悪魔と天使の暇潰し
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#372 [匿名]
朝、二人の様子がおかしかったのは、その電話のせいだと分かった。

「母さんが心配してな。朝は変な感じになっちゃったけど、お前が出掛けてから二人で話して、気にしないでいようと決めたんだ。どう考えても、ただの悪戯だと」

「ごめんね、ロールケーキなんてどうでも良かったのよ。ただあなたの事を父さんと一緒に話したくてねぇ」

母が眉を下げながら、泣きそうな顔で言う。

私を家から出す口実だったみたいだ。

⏰:11/09/26 18:14 📱:F06B 🆔:.Lu5CvxE


#373 [匿名]
「ただな、夕方にその男が家に来たんだ。覚えはあるか?」

「どんな人?」

情報が少なくて、誰もが怪しく感じてしまう。

「二十代の若い男だ。芸能人みたいな顔でな、背が高くて、スラッとした体型だった」

それが誰なのか、私は二人に絞る事が出来た。

「髪の毛黒かった?」

「ああ、真っ黒だった」

そうか、悪魔さんか。
そうだよね、天使さんが両親に、私を死なせてあげてくれ、なんて言う訳ない。

明日、いやもう今日だ。今日約束もしている。

⏰:11/09/26 18:16 📱:F06B 🆔:.Lu5CvxE


#374 [匿名]
「…覚えがあるか」

私の反応を見て、父は確信したように頷いた。

本当は私に、知らない、と言って欲しかったんだろう。そうしたら、全てが考えすぎだった、と簡単に片付けられたはずだ。

父が続ける。

「その男が来て、お前の近況を話していった。…守君の事で悩んでいる事とか、毎日の様に泣いている事とか」

こういう時、どんな言葉を言うのが正解なんだろう。笑い飛ばせば良かったのかな。泣けば良かったかな。

私はただ下を向き、黙ってしまった。

⏰:11/09/28 17:53 📱:F06B 🆔:rJ3sHHyM


#375 [匿名]
黙るという事は、肯定している事と同じだ。

演技など出来なかった。顔を上げる事すら出来ない。

「……もう、生きているの、嫌か?」

かすれた声で、途切れ途切れに父が言う。

母の泣く声が静かに聞こえた。

まさかこんな事を父の口から聞くとは思わなくて、思っている言葉が一つも出ない。


もう死ぬ覚悟は出来ています。今日には死ぬつもりで今回実家に戻りました。家では死にません。二人のいない場所で一人で死にます。先に逝く親不孝な娘を許して下さい。

そんなような事を、今日寝る前に遺書に書こうと考えていたのに。

⏰:11/09/28 17:56 📱:F06B 🆔:rJ3sHHyM


#376 [匿名]
「……ごめん」

そう言うのが精一杯だった。謝る気持ちしか私には無い。

ただ、その言葉が二人に聞こえたのかは分からない。頭に浮かんだ謝る言葉が、同じ意味で発音出たのか、自信が無かった。

「それは、死ぬなんて馬鹿な事を考えてごめん。って意味か?それとも……もう死ぬけど、許してくれって意味か?」

父の顔は見上げられないが、泣いているのは分かった。声が震えている。

母はさっきよりも分かりやすく泣き出した。

私はちゃんと発音出来ていたみたいだ。

⏰:11/09/28 17:58 📱:F06B 🆔:rJ3sHHyM


#377 [匿名]
「さっちゃが死んだら、私達は、どうしたらいいの?」

母が言う。苦しくなった。母がとても辛そうに言うから。

「幸子、辛かったなぁ。父さん達も辛かった。守君が亡くなって、幸子が心配で仕方がなかった…」

母の肩を支えながら父が言った。

「…………」

「守君の存在は、幸子にとってあまりにも大きすぎたなぁ。……そして、早すぎた。これからだったのになぁ」

守の笑顔が浮かんで、涙が出そうになった。

⏰:11/09/28 18:01 📱:F06B 🆔:rJ3sHHyM


#378 [匿名]
「でもなぁ、幸子」

父の震える声が、しっかりとした声に変わった。その声につられ、顔を上げて父を見た。

真剣な顔で私を見ている。

「お前には、守君しかいなかったのか?お前にとって大切な人間は、守君だけだったのか?」

唇が震えた。
目の前がぼやけだした。

「守君は幸子を愛してくれたなぁ。でもな、幸子を愛してるのは、守君だけじゃないぞ。…父さんと母さんは、守君と同様、幸子を愛してきた」

⏰:11/09/28 18:03 📱:F06B 🆔:rJ3sHHyM


#379 [匿名]
涙がとうとう溢れた。

「…いや、守君が幸子を愛する前から、ずっと、ずっと前から幸子を愛してきた。…幸子が母さんのお腹に居ると分かったその日から、一時も幸子を愛さなかった時間は無い!…分かるか?」


何も言えない。言う資格がない。ただただ何度も頷いた。

どうして気が付かなかったんだろう。こんなに近くに、こんなに大きな愛がある事に。

「さっちゃん、ずっと味方だからね。ずっと、ずっと愛しているから」

母が抱き締めてくれた。
温かくて、安心感がある、私の大好きなぬくもり。

母の肩が、私の涙と鼻水で濡れていく。

⏰:11/09/28 18:04 📱:F06B 🆔:rJ3sHHyM


#380 [匿名]
―――



泣き疲れた私は、あれから子供の様に眠りについた。

気が付くと朝日がカーテンの隙間から射し込んでいて、朝になった事を知らせてくれている。

まず会社に電話をし、体調不良のため休む事を伝えた。勿論、体調だけは絶好調なので、嘘だ。演技もした。

それから一階に降りて洗顔などを済ませてから、父と母がいる居間へと向かった。

寝る前の記憶が鮮明に蘇り、私は二人と、どんな顔をして会えばいいのか分からなくなってしまった。

⏰:11/10/04 00:20 📱:F06B 🆔:qunnOhr.


#381 [匿名]
ゆっくりと一歩一歩二人に近付くにつれ、言い様の無い緊張感が襲って来た。

だけれどそれは一瞬で、無駄な緊張感だったと思い知らせれる。

「さっちゃんおはよ!ご飯出来てるわよー」

母が私を見付けるとすぐにそう言った。普通すぎて、私はポカーンとしてしまったんだろう。

「変な顔してー」

母が笑う。
ホッとして、気が付くと私も笑っていた。

⏰:11/10/04 00:21 📱:F06B 🆔:qunnOhr.


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