悪魔と天使の暇潰し
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#278 [匿名]
悲しい気持ちが消えないまま、顔を洗いに行く。

ついこの間まで、隣には守がいた。顔を洗うのと歯を磨くタイミングは毎日一緒で、いつも蛇口の取り合いになる。

待たされる事がほとんどだったのに、二人で並んで歯を磨くあの時間が私は好きだった。

鏡越しに目が合うと、何だか嬉しくて、目が合うまでずっと守を見ていた事もあった。


楽しかったな。そう感じると同時に、言い様のない孤独感に包み込まれた。

⏰:11/08/23 20:54 📱:F06B 🆔:6ehtGtFM


#279 [匿名]
もう戻らない過去を振り返っても、何にもならない。そう言い聞かせながら、簡単な朝食を作り、一人で食べた。

「旨いじゃん!」

手の込んでいない料理でも守は旨いって言ってくれた。

守の声が聞こえた気がして、ふと正面を見上げてしまう。

何日同じ事を繰り返せば、私は学習するのだろう。

⏰:11/08/23 20:56 📱:F06B 🆔:6ehtGtFM


#280 [匿名]
洗い物をし、化粧と着替えを急いでする。

「忘れ物ないかー?」

家を出る五分前に、いつも守は私にそう言ってくれる。

だから今まで忘れ物なんてした事なかった。もう守は言ってくれないけど、今でも忘れ物はしない。守がいつも言ってくれた言葉や行動は、忘れた事などないから。

⏰:11/08/23 20:58 📱:F06B 🆔:6ehtGtFM


#281 [匿名]
家を出て、駅に向かう。
いつも二人で歩いた道程。

駅で別々の方向に向かう電車に乗る。いつも私が乗る方の電車が早くつくから、電車に乗りながらホームに立つ守に手をふる。そうすると守は、いつも照れ臭そうに手を少しだけ上げて私に合図をしてくれる。

その姿を遠目で見ると、なんだか旦那だとは思えなくて、恋人同士だった時に戻った気持ちになった。

なんでだろう?

今でも電車に乗り、ドアが閉まると守の姿を探してしまう。もうここに守はいないのに。

守がいない事を確認すると泣きそうになる。

今日もまだ心が晴れない。
守、どこに行ってしまったの?

⏰:11/08/23 21:01 📱:F06B 🆔:6ehtGtFM


#282 [匿名]
三十分程電車に乗ると、会社の最寄り駅につく。

ここからは、守の事をほんの少しだけ忘れられる。

二十八歳になった私はこの会社で働いて、もう五年になる。やりがいのある仕事だから、働いている時は他に何も考えられない。だからほんの少し、守を忘れられる。

別に、忘れたい訳じゃないけど、考えてしまうと辛くなるから、今は出来るだけ忘れたい。

溜め息が出る。

⏰:11/08/23 21:06 📱:F06B 🆔:6ehtGtFM


#283 [匿名]
「溜め息なんかついちゃって、何か嫌な事でもあったのか?」

下を向いていて、そう声をかけられるまで前に誰かがいる事に気が付かなかった。

顔を上げると若い男が立っていた。私を見て、微笑んでいる。

微笑んでいると言っても、その笑みに優しい雰囲気は一切感じない。黒い陰のような居心地の悪い雰囲気をまとっている。

それなのに私はその男に見とれてしまった。

⏰:11/08/24 17:10 📱:F06B 🆔:CHd7z7Rw


#284 [匿名]
二十代前半に見える男は、スラッとした長身で黒いスーツを着ていた。
どこにでもいる若い男性だと思ったが、全然違う。

作られた物みたいに綺麗な顔立ちで、どこにも隙がない。
そう、人間じゃない、生きてはいないものみたい。

「なんだよ!俺の顔そんなに変か?」

見とれている私にその男は近付いてきた。不覚にも、胸が高鳴る。

「い、いえ!」

近ければ近い程、その男は綺麗だった。灰色の瞳が、真っ黒な髪の毛の間から覗いている。

⏰:11/08/24 17:16 📱:F06B 🆔:CHd7z7Rw


#285 [匿名]
彼と目が合うと、なんだか闇に吸い込まれて行く様な気がして、咄嗟にそらしてしまった。

「まぁいいや。あんたさ、何か悩んでんだろ?」

「えっ」

いきなり赤の他人にそんな質問をぶつける人に初めて会った。

悩みと言えば悩みに分類されるのかもしれない。でも悩みという甘いものじゃない。

「…死にたいだろ?」

目の前の彼の表情が悪魔に見えた。本当に私を殺してくれそうな、そんな圧迫感がある。

⏰:11/08/24 17:21 📱:F06B 🆔:CHd7z7Rw


#286 [匿名]
「もし死にたいなら、協力してやってもいいけど?」

死にたいか?
そんなの、死にたいに決まってる。

守は死んだ。
突然過ぎる事故で死んだ。

何の前触れも無く、突然私の前から居なくなり、もう二度と会えないと宣告された。

守の側に居たいんだから、死にたいに決まってる。

⏰:11/08/24 17:22 📱:F06B 🆔:CHd7z7Rw


#287 [匿名]
「泣くなよ」

「え?」

私、泣いていたんだ。

目の前の男が不気味に笑うのを見て、余計に辛くなる。
どうして私は生きているのだろう。守が居なくては、生きて生けないはずなのに。もしかして私は、守が死んだあの日から、死んだも同然なのかもしれない。


「無意識に泣ける程追い込まれてんなら、死んだ方が楽だぜ?」

この人は何者?

「あなた誰?」

⏰:11/08/24 17:24 📱:F06B 🆔:CHd7z7Rw


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