調べてみるから、君はもう帰りなさい』

10分ほどの職務質問を終えた後、私は解放された。

⏰:11/10/09 12:43 📱:S004 🆔:mzPsbm9g


#600 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
家に着いてからも、黒川さんの事が頭から離れない。


女子高生が1日中ずっと携帯電話の電源を切っているなんてあり得るのだろうか。


ただの電池切れという可能性はあるが、今はもう夜9時で普通ならば家に帰っているはずだ。


その日は当然、眠れるはずもなかった。


ベッドの傍で体育座りになり携帯電話を片手に黒川さんから連絡がくるのをずっと待っていたんだ―

⏰:11/10/09 12:44 📱:S004 🆔:mzPsbm9g


#601 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
午前6時―


結局、黒川さんから連絡が来ないまま朝になった。


一睡もしていないせいで私の目はうつろだ。


ふらふらと立ち上がり、おぼつかない足で階段を下りて真っ先に洗面所へ向かう。


眠気はないが、頭がぼーっとする。


ずっと起きているなんて初めての体験で慣れていないせいかもしれない。

⏰:11/10/09 13:11 📱:S004 🆔:mzPsbm9g


#602 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
洗面台で冷たい水で顔をバシャバシャと洗い、鏡で自分の顔を見る。


なんて疲れた顔をしているんだろう。


よく見るとニキビがいくつかできている。


でも今は黒川さんの事だけが気がかりだ。


私は今日、早めに家を出て黒川さんの家をもう一度訪れる事にした。

⏰:11/10/09 13:20 📱:S004 🆔:mzPsbm9g


#603 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
昨日のおじさんの話によると、この家にはおばあさんと黒川さんと、黒川さんのお母さんの3人が暮らしているとの事だ。


家の表札が“佐伯”となっているのが特に気になった。


黒川さんのお母さんは朝から仕事に行くという事なので、今インターホンを鳴らせば出てきてくれる可能性はある。


私は迷わずインターホンを押した。

⏰:11/10/10 19:33 📱:S004 🆔:XJq82qMk


#604 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
しばらくするとドアが『ギイイイ』と軋む音をたてながら開かれ、中から腰を低くかがめた白髪のおばあさんが現れた。


響歌『あ、あの…』

なんというか、そのおばあさんから伝わってくる不気味な空気と雰囲気に思わず声が震える。


『…………』

おばあさんは警戒した様子で黙って私を下から睨みつけていた。

⏰:11/10/10 19:34 📱:S004 🆔:XJq82qMk


#605 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
何秒くらい見つめ合っただろうか。


10秒?


20秒?


そんなの数えている余裕なんてなかった。


おばあさんが初めて口を開いたのは、ちょうど私が耐えられず目を背けた時だ。


『……誰だ?』

男性のような低い声で問いかけてきたのは。

⏰:11/10/10 19:35 📱:S004 🆔:XJq82qMk


#606 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『…あ。わ、私、黒川奈穂さんと同じクラスの村井といいます!』

おばあさんがいきなり喋り出した事に驚いて、しどろもどろに返事してしまった。


少しの沈黙が続いたあと、おばあさんは私の顔と体を交互に見てから『入りな』と言わんばかりの仕草をし中に入っていった。


私も自然に体が動いて、ひきつけられるようにその後についていく。

⏰:11/10/10 19:39 📱:S004 🆔:XJq82qMk


#607 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
足を踏み出す度にギシギシと音がする廊下を歩いて、このおばあさんのと思われる畳のある和風の部屋に通されて座布団に座る。


他に人のいる気配はない。


部屋を見渡していると、壁に掛かっている古びた時計を発見。


午前7時38分―


黒川さんのお母さんは、朝の7時前にはもう家を出ているのだろう。


あのおじさんの言う通りだ。

⏰:11/10/10 19:41 📱:S004 🆔:XJq82qMk


#608 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
それにしてもこのおばあさん、ちょっとおかしい人だと近所の人達から思われているようだが、私にはそうは見えない。


なんというか、ただ人とコミュニケーションをとったりするのが苦手なだけのように思えた。


『…茶、いるか?』

そう言って立ち上がろうとするおばあさんに


響歌『あ、いえ大丈夫です。お構い無く…』

と、座ったばかりでまた立たせるのも悪いと思い丁寧に断った。


時間もあまりないので、黒川さんの事を聞いてさっさと学校へ行こう。

⏰:11/10/10 19:55 📱:S004 🆔:XJq82qMk


#609 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『ええと…おばあさん』


『佐伯…栄(ひで)だ』


響歌『あ、すみません…』

“おばあさん”と呼ぶのに少し抵抗があったので、名前を聞けて安心した。


響歌『あの…栄さんは黒川奈穂さんとどういう関係なんですか?』

なんか雑誌の記者になった気分だ。


栄さんは私の質問に表情を一つ変える事なく答えてくれた。

⏰:11/10/10 19:57 📱:S004 🆔:XJq82qMk


#610 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
  『…奈穂はアタシの孫だ。とってもいい子で強い子だが、母の実和子はいつも朝っぱらから仕事で帰ってくるのはいつも夜遅い…。寂しいんだろうが、奈穂はそういう感情を母に一度もぶつけた事はない』


響歌『…そうなんですか。あの、ちなみに奈穂さんのお父さんは?』


  『…拓郎はアタシの息子だったが、奈穂がまだ小さい時に事故に巻き込まれて死んでしまったよ』

そう少し寂しげに話す栄さんを見て、辛い事を聞いてしまったなと後悔が襲った。

⏰:11/10/11 23:07 📱:S004 🆔:q2gX470I


#611 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『最後にいいですか? 奈穂さんにはお兄さんもいると聞きました。そのお兄さんは…?』


  『…望(のぞむ)か。望は、すでに独立してもうここにはおらんよ。最近連絡が全くないのが気がかりだが…。ま、元気でやってればいいがな』


響歌『ありがとうございました…。あの、ところで奈穂さんが昨日学校に来なかったんですけど、どこに行ったか知りませんか? 家にも帰ってきてませんよね?』


  『…ああ。昨日、学校へ行ってくると言ったきり帰っていない』

それから彼女が行きそうな場所など心当たりを聞いてみたが、栄さんにはわからないとの事だ。

⏰:11/10/11 23:10 📱:S004 🆔:q2gX470I


#612 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
黒川さんが帰ってきたらすぐ私の携帯電話に連絡をくれるように伝言を頼んで栄さんの家を後にし、早足で学校へ向かう。


その日の夜、再び黒川さんを探す為、彼女の家の周りを歩いている時の出来事だった。


  『…ねえ。村井響歌ちゃん?』

背後から突然私の名前を呼ぶ声が聞こえて後ろを振り返ると、20代前半くらいの背の高い男の人が立っていて私をじっと見つめていた。

⏰:11/10/11 23:15 📱:S004 🆔:q2gX470I


#613 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『だ、誰ですか?』

私には全く見覚えのない男性。


当然の質問をすると男性は『やっぱりか』という表情を見せた。


なにやら気味が悪いので、逃げようと背を向けた時


  『君が探してる人は、黒川奈穂?』

…なぜこの人が黒川さんの名前を?


私は再び男性の方を向き、改めて問いかけた。


響歌『あ、あなた誰なんです…か?』

声が震える。

⏰:11/10/11 23:24 📱:S004 🆔:q2gX470I


#614 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
  『どうでもいいじゃない。それよりも黒川奈穂を探してるんでしょ? 会わせてあげようか?』


響歌『え…?』

黒川さんは生きている?


男性が『ついてきなよ』と言って歩き始めたので、私もその後についていった。



歩いて数十分―


住宅街からだいぶ離れ私の目に飛び込んできたのは、多くの木々と雑草に囲まれた人のいる気配が全く感じられない古く寂れた家…いや、廃屋と呼ぶべき場所。


この中に黒川さんが…?

⏰:11/10/11 23:34 📱:S004 🆔:q2gX470I


#615 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
  『さ、どうぞ』

言われる通りに入口の方に向かい、ドアノブに手をかける。


ドアは佐伯さんの家よりも大きな『ギイイイ』という音と共に開かれた。


そっと中を覗くと、廃屋とは思えないほど家としての原形をしっかりと留めている。


  『靴のまま入っていーよ』

私の後ろで楽しそうな口調で男性が言う。

⏰:11/10/11 23:38 📱:S004 🆔:q2gX470I


#616 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
廊下を靴をはいたまま歩いていくと、奥にある襖と襖の間から小さく明かりがこぼれているのが見える。


『もしかして黒川さん?』と思い、急いでその部屋の前まで駆け寄った。


響歌『黒川さん!』

叫ぶように言いながら両手で襖をサッと開ける。


奈穂『む、村井さん…』

そこに黒川さんの姿はあった。


座椅子に座っていて、なにやら飲み物がはいった紙コップを手にして平然とした表情で私の顔を見上げている。

⏰:11/10/12 00:06 📱:S004 🆔:QnQd350.


#617 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
響歌『黒川さん…大丈夫!? 早く逃げなきゃ…』

あの男が黒川さんをここに監禁しているんだと判断した私は彼女の元へ行き、腕を引っ張ろうとしたが…


奈穂『ま、待って村井さん!』


響歌『…黒川さん?』


奈穂『そ、そこに座ってください』

こんな状況で何を言っているのだろう。


早く逃げなければあの男に何をされるかわからない。

⏰:11/10/12 00:10 📱:S004 🆔:QnQd350.


#618 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
その時、私のすぐ横にあの男が立ち、意味不な発言をする。


  『奈穂。村井響歌ちゃんをつれてきたよ』

…え?連れてきた?

私はすぐに男の方を見て当然の疑問をぶつける。


響歌『ど、どういう事ですか…?』


  『奈穂から聞きなよ』

私はどんな状況なのかを理解する為、黒川さんの向かい側に座った。

⏰:11/10/12 00:18 📱:S004 🆔:QnQd350.


#619 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
奈穂『村井さん…私の事心配してくれてたんですね…』


響歌『当たり前じゃん! それよりも、これは一体どういう事なの?』

黒川さんはもの悲しげな表情で語り出す。


奈穂『…私のお母さんはいつも朝から仕事で、夜帰ってきても疲れたと言って私とは全く話してくれないし、いつもほったらかしです。休みの日もお昼からお化粧してどこかに出掛けたりしてるんです』

…もう話が見えてきた気がしたが、今はまだ彼女の話を黙って聞く事にした。

⏰:11/10/12 00:22 📱:S004 🆔:QnQd350.


#620 [輪廻◆j6ceQ96kak]
 
 
奈穂『でも今ならお母さんが休みの日に何をしに行っているのかわかる気がします。昨日は仕事休みのはずなのに急に仕事がはいったと言って朝から出掛けたので気になって後をつけました。そしたら知らない男の人と待ち合わせしてたみたいで、2人で楽しそうに歩いていったのを見たんです』


響歌『…だから昨日は学校に来てなかったの?』


奈穂『はい…。心配かけて本当にごめんなさい!』

黒川さんの事情は理解した。


全てはお母さんの行動を知る為、そしていずれは自分が行方不明になる事でお母さんに心配して探しにきてもらえるか否かを試していたんだ。

⏰:11/10/12 00:28 📱:S004 🆔:QnQd350.


#621 [輪廻◆Laf0611CWs]
 
 
響歌『それで…お母さんからは?』


奈穂『さっき、ずっと切ってた携帯電話の電源つけてみたけど…お母さんからの電話は一回も来ていなかった…』

子供より仕事が優先な親…

私も彼女の気持ちがわかる。


私のお父さんも似たようなものだから。

⏰:11/10/16 15:06 📱:S004 🆔:IpVLkEZ2


#622 [輪廻]
 
 
そんな仕事ばかりのお父さんが嫌で、小学生の頃に一度だけ家出をした事がある。


お母さんは必死に私を探してくれたけど、お父さんは心配してくれる事も…叱る事すらもしてくれなかった。


だからそういう親に心配をかけさせて、子供の自分ともう一度向き合って欲しいと願う黒川さんの気持ちは痛いほどわかる。


でも―


奈穂『村井さん?』


響歌『……おばあちゃんが心配してるよ。家に帰ろう?』


奈穂『…………』

私がそう言った途端、黒川さんはうつむいて黙ってしまった。

⏰:11/10/16 15:26 📱:S004 🆔:IpVLkEZ2


#623 [輪廻]
 
 
そして、衝撃的な言葉を言い放つー


奈穂『私は…もうすぐ死ぬの』


響歌『…え? 死ぬ…って?』


奈穂『3日前にメールが来たの…。“1週間以内にあなたを殺しに行く”って…』


響歌『そ、そんなのただのイタズラだよ。ほら、チェーンメールってあるでしょ? それと同じようなものだよ』


奈穂『じゃあ…なんで私の名前を知ってるの!?』

ここで初めて黒川さんが声を荒げた。

⏰:11/10/23 10:36 📱:Android 🆔:KFSenJ12


#624 [輪廻]
 
 
奈穂『村井さん教えてよ…』


響歌『それは…』

当然私にはわかるはずもないけど、1つだけ黒川さんの名前を知っている上で送られた方法はある。


響歌『黒川さんの名前を知ってるって事は、そのメールを送ってきたのは黒川さんの知り合いとかじゃないかな…』


奈穂『でも! 知らないアドレスだし…』


頭を抱えて苦しそうにしている彼女に、これ以上何も言う事ができなかった。

⏰:11/10/23 10:52 📱:Android 🆔:KFSenJ12


#625 [我輩は匿名である]
更新されてるー♪
すごくおもしろいです!
これからも頑張ってください(*´ω`*)

⏰:11/10/24 03:09 📱:Android 🆔:OtO7k5iw


#626 [我輩は匿名である]
自演乙。

⏰:11/10/24 17:04 📱:W62P 🆔:☆☆☆


#627 [我輩は匿名である]
>>626
なんでわかるの?機種が同じなだけ。

⏰:11/10/24 17:18 📱:T008 🆔:Qz3X89IU


#628 [輪廻]
すみません、完結までの間オーダー設定させてもらいます。
ーーーーーーーーーー


奈穂『ごめん…悪いけど今日はもう帰って…』


響歌『…黒川さん、明日学校で待ってるよ』

下を向く黒川さんにそう言い残して、廃屋を後にした。


彼女にきた“殺しに行く”というメール。


私は当然半信半疑…というよりもほぼ、ただのイタズラだと思っていた。


でもそれから2日後の夜、私はその光景を目撃することになる。

⏰:11/10/25 13:29 📱:Android 🆔:nQ5kCmAk


#629 [輪廻]
 
 
2日後の土曜日、再び黒川さんに会う為に彼女の家を訪れたが祖母の栄さんから、あれから一度も家に帰ってきていないと言われた。


そうなると黒川さんはあの廃屋にいるはずと思い、暗い夜道を向かって歩く。


そしてあのボロボロの外観が見えてきた時だ。


入口の辺りにうっすらと何人かの人影が見えた。

⏰:11/10/27 01:59 📱:Android 🆔:51fU2zxo


#630 [輪廻]
 
 
人数は3人ほどか。

背の高さから女性ではない事はわかる。


しばらくして中からもう1人、男が出てきた。


暗くてよくわからないけど、その男は何かを引きずっているように見える。


目をこらしてよく見ると、中から引きずり出してきたものが“人”だという事がわかった。

⏰:11/10/28 17:55 📱:Android 🆔:M5pCfIMw


#631 [輪廻]
 
 
私はそんな光景に声が出なくて、同時に嫌な汗が流れる。


怖くなった私は震えた足でその場から逃げようと後ずさりした時、地面にある木の枝か何かが、かかとにつっかかって転んでしりもちをついてしまった。


同時に『ガサッ』と木の葉を踏み潰す大きな音がして、一気に血の気が引く。


恐る恐る廃屋の入口の方を見ると、私の存在がバレてしまったのか、男がゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。

⏰:11/10/28 18:07 📱:Android 🆔:jlIYUM8g


#632 [輪廻]
 
    
立ち上がろうとするものの、震えて思うように立てなくなった私は必死にその場から後ずさりした。


男は段々と私の方へと近づいてくる。


『私、殺される…?』

そんな言葉が頭の中をかけめぐった。


そして、ついに男は目の前にー
 
 

⏰:11/11/08 13:47 📱:Android 🆔:IhCj.3XI


#633 [輪廻]
 
 
暗がりの中でもハッキリとわかった。

男は笑っている。

口元をニヤリとさせているのもしっかりと見えていた。


  『…大丈夫?』

そう言いながら男は私の肩をポンと抑えた。
 
 

⏰:11/11/08 13:55 📱:Android 🆔:IhCj.3XI


#634 [輪廻]
 
 
そしてもう片方の手を差し伸べる。


この人は何を考えているのかわからなかったが、とりあえず立たないとと思って差し伸べられた男の手を握って、その場からゆっくりと立ち上がった。


お尻についた木の葉などを手で払ってから、再び男の顔を見る。


全く見覚えのない顔。

年齢は20代後半くらいか。

黒いフード付きパーカーに黒いズボンと、いかにも怪しい容姿。
 
 

⏰:11/11/08 14:10 📱:Android 🆔:zYkpmFe6


#635 [輪廻]
 
 
響歌『こ、こんな所で何をしてるんですか…?』

思いきって聞いてみると、男はさっきよりも大きく口元を歪ませ不気味に笑いながらこう言った。


  『…ここで僕達を見た事は秘密だよ?』

そう言い残して男は再び廃屋の入口の方へと戻っていった。
 
 
 
 

⏰:11/11/09 11:59 📱:Android 🆔:s3dH2Ves


#636 [輪廻]
 
 
別の男が廃屋の中から引きずり出してきた人が誰なのか知る術はなく、震えた足で回れ右をし、私は逃げるようにして走り出した。


もしあれが黒川さんの死体だったら…?


帰り道でそんな事ばかり考えてしまい、その日は胸騒ぎが収まらなかった。
 
 

⏰:11/11/09 12:13 📱:Android 🆔:muhIY0CY


#637 [輪廻]
 
 
結局その夜は一睡もできずに翌日の朝を迎える。

朝から強く激しい雨が降りしきり、所々で雷の光と共に大きな音が鳴る。


今の私の心はこの空と同じく雷雨が轟いていた。


今日は日曜日。

私は朝ご飯も食べず、ベッドの毛布を頭から被りながら昨夜の事を考えていた。
 
 

⏰:11/11/09 12:37 📱:Android 🆔:hlL3mehU


#638 [輪廻]
 
 
あれは黒川さんなのだろうか?


出会い系殺人ネットの標的としてあの男達に殺されてしまったのか?


それにしても、私に近づいてきた男性はなぜ私を生かして帰してくれたのだろうか?


考えれば考えるほど頭が混乱する。


そんな時、枕元に置いてある携帯電話の着信音が鳴った。
 
 

⏰:11/11/10 17:01 📱:Android 🆔:QCqL1Lm.


#639 [輪廻]
 
 
被っていた毛布を勢いよく払いのけ、携帯電話のディスプレイを見る。


画面には“黒川さん”の文字。

黒川さんからの電話だった。


…黒川さんは生きている?

そんな少なからずの期待をし、一つ息をのんでから通話ボタンを押して電話に出た。


だが向こうが発した声と言葉で、私の期待は見事に裏切られる。
 
 
 
 

⏰:11/11/10 17:03 📱:Android 🆔:QCqL1Lm.


#640 [輪廻]
 
 
『もしもし? 警察の者ですが、少しお話 を伺わせてもらっていいですか?』

嫌な予感は的中した。

黒川さんの携帯電話から警察が電話をかけ てくるという事は…


響歌『あの…黒川さんは…?』

彼女の生死の状態はわかりきっているはず なのに、自分でも認めたくなくて思わず聞 いてしまった。

⏰:11/11/10 17:06 📱:Android 🆔:QCqL1Lm.


#641 [輪廻]
 
 
『今朝方、彼女の遺体が山中で発見されました。遺体から少し離れた場所でこの電話も見つかり、着信履歴から最後に電話があったのがアナタの番号だったので何か知っている事があると思い、こうして電話をかけたのです』

そう告げられた瞬間、私は放心状態になり片手に持っていた携帯電話をぽとりと落とした。


その電話口からは警察の人の『もしもし?』という言葉が何度も連呼されている。


数分そんな状態が続いた後、携帯電話を手に取ると通話はすでに切れていた。
 
 

⏰:11/11/10 17:14 📱:Android 🆔:.54zK52w


#642 [輪廻]
 
 
響歌『黒川さん…』

自分を悔やんだ。

あの時彼女が言った事を私は話半分で聞いていた。


デスカメラの時と同じ。

今回も私の周りで人がまた一人…消えた。


携帯電話に一滴の涙がこぼれ落ちる。


それからは言うまでもなく、大きな声で子供のように泣きじゃくった。
 
 

⏰:11/11/10 17:26 📱:Android 🆔:44gYKaK6


#643 [輪廻]
 
 
私の泣き声に気がついたお母さんも来たけど、いっぱいいっぱいで何も話す事ができずお母さんの胸に飛びついて…とにかく泣いた。



その数時間後、私が迷う事なく向かったのは近くの交番。


昨夜見た事を全て話したんだ。


あの男に『僕達を見た事は秘密』と言われたが、別に忘れていた訳ではない。


くだらない出会い系殺人ネットとやらで亡くなった黒川さんが少しでも浮かばれるなら何だってするって決めただけ。
 
 

⏰:11/11/10 17:28 📱:Android 🆔:44gYKaK6


#644 [輪廻]
 
 
昨日起こった事はおそらくこうだ。


黒川さんはあの廃屋に一人でいた。


そこにあの男達が現れ、黒川さんを殺した。


男達は彼女の死体を山に捨てに行く為、中から死体を出そうとする。


その頃に丁度私が来た。


そして偶然にも私はその場面を目撃してしまう。
 
 

⏰:11/11/10 17:32 📱:Android 🆔:44gYKaK6


#645 [輪廻]
 
 
全ては私の想像に過ぎないけど、少しでも手がかりになればと思って警官に話した。


すると最後に警官から思わぬ言葉が返ってくる…


『話してくれてありがとうね。でも…約束はちゃんと守らないと駄目だよ?』

そう言って深く被っていた帽子のつばをゆっくりとあげる警官。


響歌『…えっ!?』


その警官の顔は、まさに昨夜見たあの男だった―
 
 

⏰:11/11/10 17:34 📱:Android 🆔:44gYKaK6


#646 [輪廻]
 
 
ニヤリと笑うその口元は昨日と全く同じ。


男は制服のポケットから黒い携帯電話を取り出し、私に見せた。


『誰の携帯電話なのかは聞かなくてもわかるだろ?』と言うように男が目で訴える。


響歌『それ…』


  『…当ったり。黒川奈穂のものだよ』

ストラップの部分を持って本体をブラブラとさせながら、からかい口調で言う。
 
 

⏰:11/11/10 23:42 📱:Android 🆔:4CCwSVHs


#647 [輪廻]
 
 
響歌『あなた達が黒川さんを…』

急に怒りが込み上げてきて、気がついたら男に飛びかかっていた。


だけど、戻ってきた別の警官によって私は取り押さえられ事情を聞かれる事に。


あの男はその警官と入れ替えでパトロールに向かった。



最後に私にあの笑みを浮かべて―
 
 

⏰:11/11/10 23:44 📱:Android 🆔:4CCwSVHs


#648 [輪廻]
 
 
 
 
 
追憶・完
 
 
 
 
 

⏰:11/11/10 23:46 📱:Android 🆔:4CCwSVHs


#649 [輪廻]
 
過去篇
>>568-648

お仕事の都合でこれからしばらく更新ができなくなりますm(_ _)m

⏰:11/11/10 23:58 📱:Android 🆔:4CCwSVHs


#650 [我輩は匿名である]
もう書かなくていいよ

⏰:11/11/11 12:09 📱:W62P 🆔:☆☆☆


#651 []
↑お前が書くな

⏰:11/11/11 16:26 📱:P08A3 🆔:GlPGJ8us


#652 [輪廻]
 
 
蓮『俺が引っ越してった後にそんな事があったのか…』


響歌『それからその人に会う事はなかったけど…まさか5年経った今になって会うなんて…』

蓮はそれ以上何も言う事ができず、うつむく響歌を黙って見ていた。


そんな中、蓮の父親がソファから立ち上がり


  『飯でも食べにいくか』

と座る2人を見下ろして言う。
 
 

⏰:11/11/15 23:13 📱:Android 🆔:5LHHuenk


#653 [輪廻]
 
 
蓮『村井、腹減ってるよな? 近くに美味いラーメン屋あんだけど気晴らしに行くか?』


響歌『…そうだね、食べたい』


蓮『じゃあ決まりだな』

彼なりの気遣いと優しさが響歌の心に大きく響いた。


蓮『近いから歩いてくぞ』

蓮とその父親は行く準備を始め、響歌もソファから立ち上がる。
 
 

⏰:11/11/15 23:16 📱:Android 🆔:5LHHuenk


#654 [輪廻]
 
 
ラーメン屋は家から5分ほど歩いた所にあり、店内も時間帯が時間帯なので大盛況していた。


とりあえず奥の空いてる席に3人座る。


座るなり蓮がはしゃぐように言う。


蓮『ここのとんこつラーメンは絶品なんだよ』


響歌『あ、私とんこつは無理かも』


蓮『…マジ? もったいねえな』

明るく振る舞う蓮に、さっきまで悲しみでいっぱいだった響歌の表情にも自然と笑みがこぼれてくる。
 
 

⏰:11/11/15 23:18 📱:Android 🆔:5LHHuenk


#655 [輪廻]
 
 
唯一の気がかりは蓮と蓮の父親の距離感。


ラーメン屋へ向かう途中も2人は距離を置いて歩いていた。


目を合わせようともしない。


蓮の本当の父親ではないので色々と複雑なのだろうけど、響歌はそんな2人といるのが気まずくてしょうがなかった。


いつかわかり合え、本当の親子になれる日が来る事を祈るばかりだ。
 
 

⏰:11/11/15 23:20 📱:Android 🆔:5LHHuenk


#656 [輪廻]
 
 
3人それぞれ別の味のラーメンを注文し、響歌はそれをじっくりと味わった。


  『2人共、ちょっと聞いてほしい』

ラーメンを早々と食べ終え、コップに入った残りの水を飲み干してから蓮の父が真顔で言った。


蓮は反応せずにただラーメンをすすり、響歌は割り箸を持ったまま父親の方に目をやる。
 
 

⏰:11/11/15 23:23 📱:Android 🆔:5LHHuenk


#657 [輪廻]
 
 
  『明日、私は1日だけ仕事の休みを貰って警察に行ってこようと思う。剛史を殺したという人にも面会しておきたい。だから蓮、村井さん…君達は気晴らしにこれでも観に行きなさい』

そう言ってポケットから取り出したのは二枚の紙。


響歌が顔を近づけてそれを見てみると、紙には映画と思われるタイトル。


つまり映画のチケットだった。
 
 

⏰:11/11/15 23:33 📱:Android 🆔:5LHHuenk


#658 [輪廻]
 
 
そして再び蓮の父親の方に目をやると、彼は優しい表情をしていた。


響歌『あ、ありがとうございます…』

そのチケットを一枚受け取り、そっとポケットにしまうと、溢れそうな涙をこらえながら残りの麺をすすった。


響歌には、一瞬だけまるで自分の本当のお父さんのように思えたのだ。


その夜は温かいラーメンと蓮達の暖かい優しさに響歌の心も暖まり、安らかに眠る事ができた―
 
 

⏰:11/11/15 23:36 📱:Android 🆔:5LHHuenk


#659 [輪廻]
 
 
そのせいか、例の夢を見る事はなく翌日の朝を迎える。


麗奈がいない麗奈の部屋。

明るく話しかけてくれる彼女はもうこの世にはいない。


部屋を出て階段を下りリビングへ向かうと、キッチン側テーブルには椅子に座り脚を組みながら新聞を読む蓮の父親の姿。


リビングのソファには誰もいない。


蓮はまだ寝ているようだ。
 
 

⏰:11/11/19 13:16 📱:Android 🆔:ImaFCg1E


#660 [輪廻]
 
 
響歌『おはようございます』

今できる精一杯の笑顔で蓮の父親に明るく言うと


  『おはよう、村井さん』

と向こうもニッコリと返した。


時計の針は午前7時30分を指した所だ。


ソファに座って、しばらくの間電源のついていない暗いテレビ画面を見つめていると、階段を下りてくる音がした。
 
  
 

⏰:11/11/19 13:20 📱:Android 🆔:ImaFCg1E


#661 [みほ]
あげます(^O^)

⏰:11/11/21 01:54 📱:841SH 🆔:2bkoARcM


#662 [輪廻]
>>661さん
ありがとうございます♪
――――――――――


まだ寝ていると思っていた蓮が起き、洗面所にいるのだろう水の音が聞こえてくる。


そしてリビングに来て響歌の隣に座った。


蓮『…おはよ』


響歌『おはよう』

チラッとだけ彼の顔を見てみると、その表情が重苦しい。
 
 

⏰:11/11/22 12:30 📱:Android 🆔:B6W28UJc


#663 [輪廻]
 
 
響歌『どうしたの? 何かあった?』


蓮『…別に。変な夢見ただけ』


響歌『どんなの?』

何気に聞いてみると、蓮から衝撃的な答えが返ってくる―


蓮『気がついたら麗奈が殺されたあの廃工場にいて…俺の目の前に倒れてたんだ…麗奈が。で、自分の手を見てみたら血まみれのナイフを握ってた』


響歌『…! そ、そんなのただの夢だよ。気にする事なんか…』


蓮『そうだけどさ。なんか嫌にハッキリした夢だったから、一瞬夢か現実かわからなかった』

そう言って机の上のリモコンを手に取り、テレビの電源をつける蓮。
 
 

⏰:11/11/22 12:33 📱:Android 🆔:B6W28UJc


#664 [輪廻]
 
 
そして色々な局のチャンネルボタンを押していて、あるチャンネルで手を止めると


蓮『これ…麗奈の事件のニュースだ』

そうポツリとつぶやいた蓮の声が届いたのか、後ろのキッチンテーブルの椅子に座っていた蓮の父親がバタバタと急ぎ足でテレビの方にやってきた。


画面右上のテロップには


“杉本麗奈さん殺害事件に新展開”と表示されている”


しばらくして画面が現場の廃工場からスタジオに変わり、女性のニュースキャスターが真顔でその事件の新展開について読み上げた。
 
 

⏰:11/11/22 12:41 📱:Android 🆔:QIpXppO2


#665 [輪廻]
 
 
それは、麗奈殺害事件にはとあるサイトが関係しているという事だった。


その話を聞いて響歌と蓮はピンときて顔を見合わせる。


蓮『おい村井! これって…!』


響歌『うん。間違いないよ…デスネット!』

いよいよ、影で蠢いてたそのサイトが世間に姿を現そうとしていたー
 
 

⏰:11/11/22 12:43 📱:Android 🆔:QIpXppO2


#666 [輪廻]
 
 
 
 
 
そして物語は最終章へー
 
 
 
 
 

⏰:11/11/22 12:45 📱:Android 🆔:QIpXppO2


#667 [輪廻]
 
 
某所ー


  『それで…村井響歌の居場所は?』


  『ええ…局員の一人が彼女が住んでいるアパートの管理人…高田幸治を殺し、盗んだ合鍵で部屋を開けましたが、村井響歌はいなかったそうで。しかし彼の報告によると、今は桐谷という知り合いの家にいるようです』


  『桐谷くんの家…。なら村井さんには直接来てもらおうかな。別室に拘束している井本七瀬は彼女とは親友同士。その親友を助ける為なら村井さんは必ずここに来る。それも桐谷くんと一緒に…』
 
 

⏰:11/11/22 12:55 📱:Android 🆔:QIpXppO2


#668 [輪廻]
 
 
響歌と蓮の2人はその日のお昼、昨夜蓮の父親から貰った映画のチケットを持って映画を観に行った。


あるメールに気がついたのは、映画を観終わりロビーで携帯電話の電源をつけてからだ。


響歌『蓮! これ見て…!』

隣にいた蓮にそのメールを見せると、彼も驚いた顔をした。

メールには件名に“井本七瀬”とあり、添付されていた画像には薄暗い部屋で手足を縛りつけられて拘束されている女性の姿があった。


七瀬とはしばらく会っていなく、もうこの世にはいないと思っていた響歌はすぐに


響歌『ナナ…!』

とロビーで叫ぶように言った。
 
 

⏰:11/11/22 13:18 📱:Android 🆔:APO5AGiI


#669 [輪廻]
 
 
蓮『村井落ち着け! メールに何か書いてないか見てみろよ』

言われた通りに再びメールを見ると…


“村井響歌 親友の井本七瀬を助けたいなら本日午後7時にお前が通っていた中学校の一階体育倉庫へ来い”

と書かれていた。


響歌『中学校…?』


蓮『俺達が通ってた中学校? そこに井本がいるって事だよな? 村井、行こうぜ!』


響歌『待って。7時になってから私一人で行く』

響歌が真顔でそう言うと、蓮はさっきよりも驚いた顔をする。
 
 

⏰:11/11/22 20:29 📱:Android 🆔:Wgrk0EI.


#670 [輪廻]
 
 
蓮『何言ってんだよ! 向こうはデスネットの関係者で…何人いるかわからないだろ! そんなトコに一人で行かせられるか!』

周りの人目を気にせず大声を張り上げる蓮だが、響歌は首を横に振って話を続ける。


響歌『ありがとう蓮。でも、これは私が決着をつけるべきなの』


蓮『どういう事だよ…?』


響歌『ナナが自分が通ってた中学校で捕まってるって事は…』

蓮の質問を無視して独り言のように言う響歌を見て蓮は


蓮『もういい! 俺は警察に電話してから中学に行く! だからお前はじっとしてろ!』


響歌『ちょっと蓮! ここから中学校までどれだけ時間が…!』

止める間もなく蓮は全速力で走り去っていったー
 
 

⏰:11/11/22 20:31 📱:Android 🆔:Wgrk0EI.


#671 [輪廻]
 
 
その場に一人残された響歌は、携帯電話を握りしめながら考えた。


自分自身が見ていた夢は今の七瀬と同じ状況。

暗闇で手足を縛られ身動きがとれないあの感覚ー


そしてそこからゆっくり近づいてくる人物―


親友である七瀬の苦しみを自分も夢で感じていたとでもいうのだろうか。


響歌『私が…行かなきゃ…私が…』

気がついたら自分も走り出していた。


数分前に走り去っていった蓮を追うようにしてー
 
 

⏰:11/11/23 11:52 📱:Android 🆔:pL7Ejq9k


#672 [輪廻]
 
 
そんな響歌は電車で、通っていた中学校から一番近い駅に向かった。


時間の針は指定された午後7時より5時間早い午後2時を指す。


  『次は〇〇駅〜』

目的地の駅の名前が車内アナウンスで流れると共に、電車を降りる準備をした。


そこから中学校まで歩いて20分かかる所を全速力で走り、10分ほどでその中学校に到着。


日曜日というだけあって周りに生徒はいないが、グラウンドの方からは部活の練習をしているのか、人の走る音やボールを打つ音などがしている。


響歌『変わってない…』

校舎の外観を見上げてポツリと言う。
 
 

⏰:11/11/23 11:56 📱:Android 🆔:pL7Ejq9k


#673 [輪廻]
 
 
いやいや、と首を振って正面玄関へ向かったが鍵がかかっていたので裏口へと回る。


幸い裏口には鍵がかかっていなく、すぐに入る事ができた。


入るなり靴を履いたまま体育館のある一階の奥へと歩いていく。


体育館の入り口の大きな扉を目の前に、一つ深呼吸してから扉に手をかけ中に入った―
 
 

⏰:11/11/23 11:58 📱:Android 🆔:pL7Ejq9k


#674 [輪廻]
 
 
そこにはとても懐かしい空間が広がっていた―


体育館のなんともいえない独特な匂い、ピカピカのワックスがかかった床、バスケットゴール、奥にはステージと懐かしさが蘇るようだった。


来るように指定された体育倉庫は向かってステージの左側にある扉の向こう。


人のいるような気配はないが、きっとあそこに七瀬がいると直感で思い、ワックスがかった床をキュッキュッと音を鳴らしながら体育倉庫に向かって歩き…


そっと手を伸ばし、扉を開けようとした瞬間だった―


  『…誰ですか?』

後ろから誰かが呼びとめた。
 
 

⏰:11/11/23 12:02 📱:Android 🆔:pL7Ejq9k


#675 [輪廻]
 
 
振り返った先には、一人の体育教師と思われる赤いジャージを着た小柄な女性。


その顔を近づいてよく見てみると…


響歌『もしかして…青山先生?』

思い出したように言うと向こうは


  『そうですけど、あなたは一体どなた?』

と知らないような口振りで聞き返してきた。
 
 

⏰:11/11/23 12:54 📱:Android 🆔:LofcQDC2


#676 [輪廻]
 
 響歌『あ、私はここの卒業生で村井響歌です。あの、体育の青山先生ですよね? 私の事覚えてませんか?』


  『…覚えがあるような、ないような…』

青山はしばらく響歌のガン見しながら思い出そうとするも…


  『ごめんなさい、やっぱり覚えてないみたい。それにしてもこの学校の卒業生がここに何か用なの?』

少しショックを隠し切れなかった響歌だが、今はそんなショックを受けている場合ではないと、あのメールの事を青山に話した。
 
 

⏰:11/11/24 14:04 📱:Android 🆔:vAQlkjmo


#677 [輪廻]
 
 
  『それが…この体育倉庫なのね?』

話し終えると青山は納得した表情を見せた。


響歌『それで、一緒に中を見てもらえませんか?』


  『いいわよ。じゃあ鍵を持ってくるから少し待ってて』

そう言って青山は駆け足で出ていった。


響歌『(ナナ…今助けるから…無事でいて)』

心の中でそう何度も無事を祈る―
 
 

⏰:11/11/24 14:07 📱:Android 🆔:vAQlkjmo


#678 [輪廻]
 
 
しばらくして鍵のチャリンという音を鳴らしながら青山が戻ってきた。


  『さ、これで』

鍵を渡された響歌が早速、体育倉庫の扉を開けるー


響歌『ナナ!』

中に踏み込んで周りを見回すと…そこには七瀬どころか人、一人いない。


響歌『誰も…いない?』

それほど広くない体育倉庫を隅々まで見たが七瀬や、人がいたかもしれない痕跡など一切見つからなかった。
 
 

⏰:11/11/24 14:09 📱:Android 🆔:vAQlkjmo


#679 [輪廻]
 
 
  『誰もいないみたいね…』

青山が首をかしげながら不思議そうな顔で言う。


その場でしばらく呆然と立ち尽くしていると、外からバタバタと何人かが走ってくる足音がし…


そこに現れたのは…蓮と、その父親、警官の3人だった。


蓮『村井! 井本は!?』


響歌『誰もいなかった…』


蓮『なんてこった…。一体どこに行ったんだよ!』

念のためと警官に改めて倉庫内を調べてもらったが、七瀬に関する手がかりは何も見つからず…教師の青山を除いた4人は一度中学校を出た。
 
 

⏰:11/11/24 14:12 📱:Android 🆔:vAQlkjmo


#680 [輪廻]
 
 
  『とにかく何もなくて安心しましたよ。ただのイタズラでしょう…って、あなたはあの時の!』

響歌の顔を見た警官が言う。


響歌『…え?』

まさかあの男なのかと思ったが、顔も声も似ても似つかないので内心ホッとしてから改めて警官の顔を見つめた。


響歌『……あ』


蓮『え、何? また知り合いなの? お前どんだけ警官の知り合いがいんだよ』

響歌と警官を交互に見てから少し呆れたように言う蓮。
 
 

⏰:11/11/25 11:35 📱:Android 🆔:67PQu/8w


#681 [輪廻]
 
 
響歌『あ、うん。前にね私の住んでるアパートでバイト先の先輩だった人の事でちょっとあって…』


蓮『この人は大丈夫なんだろうな?』

警官を凝視しながら言い、思わず身構えるような体勢をとったが


響歌『だ、大丈夫だよ。前は怒られちゃったけどね』


蓮『…ならいいけど』

視線を反らし頬をポリポリと掻きながら言う。


  『では私はこれで』

警官は軽く敬礼をすると、門の前に停車していたパトカーに乗り込み、その場を去っていった。
 
 

⏰:11/11/25 11:41 📱:Android 🆔:67PQu/8w


#682 [輪廻]
 
  
蓮『で…どうする?』

パトカーを見送った蓮が振り向きざまに問う。


響歌『…7時になったらまた来る。それまでは一人でいさせて…』


蓮『大丈夫か? デスネットの局員がいつお前の所に現れるかわからないぞ?』


響歌『うん、怖いけど…ちょっと頭の中整理したいから…』


蓮『…そっか。じゃあ7時なったらこの校門の前で待ち合わせな』

響歌は一人で、蓮は父親の方をチラリと見てから一人と、3人バラバラでその場を後にした。
 
 

⏰:11/11/28 01:53 📱:Android 🆔:eTVAsnjM


#683 [輪廻]
 
 
響歌『まだあるかな…』

呟きながら響歌が向かった場所は、5年前に出会った高校生、黒川奈穂が住んでいた家だった。


あの晩の出来事以来一度も行く事がなかった場所。


あれから5年、どうなっているのかを確認したかったのである。


その次に向かう場所も決まっていた。


記憶だけを頼りに住宅街を進む。


ここらへんだ、と思った所で足を止め周りを見る。
 
 

⏰:11/12/03 21:17 📱:Android 🆔:J1uuGu7.


#684 [輪廻]
 
 
しかしそこには真新しい家が立ち並ぶばかりで、5年前とは全く違う景色が広がっていた。


改装でもしたのかもしれないと、その辺の家の表札を一つ一つ見ながら歩く。


だが結局見つける事はなかった。


諦めて、現在どこかで拘束・監禁されている井本七瀬の家へ向かおうとした時、とある家の庭先で植木の手入れをしているおじさんが目に入る。


その顔をよく見ていると、なんだか見覚えがあるように思えてきて、気がつくと響歌の足はそのおじさんの元へと向かっていた。
 
 

⏰:11/12/03 21:19 📱:Android 🆔:J1uuGu7.


#685 [輪廻]
 
 
近づいて声をかけようとしたが、その前におじさんの方が響歌にいち早く気がつき、話しかけてきた。



  『ありゃアンタは…』

おじさんはそう言ってしばらく響歌の顔をじっと見つめ…


そして言った―


  『……誰だい?』


響歌『…………』

2人の間に少しの沈黙が続く。
 
 

⏰:11/12/03 21:23 📱:Android 🆔:VYuta37U


#686 [輪廻]
 
 
響歌『あ、あの…ちょっと聞きたい事があるんですけど…』

無理矢理話題を変えるように聞いた。



  『はあ、なんでしょ?』


響歌『この辺に佐伯さんというおばあさんが住んでいる家はありませんか?』

響歌の質問に、呑気そうな顔のおじさんの表情が一瞬にして真顔へと変わった。


  『ああ佐伯のばあさんね…。あまりこんな事言いたくはないが、いつからか精神に異常をきたしてしまって、いわゆる精神異常者になったと聞いてるよ』


響歌『そんな…』


  『ちなみに家はもうないよ。何年も前に取り壊されちゃったから』

その事実を聞いた響歌は愕然とする他なかった。
 
 

⏰:11/12/03 21:28 📱:Android 🆔:d9g0KFLk


#687 [輪廻]
 
 
響歌『それで栄さんは? もしかして…』

聞くのが怖かったが、口が勝手に動いていた。


  『ああ心配はしなくて大丈夫だよ。死んだ訳じゃないから』

さっきまでの真顔が消えたおじさんは今度はあははと笑い出しながら答えた。


響歌『…………』

そんな不謹慎な言動に、5年前に会ったおじさんはやはりこの人だと確信する。


頬をひっぱたきたい気持ちを抑えつつ、響歌は更に質問を続けた。
 
 

⏰:11/12/03 21:32 📱:Android 🆔:CO5cPd9o


#688 [輪廻]
 
 
響歌『家は取り壊されたって言ってましたよね? じゃあ栄さん達はどこに行ったんですか?』


  『んーとね…孫の奈穂ちゃんという子のお母さんは知らない男の人とどこかへ引っ越してったみたいだよ。ばあさんの方は知らないねぇ…。で、アンタはなに、ばあさんの知り合いかなんかかい?』


響歌『あ、いえ…そういう訳では』


  『あ、そう。まぁ家がなくなった訳だからアパートかどこかでひっそりと暮らしてると思うよ』

おじさんは再び笑いながら言うと、腰を抱えながら自分の家へと帰っていった。
 
 

⏰:11/12/03 21:40 📱:Android 🆔:CO5cPd9o


#689 [輪廻]
 
 
5年前に、一緒に住んでいた孫の黒川奈穂が謎の男達に殺害され、いつしかその母親も家から出ていった。


今も一人きりで寂しく暮らしていると思うと胸が切なくなってくる響歌。


だが彼女の居場所がわからない以上、どうする事もできない。



響歌『精神…異常…か。え、精神異常?』

おじさんの家の庭を後にし、七瀬の家に向かっている最中、その言葉が心にひっかかった。


響歌にはなんとなく覚えがあるような気がしたからだ。


何日前…いや何ヵ月も前にそのような精神に異常をきたした者に関わった心当たりが―

 
 

⏰:11/12/03 21:43 📱:Android 🆔:CO5cPd9o


#690 [輪廻]
 
 
しかしそのひっかかったものが喉元まで来ているというのに、そこからつかえて思うに思い出せなかった。


その事を思い出そうとしながら歩いていると、やがて七瀬の家が目に入る。


早く七瀬の事を家族に知らせなければとドアの方に駆け寄ってインターホン押す。


しばらくしてドアの向こうからバタバタと足音がして、ドアが開かれ七瀬の父親が姿を現した。


  『誰ですか、今ちょっと取り込んでて…』

父親のとても焦った様子を見た響歌は、すでに七瀬の事を知っているんだと悟ったわ。
 
 

⏰:11/12/03 21:47 📱:Android 🆔:1CJ.kMZk


#691 [輪廻]
 
 
響歌『あ、あの私、ナナ…七瀬の友達の村井響歌というんですが…』


  『七瀬の…?』

名前と七瀬との関係を言うと、父親の肩の力が抜けると同時に焦りの表情が少しずつ消えた。


響歌『七瀬の事聞いてますか?』


  『…という事は君も? なら話が早い。ちょっとあがってください』

そう言って七瀬の父親は響歌を家の中に招き入れた。
 
 

⏰:11/12/06 01:26 📱:Android 🆔:qM0P5oK6


#692 [輪廻]
 
 
居間へと通され、響歌に缶コーラを差し出すと、早速話を始めた。


 『実はお昼の12時頃、家に知らない女の人から電話がかかってきたんですよ。
用件を聞いて驚きました』

ここまで言うと一旦息をのんで、付け加えるように続けた。


  『女の人は“お前の娘を拘束した。お前の娘は人殺しだ”と、いきなりこう言ってきた訳ですよ』


響歌『ナナが……人殺し?』


  『ええ。もちろん何かのイタズラだとは思ったのですが…しばらくしたら電話口に怯えた声の七瀬が…』


響歌『な、ナナは何か言ってましたか!?』

大きな声を出し、身を乗り出す響歌。
 
 

⏰:11/12/06 01:30 📱:Android 🆔:zBPY2wCg


#693 [輪廻]
 
 
  『いやそれが…よく聞き取れなくて。
デスカメラがどうのこうのとは言っていたような気がするんですが、一体何の事やらサッパリで』


響歌『デスカメラ!?』

再び張り上げた響歌の声に、向こうは少し驚いたように体をピクリとさせつつも聞き返す。


  『もしかしてデスカメラとやらをご存知で? 』


響歌『は、はい。まだ中学生の時に流行っていたカメラで…それで写された人は一週間以内に死ぬと言われていたものです』


  『まさか!そんなカメラがこの世にあると?』


響歌『私も最初は信じてませんでした。
でも、ナナがそのカメラで担任の先生を写して……あ!』

響歌はここで何かを思い出したように口をポカーンとさせた。
 
 

⏰:11/12/06 01:33 📱:Android 🆔:zBPY2wCg


#694 [輪廻]
 
 
  『ど、どうかしたの?』

そんな響歌に、あたふたしながら尋ねる彼。


響歌『七瀬が人殺しというのは…多分、そのデスカメラで撮られた担任の先生が死んだからだと思います』


  『ああ…それなら知ってますよ。
でもそれは確か交通事故が原因と聞いてるけど…』


響歌『そうですけど 、事故はデスカメラで撮られた後に起こったので、電話の人も、七瀬が人殺しだと思ったんじゃないでしょうか…?』


  『う〜ん、僕には到底信じられないんだけども…』

七瀬の父は腕を組んで難しい顔をし、考え込みはじめた。
 
 

⏰:11/12/06 01:37 📱:Android 🆔:zBPY2wCg


#695 [輪廻]
 
 
そんな響歌も、差し出された缶コーラに一度も手をつけずに考え込む。


刻々と時間が過ぎていく。


最初に沈黙を破ったのは七瀬の父。


  『そうだ! 警察に連絡しましょう! これは立派な誘拐事件なのだから、さすがの警察も動いてくれるでしょう!』

よほど娘の事が心配なのか、少々鼻息を荒くしながら言う。


響歌『でも…そういうのって警察に言ったら逆に危ないと思います。
あの、ナナの事は私に任せてくれませんか?』

そう言って昼間響歌の携帯電話に届いたメールを彼に見せた。
 

⏰:11/12/06 01:40 📱:Android 🆔:WPLx6m3c


#696 [輪廻]
 
 
  『これは…七瀬!』

文章を見た後に、添付された、拘束されている七瀬の画像を見た父はかなり驚いた様子で、思わず片手に持っていた響歌の携帯電話を床に落とす。


響歌『だ、大丈夫ですか?』


  『やっぱり警察…警察に電話しよう!』

そう言って動揺する彼は、背後の棚に置かれた電話の子機に手を伸ばしたが、それを響歌はとっさに電話のある棚の前に立ちはだかって阻止した。


響歌『おじさん落ち着いてください!』


  『落ち着いてなどいられるか! 娘が誘拐されたんだ!』


響歌『その七瀬を今まで放っておいたのは誰ですか!?』

響歌のその一声で、彼は伸ばしていた手をゆっくりと引っ込めた。
 
 

⏰:11/12/06 01:43 📱:Android 🆔:WPLx6m3c


#697 [輪廻]
 
 
数分して、なんとか落ち着きを取り戻した彼に、響歌はホッと胸を撫で下ろしてから再び話をはじめた。


響歌『ナナは高校を中退してから家を出て行ったんですよね? 一体何があったんですか?』


  『七瀬は…高校2年生までは普通のよい娘だった。
だけどある時、通っている学校の先輩の恋人ができたと言って一度だけ家に連れてきた事があるんですよ。
でもその男は、七瀬とは全く釣り合いそうもないチャラチャラとした感じの男だった。
当然、僕と妻は反対した。
それからですよ、七瀬が変わっていったのは…。
高校も途中で辞めてしまってからは、深夜遅くになっても家に帰らない事が多くなって』


響歌『結局、最後まで2人の交際は認めなかったんですか?』


  『ええ。相手があんな男じゃ七瀬は幸せになれない…そう思いました。
何度も何度も反対し続けた結果、ある日突然、出ていくと言って家を飛び出して行ったわけです』


七瀬の話を聞いた響歌の目からは涙がこぼれていた。
 
 

⏰:11/12/06 01:57 📱:Android 🆔:Z9IqkvF6


#698 [輪廻]
 
 
響歌『どうして人を見た目で判断するんですか…?
ナナはナナで十分幸せだったはずなのに…』


  『ああ…反省していますよ。
僕も妻もつまらない意地を張っていたんだと。
だから一刻も早く誘拐犯の元から助け出して謝りたい』


響歌『私もナナの友達として助けたいです。
だからお願いがあります。
警察には連絡しないでください』


そう言うと、頭を深く下げた。


  『でも、君一人でどうやって…』

当然の疑問をぶつける彼に対して響歌は頭をゆっくりと上げ、真剣な顔で彼を見つめて言った。


響歌『その誘拐犯には心当たりがありますから。
…ナナは必ず助けます。
だから、おじさんはここでナナの帰りを待っていてください』


響歌の覚悟は決まったー
 
 

⏰:11/12/06 02:01 📱:Android 🆔:Z9IqkvF6


#699 [輪廻]
 
 
午後6時50分ー


辺りはすでに薄暗く、道には仕事帰りらしき男女が忙しなく行き交っている。


そんな人通りを抜け、響歌は中学校へと急ぐ。


やがて校門が見えてくると、その前には既に蓮の姿があった。


響歌『蓮!』


蓮『おお、村井』

小走りで蓮の元に駆け寄る。


響歌『ごめん…待たせちゃって』


蓮『いや俺もさっき来たばっか。
それよりお前どこ行ってたの?』


響歌『うん、ナナの家。
ナナのお父さんと約束してきた。
絶対助けるって』

2人は同時に校舎を見る。

時間は指定の午後7時を少し過ぎた所だったー
 
 

⏰:11/12/06 02:32 📱:Android 🆔:wzxJ86gw


#700 [輪廻]
 
 
蓮『裏から行こうぜ』


響歌『うん』

2人は静かな足音で裏口へと回った。


鍵は開いていたので、靴のまま中へと入る。


昼間来た時とは雰囲気がまるで違うように感じた。


蓮『村井、体震えてるけど大丈夫?』

暗く静かな廊下だが、蓮の小声は大きく響くように聞こえた。


響歌『だ、大丈夫…。
暗い所が苦手なだけだから…』


やがて体育館の扉が見えてきた。

蓮がそっと扉に手をかけると…


蓮『鍵…開いてる。よし行くぞ』

そのまま片手で扉を開けたー
 
 

⏰:11/12/06 02:48 📱:Android 🆔:y67ie0Q.


#701 [輪廻]
 
 
体育館内は暗闇に包まれている。


蓮『電源ってどこだっけ? 何も見えね』


響歌『確かあっち側だったような…』

入り口近くの壁から手探りしながら左方向へと進む。


響歌『あ、これかも』

4つほど並んだ小さなレバー型のスイッチを見つけ、それを全て上に引き上げた。


館内に少しずつ明かりが点いてくる。


蓮『早く体育倉庫に行こうぜ』


響歌『ナナ…!』

2人は奥にある体育倉庫へと走った。
 
 

⏰:11/12/06 12:41 📱:Android 🆔:RnKB4e/I


#702 [輪廻]
 
 
蓮『あれ、鍵かかってる!』

戸には鍵がしっかりとかけられていた。


響歌『鍵ならきっと職員室だよ!』


蓮『俺ちょっと行ってくる!』

そう言って蓮が振り返ろうとした瞬間…


  『その必要はないよ、桐谷くん』

入り口の方から女の声がした。


2人はゆっくりと、その声がした方を見る。
 
 

⏰:11/12/06 12:43 📱:Android 🆔:jS0TFdR2


#703 [輪廻]
 
 
そこに立っている人物を見て最初に声を出したのは響歌だった。


響歌『やっぱり…』


蓮『え…あれ誰?』

女を指をさしながら首を傾げる蓮。


響歌が答えようとした瞬間、向こうに立つ女が先に口を出した。


  『それはひどいよ桐谷くん。当時のあなた達の副担任の顔も忘れちゃうなんて』

女は苦笑いしながら言うと、蓮は唖然として言葉を失った。
 
 

⏰:11/12/06 12:58 📱:Android 🆔:FUsX3ALs


#704 [輪廻]
 
 
望月『名前覚えててくれてたなんて嬉しいわ。桐谷くんも彼女を見習いなさい』


蓮『な、なんで先生が…?』

そうとう衝撃的だったのか、蓮はものすごく動揺していた。


望月『なんでって? 井本七瀬…彼女が真島貴之を殺したからよ。
そして村井響歌…あなたもね!』


響歌『私…? 私は何もしてない…!』


望月『そういう記憶力は悪いみたいね。
知ってるんだよ、あなたがデスカメラを買った事くらい!』


響歌『…あ、あれは…』


望月『あなたが井本七瀬にあのカメラを渡したせい…それで貴之は…!』

そこまで言うと、望月は上着のポケットから小型のナイフを取り出した。
 
 

⏰:11/12/06 13:57 📱:Android 🆔:e5OIsdc6


#705 [輪廻]
 
 
蓮『村井!』

望月と蓮はほぼ同時に響歌の元に駆け寄ろうとする。


響歌『…蓮、来ないで! 早く逃げて!』


蓮『…!!』

望月は響歌の少し前まで来ると、途端に方向を変え、蓮の方に向かっていった。


後退りしながら小走りで逃げる蓮を、両手でナイフを構えながら、まるで獲物を見つけた猛獣のような目で追う望月。


響歌はそんな彼女を止めようと、その後ろ姿を追う。


望月『タカユキヲカエセェェー!!』

所々で、発狂したように女性とは思えない奇声をあげる望月。


それはもう響歌達の知っている副担任だった頃の望月ではなく、復讐にとり憑かれた悪魔のようだった。
 
 

⏰:11/12/06 17:37 📱:Android 🆔:XZ0Z6YP2


#706 [輪廻]
 
 
誰もいない一階の廊下には体育館で走る3人の足音だけが響く。


まるで競技をしているかのようにー



蓮『村井! お前は早くここから出て警察に電話しろ!』


響歌『…だめ! ナナが見つかるまでは…』


蓮『んな事言ってる場合じゃ…うわ!』

曲がる際に足首を捻った蓮は、体勢を崩してその場に膝をつく。


チャンスと思ったのか、走り疲れ果てていたはずの望月は急に足を早め、ナイフを振り上げたまま蓮の元へ。



望月『村井さん! あなたにも大切な人を失う最後の苦しみを味わわせてあげる!』

振り向きざまに響歌の顔を見て言うと、再び視線を前に戻し、ナイフを蓮の背中目掛けて振り下ろしたー
 
 

⏰:11/12/06 19:11 📱:Android 🆔:bjpvMl26


#707 [輪廻]
 
 
響歌『蓮ーーーーーーッ!!』

体育館内と廊下全体に響歌の叫び声が響くー


同時に、腰が抜けたようにその場に崩れ落ちる。


そしてゆっくりと2人の方を見ると、望月のナイフを握っている方の手首を蓮が掴んでいた。


響歌『れ、蓮…?』

蓮の体全体を目をこらして見る。

どこも怪我をしておらず血も見当たらない。


蓮『…俺は大丈夫。
それより村井、早く職員室行って体育倉庫の鍵持ってこい』


響歌『う…うん!』

震えた足をなんとか立たせると、急いで職員室のある2階へと向かった。
 
 

⏰:11/12/06 19:36 📱:Android 🆔:p3RB9XWc


#708 [輪廻]
 
 
蓮『先生…アンタも俺の運動と反射神経の事忘れてたっしょ?』


望月『……ッ!』

望月は掴まれた手を必死に振り払おうと抵抗するも、蓮はがっしりと掴んで離す事はなかった。


しばらくして響歌が息を切らしながら戻ってきた。


響歌『蓮! 鍵…職員室に鍵がなかった…』


蓮『ちゃんと見たのか?』


響歌『…うん』


蓮『先生、鍵どこだよ?』

望月の顔を睨みながら聞く蓮。
 
 

⏰:11/12/06 20:07 📱:Android 🆔:7gA3Ldl2


#709 [輪廻]
 
 
望月『さあ…どこかしら』


蓮『村井! 先生の体調べてみろ。
どっかに鍵が…』


言われた通り、響歌が望月の方に近づこうとした時…


 『鍵ならここだよ』

突然、入り口の方から男の声がした。


その声に響歌は振り返り、蓮は反射的にそちら側を見る。


そこに立っていたのは…


警察官の格好で、帽子を深く被り、口元をニヤリとさせたあの男だった―


男は、鍵と一緒についている“体育倉庫”と書かれたプレート部分を持って見せつけるようにぶらぶらとさせている。
 
 

⏰:11/12/07 15:54 📱:Android 🆔:LkyjtuLw


#710 [輪廻]
 
 
5年前、交番で黒川奈穂の携帯電話を見せたのと同じように―


  『ねえ、そこのイケメンくん。
この鍵渡すから、その女の手離してくれない?』

男はこちらにゆっくり近づきながら蓮に向かって言う。


蓮『ばーか。んな事できる訳ねーだろ。
鍵をホントに渡してくれるかどうかもわからねーのに』


  『信用ないなー。警察を信用できないっての?』

表情一つ変える事なく言い切る男。
 
 

⏰:11/12/07 16:06 📱:Android 🆔:eIW9akpg


#711 [輪廻]
 
 
蓮『おいオッサン、それは矛盾してるだろ。警察ならまず、この先生の持ってるナイフを捨てろとか言うっしょ』


  『ふーん、見た目とは違ってマトモな事言うじゃない』


蓮『アンタがマトモじゃねーんだよ』

2人のお互い一歩も退かない緊迫した言い合いはしばらく続いた。


  『…うまい事言うね。とにかく、その女を放してくれたら命だけは助けるよ。
親友の井本七瀬を早く助けたいでしょ?』


蓮『バカにすんじゃねーよ。
だったらまず、井本がそこの体育倉庫にいるかどうか証拠見せろよ』

ここで男が一瞬だけ、小さく舌打ちするのを響歌は見ていた。
 
 

⏰:11/12/07 16:23 📱:Android 🆔:IjLWb1I2


#712 [輪廻]
 
   
そして、男はついに本性を現すー


  『口の減らねぇガキだな。
そんな奴を黙らせるにはこれしかねえかぁ!』

男は帽子をその場に投げ捨て、腰の裏側に手を回し、そこから素早く拳銃を取り出して蓮の方に銃口をつきつけた。


響歌『……!!』


蓮『……ッ!!』


望月『村井さん、桐谷くん…残念だけどここでゲームオーバー。
桐谷くんにはデスネットからの通達はしてないけど、村井さんと一緒に死ねるなら本望よね?』

余裕の表情の望月が言う。
 
 

⏰:11/12/07 16:42 📱:Android 🆔:/aMYYSR6


#713 [輪廻]
 
 
蓮『ちっ…銃とか卑怯だろ…』

まだ強気な事を言う蓮だが、その表情はとても動揺していた。


  『ほら、死にたくねえならさっさとその女の手離せよ』


響歌『(ど…どうしたらいいの…? 誰か…助けて…お願い…!)』

目をぎゅっとつむり、心の中で祈る響歌。


男は拳銃の引き金をゆっくりと人差し指で押していく。


その時―


突然体育館の明かりがパッと消え、辺り一面真っ暗闇に包まれた。
 
  

⏰:11/12/07 17:04 📱:Android 🆔:kCCTFzeY


#714 [輪廻]
 
 
  『なんだ…?』


響歌『…えっ?』


蓮『…!?』


望月『…!?』

4人はこの状況に戸惑いを隠せず、ただ呆然とする。


外も暗いせいで誰の姿も見えない。


そんな中、暗闇で誰かが走り出した。


それが蓮なのか、望月なのか、あの男なのか…響歌には微塵もわからない。


確かな事は、足音は二つするという事だった。


一つは入り口の方に向かい、もう一つは響歌達の方に駆け寄ってくる。
 
 

⏰:11/12/07 17:25 📱:Android 🆔:x.xFNjwk


#715 [輪廻]
 
 
何が起きているのか理解できずその場で固まっていると、いきなり誰かの手が響歌の腕を掴み、耳元でこう囁く女の声がした。


  『こっち!』

手をひかれながら暗闇を走り、扉が開かれ、廊下へと出た。


響歌『誰…?』

廊下を走っている最中、もしかしたら望月なのかもしれないと思い、掴まれている手を払いのける。


すると向こうは立ち止まり、一言こう返した…


  『久しぶり…響歌』

やがて慣れてきた目で、その人物を見ると…


響歌『……ナナ? ナナなの?』

立っていたのはまぎれもなく、親友の井本七瀬だった。
 
 

⏰:11/12/07 17:51 📱:Android 🆔:5HxzjzY6


#716 [輪廻]
 
 
響歌『ナナ…なんでここにいるの?』


七瀬『ごめん、詳しい事は後で話す。
とにかく今は早く逃げよう!』

2人は、入ってきた裏口へと急ぐ。


そして外へ出た瞬間、一発の銃声が響いたー


響歌『…!!』

その銃声を聞いてすぐ思い浮かんだのは蓮の姿だった。


響歌『蓮! 蓮が!』


七瀬『…だめ!』

血相を変え再び校内に入ろうとする響歌を七瀬が止める。
 
 

⏰:11/12/08 13:14 📱:Android 🆔:Cun1p.Yo


#717 [輪廻]
 
 
響歌『だって! 蓮が…!』


七瀬『キリなら大丈夫だよ!
とにかく落ち着いて響歌!』


響歌『…………』


銃声がしてから数分が経過した所で、校門の方からパトカーのサイレンが聞こえ、同時に裏口から蓮が走って出てきた。


響歌『…蓮!』


蓮『なんだよ村井…その顔…』

涙でボロボロになった響歌の顔を見て、蓮は苦笑いする。
 
 

⏰:11/12/08 13:16 📱:Android 🆔:Cun1p.Yo


#718 [輪廻]
 
 
響歌『さっきの音は…?』


蓮『わかんねえ。
さっき体育館で電気が消えた時、チャンスだと思ってあのオッサンを取り押さえようと思ったんだけど…』


響歌『じゃあ…入り口の方に走っていったのは蓮だったの?』


蓮『まあな。でも、さすがにあんな暗くちゃ無理だった』


七瀬『ちなみに電気を消したのは、あたしなの』

思いがけない七瀬の言葉に、2人は同時に七瀬の方を見る。
 
 

⏰:11/12/08 13:18 📱:Android 🆔:Cun1p.Yo


#719 [輪廻]
 
 
蓮『井本、お前だったの?
でもどうやって消した? 電源の所には誰もいなかったよな?』


響歌『う、うん…』

今度は2人顔を見合わせる。


そんな2人を見て、七瀬はクスリと小さく笑った。


七瀬『やっぱり2人共変わってない…』


蓮『…は? どーゆー意味だよ?』


七瀬『なんでもない。
体育館の電気は、ブレーカーを落としたんだよ』


響歌『あっ! ブレーカー…』

なるほど、と納得した顔をする。
 
 

⏰:11/12/08 13:20 📱:Android 🆔:Cun1p.Yo


#720 [輪廻]
 
 
蓮『なんだ、ブレーカーか…。
ところで井本、お前はどこで監禁されてたの?』


七瀬『体育館のステージを上がった横にあるブレーカーとかある小さな部屋だよ。
そこで気失ってたみたいで…起きたら、外からキリの声が聞こえてきたの』


蓮『…5年も会ってなかったのに、よく俺の声だってわかったな』


七瀬『覚えてるに決まってるじゃん。だって…』

その先を言おうとした所で、パトカーから数人の警察官が降りてきて、こちらに駆け寄ってきた。
 
 

⏰:11/12/08 13:21 📱:Android 🆔:Cun1p.Yo


#721 [輪廻]
 
  
響歌『あれ、警察は誰が呼んだんだろう?』


蓮『俺じゃないよ。
…もしかして警察も井本が?』


七瀬『いや、あたしじゃないよ。
携帯があればしてたけど…』

3人は揃って首を傾げる。


  『君達! 怪我はない?』

中年の警官が心配そうな顔をしながら尋ねると、3人はコクリと頷いた。


  『あとで君達にも事情を聞かないとならないから、とりあえずここで待っていてくれる?』

そう言うと、中年の警官は他の警官数名を引き連れて校内へと入っていった。
 
 

⏰:11/12/08 14:01 📱:Android 🆔:Ajh610uY


#722 [輪廻]
 
   
七瀬『でもさ…あたしも悪かったんだよね。
響歌の住所とか使ってあんなカメラ買っちゃうし、それで真島先生達を撮っちゃうしで』


響歌『少なくともナナは殺人者なんかじゃないよ。
体育館で私を助けてくれたんだから。
それに、ナナが撮った写真には望月先生も写ってたんでしょ?
望月先生の身には何も起きてないみたいだし』


蓮『まあ、逆に復讐者にはなっちゃったけどな。
…先生言ってたじゃん?
“大切な人を失う苦しみを味わわせる”って。
だから井本とよくいた俺らにとっても大切な人を次々と殺していったのかもな』


響歌『それが…黒川さん、中野くん、吉田さん、雪乃…そして蓮のお兄さんと麗奈さん…なの?』

だが、響歌には納得できない事があった。


響歌『じゃあ…なんで私の住んでるアパートの管理人さんと、私の隣の部屋に住んでた奥村さんまで殺す必要があったの…?』


蓮『奥村って人の事は知らないけど、管理人の事はニュースでやってたじゃん。
管理人の部屋からアパートの合鍵が無くなってたって』


響歌『だとしても、別に殺す必要なんてなかったと思うけど…』


蓮『理由は先生が出てきたら聞いてみるしかないな』

3人は裏口付近で警官達が出てくるのを待ったー
 
 

⏰:11/12/08 15:00 📱:Android 🆔:gUGxqOgo


#723 [輪廻]
 
 
アンカー
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500
>>501-550
>>551-600
>>601-650
>>651-700
>>701-750

⏰:11/12/08 21:23 📱:Android 🆔:ZesXDm46


#724 [輪廻]
 
 
その後体育館で、血まみれで死んでいる望月を警察が発見。


手には、あの男が持っていた銃が握られており、至近距離から右のコメカミ部分を撃たれている事から、望月は自殺だと言われた。


望月の遺体を乗せた車を、響歌達はただ呆然と見つめていたー


  『じゃあ君達にも来てもらおうか』

先ほどの中年警官が言い、3人を乗せたパトカーは警察署へと向かう。


校門の近くには大勢の野次馬が集まっていた。
 
 

⏰:11/12/09 09:50 📱:Android 🆔:6pVx3tws


#725 [輪廻]
 
 
警察署に到着後3人は、1人ずつ取り調べを受け、デスネットによって自分の身近な人物の命が奪われた事など全てを話した。


体育館から忽然と姿を消した警察官の男の事も話すと、取り調べの刑事は顔色を変えてこう言った。


『そんな人物は警察には存在しない』

と…。


それを聞いた響歌は背筋がぞっとする思いをした。



午後9時20分ー


取り調べは3人合わせて1時間ほどで終わると、ようやく解放された。
 
 

⏰:11/12/09 09:52 📱:Android 🆔:6pVx3tws


#726 [輪廻]
 
 
最後に取り調べを受けた響歌が署から出ると、階段の所で蓮と七瀬が待っていた。


蓮『やっと終わったか』


七瀬『お疲れ、響歌』

2人はだいぶ疲れた顔をしている。


七瀬『なんか意外と早かったね。
あたし、解放されるの明日の朝とかかも…って思っちゃった』


響歌『私も…。多分、正直な事ちゃんと話したからかもね』


蓮『くそ! それにしてもあのオッサン…どこ消えたんだ? 警察にはそんな奴いないって言ってたけど…』

階段を下りながら声を荒げる蓮。
 
 

⏰:11/12/09 09:55 📱:Android 🆔:6pVx3tws


#727 [輪廻]
 
 
七瀬『あたしは見てないんだけど、どんな人だったの?』


蓮『ん? ああ…警察官の服着てたんだよ。
銃も持ってたし、普通に警察だと思ってたんだけど違ったらしいな』


七瀬『マジで? それってただのコスプレマニアだったりして!』


蓮『……なわけねーだろ』

響歌は、そんな2人のやりとりに少しだけ心が和んだ。


蓮『にしても、俺らを殺そうとしてた先生が自殺なんてな』


響歌『銃に望月先生の指紋がついてたらしいから間違いないみたいだね…』

てっきりあの男が撃ったのだと思っていたが、刑事から聞いた現場の状況や、銃に付着した指紋などから、望月はほぼ自殺で間違いないとの事だった。
 
 
 
 

⏰:11/12/09 10:01 📱:Android 🆔:6pVx3tws


#728 [輪廻]
 
 
蓮『でもさ、一つ気になる事あるんだけど』


響歌『どうしたの?』


七瀬『なになに?』

2人の視線は蓮に集中した。


蓮『いや、先生ナイフ持ってたじゃん?
自殺する時、なんでそれ使わなかったのかなって思って』


響歌『あ、確かに…。
拳銃はあの男が持ってたし。
…もしかして奪ったとか?』


蓮『う〜ん。それなんだけど、もうひとつ気になる事あんだよな』


響歌『なに?』
 
 

⏰:11/12/09 11:10 📱:Android 🆔:z2CwA7uE


#729 [輪廻]
 
 
蓮『銃に先生の指紋ついてたって言ってたけど、あのオッサンの指紋は見つかってないんだよな?』


響歌『う、うん…聞いてないけど。
それがどうかした……あっ!』


蓮『わかった? 俺の見た限り、オッサン手袋してなかったんだよ。
だったらなんで銃にオッサンの指紋がねえの?』


七瀬『え、そんなの簡単じゃん』

突然、2人の会話に七瀬が割って入った。
 
 

⏰:11/12/09 11:12 📱:Android 🆔:z2CwA7uE


#730 [輪廻]
 
 
蓮『なんだよ?』


七瀬『普通にハンカチとかで拭き取ったんじゃないの?』


蓮『……いや、あんな暗闇じゃ何も見えないし、そんな余裕はないだろ』


響歌『私とナナが外に出て、銃声が聞こえるまでの間に体育館で何があったんだろう…』


蓮『まっそれは警察が調べてくれるっしょ。
とにかく今日は疲れたし帰ろうぜ。
村井も井本も俺の家来いよ』

その夜は電車で3人、蓮の家へと帰った。
 
 

⏰:11/12/09 11:35 📱:Android 🆔:Uts6xNC2


#731 [輪廻]
 
 
数日後ー


望月の事件はしばらくの間町内を騒がせ、テレビのニュースではついに“デスネット”の名前があがった。


主犯である望月の自宅から見つかったパソコンの中には“標的一覧”と題し、数々の殺人の被害者と思われる名前と個人情報が並ぶファイルを発見。


名前は公表されなかったものの、その中に何の罪もなく命を奪われた自分の大切な人の名前が入っていると思う度に、響歌は歯痒い気持ちで一杯になる。


響歌『結局…わからなかったな』

夜、蓮の家のリビングのソファでテレビ画面を見ながら呟く。


蓮『ん? なにが?』


響歌『うん、ちょっと…。
あ、私明日には実家帰る事にしたから』
 
 

⏰:11/12/09 12:25 📱:Android 🆔:aFeV6h9U


#732 [輪廻]
 
 
蓮『マジで? アパートはどうすんの?』


響歌『管理人さんも、隣の部屋に住んでた人も死んじゃったから…あのアパートにいるのが怖くなっちゃって。
それに、ナナもちゃんと家に帰って両親に謝ったみたいだし、私も実家が恋しくなっちゃって』


蓮『そうだな。
あ、結局その管理人殺したのって…先生だったのかな。
あとお前が今言った、隣に住んでたって人も』


響歌『ううん…2人は大切な人って訳でもなかったから…わからない』


蓮『先生が生きてれば理由を聞けたんだけどな。
なんていうか…モヤモヤが残るんだけど』


響歌『そういえばあの男、望月先生の味方みたいだったけど、どこに行ったんだろうね。
私は、あの人が捕まるまで一生モヤモヤが消えないと思う』

そう言って響歌は小さく拳を握りしめる。

それを見た蓮は、その上にそっと優しく手を乗せた。
 
 

⏰:11/12/09 12:44 📱:Android 🆔:mKA2fdo2


#733 [みゆ]
もう終わりが近そうで寂しいです(>_<)

でも楽しみでもあるので頑張ってください(^O^)

⏰:11/12/09 12:58 📱:841SH 🆔:Mhx5GMaU


#734 [輪廻]
>>733さん
いつもコメントありがとうございます(^^)


はい。もう少しなのでどうか最後までお付き合いください(^^)

⏰:11/12/09 14:02 📱:Android 🆔:qdq6jceQ


#735 [輪廻]
 
 
蓮『それなら俺も同じ。
次見つけたら今度こそ取っ捕まえてやる。
お前も、奴を見かけたり何かされそうになったらすぐ連絡しろよ』


響歌『あ…ありがと…』


蓮『って…あ…悪ィ!』

赤面しながら手を放す蓮に、自然と笑みがこぼれる響歌。


当然その夜はよく眠れ、例の夢も見る事はなかった。


翌日ー
 
 

⏰:11/12/09 23:29 📱:Android 🆔:FeU18146


#736 [輪廻]
 
 
午前7時30分、清々しい秋晴れの空。


帰る準備をし、リビングに行くと、蓮の父がいつものようにキッチン側のテーブルでコーヒーカップを片手に新聞を読んでいた。


  『あ、村井さん…おはよう』

響歌の姿に気づくと、これまた明るい顔で軽く頭を下げて言う。


響歌『おはようございます。
あの、蓮はまだ…?』


  『ああ、まだ一度も起きて来てないよ。
あいつも、剛史や麗奈の事があってからここ数週間、ろくに眠れてなかったらしい。
でも数日前の事が解決してからか、色々吹っ切れたんだろう…よく眠ってたよ』


響歌『そうですか…。
じゃあ、蓮が起きたら伝えてもらえませんか?
…“ありがとう”って』
 
 

⏰:11/12/09 23:51 📱:Android 🆔:y4fwpmAg


#737 [輪廻]
 
 
  『…もう行っちゃうのかい? 何か食べていってからでも…』


響歌『あ、いえ…大丈夫です。
あの、あと…』

口ごもる響歌に、首を傾げる蓮の父。


響歌『あと…“お父さんと仲良くするように”とも伝えてください』


  『…む、村井さん…』


響歌『本当にお世話になりました。
あと、映画のチケットもありがとうございました』

そう言い、頭を深々と下げ、とても長く居たように感じた蓮の家を後にした―
 
 

⏰:11/12/10 00:07 📱:Android 🆔:jBqEDOEA


#738 [輪廻]
 
 
実家に帰る前に響歌は一度、実家から徒歩20分ほどの距離にある、今まで住んでいたアパートに寄った。


部屋の鍵は開いており、久しぶりの部屋に入る。


響歌『(ここ出てからあんまり経ってないのに、何年かぶりに来たように感じるな…)』

少し室内を見渡したあと、クローゼットを開け、隅の方に置かれた大きめのリュックを取り出し、その中に入るだけの服を詰め込む。


響歌『(まだあるけど、また取りに戻ればいっか)』

最後に、忘れずにアパートの契約書をまるめてポケットに入れ、その部屋を出た。
 
 

⏰:11/12/10 00:34 📱:Android 🆔:fF4w8sxA


#739 [輪廻]
リュックを背負い階段を下りた所で、ふと何かの気配を感じ、ハッと後ろを振り返る。


すると管理人の部屋の前に、黒いフード付きの服を着た男の姿があった。


その男はフードで鼻から上を隠していたが

唯一、露出しているニヤリとさせたその口元を見て、すぐにあの男だとわかった。


響歌『な…なんで…?』

驚いた顔をし、その場から後ずさりする。
 
 

⏰:11/12/10 00:48 📱:Android 🆔:5h.uFjjc


#740 [輪廻]
 
 
男は、そんな響歌に襲いかかって来る訳でもなく、その場で響歌に笑みを浮かべながら、ただじっと立っている。


その顔に吸い込まれるように視線を外す事ができず、やがて身体や手足も震えだす。


立ったまま金縛りにあったような感覚になり、それはしばらく治まる気配はなかった。


すると突然、男がゆっくりと響歌の元に歩み寄ってきた。


響歌『だ…誰か…』

大声で助けを呼ぼうとしたが、よく見ると、朝の9時前だというのに周りに人の姿はない。


まるで、この世に自分とこの男しかいないのかと思わせるようにー
 
 

⏰:11/12/10 01:16 📱:Android 🆔:5LxjkoDI


#741 [輪廻]
 
 
そして、ついに男は響歌のすぐ目の前に立った。


これは夢であって欲しいと、目をぎゅっとつむりながら心の中で祈る。


すると男は、響歌の耳元でぼそっと呟いた。


  『ゲームはまだ終わらないよ…』

その言葉を聞いて、ぱっと目を開けて周りを見回すと、そこに男の姿はもうなかった―
 
 

⏰:11/12/10 17:32 📱:Android 🆔:spUdrKjc


#742 [輪廻]
 
 
響歌『(終わらない……?)』

男が言った言葉が何度も脳内にこだまする。


急に全身に寒気が走り、すぐその場から立ち去ろうとした時、後ろから誰かが響歌の肩をポンと叩いた。


響歌『…きゃっ!!』

いきなりの事に反射的に驚きの声をあげ
、その手を、肩を激しく動かして払いのける。


武田『わっ!』

後ろから聞き覚えのある声がして振り返ると、そこに立っていたのは驚いて目をシロクロさせているアパートの隣人の武田だった。
 
 

⏰:11/12/10 17:35 📱:Android 🆔:K/HY0xQ.


#743 [輪廻]
 
 
響歌『あっ、た、武田さん…』


武田『久しぶりぃ…。一体どうしたの?
私も驚いちゃったよ』

武田のすぐ下の地面には、驚いた拍子に落としてしまったと思われる、ほうきがあった。


響歌『すっ、すみません!』


武田『大丈夫よ。それよりそのリュック…またどこか泊まりにでも行くの?』


響歌『いえ…このアパートを引き払って実家に帰ろうと思ってるんです』

武田は当然理由を尋ねてきたので、響歌はこのアパートで死んだ者の事についての話をした。
 
 

⏰:11/12/10 17:37 📱:Android 🆔:Us.cY7T2


#744 [輪廻]
 
 
武田『あらそう…私もびっくりしたのよ。
奥村さんの時もそうだったけど、管理人さんまでもが殺されたって聞いた時はねぇ』

さすが噂話や世間話が好きなおばちゃんと言った感じか、武田は少し嬉しそうに喋る。


響歌『武田さんは…怖くないんですか?』


愚問だとは思ったが、彼女も女性なので、念のためにと聞いてみた。


武田『私? あはは!
そりゃ怖いに決まってるじゃないの!』

笑いながら即答する武田を見て響歌は“この人なら大丈夫だ”…直感的にそう思った。
 
 

⏰:11/12/10 17:39 📱:Android 🆔:Us.cY7T2


#745 [輪廻]
 
 
武田『でも村井さんがいなくなっちゃうとなんだか寂しいわ。
実家はどの辺りにあるの?』


響歌『あ、ここから20分くらいの所です』


武田『あらそう…じゃあおばさんに会いたくなったらいつでも来てちょうだいね』


響歌『…ありがとうございます』

気さくで明るい武田と話していると、今までの出来事などが最初からなかったように感じた。


そんな意味も込めた“ありがとう”を武田に言い、響歌は実家へと向かうー
 
 

⏰:11/12/10 17:41 📱:Android 🆔:Us.cY7T2


#746 [輪廻]
 
   
途中あの河原を歩いていると、上から一枚の紙が風に流されるように響歌の方に向かってきて、やがて足元にフワリと落ちた。


その白いA4サイズのくしゃくしゃになった紙には…

“高収入! 誰にでもできるアルバイト急募! 詳しくはコチラへ”と書かれ、担当者の名前などはなく電話番号だけが記されている。


響歌『……やめとこ』

“高収入”という響きに一瞬だけ心が揺らいだが、担当者の名前がないのはどう考えても不自然だと思い、その紙を拾い上げると、まるめて後ろにポイっと投げ捨てた。
 
 

⏰:11/12/10 17:43 📱:Android 🆔:PW2isk5o


#747 [輪廻]
 
 
数十分後―

高校を卒業してから出ていった実家の前に到着し、ドアの前で足を止めて深呼吸してからインターホンを押す。


  『はあい!』

ドアの向こうからした、久しぶりに聞く母の声に安心を覚える響歌。

そしてドアが開き、中から母が顔を覗かせた。


響歌『お母さん…久しぶり』


  『響歌じゃない! 久しぶり!』

お互いの顔を数秒間眺めた後、次に母の目に入ったのは、響歌が背中に背負った大きいリュック。
 
 

⏰:11/12/10 17:46 📱:Android 🆔:PrFZziwo


#748 [輪廻]
 
 
  『あれ、どこか旅行にでも行ってたの?』


響歌『ううん、違うよ。あのさ…』

前もって連絡しなかったせいで“アパート暮らしをやめてここに帰ってきた”とはなかなか言い出せない響歌だった。


すると母は、響歌がこれから言おうとした事を悟ったかのように、優しい目をして言った。


  『わかってるよ、響歌。
何も言わなくても…お母さんには』

そんな母の言葉で、響歌の目は涙で一杯になり、そんな響歌を母は優しく抱きしめた―
 
 

⏰:11/12/10 17:48 📱:Android 🆔:7tj.6SrI


#749 [輪廻]
 
 
中に入り、しばらくして落ちついた所で、母は一枚の紙を差し出した。


響歌『なに? これ』

そう言いながら、紙に目をやる。


響歌『……同窓会……?』

印刷された紙の上部分には大きめな文字で“桜丘中学3年A組・同窓会のお知らせ”と書かれていた。


  『昨日ファックスで送られてきたんだよ』


響歌『同窓会か…どうしようかな』

最近続いた出来事もあり、あまり乗り気じゃなさそうに言う。
 
 

⏰:11/12/10 17:50 📱:Android 🆔:7tj.6SrI


#750 [輪廻]
 
   
  『そうそう、ニュース見た?
アンタが通ってた中学校の先生が自殺したって』

母は突然、思い出したように言う。


響歌『う、うん…そうみたい』

その件に自分も関わっていたとは言えなかった。


  『名前は…望月って言ったっけ?
響歌、どんな人だったか覚えてる?』

今の響歌にとって、これほど戸惑う質問はなく…


響歌『……よく覚えてない』

と、そう一言だけ答えた。
 
 

⏰:11/12/10 21:46 📱:Android 🆔:ltKS0pug


#751 [輪廻]
 
  
  『もう前の事だもんね。
お母さんも全然覚えてないの。もう年なんだね』


響歌『なら、私も年だよ』

そんな他愛のない話をしばらくの間続けた。


アパートの部屋にあったほとんどの荷物を運び、そのアパートを引き払い、再び実家に住み始めて数ヵ月が経ち、翌年新年を迎える―


この数ヵ月間、あの男が響歌の前に姿を現す事は一度もなかったが、時々外を歩いているとふと背後に誰かの視線や気配を感じたりする事は度々あった。
 
 

⏰:11/12/12 13:14 📱:Android 🆔:iKeZKfsg


#752 [輪廻]
 
 
響歌『じゃ、行ってくるね』

1月上旬の、ある日曜日の夕方。

以前から通達されていた同窓会に、響歌は行く事になった。


本来は去年の12月末の予定だったが、同級生より幹事宛に、その日は仕事だとか、彼氏彼女と過ごしたいなどという都合がつかない連絡が続出。


結果、翌年1月上旬の最初の日曜日の日に延期になり、新年会も兼ねた同窓会として行われる事が決定された。


集合場所は、響歌らが通っていた桜丘中学校の校門の前。


そこから同級生の持っている車に乗って新年会、及び同窓会の会場へ直行という流れである。
 
 

⏰:11/12/12 13:16 📱:Android 🆔:NdJ1rlm2


#753 [輪廻]
 
 
河原を過ぎて、中学校が見えてきた時―


響歌『(…また…?)』

去年実家に帰って以来、外出する度に感じる背後から誰かにつけられているような気配。


姿は現さないものの、その人物は響歌の動向を探っているかのようで、気味が悪かった。


もう少しで中学校だと、少し小走りで向かう。


校門の前に人だかりができているのが見えた時には、途端に恐怖もふっ飛び、安心した。
 
 

⏰:11/12/12 13:20 📱:Android 🆔:mxJ3opO.


#754 [輪廻]
 
 
懐かしの面々の中に駆け寄ると、人だかりの中心にいた幹事と思われる同級生の男の一人が声をかけてきた。


  『あれ、もしかして…村井ちゃん?』

身長は180cm前後と長身。
黒いスーツに身を包み、髪は短髪、色は金一色で染められていて、顔にはサングラス。

ちなみにうっすらとはえている顎髭も金色だった。


そんな彼は、いかにも危ない人のオーラが漂っていて、とても同い年で同級生とは思えない。


響歌『えーと…誰だっけ?』

同級生の男はカッコつけるようにサングラスを取り、顔を見せつけたが…


響歌『ごめん…誰?』

とキッパリ言い放った。
 
 

⏰:11/12/12 13:23 📱:Android 🆔:mxJ3opO.


#755 [輪廻]
 
 
気まずい空気の中、しばらくお互い見つめ合っていると…


七瀬『お待たせ!』


蓮『ちぃっす!』

2人が一緒に向こうからやってきた。


幹事はサングラスをかけ直すと、すぐに2人の元に駆け寄っていく。


  『おお桐谷! それに七瀬ちゃんも! 久しぶり!』

幹事が明るくそう言うと、2人は首を傾げて、しばらく彼の顔を凝視した後、蓮が響歌と同じ言葉を発した。


蓮『……誰だっけ?』
 
 

⏰:11/12/12 13:25 📱:Android 🆔:mxJ3opO.


#756 [輪廻]
 
 
その一言に、幹事はとてもショックを受けたように下を向いた。


蓮『七瀬、お前は覚えてる?』


七瀬『う〜ん…こんなヤクザみたいな人いたっけ?』

追い討ちをかけるような七瀬の一言で、彼はついにその場にしゃがみ込むほどに落ち込む。


そんな幹事とは裏腹に響歌の方は、前の蓮の発言に『えっ?』という顔になっていた。


響歌『(ま、まさかね…)』

どうせ聞き間違いだろうと、強引に自分を納得させる。
 
 

⏰:11/12/12 13:28 📱:Android 🆔:mxJ3opO.


#757 [輪廻]
 
 
七瀬『あっ、響歌!』

ふと響歌を見つけた七瀬が声をあげ、蓮と一緒に近づいてくる。


七瀬『あけましておめでとう! 響歌』


響歌『お…おめでとう』

そこで、見たくなかったが、見えてしまった。


蓮と七瀬がしっかりとお互いの手を繋いでいるのを。


蓮『村井、あけおめ』


響歌『うん…あけおめ』

笑顔で言ってきたので、響歌はなるべく2人の手元を見ないように、笑顔で返した。
 
 
 

⏰:11/12/12 13:30 📱:Android 🆔:PQLYT/Kw


#758 [輪廻]
 
 
それから時間は午後5時を過ぎ、人も集まってきた所で、ショックが収まったのか、幹事が再度明るい声で仕切り始める。


  『じゃ、そろそろ会場に行きますか!』

その一声に、一同は大声で喜びの声をあげた。


七瀬『結局誰だっけ…あの幹事の人』

そんな歓声の中、七瀬が小声で響歌と蓮にひっそり呟く。


蓮『覚えてねえや…。ま、いいじゃん。
あとで名前聞けば思い出すかもしれないし』

そうだね、と2人は首を小さく縦に振った。


門の近くに停めてある数台の車に適当に乗り込む事になり、幹事が運転する先頭の車の後に他の車が続き、やがて会場へと走り出すー
 
 
 
 

⏰:11/12/12 13:33 📱:Android 🆔:YcX/EUo.


#759 [輪廻]
 
 
某日・某所ー


一人の若い男性が、くしゃくしゃになった白い紙と携帯電話を手にしている。



  『あの、すみません…高収入アルバイトの紙見て電話したんですけど』



  『お電話ありがとうございます。
電話をして頂いた時点でデスネットへの入会、及び登録が完了致しました。
登録手数料などは一切かかりません。
お仕事の内容が決まり次第、こちらからお電話させて頂きます。
5分後、折り返しくる電話に、お名前とご住所と通帳口座番号をお伝えください。
入会・登録ありがとうございました』


そう言って通話は切れる。


電話の向こうで話す者…

それは人の肉声ではなく、機械を通したものだ。


  『あれ? 面接とかないの?』

一瞬戸惑う男だったが、やがて顔に笑みがこぼれる。
 
 

⏰:11/12/12 13:55 📱:Android 🆔:S8YcYV1s


#760 [輪廻]
 
 
  『デスネット…聞いた事ないな。
どんな仕事するかも知らないけど…
まっ、面接無しで決まっただけでもよしとするか!』

折り返しくる電話を嬉しそうに待つ男性。



5分後…


―プルルルルルルル!!


『…はい! 名前は大槻と言います
。住所は…………』
 
 

⏰:11/12/12 14:01 📱:Android 🆔:S8YcYV1s


#761 [輪廻]
 
 
響歌は蓮、七瀬と共に最後尾のワゴン車に乗っていた。


運転手を含め、他にも数名の同級生が乗車。


最初は『最近どう?』的な話をしていたが、やがて仕事の話になった時、同級生の話を聞いて響歌らは驚愕した。


  『私、コンビニのバイト2つ掛け持ちしてたんだけど辞めちゃったんだ〜』


七瀬『マジで? なんでなんで?』


  『高収入アルバイトっていう求人広告見つけてさぁ…電話したら、その時点で採用みたいで、面接とかなかったの!』


蓮『へえ、すげえじゃん。
なんて会社? そんな簡単に採用されんなら俺にも紹介してよ』


同級生は、蓮の質問に明るく答えた…
 
 

⏰:11/12/12 14:04 📱:Android 🆔:S8YcYV1s


#762 [輪廻]
 
 
  『うんいいよ、他の人にも紹介したから。ええとね……あ、そうそう!
“デスネット”って所だよ』

響歌、蓮、七瀬の3人は一瞬にして凍りついたー



最終話 終幕なる連鎖【完】

⏰:11/12/12 14:13 📱:Android 🆔:.WBJexMk


#763 [輪廻]
エピローグ



  『ねえ、デスネットって知ってる?
簡単な仕事で高い収入得る事ができる会社なんだって!』


  『えー? そんなうまい話あるわけないじゃん』


  『本当らしいよ。でもいくつか条件があるんだけどね。それはね…

1つ。入会登録後は最低でも5人には紹介する事。
2つ。仕事は最後まで行う事
3つ。会員を罪に問わせない事

これをどれか1つでも守らなかったら、デスネットの上層部の人達に殺されちゃうんだって…』




†horroro† 完

⏰:11/12/12 14:36 📱:Android 🆔:2xmZAaR.


#764 [輪廻]
 
なんとか終わりましたが…最後の最後でミスをしてしまいました。

>>763
× †horroro†
○ †horror†


見てくれていた方
消化不良だったり腑に落ちない点、文が変だったりとあるかと思いますが…

それは続編でしっかり消化させて頂きます!

それではまた会う日までm(_ _)m


輪廻

⏰:11/12/12 14:41 📱:Android 🆔:kuUeptqY


#765 [輪廻]
アンカー
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500
>>501-550
>>551-600
>>601-650
>>651-700
>>701-763

⏰:11/12/12 14:53 📱:Android 🆔:JNT7P6ok


#766 [架恋]
完結おめでとうございます!

いつもひっそりと楽しく
見させて頂いてます。


七瀬と蓮が手を繋いでたの気になりますが
響歌が蓮に対する恋もあるのかなー?
なんてのも気になります!


続編楽しみにしてます*

⏰:11/12/12 16:08 📱:W62SH 🆔:E65aoW1U


#767 [我輩は匿名である]
続編希望(^O^)!

⏰:11/12/14 00:31 📱:W64SH 🆔:AweXPcoU


#768 [我輩は匿名である]
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
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>>501-550
>>551-600
>>601-650
>>651-700
>>701-750
>>751-800
>>851-900
>>901-950
>>951-1000

⏰:12/02/22 07:28 📱:W62SA 🆔:kB0W2AFM


#769 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑age↑

⏰:22/10/02 03:22 📱:Android 🆔:Ltpo.xA.


#770 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>1-30

⏰:22/10/07 20:59 📱:Android 🆔:GR1soPvw


#771 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>730-760

⏰:22/10/07 21:00 📱:Android 🆔:GR1soPvw


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