心霊夜話
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#181 [怪男]
「二人共…遅いねぇ」
キッチン越しからリビングの壁にかかっている時計を見ながら母・渓子がつぶやく。
「父さんの残業ってなんか久しぶりだね」
隣で食器洗いをする長男・勇紀も、母を横目で見ながら言う。
次女・夏美は黙って面倒くさそうな表情をしながら火の点いたフライパンの前に立っている。
「そうだねぇ。ま、残業手当てが出るからいいよね」
包丁片手に笑顔でそう言う母。
:12/01/16 16:40
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#182 [怪男]
だが、夏美がボソッとつぶやいた一言で和やかな場が一瞬にして凍りつく―
「浮気してたりして」
母・渓子の笑顔がピタリと止む。
「ちょっと夏美…父さんはそんな事しないよ…」
母の目が笑っていない表情を見た勇紀は慌ててフォロー発言するが、夏美はフライパンの上の肉を箸でつつきながら更に続ける。
「そう?前テレビで見たけどね。男が浮気する際に使う口実の第一位が“残業で遅くなる”だって」
口元をニヤリとさせながら夏美がそう言うと、母は包丁を持ったまま止めていた手を再び動かし、野菜切りを再開する。
特に何事もなかったかのように会話は終わったが、それからはキッチンでは誰も口を一切開かなくなった。
:12/01/16 16:42
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#183 [怪男]
「ただいま」
数十分後…父・幸宏が帰宅した。
ソファーで二人の帰りを待っていた妻・渓子は玄関からする夫の声を聞くと、重い腰をあげて玄関へと向かう。
「おかえり。残業お疲れ様ー」
「うん」
「一応夜食作っといてあるけど、食べる?」
「いや、いいわ。今日は疲れたし寝るよ」
「…そう」
玄関でそんな会話を交わした後、夫・幸宏はまっすぐ階段へ上がっていった。
妻・渓子も数秒間、夫の背中を見つめてからリビングへと戻る。
:12/01/19 05:11
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#184 [怪男]
一方、長女・美緒は重い足取りで夜道を歩いていた。
父親の同性愛者疑惑の事もあるが、それ以上に自分の忘れた携帯電話の事が気になっている。
携帯電話には風俗店や風俗店の社員の電話番号や、何度か来店する内に気が合い、交換した客の電話番号も入っている。
客からは頻繁に「今日店行くよ」などといった電話がかかって来るので、もし電話が来ていて、家族の誰かがその電話に出ていたら…などと考えると足取りも一層重くなる。
「はあ…」
しばらく歩いて家の前に到着し、ドアの前で足を止めた。
:12/01/19 05:13
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#185 [怪男]
ドアノブに手をかけるも、開けるのを躊躇う。
―娘が風俗店で働いているなんて知ったら両親は何て思うだろう?
―“なぜそんな所で働いているのか”と質問されたらどう答えればいいのだろう?
“稼げるから”なんていう理由は両親…特に母には通用しそうにはない。
家族皆からは、まるで別のものでも見るような目で見られるかもしれない。
大げさに言ってしまえば“家族崩壊の危機”である。
:12/01/19 05:14
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#186 [怪男]
次第にドアノブを握る手が汗ばむ。
“バレてしまったらその時はその時”
そう思うと同時に携帯電話の電源が入っていない事に期待して、ドアノブをゆっくり回してドアを開けた。
照明で照らされた明るい廊下が目に入る。
恐る恐る玄関に足を一歩踏み出してドアを閉める。
「た、ただいま」
力のない声で言い、靴を脱いでいると母・渓子がリビングから出てきた。
“もうバレているかもしれない”
そう考えると母の顔を見る事ができなかったが、母は美緒の姿を見るなり心配そうな声で
「おかえり、どこ行ってたのぉー」
と聞いてきた。
:12/01/19 05:16
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#187 [怪男]
その言葉から察するに、少なくとも母は何も知らないんだとわかった。
心なしか安心した美緒は胸をホッと撫で下ろして
「ごめんね。バイトの子が風邪で早退しちゃって…シフト延長になっちゃった」
と母の顔を見て苦笑いしながら言うと、途端に母の顔が強ばった。
「…お母さん?」
美緒がそんな母の表情に首を傾げていると、母は一言…
「アンタ…今日シフトなかったんじゃないの?店長から電話あったよ」
美緒の心臓がドクンと高鳴った―
:12/01/19 05:17
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#188 [怪男]
廊下がシーンと静まり返り、なんとも言えない緊張感が漂う。
美緒は目の前に立つ母の足元に視線をやっている。
今、母がどんな顔をしているのか知りたくないからだ。
きっと疑いの眼で自分を見ているんだと思っていた。
だが、しばらくして母は優しい声で
「とにかく中に入りなさい。お腹空いてるでしょ?」
と言いながら美緒の肩にそっと手をやった。
:12/01/19 16:38
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#189 [怪男]
置かれた手の方に視線をやってから、母の方に目を向ける。
母は優しく微笑んでいた。
だが美緒にとっては、怒る事なく笑みを浮かべているそんな母が少し不気味に思えた。
「すき焼きの余った材料で夜食作っといてあるから、食べなさい」
「う、うん…ありがと」
途中まで脱いでいた靴から足を抜いて、背を向けて歩き出した母の後を追うようにリビングへと向かった。
:12/01/19 16:39
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#190 [怪男]
「今、ご飯チンするからね。座ってなさい」
母の言葉に「うん」と小さく頷いてから美緒はリビングを見回した。
さりげなく携帯電話を探すも、リビングには見当たらない。
美緒は少しホッとした。
もしかしたら自分の部屋にあるかもしれないと思ったからである。
部屋には鍵がついている。
家を出る前に自分の部屋の鍵を閉めた事は確認しているので、もし携帯電話が部屋にあるのなら、今日一日は誰も自分の携帯電話に触れる事はもちろん、合い鍵もないので誰も部屋に入る事ができない。
:12/01/19 16:40
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