horrorU〜二重連鎖〜
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#1 [輪廻]
 
『horror』の続編になります(^^)


全3話構成の長編ホラーノベルをまったりと書いていきます。


主人公は前作に引き続き大学生・村井響歌と、求人広告を見て電話をし、デスネットに登録したフリーター・大槻狂也の2人の視点で物語が進行します。


前作
bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/12221/

⏰:11/12/23 13:02 📱:W62P 🆔:PPfKOIXU


#2 [輪廻]
プロローグ


―プルルルルルルル

電話の着信音でハッと目を覚ました。

枕元で鳴っているスライド式携帯電話を慌てて取り上げ、電話に出る前に時刻を確認する。

AM5:24―


『は…? こんな時間に誰だよ…』

朝っぱらからの電話に、都内のアパートに一人暮らしをする大槻狂也は文句を垂れながら発信者の番号に目をやった。


“03-XXXX-XXXX”

一瞬『誰の番号だよ』と思ったが、しばらくその番号をじっと見つめながら考えた結果…

彼はやっと思い出した。

⏰:11/12/23 13:12 📱:Android 🆔:DziUiHqc


#3 [輪廻]
 
 
『確か…デスネット…だったっけ?』

あれは去年の11月の事だった。

夜コンビニに行く途中、携帯電話をいじりながら歩いていると、地面にあった何かを蹴り飛ばしたような感触がした。

反射的に地面を見ると、狂也の少し先に今蹴ったと思われる、くしゃくしゃに丸められた白い紙のようなものが落ちていた。


何気なくそれを拾い上げてみると、やはりそれは紙であり


『(なんだ、ただのゴミかよ)』

そう心の中で呟いてから、勢いをつけて投げ捨てようと思ったが、ふと狂也の中に“何が書いてあるのか”という好奇心が芽生えた。

⏰:11/12/23 13:18 📱:Android 🆔:DziUiHqc


#4 [輪廻]
 
 
どうせ捨てるのなら見ておいてもいいな…と、狂也はその丸められた紙を徐々に開いていく。

そして内容が目に入った所で、思わず鼻でフッと笑った。

なぜならそれはただの求人広告だったからだ。

小学生や中学生が書いたラブレターとかであれば面白かったのに、それがただの求人広告で、狂也の好奇心は一瞬にして冷めて終わった。


一応どんな仕事なのか見ておこうと、広告の文章を声に出して読む。


『高収入! 誰にでもできるアルバイト急募! 詳しくはコチラへ……か』

“アルバイトで高収入”という部分を見て、狂也は再び鼻で笑った。

⏰:11/12/23 13:22 📱:Android 🆔:DziUiHqc


#5 [輪廻]
 
 
『(どうせ“裏”のアルバイトだろ)』

そんな事は安易に想像はできた。

このご時世に、ただのアルバイトで高収入を得られるなどと。


割にあった仕事と言えば、本当にあるのか都市伝説なのかは知らないが“死体洗いのアルバイト”などだろうかと。

狂也は金を貰ってまで人様の死体を洗いたくはないし、もちろん見たくもないと思った。

だが、なぜか狂也は無意識のうちにその紙を三つ折りにしてポケットにねじ込んでいた。

⏰:11/12/23 13:26 📱:Android 🆔:tTjQE9tY


#6 [輪廻]
 
 
多少忘れっぽい所がある狂也はコンビニで本を長時間立ち読みして、帰る頃にはポケットに入れた紙の事などはすっかり忘れ、再びその求人広告の事を思い出したのは翌年新年を明けてからだった。

あれから家で脱ぎ捨てて放置していたジーンズを洗濯する時に、そのポケットに手を入れると、三つ折りにされたシワシワの紙を見つけ…


『(なんだ? これ)』

と首を傾げながらその紙を開いていく。


『高収入アルバイト……あ!』

彼はすぐに思い出した。

といっても、紙を見つけるまでは永遠に思い出す事はなかったと思うほど忘れっぽい性格であった。

⏰:11/12/23 22:17 📱:Android 🆔:8/T0Ug0Y


#7 [輪廻]
 
 
バイトもしばらくは正月休みで暇だった事もあり、狂也はその紙に書かれた電話番号に電話してみる事にした。


『03の…』

声に出しながら的確に番号を押し、最後に
発信ボタンを押す。

数秒間呼び出し音が流れた後…


『お電話ありがとうございます。ご用件をどうぞ』

と女性の声で言うのだが、その声は人の肉声ではなかった。

そう、まるで機械が喋っているような。

⏰:11/12/23 22:20 📱:Android 🆔:OFicznwA


#8 [輪廻]
 
 
戸惑いながらも、狂也は切り出す。


『あの、すみません…高収入アルバイトの 紙見て電話したんですけど』

すると向こうは、間を3秒もあける事なく即答してきた。


『お電話ありがとうございます。
電話をして頂いた時点でデスネットへの入会、 及び登録が完了致しました。
登録手数料などは一切かかりません。
お仕事の内容が決まり次第、こちらからお電話させて頂きます。
5分後、折り返しくる電話に、お名前とご住所と通帳口座番号をお伝えください。
入会・登録ありがとうございました』

機械の声は長々とそう言うと、狂也が返事をする間もなく電話はプツッと切れた。


『なんだよ…』

すでに切れた電話口に向かって狂也はキレ気味に呟く。

⏰:11/12/23 22:22 📱:Android 🆔:iCmIXz56


#9 [輪廻]
 
 
仕方なく5分後の電話を待とうと携帯電話を耳から離した時、ふと感じた疑問が口に出た。


『あれ? 面接とかないの?』

そう言えば電話で面接についての話がなかった気がする。

こちらが電話をした時点で入会、登録が完了したと言っていたが、本当にこれでいいのだろうか?

折り返しの電話に名前や住所…通帳の番号までも伝えろと言っていたが、果たして本当に教えていいのだろうか?

色々な疑問が頭の中を駆け巡った。


が、やがて笑みがこぼれ…


『デスネット…聞いた事ないな。
どんな仕事するかも知らないけど… まっ、面接無しで決まっただけでもよしとするか!』

とガッツポーズをとりながら言った。

⏰:11/12/23 22:27 📱:Android 🆔:PTe1hKCA


#10 [輪廻]
 
 
そして折り返しの電話がくるのを嬉しそうに待っていると…


―プルルルルルルル

電話の機械の声が言っていた通り、本当に5分後に携帯電話の着信音が鳴った。


『は、はい!』

ハッと我に帰り、慌てて電話に出る。


するとまた機械の声で

『お客様の情報を登録致します。
まずお名前とご住所を言ってから最後に#ボタンを押してください』

『…はい! 名前は大槻と言います。住所は…………』

これが狂也にとって戦慄のアルバイトになる事など、今の彼には予想すらできていなかったー

⏰:11/12/23 22:31 📱:Android 🆔:dzwQNiVQ


#11 [輪廻]
プロローグ2


新年を向かえ、中学の新年会も含めた同窓会を行う為、会場へ向かう村井響歌達。

その道中、同級生の運転する車内で響歌と友達の桐谷蓮、井本七瀬は、同乗している同級生から高収入アルバイトをしている事を聞かされた。

蓮がどんな会社かを尋ねると、同級生から衝撃的な答えが返ってくる―


それは“デスネット”という会社だと。

響歌、蓮、七瀬の3人はその場で一瞬にして凍りついた。

同級生は『どうかしたの?』と何度も聞いてきたが、3人は何も返す言葉がなかった。

⏰:11/12/23 22:37 📱:Android 🆔:FnnF8gLw


#12 [輪廻]
 
  
それからは無言のまま、出発から約1時後、同窓会の会場へと到着する。

駐車場に停めた数台の車から同級生がガヤガヤと降りはじめ、響歌ら3人も重い足取りで降りた。


『わお! こんな豪華な旅館で同窓会? テンションあがるわぁ!』

外観を見渡しながら同級生の一人が騒ぐ。

皆の目の前には、最近新しくできたと思われる大きな旅館があった。

少しして、今回この同窓会を企画した大柄な幹事が皆の前頭に立つ。


『はいはい、ではでは! 早速中に入りましょう!』

やけにテンションが高い幹事の一声に、一同も盛大に盛り上がった。

⏰:11/12/24 09:15 📱:Android 🆔:xjHyypq6


#13 [輪廻]
 
  
一方、響歌と蓮は旅館の外観を見ながら黙りとする。


『2人共、どうかした?』

隣にいる七瀬が、そんな2人の顔を交互に見ながら聞く。


『あ、いや…なんでもねえよ』

『うん…気にしないで』

『……そう?』

首を傾げつつ、再び幹事の方に向きなおす七瀬。


『では中へ!』

そして皆はぞろぞろと旅館の中へ入っていくー

⏰:11/12/24 09:17 📱:Android 🆔:xjHyypq6


#14 [輪廻]
 
  
デスネットの事を聞いて内心不安や胸騒ぎはあったが、旅館で同級生と昔の話をしたり、豪勢な食事をしたりで、その事は次第に忘れていく3人だった。

時間も深夜0時を過ぎ、皆は話疲れたのか誰も口を開かなくなっていた。


そんな周りを見た幹事は、いきなり立ち上がって


『なあ皆! これから肝試しでもしないかい?』

と提案した。

同級生らは、一斉に幹事の方を見る。

⏰:11/12/24 09:19 📱:Android 🆔:xjHyypq6


#15 [輪廻]
 
 
しばしの沈黙の後…


『肝試しか…そういえば中学の修学旅行でやったよな』

同級生の一人が懐かしそうに上の方を見上げて呟いた。


『じゃあやりましょう! この近くに最近起きた通り魔殺人事件の現場があるらしいから、そこで!』

その幹事の言葉に、今度は歓声があがる事はなく、部屋の中は再びシーンと静まり返る。


『あれ? 殺人現場はさすがにマズかった?』

同級生らの何か言いたげな雰囲気を悟ったかのように幹事は苦笑いしながら言った。

⏰:11/12/24 09:21 📱:Android 🆔:xjHyypq6


#16 [輪廻]
 
 
『肝試しっていったら普通は墓地とかじゃない? この辺にあるかわからないけど』

そんな中、気が強そうな女の同級生が真顔で返す。

彼女のその言葉に一同は『そうだそうだ』と幹事に訴えかけるように連呼する。


『わかったわかった! ちょっと調べてみるから待ってて!』

数十人の大ブーイングに圧倒された幹事は、なだめるように言って鞄から携帯電話を取りだし、何やらカチカチといじりはじめた。


『ほんとに肝試しなんてやるのかな…』

静まり返った部屋で響歌が小声で蓮と七瀬に言う。

⏰:11/12/25 11:10 📱:Android 🆔:35VMJZ/I


#17 [輪廻]
 
  
すると、蓮が応える前に七瀬が

『この同窓会が終わったら、またこうして皆で集まる機会はなくなるかもしれないし、今のうちの思い出作りにはいいんじゃない?』

と笑顔で応えた。

そんな七瀬を見て、響歌も自然と笑みがこぼれる。


『そうだよね。肝試しなんて中学の修学旅行以来だしね』

『でしょ? 楽しもうね!』

2人は顔を見合せて小さく笑い合った。

⏰:11/12/25 11:12 📱:Android 🆔:35VMJZ/I


#18 [輪廻]
 
  
『俺はほったらかしかよ…』

笑い合う2人の横で蓮はボソッと呟く。


『あっ! そうだ!』

と…突然、響歌が何かを思い出したように笑いを止めて言った。


『どしたの? 村井』

『なに? 響歌…いきなり』

蓮と七瀬は響歌を見つめ、響歌の方も蓮と七瀬の顔を交互に見る。


3人の間でしばしの沈黙が続いた後…


『あ…や、やっぱりなんでもないや! 忘れて!』

『え…何? 気になるんだけど』

『つか村井、顔赤くね? 酒あんま飲んでなかったよな?』

同窓会の待ち合わせ場所である中学校に蓮と七瀬が来た時、2人が手を繋いでいた事と、普段は誰にでも苗字で呼ぶ蓮が七瀬の事を下の名前で呼んでいた時から、胸騒ぎがしていた響歌。

その胸騒ぎを収める為に今の2人の関係を単刀直入に聞こうとしたが、真っ直ぐに響歌を見つめる2人に圧倒され、途端に聞く勇気が出なくなっていた。

⏰:11/12/25 11:14 📱:Android 🆔:35VMJZ/I


#19 [輪廻]
 
  
そんな時、蓮の方も何かを思い出したように小声で言ってきた。


『…そうだ。2人共、ちょっと廊下出れる?』

『…え? いいけど…なんで?』

首を傾げながら聞き返す響歌。


『忘れたのかよ。車の中で安井ちゃんが言ってただろ。デスネットでバイトしてるって…』

それを聞いて響歌と七瀬は揃って『あっ!』と口にした。

⏰:11/12/25 11:16 📱:Android 🆔:35VMJZ/I


#20 [輪廻]
 
  
『シっ! とにかく…俺が最初に出ていくから、2人は5分くらいしたらトイレ行ってくるとか言って部屋から出ろ』

『わ、わかった…』

響歌と七瀬が小さく頷くと、蓮はスッと立ち上がり

『ちょっとトイレ行ってくるわ』

と、携帯電話の画面を見ている幹事に向かってそう言い、部屋の障子を開けてそそくさと廊下へ出て行った。

やましい事をしている訳ではないのに、なぜか緊張感が2人を襲う。


早くも5分を過ぎ、響歌と七瀬がゆっくり立ち上がって

『えっと、私達もト……』

と響歌が言いかけた時…


『あったぁ!!』

突然の幹事の大声によって、響歌の声は見事にかき消された。

⏰:11/12/25 11:19 📱:Android 🆔:Gj0icVzI


#21 [輪廻]
 
  
『ちょっと! いきなり大声出さないでよ!』

先ほどの気の強そうな女同級生が思わず立ち上がって言う。


幹事は、女同級生を見上げて後頭部を爪でぽりぽりと掻きながら

『いやぁ…ごめんごめん。それより、この旅館の裏にある林を少し歩いた先に墓地があるって!』

と嬉しそうに言う中…


『ナナ…今のうちに出よ』

響歌が七瀬に耳打ちし、幹事らが騒いでいる時に2人はどさくさにまぎれて、その部屋を出た。

⏰:11/12/26 11:49 📱:Android 🆔:m1XbORJ.


#22 [輪廻]
 
  
広めの廊下へ出て辺りを見回すと少し離れた所に、ポケットに手を突っ込んで壁に背をついている蓮がいた。


『蓮!』

七瀬が手を振りながら小さい声で呼ぶと、蓮は2人に気がつき、傍に駆け寄ってくる。


『遅かったな』

『ごめん、ちょっとあって。ね? 響歌』

『うん。ちょっとびっくりしちゃった…』

『ふうん…まあいいや。それより、安井ちゃんが言ってた事だけど…』

蓮は早速本題を切り出す。

⏰:11/12/26 11:51 📱:Android 🆔:m1XbORJ.


#23 [輪廻]
 
 
『確かに、デスネットでアルバイトしてるって言ってたよね…』

『うん、言ってた言ってた』

『変だよな…。だって、デスネットって元々俺らの中学の時の副担が復讐の為に始めたサイトの事なんじゃねえの?』

『たまたま同じ名前の会社だったって事は…?』

『そんな名前の会社聞いた事ねえよ。七瀬…お前は聞いた事ある?』

『ううん、あたしもないな』

3人はそう話した後、難しい顔をしてじっと考え込む。

⏰:11/12/26 11:52 📱:Android 🆔:m1XbORJ.


#24 [輪廻]
 
 
『…あっ!』

数分後、突然あげた響歌の声に蓮と七瀬は驚いて、一瞬体をビクッとさせる。


『響歌、どうしたの?』

『あの男…』

『…え? あの男って?』

七瀬が聞き返すと、蓮はすぐに誰の事かわかったように眉をしかめながら言った…


『あの警官なりすまし野郎の事か?』

『…うん。あの人言ってたの…“ゲームはまだ終わらない”って』

『あのオッサンがそんな事を? そういえばここ最近は俺達の前に姿を現してないよな』

『あの人、何を考えてるのかわからない。
私を殺そうと思えばいつでも殺せるはずなのに…襲ってこようともしないんだよ』

難しい顔をしながら、うつむき加減で言う。

⏰:11/12/26 11:54 📱:Android 🆔:m1XbORJ.


#25 [輪廻]
 
 
『どっちにしろ奴が犯罪者な事には変わりないんだし、そんな奴の気持ちをわかってやる必要なんてねえよ…』

『そうなんだけどさ…何を考えてるのかわからないからこそ、次に何をしてくるかわからないじゃん』

『まあ、次何かしようとしてきたら俺が止めるけどね』

自信満々に言う蓮に、響歌は気付かれないようにクスッと小さく笑う。


『とりあえず、後で安井ちゃんにデスネットの事詳しく聞いてみるわ』

蓮がそう言って3人顔を見合せていると、後ろの部屋の障子がスッと開き、そこから幹事がひょっこり顔を覗かせた。

⏰:11/12/26 11:57 📱:Android 🆔:m1XbORJ.


#26 [輪廻]
 
 
『話し声が聞こえると思ったら…3人で何やってるの〜?』

ニコニコ顔でそう尋ねながら3人の方に歩いていく。


『いや、なんでもねえよ。それより墓地は見つかった?』

『ああ、バッチリ! それで、今から行くか行かないか多数決をとってるんだけど、皆はどっちがいい?』

『俺はいいけど、村井と七瀬はどうする?』

そう言いながら2人の方に目をやる蓮。


『あたしもいいよ。響歌は?』

『え…あ、うん…いいよ』

一瞬ためらう響歌だったが、どの道行く事になりそうだったので、首を縦に振って頷いた。

⏰:11/12/27 15:10 📱:Android 🆔:Vqta6GbI


#27 [輪廻]
 
 
『よし! これで行きたい人が11人で、行きたくない人が8人! よって、肝試し決行!』

『行きたくない人そんなにいるんだ』

七瀬が驚いたように言う。


『そりゃ、墓地に行って霊を連れて帰っちゃうって事もあるからな』

『帰ったら塩撒けばいいだけなのにね』

蓮と七瀬の和やかそうな会話を、興奮気味の幹事が遮る。


『さあさあ! じゃあ3人共、中に入って! 肝試しの計画を立てるから!』

幹事の無駄に大きな声が廊下中に響き渡った後、3人は彼の後に続いて再び部屋の中に入った。

⏰:11/12/27 15:12 📱:Android 🆔:G/gAzf86


#28 [輪廻]
 
 
『…じゃあ皆さん! これから墓地に行きます! さっき話した通り、2〜3人組で墓地の中をぐるっと一周して戻ってくるという事で!』

こうして、一同は荷物を持って墓地へと向かった。


旅館の裏にある林道から入り、10分ほど歩いた所に、墓地はあった。

『はい、じゃあここで2〜3人組を作ってください!』

到着するなり幹事に言われ、皆はしぶしぶ行動する。


『俺は安井ちゃんと組むわ』

蓮は響歌と七瀬にそう言ってから、大人数の中、安井を探しにいく。

⏰:11/12/27 15:14 📱:Android 🆔:FgjiK2UE


#29 [輪廻]
 
 
『じゃあ響歌、あたしと一緒に行こうよ。男なんかいなくても、あたし達だけで大丈夫だよね?』

『…そうだね』


少しして、それぞれ組む人同士が固まり、決まったのを確認してから幹事がニヤニヤしながら言った

『はい! では…誰からいきます?』

誰も名乗り出ず、しばらくシーンと静まり返った後、一人が手を挙げる。


『じゃあ俺達からで』

皆がその声の方に目をやった先には、蓮と安井がいた。


『おお、桐谷! 君達から行っちゃう? 度胸あるね!』

『いや…さっさと終わらせて帰りたいだけ』

涼しい顔でさらっと言う蓮に、一同は『おお!』と小さな歓声をあげる。

⏰:11/12/27 15:16 📱:Android 🆔:fxxBpVP2


#30 [輪廻]
 
 
『安井ちゃん、行こ』

『桐谷くんって男らしいんだね。変わってないなあ!』

『いや、男だし』

蓮と安井はそんな会話をしながら、墓地の中へと入っていった。

残された皆はそれぞれ、その場にしゃがみ込んだり、携帯電話をいじったり、雑談をし始める。


『あたし達も座ろっか』

響歌と七瀬は、近くに置かれている大きな石の上に腰を下ろした。

⏰:11/12/27 15:17 📱:Android 🆔:uM9k8Kw.


#31 [輪廻]
 
 
『きゃああああっ!!』

遠くから安井の悲鳴が聞こえたのは、2人が墓地へ入って5分ほど経過した頃だった。

その場にしゃがみ込んでいる同級生らは、その悲鳴を聞いて思わず立ち上がる。


『え、なになに!? もしかして幽霊でも出てきたのかな?』

女同級生がテンション上がり気味に、墓地の奥の暗闇を見ながら言い…


『2人共〜! 何かあったの〜!?』

幹事も、ものすごい大声で暗闇に向かって叫ぶように言う。

しばらくして、奥からばたばたと走ってくる足音が聞こえ、血相を変えた安井が現れた。

⏰:11/12/28 11:30 📱:Android 🆔:wxhLVm72


#32 [輪廻]
 
 
『安井、どうしたの? 桐谷は?』

男同級生が、体を震わせている安井に向かって尋ねる。


『い…いきなり…ナイフ持った男の人が…あ、現れて…』

安井は震わせた声でそう言うと、その場にいた皆の体が固まった。


『そ、それで桐谷…は?』

恐る恐る聞き返す幹事も、みっともないほど動揺している様子だった。

響歌と七瀬は同時に大きく息をのんで、安井の言葉を不安げな顔で聞く。

⏰:11/12/28 11:31 📱:Android 🆔:akMYcjjE


#33 [輪廻]
 
 
すると安井は放心状態になりそうなのを抑えつつ、ゆっくり話し始める。


『あ、歩いてたら桐谷が…木の根元に誰かいるって言って…近づいたら…そこからナイフを持った人がいきなり飛び出してきて…』

『か、顔は見たの?』

『いや…顔は暗くて見えなかったけど…ナイフの刃は見えた…』

『それで桐谷は!?』

『わからない…。ただ、私に“お前は早く逃げろ”って…』

それを聞いた七瀬は『キリ!』と大声をあげると、誰も止める間もなく、一人で墓の奥へと走っていった。

⏰:11/12/28 11:33 📱:Android 🆔:A8mKg7FU


#34 [輪廻]
 
 
『…ナナ!』

響歌の声も、すでに届かない…。


しばらくの沈黙の後、男同級生が幹事の目の前に行き、胸ぐらをグッと掴むと、下から幹事を睨みながら

『おい! もし桐谷に何かあったら、こんなくだらねぇ肝試しを提案したテメェの責任だかんな!』

と言って手を放すと、彼も墓の中へと走って行った。


『田中まで行っちゃった…どうすんの?』

『こ、こんな時は普通警察に電話じゃないの?』

『3人共、大丈夫かなぁ…』

次第に、皆がガヤガヤと騒ぎ始める。

⏰:11/12/28 11:35 📱:Android 🆔:XXELG/RQ


#35 [輪廻]
 
 
幹事は責任を感じているのか、すっかり口を開かなくなり、その場に呆然と立ち尽くしていた。


響歌は、地面にしゃがみ込んで身体を震わせている安井の隣にしゃがみ、声をかける。

『ちょっと…いいかな?』

『…………』

安井はゆっくり響歌に視線を向けると、無言で小さく頷いた。

『襲ってきた人…顔少しでも見えたりしてない?』

『…………』

響歌の質問に、彼女は何度も首を横に振る。

すっかり怯えきった彼女にそれ以上何も言う事ができず、響歌は再び立ち上がった。


『皆…無事でいて…』



プロローグ【完】

⏰:11/12/28 11:38 📱:Android 🆔:IKxaRu/6


#36 [輪廻]
 
 
 
第1話『戦慄の序章』
 

前編・狂也篇
 
 
 

⏰:11/12/29 09:52 📱:Android 🆔:fIZxwcg.


#37 [輪廻]
朝っぱらから鳴り響く携帯電話の着信音。

狂也は発信者番号を少し見つめてから、眠たい目をこすりながら通話ボタンを押して電話に出る。


『はい……もしもし……』

ダルそうな声で出ると…


『大槻様でいらっしゃいますか? こちらデスネットの者ですが』

今度は機械を通した女性の声ではなく、男性の肉声が返ってきた。


『ああ…はい、そうですけど…』

寝ぼけ眼と声で言い返すと、電話の向こうの男性は少し間を空けてから…

『おいコラ、なんじゃその態度は! ボケ!』

と、突然豹変し怒鳴り声をあげてきた。

⏰:11/12/29 09:54 📱:Android 🆔:gmdcApg.


#38 [輪廻]
 
 
その声に驚いた狂也は、携帯電話を耳に当てたまま反射的に布団からガバッと起き上がる。

その一喝で眠気が一気に吹き飛んだのは言うまでもなかった。


『ご…ごめんなさい、ごめんなさい!!』

その場で、頭を何度もペコペコと下げながら謝る。

すると男性は、また間を空けてから…

『では大槻様。今回は、いくつかご紹介できるお仕事が見つかりましたので御電話を差し上げました』

さっきまでの怒鳴り声とは一変して、再び紳士的な声に戻った。

⏰:11/12/29 09:57 📱:Android 🆔:bJyDVTGE


#39 [輪廻]
 
 
『…………』

その声の変わり様に、狂也はしばらく口をポカーンと開けたまま黙る。


『大槻様?』

『あ! は、はい! すみません!』

『では早速、いくつかのお仕事の内容を説明をさせて頂きます。メモなどに取っておいてください』

『は、はい!』

またいつ怒鳴り声が飛んでくるかわからない恐怖にすっかり縮こまりながらも、その辺にある紙とボールペンを素早く手にする。


『いいですか? では……』

どんな仕事なのかとドキドキしながら息をのむ。

そして、少し間を空けてから言った男性の言葉に、狂也の身体が一瞬にして固まる…


『一つ目。内容は簡単です。
……女性の遺体を山に埋めてください』

⏰:11/12/29 10:07 📱:Android 🆔:6yBJBiY.


#40 [輪廻]
 
 
“は? この人は何を言っているんだ?”と思った。


『……遺体を…埋める……?』

『そうです。簡単ですよね?』

この時“この会社もこの人もまともではない”と直感で思った。

しばらく無言のままでいると…


『おいコラ! …聞いてます?』

再びヤクザのような声で一喝した後、また紳士的な声に戻す。


『や…やめます…いいです!』

さすがにヤバいと感じた狂也は、パニックになりながら震えた声で断った。

⏰:11/12/29 10:10 📱:Android 🆔:sND6McsE


#41 [輪廻]
 
 
一つ目から有り得ない内容の仕事なのだから、他も同じようなものに違いないと。


しばらくして電話の男性は、怒鳴る事なく冷静にこう言い放った。

『あなた…殺しますよ?』

そのやんわりとした口調と、言った言葉の内容にどこか気味悪さを感じ、一瞬背筋が凍った狂也だったが、冷静に思い返してみる。


『(…殺しにくる? 場所もわからないのにどうやって殺しに来るっていうんだよ)』

そう考えると自然に笑みがこぼれてきたが、次の男性の一言でその笑みはすぐに引っ込む事になる。

⏰:11/12/30 14:10 📱:Android 🆔:j9L9UqqY


#42 [輪廻]
 
 
『どうせハッタリだ…とか思っていられるのでしょうが、そちらの個人情報等はすべてこちらの方で保管されていますので、調べればすぐにわかりますよ…住所くらい』

そう言われて、冷や汗をかく狂也。

そして思い出したのだ。

求人の紙を見て電話をする際に、名前や住所など向こうに完璧に教えた事に…。


1月の始めだというのに、狂也の顔や身体からは大量の汗が吹き出ていた。


『…や…やります…』

自分のやった事に後悔しつつも、声と身体を震わせながら呟くように言う。

すると男性は何事もなかったかのように再び仕事の話をし始めた。

⏰:11/12/30 14:11 📱:Android 🆔:j9L9UqqY


#43 [輪廻]
 
 
仕事の内容は2つ目以降になるにつれ、狂也の思った通り、猟奇的なものであったり、残虐なものだったりと、絶対に関わりたくはないようなものばかりだった。

『お仕事の内容は以上です。ではこの中からおひとつお選び頂いたら改めて電話を頂けますでしょうか?』

『…あ、あの…今すぐ決めちゃってもいいですか?』

『はあ、構いませんが』

仕事は全部で5つ。

狂也は一つ目の“女性の遺体を山に埋める”以降の仕事はあまりにも残虐でできそうにないので、これ以外は考えられなかった。

『一つ目の…遺体を埋める仕事というのを…お願いします…』

⏰:11/12/30 14:12 📱:Android 🆔:j9L9UqqY


#44 [輪廻]
 
 
『了解致しました。では早速、本日午後7時に指定された場所へご足労願いますか?』

『えっ? 今日…ですか?』

『…何かご予定でも?』

『いえ、特には…』

『では、本日午後7時にセブンイレブン南3丁目店の駐車場へお願いします。
目印は黒いワゴン車との事ですので、お忘れのないよう…』

男性が丁寧にそう言うと、電話はプツッと切られた。


『南3丁目……遠い』

真っ暗になった携帯電話の画面を見つめながら呟く…と同時に何か違和感を感じた。

⏰:11/12/30 14:13 📱:Android 🆔:j9L9UqqY


#45 [輪廻]
 
 
何に対して違和感を抱いたのかは、忘れっぽい所がある狂也でもすぐにわかった。

『目印は黒いワゴン車…“との事”?』

この“との事”という部分が引っ掛かったのだ。


それというのも、指定場所へ来るのは当然デスネットの関係者だと思っていたからだった。

だが今の言葉はまるで、女性の遺体を埋めて欲しい別の何者かがいるという事を感じさせる。


狂也は違和感の正体に気づいたと同時に不安感、そして恐怖感へと変わっていった―

⏰:11/12/30 14:14 📱:Android 🆔:j9L9UqqY


#46 [輪廻]
 
 
どうすればいい…?

頭を抱えて必死に考える。


しばらくして、顔をゆっくり上げ…

『(警察…。こういうのって警察に言えばなんとかしてくれるよな…)』

という安心な方法を思いついたのだが、もしも警察に通報してしまうと、通報したという事で今後、自分の命が狙われるかもしれない。

そう考えると、あまりにもリスクが高すぎて通報するのを躊躇ってしまう。


だからといって“女性の遺体を埋める”という行為をしてしまった時点で、自分は犯罪者になってしまう。

どの道、逃げ場はないと思った。

⏰:11/12/31 23:51 📱:Android 🆔:z6b5A5a6


#47 [輪廻]
 
 
個人情報を向こうが握っている以上、彼らに従うしかないのか、と自分に問いかける。

いや、でもでも…と再び頭を抱える。

それの繰り返しだった。


そんな状態が30分ほど続き、考えた結果、狂也はある事を決めた。

机に置いた携帯電話をサッと手に取り、着信履歴からデスネットへ電話をかける。


数秒呼び出し音が鳴った後、ガチャッという音と共に向こうは電話に出た、と同時に聞き覚えのある声がした。


『お電話ありがとうございます。ご用件をどうぞ』

そう。あの機械で喋る女性の声である。

⏰:11/12/31 23:53 📱:Android 🆔:z6b5A5a6


#48 [輪廻]
 
 
『あの…責任者の人をお願いします』

先ほど電話した男性の名前は聞いていなかったので、とりあえずデスネットの責任者の人を出して貰うよう伝える。


『かしこまりました、少々お待ちください』

向こうがそう言い、しばらく音楽が流れた後、あの男性が電話に出た。


『お電話代わりました。デスネットの日向と申します』

『あの…大槻と言いますが…』

『大槻……ああ、先ほどの。どうかされましたか?』

またいつ怒鳴られるかわからないが、狂也は息をのんでから思い切って切り出す。


『お、お金はいらないので…遺体を埋める仕事が終わったらデスネットを辞めさせてください!』

⏰:11/12/31 23:54 📱:Android 🆔:z6b5A5a6


#49 [輪廻]
 
 
言ってしまった。

絶対に怒鳴られる…そう思って携帯電話を耳から少し離す。


だが、あの『オイ!』などという一喝は聞こえてこなかった。

再び携帯電話を耳に近づける。

男性は少し無言の状態を続けた後、冷静に口を開いた。


『それは……殺されても良い、という事ですね? 』

『……え?』

何かの聞き間違えだろうかと思い、聞き返す。


『ですから…殺されても良いという事ですよね? 』

やはり聞き間違いではなかった。

⏰:12/01/01 00:03 📱:Android 🆔:sM1doH3s


#50 [輪廻]
 
 
なぜ、仕事を辞める=殺されるという結論になるのか理解できない狂也は、怒鳴られるのを覚悟で問う。


『なんで辞めるって言ったくらいで殺されなきゃならないんですか?』

なぜだか腹が立ってきて少し強気に言うと、男性は電話の向こうで、鼻で小さくフッと笑った。


『大槻様…あなた、お年は?』

『え……に、24歳ですけど』

『まだまだガキって事ですね。社会のルールもわからないのでは、この先苦労しますよ?』

そう語る男性に“人に遺体を埋める仕事をさせる奴が何を言っているんだ”と思った。

⏰:12/01/01 00:10 📱:Android 🆔:VmOWdgJU


#51 [輪廻]
『どうなさいますか? 辞退という事であれば…さきほど申し上げた通り…』

『わ、わかりました…やります』

向こう…デスネットは自分の個人情報を握っている。

ここでその仕事を辞退すれば、後々とんでもない事になるのは火を見るより明らかだった。


『わかりました。では本日、指定の場所へよろしくお願い致します』

そう言って電話は切られた。

⏰:12/02/16 09:29 📱:iPhone 🆔:fMUUjEps


#52 [輪廻]
 
 
狂也は持っていた携帯電話を耳から離すと、今にも潰れそうな勢いで電話をぎゅっと握りしめた。

そしてあの広告もビリビリに破き、悲鳴にも似た叫び声をあげた。


『くそおおおおおおお!!』

後悔の念がぐっと押し寄せる。


だが後悔した時にはすでに遅かったー
 
 

⏰:12/02/16 09:48 📱:iPhone 🆔:fMUUjEps


#53 [輪廻]
 
 
PM6:55ー


電車を使い、指定された南3丁目のコンビニへやって来た狂也。

周りを気にしながらふと駐車場の方に目をやる。


すると、電話の男が言っていた通りの黒いワゴン車がそこに一台停車していた。


狂也は一瞬その場から今にも逃げ出したい衝動にかられたが身体が徐々に震え出し、いう事をきかず、一歩一歩ゆっくりとそのワゴン車の方に近づいて行く。

⏰:12/02/17 11:48 📱:iPhone 🆔:zyEBEpdQ


#54 [輪廻]
 
 
カーテンでもかけられているのか、こちらから車内の様子は全くわからない。


それで狂也は確信した。

この車内には、これから遺棄しようとしている死体があるのだとー


その瞬間

『“今ならまだ間に合う。コンビニの店員に言って警察を呼んでもらうなら今しかない”』

心の中のもう一人の自分がそう言った気がした。

⏰:12/02/17 12:01 📱:iPhone 🆔:zyEBEpdQ


#55 [輪廻]
 
 
だが身体は相変わらずいう事をきかず、ついに狂也の足は車の目の前まで来た。

車の運転席にもカーテンがかかっており、中の様子を伺う事は一切できない。

こちらから何かしら合図を示さなくては反応がなさそうである。

心の中のもう一人の自分はまだ

『“よく考えろ”』

と何度も警告している気がした。

⏰:12/02/18 17:15 📱:iPhone 🆔:P0qxpD7c


#56 [輪廻]
 
 
だが、もしここで逃げてしまったら…という事を考えると、考えたくもない事が自分の身に降りかかってしまうー

狂也は意を決して、車の運転席の窓を軽くノックした。


少しして運転席にかかっているカーテンがシャッと開かれ、窓越しに年齢50代くらいと思われる小太りの男性の顔が覗いた。

どこにでもいるサラリーマンのような男の顔を見た狂也は、心なしか安心する。

⏰:12/02/18 17:16 📱:iPhone 🆔:P0qxpD7c


#57 [輪廻]
 
 
やがて窓がスーッと開き、男が顔を出すと『乗れ』と手で助手席の方を示す合図をする。

狂也は言われた通り、車の後ろから回り込み助手席の方へ小走りで向かう。

ドアを開け、すぐ乗り込むと車はすぐに発車した。


走り出して数分が経った時、ようやく運転席の男が顔を前に向けたまま口を開いた。


『……名前は?』

そう冷静な口調で尋ねられた狂也は、それとは裏腹にあたふたしながら返答する。


『お…大槻狂也です』

『…電話で言ってた名前で間違いねえか』

男はそう独り言のようにつぶやいたのを最後に、車内は再び無言状態になった。

⏰:12/02/18 19:20 📱:iPhone 🆔:K03n5Vow


#58 [輪廻]
 
 
こちらから聞きたい事は沢山あるのだが、このなんともいえない雰囲気に飲み込まれ、口を開くことができない。

この車内に人間の死体があるのだと思うと、余計に。


出発して小一時間ほどが経過した頃、車は街を大きく外れ、暗い山道に差し掛かった。

死体を埋めるには最適と言わんばかりの夜の山。

自分はこれから犯罪者の手伝いをしなくてはならないのかと思った矢先、車は木々で囲まれた小さな駐車場で停車した。

⏰:12/02/19 10:02 📱:iPhone 🆔:SvRFADbc


#59 [輪廻]
 
 
『降りろ』

エンジンを止めて男がそう言い、狂也はドアを開けて外へと出た。

男は後部座席のドアを開け、何かゴソゴソとやっているのが聞こえる。

ついに人間の死体が出てくるのかと身体を小さく震わせていると、男は大きな頑丈そうなシャベルを狂也に渡してきた。


『それ使え』

そう言うと再び後部座席の方に戻り、またゴソゴソと始める。

⏰:12/02/19 10:18 📱:iPhone 🆔:SvRFADbc


#60 [輪廻]
 
 
少しして、ガサガサとビニール袋の音がし、男はそれを車内から引っ張り出した。

それは黒く長い、所々ヒモで巻かれたビニール袋。

中に何が入っているのかは安易に想像できた。


男は引っ張り出したそれを一旦地面に置いてから再び持ち上げ、肩に担ぐ。


『こっちだ。行くぞ』

そう言って男は木々だらけの暗い林の方へ向かって歩き出した。

狂也もシャベルを片手に、男の後に続いた。

⏰:12/02/19 23:51 📱:iPhone 🆔:0XqFC2nc


#61 [輪廻]
 
 
静まり返る林の中に、狂也と男の落ち葉や枝を踏みつけながら歩く音だけがやけに大きく響く。


『ここいらでいいか』

先頭を歩く男がそうつぶやいたのは、歩き出して10分ほどが経過した頃。

男は担いでいた、死体が入っていると思われるビニール袋を地面に置いて狂也の方を見ると


『ここらへんを掘ってくれ』

と、自身の足元の地面を指さして言った。

⏰:12/02/19 23:53 📱:iPhone 🆔:0XqFC2nc


#62 [輪廻]
 
 
『は、はいっ!』

裏返りそうな声で答え、男の指さす方へ近づく。


『ここ…でいいんですよね?』

『ああ。早くしろ』

狂也は左手に持っていたシャベルを右手に持ち変え、腰をかがめながら足元の地面を掘り始めた。


それを男は両腕を組みながら黙って見下ろす。

⏰:12/02/20 00:27 📱:iPhone 🆔:6fxgN5ZU


#63 [輪廻]
  
とっとと終わらせようと力いっぱいにシャベルを地面に突き刺し、掘り続ける狂也。


所々で男の『さっさとしろ』という心の声が聞こえてくるようだった。


そんなプレッシャーを肌に感じつつ掘り続ける。


数十分後ー

やっと人一人が入れそうな深い穴ができた頃、狂也の土を掘る姿を黙って見ていた男がついに行動に出る。


死体の入ったビニール袋を軽々と片手で持ち上げると、今掘ってできた穴の中に投げ入れた。


そして狂也の方を見る。

暗くてよくわからなかったが、その男は不気味に微笑んでいるように見えた。

⏰:12/02/20 12:17 📱:iPhone 🆔:m1BlL9s6


#64 [輪廻]
 
 
一方の狂也は、どんな表情をしていいのかわからず、足元の穴に落ちたビニール袋を呆然と見つめる。


『じゃあ最後の仕事だ』

どこか楽しげな口調で言った男の方に目をやる。


『またこの穴を塞げばいいんですよね?』

彼の言いたい事を悟り、先に切り出した狂也。

すると男は、ますます不気味な笑みを浮かべ

『わかってるじゃんか。でも、もう一つあるんだな』

と、意味深な発言をした。

⏰:12/02/20 12:18 📱:iPhone 🆔:m1BlL9s6


#65 [輪廻]
 
 
『え…』

一体この穴を塞ぐ他に何があるのだろうと首を傾げつつ男を見つめる。


暗闇に目が慣れてきたのか、今なら男の表情がハッキリと見える。


彼は『お楽しみはこれからだ』と言わんばかりの笑みを狂也に向けていた。


『一体…どんな事をするんですか?』

『まあそれは後でいいから。とりあえず先に穴を埋めてくれよ』

最初と比べてやけに口数が多くなってきた男に安心感と不安感を同時に抱きながらも、死体入りのビニール袋が入った穴を先ほど出した土を使って埋めた。

⏰:12/02/20 12:18 📱:iPhone 🆔:m1BlL9s6


#66 [輪廻]
 
 
こういった力仕事は経験がない為、埋め終わった時には息切れ寸前であった。


持っていたシャベルを地面に投げ捨て、その場に尻もちをつくようにしてへたり込む。


『お疲れさん』

男は、疲れきった狂也を面白がっているような口調で言いながら肩をポンと叩いた。


『それで…次は何をしたら…いいんですか?』

今度は力を使う作業でない事を祈りながら問う。

するとその祈りが通じたのか、男は狂也の捨てたシャベルを拾いあげて言った。


『今度は楽だから安心しな』

その言葉を聞いてホッと安心のため息をついた狂也だったが、次の男の一言でそれは束の間の一安心だった事になる。


『君とは共犯者って事になったけど、もしもの時もあるからさ…君も今ここで死んでくれないか?』

そう言って重いシャベルを上に振り上げたと思うと、それを狂也めがけて思い切り振り下ろしたー

⏰:12/02/20 12:20 📱:iPhone 🆔:m1BlL9s6


#67 [輪廻]
 
 
叫び声をあげる間もない、まさに一瞬の出来事。

だがシャベルを振り下ろすスピードは狂也にとってはそれほど早く感じなかった為、素早くそれをかわす事ができた。


予想外な男の行動に驚いている暇もなく、狂也は地面につけた肘の力を使って立ち上がり、男に背を向けその場から一目散に来た道へ向かって走り、逃げ出した。

走っている間、後ろから追ってくる気配はあったが、それは走り続ける内に徐々に消えていったー


男は50代くらいの小太りの男。

少し走れば疲れが出てくるのは当然だろうと思い、足を止めて後ろを振り返る。

⏰:12/02/20 22:03 📱:iPhone 🆔:w9S590UQ


#68 [輪廻]
 
 
そこには真っ暗闇が広がっているだけで、男の姿も気配もない。


安心したと同時に脚全体に疲労が来て、その場に再びへたり込む。


が、自分の命が狙われているのにこんな所で休んではいられないと思った狂也は、座り込んで10秒も経たない内に膝を抑えながらゆっくり立ち上がった。


そしてふらふらとしながらも歩き出し、男の車が停まっている駐車場を目指した。

⏰:12/02/20 22:04 📱:iPhone 🆔:w9S590UQ


#69 [輪廻]
 

 
途中から取り出した携帯電話のわずかなライトを頼りに進むと先ほどの駐車場が見え、その片隅に男の黒いワゴン車が停まっていた。


免許は持っていない為に運転はできないが、車内に何かないか探す事にした。


幸いな事に車の助手席側のドアには鍵はかかっておらず、狂也はその車内の探索を始める。


早くしなければあの男が来てしまうー

そんなプレッシャーと戦いながら携帯電話のライトを使って車内を照らす。

⏰:12/02/21 13:26 📱:iPhone 🆔:8biSCrPU


#70 [輪廻]
 
 
今まで見られなかった後部座席を主に調べていると、土木や建設関係に使われるような材料が無造作に置かれている。


それで、あの男はそういった職業なのだろうと納得した。


そんな様々な材料の中、携帯電話のライトに反射して、チェーンソーの刃が見えた。


男に襲われた場合の武器に最適かもしれないー

一瞬そう思ったが、これは立派な刃物。

自分は殺人者にはなりたくないというのもあり、チェーンソーを手にするのはやめる事にした。

別の方向にライトを照らそうとした時、チェーンソーの刃の一部に何か見えたような気がして、そこにライトを当て直す。

⏰:12/02/21 13:28 📱:iPhone 🆔:8biSCrPU


#71 [輪廻]
 
 
その刃先には薄黒い血のようなものに混じって、何かがこびりついていた。


『うっ…』

それを見て思わず声を出し、口元を手で抑えつつ、こびりついたものに顔とライトを近づける。


『(うわ…これ…)』

それは、何かの肉片のようなものだった。

それが血と一緒にこびりついているという事はー

背筋が一瞬にして凍りついた。


人は、予想外の事が起こったり、予想外の結論に至った時、一瞬思考が停止するー

まさにその通りの事が起きた。

⏰:12/02/22 18:54 📱:iPhone 🆔:V9qdvDAI


#72 [輪廻]
 
 
同時に身体がまるで金縛りにあったかのようにいう事がきかなくなり、唯一動く視線だけを車内のあちこちに向ける。


そこで、さっきは気づかなかったが、よく見ると座席には所々に斑点模様のようにできた薄黒い血のようなものが付着しているのに気づいた。


『(まさか…)』

それを見て、考えたくもない結論に達する。


“あの埋められた死体は、生前この車内であの男に殺られたもの?”


それも、このチェーンソーを使って…

⏰:12/02/22 18:55 📱:iPhone 🆔:V9qdvDAI


#73 [輪廻]
 
 
そんな外国のホラー映画のような事があるのかと疑いたくはなったが、事実ここに今、刃先に血と肉片がこびりついたチェーンソーが存在しているのだ。


自分は今までそんな残虐な殺し方をする男と一緒にいたのだと思うと、余計に背筋が凍った。


そんな時ー

林の向こうから木の葉や枝を踏みつけながらこちらに向かってくる足音が聞こえた。


逃げなければー

それしか選択肢はなかった。

途端にさっきまで動かなかった身体がフッと動くようになり、後部座席に向けていた首を引っ込め、助手席側から素早く外に出る。

⏰:12/02/23 10:10 📱:iPhone 🆔:q7HgzDwU


#74 [輪廻]
 
 
大きな足音を立てないように駐車場を出て道に出ると、そこから離れるべくダッシュで最初にきた道の方向へと走った。


走っている最中は段々と、家に着いたらデスネットの会社に自分の命が狙われそうになったと苦情を入れたい一心になり、怒りに任せて走り続ける。


途中、別の車が通ったら乗せてもらおうかとも思ったが、夜になぜこんな山の中に一人でいるのだと不審に思われかねない。

当然その理由を言える訳もないし、別の言い訳も思いつかない。


ここは逆に、人に見つかってはならないと踏んだ。

⏰:12/02/24 10:42 📱:iPhone 🆔:6cuUJ.72


#75 [輪廻]
 
 
15分ほど走り息も切れかかってきたところで、ポケットに入れていた携帯電話のバイブが鳴った。


バイブに気づいた狂也は、ふらふらと道の脇に移動し、足を止めて携帯電話を取り出す。


“03-XXXX-XXXX”

ディスプレイに表示されている番号。

デスネットからの着信だった。

こちらも言いたい事があったので丁度いいと思い、すぐ電話に出る。


『はい』

不機嫌かつ、疲れた声で狂也が言うと

『大槻様ですか? こちらデスネットの日向ですが』

狂也の今の状況を知ってか知らずか冷静な紳士的口調で返す日向。

⏰:12/02/24 10:44 📱:iPhone 🆔:6cuUJ.72


#76 [輪廻]
 
 
『はい、大槻です』

『大槻様。現在どちらにいらっしゃいますか?』

『え…』

日向の質問に、言葉に詰まる狂也。

あの男がデスネットに、自分が逃げ出した事を報告したのだろうという事はすぐわかった。


狂也も負けじと殺されそうになった事を説明する。


『実はさっき、死体を埋めた男に殺されそうになって…思わず逃げちゃったんですけど』

そう説明すると向こうは少し間を置いた後…


『なるほど、そうでしたか。しかし先ほどその男性から電話がありましてね。彼は、大槻様…あなたが仕事を途中放棄して逃走されたと仰られていましたが…』

『…え?』

『仕事の途中放棄はデスネットでは禁止行為となっております。この意味、わかっていますね?』

『いやちょっと…!俺は…!』

『仮にあなたが殺されそうになったのだとしても、そういった依頼者側の私情につきましてはデスネットは一切の責任を負わない事となっておりますので』

日向の一方的かつ不条理な説明を聞いて、狂也は携帯電話を耳に当てたまま呆然と立ちつくす。

⏰:12/02/26 07:01 📱:iPhone 🆔:DkYIXvO.


#77 [輪廻]
 
 
『もしもし大槻様? おわかり頂けましたか?』

『……けんな…』

『はい? なんですって?』

狂也は片方の拳を強く握り、ぶるぶると震わせた。


そしてー

『ふざけんな! 人に死体埋める仕事させといて何が責任負えないだよ!! アンタの会社頭おかしいんじゃねぇの!?』

大声で怒りを電話の向こうの日向にぶつけた。

相手が冷静な口調だからこそ、怒りは倍になる。

⏰:12/02/26 07:02 📱:iPhone 🆔:DkYIXvO.


#78 [輪廻]
 
 
夜の山に狂也の大声がこだまするように響く。

一方、電話口越しに大声を出された日向は狂也の豹変ぶりに驚いたのか、黙っている。

が、すぐに口を開いた。


『大槻様。お言葉ですが、お金はそう楽に手に入るものではありません。
それなりの報酬にはそれなりのお仕事がある訳です。
それに元々あなたの方から求人広告をご覧になった上で我が会社にお電話した訳ですよね?
ご自分の事を棚に上げて、頭がおかしいと仰られるのは誠に心外ですね』

日向は態度を変える事なく冷静な口調で長々と返した。

狂也は反論しようにも、頭の中は、あの男に命を狙われているという恐怖感とデスネットに対する怒りで混乱し、思うように声が出ない。


『もしもし、大槻様? 大槻…』

ピッー

ここで狂也は電源ボタンを連打し通話を切ると、携帯電話を地面に思い切り強く叩きつけた。

⏰:12/02/29 09:54 📱:iPhone 🆔:b2PBU4DM


#79 [輪廻]
 
 
同時に髪をくしゃくしゃに掻き毟りながらその場にしゃがみ込む。


数分して、地面に転がっていた携帯電話のバイブが鳴った。

ゆっくり手を伸ばして拾い上げ、画面を見る。


“090-XXXX-XXXX”

今度は見知らぬ携帯電話からの着信だった。

だが、狂也がそれに応答する事はなかったー

電源ボタンを押し通話を切り、長押しして携帯電話の電源をも切ると、それをポケットに入れて立ち上がる。

そしてそこからとぼとぼと街へ向けて歩き出したー



前編・狂也篇【完】

⏰:12/02/29 09:59 📱:iPhone 🆔:b2PBU4DM


#80 [輪廻]
 
 
 
第1話『戦慄の序章』
 

後編・響歌篇
 
 
 

⏰:12/02/29 10:04 📱:iPhone 🆔:b2PBU4DM


#81 [輪廻]
 
 
午前1時40分ー

現場にはただならぬ緊張が走っていた。


中学校の同窓会中、深夜墓での肝試し中にナイフを持った男に襲われた蓮と、同級生の安井。

蓮は安井を逃がし、皆の元へ戻ってきた彼女が事情を話すと、今度は響歌と蓮と仲良しである七瀬が、蓮が心配で墓の奥へと走り出す。

七瀬に続いて、男同級生も蓮を助ける為に墓へ。

その際、この肝試しを企画した同窓会の幹事に一喝を入れた。


残された皆は不安になりながらもその場で蓮や、墓に向かった2人の帰りを待っていたー

⏰:12/02/29 10:27 📱:iPhone 🆔:WKal1slg


#82 [輪廻]
 
 
『ねぇ…3人共大丈夫なの?』

重い沈黙の中、気の強い女同級生が皆を見回しながら言う。


その質問に誰も答える事はなく、ほとんどがうつむいたまま沈黙を続ける。

だが少しして、石の上に腰かけていた響歌がスッと立ち上がり幹事の方へと歩み寄る。


『…村井ちゃん?』

目の前に立った真顔の響歌を、幹事はおどおどした態度で見下ろす。

⏰:12/03/01 13:54 📱:iPhone 🆔:pWG6U8iw


#83 [輪廻]
 
 
響歌は幹事の顔を穴の空くほどしばらく見つめた後、一言放った。


『あなた…誰?』

その響歌の一言に、うつむいていた同級生皆が一斉に2人の方を見た。


『だ、誰って…』

明らかに動揺を見せる幹事の顔から響歌は一時も視線を外さなかった。

⏰:12/03/01 13:55 📱:iPhone 🆔:pWG6U8iw


#84 [輪廻]
 
 
『私…旅館にいた時、一人一人の顔見て、この人はこの人だなって懐かしみながら思い出していったの。
でも、どうしてもあなたの顔だけは思い出せなかった。もちろん名前も』

『…………』

幹事はあちこち目を泳がせながら黙りこける。


響歌は視線を外し同級生らの方に向けると、幹事の方を指さして聞いた。


『皆はこの人の事覚えてる? こんな人同級生にいた?』

質問された同級生らは顔を見合わせつつ、徐々に幹事の方に歩み寄って行き、その顔を食い入るように見る。

⏰:12/03/01 14:13 📱:iPhone 🆔:pWG6U8iw


#85 [輪廻]
 
 
『ん〜』

その中で、男同級生の一人が眉をしかめる。

そして少し見つめた後に彼も言った。


『言われてみれば……お前誰だっけ?』

『…………』

沈黙を続ける幹事。

⏰:12/03/03 08:38 📱:iPhone 🆔:.AGkMq/.


#86 [輪廻]
 
 
ーこの幹事が誰なのか?

それだけで、現場は異様な空気に包まれた。


皆が幹事から遠巻きに離れていく中、響歌は何かを疑うような目つきで彼の顔を見る。


『同窓会の案内が届いた時から変だとは思ってた…。
だって、その案内に幹事の名前が書かれてなかったから。
普通は苗字くらい書いてあるものでしょ』

『…………』

『もう一度聞きます。あなたは誰? 私達の同級生じゃないですよね? 明らかに私達より年上だし』

『…………フ』

下を向いて黙り続けていた幹事は、ここでやっと口を開いたと思うと、力なくほくそ笑んだ。

⏰:12/03/03 08:39 📱:iPhone 🆔:.AGkMq/.


#87 [輪廻]
 
 
『…何がおかしいんですか?』

真剣な表情で響歌が尋ねる。

幹事は下を向いたまま口元をひきつるようにして不気味な笑みを浮かべると、ついには声に出して高らかに笑い出した。


『くっ…ふふ……あっはっはっはっはっ!!』

突然の笑い声に、目の前にいた響歌は驚いて、思わずその場から後ずさりする。


『ちょっと…アンタ誰なの?』

響歌に代わり気の強い女同級生が、狂ったように笑っている幹事に近づきながら聞く。

⏰:12/03/03 13:41 📱:iPhone 🆔:V518DNM2


#88 [輪廻]
 
 
『……やっぱり……』

幹事はそうポツリと小さくつぶやいた後、同級生らの方を見ると


『やっぱりアンタらと同級生ってのは無理があったか…』

と、観念したように言った。


『は…? じゃあ誰なの?』

女同級生がイライラした様子で聞くと、幹事は大きなため息を一つついてから、話し始めた。

⏰:12/03/05 08:28 📱:iPhone 🆔:pOsPdp4A


#89 [輪廻]
 
 
『俺、今デスネットってところでバイトしててさぁ…この同窓会に参加するように言われたんだよね。まあ正確には、幹事をやれって事なんだけど』

『……!!』

言葉の一部を聞いた響歌がピクリと反応する。


『俺、もちろん最初は断わったんだよ? 俺、今年で丁度30だし無理があるって。でもデスネットの奴が……』

幹事がここまで言った時、墓の向こうから七瀬が叫び声をあげながら蓮と共にこちらに向かってきた。

『誰か!!』

『ナナ! 蓮!』

無事に戻ってきた二人を見て、響歌が嬉しそうな顔で近づく。

⏰:12/03/05 08:29 📱:iPhone 🆔:pOsPdp4A


#90 [輪廻]
 
 
だが七瀬と蓮の様子がおかしい事に気づくと、その嬉しそうな表情はすぐに引っ込んだ。


『おい、田中はどうしたんだよ!?』

男同級生が墓の奥の方の暗闇を見渡しながら二人に聞く。

『………あの…』

『いい七瀬、俺が話す』

七瀬の言葉を遮り、蓮が皆の方を見て事情を話し始めた。

⏰:12/03/05 08:45 📱:iPhone 🆔:pOsPdp4A


#91 [輪廻]
 
 
『安井ちゃんから聞いてると思うけど、安井ちゃんと二人で墓の中歩いてたら木の影に誰かいてさ。
声かけようと思って近づいたら、いきなり飛び出してきたんだよ…。
で、よく見たらそいつなんか刃物みたいなの持ってて…さすがの俺もびっくりしたんだけど、女が隣にいるのにビビってる訳にもいかなくて、そいつの刃物持ってる手をなんとか掴んで安井ちゃんを逃がしたの』

そう言うと皆は、地面にしゃがみ込んで身体を震わせている安井を見る。


『本当危なかったんだね…』

安井を見つめる女同級生が小さくポツリとつぶやく。

⏰:12/03/06 08:44 📱:iPhone 🆔:EKy4GumM


#92 [輪廻]
 
 
『それで…田中はどうしたんだよ!?』

男同級生が言うと、再び皆は蓮に視線を戻す。


『田中は…』

それ以上は言えない事態でも起きたのか、蓮はそこで口をつぐんだ。


『桐谷…?』

『…蓮。ここからはあたしが話す…』

今度は蓮に代わって七瀬が口を開いた。

⏰:12/03/06 08:46 📱:iPhone 🆔:EKy4GumM


#93 [輪廻]
 
 
『あたし蓮が心配で追いかけて、男の人ともみ合ってる蓮を見て、夢中で二人に飛びかかったの。
あたしの体当たりで男の人が倒れて…そしたらその人があたしの顔見て…「お前だ」って言ったの。
小さい声だったけどちゃんとそう聞こえた…』

『“お前だ”…? ナナはその人知ってるの?』

響歌が首を傾げながら聞く。


『ううん、知らないよ。顔はよく見えなかったけど…声にも聞き覚えなんてないし』

『じゃあ…“お前だ”ってどういう事…?』

『あたしの方が聞きたいよ!』

『それで…どうしたの? 田中君は?』

『あ、うん…それで男の人が地面に落ちた何かを拾って立ち上がって、あたしに襲いかかってこようとしたんだけど…そこに田中君が現れて男の人の前に立ちはだかったの。そしたら………』

そこで七瀬は両手で顔を覆い、地面にしゃがみ込んだ。

⏰:12/03/06 09:15 📱:iPhone 🆔:EKy4GumM


#94 [輪廻]
 
 
『もしかして…ナナを庇って…?』

事態を察した響歌がポツリと言うと、七瀬の隣にいた蓮がコクリと頷いた。


『田中が…? 嘘…だろ…桐谷…』

田中の最も親しい友達であろう男同級生が今にも放心状態になりそうな顔で途切れ途切れにそう言いながら蓮に近づく。


『悪い…俺、男が七瀬に襲いかかろうとして、止めようとしたんだけど、いきなり田中が現れたから思わず…』

蓮はその同級生の顔を見つめながら申し訳なさそうに言う。

⏰:12/03/07 12:16 📱:iPhone 🆔:vqFNM0dE


#95 [輪廻]
 
 
同級生は蓮の前に立つと

『お…お前のせいじゃないよ…はは…うん…気にすんな…』

半笑いでそう言い、焦点の合っていない目で蓮を見ながら肩をポンと一回叩いた。


そんな中、女同級生の一人が大きな声をあげる。

『とにかく警察呼ばないと! あと救急車も!!』

その声をきっかけに現場は騒然となる。

⏰:12/03/07 12:17 📱:iPhone 🆔:vqFNM0dE


#96 [輪廻]
 
 
ある者は慌てふためき、ある者は警察に電話する為かポケットから携帯電話などを取り出す。


『警察は俺が呼ぶからお前は救急車呼べ!』

『わ、わかった…!』

警察を呼ぶと言った男同級生がダイヤルを押そうとした時だった。


『ま、待って! やめてくれ!!』

誰かの叫ぶような声がし、一同はその声のした方を一斉に見る。

⏰:12/03/09 11:48 📱:iPhone 🆔:Bv.Lz60E


#97 [輪廻]
 
 
そこには、この同窓会の正体不明の幹事が冷や汗をかいた状態で棒立ちしていた。


『は? アンタこんな時に何言って……』

『頼む! 警察だけは…!!』

気の強い女同級生の言葉を遮り、幹事は携帯電話を握る男同級生に手を合わせて言う。

幹事の動揺が、離れた場所にいてもひしひしと伝わってくるようだった。


『なんでアンタがそんな事言うんすか? 俺らの同級生が知らない奴に殺られたかもしれないんすよ』

『そうだよ! 重森、早く警察呼べよ』

『わかってる!』

幹事の願いも届かぬまま、同級生の重森は110番のダイヤルを押したー

⏰:12/03/09 11:50 📱:iPhone 🆔:Bv.Lz60E


#98 [輪廻]
 
 
20分後ー

男同級生の通報により、警察と救急隊が到着した。

七瀬と蓮が警察と共に墓の奥の挌闘があった場所を調べた所、そこに同級生の田中の姿はなかったという。

二人は『この場所で間違いない』と何度も訴えたが、血痕など痕跡が何ひとつ見つからなかった為、この通報はただの若者集団によるイタズラだと決めつけられてしまった。


ー警察や救急車が去り、現場には静寂が訪れる。


『意味わかんねえ…俺らがイタズラで通報したって? ふざけんなよ
…?』

通報した同級生の重森は、誰に言うわけでもなく、ただ地面に向かってつぶやいた。

⏰:12/03/09 12:35 📱:iPhone 🆔:Bv.Lz60E


#99 [輪廻]
 
 
『と、とにかく…寒くなってきたし旅館に戻らない?』

女同級生の一人が身体を震わせて尋ねると、一部の人がぞろぞろと歩き出した。


『ナナ…蓮…行こう』

石に座りうつむく七瀬と蓮に声をかける響歌。


『なんで…』

七瀬がものすごく小さな声でポツリと言った。

響歌が何と言ったのか聞き返す間もなく、すぐ響歌の方を見上げる。

その瞳には涙が溢れていた。

⏰:12/03/09 12:36 📱:iPhone 🆔:Bv.Lz60E


#100 [輪廻]
 
 
『なんで…信じてくれないの…? 警察は…』

涙声で響歌の目を真っ直ぐ見据えて尋ねる。


『それは…』

それはと前置きしたのはいいものの、なんと答えてあげればいいのかわからなかった。


すると、七瀬の隣に座る蓮が助け舟を出した。


『それは…俺たちにも少し問題があったと思う。だって、こんな真夜中に大勢の若者が墓にいるんだぜ? だからイタズラだと思われても仕方ない部分もあったと思うんだよな…』

『そ…そう、蓮の言う通りだと思う』

響歌が蓮の言葉に賛同した所で、七瀬は少し精神が安定したのか、上を向いて大きな息を吐いた。

⏰:12/03/09 12:37 📱:iPhone 🆔:Bv.Lz60E


#101 [輪廻]
 
 
『じゃ、俺達も戻るか。皆行っちまったし』

『そうだね』

蓮が、座っていた石から立ち上がり、七瀬もそれに続いて立ち上がる。


『…………』

そんな二人を、響歌は黙って見つめる。


『ん? どうかした? 村井』

『…え? いや、なんでもないよ。それよりさ…』

『……? なに? 響歌』

ポカーンとした顔で響歌を見る二人。

響歌は、二人が帰ってくる前に聞かされた幹事の告白の事を説明した。

⏰:12/03/10 10:37 📱:iPhone 🆔:klZv3ZOY


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