漆黒の夜に君と。V[BL]
最新 最初 🆕
#1 [ちか]
儚いなんて

分かっていた


それでも

繋ぎ止めたいと
願ってしまったのは


あの夜、出逢った君が

忘れられなかったから。…――
>>2-4

⏰:11/10/04 20:48 📱:P906i 🆔:nsqJl3o.


#2 [ちか]


*感想板
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漆黒の夜に君と。T[BL]
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漆黒の夜に君と。U[BL]
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第一話〜第四話のまとめ
bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/9870/906

第五話〜第九話 まとめ
bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/10217/939

⏰:11/10/04 21:59 📱:Android 🆔:r15NC41s


#3 [ちか]
*アンカー

>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500
>>501-550

⏰:11/10/04 22:16 📱:Android 🆔:r15NC41s


#4 [ちか]
*アンカー続き

>>551-600
>>601-650
>>651-700
>>701-750
>>751-800
>>801-850
>>851-900
>>901-950
>>951-1000

中傷・荒らしお断り*
アドバイス・感想大歓迎*

⏰:11/10/04 22:16 📱:Android 🆔:r15NC41s


#5 [ちか]



第十話 恋は盲目!


⏰:11/10/05 21:52 📱:Android 🆔:/D/eBLqQ


#6 [ちか]
「え、正月も?」

「うん、どうしても相手の都合で」




俺は、
そっか。
と呟いた。
精一杯平然を装って。

⏰:11/10/06 19:55 📱:Android 🆔:OK0X1niU


#7 [ちか]
冬も真っ盛り、
只今冬休みでございます。


恭弥の部屋のベッドにてまったり中なわけです。
なんか落ち着くんだよなー。
俺の部屋のと同じなのに。



「…そっか!恭弥忙しいもんなー!」

そう言って笑って見せる。

だけどうまく笑えたか不安で、寝返りを打つふりをして枕に顔を伏せた。


そんな俺の髪を恭弥は優しく撫でる。

「……ごめんね?」

⏰:11/10/06 20:08 📱:Android 🆔:OK0X1niU


#8 [ちか]
心の中で呟く。

謝んなよ。
そんな風に謝られたら、俺、



「気にしなくていいって!ほら、俺昔っからそういうの慣れてるし!」


平気なフリするしかないじゃん。

⏰:11/10/06 20:18 📱:Android 🆔:OK0X1niU


#9 [ちか]
「………絶対2日には帰るようにする。」

「ん。」

恭弥の程好く筋肉質な腕がスルリと絡まってくる。

このまま明日なんか来なきゃいいのになあ。

なんでも、どうしても外せない仕事があって大晦日から家(ココ)をあけるらしい。


淋しくないとは言え…ない。
言えないけど、言わない。

⏰:11/10/06 21:00 📱:Android 🆔:OK0X1niU


#10 [ちか]
後ろから抱き締められる感触に甘えながら、その名前を呼んでみる。

「きょーや、」

「ん?」

「……呼んだだけ。」


顔がちょうど見えないせいか、気恥ずかしさ無しにそんなことが言える。

寝返りうっといてよかった。

⏰:11/10/07 16:36 📱:Android 🆔:d0zhYpdo


#11 [ちか]
ふいにその締め付けが強くなった。

そして囁かれる甘くて低い声。

「………なんでそんな可愛いの。行きたくなくなるんだけど。」

「…な、ちょっと、きょ…や……ぁ///」

首もとに吸い付かれる感覚に背筋が緊張する。
何度かそうして愛された後、振り向かされて唇が重なる。

「…クス、なんか今日の冥、積極的。」


わざと淫らな音を立てて離した唇で恭弥は 意地悪く微笑んだ。

⏰:11/10/07 16:54 📱:Android 🆔:d0zhYpdo


#12 [ちか]
明日から少し会えないと分かっているせいか、繋ぎ止めたい気持ちが強くなり、ついその感覚に夢中になっていた。

それを改めて言われると、急に恥ずかしくてたまらなくなった。

「べべ、別に、いつもと変わんねーし。」


そう素っ気なく返したのがまたおかしかったらしく、恭弥はまた笑う。

そして企んだキスを寄越した。

「じゃあ、これからはいつもそうしてね。」

それと同時にその膝が俺の下部を強く刺激する。

「んっ…!///」

突然の刺激に、ソレが敏感に反応を見せた。

⏰:11/10/07 17:05 📱:Android 🆔:d0zhYpdo


#13 [ちか]
「ほら、油断してるから。」

そんな、嘲笑うかのような発言にたまらなくなって、赤面していた顔の色はさらに赤くなった。

油断していただけに、情けない声を出してしまった上、その刺激が火付け役になり俺のソレは一枚布の下で息苦しそうに訴えている。

「まだ、触ってあげないけどね。」


どこまでも意地の悪いヤツだ、こいつは。

⏰:11/10/08 13:07 📱:Android 🆔:2LlVDvio


#14 [ちか]
恭弥は俺に余裕がないことを分かってて、そんな風に焦らす。

恭弥の大きくて白い手が服の上から胸の飾りに触れた。

思わずまた甘い声が漏れる。

しかし、あくまで直接は触れてこない。


そのもどかしさでさらに身体は欲情した。

⏰:11/10/08 18:43 📱:Android 🆔:2LlVDvio


#15 [ちか]
もう理性は遠のく一方で、それを繋ぎ止めようと恭弥の服をシワになるほど強く握りしめる。

「ん、ふ…あ///」

奪われた唇は、切れ切れに息をするので精一杯だ。

舌で歯列をなぞられ、下唇を舐められると、頭の奥がジンと痺れるような快感に襲われた。

絡まる銀色の糸が妙に厭らしくちらつく。

もう限界は近かった。

⏰:11/10/08 21:31 📱:Android 🆔:2LlVDvio


#16 [ちか]
しびれを切らしてついに俺は訴えかけるような眼差しを恭弥に寄越した。


「…きょう…や、俺もう……」

「もう、なに?」

それを敢えて聞き返してくるなんとも悪趣味な人間。
そんなヤツに惚れてる俺はさらに上をいく悪趣味、ってワケか…


ため息のような吐息を漏らして、俺はキッと恭弥を睨み付けた。
そしてその襟元を掴み引き寄せる。

「…もう限界…だっつってんのっ…///」

⏰:11/10/09 00:27 📱:Android 🆔:K8y/rTaY


#17 [ちか]
本能が理性を越えた瞬間だった。

だって俺、十代の健全な男の子だもん。

立場は逆転、
俺は恭弥に覆い被さる体勢をとった。

「やっぱり今日の冥、積極的。」


驚く様子もなく、むしろ楽しんでいるかのような声。妖艶な目付き。


全部奪ってしまいたくなる。

⏰:11/10/09 20:05 📱:Android 🆔:K8y/rTaY


#18 [ちか]
ぎこちなくも、本能が求めるままに舌を絡める。

もっと、
もっと、もっと、

微睡む瞳に映る恭弥も、心なしか火照って見えた。

やがて恭弥の手がTシャツをくぐり、直に侵入してきた。

⏰:11/10/09 20:14 📱:Android 🆔:K8y/rTaY


#19 [ちか]
めくられる布がもどかしくなり、
剥ぎ取るように自らそれを脱いだ。

そして、その白い手を掴み自信の胸に押し付ける。

「ちゃんと触って」


俺、こんなにドキドキしてんだよ?

わかってんの?


そう問い掛けるように。

⏰:11/10/09 20:40 📱:Android 🆔:K8y/rTaY


#20 [ちか]
大切な人と明日から会えない。

それだけで、こうも離したくなくなるのか。

こうも求めてしまうのか。


それは恥ずかしいほどに純粋で
正直な感情。


否定なんてする術を端から俺は知らない。

⏰:11/10/09 20:44 📱:Android 🆔:K8y/rTaY


#21 [ちか]
恭弥は妖艶に笑ったあと、目の色を変えた。

「あ、あ…んン、…はあっ////」

器用に舌を使って胸の飾りを舐めあげられると、快感が背筋を走り、声が漏れ出す。

「クスッ、やらしい顔。」

「…るさ…い…ン///」

恭弥は弄ぶように甘噛みしたり、転がしたりしながら突起をいたぶり続ける。

そしてついに下部にも手が伸ばされた。

⏰:11/10/09 21:03 📱:Android 🆔:K8y/rTaY


#22 [ちか]
「や……んあ、ッハァ…」

「なにがヤなの?もうこんなになってるのに。」

恭弥はズボンの上から強弱をつけてソレは擦る。

恭弥の言う通り、俺のソレはたしかにもう欲情を求める媒体として完成していた。

暖房のきいた部屋。
俺たちが動く度に揺れるベッド。
外にまで聞こえてしまいそうに淫らな自身のあえぎ声。

その全てが欲望をさらに掻き立てていく。


「直接触ってほしい?」

その問い掛けに力なく頷くと、恭弥は俺の履き物を下着ごと剥いだ。

⏰:11/10/10 00:07 📱:Android 🆔:IGLzOiMU


#23 [みか]
この小説やばいですx
早く続きみたいけど主さんのペースで書いて下さいねx頑張って下さいx

⏰:11/10/10 04:31 📱:K009 🆔:Z5LO4GcI


#24 [ちか]
>>23 みかさま.

ありがとうございます(*^^*)
そう言ってもらえると、更新がんばれます!
感想板もあるので、よければ遊びに来てくださいね♪

⏰:11/10/10 13:58 📱:Android 🆔:IGLzOiMU


#25 [ちか]
>>22続き

外気にさらされたソレはさらに硬さを増していた。

「きょ…や、あっ、…」

裏筋をしごかれると、あられもない吐息が漏れる。
もう限界はすぐそこまで来ていた。

しかし、
恭弥がそう簡単に欲望を吐かせてくれるわけがない。

「まだだめ。」

そう言って先端をつままれ、なんとも言えない感情が沸き上がり、俺は懇願するような瞳で恭弥を見つめる。

すると、ふいに細く長い指が蕾の中にスルリと入ってきた。

⏰:11/10/10 14:34 📱:Android 🆔:IGLzOiMU


#26 [ちか]
「…くっ、ふぅ…あッ」

蕾はその指を思いの外あっさり受け入れたが、それでも内壁を擦り、掻き回すような感覚は決して慣れるようなモノではない。

快感と異物感、
不慣れな感覚が混ざりあい、
苦しさの混ざった声が溢れた。

「あっ、んん…、ひぁ…っ」

しかしそんな蕾の感覚に夢中になっていると、不意をつくように胸の飾りを弄られたり、下に伸びた手が絶妙な加減で局部を玩ぶ。

まるで俺の反応を見て楽しんでいるかのように。

⏰:11/10/10 15:07 📱:Android 🆔:IGLzOiMU


#27 [ちか]
それは酷く恥辱的で俺のプライドをいたぶった。

ここで表れる負けず嫌いの意地。

漏らしそうになる声を必死に噛み殺し、耐えて見せた。

俺だっていつも恭弥の思うツボにはならねーよ…っ

そう挑発的な目で睨み付けると、恭弥の表情(カオ)も不服そうになる。

「……〜〜っ…?!?!////」

そしてその瞬間、
今までの行為がかなり手加減されていたものだと知った。

⏰:11/10/10 15:28 📱:Android 🆔:IGLzOiMU


#28 [ちか]
「どう?これでもまだ我慢する?」

「…っ、だま…れっ!!///ん、こっの…、ヘンタ…イっ!!!///」

「お互い様。」

「あぁっ////」


増やされた指、容赦なくモノを扱きあげる手、飾りを口に含む感覚、

それらが混ざりあい、
一体になった瞬間、
頭が真っ白になった。

⏰:11/10/10 15:35 📱:Android 🆔:IGLzOiMU


#29 [ちか]
白濁が恭弥の服に滲む。

「…はぁッ、ハァ……っハァ///」

自身から吐き出された欲望を目の前に、息も切れ切れになった。

「我慢は良くないんじゃない?ね?」

恭弥はそんな俺を嘲笑うようにして、自分の服についたソレを絡めとり、舐めた。

そして意地悪く笑う。

「べ!べつに、我慢なんか…っ///」

「嘘ついたらお仕置きだよ?」

「……〜っ」

自身から出た白濁の量こそがその嘘を物語っているのだから、それ以上反抗なんて出来なかった。

思わず、その悔しさから下唇を噛む。
そんなとき、ふいにベルトの金属部分が外れる音がした。


「でも、僕もそろそろ限界なんだよね。」

⏰:11/10/10 22:30 📱:Android 🆔:IGLzOiMU


#30 [ちか]
「っッ!!!////」

その声が耳に届くと同時に、
蕾にあてがわれたモノの正体を悟った。

見えこそしないものの、
ソレはすでに硬く反り返っている。

先程まで俺の中を掻き乱していた指がスルリと抜かれ、代わりと言うにはあまりにも大きいソレが一泊の間も置かず一気に中へ入ってきた。

十分に慣らされた蕾はそれを苦しまずに受け入れる。

全身走りのは快感だけ。


「すごい、もう根本まで入っちゃった。冥の淫乱。クスッ」

「だ…からっ////うるさ…っ、あぁッん…いッ////」


容赦なく突き上げられ、
まともに喋ることも出来ない。
それすら恭弥は楽しむように、その動きを加速させた。

⏰:11/10/10 22:57 📱:Android 🆔:IGLzOiMU


#31 [ちか]
>>30訂正

一泊→×
一拍→○

全身走りのは→×
全身に走るのは→○

すいません(>_<)

⏰:11/10/10 23:00 📱:Android 🆔:IGLzOiMU


#32 [ちか]
「ちょっ、…あっ///待っ…て…っ、ッはぁ///だ…っめ…あぁッ///」

「もう、…っ、待てない…ッ」

待ってと言ったのはその快感に心が浚われそうになったから。
しかし、それを身体は望んでいないようだ。

言葉とは裏腹に、自らも身体を上下し、深い衝撃を求め続ける。


恭弥も本当に限界なのだろう。

打ち付ける腰やその表情からそれが見て取れる。

⏰:11/10/10 23:12 📱:Android 🆔:IGLzOiMU


#33 [ちか]
「あぁっ、ダメ…ッ、も…イク…っ!!!///」

「いいよ、僕も…だから…っ、…くッ、」

宣言通り、
そう喘いだ直後二度目の波が俺を襲い、
昇天に達した。

目の前が一瞬白に染まり、
下腹部にじんわりと温もりが広がる。

部屋に響く互いの吐息。
俺は倒れ込むように恭弥に重なった。

⏰:11/10/10 23:17 📱:Android 🆔:IGLzOiMU


#34 [ちか]
鼓動の音が重なって聞こえる。
脈打つ早さがやけに安心した。

それが心地よくて、
つい瞼が重くなってくる。

でもそうすると明日が来てしまう。
そしたら恭弥と会えない日が始まる。


…それは、まだ少し寂しかった。

しかし身体は思っている以上に体力を消耗したようで、言うことを聞いてくれない。

まだ寝たくないのに。

⏰:11/10/11 00:43 📱:Android 🆔:.Nm/Yoks


#35 [ちか]
繋ぎ止めるように名前を呼ぶ。
しかしもう意識は薄い。
そのまま、瞼は重力に逆らえず徐々に閉じていく。

「きょーや…。」

「ん?」

「………」

「寝言か。可愛いな、まったく。」


まだ寝たくないのに。…―――

⏰:11/10/11 07:00 📱:Android 🆔:.Nm/Yoks


#36 [ちか]
眠ってしまったと気づいたのは、太陽が天辺に昇った頃だった。

「ん、…ー朝?」

時計に目をやり、すでに時計の針が昼に指していることを知った。

寝返りを打っても、隣に恭弥は居ない。

ベッドが広く感じるのは気のせいだろうか。

虚しさを打ち消すように起き上がり、欠伸をした。

今年最後の日の始まりだ。
今年最後の一人の日。

⏰:11/10/11 16:02 📱:Android 🆔:.Nm/Yoks


#37 [ちか]
とは言え、
とくにすることもなく、
食事を済ませるとまた部屋に戻ってきてしまった。

ベッドに倒れこみ、天井が目の前に広がる。


そう言えば、
始めてこの家で目が覚めたときも、こんな景色だったな。

⏰:11/10/11 17:06 📱:Android 🆔:.Nm/Yoks


#38 [ちか]
バイト先で強面の人達に絡まれてたら、
恭弥が現れて
助けてもらって…。


そのあとは
ワケも分からないまま、
車に載せられてキスされて、
そっから記憶が無くて。

起きたらふっかふかのベッドに寝てて、目の前は高くて広い天井が一面に広がってて。


そんなことを思い出しつつ、
我ながら変な経緯でここに来たな、と少し笑った。

⏰:11/10/11 17:14 📱:Android 🆔:.Nm/Yoks


#39 [ちか]
あの時会ってなかったら
俺は恭弥とこんな風になることも無かったのだろうか。


そう思うと、
やっぱり寂しく感じる。


悔しいけど…

もうすっかり惹かれてしまっているんだと思い知った。

⏰:11/10/11 17:17 📱:Android 🆔:.Nm/Yoks


#40 [ちか]
この数ヶ月の間に
いろんな人との出会いがあった。

優里が来たときは
本気で追い出されると思った。

神楽さんと会ったのは梅雨ごろだっけ。
あの時は振り回されたなー。


めぐさんと凌さんに会ったのは夏休みに旅行行ったときで…

この前もお世話になったばっかりだ。
そう言えば最近やたら一緒に居るような。

喧嘩はいつもと同じだけど、なんか雰囲気柔らかいし。
なんかあったのかな?

⏰:11/10/11 17:22 📱:Android 🆔:.Nm/Yoks


#41 [ちか]
思い出す度に懐かしさが込み上げてくる。

そしてその思い出のどれもに恭弥が居る。



俺の生活の中に恭弥がすっかり溶け込んでいた。


…恭弥の中に居る俺もそうだったらいいな。

⏰:11/10/11 17:25 📱:Android 🆔:.Nm/Yoks


#42 [ちか]
「なんてなっ///」


照れ隠しに、独り言を呟いてみる。

虚しく響く部屋にため息が零れた。


恭弥、はやく帰ってこないかな。
なんて、叶うはずもないことを思っているうちに視界は再び暗くなり、俺は眠りに落ちていった。

⏰:11/10/11 17:29 📱:Android 🆔:.Nm/Yoks


#43 [ちか]
― 恭弥side. ―

眠っている冥を起こさないように朝方家を出た。

今日は大事な取引先が主宰のパーティーがメインになる。

昼はいくつかの取引先と挨拶がてら食事会と今後の見通しについて話し合って、夜からパーティーというわけだ。

大物が多く集まることも会って、毎年欠かさず出ていたが、今年ばかりは気が引けた。


昼の食事会まではなんとかやってのけたものの…、

「公私混同、ですか?」

「松山…」

パーティーが始まってから、この通り時計ばかりに気が行ってしまう。

⏰:11/10/12 00:25 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#44 [ちか]
松山が差し出してきた飲み物を奪うようにして受け取り、一口煽った。

そして、松山を睨む。

「馬鹿にするな。」

そんなことがあるわけない。
そう言いたいが、残念ながら図星だ。

分けて考えなくてはと頭で解っていても、冥のことが気になって仕方ない。

気にしなくて良い、こういうのは慣れてるから―……

その言葉と表情が何度も頭の中で流れる。
消し去るようにもう一度グラスを煽った。



僕がそうしている間に松山は、

「失礼しました。」と一礼したあと、

「ですが、」

と話を繋げた。

⏰:11/10/12 00:46 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#45 [ちか]
「冥様は昔の恭弥様に似ておられますね。」

「…?どういう意味だ?」

怪訝な顔でそう聞き返すと、松山は困ったように笑った。

「いえ、なんだか我慢強いところが似てらっしゃる気がしまして。」

「………。」

「こちらの主催者様より、よっぽど我慢強いかと。」

松山は皮肉のようにチラリと目線の先で豪快に酒を煽っている当事者を見ながら言った。

たしかに。
大晦日にわざわざパーティーを開くなんて、よっぽど独り身が寂しくて、尚且つ他人を巻き込む意地の悪い人間のすることだ。

それに比べて冥は…

「…坊っちゃんも昔はよく、お父上がいらっしゃらない年末は、冥様のような顔をしてらっしゃいました。」

⏰:11/10/12 00:59 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#46 [ちか]
昔…

昔から、家が家だから仕方ないとこんな日の独りは割りきっていたつもりだった。

幼いながらに平気なフリをしてみせたつもりだった。

しかし、それは今考えてみると松山の言う通り、『我慢』という仮面でしかなかった。


この主催者のように、
歳をとってもそれは耐え難い孤独だと言うのに、
ましてや『慣れてる』なんて。

そんなこと…――

⏰:11/10/12 01:06 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#47 [ちか]
「松山、戻るぞ。」


YES以外の返事、まして咎める言葉など受け付けないような声色でそう言うと、乱雑にグラスを置いて会場を出た。


外は雪が降っていた。

「坊っちゃん、風邪を引かれますよ。」


そう言って松山はクロークから受け取ったコートを僕の肩にかける。

「……昔の呼び名で呼ぶのはやめろ。」

「すいません、…恭弥様。」

⏰:11/10/12 01:16 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#48 [ちか]
まわされた車に飛び乗るようにして乗り、そのドアを松山が閉める。

その前に、

「…ありがとう。」


礼ぐらいは
言っておいてやろう。


「いえ。」

雪の中に松山の控えめな笑みは良く似合った。
……………―――――
………――――
……―――

⏰:11/10/12 01:21 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#49 [ちか]
― 冥side. ―

再び目を覚ましたのは、今年が残すところ一時間となった頃。



「もうこんな時間か〜…」


なんかもったいないことしちゃったな。

せっかく今年最後だって言うのに…

⏰:11/10/12 15:55 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#50 [ちか]
せっかく?

自分で思っておきながら、思わず笑ってしまった。


「いっつも一人じゃん、俺…」


そりゃ昔は透ん家で年越してたけどさ、
自分が家族の一員になった気分で越した年なんかなかった。

なんて言ったら、透は怒るかな。

⏰:11/10/12 16:00 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#51 [ちか]
今さら独りが寂しいなんて、
俺いつから贅沢になったんだろう。


苦笑を漏らして、
時計に目をやる。

いつの間にか今年はもう十分しか残っていない。


「カウントダウンでもするか。」

そう呟いて、時計を眺めた。

⏰:11/10/12 16:06 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#52 [ちか]
― 恭弥side. ―

「まだ着かない?」

「あと五分と少しでございます。」

チラリと時計に目をやる。


今年も残すところ十分。

心は急ぐばかりだが、車はそれに比例しない。

⏰:11/10/12 16:09 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#53 [ちか]
ふと思い付くように、僕は松山を見た。


「…それにしても、お前は僕にあんなこと言って良かったの?」

「あんなこと?」

「冥が我慢してるって。」


きっと松山は解っていてあの時あんなことを言ったんだ。

僕が気づいてるようで気づけていなかったことを暗示するように。

⏰:11/10/12 16:19 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#54 [ちか]
しかし松山は眉を八の字にして笑った。

「私はただ冥が恭弥様に似ておられると申しただけですよ。」

しらを切るつもりか。
まぁ、それもいいだろう。


「…まぁ、後始末は少し面倒ですが。」


「そんな発言、父が聞いたらきっとクビだぞ。」

いつも完璧に仕事をこなす世話係りの思わぬ本音がおかしくて、つい笑いが零れた。

そんな僕を見て、
「たまにはお許しください。今年最後の本音です。」
なんて言ったあと、つられたように笑った。

「今日だけは大目に見てやるよ。」

⏰:11/10/12 16:28 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#55 [ちか]
時計の針は容赦なく時間を削っていく。

秒針の音が身体に伝わってくるほど、僕の神経はそこに集中していた。


早く


早く


早く…―――

⏰:11/10/12 16:30 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#56 [ちか]
そして、
針が重なるまで残り一分のところで車が停まった。


ドアが開くのなんて待ってられない。


車を飛び出して、
迷わず冥の部屋に向かって走り出した。

⏰:11/10/12 16:32 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#57 [ちか]
いくつもの角を曲がり、階段を登る。

そしてまた角を曲がる。


こんな切羽詰まっている時ばかり、家(ウチ)のだだっ広さを思い知らされる。


こんなところに一人にしていたなんて。

気づいてやれなかった悔しさから思わず唇を噛んだ。

⏰:11/10/12 16:35 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#58 [ちか]
冥が、
気にしなくて良い、こういうのは慣れてるから

なんて言うから。


そんな風に言って笑うから。



気づくのに遅れてしまった。

僕にとって一番大事な相手は冥なのに。

⏰:11/10/12 16:43 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#59 [ちか]
秒針は一定の速度で容赦なくときを刻む。

10‥‥9‥‥8‥‥7


冥、

冥、

冥…――

何度も頭の中で名前を呼んだ。


6‥‥5‥‥4‥‥

⏰:11/10/12 17:09 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#60 [ちか]
漸く冥の部屋が見えてくる。

はやく、
はやく会いたい。


気づいてやれなくてごめん、と言って、それから、それから‥‥―――

焦る気持ち苛立って
自分を叱咤する。


もう部屋はすぐ目の前に、…――

⏰:11/10/12 17:15 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#61 [ちか]
一人の寂しさは自分が一番よくわかっている。

3…

そのつらさは決して慣れられるようなものじゃない。

2…

それでも独りが平気なんて、

1…

そんな人間、

居るはずないのにっ……――――

⏰:11/10/12 17:16 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#62 [ちか]
― 冥side. ―

時計の針はついに頂点をさそうとしていた。

無心でカウントを数える。

「6………5………4………、」

虚しい年越しになっちゃったな。
そんなことを時々考えながら。


「3‥‥2‥‥1‥、ぜ…」


ガチャッ‥‥――


背中越しにドアの開く音がして、
思わず振り返った。

そこに居たのは、…――

⏰:11/10/12 17:42 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#63 [ちか]
「恭‥弥…――」


嘘。

なんで。

夢?


居るはずのない恭弥の姿がはっきりと見える。
そんなのありえないのに。

信じられずに俺は何度も目を擦った。

だけど、やっぱりそこに居る。

「冥…―――」

紛れもなく会いたかった人が。

⏰:11/10/12 18:06 📱:Android 🆔:5fifT23Y


#64 [ちか]
「な…んで、」

なんで居るの?
そう聞く前に抱き締められた。

「2日に帰るんじゃ…」

頭が混乱すると同時に、目頭に熱いものがこみ上げてくる。

恭弥が強く抱き締められ抱き締めるから。

その温度があまりにも心地良いから。

俺はその締め付けに応えるように、その広い背中に両手を回した。


「ただいま。」


その声を聞いた瞬間、こみ上げていたものが一気に溢れた。

⏰:11/10/13 00:33 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#65 [ちか]
「泣かないでよ。」

「な゛、な゛い゛て゛ね゛え゛よ゛〜…」

涙声では何を言っても同じだと分かってはいるが、否定してしまうのはいつものクセだ。


そんな俺の頭を恭弥は優しく撫でる。
暫くそうして落ち着いたあと、

「今年は一番最初に冥に会えた。」

なんて、そんなことを甘い声で言うもんだから、心臓が出そうになるくらいドキドキとした。

⏰:11/10/13 00:38 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#66 [ちか]
この密着では心臓の音が聞こえてしまいそうで、思わず距離をとった。

そんな俺を恭弥は不安げな顔で覗きこむ。

「怒ってる?」

「べつに、そんなんじゃねーよ…」

「じゃあなんで目そらすの。」

顔見たらまたドキドキしそうだから
なんて言えるわけもなく。

俺は俯いたまま口を開いた。


「そんなことよりさ、初詣行きたい」

⏰:11/10/13 00:41 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#67 [ちか]
「初詣…、僕行ったことないんだよね」

「えぇぇ?!?!?」


日本人らしからぬ爆弾発言を聞いた俺は思わず顔を上げた。

目の前にはキョトンとした恭弥の顔。

「え…これってそんなに驚くことなの?」

驚くもなにも…

「日本人の正月は初詣と甘酒だって!!!!」

そう宣言して、
俺は強引に恭弥の手を掴み立ち上がった。

「行こ、初詣!」

そう言って無理矢理連れ出した外は一面雪景色だった。

⏰:11/10/13 00:48 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#68 [ちか]
「……これが初詣……。」

恭弥はカルチャーショックでも受けたかのように神社の前で立ち尽くしている。

「なにびっくりしてんの。まったく、これだから金持ちは。はい、甘酒。」

あきれ口調で差し出した甘酒も初見なのか受け取ったあと、まじまじと見つめ、恭弥は一口煽った。


「……甘い。」

「当たり前じゃん!甘酒なんだから!」

天然過ぎるそれにツッコミを入れて、俺たちは参拝の行列に並んだ。

その時、

⏰:11/10/13 00:52 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#69 [ちか]
「あれ?冥?」

聞き覚えのある声。
振り返ると、居たのは

「あ、透!」

相変わらずマフラーに顔を深く埋めた透が立っていた。
その後ろにはおじさんやおばさんも居る。

冬休みに入ってから、
あまり会っていなかったもんだからついついテンションは上がった。

「あけおめ!」

「おー、あけおめ。お前、誰と初詣…。」

あけおめ、と言いながら大きな手で俺の頭をくしゃくしゃと撫でる透。
透も機嫌が良いみたい。

が、
恭弥と目が合った瞬間、空気が凍った。

⏰:11/10/13 00:58 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#70 [ちか]
「あ、先輩。居たんですか。全然気づかなかった。」

「僕も気づかなかったよ、冥と話してたから。」


あのー…
不穏な匂いがするのは俺だけでしょうか…


笑顔で皮肉を言い合う姿は、できれば年始から見たいものではない。

なんとか間に割って入り、場は収まった。


が、

「あら!恭くん!」

また聞き覚えのある声。

⏰:11/10/13 01:05 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#71 [ちか]
前方からやってきたのは、神楽さんだった。


「か、神楽も初詣に?」

明らかに笑顔はひきつり、声も上ずっているが恭弥は平常心を装っている。

「はい!たまには良いかと思いまして!それにしてもこんなところで会えるなんて、偶然ですね!」

神楽さんは本当に嬉しそうに笑った。
そして、勢いで恭弥の腕を組む。

「い、痛い!離せ!」

「もう恭くんったら!照れなくてもいいんですよ?」

「微塵も照れてない!お前、少しは自分の力の強さを自覚しろ!」

「恭くんの照れ屋さん♪」

そんなコメディチックなやり取りは眺めるにはいい。
おもしろ半分でその様子を見ていると、恭弥が訴えかけるような目で見てくるから、タイミングを見て仕方なく仲裁に入った。

⏰:11/10/13 08:15 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#72 [ちか]
「か、神楽さん、あの人たぶん神楽さんのこと探してますよ」

恭弥に夢中になっていた神楽さんは長い栗色の髪を靡かせ振り向く。

「あら、本当…。残念ですが、恭くん、私もう行きますね。」

名残惜しそうに神楽さんはその腕の締め付けを強めた。

恭弥も最後だからと必死で笑顔を作る。

「そ、そうだね。残念だけど、早く行った方が良いんじゃない?」

どう見ても不自然だけど。

そんな恭弥に特に気づく様子もなく、神楽さんはペコリと頭を下げてから去っていった。

隣でため息が漏れる。

「おつかれ。」

あまりにも疲れ果てた顔を見ていたら、思わずそんな言葉が零れた。

⏰:11/10/13 08:29 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#73 [ちか]
そうしているうちにも長蛇の列はゆっくりと動いている。


もうすぐ賽銭箱が見えてきそうだ。

「まだかなー。」


待ちくたびれた俺はそう言って前の方を覗き混んだ。
すると、目の前から見覚えのある二人組が歩いてくる。

あれは、

「凌さんとめぐさん!」

顔がはっきりと認識できた途端、思わず大声をあげてしまった。

⏰:11/10/13 10:48 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#74 [ちか]
その声が向こうにもしっかりと届いたようで、二人と目があった。

「冥ちゃんにきょんやん!何してんのー?」

かけよって大きな目をパチパチさせるめぐさん。

「何って初詣に来てるんだから見たら分かるだろ。」

それとは対象に相変わらず冷めた碧眼をめぐさんに向ける凌さん。

凌さんの言葉にめぐさんは少し膨れたが、それ以上つっかかることもない。
そこらへんが最近雰囲気が柔らかいと思う理由の1つでもある。

⏰:11/10/13 11:44 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#75 [ちか]
「俺たちもちょうど今お詣りしてきたとこ。」

そう言って凌さんは手前の方を指差した。
重ねて、めぐさんが思い出したように言う。
「あ、そう言えばさっき神楽にも会ったわー!」

「あ、俺たちもさっき会いました」

返事をしたあと、チラリと横目で恭弥を見るとこれまた思い出したかのように嫌な顔をしていた。

それにしても…

「最近めぐさんと凌さんよく一緒に居ますよねー、なんかあったんですか?」

前から少し気になっていたことをおもむろに聞いてみる。

⏰:11/10/13 18:58 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#76 [ちか]
「え…」


何の気なしに聞いただけのつもりだったが、地雷を踏んだようだ。

一瞬、時間が止まったような気分になる。

「あ…、えっとその、なんか俺マズイこと…」

俺が慌てて謝ろうとした時、
ふいに凌さんがめぐるさんを顎を軽く上げた。

そして、


「こういうこと。」

⏰:11/10/13 19:09 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#77 [ちか]
「……え、ええぇえぇぇ?!?!?」

一瞬重なった唇。

それを目の当たりにして思わず驚嘆の声をあげた。


めぐるさんはみるみる赤くなっていく。

驚きすぎて言葉も出ない俺を見て、恭弥は笑っている。
コイツは知ってたのか。

そんな俺を差し置いて、めぐさんは怒鳴った。

「ななな、なんもいきなりせんでええやろ?!///」

「いちいちしますよ、つってキスするのか?中学生かお前は。」

そして再び始まる口喧嘩。

⏰:11/10/13 19:15 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#78 [ちか]
しかし、
今までは見てて不安にしか思えなかった口喧嘩も、こうカミングアウトされてしまうと、なんだか微笑ましく見えてきた。


にやけ顔でその様子を見ていると、凌さんがこっちを見た。
にやけ顔を隠そうと思わず片手で口元を覆う。


「じゃ、俺たちもう帰るから。」

「ちょ、まだ話終わってへんやろ!!」

「はいはい、俺が悪かった。」

「それがむかつく言うてんねん!!」

そんなエンドレスな会話をしながら、二人は遠ざかっていく。

⏰:11/10/13 19:46 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#79 [ちか]
「年始早々騒がしい奴らだね。」

恭弥がそう言って呆れ半分で笑う。
つられて俺も自然と笑った。

「でも、まさかこんないろんな人に会えると思わなかった!」

「たしかに。みんなも正月=初詣、甘酒ってわけか。」

「それは関係ないと思うけど…」


相変わらずの天然ボケに軽くツッコミを入れてるうちに、漸く賽銭箱が目の前に来た。

⏰:11/10/13 19:57 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#80 [ちか]
「こうやって、小銭投げて願い事すんの。」

「ふーん。」

チャリンと小銭が跳ねて、
賽銭箱に入っていく。

隣同士に並んで両手を叩いた。

そして目を瞑り、願い事。


…―願い事。

⏰:11/10/13 20:02 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#81 [ちか]
暫くして顔を上げた。

恭弥も続いて顔を上げる。

目が合って少し照れくさくなった。
すぐにそらして、来た道に足を戻す。

少し歩いたところでふいに恭弥が口を開いた。


「そう言えば冥、なんてお願いしたの?」

「ほえ?!///」

やべ、変な声出しちゃった。

⏰:11/10/13 20:08 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#82 [ちか]
「な、なんでもいいじゃん、別に!!///」

「え、なんで?教えてよ。」

必要以上に童謡されたのが気にかかったのか、さらに詰めよって来る。

だから、言えないんだって!!
心の中で懇願するように叫んだ。

「〜…っ、そういう恭弥はなんてお願いしたんだよ?!///」

「僕?」

そして、そんな俺に全く気づかない恭弥を避けるように質問に質問で返す。

が、恭弥は動じず真顔で答えた。

⏰:11/10/13 20:18 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#83 [ちか]
「冥とずっと一緒に居れますように。って。」

「…〜っ!!!////」


なんで、コイツは
こう恥ずかしいことを
簡単に言えるんだよ!!////


内心でそう叱咤して、
俺の顔は一瞬で紅潮した。

⏰:11/10/13 20:28 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#84 [ちか]
さらりと言ってのけて、もう一度恭弥は俺を見た。

「で、冥は?」

「ひひひ、秘密!!///」

それでも俺は言えない。

「僕言ったよ?」

だって、

「秘密ったら秘密なんだよ!!///」

⏰:11/10/13 21:05 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#85 [ちか]
俺も実は

恭弥とずっと一緒に居れますように

って願ってたなんて



言えるわけ


ないだろ…。///

⏰:11/10/13 21:06 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#86 [ちか]
「まぁ、いいや。」

漸くその言葉が出たことで、安堵のため息をつく。

そんな俺をよそに恭弥は話を続けた。

「そう言えば、言い遅れたけど」

「?」

紅潮している顔を見られるのが嫌で俯いていたが、それにつられてふいに顔をあげる。

そして、

「明けましておめでとう。」

短い間唇が重なった。

⏰:11/10/13 21:11 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#87 [ちか]
「〜〜…っ!!!!!////」


収まりかけていた赤面が一気に再沸騰する。

全身が熱くなった。

「顔真っ赤。」

恭弥はそんな俺を見てクスリと笑う。

ちょうど月明かりが恭弥を照らして、その笑みが妖艶になる。

⏰:11/10/13 21:22 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#88 [ちか]
その綺麗さに目が奪われそうになり、
思わず下を向く。

「………あ、明けましておめでとう。」

届くか届かないかギリギリの声量で返すのが精一杯だ。

心臓がドキドキする。

その甘い声や言葉、

笑顔に全神経が奪われそうだ。

⏰:11/10/13 21:28 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#89 [ちか]
今年最初の夜。

漆黒の夜が俺たちを包み、

満月が照らした。


初めて会ったあの日のように。

⏰:11/10/13 21:38 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#90 [ちか]
こんな毎日がずっと続けば良い。


なんて、そんなことを月を見て思う。

柄にもないと、自然に笑いが出た。

「冥?なに笑ってるの?」

「…ひみつ!」


恭弥はまた不服そうな顔をした。
その横顔さえ愛しく思う。

まぁ、願い事は今はまだ言えないけど、
今度ちゃんと言ってやろうかな。
なんてな。


みなさん、
なんだかんだで今年も、
楽しい一年が始まりそうです。

  ― 第十話 e n d ―

⏰:11/10/13 21:47 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#91 [ちか]
*

第十話 恋は盲目!
>>5-90

▼感想板
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Vの最初のお話完結しました!
わりと短くまとまってしまった(笑)
お正月の二人と総メンバーの登場でした(*^^*)
よければ感想よろしくお願いします。

*

⏰:11/10/13 21:51 📱:Android 🆔:iMqIqKtk


#92 [ちか]



第十一話 嵐、再び


⏰:11/10/14 07:16 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#93 [ちか]
なんで伝わらないんだ。




「あんたが好きなんだ。」





こんなに好きなのに。

⏰:11/10/14 08:03 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#94 [ちか]
ここはカナダのとある大学病院。

「あのなぁ〜…」

その研究室で、
ため息をつく男が一人。


「三十路のオジサンをからかうな。」


神崎陽平(30)。

目の前には真顔の少年が一人。

⏰:11/10/14 08:14 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#95 [ちか]
「はぁ?!からかってねえよ!!」

部屋中に響く怒気の混ざった声。
頭に血が上ってるのか顔まで赤い。

「十分からかってるだろうが。昼間っからいきなりヒトの研究室入ってきて告白?なんだ、ドッキリか?最近流行ってんのか?そっちの病棟で。」

見る限りたしかにからかってるようには見えない。

が、
本気にするワケもない。

⏰:11/10/14 11:40 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#96 [ちか]
ただ1つ言えることは、

「検査抜け出してまでドッキリ仕掛けに来るほど俺は暇じゃない。」




こいつは筋金入りのバカだと言うこと。

⏰:11/10/14 12:51 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#97 [ちか]
「はぁ?!バカかお前は!自分の病棟に帰れ!今すぐ帰れ!直ぐ様帰れ!」

研究室のドアを指差し怒鳴った。
だが、こいつは断固として動こうとしない。

「あんたが返事をくれるまで帰らない。」


ため息は増えるばかりだ。

毎日毎日こう熱烈に告白されちゃ、こっちの身がもたない。

怒鳴った勢いで上げた腰をもう一度椅子に沈め直し、頭を掻いた。

「……、そもそもなんで俺なんだよ。」

ため息に混ざっていつの間にかそんな声が漏れていた。

「それは…、」

⏰:11/10/14 12:58 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#98 [ちか]
― 優里side. ―







それは

一目惚れだった。


⏰:11/10/14 14:01 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#99 [ちか]
遡ること一週間前。


俺は病院を抜け出して近くの街をアテもなくぶらついていた。


そんなことはいつものことで、

特に変わったことでもなかった。


だけどこの日は違ったんだ。

⏰:11/10/14 17:36 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#100 [ちか]
急に右胸がズキンと痛みだした。

脈はどんどん速くなっていく。

「〜…ッ」

目の前がだんだんぼやけてきて、意識が途切れそうだ。

意識朦朧となりながら、ポケットの中にある予備の薬を探していたその時。


煩すぎるほどのクラクションが鳴り響く。
瞬間的に、それが俺に向けて鳴らされているものだと分かった。

⏰:11/10/14 17:46 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#101 [ちか]
しかし動こうにも、体がそれを許さない。

足は地面から離れないし、まともに目を開くことも叫ぶことも出来なかった。


死ぬかも知れない。


そう思ったその瞬間。

「危ないっ!!!」

⏰:11/10/14 17:48 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#102 [ちか]
そんな声が聞こえた時にはもう何か分からない浮遊感を感じていた。


その直後に身体中に痛みが走る。

どうやらアスファルトに叩きつけられたようだ。


俺…死んだのか?

しかし確かに痛みはある。
死んでも痛みって感じるのだろうか。

そんなことを意識が途切れそうになりながら思う。

それにしても体が重い…

「って〜…、危ないだろうが!!お前目ついてんのか?!どう見ても赤だろ!!」

え?

⏰:11/10/14 17:54 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#103 [ちか]
よく見ると、俺の上に男が覆い被さっている。
俺助けられたのか。


ていうかこの声、さっきの…


「聞こえてんのか?!おい!!」


あー、ダメだ

「ちょ、お前、顔真っ青だぞ!?おい、しっかりしろよ!!」

もう、

「安心しろ、俺は医者だ…――っ!!」


無理。

⏰:11/10/14 18:26 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#104 [ちか]
そこで意識は途切れた。


ただなぜか頭に鮮明に残っている。





その男の顔と声が。

⏰:11/10/14 19:16 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#105 [ちか]
目が覚めると、見覚えのある天井があった。


隣には…――



「あ、起きた!もう、いい加減にしてください!!」


いつもの外人看護婦。

⏰:11/10/14 19:42 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#106 [ちか]
「そりゃそうか。」


何を考えてたんだ、俺。

思わず乾いた笑いが零れた。

「なんですか?!ちゃんと話聞いて…っ」

「聞いてる、聞いてる。」

適当に相づちを打ったが、看護婦は納得できない様子でまだ怒っている。


それにしても、
隣にそいつが居たからってどうするつもりだったのか。
何に一瞬期待したのか。

その時はさっぱり分からなかった。

⏰:11/10/14 19:49 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#107 [ちか]
だけど、

「そう言えば…」

看護婦の言ったその一言は


「さっき君を運んできてくれた方、」


俺の心臓をドクンと跳ねさせた。


「病院(ウチ)に日本から研究で来たお医者さんみたいで今、隣の病棟に…って、ちょっと!!!!」

そして最後まで聞くまでに走り出していた。

⏰:11/10/14 20:08 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#108 [ちか]
もう看護婦の制止なんて聞こえなかった。


ただ長い廊下を走って、

走って

走って。

息が切れそうになった頃、

「居た…。」

やっと見つけたそいつの姿を見た瞬間、分かったんだ。

これは恋だって。

⏰:11/10/14 20:17 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#109 [ちか]
だから


「だからこれは恋なんだ。」


それから毎日毎日こうやって、
気持ちを伝えに来ている。

なのになんでこの男はそれを、

「安心しろそれは恋じゃない、それは気のせいだ。」

はぐらかすんだ。

⏰:11/10/14 20:38 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#110 [ちか]
― 陽平side. ―

ヒトメボレ…。


まさかこの歳になって、
そんな言葉を聞かされるとは。




「安心しろそれは恋じゃない、気のせいだ。」

はやく正気に戻してやらないと。

⏰:11/10/14 20:49 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#111 [ちか]
しかし俺のそんな努力はむなしく、さらにこいつの神経を逆なでするだけだったようだ。

「だから違うっつってんだろーが!!!何回言ったら分かんだよ、このバカ医者!」

それが好きな相手に言う言葉なのか。
思わず顔がひきつりそうになる。

まったく、この手のタイプは正直かなり苦手だ。

「いいからとっとと帰れ。俺は研究の続きがしたいんだ。」

できれば極力関わりたくない。

⏰:11/10/14 20:55 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#112 [ちか]
「だから返事くれるまで帰らないって…」

押し問答になりかけていたその時、研究室のドアが開いた。

「すいません、うちの患者がまた来てしまって!」


助かった。
ちょうど看護婦のお迎えだ。


溜め息が安堵の息に変わる。

⏰:11/10/14 21:02 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#113 [ちか]
「いやだ、離せよ!!」

「いいから来なさい!!」

そんな会話と共に、嵐のようなソレは去っていった。

再びドアがバタンと閉まる。


「…はぁ。」

あれが理由なら、助けなければ良かった。

そう思うのは医者として最低だろうか。

そんなことを思いながら、
煙草に火をつけた。

⏰:11/10/14 22:25 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#114 [ちか]
肺に煙が入ってくる感覚が、
心地良い。


もう一度吸い、そして吐く。

濁った白煙が浮かんで消えた。

暫くソレを味わったあと、
散らかった机の上からおもむろに一枚の紙を取り出した。

“離婚届”
そう記されたその紙には、すでに片方の枠に名前が記入されている。

「俺はもう誰も好きになれないんだよ。」

その紙を眺めて、独り言のように呟いた。

………――――――
……―――――
…―――

⏰:11/10/14 23:26 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#115 [ちか]
*

一区切りついたので
今日の更新はここまでにします

読んでくださってる方が居るのか不安です、、(;_;)
第十一話はずっと温めてきたお話なので、ぜひ楽しみにしていてください!

よければ
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4220/
来てください!!

では、おやすみなさい(*^^*)

*

⏰:11/10/14 23:32 📱:Android 🆔:0c0hhoR2


#116 [ちか]
― 優里side. ―

むかつく。


むかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつく!!!!!


「なんで分かんねえんだよ、あのバカヤロー!!」


「廊下では静かに!!」

「うるせー!!」

黒羽優里(16)、
ただいま病室に強制送還中。

⏰:11/10/15 08:35 📱:Android 🆔:GBumr9Qk


#117 [ちか]
「今日こそ返事聞くつもりだったのに邪魔しに来んなよ。」

ギロリと俺は看護婦を睨んだ。
しかし、さすがは長年俺の担当をしているだけある。そんな睨みに怯む様子は一切ない。

むしろ、

「あなたが先生の研究邪魔してるでしょうが。」

なんて揚げ足を拾ってくるくらい。

⏰:11/10/15 12:54 📱:Android 🆔:GBumr9Qk


#118 [ちか]
「うっせ。」


これ以上揚げ足を拾われるのも気分が悪いから、反抗は控え目にしておく。

そんな調節も、この歳になって多少するようになった。

そんなことより問題は、

あいつが“返事”をくれないこと。

⏰:11/10/15 12:56 📱:Android 🆔:GBumr9Qk


#119 [ちか]
気のせいだの、からかうなだの、そんなことの一点張りで、“コレ”と言える決め手をあいつは一度も言ってきたことがない。


「振るなら振ればいいのに。」

思わず心の中の声が漏れてしまった。

慌てて片手で口を塞いだが、もうすでに遅い。
看護婦の耳にはしっかりと届いていたみたいだ。

「それが先生の優しさなんじゃない。」

看護婦は特に興味もなさそうに呟くが、それは俺にとって受け入れたくない言葉だった。

優しさ。

そんなもの、俺には同情にしか聞こえない。

⏰:11/10/15 13:03 📱:Android 🆔:GBumr9Qk


#120 [ちか]
イライラする。

まさにあの曖昧な返事があいつの優しさだと言うなら、俺はそんなの…―――

ちょうど検査室の前に到着し、
看護婦は去り際に忠告のような雰囲気で口を開いた。



「まぁ、でもあんまり困らせちゃだめよ。あの先生、ご結婚されてるらしいから。」

⏰:11/10/15 13:11 📱:Android 🆔:GBumr9Qk


#121 [ちか]
「え…」

結婚…――

頭の中でグルグルとその単語が回る。

「そういうことだから、面白半分でからかっちゃだめよ。」


捨て台詞のようにそう釘を刺して、看護婦は去っていった。

「結婚…」

口に出してみると、余計に胸が痛んだ。
―――……………
――…………
―………

⏰:11/10/15 13:58 📱:Android 🆔:GBumr9Qk


#122 [ちか]
― 陽平side. ―

「ご結婚されてるのに研究のためにカナダへ、なんて奥様は反対されなかったんですか?」

どこから漏れたのか、
交流がてら一緒に昼食をとっていた医者らにふいにそんなことを聞かれた。


「……ええ、まぁ。」


俺は曖昧な相槌を打つ。

反対どころかむしろ離婚届まで押し付けられた、なんてなかなか言えたもんじゃない。

⏰:11/10/15 14:16 📱:Android 🆔:GBumr9Qk


#123 [ちか]
「いい奥さんですねー!僕もそんな相手と結婚したいなぁ。」

「あは…ははは…」

「やっぱり先生みたいに優秀で外見もカッコいいと、奥さんも素敵なんですね!」

「いや、そんな……、あはは…」

勝手に盛り上がるのは結構だが、
残念ながら俺はそんな円満な結婚生活を送った覚えがない。


まぁ、
すべて俺が悪いんだが。

⏰:11/10/15 14:52 📱:Android 🆔:GBumr9Qk


#124 [ちか]
離婚届を渡されたのは、日本を発つ前日の夜だった。
…………―――――
………――――
……―――

「離婚?」

それはまさに不意討ち、という言葉が丁度合うようなタイミングだった。

「…そう、別れてほしいの。」

荷造りも終えてソファで一息ついていた矢先の申し出に俺は驚いた。

吸いかけの煙草を灰皿に押し付ける。

「向こう(カナダ)に行くのが原因か?」

頭の中は酷く混乱しているはずなのに、そのトーンは至って冷静な自分に少し驚く。

⏰:11/10/15 15:12 📱:Android 🆔:GBumr9Qk


#125 [ちか]
もともと妻は、旦那に頼るようなタイプではなく、自立心の高い性格だったから、

「そんなんじゃないわ。」

この質問が的外れだと言うことは分かっていた。

“なんで”
その言葉が出てこなかった代わりに、そんな質問を投げてしまったのだ。

妻は、呆れたように笑った。
色目無しにそんな妻は美しいと思う。

「…そんなんじゃないのよ。もう、私達潮時だと思ったの。」

潮時…―――

たしかにそうかも知れない
なんて納得してしまったのは、やっぱり俺が妻を愛していなかったからだろうか。

⏰:11/10/15 15:26 📱:Android 🆔:GBumr9Qk


#126 [ちか]
「それにね、私好きな人が出来たの。……あなたと違って、私のことをちゃんと見てくれる人よ。」

そこまで聞いてやっと、妻の言いたいことが分かった。

一瞬目を見開いて驚いたが、徐々にその事実が体に溶け込んでくる。

ああ、そうか。
お前は気づいてたんだな。


もう遅いかも知れないが、俺は、お前のそういうハッキリしたところ、好きだったよ。

内心でそう呟きながら、潰れた吸殻に目を向ける。

⏰:11/10/15 23:01 📱:Android 🆔:GBumr9Qk


#127 [ちか]
「でもね、」

顔は見えないが、その声は涙を堪えているように震えていた。

見上げることが出来ない。
いや、今思えば、どんな顔で妻を見たら良いのか分からなかった、と言った方が正しかったかも知れない。

「あたし、あなたのこと好きだったのよ。父が院長、そしてあなたの上司で、こうやって結婚したけど、そんなことが無くてもあたしは…、」

ごめん。

「本当に愛してた。」

ごめん。

「あなたは、あたしのこと一度でも愛してくれたことあった…?」

そんなことをわざわざお前の口から言わせて、
本当に……ごめん。

⏰:11/10/15 23:12 📱:Android 🆔:GBumr9Qk


#128 [ちか]
結局それ以上俺は何も言えなかった。

すまない、と言えばそれはさらに妻を傷つけると思ったから。
それ以上、何も言えなかったんだ。


自業自得だ。

俺が、

向き合わなかったから、
これはきっと当然の報いだったんだ。

だけど俺は、

⏰:11/10/15 23:24 📱:Android 🆔:GBumr9Qk


#129 [ちか]
カナダ(こっち)に来た今も、
俺は離婚届(コレ)に自分の名前を書けずにいる。

あの約束が

どうしてもひっかかって。


目を閉じれば、
今でも色褪せることなく頭の中で甦る。

『先生はちゃんと素敵な人と幸せになって。』

その言葉と精一杯の笑顔が。

⏰:11/10/15 23:29 📱:Android 🆔:GBumr9Qk


#130 [ちか]
そういう経緯で、
今俺は妻と別居状態にある。

もともと妻の父がうちの病院の院長で、俺はそのお気に入り。

紹介したのが院長本人なだけあって、院長は、形式上男を作って出ていった娘が後ろめたいのか、執拗に俺を優遇してくれた。


おかげさまで、
カナダでの研究費用もタダ。

ありがたいっちゃ、ありがたいが、
それはそれで荷が重い。

⏰:11/10/15 23:37 📱:Android 🆔:GBumr9Qk


#131 [ちか]
そんな矢先、
研究で世話になっている病院の患者にいきなり告白された。



それも、
14歳も年下の。




しかも、
「男」に。

⏰:11/10/15 23:55 📱:PC/0 🆔:O7q2J.UE


#132 [ちか]
好きだと宣言されてから一週間、そいつはうちの研究室に毎日来てはヒトメボレだの恋だのほざきにきやがる。

まったく、うんざりだ。


もちろん、告白が2日3日と続いた頃、上の人間に助けを求めた。

男に告白されて研究が進まない、どうにかしてくれと。

⏰:11/10/16 00:58 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#133 [ちか]
しかし、返ってきた返事は俺の期待をあっさりと裏切った。
―――――…………
―――…………
――……

「いやー、どうにかしてやりたいのは山々なんだが、彼はうちの病院でも大事な患者で…」

「大事な患者?!なんですか、それ!!」

「だから…、その、つまりだな、うちに毎年寄付を…してくださる企業のご子息様なんだよ…。」


俺はその言いにくそうにする外科部長を見ながら悟った。
金貰ってる分、手荒な扱いが出来ないってわけか。

俺は諦めきれない気持ちを溜め息にして吐き出した。

⏰:11/10/16 01:30 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#134 [ちか]
そんな俺を見て、外科部長も苦笑い。

「まぁ、一時の気の迷いというやつだろ。彼はもうすぐ大きな手術があるからな。それが終わるまで、刺激しないように適度に相手してやってくれよ。」

「は、はい……。」
―――――……………
――――…………
――…………

そんな風に頼まれると俺も一室を借りて研究させてもらってる身である以上、さらにまくし立てて苦情を言うことは出来なかった。

「まったく神様っつーのは、意地悪なんだな…。」

心の声もここまで来ると、吐かずにはいられない。

⏰:11/10/16 01:40 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#135 [ちか]
外科部長からも適度に相手してやってくれと言われてるから、それ以来邪険に扱うことも出来ず。

心臓を患ってるみたいだから、万が一ショックで発作…なんてことがないように、遠回しに諭している。

これが一番良い方法だろう。

って…

「これじゃまるで、俺がガキの告白に本気になってるみたいじゃねえか!!!」

⏰:11/10/16 09:30 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#136 [ちか]
「あ…」

イライラしすぎて、怒気の混ざった声が感情に勢いを任せて出てしまった。
思わず、頭を乱雑に掻く。

今は結婚願望の強い同僚達との昼食を終え、俺は中庭の隅で一人、一服中なのだが。

「あれ?」

もうハコが空だ。
中身の無いそれはまるで自分のようで。
力任せにソレを握り潰した。

「医者がヘビーなんて説得力ねえな。」

そう呟いて、最後の一本を大事に味わった。

⏰:11/10/16 09:33 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#137 [ちか]
( げ。)


消灯時間も過ぎた頃、
用事があって隣の病棟に来た。

隣の病棟とは

「『げ、会っちまった』みたいな顔してんじゃねーよ。」


あのガキの城。

⏰:11/10/16 10:08 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#138 [ちか]
ナースステーションに寄る際、必ず前を通るこの共同区画スペース。


消灯時間も過ぎていたので特に警戒もせずに来てしまったが、忘れていた。

「なんでウチに来てんだよ。」

ここはヤツにとって、無法地帯なんだということを。


区画スペースのソファに我が物顔で座り、何やら本読んでいたようだ。
カバーがかけられていて、その中身までは分からないが。

しかし、

⏰:11/10/16 10:16 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#139 [ちか]
相変わらず目付き悪いな。

でもちゃんと見れば、
顔も綺麗で可愛いし、
喋りさえしなけりゃモテるだろうに。
見た目は少し派手だが。


って!!


だから、
なんで俺がコイツをそういう目で見てるんだよ!?!?

その気?!
その気なのか?!俺!!

いや、違う!
俺はゲイじゃない!!
断じてゲイなんなじゃない!!

「なに一人で悶えてんだよ、気持ちわり。」

「え?」

あ、俺心の声になってなかった?

⏰:11/10/16 10:21 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#140 [ちか]
俺は咳払いをして、混乱していた頭を落ち着かせる。

「お前には関係ない。ていうか、消灯時間とっくに過ぎてんぞ。はよ寝れ。」

至って自然に。
且つ、突き放すような口調を心がけて。

「……………り。」

「は?」

「お前じゃねえ、優里だっつってんだよ!!」

こいつはそんな俺の配慮なんて関係ないみたいだ。

⏰:11/10/16 11:52 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#141 [ちか]
「名前くらい知ってる。」

敢えて呼ばなかっただけだ。

「………///」

なのになんでこいつは

「………知ってるなら、最初から名前で呼べ…。//」


それだけでこんな顔するんだ。

⏰:11/10/16 11:55 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#142 [ちか]
こいつと喋ってると調子が狂う。
だからあんまり関わりたくないんだ。


「はいはい、優里くん。」

「くん付けとかキモい。」

イラッ

オジサン、キモいって言われるとけっこう気づつくんだけど。

⏰:11/10/16 11:58 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#143 [ちか]
少し苛立った俺は、
これ以上ここに長居する必要もないと思い、ナースステーションの方へ再び足を向けた。

「……あ、あのっ、」

「なに。」


そんな俺の右手を咄嗟に掴む優里クン。

意味がわからない。

⏰:11/10/16 12:26 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#144 [ちか]
なかなか口を開かないそいつに苛立ちは募るばかり。

そもそも俺はそんな我慢強い人間じゃないんだよ。

離せと口には出さずに、振り払うように手を引いた。
しかしその手は掴まれたまま。

痺れを切らして、口を開く。

「用事無いなら離し…、」

「結婚…!!…してるってホントなんけ…?」

⏰:11/10/16 12:41 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#145 [ちか]
※訂正

>>139
なんなじゃない→×
なんかじゃない→○

>>142
気づつく→×
傷つく →○

>>144
ホントなんけ→×
ホントなわけ→○

すいませんm(__)m

⏰:11/10/16 13:23 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#146 [ちか]
ああ、もうこいつの耳にも入ってたのか。

そんなことをまるで他人事のように思った。

振り向くと頭一個分くらい下に顔がある。
目はやっぱり本気っぽい。

身長差のせいで自然と見下ろす側と見上げる側に役割は分担されるわけだが、このアングルで見ると心なしかガキ臭い顔も一瞬可愛く見えた。

医者にとって子供の患者とはそういうものだ。
そういうものなんだ、きっと。

頭の隅で蠢くモヤモヤした感情を消し去るように、自分へ言い聞かせる。
そして、
突き放す。

⏰:11/10/16 14:06 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#147 [ちか]
「ああ、そうだ。」

いい機会じゃないか。

既婚者の男相手じゃ、さすがに暇潰しにもならないだろう。

さっさとこんなお遊びはやめさせるべきだ。

俺が肯定すると、みるみる優里クンの表情(カオ)は複雑になっていった。
そして不安な目で俺を覗きこむ。

「…う、上手くいってるのか…?」


早く正気戻してやらないと。
たとえ嘘をついてでも。

「そりゃもう、ラブラブ。」

嘘をついてでも。

⏰:11/10/16 14:23 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#148 [ちか]
ピリリリリリ..ピリリリリリ..


ちょうどその時、白衣のポケットの中で電子音が鳴った。
ポケットから携帯を掴み出し、ディスプレイを見る。

「…お、ちょうど嫁からだ。」

「…………。」

通話ボタンを押す際にチラリと見えた表情は俺の目に悲しげに映った。
捕まれていた手はいつの間にか自由になっている。

これでいい。これでいいんだ。

「もしもし、おー、マイハニー。そっちは朝?そうか、そうか。うんうん、俺も会いたいよー」

俺はそのままそいつから離れるようにして足早にそこを出た。
―――――………
―――………

⏰:11/10/16 14:42 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#149 [ちか]
― 優里side. ―

ああ、そうだ。


そりゃもう、ラブラブ。





あいつの言った言葉が何度も何度も頭をループする。

⏰:11/10/16 14:56 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#150 [ちか]
俺は去っていく後ろ姿を追いかけることすら出来なかった。

「やっぱりしてたんだ…」

結婚。…――



昼より胸の締め付けは一層強くなった。

だって
愛し合っている人が居るってことは、
入り込む隙間がないってことで。

兄貴と冥のように。

⏰:11/10/16 15:32 📱:Android 🆔:5cqVBQH2


#151 [ちか]
兄貴は兄貴。
冥は良い奴。

そんなことは分かってはいるものの、やっぱり大好きだった人を奪われるのは少しトラウマだった。


相手がいる人間を素直に好きでいることは、それだけ俺にとって難しいことだった。

⏰:11/10/17 08:14 📱:Android 🆔:PYlVZMCg


#152 [ちか]
「何してるの?」

呆然と立ち尽くす俺に背後から誰かが声を掛けてきた。

「あ?」

俺に声をかけてくる奴が居るなんて珍しいな。
新人か?

警戒心全開の顔で振り向くと、そこに立っていたのは金髪の男。

「君、ユーリくんだよね。」

俺とは違って天然のブロンドヘアを持ったその男はたしか見覚えがあった。

⏰:11/10/17 08:19 📱:Android 🆔:PYlVZMCg


#153 [ちか]
ああ、そうだ
コイツたしか‥

「俺の向かいの病室の、」

「ケン。―って言うんだ。」

俺相手ににっこり微笑むなんてますます珍しい。

ケン。
たしかにそんな名前だった。

スラッとした長身で外人特有の髪色と目、どっかのモデルなんじゃないかと思うほどその顔は外人という枠を省いても整っていた。

⏰:11/10/17 08:26 📱:Android 🆔:PYlVZMCg


#154 [ちか]
「なんか用?」

いつからなのか、患者同士で馴れ合うなんてことはしたくなくて敢えて頑なな態度で接するクセがついてしまった。

大抵の人間はそれ以上俺に関わってこない。


「いや、別に?でも俺、前から君と話してみたかったんだ。」

…はずなんだけど。

⏰:11/10/17 12:41 📱:Android 🆔:PYlVZMCg


#155 [ちか]
「隣いい?」

ケンと名乗るそいつはそう言って俺の隣にあったソファに腰をおろした。

「良いとか言ってないし。」

そう返しつつ、俺もソファに腰かける。

いつもならそんなことしないのに。
今日は一人になりたくなくて、つい…

「あのさ、」

つい口を開いてしまった。

「好きな人に好きな人が居たら、どうする?」…―――

⏰:11/10/17 12:50 📱:Android 🆔:PYlVZMCg


#156 [ちか]
― 陽平side. ―

もうここまで来れば俺の声も聞こえないだろう。

足を止めたのはもと居た七階と八階を繋ぐ階段の踊り場。

安堵の息を漏らす暇もなく、受話器から声が聞こえた。

『なにがマイハニーよ、悪いものでも食べたの?』

「相変わらずだな」

電話の主は妻で、ざっくりと切り込んでくるような口調は相変わらずだとふいに笑いが出た。

⏰:11/10/17 16:18 📱:Android 🆔:PYlVZMCg


#157 [ちか]
そんな俺とは対称に、至って真面目に淡々と話す妻。

『そんなことより離婚届、まだ届かないんだけど。』

やっぱりその電話か。

予想はしていた。
わざわざ浮気までして別れた夫に電話なんて、はじめから目的が限られている。


「ごめん、まだ書けてない。」

俺がそう返すと電話ごしでその口調から、妻は怪訝な顔が思い浮かんだ。

『それは大切な人との約束ってやつが原因?』

「勘が鋭い妻を持つといろいろキツいな。」

いつだったか一度だけした夫婦喧嘩の中で、あの約束の話をしたがさすがに覚えているとは思っていなかったから、痛いところをつかれたと声が弱った。

⏰:11/10/17 16:26 📱:Android 🆔:PYlVZMCg


#158 [ちか]
「ああ。その通りだ。」
――――………
―――……
喧嘩の原因は1つのアクセサリーだった。

「これなに?」

そう言って妻が突きつけてきたのは引き出しの名かにしまっていたはずの古いデザインをしたネックレス。

「お前、ヒトの引き出しを…」

「掃除のときにたまたまよ。あなたの仕事で使う書類が出しっぱなしになってたからしまおうと思ってあけたの。そしたら、その中にコレがあった。」

突きつけられたネックレスは紛れもなく俺のもので、俺は言い訳する気にもなれず頷いた。

「それは大切な人の形見だ。返せ。」

⏰:11/10/17 16:44 📱:Android 🆔:PYlVZMCg


#159 [なあ]


一気によみました
読んでたら濡れちゃいました//
頑張ってください
この小説すごいすきです


⏰:11/10/17 18:26 📱:P02B 🆔:6UhE0Yw.


#160 [ちか]
>>159 なあさま.

十話のところのことですかね(*^^*)笑
ありがとうございます、頑張ります!
感想板に各キャラクターのプロフィール貼ってあるので、よかったら感想板にも遊びに来てくださいね♪

⏰:11/10/17 21:42 📱:Android 🆔:PYlVZMCg


#161 [ちか]
>>158続き

しかし、それでは妻は納得いかなかったようでそのネックレスを俺の手元に戻そうとしない。

こういう時、女の勘というやつは厄介だ。
出来るだけ説明は避けたかったのに。

「大切な人って?」

説明するほどに、あの日、あの頃の記憶がフラッシュバックする。

「…………研修医の頃、惚れてた人だよ。」

色褪せることなく、鮮明に。

⏰:11/10/17 21:47 📱:Android 🆔:PYlVZMCg


#162 [ちか]
「亡くなる直前に渡されたんだ。“これ持ってたらきっと幸せになれるから”って言って。約束したんだよ、きっと幸せになるって。」


『先生はちゃんと素敵な人と幸せになって』
その約束と共に渡されたネックレス。

見るたびに胸が苦しくなって、
何年か前に引き出しにしまったきり見ないようにしていた。

「……誤解は解けたかな?」

まさかこんな形でまた見ることになるとはな。

妻は、俯いたまま握っていたソレを俺の手の中に戻した。
それが俺達が結婚生活のうちでした最初で最後の喧嘩だった。

⏰:11/10/17 21:57 📱:Android 🆔:PYlVZMCg


#163 [ちか]
『……私、あの頃からその人に嫉妬してたわ。いつでもあなたが見てるのは、私じゃなくてその人だったもの。』

思い出に浸っている途中、妻がそんなことを言った。
きっと同じことを思い出していたのだろう。

俺は何も言えずにただ黙りこんだ。

『私が一番悲しかったのは、あなたの中にいつも私の居場所が無かったことよ。』

決して未練たらしさなんて感じさせない淡々とした口調で言うその言葉は俺の胸を痛めた。
これは罪悪感なんだろうか。

⏰:11/10/17 22:05 📱:Android 🆔:PYlVZMCg


#164 [ちか]
『でもあなたの約束とあたしの都合は関係ないわ。早く書いてこっちに送ってね。』

「ああ。」

じゃあ、と言う声が聞こえて通話は切れた。

あなたの中にいつも私の居場所が無かったことよ。…――

「それは少し違うんだけどな。」

そう呟いて俺は壁にもたれこんだ。

正確には、
居場所が無かったんじゃない。
作らなかったんだ。
もう自分の中に誰かを留めるのは、あの時からやめた。

⏰:11/10/17 22:10 📱:Android 🆔:PYlVZMCg


#165 [ちか]
自分の中に誰かの居場所を作れば、
その人が居なくなったとき
それは居場所じゃなく、穴になる。


俺は我慢強い人間じゃない。
その穴を塞ぐ勇気すら無いんだ。

そうやって穴を塞いで彼女を忘れようとすることは彼女との約束、いや彼女自身を、裏切る気がして。


ただ約束を守ることで
それ以外を拒絶することで
自分を保ってきた。

だから、優里(アイツ)みたいに無鉄砲に人の心の中に入ってくる人間は嫌いなんだ。

⏰:11/10/18 00:53 📱:Android 🆔:QHFRTQno


#166 [ちか]
なのに何故だろう。


はじめて好きだと言われてから
一週間。

毎日毎日言われるごとに

心の中が揺さぶられるような感覚になる。

まさか…


「………そんなワケないよな。」

もたれている壁が冷たくて、暫くそうするうちに苛立っていた感情もいつの間にか落ち着いていた。

⏰:11/10/18 00:57 📱:Android 🆔:QHFRTQno


#167 [ちか]
―――――……あの夜から2週間と3日。



みなさん、


優里クンは


俺の研究室に来なくなりました。

⏰:11/10/18 02:26 📱:Android 🆔:QHFRTQno


#168 [ちか]
チラリとドアに目をやる。

ドアは開くどころか外に人が居る気配もない。

あれだけ毎日暇さえあれば時間を問わず押し掛けて来ていたというのに、それがこの2週間と少しの間、パッタリと途絶えた。


今日に至ってはココに出入りする者すら居ない。
そんなドアを見つめているうちに、無意識に溜め息と近い独り言が漏れた。

「…勝手な奴。」




…………え?

あれ、俺、今、なんて?

⏰:11/10/18 02:41 📱:Android 🆔:QHFRTQno


#169 [ちか]
“勝手な奴”?


「なな、なに言ってんだ、俺!!!」

思わず自分の片頬にビンタを喰らわし、正気を取り戻そうとする。

だって…

勝手だろうがなんだろうが来なくなったならそれでいいじゃねえか。

⏰:11/10/18 08:12 📱:Android 🆔:QHFRTQno


#170 [ちか]
いちいち「今日から行きません」「はい、分かりました」なんてやり取りでも欲しかったのか?

今どき中学生でもそんなん会話ねえっつーの!!
バカか、俺は!


あれだ、急に惚れただのはれただの言われて焦ってるだけで!!

え、焦ってる…?

だーかーらーぁ、

なんで俺が14も下のガキごときの告白マジにして焦ってんだよおおおぉぉぉおおお!!!!!!

⏰:11/10/18 08:20 📱:Android 🆔:QHFRTQno


#171 [ちか]
「頭割れそ…。」

痛む頭を片手で抱え、項垂れる。
ああ、頭が重い…


なんでせっかく研究に集中できる環境になったっていうのに、よりよってアイツの顔ばっかり浮かんでくるんだ。

「クソ…ッ」

考えれば考えるほど募る苛立ちに愛想がつきて、俺は心を落ち着かせようとタバコを持ってベランダに出た。

⏰:11/10/18 08:25 📱:Android 🆔:QHFRTQno


#172 [ちか]
ライターの火がなかなかつかず、さらに苛立ちは上っていく。

「あ〜、もう…ッ!!なんなんだよ、チクショー…」

どいつもこいつも…

これ以上俺を乱さないでくれ。

苛立ちを抑える余裕もないまま何度かカチカチとライターをいじり、漸く火のついたライターにタバコを近づけた時、ベランダの柵の間から2つの人影が見えた。

「あれは、…」

見覚えのあるソレに目を細め焦点を合わせる。
ピントがあった時、それが2週間ぶりの優里の姿だと分かった。

しかしもう一人の外人には見覚えがない。

「誰だあいつ?」

⏰:11/10/18 16:01 📱:Android 🆔:QHFRTQno


#173 [ちか]
記憶を辿ってみるが、やはり当てはまる記憶はない。

しかしなんだかじゃれあってやたらと楽しそうにしている。

同じ病棟の友達ってとこか?


…いや、それにしては密着しすぎじゃないか?

すぐに目を離せば良いものの、なぜか沸々とした感情が沸き上がって二人の姿から目が離せない。

暫くその姿をただ呆然と見ていたが、ふいに我に戻った俺は捨てるにはまだ少し勿体無い吸殻を足で踏み潰し、室内に戻ろうとした。

その時。

⏰:11/10/18 16:12 📱:Android 🆔:QHFRTQno


#174 [ちか]
「なっ…」

一瞬二人の影が重なった。

そう、それはまるで、

「キス…」

しているように見えた。


募る感情が頭の中、全身を支配していく。

思わずその姿から目をそらした。
言い表しのできないモヤモヤが体を重くしていく。

そしてふいに何かプツンと切れる音がした。

「男なら誰でもよかったってことか。」

お遊びは終わり。
そういうことだ。


そうして俺は納得したように笑って音と共に消えた何かをベランダに残し、室内に戻った。……――――

⏰:11/10/18 16:31 📱:Android 🆔:QHFRTQno


#175 [ちか]
― 優里side.―

あの夜から2週間と3日。


俺は神崎の研究室に行くのをやめた。

なんでだって?


だって、こいつが…

「押したら引くは常識だよ?」

なんて言うから。

⏰:11/10/19 13:13 📱:Android 🆔:QrYx6tI6


#176 [ちか]
あの夜、あの後、
俺は神崎とのことをケンに話した。

なぜあんなにもあっさりと話せてしまったのかは分からない。
だけど、ケンに話しやすいオーラのようなものがあったのは確かだった。

「別に諦めないよ、俺なら」

それが、あの夜聞いた最初の質問の返事だった。

⏰:11/10/19 13:17 📱:Android 🆔:QrYx6tI6


#177 [ちか]
「だって、そんなんで諦めれるならはじめから好きになってなくない?」

顔は笑顔だけど、核心をつくその言葉に、俺はコクコクと頷いた。

まるで、自分の心の中をすっかり見透かされているようで、そうするしか出来なかったのだ。

暫く、これまでの自分の特攻ぶりとそれに対しての反応を話し、出た結論が、

“押してダメなら 引いてみる”

だったのだ。

⏰:11/10/20 14:28 📱:Android 🆔:Aayw5T/s


#178 [ちか]
「だって、そんなんで諦めれるならはじめから好きになってなくない?」

顔は笑顔だけど、核心をつくその言葉に、俺はコクコクと頷いた。

まるで、自分の心の中をすっかり見透かされているようで、そうするしか出来なかったのだ。

暫く、これまでの自分の特攻ぶりとそれに対しての反応を話し、出た結論が、

“押してダメなら 引いてみる”

だったのだ。

⏰:11/10/20 14:31 📱:Android 🆔:Aayw5T/s


#179 [ちか]
それからその“引く”が始まって今日まで2週間と3日。



効果は、


「無い気がするんだけど。」

「え?何が?」

⏰:11/10/20 14:39 📱:Android 🆔:Aayw5T/s


#180 [ちか]
「何って…」


ここは昼下がりの中庭。

最近はケンとよくここに来てはベンチで話すことが多くなった。

ケン曰く、ここはお気に入りの場所らしい。


ケンは俺が語尾を濁すのを悟って、思い出したように口を開いた。

「あー、あの先生のことな!」

「うん…」

力なく頷き、あからさまに落ち込んだ顔をする俺に

「だーい丈夫だって!」

これでもかと言うほどキラキラした笑顔でケンは笑う。
こいつの自信はどこから来ているんだろうか…

⏰:11/10/20 14:49 📱:Android 🆔:Aayw5T/s


#181 [ちか]
「まだ2週間じゃん。これからこれから!な?」

そう言って、ケンはぐいっと俺の肩を抱きよせる。
その手が大きくて、俺は改めて自分の華奢さを思い知った気がした。

そんなケンを見ているうちに妬みに近い苛立ちが起こり、強引にその手をはらう。

それでもケンは何か気にする様子もなくニコニコと、あのマンガがどうだ、だの、あの曜日の飯が不味いだの、そんな話をペラペラと話している。

「はぁ…」

そんなケンの話を耳に入れつつ、無意識に思わず溜め息が溢れた。

⏰:11/10/20 14:56 📱:Android 🆔:Aayw5T/s


#182 [ちか]
その時。

常に笑顔を絶やさないケンの顔が一瞬、鋭い目付きと共に冷淡な顔になった。

その目線は俺の頭上を少し上の方にある。


「ケン?どうかして…」

不思議に思った俺は、その目線を辿ろうと振り返ろうとした。

しかし、

「あ、ちょっと待って、ユーリ。」

それはあっけなく制止される。

⏰:11/10/20 15:07 📱:Android 🆔:Aayw5T/s


#183 [ちか]
「髪になんかついてるよ」

「え、マジ?」

「とってあげるから、じっとして。」

髪に触れられる感覚に一瞬戸惑い、俺は体を縮めた。
ケンの顔がすぐ近くにある。
その近さに思わず瞬きすら忘れそうだった。

そんな俺を見て、ケンはクスリと笑う。

「はい、取れた。もう力抜いていいよ。」

やっぱり見透かされてる!!
そう思った瞬間、なんだか恥ずかしくなり、急に顔が赤くなった。

⏰:11/10/20 15:16 📱:Android 🆔:Aayw5T/s


#184 [ちか]
「顔、赤いし。可愛いな、ユーリは♪」

「なっ?!赤ねえし!!!///」

「あははは♪」

「笑うな!!!!////」


おかしそうに腹を抱えるケンを見ていると、さっきの冷淡な顔が嘘のように思えた。

俺は思い出したように、さっき目線のあった場所へ振り返ってみる。

が、何もない。

強いて言うなら、ちょうどそこにあったのは並んでいる部屋達の窓とベランダ。

しかし、誰かがいるわけでもなく、静閑な雰囲気だけがそこにあった。

気のせいか…

そう思ってもう一度、ケンの方へ向き直りその顔をまじまじと見た。

⏰:11/10/20 15:29 📱:Android 🆔:Aayw5T/s


#185 [ちか]
「ん?俺の顔、なんかついてる?」

目をぱちぱちと瞬かせ、俺に問いかけるその顔はやっぱりいつも通り。


気のせいだよな。


とくにそれ以上気にすることもなく、俺は納得したように顔を横に振った。

「いや、なんでもない。」

「そう?なら良かった。」


そうして俺は、微笑みかけるケンにつられて久しぶりに少し笑った気がした。

──────────‥‥‥‥‥
────────‥‥‥‥

⏰:11/10/20 15:35 📱:Android 🆔:Aayw5T/s


#186 [ちか]
しかし、それから何日経っても
“引く”は“引く”のままだった。

「もう我慢出来ねえっ〜…」

思わず、心の声が口をついて出る。

それもそうだ。
自らが行かなくなると、もともと自分の病棟と神崎の研究室は違う建物なため、会うことがさっぱり無くなってしまったのだから。

「でも、前なら時々こっちにも来てたのに……。」

あの夜からそれすらも無くなった。


痺れを切らした俺は、女々しいとは思いつつも偶然を装って会うために、ナースステーションに近いこの共同区画スペースに入り浸るようになった。

そんなことを始めて、3日。
ついに、
「「あ。」」

神崎と遭遇。

⏰:11/10/21 13:08 📱:Android 🆔:jLFXF6R2


#187 [ちか]
「あ………っ、の、…え、えっと…―!!」


(何か言わねえと…っ!!なんか、なんか…っ)


頭ではいつも会ったときのための言葉を考え、イメトレを繰り返していたというのに、そんなのは会ってしまえばたちまち無意味なモノとなってしまい、口は空気中の酸素を吸いこむことしか出来ない。


そんな俺を神崎は酷く冷たい目で見つめた。
“何かが違う”
本能的にそう察すると、頭はさらに空回り余計に言葉を詰まらせる。

「…ぐっ、偶然…だなっ!!」

自分を叱咤しそうになる感情を押さえ漸く出たのはそんな気のきかない台詞だった。

⏰:11/10/21 13:43 📱:Android 🆔:jLFXF6R2


#188 [ちか]
しかし、やっとの思いで出た言葉も会話にはならず、神崎は俺を初めて見るかのように、ただ冷ややかな目で見つめている。


「え……っと、…な、何しにき…、あ!」


なんとか間を繋げようと口を開いたのも束の間、神崎はおもむろに俺から目線を外し、歩き出した。

「な…っ、ちょっと、神崎!!」

そんな神崎を引き留めようと名前を呼んだが、神崎はこっちに見向きもしない。

⏰:11/10/21 18:13 📱:Android 🆔:jLFXF6R2


#189 [ちか]
「待てって…ッ!!」

咄嗟に、去ろうとする神崎の腕を掴んだ。

その瞬間、
再び冷淡な瞳と向かい合う。

そして乱暴に掴んだ手を振り払われた。

一瞬のことに戸惑い、
俺は振り払われた痛みで痺れる手を擦って、目を見開いた。

見上げた神崎はもはや俺の知っている神崎ではない。

⏰:11/10/21 19:01 📱:Android 🆔:jLFXF6R2


#190 [ちか]
一瞬が永遠のように感じる。


張りつめる空気に息が詰まりそうだ。


冷たいその目から目が離せずにいると、神崎は突き刺さるような声で言った。


「触んな。」


それは

この上なく冷酷で、俺の心を抉(エグ)った。

⏰:11/10/21 19:11 📱:Android 🆔:jLFXF6R2


#191 [ちか]
そしてそのまま神崎は振り向きもせずに俺から遠ざかっていく。


「…………ッ、……――っ。」

呼び止めたいのに、
引き留めたいのに、
声が出ない。

声もかけられずにその姿を見つめているうちに、もうその背中は見えなくなっていた。

頬を一筋の水滴が伝う。


そんなただ立ち竦む俺に残されたのは、
振り払われた手の痛みと胸に突き刺さった言葉だけだった。‥‥‥──────

⏰:11/10/21 19:23 📱:Android 🆔:jLFXF6R2


#192 [ちか]
*
少し休憩( ´`〃) 。。
読んでくれてる方いるのかな( ´`;)


*

⏰:11/10/21 19:41 📱:Android 🆔:jLFXF6R2


#193 [☆☆☆]
読んでます
かなり面白いです

⏰:11/10/21 21:26 📱:F05C 🆔:ngvLqfP2


#194 [ちか]
>>193 ☆☆☆さま.

わー( ´`〃)
ありがとうございます!///
そう言ってもらえるとすっごくやる気が出ます( *´`* )がんばろっと!

⏰:11/10/22 12:11 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#195 [ちか]
>>191続き

― 陽平side.―




「触んな。」



それは自分でも驚くほど、

冷たくて突き刺さるような声だった。

⏰:11/10/22 12:24 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#196 [ちか]
衝動的に振り払った自分の腕がジンと痺れる。
どれほど強く握られていたのだろう。
一瞬のことに記憶はついていかず、代わりに痛みばかりが腕に残った。

チラリと横目で見ると、
優里は驚いたように自分の手を擦り俺を見上げている。

その顔は酷く怯えていて、
まるで俺が俺じゃなくなっていくみたいだった。

⏰:11/10/22 12:35 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#197 [ちか]
そんな優里を見てられずに目線を外した俺はその場を立ち去った。


ある程度離れた場所まで来て、振り返ってみる。
追いかけてくる気配はない。


「〜…っ、なんなんだよ…ッ」

力任せに壁を殴る。
拳に鈍い痛みが走るが、そんなことをしたところで胸の中で蠢く感情は消えない。

⏰:11/10/22 12:43 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#198 [ちか]
優里があの場所に入り浸っていることは、同僚からの噂で聞いていた。

大きな大学病院内とは言え、噂話なんて広まるのはあっという間。
同僚や仲間内の中で、俺への優里の特攻ぶりはすっかり有名になっていた。

─────────………
─────……

「先生、聞きました?優里くんのこと」

「え?いや…」

ふいに優里、という単語を聞かされてドクンと心臓が跳ねる。

あの日二人のキス現場を見てから苛立ちは募るばかりで、俺はその名前を執拗に避るようになったからだ。

できる限り会うことも避けたくて向こうの病棟も行く回数をめっきりと減らした。

なのに、

⏰:11/10/22 13:04 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#199 [ちか]
「最近、先生のところに来ないと思ったら、偶然装って会うために共同区画のスペース入り浸ってるみたいですよー」

どうしても、その名前を聞くタイミングは必ずあって、俺の苛立ちと動揺を浚(サラ)う。


同僚は面白半分といった調子でそんな話をしてくるが、俺にとってそれは良い迷惑でしかない。

しかし仕事の関係上、そんな噂に振り回されるわけにもいかず隣の病棟に行くことになったのだ。

⏰:11/10/22 13:10 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#200 [ちか]
そしたら案の定アイツに会って、
見れば見るほど苛立ちが抑えられなくなって。



結果、あんな態度をとってしまった。

「…気安く触ってきやがって」

壁を背に、俺は握られていた腕を思い出したように擦る。

頭の中では何度もあの日の二人の重なった影が浮かぶ。


散々俺を振り回しておきながら、どこぞの男とキスだのなんだの盛りやがって…

「ちょっとはヒトの気持ちも考えろよ。」


ため息のような台詞が口をついた。

⏰:11/10/22 13:16 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#201 [ちか]
って!!!!!

ヒトの気持ち?

んなもん、ねーよ!!
端からあるわけないだろうが!!!

「あー、俺はまた何を口走ってるんだ…」

思わず自分の混乱ぶりに頭を抱えた。


女でもあるまいし、こんなのただの嫉妬じゃねえか。
俺がそんな感情持つわけがない。

履き違えるな、神崎。
お前は研究を散々妨げられ遊ばれていたことに苛立ってるんだ。
そうだ、そうに違いないんだ。
だから、

「落ち着け、俺…」

言い聞かせるようにそう呟いて、すっかり疲れはてたようにズルズルと壁を伝い座り込んだ。

⏰:11/10/22 13:21 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#202 [ちか]
その時、
ふいに頭上で声がした。


「先生?どうかなさったんですか?」

聞き覚えのない声に思わず顔をあげると、そこに居たのは


「顔色、悪いですよ?」


あの日優里とキスをしていたあの青年だった。

⏰:11/10/22 13:24 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#203 [ちか]
今日の俺はとことんついてないようだ。

もう少し休んでいたかったが、こんな奴に会ってしまっては休むどころかまたイライラしてくる。


俺は心配そうに覗きこんでくるそいつをよそに立ち上がり、

「いや、大丈夫だ。」

そう言って、ふらりと来た方向へ足を向けた。

が、

「ユーリの好きな先生って、あんただよね?」

突然変わった声色に耳は過敏に反応する。

⏰:11/10/22 13:30 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#204 [ちか]
振り向くと、そこには声色と似つかわない笑顔。

(なんだ、コイツ…)

なんだか異様な雰囲気が辺りを包み込む。

「…さあ、知らないな。」

こんな奴、さっさと無視すればいい。
頭ではそう分かっているのに、なぜか目を離すことが出来ない。

俺の惚(トボ)けたような返事に、青年は笑った。

「なーんだ、先生は全然その気じゃないんですね!」

あどけないその笑顔にはなんの屈託もなく見える。

⏰:11/10/22 14:15 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#205 [ちか]
しかし、

「良かった。」


笑顔から冷淡な眼に変わる瞬間、
背筋がゾグリと疼いた。

思わず生唾を呑む。


「じゃあ、俺がユーリもらうから。邪魔しないでね。」

⏰:11/10/22 14:20 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#206 [ちか]
「なっ…、」

「じゃあね。」

再び笑顔に戻った青年は廊下の奥へ消えていった。

消えていった後ろ姿を映し出すようにその先を見つめる。

「意味わかんねーよ。」

そして投げ出すような口振りで呟いた。

「好きにすればいいだろ…」

──────────‥‥‥
──────‥‥

⏰:11/10/22 14:31 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#207 [ちか]
― 優里side.―

翌日、
俺は入り浸っていた区画スペースに行く気にもなれず、久しぶりに一日の全てをベッドの上で過ごそうとしていた。

院内一、歴代一問題患者と言われる俺が一日全く問題を起こさない日があるなんてそれだけで珍しいというのに、自分の病室からも出ようとしないなんて、ここで働く人間からすれば奇跡に近いことらしい。


看護婦にそんな風に言われるといつもなら、突っかかっていたのに、今日はそれをする気力も無い。


まさに、重傷。

⏰:11/10/22 21:12 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#208 [ちか]
脳内で何度もリピートされる昨晩のシーン。

振り払われた手の痛みなんてとっくに消えているはずなのに、その感触がイヤになるほど鮮明に残っている。

「嫌われたってこと、だよな…。」

あんな風にあからさまな“拒絶”をされたのは初めてだった。

振るなら振ればいい

少し前まではそうタカをくくっていたのに、実際あんな態度をとられると苦しくてたまらなくなった。

矛盾だとしても、
それだけアイツを好いているのだとこんな時にばかり実感する。

⏰:11/10/22 21:23 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#209 [ちか]
目頭が熱くなり、ため息がこぼれる。

もう今日だけで何度目だろう。
数えたらきりがないほどのため息をついた時、ふいに病室のドアが開いた。


もしかして、なんて淡い期待を抱いたがそのドアを開けたのはケンだった。

「ユーリ?今日お前どうしたんだよ?」

常に笑顔のケンが心配そうな顔でベッドに腰かけてきた。

「…や、なんでもない。」

が、さすがに口に出す気にもなれない。

⏰:11/10/22 21:48 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#210 [ちか]
俺が目も見ずにそう言うとケンは俺の頭を雑に撫でた。

「なっ?!?」

そんなことをされたのはガキの頃ぶりで、思わず目をパチパチと何度も瞬く。

「ったく、お前嘘つくのヘタな。いいから話してみ?」

優しい声色に俺はなんだか安心感のようなものを覚えた。

そんな安心感に甘え、俺は渋々口を開いた。

「神崎………にさ、」

名前を口にするだけで胸が締め付けられる。
そんな俺をケンはただ頬杖をついて眺めた。

⏰:11/10/22 22:35 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#211 [ちか]
「昨日、会ったんだけど、…その…、『触んな』って掴んだ手、払われた。」


言葉にするとどうしても重々しくなってしまう。

ダメだ、泣きそうになる。
そんなの柄じゃないのに。

泣き顔を見られたくない俺は咄嗟に俯いた。

そんな俺を背後から優しい温もりが包み込んだ。

「………泣きたいなら我慢するなよ」

⏰:11/10/22 22:44 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#212 [ちか]
その言葉を聞いた瞬間、ダムが決壊するように涙が溢れた。

「わー、ほらほら、ユーリ!元気出せ!な?」

俺がこんなに簡単に泣くなんて思わなかったんだろう。
ケンは慌てて、俺の頭をがさつに撫でた。
まるで子供をあやすように。


俺はそんな優しさに甘え、気が済むまで泣いた。

⏰:11/10/22 22:56 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#213 [ちか]
暫くそうすると、思いの外重く沈んでいた気持ちが晴れた気がした。


たしかに神崎に嫌われたかもしれない。


心当たりなんて
無いと言えばウソになる。

毎日押し掛けていたのだから、どのタイミング、どの言葉で相手を苛立たせたかなんて考えるだけ無駄だ。


でも、

どうせ嫌われるなら

最後にもう一度、

好きだって言いたい。

⏰:11/10/22 23:12 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#214 [ちか]
一度そう思うともう止められない。

俺は、ケンの腕をそっとほどいた。

「ユーリ?」

不安げに俺を覗きこむケンに俺は精一杯笑いかけた。

⏰:11/10/22 23:28 📱:Android 🆔:FmyfOmCg


#215 [ちか]
「ケン、俺、最後にもう一回だけ、アイツに好きだって言ってくる。」




上手く笑えているかは分からない。




だけど、
俺はそれだけ言って部屋を飛び出した。

⏰:11/10/23 00:46 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#216 [ちか]
呼び止める声なんて耳に入らずに、消灯時間の過ぎた廊下をただひたすら走った。

必死だっていい。

カッコ悪くたっていい。


今までそんなになってまで、夢中になれることなんてなかった。

だけど、今回のコレだけは違う。
コレだけは違うから。

もう手放したくない。

⏰:11/10/23 00:49 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#217 [ちか]
やっともうすぐ神崎の研究室に着く。

そう思うと自然に足は加速した。


もうすぐ、もうすぐ、
アイツに会える…───ッ

思いと共に心臓が強く脈打ち出したその時、


「待てよっ!!」


研究室間近で、聞き慣れた声に手を掴まれた。

⏰:11/10/23 08:55 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#218 [ちか]
振り向くと息を切らしたケンの姿が目に映った。

「ケン…っ?!」

「お前、バカ?!こんな時間に居るわけないだろ!!とっくに帰ってるって!!」

ケンは息も切れ切れにそう言って俺の手を離さない。
痛いほどに。

「でも、そんなの行ってみねえと分かんねーじゃん!!」

居るわけ無い
そう言われると意地になって言い返してしまう。

俺の噛みつくようなソレに、ケンは苛立ちの混ざった溜め息を吐いた。

そして、

⏰:11/10/23 11:52 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#219 [ちか]
ドンッ…───!!

「……〜っ!?」

肩を掴まれ思いっきり壁に叩きつけられた。

いきなりのことに声も出ず、俺はただケンを見つめる。
ケンの表情(カオ)に笑顔は無い。

怒気の混ざった声でケンは大声をあげた。

「お前も分かんない奴だなぁ…!!なんでそんな奴が良いんだよ!?」

その言葉が何を意味するのかさっぱり分からず、俺は動揺を隠しきれない。

⏰:11/10/23 13:55 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#220 [ちか]
「ケン…?なに言って…」

苛立ちを全面に出したその物言いはケンらしくなくて、まるで知らない誰かを見てるようだった。

ただ理解出来ずに見つめる俺にケンは痺れを切らしたように怒鳴る。

「だから!!!!あんな奴より俺の方がお前のこと大事にしてんのに、なんでアイツばっかり見るんだよ!!」

大事…?
アイツばっかり…?

訳のわからない言葉達に頭が混乱する。

「…俺はお前が好きなんだよ!!!」


⏰:11/10/23 14:01 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#221 [ちか]
その一言で何もかもの辻褄が合い、理解した。
しかしなんて言ったらいいか分からない。


だって俺は…

「でも俺…神崎が…」

神崎のことが好きで…───

そう言おうとした時、

「そんなの、すぐに忘れさせてやる…ッ」

「?!ん……ふ…ぅ…ッ」

突然唇を塞がれた。

⏰:11/10/23 15:19 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#222 [ちか]
油断していた俺の両手を片手で拘束するとケンはさらに深いキスを寄越した。

「ちょ…っ、ん/// ケ…ン、息…出来な…っふ‥ぅ///」

クチュ…ッ‥ピチャ…

薄暗い廊下に淫らな音が響く。
自らの吐息がさらに厭らしく思えて、思わず目を瞑った。

絡められる舌に息も出来ない。

苦しくてケンの背中を乱暴に叩く。
すると、銀色の糸を引いてケンは唇を離した。

そしてニヤリと笑う。

「っ…なに、初めてなの?派でな見た目のわりに。クスッ…大丈夫!優しくしてやるから。」

「あ…ッ///な…にす‥‥っ!!!!やめ…ッ////」

着ている服のボタンがその手によって外されていく。


はだけていく上半身に恥ずかしくて紅潮していくのが分かった。

⏰:11/10/23 17:39 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#223 [ちか]
どうにか逃れようと、必死にもがく。

が、俺より体格のいいケン相手ではただの体力の消耗にしかならない。

「クスッ…暴れても無駄だって。こんな時間、誰も来ないから。」

妖しく笑うケンの吐息が胸の飾りを掠める。

「ん…、そこ…で、しゃべ…んな…ぁッ///」

突然、飾りを甘噛みされ情けない声が漏れた。

「感じてんだ?可ー愛い。」

もはや羞恥心は限度を越え、無意識に涙がこぼれてくる。

⏰:11/10/23 17:47 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#224 [ちか]
月明かりが窓ガラスから俺たちを照らし影を作る。

「すぐに気持ち良くしてあげるから…」

何度も通った廊下も、夜になると雰囲気が
変わり俺の知らない世界が広がっていく。

恐怖で足が震えた。

「や、やめ…っ」

神崎…

神崎、

神崎…──ッ

来るはずもないその名前を出ない声で何度も呼ぶ。

来るはず、無いのに…───

⏰:11/10/23 17:53 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#225 [ちか]
「何してんだ。」


来るはずもない声が耳を掠めた。

それと同時にケンの手が止まる。

咄嗟に目を開け、声のした方に向けるとそこに居たのは…

「か…ん……ざき‥?」


紛れもない俺の好きな人。

「かん」

⏰:11/10/23 18:26 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#226 [ちか]
「なんでアンタが居…、」

「何してんだっつってんだよ。」

怒鳴るわけでもなく、淡々としていて低い声が廊下に響く。

ケンの顔から血の気が引いていくのが分かった。

会いたくて会いたくて仕方なかった相手がすぐ目の前に居る。
が、複雑な感情が混ざりあって声が出ない。

しかし神崎と目が合った時、
こぼれるように声が漏れた。

「たす…けて…」

その瞬間、
グイッ

「そういうことらしいから。」

腕を引っ張られ抱き締められた。

⏰:11/10/23 18:55 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#227 [ちか]
>>225訂正

最後の一文スルーでお願いします!
かんざきっていうセリフが間違って入ってしまいました;

⏰:11/10/23 18:57 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#228 [ちか]
「なっ…」

抱き締められたのも束の間、強引に腕を掴まれ、引っ張られていく。

顔の青いケンの姿が遠ざかっていった。

慌てて、神崎の顔を見上げる。
しかし神崎は俺の顔を見ようとしない。

「ちょ…っ、神崎…ッ」

「黙って引っ張られてろ。」

落ち着いた低い声が不思議と俺の心を落ち着かせた。

⏰:11/10/23 20:14 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#229 [ちか]
― 陽平side. ―

条件反射のようなものだった。

「たす…けて…」


そう言われた瞬間にはもう、
その細くて華奢な腕を引っ張っていた。

なに助けてんだよ、俺。


頭ではそう思っても体が動いてしまう。


勢いで抱き寄せた体は思っていた以上に細かった。

⏰:11/10/23 21:27 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#230 [ちか]
慌てたように俺とあの男を交互に見る優里。


この顔、マジでむかつく。

その顔したいのは俺だっつーの!!

苛立つ感情が沸々と沸き始め、頭を支配していく。

蚊のような声で名前を何度も呼ばれ、鬱陶しさは頂点に達した。

「黙って引っ張られてろ。」

痺れを切らしたようにそう言うと優里すっかり黙りこんで俯いてしまった。

しかしそんなこと気にする義理はない。


そのままぐいぐいと引っ張っていき、

「ここ…」

結局着いたのは、

「研究室だ。悪いか。」

俺のハコ。

⏰:11/10/23 21:51 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#231 [ちか]
「突っ立ってないで座れよ。」

出来る限り苛立った感情を抑えることを心掛け、ソファに座った。

だけど優里はドアの前から動こうとしない。

俺はノロい奴が嫌いだ。

「…………ん……よ」

メソメソした奴も嫌いだ。

「あ?」

でも

「なんで…ッ、助けたんだよ?!」

バカな奴が一番嫌いだ。

⏰:11/10/23 21:57 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#232 [ちか]
「お前が“助けて”っつったからだろうがっ!!!」

頭に血が上り、怒気の混ざった声が部屋中に響いた。
勢いで立ち上がったせいかソファには沈みきらない俺の跡が残る。

優里はいきなり怒鳴られて驚いたのか、口をパクパクさせている。

「それともなんだ、アレは“そういうプレイ”かなんかか?!」

俺の問い詰めるような怒声に、優里は勢いよく顔を横に振った。
その目は今にも泣きそうだ。

⏰:11/10/23 22:05 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#233 [ちか]
溜め息と共に頭を掻いた。

いくらなんでも怒鳴りすぎたか。
大人気なかったかもしれない。

俺はもう一度自分の腰をソファに沈め直し、その隣を叩いた。

「いいから、こっち来て座…」

座れよ、そう言い終わる前に優里はそれを遮った。

「昨日は触んなって言ったくせに…。」

呟くようにそう言って、自分の右腕を擦る。

⏰:11/10/23 23:46 📱:Android 🆔:mS2WTstg


#234 [ちか]
昨日の一件がその一言でフラッシュバックする。

確かにあの時俺は触るなと言った。

それは俺だって気にしていた。
まさか自分がこんなガキ相手に感情むき出しになるなんて思わなかったから。

しかし改めてそれを衝かれると、大人ぶってしまう。
自尊心とは時に厄介なモノになるのだ。


「まだそんなこと気にしてたのかよ。」

俺は呆れた目でそう呟く。

そうすればどうせコイツのことだから、また怒ってわめき散らしてくるに決まって…

「なっ…?!」

⏰:11/10/24 00:11 📱:Android 🆔:fZOUU5Pc


#235 [ちか]
「気にして悪いかよ…っ」

怒鳴り散らすに決まっている。
そう踏んでの言葉だったのに、コイツ…

「あんたは何気無く言ったことだったかも知れないけど…っ」

なんで、

「俺はずっと気になってたんだよッ…!」

なんで泣き出すんだよ…――

「それが悪いことかよ…っ!?」

⏰:11/10/24 00:23 📱:Android 🆔:fZOUU5Pc


#236 [ちか]
力無くそう言い返してくる顔の両頬には幾つもの水滴が流れ落ちていく。

そんな顔するな。
やめろ。

胸の奥がまた揺さぶれるような感覚になる。
だから嫌なのに。

コイツに関わると、

俺のペースが乱れていく。

⏰:11/10/24 00:28 📱:Android 🆔:fZOUU5Pc


#237 [ちか]
気づけば不器用な手つきで優里の頭を撫でている自分が居た。

こんなのは俺らしくない。
感情で動くなんてそんなのは俺らしくないはずなのだが。

「ヒック…グス…ッ、ど、同情か?グスッ…んなもん、いら…ね…ぇっ…」

こんな泣き顔見せられると、


「お前さあ、そのひねくれた物言いなんとかならないのか?」

何かが切れたように

「う…るさっ…い…ふ…ッんン?!?!」

歯止めが利かなくなる。

⏰:11/10/24 00:35 📱:Android 🆔:fZOUU5Pc


#238 [ちか]
銀色がギラギラと光って厭らしい。
その絡まりを見ていると感情は昂り、後頭部を押さえてより深い刺激を求めた。

一瞬、目の前がそれだけになる。

夢中になるとはまさにこういうことを言うのだろうか。

何もかもがソレに奪われ、機能していなかったが

「あ…ッふ…んぅ、か……ん…ざき…っ」


苦しげに名前を呼ばれ背中に爪をたてられたその感覚で我に返った。

⏰:11/10/24 08:21 📱:Android 🆔:fZOUU5Pc


#239 [ちか]
濃厚だったソレとは対称的に、我に返った俺は引き剥がすように慌てて唇を離した。


何してるんだ、俺は…っ!!!


そう叱咤せずにはいられない。

マズイ。
乱れる。
コイツを見てると冷静でいられなくなる。

焦燥感に頭を占拠され、咄嗟に出た言葉は謝罪の言葉だった。

「わ、悪い…」

⏰:11/10/24 08:36 📱:Android 🆔:fZOUU5Pc


#240 [我輩は匿名である]
いきなりすみません

スレをコピーするの
どうやるんですか?

⏰:11/10/24 12:23 📱:W61SH 🆔:r7aFgLlk


#241 [ちか]
>>240さま
たぶん携帯によってやり方違うんで分からないです(>_<)
そのスレのURLを表示出来ればコピー出来るんですが(*_*)

⏰:11/10/24 12:43 📱:Android 🆔:fZOUU5Pc


#242 [ちか]
>>239続き

しかし優里に反応は無い。
辺りに広がる押し潰されそうな空気に耐えられず、俺はわざとおどけて見せた。

「いやー、こっち来てから研究ばっかでたまってんのかな?!…なーんつって、あは、はは…」

それでも空気は変わらず優里も俯いたまま。


いよいよ気まずくなった俺は詰めていた距離を慌てて一歩退いた。
が、優里はシャツの裾を掴んで離さない。
そしと掠れた小さな声で呟いた。

「…別に謝らなくていいから。…………つ、続けろよ…。」

俯いていて顔がよく見えない。
しかしその声は明らかに無理をしているのが分かった。

思わずため息がこぼれる。

「…………なんでそこまでする。」

俺がそう問い掛けるとシャツの皺はさらに濃くなった。

⏰:11/10/24 14:57 📱:Android 🆔:fZOUU5Pc


#243 [ちか]
「………あんたが好きだから。」

細いが揺らがないその声が俺の内心を掻き乱す。

なんでこんな態度までとられて、それでも直球でいられるんだ。


まるで、

昔の自分を見てるようでイライラする。

⏰:11/10/24 16:16 📱:Android 🆔:fZOUU5Pc


#244 [ちか]
目の前のコイツがあの頃の自分に透過されていく。

しかしそれで苛立つのはただの八つ当たりでしかない。
コイツにぶつけるべきものでもない。

頭の中で言い聞かせていくうちに沸き出る感情が徐々に収まっていった。

そして派手に脱色された金髪に手を置く。

「分かったから、今日はもう無理するな。」

それが今の俺に言える精一杯だった。

⏰:11/10/24 16:27 📱:Android 🆔:fZOUU5Pc


#245 [ちか]
俺がそう言うと、優里は力無く頷いた。

そっと手を離し、時計に目をやる。

もう時計の針は天辺に来ていた。
チラリと優里を横目で見る。

「もうだいぶ遅いけど、どうする。」

「…どうするって?」

どういう過程で研究室に来たとは言え、連れ込んだのは俺だ。
責任は取るべきだろう。

「…ここに泊まるか自分とこ帰るか。選べ。」

一応…。

⏰:11/10/24 16:32 📱:Android 🆔:fZOUU5Pc


#246 [ちか]
「泊まる…」


即答ですか。

思わずツッコミを入れそうになったがそれを内心にとどめると、俺は毛布を渡した。

「生憎、ベッドとかは無い。から、そこのソファでこれ被って寝ろ。」

「あんたは?」

「俺はそこらへんの床でいい。」

罪悪感が働いたのか、俺が床で寝ると言うと一度受け取った毛布を突き返してくる。

⏰:11/10/24 16:37 📱:Android 🆔:fZOUU5Pc


#247 [ちか]
しばらく、押し付けあいが繰り広げられたがやがて根負けした俺は強引に毛布を取り上げた。

「〜…ッ、分かった、俺もソファで寝る!!!!それで満足だろ?!その代わり狭いっつっても知らねえからな!!」

引ったくるように奪った毛布をかぶり、俺は一方的に宣言してソファに座った。


やがて恐る恐る優里もその隣に腰を降ろす。
座ったのを横目で見ながら俺は無言で毛布
の半分を差し出した。

⏰:11/10/24 16:43 📱:Android 🆔:fZOUU5Pc


#248 [ちか]
優里もまた、それを無言で自分の方へ引き寄せた。

お互い無言のまま、時間が過ぎていく。
静けさの中で時計の音はやけに響いた。

しかし、

(…寝れるわけがない。)

隣には俺を好きだという未成年。
犯罪の意識が俺を苛む。

声も出せず、ただ頭の中でそんなことをうだうだと考えていた時、ふいに優里の声が耳に入った。

「まだ、起きてる?」

⏰:11/10/24 19:04 📱:Android 🆔:fZOUU5Pc


#249 [ちか]
「寝てる。」

「起きてんじゃん。」

そんな修学旅行の夜のようなやり取りをした後、優里は怪訝な声で俺の顔色を窺うように口を開いた。

「…なんで来たんだよ」

「なにが」

「俺が襲われてる時…」

コイツの発言は基本的に言葉にいくつかの単語が欠けている。
それ故に意図を汲み取るのに時間がかかる。

「ああ、どっかの誰かさんのせいで今日中に終わらせたかった段階の研究が終わらなかったからな。
だから泊まり込みで片付けようと思った。
ちょうどメシから帰ってきたところに、お前らが居た。それだけだ。」

そう、ただそれだけだった。はずなのに。

⏰:11/10/24 21:58 📱:Android 🆔:fZOUU5Pc


#250 [ちか]
会ってしまったから、偶然とは面倒なモノで。

「たまたまだ。」

「…ふーん。」

これを必然や運命と呼ぶのは、

気が引ける。

「神崎」

「ん?」

「…おやすみ」

偶然は面倒で済むが

「おやすみ。」

運命はもっと厄介だ。

⏰:11/10/25 08:04 📱:Android 🆔:EIHTtYqU


#251 [ちか]
そんなことを思い知らされたのは翌朝のことだった。




目が覚めて隣を見たが優里が居ない。

自分の病室に帰ったのかと勝手に納得した俺は、立ち上がり欠伸をする。


と、寝起きで未だぼんやりする視界に震える金色の髪が映った。

⏰:11/10/25 08:08 📱:Android 🆔:EIHTtYqU


#252 [ちか]
俺のデスクの前で震える優里に寝惚けた声で声をかける。

「優里…?何して…」


しかし、
『後悔先に立たず。』

とはまさにこういうことを言うのだと、

身をもって教えられた。


そう身をもって。


俺の声にピクリと反応した背中は細く、
優里はゆっくりとこちらへ向き直った。



そして、

⏰:11/10/25 08:21 📱:Android 🆔:EIHTtYqU


#253 [ちか]


ただ俺は

振り向いたその手に持たれた、

「コレ、なんだよ…」

その薄っぺらい紙を見て、

「“離婚届”ってどういうこと…?」



これから起こるすべてのことに

一生分の後悔をした。


  ― 第十一話 e n d ―

⏰:11/10/25 08:38 📱:Android 🆔:EIHTtYqU


#254 [ちか]
*

第十一話 完結しました!
今回は一話完結型ではなく、
異例の前編・後編に分かれます^^

このあと、神崎と優里がどうなっていくのかお楽しみに*

感想など頂けるとすごくやる気が出ます!
よかったら感想板にも遊びに来てください♪
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4220/

*

⏰:11/10/25 08:45 📱:Android 🆔:EIHTtYqU


#255 [ちか]


>>92-254 第十一話 嵐、再び

▼感想板
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4220/

⏰:11/10/26 01:25 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#256 [ちか]



第十二話 夜明けの約束


⏰:11/10/26 01:26 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#257 [ちか]
「"離婚届"ってどういうこと…?」


そう俺に問いかけた瞳の色は、
動揺と怒りを帯びていた。


しまった。

そう悟ったが、時はもう遅い。

あの紙とは毎日のように睨み合いをしていたし、この研究室は俺が居るとき以外誰も立ち入らないことになっていたため、油断してデスクに置きっぱなしになっていた。

こんな時ばかり、
研究に夢中になっているときの身辺のだらしなさに後悔を立てる。

⏰:11/10/26 01:33 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#258 [ちか]
ただ何も言えず、俺は苦々しい顔で優里見つめる。

そんな俺に苛立つように優里は下唇を噛み、俺に歩み寄った。

「ラブラブとか言ったクセに!!離婚届ってもう家庭ハタン(破綻)してんじゃん!!」

そう言って、俺の胸にもう皺だらけになっている紙切れを押し付ける。
睨み付けるその目にはうっすらと涙の膜が張られて見えた。

華奢な手に胸をつかれたところで痛みなど何もないが、怒りが直で伝わってくる。
ムキになることでもないのだが、面倒なことは嫌いだ。

俺は漸く固く閉じていた口を開いた。

「破綻もろくに発音できない子供に夫婦間のことまで口挟まれる義理はないな。」

「話、そらすなっ!!!」

⏰:11/10/26 08:38 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#259 [ちか]
舌打ちでもしたい衝動に駆られる。

「騙してたのかよッ!??」

「人聞きの悪いこと言うな。」

「だってそうだろ?!」

涙の膜は今にも決壊しそうな勢いだ。
揺らぐ水滴を見ていると、言葉に詰まる。
何も言えずにまた見つめていると、優里はか細い声で呟いた。


「………そんなに俺が嫌いかよ…。」

その瞬間、また胸の中で何かが揺らぎ出す。
やがて揺らいだソレが全身を支配していくと、思わぬ言葉が無意識に口をついて出た。

「嫌いじゃない。」

⏰:11/10/26 08:58 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#260 [ちか]
「え……?」

怒りの色をしていた目が驚きに変わる。

そして俺自身も、
自分から出た無意識の言葉に動揺を隠せない。

「や、…あ、いやこれは……」

言葉にならない言葉が頭の中でグルグルと回っているうちに、胸に当て付けられていた手がそのシャツを掴み、震えだした。

「……それって、」

「違う。」

何を言われるかは分かっている。
だからこそ、遮るように否定した。

⏰:11/10/26 10:46 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#261 [ちか]
「違わないだろっ…あんた、俺のこと…!!」

「違う…っ!!」


好きなんかじゃない。
そんなはずない。


再度遮るように口を挟むと、優里はキッと俺を睨み付けた。
しかしそれはすぐにそらされる。
そしてその顔がみるみるうちに赤くなっていった。


「だって、昨日だって…俺に、キ、キス…して…」

⏰:11/10/26 10:50 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#262 [ちか]
俺は頭の中で思い出した昨日を後悔しながら、ため息をつく。

「あれはただの勢いだ。だいたい14も下の、しかも男に本気でそんな感情持つわけ……、」

本気でそんな感情持つわけない。
そう言おうとしたが、噛みつくように優里が俺の話を割いた。


「じゃあ14も下の男に勢いでキス出来んのかよ?!」

「それはっ…」

思わず、また否定の言葉が口をつく。

それは、違う。
そんな言葉を言いかけて飲み込むと、優里は不服そうな顔で俺を見上げた。

「…俺は、あんたのためならなんでも出来る。」

⏰:11/10/26 13:06 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#263 [ちか]
「あんたが本気になってくれるなら、俺はなんでもする…」


そう言って下唇を噛み締める姿に、胸の奥が揺れた。

その瞬間、
また昔の自分がフラッシュバックする。




今のコイツの言葉、あの日の俺にそっくりだ。

⏰:11/10/26 14:59 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#264 [ちか]
まだ研修医だった頃の俺に。
───────────………

そうあれは、俺があいつと出会って、もうすぐ二度目の春を迎える頃だった。


「な、なに言ってんの先生?病人からかわないでよー!あははは…」

あの日、あいつはそうやって俺の告白を受け流した。
まるで俺が優里にそうしたように。

「からかってない。本当にはあんたが好きなんだ。」


そして俺もまた優里がそうしたようにそれを真剣に繰り返して伝えていた。

⏰:11/10/26 15:18 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#265 [ちか]
「か、仮に、先生が本気だったとしてもだよ?あたしと先生は、患者とお医者さんでしょ!立場ってもんが…」

「そんなの関係ない。」

「関係あるんだってば…ッ!!」

もうすぐ桜が咲くその蕾の下で車椅子越しに見たあの背中を俺は一生忘れない。

「もう長くない人間と一緒になったって、先生が不幸なだけだよ…」

あの細い肩も、
震える声も、
無理をした笑顔も。

忘れることなんて出来なかった。

⏰:11/10/26 15:28 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#266 [ちか]
少しヒステリックに叫んだあいつは、それを消し去るように無理して明るい声を取り繕った。

「だ、だから、先生はさ!!もっと違う人と…」

「俺が治す。」

その声が痛々しくてつらくて、
俺は押していた車椅子の取っ手を強く握る。

「もう〜、分かんない人だなぁ、先生はー!あたし余命まで宣告されてるんだよ?そんなこと出来るわけないじゃん。」

あの頃の俺は何も出来ないただの研修医で、
そんな自分が苛立たしくて

「…俺はあんたのためならなんでも出来る。」

出来るはずもないことを本気で言っていた。

⏰:11/10/26 15:39 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#267 [ちか]
「それであんたが治って、本気になってくれるなら、俺はなんでもする。」


いや、
あの頃だって本当は
そんなこと出来ないと分かっていた。


だから、

「あんたが好きだから…。」


車椅子に乗っているあいつの背中を見て
平然を繕う声とは裏腹に
幾つもの水滴が零れたんだ。

⏰:11/10/26 15:46 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#268 [ちか]
今の優里(コイツ)は、まさにあの時の俺にそっくりだ。


出来もしない約束に必死になって
どんどん人の感情の中に踏み込んでいく。


「なんでそこまで…」

「あんたが好きだからだっつってんだろッ!!!!」



それが正しいと、思い込んで。

⏰:11/10/26 15:50 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#269 [ちか]
グイッ!!!…──

プツンと頭の奥で何かが切れた。

それと同時に優里の手を掴んだ俺はそのまま自分の顔の前に優里を引き寄せる。

優里は突然のことに目を白黒させ長い睫毛が何度も空気中を掻いた。


その瞳は美しい漆黒の色をしていて、金色の髪に似つかわしくないと改めて思う。

そんな優里の顎を片手で掴み、顔を強引に上げた。

驚いたその表情(カオ)は青く、若い。

だが、


「な、なにっ…す…?!」


その人の心の中に土足で踏み込んでくることも
若さゆえの過ちであることを

俺が教えてやる。


「お前、俺のためならなんでも出来るって言ったよな?なら、俺を本気にさせてみろ。」

⏰:11/10/26 16:43 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#270 [ちか]
そう言って強引に口づけをする。


昨日のキスとは全く違う、ただ強引で理性のある冷淡なキスを。


ついばむように何度か重ねた後、わざとらしく音をたてて俺は唇を離した。

微睡む漆黒の瞳が俺を見つめる。
その目をかしっかり見据えて俺は言った。


「お前が本気だって言うなら、俺を誘ってみろ。」


それで分からせてやる。

⏰:11/10/26 23:06 📱:Android 🆔:7b8hSSCs


#271 [ちか]
揺らぐ瞳。

ほら、

「なに、それとも出来ない?やっぱり遊びじゃそこまでは出来ないよな?」


出来ないって言えよ。

こんなの遊びだって言えよ。

そうすれば全部、終わる。

⏰:11/10/27 11:42 📱:Android 🆔:JMT4HDhY


#272 [ちか]
しかし俺の読みとは裏腹に、
揺れる瞳は徐々に焦点を定めていった。


そして優里はキッと俺を見据える。


ヤバイ。
この目、本気でやるつもりだ。

そう悟った時にはもう遅かった。


襟元をふいに引き寄せられ、再び重なる唇。

⏰:11/10/27 15:57 📱:Android 🆔:JMT4HDhY


#273 [ちか]
ぎこちなく、不慣れなのが伝わってくる。
緊張が伝わってくるソレは、やっぱりまだ青い。

そのまま、優里の舌は俺の首筋を這っていく。

俺はくすぐったいが昂る感情を自分なりに抑えて、ただ冷静にそれを受けた。

しかし、
俺のシャツのボタンを開ける右手は確実に震えている。



見ているだけで痛い。

⏰:11/10/27 16:17 📱:Android 🆔:JMT4HDhY


#274 [ちか]
思わずその震える手を掴んだ。
見ていられない。

「もういい。やめとけ。」

酷なことを強いてしまった、そんな罪悪感に少し苛まれながらも、これで本人自身が俺との関係をこれ以上望むことは無いだろうと俺は内心安堵の息をついていた。


出来ないことを出来ると言い張るなら
それがただの虚言でしかないことを
身をもって教える。

それが、寝言から醒める一番の薬なんだ。

たとえそれで俺が嫌われたとしても、仕方ないことなんだ。

そう自分に言い聞かせながら。

⏰:11/10/28 00:45 📱:Android 🆔:k6d6Lilg


#275 [ちか]
俺の制止に優里は首を何度も横に振る。
思わず、掴んだ手に力が入る。

俺に固執する必要がどこにあるんだ。
考えても考えても分からない。

しかし優里は必死な表情で俺に訴えかけてくる。

「…なんで…っ、俺、無理なんかしてないしッ…こ、これくらい全然……!!!!!」

「口ばっか強がっても、顔見りゃ分かるんだよ。」

暫く無言の睨み合いが続いた。
そして、その沈黙を先に破ったのは


「わかった…」



優里だった。

⏰:11/10/28 00:55 📱:Android 🆔:k6d6Lilg


#276 [ちか]
「あんたは俺に諦めてほしいんだろ?」

「ああ。」

何を今さら。
そんなことを思いながら頷くと、
優里は再び話を繋げた。

「じゃあ、俺とヤれよ。」

「は?」

こいつ、本物の馬鹿だ。
今までの何を見て、そんなことが言えるのか。

俺はため息をついて掴んでいた手を離した。

「話になんねえな。お前には無理だ、やめとけ。」

そう言って、ポケットの中からタバコの箱を出す。

⏰:11/10/28 01:02 📱:Android 🆔:k6d6Lilg


#277 [ちか]
すると、先程とは逆に今度はタバコを持っていた俺の手を優里が掴んだ。

「一回ヤってみれば、俺だってあんたのこと嫌いになれるかもしれないだろ?!」

「俺達は男同士だぞ。そんなことしなくても、結果は分かる。」

いい加減にしてくれ。
なんでそうなるんだ。

こいつは、いつも俺の読みとは違う方にばかり走っていく。
傷つく道にばかり。
かつての俺が進んだ道のように。

「そんなの、やってみなきゃ分かんねえじゃん!!!!!」

いい加減に、

「最後にするから…っ!!!!それで、諦めてやるから…!!!!!」

気づけよ。

⏰:11/10/28 01:10 📱:Android 🆔:k6d6Lilg


#278 [ちか]
ドサッ…

重なりあうようにソファに鈍い音が響いた。
二人分の重みがソファに沈んでいく。

タバコの箱が床に落ちる音がすると、それっきり研究室は静まり返った。



俺が自分の下に倒れこむ優里の両手首を掴み、自由を奪うと、
一瞬、時が止まったように俺たちの間を張り詰めた空気が流れる。



「なら、お望み通りにしてやる。」

そして俺は優里のシャツに手をかけた。

⏰:11/10/28 01:19 📱:Android 🆔:k6d6Lilg


#279 [ちか]
吐き捨てるようにそう呟いた俺は、優里の上半身から衣類を剥ぎ取った。

そのまま何度も首筋に吸いつく。
吸い付くたびに優里からは甘い吐息が漏れた。

散らばめた赤い痕を見つめ、時折撫でるとくすぐったいようで優里の身体はピクピクと反応する。

「あッ……ハァッ…///つ…ッう///」

優里の全神経を支配しているようだった。

ふいに膝を下半身に擦り付けると、思わぬ刺激だったのか無防備な声が部屋に響いた。

⏰:11/10/28 15:37 📱:Android 🆔:k6d6Lilg


#280 [ちか]
「若いねえ。」

「うっ…せ…ッんあっ///」

煽るような目で見下ろすと、甘い声とは対称に反抗的な目が苦しそうにこちらを睨む。

「ちゃっかり反応してるクセになにがうるさいんだか。」

呆れたように言い放って、俺はズボンの中に右手を忍ばせた。

すでに優里のソレにはトロトロと蜜がまとわりついている。

「ちょ…っ、や…んんッ///神崎、待っ…////」

裏筋を擦り、先端を引っ掻くと身体はさらに強く反応を示した。

限界は近そうだ。

⏰:11/10/28 15:47 📱:Android 🆔:k6d6Lilg


#281 [ちか]
優里の喘ぎ声に合わせて俺は右手を加速させる。

「や…ッ、ふ…んぁっ///神崎…っ、も…無理……っ」

優里は俺にしがみつくと背中に爪を立てた。
そして、身体を震わせて吐き出された白濁。


「ハァ…っ、ハァ…ッハァ///」

俺に絡みつく腕が、力が抜けたようにスルリとソファに垂れた。

俺はこれ見よがしに絡めとった白濁を優里の目の前でちらつかせる。

それと同時に、優里の火照った頬が一層紅潮するのが一瞬で見てとれた。

「これで満足か?」

投げやりにそう言い捨てると、一瞬微睡んでいた瞳に反抗的な色に染まり始める。

⏰:11/10/29 22:51 📱:Android 🆔:34CuKAt6


#282 [ちか]
「誰が…っ!!!!こっ、これくらいで調子…乗んなっ!!!///」

そう怒鳴って優里はソファの隣のテーブルから適当に紙束を掴みとり、俺に投げつけた。

避けようと思わず優里に覆い被さっていた体が後ろに反る。

目の前をいくつもの薄っぺらい紙が舞う。
視界が遮られ鬱陶しさ極まりない。


こいつに手加減は要らなそうだな。

そう確信するようにもう一度、離してしまったその両手首を一掴みして拘束する。


「調子乗ってんのはお前だ。」

「ひ……ぁっ」

言葉と共に下半身にまとわる衣類を脱がせると、俺は秘部に指をあてがった。

⏰:11/10/29 23:03 📱:Android 🆔:34CuKAt6


#283 [ちか]
そしてそのまま強引に指を一本、その中に沈ませていく。

「つッ……、や…ぁっ」

痛々しく、悲鳴にも近いソレが耳を掠めた。

その瞬間、頭の中で糸がピンと張るように沈めていた指の動きが止まった。


ああ、俺は何をしているんだろうか。
こんなことをして一体何になるんだろうか。

「ふ…ぅ、神崎ッ!!ちょっ…待って…!!」


苦しむ表情を見るうちに、
頭に上っていた血がだんだん冷静を取り戻していく。

「ひぁっ、い…ッ…つ…はぁ…はッ…ハァ」

そして、優里の目尻から涙が零れた時、その動きは完全に止まった。

⏰:11/10/29 23:13 📱:Android 🆔:34CuKAt6


#284 [ちか]
「…やめた。」


独り言に近いような声量で呟くと、スルリと指を抜き取った。

そしてそのまま立ち上がり、落としてしまっていたタバコの箱を拾い上げる。

ついでに先程剥ぎ取り適当に床に放った衣類を優里に投げた。


「着ろ。」

それだけ言って、箱からタバコを一本抜き出すとライターで火をつける。
くわえると白煙が目の前を霞めた。

⏰:11/10/29 23:19 📱:Android 🆔:34CuKAt6


#285 [ちか]
優里はなげられた服を羽織ると上半身を起こした。

「勝手にやめんなよ!!!!俺は…っ!!!」

「呼吸、乱れてる。」

肺に含んだ煙を吐き出し、目線少し下で上体を起こした優里に有無を言わさぬ口調で指をさす。


「そ、そりゃあんなことされれば誰だって呼吸くらい乱れるだろ?!」

「それに脈も不規則。」

突っかかる口調とは正反対の覚めきった声。

⏰:11/10/29 23:28 📱:Android 🆔:34CuKAt6


#286 [ちか]
「職業病みたいなもんでな、いつでも何してる時でもそれくらい無意識に分かんだよ。お前今、息苦しいだろ。」

「………っ!!」


図星か。

問いかけが確信に変わるような、そんな表情で優里は俯いた。

「これで分かっただろ?お前には向いてない。やめとけ。」

釘をさすように言い放つと、細い肩が萎縮する。

「でも、俺は神崎が好きで…っ、あんたのためなら死んでもいいくらい好きで…っ」

喉の奥が震え、顔は見えなくても泣いてるいることが分かった。



「 ふざけんなっ!!!!!! 」


気づけばそんな優里を怒鳴っている自分が居た。

⏰:11/10/29 23:36 📱:Android 🆔:34CuKAt6


#287 [ちか]
「死んでもいい?!簡単に言うな!!!!!生きたくても生きれない人間がこの世界にどれだけ居ると思って…っ!!」

脳裏に浮かぶ鮮明なあいつの顔。
生きたくても生きれない人間の無理をした明るい笑顔。

あの顔を見て、何度願ったか。
彼女を治したいと。


でも叶わなかった。
末期の状態にまで陥った病気の前で、俺はその時無力な研修医でしかなかった。


悔しくて何度も噛んだ唇の痛みさえ、生々しく蘇るようだった。

⏰:11/10/29 23:43 📱:Android 🆔:34CuKAt6


#288 [ちか]
いきなり浴びせられた怒声に優里は潤む目を何度も瞬いた。

俺はそんな優里に背を向け、すっかり短くなってしまったタバコをくわえなおした。


「出ていけ。」


冷静になろうと心がけた声は思いの外震えていた。
それは優里にも伝わってしまっているだろうか。

怒鳴り声のあとの研究室は一層静かに感じられた。

⏰:11/10/29 23:48 📱:Android 🆔:34CuKAt6


#289 [ちか]
時計の秒針が研究室の静けさをさらに駆り立てる。

俺は振り向かずただくわえたタバコの煙を見つめた。



暫くして、ソファから立ち上がる音。

そのまま足音はドアの方へ近づいていく。

そしてドアノブが捻られ唸る音がした。




「……………ごめんなさい。」


か細い声はそう言い残すと、ドアが音を立て、ゆっくりと閉められた。

⏰:11/10/29 23:55 📱:Android 🆔:34CuKAt6


#290 [ちか]
一人になった部屋の中で深い溜め息は執拗に響いた。


「これで良かったんだよな…」

この感情の正体も本当はすでに分かり始めている。
ただ気づかないフリをしてるだけ。


おもむろに足下に落ちている皺くちゃの離婚届に目線を落とした。

震えるあの手で、これをどれほど強く握っていたのだろうか。

⏰:11/10/30 10:26 📱:Android 🆔:nfDV2Ves


#291 [ちか]
一人になった部屋の中で深い溜め息は執拗に響いた。


「これで良かったんだよな…」

そう言い聞かせるものの、
心に残る虚無感と蠢く感情。

この感情の正体も本当はすでに分かり始めている。
ただ気づかないフリをしてるだけ。


おもむろに足下に落ちている皺くちゃの離婚届に目線を落とした。

震えるあの手で、これをどれほど強く握っていたのだろうか。

⏰:11/10/30 10:27 📱:Android 🆔:nfDV2Ves


#292 [ちか]
紙を拾い上げまじまじとそれを見つめる。

蠢く感情がじわじわと俺の体を支配していくようだ。
今すぐ追いかけてしまいそうなほど、その感情は昂っていた。

それを無理矢理消し去るように俺は頭を振る。



「…俺は、あの約束を裏切れない。」

────────────────…………
─────────………
─────……

⏰:11/10/30 10:30 📱:Android 🆔:nfDV2Ves


#293 [ちか]
あの日以来、


再び優里は俺の前に現れなくなった。

しかし、以前現れなくなった時とは全く違う。


俺の行動する範囲の一切から姿を見せなくなった。

そんな状態が長く続き、晩秋だった季節はいつの間にか年も明け冬も大詰めの2月に差し掛かろうとしていた。

⏰:11/10/30 11:42 📱:Android 🆔:nfDV2Ves


#294 [ちか]
何度かアイツの病室のすぐ近くまで行ったこともあった。

しかし、
意地なのかプライドなのか、
はたまた約束という名の呪縛からか、
あと一歩というところでいつも引き返していた。


そんなある日の午後。

噂好きの同僚が妙に神妙な顔で俺を尋ね、研究室へやってきた。

⏰:11/10/30 14:19 📱:Android 🆔:nfDV2Ves


#295 [ちか]
「優里くん、すっかり来なくなっちゃいましたねー」

同僚は研究に持ってきた書類ら文献、データを片っ端からデスクに投げ捨てるとつまらなそうな顔でそう言った。

一瞬、体がピクリてと反応を起こしそうになったが平然を装い相槌を打つ。


「そうだな。」

「先生は寂しくないんですか?」

「は?なんで俺が」

窺うような目線を寄越す同僚を冷たくあしらう。

「だってあれだけ毎日騒ぎに来てたのが急にパッタリ来なくなると、はじめはうるさいなーって思ってたのに、なんか物足りなくなりません?」

「まぁ、たしかに。」

寂しくないといえば嘘になる。

⏰:11/10/30 15:06 📱:Android 🆔:nfDV2Ves


#296 [ちか]
とは言え、
俺は寂しいなんて口走っていい分際じゃない。

相手からの提案だったと言えど、
病院(ウチ)に多額の寄付金を注ぐどこぞの大企業の愛息子とあれやこれやをやってしまったわけで。


それはつまり、

クビにならないことの方が不思議なほどの大罪…。

⏰:11/10/30 20:11 📱:Android 🆔:nfDV2Ves


#297 [ちか]
今までは向こうからの一方的なアプローチだったから問題はなかったものの、今回は違う。



完全に俺に非がある。

その証拠が今日までに至る優里の俺に対する拒絶だ。


人間とは頭が冷えると、急に足元が見えるもの。
自分のした過ちを消し去ることも出来ず、この数ヵ月後悔の念に苛まれ続けている。

こんなことになるなら、
あの時顔面に二、三発鉄拳ぶちこまれる方がいくらかマシなくらいだ。

⏰:11/10/30 20:41 📱:Android 🆔:nfDV2Ves


#298 [ちか]
「先生、顔色悪いですよ?」

「あ、いや、ちょっとまずいことを思い出してた…」

ダメだダメだ。
もうあいつに振り回されるのは御免だ。

数ヵ月経ってもことが起きないところを見ると、問題になる様子はない。



俺が近づきさえしなければ。


⏰:11/10/30 20:54 📱:Android 🆔:nfDV2Ves


#299 [ちか]
気持ちを落ち着けようと昼に買った缶コーヒに手を伸ばす。

プルタブを開け喉奥に流し込むと心地好い感覚が流れた。

もう一度、残った半分を流し込むため缶を煽った時、後ろで文献をペラペラと捲っていた同僚がおもむろに口を開いた。


「そういえば、優里くんの手術来週らしいですねー」

⏰:11/10/30 22:26 📱:Android 🆔:nfDV2Ves


#300 [ちか]
「うわ、汚な!!先生、書類にかかったらどうするんですか、も〜!」

「わ、悪い…」

思わず同僚の話を聞いた瞬間、口に含んだばかりのコーヒーが吹き出た。

それほど驚きが大きかったのだ。
荒っぽく咳払いをした俺は出きる限り落ち着いた声色で同僚に問い掛ける。

「……それ詳しい日にち分かるか?」


同僚は自分の頭の中からまるで引き出しを探るように目線を上に向け考え始めた。

⏰:11/10/30 22:34 📱:Android 🆔:nfDV2Ves


#301 [我輩は匿名である]
応援してます(^∀^)ノ

⏰:11/10/30 22:44 📱:X-RAY 🆔:xw1xjsE6


#302 [ちか]
「えっと…、外科部長なんて言ってたかなぁ」

同僚が思い出してる間に容器の中の残りを流し込んだ。

また吹き出しては今度こそ研究材料に支障を来しかねない。


そうこうしているうちに同僚は思い出したように明るい声をあげた。

「あ、思い出しました、思い出しました!たしか今週末の金曜ですよ。なんでも大がかりな手術だから、優秀な医者を何人もそろえてるっておっしゃってました。」

「へぇ…」

金曜日か。
来週と聞いて少し嫌な予感がしたが、当たったな。

ちょうど金曜は研究の途中経過を他の病院で同じ研究をしている仲間と話し合うことになっている。
脳外科が専門の俺にはそもそもオペに立ち会うこともまず無いのだが、せめてその前の数時間会えれば、スケジュール的にナシか…。



って、

⏰:11/10/30 23:08 📱:Android 🆔:nfDV2Ves


#303 [ちか]
「だからどの面下げて会うつもりなんだよ!!!」

カランと音を立てて空き缶が床を転がる。

「せ、先生…?」

怯えるように顔を覗きこまれ、俺はすぐに理性を取り戻した。

「あ、いや!な、なんでもない、こっちの話だ…」


ああ〜もう俺、マジ何やってんだよ。
これじゃ前より重症じゃねぇかよ。

すっかり嫌われてしまった今、会って何になる。

というか、自分で嫌われるように仕向けておきながら、優里のことが気にかかるなんていくらなんでもムシが良すぎだ。

俺にそんな資格はない。

⏰:11/10/31 01:08 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#304 [ちか]
自分の中の葛藤に頭を悩ませていると、同僚は付け足すように話を続ける。


「ま、まぁ、でも、難しい手術らしいですよ。もともと優里くんがあの歳になるまで身体的にリスクが大きすぎて手術自体できなかったみたいですから。外科部長は、術後に影響が出ず無事にオペが成功する確率は40%前後だっておっしゃってたし…」


「40%…。」

思わず俺はその数字を繰り返していた。


それは決して高い確率ではない。
むしろ、なんらかの影響が出ることを覚悟して受けなければならない確率の数字だ。


胸の奥がギュッ、と締め付けられる。
過去のトラウマと認めたくない感情の交差。
それは見てみぬふりをするには大きすぎるモノだった。

⏰:11/10/31 04:08 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#305 [ちか]
>>301 匿名さま.

ありがとうございます(*^^*)
がんばります!
よかったら感想板にも遊びに来てくださいね♪

⏰:11/10/31 08:00 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#306 [ちか]
>>304続き

「…き、きっと手術前だから優里くんも大人しくしてるんですね!手術が終われば前より激しい特攻してきそうだから、先生覚悟しといた方がいいですよー?」

一瞬重くなった空気を掻き消すように同僚は明るく振る舞った。

しかし、今の俺にその言葉はキツい。
嫌われてしまった今、前より激しい特攻など微塵も考えられないのだから。

俺は苦々しい笑顔で同僚の言葉を受け流し、持ってきてもらった資料を整理し始める。

それを見ると同僚も気を利かせ、軽く挨拶をして静かに部屋を出ていった。

⏰:11/10/31 15:16 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#307 [ちか]
しかし本当は資料を整理するなんて形だけ。

目を通したところで、内容なんて頭に入ってこない。


認めたくないが、
頭の中はアイツで支配されていた。

しかし何度も頭の中であの約束が働きかける。

そしてこれ以上、踏み込んではいけないと忠告されているような気がしてならないのだ。

葛藤が葛藤を呼び、
考えは堂々巡りを繰り返していた。

⏰:11/10/31 16:51 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#308 [ちか]
会いに行くことは出来る。

しかし
会うことで満足するのは自分だけ。

会ったところで好きだと言われても約束がある限り、気持ちに答えることは出来ないのだから。

それは
約束に対しても
優里に対しても
中途半端な態度でしかない。

正しい選択はこれ以上関わらないこと。

⏰:11/10/31 16:56 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#309 [ちか]
.

「分かってんだよ、んなことは…。」


だからこそ
頭に感情がついてこず、
こうも悩んでいる。



力無く漏れた独り言は
虚しく部屋で響いた。

⏰:11/10/31 16:59 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#310 [ちか]
― 優里side. ―

あの一件があった以来、
また神崎には会わなくなった。






いや、
会えなくなった。

⏰:11/10/31 18:40 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#311 [ちか]
────……死んでもいい?!簡単に言うな!!!!!
生きたくても生きれない人間がこの世界にどれだけ居ると思って…っ!!────……


何度も脳内であの時のすべてが再生される。


あの時のアイツの表情(カオ)、
あんな表情(カオ)初めて見た。


踏み込んではいけない領域に触れてしまった。
直感でそう感じてから、
怖くて会えなくなった。

⏰:11/10/31 18:48 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#312 [ちか]
季節も中庭の木も次第に色を変え、時間が流れていく。

気づけば年が明け、2月に差し掛かっていた。

中庭の木が桜だと気づいたのはその頃だ。
小さな黄緑とピンク色の混ざった蕾が木を染め、まるで春が近いことを告げているようだった。

何度もこの病院で春を迎えていたというのに、気づかなかったなんて今までどれほど季節に無頓着だったのだろうと、思わず苦笑が漏れる。

⏰:11/10/31 18:54 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#313 [ちか]
そんな俺が季節が気になりだしたのは、
神崎に出会ってから。


研究という名目で来ているアイツも来月で半年の滞在になる。

ましてや離婚届だってあるし、そうなれば奥さんとの話し合いは済んだのかとか帰国しなくていいのかとか、いつ日本に帰るか考え出せばキリがない。

季節の半分がちょうど来月、再来月で終わるのならそろそろ帰る時期かもしれない。

そう思うと、
焦らずにはいられなかった。

⏰:11/10/31 19:02 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#314 [ちか]
しかし、
神崎の地雷に触れてしまった今、どんな顔をして会えばいいか分からない。

でもいつ帰るか分からない分、今のような形で終わるのはイヤだ。


そんな子供染みた葛藤に振り回されているうちに季節が一つまた変わったというわけだ。

「俺の臆病者〜…」


はじめの特攻ぶりはどこに言ったのだ、と言わんばかりに自分に叱咤し、寝返りをうった。

⏰:11/10/31 21:43 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#315 [ちか]
枕を胸に抱き止め、ベッドの布団の中でうだうだのたうち回っていると、ふいに病室のドアからノックの音が。


「だれ。」

振り向くわけでもなく、ドアに背を向け問い掛けるとドアが開き、看護婦が入ってきた。


「なんか用?」

今、あんたらに会う気分じゃないっつーの。
てか俺、最近問題起こしてねーじゃん。

今日は検査の予定も無いし、こんな日くらいそっとしといてくれよ。うぜえ。


そんなことを心の中で毒づきながら無言を保つ。

⏰:11/10/31 21:50 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#316 [ちか]
「具合はどう?」

「別に。普通。」

「優里が部屋から出ない日は、あたし達、逆に心配になるのよ。」

「そりゃどーも。」


淡白な会話が続くと、看護婦は呆れたように笑った。
憎たらしい口調は今に始まったことではなく、すでに怒られる範囲から抜けているらしい。


「まぁ、今日は優里に話があってきたのよ。」

看護婦の声色が微妙に変わる。
何か大事な話かと思い、背を向けていた体をぐるりと回すと真面目な顔がそこにあった。

「……なに」

⏰:11/10/31 21:57 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#317 [ちか]
「何度か前から言ってたから分かってるかも知れないけど、オペが来週の金曜に決まったから心の準備しといてって話をしに来たのよ。」


そう言って看護婦は優里の髪を撫でる。
まるで愛しい我が子でも扱うかのように。


「来週…」

「その反応見る限り、覚えてなかったわね。」

図星をつかれ、思わず黙ると看護婦はクスリと笑った。
しかし、それとは対称的に俺の顔は曇っていく。

⏰:11/10/31 22:09 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#318 [ちか]
年明けに行うことは聞かされていた。
だから来週に行うと聞けば、驚きよりいよいよと言った感じの表現の方がきっと正しい。


しかし、今まで身体的リスクが伴うため適年齢に達するまで行えなかった手術が、来週にまで迫ってきたと思うと、顔を強張らさずにはいられなかった。


看護婦はそんな俺を安心させるように、落ち着いた物腰で話を続ける。


「大丈夫よ。もう十分、あなたの体は手術に耐えられるわ。先生達も成功率80%っておっしゃってたもの。自信を持ちなさい。」

そんな風に優しく話したと思えば、

「い゛て゛っ!!」

バチンと軽い音を立てて額を叩かれた。
思わず、苦痛の声が漏れる。

⏰:11/10/31 22:22 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#319 [ちか]
「自信持ってドーンとかまえてりゃいいのよ、優里は。わかった?」

痛みに涙目になる俺をよそに、看護婦は一方的にそう告げると病室を出ていった。

去っていった後ろ姿を見つめながら俺は毒づく。

「あの乱暴ゴリラ女…」

しかしそう呟いた瞬間、再びドアが開き隙間から看護婦の顔が覗きこんだ。

「なんか言った?」

「?!べ、べつに?!」

地獄耳乱暴ゴリラ女の間違いだったと心の中で訂正し、ベッドの布団に潜り込む。

そして小さく笑った。
元気を出さないと、な。

⏰:11/11/01 21:01 📱:Android 🆔:DjtyBHfI


#320 [ちか]
それから数日経った日のこと。

あの看護婦のおかげなんて口が裂けても言わないけど、部屋を出る程度には元気を取り戻した。


そんな深夜、眠っていた俺は喉の乾きを覚え目を覚えた。

何か飲もうと自販機を求め、部屋を出る。

が、出て暫く歩くうちにナースステーションから話し声が聞こえてきた。

⏰:11/11/01 22:03 📱:Android 🆔:DjtyBHfI


#321 [ちか]
「で、話したの?優里に」

(俺…?)

自販機に行くには次の角を曲がればいいだけなのに、名前を出されたことが気になり、気持ちとは裏腹にそのままじりじりと体はナースステーションに近づいていった。


なんとなくしか聞こえなかった会話が、よく聞こえる場所まで着きそっと角に隠れる。

やましいことなんて無いのに、なんでこんなことしてるんだ、俺。

⏰:11/11/02 00:06 📱:Android 🆔:uZUHTXvM


#322 [ちか]
>>320訂正

目を覚えた→×
目を覚ました→○

ごめんなさい!

⏰:11/11/02 00:08 📱:Android 🆔:uZUHTXvM


#323 [ちか]
耳をすませれば、なんなく会話のすべてが聞こえてくる。

「先週話したわよ、一応…」

「一応?一応ってどういう意味?」

盗み聞きと言われても言い逃れ出来ないような状況と、自分関連の話だということに自然と体は緊張し、鼓動が速くなった。

看護婦は後ろめたそうな声で話を繋げる。


「手術のことはちゃんと言ったけど、」

「けど?」

けど、の後をなかなか言おうとしない看護婦に、俺まで「けど?」と聞き返しそうになった。
高鳴る心臓の音がうるさい。

⏰:11/11/02 00:14 📱:Android 🆔:uZUHTXvM


#324 [ちか]
いい加減聞くのに疲れたと痺れを切らし、立ち去ろうとしたその時、看護婦の小さな声が俺の足を止めた。


「……成功率80%だって嘘つい ちゃったのよ…」

「え?!何2倍増しで話してんのよ!!先生達は40%前後っておっしゃってたじゃない!」


…は?

80%は嘘?本当は40%前後?


何それ、どういう意味…?

⏰:11/11/02 00:19 📱:Android 🆔:uZUHTXvM


#325 [ちか]
「だってあの子が不安そうな顔するから…」

「だからって嘘ついていいってワケじゃないでしょ?!」

ドクン、ドクンと鼓動がさらに速くなっていく。
とっさに両手で耳を塞いだ。
嫌でも声が耳にこびりついてくる。

「あんな難しい手術を…っ」

聞きたくない。

「成功したって目が覚めないこともあるのに…っ!!」

聞きたくないッ…───

⏰:11/11/02 00:25 📱:Android 🆔:uZUHTXvM


#326 [ちか]
気づけば走りだしていた。


自分の病室に戻った俺は、
そのままズルズルと壁づたいに座り込む。


心臓の音が耳を支配していく。

今は確かに聞こえるこの音も、いつか止まって聞こえなくなるかも知れない。

いつでも隣合わせにある“死”
向き合っているようで見ていなかった“現実”…────


突然突きつけられた現実という名の恐怖に、俺は逃げるように耳を塞いだ。

──────────────………
───────────………
──────………

⏰:11/11/02 12:57 📱:Android 🆔:uZUHTXvM


#327 [ちか]
(TT)>>302訂正
読み返してて気づいたんですが、
同僚の言葉の中で手術が『今週末』になってますね(>_<)
正しくは『来週末』です!すいません(TT)

⏰:11/11/02 21:55 📱:Android 🆔:uZUHTXvM


#328 [ちか]
>>326続き

― 陽平side.―


「先生、お願いします」

「いや、でも、その日は〜…」

「前日でもいいんです!その前でも!」

「や〜…」



関わらないと再決心したのも束の間、
研究室に突然、看護婦に乗り込みをかけられた。

⏰:11/11/03 00:19 📱:Android 🆔:luRwubkA


#329 [ちか]
「優里本当に最近、人が変わったみたいに元気なくて…。きっと先生に会えば、元気も出ると思うんです!」

「いや、それは…、」

むしろ逆効果なんじゃないか
そんな発言が口をついて出そうになり慌てて飲み込む。

看護婦は腑に落ちないといった顔でこちらを窺ってきた。

踏み込まないようにすれば、なんらかのキッカケで引き込まれる。

もはやこれは何かの因縁なんだろうか…

⏰:11/11/03 00:30 📱:Android 🆔:luRwubkA


#330 [ちか]
看護婦の強引な願いに、曖昧な返事をしているがラチがあかない。

もう一時間はこうしている。

「どうにか都合つけてもらえませんか?!」


俺だって一度はそう考えたっつーの…

でも、

「や、金曜当日はたの病院と合同で研究経過の発表がありまして、今週いっぱいはその資料作りでギリギリなんです。」

どうしてもスケジュールがそれを許してくれなかった。

⏰:11/11/03 00:39 📱:Android 🆔:luRwubkA


#331 [ちか]
この期間、今まで順調に進まなかった研究に追い込みをかけ、なんとか発表には間に合いそうなもののそれも余裕ではない。

徹夜覚悟と言ったところだろう。


会う約束なんかとても出来るスケジュールではなかった。

「すいません、力になれなくて。」

そう言って申し訳なさそうに詫びると、看護婦の目も次第に諦めの色に変わり、長い口論の末、最後には「頑張ってください…」と一言残して研究室を出ていった。

⏰:11/11/03 10:03 📱:Android 🆔:luRwubkA


#332 [ちか]
誰も居なくなった部屋の中で一人、デスクの上に広げられたスケジュール帳に目を落とす。




どうにか、出来ないだろうか。



そんな現実味のない願望を抱きつつ、ぎっしりと細かい字が刻まれた紙の上を指でなぞる。

⏰:11/11/03 13:51 📱:Android 🆔:luRwubkA


#333 [ちか]
「…つッ〜…」

暫くそうしていると、紙が無意識のうちに滑らせていた指を切ったようで、傷口から赤いものが滲んだ。

そしてその瞬間、痛みと共に我に変える。


気がつけば頭の中でこの先の予定を詰めて、空きのない予定にいつの間にか空白を作ろうとしていた自分。

やるせない感情に押し潰されそうになり、無造作に頭を掻く。


「流されないって決めたのに何してんだ、俺…。」


そして俺は揺れ動く感情にセーブをかけるように、心臓のある方の胸をぎゅっと握り、小さくため息をついた。

――――――――――――――
――――――――――――――

⏰:11/11/03 13:52 📱:Android 🆔:luRwubkA


#334 [ちか]
――――――――――――――――
――――――――――――――――

で、なんでか俺は今、



( …結局、)



優里の病室の前に居たりする。



( 来てしまった…。 )

⏰:11/11/03 14:00 📱:Android 🆔:luRwubkA


#335 [ちか]
只今、深夜4時。

いや、深夜というより明け方と言った方が正しいかも知れない。
しかし、冬の4時はまだまだ夜の漆黒を保っていた。

窓ガラスに映る自分の目下のクマに思わず苦笑が漏れる。

そのクマが今日までのスケジュールの多忙さを物語っていた。


案の定資料作りはギリギリまでかかった。
毎日研究室での寝泊まりが続き、発表の前日である今日もそうだった。

そしてやっと仕上がったのが一時間前のこと。

そのまま寝て翌朝の発表に備えればいいものを、


(俺、なんで来てんだよ…。)

足が勝手に動き、気づけばドアの前に居た。

⏰:11/11/03 14:12 📱:Android 🆔:luRwubkA


#336 [ちか]
ドアの取っ手に手を掛ける。

暫くしてその手を離す。

そしてまた手を掛ける。


ついてから30分強。


もう何度もこの動作ばかり繰り返している。

⏰:11/11/04 00:17 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#337 [ちか]
じんわりと手に滲む汗を見つめながら、自分に言い聞かせた。


さすがのアイツでも夜中の4時じゃ、起きていないだろう。
寝ている時にちょっと顔を覗いてすぐ帰るだけだ。

誰にも何にも迷惑はかからないし、
そうこれは俺の自己満足だ。

だから迷わず開けてしまえ。…――


ガラ…ッ

⏰:11/11/04 00:22 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#338 [ちか]
勢いで開けたドアが小さく音を立てて開く。

ピッ…――ピッ…――ピッ…―



中では無機質な電子機器の音がその部屋の全てのように静まり返っていた。


入ってすぐ目につくベッドには入り口に背を向け横になっている華奢な後ろ姿。

俺は、部屋に入ってきても無反応なその背中に安堵の息をつく。



そして優里が寝てることを確信した俺は、ゆっくりとベッドの傍に歩み寄った。

⏰:11/11/04 07:05 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#339 [ちか]
もう何ヵ月も見ていなかった背中。

相変わらず華奢な腰や腕。



俺はいつのまにか見とれるように、すぐ傍で立ち尽くしていた。



薄暗い部屋にカーテンの隙間から月の光が射し込む。

人工的な金色の髪がその光に照らされてキラキラと美しく光った。


思わず、撫でたい衝動に駆られ、本能が赴くままにその手をそっと髪に伸ばす。

あと2、3センチと言ったところか。
ふいに静かな声が俺の手を止めた。



「…神崎だろ」

⏰:11/11/04 17:20 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#340 [ちか]
「なっ、お前起きて…っ」

伸ばしていた手を咄嗟に引っ込める。
動揺を隠しきれず、声は震えた。

俺の馬鹿!!
だから、さっさと顔見て帰りゃよかったのに!!

内心でこれでもかと言わんばかりに自分を叱咤に、合ってもいない目を泳がせる俺。


それとは正反対に、
俺が入ってきた時と同様、横を向き俺に背中しか見せない優里。

⏰:11/11/04 17:27 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#341 [ちか]
「動揺しすぎだから。」

逆にお前はなんでそんなに冷静なんですか。

そうツッコミたくなる気持ちをぐっと抑え、平然を装い問い掛ける。


「なんで俺だって分かったんだ?」

声が揺れないよう心がけるが、顔はひきつるばかり。
表情のも見えないまま、優里はそんな俺に淡々と答えた。


「あんたの足音、独特だから。部屋の前まで来たのになんで入ってこねえんだろって思ってた。」


…………つ、つまり最初っから気づいてた、と。
そんでこいつの耳は野生児並みだ、と。

⏰:11/11/04 17:32 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#342 [ちか]
気恥ずかしさが沸々と沸き上がり、怒りへと変わる。
今の俺はきっと百面相に違いない。

「き、気づいてんならこっち向いて声の一つくらい…っ!」

そういえば、俺はガキの頃から照れると暴力で誤魔化すタチだった。
咄嗟に伸ばした手を見ながら、ふとそんなことを思い出す。

さすがに患者に暴力はふるわないが、勢いに任せ一度引っ込ませた手を伸ばし、その細い肩をひっ掴んだ。

そしてこちらに向かせようと力を入れる。
すると、なんということでしょう。

華奢な体は見掛け倒し、ではなく、
思った通り、というか思っていた以上にあっさりとその体は体勢を崩した。


そして。

⏰:11/11/04 21:03 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#343 [ちか]
「お、お前…、」

「…ッ見んな、バカ神崎っ!!」


一瞬のことに目を見開いたままこちらに振り向いた優里の瞳にはくっきりと涙のあとが滲み、赤く腫れていた。

驚いた俺はそのまま手を離す。

優里もそれと同時に、またもや俺に背を向ける先程の姿勢に戻った。


あれー…えーっと、
これは一体…

「泣いてんの…?」

「うっせ。」

俺、空気読めてなかった、ってこと?

⏰:11/11/04 21:15 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#344 [ちか]
「や、あの…えーっと、…」

慰めの言葉が出てこない。
そりゃそうだ、何に泣いてるか分かんねえんだから。

でもただ一つ言えるのは、
なんかドキドキしてる俺が居るってこと。

異様な脈の上がりように戸惑い話を繋げられないでいると、優里が先に沈黙を破った。


「俺さ、明日手術なんだ。」

その瞬間、
ドクン、と心臓が跳ねた。

⏰:11/11/04 21:26 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#345 [ちか]
「…知ってる。」


さっきとは違う意味で鼓動が速くなる。
受け止めたくない現実がすぐ傍にあるのに、見たくなくて、でも見なきゃいけないみたいな、そんな時にピッタリの感覚。

アイツが死ぬ間際のあの時も、こんな感じだった。


思いの外落ち着いた声に優里はフッと笑う。

「じゃあ、その手術の成功する確率が40%ってことも知ってる?」

「…ああ。」

「なーんだ、強がる意味無しって感じか。」

一瞬見せた泣き顔とは裏腹におどけてみせるその声が、らしくなくて痛々しい。

⏰:11/11/04 21:39 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#346 [ちか]
「じゃあ、あんたにだけ本音言っちゃおっ かなー。」

ふいに声色が変わる。
陰を帯びた声。
少し震えている。

優里はそう言って上体を起こした。
背中は俺に向けたまま。

月明かりがちょうどスポットライトみたいにそんな優里を照らしていて、なんだか幻想的にさえ思えた。


暫くの沈黙のあと、再び優里が口を開く。


「………ほんとは手術、すっげー怖い。」


それはもうか細くて握り潰せてしまいそうな声。

頭より先に、体が、その震える声に触れようと手を動かしていた。

⏰:11/11/04 21:54 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#347 [ちか]
「…でもさ、」

が、またその手は優里の言葉に遮られるようにして止まった。

「よかった、最後に神崎に会えて。」

何を言ってるのか分からない。
いや、分かりたくないと言った方が正しいだろうか。

「なんだよ、最後って。」

じわじわと上がってくる底知れぬ感情を抑えようとするが、もはや出来ているかは分からない。

しかし優里はそんな俺に聞く耳を持たないようだ。

「もう会えないと思ってたからさ。これも俺が“最後”だから、神サマが仕向けてくれたのかな?なんつって…」

「だから、何言ってんだよさっきから…っ」

「だってもう俺、明日には死ぬかも知れな…、」

「おい…っ」


沸き上がった感情が俺を動かした瞬間だった。

⏰:11/11/04 23:17 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#348 [ちか]
ギュッ…――


気がつけば目の前の華奢な身体を力一杯抱き締めていた。

「かっ…神崎?」

動揺を隠せない様子の優里。
それは俺も同じだった。

バクバクと心臓が鳴る。
こんな密着した状態でお互いの鼓動はうるさいほどに伝わっていた。


俺はまた何して…っ

そうは思うものの、
抱き締めた腕を緩める気にはなれない。


そうか。

もう、そろそろ俺は自分の気持ちに気づかないといけないってことか。

⏰:11/11/05 00:41 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#349 [ちか]
回した腕にポタポタと滴が落ちる。


「なにこれ、俺夢でも見てんのかな?」

ふざけて見せるが、無理しているのがよく分かる声。
俺はさらに回した腕をきつくした。


「……俺が今ここに居るのも、お前が今生きてんのも夢じゃない。」



夢じゃないから…、

「だから、最後とか死ぬとか言うな。」

抱き締めた身体が小刻みに揺れる。

⏰:11/11/05 00:53 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#350 [ちか]
「でも手術の成功率は40%しかないし…ッ」

「40%あれば十分だ。0じゃないなら、そこに望みを賭けろ。俺はお前が明日でも生きてるって確信持って言える。」



そんな根拠何処にある。
しかし、今の俺にそんなこと考える余裕など無かった。


「どっから来るんだよ、その自信…」

「知らん。」

現実味を帯びた質問を適当に受け流す。
これではどっちが大人かわかんねえな。



そんな風に俺たちは
抱き締め、抱き締められたまま小さく笑った。

⏰:11/11/05 01:04 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#351 [ちか]
笑い声に涙の音が混ざる。
儚くて弱々しく。

ふいに部屋は静かさを取り戻した。
それに溶け込むように優里は俺の名前を呼んだ。

「なぁ、神崎…」

「ん。」

「やっぱ俺、あんたのこと好き。」


急なソレに身体がピクリと反応した。
胸の奥が締め付けられる。
絞り出すような声は今にも消えそうなのに、その意思だけがどんどん直球で伝わってくる。

「この何ヵ月会ってなかったけど、ずっとあんたのことばっか考えてた…」

さらに胸の奥が痛む。

「神崎が、好き…ッ」

その気持ちに今、応えられれば

全てはハッピーエンドで終われるのに。

⏰:11/11/05 01:12 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#352 [ちか]
「優里…」


俺はまだ、


「お前の手術が終わったら、」


その気持ちには


「大事な話がある。」


応えられそうにない。
.

⏰:11/11/05 01:17 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#353 [ちか]
「大事な話…?」

掠れた声に俺は頷いた。

「ああ。…だから、絶対生きて帰ってこい。」

「俺はどっかの国に旅立つ勇者かよ。」

可笑しそうに呆れて笑う優里。
しかしその手は俺の腕をしっかりと握って離さない。


「こんな時くらい黙れねえのか、お前は。」

「うるさい。」


そうしていつの間にか互いの鼓動は同じ速さで時を刻んでいた。

⏰:11/11/05 01:23 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#354 [ちか]
'

「約束だ。お前は絶対生きろ。そしたら俺も本当の気持ちをお前に話す。」


「分かった…約束する。」



誓い合う俺達を月明かりが照らす。



そんな夜明けの時が迫る部屋の中で

俺達はお互いにそう誓って

キスをした。

.

⏰:11/11/05 06:03 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#355 [ちか]
静かに口づけたソレを離し、俺は言う。


「生憎朝から仕事で手術まで一緒には居れねえけど、朝までは居てやるから寝ろ。どうせ寝れなかったんだろ。」


向き合って久しぶりに見た優里の目は疲労の色を帯びていた。
きっと手術が不安で眠れない日が続いていたんだろう。

俺の促しに優里は小さく頷くと、起こしていた上体を再びベッドに沈めた。


優里に布団を深めにかけて俺自身もベッドの脇にある椅子に腰掛ける。

「あんま見られると寝れないんだけど…」


恥ずかしげに布団から顔を覗かせる優里にそう言われハッとした。

「…わ、悪い。」


とりあえず謝って目線を外しておくと、ゆっくり沈黙が流れた。

⏰:11/11/05 08:47 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#356 [ちか]
長い沈黙の中、ふいに小さな声が俺を呼ぶ。

「…神崎」

「ん?」

その声はもごもごとして聞こえづらく、なんとか拾おうと身を近づける。
するとさらにそのその顔は赤くなった。

「…………手、握って。」


言うだけ言って優里はパッと布団の中に籠ってしまう。
そんな優里が少し微笑ましくて、俺は笑った。

「はいはい。」

.

⏰:11/11/05 08:59 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#357 [ちか]
暫くして寝息が聞こえ、安心する。
長い睫毛には少年のあどけなさが残っていた。



もう外はいよいよ夜が明けはじめていた。

握っている手にそっと目を落とす。
そして力を込めた。



「気持ちに応える前に、俺もそれなりにケジメつけないとな。」

―――――――…………
―――――………
―――………

⏰:11/11/05 09:09 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#358 [ちか]
夜が明けて朝になり、
握っていた手をそっと離した。

こいつは手術頑張るんだから、俺も仕事を疎かにするわけにはいかない。

「よしっ」

気合いを入れるように声を出し、研究室に戻った。
―――――――――――――――
―――――――――――――――

「先生、さっきからずっと時計見てますけど何か用事でも?」

「あ、いや、まぁ…」

敢えて手術の時間は聞かなかった。
聞いてしまうときっとその時間には病院に戻ってしまうから。

「もう少しで終わるので間に合えばいいですね。」

「…はい」

もう少し、か。
カチカチと一定に時を刻む時計に神経が奪われていった。

⏰:11/11/05 09:22 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#359 [ちか]
俺も意志が弱いっつーかなんつーか…

疎かにはしてないが
集中出来てるわけでもない。

もう何度時計と睨み合っただろう。

知らぬ間に一日の3分の2が過ぎていた。


………―――「では、以上を以てちまして、研究経過発表を終わります。」

そんな言葉と共に締め括られた一日に俺は安堵の息を漏らす。

無事発表も済んだし、このまま病院に直帰だ。

そう思い乱雑な音をたてて席を立った瞬間、ポケットの中で鳴る機械音。

⏰:11/11/05 11:37 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#360 [ちか]
発信元が見知らぬ番号なことに怪訝な顔を浮かべながら、通話ボタンを押した。

「もしもし…」

「あ、先生?!わたしです!ナースステーションからかけているんですが、急ですいません!!」

聞き覚えのある声にいつもの看護婦の顔が浮かぶ。
一体、俺の番号を誰から聞いたのだろうか。


……こんなに焦り電話をかけてくるなんて。

嫌な予感がした。

「どうかしたんですか…?」

そしてこんな時の俺の勘は、

「優里がっ…――」


よく当たる。

⏰:11/11/05 11:46 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#361 [ちか]
病院に着くと真っ先に電話をくれた看護婦が俺を出迎えていた。


「優里に…ッ、優里に何かあったんですか?!」

「…………。」

黙り混む看護婦の肩を力任せに揺さぶった。
取り乱して力の加減も満足に出来ない。

看護婦は揺さぶられたことで我に返ったように口を開く。


「…しゅ、手術は上手くいったんですっ…、でも…」

「でも、なに?!」

もう限界だ。
焦らさず一気に言ってくれよ。
頼むからっ…――

「昏睡状態のまま目が覚めないんです…」


しかし
突きつけられた現実は
拒みたくなるほど冷たかった。

⏰:11/11/05 18:51 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#362 [ちか]
看護婦に案内を受けて急いで優里の居る集中治療室に入る。

そこにはところ狭しと並ぶ精密機器に囲まれた優里の姿があった。

周りには数人の医者と看護婦。


「優里…―っ!!」

触れることも出来ないその名前を何度も呼ぶ。
届くはずもないのに。

「優里、起きろよ!!約束しただろ!?なぁ…優里…―ッ!!」

「先生、少し落ち着いて…っ」

「落ち着けるわけないだろ?!?!」


怒鳴ってどうにかなるわけでもないのに、それでも何かに当たらずにはいられなかった。

⏰:11/11/06 00:15 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#363 [ちか]
「こんなことになるなら…――っ」


こんなことになるならもっと早くに
動けばよかった。

後悔ばかりが押し寄せてくる。
悔しさで唇を噛むと、口内でじんわりと血の味がした。

「…なんで俺は…ッ、俺はッ…!!」

今さらこいつが好きだったなんて気づいてももう遅いのに。

「いつも…―――、」


なぜ俺はいつも、
大事なモノばかり
失くしてから気づくのだろうか。

⏰:11/11/06 00:58 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#364 [ちか]
取り乱す俺を見て周りの人間は何を思うのだろう。

いや、今はそんなことどうでもいい。

今はそう、
せめて今だけは、

「…俺も此処、居ていいですか…。」


コイツの傍に居たい。

もう一度、
アイツが目を覚ますことを祈って。

……………────────────
………──────────
……─────

⏰:11/11/06 01:02 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#365 [ちか]
― 優里side.―


夢を見た。



暗い暗い、

夜みたいな空間の中で


聞き覚えのある声に


何度も名前を呼ばれた。



そんな夢を。…───

.

⏰:11/11/06 01:05 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#366 [ちか]
まるで四次元みたいな其処は

光どころか物体なんて何一つなくて


ただ俺は一人、

必死に声のする方を探している。



でも、
どうしても分からない。

どこから聞こえて、


誰が呼んでいるのか。

⏰:11/11/06 01:07 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#367 [ちか]
座り込み目を閉じると、

もうそこが暗いのかどうかも分からなくなった。


ああ、
俺もう死ぬんだ。


直感的にそう感じ取って
諦めるような乾いた笑いさえ零れる。

約束、守れなかったなぁ

なんて思いながら。


────……あれ、
約束なんて、誰としたっけ…?

⏰:11/11/06 01:11 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#368 [ちか]
その瞬間、

また声が聞こえた。



─────……約束しただろ?!

どこから聞こえてくるのか全く分からないのに、耳はその声をしっかり捉える。


約束…───。


─────……優里っ…!!

この声…───。


そうだ、


俺、神崎と約束したんだ。

生きるって……───ッ

⏰:11/11/06 01:15 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#369 [ちか]
思い出した瞬間、
目の前に一筋、光が見えた。

自然と足がその方向に進んでいく。

どこまで続くのか分からないが、その光は暗い足元をしっかりと照らしてくれた。


…──まるで俺を導くように。


俺は走った。
ただひたすら、その先の何かを信じて走り続けた。

途中何度も諦めそうになったけど
その度にあの声が聞こえて。


そう、あれはきっと、
神崎の声。……──────


そしてその光の果てに着いた時、
光が俺を包み込んだんだ。

⏰:11/11/06 01:21 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#370 [ちか]
「ん…───、」


はじめに目に入ったのは
大きくて筋張った手だった。


意識が朦朧とする中、
それを辿るとその先には

クマだらけの目を見開く、
俺の大好きな人。


「か………ん…ざ…き………?」



気づけば名前を呼んでいた。

⏰:11/11/06 01:27 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#371 [ちか]
「ゆ……う、り……、」

ああ、そうだ。
この声だ。


神崎の取り乱したような声。
聞くのは初めて会ったあの時と、
夢の中でたしか二回目。


クマ、あの日より濃くなってんじゃん。


そう思うと、自然に笑いが零れた。

何故だか涙みたいな滴も一粒零れながら。

⏰:11/11/06 18:51 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#372 [ちか]
装着された酸素マスクが邪魔で声が籠り、話しにくい。


意識もしっかりとするまでもう暫くかかりそうだ。


少ししてたくさんの医者や看護婦が入ってきた。

医者達は驚いた顔で俺を見る。


俺の心拍数や容態を色々調べた後、
漸く酸素マスクが外され口が聞けるようになった。

⏰:11/11/06 21:11 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#373 [ちか]
その間もただ神崎は俺を見つめていた。

まるで俺が起きたのが夢を見てるんじゃないか、なんて疑っているような顔で。


とりあえず、今はもう落ち着いているから安静にと一声かけてまた医者達は部屋を出ていった。

再び、部屋の中は俺と神崎の二人。


「神…崎、俺、約束守ったよ。」


そう言って笑って見せると、
その顔はますます複雑になった。


そして、

「ふ……っざけんな!!!!!」

いきなり怒鳴られた。

⏰:11/11/06 21:17 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#374 [ちか]
なんで怒鳴られてるのか。

そんなにも泣きそうな顔で。


言葉の意図がさっぱり分からず、目を白黒させていると、神崎は吐き出すように言った。




「四日間…っ、四日間だ、お前が昏睡状態から目が覚めるまで……ッ」

.

⏰:11/11/06 21:25 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#375 [ちか]
「え…」

気づかないうちに俺はそんなに眠っていたのか。
信じられずにまだ何も言えない俺はただ神崎を見た。

神崎の表情が切なくなっていく。
この人はそういう人なんだ。
照れる時、悲しい時、すぐ怒って誤魔化す。
表情と裏腹な態度で。


神崎は力が抜けたようにベッドの脇にしゃがみこんだ。

「心配させやがって…。」

「…ごめん。」

なんだかその顔を見ていると、俺まで胸がぎゅっと苦しくなった。

⏰:11/11/06 21:31 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#376 [ちか]
口調からは考えられないほど優しく、神崎は俺の髪を撫でる。
そんな神崎を見上げる俺。
無意識に言葉が零れる。


「もしかしてずっと傍に居てくれてた…?だからそんなクマだらけで…」


そう言って神崎の顔にそっと触れると、すぐに顔が赤らんだ。

「うるせ…。」

照れる神崎が珍しくて、無償に愛しく思えた。

⏰:11/11/06 21:40 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#377 [ちか]
そのまま俺の口からは次々と言葉が溢れ、饒舌になる。


「でも約束守ったことには変わりないだろ?聞いてもいいよな、大事な話ってやつ。」


急かすような目付きで神崎を見つめると、神崎はぐっと眉根を潜めた。

ずっと気になっていた神崎の言う、“大事な話”。…───

はやく
はやく聞かせて。

そう促すように神崎の服の袖を掴む。
が、神崎は厳しい顔をした。

「……バカか。まだ完全に回復したわけじゃねえだろうが。話は完全に体力が回復してからだ。」

「はぁ?俺もう大丈…」

「黙って寝てろ。」

どうも、神崎はつくづく照れ屋らしい。
仕方ない、話を聞くためにもはやく回復してやろう。

俺はそう納得して笑った。
───────────………
────────………
──────……

⏰:11/11/06 21:54 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#378 [ちか]
― 陽平side.―


昏睡状態が続いたのは四日間。

諦めたくなくて研究なんて投げ出して常に優里の傍から離れなかった。
いや、離れたくなかった。


精密機器の中で音を刻み、
画面上で辛うじて動く心拍数に何度も祈りを込め続ける。


そして四日目の昼、
漸く優里が目を覚ました時には、奇跡が起きたと思った。
その拍子に全身の力が抜けて、なんとも言えない感情が込み上げてくる。


そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、
相変わらず少し生意気な優里は
俺の言う“大事な話”を催促した。


しかし俺は回復してからだと固く口を結ぶ。
そんな俺に少し不貞腐れた優里さえ、今は愛しく思えた。



どうであれ、優里は約束を守った。
今度は俺の番だ。
コイツが回復したらちゃんと言おう。


金色の髪を撫でながら、俺はそう決心した。


……の、だが。

⏰:11/11/06 23:23 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#379 [ちか]
「うそだろ?」

「ウソじゃねーよ。」

「まだ1週間も経ってないのに?」

「あー、そう言えば、なんか奇跡的な回復力だって言われた。」





正直、
この野生児の回復力を見くびっていた。

⏰:11/11/06 23:27 📱:Android 🆔:Onz7Ylgk


#380 [ちか]
優里が目を覚ましてから6日目。

優里はみるみる元気になっていった。
6日目の今日には、もうピンピンしてる。

これが本当にほんの何日前まで昏睡状態だったのかと思うと、不思議で仕方ない。


なんか拍子抜けと言うか、なんと言うか…



俺はため息をついてフラリとドアの方向に足を向けた。

するとそんな俺に向けられる噛みつくような声。

「ちょ、神崎っ!!どこ行くんだよ!!逃げんのか?!」


喧嘩でも吹っ掛けてきそうな台詞に思わず吹き出しそうになった。
それをグッと堪えて顔だけ振り返る。


「外出許可貰ってくるだけだ、バカ。」


そろそろ俺もはっきりしないと、な。

⏰:11/11/07 23:03 📱:Android 🆔:YQF1SW5s


#381 [ちか]
────────────────────────
────────────────…………
──────────………


「すっげー!!きれー!!」

「はしゃぎすぎんなよ。」

「わーかってるって!」


外出許可を半ば押しきる形でもらい、車を走らせること一時間とちょっと。


着いたのは、

「でも俺、海なんか見んの何年ぶりか分かんないからさ!なんか感動!」


2月ではまだ肌寒い冬の海。

⏰:11/11/07 23:57 📱:Android 🆔:YQF1SW5s


#382 [ちか]
「うわーまじ綺麗!」

そう言って目をキラキラさせながら海に近づいていく優里の背中を眺めながら、俺は一人考えていた。


本当のことを、本当の気持ちを話すなら海(ココ)がいい。
そう思って何日か前に来ることを決めた。

桜がまだ蕾のままなちょうど今と同じ季節、そして自分の過去、消せない約束と思い出。


すべてが最後には海に詰まっている気がして。

俺は結んでいた口を開いて優里に話しかける 。



「昨日、離婚届書いて日本(あっち)に送った。」

⏰:11/11/08 01:07 📱:Android 🆔:9R3No4Oc


#383 [ちか]
その瞬間、さっきまでキラキラと輝いていたその瞳に不安の影が宿る。

振り向いた優里に俺は宥めるような口調で言葉を繋いだ。


「安心しろ。別にお前のせいじゃない。」


そう、コイツのせいじゃなく
約束に依存してきた俺に対して
至って自業自得なことなのだ。

それでも少し眉をさげる優里に俺は苦笑いする。

「……ていうか、正直、はじめから好きだったのかどうかも分からない。」


こんなことを言うのは最低だと自分でも思う。
しかし、それが事実なのだから仕方ない。
コイツにはすべてを言うと決めたから。

⏰:11/11/08 08:13 📱:Android 🆔:9R3No4Oc


#384 [ちか]
優里はますます分からないと言った表情で小首を傾げた。

「じゃあ、なんで結婚したんだよ?」

なんで、か。

そこにはやっぱり、あの約束があるんだよな。

俺は静かに話始めた。

「好きだった人と約束したんだよ。…幸せになるって。」

あの頃のすべてを。

⏰:11/11/08 08:17 📱:Android 🆔:9R3No4Oc


#385 [ちか]
「まだ研修医だった頃なんだけどな。患者に惚れて、ちょうど今のお前みたいに、俺もそいつしか見えてなかった。」

自嘲気味にそう言って笑うと、優里も恥ずかしがるようなバツが悪いようなそんな顔をする。

その時、ゴォッと一瞬、突風が吹いて寒さが増す海の浜辺。
冷えすぎてはいけないと、海に近づきすぎな優里を手招きしながら話を続けた。


「でもそいつ癌の末期患者で。余命数ヵ月って宣告されてて。知り合って一年も経ってなかったけど、もうヤケクソで告白したよ。」

そう、
ちょうど今のお前みたいにな。

敢えて言わなくても分かるだろう、と思い口にはしないが。

「へ、返事は…?」

ちまちまと歩み寄ってくる優里に俺は笑いかけた。
穏やかに笑えているだろうか。
ここからは思い出しただけで胸が軋む。

⏰:11/11/08 18:26 📱:Android 🆔:9R3No4Oc


#386 [ちか]
「いや、あっさり振られた。ていうか相手にされなかったかな。先生は医者で自分は患者だ、って言い張って、はじめは取り合おうともしなかった。」

「はじめは?」

あれま、勘のいいヤツだ。
俺の言葉の意図をちゃんと掴んでいる。
敢えて聞き返されると、もう顔は笑えてなかった。

「何度も何度も懲りずに好きだって言ってるうちにとうとうそいつの余命も残り一ヶ月になってな、そしたらそいつがポロッと言ったんだ。
“もう長くない人間と一緒になったって先生が不幸なだけだ”って。
なんかもう悔しくて、俺があんたを治すって言い張って、でもそんな俺にあいつはただバカだな、無理だよって笑ってたよ。
今考えたら、酷な話だよな。
患者本人の口から、無理とか治らないとか言わせるなんて。」


頭の中では
ちょうどまだ蕾の桜の木の下で悲しげに笑うあいつの顔が浮かぶ。

⏰:11/11/08 18:40 📱:Android 🆔:9R3No4Oc


#387 [ちか]
しかし、“終わり”というのは不条理なもので。

どうしても“思い”より先に来てしまうんだ。
だから涙が止まらなかった。
気持ちだけ置いてけぼり喰らって、もうすぐ傍には別れだけが冷たく待っている。


それは医者を志す人間にとっては極当たり前のことでも、日常的なことでも、その時の俺にはとても堪えられることじゃなかった。


気づけばもう少しで綺麗な桜が見れそうな季節だった。
──────……あいつが、息を引き取ったのは。



「でも暫くして様態が急変した。
駆けつけた時には、すぐにでも消えてしまいそうな浅い呼吸でさ、ああ、これで終わりってやつなのかって思ったよ。
それで俺の顔が真っ青だったんだろな。うっすら目開けたそいつに、どっちが患者だか分かんないって、息も途切れ途切れなのに宥めるみたいに言われて、情けなくなった。俺、なんで今何も出来ないんだって。…───」

すっかり目の色を暗くした俺を、優里は心配そうに覗きこむ。

俺はそんな優里の頭をそっと撫でた。

⏰:11/11/08 19:00 📱:Android 🆔:9R3No4Oc


#388 [ちか]
精密機器の音も段々聞こえないくらい、俺は周りが見えなくなった。

名前を呼んで辛うじて反応が見える程度と言ったところだろうか。


「ただ泣きそうな顔で見つめる俺に、そいつは震える手から自分がいつもつけてたネックレスを出してきた。
そんで言ったんだ。
“先生はちゃんと、素敵な人と幸せになって”、“コレ持ってたらきっと幸せになれるから。約束だよ。”って。…───」


そして俺がその手から零れるようにそれを受け取った瞬間、何か火でも消えたように静かに終わった。

あいつの人生。あいつの命が。


鮮明に今でも覚えている。
最後に見せた、精一杯の笑顔が。

⏰:11/11/08 19:15 📱:Android 🆔:9R3No4Oc


#389 [ちか]
「うそ…」

優里の目の奥が揺れる。
敢えてその目をすぐにそらして話を繋げた。


「それから、もう人を好きになれなくなった。
失うのが怖くて消したんだよ、感情を。
でも律儀に“約束は守らないと”っていう自分が居て、そんな時今の妻を紹介された。
それで普通に付き合って、普通に結婚して。
だけど、好きだったかって言われると分かんねえ。おかしな話だよな。そんな暮らしが2年くらい続いたんだけど、カナダ(こっち)へ研究に来る前日に、離婚届突き出されたよ。好きな男が出来たから別れてって。」


ザブンザブンと波の音が聞こえる。
自嘲気味な俺の笑いは拐われるように消えた。

チラリと優里を見るとこれまた複雑そうな顔で。


聞かせる方が酷な気さえする。

⏰:11/11/08 19:32 📱:Android 🆔:9R3No4Oc


#390 [ちか]
「普通ならショック受けるんだろうけど、なんか俺納得出来ちゃってな。
やっぱ俺に人好きになることなんかもう無いんだろうなって思ってた。
でもやっぱりあの“約束”が気になって、こっちに来てからも離婚届にサイン出来ないでいた。
必死に“一般的な幸せ”を維持しようとしてたんだよ。
そんな時に、会ったのがお前。」

「……─────っ」


急に話の矛先が自分に向けられたことに驚いたのか、一瞬その体がピクリと跳ねる。


そして構えるような目線を俺に向けた。
そんな優里に俺は容赦なく言い放つ。


「正直、最初はお前のこと嫌いだった。」

⏰:11/11/08 19:42 📱:Android 🆔:9R3No4Oc


#391 [ちか]
その瞬間、優里はひっぱたかれたような顔で俺を見る。

「なんだよ、大事な話ってそれ?!嫌いなら嫌いって言えよ!!」

カッと熱くなる顔に苦笑いした。
やっぱり昔の自分に似てるな、なんて思いながら。

「話の途中だろうが。最後まで聞け。」

宥めるように言うと、大人しくなった優里にため息に近い白い息を吐きながら続ける。


「でも、何度も懲りずに言われるうちになんか胸の奥が揺さぶられるみたいな感覚になった。
最初はそれもただの苛立ちだろうって思ってたんだけど、お前があの金髪の友達と仲良くしてるのを見た時は正直妬いた。」


あの日ベランダから見た二人の影が重なる姿がフラッシュバックした。
あの時のどうしようもない苛立ちは、好きが故のことだったのだと今になって思う。



「妬いたって…、俺ケンとは別に…」

「お前がなんとも思ってなくても、相手がそうとは限らない。」

あの夜、襲われてる場面に遭遇した時がそれを示している。

優里は遮られた言葉を続けることもなく、俯いた。
襲われた夜のことを思い出したのだろう。

⏰:11/11/08 21:35 📱:Android 🆔:9R3No4Oc


#392 [ちか]
そんな優里の頭を乱雑に撫で回した。
まるで、忘れろとでもいうように。

自分も似たようなことをしておきながら。

俺自身も優里を弄んだあの夜に苦い顔をしながら、さらに言葉を紡ぐ。


「でも気づかないように気づかないようにしてた。障害が多すぎんだろって。
これじゃ、約束は果たせねえって。」


どこまでも約束に囚われて
約束に固執する俺。

あいつはそんな俺を望んでいたのだろうか。
そんな俺を繋ぎ止めるための約束だったのだろうか。


いや、

「なのに、手術前日の夜だよ。…どうしようもないくらいお前に惹かれてる自分に気づいたのは。」


きっと、違う。

⏰:11/11/09 01:43 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#393 [ちか]
気づけば細い肩を抱き締めていたあの夜。

泣き顔にさえ、ドキンとしたあの夜。

もう気づいてないフリは出来ないと悟った、あの夜。…───


「俺、お前に実は相当ハマってるみたいだわ。」


そして、ふぅ、と一息ため息をついた。
言い切った安堵とも言える。

いや、正確には、まだ言い終えてはいないのだけれど。

そんな俺とは裏腹に優里は不安げな顔で俺を見つめる。
なんでだよ。
もっと喜ばないか?普通。

そう思ったのも束の間、優里は重苦しい口を開いた。

「でも、…俺とじゃ“約束”は守れないんじゃねーの…?」

その表情がたまらなく愛しい。

⏰:11/11/09 12:44 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#394 [ちか]
「だから、ココに連れてきたんだよ。」

「え…?」

優里の目を真っ直ぐ見据え、そう呟く。
親指で海を指しながら。

「あいつ、この海のどっかで眠ってるから。」


この青くて綺麗な海のどこかに、

白い灰となって。


ますますよく分からないと言った顔をする優里に、俺は付け足した。

「散骨ってやつ。あいつの遺言にそう書いてあったんだよ。もちろん、撒いたのは日本でだけど。でも海はどっかで繋がってると思うから、たぶんあいつはここにも居る。」


だから

俺は最後の挨拶と礼をこめて

ここに来たんだ。

⏰:11/11/09 12:55 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#395 [ちか]
あんなにすがりついていた約束を
あんなに執着し続けていた約束を、

裏切っても言いかもしれないなんて思ってしまったことは奇跡かも知れない。

それなら、
その奇跡に“幸せ”を願ってみても悪くはないだろうか。

もちろんこいつが拒むならそれを優先する心の準備はある。
病気も治った未来ある少年をたぶらかして引きずるようなことはしない。


だけど、

「最後に言っとく。俺はもう30だ。冗談でした、とかなんとか言って逃げるなら今が最後のチャンスだぞ。」


この嵐みたいに何もかもを巻き込んで離さないようなこいつには、


「…っぐ、言わねえ…よッ、グスン、俺はあんたしか…あんたしか見え…てねえんだ…から…────っ」


そんな心配は意味を成さなくて。

俺はそんな優里にどんどん嵌まっていく。

⏰:11/11/09 13:07 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#396 [ちか]
なぁ、
海の中のお前は

そんな俺を許してくれるか?


「グスっ、…神崎こそ、本当に俺で良いのか…?」

いつの間にか涙の膜が決壊した優里が揺れる瞳で問いかける。

そんな優里に俺は微笑んだ。


「お前が良い。」


⏰:11/11/09 13:12 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#397 [ちか]
そして
きつく抱き締める。

離さないように。
離れないように。


「くる…し…、神崎っ」

「これくらいで?ああ、お前、華奢だもんな。」


頭の中に浮かぶ約束の言葉。

今さら、都合よく取ってしまいそうだ。

あいつの言う、“素敵な人”ってのは、こいつをさしてるんじゃないか、なんて。
素敵という言葉の不釣り合いさに少し笑いが込み上げる。


ザーッ…と音を立てて、
押しては引いてゆく波の中ににあいつの姿が浮かぶ。

まるで本当にそこに居るかのように、あいつの声が何故だか聞こえた。


“意地張ってないで、あたしの分まで幸せになってね”

⏰:11/11/09 13:20 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#398 [ちか]
そして、抱き締めた体勢から俺の顔が見えないように優里を胸にしまい込むと、自分にしか聞こえないくらいの声で小さく呟いた。


「………ありがとう。」



案の定、

優里は聞こえてないようだ。

その代わり、心臓の鼓動ばかり速くなっていく。

⏰:11/11/09 13:23 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#399 [ちか]
もう
“普通の幸せ”なんて望めないかも知れない。

でも、それでもいい。


「か、神崎…」


だって俺は


「ん?」


“嵐”にのまれることを望んだのだから。




「………大好き」

⏰:11/11/09 13:27 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#400 [ちか]
これから先、どんな障害があるか分からない。


でも、コイツとなら

なんとかやっていける気がする。

いや、むしろ面白そうにさえ思えてくるから不思議なもので。


「………知ってる。」

夕陽でキラキラと水面を光らせる海を背に、顔を赤らめ今にも爆発しそうなそいつへ俺はそっと口づけする。
そして耳許で囁いた。



「俺も、好きだ。」

こんなことを言う俺はらしくない。
狂ってるかもしれない。

だけど、どうせもう引き返すことなんて出来ないんだ。

そらなら、いっそ、とことん飲み込まれてやろうじゃないか。



お前という嵐に。…────



   ― 第十二話 e n d ―

⏰:11/11/09 13:40 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#401 [ちか]
*おまけの話。




「めえーぐうーるう〜っ」

「うわ、なんやねん、顔パンダやで?!もう…、はいティッシュ。」


ここは

大阪、椿邸。


「ティッシュじゃなくてハンカチがいいー!!」

「はいはい…」


一番上の姉貴が東京から急に帰ってきたかと思えば、この有り様。

正直、訳が分からへん。

⏰:11/11/09 13:45 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#402 [ちか]
俺の把握してる状況といえば、帰ってくる直前に携帯へ来た、一本の電話の内容くらいで。


それも…


『もしもし、めぐる?あたし。
陽平と離婚した。
他に好きな人が出来たの。あ、パパにはもう言ってあるから大丈夫。もうすぐ家着くから、あんたは家でお姉様を待ちなさい。じゃあね。』



唐突というか、なんというか。


冷静な声やったから心配こそしてなかったものの、帰ってくるなり泣き出す長女、楓(29)。

「なんやねんな、急にぃ。」

事情が掴めずの弟こと俺、めぐる。

⏰:11/11/09 13:54 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#403 [ちか]
「だってぇ〜…グスッ、うっ…」

東京での生活がすっかり長い姉は、いつの間にか関西弁も抜け綺麗な標準語。

そんな姉の頭を撫でながら問いかける。
昔から、姉二人に甘やかされて育った分、そんな姉達の傷心を癒すのも俺の役割だった。

しかし、まさかこの歳になってもこうする日が来るとは…


女医としての姉しか知らない人間から見たら、とんだギャップだろう。
普段完璧キャリアウーマン気質な姉が泣き顔見せるのなんて、弟の俺くらいなのだから。


すっかり目が真っ赤(+真っ黒)な姉に、俺は言った。

「だいたい、好きな人出来て別れたんやろー?なんで姉貴が泣くねん。泣きたいのは陽さんの方ちゃうん?」

陽さんこと陽平さんは姉の旦那(元になるのか)で、親父が院長をつとめる病院の医者だったりする。

可哀想に、陽さん…

⏰:11/11/09 14:02 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#404 [ちか]
そんな何も知らない無神経な俺の言葉に、姉は捨て犬のような目をして、俺を見つめた。

「でも陽平以上の人なんて居ないもん…」

29にもなって、語尾が“もん”て…
半ば呆れつつ、俺は口調を優しめに改める。

「じゃあなんでそんな浮気みたいなんしたん?」

「だって…」

ゴニョゴニョと聞こえづらい声を聞き取ろうと前屈みになった。

「そうでもしなきゃ、陽平気づかないんだもん、自分に。」

「は?」

やっと聞こえはしたものの、言葉の意味がわからず頭の中は“?マーク”でいっぱい。

⏰:11/11/09 14:09 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#405 [ちか]
そんな俺に姉は見限ったように言い放った。


「とにかく、大人の事情なんだからめぐるは聞かなくていいのー!お姉様の介抱だけしてればいいのーっ!!」

まったく、この姉は…

はいはい、と言いながら今日の予定を全キャンセルして姉に徹することに予定を変える俺。

なんて優しい弟なんや、俺は。

そんな風に自画自賛してる時、ふいに姉が呟いた。


「あんたは良い人見つけなさいよ…。あんただけを見てくれる人を…。」

突然のことに目を丸くした。
俺の彼女なんて、イジメ倒してやるが口癖のブラコンな姉がそんなことを言うものだから。

しかし、その発言から俺が連想するのは、

(凌…。)


だったりする。

⏰:11/11/09 14:15 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#406 [ちか]
もうそっからは頭の中が凌だらけで、姉の話などまるで頭に入らない。

その間にも姉はぺらぺらと女の子ってのは、なんてことを語りだしている。


「そうねー、料理できて教養があって、あ、音楽が出来る子がいいわね、繊細そうな…」

姉の勝手な嫁像も全く耳に入ってない俺。
そんな俺を見てもの足りなさそうに膨れたかと思いきや、姉は閃いたと言わんばかりに顔を明るくした。

そして、

「あ、凌くんピッタリかも!!」


突拍子もないことを言う。

⏰:11/11/09 14:20 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#407 [ちか]
思わずブッと吹き出してしまう。

「な、なな、なに言ってんねん!!!///
凌は男やんか!?!?」


慌てて取り乱す俺に、姉はさっきまで泣いていたのが嘘のようにイタズラな笑みを剥けた。


「やーだ、“女の子なら”ってことよ、凌くんが♪もったいないわよね、あんな綺麗な顔で男の子なんてー」


人の気も知らないで、そんな呑気なことを言う姉に俺は困り果てたような笑顔を返す。




ほんま、心臓に悪いで姉貴…

⏰:11/11/09 14:25 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#408 [ちか]
それでもなぜだか意識してしまい、顔が赤らむ。

俺は、そんな自分が恥ずかしくて姉から離れた。

やっぱり予定、再変更。
姉貴から逃げる。

そう思い、立ち上がったが時既に遅し。

「だめ!めぐるは今日わたし専用!」

「わっ、もう、危ないから!俺の可愛い顔がこけて傷ついたらどうするん?!」

「だーいじょうぶよー、そしたらお姉様が綺麗に縫ってあげる♪」



あー、そうえばこの人はこんな人やったよな。

俺は一人黄昏るように遠い目をした。

⏰:11/11/09 14:29 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#409 [ちか]
なにはともあれ、

離婚からの傷心で帰ってきた姉に少し元気が戻ったみたいでよかった。

今度、東京行くときは手土産もって陽さんのところに謝りにいこう。
姉が迷惑かけました、と。



そんなことを思いながら、俺は姉がしがみける腕をほどいた。

「わかったからー、今日だけやからな?」



結局、甘い俺。
なんだか疲れたのか全身の力が抜けた。

そうだ、こんな日は凌に電話しようかな。

姉が俺の嫁にしたがってる、って。


あいつ、どんな顔するかな?
俺と同じように照れればいいのにな、たまには。
なーんちゃって、な。


   ― おまけの話 e n d ―

⏰:11/11/09 14:35 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#410 [ちか]


>>92-254 第十一話 嵐、再び

>>255-400 第十二話 夜明けの約束

>>401-409 *おまけの話。


▼感想板
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4220/

優里×陽平 編、やっと終わりました!(*^^*)
珍しくいいペースで更新できた気がします(笑)
久しぶりの新キャラ、陽平はどうでしたか?
二人のこれからとめぐる家と陽平の意外な接点に期待してください♪

感想、コメ、雑談、なんでも待ってます!
感想板で裏話もする予定なのでぜひ感想板に遊びに来てくださいね(^o^)/


⏰:11/11/09 14:45 📱:Android 🆔:/zp5pGog


#411 [ちか]



第十三話 初恋


⏰:11/11/11 21:18 📱:Android 🆔:ybUdOCh.


#412 [ちか]
断る時の言葉なんていつも決まっていた。


「あの、…ずっと好きでしたっ///」


常に本当のことは隠したまま。
ただ、少しの笑顔と詫びる素振りを見せて。
口調はやんわりと。



「気持ちは嬉しいけど俺、今部活以外興味ないから。ごめんな。」


そうすれば、ほら、

誰も傷つかない。

⏰:11/11/11 22:37 📱:Android 🆔:ybUdOCh.


#413 [ちか]
─────────────────………
──────────────……
──────────…

「うわ、はやく着きすぎた。」


携帯のディスプレイを開けば、約束の時間より20分程早い時刻が表示されている。

自覚が無かった分、思わず驚きから独り言が漏れた。


息を吐けば白く濁る正月気分の抜けない街を目の前に、俺は駅の改札口で一人、待ち人を待つ。
頭1つ分背の低い、幼馴染みの日下冥を。



ごった返す駅の中、
寒さに耐えられず俺は顔をマフラーに埋めた。

すると、ふいに見覚えのある人影が隣を通った。

⏰:11/11/11 22:47 📱:Android 🆔:ybUdOCh.


#414 [ちか]
その人影は俺を通り越し、斜め前の柱にもたれ退屈そうに俯く。


黒髪のさらさらと揺れるショートヘアに、
色白の肌。
淡白だが、整った顔立ち。


あれは、そう、確か…


( 瀬野(セノ)…? )



過去一度だけ作ったことのある、

まさしく初カノ。

⏰:11/11/11 22:53 📱:Android 🆔:ybUdOCh.


#415 [ちか]
咄嗟に顔をマフラーに埋めたまま、少しそらした。


気まずい、
という表現が正しいのかどうか分からない。
あの頃からなんら変わらない凛とした姿勢。




少し、苦手だったりする。

⏰:11/11/11 22:56 📱:Android 🆔:ybUdOCh.


#416 [ちか]
その時、急にポケットで震えだす携帯。


来たメールを開いた途端に、苦笑いがこぼれた。

from:冥
Sub:No title
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ごめん、ちょっと遅れる!

   ‐ e n d ‐


こいつのちょっとは、
ちょっとじゃ済まないな。

そんなことを悟ることが出来るのは付き合いが長いから。

俺は適当に返事を返し、再び閉じた携帯をポケットにしまい込んだ。


斜め前には、時計と睨み合う瀬野の姿。

瀬野も人待ちか。


自分と同じように柱にもたれたその姿を見ているうちに、俺の記憶は遡っていった。


最初で最後の彼女となるであろう瀬野と付き合い始めた中学二年の夏に。……─────

⏰:11/11/11 23:31 📱:Android 🆔:ybUdOCh.


#417 [ちか]
昨日まで手繋いでた幼馴染みも色恋に目覚め、急に意識しはじめて手が繋げなくなる、そんなお年頃。

中学に上がれば頭の中はすっかり浮かれ調子で、それは学年があがるごとに増していく。

そんな中学生達を俗にマセガキとか中二病とか言うらしい。


もっとも、

「とおる〜!」


「んー?どしたー?」


俺たちには特に関係もない話。

⏰:11/11/12 11:38 📱:Android 🆔:Cz0jqLjU


#418 [ちか]
「D組のかおりちゃん、透のこと好きなんだって!どうする?」

「どうするって…。なんで冥がそんなこと知ってんの?」


なぜなら、


「え?なんか伝言頼まれたからさー、かおりちゃんとその友達に!で、返事は?」

「…ふーん、部活以外興味無いからごめんって言っといて。」

「透変わんないよな〜、昔っからそうやって断ってばっかじゃん。」

「お前も、万年俺の伝言役だよな。」




お互い色恋にも先輩風吹かすことにも興味がないからだ。

⏰:11/11/12 11:46 📱:Android 🆔:Cz0jqLjU


#419 [ちか]
休み時間でガヤガヤとうるさい教室内に、鈍い音と短い悲鳴が鳴る。

「い゛っ…、殴んなくてもいいだろ?!」

「透が一言多いからじゃん。」

俺より頭1つ分くらいは裕に低い身長のくせに、殴る力は一人前な俺の幼馴染み、冥。

そんな冥が痛がる俺をよそに、不服そうな目で俺を覗き込んだ。

「でも、なんでみんな断ってんの?この前のミキちゃんなんか、超可愛くて有名じゃん。後輩も先輩もお前のこと羨ましがってたよ?」

悪気もなくそう問いかけてくる冥に、思わずため息をこぼしそうになったのをぐっと飲み込んで、俺は毎度の理由を語ろうとする。


が、


「だから、部活しか興味な…」

「俺にウソは通用しませーん。」

じゃあ、
どうしろって言うんだ。

⏰:11/11/12 11:57 📱:Android 🆔:Cz0jqLjU


#420 [ちか]
ひとの気も知らないで。


「女の子達は騙せても俺は騙せないよ?だって透、断るときいっつも嘘ついてますーって顔に書いてるもん!ま、俺にしか分かんないだろーけど?」

「あー、そうですか。さすが幼馴染みですね、なんでも分かっちゃうとか冥くんすごーい。」


えっへん、という効果音がぴったり合うような態度の冥を、心の中の動揺を隠しながら軽くあしらい、窓の外に目を向ける。

その隣ではそんな俺の態度に不満なのか膨れ上がる冥が何やらブツブツ呟いていたが、知らないフリ。



だってコイツが悪いんだ。

俺が告白を断り続けている本当の理由なんて聞いてくるから。

⏰:11/11/12 17:57 📱:Android 🆔:Cz0jqLjU


#421 [ちか]
膨れ上がる冥を窓越しに見つめながら思う。



本当の理由(コト)を言えればどんなに楽だろうって。


本当の理由(コト)を言えば、


コイツはどんな顔をするんだろう、


って。

⏰:11/11/12 18:26 📱:Android 🆔:Cz0jqLjU


#422 [ちか]
俺は

この幼馴染み、日下冥が好きだ。


いつからかなんてもう分からない。

気がつけばもう遅かった。




男同士なのにそれでもコイツが
好きで、好きで、好きで、

他のヤツなんて目に入んなくて。



苦しい。

⏰:11/11/12 18:35 📱:Android 🆔:Cz0jqLjU


#423 [ちか]
胸が苦しい。

だって、俺が好きになったのは
紛れもない男で。

華奢で
女みたいな顔で
声もまだ少し高くて
そこらへんの女子より可愛くても

冥はレッキとした男で。


恋心を抱いたところで
どうしようもない。


叶うことはもちろん、
告げることさえもきっと出来ない。

この先も、ずっと。……──────

⏰:11/11/12 19:28 📱:Android 🆔:Cz0jqLjU


#424 [ちか]
中学に入った途端にモテだした俺は、もうどれくらい断ったか分からない。
俺が冥に向けるような、小さくて淡くて熱い感情を。

この感情を忘れるために
適当に彼女を作ろうとしたこともあった。


取っ替え引っ替えに彼女でも作って、
適当に愛だの恋だのぬかして、
この感情を消して、
グチャグチャに塗り潰してしまえば
きっと楽なんだろう、

って、何度も何度も思った。



でも、俺には出来なかった。

冥に幻滅されたくない。
冥の傍に居たい。
冥に、友達としてで良いから好かれていたい。
そして何より、
冥に誤解されたくない。
俺の一番が冥以外の誰かなんてそんな誤解をされたくなかった。


そう思うとどうしても、
彼女なんて作る気は到底起こらなかった。

⏰:11/11/12 19:42 📱:Android 🆔:Cz0jqLjU


#425 [ちか]
それと反比例するように
断れば断るほど、とにかくモテた。
それはもう、俺のモテ期はここで終わるんじゃないかってほどに。
まぁ、実際は高校になってもさほど変わり無い調子でモテているが。


なんでも、女子達はこう俺を噂する。

「クールなとこがいい」

そんな意識、した覚えがない。

「みんなの蓮見くんって感じでいい」

俺は物じゃない。

「あの爽やかな笑顔で断られると、もっと好きになっちゃう。」

作り笑顔って怖いな。


冷たくあしらってるつもりなのに、どうしても告白されると傷つけないように優しく接してしまうんだ。

きっと、自分に透過してしまっているのが原因だろう。


俺に叶わない恋をしている相手に、
冥に叶わない恋をしている自分を重ねて。

⏰:11/11/12 21:55 📱:Android 🆔:Cz0jqLjU


#426 [ちか]
そんな俺の葛藤を知らずに、
俺の伝言役なんか務めちゃう冥が
愛しさ故に、憎たらしい。

「あ゛ぁあ゛〜〜!!!!!もうっ〜!!!!」

「な?!透、なに急に?!そんなに頭(殴ったとこ)痛かった?!」


憎たらしいけど

それでも

大好きで。


「ちげーよ、バカ!!」

「バカ?!バカって言った方がバカだし!!」


そして
何も出来ない今に至る。

そんな頃だ。

瀬野が現れたのは。

⏰:11/11/12 21:57 📱:Android 🆔:Cz0jqLjU


#427 [ちか]
それは昼休みだった。

いつものように、冥と昼飯を食っていると廊下側のクラスメイトに茶化すような声で名前を呼ばれた。

「蓮見ー、お前に用事だってー!」


そう呼ばれれば、目の前のコイツは興味津々と言った顔で、廊下に立つ見えない女子の姿を覗こうと背筋を張る。

そんな姿に思わずため息をついて、俺は席を立った。


その時は、
昼休みに呼び出すなんてまためんどくさいことをしてくれるな、とかそんな風にしか考えていなかったのに。


まさかこんな事になるとは。


「えーっと、…用ってなに?」

サラサラの黒髪ショートヘア。
色白な肌にシンプルで整った目鼻立ち。
なんか、見たことあるんだけど、…誰だっけ。
少なくとも目立つグループの女子じゃないよな。


そんなことをグルグルと考えながら適当に笑いかける。


「ここじゃちょっと話しにくいから、屋上行きたいんだけど、いい?」

が、一瞬で分かる。
この子、俺の苦手なタイプだ。
だって目の奥が俺と似てる。

⏰:11/11/12 23:11 📱:Android 🆔:Cz0jqLjU


#428 [ちか]
言われるがままう頷いて、屋上に向かう二つの足取り。

「屋上って締め切ってなかった?」

「あたし合鍵持ってるから大丈夫だよ。」

「へえ…」


合鍵なんて、どこから手に入れたんだ?
ますます読めない人間だ。

警戒心からか眉間に皺がよる。

そうこうしているうちに屋上に着き、本当に持っていた合鍵でいとも簡単に扉を開ければ、夏だけに少し暑苦しいがきれいに晴れ渡った空が広がった。


「さっそくなんだけど、」

実のところ屋上には来たことがなく、そのインパクトの大きさに魅了されていると、よく通る凛とした声が話を切り出す。

⏰:11/11/12 23:18 📱:Android 🆔:Cz0jqLjU


#429 [ちか]
そこで我に返った俺は曖昧な相づちを打ち、続きを促した。

それに対してニッコリ微笑む彼女。

「あたし、E組の瀬野麻美(セノ アサミ)。分かる?」

「……や、ごめん分かんない。」

E組なら分からなくても無理は無い。
俺や冥はA組で、AとEは廊下の端同士なのだから。

俺の返事に瀬野も、だよね、と笑う。
そしてニコっと微笑み直し、続けた。


「あたし、蓮見くんのこと好きなんだ。付き合ってほしいの。」

ほら、来た。

構えていたその言葉が。

⏰:11/11/12 23:29 📱:Android 🆔:Cz0jqLjU


#430 [ちか]
結局はみんなそうなんだ。

特に俺を知りもしないで、そんな状態で俺を好きだの言ってくる。
簡単に。
俺が冥に言えない言葉を簡単に。

しかし、それは決して叶うこともない。
そこに自分を重ねて、同情という名のもとに優しい口調で断り続ける自分。


そんな時の優しさなんて
本当の優しさでもなんでもないのに。

それをまた勘違いするんだから、つくづく可哀想になる。自分共々。


そんなことを悶々と考えながらも、こんな状況にももう慣れたのか自動的に適当な言葉が口から滑るように出た。
最後にお決まりの言葉を添えて。

「…だから、部活以外今興味ないんだ。ごめ…」

それでいつもみたいに終わると思っていた。

「嘘はダメだよ、蓮見くん。」


のに。

⏰:11/11/13 19:11 📱:Android 🆔:08ju6xVE


#431 [ちか]
「え?」

思わず自分の耳を疑った。
嘘?
こいつ、何言って…

「なんで俺が嘘なんかつかなきゃいけないんだよー?瀬野さんなんか勘違いしてない?」

動揺を悟られてはいけないと、さらに笑顔を作り誤魔化す。
が、瀬野はトドメの一言をさらりと言ってのけた。




「あたし、知ってるよ。蓮見くんが日下くんのこと好きなの。だから、みんなの告白断ってるんでしょ?」

⏰:11/11/13 19:30 📱:Android 🆔:08ju6xVE


#432 [ちか]
ドクン、

と心臓が跳ねた。

なんだ、こいつ…
なにを根拠にそんなことを…

俺はそんな素振り一度だって…


「なんで?って顔してるね。教えてあげよっか?」

そんな俺に瀬野は悪戯っ子のような笑顔を向ける。
咄嗟に俺は自分の顔にてを当てた。

顔に出るほど、動揺してるなんて。
動揺がさらなる動揺を呼び、暑さからなのかさえ分からない汗がだらりと額から落ちてきた。


「目、見たら分かるの。日下くんのこと見てるときの蓮見くんの目、恋する女の子みたいなんだもん。」


暑さのせいで耳までおかしくなったのだろうか。

俺が恋する女の子?

「意味分かんねぇ。勝手に推測だけで話進めんのやめてよ、瀬野サン。」


冗談じゃない。

⏰:11/11/13 22:21 📱:Android 🆔:08ju6xVE


#433 [ちか]
「そうそう、その顔!日下くん以外の子には今みたいな冷めた目してるのにさ、日下くんにはなんかあったかい目で見てるの。自覚ないでしょ?あたしね、人間観察、得意なんだ。」


そう言ってパンと嬉しそうに叩く瀬野。
なんなんだ、この底抜けな明るさとなんでも見透かしているかのような目は。


どう話をそらしても、軌道修正されてしまうその苛立ちに俺は痺れを切らしため息をついた。


「…で、だったらなに?」


別にバレたらバレたでどうにでもなる。
今はコイツから離れたい。

その一心で、俺は敵意むき出しの顔で結んでいた口を開いた。

⏰:11/11/13 22:29 📱:Android 🆔:08ju6xVE


#434 [ちか]
そんな俺に、瀬野もため息をつく。

「だーかーらー、あたしは蓮見くんが好きなの。付き合って?」

やれやれ、と言った顔でそんなことを言ってのける瀬野に俺は唖然とした。


そうか、これは脅しか。

俺が冥のことが好きなのを黙っておく変わりに自分と付き合え、と。

なんて打算的な女だ。
だけど、俺はその手には乗らない。

俺はフン、と鼻をならし牙を向くようにその提案をはね除けた。


「なに、脅迫のつもり?勝手にすればいいじゃん。そんなの誰も信じないよ。」


目立ちもしない女子一人の噂事なんて、人望のあつい俺からすればどうってこと無い。

好きにしろよ、そう言って蒸し暑い屋上の出入り口に手をかけた、その時。



「違うよ、これは立派な交換条件。」


それは相変わらずのニッとした猫みたいな笑顔が背中越しでも分かるような声だった。

⏰:11/11/13 22:38 📱:Android 🆔:08ju6xVE


#435 [ちか]
ドアノブを掴みかけた手が固まる。

「なに、どういう意味。」

そう言って、顔だけ瀬野の方に振り向くと案の定猫みたいな笑顔が目に映った。
その笑顔さえ少し鬱陶しさを覚える。


「蓮見くんだっていつまでも片想いじゃ苦しいでしょ?」


そんな俺の内心などお構い無しに瀬野は痛いところを突いてきた。
『苦しい』…確かにそれは否めない。

出来ることならこの感情を忘れたいとさえ思ったほどだ。

瀬野は俺の心を見透かしたように目を細め続ける。

「だからあたしで試したら良いと思うの」


「は?試すってなにを…」

「あたしと付き合って忘れられるか試してみるってどうかな?」


無意識か、思わずため息がこぼれた。
ワケが分からず、俺は乱雑に頭を掻き瀬野を睨み付ける。


「そんなこと、出来たらとっくにやってるよ。」

そう、とっくに。
出来ないのは、やっぱり俺の中の一番が冥だからで。
隣に居る女がさも自分が一番だなんて顔で自分に引っ付いてくると思うと、どうしてもダメなのだ。


そんな俺の頭の中を知ってか知らずか、瀬野はとっておきの作戦と言っても過言じゃないような大袈裟な口調で最後の一言を言ってのけた。

⏰:11/11/15 21:27 📱:Android 🆔:3nDUr.S6


#436 [ちか]
「もちろん、蓮見くんの最優先は日下くんのままでいいよ。
今まで通り日下くんだけ見てればいい。
あたしはね、女の子の中で蓮見くんの一番になりたいだけだから。」

なんの迷いもなくそう言う瀬野に、思わず俺が戸惑った。


瀬野がそこまで言う意味が分からない。


だけど、なぜだろうか。

俺の心の中をすべて読んでいるような不思議さに少し興味を引かれたのもたしかだった。

「なんであたしがそこまでするのかって思ってるでしょ?」

「…………。」

ほら。
また見透かされる。
今までこんなこと無かったのに。

⏰:11/11/15 21:57 📱:Android 🆔:3nDUr.S6


#437 [ちか]
なんなんだ、こいつ。

不思議と瀬野のペースに引き込まれていくのが自分でも分かった。



「あたしの蓮見くんに対する“好き”は、興味の対象って意味だから。
日下くんを愛しそうに見てる蓮見くんがあたしは好きなの。それをもっと傍で見れたら素敵だと思って!」


そこに押しの一言。



「蓮見くんの一番は日下くんのままでいいんだよ、そしたら蓮見くん的にはすごい特だと思わない?無駄に女の子に言い寄られることもないし、ね?」




気がつけば俺は小さく頷いていた。

「…わかった。でも、瀬野さん今言ったこと忘れんなよ?」



それが
俺と瀬野の付き合いの始まりだった。

⏰:11/11/15 21:58 📱:Android 🆔:3nDUr.S6


#438 [ちか]
「彼女が出来たああぁあぁ?!」

屋上で瀬野と別れ、教室に戻ると残わずかとなった昼休みのうちに冥にそのことを報告してみた。

その途端、椅子から立ち上がり、それと共に勢い良く両手を机に突っ立てる冥。


「そんなびっくりしなくても…」

「さっきまで部活しか興味ないって言ってたくせに!!そりゃびっくりするって!」


あまりのリアクションにおれ自身も驚いたが、それもそうか、と妙に納得しつつ、予想外の反応に少し面白くなってくる。

顔がにやけないようにポーカーフェイスを保つのに必死になっていると、冥が目の前であからさまなため息をついた。



「……なんか、でも寂しいなぁ。」


へ?

⏰:11/11/16 07:25 📱:Android 🆔:GxhrNHKU


#439 [ちか]
気づけば目の前のそいつの顔は驚きの表情からすっかり悲しげな表情に変わっていた。

「え、…なんで?」


訳も分からず、条件反射的にそう聞き返すと、冥はさっき勢い良く立ち上がったのとは正反対にふにゃふにゃとしゃがみこむように再び椅子に腰を落とし、チラリとこちらを上目使いで覗きこむ。



大きくて茶色い瞳、長い睫毛、
可愛いくないわけがない。


生唾を飲んで俺は自身の冷静さを取り戻そうと努めた。



こいつのこんな表情(カオ)を独り占めできたらなあ

なんて、叶いもしない願望を抱きながら。

⏰:11/11/18 06:49 📱:Android 🆔:4yjWSxQE


#440 [ちか]
冥は口を尖らして伏し目がちに呟いた。

「だってさぁ、なんか先越されちゃった感じするし。それに透に彼女出来たら今までみたいに俺としょっちゅう遊べないじゃん
?なんかすっげー寂しい…」


また伏し目がちにするとよく分かる長い睫毛と可愛い仕草が俺の心を揺さぶる。

平常心、平常心、自分に唱えつつ、考えた。


俺が彼女を作ることで、冥が俺に寂しいなんて感情を抱くなんて思ってもみなかった。

冥のその一言は本人からすれば特に深い意味を込めた言葉じゃないことくらい、分かっている。
でも、少し、ほんの少しだけ期待してしまう俺はいけないだろうか。

終始一緒だった俺が距離をとることで、分かることもあるかもしれない。お互いに。


そんな考えを巡らせてるうちに、口角が上がった。



瀬野と付き合うことは、
案外、面白いかもしれない。

⏰:11/11/18 07:09 📱:Android 🆔:4yjWSxQE


#441 [ちか]
俺がもっと瀬野と仲良くすれば、冥は俺を意識してくれるんじゃないか。

浅はかな期待がそこに生まれた。
それが後に、後悔することになるとも知らずに。



俺は、半にやけになる自分の顔を引き締め言葉を返す。

「別に今までと変わんないって。」

「えー。ほんとに?」

伏せていた目を疑うように上目使いしてくる冥。
ちくしょー、可愛い。


そんな内心を悟られないように冥の頭を雑に撫でた。

「ほんと、ほんと。寂しがんなって♪」

「…なんか透、嬉しそう。」


拗ねる冥ににやけているなんて、当の本人
は全く気づかないんだから、楽っちゃ楽だけど、なんか報われないよなあ。

なんて、少しばかりため息をつきながら頬杖をついた。


「でも、先越されたって言うけどさー、寂しいなら冥も彼女作ればいいじゃん。」

誤魔化そうとするが故に、こぼれる心と裏腹の言葉。
本当はそんなこと、これっぽっちも望んでいないのに。

⏰:11/11/18 23:21 📱:Android 🆔:4yjWSxQE


#442 [ちか]
俺の問いかけに対して冥は「んー」と唸りながら天井を仰ぐ。

「お前だってモテてんだろ?この前呼び出されてたじゃん。」

「そうだけどー…」

見た目こそ可愛らしいが、冥はモテないこともない。
人懐っこい性格やドジなところ、どこかほっとけない感じがきっと母性本能をくすぐるんだろう。

だけど、冥も俺同様今まで彼女を作ろうとしなかった。
それは前々から疑問に思っていたことで、この際聞いてみてもいいだろう、と俺は冥を覗きこんでみる。

そして、暫くしてから小難しそうな顔で冥は口を開いた。

⏰:11/11/19 23:28 📱:Android 🆔:PD4m8JoA


#443 [ちか]
「なんか、俺女子って苦手なんだよな〜…。俺のこと可愛い可愛いって言ってさ、男としてそれはなんかプライド的に傷つくし…。告白する時まで言うんだぜ?そんなんで付き合えるかっつーの!」


そう言って頬を膨らまし、むくれる冥。

そんな冥を適当にあやしながら、内心ではガッツポーズをとる俺。


女子が苦手なんて、
ラッキー以外のなんでもないじゃん。

少なくとも、当分はまだ冥を親友として独り占め出来そうだと俺は安堵に似た息をさりげなく漏らし、会話の軌道を戻した。

「ま、そのうち彼女できたら、Wデートでもしよーぜ。」

「うわー、嫌みだ…。」

いじけるような目線をよこす冥を笑いながら、そろそろいびるのもやめようと俺は思い出したように話題を変える。

⏰:11/11/25 06:51 📱:Android 🆔:gcWsrk6c


#444 [ちか]
「そういえばさ、今日ジャンプ発売日じゃん?帰りどっかコンビニ行って読んで帰ろーぜ。」

俺としては話題を変えたことはわりと気を利かせた行動だと思った。
なのに、また冥は眉を潜める。


「なに言ってんだよ、彼女と帰ったげなよ。付き合って初日なんだからさ。」

「え、あ…そっか、初日…。」

瀬野と付き合うなんて形だけで、俺の頭の中では中身なんてあってないようなものだったから、俺は意表を突かれたように言葉を詰まらせた。

だけど、
そもそも最優先は冥のままで、と提案したのは瀬野だ。
わざわざ俺が誘う義理もないし。

俺はにこやかな笑顔で返事をする。

「や、でも瀬野、今日用事あるから無理なんだってさー!だから、いいんだよ」

適当に嘘で誤魔化して。

⏰:11/11/25 21:51 📱:Android 🆔:gcWsrk6c


#445 [ちか]
なのに、
偶然とは時々すごく俺に不都合だったりする。

──────────────────………
─────────────……
────────…

「あ、あれ瀬野さんじゃん、透!」

「うわ…」

放課後。
約束通り冥と帰ろうと、玄関口まで来た俺たちの目の前をスッと通っていく凛とした姿勢。

冥の指差す方向を見て無意識に心の声を漏らした俺は、冥に脇腹を小突かれて手で口を覆った。

「うわ、ってなんだよ。おーい、瀬ー野ーさーん!」

「ちょ、お前、なに大声出してんだよ!」

「そうしなきゃ聞こえないだろ?瀬ー野ーさーん」

ところ構わず声を張り上げる冥に俺はため息をつく。
このお節介…なんて、口には出せないけど。

⏰:11/11/26 08:13 📱:Android 🆔:3ff3LCNc


#446 [ちか]
冥の大声に、凛とした後ろ姿がくるりと振り返る。

それと共に、ピンク色のぷっくりとした唇が俺たちに笑いかけた。

「あ、蓮見くん日下くん、偶然だね」

夕暮れにはえる色白の肌。
笑いかける瞳。

なぜか少し背筋がゾクリと疼く。

そんな俺をお構い無しに、お節介な少年はその笑顔に笑顔で返した。

「透が、瀬野さん用事があるから一緒に帰れないって言ってたけど、早く終わったんだねー用事!」

「え、用事?」

曇りのない澄んだ瞳がチラリと俺を見る。

マズイ…。

俺はひきつるような笑顔で瀬野をただ見つめた。

⏰:11/11/26 23:30 📱:Android 🆔:3ff3LCNc


#447 [ちか]
すると瀬野はニヤリと笑い(きっと周りからすればニコリ、に見えるのだろうが)、手を叩いた。


「…うん!そうなんだあ、なんか思ったより早く終わっちゃって!あたしもびっくり。日下くんたちは何してるの?、こんなとこで。」

な、…?
なんで俺に合わせてくれんの?

俺の頭の中は一気に疑問符でいっぱいになった。

そんな俺をよそに冥はぺらぺらと話を続ける。

「そうだったんだー、俺たちも今帰るとこだったんだよ。へへ」

へへ、じゃねえよ!!
なに素直に答えてんだよ、バカ冥!

企みを含んだ笑顔を浮かべたまま、瀬野はそうなのー、と冥に相づちを返す。

こいつアレだ、

「せっかくだから瀬野さんも一緒に帰らない?」

絶対、

「えっ、いいの?!嬉しい!」

冥のこの言葉待ってたんだ…

⏰:11/12/04 17:28 📱:Android 🆔:CP2Nfjpc


#448 [ちぇりー]
あげます(*ノェ゚)

⏰:12/01/28 00:58 📱:iPhone 🆔:VfD9YsIo


#449 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑age

⏰:22/10/02 03:08 📱:Android 🆔:Ltpo.xA.


#450 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>1-30

⏰:22/10/04 23:12 📱:Android 🆔:nH.OoPsQ


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