2年A組
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#1 [我輩は匿名である]
初めましての方もそうでない方もこんにちは
以前こちらでお話を書かせてもらった者です(*^_^*)
今回また違うお話を書かせていただきます(・∀・)ノ

ご意見ご感想はこちらにお願いします↓
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4747/
題名違いますが、前のを再利用させていただいていますのであしからず(m'□'m)


誹謗中傷お断わりです!あと、ミステリー(もどき)っぽいものになってますので、苦手な方はご注意下さい

⏰:11/07/20 13:37 📱:N08A3 🆔:39V8PWbs


#2 [我輩は匿名である]
始まりは5月15日、雨の日の夜だった。

この日は雨のせいか、少しひんやりとしていた。

「ご…ごめん!私が悪かった!頼むから許して!」

街灯の少ない狭い路地裏に、1人の女子高生の声が響き渡る。

しかし、周りにあるのは住人のいない古びたアパートや空き店舗。

さらに雨の音でかき消され、その声は誰にも届かない。

目の前にいる、黒いレインコートを着た人物以外には。

⏰:11/07/20 13:43 📱:PC/0 🆔:Nsi6dKRc


#3 [我輩は匿名である]
髪を金色に染め、雨でも崩れないほどばっちり化粧をした女子生徒は、腰を抜かしたのか、座り込んだまま後ずさる。

黒いレインコートから伸びた黒い手には、1本の包丁。それを握ったまま、ゆっくりと彼女に近づいていく。

「ひ…っ」

立ち上がれない中どうにかして逃げようとする女子高生だが、背中に何かがぶつかった。

ハッと振り向いてみると、背後には電柱。

もう逃げられない!

そう思った瞬間、女子高生は胸ぐらをつかまれ、力づくで立ち上がらされた。

⏰:11/07/20 13:44 📱:PC/0 🆔:Nsi6dKRc


#4 [我輩は匿名である]
レインコートから覗く鋭い眼。暗くて良く見えないが、どこか笑っているように見える。

その表情を見て、背筋が凍りついた。

「ごっごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさ…」

必死の謝罪も意味をなさなかった。

自分の胸に突き刺さったさっきの包丁。感じたことのない、言い表せない痛みが全身を駆け巡る。

かと思えば、それはすぐに引き抜かれた。

⏰:11/07/20 13:44 📱:PC/0 🆔:Nsi6dKRc


#5 [我輩は匿名である]
力が入らず、女子高生はだらりとその場に座り込む。

ほとんど動かなくなった彼女を、レインコートの人物はじっと見下ろす。

見ていると、自然と口角が上がってきたのが自分でもわかる。

そしてすぐに、身を翻してその場を立ち去った。

「まず1人目…♪」

笑顔のまま、そう言い残して。

⏰:11/07/20 13:45 📱:PC/0 🆔:Nsi6dKRc


#6 [我輩は匿名である]
次の日の放課後。

「…ねぇ、昨日の話聞いた?」

野球部の練習をベンチで見ながら、高校2年生の塩見彩は、同じ野球部マネージャーの青山美穂にぼそっと尋ねる。

「聞いたよ〜…怖いよねぇ」

「あの、女子高生が殺されてたってやつ?」

ボールを籠いっぱいに拾ってきた永井皐も、地面に籠を置いて話に入ってきた。

「そうそう。あの殺された子、私たち知ってるんだよね」

彩は浮かない顔で話す。

⏰:11/07/20 17:55 📱:PC/0 🆔:Nsi6dKRc


#7 [我輩は匿名である]
「私と彩ちゃん、中学2年の時、その子と同じクラスだったんだ」

彩に代わって、美穂が皐に言った。

「マジで?そりゃ気になるわな」

昨日の夜22時ごろ、細い路地裏で女子高生が殺害される事件があった。その女子高生は他校の生徒だが、現場からそう遠くもないこの高校でも今朝、各担任から注意を促された。

「な〜にサボってんだよ、お前ら」

話している間に休憩に入ったらしく、部員の菊池龍也が割って入ってきた。

「別にサボってないっつーの!」

⏰:11/07/20 17:55 📱:PC/0 🆔:Nsi6dKRc


#8 [我輩は匿名である]
「どう見てもサボってただろ!」

「…で、何喋ってたの?かなり暗い顔してたけど」

スポーツドリンクが入ったペットボトルを片手に、同じクラスの部員、内村誠も話に入ってきた。

「ほら、あの話だよ。小松さんが昨日…」

「あぁ、殺されてたってやつ?」

表情1つ変えずに、誠は地面に腰を下ろす。

「何、お前ら知り合いなの?」

龍也もしゃがみこんで尋ねる。

⏰:11/07/20 17:56 📱:PC/0 🆔:Nsi6dKRc


#9 [我輩は匿名である]
「うん。私と美穂とうっちー、中学の時クラス一緒だったんだよ。その子と」

「だからうっちーって呼ぶな」

彩と幼馴染の誠は、いつも通り嫌そうな顔で言い返してくる。彩は訂正する気はないのだが、わざわざ毎日ご丁寧に言い返すのだ。

「じゃあ“うっちゃん”にする?」

「…それも嫌だ」

「でも、何で死んじゃったんだろうね、小松さん」

「その子、何か恨まれるようなことしてたわけ?」

皐の問いに、彩と美穂と誠は顔を合わせる。

⏰:11/07/20 17:56 📱:PC/0 🆔:Nsi6dKRc


#10 [我輩は匿名である]
「まぁ…思い当たる事はあるな」

真っ先に口を開いたのは誠だった。

「何?」

出身中学校が異なるため事情を知らない皐と龍也は、そろって首をかしげる。

「いじめっ子だったんだよ。なんか、ちょっとでも気に入らない奴は無視したりするような。ギャルっぽいし、元々生理的に受け付けなかったけど、あれは特にやばかった」

誠はうんざりした顔で説明する。

「じゃあそのいじめられてた奴が犯人なんじゃねぇの?」

あまり物事を深く考えない性格の龍也は、誇らしげに言い張る。

⏰:11/07/20 17:57 📱:PC/0 🆔:Nsi6dKRc


#11 [我輩は匿名である]
「あんたホント単純だよね」

「うっせぇなぁ。だってそれが1番当たってそうじゃん!」

「おまけに…」

今度は彩が話す。

「そのいじめられてた子…うちのクラスの子なんだ」

彩と同じクラスの皐はきょとんとする。

「えっ誰!?」

「…言っちゃっていいのかなぁ?」

⏰:11/07/20 17:57 📱:PC/0 🆔:Nsi6dKRc


#12 [我輩は匿名である]
「あー、そいつあれだろ?小山かなんかって名前の」

ためらっている彩をよそに、龍也が先に声を上げた。

「言っちゃったし…」

「凛ちゃん!?あの子いじめられてたの?全然そんな感じには見えないけど」

皐はぽんと手をたたき、彩たちに尋ねる。

「いじめられてたって、何されたんだよ?」

⏰:11/07/20 17:58 📱:PC/0 🆔:Nsi6dKRc


#13 [我輩は匿名である]
「ん〜、ある日机が廊下に出てたり…」

「…あぁ…よくある話だね…」

「提出物がゴミ箱に入ってたり…」

「……ひでぇ…」

「何回も足ひっかけられてこけそうになったり…」

内容を聞いているうちに、皐と龍也の表情も曇ってきた。

話に出てきた小山凛は、現在彩、皐と同じクラスで、昼食を一緒に食べるほどの仲だ。至って普通の子で、容姿も成績も並み。

明るくて素直で、そこまで嫌われるような子ではない。

⏰:11/07/20 17:58 📱:PC/0 🆔:Nsi6dKRc


#14 [我輩は匿名である]
「でも、何で凛ちゃんがいじめられてたの?」

「それが…」

事情を話そうとすると、ちょうど休憩終了の笛が鳴った。

「ちっ、いいとこだったのに!誠、お前も知ってんだろ?続き教えて」

「はいはい後でな」

2人は立ち上がり、練習に戻っていった。

「…次なんだっけ?」

「ノックだよ。私たちも行かないと。後でまた続き話そ」

3人もぶつぶつ言いながら、ノックの球出しに向かった。

⏰:11/07/20 18:00 📱:PC/0 🆔:Nsi6dKRc


#15 [我輩は匿名である]
打者にボールを出しながら、彩はぼーっと考えていた。

誰が彼女を殺したのか。どうしてそんな事になったのか。

単純に考えれば、龍也の言う通り凛が犯人そうではある。しかし昨日、彼女はピアノのレッスンがあると言っていた。

ピアノのレッスン先も凛の家も、事件現場とは正反対の場所にある。レッスンに行かなかったとなれば話は別だが…。

今日、担任の口から当然凛も今回の事件の事を聞いたわけだが、他のクラスメイトと同じような反応を見せただけで、特に変わったようなことはなかった。

「(凛が犯人ってのは…ないと思うんだよなぁ…)」

「大丈夫か?」

頭上から声が降ってきた。顔を上げると、ノックの手を止めて誠がこちらを見下ろしている。

⏰:11/07/21 20:54 📱:PC/0 🆔:a5gRyvU.


#16 [我輩は匿名である]
考えているうちに、ボールを出す手が止まっていたらしい。

「え?あぁ、ごめんごめん」

「…昨日の事か?」

やけに考え込んでいる彩を気遣ってか、誠が声をかける。

「…うん…」

「まぁあんな奴だし、高校でも同じようなことしてたんじゃねーの?」

「そう…かなぁ…」

特に仲が良かったわけでもないし、どっちかというとあまり関わりたくないタイプだったのだが、事が事だけに気になってしまう。

⏰:11/07/21 20:54 📱:PC/0 🆔:a5gRyvU.


#17 [我輩は匿名である]
「それか、通り魔とか。お前も気をつけろよ、一応」

「一言余計なんだよ!いつもいつも!」

「塩見!内村!まじめにやれ!」

2人そろって手が止まっていたため、監督から喝が飛んできた。

「…でも、うっちーは気にならないの?」

ノックを再開しつつ、彩はまた尋ねる。

「別…に!」

センター方向にボールを飛ばしながら、誠は答える。

⏰:11/07/21 20:54 📱:PC/0 🆔:a5gRyvU.


#18 [我輩は匿名である]
つまんないの。彩は少しむくれてボールを放る。

「そんなに気になんのか?」

「うん…。なんか、嫌な感じがして…」

「考えすぎだろ」

誠は言い放って、まるで彩の不満を振り払うかのように、今度はレフト方向にボールを飛ばす。

「…今日はよく飛ぶね」

「…今日だけじゃねーよ別に」

確かに、誠の言う通り考えすぎだろう。そう自分に言い聞かせて、今日はもう考えようにした。

⏰:11/07/21 20:55 📱:PC/0 🆔:a5gRyvU.


#19 [我輩は匿名である]
真っ暗な部屋で机のライト1つ照らし、男は1冊の卒業アルバムを眺めていた。

全員が晴れやかな笑顔で写った、思い出にあふれたアルバム。

「…ヒヒッ」

これから起こる事を考えると、思わず笑い声が漏れた。

「何人できるかなぁ〜?」

男は嬉しそうに、その夜ずっとそのアルバムを眺めていた。

⏰:11/07/21 20:55 📱:PC/0 🆔:a5gRyvU.


#20 [我輩は匿名である]
期待アゲ

⏰:11/08/02 03:53 📱:N02C 🆔:TAyNQ/E2


#21 [我輩は匿名である]
「おはよー」

次の日の朝。いつものように、座席が近い凛が、鞄を机に置いて彩の元にやってきた。

「おはよ」

「聞いてよ!昨日警察の人が来てね、『一昨日の夜10時ごろ何してましたか?』とか聞かれてさぁ!」

凛はかなり腹が立っていたらしく、登校して来て早々不満をぶちまけた。やはり警察もいじめの事を突き止めていたらしい。

「そうなんだ。でも、あの日ピアノ行ってたんでしょ?」

⏰:11/10/23 10:50 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#22 [我輩は匿名である]
「行ってたよ!そう言ったらおとなしく帰って行ったけどね。ホント、こっちはもうあんな奴の顔すら見たくないってのに!」

前の席に座って、腕を組んで鼻息を荒くする凛に、彩はどこかほっとした気分になった。

「そう…だよね。…通り魔かなんかかな?やっぱり。そうだと怖いなぁ〜」

「そうだねー。彩ちゃんも、あんまり遅い時間にうろうろしちゃだめだよ?部活の帰りとか気を付けてね」

「うん。ありがと」

彩は笑って頷いた。心のもやもやが、一気に晴れた気がした。

⏰:11/10/23 10:51 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#23 [我輩は匿名である]
一方、隣のクラスでは。

「飲酒運転?」

誠と龍也が昨日の話の続きをしていた。昨日はすっかり疲れてそれどころではなくなったらしい。

「あぁ。小山の親父が、飲酒運転で追突事故を起こしたらしい。それで何人か死んでる」

「はーん、それが原因でいじめられたって事か」

事情が大体わかり、龍也は頷く。

「そんなんでいじめられてたらたまんねぇな。悪いの親父だけじゃん」

「小松は何でも槍玉にあげるような奴だったからな。『お前の父ちゃん人殺しー』的なノリだったんだろ」

呆れたように誠は言う。

⏰:11/10/23 10:53 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#24 [我輩は匿名である]
「くっだらね。女って怖ぇよなぁ」

わずらわしそうに、龍也がため息をつく。「確かに」と、誠も頷く。

「この話、1組ではするなよ。空気悪くなるから」

「わかってるよ。いじめられた張本人がいるクラスで、こんな話できるかよ」

「…今回の事件、犯人捕まるかな?」

誠は腕を組んで、まじめに龍也に問いかける。

何だ急に。龍也は少し首を傾ける。

⏰:11/10/23 10:54 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#25 [我輩は匿名である]
「さぁ?捕まるんじゃねぇの?あのおっさん、刑事課行ったみたいだし」

「お前がよく面倒見てもらってる、あの刑事?」

「おう」

なぜか鼻を高くして龍也が答える。

「あのおっさん、何だかんだ言ってベテランだからな。パパッと捕まえるだろ」

龍也の言う“おっさん”刑事とは、刑事課のベテラン、土谷信一警部である。3年前までは少年課にいたのだが、その後刑事課に異動になったのだ。

⏰:11/10/23 10:55 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#26 [我輩は匿名である]
すいません
スレをコピーするの

どうやるんですか?

⏰:11/10/23 11:41 📱:W61SH 🆔:ogJA0N5o


#27 [我輩は匿名である]
中学時代。龍也は荒れていた。きっかけは何と言う事はない、親との衝突。

勉強が嫌いな龍也は、小学校の頃から続けている野球に打ち込んでばかりだったのだが、親はそれが気に食わなかったらしい。

無理やり塾に行かされ、家でも宿題が終わるまで常に背後で見張られた。終いには「成績を上げるために野球部を辞めろ」とまで言われ、龍也はもう我慢できなかった。

父親と揉み合いになり、殴りあった挙句、家を飛び出した。

アザだらけの顔で線路沿いのフェンス越しにしゃがみ込んでいると、40歳くらいのスーツの中年男性が声をかけてきた。

「おーおー、派手にやったな」

「…なんだよ、おっさん」

まるで挑発するかのような鋭い目つきで睨んだのだが、男性は意外にも笑った。

⏰:11/10/23 11:46 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#28 [我輩は匿名である]
「はっはっは。そうか、おっさんか。まぁ間違ってはねぇな。どれ、このおっさんに、何があったのか話してみろ」

「はぁ?ふざけんなよ。何なんだよお前」

「俺か?俺は、こういうモンだ」

男性がそう言いながら胸ポケットから取り出したのは、警察手帳だった。

まさか、自分が捕まるんじゃないのか。龍也は頭が真っ白になった。

「そんなに驚かなくていい。別にお前を警察に連れて行こうと思ってるんじゃない。

おっさんはな、お前みたいに悩める若者を見つけては、相談相手になる仕事をしてんだ。ほれ、言ってみな」

⏰:11/10/23 11:48 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#29 [我輩は匿名である]
そう言うと、その刑事は1人分ほどのスペースを空けて横に腰を下ろした。

内心、最初は信じられなかった。見ず知らずの人間に、話す事なんかない。そう思った。

しかし、こうも思った。『見ず知らずの人だからこそ、話しやすいかもしれない』。

5分ほど黙り込んだ末、龍也はこれまでのいきさつを全て刑事に話した。刑事は否定も説教も一切せず、「うんうん」と話を聞いてくれた。

⏰:11/10/23 11:49 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#30 [我輩は匿名である]
彼との付き合いはそれからだ。よく警察署に顔を出しては、夕飯をおごってもらったり、愚痴を聞いてもらったりしている。

「さっさと捕まえろよってメールでも送っとこうかな」

「やめとけよ、迷惑でしかないから」

「1市民の声を“迷惑”はねぇだろ!!」

涼しげな顔で吐き捨てる誠に、龍也は悔しそうに言い返した。

⏰:11/10/23 11:49 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#31 [我輩は匿名である]
「どこの防犯カメラにも映ってない?」

刑事課所属の刑事が、怪訝そうな顔で聞き返す。土谷信一。45歳。今回の女子高生殺人事件の捜査員の1人である。

「はい…。近くのコンビニ、ガソリンスタンド、マンションなどの全ての防犯カメラを確認しましたが、犯人らしき人物は…。すみません」

部下の若手刑事が、なぜか申し訳なさそうに報告する。彼が悪いわけではないのだが。

「う〜ん…」とうなり声をあげながら、土谷は考え込む。犯人のような格好をしていなかったためわからないのか、防犯カメラに映らないルートを通ったのか。

後者なら土地勘がかなりある者の犯行という事になる。

⏰:11/10/23 11:50 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#32 [我輩は匿名である]
凶器になった刃物も何も残っていない。場所が場所だけに、目撃者もいない。完全にどん詰まり状態だ。

彼女の周囲の人間からの情報で、どうやらかなりのいじめっ子だった事は突き止めた。いじめられた生徒からの仕返し、という見方も早くに浮上した。

しかし、それも昨日の聞き込みから全て白紙に戻された。

中学1年の時のいじめの標的・佐竹結衣、2年の時の標的・小山凛、3年の時の標的・藤井洋子、高校1年の時の標的・川井愛華、そして2年になってからいじめられていた寺田紗英。この全員にアリバイがあった。

佐竹は吹奏楽部で、部活後友人と帰宅中。小山はピアノのレッスンに、藤井は友人とカラオケ行ってた。川井と寺田は仲がいいらしく、一緒にご飯を食べに行っていた。

これは難儀な事件に当たったものだ。土谷は大きくため息をつき、早くも疲れた顔で捜査資料を手に取った。

⏰:11/10/23 11:51 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#33 [我輩は匿名である]
>>26さん
申し訳ありませんが、私にはその方法はわかりません。
こちらは小説板ですし、使い方板の方で聞かれた方が良い答えが返ってくるのではないでしょうか?

⏰:11/10/23 11:54 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#34 [我輩は匿名である]
「ねぇねぇ、キャッチボールしよ!」

部員が休憩している間、彩は美穂と皐に声をかける。

「やるー!」

「あたし汗かきたくないからパスー」

ベンチに座ったままの皐とは正反対に、美穂が嬉しそうに立ち上がる。

「うっちー!グローブ貸して」

「えー?お前の手にはぶかぶかだと思うけど」

「いいの!」

⏰:11/10/23 14:00 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#35 [我輩は匿名である]
「じゃあ私は…」

「あっ、俺の使う?」

誰のグローブを借りようか悩んでいた美穂に、龍也が真っ先に名乗りを上げた。

「いいの?」

「いいよ。はい」

龍也は笑顔で、美穂に自分の青いグローブを手渡した。

「ありがとう!」

「うっちーとは違って、菊池君は爽やかだねぇ」

「ほっとけ」

彩にからかわれて、誠はフンとそっぽを向く。

⏰:11/10/23 14:00 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#36 [我輩は匿名である]
「彩ちゃん、行こ♪」

「うん!」

2人はそれぞれ、それほど大きくない手に大きなグローブをはめて走りだす。

休憩中はよく、こうやってマネージャー同士でキャッチボールをする。部員たちが野球をしているのを見ると、やはり自分たちもやりたくなってしまう。

キャーキャー言いながら下手なキャッチボールを始める2人を、部員たちが笑って見るのもいつもの事だ。

「ほぼ毎日やってるのに、ホント下手だな。あいつら」

「そりゃ女子だもん」

「女子でもプロ野球リーグとかあるじゃん」

⏰:11/10/23 14:01 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#37 [我輩は匿名である]
「まぁ…」

龍也にもっともな事を言われてしまい、皐は口をつぐむ。

「青春だねぇ〜」

龍也はキャッチボールをする2人を見ながらそう漏らした。

どことなくデレデレしている龍也を、誠と皐が黙って見つめる。

「なぁ、こいつ、どっちかの事が好きなのかな?」

「…そんな感じだな」

「どっちだと思う?」

こそこそ話しながら、誠も皐も一緒に、彩と美穂に目をやる。

⏰:11/10/23 14:01 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#38 [我輩は匿名である]
「彩ちゃん、今日調子いいねー!」

「そうー?」

「内村君のグローブだからー?」

「はぁっ!?何それ!?そんな事あるわけないじゃん!!」

こっちはこっちで、同じような話で盛り上がっている。

焦っているのか、顔を少し赤くして言い返す彩を見て、美穂が笑っている。

「変な事言わないでよー!!」

彩が叫びながらボールを投げると、勢い余って地面にたたきつけられ、そのまま何度かバウンドして変な方向にボールが飛んで行ってしまった。

⏰:11/10/23 14:02 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#39 [我輩は匿名である]
「…どっち…?」

「…意外と、不器用な彩の方かもしれないよ」

誠と皐は話しながら、再び龍也に目を向ける。

「そんな事言う美穂はどうなのよー?好きな人とかいるんじゃないのー?」

「いないよー」

彩の質問に即答する美穂に、彩はがくっと肩を落とす。こんなにバッサリ切り捨てるという事は、本当にいないのだろう。

⏰:11/10/23 14:02 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#40 [我輩は匿名である]
「私も彩ちゃんみたいに、恋したいなー♪」

「だから!違うってば!」

「なんでー?絶対好きなんだと思ってたのに」

美穂に意外そうに問いかけられ、彩は自分でも首をかしげる。

「んー…なんか…好きっていうか、幼馴染だし、どっちかというとお兄ちゃんみたいな感じしか…」

「えー?聞こえないよー」

聞こえていないのか、聞こえていない振りなのかわからないが、美穂は大げさに耳に手を当てて体を前傾させる。

「もういい!!」

本気で答えようとした自分が恥ずかしくなり、彩は声を荒げながら力いっぱいボールを投げた。

⏰:11/10/23 14:03 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#41 [我輩は匿名である]
少しずつ、あの事件の事など忘れかけていた。

3日後の夜。

ある男子高校生3人が部活を終え、家路についていた。

背後から忍び寄る男の影にも気づかずに。

周りに人の気配はない。その上3人が大いに騒いでいるのを良い事に、男はニヤニヤした顔で、足音を立てずに男子高校生に近づいていく。

トントン。

誰かに後ろから肩をたたかれ、男子高校生の1人が振り返った。

⏰:11/10/23 14:03 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#42 [我輩は匿名である]
次の日の早朝。

その場所には、朝早いにもかかわらず、多くの警察と野次馬とマスコミが集まっていた。

胸部を刃物で1突きされた、3人の男子高校生の遺体が発見されたのだ。

土谷もその中に埋もれ、いかにも「面倒だ」と言わんばかりの顔で頭をかく。

またもや高校生。前の女子高生と関係があるのかはまだ不明だが、土谷にはなぜか、関係しているようにしか思えなかった。

「…何が起こってんだ…?」

⏰:11/10/23 14:25 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#43 [我輩は匿名である]
彩たちの高校では、この事件の報告を受け、全校集会が開かれた。内容は思った通り、登下校時や外出時には不審者に注意するとか、夜は人通りの多い道を歩けとか、そんな話だ。

「そんな事言うんなら学校閉鎖とかしてくれたらいいのに」

「俺たちの学校で起きたんじゃねぇしなぁ」

クラスが隣同士で、たまたま列も隣になった皐と龍也が小声で愚痴りあう。

その傍では彩と美穂が浮かない顔で黙り込んでいる。

今回殺された3人もまた、中学2年の時の同級生だった。

明らかに自分たちが…中学時代の2年A組が標的にされている。彩はそう確信した。

徐々にうつむいてきた顔を上げ、少し前で誰とも話さずにじっと話を聞いている誠の背中を見つめる。

ただの単発事件だと思っていたようだった誠は、今はどう考えるのだろう。これでもまだ、「考えすぎだ」というのだろうか。

どうしてかわからないが、それが気になった。

⏰:11/10/23 14:26 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#44 [我輩は匿名である]
「え〜!?」

ボーっとしていた彩は、急に周りが騒がしくなったのに気付いて我に返った。

「何だよそれ〜ありえね〜!」

斜め後ろの方から、龍也の野次る声が聞こえてくる。

彩はちょんちょんと、前に立っている凛の肩をたたく。

「凛ちゃん、校長先生何て言ったの?」

「“夜遅く帰宅するのを避けるため、すべての部活動を当分見合わせます”だって」

龍也が野次る理由がすぐにわかった。

⏰:11/10/23 20:00 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#45 [我輩は匿名である]
しかし、彩としてはそっちの方がありがたかった。野球部はそこまで遅くはならなくても、帰るのが夜7〜8時になることもある。

本当に2年A組の生徒が狙われているのだとすれば、外にすら出たくない。

「彩ちゃん」

凛がこちらを向く。

「今日から一緒に帰っていい?…なんか、私怖くて」

「私も…怖い。しばらくは一緒に帰ろ」

彩は力なく笑い返す。

⏰:11/10/23 20:00 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#46 [我輩は匿名である]
その際、さっきまで黙って前を向いていた誠が、少しだけ振り返ってこちらにを向けているのに気が付いた。

「?」

彩は「どうしたんだろう?」と視線を返すと、誠はそのまままた前を向いた。

たまに何を考えているのかわからない誠に、彩は首をかしげた。

⏰:11/10/23 20:00 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#47 [我輩は匿名である]
その日の放課後。

彩は凛とともに帰路についていた。授業が終わってすぐの帰り道のため、まだ外は明るく、人通りも車の通りも多い。

「凛ちゃん…あの事件、どう思う?」

歩きながら、彩は静かに凛に尋ねた。

「どう…って?」

質問の内容が読めず、凛は聞き返す。

「なんか、うまく言えないけど…、私たちも狙われるんじゃないか…とか、思っちゃって」

⏰:11/10/23 20:01 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#48 [我輩は匿名である]
彩は自分でも「ばかげている」と思いながらも、自分の不安を口にする。

凛はそれを聞いてしばし黙る。

おかしなことを言ったな。彩は少し後悔する。

「…私だけじゃなかったんだ。そう思ってるの」

凛は安心したように笑った。

「私もね、同じこと考えてたんだ。被害にあってるの、みんな中学の時の同級生じゃない?…一体何なんだろうって」

⏰:11/10/23 20:01 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#49 [我輩は匿名である]
「(やっぱり、こう思う子もいるんだ)」

凛の言葉を聞いて、彩もほっとした。

男子3人が集団で殺されているのを考えると、女子2人で一緒に帰っていても大して安全ではないのだが、それでも同じ気持ちでいる友人が一緒なら、どこか心強い。

「じゃあ、私あっちだから」

凛は立ち止まり、自分の家がある方向を指さした。

「あっ、そうだったね。じゃあ、また明日」

彩と凛は手を振りあい、それぞれ自分の家へと向かって歩き出す。

⏰:11/10/23 20:02 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#50 [我輩は匿名である]
話し相手がいなくなり、寂しさを感じながら歩いていると、彩はふと、誠と1人の男子高校生が話しているのを見つけた。

「(うっちーだ)」

誠は背中を向けているが、鞄についている熊のキーホルダーですぐにわかった。

あれは少し前に、彩が誕生日プレゼントで誠にあげたものだった。

見たところ、冗談を言い合っているような様子ではない。深刻そうな顔で、まじめな話をしているようだ。

よく見てみると、話し相手の男子高校生は彩も知っている人物だ。同じ中学の同級生だった、梶浦司だ。

思い返せば中学の時、誠と司は仲が良かった。司は別の高校に進学したが、今もちょくちょく会っているのは、彩も知っている。

彩は誠を盾にして司から見えないような位置から、足音を立てないようにそっと近づく。

⏰:11/10/23 20:02 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#51 [我輩は匿名である]
しっかりと聞き耳を立てて近寄っていくと、ある程度声が聞こえるようになってきた。

「じゃあ…次は誰だと思う?」

そう言ったのは誠だ。彩は声が聞こえる場所に来ると立ち止まった。

「さぁ?…話変わるけど……」

運悪く、司が声を小さくしてしまった。これでは何の話をしているのかすらよくわからない。

そう思ってむくれていると、誠が素早くこちらを向いた。

急に振り向かれると思っていなかったので、彩はその場に固まる。

⏰:11/10/23 20:02 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#52 [我輩は匿名である]
「…何やってんだよ、お前」

「えっ、いや…何、話してるのかなぁと思って…」

彩はあたふたしながら答える。

「なっ、何でこっち向いたの?」

「足、見えてたよ」

そう答えたのは司だった。誠と違って愛想の良い司は、彩を見て笑っている。

「盗み聞きか?ん?」

「痛い痛い!暴力反対!!」

⏰:11/10/23 20:03 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#53 [我輩は匿名である]
不機嫌そうに見下ろしながら、誠が彩の耳をつねる。

急に司が声を潜めたのは、誠に、背後に誰かがいるのを伝えるためだったのか。彩は耳をつねられながらも冷静に考えた。

「ったく、悪趣味な奴。早く帰れよ」

手を放し、誠がため息をつく。

「だって、何話してたのか気になっちゃって。珍しくまじめな話だったみたいだし…」

「『珍しく』って言われてるよ、誠」

「お前ならともかく、俺はいつもまじめだよ」

⏰:11/10/23 20:03 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#54 [我輩は匿名である]
「どういう意味よ!」

彩は誠に食って掛かるが、誠にぽんと頭をたたかれ、黙って彼を見上げる。

「別に大した話じゃないから。とりあえずもう帰れ。な?」

「ごめんな、塩見」

2人がここまで言うなら、聞かれたくない話なのだろう。彩は肩を落とし、仕方なくとぼとぼ歩きだした。

⏰:11/10/23 20:04 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#55 [我輩は匿名である]
『次は誰だと思う?』『さぁ?』

彩は2人の会話を思い出す。たったそれだけしか聞こえなかったが、彩には何となくわかった。

おそらく2人が話していたのも、おそらく事件の事だろう。

2件も同じような事件が続いたので、誠も気になりだしたようだ。

「…そうだ」

他校の友人なら、自分にだっている。彩は携帯電話を鞄から取り出し、慣れた手つきでタッチパネルをタップして電話帳を開く。

中学3年間同じクラスで、ずっと一緒にいた親友。長谷部春香。彼女は確か、最初に殺された小松千佳や、次に殺された男子3人と同じ高校に通っていたはずだ。

「帰ったら電話してみよう」

そう呟き、彩はそのまま携帯電話をポケットに入れて家路を急いだ。

⏰:11/10/23 20:04 📱:PC/0 🆔:sgkwcQ9o


#56 [我輩は匿名である]
「もしもし〜?」

家に帰るなり、彩はベッドに寝転がって春香に電話を掛けた。

「彩!?久しぶり〜!元気?」

懐かしい春香の明るい声を聴いて、彩は自然と笑顔になる。

「私は元気だよー。春香は?」

「私も元気だけどさぁ…うちの高校、もう大変で…」

電話の向こうから春香のため息が聞こえてくる。

⏰:11/10/26 19:46 📱:PC/0 🆔:AqBoNxy.


#57 [我輩は匿名である]
やはり、事件に関係した高校は、マスコミが集まったり警察関係者が頻繁に出入りしたりで忙しいらしい。

春香はその様子を、疲れたように彩に話してくれた。

「でも、なんか変だよね。最近殺されてるの、みんな私たちの同級生だしさ。今うちの学校、授業停止するか協議してるって」

「そうなんだ…。確かに、これ以上被害が出たら大変なことになるもんね。世間の目とか、PTAとか」

「そうなんだよー。まぁ学校行かなくていいならそれでもいいけどね。その方が安全だし。問題は、何で同級生が狙われてるのかだよ」

春香は彩より先に、その疑問を口にした。

「小松さんの事考えたら、やっぱいじめられた子の報復かなって思ってたけど…次に死んだ3人は関係ないじゃない?だからぜんぜんわからなくて。…警察でもわかってないみたいだし」

⏰:11/10/26 19:46 📱:PC/0 🆔:AqBoNxy.


#58 [我輩は匿名である]
「そうなの?」

「うん。一応いじめの線で捜査してたみたいだけど、今まで小松さんのいじめの被害にあってた子はみんな犯人じゃないらしいし。さっさと捕まえてもらわないと困る!」

警察でも見当がついていないのなら、犯人逮捕には時間がかかりそうだ。

彩はかえって不安が大きくなった気がして、頭を抱える。

「彩も気を付けてね。また何かわかったら連絡するから」

⏰:11/10/26 19:47 📱:PC/0 🆔:AqBoNxy.


#59 [我輩は匿名である]
「うん。春香も気を付けてね。ごめんね、急に電話しちゃって」

「いいよいいよ。いつでも電話して!じゃあね!」

彩と春香は、同時に電話を切った。

今は警察は当てにならない。自分の身は、自分で守らなくては。

彩は寝ころんだまま、そう心に決めた。

⏰:11/10/26 19:47 📱:PC/0 🆔:AqBoNxy.


#60 [我輩は匿名である]
その夜。誠は机に座って、中学時代の卒業アルバムを眺めていた。

2年A組だったクラスメイト達は、3年生ではいろんなクラスに散った。

元2年A組は全員で35名。

今生きているのは31名。

「…何人生き残るんだろうな…」

誠はそう呟き、アルバムを閉じた。

⏰:11/10/26 19:49 📱:PC/0 🆔:AqBoNxy.


#61 [我輩は匿名である]
「おっさ〜ん!!早く犯人捕まえろよ!部活できなくなっちまったじゃねーかよ!!」

同じ頃、龍也は土谷に電話を掛けるなり声を荒げた。

土谷は「そう言われてもよぉ…」と言葉を濁す。

「何にも残ってねぇんだよ。凶器、指紋、防犯カメラ!何もない!」

「知らねぇよそんな事!サツなんだから、ちゃんと捕まえろよな!」

龍也は怒ったように言い返す。すると、土谷はなぜか黙り込んでしまった。

⏰:11/10/26 19:50 📱:PC/0 🆔:AqBoNxy.


#62 [我輩は匿名である]
「…おっさん?どした?」

「なぁ、お前の知ってる奴で、怪しいやつはいないか?」

「は?男?」

何だ急に。そう思いながら龍也は考えてみるが、怪しい人物に心当たりなどない。

「いない…と思うけど?何?何なんだよ?」

聞き返すと、土谷はまた何も言わなくなった。

「ちょっと〜。さっきから何?」

⏰:11/10/26 19:50 📱:PC/0 🆔:AqBoNxy.


#63 [我輩は匿名である]
「もし怪しい男と女に心当たりがあったら、早めに教えてくれ。間違っててもいいから」

「男と女…。えっ、犯人2人いんの!?」

「可能性としては、だ。まだわからんけどな」

「ふうん…。まぁ、わかった」

「ん。頼んだぞ」

それで電話は切れてしまった。龍也はぽかんとした様子で携帯電話を見つめた。

⏰:11/10/26 19:51 📱:PC/0 🆔:AqBoNxy.


#64 [葵]
やばい。おもしい

⏰:11/10/28 01:41 📱:SH06A3 🆔:☆☆☆


#65 [我輩は匿名である]
>>64さま
ご感想(ですよね?汗)ありがとうございます!

感想板もありますので、そちらもご利用くだされば嬉しいです(*^^*)

⏰:11/10/28 21:21 📱:PC/0 🆔:KIsItnv6


#66 [我輩は匿名である]
次の日。

「やっぱ、部活無いと暇だね」

教室の壁にもたれながら、皐はため息をつく。

「そうだね…。私は、今は部活ない方が嬉しいけど」

彩は苦笑しながら言う。

事件から関係のないものからすれば、退屈な日々だろう。

⏰:11/10/28 21:22 📱:PC/0 🆔:KIsItnv6


#67 [我輩は匿名である]
皐がつまらなさそうに足をぶらぶらさせていると、歩いてきた男子の足を蹴ってしまった。

「あ、ごめん」

「…別に…」

男子は俯いたまま小声で答えると、それ以上何も言わずに去って行った。

皐は不満そうにその男子の背中を見つめる。

「…あいつ、名前なんだっけ?」

「確か…岡本君じゃなかった?」

⏰:11/10/28 21:23 📱:PC/0 🆔:KIsItnv6


#68 [我輩は匿名である]
「暗いねぇ…。あんなんで生きてて楽しいのかな」

うじうじした性格は嫌いな皐にとっては、今通った岡本忍のような男子は生理的に受け付けないらしい。

何か言いたそうに見ていたが、ため息をついて視線を彩に戻した。

「彩ちゃん、皐ちゃん」

2人がドアに目をやるのと同時に、美穂が教室に入ってきた。

「久しぶりだね」

「部活がないと、なかなか会わないもんねぇ。2組通った時、菊池君も皐ちゃんみたいな顔してたよ」

「どんな顔だよ…」

⏰:11/10/28 21:24 📱:PC/0 🆔:KIsItnv6


#69 [我輩は匿名である]
そういえば龍也も事件とは関係がないため、さぞかし暇な事だろう。

「お似合いなんじゃないの?」

「馬鹿言わないでよ。あんなアホそうな奴好みじゃないし」

うんざりしたように皐が吐き捨てる。あまりに嫌そうだったので、彩と美穂が一斉に笑い出す。

「それにほら、あいつにはもっとお似合いの奴がいるし!!」

皐が思い出したように言う。

「え、誰?」

美穂がきょとんとした表情で尋ねる。

⏰:11/10/28 21:24 📱:PC/0 🆔:KIsItnv6


#70 [我輩は匿名である]
「(美穂しかいないでしょ…)」

かわいい顔して鈍感で天然な美穂に、彩も皐もため息をつく。

「美穂、菊池君に好きな人いるの、知らないの?」

「知らない」

「あ、そう…」

きっぱりと否定する美穂を見て、彩は龍也が気の毒に思えてきた。

その横では、美穂が腕を組んで真剣に考えている。

⏰:11/10/28 21:24 📱:PC/0 🆔:KIsItnv6


#71 [我輩は匿名である]
「でも、彩にもいるよね。お似合いの人」

「えっ誰?」

「(お前もかよ…)」

美穂とまったく同じ反応を示した彩に、皐はさらに疲れたように肩を落とした。

⏰:11/10/28 21:25 📱:PC/0 🆔:KIsItnv6


#72 [我輩は匿名である]
そんな平和な日は長くは続かない。

2日後の夜、今度は司が通う高校の女子生徒2人の遺体が見つかった。

しかし、今回は今までの事件とは違った。

事件現場で、土谷はしゃがみこんでため息をつく。

2人の女子高生の胸元には、刺し傷ではなく銃痕が残っていた。それも、何発も。

「(何で急に凶器を変えたんだ…?いや、それともやっぱり複数犯か…)」

いずれにせよ、これではわからない事が増えただけだ。

⏰:11/10/28 21:26 📱:PC/0 🆔:KIsItnv6


#73 [我輩は匿名である]
たった数日間で死者6人。犯人の糸口もいまだ掴めない。被害者の共通点は“ある中学校の元2年A組”という事だけ…。

「土谷警部」

背後でしゃがれた男の声がした。

聞こえないように小さく舌打ちをしながら立ち上がり、土谷はその人物の方を向いて敬礼する。

「まだ捕まえられんのか」

「申し訳ありません」

「これだから所轄に任してはおけんのだよ」

警視庁から来た、白髪で背の高い刑事が、いつものように嫌味を吐く。

⏰:11/10/28 21:26 📱:PC/0 🆔:KIsItnv6


#74 [我輩は匿名である]
「(だったらてめぇは解決できんのかよ…)」

土谷は小さくため息をつく。

「どうする?これでは埒が明かんぞ。マスコミもうっとうしくて仕方がない。さっさと終わらせろ」

「とりあえず、今までの被害者が中学2年の時に同じクラスだった生徒全員を聴取し、さらなるパトロールの強化を」

「聴取は警視庁の捜査員が行う」

「はい?」

「貴様らの生ぬるい捜査では信用できん」

「…ご自由にどうぞ」

土谷は一礼し、いったんその場を立ち去った。

お前みたいに現場を1度しか見ていない者に、事件を解決させられるわけがない。そう思いながら。

⏰:11/10/28 21:27 📱:PC/0 🆔:KIsItnv6


#75 [我輩は匿名である]
その日の放課後。

新たな事件が起きたことを知り、呆然としながら学校を出ようとする彩と凛の前に、スーツを着た男性2人がやってきた。

「君たちは塩見彩さん、小山凛さんかな?」

突然見知らぬ男に名前を呼ばれ、彩はびくっとして顔を上げる。

「…何ですか?」

「警察だ」

2人はそろって胸ポケットから警察手帳を取り出した。よく見ると、傍に1台のパトカーが停まっている。

⏰:11/10/29 22:17 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#76 [我輩は匿名である]
「署で話を聞きたい。一緒に来てもらえるかな?」

彩は頭が真っ白になった。いったいなぜ警察官が自分のもとに来るのか、全く事情が理解できない。

「どうしてですか!?私、前お話しできることはしましたけど!」

苛立ったように、凛が言い返す。

「前の事は関係ない。今回は特定の人間全員に来てもらっている」

「特定の…?」

という事は、おそらく元2年A組全員という事か。彩はすぐに気づいた。となると、美穂や誠も呼び出されているのだろう。

⏰:11/10/29 22:18 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#77 [我輩は匿名である]
ここで逆らっても仕方がないし、むしろ怪しまれるかもしれない。もしかしたら、逆に何か情報を得られるかも…。

「わかりました」

彩は潔く、首を縦に振る。

「彩ちゃん!?」

「どうせ、ちょっと話聞かれるだけでしょ?それぐらい構わないよ、私は」

強い眼差しで答える彩を、凛が不安そうに見つめる。

しかし、彩が行って自分が行かないのは引っかかると思ったのか、凛もしぶしぶ「…じゃあ、私も行きます」と頷いた。

⏰:11/10/29 22:18 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#78 [我輩は匿名である]
警察署に着くと、同時にもう1台パトカーが入ってきた。

「さぁ、降りて」

「はい」

ドアを開けられ、彩と凛は車から降りる。

警察官に連れられて、初めて警察署の中に入った。

人が慌ただしく出入りしていて、全然落ち着かない。

何も考えずについていくと、ドラマで見る取調室のようなところに連れて来られた。

しかし、誰かが使っているらしく、「ちょっと待っててもらえるかな」と待たされてしまった。

⏰:11/10/29 22:18 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#79 [我輩は匿名である]
「(2Aを一斉に連れてきてるのかもしれないし、そりゃ混雑するよね)」

もっと効率的な方法はなかったのかと思いながら、彩はちらっと警察官を見る。

5分ほどすると、目の前のドアが開いた。

「あ」

中から出てきた生徒に、彩は思わず声を上げた。

「うっちー!」

先に連れて来られていたらしい誠は、彩に呼ばれてこちらへ向かってきた。

⏰:11/10/29 22:19 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#80 [我輩は匿名である]
「お前も呼ばれたのか」

「うん。ねぇ、何聞かれるの?」

誠に尋ねると、すぐに横にいた警察官が意味深な咳払いをした。そう言う事は聞くなと言う意味だろう。

「まぁ、すぐ終わるよ」

「そっか」

「次、君。入りなさい」

警察官に言われ、彩は誠に別れを告げて中に入る。

⏰:11/10/29 22:19 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#81 [我輩は匿名である]
中には記録係らしい男性と、話を聞く役目らしい女性警察官が座っていた。

「(やったぁ、女の人だ)」

てっきり男ばかりの部屋だと思っていたため、いくらかほっとする。

「わざわざごめんなさいね。そこに座って」

女性警察官は少し笑い、手を椅子に向けて彩に腰掛けるよう促す。長い髪を1つに束ね、灰色のスーツをきっちりと着た、そこそこ美人な警察官に、彩は少し見とれる。

「私は南里(なんり)由紀。警視庁の警視です」

「警視庁?」

そんなに凄いところから捜査に来ているのか。彩は驚いて聞き返す。そこまでしているという事は、警察も本気なのだろう。

⏰:11/10/29 22:20 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#82 [我輩は匿名である]
「えぇ。捜査にご協力いただき、感謝します」

「あ、いえ…」

それにしても、きれいな人だなぁ。彩は本題そっちのけで南里を見つめる。

「ところであなた、昨日の夜20時ごろ、どこで何してました?」

南里は早速問いかけてきた。

「昨日は…家にいました」

「それを証明できる方は?」

⏰:11/10/29 22:20 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#83 [我輩は匿名である]
「家族しかいません。…あ、でも人じゃなければありますよ」

彩が付け足して言うと、南里は「どういう事ですか?」と首をかしげた。

「うちのマンション、防犯カメラが付いてるんです。絶対にカメラの前を通らないとマンションの外に出られません」

「…ふふっ、なるほどね」

彩が自信満々に言うと、南里は小さく笑った。

「わかりました。では…今まで殺害された生徒をご存知ですね」

「はい。中学の時、同じクラスでした」

彩はそれから、被害者たちとどのような関係だったか、彼らをどう思っていたかを聞かれ、正直に話した。

⏰:11/10/29 22:21 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#84 [我輩は匿名である]
とはいっても、ほとんど関わりがなく、そこそこ仲良くしていただけの関係だが。

「…犯人、まだ捕まらないんですか?」

答え終えてから、彩は素直に尋ねてみる。

「え、えぇ…」

「テレビで、防犯カメラとかにも映ってないし、全然手がかりがないって言ってましたけど…」

「…ごめんなさい、毎日心配でしょう。早く逮捕できるよう、私たちも全力で犯人を捜してるわ。もしこれから何かあったら、ここに連絡をくれれば、いつでも話を聞きますから」

南里はそう言って、小さな紙に自分の携帯電話番号とメールアドレスを書いて彩に手渡した。

⏰:11/10/29 22:21 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#85 [我輩は匿名である]
「はい。わかりました」

彩はそれを受け取り、大事に財布に入れた。

「では最後に、話を聞かせてもらった証明という事で、ここに署名していただけますか?」

南里は1枚の紙を机に置く。見ると、今まで聴取を受けた同級生たちの名前が書いてある。

「はい」

彩はボールペンを借り、誠の下に自分の名前を書いた。

⏰:11/10/29 22:22 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#86 [我輩は匿名である]
「ありがとう。では、くれぐれも気を付けて。パトカーで送りましょうか」

「え!?結構です!まだ明るいし、歩いて帰れます」

パトカーで家まで送られるのは、さすがに恥ずかしい。彩は両手をひらひらさせて断る。

「そう?わかりました。それじゃあ、気を付けて帰ってくださいね」

「はい」

すると、記録係の男性がドアを開けてくれた。

彩はぺこっと頭を下げて、その部屋を後にした。

⏰:11/10/29 22:22 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#87 [我輩は匿名である]
「…さっき内村誠と話してたわね、あの子」

「そうですね。幼馴染のようです」

「…ふうん…」

南里はじっと、帰っていく彩の背中を見つめていた。

⏰:11/10/29 22:22 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#88 [我輩は匿名である]
「はぁ…疲れたなぁ…」

同じような部屋はもう1つあり、凛はそっちで話を聞かれているようだ。

とりあえずここを出ようと、彩は足早に警察署を出る。

建物を出てすぐの所に、誠が壁にもたれて立っているのが見えた。

「うっちー?」

「あぁ、終わったか」

「もしかして、待っててくれたの?」

「…まぁ…一応…。今1人で帰るのは危ねぇし…」

恥ずかしいのか、誠はそっぽを向きながら答える。

⏰:11/10/29 22:23 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#89 [我輩は匿名である]
ぶっきらぼうだがたまに優しい誠に、思わず彩の顔がほころぶ。

「ありがと。さすがうっちー」

「うるさいな」

2人は並んで歩き出す。幼稚園から一緒の2人は、向かいのマンションに住んでいる。

いつも彩が近所のやんちゃな男の子に泣かされては、誠が追い払っていた。

誠は小学校の時期からあまり笑う子ではなかったため、周り(特に女子)からは“怖い子”と思われがちな誠だが、彩だけはいつも誠と一緒にいた。

⏰:11/10/29 22:24 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#90 [我輩は匿名である]
幼い時の事を思い出して自然と笑顔になっている彩を、誠はボーっと見下ろす。

「…気持ち悪い」

「なっ、何が!?」

「何ニヤニヤしてんだよ。寒気がする」

「ニヤニヤしてないもん!」

「してた」

真顔で押し通され、彩は言い返せず黙る。

⏰:11/10/29 22:24 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#91 [我輩は匿名である]
「ちょっと、小っちゃい時の事とか思い出して」

「どんな事?」

「普通にしてるだけなのに女子から怖がられる誠の事とか」

「…余計なこと思い出すなよ」

「バレンタインデーで、一応顔はまぁまぁだからチョコもらいかけたけど、超怖い誠の顔を見て、渡した子がすぐにチョコ取り返して走って行った事とか」

⏰:11/10/29 22:25 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#92 [我輩は匿名である]
「あ、あれは、全然知らない奴からもらったから『誰?この子』と思ってたら、勝手に『やっぱりいいです!』って、もらったチョコ持って行かれて…。っていうか、何で知ってんだよ」

「だって見てたもん。『うっちー、よかったねぇ』と思いながら」

「母親かお前は」

「へへへ」

「笑うな」

思えば、こうして2人だけで帰るのは久しぶりだ。何だか嬉しくなって、彩は帰るまでずっと笑顔でいた。

⏰:11/10/29 22:25 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#93 [我輩は匿名である]
「よう、そこのエリートお姉さん」

土谷に呼び止められて、南里は足を止める。

「何か?土谷警部」

「容疑者は絞り込めたのかい?今日の“元2年A組”生徒全員の事情聴取」

土谷は腕を組み、南里に問いかける。

南里は振り返り、一息ついてから口を開く。

「まだ何も。とりあえず、事件の日のアリバイと利き腕くらいは」

「利き腕…あ〜あ」

土谷は頭をかきながら南里に近づく。

⏰:11/10/29 22:26 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#94 [我輩は匿名である]
「そういえば最初に殺された事件の容疑者、鑑識から『左利きの可能性が高い』って言われてたな。それも、身長は170〜175cm前後」

「えぇ。元2年A組の女子生徒の身長は、最高でも…167cm。学校から収集した4月の健康診断のデータなので、今も大差ないでしょう。

よって、最初の殺人はこの中の女子生徒によるものではないでしょうね。そして、男子生徒の中で左利きの生徒は」

南里は言いながら、手に持っていた捜査資料の1枚を土谷に見せる。

「内村誠、ただ1人」

そこには、誠の顔写真と彼の詳細な情報が記載されていた。

どこかで聞いた名前だ。土谷は思いながらそれを手に取る。

⏰:11/10/29 22:27 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#95 [我輩は匿名である]
誠の身長は173,2cm。利き腕も左。そこまでは鑑識によって提示された犯人の条件と合致している。

「…こいつのアリバイは?」

「『自宅で寝ていた』との事です」

「22時に就寝か。今のガキにしてはえらく健康的じゃねぇか」

土谷は鼻で笑う。

「次の事件の時も、『自宅にいた』そうです」

「へぇ。それほどあてにならないアリバイはねぇな?南里警視」

「そうですね」

⏰:11/10/29 22:27 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#96 [我輩は匿名である]
南里は少し笑う。

「それと…3つ目の事件。どう思われます?」

「あ?あぁ、ピストルでやられてたやつか?あれは右利きらしいな。さっき鑑識の奴から聞いた」

「えぇ」

「複数犯…だろうな。今回は今までみたいにナイフ使ってないところ見ると、気が小さい奴がやったんじゃねぇの」

「なぜそう思われます?」

「ナイフじゃ相手の死ぬ感触が手に残る。それに、何発も撃っといて大した場所に当たってなかった。ありゃ殺しに慣れた奴の手口じゃない」

⏰:11/10/29 22:29 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#97 [我輩は匿名である]
「最初の容疑者は、手慣れていると?」

「ま、そういうことになるわな。その内村ってガキがどんな奴なのかは知らんが」

「ごく普通の男の子でしたよ。ちょっと無愛想な真面目男子って感じの。まぁ…まだ外部の人間の可能性もありますし、先入観を持ちすぎるにはまだ早すぎますね」

「へっ、確かにな」

おどけたように笑う土谷を、南里は真剣な目で見つめる。

「…土谷警部。あなたにお願いがあります」

「あん?エリート警視がこんなしょぼいおっさんに何のお願いが?」

⏰:11/10/29 22:29 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#98 [我輩は匿名である]
「私と手を組んでいただきたいんです」

南里の思いもよらない申し出に、土谷は思わずきょとんとする。

「…何でまた?」

「私たちはこの近辺の事に詳しくありません。所轄と警視庁で手を組んだ方が、より動きやすく、容疑者に近づけると思うんです」

「…あんた、変わってるな。警視庁のお偉いさんは皆、所轄を馬鹿にしてる頑固おやじばっかだと思ってたのによ」

⏰:11/10/29 22:30 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#99 [我輩は匿名である]
「…まぁ、そういう人間が多いのは事実ですが」

南里は残念そうに苦笑する。

「いいぜ!その話、乗ってやろう。どこまでもあんたの足になりますよ、お嬢さん」

「ふふっ、足だなんてやめてください。…では、改めてよろしくお願いします」

「こちらこそ」

2人は笑いあい、固く握手した。

⏰:11/10/29 22:30 📱:PC/0 🆔:IXofk9bg


#100 [我輩は匿名である]
土曜日。彩はしとしとと雨が降る窓の外を見ながら、携帯電話を片手に話し込んでいた。

「私の所にも来たよ!」

電話からは、春香の元気な声が聞こえてくる。

「『あの日は何していましたか?』とか、そんなのしか聞かれなかったけど」

「やっぱり元2Aはみんな警察に呼ばれたんだね。…あの中に犯人がいるなんて思いたくないけど」

「っていうか、人殺せるような子いなかったよね」

「うーん…」

彩は頷きながら、窓の外の風景に目を止めた。

⏰:11/11/04 16:21 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#101 [我輩は匿名である]
雨の中、傘をさして向かいのマンションから出てきた男性。

「うっちー…?」

ジャケットのポケットに手を入れ、どこかに出かけていく誠の姿を、彩はじっと目で追う。

「彩?内村君がどうかしたの?」

「え、ううん。どっか行くみたいだったからさ。…大丈夫かな」

周りでこのような事件が起きている中、1人で出かけるには危険すぎる。彩は不安そうに、離れていく誠の背中を見つめる。

「彩って、本当内村君好きだよね」

春香のその言葉に、彩は思わずきょとんとする。

⏰:11/11/04 16:22 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#102 [我輩は匿名である]
「はぁ!?」

「だってそうじゃん。今もじーっと見てるんでしょ?内村君の事」

「みっ、見てないよ!」

「嘘。絶対見てたね、その慌てっぷり」

春香がからかうように笑う。

「内村君のどこがいいの?ほとんど笑わないし、『話しかけるな』ってオーラ出しまくりじゃない?」

「そうでもないよ?そんなオーラ出てるかなぁ」

彩は「うーん」と首をかしげる。

⏰:11/11/04 16:22 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#103 [我輩は匿名である]
「女子はみんな怖いって言ってたよ?たまに『かっこいい』って言ってた子もいたけど」

春香の心の底からの疑問を聞きながら、彩は幼いころの事を思い出した。

⏰:11/11/04 16:22 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#104 [我輩は匿名である]
「うっちー?」

まだ小学校低学年だった頃。あの日も今日のような雨だった。

学校の帰り道、一緒に帰っていた誠が、ふと足を止める。

その視線の先には、道路の端にぽつんとある黒い影。

誠は何も言わず、それに近づいていく。彩もまた、興味津々でついていく。

しかし、それが何なのかわかった時、彩はついてきたことを後悔した。

それは、車に轢かれたらしい子猫の死体だった。

「…かわいそう」

動かない子猫を見て、誠はぽつりとつぶやく。

⏰:11/11/04 16:23 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#105 [我輩は匿名である]
「…そうだね」

悲しそうな誠を見て、彩も目を伏せる。

「…俺、お墓作ってあげる」

少しして誠が言った。彩は驚いた。しかし、すぐに彩も「うん。私も手伝う!」と大きく頷いた。

そんな彩を見て、誠はちょっと嬉しそうに笑った。

今と比べて、幼いころの誠はよく笑っていたと、彩は思う。

彩が誠の傘も手に持ち、誠が濡れないように頑張って2本の傘を支える。誠は小さな体で、重たい子猫の体を抱える。

家の近くの公園の隅に埋めてあげよう。そういう話に決まった。

何歩か進んだとき、背後から声がした。

⏰:11/11/04 16:23 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#106 [我輩は匿名である]
「うわ!きったな〜い!!」

2人はびっくりして振り向く。そこには、他の女子とは違うピンクのランドセルを背負った小松千佳と、彼女に従う女子たちが意地の悪そうな笑みを浮かべて立っていた。

「何あれ?」

「げぇっ!ネコだよ!ネコの死体!内村君と塩見さん、気持ち悪〜」

「ネコが死んでるのの何が気持ち悪いんだよ!」

カッとなったらしく、誠が声を荒げた。同感だった彩も、腹を立てて彼女たちをにらみつける。

「こわっ。行こ行こ!」

「明日みんなに言わなくちゃ!」

そう言って、その女子たちは笑って走り去っていった。

⏰:11/11/04 16:24 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#107 [我輩は匿名である]
何も悪いことをしていないのに、まるで後ろ指を指されたような感じがして、彩の目に涙がこみ上げてくる。

「…塩見、嫌なら帰っていいよ」

泣きそうな彩を見て、誠が声をかける。

しかし、それでは彼女たちに負けた気がして、彩は大きく首を振った。

「…じゃあ、行こ」

2人はそれから何も言わずに公園へ行って子猫を埋め、少し太くて長い木の枝を土に挿して帰った。

⏰:11/11/04 16:24 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#108 [我輩は匿名である]
その次の日、早くも、2人が子猫の死体を埋めた話が教室中に回っていた。

目が合うとすぐに逸らしてしまう子や、こちらを見ながらこそこそと話をする子ばかりだった。

彩はおそるおそる、隣にいる誠を見る。

しかし、誠は冷めた表情で、何も言わずに自分の席に着いた。

⏰:11/11/04 16:25 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#109 [我輩は匿名である]
そんな話はすぐに忘れられ、学年が変わる頃には、彩の周りに今まで通り友達が集まっていた。

誠が他の人間と距離を置くようになったのは、おそらくそれからだ。

しかしそれでも、龍也のように心を許した相手とは、よく接しているように思う。

彼を変えたのもまた、小松千佳だったのかもしれない。

⏰:11/11/04 16:25 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#110 [我輩は匿名である]
「彩?」

話の途中だったのに気づき、彩はハッと、いつの間にか下がっていた頭を上げる。

「ごめん、…なんだっけ?」

「もー。何かあったのかと思っちゃうじゃん」

「ごめんごめん!…昔の事、思い出しちゃって」

「昔の事?」

中学から友達になった春香は、この話を知らない。

彩はまだ誰にも話した事のないこの話を、初めて春香に聞かせた。

「へぇ…そんな事があったんだ」

⏰:11/11/04 16:26 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#111 [我輩は匿名である]
「うん。多分、うっちーをみんなが『怖い』って思うようになったのは、それからだと思う」

「まぁ、そりゃね…。小松さん、そんな時からすでに問題児だったんだね。…なんか、殺されても仕方ない気がしてきた…」

彩は少し黙り込む。こんな事を言ってはいけないのかもしれない。しかし、春香になら言える気がした。

「…私ね、小松さんが死んだって聞いた時、……正直…いい気味って思った」

今までずっと心に秘めていた感情。口にすることはないと思っていた。

何もしていないのに後ろ指を指され、噂され、彼女のせいで誠も変わってしまった。

今の誠が嫌いなわけでも、そこまで『変わったな』と思う事もない。しかし、もしあの一件がなかったら、誠は今頃、友人に囲まれる明るい性格だったかもしれない。

そう思うと、彼女が憎かった。

⏰:11/11/04 16:27 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#112 [我輩は匿名である]
言ってから、しばらく春香から返事の言葉は発せられなかった。

「…ごめん、嫌な事言ったね。忘れて」

彩はいつものように明るい声でそう訂正する。

「なんか、暗い話しちゃったね。今度はちゃんとした話しよ!…じゃあ、またね」

春香からの返事が怖くて、彩は一方的にそう言って電話を切った。

しばらく、胸に残るもやもやを感じながらベッドに座り込む。

静かになった携帯電話を見つめる。何気なくそれを見る彩の目に、携帯電話が表示する『14:53』の文字が映る。

しばらくして、今度は違う人物に電話を掛けた。

⏰:11/11/04 16:27 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#113 [我輩は匿名である]
「もしもし」

5回ほど呼び出し音が鳴って、誠が電話に出た。

「…うっちー?」

「俺にかけてきてるんだから、わざわざ聞くなよ」

いつも通りの誠の声を聴いて、何だか肩の力が抜けた気がする。

「何だよ」

「さっき、出かけるのが見えたからさ。…どこ行くのかなぁと思って」

「……別に」

誠は短く答える。

⏰:11/11/04 16:28 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#114 [我輩は匿名である]
彩はムッと頬を膨らます。

「せっかく心配して電話かけてあげたのに、冷たいなぁ」

「電話かけてほしいなんか言ってないぞ」

「きーっ!むかつく!」

「はぁ?何なんだよ…。用がないなら切るぞ」

「あっ待って!」

本当に切られる気がして、彩は声を上げる。誠のため息が、スピーカーから漏れてくる。

「…あの…」

「何」

⏰:11/11/04 16:28 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#115 [我輩は匿名である]
「…気を付けてね。ちゃんと帰って来てよ」

彩は少し下を向いていった。受話器から、今度は鼻で笑うのが聞こえてきた。

「お前、俺がそんなすぐ死ぬと思ってんのか?」

「わからないじゃん。誰が狙われてるのかわからないのに」

「心配しなくても、俺は死なねぇよ。…じゃあな」

あ。彩が声を出す前に、電話が切れてしまった。

その自信はどこからくるんだ。一瞬呆れたが、むしろそれを聞いて少し安心した。

彩はちょっとだけホッとして、携帯電話を机に置いた。

⏰:11/11/04 16:29 📱:PC/0 🆔:EdsrP/zo


#116 [我輩は匿名である]
その日の夜21時頃。家族とともにテレビを見ていると、家の固定電話がけたたましくなり始めた。

母親が立ち上がって受話器を手にする。

彩がなんとなくその様子を見ていると、少しして、母親の顔から血の気が引いていくのがわかった。

驚いて、彩も電話の親機のもとに歩いていく。

「…彩」

「…何?」

「同じクラスに、小山凛ちゃんっていたわよね…?」

「いるけど…どうかしたの?」

⏰:11/11/05 21:49 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#117 [我輩は匿名である]
「……さ…刺されたって…」

彩は自分の耳を疑った。

「刺された…?」

その言葉だけを繰り返す。

ショックも大きいが、彩の中で、恐怖が一気に膨らんだ。

この高校の生徒も、とうとう狙われ始めた。そう思うと、体が小刻みに震えだす。

「…幸い、たまたま通った人がすぐに通報してくれたみたいだから、けがで済んだそうよ」

電話を終え、母親が彩に言う。

⏰:11/11/05 21:49 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#118 [我輩は匿名である]
「…犯人は…?」

彩は俯いたまま尋ねる。

「まだ…捕まってないそうよ」

「…そんな…」

彩はふらつき、壁にもたれかかる。そのまま、よろよろと歩きながら自分の部屋に入り、ドアにもたれて座り込んだ。

なぜ、今回は凛だったのか。犯人はいったい何がしたいのか。彩の頭の中で、いろんな疑問が浮かんで巡る。

ふとベッドに目をやると、無防備にぽんとおかれた携帯電話が見えた。

⏰:11/11/05 21:50 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#119 [我輩は匿名である]
彩は素早くそれに駆け寄り、南里に電話を掛ける。

1分ほど粘ると、呼び出し音が止まった。

「はい」

「あの…この間警察署でお話しした、塩見彩です」

「…あぁ、この間はありがとうございました」

南里はご丁寧に礼を言う。

「いえ…。そんな事より、凛ちゃんが刺されたって、本当ですか?」

彩の問いに対し、南里のため息が聞こえてくる。

⏰:11/11/05 21:51 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#120 [我輩は匿名である]
「えぇ。誰に聞いたんです?」

「連絡網で回ってきました」

「そうですか…」

「いつですか?いつ、どこで?」

彩は畳み掛けるように問い詰める。

「今日の昼過ぎです。15時前じゃないかと。場所は中央公園です」

南里は淡々と答えた。ここで隠しても、どうせ報道でばれると思ったのだろう。

⏰:11/11/05 21:51 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#121 [我輩は匿名である]
彼女の答えに、彩はある事を思い出した。

「15時頃…」

春香と電話し終わった時、彩の携帯電話が示していた時間は、確か14時53分。その時間にどこかへ出て行った誠。

ありえない。彩は、なぜその考えに至ったのか、自分でも理解できなかった。

「…塩見さん?」

急に黙り込んだ彩を心配して、南里が声をかける。

「え?あ、すみません。…何でも…ありません」

「…あなた、何か知ってるの?」

⏰:11/11/05 21:52 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#122 [我輩は匿名である]
南里の口調が変わる。彩はドキッとし、体を硬直させる。

「…何も知りません」

「…そう。もし何かあったら、どんな小さなことでもいいから必ず教えてください。…必ず、ね」

南里はそう念を押す。

「…わかりました」

「ありがとうございます。…それでは失礼します」

南里は忙しいのか、すぐに電話を切った。

彩は思った。“今ので、今後きっとマークされる”、と。

⏰:11/11/05 21:53 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#123 [我輩は匿名である]
それは…?

彩は思い切って、『発信』のキーに指を置いた。

自分で確かめれば済むことだ。彩は心に決め、電話を耳にあてる。

「もしもし」

いつもと変わらない誠の声がする。

「…あのさ…」

彩は深呼吸しながら口を開く。

「凛ちゃんの事…聞いた?」

⏰:11/11/05 21:54 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#124 [我輩は匿名である]
「あぁ…さっき連絡網で回ってきた」

「…そっか。でも、何で中央公園なんかで…」

「…中央公園?」

「うん。さっきあの女の刑事さんに聞いた」

「…ふうん…」

誠は、まるで何かを考え込むように低い声で返事を返す。

「…それでさ」

彩はまだドキドキしながら本題に入る。

「今日のお昼、…どこ行ってたの?」

⏰:11/11/05 21:55 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#125 [我輩は匿名である]
「…あぁ、お前が電話かけてきた時か。……散歩」

「絶対嘘だよね」

「…まぁ…。…今は言えない」

予想するよりも意味深な答えが返って来て、彩はさらにショックを受ける。

「…どういう事?何で?」

「だから、言えないって言ってるだろ」

「じゃあいつ言ってくれるの!?」

なかなか言わない誠にしびれを切らし、彩はつい怒鳴るように声を上げた。

電話の向こうから、声が聞こえなくなってしまった。

⏰:11/11/05 21:55 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#126 [我輩は匿名である]
ちょっとムキになりすぎた。彩も困り、黙る。

「…明日」

「え?」

「明日言うよ。…これで満足?」

「…うん…」

「…じゃあな」

怒らせてしまっただろうか。電話を手に持ったまま、彩はうなだれる。

どうして自分たちがこんな思いをしなければならないのか。いつまで続くのか。

彩はため息をつき、しばらくそのまま動けなかった。

⏰:11/11/05 22:00 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#127 [我輩は匿名である]
次の日。目を覚ました彩の携帯電話に、誠からメールが届いていた。

『11時に、マンションの公園で待ってる』

「…へ!?」

ボサボサの頭を左右させてようやく見つけた時計の指す時刻は、11時10分。

「ちょっと…無理だって!」

彩は飛び起き、とりあえず着替える。

そして歯を磨き、朝食も摂らないまま家を飛び出した。

彩の住むマンションと誠の住むマンションの間に、小さな公園がある。子どもたちが遊ぶには少々物足りないが、主婦たちがおしゃべりしたり、1人で静かな時間を過ごすにはうってつけの場所である。

息を切らして公園のそばまで来てみると、ベンチに座って誠が待っていた。

⏰:11/11/05 22:04 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#128 [我輩は匿名である]
「なんだろうなぁ?」

2人の頭の間から男の声がした。

そろって素早く振り向くと、無精ひげを生やした40歳くらいの男が笑いながらこちらを見ている。

ほんのり煙草のにおいが漂ってくる。

「何だよ、あんた」

誠がきつく睨みつける。

「こういうモンだ」

男は動じず、ジャケットの胸ポケットから警察手帳を出して2人に見せる。

手帳に書いてある名前は“土谷信一”。

⏰:11/11/05 22:11 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#129 [我輩は匿名である]
不審者だと思っていた2人は、一瞬安堵の息をつく。

しかし、彩はすぐに表情を引き締めた。

「警察の方が何の御用ですか?」

「ちょっとあなたたちに聞きたいことがあってね」

今度は、土谷の背後から南里が現れた。

それも、あの時とは違い、腕を組み、冷たい表情を浮かべて。

「…内村誠くん。あなた…昨日の15時前ごろ、どこにいた?」

「…俺を疑ってるのか?」

2人の会話に、彩も黙っていられなくなった。

⏰:11/11/05 22:12 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#130 [我輩は匿名である]
「ちょっと待ってください!何でうっ…内村君が疑われなきゃならないんですか!?」

「映ってたんだよ。昨日15時過ぎの中央公園の近くの防犯カメラに、こいつの姿がな」

土谷が早くも勝ち誇ったような顔で誠を指さす。

しかし、誠は全くそれに反応せず、じっと土谷を見ている。

「カメラに映ったから何だっていうのよ!」

彩は我慢できなくなって、誠の代わりに反論する。

しかし、自分で言ったその言葉に違和感を覚え、ふと声を押し出すのを止めた。

「防犯カメラ…」

そう。今回の事件「だけ」、防犯カメラに“容疑者”が映った。

⏰:11/11/05 22:13 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#131 [我輩は匿名である]
今までは防犯カメラにさえ犯人らしき人物は映っておらず、捜査が難航していると、テレビのニュースや新聞で目にした。

彩にはそれが、どうしても引っかかる。

「何をしていたの?あの公園付近で」

「あんた達に話すような事じゃない」

「それは私たちが判断します」

「“黙秘権”って知ってるか?」

「…おい、あんまり大人をなめるんじゃねぇぞ」

彩が考え込む横で、誠と、南里と土谷が静かな言い合いを続けている。

⏰:11/11/05 22:14 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#132 [我輩は匿名である]
「あーもううるさい!!!」

3人を無理やり黙らせるように、彩が大声を上げる。おそらく、2棟のマンションにも響いただろう。

急に声をあげられて、3人とも目を丸くする。

「うっちーをいじめる前に、私の質問に答えてください!何で今回だけ犯人が防犯カメラに映ってたんですか?今まで映ってなかったんですよね!?今度の事件だけカメラに映ってるなんて、おかしいと思わないんですか!?

言っときますけど、うっちーは変なところで馬鹿みたいに頭切れるんだから、今までは防犯カメラに映らなかったけど、今回は映っちゃうなんてヘマするようなマヌケじゃありませんから!!」

彩はものすごい剣幕で土谷に食って掛かる。その迫力に、土谷も思わず後ずさる。

⏰:11/11/05 22:15 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#133 [我輩は匿名である]
その後ろでは、彩の主張を聞いてか、南里が深く考え込む。

「……確かに…そう言われてみればそうね…」

「あんた達、本当に警察かよ?もうちょっとよく考えてから出直して来な」

誠もポケットに手を入れて言い返す。

「俺からも1つ聞くけど、中央公園の防犯カメラ見てるんだったら、その近くのショッピングモールの防犯カメラにも、ちゃんと目ぇ通してるんだろうな?」

まるで相手をあざ笑うかのような笑みを浮かべて、誠も反撃に出る。

「ショッピングモール…?」

南里と土谷が、黙って目を合わせる。

ただの高校生2人に指摘されて何も言い返せないようでは、警察の信用を失いかねない。

南里と土谷は苦虫をつぶしたような顔で、無言のまま、傍に止めていたパトカーに乗ってその場を去っていった。

⏰:11/11/05 22:15 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#134 [我輩は匿名である]
「何なのよ!あの2人、もう1回交番のお巡りさんから出直した方がいいんじゃないの!?」

逃げるように走り去ったパトカーを見て、彩が鼻息を荒くする。

彼女のそんな様子を見て、誠は小さく笑った。

「…で、昨日の話だけど」

「…あぁ、そうそう」

2人は気を取り直して、またベンチに座る。

誠は言いにくそうに頭をかいた後、重い口を開いた。

「…これ、買いに行ってたんだよ」

恥ずかしそうに、置いていた紙袋をぽんと彩の膝の上に置く。

⏰:11/11/05 22:16 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#135 [我輩は匿名である]
「何?これ」

袋の中を覗くと、可愛くラッピングされた何かが入っている。

「何なに?プレゼント!?」

彩は目を輝かせて誠に向き直る。

「そりゃ…プレゼントだろ、どう見ても」

もはや恥ずかしさを通り越して顔をひきつらせながら誠が答える。

「でも、何で?」

「何でって…。今日お前の誕生日だろ」

きょとんとしている彩に、呆れて肩を落としながら誠は言った。

⏰:11/11/05 22:24 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#136 [我輩は匿名である]
そう言われて初めて、彩は今日の日付を思い出した。

今日5月25日は、彩の17回目の誕生日だ。

「あ〜っ!そうだ!今日私の誕生日じゃん!!」

「忘れてたのか…?」

「うん!!」

大きく頷く彩に、誠はため息をつく。

「やったぁ!ねぇねぇ、開けてもいい?」

「…家帰ってから開けろよ…」

⏰:11/11/05 22:25 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#137 [我輩は匿名である]
「いいのいいの!」

誠の返事が返ってくるより先に、彩は早速それを取出し、丁寧にラッピングをはがす。

中には、音楽プレイヤーに接続して曲を流すと踊りだす、ぬいぐるみ型スピーカーが入っていた。

「!!!!!」

全く言葉にならない声を上げながら、彩は箱のままそれを抱きしめる。

見るからに幸せそうな彼女の表情に、誠もまた、ほっとしたように笑みをこぼす。

「ありがとー!
こういうの欲しかったんだぁ❤記念すべき1曲目何かけよー?」

「演歌」

「絶対やだ!」

2人はしばらく、そのベンチに仲良く座って楽しそうに話していた。

⏰:11/11/05 22:26 📱:PC/0 🆔:lu/Ru1I.


#138 [我輩は匿名である]
「盲点でしたね」

一方、南里と土谷は苛立ったような顔でパトカーに乗っていた。

「盲点というより、焦りすぎて全然見えてなかった感じだな」

「…そう…ですね」

「悔しそうだな」

「当たり前です!容疑者かと思ってた人間に、しかも普通の高校生に、あんな風に馬鹿にされるなんて」

こういう所は、やはりキャリアらしい。明らかに土谷よりも悔しがっている。

⏰:11/11/07 21:37 📱:PC/0 🆔:V2jgNdus


#139 [我輩は匿名である]
「でも、あの2人の言う事はごもっともだったな。確かに、今回だけ防犯カメラに映ってたのは、おかしいと言えばおかしい」

「…また白紙に戻ってしまいましたね」

「初心に戻っていいじゃねぇか」

「…意味違いませんか?」

「似たようなモンだろ」

2人は気持ちを落ち着かせるように話をしながら、警察署に戻って行った。

⏰:11/11/07 21:37 📱:PC/0 🆔:V2jgNdus


#140 [我輩は匿名である]
月曜日。彩たちが通う高校は、今日から1週間全授業を中止し、凛が事件に巻き込まれたことを受けて、全ての生徒の登校を禁止した。必要時以外の外出も控えるようにと、昨日の連絡網で回ってきた。

ホッとしたような、でも少し残念なような複雑な気持ちで、彩は自室から外の景色を眺める。

凛の様子を見に行きたいが、今はやめておいた方がいいだろう。事件直後という事もあって、面会できないかもしれないし。

そんな事を、ただボーっと考えていた。

「みんな何してるのかなぁ…?」

⏰:11/11/14 21:57 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#141 [我輩は匿名である]
誠は机に向かい、パソコンで調べ物をしていた。

内容は、3年ほど前に騒ぎになっていた、ある事件の容疑者の事。

老若男女構わず何人もの人間を刺殺し、現在も逃亡中の連続殺人鬼。

葛城歩。25歳男性。

わずか半年で被害者は19人。全員死亡している。

彼の潜伏先まで突き止め、接触までできたのに取り逃がしてしまった警察に対し、多くの非難の声が寄せられたことも、よくニュースで取り上げられていた。

その記事1つ1つに目を通していた誠のそばで、携帯電話のバイブが鳴り出した。

⏰:11/11/14 21:57 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#142 [我輩は匿名である]
誠は発信者の名前を確かめ、電話に出る。

「もしもし」

「あー誠ー?元気?」

かけてきたのは司。同様の被害が多く出ているため、彼の高校も休校になっているらしい。

「あぁ、一応な」

「そりゃよかった。この間さぁ、警察に連れてかれちゃって参ったよ」

「2Aは全員連れて行かれて事情聴取されてる」

「らしいね。ったく、もうちょっと他に方法ないのかな?結局その後も小山やられちゃってるし」

⏰:11/11/14 21:58 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#143 [我輩は匿名である]
呆れたように司は言う。

「昨日俺と塩見の所にまた来たんだよ、警察。言い返したら逃げてったけど」

「へ?何で?」

「小山がやられた時に中央公園の近くにいたからな」

「…そりゃ怪しまれるだろ、どう考えても。何してたんだよ」

「…誕生日のプレゼントを買いに」

「あぁ、塩見?お前冷たいフリしてそういう事はちゃんとするよな」

「一応、な」

誠は少し恥ずかしそうにむすっとして答える。

⏰:11/11/14 21:58 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#144 [我輩は匿名である]
「…ところで、進んでる?そっちは」

「今調べてるとこ。お前は?」

「さっぱり。まぁ、俺みたいな一般人がわかるぐらいなら、先に警察が見つけ出してると思うけどな」

「どうだろうなぁ?結構抜けてそうだぞ?防犯カメラもろくに見てねぇ奴らだし」

「…大丈夫なのかな?この国…」

「さぁな」

2人はそろってため息をつく。

⏰:11/11/14 21:59 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#145 [我輩は匿名である]
「またなんかわかったら連絡するよ」

「うん、こっちも。ちゃんと生きといてくれよ?お前狙われそうなキャラだから心配だわ」

「何だよそれ」

「はははっ。じゃあな」

電話はそれで切れてしまった。

相変わらず自由奔放な彼に、誠は小さく笑い、電話を置いてまたパソコンに向き直った。

⏰:11/11/14 21:59 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#146 [我輩は匿名である]
「あー暇暇暇!!」

「皐ちゃん声大きいよ」

皐と美穂も、暇つぶしに電話をしていた。

ストレスがたまっているのか、いつもに増して声が大きい皐に、美穂は真顔で電話を耳から遠ざける。

「いいね、事件に関係してない人は」

美穂は羨ましそうに言う。

「警察に呼ばれたりしないし、びくびくしなくていいし」

「まぁね。ほんと、いつ終わるんだろうね?この事件。マジいい迷惑」

「そうだね…」

⏰:11/11/14 22:00 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#147 [我輩は匿名である]
皐はにやっと笑う。

「みんなの恋愛事情も見れないしねぇ」

「誰の?」

「あんた達だよ!!どこまで鈍感なの!?」

皐に怒鳴られ、美穂はまた受話器を話しながらきょとんとする。

「え?私?彩ちゃんじゃなくて?」

「彩もあるけど!」

「そういえば、皐ちゃんは?好きな人とかいないの?」

美穂がコロッと話を変える。

⏰:11/11/14 22:00 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#148 [我輩は匿名である]
「わ、私は…」

すると、珍しく皐が言葉を濁した。

美穂は首をかしげる。

「私は…ないよ」

「嘘だぁ。皐ちゃんがそんな声出す時は大体怪しいよ」

「…うるさいなぁ」

「何々〜?美穂ちゃんが聞いてあげるよ〜?」

⏰:11/11/14 22:01 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#149 [我輩は匿名である]
美穂は楽しそうに笑う。

「いいよ!…どうせかなわないんだし」

「え?」

「…なんでもない!」

「ふうん…」

変なの。美穂はかなり気になったが、皐の態度を考えると、それ以上は聞けなかった。

⏰:11/11/14 22:01 📱:PC/0 🆔:UZEoRmCY


#150 [我輩は匿名である]
「何しに来たんだよ」

土谷は腕を組んで睨む。

「だってよー、学校いけねぇと暇でさー」

頭の後ろで手を組んで、つまらなさそうに龍也が言う。

「だからってうかつに出歩いてんじゃねーよ!」

「だって俺関係ねーもーん。そう言うんならさっさと捕まえろよな!」

2人は警察署内でにらみ合う。

「あの…どなたですか?」

静かに、南里が2人の間に割って入る。

⏰:11/11/16 21:36 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#151 [我輩は匿名である]
南里を初めて見る龍也は、目を丸くして彼女を見る。

「あぁ、こいつは俺が面倒見てる寺田龍也」

「どうも」

龍也は急におとなしくなって、ぺこっと頭を下げる。

「そうだったんですか」

「…あんたは?」

「あぁ失礼しました。私は警視庁捜査一課の南里由紀と言います」

⏰:11/11/16 21:36 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#152 [我輩は匿名である]
「(…美人…)」

「おい、鼻の下伸ばしてんじゃねーよ」

「のっ、伸ばしてねーよ!俺にはちゃーんと…」

「ちゃーんと、何だよ?」

土谷にニヤニヤ笑われ、龍也は内心「やべぇ」と口をつぐむ。

「…じゃっ、俺帰るわ」

「あ!?おいこら!」

土谷の声を振り切って、龍也は走って警察署を出た。

⏰:11/11/16 21:36 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#153 [我輩は匿名である]
「(…いや、別に言ってもよかったんだけどな…)」

思わず逃げてしまったが、龍也はふと思う。しかし、何だか急に恥ずかしくなった。

「…あ〜あ、つまんねぇなぁ…」

龍也はポケットに手を突っ込んで、ふと空を見上げてつぶやいた。

⏰:11/11/16 21:37 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#154 [我輩は匿名である]
毎日、そんな日が続いた。退屈で、でも安心な日々。

6日たったこの土曜日も、そんな日になるはずだった。

春香は財布に入れていたCDの予約券を手に、それを眺める。

予約の期限が今日で切れてしまう。本当は学校帰りに買う予定だったのだが、学校に行けなくなってしまい、買いに行くタイミングを完全に失っていた。

「…今日ぐらいいいよね。どうせ明後日からまた学校始まるんだし」

春香は立ち上がり、部屋を出る。

「お母さん!CDだけ買いに行ってきていい?すぐ帰ってくるから!お願い!」

台所で、母親に向かって手を合わせる。

⏰:11/11/16 21:37 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#155 [我輩は匿名である]
母親は少し考えた末、「すぐ帰ってくるのよ?絶対人通りが多いところだけを通りなさい」と了承してくれた。

「ありがとう!行ってきます!」

春香は大喜びし、鞄を持って家を飛び出す。

幸い、ここからCDショップまではそう遠くなく、大通りを通るので安全だ。

春香は久しぶりの外出に、なんとなく心躍らせながら歩く。

ただの買い物でこんなに開放感を覚えたことは、おそらく今までなかっただろう。

無事にCDショップに到着し、念願のCDを買った。

⏰:11/11/16 21:38 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#156 [我輩は匿名である]
「(やっと買えたー♪)」

袋に入ったCDを大事そうに鞄に入れ、店を出る。

そこで、ふとあることを思いついた。

「(…せっかくだし、ちょっとだけ本屋にも行こうかな)」

そういえば、雑誌も買いたかったっけ。春香は迷ったが、どうせすぐそこだし、と歩を進める。

同じ大通りの、少し先に行ったところに本屋はある。

⏰:11/11/16 21:38 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#157 [我輩は匿名である]
土曜日という事もあり、だいぶ混雑している。人をよけながらなんとか歩く。

「(あ、そういえば彩にメール送ろうと思ってたのに、すっかり忘れてた)」

ぼーっとしていると、突然全く関係の無い事を思い出すのは、よくある事である。

この間電話した時には、変な空気で終わり、ずっとそのままだった。

あの時、何て答えればいいのかわからなくて、黙り込んでしまった。きっと、彩は少なからず気にしているだろう。

「(帰ったらメール送ろう)」

そんな事を思っていると、向こうから歩いてきた男性にぶつかりそうになった。

「あっ…すみません」

目の前で止まったため、ぶつかりはしなかった。

⏰:11/11/16 21:38 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#158 [我輩は匿名である]
「こちらこそ」

愛想よく、目の前の黒髪の男性が笑う。

ホッとして、春香も小さく笑い返す。

その直後。

胸元に鈍い痛みを感じた。

春香はどうしたんだろうかと視線を落とす。

そして、自分の目を疑った。

目の前の男性の手が見える。そしてそれに握られているナイフも、それが自分に突き刺さっているのも、そこから溢れ出る赤い液体も。

⏰:11/11/16 21:39 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#159 [我輩は匿名である]
「心配しなくても、心臓に刺さってるからあんまり苦しまずに死ねるよ」

男性がにっこり笑う。

「バイバイ」

そして、素早くナイフを引き抜き、ポケットに入れた。

それ以上何も言えないまま、春香はその場に倒れ込む。

そうなってやっと、周りの人が気付いた。多数の悲鳴が上がり、騒然とし始める大通り。

男性は人の流れに乗り、その場から消えた。

こんなことなら、わざわざCDを予約なんてしなければよかった。期限が切れても、月曜日の学校帰りまで待てばよかった。薄れゆく意識の中で、春香は後悔した。

⏰:11/11/16 21:40 📱:PC/0 🆔:1VbN4.DY


#160 [我輩は匿名である]
春香ちゃああん(;_;)

⏰:11/11/16 21:45 📱:W62P 🆔:cvuFfvFM


#161 [我輩は匿名である]
彩の携帯が鳴る。ディスプレイを見ると、南里からの電話だ。

「もしもし」

「あ…突然ごめんなさい。南里です」

「こんにちは」

この間の事は水に流すとするか。彩はいつものように挨拶する。

「塩見さん…あなた、長谷部春香さんととても仲が良かったそうね」

南里の声は、どことなく暗く聞こえる。

「え?はい、いつも一緒にいましたけど」

春香がどうかしたのか。彩は首をかしげる。

⏰:11/11/22 19:27 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#162 [我輩は匿名である]
「どうかしたんですか?」

「………亡くなったわ」

南里のその一言に、彩は思わず息を止める。

一瞬、彼女が何を言ったのかわからなくなった。意味が分からなかった。

「…いつ…?」

「今日の昼、13時半頃です」

「どこで?どうして!?」

彩は全然信じられず、ただ何度も問いかける。

⏰:11/11/22 19:27 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#163 [我輩は匿名である]
「…駅前の国道です。歩道で、…胸部を一突きされて」

彩は全身の力が抜け、あやうく携帯電話を落としそうになった。

また事件の被害者が増えた。1人ずつ、自分の周りの人間が消えていく。彩はもう、我慢できなくなった。

「…どこですか?」

「…何がです?」

「…春香がいるところ」

彩は南里から、春香の遺体が近くの警察病院に搬送されたことを聞いた後、すぐに電話を切って家を飛び出した。

⏰:11/11/22 19:28 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#164 [我輩は匿名である]
外に出るのが怖いなど、今はこれっぽっちも思わなかった。

「塩見!」

マンションを出たところで声がした。向かいのマンションを見上げると、3階のベランダから誠が顔を出している。

「どこ行くんだよ?もう暗くなるぞ」

「…春香が…」

「…聞こえないから降りる。ちょっと待ってろ」

誠はそう言うと、いったん姿を消し、すぐにマンションから出てきた。

⏰:11/11/22 19:28 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#165 [我輩は匿名である]
「何て?」

「春香が…春香が、…殺されたって…!」

今にも泣きだしそうな様子の彩に、誠の表情が曇る。

「…いつ?」

「今日、駅前の大通りで…。私、警察病院まで行ってくる!」

「待てよ!」

慌てて走り出そうとする彩の手を、誠がつかんで止める。

「お前、1人で行く気か?“狙ってくれ”って言ってるようなもんだぞ!?」

「でも!」

⏰:11/11/22 19:29 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#166 [我輩は匿名である]
「落ち着けよ!今から走って行ったら暗くなる!…タクシーかなんか拾うぞ」

思わぬ言葉に、彩はきょとんとする。

「え?うっちー…一緒に行ってくれるの?」

「…1人で行かせられないだろ。そんな話聞いちまったら」

「…うっちー…」

今まで張りつめていたような気持ちが緩んだように、彩の目に一気に涙が浮かんできた。

「…泣くなよ。まだ早いだろ。…病院行ってから泣け」

「…うん…」

彩は必死にそれをこらえて、誠と一緒にタクシーを拾って病院に向かった。

⏰:11/11/22 19:29 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#167 [我輩は匿名である]
財布の有り金をはたいて、病院に着くころにはもう暗くなっていた。

時間外の受付から病院に駆け込む彩の前に、意外な人物が現れた。

「…皐ちゃん!」

「彩!?内村君まで!」

廊下でばったり出会った3人は、思わず足を止める。

「何してるの?こんなところで」

「いやぁ、暇だから小山さんのお見舞いでもって思ったんだけどさ。面会断られちゃって」

「そりゃそうだろ。病院なんか誰でも入ってこれるんだぞ」

呆れたように誠が言う。それを聞いて、皐は複雑な顔で視線を外す。

⏰:11/11/22 19:30 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#168 [我輩は匿名である]
「そういう彩たちは?」

「私は…」

「塩見さん」

皐の後ろから、南里の姿が見える。どうやら彩たちを待っていたかのようだ。

「南里さん!」

彩は南里に駆け寄る。一緒についていく誠に、気になる皐もわけもわからずついてくる。

「春香は!?」

「……こっちよ」

南里は多くは語らず、彩たちを案内しようと歩き出す。

⏰:11/11/22 19:30 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#169 [我輩は匿名である]
素直についていこうとする彩の肩を、誠が軽く掴む。

「……大丈夫か?親友の死体見ることになるんだぞ」

「…私はこの目で見るまで信じない」

南里が嘘をつくような人間でないのは、彩も大体知っている。しかし、春香が死んだなんて、どうしても信じたくなかった。

信じるには、自分の目で見てからだ、と。

階段を下り、着いた先は霊安室だった。

ここに来た時点でもう間違いないだろう。誠は思ったが、何も言わずに彩の後ろからついて行く。

⏰:11/11/22 19:30 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#170 [我輩は匿名である]
皐は皐で、“春香”という人物も知らないまま何となくついて来ている。

ある部屋の前で、呆然と長椅子に座り込んでいる、春香の家族がいるのが見えた。

「…彩ちゃん」

春香の母親が気づき、声を漏らす。

「おばさん…」

しかし、春香の母親はそれ以上何も言わず、黙って下を向いた。

南里が立ち止まる。

「…長谷部春香さんは、この先よ」

⏰:11/11/22 19:31 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#171 [我輩は匿名である]
そう言って案内された向こうには、白い、重そうな1つのドア。

彩と誠は、静かにドアを開け、部屋に入る。

2人の前には、よくドラマで見るような、顔に布をかけられて横たわる1体の人間。

彩はしばらくそこに立ち尽くしたが、ゆっくりとそれに近づく。

誠はそれ以上歩を進めようとはしない。ただ、彩の後ろ姿を見つめている。

震える手で、彩はその布をめくる。その瞬間、その頬を一筋の涙が伝った。

少し色白だが、それは、今まで修学旅行や彼女の家に泊まりに行った時に見た寝顔と変わらなかった。

ただ一つ。呼吸をしていない事を除いて。

⏰:11/11/22 19:31 📱:PC/0 🆔:tgc3i41M


#172 [我輩は匿名である]
春香の顔を見ていると、まるで自分の時間まで止まったような、奇妙な感覚がして、彩は静かにまた布をかけ直した。

そして、何も言わずにその部屋を出る。

「…南里さん」

「はい」

「…ちょっと…お聞きしたいことがあります」

彩は生気のない顔で言う。

南里はちらりと春香の両親に目をやった後、「場所を変えましょう」と言って、階段を上って再び1階に上がる。

⏰:11/11/22 19:32 📱:PC/0 🆔:OPGn0BSU


#173 [我輩は匿名である]
「…あぁ、来たんだな」

今度は、南里の足らしい土谷が現れた。

さすがに今回ばかりは、土谷はいつものふざけた態度ではない。

彩は俯いたまま、静かに口を動かす。

「…何なのよ…」

彩の震える声に、南里や土谷、誠、皐は黙って彼女を見る。

すると、彩が急に顔を上げ、険しい表情で南里に掴みかかった。

⏰:11/11/22 19:32 📱:PC/0 🆔:OPGn0BSU


#174 [我輩は匿名である]
「あんた達何してたのよ!?今まで何人死んでると思ってるのよ!!」

目を真っ赤に充血させて、彩は大声で怒鳴りつける。南里の表情から、驚きと困惑の色が滲む。

「あんた警察でしょ!?警視庁から来たお偉いさんなんでしょ!?だったらさっさと終わらせなさいよ!こんな事件!!

大事な友達がみんな被害にあって!学校にも行けない!自分だっていつ狙われるかわからない!こっちはもう気が狂いそうなの!!毎日毎日怖くて仕方ないのよ!!」

「塩見」

誠が制止に入るが、彩は強くその手を振りほどく。

「何で黙ってるの!?何で捕まえられないのよ!!うっちーを犯人扱いしてる暇があったら、もっと力入れて調べなさいよ!!」

「嬢ちゃん」

今度は土谷が、誠とは違い力強く彩の手をつかみ、南里から引き離す。

⏰:11/11/22 19:33 📱:PC/0 🆔:OPGn0BSU


#175 [我輩は匿名である]
怒り、恐怖、悲しみ…。いろいろな感情が入り混じって、彩はぼろぼろと泣きながら息を切らす。

しかし、それでも再度、南里や土谷をきつく睨みつける。

「…私はもう、警察なんか信用しない。もうあんた達なんかに頼らない!」

叫ぶように言うと、彩は土谷を突き飛ばして外へと走り出した。

誠たちもそれを追って病院を出て行った。

⏰:11/11/22 19:33 📱:PC/0 🆔:OPGn0BSU


#176 [我輩は匿名である]
壁にもたれかかったまま、南里は下を向いて黙り込む。

土谷も苛立ったように頭を掻き、ため息をつく。

「…あの子の言う通りですね」

南里は笑って言う。しかし、その目にもうっすらと涙が見えた。

「本当…私は何をしているんでしょうね…。…こんな事では…警視庁捜査一課なんてとても名乗れませんよね」

力なく話す南里に、土谷は何も言えず、ただ黙って彼女を見つめる。

⏰:11/11/22 19:34 📱:PC/0 🆔:OPGn0BSU


#177 [我輩は匿名である]
「…すみません。…今泣きたいのは、私なんかじゃないのに…」

南里はそう言いながら、何度も涙をぬぐった。

「…そう思うなら、行こうぜ。俺たちには、泣いてる暇なんかねぇよ」

「…はい」

そう言うと、2人は黙って歩き出した。

⏰:11/11/22 19:34 📱:PC/0 🆔:OPGn0BSU


#178 [我輩は匿名である]
「塩見!」

誠が追いつき、彩を止める。

彩はやっと、脱力したように足を止めた。

「もう嫌だ…」

彩は両手で顔を覆い、泣きじゃくり始めた。

「何でこんな事になっちゃったの…?何で私たちがこんな目に遭わなきゃいけないの!?私たちは何もしてないのに!」

怒りの矛先をどこにも向けることができず、彩はやるせなくなって誠の胸にもたれる。

誠は何も言わずそれを受け止め、黙って泣き続ける彼女をじっと見つめる。

2人の様子を、皐は1人、複雑な気持ちでそれを見た後、音を立てずにその場を後にした。

⏰:11/11/22 19:34 📱:PC/0 🆔:OPGn0BSU


#179 [我輩は匿名である]
次の日。いまだに何も考えられず、ベッドで膝を抱えて座っている彩のもとに、出かけるような格好をした母親がやってきた。

「彩、お母さんちょっと学校行ってくるから」

「…何で?」

どうして急に。彩は少し顔を上げる。

「緊急の保護者会でね。『いつまで授業を中止したままなのか』って抗議する親が増えてるから、話し合うらしいのよ」

「は…?」

彩は愕然とする。昨日にもあんな事件が起きたばかりなのに、授業うんぬん言っている場合か。

「だから、家から一歩も出ちゃだめよ。終わったらすぐ帰ってくるから」

母親は心配そうにそう言って出かけて行った。

⏰:11/11/24 23:49 📱:PC/0 🆔:Oj25pFvo


#180 [我輩は匿名である]
彩はその親たちの思考が理解できず、憤ったように手を握り締める。しかし、少ししてそれをほどいた。

確かに、皐や龍也のように、事件に関係しない生徒からすれば迷惑な話だろう。その親たちだって、授業が進まないことに怒り出すのも無理はない。

どんどん狂っていく。自分の周りの環境も、人間たちも、自分も。彩はまた、膝を抱える。

どうすればこの事件が終わるのだろう。

ボーっとそればかり考えていると、彩はふと、ある事を思い出した。

『次は誰だと思う?』

いつしか、誠が司と話している時に聞こえた言葉。

⏰:11/11/24 23:49 📱:PC/0 🆔:Oj25pFvo


#181 [我輩は匿名である]
もしかしたら誠は、この事件について何か知っているのかもしれない。

彩は誠に電話を掛ける。

「もしもし」

いつもの声で、誠が電話に出る。

「…うっちーさぁ」

彩は暗い声のまま、単刀直入に言う。

「この事件の事、何か知ってるよね」

「…は?」

急によくわからない質問をされ、誠が思わず聞き返す。

⏰:11/11/24 23:49 📱:PC/0 🆔:Oj25pFvo


#182 [我輩は匿名である]
「どういう意味?」

「ちょっと前、梶浦君と事件の事話してたでしょ?…何か知ってそうだったから」

「別に…何も知らねぇよ」

「『次は誰だと思う?』って、この事件が続く事知ってたじゃない」

彩が言うと、図星だったのか、誠が黙り込んだ。

やっぱり。彩は確信し、彼の返事を待つ。

「…何となく、続きそうな気がしただけだよ」

「“気がした”だけで、あんな真面目そうな顔で喋る?うっちーはともかく、梶浦君があんなに真面目そうに話すのって初めて見たよ?」

⏰:11/11/24 23:50 📱:PC/0 🆔:Oj25pFvo


#183 [我輩は匿名である]
「お前が初めてなだけだろ」

「…何で教えてくれないの?」

彩はより低い声で問い詰める。

「私だって…私だってこんな事件、さっさと終わってほしい…!終わらせれるなら終わらせたい!警察が信用できないなら、私たちが自分でどうにかしなきゃ!私たち、いつ死んじゃうかわからないんだよ!?」

「わかったから、ちょっと落ち着けよ」

焦りからか、どんどん止まらなくなり始めた彩を誠が止める。

誠に言われ、彩はやっと口を閉じる。ここまで口に初めて、自分がここまで追い詰められていたことに気が付く。

以前から恐怖は抱いていたが、春香が亡くなったことで、さらにそれが膨らんできている。

⏰:11/11/24 23:50 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#184 [我輩は匿名である]
「…もう一回言うけど、俺も司も、事件の事は何も知らない。ただ調べてるだけで」

「…何を調べてるの?」

「…誰にも言うなよ。下手すると狙われるかもしれないから」

『狙われるかもしれない』。その一言に、彩は躊躇する。

誰かに言うつもりはないが、どんな情報なのかと思うと、自然と心拍数が上がる。

「…うん」

彩は決心して、大きく頷く。

「…何年か前、この辺で殺人事件があったの覚えてるか?刃物で刺されて十何人かが殺されたやつ」

⏰:11/11/24 23:51 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#185 [我輩は匿名である]
「…そんな事件あった?」

「あった。…今、家か?」

「え?うん」

「…俺の家来れるか?電話だとめんどくさい」

「…大丈夫かな」

「防犯カメラの前では事件は起こらない」

「…そっか。…じゃあ、行く」

「エントランスで待ってるから」

⏰:11/11/24 23:51 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#186 [我輩は匿名である]
「うん。わかった」

彩は電話を切り、家を出る。

大丈夫だとは思っても、やはり外出するのは怖い。足早に階段を下りて、誠の待つ向かいのマンションに走る。

彩がエントランスに到着すると同時に、誠もやってきた。

「早いな」

「当たり前じゃん!怖いもん!…で、何するの?」

「家に入ってからな」

外では話したくないようで、誠はきっぱり言い放った。

しかたなく彩も黙り、ひたすら歩いて誠の家までたどり着いた。

⏰:11/11/24 23:51 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#187 [我輩は匿名である]
「おじゃましまーす」

「今は俺以外誰もいないから、適当にくつろいでいいぞ」

「くつろぎに来たんじゃないし」

「…まぁそうだけど…」

2人はそう言いながら、誠の部屋に入る。

「…相変わらず何もない部屋だね」

きょろきょろしている彩を尻目に、誠は自分のパソコンの電源を付ける。

「塩見、ちょっとこっち来い」

⏰:11/11/24 23:52 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#188 [我輩は匿名である]
「ん?」

棚に積み上げられたCDを眺めていた彩は、誠の隣に来て彼のパソコンを覗き込む。

画面には、ある殺人事件の記事と容疑者らしい男性の顔写真が映し出されている。

黒い短髪で、一見普通の、その辺にいそうなその男性の写真に、彩は「あ」と声を漏らす。

「この人、ニュースで見たことある!」

「さっき俺が言った、何人も刺して殺した殺人犯、葛城歩」

誠に説明されて、彩はやっと思い出した。そういえば、この近辺でよく殺人事件が起きていた時期があった。

⏰:11/11/24 23:52 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#189 [我輩は匿名である]
被害者には一切接点はないが、共通点が1つ。被害者全員が、ナイフか何かで胸部を一突きされてほぼ即死だったこと。

その容疑者として名前が挙がったのが、この写真の男、葛城歩だった。

警察がもう少しで捕まえられるという所で取り逃がしたというニュースを見て、中学生ながら「みっともない」と思ったものだ。

「でも、何で今頃この事件なんか調べてるの?」

「…この事件と今回の事件、似てないか?」

誠にそう言われて、彩は「うーん」と首をひねる。

確かに、人気のない暗い道で事件を起こしている事や、凶器が刃物であるという事、方法が同じだという事は酷似しているようにも見える。

しかし、なぜ彼が自分たちを狙うのかわからない。

⏰:11/11/24 23:53 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#190 [我輩は匿名である]
「言われてみれば似てるけど…何でこの人が私たちを狙うの?」

「そこまでは俺も知らない。でも、俺たちが中学2年になって何か月かしてから、こいつの事件が全くなくなった」

「…私たちのクラスの子が、この人と何かあったかもしれないって事?」

「そうじゃないかと、俺と司は思ってる。…思ってるだけだけどな」

「…うっちー警察やった方がいいんじゃないの?」

彩は真面目な顔で誠に言う。

「命かける仕事なんかしたくねぇよ。…お前、何か飲む?」

「お茶ほしい!」

彩の返事に、誠は部屋を出て行った。

⏰:11/11/24 23:53 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#191 [我輩は匿名である]
彩は椅子に座り、パソコンとにらめっこする。

中学2年の時、特にこんな事件に関係した生徒はいなかったはずだ。なのに、なぜこの葛城が自分たちを狙い、殺す必要があるのか。それだけがわからない。

もちろん男子高校生のただの予想にすぎず、何の確証もないのだが、全く見当がついていない警察を見ていると、誠の話を信じたくなる。

そんな事を考えていると、麦茶が入った2つのグラスを持った誠が戻ってきた。

「ねぇうっちー。犯人この人かもしれないって、警察に言った?」

「言ってねぇよ。一般人が気付くぐらいなんだから、あいつらだってわかるだろ」

「わからないかもしれないよ!だってあの人たち、何もわかってなかったじゃん」

「まぁそうだけど…」

誠は、グラスを1つ彩に手渡しながら返事をする。

⏰:11/11/24 23:54 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#192 [我輩は匿名である]
ベッドに座って麦茶を飲む誠を、彩はじっと見つめる。

「…もしかして」

グラスから口を離し、誠が言う。

「警察に黙って、自分で捕まえようとか思ってるんじゃないよな」

「…わからない」

彩は視線を外す。

「自分で捕まえられる何て思ってないし、そもそも犯人に会いたくない。でも…あの人たちに言って、本当に捕まえてくれるのかもわからないし…」

「…俺たちは、一応言うつもりだ。無能でも、警察は警察だからな」

⏰:11/11/24 23:54 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#193 [我輩は匿名である]
「そうだよね…」

「…塩見、女刑事の電話番号知ってたよな?」

「あの時名刺もらったじゃん」

「どっかいっちまってさ」

「何してんの!?もー…」

彩は持ってきた携帯電話を操作し、南里の携帯番号を表示する。

「かけようか?」

「いいよ、自分のでかける」

彩の携帯を見ながら、誠は自分の携帯電話で南里に電話をかけ始めた。

⏰:11/11/24 23:54 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#194 [我輩は匿名である]
「はい、南里です」

「…あんた達に犯人扱いされた内村誠ですけど」

相手が出て早々ケンカを売るような言い方の誠を、彩はひやひやしながら見る。

「あぁ…あの時はごめんなさい」

「冗談ですよ。こうでも言わないとわかってもらえないと思って」

「(…絶対怒ってる…)」

顔は真顔だが、明らかにあの時の事を怒っている。彩は誠を見て思った。

「刑事さんたちに、ちょっと話があって」

⏰:11/11/24 23:55 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#195 [我輩は匿名である]
「話…?」

南里の疑り深い声が、誠の携帯電話を通して彩にも聞こえる。

「…犯人なんじゃないかなぁと思う人が1人いるんですけど」

「…急に何かと思ったら…。本当に言っているの?」

「嘘だと思うんなら電話切りますよ」

「(…怖いよこの2人…)」

誠の隣に移動して電話の内容を聞く彩は、ちょっと肩を縮める。

「…誰?参考程度に聞いておくわ」

⏰:11/11/24 23:55 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#196 [我輩は匿名である]
「3〜4年前、この辺で殺人事件を起こしてた葛城歩って、覚えてます?」

「……えぇ、覚えてるわ。でも、なぜ彼だと?」

「手口が似てるから。…あと、俺たちが中学2年になってから、全く事件が起きなくなったから、もしかしたら何かあるんじゃないかと思って」

「…確かに、手口は似てるわね。でもあなた達のクラスメイトと彼は、何も接点なんてないでしょう?」

「今までの被害者もなかったはずですよ」

「よく調べてるのね」

「そりゃ、自分の命にかかってることですからね」

⏰:11/11/24 23:56 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#197 [我輩は匿名である]
「…いいでしょう。葛城は葛城で逮捕しなきゃいけない人間だし、こっちでも調べてみます。ありがとう」

「お願いします。俺たちもこんな事、もう嫌なので」

「そうね。それじゃあ、また何かあったら言ってください」

2人の電話はそれで終わった。

「これでいいだろ。…何だよ、その疲れ果てた顔は」

「…疲れるよ、うっちー達の電話聞いてると」

「?」

静かな言い合いを聞いていたような気がしてうなだれる彩に、誠は不思議そうに首をかしげた。

⏰:11/11/24 23:56 📱:PC/0 🆔:tI5MkzOk


#198 [我輩は匿名である]
その日の夜、保護者会に行ってきた母親から、“今日から1週間以内に新たな事件が起きなかった場合、午前中に限って全授業を再開する”という意見で決まったという事を聞いた。

1週間は、意外と早く過ぎて行った。その上、まるでその情報を犯人たちも知っていたかのように、事件が全く起こらなかった。

⏰:11/11/26 21:04 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#199 [我輩は匿名である]
月が替わった6月8日。ようやく彩たちが学校に行けるようになった。

それで彩達の緊張が和らぐわけではないが、久しぶりに友人たちに会うと、少しだけ気が休まる。

「彩ー!!」

登校して早々、皐が抱き着いてきた。

「おはよ」

「久しぶり!もう超暇だったー!」

よっぽどストレスがたまっていたのか、いつもに増してさらに声が大きい。

⏰:11/11/26 21:04 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#200 [我輩は匿名である]
「あっ、内村もおはよ!」

「…おはよ」

眠そうな顔の誠は、短く挨拶してさっさと自分の教室へ行ってしまった。

「もしかして一緒に来たの!?」

「え?うん、1人じゃ危ないから…って」

「そうなんだ」

そう言った皐の笑顔がなぜか、彩には暗く見えた。

⏰:11/11/26 21:05 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#201 [我輩は匿名である]
「彩ちゃーん!皐ちゃーん!」

今度は美穂が教室にやってくる。

すると、ちょうど同じタイミングで入ってきた忍とぶつかってしまった。

「あっ、ごめんなさい!」

美穂はそれだけ言って、小走りで彩たちの所へ走ってくる。

「久しぶり!元気だった?」

「元気だったよ!美穂は!?」

「私もー!」

仲良く抱き着いている2人を見て、彩はほっとしたように笑う。

⏰:11/11/26 21:05 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#202 [我輩は匿名である]
「相変わらず大きいほくろだねぇ♪」

「うるさいな!」

抱き着いた拍子に目に映ったのか、皐の首元のほくろを見て美穂が笑う。

「…彩ちゃん」

美穂は、今度は彩の方を向いて小さく笑う。

「…電話で聞いたよ、春香ちゃんの事。…気を落とさないで」

美穂に言われ、彩も同じように笑って頷いた。

⏰:11/11/26 21:05 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#203 [我輩は匿名である]
「それにしてもあの陰キャラ、美穂にぶつかっといてダンマリかよ!」

皐はよっぽど嫌いなのか、むすっとした表情で小言を言いながら忍の背中をにらむ。

「陰キャラ?」

「そう!さっき美穂がぶつかったやつ、岡本忍っていうオタクだよ」

「ふーん」

鼻息を荒くしている皐とは反対に、美穂がどうでもよさそうに返事する。

すると、その美穂の視界が急に真っ暗になった。

「きゃあ!?」

⏰:11/11/26 21:06 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#204 [我輩は匿名である]
「よっ♪」

「寺田君!」

美穂に目隠ししていた手を離し、龍也が笑う。

「おはよー」

「何しに来たんだよ」

「いやー青山が嬉しそうに入って行ったのが見えたからさ、俺も行こうと思って」

「何その理由」

自分も嬉しそうにデレデレしている龍也を見て、皐が呆れている。

⏰:11/11/26 21:06 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#205 [我輩は匿名である]
「寺田君も、元気そうだね」

ここでは、みんな変わっていない。彩もちょっと嬉しくなって話の輪の中に入る。

「元気も何も、暇すぎてさぁ!この間も暇だったから、おっさんのとこに抗議しに行ったんだけど、『忙しい』っつって相手にしてくれなかったし」

「え、おっさんって誰?」

「知らなかったっけ?俺がぐれてた時に話聞いてくれた、刑事のおっさん。土谷っていうんだけどさ」

「土谷…」

どこかで聞いたことがあると思ったら、誠が疑われたときに南里と一緒にいたあの髭の刑事か。

⏰:11/11/26 21:06 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#206 [我輩は匿名である]
「そんなに忙しそうにしてたの?刑事さん。何かわかったのかなぁ?」

「さぁ?でも、犯人かもしれない奴がわかったから、探してるって」

「マジで!?じゃあやっと終わんの!?やったー!」

皐がガッツポーズをする。

土谷が言っているのは、1週間前に誠が南里に言った葛城の事だろうか。まぁどちらにしろ、やっと警察が力を入れて動き出したのを聞いて、彩もようやく期待が持てる気がした。

⏰:11/11/26 21:07 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#207 [我輩は匿名である]
その日は予定通り、午前中で授業が終わった。

彩はいつも通り誠と一緒に家へと帰り、皐もぶらぶらと寄り道をして帰ろうとしていた。

美穂も1人、家への道を歩く。まだ外も明るいため、特に怖いとは思わない。

それでも、やっぱり早く帰った方がいいというのは頭の中に残っていたため、近道しようと、近所の公園を横切ろうと決めた。

公園に1歩踏み入った瞬間。誰かがぽんと、美穂の肩をたたいた。

完全に気を抜いていたため、美穂の背筋が一気に凍りつく。

⏰:11/11/26 21:07 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#208 [我輩は匿名である]
「青山?」

名前を呼ぶその声に、美穂は思わず振り返る。そこにいたのは、同じく学校帰りの龍也だった。

「寺田くんかぁ…」

美穂はこれ以上ない安堵のため息をつく。

「びっくりした…」

「え!?ごめん!全くそんなつもりなかったけど!」

龍也は慌てて謝る。

「塩見と内村が、危ないからって一緒に帰ってたからさ、…よかったら、近くまで送っていこうかなぁ、と、思って」

龍也は相当照れながら、途切れ途切れに美穂に言う。

⏰:11/11/26 21:08 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#209 [我輩は匿名である]
それを聞いて、美穂の表情がパッと明るくなった。

「本当!?ありがとう!!」

美穂の嬉しそうな笑顔に、龍也も笑って、2人並んで公園に入った。

「でも、寺田くんの家ってこっちだっけ?」

「え?いや、正反対だけど」

「良かったの?なんかごめんね、ついて来てもらっちゃって」

「え!?いいよいいよ!俺が勝手について来てるだけだし!」

「…ありがとう。寺田くん、パッと見怖いけど、優しいね」

⏰:11/11/26 21:08 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#210 [我輩は匿名である]
「(…パッと見は怖いのか、俺…)」

美穂の何気ない一言に、龍也は少し肩を落とす。

そんな事に気づかず、美穂は公園内を見渡す。いつもなら親子が遊んだり、主婦同士が楽しそうに話しているはずの公園だが、事件のせいかほとんど人影がない。

「…やっぱり、寺田くんに送ってもらってて良かった」

「何で?」

「この公園、本当はもっと人がいるの。でも、事件が起こってからは、ほとんど誰もいなくて…」

「そうなんだ。言われてみたら誰もいないな」

美穂に言われ、龍也も周りを見まわす。

「…あのさぁ、これから…何日か送っていってもいい?」

⏰:11/11/26 21:09 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#211 [我輩は匿名である]
龍也が緊張した面持ちで美穂に尋ねる。美穂はきょとんとした表情で龍也を見上げる。

「…どうして?」

「どうしてって……やっぱり、心配だから…さ」

珍しく、龍也が真面目な顔で言う。それを見た美穂も、少しドキッとして視線を落とす。

「…でも…危なくない…?」

「大丈夫だよ!俺狙われてないしさ!もし出て来やがったら、俺がとっつかまえてやるよ!」

龍也が力強く宣言する姿に、美穂は笑う。

「…じゃあ…お願いしてもいい?」

「おう!まかせとけ!」

⏰:11/11/26 21:10 📱:PC/0 🆔:RTHns4Yw


#212 [我輩は匿名である]
張り切ったように、龍也が言った直後。2人の背後からパチパチと拍手が聞こえた。

2人は同時に振り返る。そこにいたのは、1人の知らない男性。

黒い短髪で、笑顔で立っている。

「いやぁ〜頼もしいなぁ。かっこいいね、お兄さん」

「え、そう…かなぁ?」

「うんうん。じゃあ」

男性はポケットに手を入れ、何かを取り出す。それを見た瞬間、2人は動きを止めた。

⏰:11/11/28 21:54 📱:PC/0 🆔:gxp/Dz5.


#213 [我輩は匿名である]
彼が手に持っているのは、折り畳みの小型ナイフ。

「僕の事“とっつかまえて”見せてよ」

男性はにっこり笑った後、それを構えて2人に向かって来た。

「青山、ごめん!」

龍也はとっさに、美穂を強く突き飛ばした。

美穂は受け身をとる暇もなく、少し離れた地面に倒れ込む。

起き上がると同時に、今度は龍也の携帯電話が飛んできた。

「それで『土谷』って刑事に電話して!さっさと逮捕しに来いって!!」

⏰:11/11/28 21:54 📱:PC/0 🆔:gxp/Dz5.


#214 [我輩は匿名である]
「でも…!」

「早く!!」

龍也は言いながら、肩にかけていた鞄を手に持つ。

美穂は戸惑いながらも、言われたとおりに震える手で電話を掛ける。

「これは面白い」

男性は笑う。まるで、この時間を楽しんでいるかのように。

あの様子では、きっと自分も殺される。そう直感した龍也は、自分から飛び込んでいく。

「何だ?今忙しいんだが」

「刑事さん!?助けて!!私も寺田くんも殺されちゃう!!」

「…何?」

⏰:11/11/28 21:56 📱:PC/0 🆔:gxp/Dz5.


#215 [我輩は匿名である]
「この野郎!!」

男性のナイフに向かって、龍也が鞄を振り回す。

男性はそのすぐ手前で足を止め、当たらないように後ずさる。

「残念だったね!バット持ってたら勝てたかもしれないのに!」

「うるせえ!誰が負けたなんて言った!?」

言い返しながら、龍也は追い払うように鞄を振り回す。

これではナイフを出せないと思ったのか、男性はしばらく鞄を目で追う。

⏰:11/11/28 21:56 📱:PC/0 🆔:gxp/Dz5.


#216 [我輩は匿名である]
そして、何度か龍也の攻撃をかわした後、ナイフを持っていない方の手を出した。目の前に来たところで、その手は鞄を掴む。

「ワンパターンだと読まれちゃうよ?」

男性の言葉にぎょっとして、龍也は素早く手を離す。

男性は邪魔だと言わんばかりに鞄を遠くに放り投げ、再びナイフを構える。

「(やべぇ…手で止めるしかない!)」

野球で鍛えた自分の反射神経を頼りに、龍也は身構える。

⏰:11/11/28 21:56 📱:PC/0 🆔:gxp/Dz5.


#217 [我輩は匿名である]
「高校生2人がナイフ男に襲われてる!!おそらく例の連続殺人だ!!」

一方、美穂から通報を受けた土谷が、警察署内で声を張り上げる。その声に、南里を含めた捜査員たちが動きを止めて土谷を見る。

「行くぞ!今度こそ捕まえる!!」

「はい!!」

全捜査員が、一斉に部屋を出ていく。

南里は土谷に駆け寄ってくる。

「“襲われてる”って…?」

⏰:11/11/28 21:57 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#218 [我輩は匿名である]
「青山美穂と寺田龍也が帰ってたところに、奴が出てきたってよ!今龍也が止めてるらしい!」

自分たちも走りながら話す。

「犯人は!?」

「“黒い髪の男”らしい!おそらく…」

「葛城…!?」

南里が信じられないという顔をする。これでは誠の推測どおりではないか。

「絶対に止めるぞ!関係ない奴まで死なせてたまるか!!」

怒りと苛立ちのこもった表情で、土谷はパトカーの運転席に乗り込み、ドアを閉めた。

⏰:11/11/28 21:57 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#219 [我輩は匿名である]
電話を終えた美穂は、龍也の背中を見て震えていた。

龍也と男性が接触したように見え、龍也の足の間からぽたぽたと血液が滴り落ちてきているのが見える。

「寺田くん!!」

「…ってぇなあ!!!」

美穂が叫んだのとほぼ同時に、龍也も怒鳴り声をあげて男性を蹴り飛ばした。

怯んでいたのか、男性はよろけて倒れ込む。そのうちに、彼の手から離れたナイフを公園の溝めがけて蹴る。

ナイフは狙い通り、公園の端にある溝に落ちた。

それを確認してから、龍也が美穂に駆け寄る。見ると、ナイフは龍也の体に刺さったわけではなさそうだ。

⏰:11/11/28 21:58 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#220 [我輩は匿名である]
その代わり、龍也の両手が血に染まっている。

「寺田くん!その手…」

「手なんかどうだっていいから!早く逃げろ!!」

「無理だよ!!」

完全に腰が抜けてしまっているのと、龍也を置いていけない気持ちで、とても逃げれるような状態ではない。

その美穂の視界の端に、起き上がって立っている男性の姿が映る。

「寺田くん!後ろ!!」

美穂の声に、龍也が振り向く。

⏰:11/11/28 21:58 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#221 [我輩は匿名である]
しかしすでに、男性は龍也の目の前まで迫っていた。その手には、さっきの物は別のナイフ。

もうだめだ。龍也は腹をくくり、血だらけの両手を構える。

その直後。さっきよりもぴったりと接触する龍也と男性をみて、美穂は息を止めた。

男性が小さく笑う。

「余計なことするから、変なところに刺さっちゃったじゃないか。一息で死なせてあげようと思ったのに」

「…あんまり調子乗んじゃねぇぞ…」

自分の左下腹部に突き刺さったナイフを見てから、龍也は男性をにらみつける。

⏰:11/11/28 21:59 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#222 [我輩は匿名である]
「安心しなよ。彼女もすぐ後に来てくれるからさ」

そう言って、男性はナイフを引き抜いた。…はずだった。

しかしその手は龍也にがっしりと掴まれ、ナイフが抜けないようになっている。

そうなって初めて、男性の眉間に一瞬しわが寄った。

「…絶対…逃がさねぇからな…!」

出血と痛みで息を切らしながら、龍也が言う。

「おっさん達が来るまでは…死んでも離さねぇ…!」

⏰:11/11/28 21:59 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#223 [我輩は匿名である]
「やめてくれよ。捕まっちゃうじゃん」

「だからさっきから言ってんだろ!俺が捕まえるってな…!」

「…頑張ったご褒美に、良い事を教えてあげるよ」

男性はまた笑って、美穂にまで聞こえるように言う。

「僕が捕まっても、この事件はまだ続くよ」

その言葉に、龍也も、そして美穂も耳を疑う。

そして、その一瞬を男性は見逃さなかった。龍也の手の力が弱まった、その瞬間を。

⏰:11/11/28 22:00 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#224 [我輩は匿名である]
男性が勢いよくナイフを引き抜くと、逃げ道のなかった龍也の血液がどっと外へ流れ出した。

「僕の勝ちだ。お疲れ様」

龍也が抵抗する暇もなく、今度は男性の狙い通り、ナイフは龍也の胸部の中心に深く突き刺さった。

その衝撃で、龍也はせき込み、口からも血が流れてくる。

しかし、気を失いそうな中で、龍也は再び、男性の腕を両手で掴む。

そして、にやりと勝ち誇ったように男性に笑い返して見せた。

「…いや……俺の、勝ちだ…」

3人の耳に、遠くから近づいてくるパトカーのサイレンの音が届いた。それも、様々な方向から聞こえてくる。

⏰:11/11/28 22:00 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#225 [我輩は匿名である]
今まで余裕の笑みを見せていた男性の顔から、笑顔が消える。

そして、諦めたようにため息をついた。

「…そうだね、僕の負けだ。…格好良かったよ、君」

負けを認めた男性を見て、龍也は笑って、男性から手を離した。

男性は龍也の服を掴み、彼の体からナイフを抜いて、ゆっくり地面に座らせる。

しかし、もう龍也の体には力が入らず、糸が切れた操り人形のようにその場に倒れ込んだ。

それを見てやっと、美穂はハッと我に返り、龍也のそばに来て彼を抱きかかえる。

⏰:11/11/28 22:00 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#226 [我輩は匿名である]
大きくなっていたサイレンの音が一斉に止まる。

目の前の道から、土谷や南里たちがピストルを手に走ってきた。

「寺田くん!刑事さん来てくれたよ!!」

目を閉じて息を切らす龍也に、美穂が必死に呼びかける。

すると、龍也がうっすらと目を開けた。

「……遅かったじゃねぇか…おっさん…」

⏰:11/11/28 22:01 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#227 [我輩は匿名である]
土谷たちは現場に到着し、その状況を目にして呆然とした。

葛城の手に握られた、真っ赤なナイフ。シャツを真っ赤に染めてぐったりしている龍也。それを抱きかかえ、泣いている美穂。

何が起きたのか、誰でもわかった。

「遅かったね。もうちょっと早ければ、この子助かったかもしれないのに」

「葛城…貴様ああああ!!」

土谷は目を血走らせ、持っていたピストルを構える。

しかし、引き金に手をかけたところで葛城が口を開いた。

⏰:11/11/28 22:01 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#228 [我輩は匿名である]
「僕を撃っていいの?」

違う道からも挟み撃ちにするように走ってきた刑事たちにも聞こえるように、葛城が言う。

「僕をここで撃ち殺せば、唯一の“捜査資料”が無くなるよ?何も掴んでないあんた達にとって、僕の自供には重要な意味があるよね?それでもいいのかな?」

それを聞いて、土谷は歯を食いしばり、手を震わせる。

「土谷警部、…銃を下ろしてください」

悔しそうな顔で、南里が土谷に言う。

土谷が銃を下ろしてから、葛城が笑みを浮かべながら話を始めた。

⏰:11/11/28 22:02 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#229 [我輩は匿名である]
「この子が頑張ったから、あんた達にも教えてあげるよ。1回しか言わないからよく聞きなよ。

まず言っとくけど、僕を捕まえてもこの事件は終わらない。わかってるだろうけど、僕の他にもいるからね、犯人」

「…それは、3件目の犯人の事?」

南里が険しい顔で口をはさむ。

「そうだよ。でも、あいつ以外にもう1人いる。この事件の犯人は全部で3人だ」

「3人…!?2人じゃなかったの!?」

「違うよ。僕があんなヘタレに従うと思う?僕が従ってたのは、“3人目”さ」

⏰:11/11/28 22:02 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#230 [我輩は匿名である]
「じゃあ、そいつが首謀者って事ね?」

「そうなるね。僕もあのヘタレも、その子のただのコマ」

葛城の話を信じるなら、葛城と銃殺犯は、首謀者に付き従って事件を起こしている事になる。

要は、その首謀者を捕まえなければ、この事件は終わらない。

「でも、僕が逮捕されれば、死ぬ子は減るだろうね。あいつはまだ人を殺すことを躊躇ってる。やりたくなかったら、やらなきゃいいのにね」

「…他の犯人2人は誰?」

「そこまでは言わないよ。あんた達警察でしょ?推理するのが仕事なんだから、ちゃんと仕事しなよ」

呆れたように言い放たれ、南里たちは顔をしかめる。

⏰:11/11/28 22:03 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#231 [我輩は匿名である]
「さぁ、僕を逮捕して」

葛城は観念したように、ナイフを持ったまま両手を差し出す。

「…土谷警部。…手錠を」

「…わかってる」

土谷がピストルをしまい、代わりに手錠を握る。

葛城は土谷の手からピストルが離れたのを見届けてから、また笑った。

「…本当馬鹿だね、警察って」

その声は、土谷にしっかり届いた。

⏰:11/11/28 22:03 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#232 [我輩は匿名である]
「僕が素直に捕まると思う?」

葛城の言葉に、土谷は素早くピストルを構え直す。それを見て、南里たちも葛城に狙いを定める。

しかし、葛城の方が数秒速かった。

「バイバイ」。そう言い残して、葛城は持っていたナイフで自分の首を切り裂いた。

頸動脈が切れた葛城の体は、周囲を赤く染めながら仰向けに倒れる。

⏰:11/11/28 22:04 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#233 [我輩は匿名である]
土谷の頭の中が真っ白になる。その後ろで、南里が部下に救急車の要請を命令し、美穂たちに駆け寄る。

他の刑事たちも、葛城に駆け寄ったり、話し合ったりしている。

葛城は倒れ込んだまま、ボーっと青空を見上げる。

「(ごめんね…、僕はここまでだ…。…楽しかったよ…)」

誰かにあててそう思いながら、ゆっくりと目を閉じた。

⏰:11/11/28 22:05 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#234 [我輩は匿名である]
南里が美穂のそばにしゃがみ込み、龍也の首元に触れる。

しかし、南里の指先にはもう、何の感触も返ってこない。

美穂は生気のない表情でぼんやりと、ほとんど息をしていない龍也の寝顔を見つめている。

「そんなわけねぇだろ…」

南里の後ろで立ち尽くしている土谷が呟く。

「こいつはそんなに簡単に死なねぇ…!そんな奴じゃねぇんだよ!!」

⏰:11/11/28 22:09 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#235 [我輩は匿名である]
土谷は龍也に駆け寄り、心臓マッサージをしようと龍也の体に手をかける。

しかし、美穂がそれを拒むように、龍也の体を強く抱きしめた。

「…もうやめて…」

首を振る美穂の体も、小刻みに震えている。

ここまで拒否されては、手を出すことができない。土谷と南里は困ったように顔を合わせた。

その後、龍也と葛城は、救急車で警察病院に運ばれたが、2人ともそこで死亡が確認された。

⏰:11/11/28 22:10 📱:PC/0 🆔:AQY0ejrw


#236 [我輩は匿名である]
2年A組を見て凄いファンになりました
続きが早くみたいです

⏰:11/12/02 19:13 📱:SH004 🆔:WNdrMwfs


#237 [我輩は匿名である]
>>236サン
コメントありがとうございます!
感想板もありますので、そちらもご利用ください♪

⏰:11/12/02 20:22 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#238 [我輩は匿名である]
美穂は南里に貸してもらった毛布を肩にかけて、病院のベンチに座ってじっとする。

龍也の最期の言葉が頭から離れず、何度も繰り返し響く。

⏰:11/12/02 20:23 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#239 [我輩は匿名である]
土谷たちと葛城が対峙している間、龍也は美穂の声にじっと耳を傾けていた。

『きっと救急車も呼んでくれるよ!だからもうちょっと頑張って!ね!?』

『…救急車が来ても…これじゃ…助からない…だろ…』

『どうして?わからないじゃない!』

『…わかるよ…』

龍也は言いながら、地面に広がる自分の血の跡に目をやる。

⏰:11/12/02 20:23 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#240 [我輩は匿名である]
下腹部を刺された時も出血は多かったが、胸部の出血量は、明らかにそれを上回っていた。

この出血量では、きっと助からない。万が一助かっても、脳死状態や麻痺が残る可能性がある。

龍也はそう思って、もう一度美穂を見る。

『…ごめん…。明日からは…送ってあげられそうにねぇわ…。…気を付けて帰れよ…』

『寺田くん…』

ぼろぼろと涙を流す美穂を見て、龍也は小さく笑みを浮かべる。

⏰:11/12/02 20:24 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#241 [我輩は匿名である]
『あーあ…俺…今超幸せかも…。…好きな子が…自分の為に泣いてくれて…好きな子に抱かれて…死ねるんだから…』

龍也は満足そうに言って、目を閉じる。

その言葉を聞いて初めて、美穂は気が付いた。

皐がやたらと恋愛話で意味深な笑みを浮かべていたのも、その時にちょっと心の中が変な気分になったのも、
龍也にグローブを貸してもらったり、「送ってやる」と言われてとても嬉しかったのも…みんな、

龍也の事が好きだったからだ。

⏰:11/12/02 20:24 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#242 [我輩は匿名である]
『寺田くん!』

眠ろうとする龍也の手を掴み、美穂が呼びかける。

『今まで気が付かなくてごめんね。私も…私も寺田くんの事、大好きだよ!』

すると、龍也は少しだけ目を開け、嬉しそうに笑った。

『…サンキュ』

あの時の手の感触は、今でも残っている。

龍也の最期の笑顔も、温かさも、全部覚えている。

美穂はしばらくじっと自分の手を見つめた後、毛布をその場において、ひっそりと夜の闇に消えた。

⏰:11/12/02 20:24 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#243 [我輩は匿名である]
次の日の放課後。

彩が掃除当番をやっている間、誠は1人、屋上でぼーっと外の景色を眺めていた。

龍也が亡くなった事は、すでに彩や誠、皐たちに伝わっている。

数少ない理解者である龍也が死に、犯人であると思っていた葛城も死んだ。「犯人はまだいる」。そう言い残して。

置いてあるベンチに座り、誠はため息をつきながら頭を抱える。

少し遠くでドアが開く音がした。

⏰:11/12/02 20:26 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#244 [我輩は匿名である]
「…内村?」

聞き覚えのある声が自分の名前を呼ぶが、振り返る気にもならない。

誠が返事をしないからか、声の主が誠に近づいてくる。

「…こんなところで何してんの?」

誠の視界の端に、皐の顔が映る。

「…別に」

目も向けず、短く答える。機嫌が悪い時や誰とも話したくない時は、こうするのが1番。今までよく使ってきた手だ。

⏰:11/12/02 20:26 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#245 [我輩は匿名である]
しかし、誠の思惑とは反対に、皐はその場から立ち去ろうとしない。

「…寺田たちの事、考えてるの?」

傍に立ったまま、再度問いかけてきた。

誠は、今度は目だけを皐に向ける。

「…俺に何か用?」

「…用があるわけじゃないけど…」

「じゃあほっといてくれないか。今は誰とも話したくない」

誠に突き放され、皐はショックを受けた表情を見せる。

⏰:11/12/02 20:27 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#246 [我輩は匿名である]
さっさと行ってくれ。誠はそう思いながら視線をそらす。

「…相手が彩でも、同じ事言うの?」

皐は、今度は声のトーンを落として言う。なぜか不機嫌そうな態度の皐に、誠はまた目をやる。

「…は?」

「私が彩でも、今みたいに『ほっといてくれ』って言えるの?」

皐と誠は、お互い苛立ったような顔で見つめ合う。

「…しょうもない事聞いてくんじゃねぇよ」

誠はうっとうしそうに、顔ごとそっぽを向く。

彼のあからさまな態度に、皐もムッとした表情で何か言い返そうと口を開く。

⏰:11/12/02 20:27 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#247 [我輩は匿名である]
すると、「うっち〜?」という声とともに、彩も屋上にやってきた。

「あっ、こんな所にいたの?掃除終わったよー」

彩はたたたっと足音を立てて、2人のもとに走ってくる。

「2人とも何してるの?もしかして、ナンパ?」

「ふざけた事言うな」

「…ごめん」

本気で機嫌が悪そうな誠に、彩は素直に謝る。

⏰:11/12/02 20:28 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#248 [我輩は匿名である]
「…俺、塩見と話があるから、どっか行ってくれない?」

誠は皐を見ようともしないで言い放つ。

「(…何?この険悪なムード…)」

間に挟まれ、彩は困ったように皐と誠を交互に見る。

すると、皐が何も言わずに早足でその場を後にした。

大きな音を立てて閉まったドアを見つめ、彩は首をかしげる。

⏰:11/12/02 20:28 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#249 [我輩は匿名である]
「…うっちー、今のはさすがに怖いよ」

彩は少し間を空けて、誠と同じベンチに腰を下ろす。

しかし、誠はむすっとした顔で黙り込む。

誠がこういう態度をとる時は、大体嫌いな相手と接している時だ。皐も不機嫌そうだったし、2人で喧嘩でもしたのだろうか。

彩は考えたが、今の誠には直接聞けない。仕方なく、彩も少し黙る。

「…今日、美穂ちゃん学校来なかったって」

しばらくしてから、彩がぽつりと言った。

⏰:11/12/02 20:28 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#250 [我輩は匿名である]
誠はじっとどこかを見つめたまま口を開く。

「そりゃ、あんな事があったんだから、次の日に学校なんか来ないだろ。…俺だって来たくなかった」

「…まぁ、そうだけどさ…」

彩は暗い表情でうつむく。

「…今、前のお前と同じこと考えてるわ、俺」

誠も少し視線を落として言う。「何?」と、彩が誠の方を向く。

「“何で俺たちがこんな目に遭わないとならないんだろう”…って」

⏰:11/12/02 20:29 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#251 [我輩は匿名である]
「うっちー…」

「…何で、寺田が死ななきゃいけなかったんだろうな。あいつは何も関係ないのに…」

誠は両手で顔を覆い、うなだれる。

高校に入って、龍也が1番誠と仲良くしていたことは、彩もよく知っている。他の野球部員たちともそこそこ仲良くしていたが、龍也だけが誠とよくつるんでいた。

それだけに、誠のショックも大きいのは明らかだった。

「…長谷部の時みたいに病院に行ってあいつらと顔合わせたら、俺多分あいつらの事ボコボコにしてると思う」

「…あの時の私の気持ち、よくわかったでしょ?」

「…わかりたくなかったけどな」

⏰:11/12/02 20:29 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#252 [我輩は匿名である]
誠は呆れたようにほんの少し笑う。それを見て、彩も小さく笑い返す。

「その上犯人死なせるし…本当頼りになんねぇな、警察」

「何か…犯人の思うつぼって感じだよね、あの人達。寺田くんは体張って美穂ちゃん守ったのに、何も出来ないなんて…馬鹿みたい」

彩は自分で言いながら、だんだんイライラしてきた。逆に、誠は頭を抱えたまま動かなくなった。

「…塩見」

「ん?」

「…しばらく、こっち見るなよ」

そう言った誠の声がちょっと震えていたような気がして、彩は「うん」と頷き、それ以上何も言わずに景色を見つめていた。

⏰:11/12/02 20:30 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#253 [我輩は匿名である]
南里は手袋をして、1冊のアルバムをめくる。

葛城の潜伏先をやっと突き止め、土谷をはじめとする他の刑事たちも張り切って証拠探しに走り回っている。

南里が発見したある中学の卒業アルバム。生徒数名の顔写真に黒いマジックで顔に“×”が書かれている。

凛や春香たち8人に書かれているところを見ると、今まで被害に遭った生徒たちのようだ。

まだあどけなさの残るその顔写真たちを、南里は静かに見つめる。

それを手に、同僚たちがせわしそうに動き回っている居間に入る。

⏰:11/12/02 20:31 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#254 [我輩は匿名である]
まさに“潜伏先”というにふさわしい、ぼろくて小さなアパートの一室。

部屋にはカップラーメンのゴミなどが転がっている。

葛城歩。彼を変えたのは、一体何だったのだろう。

「南里警視!」

名前を呼ばれ、若い刑事のもとに急ぐ。

さっきアルバムを見つけた部屋の棚から、1枚の写真が見つかったようだ。

見ると、1人の少年とその両親らしい人物が映っている。しかも、その両親らしい人物の顔が、見えないように黒いマーカーでぐちゃぐちゃに塗りつぶされている。

⏰:11/12/02 20:31 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#255 [我輩は匿名である]
「これ…葛城本人ですかね?」

若手の刑事と一緒に、南里はそれを見ながら首をひねる。

「そういえば…」

2人の間に、他の刑事が割って入ってきた。

「3年前に葛城の事件を追ってた時の情報なんですが、元々は『葛城』って名字じゃなかったそうです」

「じゃあ、誰の名字?」

南里が尋ねる。

⏰:11/12/02 20:31 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#256 [我輩は匿名である]
「葛城は15歳の時、家で両親を包丁で刺して殺害する事件を起こしています。その後少年院に送られ、出所してから親戚に引き取られたそうで…そこの名字らしいです」

「何でそんな事件を…」

「…虐待されてたそうです、小さいころから」

「…それで…」

南里はため息をつき、もう1度その写真を見る。

もし、まともな両親の手で育てられていたら。もしかしたらこんな事件に手を染めていなかったかもしれない。

犯人に同情する気はこれっぽっちもないが、南里は何とも言えない気持ちで室内を見渡した。

⏰:11/12/02 20:32 📱:PC/0 🆔:YUwrgdBc


#257 [我輩は匿名である]
次の日から、皐は彩と口をきこうとしなかった。

今まで一緒に食べていた弁当も、この日から別々で食べるようになってしまった。美穂も凛もいないため、彩は仕方なく、同じく弁当を食べる相手を失った誠と一緒に食べた。

龍也が亡くなってから10日。葛城が自殺したこともあってか、事件は身を潜めていた。

凛の退院のめどが立ったという嬉しい知らせ以外は、特に何も変わった事はない。

⏰:11/12/05 11:41 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#258 [我輩は匿名である]
「良かったよね。凛ちゃんが退院できるだけでも、今の私たちには嬉しい事だし」

「そうだな」

相変わらず、彩と誠は一緒に帰っていた。

「もう、電話とかしても大丈夫かなぁ?さすがにまだ学校には来れないと思うし」

「…今度してみたら?」

「うん!」

ずっと暗いニュースしかなかったためか、彩は嬉しそうだ。

⏰:11/12/05 11:42 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#259 [我輩は匿名である]
もちろん、事件前の喜び方と比べると元気がないが、それでもだいぶ表情が明るくなってきている。

「…俺も、久しぶりに司に電話でもしてみようかな…」

誠は小声でもう漏らす。

「そうだね。私も、また美穂ちゃんにも電話してみる」

あれから、美穂は1度も学校に登校していない。彩が電話をかけても、電話にも出ない。

学校が家に電話して母親から聞いた話では、ずっと部屋にこもっているらしい。

「…出てくれればいいけどな」

「うん…」

彩が力なく頷くと同時に、誠が不意に足を止めた。

⏰:11/12/05 11:42 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#260 [我輩は匿名である]
「…どうかした?」

「…静かに」

誠は声を潜める。彩は黙って首をかしげる。

すると、誠が黙ったまままた歩き出した。わけがわからず、彩もそれについて行く。

彩は何気なく下を向いて、何かに違和感を感じた。

彩と誠の歩くタイミングが同じだ。

もちろん、誠は彩より背が高く足も長いため、今までは足を動かすタイミングはばらばらだった。

しかし、違和感はもう1つ。2人で同じ歩幅で、同じタイミングで足を動かして歩いているにもかかわらず、バラバラに足音が聞こえるのだ。

⏰:11/12/05 11:43 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#261 [我輩は匿名である]
「…うっちー」

「…わかったか?」

「……誰か…いるよね…?」

2人は振り返ることなく、誰にも聞こえないように話す。

彩・誠の足音と、離れたところからついてくる、もう1つの足音。

彩の背筋に、一瞬で寒気が走る。

⏰:11/12/05 11:43 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#262 [我輩は匿名である]
「…どうするの…?…家までついて来られたくないよ…」

不安そうな彩に、誠はふと、近くの曲がり角に目を付けた。

「…塩見。…あの右の角曲がるぞ」

「…うん」

「曲がったら一緒に、全速力で走れ」

「…わかった」

緊張と恐怖で体が震えるが、そんな事を気にしている場合じゃない。

⏰:11/12/05 11:44 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#263 [我輩は匿名である]
その曲がり角は、すぐにやってきた。

曲がった瞬間、誠が彩の肘を掴んで走り出す。彩も必死に、誠の足について行く。

さすがにここで足音を合わせていられないので、後ろからまだ誰かがついて来ているのかわからない。

しかし、後ろを振り向く勇気も、そんな余裕もない。

「おい、次、そこ左に行くぞ!」

「うん…!」

早くも息を切らしながら、彩は大きく頷く。

⏰:11/12/05 11:44 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#264 [我輩は匿名である]
言われた曲がり角を曲がると、誠はそこで立ち止まり、電信柱の影に身を潜めた。

彩は小さく息を切らし、静かに呼吸を整える。

「…誰か来てる…?」

「…いや…」

誠は姿が見えないよう、ほんの少しだけ顔を出してあたりの様子を伺う。

しかし、その道には誰も歩いていない。追ってくるような足音も聞こえてこない。

「…多分…大丈夫だと思う…」

⏰:11/12/05 11:45 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#265 [我輩は匿名である]
「…はぁ…」

緊張が一気に切れ、彩はずるずるとその場に座り込む。

「…次は…私達って事…?」

「さぁな…。…防犯ブザーとか…持ってた方がいいんじゃねぇの?」

「そうだね…」

しゃがみこんだまま、彩は不安げに頷く。

今度は自分が殺される。自分か、誠か。…もしくは同時に2人。

「…帰れるか?」

「…うん…」

彩はふらふらと立ち上がり、誠とともに、警戒しながら家へと帰った。

⏰:11/12/05 11:46 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#266 [我輩は匿名である]
家につき、彩はじっと、携帯電話の画面を見つめる。

南里に、帰り道の事を伝えるべきか。しかし、言ったところできっと何もしてもらえない。

パトロールはすでに強化されているだろうし、それ以上は警察も何もできないだろう。それに、もはや警察はあてにはならない。

悩んでいると、不意に携帯電話が鳴り出した。

びっくりしつつも見てみると、凛からの電話だ。

「もしもし!?」

彩はすぐに電話に出る。

⏰:11/12/05 11:46 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#267 [我輩は匿名である]
「あっ、彩ちゃん?久しぶり」

そう言った凛の声は、少し元気がない。

「凛ちゃん…。大丈夫?もうすぐ退院できるって聞いたよ」

「うん。抵抗したおかげで、あんまり大したところには刺さらなかったみたいで…。でも、まだ学校は行かない方がいいみたい」

「…正直、学校どころじゃないもんね」

彩もため息をついて答える。

「…見張りの刑事さんから聞いたよ。私を刺した犯人、死んだんだよね」

⏰:11/12/05 11:47 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#268 [我輩は匿名である]
「…そうみたいだね」

「ほっとしたのに、『まだ他にも容疑者がいる可能性があるから』って言われて…。…何でこんな事になっちゃったんだろ…」

凛は、今にも泣きそうな声でつぶやく。

凛の言う通りだ。みんな、考えることは同じだ。

「…私、やっとわかったよ。自分の身は、自分で守らないといけないって」

彩は決心したように言う。


「今日もね、後ろから誰かにつけられてる気がして…。走って逃げたらいなくなったみたいだけど。防犯グッズ買い揃えようかな」

⏰:11/12/05 11:47 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#269 [我輩は匿名である]
「…そっか…。その方がいいよ、きっと。私も退院したらそうする」

「うん。凛ちゃん、…あんまり無理しちゃだめだよ。気を付けてね」

「ありがとう。彩ちゃんもね。…じゃあ、また」

「うん。お大事に」

2人はそう言い、電話を切った。

こんな状況でも、凛だけは生きていてくれた。彩は安心して、大きく息を吐いた。

その後、彩はネット通販で防犯ブザーを買い、休日には絶対に外出しないように決めた。

⏰:11/12/05 11:48 📱:PC/0 🆔:o7G4yXkA


#270 [我輩は匿名である]
彩は「うーん」と、紺色のシーツがかかったベッドの上で腕を組む。

傍には机の椅子に座って足を組む誠の姿。

週が明けた月曜日。先週何者かに尾行された事を受けて、念のため仮病を使って学校を休んでいる。

犯人についてはもはや見当はつかないが、自分たちで考えられることは考え、備えられることは備えておきたい。

2人はそれぞれ、最大限の知恵を振り絞って考える。

「…なんか…」

誠がぼそっと呟く。

⏰:11/12/08 16:11 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#271 [我輩は匿名である]
「この事件…何かがおかしい気がする…」

それを聞いて、彩が顔を上げる。

「…“何か”って?」

「わからない。でも…どこか変な感じがするんだよ」

「そうかなぁ…?」

彩は首をかしげる。誠の言う“おかしい気がする”という感覚は、彩には感じられない。

「…1番おかしいのは、私たちが狙われてることだよ」

⏰:11/12/08 16:11 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#272 [我輩は匿名である]
「…まぁ、それはそうだけど」

「…犯人は、2A全員を殺してどうしたいんだろう?やっぱり何か恨みでもあるのかな?」

「…小松とその仲間はともかく、お前や青山は特に恨まれるようなことはしてないだろ」

「うっちーだってしてないよ」

「わからないぞ?俺の事嫌いな奴は多くいるだろうし」

「だったらうっちーだけを殺すと思う。そうじゃなくても、1番に狙われるのはうっちーになるよね」

「そう…。だから余計わからないんだよ。全員が殺されなければならない理由が何なのか…」

⏰:11/12/08 16:11 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#273 [我輩は匿名である]
「…先生は?」

彩は自分で言いながら顔を上げる。

「去年県外に転勤したって聞いたぞ。教師続けてるらしいし、平日に事件起こすのはどうやっても無理だろ」

「そうなんだ…」

彩はため息をついて肩を落とす。

「…梶浦君は?あの子も一緒に調べてたんじゃないの?」

⏰:11/12/08 16:12 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#274 [我輩は匿名である]
「あいつも葛城が死んでからはサッパリらしい」

「…完全に行き詰っちゃったね」

「ま、ただの一般人の推理なんか、こんなもんだろ」

誠は早くも諦めたように言った。

葛城が言い残した通り、その後9日間、何の事件も起こらなかった。彼が“ヘタレ”と言っていた犯人はともかく、“首謀者”と思われる方の犯人は自分の手で罪を起こす事はしないらしい。

⏰:11/12/08 16:12 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#275 [我輩は匿名である]
しかし、とうとうその犯人たちが動き出した。

彩達が尾行されてからちょうど10日後。他の高校に通う元2年A組の男子生徒2人の遺体が、大通りから一本路地に入ったところで発見された。

南里と土谷は険しい顔でその2人の遺体を見つめる。

2人の遺体には、数か所の銃痕。

「…動き出しましたね」

⏰:11/12/08 16:13 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#276 [我輩は匿名である]
南里が土谷に言う。

「…一体何人殺せば気が済むんだ?」

「この調子なら、おそらく全員でしょう。もしかしたら、この間退院した小山凛もまた狙われる可能性がありますね」

「彼女はまだ自宅療養の指示が出てる。しばらく家から出ないだろう。…本人も、まだ怯えた感じだったしな」

2人は小声で話し合った後、男子生徒の遺体に手を合わせた。

⏰:11/12/08 16:13 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#277 [我輩は匿名である]
その日の夜。

ベッドに寝転んでいた誠は、自分の携帯電話の着信音を聞いて起き上がる。

司からだ。誠は電話に出て、それを耳にあてる。

「もしもし」

「あ、いきなりごめん。この間、『この事件おかしい気がする』って言ってたじゃん?」

「あぁ、言ったな」

彩と話し合ったあの日の夜、誠は司にも同じ内容の話をしていた。

⏰:11/12/08 16:13 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#278 [我輩は匿名である]
「…俺、わかっちゃったかもしれない」

「…え?」

「それって…」

司はそこまで言って、なぜか黙り込んでしまった。

「…司?」

不審に思って、誠が声をかける。

「…やばい。後ろに誰かいる」

⏰:11/12/08 16:14 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#279 [我輩は匿名である]
司が声を潜め、誠に言う。誠はそれを聞いて顔色を変えた。

「お前、今どこにいるんだよ」

「外」

「何で!」

「仕方ないだろ?バイト先から電話かかってきて、『今日だけどうしても出てくれ』って言って聞かなかったんだから。ごめん、また後でかけ直すから」

「え?おい司!」

誠は彼の名前を呼ぶが、聞こえてくるのは電話が切れたことを示す機械音だけだった。

⏰:11/12/08 16:14 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#280 [我輩は匿名である]
もう1度かけ直すが、司は出てこない。

しかたなく、今度は着信履歴から南里の携帯番号を探し出し、彼女に電話を掛ける。

「もしもし南里です」

「内村です。今ちょっといいですか」

誠の切羽詰まった声に、南里は「…何かあったの?」と慎重な声で聞き返す。

「梶浦司が、今誰かに狙われてます。探し出して、保護してもらえませんか?」

「梶浦司…?…あぁ、あなたの親友の。“狙われてる”って?」

⏰:11/12/08 16:15 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#281 [我輩は匿名である]
「今電話してたら、『誰かにつけられてる』って…。あいつ、バイトの帰り道だと思うんです。早くしてください」

「“バイトの帰り道”だけじゃわからないわ。今から場所を割り出して、すぐに向かいます。もし彼から連絡があったらすぐに教えて」

「わかりました」

南里はそう言ったが、誠は納得のいかない顔で携帯電話を見つめる。

しかし、その日に司が電話をかけ直してくることはなく、どこかでパトカーと救急車のサイレンの音がけたたましく鳴り響いていた。

⏰:11/12/08 16:15 📱:PC/0 🆔:obBo.T/Y


#282 [我輩は匿名である]
次の日、彩のもとに南里と土谷がやってきた。

「…何かあったんですか?」

玄関先で、彩は南里に尋ねる。

「…青山美穂さんが…」

「死んだって言うの?」

南里が全て言う前に、彩が彼女たちをにらみながら言う。

2人は何も言わない。ただ悔しそうな、申し訳なさそうな顔で黙っている。

⏰:11/12/14 21:27 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#283 [我輩は匿名である]
「…どうして…?どうしてよ!?いい加減にしなさいよ!!」

「…彼女の件で、あなたに伝えておきたいことがあって」

彩につめよられても動じず、南里が続ける。

彼女の態度に、彩もそれ以上問い詰めることはせず、口を閉じる。

「今から署に来てもらう事は出来る?」

「…いいですけど…」

一体警察署に何があるのだろう。彩は彼女たちについて行く。しかし、2人はまっすぐパトカーへは戻らず、向かいの誠のマンションに入った。

⏰:11/12/14 21:27 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#284 [我輩は匿名である]
「…警察署に行くんじゃないんですか?」

「行くわ。…彼も一緒にね」

そう言った南里が行き着いた先は、誠の家だった。

ベルを鳴らすと、誠が出てきた。

南里たちを見て、誠はなぜか苛立った表情で口を開く。

「…司は」

美穂の事しか聞いていなかった彩は、何のことかわからず南里を見る。

⏰:11/12/14 21:28 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#285 [我輩は匿名である]
南里と土谷が、困ったように顔を見合わせる。

「…あのな、坊主」

南里の代わりに、土谷が暗い表情で何か言いかけたのを見て、誠が彼に掴みかかった。

土谷の体が壁にたたきつけられる。

「…司はどうしたって聞いてんだよ」

土谷の胸ぐらを掴んだまま、誠が彼をにらみつける。

「…携帯の電波から場所を特定して現場に向かった時には、すでに救急車が到着していた。おそらく自分で呼んだんだろう」

「そう言う事を聞いてるんじゃない!!」

⏰:11/12/14 21:28 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#286 [我輩は匿名である]
「…彼は生きてるわ」

南里が静かに言う。彼女の言葉に、彩と誠が彼女に目を向ける。

「ただ…まだ意識が戻っていない」

「…そんな…」

彩がつぶやく。美穂だけでなく、たった1日で司まで被害に遭うなんて。両足が震えだす。

「…話はそれだけか?」

誠がうつむいて言う。

⏰:11/12/14 21:29 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#287 [我輩は匿名である]
「…お前、梶浦が襲われる前に、あいつと電話してたな」

おそらく、彼の携帯電話の通話履歴を見たのだろう。土谷が服装を正しながら続ける。

「何を話してたんだ?」

「まだ俺を疑ってるのか…?」

「そうじゃない。私達だって知りたいのよ。もし事件に関する事なら、どんな情報でも」

そう言った南里の顔は、春香の時に見た弱々しいものとは違った。

彼女の表情を見て、誠はどうにか怒りをおさめ、大きく息をつく。

「…署で、詳しい事を話すわ。彼女にも、聞いてもらいたいものがあるから」

南里は言いながら、彩に視線を送る。

警察署に、一体何が待っているのだろう。彩と誠はともに、暗い表情でパトカーに乗った。

⏰:11/12/14 21:29 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#288 [我輩は匿名である]
署に着くと、2人は応接室のような部屋に通された。

目の前の机には、DVDレコーダーのような機械が置かれている。

室内のソファに2人を座らせ、南里と土谷も向かいのソファに腰を下ろす。

「…まず、昨日起こった事を話すわ」

書類を手に、南里が言う。

「午後20時13分。梶浦司本人から、『男に撃たれた』と119番通報あり。相手は面識がない男だったと、到着した救急隊員に話した後意識がなくなり、そのまま病院に運ばれた。

撃たれたのは右胸部。そして、救急隊員が到着した時、梶浦司のそばにピストルが落ちていて、そこから彼の指紋が確認されてる」

⏰:11/12/14 21:30 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#289 [我輩は匿名である]
「ちょっと待て」

彩が口を開く前に、誠が話を止める。

「何で司の指紋が付いてるんだよ」

誠の疑問に、彩も頷く。

「…先に全部聞いてちょうだい」

その質問が来るのはわかっていたのだろう。南里はそう言って、続きを話す。

⏰:11/12/14 21:30 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#290 [我輩は匿名である]
「午後20時28分。今度は私の携帯に、青山美穂から『犯人らしい人がいる』と通報あり。電話をつなげたまま、自分の携帯電話をポケットに入れて犯人と接触」

「何で美穂ちゃんが…?」

「親に何も言わず、出歩いてたらしい」

彩の問いに、土谷が答える。

南里はためらうように息を吐いた後、こう続けた。

「犯人と接触中、もう1人の射殺され死亡」

彩はハッと息をのみ、南里を見つめる。

⏰:11/12/14 21:31 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#291 [我輩は匿名である]
※すみません、>>290の南里の最後のセリフに脱字がありました。
正しくは↓です。

「犯人と接触中、もう1人の犯人に射殺され死亡」

⏰:11/12/14 21:33 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#292 [我輩は匿名である]
昨夜。何も用はないが、ただ外をぼーっと歩いていた美穂は、何かから逃げるように目の前を横切って行く黒いパーカーの男性を見つけた。

美穂は生気のない目でそれを見た後、足をそちらに向けて歩き出した。

『もしかしたら、寺田くんを殺した奴の仲間かもしれない。』

その考えが美穂の頭の中をよぎる。

「…許さない…」

美穂はそう呟き、家から持ってきた包丁が入った鞄を大事そうに肩からかけ直す。

男性が走って行った道を、美穂はじっと物陰から様子を伺う。

⏰:11/12/14 21:35 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#293 [我輩は匿名である]
そこには、どこから逃げてきたらしく、膝に手をついて呼吸を整えている黒いパーカーの男がいた。

しかも、その先はゴミ置き場。行き止まりだ。

美穂はそれを見て、いったん少し離れたところに来て南里に電話を掛けた。

「刑事さん、…犯人っぽい人がいますよ」

相手が電話に出ると同時に、美穂は淡々と言う。

思わぬ通報に、南里は目を丸くする。

「どこ!?」

南里は美穂に聞いた場所を、近くにあった紙にメモする。

⏰:11/12/14 21:36 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#294 [我輩は匿名である]
「…今からその人に聞いてみる。…何でこんなことするのか」

「やめなさい!あなたが危ないだけよ!」

急に声を荒げる南里に、周囲にいた刑事たちが動きを止める。

「…構わないよ。それで、もう他の子が被害に遭わなくて済むんなら」

美穂の言葉に、南里は耳を疑った。前にあった時は、こんな事を言う子ではなかったはずだ。

少し考え、南里は美穂に言った。

「…青山さん、…電話を切らずに、携帯電話をそのままポケットに入れてちょうだい」

⏰:11/12/14 21:36 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#295 [我輩は匿名である]
「…どうして?」

「何を言っても、あなたは犯人との接触を試みるでしょう。犯人との会話を少しでも聞くことができたら、犯人の特定に役立つわ。逮捕できる可能性も高くなる。

…くれぐれも気を付けて」

本当は、どうしても引き止めなければならない。それは南里もよくわかっていた。しかし今の美穂の様子では、おそらく誰が何を言っても聞く耳を持たない。

南里は受話器を離し、そこにいた全警官に、美穂が言った場所に向かうよう命じる。

そして、近くにいた鑑識課の男性を呼び寄せた。

⏰:11/12/14 21:37 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#296 [我輩は匿名である]
「今から、私の携帯の通話を全部録音して下さい」

「わ、わかりました」

「この形態の近くで、絶対に物音や声を出さないように。音を拾われたら、きっとその場で電話を切られる」

「はい」

南里に指示を出され、半ばあまり事情が分かっていないながらも、周囲の捜査員は大きく頷いた。

⏰:11/12/14 21:38 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#297 [我輩は匿名である]
美穂は言われたとおり、携帯電話を通話状態のまま上着のポケットに入れ、男のもとへと向かう。

男はまだそこにいて、誰かに電話しているようだった。

「ねぇ」

美穂が背後から話しかけると、男はびくっと肩を上げ、急いで電話を切った。

「…あんた、犯人でしょ?」

男は何も言わない。その態度が、“自分が犯人だ”という事を物語っているのに、彼は気づいていないのだろう。

何も答えず固まっている男に、美穂は追い打ちをかける。

⏰:11/12/14 21:38 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#298 [我輩は匿名である]
「そうなんでしょ?2年1組の…岡本君」

美穂が名前を呼ぶと、男は…岡本忍は、ゆっくりと振り向いた。

以前教室でぶつかった事を、美穂は覚えていた。

岡本は動揺したような表情で美穂を見ている。

“こんな奴らに、寺田くんは…”

美穂は腹の底から湧いてくる怒りを抑え、岡本に尋ねる。

「どうして…こんな事してるの?」

岡本は、さらに困ったような顔で黙っている。

⏰:11/12/14 21:38 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#299 [我輩は匿名である]
「同じ中学じゃなかったよね?なのに何で私たちを狙うの?誰に命令されてるの?」

「…それは…」

岡本は口ごもる。弱そうな割に、口だけは堅いらしい。

美穂はもう少し岡本に近寄り、鋭い目で彼をにらみつける。

「頭おかしいんじゃないの…?命令されて、自分の人生棒に振ってまでこんな事件起こして…バカみたい。あんたも、そのボスも」

「…バカなんて言うな…」

“バカ”という言葉に反応したらしく、岡本が小声で言った。

⏰:11/12/14 21:39 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#300 [我輩は匿名である]
言い返されて、美穂は眉間にしわを寄せる。

「僕は、何て言われてもいいよ…。でも、あの子は…あの子を侮辱する事だけは、…許さないよ」

「あんたなんかに許してもらおうなんて思ってない」

“あの子”。岡本はそう言った。おそらく、首謀者の歳は、自分たちとそう離れてはいなさそうだ。

そして、もう1つ。

「…その“あの子”が、よっぽど大事なんだね」

美穂は小さく笑って言う。

⏰:11/12/14 21:39 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#301 [我輩は匿名である]
まるで心の内側を見透かされたような感じがして、岡本は言い返せず、また黙る。

「でも、その“あの子”は…あんたの事何とも思ってないと思うよ?」

美穂はまるで挑発するような笑みを浮かべて続ける。

「何…!?」

「だって本当にあんたの事を大事に思ってるなら、こんな事させないでしょ?普通の人なら逆に止めるはず。でもあんた達は違う。

その人にとってのあんたは……ただの“捨て駒”だよ」

「黙れ!!」

岡本はキレたように叫び、自分の腰に手を当てる。

⏰:11/12/14 21:40 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#302 [我輩は匿名である]
しかし、そこには持ってきていたはずのピストルはない。

「どうしたの?大事な“道具”、忘れてきちゃった?」

頭が真っ白になっている彼をあざ笑うかのように、近くの通りを救急車が大きなサイレンを鳴らして通り過ぎて行った。

「あいつ…俺のピストル持ったまま…!」

岡本が苛立ったように言った。

この様子だと、今通った救急車で運ばれている人物が、彼のピストルを持っているように思える。

しかし、一体誰がどんな事を…?

⏰:11/12/14 21:41 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#303 [我輩は匿名である]
「本当に大事だと思うんなら、その子止めなよ。じゃないと、その子が可哀相なだけだよ?」

「“可哀相”…?ははっ、何が!?僕がお前たちを殺せば、あの子は喜んでくれる!それを見て僕はまた他の奴を殺す…最高じゃないか!!」

「“喜ぶ”…」

美穂は彼が発したその言葉に、首をかしげる。

その直後。

美穂の背後から乾いた銃声が聞こえたと同時に、岡本が仰向けに倒れた。

⏰:11/12/14 21:43 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#304 [我輩は匿名である]
何が起こったのかわからずに岡本を見てみると、額に穴が開き、どくどくと脈打ちながら出血している。

ちょっと間呆然としていたが、美穂は音を立てずに鞄のチャックを開け、中に入れている包丁の柄を握る。

もし撃ったのが警察なら、何か言うはず。しかし、警察官がこんな中途半端なタイミングで発砲するはずがない。

会話の途中で発砲したのは、岡本がこれ以上余計な事を口走らないため…そう考えるのが、1番つじつまが合う。

そうなれば、背後にいる人物は…。

「(終わらせてやる…。これ以上…誰も殺させない…!)」

美穂は恐れることなく、素早く包丁を取り出し、振り返る。

⏰:11/12/14 21:44 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#305 [我輩は匿名である]
それを振り上げた瞬間。

そこにいた人物を見て、美穂は思わず動きを止めた。

「…何で…?」

美穂が「何かの間違いだ」と自分の目を疑っていると、その胸に銃口があてられた。

目の前の人物が笑う。

そして…。

⏰:11/12/14 21:44 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#306 [我輩は匿名である]
銃声とともに、美穂の体は、撃たれた反動でその場に倒れ込んだ。

握っていたはずの包丁も、その衝撃でどこかに落としてしまった。

もう1発、美穂の服のポケットに向かって銃弾が飛んできた。

「(…私は…ここまで、だね…)」

自分を撃った犯人が立ち去って行く足音が聞こえる。

美穂は静かに目を閉じる。

死ぬのは怖くない。向こうで彼

⏰:11/12/14 21:45 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#307 [我輩は匿名である]
※PCの調子が悪く、途中送信になりました。何度もすみません。↓続きです。

死ぬのは怖くない。向こうで彼に会えるから。

ただこの手で仇を討てなかったことだけが、心残りだった。

意識がなくなるのを待っていると、ふと、自分のそばに誰かがいる気配がして、美穂は再び目を開ける。

美穂が倒れているすぐ傍にたたずむ、1人の男性。

それを見て、美穂は嬉しそうに小さく笑う。

⏰:11/12/14 21:47 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#308 [我輩は匿名である]
そこにいたのは、龍也だった。

龍也はしゃがみこみ、口を開く。

大丈夫?

聞こえるはずのない声が聞こえて、美穂は彼に向かって答える。

「…うん…」

今までのように優しく笑いかけてくれる彼を見て、美穂の目から、自然に涙が零れ落ちる。

⏰:11/12/14 21:47 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#309 [我輩は匿名である]
「…ごめんね…。…仇…、…討てなかった…」

美穂の言葉に、龍也は首を振る。

一緒に行こう。

そう言って、美穂に手を差し伸べた。

美穂はもう1度笑って、残った力を振り絞って血まみれの右手を上げ、龍也の手に重ねる。

その瞬間、美穂は意識を失い、その右手は静かに、冷たい地面の上に落ちた。

⏰:11/12/14 21:48 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#310 [我輩は匿名である]
美穂の最期を知り、彩は両手で顔を覆って泣いた。

その隣で、誠は呆然としながら、雑音しか聞こえないスピーカーを見つめている。

録音されていたのは、美穂が南里に電話したところから、美穂が倒れたと思う部分まで。

「…発見されたとき、彼女の携帯電話は銃で撃たれて粉々になっていたわ。おそらく彼女たちを撃った犯人は、電話が繋がっているのに気づいたんでしょう」

スピーカーを止め、南里が静かに言う。

「…こんな結果になっても、あの子は満足だったのかもしれない」

⏰:11/12/14 21:49 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#311 [我輩は匿名である]
「…どういう事ですか」

話せる状態じゃない彩の代わりに、誠が尋ねる。

「…青山さんの顔、…笑ってるように見えた」

南里は言いながら俯く。まるで、自分も涙を隠すかのように。

「…電話の内容から考えたら、岡本は青山と会う前に梶浦を襲った。でも何があったか、梶浦を撃った後にピストルを奪われて、仕方なく逃げてきた…ってところじゃないか。

梶浦が持ってたピストルの弾、この間2人を撃ったものと同じだったし…岡本のピストルで間違いないだろう」

腕を組んだまま、土谷が言う。

⏰:11/12/14 21:52 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#312 [我輩は匿名である]
2人は黙って、彼の話に耳を傾ける。

しばらくして、誠が言った。

「…あいつ、『犯人が分かったかもしれない』って言ってました」

「誰?」

「それを聞く前に、あいつが電話を切って…それっきりです」

誠の話に、南里と土谷が肩を落とす。

⏰:11/12/14 21:52 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#313 [我輩は匿名である]
司や美穂がわかるという事は、きっと彼らが知っている人物。

「梶浦君と青山さんが知っている人…って事になるのかしら」

南里は資料をめくりながら言う。

まだ被害に遭っていない元2年A組の生徒は何人かいる。

もしかしたら、この中の誰か…?

警察2人がそれを見ながら考え込んでいると、今まで黙っていた彩が口を開いた。

⏰:11/12/14 21:54 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#314 [我輩は匿名である]
「…南里さん」

彩の声に、南里と土谷が彼女に目を向ける。

「どうしたの?」

「……ありがとうございました」

震える声で言う彩に、誠も目をやる。

「…美穂ちゃんの死…無駄にしないでくれて」

⏰:11/12/14 21:55 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#315 [我輩は匿名である]
もしも南里が電話を切っていたら…もしもその会話が録音されていなかったら。

美穂と岡本のやり取りを誰も知らないまま、犯人も絞れずにいただろう。

「…お礼なんて言わないで」

南里が少し、膝の上で手を握る。

「私たちがしっかりしていれば、死なずに済んだ子だっていたはずなの。…私たちは…お礼を言われるに値しないわ」

悔しそうに、南里は答える。

それでも、彩は彼女たちに感謝した。

今まで頼りにならず、事件が起きる度にイライラさせられたが、初めて警察らしいことをしてくれた。

美穂が亡くなり、司も意識不明状態だが、彩はほんの少しだけ救われたような気がした。

⏰:11/12/14 21:56 📱:PC/0 🆔:MqhoO8ew


#316 [我輩は匿名である]
1週間後。

凛はじっと、ベッドに寝転がって天井を見上げる。

南里に聞かせてもらった、美穂の最期の会話が忘れられない。

まさか、美穂があんな行動に出るなんて思わなかった。

狂ってしまった。仲の良かった友人たちも、自分も。

誰かが死んでも、「あぁまたか」くらいにしか感じられなくなってきている自分に怖くなる。

そんな時、彩の携帯電話に、1通のメールが届いた。

差出人は、凛からだ。

⏰:11/12/17 00:39 📱:PC/0 🆔:OuT9dSuI


#317 [我輩は匿名である]
「(どうしたんだろ?)」

メールを開き、彩は思わず飛び起きる。

『小山凛を誘拐した。助けたければ、17時までに○○倉庫まで来い。
警察に通報したら、その時点でこいつの命はない。

忘れるな。お前たちはいつも見張られている。』

そう書かれた文章に、1枚の画像が添付されていた。

手足をロープのようなもので縛られ、こちらに背中を向けて転がっている少女。

⏰:11/12/17 00:40 📱:PC/0 🆔:OuT9dSuI


#318 [我輩は匿名である]
どうして自分の元にこんなメールが届くのか。

「…お前“たち”…?」

よく見てみると、送信先に誠のアドレスも書いてある。

彩は慌てて誠に電話する。

「うっちー!?メール来た!?」

「…あぁ、来たよ」

焦っている彩とは反対に、誠の声は落ち着いている。

⏰:11/12/17 00:40 📱:PC/0 🆔:OuT9dSuI


#319 [我輩は匿名である]
「…次は、多分俺たちだ」

薄々気づいていた事を誠に言われ、彩は沈黙する。

「…南里さんたちには…」

「…言わない方がいいだろうな。今はばれなくても、もしばれたら小山が殺される」

「そうだよね…。…うっちー、ちょっとそっちに行っていい?」

「あぁ、気を付けて」

彩はそれを聞いた後、電話を切って着替える。

⏰:11/12/17 00:41 📱:PC/0 🆔:OuT9dSuI


#320 [我輩は匿名である]
その途中、ふとある事に気が付いた。

「(…なんで凛ちゃんが、うっちーのアドレス知ってるんだろ?)」

中学時代から、誠と凛はたまに話すくらいの仲だった。それも、彩が知る限り、必要なこと以外はあまり口もきいていなかったはず。

なのに、なぜ…?

そしてもう1つ。彩は再び、メールの添付画像を見る。

凛が拘束されたこの画像。彩には自分でもわからない違和感を覚えた。

しかし、ゆっくり考えている場合じゃない。

携帯電話と財布を鞄に入れて、彩は家を飛び出した。

⏰:11/12/17 00:41 📱:PC/0 🆔:OuT9dSuI


#321 [我輩は匿名である]
彩がドアの前まで来ると、誠が待ち構えていたのか、ベルを押す前に鍵が開いた。

ドアが開き、彩は中に入る。

「…どう思う?」

玄関から動かず、誠が言う。電話を終えてずっとここで待っていたのか、手には携帯電話が握られたままだ。

「…うっちーはどう思うの?」

彩は先に誠の意見を聞こうと思い、聞き返す。

「俺は…俺たちが小山を助けに行ったところで殺されて、小山もそのまま殺されると思ってる」

誠は腕を組み、壁にもたれて言った。

⏰:11/12/17 00:42 📱:PC/0 🆔:OuT9dSuI


#322 [我輩は匿名である]
普通に考えれば、きっとそうなるのだろう。

彩は少し考え込む。自分の考えていることは、本当に合っているのか。それによって、おそらく自分たちが死ぬのか死なないのかが決まる。

「…どうかしたのか?」

珍しく考え込んでいる彩を不思議に思い、誠が声をかける。

メールの画像。誠のアドレス。司と美穂の知る人物。

「…ねぇ、うっちー」

「何」

「…今から私が言う話、笑わずに真面目に聞いてね」

彩は顔を上げ、そう前置きして話し始める。

⏰:11/12/17 00:42 📱:PC/0 🆔:OuT9dSuI


#323 [我輩は匿名である]
彩が家を出るのと同じ頃。警察署に一本の電話がかかってきた。

他の刑事が電話をとったため、南里と土谷は構わず資料を見つめる。

「犯人と名乗る者から電話です!!」

電話をとった刑事が、慌てたように声を上げる。

それを聞いて、その場にいた全員が振り返る。

「スピーカーに回せ」

南里ともに本庁から来た男の警視が素早く指示を出す。

室内に、電話をかけてきた人物の声が響き渡る。

⏰:11/12/17 00:43 📱:PC/0 🆔:OuT9dSuI


#324 [我輩は匿名である]
「無能な警察のみなさん、こんにちは」

そう言った声は、普通の人間の声ではない。

「…変声機ですね」

南里が呟く。

これでは、誰が話しているのか全く分からない。

「…君が、この連続殺人の首謀者か?」

犯人との交渉術を持った刑事が変わって話をする。

⏰:11/12/17 00:43 📱:PC/0 🆔:OuT9dSuI


#325 [我輩は匿名である]
「はい。早くしないとまた死ぬよ」

「どうして、今回は電話でわざわざ教えてくれるんだ?」

「俺は他の2人とは違う。いろいろ試してみようと思ってね」

「(男…?)」

南里が眉間にしわを寄せる。

「“また死ぬよ”って、誰の事?」

「誰かは、死体を見てのお楽しみ」

「こいつ…バカにしてんのか…!?」

余裕をうかがわせる電話の相手に、土谷がしびれを切らしたように言う。

⏰:11/12/17 00:43 📱:PC/0 🆔:OuT9dSuI


#326 [我輩は匿名である]
「今日17時までに、すぐ裏の山にある、廃棄された変電所までおいで。間に合わなかった場合はここにいる子を殺すよ」

「廃棄された変電所…?」

すると、一方的に電話が切られてしまった。

「逆探知は!?」

「できません!」

騒然としている室内を見ながら、南里は黙り込む。

どうして今回は電話なんてしてきたのか。それも、内容がまるで犯罪予告だ。

考えているうちに、他の刑事たちは大慌てで署を出て行っている。17時までというと、あと2時間。

⏰:11/12/17 00:44 📱:PC/0 🆔:OuT9dSuI


#327 [我輩は匿名である]
しかし、指定された場所までは、車で1時間半ほどかかる。

「おい、行くぞ!」

土谷も急ぎながら、南里に声をかける。

「…私は…ここに残ります」

「何で!?」

「全員がいなくなったら、何かあった時に困るでしょう?」

「まぁ…そうだけど…」

南里のもっともな発言に、土谷はちょっと迷っている。

⏰:11/12/17 00:45 📱:PC/0 🆔:OuT9dSuI


#328 [我輩は匿名である]
そして、ため息をついて机に腰を下ろした。

「土谷さん?行かれないんですか?」

「お前が行かねぇんなら、俺も行かねぇよ」

「どうして?」

「俺たちコンビだろ?別行動とってどうすんだよ」

早くも諦めたように言う土谷に、南里は小さく笑った。

⏰:11/12/17 00:45 📱:PC/0 🆔:OuT9dSuI


#329 [葵]
あげ(・д・)

⏰:12/01/09 02:16 📱:SH06A3 🆔:☆☆☆


#330 [我輩は匿名である]
更新楽しみにしてます(^o^)/

⏰:12/01/13 23:55 📱:Android 🆔:O/KE3sig


#331 [我輩は匿名である]
あげ(>_<)

⏰:12/02/08 00:22 📱:S005 🆔:EE05aXOs


#332 [・v・]
めっちゃはまりました(・x・`)

完成させてくださいっ!

⏰:12/02/10 17:14 📱:F01B 🆔:JdYfvtYw


#333 [葵]
ずっと待ってます(^^)

⏰:12/02/10 21:18 📱:SH06A3 🆔:☆☆☆


#334 [我輩は匿名である]
午後4時。彩と誠は2人、メールで呼び出されたとおり、タクシーで町はずれの倉庫までやってきた。

最近はほとんど使われていないらしく、人の気配がない。

「…うっちー」

「…何だよ」

「…死んだりしたら許さないからね」

「……お前こそ」

2人は息をのみ、倉庫に踏み入る。

⏰:12/02/14 22:49 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#335 [我輩は匿名である]
「…じゃあ、後で」

「あぁ」

しかし、2人はそこで別れ、別々の入り口から倉庫に入っていく。

彩は自分を落ち着けるように大きく息を吐き、ゆっくりと倉庫の重いドアを開ける。

中は暗く、窓からの光しか明かりがない。早く見つけないと、真っ暗になってしまう。

彩は足音をあまり立てないように、中に入って探索を始める。

場所を特定するために、あの画像を見ながら。

⏰:12/02/14 22:49 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#336 [我輩は匿名である]
探し回っている間、彩は自分の予想が当たらない事を願っていた。

彩の考えが行き着いた犯人は、彩もよく知る人物だからだ。

うろうろしていると、すぐそばで物音がした。

彩は一瞬びくっとしつつも、その方向へと足を向ける。

そして。彩は自分の願いがかなわない事を知る。

「…探したよ」

目の前にいる、手足を縛られた女子に声をかける。

「…皐ちゃん」

名前を呼ばれて、その女子はゆっくりと顔を上げた。

⏰:12/02/14 22:49 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#337 [我輩は匿名である]
誠は中に入ってしばらくして、足を止めた。

背後に感じる誰かの気配。

「(塩見の言った通りだな…)」

このまま殺されるのか、それとも…。

後ろにいる誰かが何もしてこないため、誠は思い切って後ろを振り返る。

そして、そこに立っていた人物を見てやっと理解した。自分が今まで感じていた違和感がなんだったのかを。

「…やっぱり、お前が犯人だったんだな。小山」

誠にピストルを向けたまま、凛は鼻で笑った。

⏰:12/02/14 22:50 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#338 [我輩は匿名である]
皐は驚いたように彩を見上げる。

「…何で…ここにいるのが私だってわかったの?」

「メールの画像だよ」

彩は言う。

「あの画像は凛ちゃんだって書いてあったけど、何かおかしいって思った。何回か見るうちに、何がおかしいのかやっとわかったよ。

…映ってる人の首元に、大きなほくろがあったから」

「ほくろ…?」

皐はハッと、両手を縛っていた縄を自分で解いて自分の首元に手をやる。

⏰:12/02/14 22:50 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#339 [我輩は匿名である]
「凛ちゃんには、その大きなほくろはない。それで大体わかったよ。

…凛ちゃんがどうしてうっちーのアドレスを知ってたのか…皐ちゃんが教えたんでしょ?あの子が私たちを一緒に殺せるよう、おびき出すために」

彩は悔しそうに続ける。

「何で…?何でこんなことしたの!?」

「邪魔だったからだよ!!」

皐は悲鳴のように叫んで、隠し持っていたピストルを彩に向ける。

⏰:12/02/14 23:04 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#340 [我輩は匿名である]
まさかピストルを持っていると思っていなかったため、彩は驚いて一歩後ずさる。

「私はねぇ…高校入って、野球部のマネージャーになってすぐ、内村の事が好きになった…。別に理由なんかない、ただかっこよかったから。

でも…あいつは私の事なんか見てくれない…あんたが生きてる限りね!」

皐の話を聞いても、彩は彼女が何を言っているのか理解できない。

「…何言ってるの?何で私が生きてると、うっちーが皐ちゃんを見ないの?」

⏰:12/02/14 23:04 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#341 [我輩は匿名である]
「…寺田が死んだ次の日、たまたまあいつが屋上に行くのが見えたから声をかけに行ったんだ。でも、あいつは私に見向きもしない。『ほっといてくれ』の一点張りで、邪魔者扱い。

だけどその後に来たあんたには、コロッと態度変えちゃってさ。何で自分はこんな男が好きだったんだろって思った。

そして、彩がいなければ私にも心を開いてくれるかもしれない、ともね」

皐は彩を睨んだままそう言った。

今まで、彼女のこんな表情は見た事がない。

しかし、彩も黙っていられなかった。

「じゃあさっさと撃ちなよ」

⏰:12/02/14 23:05 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#342 [我輩は匿名である]
「は…?」

「私を撃てば、私を殺せば満足なんでしょ?だったら撃てばいい。でもその後、うっちーがあんたにとる態度がもっと冷たくなることぐらい、わかって言ってるんだよね?」

彩は溢れてくる感情を押し殺しながら言い返す。

言い返されて、皐は何も言えず黙る。

「バカじゃないの?私を殺せば、うっちーとくっつけるとでも思ったの?それとも、自分の思い通りにならないから、私達2人とも殺せば満足?冗談じゃない!!

犯人と一緒に逮捕されて、刑務所の中で頭冷やして来たら!?」

⏰:12/02/14 23:06 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#343 [我輩は匿名である]
彩は皐を怒鳴りつけ、その場を後にする。

仲良しだった友達に背を向けられ、皐はピストルを持つ手をおろし、座り込んだまま泣いた。

ただの嫉妬がどうしてこんな事になってしまったのか。皐はこうなってやっと、自分のした愚かさに肩を落とした。

彩が皐と別れてすぐ、離れた場所から銃声が聞こえた。

彩は驚き、足を止める。

「…うっちー…?」

まさか。そんな考えを振り払うように首を振って、彩はその音がした方へと急ぐ。

⏰:12/02/14 23:06 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#344 [我輩は匿名である]
誠は撃たれた反動で壁にぶつかり、その場にしゃがみ込む。

出血する左肩を押さえ、凛を見上げる。

「…下手なのか?これじゃ死ねないぞ」

「わざと外したの。彩に、あんたが死ぬとこ見せてあげようと思って」

凛は怪しく笑いながら答える。

「撃たれた音がすれば、彩は必ずこっちに向かってくる。そこで一緒に逝かせてあげるわ」

「さぁ…?あいつはあいつで、永井のとこ行ってるからな。すぐ来るかどうか…」

誠も負けじと、凛に言い返す。

⏰:12/02/14 23:19 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#345 [我輩は匿名である]
「じゃあ、それまでお喋りタイムにしよ。…何で私が犯人だってわかったの?」

凛もしゃがみこんで、誠に尋ねる。

「塩見があの画像を永井だって言い張るから、よく考えてみたんだ。

お前が関係しないなら、あの画像をお前だって嘘つく必要はない。なのにそんな回りくどい事をするのは、“被害者であるはずの”お前が何かしら関係してるから。

そこでやっと、今までこの事件がおかしいと思っていた理由がわかった。

今まで相手が男でも女でも1発で仕留めてきた葛城が、お前が抵抗したぐらいで刺し違えて逃げるなんて、どう考えてもおかしい。

だから、お前は葛城とグルなんじゃないか…そう思った。

わざと刺されたのは、被害者になったふりして、警察からの疑いの目を晴らすためか?」

⏰:12/02/14 23:19 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#346 [我輩は匿名である]
誠の話を、凛は笑いながら聞いていた。

「へぇ〜、すごいね。バカな警察とは大違い!…そこまでわかってるんなら、なおさら死んでもらわないとね。もう1発撃ってあげようか?」

「塩見が来るのを待たなくていいのか?」

「どうせ警察は来ないし、いつ殺してもいいんだけどね」

凛の言葉に、誠は首をかしげる。

「俺たちが呼べば来るだろ」

「無理無理。あんたたちにメール送ってすぐ、警察に電話したの。山にある、廃棄された変電所で事件起こすよって。あそこからここまではだいぶ時間かかるからね。

それに、私が犯人だってばれないように『俺』って言っといたから、誰も私が犯人だなんて思わないだろうし」

⏰:12/02/14 23:20 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#347 [我輩は匿名である]
勝ち誇った笑みを浮かべる凛に、誠は内心焦っていた。

もし彩と誠2人の推測が間違っていなかったら、それがわかった時点でどちらかが通報しようという計画だった。

しかし、南里たちが全員凛に騙されているとしたら、おそらく間に合わない。

そう思っていると、凛の背後に人影が見えた。

その直後。その人影が凛に覆いかぶさるように襲いかかってきた。

「ちょっ…誰よ!?」

凛が驚いて振り返ると、そこには彩がいた。

⏰:12/02/14 23:20 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#348 [我輩は匿名である]
彩はピストルを持つ凛の手を掴み、銃口を何もない方向に向ける。

「悪いけど、私達死ぬ気ないから!!」

彩は凛に抵抗されながら、ピストルの引き金を引く。

全て使い切ってしまえば、もう怖くない。

何発入っているのかわからないが、彩は大きな銃声をとどろかせながら、その一心で指を動かす。

すると、抵抗する凛の左ひじが、彩の顔面に当たった。

それに怯み、うっかり手を離してしまった。

⏰:12/02/14 23:20 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#349 [我輩は匿名である]
「うざいんだよ!どいつもこいつも!!」

凛がとっさに、そのピストルを振り回す。

痛がっている彩にそれを当てることなど、何も難しくない。

ピストルの角が、今度は彩の頭にヒットし、よろけた彩は誠のそばで倒れ込んだ。

「おい、大丈夫か!?」

誠が呼びかけると、彩はすぐに起き上がった。

ちょうどこめかみに当たったらしく、裂傷ができて血が出てきている。

「うん…大丈夫」

笑って答えながら、凛に向き直る。

⏰:12/02/14 23:21 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#350 [我輩は匿名である]
凛は立ち上がり、ピストルの弾の残数を確認する。

中にはもう、残り1発しか入っていない。こんなに手こずると思っていなかったため、呼びも持っていない。

「あーあ…あんたのせいで、あと1発しかないじゃん。傷は痛いし、もう最悪」

凛は苛立ったように吐き捨てる。

「あんたがここに来たって事は、あいつは役に立たなかったんだね。せっかくチャンス上げたのに、弱いヤツ」

「…どういう事?」

流れてくる血を拭きながら、彩が聞き返す。

⏰:12/02/14 23:21 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#351 [我輩は匿名である]
「この間、たまたまあいつを見かけてね。声をかけたら、あんた達といるのが嫌になったっていうからさ。『じゃあ手伝ってあげる』って誘ってあげたの。

その時は乗り気だったけど、いざとなると何もできなかったみたいだね。…何もしゃべらないように、後で始末しとかないと」

服装を整えながら、凛は淡々と答える。

「じゃあ、岡本君は?あの子も仲間だったって事でしょ?」

ふと思い出して、彩がまた尋ねる。

「あぁ…ははっ。あいつも馬鹿な男よね。私の事が好きだって言うから、『じゃあ私がこれからやる事手伝って』って頼んだら、ホイホイやってくれちゃってさ。

…まぁ、いざ殺るとなったら、怖くて殺り損ねたりしてたみたいだけど。

おまけにうっかり口滑らせそうになるし、あんまり役に立たなかったわね」

⏰:12/02/14 23:22 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#352 [我輩は匿名である]
呆れたように笑う凛に、彩は苛立ったように両手を握りしめて彼女を睨む。

「…お前…何のためにこんな事してるんだ?」

今度は誠が凛に尋ねる。

おそらくこの事件にかかわった、全ての人が聞きたかったこと。

「…何のため…?はははっ!…復讐のために決まってるじゃない」

凛は笑い声をあげる。

しかし、彩も誠も何の復讐かわからず、顔を見合わせる。

⏰:12/02/14 23:22 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#353 [我輩は匿名である]
「復讐って…何の事?」

「『何の事』?ふざけないでよ!中学2年の時、私が何されてたか、覚えてないっていうの!?」

「…2年って、小松たちのいじめの事か?」

思い当たることはそれしかない。しかし、当事者である小松たちならまだしも、自分たちが狙われる理由はない。

「でも、それなら何で私たちまで殺されなきゃならないの?」

彩のその質問に、凛は幻滅したような表情でしばらく黙り込んだ。

「……私が毎日いじめられてるのを見ても、あんた達は何にもしてくれなかった…」

彩達が返事を待っていると、凛がうつむいて口を開いた。

⏰:12/02/14 23:22 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#354 [我輩は匿名である]
「ただ遠くの方から見てるだけ…。見ながらコソコソ何か話して、まるで腫れ物に触るような態度で接してくる。

私が悪いんじゃないのに…ただあの男が飲酒運転で事故起こして、人死なせただけなのに!

廊下に机が出されてても、誰も手伝ってくれない。上靴が無くなっても、誰も探してくれない…!誰も話を聞いてくれない!

いじめの事には触れずに、適当な話をしてごまかして、仲良いフリしてれば私が喜ぶと思ってたんでしょ!?」

「違う…!」

「何が違うの!?確かにあんた達は、あいつがいない時は私と一緒にいた!でも、あいつが来ると私から離れたじゃない!うわべだけにこにこして近づいて来て、都合が悪くなればさっさと離れていく!」

「違うよ!」

「何が違うのよ!?」

⏰:12/02/14 23:24 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#355 [我輩は匿名である]
凛は大声で叫び、今度は彩に銃口を向ける。

興奮している凛の目が、少しうるんでいる。

「私はねぇ…、あいつらにいじめられてたのと同じぐらい、あんたたちのその目が怖かったの!ただ黙って私を哀れそうに見る、その目が!!

だからあんた達がどれだけ私に楽しそうに話しかけてきても、全部嘘なんじゃないかって、信じられる人なんかいないんだって思った!」

彩達が何か言う暇もなく、凛は今までため込んできたものを吐き出すかのように話した。

「…そんな時に…あの人に会った」

凛は少し声を落ち着かせて続ける。

⏰:12/02/14 23:24 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#356 [我輩は匿名である]
「家に帰っても、あの男が逮捕されて帰ってこないのを良い事に、お母さんは違う男を家に連れ込むようになった。私より…その人の方が大事だった。

そんな家にいたくなかったから、私は夜に家を飛び出した。行くあてなんてどこにもない。ただふらふら歩いてた。そしたら…」

⏰:12/02/14 23:27 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#357 [我輩は匿名である]
『お嬢さん♪』

暗い街を歩いていた凛の肩を、後ろから知らない中年男性がポンとたたいた。

『こんな時間に何してるのかな?』

『…別に』

うっとうしかったので、凛は相手にせずに立ち去ろうとする。

しかし、今度は腕を掴まれた。

『…こんな所うろうろしてると、危ないよ?おじさんの家においで』

その言葉に、凛の背筋に寒気が走る。

⏰:12/02/14 23:27 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#358 [我輩は匿名である]
『い、嫌』

『いいからいいから』

『離してよ!』

『大きな声出すなよ!ほら、さっさと…』

どこかに連れて行かれそうになった時、急に男性の動きが止まった。

凛が戸惑っていると、男性の体は力が抜けたようにその場に倒れた。

⏰:12/02/14 23:28 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#359 [我輩は匿名である]
目の前には、若い、どこかで見た事がある1人の別の男性。

その手には血の付いた1本のナイフが握られている。

『…大丈夫?』

呆然としていると、若い男性が話しかけてきた。

不思議と、その男性に対して警戒心がわいてこない。

凛は黙ってうなずき、その男性をどこで見たのか思い出した。

⏰:12/02/14 23:28 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#360 [我輩は匿名である]
『…テレビで見た事ある…』

『そう?僕ってそんなに有名人なのかな?まぁ、こんだけ人殺してたら、有名人にもなっちゃうよね』

若い男性はくったくのない笑みを浮かべて答える。

そうだ。思い出した。この近辺で起こっている連続殺人事件の容疑者として指名手配されている、葛城歩だ。

しかし、見たところ全くそんな雰囲気は持ち合わせていない。

どこにでもいるような、平凡な男性。

⏰:12/02/14 23:31 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#361 [我輩は匿名である]
『じゃ、さっさと家に帰りなよ。また変な人につかまっちゃうよ』

葛城はそう言って背を向ける。その彼の腕を、凛はとっさに掴んだ。

『…何?』

『…あの…』

『悪いけど、警察呼ぶなら君も殺すよ?』

『違うんです!そうじゃ、なくて…』

凛はそのまま俯く。

⏰:12/02/14 23:31 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#362 [我輩は匿名である]
自分を助けてくれたのは、彼が初めてだ。

『…私…帰る場所がないんです』

凛は声を震わせながら、初対面の連続殺人犯に、自分の境遇を話した。

学校の事、家庭の事…。なぜこんなことを彼に話しているのか自分でもわからなかったが、話すうちに涙がこみ上げてきた。

『…そう。…辛いね』

葛城は、ぽつりとそう呟いた。

⏰:12/02/14 23:32 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#363 [我輩は匿名である]
『…いつまでもここにいたら見つかっちゃうから、とりあえずうちにおいで。このオッサンと違って、何もしないから』

『…いいんですか?』

『だって、泣いてる女の子をこのままほっとけないじゃん』

葛城はそう言って、凛を自分の家に連れ帰った。

家と言っても、ぼろぼろのアパートの狭い一室。

一軒家に住んでいる凛には、少し耐え難い環境であったが、あの家に帰る事を考えれば我慢できた。

⏰:12/02/14 23:33 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#364 [我輩は匿名である]
『僕にはね、親がいないんだ』

家に帰って少しすると、今度は葛城が話し始めた。

『…どうして?』

『僕が殺したんだ。2人とも』

葛城は平気そうに言うが、凛には少し悲しそうに見える。

話しながら、葛城は袖口をまくり、自分の片腕を凛に見せる。

いくつかアザのような、やけどのような跡が残っている。

『それは…?』

⏰:12/02/14 23:33 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#365 [我輩は匿名である]
『煙草の跡。よく押し付けられてね』

少し苦笑して、葛城が答える。

どうしてそれを笑いながら言えるのか、凛は不思議で仕方がない。

『僕、小さい時からよく父親に虐待されてたんだ。母親は怖がって、助けてくれようとしない。

4年前…15歳の時かな。本当に殺されそうになったから、とっさに包丁で父親を刺して殺した。警察に通報した母親も一緒に』

話している葛城の表情が、少し暗い。

⏰:12/02/14 23:33 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#366 [我輩は匿名である]
『正当防衛だっていう声もあったらしいけど、ちょっと刺しすぎちゃってね。過剰防衛って事になって、少年院に入ってたんだ。

出てきてからは親戚に引き取られて、まぁ適当に育てられてこうなったわけ』

『…でも、なんで殺人犯なんかに…』

話を聞く限り、そんなに悪い人には思えない。凛は真剣に尋ねる。

⏰:12/02/14 23:34 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#367 [我輩は匿名である]
『たまたま外歩いてたら、さっきの君みたいに襲われかかってる女の人を見つけてね。

それ見た瞬間、何だか父親に殴られてる自分を思い出して、“殺さないと”って思った。気づけば襲ってた奴が血まみれになって倒れてたよ。

…でも、被害に遭ってた女の人が僕に言ったんだ。“ありがとう”って。…人を殺して感謝されたのは初めてだった。

だからたまーに家を出て散歩しては、生きてても害にしかならない奴を殺してまわってるのさ』

『…そうなんですか…』

不思議な、複雑な人間のようだが、凛はなぜか彼に惹かれた。

⏰:12/02/14 23:34 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#368 [我輩は匿名である]
『家に居場所がないんなら、たまにはここに来ていいよ。誰にも言わないなら』

葛城は笑って言った。

『…いいんですか…?』

『君がいいんなら、僕は別にかまわないよ。こんな汚い家でよかったらいつでもおいでよ』

その言葉は、凛の心に響いた。

今まで、こんな言葉をかけてくれたのはこの人が初めてだ。

しかし、どうして初対面の相手にここまで優しくしてくれるのか。

⏰:12/02/14 23:35 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#369 [我輩は匿名である]
『…あの』

凛は思い切って聞いてみる。

『どうして、そんなに優しくしてくれるんですか?…会ったばっかりなのに』

そう聞かれて、葛城は少し考えるそぶりを見せる。

そして、10秒ほど黙った後、小さく笑って答えた。

『…君は…僕に似てるから』

⏰:12/02/14 23:35 📱:PC/0 🆔:Gu5WMMzk


#370 [我輩は匿名である]
「…それから…私は毎日のようにあの人の所に通った。あの人の所にいる時だけ、私が私でいられたから。

だから…あの人が殺人犯だって、もうどうでも良くなって……下手すれば私も逮捕されるんじゃないかとも思ったけど、それでも良かった。

私もあの人も、もうそんな風にしか生きられないのよ」

「そんな事ない!どんな理由があっても、その人を殺せば、それで全部解決するの!?」

凛の話に、黙って聞いていた彩は反論する。

⏰:12/02/15 22:59 📱:PC/0 🆔:2Wja4oSk


#371 [我輩は匿名である]
「確かに、“死んでくれればいいのに”とか思う人はいるかもしれない。でもそんな事でいちいち殺してたらキリないじゃん!

たかが腹立つ奴の為に、人生棒に振るなんてもったいないと思わないの!?」

「言ったでしょ?“私たちはそんな風にしか生きられない”って。もったいないと思えるような人生じゃない。

あんた達みたいに、普通に愛されて育った人には、私たちの気持ちなんてわかるはずない!」

「わかりたくねぇな、そんなもん」

誠もまた、彩に加勢し首を振る。

⏰:12/02/15 22:59 📱:PC/0 🆔:2Wja4oSk


#372 [我輩は匿名である]
「虐待されても、いじめられても、それを乗り越えて生きてる人はたくさんいる。お前が言ってる事は、自分を正しいと思わせるためのただの言い訳だ」

「じゃあ青山美穂はどうなのよ?あの子、私たちを殺すために包丁持ってたじゃない。あの子だって私たちと同じよ。好きな男が死んだ悲しみを、乗り越えられなかった。違う?」

凛の言う事も、一理ある。

彼女の言葉に、2人とも返す言葉を見つけられず黙り込む。

しかし、彩が再び口を開いた。

⏰:12/02/15 22:59 📱:PC/0 🆔:2Wja4oSk


#373 [我輩は匿名である]
「…確かに、美穂ちゃんがやろうとしたことは間違ってたと思う。もっと別の方法があったんじゃないかって、今も悔しくて仕方ないよ。…あんた達だって一緒だよ」

「“別の方法”?そんなのあるわけないじゃん。あの人はあの時父親を殺してなかったら、自分が殺されてたかもしれない。私だって、いじめに耐えられなくて自殺してたかもしれない。

私達には、あいつらを殺す以外に何も道はなかった」

「そうか?3年になってクラスが変われば、いじめはなくなったって聞いたぞ」

「そんなに簡単に人が変われると思ってるの?1年間ずっといじめられて、誰も信じられなくなって、それですぐ『いじめがなくなった、良かったね』って元気になる?ならないでしょ」

「人によるだろ。お前たちが弱かっただけで」

⏰:12/02/15 23:00 📱:PC/0 🆔:2Wja4oSk


#374 [我輩は匿名である]
「弱い?私が?バカ言わないで!私がこうなったのは誰のせいだと思ってるのよ!?」

「じゃあ逆に聞くけど、自分は誰のせいだと思ってるの?」

「みんなよ!親も、あいつらも、黙って見てるだけだったあんた達みんな!!」

凛はピストルを握り締めて怒鳴る。

しかし、彼女の話を聞いているうちに、彩は考えていた。

⏰:12/02/15 23:00 📱:PC/0 🆔:2Wja4oSk


#375 [我輩は匿名である]
「…かわいそう」

凛とは反対に、彩は落ち着いた声で言う。

「…何?」

「だってそうじゃない。誰かのせいにしなきゃ、自分を守れないなんて」

「…何言ってるの?だってそうでしょ?私は何も」

「“悪くない”?なら何で、直接声に出して『助けて』って言わなかったの?」

「言えば助けてくれたの?…ううん、そんなはずない。あんた達は何を言っても助けてなんてくれない。誰も…」

⏰:12/02/15 23:01 📱:PC/0 🆔:2Wja4oSk


#376 [我輩は匿名である]
「そう思ってるのが可哀相だって言ってるの」

彩は強い口調で言い返す。

「勝手に“助けてくれるはずない”とか考えて、自分から心閉ざしちゃってさ。それで『助けてくれなかった』って、都合よすぎじゃん。

じゃあ自分は何かしたの?何もしなかったでしょ?ただ黙っていじめられるだけで、立ち向かう事も、自分の口で助けを求めることもしなかった。

それでこっちが殺されるなんて、本当いい迷惑!」

「うるさい…!」

⏰:12/02/15 23:01 📱:PC/0 🆔:2Wja4oSk


#377 [我輩は匿名である]
「どうしたの?さっきまでの余裕どこ行っちゃったの?私の言ってる事の方が正しいから、言い返せない?」

今度は彩が余裕の笑みを浮かべる。

何も言い返せず、凛が黙る。しかし、すぐに小さく笑った。

「…余裕ない人は、もう1人いるよ。あんたのすぐ後ろにね」

その言葉に、彩はちらっと自分の背後に目をやる。

「…誰の事だ?」

⏰:12/02/15 23:02 📱:PC/0 🆔:2Wja4oSk


#378 [我輩は匿名である]
「あんたよ。さっきより顔色悪いけど、大丈夫?早く病院行かないと、本当に死んじゃうよ」

「…殺す気でいたんだろ。…何をいまさら」

彩の背後で誠が鼻で笑う。

しかし凛の言う通り、誠の声が少し弱々しくなっている。呼吸も大きくなっている気がする。

「いいの?これ以上無駄な事言ってると、また大事な友達が1人死んじゃうよ?」

「…そう言えば、私がおとなしく殺されると思ったの?」

彩はあえて、強がる言い方をする。

⏰:12/02/15 23:02 📱:PC/0 🆔:2Wja4oSk


#379 [我輩は匿名である]
誠は心配だが、ここで折れたら2人ともやられる。どうにかして言い負かすことができれば、2人とも助かるかもしれない。

彩は一か八か、それに賭ける。

「私たちは死なないよ。あんたみたいに弱い奴に、絶対殺されたりしない」

「黙れ!絶対ここで殺してやる…!私をここまで怒らせた事、後悔させてやるよ!!!」

凛は狂ったように叫び、引き金に指をかける。

⏰:12/02/15 23:03 📱:PC/0 🆔:2Wja4oSk


#380 [我輩は匿名である]
そして…

ドン!と、重苦しい銃声が1発、倉庫内に響き渡る。

ピストルを持っていた凛の手の甲から、血が噴き出す。

どこかから飛んできた銃弾は凛の手を貫通し、持っていたピストルも砕いた。

⏰:12/02/19 22:35 📱:PC/0 🆔:qbNJL2rk


#381 [我輩は匿名である]
「ああああああ!!」

悲鳴を上げながら、凛が獣のように目を見開いて睨んだ先には、煙の上がる拳銃を構えた南里の姿。

いるはずのない彼女を見て、凛は自分の目を疑い、一瞬動きを止める。

その直後、今度は背後から誰かに両腕を掴まれ、完全に動きが取れなくなってしまった。

「やっと捕まえたぜ、くそガキ」

⏰:12/02/19 22:35 📱:PC/0 🆔:qbNJL2rk


#382 [我輩は匿名である]
凛を確保し、土谷が勝ち誇ったような笑みを見せる。

「何で!?何であんた達がここに…!?」

「私が呼んだの」

凛が捕まる姿を見ながら、彩が言った。

「うっちーが誰かに撃たれた音がしたから、私たちの考えた通りだと思った。だから聞こえないように南里さんに電話して、すぐ来てもらうように頼んでたんだ」

⏰:12/02/19 22:35 📱:PC/0 🆔:qbNJL2rk


#383 [我輩は匿名である]
「残念だったわね。たまたま私たちは署に残ってたのよ。“何かあった時に困るから”って。…本当に何かあるなんて思ってなかったけど」

拳銃をおろし、南里が笑う。

「じゃあ、じゃあそいつが死んでたらどうしたのよ!?」

「死んで無い事を祈るしかなかった。でもその後すぐにうっちーの声がしたから、見てみたら肩撃たれてるだけだったから、大丈夫かなと思って」

「…おい…それはさすがに可哀相だろうよ。結構ぐったりしてるぞ」

土谷に言われて、彩は初めて後ろを向いた。

⏰:12/02/19 22:36 📱:PC/0 🆔:qbNJL2rk


#384 [我輩は匿名である]
確かに彼の言う通り、誠は下を向いて黙っている。

「…大丈夫。うっちーも私も死なないよ」

彩は曇りのない目でそう断言した。

「何で…何で言い切れるのよ」

「約束したもん。ここに入る前に、『絶対死なないで』って」

「たったそれだけ?そんなの…」

⏰:12/02/19 22:36 📱:PC/0 🆔:qbNJL2rk


#385 [我輩は匿名である]
「あんたにはわかんないよ。お互いを信じ合う気持ちなんて」

彩に言われ、凛は下を向く。

「…殺して」

「あ?」

小さな声で凛が言ったのを聞き取れず、土谷が耳を傾ける。

「殺してって言ってるの!あんた達に逮捕されるぐらいなら、死んだ方がマシ!!あの男を殺されて、私の事恨んでるんでしょ!?早く殺しなさいよ!ほら!!」

焦るように言う凛に、土谷は憐れむような視線を向ける。

⏰:12/02/19 22:36 📱:PC/0 🆔:qbNJL2rk


#386 [我輩は匿名である]
「…てめぇと一緒にすんな」

土谷は真剣な顔で答える。

「そりゃてめぇの事は殺したいぐらい恨んでるよ。顔が腫れあがるぐらいまでぶん殴ってやりてぇ。

でもなぁ、そんな事したって、あいつらは喜ばねぇんだよ。あいつらが望んでるのは、お前を逮捕する事だけだ。

…生きて償え」

そう言って、土谷は凛の両手に、静かに手錠をかけた。

⏰:12/02/19 22:37 📱:PC/0 🆔:qbNJL2rk


#387 [我輩は匿名である]
自分の手首にかけられたそれを見て、凛は呆然と立ち尽くす。

ちょうど、南里たちが呼んでいたらしい応援の警官たちが到着し、続々と中に入ってきた。

それを確認し、南里が拳銃をしまって彩達に駆け寄る。

「大丈夫!?外に救急車呼んであるから、すぐに運んでもらいましょう」

「はい…」

ホッとすると同時に、突然彩の頭を激しい痛みが襲った。

直後に吐き気とめまいもして、彩はそのままその場に倒れ込んだ。

⏰:12/02/19 22:37 📱:PC/0 🆔:qbNJL2rk


#388 [我輩は匿名である]
目が覚めると、彩は知らない天井を見上げていた。

すぐ近くから、ピッピッと機械の音がする。

ゆっくりと周りを見渡してみると、点滴や心電図モニターが置いてある。

「…病院…?」

「目が覚めた?」

声がした方を向くと、そばに南里がいた。

「…南里さん…」

「軽い脳震盪だそうよ。大したことないって」

南里はそう言って、優しい笑顔を見せる。

⏰:12/03/05 21:43 📱:PC/0 🆔:BntSR/HI


#389 [我輩は匿名である]
あぁ、そういえば凛に殴られたときに頭をぶつけた気がする。

彩はボーっとそう思った後、「あ!」と声を上げて飛び起きた。

「どうしたの?」

「うっちーは!?」

「あぁ、内村君なら肩手術して違う病棟に送られたわよ。さっき土谷さんが見に行ったら、先に目を覚ましてたそうよ。問題ないって」

「…良かった〜…」

最後に見た誠はぐったりしていたため、彩はホッと胸をなでおろす。

「あと、もう1人」

南里が笑ったまま補足する。

⏰:12/03/05 21:43 📱:PC/0 🆔:BntSR/HI


#390 [我輩は匿名である]
「梶浦君も、意識が戻ったそうよ」

「本当!?そっかぁ…良かった…」

彩は笑って、安堵のため息を漏らす。

「…ありがとう。捜査に協力してくれて」

南里は優しく笑い、彩に礼を言った。

「いえ、そんな…」

「そして、ごめんなさい。あなた達の事…守ってあげられなかった。それに、あなた達がいなかったら、きっと事件はまだ解決できてなかったと思う。…本当にありがとう」

そう言って、南里は深く頭を下げる。

⏰:12/03/05 21:43 📱:PC/0 🆔:BntSR/HI


#391 [我輩は匿名である]
「…こちらこそ、ありがとうございました。…犯人…捕まえてくれて」

彩は苦笑して言葉を返す。

「…きっと、春香たちも喜んでると思います」

「…そうね」

窓の外に目を向ける彩に、南里は頭を上げ、頷く。

「……凛達は…どうなるんですか?」

少し間をおいて、彩が南里に尋ねる。

彼女の質問に、南里は表情を暗くして答える。

⏰:12/03/05 21:44 📱:PC/0 🆔:BntSR/HI


#392 [我輩は匿名である]
「主犯の小山凛は、殺人罪、銃刀法違反等で、少年法に基づいて罰せられるでしょうね。永井皐は、おそらく殺人幇助(ほうじょ)で同じように罰せられると思うわ」

「…そうですか…」

彩は少しうつむいて、それだけ答えた。

やっと終わった。何もかも。

でも、何だか終わった気がしない。

中学時代、私がもっと凛の力になれていたなら、こんな事にはならなかっただろう。

そう思うと、なんだかやるせない気持ちになる。

⏰:12/03/05 21:44 📱:PC/0 🆔:BntSR/HI


#393 [我輩は匿名である]
「…それじゃあ、私たちは署に戻るわね。今日は、ゆっくりお休みなさい」

南里はそう言って、鞄を手に立ち上がる。

「また何度か話を聞きに来たりするかもしれないけど、その時はよろしくね」

「はい。じゃあ、また」

彩が笑って答えると、南里も笑って、病室を後にした。

1人になり、彩はまたベッドに横になる。

今度、彼らの墓参りに行こう。彩はそう決めて、また目を閉じ、静かに寝息を立てた。

⏰:12/03/05 21:45 📱:PC/0 🆔:BntSR/HI


#394 [我輩は匿名である]
2週間後。事件はさらに、最悪の形で終わりを迎えた。

警視庁に戻ったばかりの南里は、今度はある留置所にいた。

留置所からの1本の通報。「勾留中の被疑者が死んでいる」。

それは、自分が逮捕した、あの少女だった。

横たわる彼女の遺体の首には、彼女が勾留中に着ていた着衣の上着が巻き付いていた。

おそらく、脱いだものを自分の首に巻いて絞めたのだろう。

呆然と立ち尽くす南里の視界の端に、ふと、ペンと紙が置いてあるのが映る。

⏰:12/03/05 21:46 📱:PC/0 🆔:BntSR/HI


#395 [我輩は匿名である]
「…これは…?」

南里は手袋をしたままそれを拾い上げる。

「それは昨日、『母に手紙を書きたい』と申し出があったので、渡したものです」

その対応をしたのだろう担当者が、南里に答える。

しかし、手紙の内容は明らかに、残された母親にあてられたものではない。

南里は黙って、その全てに目を走らせる。

⏰:12/03/05 21:46 📱:PC/0 🆔:BntSR/HI


#396 [我輩は匿名である]
『どうして私ばかりこんな目に遭うの?

悪いのは私だけ?そんなはずない。

でもみんな、私だけを責める。

もう疲れた。早く葛城さんに会いたい。

葛城さんの隣だけが私の居場所。

葛城さんのいないこの世界に、生きてる価値なんかない。

冷たい世界よ、さようなら。』

⏰:12/03/05 21:47 📱:PC/0 🆔:BntSR/HI


#397 [我輩は匿名である]
手紙は、そこで終わっていた。

手紙というよりは、遺書という方がいいような気もする。

「…どこから…狂ってしまったんでしょうね」

南里はぽつりと、その1枚の紙に視線を落としながらつぶやく。

父親が事故を起こしてから?いじめが始まってから?葛城と出会ってから?

それはきっと、凛本人にもわからないだろう。

もしも生まれ変われたら、彼女は何を望むのだろうか。

そう考えると何だか胸が痛くなって、南里は目を背けた。

⏰:12/03/05 21:47 📱:PC/0 🆔:BntSR/HI


#398 [我輩は匿名である]
同じ頃。彩はやっと退院できた誠と2人で、春香、龍也、美穂の墓参りに来ていた。

まだ入院中の司は退屈そうにぶつぶつ文句を言っていたが、誠がなだめるとしぶしぶ納得して昼寝をしていた。

「今頃…みんなどうしてるんだろうね」

墓に向かって手を合わせた後、彩がふとつぶやく。

「…誰?」

まだ三角巾で左腕を肩からつりさげた誠が、首をかしげて聞き返す。

⏰:12/03/05 21:48 📱:PC/0 🆔:BntSR/HI


#399 [我輩は匿名である]
「春香たち。天国でどうしてるんだろうなーって思って」

「あぁ…。長谷部はわからねぇけど、龍也は相変わらず青山にもうアタックしてるんじゃねぇの」

「ははっ、当たってそう」

適当ながらももっともな答えを出す誠に、彩は笑う。

「でも…本当に終わったんだね」

「…あぁ…」

「…これで、みんな安心して眠れるね」

「…あぁ、俺たちか?」

⏰:12/03/05 21:49 📱:PC/0 🆔:BntSR/HI


#400 [我輩は匿名である]
「違う!春香たち!」

「あぁ、そっち」

彩に大声で起こられ、誠は顔をしかめて返事する。

「ったくもう…」

「さぁ、みんなの墓もまわったし、飯食いに行くぞ。腹減った」

誠はそう言ってさっさと歩き出す。

⏰:12/03/05 21:49 📱:PC/0 🆔:BntSR/HI


#401 [我輩は匿名である]
その背中を、彩はむすっとした顔で見つめる。

でも、いつも通りの彼を見ていて、自然と顔がほころんだ。

「おい、置いて帰るぞ」

足音が追いかけてこないのに気付いたのか、誠が振り向く。

「待ってよ」

「何笑ってんだよ、気持ち悪い」

「ほっといて!」

2人は喧嘩しながらも、並んで歩いて、暖かい風が吹くこの場所を後にした。

⏰:12/03/05 21:49 📱:PC/0 🆔:BntSR/HI


#402 [我輩は匿名である]
以上で、本編はここまでとなります。尻切れトンボ感が否めませんが、そこはご容赦ください…。

まだまだ余りがありますので、このスレをこのまま利用して続編を書こうかなと考えております。

いつ始められるかわかりませんが、もしよろしければ、そちらもお楽しみください(^^)♪

私のマイペース更新ながら、ここまで読んで下さった方々、感想板にもメッセージ下さった方々、本当にありがとうございました(*^▽^*)!!

⏰:12/03/06 14:38 📱:PC/0 🆔:R8GkiPzM


#403 [☆]
めっちゃ楽しかったです

続編も楽しみ‥∩^O^∩

⏰:12/03/10 23:07 📱:F01B 🆔:q/kQJaac


#404 [&◆JJNmA2e1As]
(´∀`∩)↑

⏰:22/10/01 21:01 📱:Android 🆔:rYsbLV12


#405 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑age↑

⏰:22/10/07 17:08 📱:Android 🆔:GR1soPvw


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