悪魔と天使の暇潰し
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#354 [匿名]
その担任の先生は若くて熱くて一生懸命な、教師の鏡。
自殺を止めた先生と、心に傷を負った生徒。その二人の物語だった。
半分近くまで読んでも、私は何一つ共感出来る事がなかった。
最終的には生徒が立派に卒業し、先生に感謝をするんだろう。
二人で涙を流し、抱き合うかもしれない。そんな感動のラストが容易に想像できる内容だった。
:11/09/20 23:10 :F06B :PRaZYkic
#355 [匿名]
あまり深く考えずにただ文字を読んでいく。
ふと入り口の窓を見ると、ぼんやりとした私が写っていた。時計を見ると五時を少し過ぎていて、外は薄暗くなっていた。
通りで私が写るわけだ。
小説はあと十ページ程で終わる。アイスコーヒーを飲み、ケーキを食べきってから残りを全て読んだ。
私の想像通り、最後は涙涙涙の卒業式。
この小説に出会うのが遅すぎた。学生の頃なら、今よりは大分多くの感動をしたかもしれない。
今は何も感じなかった。
涙脆いはずの私の目からは一粒の涙さえ出なかった。
:11/09/20 23:14 :F06B :PRaZYkic
#356 [匿名]
本を鞄にしまい、氷が溶けきり、コーヒー風味の水になってしまった飲み物を頑張って飲み干した。
お金を払い外に出ると風が冷たくなっていた。
後は地元に戻りロールケーキを買って帰るだけだ。私はもう何もする事が無い。
空に雲は一つも無かった。守を近くに感じる事が出来る。
「あれ?幸子?」
空を眺める私の後ろから、誰かが声をかけてきた。
:11/09/20 23:16 :F06B :PRaZYkic
#357 [匿名]
振り返ると、そこには小柄で華奢な、ショートカットの女性が晴れ晴れとした顔で私を見ていた。
「ねぇ、幸子だよね!久しぶりー!こんな所で会えるなんてー!何年ぶりだろっ?」
その女性は身体を上下に動かし、忙しなく喜んでいる。……誰?
キャーキャー言っていた女性が急に静かになった。きっと私の顔が、ポカーンとなっていたからだろう。
「あれ?忘れちゃった?里美だよー」
「…里美?えっ?もしかして渡辺里美?」
渡辺里美は高校が一緒で三年間同じクラスで過ごし、とても仲が良かった。卒業してからも頻繁に会ってはいたが、お互い社会人になってからは、なかなか会えなくなってしまった。
:11/09/23 00:56 :F06B :BZYWBPP6
#358 [匿名]
だけど、私の知っている里美はロングヘアーで、ぽっちゃりとした体型だったはず。
「そうそう!里美!」
「うそー久しぶり!…髪の毛、切っちゃったの?」
「だいぶ前にねぇ。もう何年ぶりだろ?幸子変わらないね!」
思い出して来た。くしゃっと笑う笑顔や、頬にあるホクロは里美そのものだった。
「そうかな?里美は痩せたね!」
「うん、仕事忙しくてさ、気が付いたらどんどん痩せてったよ。ラッキーだよね!」
:11/09/23 00:57 :F06B :BZYWBPP6
#359 [匿名]
おどける里美が懐かしかった。
「そっか。もう二年くらい会ってなかったのかな?」
「多分そのくらいだよね。……ねぇ、飲みいかない?」
そういえば里美の誘いはいつも突然だった。
「うん!」
私が頷くと、里美は嬉しそうに笑った。
そしてすぐに近くにある居酒屋に入った。いつもはガヤガヤと騒がしいチェーン店だが、まだ時間が早いらしく、客は二組しかいなかった。
:11/09/23 00:58 :F06B :BZYWBPP6
#360 [匿名]
ビールとお通しの枝豆が来て、私達は乾杯をした。
「里美はまだあのレストランで働いてるの?」
里美は大学を卒業してから、都内にある有名なレストランに就職した。
「やってるやってる。辞める理由も無いし、何だかんだ好きだからね!」
「あれ?でも今日日曜日なのに休みなの?」
私は普通のOLだから土日が休みなのだが、里美は土日は絶対に仕事だった。
そのせいで私達は自然と会える回数が減り、そして無くなってしまった。
:11/09/24 11:36 :F06B :FDlPqY22
#361 [匿名]
「今有給休暇中で、一週間休みだったの!まあ、今日で休みは終わりなんだけどね」
残念さが里美から滲み出ている。
「そっか。じゃあ本当今日会えたのって偶然なんだね」
「そうだよね。なんか、嬉しいね!」
「うん!」
それから私達は、お互いが知らない約二年間の出来事について話し出した。
:11/09/24 11:39 :F06B :FDlPqY22
#362 [匿名]
里美はまだ結婚していないが、サラリーマンの彼氏がいるらしい。付き合って一年ちょっとだが、お互い忙しくてなかなか会えないみたいだ。
「でも二週に一回ペースが楽でいいかも。毎回、会うのが久しぶり!ってなると、会える嬉しさ倍増するんだよねー。燃えるよ!燃える」
高校生の時の里美は、毎日の様に彼氏と過ごしていた。同じ学校に彼氏がいたからかもしれないが、飽きる事なくベタベタしていた。
そんな事を思い出し、里美に教えてあげると、
「いやーあの頃は若かった!彼氏がいればそれでいいと思ってたからねぇ」
としみじみし出した。
その会話の流れで、話題は高校時代の思い出話へと移り、私達の気持ちはあの頃に簡単に戻れた。
:11/09/24 11:43 :F06B :FDlPqY22
#363 [匿名]
ホッとした。
里美は私と守の事を良く知っている。守が交通事故に遭った事も知っている。
どうしても抜けられない仕事の都合で、里美は守の葬式には来られなかったが、心配をして、メールをくれたりもした。
もし今この場で、守の話になったら、私は笑えなくなってしまう。大切な友人である里美に心配をかけてしまう。
話題が高校生の頃の馬鹿な話になって良かった。
もしかしたら里美は気を使ってくれたのかもしれない。そう思うと、感謝の気持ちと同時に、いたたまれない気持ちになった。
:11/09/24 11:47 :F06B :FDlPqY22
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