†horror†
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#151 [我輩は匿名である]
血を目で追っていた先にある玄関の戸が開いている。


響歌はすぐに状況を察知できた。


響歌『あの人、ここから外にあれを捨てに行ったんじゃない?』


雪乃『気味の悪い事言わないでよ…』


響歌『ねえ…帰る準備ができたら、あの女将さんが何してるか見に行かない?』

⏰:11/05/21 00:28 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#152 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌の言葉に、雪乃は顔をしかめた。


雪乃『やめようよ。見つかったら何されるかわからないよ』


響歌『大丈夫。こっそり…ね?』


雪乃『…………』

響歌の表情はさっきまでとは違い好奇心に満ち溢れていた。

⏰:11/05/21 01:12 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#153 [輪廻◆j6ceQ96kak]
鬼の間に戻り、荷物をまとめた2人は立ち去るように旅館の外へ出た。


外に垂れている血を目印に響歌はゆっくりと歩いていく。


雪乃は不安な顔をしつつも、それに続いた。


そして―


雪乃『ねえ…何か煙臭くない?』


響歌『うん…それに臭い』

かすかな煙の匂いと、鼻にツンとくる異臭がする。

⏰:11/05/21 09:00 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#154 [輪廻◆j6ceQ96kak]
匂いを辿っていくと、裏庭らしき所に女将の姿があった。


すぐそばには大きな古びた焼却炉。


煙と異臭はその焼却炉から出ているようだ。


2人は木の影から息を殺して女将の行動を見る事にした。


女将は鼻歌を歌いながら地面にしゃがみ込んで何かをしている。

⏰:11/05/21 09:24 📱:T004 🆔:.qOCJGCU


#155 [輪廻◆j6ceQ96kak]
やがて立ち上がり、2人の気配に気づいたのか後ろを振り返った。


手には血まみれの包丁。


そして女将の顔に視線をやると、その顔はまるで肉を食い漁った獣のようで、血走った目で口元には大量の血。


響歌『うっ!』

あまりの光景に吐き気がしてきた響歌。

⏰:11/05/23 12:49 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#156 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『大丈夫?』


響歌『は、早く行こう!』

逃げようと木からそっと離れる。


それとほぼ同時だった―


2人に気づいた女将が、突然2人に向かって走り出してきたのだ。


響歌『きゃあああ!』


雪乃『早く!』

雪乃が響歌の腕を素早く掴み、逆方向へと走る。

⏰:11/05/23 12:55 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#157 [輪廻◆j6ceQ96kak]
どこまで走ったのかわからなくなるほど、とにかく前へ前へと走る。


捕まったら殺される―


それだけを考えながらとにかく走る。


しばらく走って、後ろから追ってくる気配はなかったが決して一度も後ろを振り返らなかった。

⏰:11/05/23 13:02 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#158 [輪廻◆j6ceQ96kak]
気づくと山の中に座り込んでいた。


雪乃『はあ…はあ…』


響歌『はあ…はあ…』

2人は無我夢中で走った為に息切れ状態になりつつある。


女将の気配はすでになく、山の中は小鳥のさえずりだけが聞こえていた。


雪乃『結構深い所まで来ちゃったね…』


響歌『私達、帰れるのかな…』

辺りはすでに夕暮れ時。

木はまるで唸るように、風によってざわざわと音をたてて動いている。

⏰:11/05/23 15:05 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#159 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌はバッグから携帯電話を取り出した。


圏外―


その表示がある限り、助けを求める事はできない。


響歌『どうするの? これから』


雪乃『わからないけど…とにかく歩いてみよう』

2人はあてもなく山中を歩き始めた。

⏰:11/05/23 15:11 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#160 [輪廻◆j6ceQ96kak]
沈黙の中、ザクザクと歩く音が響く。


東西南北のどの方向に進んでいるのかもわからずに歩く。


歩いて行けば、じきに携帯電話が繋がる範囲の場所にたどり着けると信じながら。


響歌は携帯電話のディスプレイをちらちらと見ながら圏外の文字が消えるのを待った。

⏰:11/05/23 15:16 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#161 [輪廻◆j6ceQ96kak]
歩いて歩いて…


10分…。


20分…。


30分…。


ディスプレイには相変わらず圏外の文字。


時間は夜の19時を指した所だ。


体力に限界が来たのか、雪乃はその場に座り込んでしまった。

⏰:11/05/23 15:25 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#162 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『もうだめ…無理』


響歌『雪乃、大丈夫?』


雪乃『このまま飢え死になるのかな…』


響歌『何弱気になってるの。さっき逃げる時私を引っ張ってくれたじゃん。嬉しかったんだからね』


雪乃『響歌…』


響歌『頑張ろうよ。こんな山の中で夜を過ごすなんて危なすぎるよ』

⏰:11/05/23 15:29 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#163 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『そうだよね…。行こうか』


響歌『うん!』

雪乃はゆっくり立ち上がり、2人は再び歩き出す。


それから30分くらい歩いた所で、辺りはすでに暗い闇に包まれようとしていた。


その中で響歌の携帯電話の光だけが小さく浮かび上がる。

⏰:11/05/23 15:37 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#164 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『なんか同じ所をずっと歩いてるみたいだよね…』


響歌『そんな事ないよ。山の中だし』


お互いの顔は携帯電話の光がなければ完全に見えない状態だった。


雪乃『そういえばさ…あの部屋にあったやつ何だったんだろうね?』


響歌『何かの死体…みたいだったよ。まさかとは思うけど…吉田さん?』

⏰:11/05/23 15:44 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#165 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『優斗…』


響歌『あ、ごめん…なんか変な事聞いちゃったね』


雪乃『ううん、いいの』

会話はここで途切れ、しばしの沈黙が訪れた。


その沈黙を破ったのは匂いだ。

⏰:11/05/23 15:48 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#166 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『ねえ…この匂い…』

それは嗅ぎ覚えのある匂いだった。


それは、あの旅館の狼の間に漂った血なまぐさい異臭だ。


響歌『うっ!』

あまりの異臭に鼻をグッとつまんだ。


その異臭は2人の至近距離から放たれている。


しかし暗闇なので、どこに何があるのかハッキリと見る事はできない。

⏰:11/05/23 15:54 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#167 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『雪乃…?』

携帯電話の小さな光を辺りにちらす。


一瞬、光の先に何かの物体が見えた。


再び光を当てて確認する。


そこには黒くて焦げたような何かがあった。


異臭はその物体からしている事がわかった響歌は、思わずその場から後ずさりする。

⏰:11/05/23 15:59 📱:T004 🆔:u6/4H1pA


#168 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『わっ!』


響歌『きゃっ!』

背後から雪乃が響歌の肩を掴んで驚かす。


驚いた響歌はその場にしりもちをつくようにして座り込んだ。


雪乃『ごめんごめん!』


響歌『もう! こんな時に…!』


雪乃『ごめんね。それよりこの匂いなんだろうね…』

⏰:11/05/24 22:19 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#169 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『あそこに何かあるよ…黒いのが…』


雪乃『ちょっと携帯貸して』

雪乃は響歌の指差す方に携帯電話の光を当てながら歩き出す。


雪乃『うわっ! なにこれぇ…』


響歌『ね? なんだろう…』


雪乃『何かが焼けたような…臭い!』

あまりの異臭にその場からとっさに離れる雪乃。

⏰:11/05/24 22:25 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#170 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『大丈夫…?』


雪乃『な、なんとかね…』


響歌『もしかしてあれって…あの女将が焼却炉で焼いた何かの死体だったりして…』


雪乃『まさか…。旅館からすごい離れたとこに来ちゃったし、それはないんじゃない…』


響歌『そ、そうだよね…』

⏰:11/05/24 22:58 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#171 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『とにかく早く行こうよ!』


響歌『…うん』

2人は気を取り直して再び真っ暗闇な山の中を歩き出した。



時間はあっという間に過ぎていく。


圏外の表示は相変わらず消えない。


どこに進んでいるのかわからず、とにかく車道を目指して歩いた。

⏰:11/05/24 23:07 📱:T004 🆔:OTDo2d3M


#172 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しばらく歩くと、古びたお堂が姿を見せた。


小さな電気が灯っている。


雪乃『見て響歌! あそこ誰かいるかもよ』


人の気配は感じられないが、響歌は走っていく雪乃に続いてお堂内に足を踏み入れた。

⏰:11/06/07 22:56 📱:T004 🆔:UWAOdbyY


#173 [輪廻◆j6ceQ96kak]
中は異様にカビ臭く、湿気でいっぱいだ。


奥にはいくつかの仏像が並んでいる。


小さな明かりに浮かび上がるそれは2人にとって不気味な光景であった。


雪乃『ねえ、今日はここで過ごそうよ』


響歌『え? 大丈夫かな…』


雪乃『もう外は真っ暗だし、また明日行こうよ。さすがに疲れた…』

雪乃の言葉に一理ある。

⏰:11/06/08 10:07 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#174 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『そうだね。なんか気味悪いけど電気もあるし、まだマシかもね…』

2人は荷物を置いて、薄黒く汚れた床に腰をおろした。


雪乃『なんか寒いね…』


響歌『うん…私も思ってた。ここに入るまではなんともなかったのに』

部屋を見回す。

異様な雰囲気が漂う堂内。

長袖を着てても、冷たい風が中に入ってくるようだ。

⏰:11/06/08 10:15 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#175 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『…早く寝ようか』


雪乃『変な夢見そうで怖いけど仕方ないよね』


響歌『おやすみ』


雪乃『おやすみ』

こうして2人は床に寝転がり、深い眠りについた。

⏰:11/06/08 10:25 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#176 [輪廻◆j6ceQ96kak]
2日目の朝がきた。


できれば夢であって欲しいと願っていた響歌だが、目を覚まして辺りを見て夢ではない事を改めて実感する。


外からは清々しい日の光と、小鳥の囀りが聞こえる。


響歌『ふわぁ〜』

そのほんわかした空気は、大きな欠伸が出るほどだ。

⏰:11/06/08 23:00 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#177 [輪廻◆j6ceQ96kak]
昨日までの出来事がまるで嘘のようにも思えた。


雪乃の方に目をやる。


まだ眠っているようだ。


携帯のディスプレイを見る。


時間は朝の7時35分。


電波は相変わらず“圏外”のままだ。

⏰:11/06/08 23:04 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#178 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌は寝ている雪乃を残して一人で外に出た。


澄んだ空気に包まれた山の中で大きく深呼吸をする。


響歌『頑張ろう!』

そして空に向かって大声で叫んだ。


響歌『…ふう』

スッキリした響歌は、そのままゆっくりと歩き出した。

⏰:11/06/08 23:09 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#179 [輪廻◆j6ceQ96kak]
お堂のある位置がわかるようにチラチラと振り返りながら朝の山中を散策。


期待はできないが、山登りなどをしている人がいるかもしれないと思ったからだ。


しかし期待はあっさりと裏切られた。


お堂から数キロ離れた所まで歩いてきたが、人の気配は全く感じられない。

⏰:11/06/08 23:18 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#180 [輪廻◆j6ceQ96kak]
仕方なくお堂まで戻ろうと思い反対に振り返って歩き出そうとした時だった。


背後から何かが歩いてくる気配がする。


さっきまで人の気配すらしなかったというのに、それは突然後ろから感じた。


間違いなく聞こえる。


ザクザク…と木の枝や落ち葉を踏む音と共に何かがやってくる。

⏰:11/06/08 23:25 📱:T004 🆔:6ZPWYKsQ


#181 [輪廻◆j6ceQ96kak]
しかし、なぜか後ろを振り返ったはいけない気がした。


気配は響歌の方へと確実に近づいてくる。


足がすくんで体が思うように動かない。


まるで脚を何者かに強い力で掴まれているような感覚に陥った。


そしてそれは現実となる―

⏰:11/06/12 23:01 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#182 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ガッ!』


掴まれた感覚が残ったまま、響歌はゆっくりと自分の足元を見る。


池崎『ミツケタ…』

血まみれの女将が薄ら笑いを浮かべ、響歌を見上げて言った。


響歌『きゃっ!』

それは幻でもなんでもない。


現実だ。


とっさに逃げようとしたが、女将はものすごい強い力で響歌の脚を掴んでいて動けない。

⏰:11/06/12 23:08 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#183 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その拍子に響歌の身体は前に折れるようにして倒れ込んだ。


無我夢中で体を前に進めようとバタバタさせるが、女将の手の力は男性と同等のようであり、全くビクともしない。


響歌は手で女将の手を放そうと、腕をひっかいた。


放れるまでガリガリと必死に―

⏰:11/06/12 23:17 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#184 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ガリガリ』

女将の手の甲や腕をどれくらいひっかいただろう。


ふと見ると、女将の手と腕の皮膚が所々剥がれている。


普通であれば、こんなひっかき回されれば力が劣り響歌の脚から手が離れるはずだが、全くそんな様子はない。


それどころか、ますます力が強くなっているようだった。

⏰:11/06/12 23:25 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#185 [輪廻◆j6ceQ96kak]
そして対する女将が反撃を始める。


響歌の脚の皮膚に長い爪を立て、ぎゅっと押しだした。


響歌『痛っ!』

ものすごい激痛が走る。


鋭く尖った爪はすぐに皮膚の肉に入った。


響歌『やめてェェ!!』

もはや恐怖心よりも痛みの方が強く、想像を絶する痛みに絶叫した。

⏰:11/06/12 23:36 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#186 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その絶叫と共に、気を失っていった―


…………。


…………。


雪乃『響歌! 響歌!』


響歌『………雪乃…』

雪乃の声がかすかに聞こえて目を開ける。


響歌『痛っ!』

同時に下半身に激しい痛み。


今にも再び気を失いそうだが、なんとか気力で起き上がった。

⏰:11/06/12 23:41 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#187 [輪廻◆j6ceQ96kak]
辺りは気を失う瞬間までいた森。

足元に目をやる。

そこにはくっきりと、掴まれた時のアザと深く刺さった女将の爪の傷痕が残っていた。


雪乃『…大丈夫?』


響歌『な、なんとか……痛っ!』


雪乃『手当てしないと…。鞄から包帯持ってくるから待ってて!』

そう言ってお堂の方へと走っていった。

⏰:11/06/12 23:47 📱:T004 🆔:6tJ80G4k


#188 [輪廻◆j6ceQ96kak]
数分して、鞄を手にした雪乃が戻ってきた。


雪乃『こんな時の為に救急セット持ってきてたんだよね…よかった』


響歌『雪乃、ありがとう…』

雪乃は消毒液、ガーゼ、包帯を取り出して響歌の脚の傷の手当てを行った。


雪乃『…これでよし、と。大丈夫? 痛くない?』


響歌『うん大丈夫…ありがと』

⏰:11/06/20 09:17 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#189 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『それにしても、これからどうする…?』


響歌『私は歩けるから…行ける所まで行こう』


雪乃『無理はしないでよ。響歌に何かあったら…』


響歌『心配ありがとね。でも大丈夫だから』

よろめきながらも響歌はその場から立ち上がる。


響歌『私の荷物取りに行ってくるから待ってて…』

⏰:11/06/20 09:21 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#190 [輪廻◆j6ceQ96kak]
心配する雪乃を残し、ゆっくりと脚を引きずるようにしてお堂へ向かった。


相変わらずカビ臭さと湿気が漂う堂内から荷物を手にし、雪乃の元へ急ぐ。


響歌『…お待たせ』


雪乃『本当に大丈夫?』


響歌『なんとか…。それよりも早くこの山から抜け出さないと…』

2人は再び出発した。

⏰:11/06/20 09:30 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#191 [輪廻◆j6ceQ96kak]
進むにつれて、まだ朝方だというのに辺りは薄暗く異様な雰囲気が漂ってくる。


鳥の囀りも全く聞こえなくなっていた。


聞こえるのは2人の歩く音だけだ。


まるで樹海のようなその山に、2人は完全に支配されつつあった。

⏰:11/06/20 09:39 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#192 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『道、こっちで合ってるのかな…。なんか歩けば歩くほど出口があるようには思えなくなってくるけど…』


響歌『携帯さえ繋がってくれれば…。とにかく圏外の文字が消えるまで歩こうよ』


雪乃『…そうだね』


携帯電話を片手にディスプレイを見ながら進む。

⏰:11/06/20 09:46 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#193 [輪廻◆j6ceQ96kak]
30分…


1時間…


2時間…


所々で休みながら歩いたが、そろそろ体力的にも限界がきていた。


一向に出口が見えてこない山中。


繋がらない携帯電話。


疲れとストレスが一緒に溜まり、肉体的にも精神的にも共に限界だ。

⏰:11/06/20 09:52 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#194 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃『もう無理…。私達、一生ここから出られないのかな…』


響歌『ハア…ハア…』

木陰に座り込んだ2人。


もはや息切れ寸前だった時―



『ザクザク…』

どこからか歩く音がした。


響歌『…!!』

雪乃『…!!』

その音に2人は同時に反応する。

⏰:11/06/20 09:57 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#195 [輪廻◆j6ceQ96kak]
お互い顔を見合わせて静かに耳を澄ます。


間違いなく、その音は2人の背後からした。


雪乃『人…かな…』


響歌『待って。あの女将かもしれないし、もう少し様子見よう』

2人は太い木の影から息を殺して気配を消した。

⏰:11/06/20 10:04 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#196 [輪廻◆j6ceQ96kak]
音は段々と近づいてくる。


まるでさっきから2人の後をつけてきたかのように、音が近づく。


響歌と雪乃はお互いの手を握って祈るように目をつむった。


『ザクザク…』


『ザク!』

足音が止まった。


2人はゆっくりと目を開ける。

⏰:11/06/20 10:11 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#197 [輪廻◆j6ceQ96kak]
ゆっくりと木の影から後ろを見ると、そこには体格のいいリュックを背負った男性の後ろ姿があった。


2人はホッと胸をなで下ろすと、立ち上がって男性に声をかけようと近づいた。


響歌『あ、あの…』


男『…ん!?』

背後からの突然の声に驚いたのか、男はビクッとして振り返った。

⏰:11/06/20 10:18 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#198 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『こ、こんな所に女の子が一人で…何しているんだい?』


響歌『あ。もう一人います…雪乃が…』

響歌は目を疑った。


そこに雪乃の姿はなかった。


響歌『え…雪乃…? どこ…?』

辺りを見回すが雪乃の姿どころか気配すらなくなっている。


響歌『雪乃! 冗談はやめてよ! ねえ雪乃!』

大きな声で雪乃の名前を叫ぶが、返事はない。

⏰:11/06/20 10:23 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#199 [輪廻◆j6ceQ96kak]
男『一体どうしたのかな?』

男が心配そうに声をかける。


響歌『雪乃…私の友達が…』


男『友達? さっきから君の姿は見えていたけど、ずっと一人じゃなかったかい?』


響歌『…!!』

響歌は、男の衝撃的な発言に言葉を失った。

⏰:11/06/20 21:59 📱:T004 🆔:VV7usoSw


#200 [輪廻◆j6ceQ96kak]
響歌『そんな…。冗談はやめてください!』


男『い、いや…そう言われてもね…』

困った表情で返す男の顔からは冗談を言っているようには感じられない。


響歌『雪乃! いるんでしょ!? 出てきてよ…!』

頭の中が真っ白になりつつあった。

その場に崩れ落ちる。

⏰:11/06/20 22:02 📱:T004 🆔:VV7usoSw


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