悪魔と天使の暇潰し
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#357 [匿名]
振り返ると、そこには小柄で華奢な、ショートカットの女性が晴れ晴れとした顔で私を見ていた。
「ねぇ、幸子だよね!久しぶりー!こんな所で会えるなんてー!何年ぶりだろっ?」
その女性は身体を上下に動かし、忙しなく喜んでいる。……誰?
キャーキャー言っていた女性が急に静かになった。きっと私の顔が、ポカーンとなっていたからだろう。
「あれ?忘れちゃった?里美だよー」
「…里美?えっ?もしかして渡辺里美?」
渡辺里美は高校が一緒で三年間同じクラスで過ごし、とても仲が良かった。卒業してからも頻繁に会ってはいたが、お互い社会人になってからは、なかなか会えなくなってしまった。
:11/09/23 00:56 :F06B :BZYWBPP6
#358 [匿名]
だけど、私の知っている里美はロングヘアーで、ぽっちゃりとした体型だったはず。
「そうそう!里美!」
「うそー久しぶり!…髪の毛、切っちゃったの?」
「だいぶ前にねぇ。もう何年ぶりだろ?幸子変わらないね!」
思い出して来た。くしゃっと笑う笑顔や、頬にあるホクロは里美そのものだった。
「そうかな?里美は痩せたね!」
「うん、仕事忙しくてさ、気が付いたらどんどん痩せてったよ。ラッキーだよね!」
:11/09/23 00:57 :F06B :BZYWBPP6
#359 [匿名]
おどける里美が懐かしかった。
「そっか。もう二年くらい会ってなかったのかな?」
「多分そのくらいだよね。……ねぇ、飲みいかない?」
そういえば里美の誘いはいつも突然だった。
「うん!」
私が頷くと、里美は嬉しそうに笑った。
そしてすぐに近くにある居酒屋に入った。いつもはガヤガヤと騒がしいチェーン店だが、まだ時間が早いらしく、客は二組しかいなかった。
:11/09/23 00:58 :F06B :BZYWBPP6
#360 [匿名]
ビールとお通しの枝豆が来て、私達は乾杯をした。
「里美はまだあのレストランで働いてるの?」
里美は大学を卒業してから、都内にある有名なレストランに就職した。
「やってるやってる。辞める理由も無いし、何だかんだ好きだからね!」
「あれ?でも今日日曜日なのに休みなの?」
私は普通のOLだから土日が休みなのだが、里美は土日は絶対に仕事だった。
そのせいで私達は自然と会える回数が減り、そして無くなってしまった。
:11/09/24 11:36 :F06B :FDlPqY22
#361 [匿名]
「今有給休暇中で、一週間休みだったの!まあ、今日で休みは終わりなんだけどね」
残念さが里美から滲み出ている。
「そっか。じゃあ本当今日会えたのって偶然なんだね」
「そうだよね。なんか、嬉しいね!」
「うん!」
それから私達は、お互いが知らない約二年間の出来事について話し出した。
:11/09/24 11:39 :F06B :FDlPqY22
#362 [匿名]
里美はまだ結婚していないが、サラリーマンの彼氏がいるらしい。付き合って一年ちょっとだが、お互い忙しくてなかなか会えないみたいだ。
「でも二週に一回ペースが楽でいいかも。毎回、会うのが久しぶり!ってなると、会える嬉しさ倍増するんだよねー。燃えるよ!燃える」
高校生の時の里美は、毎日の様に彼氏と過ごしていた。同じ学校に彼氏がいたからかもしれないが、飽きる事なくベタベタしていた。
そんな事を思い出し、里美に教えてあげると、
「いやーあの頃は若かった!彼氏がいればそれでいいと思ってたからねぇ」
としみじみし出した。
その会話の流れで、話題は高校時代の思い出話へと移り、私達の気持ちはあの頃に簡単に戻れた。
:11/09/24 11:43 :F06B :FDlPqY22
#363 [匿名]
ホッとした。
里美は私と守の事を良く知っている。守が交通事故に遭った事も知っている。
どうしても抜けられない仕事の都合で、里美は守の葬式には来られなかったが、心配をして、メールをくれたりもした。
もし今この場で、守の話になったら、私は笑えなくなってしまう。大切な友人である里美に心配をかけてしまう。
話題が高校生の頃の馬鹿な話になって良かった。
もしかしたら里美は気を使ってくれたのかもしれない。そう思うと、感謝の気持ちと同時に、いたたまれない気持ちになった。
:11/09/24 11:47 :F06B :FDlPqY22
#364 [匿名]
笑って、驚いて、苦しくなって、恥ずかしくなって、怒りが込み上げて来て、微笑ましくなった。
私の高校三年間は、今思い出すと、こんな感じだ。
そのどの感情を思い出しても、近くに里美がいた。
ふと腕時計を見ると、二十三時を過ぎていた。
「もうこんなに時間経ってる!」
私がそう言うと、確認する様に里美も腕時計を見た。
「早い!私達ずっと語ってたんだ」
二人して笑いが込み上げて来た。今の私は自然に笑えたのかな?
:11/09/24 11:49 :F06B :FDlPqY22
#365 [匿名]
「明日仕事でしょ?そろそろ行こうか」
「あぁ、そうだ、仕事だ。明日早いんだ…ごめんね、行こうか」
「私も仕事だし!お互い頑張ろう!」
私は何も考えずにそう言った。
この場所でこの時間まで飲み、今から実家に帰るつもりのくせに。
明日仕事へ行く気など、全く無いくせに。
:11/09/24 11:50 :F06B :FDlPqY22
#366 [匿名]
「じゃあ私自転車があるから!また、近い内に絶対に会おうね!」
そう言って里美は駅の前で、改札を抜けようとする私に言った。
「……うん」
出来るだけ精一杯の笑顔で笑った。
さっきまでは自然に笑えたのに、色々と考えてしまうと、どうもひきつる。
「幸子!」
里美が言う。
「幸子は一人じゃないよ!幸子は皆に愛されてるよ!少なくとも私は、大好きだよ!何かあったらすぐ助けに行くからさ!…守君みたいにはいかないけど、親友として、支えるから!…だから幸子も助けてよ!私にピンチが降りかかっても、飛んできてよね!」
:11/09/25 12:45 :F06B :geZHgiX2
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