†horror†
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#101 [輪廻◆j6ceQ96kak]
小さい外観と打って違って玄関は広いものであった。


優斗『すいませ〜ん!』

吉田が大声で言うと、しばらくして1人の着物を着た女将が姿を現した。


年齢は50代前半くらいだろうか、くたびれた感じの顔をしている。

⏰:11/05/06 12:44 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#102 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『ようこそいらっしゃいました。私、ここの旅館を切り盛りさせて頂いている池崎吉美と申します。本日は遠い所をわざわざお越し頂きましてありがとうございます』

女将、池崎は礼儀正しく挨拶をした。


優斗『昨日電話した吉田ですけど』


池崎『吉田様ですね、昨日はお電話ありがとうございます。お部屋は開いておりますので案内します。どうか私の後にお続きください』

⏰:11/05/06 12:50 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#103 [輪廻◆j6ceQ96kak]
3人は言われた通りに女将の後に続いた。


歩く度にミシミシと軋む長い廊下を歩く。


池崎『こちらのお部屋になります。何かあれば、なんなりとお申し付けくださいませ』


そこは鬼の間と書かれている部屋。


不吉な名前だと思いながらも3人は部屋の中に。

⏰:11/05/06 12:56 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#104 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『結構綺麗な部屋じゃん』


池崎『恐縮でございます。昼食の前にお風呂に浸かってみては?』


優斗『こんなとこに風呂とかあんの?』


雪乃『ちょっと優斗。こんなところって失礼だよ』


池崎『この廊下を突き当たりに進んでいただくと男湯、女湯と書かれたお風呂がございますので』

女将は一切表情を変えずに言い切った。

⏰:11/05/06 13:02 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#105 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『では私はこれで。昼食はご用意しておきますので、ゆっくりお湯に浸かってくださいませ』

座りながら大きくお辞儀をし、立ち上がった女将は早々と戻って行った。


優斗『じゃあ風呂行ってくるわ』


雪乃『響歌は? 一緒に入らない?』


響歌『そうだね、入ろうか』

みんなそれぞれ荷物からバスタオルなどを取り出し、お風呂へ向かった。

⏰:11/05/06 13:09 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#106 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『うわ〜響歌見て! お風呂も広いよ!』

雪乃は大きな浴室を見てはしゃぐようにして言う。


響歌『確かに広いね。建物はちっちゃく感じたのに』


雪乃『もう! そういう話はやめようよ〜。ここは細かい事気にしないで純粋に楽しもう?』


響歌『そうだね、ごめんごめん』

こうして、まるで貸切にでもなったような誰もいない湯船に浸かった。

⏰:11/05/06 13:15 📱:T004 🆔:c7ITtZXU


#107 [輪廻◆j6ceQ96kak]
風呂から戻ると、部屋には豪勢な昼食が用意されていた。


野菜から魚介類まで様々なジャンルの料理に響歌達は絶賛。


雪乃『なにこれすごいね!』


響歌『旅館といえば料理だよね』

その料理に興奮している2人だが、ふと雪乃が吉田がまだ戻っていない事に気がつく。

⏰:11/05/09 12:26 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#108 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『そういえば優斗まだお風呂入ってるのかな…』


響歌『確かに…。もう上がってるかと思ったよ』


雪乃『ちょっと見てくるね』


響歌『いってらっしゃい』

着物姿の雪乃は部屋を出て行った。

響歌は改めて料理を凝視しながら座椅子に座る。

⏰:11/05/09 12:30 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#109 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そして、ちょっとつまみ食いをしようと野菜料理に添えられたミニトマトに手を伸ばした瞬間だった。


雪乃『いやあああああ!!』

お風呂場の方から雪乃の今まで聞いた事のないような絶叫が。


響歌『雪乃!?』

伸ばした手を引っ込め、響歌はすぐに声のする方へ向かった。

⏰:11/05/09 12:36 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#110 [輪廻◆j6ceQ96kak]
廊下へ出た時、ちょうど同じく悲鳴を聞きつけたであろう女将の池崎と鉢合わせた。


池崎『今の声はなに事でいらっしゃいますか?』


響歌『わかりません。お風呂の方から…』

2人は顔を見合わせ、雪乃が向かった男湯へ。

⏰:11/05/09 12:42 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#111 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男湯の脱衣場を見ると、座り込む雪乃がいた。


池崎『お客様…どうかなされましたか?』

女将の声に気づいた雪乃はゆっくり振り向いて、風呂場の方を指さした。


その方向に2人が目をやると、奥に真っ赤な何かが見える。

⏰:11/05/09 12:54 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#112 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『え…?』

その赤いものが何なのか、響歌にはすぐわかった。


響歌『血…?』


池崎『なんでございますって!?』

女将は一瞬腰を抜かしそうになったが、何かに気づいたように体制を戻し…

そして一言つぶやいた。


池崎『まさか…狼鬼様が…?』

⏰:11/05/09 12:58 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#113 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『狼鬼? それって何ですか…?』

恐る恐る響歌が聞くと、女将は震えながら答えた。


池崎『狼鬼様は…この山に言い伝えのある神様です…』


響歌『…神様?』


池崎『私は見た事がありません。しかし言い伝えによると、その狼鬼様は狼の顔で鬼のような形相をした、山を守る神様だと言われています』

⏰:11/05/09 13:05 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#114 [輪廻◆j6ceQ96kak]
吉田が聞いたら、嘘だと言ってバカにするような話だ。


しかし女将の震えた体と表情からは嘘とは感じられない。


響歌『とにかく! その話しは後で聞かせてください。女将さんはお風呂場の様子をお願いします。私は雪乃を部屋に連れて行きます!』


池崎『か、かしこまりました!』

響歌は床に崩れ落ちた雪乃の肩に手をやり、ゆっくりと立たせた。

⏰:11/05/09 13:11 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#115 [輪廻◆j6ceQ96kak]
部屋の料理はすっかり冷めていた。


雪乃を座椅子に座わらせ、響歌はその隣に座る。


響歌『…雪乃。一体何があったの?』


雪乃『…………』

よっぽど信じられない光景を見たのだろうか、雪乃の響歌を見る目は焦点が合っていない。

⏰:11/05/09 13:15 📱:T004 🆔:mHDv0ug.


#116 [我輩は匿名である]
つづきよみたい

⏰:11/05/10 18:28 📱:SH706iw 🆔:Ca8bmaZw


#117 [輪廻◆j6ceQ96kak]
>>116

ありがとうございますm(_ _)m

少しですが更新します。

⏰:11/05/10 23:40 📱:T004 🆔:HiXM/dJ.


#118 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『吉田さんは…?』


雪乃『ゆ、優斗が…』


響歌『どうしたの…?』

尋常ではない雪乃の表情。

この先を聞くのが怖かったが、響歌は問いただす。


雪乃『血まみれで…倒れてた…』


響歌『他に誰かいなかったの?』

ここまで言うと、雪乃の首がカクンと下がり響歌の問いに答える間もなく気を失った―

⏰:11/05/10 23:46 📱:T004 🆔:HiXM/dJ.


#119 [輪廻◆j6ceQ96kak]
気絶した雪乃をその場に寝かせると、奥からバタバタと足音が。


女将の池崎は響歌達の部屋に入るなり大声で叫ぶように言った。


池崎『大変でございます! 吉田様が浴場からいなくなられているんです!』


響歌『どういう事ですか!』

パニック寸前の女将に対して冷静に問う響歌。

⏰:11/05/10 23:52 📱:T004 🆔:HiXM/dJ.


#120 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『よ、浴室は血まみれで…吉田様の姿はありませんでした…。ああ、まさか狼鬼様の仕業…』


響歌『わ、私はそういうのは信じないんですけど…』


池崎『狼鬼様は汚れた心を持った者を襲います。そして身体を一つ残らず噛み砕いて食べると言われています…。もし吉田様が狼鬼様に食べられてしまったとしたら…あああ』

⏰:11/05/11 00:01 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#121 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌にとっては空想のような話だが、女将は狼鬼というものの存在をまるで信じているかのようだ。


池崎『ああ狼鬼様…』


響歌『とにかく警察を呼んだ方がいいと思います!』


池崎『…それは私にはできません』

響歌の一言で女将の顔色が元に戻った。

⏰:11/05/11 00:08 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#122 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『どうしてですか!』


池崎『狼鬼様はこの山の神様なのです! 神様を警察の前に突き出すなんて…』


響歌『(なにこの人…)』

初めて会った時から不思議な雰囲気の人だとは感じていたが、狼鬼という言葉が出てきてからの女将はまるで別人だ。

⏰:11/05/11 00:11 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#123 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『じゃ、じゃあ雪乃が起きたら…私達帰ります!』

このままここにいたら何か嫌な事が起きそうな予感がし、帰る事を決めた響歌。


池崎『それはいけません。狼鬼様は神様とはいえ、心の汚れた人間を食べるのです。もし道中で出会ってしまったらどうなさるのですか?』

この女将の言葉は、まるで響歌らを心が汚い人間だと決めつけているかのようだった。

⏰:11/05/11 00:20 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#124 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『それに、吉田様は3日間こちらに泊まられると仰いました。私には3日間あなた方をおもてなしする責任があるのです』


響歌『(意味わかんない…。とにかくここから逃げないと…!)』


池崎『それでは私は浴場の血の後片付けを…。失礼します』

女将が部屋を出て浴場の方へ向かったのを確認した響歌は、すぐに着ていた浴衣を脱いで私服に着替えた。

雪乃を起こして逃げる為だ。

⏰:11/05/11 00:26 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#125 [輪廻◆j6ceQ96kak]
自分の身支度を完了させ、雪乃の荷物もまとめた。


吉田のバッグは隅っこに寂しく置かれている。


響歌『雪乃! 雪乃!』

雪乃の体を激しく揺らす。

反応はない。

口元に耳を近づけて呼吸を確認する。

息はちゃんとしている事に安心したが、それ以上にここにいる事が不安で仕方がない。

⏰:11/05/11 00:30 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#126 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃は大切な友達の一人だ。

一瞬だけ、一人でも逃げようという考えが浮かんだ自分を恨みたくなった。


部屋の障子をそっと開け、奥を確認する。


浴場からはなぜか女将の陽気な鼻歌が聞こえた。


それに背筋が凍った響歌は、なんとしても逃げなくてはと思い雪乃の身体を更に激しく揺らす。

⏰:11/05/11 00:36 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#127 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『雪乃…起きてよ!』

まるで睡眠薬でも飲んで深い眠りに入っているかのように、何度起こしても全く反応がない。


やがて廊下から足音。


血の後始末が終わったのか、まだ鼻歌を続けながら歩いている。


そして響歌達の部屋の前で足音と鼻歌はピタリと止んだ。

⏰:11/05/11 00:50 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#128 [輪廻◆j6ceQ96kak]
障子がスーッと開いて、女将が顔を覗かせた。


その表情はニヤリとしていて不気味にも思える。


ふと女将の口元に目をやると、何やら赤いものが付着していた。


響歌にはそれが何なのかわかるのに時間はかからなかった。


響歌『あ、あの…それって…』

震えた手で女将の口元を指さす。

⏰:11/05/11 00:54 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#129 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『ああこれですか? 言いましたでしょう? 血の後片付けをする、と…』

そうニヤリ顔で言い放つ女将に響歌は恐怖を覚えた。


体が震える。


視線を反らそうとするが、なぜか視線は女将の顔に固定されて動かない。


何者かに操られているかのごとく、自分の意思が働かなくなっていた。

⏰:11/05/11 01:00 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#130 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その状態が3分くらい続き、突然催眠術にかけられたような感覚に陥った響歌は、目を見開いたままその場に倒れ込んだ。


響歌『(私…死んじゃうの…?)』

心の中でそう自分に問いかけながら…。

何度も…何度も…。


やがて意識は完全に消えていった―

⏰:11/05/11 01:07 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#131 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『……歌! 響歌!』

聞き覚えのある声。

ゆっくりと目を開ける。


響歌『雪…乃…』

まだ状況が把握できない。

意識がハッキリしてくるにつれて、頭痛がしてきた。


響歌『私…どうしたの?』

辺りを見回す。

そこは気絶する前と変わらない池崎旅館の鬼の間。

⏰:11/05/11 01:29 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#132 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『私が起きたら、響歌が倒れてたから…。びっくりさせないでよ』


響歌『ちょっと、びっくりしたのはこっちだよ…。いきなり気絶するんだもん』


雪乃『心配かけてごめんね』


響歌『そういえば…お風呂場で何見たの?』

響歌が唐突に聞くと、雪乃は唾をゴクリと飲んでから口を開いた。

⏰:11/05/11 01:32 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#133 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『私、優斗の姿は見てないの…。浴場を覗いたら床に血が沢山あって…。私、何が何だかわからなくなって叫び声をあげたの』


響歌『私と女将さんが行った時だよね?』


雪乃『うん…。あ、そういえばその女将さんは? 池崎さん』

響歌は雪乃が気絶している間の出来事を話した。

⏰:11/05/11 01:39 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#134 [輪廻◆j6ceQ96kak]
信じてもらえる自信はなかったが、雪乃は黙って響歌の話に耳を傾けていた。


雪乃『信じられないけど…私は響歌の言うことは信じるよ』


響歌『ありがとう。とにかく、早くここから逃げようよ』


雪乃『そうだね。途中で車見つけて乗せてもらおうよ』

こうして2人は気味の悪いこの旅館からの帰還を決意。


時計の針は午後3時を指した所だった。

⏰:11/05/11 01:47 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#135 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『帰る前にちょっと待ってて。あの女将さんがどこにいるか見てくるから』


雪乃『…気をつけてね』

雪乃を残して長い廊下へ出る。

まだ午後の3時だというのに廊下はやけに薄暗い。


女将の気配はない。


忍び足でゆっくりと歩く。


そこに“狼の間”と書かれた部屋が目に入った。

⏰:11/05/11 01:52 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#136 [輪廻◆j6ceQ96kak]
障子を開ける前に、すぐ人がいる気配に気づいて一旦引き返した。


雪乃『どうだった?』


響歌『すぐそこの部屋に誰かいる…。今出て行ったら気づかれちゃうかも…』


雪乃『そっか…。もう少し様子見る?』

慌てる事はない、という事で少しの間この部屋で待機する事になった。

⏰:11/05/11 01:56 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#137 [輪廻◆j6ceQ96kak]
沈黙の中、2人のいじる携帯電話のカチカチという音だけが響く。


そこで雪乃が何かにひらめいたように立ち上がった。


雪乃『そうだよ…携帯で警察呼べばいいんじゃない?』


響歌『ダメ…画面よく見てよ』

携帯電話のディスプレイの左上には“圏外”という文字。


人里離れた山の中だから仕方がない。

⏰:11/05/11 17:06 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#138 [輪廻◆j6ceQ96kak]
圏外の表示を見た雪乃は力が抜けたように再び座り込んだ。


雪乃『もうこんなとこやだ…』


響歌『本当に吉田さんは狼鬼ってやつに食べられちゃったのかな…?』

改めて聞いてみる。


雪乃『私が見た時にはもうどこにもいなかったし…本当なんじゃない…?』

大事だった彼氏が死んだというのに雪乃の表情からは悲しみに明け暮れているという様子はない。

⏰:11/05/11 17:08 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#139 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『雪乃、一つ聞いてもいい? 大切な彼氏がいなくなったのに、なんでそんなに寂しそうじゃないの?』

雪乃の態度に違和感を覚えた響歌は思い切って訪ねた。


雪乃『…寂しいよ。でも、今は悲しくて泣きたいっていうよりは…さっきの響歌の話を聞いて怖いっていう気持ちの方が強いの』


響歌『そ…そうだよね。変なこと聞いてごめん』

やっぱりいつもの雪乃だと安心した。

⏰:11/05/11 17:10 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#140 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『響歌だって…敬太くんが死んだ時、怖くならなかった?』


響歌『…うん、怖かった』

それからしばらくはどちらも口を開かなかった。


響歌は部屋の隅で体育座りをし、雪乃は圏外で繋がりもしない携帯電話を落ち着きなくいじっている。

⏰:11/05/11 17:11 📱:T004 🆔:Oyb1g7Z2


#141 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ガラガラ…ピシャリ』

しばらくして狼の間の戸が開いた音がし、足音が廊下を歩いて行った。


響歌『ちょっと隣の部屋見てくるね』


雪乃『ちょっと響歌…』

そっと戸を開けて廊下へ出る。

女将の気配はない。

⏰:11/05/16 18:43 📱:SH001 🆔:9mqGtq4o


#142 [輪廻◆j6ceQ96kak]
狼の間の戸をゆっくりと開けて響歌一人で中に入る。


響歌『…ひっ!』

部屋を見て響歌は驚愕した。


敷かれている白い布団には、白を彩るかのような大量の血。


そしてその布団に寝かされているのは人間のようだが、人間としての原型を留めてはいない。

⏰:11/05/16 18:51 📱:SH001 🆔:9mqGtq4o


#143 [輪廻◆j6ceQ96kak]
まるで何かに引き裂かれたかのように、皮膚が所々剥き出しになっている。


その光景に、響歌は思わずその場に座り込んで後ずさりをする。


異変に気づいたのか、隣の部屋から雪乃が駆け付けてきた。


雪乃『響歌? …え!?』

布団のものを見た雪乃も思わず絶句する。

⏰:11/05/16 19:08 📱:SH001 🆔:9mqGtq4o


#144 [輪廻◆j6ceQ96kak]
部屋中は生臭い異臭を放っている。


雪乃『響歌…。は、早く逃げよう?』

震えた声で床に座り込む響歌の肩に手をやる。


雪乃『響歌! 早く!』


響歌『…………』

響歌は残虐な光景を見たショックで放心状態になっていた。

⏰:11/05/19 08:10 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#145 [輪廻◆j6ceQ96kak]
池崎『ここで何をしている!』

突然、雪乃の背後から今までの女将のものとは異なる声がした。


まるで低い声の男と女の声が混じり合っているような奇声。


振り返ると片手に血まみれの包丁を持った女将、池崎の姿。


そのあまりにもおぞましい女将の姿を見た雪乃も床に座り込む。

⏰:11/05/19 08:18 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#146 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『ご…ごめんなさいごめんなさい!』

後ずさりしながら必死に謝る雪乃に詰め寄る女将。


池崎『ふふふ…』

薄ら笑いを浮かべながらまるで、殺して欲しい?と問いかけるような目で雪乃に一歩一歩近づいていく。


異臭を放った布団の上のそれを避けていくと、とうとう逃げ場のない壁に追い込まれた。

⏰:11/05/19 08:23 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#147 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『やめて…』

夢であって欲しい。

心の中でそう何度も自分に言い聞かせる。


目をつむって何度も何度も。


…………。


…………。


…………。


ゆっくりと目をあける。

⏰:11/05/19 08:36 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#148 [輪廻◆j6ceQ96kak]
辺りを見回す。


敷いてある布団に目をやると血は残っていたものの、あの物体は跡形もなく消えていた。


そのすぐそばに気絶した響歌の姿。


雪乃『響歌!』

身体を大きく揺らす。


響歌『……ううん』


雪乃『響歌! しっかりして!』

目を開きそうな響歌の身体をゆっくり起こす。

⏰:11/05/19 08:41 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#149 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『…雪乃』


雪乃『そう、雪乃だよ! よかった…』


響歌『…泣いてるの?』


雪乃『心配したんだから』


響歌『…ごめん』

2人は立ち上がった。

⏰:11/05/19 08:45 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#150 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あの女将さんは…?』


雪乃『わからない…。気づいたらいなくなってた』


響歌『今の内に早く帰ろう…?』

人の気配のない廊下へ出る。


2人がふと足元を見ると、血が玄関へ向かって垂れていっているのが目に入った。

⏰:11/05/19 08:49 📱:T004 🆔:dNrJFzns


#151 [我輩は匿名である]
血を目で追っていた先にある玄関の戸が開いている。


響歌はすぐに状況を察知できた。


響歌『あの人、ここから外にあれを捨てに行ったんじゃない?』


雪乃『気味の悪い事言わないでよ…』


響歌『ねえ…帰る準備ができたら、あの女将さんが何してるか見に行かない?』

⏰:11/05/21 00:28 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#152 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌の言葉に、雪乃は顔をしかめた。


雪乃『やめようよ。見つかったら何されるかわからないよ』


響歌『大丈夫。こっそり…ね?』


雪乃『…………』

響歌の表情はさっきまでとは違い好奇心に満ち溢れていた。

⏰:11/05/21 01:12 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#153 [輪廻◆j6ceQ96kak]
鬼の間に戻り、荷物をまとめた2人は立ち去るように旅館の外へ出た。


外に垂れている血を目印に響歌はゆっくりと歩いていく。


雪乃は不安な顔をしつつも、それに続いた。


そして―


雪乃『ねえ…何か煙臭くない?』


響歌『うん…それに臭い』

かすかな煙の匂いと、鼻にツンとくる異臭がする。

⏰:11/05/21 09:00 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#154 [輪廻◆j6ceQ96kak]
匂いを辿っていくと、裏庭らしき所に女将の姿があった。


すぐそばには大きな古びた焼却炉。


煙と異臭はその焼却炉から出ているようだ。


2人は木の影から息を殺して女将の行動を見る事にした。


女将は鼻歌を歌いながら地面にしゃがみ込んで何かをしている。

⏰:11/05/21 09:24 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#155 [輪廻◆j6ceQ96kak]
やがて立ち上がり、2人の気配に気づいたのか後ろを振り返った。


手には血まみれの包丁。


そして女将の顔に視線をやると、その顔はまるで肉を食い漁った獣のようで、血走った目で口元には大量の血。


響歌『うっ!』

あまりの光景に吐き気がしてきた響歌。

⏰:11/05/23 12:49 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#156 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『大丈夫?』


響歌『は、早く行こう!』

逃げようと木からそっと離れる。


それとほぼ同時だった―


2人に気づいた女将が、突然2人に向かって走り出してきたのだ。


響歌『きゃあああ!』


雪乃『早く!』

雪乃が響歌の腕を素早く掴み、逆方向へと走る。

⏰:11/05/23 12:55 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#157 [輪廻◆j6ceQ96kak]
どこまで走ったのかわからなくなるほど、とにかく前へ前へと走る。


捕まったら殺される―


それだけを考えながらとにかく走る。


しばらく走って、後ろから追ってくる気配はなかったが決して一度も後ろを振り返らなかった。

⏰:11/05/23 13:02 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#158 [輪廻◆j6ceQ96kak]
気づくと山の中に座り込んでいた。


雪乃『はあ…はあ…』


響歌『はあ…はあ…』

2人は無我夢中で走った為に息切れ状態になりつつある。


女将の気配はすでになく、山の中は小鳥のさえずりだけが聞こえていた。


雪乃『結構深い所まで来ちゃったね…』


響歌『私達、帰れるのかな…』

辺りはすでに夕暮れ時。

木はまるで唸るように、風によってざわざわと音をたてて動いている。

⏰:11/05/23 15:05 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#159 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌はバッグから携帯電話を取り出した。


圏外―


その表示がある限り、助けを求める事はできない。


響歌『どうするの? これから』


雪乃『わからないけど…とにかく歩いてみよう』

2人はあてもなく山中を歩き始めた。

⏰:11/05/23 15:11 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#160 [輪廻◆j6ceQ96kak]
沈黙の中、ザクザクと歩く音が響く。


東西南北のどの方向に進んでいるのかもわからずに歩く。


歩いて行けば、じきに携帯電話が繋がる範囲の場所にたどり着けると信じながら。


響歌は携帯電話のディスプレイをちらちらと見ながら圏外の文字が消えるのを待った。

⏰:11/05/23 15:16 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#161 [輪廻◆j6ceQ96kak]
歩いて歩いて…


10分…。


20分…。


30分…。


ディスプレイには相変わらず圏外の文字。


時間は夜の19時を指した所だ。


体力に限界が来たのか、雪乃はその場に座り込んでしまった。

⏰:11/05/23 15:25 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#162 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『もうだめ…無理』


響歌『雪乃、大丈夫?』


雪乃『このまま飢え死になるのかな…』


響歌『何弱気になってるの。さっき逃げる時私を引っ張ってくれたじゃん。嬉しかったんだからね』


雪乃『響歌…』


響歌『頑張ろうよ。こんな山の中で夜を過ごすなんて危なすぎるよ』

⏰:11/05/23 15:29 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#163 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『そうだよね…。行こうか』


響歌『うん!』

雪乃はゆっくり立ち上がり、2人は再び歩き出す。


それから30分くらい歩いた所で、辺りはすでに暗い闇に包まれようとしていた。


その中で響歌の携帯電話の光だけが小さく浮かび上がる。

⏰:11/05/23 15:37 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#164 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『なんか同じ所をずっと歩いてるみたいだよね…』


響歌『そんな事ないよ。山の中だし』


お互いの顔は携帯電話の光がなければ完全に見えない状態だった。


雪乃『そういえばさ…あの部屋にあったやつ何だったんだろうね?』


響歌『何かの死体…みたいだったよ。まさかとは思うけど…吉田さん?』

⏰:11/05/23 15:44 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#165 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『優斗…』


響歌『あ、ごめん…なんか変な事聞いちゃったね』


雪乃『ううん、いいの』

会話はここで途切れ、しばしの沈黙が訪れた。


その沈黙を破ったのは匂いだ。

⏰:11/05/23 15:48 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#166 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『ねえ…この匂い…』

それは嗅ぎ覚えのある匂いだった。


それは、あの旅館の狼の間に漂った血なまぐさい異臭だ。


響歌『うっ!』

あまりの異臭に鼻をグッとつまんだ。


その異臭は2人の至近距離から放たれている。


しかし暗闇なので、どこに何があるのかハッキリと見る事はできない。

⏰:11/05/23 15:54 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#167 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『雪乃…?』

携帯電話の小さな光を辺りにちらす。


一瞬、光の先に何かの物体が見えた。


再び光を当てて確認する。


そこには黒くて焦げたような何かがあった。


異臭はその物体からしている事がわかった響歌は、思わずその場から後ずさりする。

⏰:11/05/23 15:59 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#168 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『わっ!』


響歌『きゃっ!』

背後から雪乃が響歌の肩を掴んで驚かす。


驚いた響歌はその場にしりもちをつくようにして座り込んだ。


雪乃『ごめんごめん!』


響歌『もう! こんな時に…!』


雪乃『ごめんね。それよりこの匂いなんだろうね…』

⏰:11/05/24 22:19 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#169 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あそこに何かあるよ…黒いのが…』


雪乃『ちょっと携帯貸して』

雪乃は響歌の指差す方に携帯電話の光を当てながら歩き出す。


雪乃『うわっ! なにこれぇ…』


響歌『ね? なんだろう…』


雪乃『何かが焼けたような…臭い!』

あまりの異臭にその場からとっさに離れる雪乃。

⏰:11/05/24 22:25 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#170 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『大丈夫…?』


雪乃『な、なんとかね…』


響歌『もしかしてあれって…あの女将が焼却炉で焼いた何かの死体だったりして…』


雪乃『まさか…。旅館からすごい離れたとこに来ちゃったし、それはないんじゃない…』


響歌『そ、そうだよね…』

⏰:11/05/24 22:58 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#171 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『とにかく早く行こうよ!』


響歌『…うん』

2人は気を取り直して再び真っ暗闇な山の中を歩き出した。



時間はあっという間に過ぎていく。


圏外の表示は相変わらず消えない。


どこに進んでいるのかわからず、とにかく車道を目指して歩いた。

⏰:11/05/24 23:07 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#172 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しばらく歩くと、古びたお堂が姿を見せた。


小さな電気が灯っている。


雪乃『見て響歌! あそこ誰かいるかもよ』


人の気配は感じられないが、響歌は走っていく雪乃に続いてお堂内に足を踏み入れた。

⏰:11/06/07 22:56 📱:T004 🆔:UWAOdbyY


#173 [輪廻◆j6ceQ96kak]
中は異様にカビ臭く、湿気でいっぱいだ。


奥にはいくつかの仏像が並んでいる。


小さな明かりに浮かび上がるそれは2人にとって不気味な光景であった。


雪乃『ねえ、今日はここで過ごそうよ』


響歌『え? 大丈夫かな…』


雪乃『もう外は真っ暗だし、また明日行こうよ。さすがに疲れた…』

雪乃の言葉に一理ある。

⏰:11/06/08 10:07 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#174 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『そうだね。なんか気味悪いけど電気もあるし、まだマシかもね…』

2人は荷物を置いて、薄黒く汚れた床に腰をおろした。


雪乃『なんか寒いね…』


響歌『うん…私も思ってた。ここに入るまではなんともなかったのに』

部屋を見回す。

異様な雰囲気が漂う堂内。

長袖を着てても、冷たい風が中に入ってくるようだ。

⏰:11/06/08 10:15 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#175 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『…早く寝ようか』


雪乃『変な夢見そうで怖いけど仕方ないよね』


響歌『おやすみ』


雪乃『おやすみ』

こうして2人は床に寝転がり、深い眠りについた。

⏰:11/06/08 10:25 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#176 [輪廻◆j6ceQ96kak]
2日目の朝がきた。


できれば夢であって欲しいと願っていた響歌だが、目を覚まして辺りを見て夢ではない事を改めて実感する。


外からは清々しい日の光と、小鳥の囀りが聞こえる。


響歌『ふわぁ〜』

そのほんわかした空気は、大きな欠伸が出るほどだ。

⏰:11/06/08 23:00 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#177 [輪廻◆j6ceQ96kak]
昨日までの出来事がまるで嘘のようにも思えた。


雪乃の方に目をやる。


まだ眠っているようだ。


携帯のディスプレイを見る。


時間は朝の7時35分。


電波は相変わらず“圏外”のままだ。

⏰:11/06/08 23:04 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#178 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌は寝ている雪乃を残して一人で外に出た。


澄んだ空気に包まれた山の中で大きく深呼吸をする。


響歌『頑張ろう!』

そして空に向かって大声で叫んだ。


響歌『…ふう』

スッキリした響歌は、そのままゆっくりと歩き出した。

⏰:11/06/08 23:09 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#179 [輪廻◆j6ceQ96kak]
お堂のある位置がわかるようにチラチラと振り返りながら朝の山中を散策。


期待はできないが、山登りなどをしている人がいるかもしれないと思ったからだ。


しかし期待はあっさりと裏切られた。


お堂から数キロ離れた所まで歩いてきたが、人の気配は全く感じられない。

⏰:11/06/08 23:18 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#180 [輪廻◆j6ceQ96kak]
仕方なくお堂まで戻ろうと思い反対に振り返って歩き出そうとした時だった。


背後から何かが歩いてくる気配がする。


さっきまで人の気配すらしなかったというのに、それは突然後ろから感じた。


間違いなく聞こえる。


ザクザク…と木の枝や落ち葉を踏む音と共に何かがやってくる。

⏰:11/06/08 23:25 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#181 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しかし、なぜか後ろを振り返ったはいけない気がした。


気配は響歌の方へと確実に近づいてくる。


足がすくんで体が思うように動かない。


まるで脚を何者かに強い力で掴まれているような感覚に陥った。


そしてそれは現実となる―

⏰:11/06/12 23:01 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#182 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ガッ!』


掴まれた感覚が残ったまま、響歌はゆっくりと自分の足元を見る。


池崎『ミツケタ…』

血まみれの女将が薄ら笑いを浮かべ、響歌を見上げて言った。


響歌『きゃっ!』

それは幻でもなんでもない。


現実だ。


とっさに逃げようとしたが、女将はものすごい強い力で響歌の脚を掴んでいて動けない。

⏰:11/06/12 23:08 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#183 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その拍子に響歌の身体は前に折れるようにして倒れ込んだ。


無我夢中で体を前に進めようとバタバタさせるが、女将の手の力は男性と同等のようであり、全くビクともしない。


響歌は手で女将の手を放そうと、腕をひっかいた。


放れるまでガリガリと必死に―

⏰:11/06/12 23:17 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#184 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ガリガリ』

女将の手の甲や腕をどれくらいひっかいただろう。


ふと見ると、女将の手と腕の皮膚が所々剥がれている。


普通であれば、こんなひっかき回されれば力が劣り響歌の脚から手が離れるはずだが、全くそんな様子はない。


それどころか、ますます力が強くなっているようだった。

⏰:11/06/12 23:25 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#185 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そして対する女将が反撃を始める。


響歌の脚の皮膚に長い爪を立て、ぎゅっと押しだした。


響歌『痛っ!』

ものすごい激痛が走る。


鋭く尖った爪はすぐに皮膚の肉に入った。


響歌『やめてェェ!!』

もはや恐怖心よりも痛みの方が強く、想像を絶する痛みに絶叫した。

⏰:11/06/12 23:36 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#186 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その絶叫と共に、気を失っていった―


…………。


…………。


雪乃『響歌! 響歌!』


響歌『………雪乃…』

雪乃の声がかすかに聞こえて目を開ける。


響歌『痛っ!』

同時に下半身に激しい痛み。


今にも再び気を失いそうだが、なんとか気力で起き上がった。

⏰:11/06/12 23:41 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#187 [輪廻◆j6ceQ96kak]
辺りは気を失う瞬間までいた森。

足元に目をやる。

そこにはくっきりと、掴まれた時のアザと深く刺さった女将の爪の傷痕が残っていた。


雪乃『…大丈夫?』


響歌『な、なんとか……痛っ!』


雪乃『手当てしないと…。鞄から包帯持ってくるから待ってて!』

そう言ってお堂の方へと走っていった。

⏰:11/06/12 23:47 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#188 [輪廻◆j6ceQ96kak]
数分して、鞄を手にした雪乃が戻ってきた。


雪乃『こんな時の為に救急セット持ってきてたんだよね…よかった』


響歌『雪乃、ありがとう…』

雪乃は消毒液、ガーゼ、包帯を取り出して響歌の脚の傷の手当てを行った。


雪乃『…これでよし、と。大丈夫? 痛くない?』


響歌『うん大丈夫…ありがと』

⏰:11/06/20 09:17 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#189 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『それにしても、これからどうする…?』


響歌『私は歩けるから…行ける所まで行こう』


雪乃『無理はしないでよ。響歌に何かあったら…』


響歌『心配ありがとね。でも大丈夫だから』

よろめきながらも響歌はその場から立ち上がる。


響歌『私の荷物取りに行ってくるから待ってて…』

⏰:11/06/20 09:21 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#190 [輪廻◆j6ceQ96kak]
心配する雪乃を残し、ゆっくりと脚を引きずるようにしてお堂へ向かった。


相変わらずカビ臭さと湿気が漂う堂内から荷物を手にし、雪乃の元へ急ぐ。


響歌『…お待たせ』


雪乃『本当に大丈夫?』


響歌『なんとか…。それよりも早くこの山から抜け出さないと…』

2人は再び出発した。

⏰:11/06/20 09:30 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#191 [輪廻◆j6ceQ96kak]
進むにつれて、まだ朝方だというのに辺りは薄暗く異様な雰囲気が漂ってくる。


鳥の囀りも全く聞こえなくなっていた。


聞こえるのは2人の歩く音だけだ。


まるで樹海のようなその山に、2人は完全に支配されつつあった。

⏰:11/06/20 09:39 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#192 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『道、こっちで合ってるのかな…。なんか歩けば歩くほど出口があるようには思えなくなってくるけど…』


響歌『携帯さえ繋がってくれれば…。とにかく圏外の文字が消えるまで歩こうよ』


雪乃『…そうだね』


携帯電話を片手にディスプレイを見ながら進む。

⏰:11/06/20 09:46 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#193 [輪廻◆j6ceQ96kak]
30分…


1時間…


2時間…


所々で休みながら歩いたが、そろそろ体力的にも限界がきていた。


一向に出口が見えてこない山中。


繋がらない携帯電話。


疲れとストレスが一緒に溜まり、肉体的にも精神的にも共に限界だ。

⏰:11/06/20 09:52 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#194 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『もう無理…。私達、一生ここから出られないのかな…』


響歌『ハア…ハア…』

木陰に座り込んだ2人。


もはや息切れ寸前だった時―



『ザクザク…』

どこからか歩く音がした。


響歌『…!!』

雪乃『…!!』

その音に2人は同時に反応する。

⏰:11/06/20 09:57 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#195 [輪廻◆j6ceQ96kak]
お互い顔を見合わせて静かに耳を澄ます。


間違いなく、その音は2人の背後からした。


雪乃『人…かな…』


響歌『待って。あの女将かもしれないし、もう少し様子見よう』

2人は太い木の影から息を殺して気配を消した。

⏰:11/06/20 10:04 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#196 [輪廻◆j6ceQ96kak]
音は段々と近づいてくる。


まるでさっきから2人の後をつけてきたかのように、音が近づく。


響歌と雪乃はお互いの手を握って祈るように目をつむった。


『ザクザク…』


『ザク!』

足音が止まった。


2人はゆっくりと目を開ける。

⏰:11/06/20 10:11 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#197 [輪廻◆j6ceQ96kak]
ゆっくりと木の影から後ろを見ると、そこには体格のいいリュックを背負った男性の後ろ姿があった。


2人はホッと胸をなで下ろすと、立ち上がって男性に声をかけようと近づいた。


響歌『あ、あの…』


男『…ん!?』

背後からの突然の声に驚いたのか、男はビクッとして振り返った。

⏰:11/06/20 10:18 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#198 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『こ、こんな所に女の子が一人で…何しているんだい?』


響歌『あ。もう一人います…雪乃が…』

響歌は目を疑った。


そこに雪乃の姿はなかった。


響歌『え…雪乃…? どこ…?』

辺りを見回すが雪乃の姿どころか気配すらなくなっている。


響歌『雪乃! 冗談はやめてよ! ねえ雪乃!』

大きな声で雪乃の名前を叫ぶが、返事はない。

⏰:11/06/20 10:23 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#199 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『一体どうしたのかな?』

男が心配そうに声をかける。


響歌『雪乃…私の友達が…』


男『友達? さっきから君の姿は見えていたけど、ずっと一人じゃなかったかい?』


響歌『…!!』

響歌は、男の衝撃的な発言に言葉を失った。

⏰:11/06/20 21:59 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#200 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『そんな…。冗談はやめてください!』


男『い、いや…そう言われてもね…』

困った表情で返す男の顔からは冗談を言っているようには感じられない。


響歌『雪乃! いるんでしょ!? 出てきてよ…!』

頭の中が真っ白になりつつあった。

その場に崩れ落ちる。

⏰:11/06/20 22:02 📱:T004 🆔:VV7usoSw


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