漆黒の夜に君と。V[BL]
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#381 [ちか]
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「すっげー!!きれー!!」
「はしゃぎすぎんなよ。」
「わーかってるって!」
外出許可を半ば押しきる形でもらい、車を走らせること一時間とちょっと。
着いたのは、
「でも俺、海なんか見んの何年ぶりか分かんないからさ!なんか感動!」
2月ではまだ肌寒い冬の海。
:11/11/07 23:57
:Android
:YQF1SW5s
#382 [ちか]
「うわーまじ綺麗!」
そう言って目をキラキラさせながら海に近づいていく優里の背中を眺めながら、俺は一人考えていた。
本当のことを、本当の気持ちを話すなら海(ココ)がいい。
そう思って何日か前に来ることを決めた。
桜がまだ蕾のままなちょうど今と同じ季節、そして自分の過去、消せない約束と思い出。
すべてが最後には海に詰まっている気がして。
俺は結んでいた口を開いて優里に話しかける 。
「昨日、離婚届書いて日本(あっち)に送った。」
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:11/11/08 01:07
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:9R3No4Oc
#383 [ちか]
その瞬間、さっきまでキラキラと輝いていたその瞳に不安の影が宿る。
振り向いた優里に俺は宥めるような口調で言葉を繋いだ。
「安心しろ。別にお前のせいじゃない。」
そう、コイツのせいじゃなく
約束に依存してきた俺に対して
至って自業自得なことなのだ。
それでも少し眉をさげる優里に俺は苦笑いする。
「……ていうか、正直、はじめから好きだったのかどうかも分からない。」
こんなことを言うのは最低だと自分でも思う。
しかし、それが事実なのだから仕方ない。
コイツにはすべてを言うと決めたから。
:11/11/08 08:13
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:9R3No4Oc
#384 [ちか]
優里はますます分からないと言った表情で小首を傾げた。
「じゃあ、なんで結婚したんだよ?」
なんで、か。
そこにはやっぱり、あの約束があるんだよな。
俺は静かに話始めた。
「好きだった人と約束したんだよ。…幸せになるって。」
あの頃のすべてを。
:11/11/08 08:17
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#385 [ちか]
「まだ研修医だった頃なんだけどな。患者に惚れて、ちょうど今のお前みたいに、俺もそいつしか見えてなかった。」
自嘲気味にそう言って笑うと、優里も恥ずかしがるようなバツが悪いようなそんな顔をする。
その時、ゴォッと一瞬、突風が吹いて寒さが増す海の浜辺。
冷えすぎてはいけないと、海に近づきすぎな優里を手招きしながら話を続けた。
「でもそいつ癌の末期患者で。余命数ヵ月って宣告されてて。知り合って一年も経ってなかったけど、もうヤケクソで告白したよ。」
そう、
ちょうど今のお前みたいにな。
敢えて言わなくても分かるだろう、と思い口にはしないが。
「へ、返事は…?」
ちまちまと歩み寄ってくる優里に俺は笑いかけた。
穏やかに笑えているだろうか。
ここからは思い出しただけで胸が軋む。
:11/11/08 18:26
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:9R3No4Oc
#386 [ちか]
「いや、あっさり振られた。ていうか相手にされなかったかな。先生は医者で自分は患者だ、って言い張って、はじめは取り合おうともしなかった。」
「はじめは?」
あれま、勘のいいヤツだ。
俺の言葉の意図をちゃんと掴んでいる。
敢えて聞き返されると、もう顔は笑えてなかった。
「何度も何度も懲りずに好きだって言ってるうちにとうとうそいつの余命も残り一ヶ月になってな、そしたらそいつがポロッと言ったんだ。
“もう長くない人間と一緒になったって先生が不幸なだけだ”って。
なんかもう悔しくて、俺があんたを治すって言い張って、でもそんな俺にあいつはただバカだな、無理だよって笑ってたよ。
今考えたら、酷な話だよな。
患者本人の口から、無理とか治らないとか言わせるなんて。」
頭の中では
ちょうどまだ蕾の桜の木の下で悲しげに笑うあいつの顔が浮かぶ。
:11/11/08 18:40
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:9R3No4Oc
#387 [ちか]
しかし、“終わり”というのは不条理なもので。
どうしても“思い”より先に来てしまうんだ。
だから涙が止まらなかった。
気持ちだけ置いてけぼり喰らって、もうすぐ傍には別れだけが冷たく待っている。
それは医者を志す人間にとっては極当たり前のことでも、日常的なことでも、その時の俺にはとても堪えられることじゃなかった。
気づけばもう少しで綺麗な桜が見れそうな季節だった。
──────……あいつが、息を引き取ったのは。
「でも暫くして様態が急変した。
駆けつけた時には、すぐにでも消えてしまいそうな浅い呼吸でさ、ああ、これで終わりってやつなのかって思ったよ。
それで俺の顔が真っ青だったんだろな。うっすら目開けたそいつに、どっちが患者だか分かんないって、息も途切れ途切れなのに宥めるみたいに言われて、情けなくなった。俺、なんで今何も出来ないんだって。…───」
すっかり目の色を暗くした俺を、優里は心配そうに覗きこむ。
俺はそんな優里の頭をそっと撫でた。
:11/11/08 19:00
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#388 [ちか]
精密機器の音も段々聞こえないくらい、俺は周りが見えなくなった。
名前を呼んで辛うじて反応が見える程度と言ったところだろうか。
「ただ泣きそうな顔で見つめる俺に、そいつは震える手から自分がいつもつけてたネックレスを出してきた。
そんで言ったんだ。
“先生はちゃんと、素敵な人と幸せになって”、“コレ持ってたらきっと幸せになれるから。約束だよ。”って。…───」
そして俺がその手から零れるようにそれを受け取った瞬間、何か火でも消えたように静かに終わった。
あいつの人生。あいつの命が。
鮮明に今でも覚えている。
最後に見せた、精一杯の笑顔が。
:11/11/08 19:15
:Android
:9R3No4Oc
#389 [ちか]
「うそ…」
優里の目の奥が揺れる。
敢えてその目をすぐにそらして話を繋げた。
「それから、もう人を好きになれなくなった。
失うのが怖くて消したんだよ、感情を。
でも律儀に“約束は守らないと”っていう自分が居て、そんな時今の妻を紹介された。
それで普通に付き合って、普通に結婚して。
だけど、好きだったかって言われると分かんねえ。おかしな話だよな。そんな暮らしが2年くらい続いたんだけど、カナダ(こっち)へ研究に来る前日に、離婚届突き出されたよ。好きな男が出来たから別れてって。」
ザブンザブンと波の音が聞こえる。
自嘲気味な俺の笑いは拐われるように消えた。
チラリと優里を見るとこれまた複雑そうな顔で。
聞かせる方が酷な気さえする。
:11/11/08 19:32
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:9R3No4Oc
#390 [ちか]
「普通ならショック受けるんだろうけど、なんか俺納得出来ちゃってな。
やっぱ俺に人好きになることなんかもう無いんだろうなって思ってた。
でもやっぱりあの“約束”が気になって、こっちに来てからも離婚届にサイン出来ないでいた。
必死に“一般的な幸せ”を維持しようとしてたんだよ。
そんな時に、会ったのがお前。」
「……─────っ」
急に話の矛先が自分に向けられたことに驚いたのか、一瞬その体がピクリと跳ねる。
そして構えるような目線を俺に向けた。
そんな優里に俺は容赦なく言い放つ。
「正直、最初はお前のこと嫌いだった。」
:11/11/08 19:42
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