ぼくらのみかた
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#229 [輪廻◆j6ceQ96kak]
その日の放課後、俺と雪乃ちゃんと野村の三人で花屋で花束を買ってから久保のいる病院へ向かった。
『久保くん大丈夫かな…』
病室へ向かう途中の廊下で雪乃ちゃんがやけに心配そうに呟く。
もしかすると雪乃ちゃんは久保の事が…
いやいや、まさかね。
それよりも、木下先生が言っていた事がまだ信じられなかった。
:11/08/18 20:38
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#230 [輪廻◆j6ceQ96kak]
久保が、声を失う病…
つまり…失声症だなんて。
この二人にはもちろん、クラスの皆にも言えなかった。
もし知ったら大騒ぎになる事はわかりきっていたから。
『あった、ここだ』
雪乃ちゃんが病室を見つけ、俺達三人は中に足を踏み入れた。
:11/08/18 20:44
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#231 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『あれ、久保くんだけなんだ…』
今日は母親は来ていないようだ。
昨日と同じく奥のベッドで仰向けに寝ている久保の姿があり、傍へ行く。
『久保!』
俺が、目をつぶっている久保に大きな声で呼びかけると、ゆっくりと目を開けた。
『久保くん!』
雪乃ちゃんも嬉しそうに呼びかける。
:11/08/18 20:57
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#232 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『久保、調子はどうなの?』
野村が心配そうな顔で聞く。
しかし久保は応えない。
黙ったまま俺達をジッと見つめている。
喋りたくても喋れないんだ―
そう思った瞬間に、目に涙が浮かんできた。
なんとかこぼれ落ちないように上を向いて、乾いてくるまで待つ。
でも、その不自然な俺の行動に雪乃ちゃんがすぐ気がついた。
:11/08/18 21:07
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#233 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『高見くん、泣いてるの?』
『えっ? い、いやそんな事ない…け…ど』
…ダメだ。
女に涙を見せるなんて事したくなかったのに。
『雪乃、こういう時は何も見てない事にしておきなよ』
野村が俺をフォローするように雪乃ちゃんに言う。
『あ、ごめん…高見くん。でも私も泣きたいよ…』
そして俺につられて彼女も泣き出した。
:11/08/18 21:21
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#234 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ちょっとちょっと、雪乃までどうしちゃったのさ!』
いつにもなく野村があたふたしながら言う。
『別に死んだ訳じゃないんだからさ…』
…野村、少しは空気を読んでほしい。
これは悲し泣きではなく嬉し泣きなのだ。
雪乃ちゃんが落ち着くまでの間、俺と野村は久保の傍で顔を見続けていた。
:11/08/18 21:36
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#235 [輪廻◆j6ceQ96kak]
雪乃ちゃんは嬉し泣きだが、俺の場合は悲し泣きだった事は言わなかった。
しばらくして病室のドアがノックされ、担任が入ってきた。
『あ、先生…』
『心配になってな。それより久保はどうだ?』
担任は久保の顔をちょこっと見てから、隅で泣いている雪乃ちゃんの方を見る。
:11/08/18 21:57
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#236 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『松下…どうかしたのか?』
『先生。空気を読んでください』
野村がツッコミを入れるように言うと、どこからか小さな笑い声が聞こえた。
それは雪乃ちゃんでも野村でも担任でもない。
そう、久保だった。
『久保!』
俺は誰よりもすぐに久保に声をかける。
:11/08/18 22:10
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#237 [輪廻◆j6ceQ96kak]
『ちょっと高見…いきなりどうしたの?』
野村が不思議そうに聞いてきたが、俺は無視して久保の顔を凝視した。
『久保…よかった。そうやって笑えるんだな』
『高見、ちょっと聞いてる? というか…生きてるんだから笑うに決まってるじゃん』
『野村…それはなんか失礼じゃないか?』
担任と野村は、漫才のようなやりとりを見せていた。
:11/08/18 22:20
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#238 [輪廻◆j6ceQ96kak]
失声というからには、笑う事すらもできないと思っていたが、違ったようだ。
『先生、ちょっと久保の状態を聞いてくるな』
そう言って担任が病室から出ていった。
担任も、久保が失声症だということは聞かされていなかったようだ。
では、なぜ数学の木下先生には知らされていたのだろうか。
:11/08/18 22:32
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