漆黒の夜に君と。V[BL]
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#251 [ちか]
そんなことを思い知らされたのは翌朝のことだった。
目が覚めて隣を見たが優里が居ない。
自分の病室に帰ったのかと勝手に納得した俺は、立ち上がり欠伸をする。
と、寝起きで未だぼんやりする視界に震える金色の髪が映った。
:11/10/25 08:08
:Android
:EIHTtYqU
#252 [ちか]
俺のデスクの前で震える優里に寝惚けた声で声をかける。
「優里…?何して…」
しかし、
『後悔先に立たず。』
とはまさにこういうことを言うのだと、
身をもって教えられた。
そう身をもって。
俺の声にピクリと反応した背中は細く、
優里はゆっくりとこちらへ向き直った。
そして、
:11/10/25 08:21
:Android
:EIHTtYqU
#253 [ちか]
.
ただ俺は
振り向いたその手に持たれた、
「コレ、なんだよ…」
その薄っぺらい紙を見て、
「“離婚届”ってどういうこと…?」
これから起こるすべてのことに
一生分の後悔をした。
― 第十一話 e n d ―
:11/10/25 08:38
:Android
:EIHTtYqU
#254 [ちか]
:11/10/25 08:45
:Android
:EIHTtYqU
#255 [ちか]
:11/10/26 01:25
:Android
:7b8hSSCs
#256 [ちか]
:11/10/26 01:26
:Android
:7b8hSSCs
#257 [ちか]
「"離婚届"ってどういうこと…?」
そう俺に問いかけた瞳の色は、
動揺と怒りを帯びていた。
しまった。
そう悟ったが、時はもう遅い。
あの紙とは毎日のように睨み合いをしていたし、この研究室は俺が居るとき以外誰も立ち入らないことになっていたため、油断してデスクに置きっぱなしになっていた。
こんな時ばかり、
研究に夢中になっているときの身辺のだらしなさに後悔を立てる。
:11/10/26 01:33
:Android
:7b8hSSCs
#258 [ちか]
ただ何も言えず、俺は苦々しい顔で優里見つめる。
そんな俺に苛立つように優里は下唇を噛み、俺に歩み寄った。
「ラブラブとか言ったクセに!!離婚届ってもう家庭ハタン(破綻)してんじゃん!!」
そう言って、俺の胸にもう皺だらけになっている紙切れを押し付ける。
睨み付けるその目にはうっすらと涙の膜が張られて見えた。
華奢な手に胸をつかれたところで痛みなど何もないが、怒りが直で伝わってくる。
ムキになることでもないのだが、面倒なことは嫌いだ。
俺は漸く固く閉じていた口を開いた。
「破綻もろくに発音できない子供に夫婦間のことまで口挟まれる義理はないな。」
「話、そらすなっ!!!」
:11/10/26 08:38
:Android
:7b8hSSCs
#259 [ちか]
舌打ちでもしたい衝動に駆られる。
「騙してたのかよッ!??」
「人聞きの悪いこと言うな。」
「だってそうだろ?!」
涙の膜は今にも決壊しそうな勢いだ。
揺らぐ水滴を見ていると、言葉に詰まる。
何も言えずにまた見つめていると、優里はか細い声で呟いた。
「………そんなに俺が嫌いかよ…。」
その瞬間、また胸の中で何かが揺らぎ出す。
やがて揺らいだソレが全身を支配していくと、思わぬ言葉が無意識に口をついて出た。
「嫌いじゃない。」
:11/10/26 08:58
:Android
:7b8hSSCs
#260 [ちか]
「え……?」
怒りの色をしていた目が驚きに変わる。
そして俺自身も、
自分から出た無意識の言葉に動揺を隠せない。
「や、…あ、いやこれは……」
言葉にならない言葉が頭の中でグルグルと回っているうちに、胸に当て付けられていた手がそのシャツを掴み、震えだした。
「……それって、」
「違う。」
何を言われるかは分かっている。
だからこそ、遮るように否定した。
:11/10/26 10:46
:Android
:7b8hSSCs
#261 [ちか]
「違わないだろっ…あんた、俺のこと…!!」
「違う…っ!!」
好きなんかじゃない。
そんなはずない。
再度遮るように口を挟むと、優里はキッと俺を睨み付けた。
しかしそれはすぐにそらされる。
そしてその顔がみるみるうちに赤くなっていった。
「だって、昨日だって…俺に、キ、キス…して…」
:11/10/26 10:50
:Android
:7b8hSSCs
#262 [ちか]
俺は頭の中で思い出した昨日を後悔しながら、ため息をつく。
「あれはただの勢いだ。だいたい14も下の、しかも男に本気でそんな感情持つわけ……、」
本気でそんな感情持つわけない。
そう言おうとしたが、噛みつくように優里が俺の話を割いた。
「じゃあ14も下の男に勢いでキス出来んのかよ?!」
「それはっ…」
思わず、また否定の言葉が口をつく。
それは、違う。
そんな言葉を言いかけて飲み込むと、優里は不服そうな顔で俺を見上げた。
「…俺は、あんたのためならなんでも出来る。」
:11/10/26 13:06
:Android
:7b8hSSCs
#263 [ちか]
「あんたが本気になってくれるなら、俺はなんでもする…」
そう言って下唇を噛み締める姿に、胸の奥が揺れた。
その瞬間、
また昔の自分がフラッシュバックする。
今のコイツの言葉、あの日の俺にそっくりだ。
:11/10/26 14:59
:Android
:7b8hSSCs
#264 [ちか]
まだ研修医だった頃の俺に。
───────────………
そうあれは、俺があいつと出会って、もうすぐ二度目の春を迎える頃だった。
「な、なに言ってんの先生?病人からかわないでよー!あははは…」
あの日、あいつはそうやって俺の告白を受け流した。
まるで俺が優里にそうしたように。
「からかってない。本当にはあんたが好きなんだ。」
そして俺もまた優里がそうしたようにそれを真剣に繰り返して伝えていた。
:11/10/26 15:18
:Android
:7b8hSSCs
#265 [ちか]
「か、仮に、先生が本気だったとしてもだよ?あたしと先生は、患者とお医者さんでしょ!立場ってもんが…」
「そんなの関係ない。」
「関係あるんだってば…ッ!!」
もうすぐ桜が咲くその蕾の下で車椅子越しに見たあの背中を俺は一生忘れない。
「もう長くない人間と一緒になったって、先生が不幸なだけだよ…」
あの細い肩も、
震える声も、
無理をした笑顔も。
忘れることなんて出来なかった。
:11/10/26 15:28
:Android
:7b8hSSCs
#266 [ちか]
少しヒステリックに叫んだあいつは、それを消し去るように無理して明るい声を取り繕った。
「だ、だから、先生はさ!!もっと違う人と…」
「俺が治す。」
その声が痛々しくてつらくて、
俺は押していた車椅子の取っ手を強く握る。
「もう〜、分かんない人だなぁ、先生はー!あたし余命まで宣告されてるんだよ?そんなこと出来るわけないじゃん。」
あの頃の俺は何も出来ないただの研修医で、
そんな自分が苛立たしくて
「…俺はあんたのためならなんでも出来る。」
出来るはずもないことを本気で言っていた。
:11/10/26 15:39
:Android
:7b8hSSCs
#267 [ちか]
「それであんたが治って、本気になってくれるなら、俺はなんでもする。」
いや、
あの頃だって本当は
そんなこと出来ないと分かっていた。
だから、
「あんたが好きだから…。」
車椅子に乗っているあいつの背中を見て
平然を繕う声とは裏腹に
幾つもの水滴が零れたんだ。
:11/10/26 15:46
:Android
:7b8hSSCs
#268 [ちか]
今の優里(コイツ)は、まさにあの時の俺にそっくりだ。
出来もしない約束に必死になって
どんどん人の感情の中に踏み込んでいく。
「なんでそこまで…」
「あんたが好きだからだっつってんだろッ!!!!」
それが正しいと、思い込んで。
:11/10/26 15:50
:Android
:7b8hSSCs
#269 [ちか]
グイッ!!!…──
プツンと頭の奥で何かが切れた。
それと同時に優里の手を掴んだ俺はそのまま自分の顔の前に優里を引き寄せる。
優里は突然のことに目を白黒させ長い睫毛が何度も空気中を掻いた。
その瞳は美しい漆黒の色をしていて、金色の髪に似つかわしくないと改めて思う。
そんな優里の顎を片手で掴み、顔を強引に上げた。
驚いたその表情(カオ)は青く、若い。
だが、
「な、なにっ…す…?!」
その人の心の中に土足で踏み込んでくることも
若さゆえの過ちであることを
俺が教えてやる。
「お前、俺のためならなんでも出来るって言ったよな?なら、俺を本気にさせてみろ。」
:11/10/26 16:43
:Android
:7b8hSSCs
#270 [ちか]
そう言って強引に口づけをする。
昨日のキスとは全く違う、ただ強引で理性のある冷淡なキスを。
ついばむように何度か重ねた後、わざとらしく音をたてて俺は唇を離した。
微睡む漆黒の瞳が俺を見つめる。
その目をかしっかり見据えて俺は言った。
「お前が本気だって言うなら、俺を誘ってみろ。」
それで分からせてやる。
:11/10/26 23:06
:Android
:7b8hSSCs
#271 [ちか]
揺らぐ瞳。
ほら、
「なに、それとも出来ない?やっぱり遊びじゃそこまでは出来ないよな?」
出来ないって言えよ。
こんなの遊びだって言えよ。
そうすれば全部、終わる。
:11/10/27 11:42
:Android
:JMT4HDhY
#272 [ちか]
しかし俺の読みとは裏腹に、
揺れる瞳は徐々に焦点を定めていった。
そして優里はキッと俺を見据える。
ヤバイ。
この目、本気でやるつもりだ。
そう悟った時にはもう遅かった。
襟元をふいに引き寄せられ、再び重なる唇。
:11/10/27 15:57
:Android
:JMT4HDhY
#273 [ちか]
ぎこちなく、不慣れなのが伝わってくる。
緊張が伝わってくるソレは、やっぱりまだ青い。
そのまま、優里の舌は俺の首筋を這っていく。
俺はくすぐったいが昂る感情を自分なりに抑えて、ただ冷静にそれを受けた。
しかし、
俺のシャツのボタンを開ける右手は確実に震えている。
見ているだけで痛い。
:11/10/27 16:17
:Android
:JMT4HDhY
#274 [ちか]
思わずその震える手を掴んだ。
見ていられない。
「もういい。やめとけ。」
酷なことを強いてしまった、そんな罪悪感に少し苛まれながらも、これで本人自身が俺との関係をこれ以上望むことは無いだろうと俺は内心安堵の息をついていた。
出来ないことを出来ると言い張るなら
それがただの虚言でしかないことを
身をもって教える。
それが、寝言から醒める一番の薬なんだ。
たとえそれで俺が嫌われたとしても、仕方ないことなんだ。
そう自分に言い聞かせながら。
:11/10/28 00:45
:Android
:k6d6Lilg
#275 [ちか]
俺の制止に優里は首を何度も横に振る。
思わず、掴んだ手に力が入る。
俺に固執する必要がどこにあるんだ。
考えても考えても分からない。
しかし優里は必死な表情で俺に訴えかけてくる。
「…なんで…っ、俺、無理なんかしてないしッ…こ、これくらい全然……!!!!!」
「口ばっか強がっても、顔見りゃ分かるんだよ。」
暫く無言の睨み合いが続いた。
そして、その沈黙を先に破ったのは
「わかった…」
優里だった。
:11/10/28 00:55
:Android
:k6d6Lilg
#276 [ちか]
「あんたは俺に諦めてほしいんだろ?」
「ああ。」
何を今さら。
そんなことを思いながら頷くと、
優里は再び話を繋げた。
「じゃあ、俺とヤれよ。」
「は?」
こいつ、本物の馬鹿だ。
今までの何を見て、そんなことが言えるのか。
俺はため息をついて掴んでいた手を離した。
「話になんねえな。お前には無理だ、やめとけ。」
そう言って、ポケットの中からタバコの箱を出す。
:11/10/28 01:02
:Android
:k6d6Lilg
#277 [ちか]
すると、先程とは逆に今度はタバコを持っていた俺の手を優里が掴んだ。
「一回ヤってみれば、俺だってあんたのこと嫌いになれるかもしれないだろ?!」
「俺達は男同士だぞ。そんなことしなくても、結果は分かる。」
いい加減にしてくれ。
なんでそうなるんだ。
こいつは、いつも俺の読みとは違う方にばかり走っていく。
傷つく道にばかり。
かつての俺が進んだ道のように。
「そんなの、やってみなきゃ分かんねえじゃん!!!!!」
いい加減に、
「最後にするから…っ!!!!それで、諦めてやるから…!!!!!」
気づけよ。
:11/10/28 01:10
:Android
:k6d6Lilg
#278 [ちか]
ドサッ…
重なりあうようにソファに鈍い音が響いた。
二人分の重みがソファに沈んでいく。
タバコの箱が床に落ちる音がすると、それっきり研究室は静まり返った。
俺が自分の下に倒れこむ優里の両手首を掴み、自由を奪うと、
一瞬、時が止まったように俺たちの間を張り詰めた空気が流れる。
「なら、お望み通りにしてやる。」
そして俺は優里のシャツに手をかけた。
:11/10/28 01:19
:Android
:k6d6Lilg
#279 [ちか]
吐き捨てるようにそう呟いた俺は、優里の上半身から衣類を剥ぎ取った。
そのまま何度も首筋に吸いつく。
吸い付くたびに優里からは甘い吐息が漏れた。
散らばめた赤い痕を見つめ、時折撫でるとくすぐったいようで優里の身体はピクピクと反応する。
「あッ……ハァッ…///つ…ッう///」
優里の全神経を支配しているようだった。
ふいに膝を下半身に擦り付けると、思わぬ刺激だったのか無防備な声が部屋に響いた。
:11/10/28 15:37
:Android
:k6d6Lilg
#280 [ちか]
「若いねえ。」
「うっ…せ…ッんあっ///」
煽るような目で見下ろすと、甘い声とは対称に反抗的な目が苦しそうにこちらを睨む。
「ちゃっかり反応してるクセになにがうるさいんだか。」
呆れたように言い放って、俺はズボンの中に右手を忍ばせた。
すでに優里のソレにはトロトロと蜜がまとわりついている。
「ちょ…っ、や…んんッ///神崎、待っ…////」
裏筋を擦り、先端を引っ掻くと身体はさらに強く反応を示した。
限界は近そうだ。
:11/10/28 15:47
:Android
:k6d6Lilg
#281 [ちか]
優里の喘ぎ声に合わせて俺は右手を加速させる。
「や…ッ、ふ…んぁっ///神崎…っ、も…無理……っ」
優里は俺にしがみつくと背中に爪を立てた。
そして、身体を震わせて吐き出された白濁。
「ハァ…っ、ハァ…ッハァ///」
俺に絡みつく腕が、力が抜けたようにスルリとソファに垂れた。
俺はこれ見よがしに絡めとった白濁を優里の目の前でちらつかせる。
それと同時に、優里の火照った頬が一層紅潮するのが一瞬で見てとれた。
「これで満足か?」
投げやりにそう言い捨てると、一瞬微睡んでいた瞳に反抗的な色に染まり始める。
:11/10/29 22:51
:Android
:34CuKAt6
#282 [ちか]
「誰が…っ!!!!こっ、これくらいで調子…乗んなっ!!!///」
そう怒鳴って優里はソファの隣のテーブルから適当に紙束を掴みとり、俺に投げつけた。
避けようと思わず優里に覆い被さっていた体が後ろに反る。
目の前をいくつもの薄っぺらい紙が舞う。
視界が遮られ鬱陶しさ極まりない。
こいつに手加減は要らなそうだな。
そう確信するようにもう一度、離してしまったその両手首を一掴みして拘束する。
「調子乗ってんのはお前だ。」
「ひ……ぁっ」
言葉と共に下半身にまとわる衣類を脱がせると、俺は秘部に指をあてがった。
:11/10/29 23:03
:Android
:34CuKAt6
#283 [ちか]
そしてそのまま強引に指を一本、その中に沈ませていく。
「つッ……、や…ぁっ」
痛々しく、悲鳴にも近いソレが耳を掠めた。
その瞬間、頭の中で糸がピンと張るように沈めていた指の動きが止まった。
ああ、俺は何をしているんだろうか。
こんなことをして一体何になるんだろうか。
「ふ…ぅ、神崎ッ!!ちょっ…待って…!!」
苦しむ表情を見るうちに、
頭に上っていた血がだんだん冷静を取り戻していく。
「ひぁっ、い…ッ…つ…はぁ…はッ…ハァ」
そして、優里の目尻から涙が零れた時、その動きは完全に止まった。
:11/10/29 23:13
:Android
:34CuKAt6
#284 [ちか]
「…やめた。」
独り言に近いような声量で呟くと、スルリと指を抜き取った。
そしてそのまま立ち上がり、落としてしまっていたタバコの箱を拾い上げる。
ついでに先程剥ぎ取り適当に床に放った衣類を優里に投げた。
「着ろ。」
それだけ言って、箱からタバコを一本抜き出すとライターで火をつける。
くわえると白煙が目の前を霞めた。
:11/10/29 23:19
:Android
:34CuKAt6
#285 [ちか]
優里はなげられた服を羽織ると上半身を起こした。
「勝手にやめんなよ!!!!俺は…っ!!!」
「呼吸、乱れてる。」
肺に含んだ煙を吐き出し、目線少し下で上体を起こした優里に有無を言わさぬ口調で指をさす。
「そ、そりゃあんなことされれば誰だって呼吸くらい乱れるだろ?!」
「それに脈も不規則。」
突っかかる口調とは正反対の覚めきった声。
:11/10/29 23:28
:Android
:34CuKAt6
#286 [ちか]
「職業病みたいなもんでな、いつでも何してる時でもそれくらい無意識に分かんだよ。お前今、息苦しいだろ。」
「………っ!!」
図星か。
問いかけが確信に変わるような、そんな表情で優里は俯いた。
「これで分かっただろ?お前には向いてない。やめとけ。」
釘をさすように言い放つと、細い肩が萎縮する。
「でも、俺は神崎が好きで…っ、あんたのためなら死んでもいいくらい好きで…っ」
喉の奥が震え、顔は見えなくても泣いてるいることが分かった。
「 ふざけんなっ!!!!!! 」
気づけばそんな優里を怒鳴っている自分が居た。
:11/10/29 23:36
:Android
:34CuKAt6
#287 [ちか]
「死んでもいい?!簡単に言うな!!!!!生きたくても生きれない人間がこの世界にどれだけ居ると思って…っ!!」
脳裏に浮かぶ鮮明なあいつの顔。
生きたくても生きれない人間の無理をした明るい笑顔。
あの顔を見て、何度願ったか。
彼女を治したいと。
でも叶わなかった。
末期の状態にまで陥った病気の前で、俺はその時無力な研修医でしかなかった。
悔しくて何度も噛んだ唇の痛みさえ、生々しく蘇るようだった。
:11/10/29 23:43
:Android
:34CuKAt6
#288 [ちか]
いきなり浴びせられた怒声に優里は潤む目を何度も瞬いた。
俺はそんな優里に背を向け、すっかり短くなってしまったタバコをくわえなおした。
「出ていけ。」
冷静になろうと心がけた声は思いの外震えていた。
それは優里にも伝わってしまっているだろうか。
怒鳴り声のあとの研究室は一層静かに感じられた。
:11/10/29 23:48
:Android
:34CuKAt6
#289 [ちか]
時計の秒針が研究室の静けさをさらに駆り立てる。
俺は振り向かずただくわえたタバコの煙を見つめた。
暫くして、ソファから立ち上がる音。
そのまま足音はドアの方へ近づいていく。
そしてドアノブが捻られ唸る音がした。
「……………ごめんなさい。」
か細い声はそう言い残すと、ドアが音を立て、ゆっくりと閉められた。
:11/10/29 23:55
:Android
:34CuKAt6
#290 [ちか]
一人になった部屋の中で深い溜め息は執拗に響いた。
「これで良かったんだよな…」
この感情の正体も本当はすでに分かり始めている。
ただ気づかないフリをしてるだけ。
おもむろに足下に落ちている皺くちゃの離婚届に目線を落とした。
震えるあの手で、これをどれほど強く握っていたのだろうか。
.
:11/10/30 10:26
:Android
:nfDV2Ves
#291 [ちか]
一人になった部屋の中で深い溜め息は執拗に響いた。
「これで良かったんだよな…」
そう言い聞かせるものの、
心に残る虚無感と蠢く感情。
この感情の正体も本当はすでに分かり始めている。
ただ気づかないフリをしてるだけ。
おもむろに足下に落ちている皺くちゃの離婚届に目線を落とした。
震えるあの手で、これをどれほど強く握っていたのだろうか。
.
:11/10/30 10:27
:Android
:nfDV2Ves
#292 [ちか]
紙を拾い上げまじまじとそれを見つめる。
蠢く感情がじわじわと俺の体を支配していくようだ。
今すぐ追いかけてしまいそうなほど、その感情は昂っていた。
それを無理矢理消し去るように俺は頭を振る。
「…俺は、あの約束を裏切れない。」
────────────────…………
─────────………
─────……
:11/10/30 10:30
:Android
:nfDV2Ves
#293 [ちか]
あの日以来、
再び優里は俺の前に現れなくなった。
しかし、以前現れなくなった時とは全く違う。
俺の行動する範囲の一切から姿を見せなくなった。
そんな状態が長く続き、晩秋だった季節はいつの間にか年も明け冬も大詰めの2月に差し掛かろうとしていた。
:11/10/30 11:42
:Android
:nfDV2Ves
#294 [ちか]
何度かアイツの病室のすぐ近くまで行ったこともあった。
しかし、
意地なのかプライドなのか、
はたまた約束という名の呪縛からか、
あと一歩というところでいつも引き返していた。
そんなある日の午後。
噂好きの同僚が妙に神妙な顔で俺を尋ね、研究室へやってきた。
:11/10/30 14:19
:Android
:nfDV2Ves
#295 [ちか]
「優里くん、すっかり来なくなっちゃいましたねー」
同僚は研究に持ってきた書類ら文献、データを片っ端からデスクに投げ捨てるとつまらなそうな顔でそう言った。
一瞬、体がピクリてと反応を起こしそうになったが平然を装い相槌を打つ。
「そうだな。」
「先生は寂しくないんですか?」
「は?なんで俺が」
窺うような目線を寄越す同僚を冷たくあしらう。
「だってあれだけ毎日騒ぎに来てたのが急にパッタリ来なくなると、はじめはうるさいなーって思ってたのに、なんか物足りなくなりません?」
「まぁ、たしかに。」
寂しくないといえば嘘になる。
:11/10/30 15:06
:Android
:nfDV2Ves
#296 [ちか]
とは言え、
俺は寂しいなんて口走っていい分際じゃない。
相手からの提案だったと言えど、
病院(ウチ)に多額の寄付金を注ぐどこぞの大企業の愛息子とあれやこれやをやってしまったわけで。
それはつまり、
クビにならないことの方が不思議なほどの大罪…。
:11/10/30 20:11
:Android
:nfDV2Ves
#297 [ちか]
今までは向こうからの一方的なアプローチだったから問題はなかったものの、今回は違う。
完全に俺に非がある。
その証拠が今日までに至る優里の俺に対する拒絶だ。
人間とは頭が冷えると、急に足元が見えるもの。
自分のした過ちを消し去ることも出来ず、この数ヵ月後悔の念に苛まれ続けている。
こんなことになるなら、
あの時顔面に二、三発鉄拳ぶちこまれる方がいくらかマシなくらいだ。
:11/10/30 20:41
:Android
:nfDV2Ves
#298 [ちか]
「先生、顔色悪いですよ?」
「あ、いや、ちょっとまずいことを思い出してた…」
ダメだダメだ。
もうあいつに振り回されるのは御免だ。
数ヵ月経ってもことが起きないところを見ると、問題になる様子はない。
俺が近づきさえしなければ。
.
:11/10/30 20:54
:Android
:nfDV2Ves
#299 [ちか]
気持ちを落ち着けようと昼に買った缶コーヒに手を伸ばす。
プルタブを開け喉奥に流し込むと心地好い感覚が流れた。
もう一度、残った半分を流し込むため缶を煽った時、後ろで文献をペラペラと捲っていた同僚がおもむろに口を開いた。
「そういえば、優里くんの手術来週らしいですねー」
:11/10/30 22:26
:Android
:nfDV2Ves
#300 [ちか]
「うわ、汚な!!先生、書類にかかったらどうするんですか、も〜!」
「わ、悪い…」
思わず同僚の話を聞いた瞬間、口に含んだばかりのコーヒーが吹き出た。
それほど驚きが大きかったのだ。
荒っぽく咳払いをした俺は出きる限り落ち着いた声色で同僚に問い掛ける。
「……それ詳しい日にち分かるか?」
同僚は自分の頭の中からまるで引き出しを探るように目線を上に向け考え始めた。
:11/10/30 22:34
:Android
:nfDV2Ves
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