漆黒の夜に君と。V[BL]
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#342 [ちか]
気恥ずかしさが沸々と沸き上がり、怒りへと変わる。
今の俺はきっと百面相に違いない。

「き、気づいてんならこっち向いて声の一つくらい…っ!」

そういえば、俺はガキの頃から照れると暴力で誤魔化すタチだった。
咄嗟に伸ばした手を見ながら、ふとそんなことを思い出す。

さすがに患者に暴力はふるわないが、勢いに任せ一度引っ込ませた手を伸ばし、その細い肩をひっ掴んだ。

そしてこちらに向かせようと力を入れる。
すると、なんということでしょう。

華奢な体は見掛け倒し、ではなく、
思った通り、というか思っていた以上にあっさりとその体は体勢を崩した。


そして。

⏰:11/11/04 21:03 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#343 [ちか]
「お、お前…、」

「…ッ見んな、バカ神崎っ!!」


一瞬のことに目を見開いたままこちらに振り向いた優里の瞳にはくっきりと涙のあとが滲み、赤く腫れていた。

驚いた俺はそのまま手を離す。

優里もそれと同時に、またもや俺に背を向ける先程の姿勢に戻った。


あれー…えーっと、
これは一体…

「泣いてんの…?」

「うっせ。」

俺、空気読めてなかった、ってこと?

⏰:11/11/04 21:15 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#344 [ちか]
「や、あの…えーっと、…」

慰めの言葉が出てこない。
そりゃそうだ、何に泣いてるか分かんねえんだから。

でもただ一つ言えるのは、
なんかドキドキしてる俺が居るってこと。

異様な脈の上がりように戸惑い話を繋げられないでいると、優里が先に沈黙を破った。


「俺さ、明日手術なんだ。」

その瞬間、
ドクン、と心臓が跳ねた。

⏰:11/11/04 21:26 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#345 [ちか]
「…知ってる。」


さっきとは違う意味で鼓動が速くなる。
受け止めたくない現実がすぐ傍にあるのに、見たくなくて、でも見なきゃいけないみたいな、そんな時にピッタリの感覚。

アイツが死ぬ間際のあの時も、こんな感じだった。


思いの外落ち着いた声に優里はフッと笑う。

「じゃあ、その手術の成功する確率が40%ってことも知ってる?」

「…ああ。」

「なーんだ、強がる意味無しって感じか。」

一瞬見せた泣き顔とは裏腹におどけてみせるその声が、らしくなくて痛々しい。

⏰:11/11/04 21:39 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#346 [ちか]
「じゃあ、あんたにだけ本音言っちゃおっ かなー。」

ふいに声色が変わる。
陰を帯びた声。
少し震えている。

優里はそう言って上体を起こした。
背中は俺に向けたまま。

月明かりがちょうどスポットライトみたいにそんな優里を照らしていて、なんだか幻想的にさえ思えた。


暫くの沈黙のあと、再び優里が口を開く。


「………ほんとは手術、すっげー怖い。」


それはもうか細くて握り潰せてしまいそうな声。

頭より先に、体が、その震える声に触れようと手を動かしていた。

⏰:11/11/04 21:54 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#347 [ちか]
「…でもさ、」

が、またその手は優里の言葉に遮られるようにして止まった。

「よかった、最後に神崎に会えて。」

何を言ってるのか分からない。
いや、分かりたくないと言った方が正しいだろうか。

「なんだよ、最後って。」

じわじわと上がってくる底知れぬ感情を抑えようとするが、もはや出来ているかは分からない。

しかし優里はそんな俺に聞く耳を持たないようだ。

「もう会えないと思ってたからさ。これも俺が“最後”だから、神サマが仕向けてくれたのかな?なんつって…」

「だから、何言ってんだよさっきから…っ」

「だってもう俺、明日には死ぬかも知れな…、」

「おい…っ」


沸き上がった感情が俺を動かした瞬間だった。

⏰:11/11/04 23:17 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#348 [ちか]
ギュッ…――


気がつけば目の前の華奢な身体を力一杯抱き締めていた。

「かっ…神崎?」

動揺を隠せない様子の優里。
それは俺も同じだった。

バクバクと心臓が鳴る。
こんな密着した状態でお互いの鼓動はうるさいほどに伝わっていた。


俺はまた何して…っ

そうは思うものの、
抱き締めた腕を緩める気にはなれない。


そうか。

もう、そろそろ俺は自分の気持ちに気づかないといけないってことか。

⏰:11/11/05 00:41 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#349 [ちか]
回した腕にポタポタと滴が落ちる。


「なにこれ、俺夢でも見てんのかな?」

ふざけて見せるが、無理しているのがよく分かる声。
俺はさらに回した腕をきつくした。


「……俺が今ここに居るのも、お前が今生きてんのも夢じゃない。」



夢じゃないから…、

「だから、最後とか死ぬとか言うな。」

抱き締めた身体が小刻みに揺れる。

⏰:11/11/05 00:53 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#350 [ちか]
「でも手術の成功率は40%しかないし…ッ」

「40%あれば十分だ。0じゃないなら、そこに望みを賭けろ。俺はお前が明日でも生きてるって確信持って言える。」



そんな根拠何処にある。
しかし、今の俺にそんなこと考える余裕など無かった。


「どっから来るんだよ、その自信…」

「知らん。」

現実味を帯びた質問を適当に受け流す。
これではどっちが大人かわかんねえな。



そんな風に俺たちは
抱き締め、抱き締められたまま小さく笑った。

⏰:11/11/05 01:04 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#351 [ちか]
笑い声に涙の音が混ざる。
儚くて弱々しく。

ふいに部屋は静かさを取り戻した。
それに溶け込むように優里は俺の名前を呼んだ。

「なぁ、神崎…」

「ん。」

「やっぱ俺、あんたのこと好き。」


急なソレに身体がピクリと反応した。
胸の奥が締め付けられる。
絞り出すような声は今にも消えそうなのに、その意思だけがどんどん直球で伝わってくる。

「この何ヵ月会ってなかったけど、ずっとあんたのことばっか考えてた…」

さらに胸の奥が痛む。

「神崎が、好き…ッ」

その気持ちに今、応えられれば

全てはハッピーエンドで終われるのに。

⏰:11/11/05 01:12 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


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