2年A組
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#161 [我輩は匿名である]
彩の携帯が鳴る。ディスプレイを見ると、南里からの電話だ。
「もしもし」
「あ…突然ごめんなさい。南里です」
「こんにちは」
この間の事は水に流すとするか。彩はいつものように挨拶する。
「塩見さん…あなた、長谷部春香さんととても仲が良かったそうね」
南里の声は、どことなく暗く聞こえる。
「え?はい、いつも一緒にいましたけど」
春香がどうかしたのか。彩は首をかしげる。
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#162 [我輩は匿名である]
「どうかしたんですか?」
「………亡くなったわ」
南里のその一言に、彩は思わず息を止める。
一瞬、彼女が何を言ったのかわからなくなった。意味が分からなかった。
「…いつ…?」
「今日の昼、13時半頃です」
「どこで?どうして!?」
彩は全然信じられず、ただ何度も問いかける。
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#163 [我輩は匿名である]
「…駅前の国道です。歩道で、…胸部を一突きされて」
彩は全身の力が抜け、あやうく携帯電話を落としそうになった。
また事件の被害者が増えた。1人ずつ、自分の周りの人間が消えていく。彩はもう、我慢できなくなった。
「…どこですか?」
「…何がです?」
「…春香がいるところ」
彩は南里から、春香の遺体が近くの警察病院に搬送されたことを聞いた後、すぐに電話を切って家を飛び出した。
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#164 [我輩は匿名である]
外に出るのが怖いなど、今はこれっぽっちも思わなかった。
「塩見!」
マンションを出たところで声がした。向かいのマンションを見上げると、3階のベランダから誠が顔を出している。
「どこ行くんだよ?もう暗くなるぞ」
「…春香が…」
「…聞こえないから降りる。ちょっと待ってろ」
誠はそう言うと、いったん姿を消し、すぐにマンションから出てきた。
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#165 [我輩は匿名である]
「何て?」
「春香が…春香が、…殺されたって…!」
今にも泣きだしそうな様子の彩に、誠の表情が曇る。
「…いつ?」
「今日、駅前の大通りで…。私、警察病院まで行ってくる!」
「待てよ!」
慌てて走り出そうとする彩の手を、誠がつかんで止める。
「お前、1人で行く気か?“狙ってくれ”って言ってるようなもんだぞ!?」
「でも!」
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#166 [我輩は匿名である]
「落ち着けよ!今から走って行ったら暗くなる!…タクシーかなんか拾うぞ」
思わぬ言葉に、彩はきょとんとする。
「え?うっちー…一緒に行ってくれるの?」
「…1人で行かせられないだろ。そんな話聞いちまったら」
「…うっちー…」
今まで張りつめていたような気持ちが緩んだように、彩の目に一気に涙が浮かんできた。
「…泣くなよ。まだ早いだろ。…病院行ってから泣け」
「…うん…」
彩は必死にそれをこらえて、誠と一緒にタクシーを拾って病院に向かった。
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#167 [我輩は匿名である]
財布の有り金をはたいて、病院に着くころにはもう暗くなっていた。
時間外の受付から病院に駆け込む彩の前に、意外な人物が現れた。
「…皐ちゃん!」
「彩!?内村君まで!」
廊下でばったり出会った3人は、思わず足を止める。
「何してるの?こんなところで」
「いやぁ、暇だから小山さんのお見舞いでもって思ったんだけどさ。面会断られちゃって」
「そりゃそうだろ。病院なんか誰でも入ってこれるんだぞ」
呆れたように誠が言う。それを聞いて、皐は複雑な顔で視線を外す。
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#168 [我輩は匿名である]
「そういう彩たちは?」
「私は…」
「塩見さん」
皐の後ろから、南里の姿が見える。どうやら彩たちを待っていたかのようだ。
「南里さん!」
彩は南里に駆け寄る。一緒についていく誠に、気になる皐もわけもわからずついてくる。
「春香は!?」
「……こっちよ」
南里は多くは語らず、彩たちを案内しようと歩き出す。
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#169 [我輩は匿名である]
素直についていこうとする彩の肩を、誠が軽く掴む。
「……大丈夫か?親友の死体見ることになるんだぞ」
「…私はこの目で見るまで信じない」
南里が嘘をつくような人間でないのは、彩も大体知っている。しかし、春香が死んだなんて、どうしても信じたくなかった。
信じるには、自分の目で見てからだ、と。
階段を下り、着いた先は霊安室だった。
ここに来た時点でもう間違いないだろう。誠は思ったが、何も言わずに彩の後ろからついて行く。
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#170 [我輩は匿名である]
皐は皐で、“春香”という人物も知らないまま何となくついて来ている。
ある部屋の前で、呆然と長椅子に座り込んでいる、春香の家族がいるのが見えた。
「…彩ちゃん」
春香の母親が気づき、声を漏らす。
「おばさん…」
しかし、春香の母親はそれ以上何も言わず、黙って下を向いた。
南里が立ち止まる。
「…長谷部春香さんは、この先よ」
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