悪魔と天使の暇潰し
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#294 [匿名]
「落ちてすぐだったので、そんなに汚れてないと思いますよ」
またその男は優しい笑顔で微笑んでくれた。何もかも包み込んで癒してくれる、天使みたいな人だと思った。
「すみません。助かりました」
お礼を言い頭を下げて、立ち去ろうとした時、私は彼にまた呼び止められた。
「あの、こんな事いきなり言うのは自分でもどうかと思うんですが…」
深刻そうな顔になるので、私は一気に不安になる。
:11/08/25 19:51 :F06B :4gXk0VdA
#295 [匿名]
「…大切な何かを、なくされた様ですね」
天使さんは少し黙ったあと、私の目を真っ直ぐ見てそう言った。
何故分かったんですか?
そう思ったのに、言葉が出ない。
「まもる、さん?」
何で、何で名前まで知っているの?
「泣かないでください」
「えっ」
また私泣いていたんだ。
:11/08/25 19:54 :F06B :4gXk0VdA
#296 [匿名]
「僕にはそういう能力があって。あなたの辛さも、苦しみも分かります。…死にたいって思っている事も」
何だろう、この感情。
涙が止まらない。
「大丈夫です。あなたは大丈夫だから」
大丈夫という言葉が、とても力強く感じた。
「あなたは?」
「僕?えっと、人を救う仕事をしているんです」
私の勘は鋭かった。やっぱり彼は天使みたいに心の綺麗な人だ。
:11/08/25 19:57 :F06B :4gXk0VdA
#297 [匿名]
そして私の涙が止まる頃、天使のような彼と別れ、私は会社に向かった。そしていつもと同じように仕事をする。
今日はいつも以上に忙しく、気が付くと夜の19時を過ぎていた。
もう帰ろう。
そう考えると、帰りたくない気持ちが出てくる。
このまま何も考えず、ただ目の前に山積みにされた仕事を、手際よくこなしているだけの日々だったら、楽なのに。
どうして現実は、こうも複雑なんだろう。
:11/08/26 18:45 :F06B :yzyXQKjY
#298 [匿名]
もっと単純で、人生がゲームと同じだったら、私は間違いなくリセットボタンを押す。
そうしたら、やり直せる。守が死なない様に調節出来る。
簡単に想像出来るのに、どうして戻れないんだろう。
暗闇の様な気持ちで歩いた帰り道、私は悪魔さんに会った。
「よぉ!」
馴れ馴れしい。
昨日ほんの少し話しただけなのに、旧友に会った様な態度に、私は臆する。
:11/08/26 18:49 :F06B :yzyXQKjY
#299 [匿名]
「やっぱお前元気ねぇな」
「…出ませんよ」
「何で?」
「何でもです」
言葉に出したら、私はきっと崩れ落ちる。立つ事が出来なくなって、目の前も見えなくなる。
「死んだんだろ?だーい好きだった男が」
言葉を失う。
どうして知っているの?朝の天使さんもそうだった。
この人達は何者なの?
:11/08/26 18:51 :F06B :yzyXQKjY
#300 [匿名]
「何で知ってるの?やめてよ!死んだって簡単に言葉にしないで!…って顔してんな?」
悪魔さんはふざけた態度で、私の心をえぐった。
私ってこんなに涙脆かったんだ。ポタポタと涙が垂れて、私の服を濡らす。
そういえば、今まで感動する映画やテレビを見て泣きそうになる時、いつも隣で私より先に守が泣いていたんだっけ。
その様子を見て、私は可笑しくなって笑っちゃうんだ。
:11/08/26 18:52 :F06B :yzyXQKjY
#301 [匿名]
だって鼻は真っ赤で鼻水も出てるし、そんな人が隣にいたら、感動なんてどっかに飛んで行っちゃう。
「泣きすぎ!」
って私が笑いながら言うと
「うるせぇ!」
って守は泣きながら言う。
涙脆い守が私は好きだった。こんなにも優しい心を持つ人が側にいると思うと、私は世界で一番幸せだって感じれたから。
守がいつも私より先に泣くから、私は自分が涙脆い事に今まで気が付かなかった。
:11/08/26 18:55 :F06B :yzyXQKjY
#302 [匿名]
「今日会ったんだよ。富永守っつう男に。お前の事心配してたぞー!早くその男に会いに行こうぜ?」
「何を言ってるんですか?」
ふざけているとしか思えなかった。守に会った?守は死んだの。会えるわけがない。
「嘘だと思うか?」
「当たり前じゃないですか!」
「じゃあ何で名前、知ってると思う?」
「…そ、そんなの調べればすぐに分かります!」
「ハハッ…断固として俺の言う事を信じねーんだな」
:11/08/26 18:58 :F06B :yzyXQKjY
#303 [匿名]
守は死んだ。
あの日から私は守に会えなくなった。声が聞きたくても、触れたくても、一切出来なくなった。
それなのにこの悪魔のような人間は、守に会ったなんて酷い事を言う。
「本当なら会わせて」
守に会いたい。
「だーかーらー!死んだら会えるっつーの!まだ神様への行列に並んだばっかだからな!」
「神様?行列?」
何言っているの悪魔さん。
「おう!だから死ななきゃ守っつう男には会えねぇ」
「…嘘ですよね?」
「はあ?」
:11/08/26 18:59 :F06B :yzyXQKjY
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