漆黒の夜に君と。V[BL]
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#301 [我輩は匿名である]
応援してます(^∀^)ノ

⏰:11/10/30 22:44 📱:X-RAY 🆔:xw1xjsE6


#302 [ちか]
「えっと…、外科部長なんて言ってたかなぁ」

同僚が思い出してる間に容器の中の残りを流し込んだ。

また吹き出しては今度こそ研究材料に支障を来しかねない。


そうこうしているうちに同僚は思い出したように明るい声をあげた。

「あ、思い出しました、思い出しました!たしか今週末の金曜ですよ。なんでも大がかりな手術だから、優秀な医者を何人もそろえてるっておっしゃってました。」

「へぇ…」

金曜日か。
来週と聞いて少し嫌な予感がしたが、当たったな。

ちょうど金曜は研究の途中経過を他の病院で同じ研究をしている仲間と話し合うことになっている。
脳外科が専門の俺にはそもそもオペに立ち会うこともまず無いのだが、せめてその前の数時間会えれば、スケジュール的にナシか…。



って、

⏰:11/10/30 23:08 📱:Android 🆔:nfDV2Ves


#303 [ちか]
「だからどの面下げて会うつもりなんだよ!!!」

カランと音を立てて空き缶が床を転がる。

「せ、先生…?」

怯えるように顔を覗きこまれ、俺はすぐに理性を取り戻した。

「あ、いや!な、なんでもない、こっちの話だ…」


ああ〜もう俺、マジ何やってんだよ。
これじゃ前より重症じゃねぇかよ。

すっかり嫌われてしまった今、会って何になる。

というか、自分で嫌われるように仕向けておきながら、優里のことが気にかかるなんていくらなんでもムシが良すぎだ。

俺にそんな資格はない。

⏰:11/10/31 01:08 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#304 [ちか]
自分の中の葛藤に頭を悩ませていると、同僚は付け足すように話を続ける。


「ま、まぁ、でも、難しい手術らしいですよ。もともと優里くんがあの歳になるまで身体的にリスクが大きすぎて手術自体できなかったみたいですから。外科部長は、術後に影響が出ず無事にオペが成功する確率は40%前後だっておっしゃってたし…」


「40%…。」

思わず俺はその数字を繰り返していた。


それは決して高い確率ではない。
むしろ、なんらかの影響が出ることを覚悟して受けなければならない確率の数字だ。


胸の奥がギュッ、と締め付けられる。
過去のトラウマと認めたくない感情の交差。
それは見てみぬふりをするには大きすぎるモノだった。

⏰:11/10/31 04:08 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#305 [ちか]
>>301 匿名さま.

ありがとうございます(*^^*)
がんばります!
よかったら感想板にも遊びに来てくださいね♪

⏰:11/10/31 08:00 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#306 [ちか]
>>304続き

「…き、きっと手術前だから優里くんも大人しくしてるんですね!手術が終われば前より激しい特攻してきそうだから、先生覚悟しといた方がいいですよー?」

一瞬重くなった空気を掻き消すように同僚は明るく振る舞った。

しかし、今の俺にその言葉はキツい。
嫌われてしまった今、前より激しい特攻など微塵も考えられないのだから。

俺は苦々しい笑顔で同僚の言葉を受け流し、持ってきてもらった資料を整理し始める。

それを見ると同僚も気を利かせ、軽く挨拶をして静かに部屋を出ていった。

⏰:11/10/31 15:16 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#307 [ちか]
しかし本当は資料を整理するなんて形だけ。

目を通したところで、内容なんて頭に入ってこない。


認めたくないが、
頭の中はアイツで支配されていた。

しかし何度も頭の中であの約束が働きかける。

そしてこれ以上、踏み込んではいけないと忠告されているような気がしてならないのだ。

葛藤が葛藤を呼び、
考えは堂々巡りを繰り返していた。

⏰:11/10/31 16:51 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#308 [ちか]
会いに行くことは出来る。

しかし
会うことで満足するのは自分だけ。

会ったところで好きだと言われても約束がある限り、気持ちに答えることは出来ないのだから。

それは
約束に対しても
優里に対しても
中途半端な態度でしかない。

正しい選択はこれ以上関わらないこと。

⏰:11/10/31 16:56 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#309 [ちか]
.

「分かってんだよ、んなことは…。」


だからこそ
頭に感情がついてこず、
こうも悩んでいる。



力無く漏れた独り言は
虚しく部屋で響いた。

⏰:11/10/31 16:59 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#310 [ちか]
― 優里side. ―

あの一件があった以来、
また神崎には会わなくなった。






いや、
会えなくなった。

⏰:11/10/31 18:40 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#311 [ちか]
────……死んでもいい?!簡単に言うな!!!!!
生きたくても生きれない人間がこの世界にどれだけ居ると思って…っ!!────……


何度も脳内であの時のすべてが再生される。


あの時のアイツの表情(カオ)、
あんな表情(カオ)初めて見た。


踏み込んではいけない領域に触れてしまった。
直感でそう感じてから、
怖くて会えなくなった。

⏰:11/10/31 18:48 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#312 [ちか]
季節も中庭の木も次第に色を変え、時間が流れていく。

気づけば年が明け、2月に差し掛かっていた。

中庭の木が桜だと気づいたのはその頃だ。
小さな黄緑とピンク色の混ざった蕾が木を染め、まるで春が近いことを告げているようだった。

何度もこの病院で春を迎えていたというのに、気づかなかったなんて今までどれほど季節に無頓着だったのだろうと、思わず苦笑が漏れる。

⏰:11/10/31 18:54 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#313 [ちか]
そんな俺が季節が気になりだしたのは、
神崎に出会ってから。


研究という名目で来ているアイツも来月で半年の滞在になる。

ましてや離婚届だってあるし、そうなれば奥さんとの話し合いは済んだのかとか帰国しなくていいのかとか、いつ日本に帰るか考え出せばキリがない。

季節の半分がちょうど来月、再来月で終わるのならそろそろ帰る時期かもしれない。

そう思うと、
焦らずにはいられなかった。

⏰:11/10/31 19:02 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#314 [ちか]
しかし、
神崎の地雷に触れてしまった今、どんな顔をして会えばいいか分からない。

でもいつ帰るか分からない分、今のような形で終わるのはイヤだ。


そんな子供染みた葛藤に振り回されているうちに季節が一つまた変わったというわけだ。

「俺の臆病者〜…」


はじめの特攻ぶりはどこに言ったのだ、と言わんばかりに自分に叱咤し、寝返りをうった。

⏰:11/10/31 21:43 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#315 [ちか]
枕を胸に抱き止め、ベッドの布団の中でうだうだのたうち回っていると、ふいに病室のドアからノックの音が。


「だれ。」

振り向くわけでもなく、ドアに背を向け問い掛けるとドアが開き、看護婦が入ってきた。


「なんか用?」

今、あんたらに会う気分じゃないっつーの。
てか俺、最近問題起こしてねーじゃん。

今日は検査の予定も無いし、こんな日くらいそっとしといてくれよ。うぜえ。


そんなことを心の中で毒づきながら無言を保つ。

⏰:11/10/31 21:50 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#316 [ちか]
「具合はどう?」

「別に。普通。」

「優里が部屋から出ない日は、あたし達、逆に心配になるのよ。」

「そりゃどーも。」


淡白な会話が続くと、看護婦は呆れたように笑った。
憎たらしい口調は今に始まったことではなく、すでに怒られる範囲から抜けているらしい。


「まぁ、今日は優里に話があってきたのよ。」

看護婦の声色が微妙に変わる。
何か大事な話かと思い、背を向けていた体をぐるりと回すと真面目な顔がそこにあった。

「……なに」

⏰:11/10/31 21:57 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#317 [ちか]
「何度か前から言ってたから分かってるかも知れないけど、オペが来週の金曜に決まったから心の準備しといてって話をしに来たのよ。」


そう言って看護婦は優里の髪を撫でる。
まるで愛しい我が子でも扱うかのように。


「来週…」

「その反応見る限り、覚えてなかったわね。」

図星をつかれ、思わず黙ると看護婦はクスリと笑った。
しかし、それとは対称的に俺の顔は曇っていく。

⏰:11/10/31 22:09 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#318 [ちか]
年明けに行うことは聞かされていた。
だから来週に行うと聞けば、驚きよりいよいよと言った感じの表現の方がきっと正しい。


しかし、今まで身体的リスクが伴うため適年齢に達するまで行えなかった手術が、来週にまで迫ってきたと思うと、顔を強張らさずにはいられなかった。


看護婦はそんな俺を安心させるように、落ち着いた物腰で話を続ける。


「大丈夫よ。もう十分、あなたの体は手術に耐えられるわ。先生達も成功率80%っておっしゃってたもの。自信を持ちなさい。」

そんな風に優しく話したと思えば、

「い゛て゛っ!!」

バチンと軽い音を立てて額を叩かれた。
思わず、苦痛の声が漏れる。

⏰:11/10/31 22:22 📱:Android 🆔:/uPp3Gos


#319 [ちか]
「自信持ってドーンとかまえてりゃいいのよ、優里は。わかった?」

痛みに涙目になる俺をよそに、看護婦は一方的にそう告げると病室を出ていった。

去っていった後ろ姿を見つめながら俺は毒づく。

「あの乱暴ゴリラ女…」

しかしそう呟いた瞬間、再びドアが開き隙間から看護婦の顔が覗きこんだ。

「なんか言った?」

「?!べ、べつに?!」

地獄耳乱暴ゴリラ女の間違いだったと心の中で訂正し、ベッドの布団に潜り込む。

そして小さく笑った。
元気を出さないと、な。

⏰:11/11/01 21:01 📱:Android 🆔:DjtyBHfI


#320 [ちか]
それから数日経った日のこと。

あの看護婦のおかげなんて口が裂けても言わないけど、部屋を出る程度には元気を取り戻した。


そんな深夜、眠っていた俺は喉の乾きを覚え目を覚えた。

何か飲もうと自販機を求め、部屋を出る。

が、出て暫く歩くうちにナースステーションから話し声が聞こえてきた。

⏰:11/11/01 22:03 📱:Android 🆔:DjtyBHfI


#321 [ちか]
「で、話したの?優里に」

(俺…?)

自販機に行くには次の角を曲がればいいだけなのに、名前を出されたことが気になり、気持ちとは裏腹にそのままじりじりと体はナースステーションに近づいていった。


なんとなくしか聞こえなかった会話が、よく聞こえる場所まで着きそっと角に隠れる。

やましいことなんて無いのに、なんでこんなことしてるんだ、俺。

⏰:11/11/02 00:06 📱:Android 🆔:uZUHTXvM


#322 [ちか]
>>320訂正

目を覚えた→×
目を覚ました→○

ごめんなさい!

⏰:11/11/02 00:08 📱:Android 🆔:uZUHTXvM


#323 [ちか]
耳をすませれば、なんなく会話のすべてが聞こえてくる。

「先週話したわよ、一応…」

「一応?一応ってどういう意味?」

盗み聞きと言われても言い逃れ出来ないような状況と、自分関連の話だということに自然と体は緊張し、鼓動が速くなった。

看護婦は後ろめたそうな声で話を繋げる。


「手術のことはちゃんと言ったけど、」

「けど?」

けど、の後をなかなか言おうとしない看護婦に、俺まで「けど?」と聞き返しそうになった。
高鳴る心臓の音がうるさい。

⏰:11/11/02 00:14 📱:Android 🆔:uZUHTXvM


#324 [ちか]
いい加減聞くのに疲れたと痺れを切らし、立ち去ろうとしたその時、看護婦の小さな声が俺の足を止めた。


「……成功率80%だって嘘つい ちゃったのよ…」

「え?!何2倍増しで話してんのよ!!先生達は40%前後っておっしゃってたじゃない!」


…は?

80%は嘘?本当は40%前後?


何それ、どういう意味…?

⏰:11/11/02 00:19 📱:Android 🆔:uZUHTXvM


#325 [ちか]
「だってあの子が不安そうな顔するから…」

「だからって嘘ついていいってワケじゃないでしょ?!」

ドクン、ドクンと鼓動がさらに速くなっていく。
とっさに両手で耳を塞いだ。
嫌でも声が耳にこびりついてくる。

「あんな難しい手術を…っ」

聞きたくない。

「成功したって目が覚めないこともあるのに…っ!!」

聞きたくないッ…───

⏰:11/11/02 00:25 📱:Android 🆔:uZUHTXvM


#326 [ちか]
気づけば走りだしていた。


自分の病室に戻った俺は、
そのままズルズルと壁づたいに座り込む。


心臓の音が耳を支配していく。

今は確かに聞こえるこの音も、いつか止まって聞こえなくなるかも知れない。

いつでも隣合わせにある“死”
向き合っているようで見ていなかった“現実”…────


突然突きつけられた現実という名の恐怖に、俺は逃げるように耳を塞いだ。

──────────────………
───────────………
──────………

⏰:11/11/02 12:57 📱:Android 🆔:uZUHTXvM


#327 [ちか]
(TT)>>302訂正
読み返してて気づいたんですが、
同僚の言葉の中で手術が『今週末』になってますね(>_<)
正しくは『来週末』です!すいません(TT)

⏰:11/11/02 21:55 📱:Android 🆔:uZUHTXvM


#328 [ちか]
>>326続き

― 陽平side.―


「先生、お願いします」

「いや、でも、その日は〜…」

「前日でもいいんです!その前でも!」

「や〜…」



関わらないと再決心したのも束の間、
研究室に突然、看護婦に乗り込みをかけられた。

⏰:11/11/03 00:19 📱:Android 🆔:luRwubkA


#329 [ちか]
「優里本当に最近、人が変わったみたいに元気なくて…。きっと先生に会えば、元気も出ると思うんです!」

「いや、それは…、」

むしろ逆効果なんじゃないか
そんな発言が口をついて出そうになり慌てて飲み込む。

看護婦は腑に落ちないといった顔でこちらを窺ってきた。

踏み込まないようにすれば、なんらかのキッカケで引き込まれる。

もはやこれは何かの因縁なんだろうか…

⏰:11/11/03 00:30 📱:Android 🆔:luRwubkA


#330 [ちか]
看護婦の強引な願いに、曖昧な返事をしているがラチがあかない。

もう一時間はこうしている。

「どうにか都合つけてもらえませんか?!」


俺だって一度はそう考えたっつーの…

でも、

「や、金曜当日はたの病院と合同で研究経過の発表がありまして、今週いっぱいはその資料作りでギリギリなんです。」

どうしてもスケジュールがそれを許してくれなかった。

⏰:11/11/03 00:39 📱:Android 🆔:luRwubkA


#331 [ちか]
この期間、今まで順調に進まなかった研究に追い込みをかけ、なんとか発表には間に合いそうなもののそれも余裕ではない。

徹夜覚悟と言ったところだろう。


会う約束なんかとても出来るスケジュールではなかった。

「すいません、力になれなくて。」

そう言って申し訳なさそうに詫びると、看護婦の目も次第に諦めの色に変わり、長い口論の末、最後には「頑張ってください…」と一言残して研究室を出ていった。

⏰:11/11/03 10:03 📱:Android 🆔:luRwubkA


#332 [ちか]
誰も居なくなった部屋の中で一人、デスクの上に広げられたスケジュール帳に目を落とす。




どうにか、出来ないだろうか。



そんな現実味のない願望を抱きつつ、ぎっしりと細かい字が刻まれた紙の上を指でなぞる。

⏰:11/11/03 13:51 📱:Android 🆔:luRwubkA


#333 [ちか]
「…つッ〜…」

暫くそうしていると、紙が無意識のうちに滑らせていた指を切ったようで、傷口から赤いものが滲んだ。

そしてその瞬間、痛みと共に我に変える。


気がつけば頭の中でこの先の予定を詰めて、空きのない予定にいつの間にか空白を作ろうとしていた自分。

やるせない感情に押し潰されそうになり、無造作に頭を掻く。


「流されないって決めたのに何してんだ、俺…。」


そして俺は揺れ動く感情にセーブをかけるように、心臓のある方の胸をぎゅっと握り、小さくため息をついた。

――――――――――――――
――――――――――――――

⏰:11/11/03 13:52 📱:Android 🆔:luRwubkA


#334 [ちか]
――――――――――――――――
――――――――――――――――

で、なんでか俺は今、



( …結局、)



優里の病室の前に居たりする。



( 来てしまった…。 )

⏰:11/11/03 14:00 📱:Android 🆔:luRwubkA


#335 [ちか]
只今、深夜4時。

いや、深夜というより明け方と言った方が正しいかも知れない。
しかし、冬の4時はまだまだ夜の漆黒を保っていた。

窓ガラスに映る自分の目下のクマに思わず苦笑が漏れる。

そのクマが今日までのスケジュールの多忙さを物語っていた。


案の定資料作りはギリギリまでかかった。
毎日研究室での寝泊まりが続き、発表の前日である今日もそうだった。

そしてやっと仕上がったのが一時間前のこと。

そのまま寝て翌朝の発表に備えればいいものを、


(俺、なんで来てんだよ…。)

足が勝手に動き、気づけばドアの前に居た。

⏰:11/11/03 14:12 📱:Android 🆔:luRwubkA


#336 [ちか]
ドアの取っ手に手を掛ける。

暫くしてその手を離す。

そしてまた手を掛ける。


ついてから30分強。


もう何度もこの動作ばかり繰り返している。

⏰:11/11/04 00:17 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#337 [ちか]
じんわりと手に滲む汗を見つめながら、自分に言い聞かせた。


さすがのアイツでも夜中の4時じゃ、起きていないだろう。
寝ている時にちょっと顔を覗いてすぐ帰るだけだ。

誰にも何にも迷惑はかからないし、
そうこれは俺の自己満足だ。

だから迷わず開けてしまえ。…――


ガラ…ッ

⏰:11/11/04 00:22 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#338 [ちか]
勢いで開けたドアが小さく音を立てて開く。

ピッ…――ピッ…――ピッ…―



中では無機質な電子機器の音がその部屋の全てのように静まり返っていた。


入ってすぐ目につくベッドには入り口に背を向け横になっている華奢な後ろ姿。

俺は、部屋に入ってきても無反応なその背中に安堵の息をつく。



そして優里が寝てることを確信した俺は、ゆっくりとベッドの傍に歩み寄った。

⏰:11/11/04 07:05 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#339 [ちか]
もう何ヵ月も見ていなかった背中。

相変わらず華奢な腰や腕。



俺はいつのまにか見とれるように、すぐ傍で立ち尽くしていた。



薄暗い部屋にカーテンの隙間から月の光が射し込む。

人工的な金色の髪がその光に照らされてキラキラと美しく光った。


思わず、撫でたい衝動に駆られ、本能が赴くままにその手をそっと髪に伸ばす。

あと2、3センチと言ったところか。
ふいに静かな声が俺の手を止めた。



「…神崎だろ」

⏰:11/11/04 17:20 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#340 [ちか]
「なっ、お前起きて…っ」

伸ばしていた手を咄嗟に引っ込める。
動揺を隠しきれず、声は震えた。

俺の馬鹿!!
だから、さっさと顔見て帰りゃよかったのに!!

内心でこれでもかと言わんばかりに自分を叱咤に、合ってもいない目を泳がせる俺。


それとは正反対に、
俺が入ってきた時と同様、横を向き俺に背中しか見せない優里。

⏰:11/11/04 17:27 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#341 [ちか]
「動揺しすぎだから。」

逆にお前はなんでそんなに冷静なんですか。

そうツッコミたくなる気持ちをぐっと抑え、平然を装い問い掛ける。


「なんで俺だって分かったんだ?」

声が揺れないよう心がけるが、顔はひきつるばかり。
表情のも見えないまま、優里はそんな俺に淡々と答えた。


「あんたの足音、独特だから。部屋の前まで来たのになんで入ってこねえんだろって思ってた。」


…………つ、つまり最初っから気づいてた、と。
そんでこいつの耳は野生児並みだ、と。

⏰:11/11/04 17:32 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#342 [ちか]
気恥ずかしさが沸々と沸き上がり、怒りへと変わる。
今の俺はきっと百面相に違いない。

「き、気づいてんならこっち向いて声の一つくらい…っ!」

そういえば、俺はガキの頃から照れると暴力で誤魔化すタチだった。
咄嗟に伸ばした手を見ながら、ふとそんなことを思い出す。

さすがに患者に暴力はふるわないが、勢いに任せ一度引っ込ませた手を伸ばし、その細い肩をひっ掴んだ。

そしてこちらに向かせようと力を入れる。
すると、なんということでしょう。

華奢な体は見掛け倒し、ではなく、
思った通り、というか思っていた以上にあっさりとその体は体勢を崩した。


そして。

⏰:11/11/04 21:03 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#343 [ちか]
「お、お前…、」

「…ッ見んな、バカ神崎っ!!」


一瞬のことに目を見開いたままこちらに振り向いた優里の瞳にはくっきりと涙のあとが滲み、赤く腫れていた。

驚いた俺はそのまま手を離す。

優里もそれと同時に、またもや俺に背を向ける先程の姿勢に戻った。


あれー…えーっと、
これは一体…

「泣いてんの…?」

「うっせ。」

俺、空気読めてなかった、ってこと?

⏰:11/11/04 21:15 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#344 [ちか]
「や、あの…えーっと、…」

慰めの言葉が出てこない。
そりゃそうだ、何に泣いてるか分かんねえんだから。

でもただ一つ言えるのは、
なんかドキドキしてる俺が居るってこと。

異様な脈の上がりように戸惑い話を繋げられないでいると、優里が先に沈黙を破った。


「俺さ、明日手術なんだ。」

その瞬間、
ドクン、と心臓が跳ねた。

⏰:11/11/04 21:26 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#345 [ちか]
「…知ってる。」


さっきとは違う意味で鼓動が速くなる。
受け止めたくない現実がすぐ傍にあるのに、見たくなくて、でも見なきゃいけないみたいな、そんな時にピッタリの感覚。

アイツが死ぬ間際のあの時も、こんな感じだった。


思いの外落ち着いた声に優里はフッと笑う。

「じゃあ、その手術の成功する確率が40%ってことも知ってる?」

「…ああ。」

「なーんだ、強がる意味無しって感じか。」

一瞬見せた泣き顔とは裏腹におどけてみせるその声が、らしくなくて痛々しい。

⏰:11/11/04 21:39 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#346 [ちか]
「じゃあ、あんたにだけ本音言っちゃおっ かなー。」

ふいに声色が変わる。
陰を帯びた声。
少し震えている。

優里はそう言って上体を起こした。
背中は俺に向けたまま。

月明かりがちょうどスポットライトみたいにそんな優里を照らしていて、なんだか幻想的にさえ思えた。


暫くの沈黙のあと、再び優里が口を開く。


「………ほんとは手術、すっげー怖い。」


それはもうか細くて握り潰せてしまいそうな声。

頭より先に、体が、その震える声に触れようと手を動かしていた。

⏰:11/11/04 21:54 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#347 [ちか]
「…でもさ、」

が、またその手は優里の言葉に遮られるようにして止まった。

「よかった、最後に神崎に会えて。」

何を言ってるのか分からない。
いや、分かりたくないと言った方が正しいだろうか。

「なんだよ、最後って。」

じわじわと上がってくる底知れぬ感情を抑えようとするが、もはや出来ているかは分からない。

しかし優里はそんな俺に聞く耳を持たないようだ。

「もう会えないと思ってたからさ。これも俺が“最後”だから、神サマが仕向けてくれたのかな?なんつって…」

「だから、何言ってんだよさっきから…っ」

「だってもう俺、明日には死ぬかも知れな…、」

「おい…っ」


沸き上がった感情が俺を動かした瞬間だった。

⏰:11/11/04 23:17 📱:Android 🆔:zdlH.a0c


#348 [ちか]
ギュッ…――


気がつけば目の前の華奢な身体を力一杯抱き締めていた。

「かっ…神崎?」

動揺を隠せない様子の優里。
それは俺も同じだった。

バクバクと心臓が鳴る。
こんな密着した状態でお互いの鼓動はうるさいほどに伝わっていた。


俺はまた何して…っ

そうは思うものの、
抱き締めた腕を緩める気にはなれない。


そうか。

もう、そろそろ俺は自分の気持ちに気づかないといけないってことか。

⏰:11/11/05 00:41 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#349 [ちか]
回した腕にポタポタと滴が落ちる。


「なにこれ、俺夢でも見てんのかな?」

ふざけて見せるが、無理しているのがよく分かる声。
俺はさらに回した腕をきつくした。


「……俺が今ここに居るのも、お前が今生きてんのも夢じゃない。」



夢じゃないから…、

「だから、最後とか死ぬとか言うな。」

抱き締めた身体が小刻みに揺れる。

⏰:11/11/05 00:53 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


#350 [ちか]
「でも手術の成功率は40%しかないし…ッ」

「40%あれば十分だ。0じゃないなら、そこに望みを賭けろ。俺はお前が明日でも生きてるって確信持って言える。」



そんな根拠何処にある。
しかし、今の俺にそんなこと考える余裕など無かった。


「どっから来るんだよ、その自信…」

「知らん。」

現実味を帯びた質問を適当に受け流す。
これではどっちが大人かわかんねえな。



そんな風に俺たちは
抱き締め、抱き締められたまま小さく笑った。

⏰:11/11/05 01:04 📱:Android 🆔:uD4Ooo.M


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