horrorU〜二重連鎖〜
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#1 [輪廻]
 
『horror』の続編になります(^^)


全3話構成の長編ホラーノベルをまったりと書いていきます。


主人公は前作に引き続き大学生・村井響歌と、求人広告を見て電話をし、デスネットに登録したフリーター・大槻狂也の2人の視点で物語が進行します。


前作
bbs1.ryne.jp/r.php/novel-f/12221/

⏰:11/12/23 13:02 📱:W62P 🆔:PPfKOIXU


#2 [輪廻]
プロローグ


―プルルルルルルル

電話の着信音でハッと目を覚ました。

枕元で鳴っているスライド式携帯電話を慌てて取り上げ、電話に出る前に時刻を確認する。

AM5:24―


『は…? こんな時間に誰だよ…』

朝っぱらからの電話に、都内のアパートに一人暮らしをする大槻狂也は文句を垂れながら発信者の番号に目をやった。


“03-XXXX-XXXX”

一瞬『誰の番号だよ』と思ったが、しばらくその番号をじっと見つめながら考えた結果…

彼はやっと思い出した。

⏰:11/12/23 13:12 📱:Android 🆔:DziUiHqc


#3 [輪廻]
 
 
『確か…デスネット…だったっけ?』

あれは去年の11月の事だった。

夜コンビニに行く途中、携帯電話をいじりながら歩いていると、地面にあった何かを蹴り飛ばしたような感触がした。

反射的に地面を見ると、狂也の少し先に今蹴ったと思われる、くしゃくしゃに丸められた白い紙のようなものが落ちていた。


何気なくそれを拾い上げてみると、やはりそれは紙であり


『(なんだ、ただのゴミかよ)』

そう心の中で呟いてから、勢いをつけて投げ捨てようと思ったが、ふと狂也の中に“何が書いてあるのか”という好奇心が芽生えた。

⏰:11/12/23 13:18 📱:Android 🆔:DziUiHqc


#4 [輪廻]
 
 
どうせ捨てるのなら見ておいてもいいな…と、狂也はその丸められた紙を徐々に開いていく。

そして内容が目に入った所で、思わず鼻でフッと笑った。

なぜならそれはただの求人広告だったからだ。

小学生や中学生が書いたラブレターとかであれば面白かったのに、それがただの求人広告で、狂也の好奇心は一瞬にして冷めて終わった。


一応どんな仕事なのか見ておこうと、広告の文章を声に出して読む。


『高収入! 誰にでもできるアルバイト急募! 詳しくはコチラへ……か』

“アルバイトで高収入”という部分を見て、狂也は再び鼻で笑った。

⏰:11/12/23 13:22 📱:Android 🆔:DziUiHqc


#5 [輪廻]
 
 
『(どうせ“裏”のアルバイトだろ)』

そんな事は安易に想像はできた。

このご時世に、ただのアルバイトで高収入を得られるなどと。


割にあった仕事と言えば、本当にあるのか都市伝説なのかは知らないが“死体洗いのアルバイト”などだろうかと。

狂也は金を貰ってまで人様の死体を洗いたくはないし、もちろん見たくもないと思った。

だが、なぜか狂也は無意識のうちにその紙を三つ折りにしてポケットにねじ込んでいた。

⏰:11/12/23 13:26 📱:Android 🆔:tTjQE9tY


#6 [輪廻]
 
 
多少忘れっぽい所がある狂也はコンビニで本を長時間立ち読みして、帰る頃にはポケットに入れた紙の事などはすっかり忘れ、再びその求人広告の事を思い出したのは翌年新年を明けてからだった。

あれから家で脱ぎ捨てて放置していたジーンズを洗濯する時に、そのポケットに手を入れると、三つ折りにされたシワシワの紙を見つけ…


『(なんだ? これ)』

と首を傾げながらその紙を開いていく。


『高収入アルバイト……あ!』

彼はすぐに思い出した。

といっても、紙を見つけるまでは永遠に思い出す事はなかったと思うほど忘れっぽい性格であった。

⏰:11/12/23 22:17 📱:Android 🆔:8/T0Ug0Y


#7 [輪廻]
 
 
バイトもしばらくは正月休みで暇だった事もあり、狂也はその紙に書かれた電話番号に電話してみる事にした。


『03の…』

声に出しながら的確に番号を押し、最後に
発信ボタンを押す。

数秒間呼び出し音が流れた後…


『お電話ありがとうございます。ご用件をどうぞ』

と女性の声で言うのだが、その声は人の肉声ではなかった。

そう、まるで機械が喋っているような。

⏰:11/12/23 22:20 📱:Android 🆔:OFicznwA


#8 [輪廻]
 
 
戸惑いながらも、狂也は切り出す。


『あの、すみません…高収入アルバイトの 紙見て電話したんですけど』

すると向こうは、間を3秒もあける事なく即答してきた。


『お電話ありがとうございます。
電話をして頂いた時点でデスネットへの入会、 及び登録が完了致しました。
登録手数料などは一切かかりません。
お仕事の内容が決まり次第、こちらからお電話させて頂きます。
5分後、折り返しくる電話に、お名前とご住所と通帳口座番号をお伝えください。
入会・登録ありがとうございました』

機械の声は長々とそう言うと、狂也が返事をする間もなく電話はプツッと切れた。


『なんだよ…』

すでに切れた電話口に向かって狂也はキレ気味に呟く。

⏰:11/12/23 22:22 📱:Android 🆔:iCmIXz56


#9 [輪廻]
 
 
仕方なく5分後の電話を待とうと携帯電話を耳から離した時、ふと感じた疑問が口に出た。


『あれ? 面接とかないの?』

そう言えば電話で面接についての話がなかった気がする。

こちらが電話をした時点で入会、登録が完了したと言っていたが、本当にこれでいいのだろうか?

折り返しの電話に名前や住所…通帳の番号までも伝えろと言っていたが、果たして本当に教えていいのだろうか?

色々な疑問が頭の中を駆け巡った。


が、やがて笑みがこぼれ…


『デスネット…聞いた事ないな。
どんな仕事するかも知らないけど… まっ、面接無しで決まっただけでもよしとするか!』

とガッツポーズをとりながら言った。

⏰:11/12/23 22:27 📱:Android 🆔:PTe1hKCA


#10 [輪廻]
 
 
そして折り返しの電話がくるのを嬉しそうに待っていると…


―プルルルルルルル

電話の機械の声が言っていた通り、本当に5分後に携帯電話の着信音が鳴った。


『は、はい!』

ハッと我に帰り、慌てて電話に出る。


するとまた機械の声で

『お客様の情報を登録致します。
まずお名前とご住所を言ってから最後に#ボタンを押してください』

『…はい! 名前は大槻と言います。住所は…………』

これが狂也にとって戦慄のアルバイトになる事など、今の彼には予想すらできていなかったー

⏰:11/12/23 22:31 📱:Android 🆔:dzwQNiVQ


#11 [輪廻]
プロローグ2


新年を向かえ、中学の新年会も含めた同窓会を行う為、会場へ向かう村井響歌達。

その道中、同級生の運転する車内で響歌と友達の桐谷蓮、井本七瀬は、同乗している同級生から高収入アルバイトをしている事を聞かされた。

蓮がどんな会社かを尋ねると、同級生から衝撃的な答えが返ってくる―


それは“デスネット”という会社だと。

響歌、蓮、七瀬の3人はその場で一瞬にして凍りついた。

同級生は『どうかしたの?』と何度も聞いてきたが、3人は何も返す言葉がなかった。

⏰:11/12/23 22:37 📱:Android 🆔:FnnF8gLw


#12 [輪廻]
 
  
それからは無言のまま、出発から約1時後、同窓会の会場へと到着する。

駐車場に停めた数台の車から同級生がガヤガヤと降りはじめ、響歌ら3人も重い足取りで降りた。


『わお! こんな豪華な旅館で同窓会? テンションあがるわぁ!』

外観を見渡しながら同級生の一人が騒ぐ。

皆の目の前には、最近新しくできたと思われる大きな旅館があった。

少しして、今回この同窓会を企画した大柄な幹事が皆の前頭に立つ。


『はいはい、ではでは! 早速中に入りましょう!』

やけにテンションが高い幹事の一声に、一同も盛大に盛り上がった。

⏰:11/12/24 09:15 📱:Android 🆔:xjHyypq6


#13 [輪廻]
 
  
一方、響歌と蓮は旅館の外観を見ながら黙りとする。


『2人共、どうかした?』

隣にいる七瀬が、そんな2人の顔を交互に見ながら聞く。


『あ、いや…なんでもねえよ』

『うん…気にしないで』

『……そう?』

首を傾げつつ、再び幹事の方に向きなおす七瀬。


『では中へ!』

そして皆はぞろぞろと旅館の中へ入っていくー

⏰:11/12/24 09:17 📱:Android 🆔:xjHyypq6


#14 [輪廻]
 
  
デスネットの事を聞いて内心不安や胸騒ぎはあったが、旅館で同級生と昔の話をしたり、豪勢な食事をしたりで、その事は次第に忘れていく3人だった。

時間も深夜0時を過ぎ、皆は話疲れたのか誰も口を開かなくなっていた。


そんな周りを見た幹事は、いきなり立ち上がって


『なあ皆! これから肝試しでもしないかい?』

と提案した。

同級生らは、一斉に幹事の方を見る。

⏰:11/12/24 09:19 📱:Android 🆔:xjHyypq6


#15 [輪廻]
 
 
しばしの沈黙の後…


『肝試しか…そういえば中学の修学旅行でやったよな』

同級生の一人が懐かしそうに上の方を見上げて呟いた。


『じゃあやりましょう! この近くに最近起きた通り魔殺人事件の現場があるらしいから、そこで!』

その幹事の言葉に、今度は歓声があがる事はなく、部屋の中は再びシーンと静まり返る。


『あれ? 殺人現場はさすがにマズかった?』

同級生らの何か言いたげな雰囲気を悟ったかのように幹事は苦笑いしながら言った。

⏰:11/12/24 09:21 📱:Android 🆔:xjHyypq6


#16 [輪廻]
 
 
『肝試しっていったら普通は墓地とかじゃない? この辺にあるかわからないけど』

そんな中、気が強そうな女の同級生が真顔で返す。

彼女のその言葉に一同は『そうだそうだ』と幹事に訴えかけるように連呼する。


『わかったわかった! ちょっと調べてみるから待ってて!』

数十人の大ブーイングに圧倒された幹事は、なだめるように言って鞄から携帯電話を取りだし、何やらカチカチといじりはじめた。


『ほんとに肝試しなんてやるのかな…』

静まり返った部屋で響歌が小声で蓮と七瀬に言う。

⏰:11/12/25 11:10 📱:Android 🆔:35VMJZ/I


#17 [輪廻]
 
  
すると、蓮が応える前に七瀬が

『この同窓会が終わったら、またこうして皆で集まる機会はなくなるかもしれないし、今のうちの思い出作りにはいいんじゃない?』

と笑顔で応えた。

そんな七瀬を見て、響歌も自然と笑みがこぼれる。


『そうだよね。肝試しなんて中学の修学旅行以来だしね』

『でしょ? 楽しもうね!』

2人は顔を見合せて小さく笑い合った。

⏰:11/12/25 11:12 📱:Android 🆔:35VMJZ/I


#18 [輪廻]
 
  
『俺はほったらかしかよ…』

笑い合う2人の横で蓮はボソッと呟く。


『あっ! そうだ!』

と…突然、響歌が何かを思い出したように笑いを止めて言った。


『どしたの? 村井』

『なに? 響歌…いきなり』

蓮と七瀬は響歌を見つめ、響歌の方も蓮と七瀬の顔を交互に見る。


3人の間でしばしの沈黙が続いた後…


『あ…や、やっぱりなんでもないや! 忘れて!』

『え…何? 気になるんだけど』

『つか村井、顔赤くね? 酒あんま飲んでなかったよな?』

同窓会の待ち合わせ場所である中学校に蓮と七瀬が来た時、2人が手を繋いでいた事と、普段は誰にでも苗字で呼ぶ蓮が七瀬の事を下の名前で呼んでいた時から、胸騒ぎがしていた響歌。

その胸騒ぎを収める為に今の2人の関係を単刀直入に聞こうとしたが、真っ直ぐに響歌を見つめる2人に圧倒され、途端に聞く勇気が出なくなっていた。

⏰:11/12/25 11:14 📱:Android 🆔:35VMJZ/I


#19 [輪廻]
 
  
そんな時、蓮の方も何かを思い出したように小声で言ってきた。


『…そうだ。2人共、ちょっと廊下出れる?』

『…え? いいけど…なんで?』

首を傾げながら聞き返す響歌。


『忘れたのかよ。車の中で安井ちゃんが言ってただろ。デスネットでバイトしてるって…』

それを聞いて響歌と七瀬は揃って『あっ!』と口にした。

⏰:11/12/25 11:16 📱:Android 🆔:35VMJZ/I


#20 [輪廻]
 
  
『シっ! とにかく…俺が最初に出ていくから、2人は5分くらいしたらトイレ行ってくるとか言って部屋から出ろ』

『わ、わかった…』

響歌と七瀬が小さく頷くと、蓮はスッと立ち上がり

『ちょっとトイレ行ってくるわ』

と、携帯電話の画面を見ている幹事に向かってそう言い、部屋の障子を開けてそそくさと廊下へ出て行った。

やましい事をしている訳ではないのに、なぜか緊張感が2人を襲う。


早くも5分を過ぎ、響歌と七瀬がゆっくり立ち上がって

『えっと、私達もト……』

と響歌が言いかけた時…


『あったぁ!!』

突然の幹事の大声によって、響歌の声は見事にかき消された。

⏰:11/12/25 11:19 📱:Android 🆔:Gj0icVzI


#21 [輪廻]
 
  
『ちょっと! いきなり大声出さないでよ!』

先ほどの気の強そうな女同級生が思わず立ち上がって言う。


幹事は、女同級生を見上げて後頭部を爪でぽりぽりと掻きながら

『いやぁ…ごめんごめん。それより、この旅館の裏にある林を少し歩いた先に墓地があるって!』

と嬉しそうに言う中…


『ナナ…今のうちに出よ』

響歌が七瀬に耳打ちし、幹事らが騒いでいる時に2人はどさくさにまぎれて、その部屋を出た。

⏰:11/12/26 11:49 📱:Android 🆔:m1XbORJ.


#22 [輪廻]
 
  
広めの廊下へ出て辺りを見回すと少し離れた所に、ポケットに手を突っ込んで壁に背をついている蓮がいた。


『蓮!』

七瀬が手を振りながら小さい声で呼ぶと、蓮は2人に気がつき、傍に駆け寄ってくる。


『遅かったな』

『ごめん、ちょっとあって。ね? 響歌』

『うん。ちょっとびっくりしちゃった…』

『ふうん…まあいいや。それより、安井ちゃんが言ってた事だけど…』

蓮は早速本題を切り出す。

⏰:11/12/26 11:51 📱:Android 🆔:m1XbORJ.


#23 [輪廻]
 
 
『確かに、デスネットでアルバイトしてるって言ってたよね…』

『うん、言ってた言ってた』

『変だよな…。だって、デスネットって元々俺らの中学の時の副担が復讐の為に始めたサイトの事なんじゃねえの?』

『たまたま同じ名前の会社だったって事は…?』

『そんな名前の会社聞いた事ねえよ。七瀬…お前は聞いた事ある?』

『ううん、あたしもないな』

3人はそう話した後、難しい顔をしてじっと考え込む。

⏰:11/12/26 11:52 📱:Android 🆔:m1XbORJ.


#24 [輪廻]
 
 
『…あっ!』

数分後、突然あげた響歌の声に蓮と七瀬は驚いて、一瞬体をビクッとさせる。


『響歌、どうしたの?』

『あの男…』

『…え? あの男って?』

七瀬が聞き返すと、蓮はすぐに誰の事かわかったように眉をしかめながら言った…


『あの警官なりすまし野郎の事か?』

『…うん。あの人言ってたの…“ゲームはまだ終わらない”って』

『あのオッサンがそんな事を? そういえばここ最近は俺達の前に姿を現してないよな』

『あの人、何を考えてるのかわからない。
私を殺そうと思えばいつでも殺せるはずなのに…襲ってこようともしないんだよ』

難しい顔をしながら、うつむき加減で言う。

⏰:11/12/26 11:54 📱:Android 🆔:m1XbORJ.


#25 [輪廻]
 
 
『どっちにしろ奴が犯罪者な事には変わりないんだし、そんな奴の気持ちをわかってやる必要なんてねえよ…』

『そうなんだけどさ…何を考えてるのかわからないからこそ、次に何をしてくるかわからないじゃん』

『まあ、次何かしようとしてきたら俺が止めるけどね』

自信満々に言う蓮に、響歌は気付かれないようにクスッと小さく笑う。


『とりあえず、後で安井ちゃんにデスネットの事詳しく聞いてみるわ』

蓮がそう言って3人顔を見合せていると、後ろの部屋の障子がスッと開き、そこから幹事がひょっこり顔を覗かせた。

⏰:11/12/26 11:57 📱:Android 🆔:m1XbORJ.


#26 [輪廻]
 
 
『話し声が聞こえると思ったら…3人で何やってるの〜?』

ニコニコ顔でそう尋ねながら3人の方に歩いていく。


『いや、なんでもねえよ。それより墓地は見つかった?』

『ああ、バッチリ! それで、今から行くか行かないか多数決をとってるんだけど、皆はどっちがいい?』

『俺はいいけど、村井と七瀬はどうする?』

そう言いながら2人の方に目をやる蓮。


『あたしもいいよ。響歌は?』

『え…あ、うん…いいよ』

一瞬ためらう響歌だったが、どの道行く事になりそうだったので、首を縦に振って頷いた。

⏰:11/12/27 15:10 📱:Android 🆔:Vqta6GbI


#27 [輪廻]
 
 
『よし! これで行きたい人が11人で、行きたくない人が8人! よって、肝試し決行!』

『行きたくない人そんなにいるんだ』

七瀬が驚いたように言う。


『そりゃ、墓地に行って霊を連れて帰っちゃうって事もあるからな』

『帰ったら塩撒けばいいだけなのにね』

蓮と七瀬の和やかそうな会話を、興奮気味の幹事が遮る。


『さあさあ! じゃあ3人共、中に入って! 肝試しの計画を立てるから!』

幹事の無駄に大きな声が廊下中に響き渡った後、3人は彼の後に続いて再び部屋の中に入った。

⏰:11/12/27 15:12 📱:Android 🆔:G/gAzf86


#28 [輪廻]
 
 
『…じゃあ皆さん! これから墓地に行きます! さっき話した通り、2〜3人組で墓地の中をぐるっと一周して戻ってくるという事で!』

こうして、一同は荷物を持って墓地へと向かった。


旅館の裏にある林道から入り、10分ほど歩いた所に、墓地はあった。

『はい、じゃあここで2〜3人組を作ってください!』

到着するなり幹事に言われ、皆はしぶしぶ行動する。


『俺は安井ちゃんと組むわ』

蓮は響歌と七瀬にそう言ってから、大人数の中、安井を探しにいく。

⏰:11/12/27 15:14 📱:Android 🆔:FgjiK2UE


#29 [輪廻]
 
 
『じゃあ響歌、あたしと一緒に行こうよ。男なんかいなくても、あたし達だけで大丈夫だよね?』

『…そうだね』


少しして、それぞれ組む人同士が固まり、決まったのを確認してから幹事がニヤニヤしながら言った

『はい! では…誰からいきます?』

誰も名乗り出ず、しばらくシーンと静まり返った後、一人が手を挙げる。


『じゃあ俺達からで』

皆がその声の方に目をやった先には、蓮と安井がいた。


『おお、桐谷! 君達から行っちゃう? 度胸あるね!』

『いや…さっさと終わらせて帰りたいだけ』

涼しい顔でさらっと言う蓮に、一同は『おお!』と小さな歓声をあげる。

⏰:11/12/27 15:16 📱:Android 🆔:fxxBpVP2


#30 [輪廻]
 
 
『安井ちゃん、行こ』

『桐谷くんって男らしいんだね。変わってないなあ!』

『いや、男だし』

蓮と安井はそんな会話をしながら、墓地の中へと入っていった。

残された皆はそれぞれ、その場にしゃがみ込んだり、携帯電話をいじったり、雑談をし始める。


『あたし達も座ろっか』

響歌と七瀬は、近くに置かれている大きな石の上に腰を下ろした。

⏰:11/12/27 15:17 📱:Android 🆔:uM9k8Kw.


#31 [輪廻]
 
 
『きゃああああっ!!』

遠くから安井の悲鳴が聞こえたのは、2人が墓地へ入って5分ほど経過した頃だった。

その場にしゃがみ込んでいる同級生らは、その悲鳴を聞いて思わず立ち上がる。


『え、なになに!? もしかして幽霊でも出てきたのかな?』

女同級生がテンション上がり気味に、墓地の奥の暗闇を見ながら言い…


『2人共〜! 何かあったの〜!?』

幹事も、ものすごい大声で暗闇に向かって叫ぶように言う。

しばらくして、奥からばたばたと走ってくる足音が聞こえ、血相を変えた安井が現れた。

⏰:11/12/28 11:30 📱:Android 🆔:wxhLVm72


#32 [輪廻]
 
 
『安井、どうしたの? 桐谷は?』

男同級生が、体を震わせている安井に向かって尋ねる。


『い…いきなり…ナイフ持った男の人が…あ、現れて…』

安井は震わせた声でそう言うと、その場にいた皆の体が固まった。


『そ、それで桐谷…は?』

恐る恐る聞き返す幹事も、みっともないほど動揺している様子だった。

響歌と七瀬は同時に大きく息をのんで、安井の言葉を不安げな顔で聞く。

⏰:11/12/28 11:31 📱:Android 🆔:akMYcjjE


#33 [輪廻]
 
 
すると安井は放心状態になりそうなのを抑えつつ、ゆっくり話し始める。


『あ、歩いてたら桐谷が…木の根元に誰かいるって言って…近づいたら…そこからナイフを持った人がいきなり飛び出してきて…』

『か、顔は見たの?』

『いや…顔は暗くて見えなかったけど…ナイフの刃は見えた…』

『それで桐谷は!?』

『わからない…。ただ、私に“お前は早く逃げろ”って…』

それを聞いた七瀬は『キリ!』と大声をあげると、誰も止める間もなく、一人で墓の奥へと走っていった。

⏰:11/12/28 11:33 📱:Android 🆔:A8mKg7FU


#34 [輪廻]
 
 
『…ナナ!』

響歌の声も、すでに届かない…。


しばらくの沈黙の後、男同級生が幹事の目の前に行き、胸ぐらをグッと掴むと、下から幹事を睨みながら

『おい! もし桐谷に何かあったら、こんなくだらねぇ肝試しを提案したテメェの責任だかんな!』

と言って手を放すと、彼も墓の中へと走って行った。


『田中まで行っちゃった…どうすんの?』

『こ、こんな時は普通警察に電話じゃないの?』

『3人共、大丈夫かなぁ…』

次第に、皆がガヤガヤと騒ぎ始める。

⏰:11/12/28 11:35 📱:Android 🆔:XXELG/RQ


#35 [輪廻]
 
 
幹事は責任を感じているのか、すっかり口を開かなくなり、その場に呆然と立ち尽くしていた。


響歌は、地面にしゃがみ込んで身体を震わせている安井の隣にしゃがみ、声をかける。

『ちょっと…いいかな?』

『…………』

安井はゆっくり響歌に視線を向けると、無言で小さく頷いた。

『襲ってきた人…顔少しでも見えたりしてない?』

『…………』

響歌の質問に、彼女は何度も首を横に振る。

すっかり怯えきった彼女にそれ以上何も言う事ができず、響歌は再び立ち上がった。


『皆…無事でいて…』



プロローグ【完】

⏰:11/12/28 11:38 📱:Android 🆔:IKxaRu/6


#36 [輪廻]
 
 
 
第1話『戦慄の序章』
 

前編・狂也篇
 
 
 

⏰:11/12/29 09:52 📱:Android 🆔:fIZxwcg.


#37 [輪廻]
朝っぱらから鳴り響く携帯電話の着信音。

狂也は発信者番号を少し見つめてから、眠たい目をこすりながら通話ボタンを押して電話に出る。


『はい……もしもし……』

ダルそうな声で出ると…


『大槻様でいらっしゃいますか? こちらデスネットの者ですが』

今度は機械を通した女性の声ではなく、男性の肉声が返ってきた。


『ああ…はい、そうですけど…』

寝ぼけ眼と声で言い返すと、電話の向こうの男性は少し間を空けてから…

『おいコラ、なんじゃその態度は! ボケ!』

と、突然豹変し怒鳴り声をあげてきた。

⏰:11/12/29 09:54 📱:Android 🆔:gmdcApg.


#38 [輪廻]
 
 
その声に驚いた狂也は、携帯電話を耳に当てたまま反射的に布団からガバッと起き上がる。

その一喝で眠気が一気に吹き飛んだのは言うまでもなかった。


『ご…ごめんなさい、ごめんなさい!!』

その場で、頭を何度もペコペコと下げながら謝る。

すると男性は、また間を空けてから…

『では大槻様。今回は、いくつかご紹介できるお仕事が見つかりましたので御電話を差し上げました』

さっきまでの怒鳴り声とは一変して、再び紳士的な声に戻った。

⏰:11/12/29 09:57 📱:Android 🆔:bJyDVTGE


#39 [輪廻]
 
 
『…………』

その声の変わり様に、狂也はしばらく口をポカーンと開けたまま黙る。


『大槻様?』

『あ! は、はい! すみません!』

『では早速、いくつかのお仕事の内容を説明をさせて頂きます。メモなどに取っておいてください』

『は、はい!』

またいつ怒鳴り声が飛んでくるかわからない恐怖にすっかり縮こまりながらも、その辺にある紙とボールペンを素早く手にする。


『いいですか? では……』

どんな仕事なのかとドキドキしながら息をのむ。

そして、少し間を空けてから言った男性の言葉に、狂也の身体が一瞬にして固まる…


『一つ目。内容は簡単です。
……女性の遺体を山に埋めてください』

⏰:11/12/29 10:07 📱:Android 🆔:6yBJBiY.


#40 [輪廻]
 
 
“は? この人は何を言っているんだ?”と思った。


『……遺体を…埋める……?』

『そうです。簡単ですよね?』

この時“この会社もこの人もまともではない”と直感で思った。

しばらく無言のままでいると…


『おいコラ! …聞いてます?』

再びヤクザのような声で一喝した後、また紳士的な声に戻す。


『や…やめます…いいです!』

さすがにヤバいと感じた狂也は、パニックになりながら震えた声で断った。

⏰:11/12/29 10:10 📱:Android 🆔:sND6McsE


#41 [輪廻]
 
 
一つ目から有り得ない内容の仕事なのだから、他も同じようなものに違いないと。


しばらくして電話の男性は、怒鳴る事なく冷静にこう言い放った。

『あなた…殺しますよ?』

そのやんわりとした口調と、言った言葉の内容にどこか気味悪さを感じ、一瞬背筋が凍った狂也だったが、冷静に思い返してみる。


『(…殺しにくる? 場所もわからないのにどうやって殺しに来るっていうんだよ)』

そう考えると自然に笑みがこぼれてきたが、次の男性の一言でその笑みはすぐに引っ込む事になる。

⏰:11/12/30 14:10 📱:Android 🆔:j9L9UqqY


#42 [輪廻]
 
 
『どうせハッタリだ…とか思っていられるのでしょうが、そちらの個人情報等はすべてこちらの方で保管されていますので、調べればすぐにわかりますよ…住所くらい』

そう言われて、冷や汗をかく狂也。

そして思い出したのだ。

求人の紙を見て電話をする際に、名前や住所など向こうに完璧に教えた事に…。


1月の始めだというのに、狂也の顔や身体からは大量の汗が吹き出ていた。


『…や…やります…』

自分のやった事に後悔しつつも、声と身体を震わせながら呟くように言う。

すると男性は何事もなかったかのように再び仕事の話をし始めた。

⏰:11/12/30 14:11 📱:Android 🆔:j9L9UqqY


#43 [輪廻]
 
 
仕事の内容は2つ目以降になるにつれ、狂也の思った通り、猟奇的なものであったり、残虐なものだったりと、絶対に関わりたくはないようなものばかりだった。

『お仕事の内容は以上です。ではこの中からおひとつお選び頂いたら改めて電話を頂けますでしょうか?』

『…あ、あの…今すぐ決めちゃってもいいですか?』

『はあ、構いませんが』

仕事は全部で5つ。

狂也は一つ目の“女性の遺体を山に埋める”以降の仕事はあまりにも残虐でできそうにないので、これ以外は考えられなかった。

『一つ目の…遺体を埋める仕事というのを…お願いします…』

⏰:11/12/30 14:12 📱:Android 🆔:j9L9UqqY


#44 [輪廻]
 
 
『了解致しました。では早速、本日午後7時に指定された場所へご足労願いますか?』

『えっ? 今日…ですか?』

『…何かご予定でも?』

『いえ、特には…』

『では、本日午後7時にセブンイレブン南3丁目店の駐車場へお願いします。
目印は黒いワゴン車との事ですので、お忘れのないよう…』

男性が丁寧にそう言うと、電話はプツッと切られた。


『南3丁目……遠い』

真っ暗になった携帯電話の画面を見つめながら呟く…と同時に何か違和感を感じた。

⏰:11/12/30 14:13 📱:Android 🆔:j9L9UqqY


#45 [輪廻]
 
 
何に対して違和感を抱いたのかは、忘れっぽい所がある狂也でもすぐにわかった。

『目印は黒いワゴン車…“との事”?』

この“との事”という部分が引っ掛かったのだ。


それというのも、指定場所へ来るのは当然デスネットの関係者だと思っていたからだった。

だが今の言葉はまるで、女性の遺体を埋めて欲しい別の何者かがいるという事を感じさせる。


狂也は違和感の正体に気づいたと同時に不安感、そして恐怖感へと変わっていった―

⏰:11/12/30 14:14 📱:Android 🆔:j9L9UqqY


#46 [輪廻]
 
 
どうすればいい…?

頭を抱えて必死に考える。


しばらくして、顔をゆっくり上げ…

『(警察…。こういうのって警察に言えばなんとかしてくれるよな…)』

という安心な方法を思いついたのだが、もしも警察に通報してしまうと、通報したという事で今後、自分の命が狙われるかもしれない。

そう考えると、あまりにもリスクが高すぎて通報するのを躊躇ってしまう。


だからといって“女性の遺体を埋める”という行為をしてしまった時点で、自分は犯罪者になってしまう。

どの道、逃げ場はないと思った。

⏰:11/12/31 23:51 📱:Android 🆔:z6b5A5a6


#47 [輪廻]
 
 
個人情報を向こうが握っている以上、彼らに従うしかないのか、と自分に問いかける。

いや、でもでも…と再び頭を抱える。

それの繰り返しだった。


そんな状態が30分ほど続き、考えた結果、狂也はある事を決めた。

机に置いた携帯電話をサッと手に取り、着信履歴からデスネットへ電話をかける。


数秒呼び出し音が鳴った後、ガチャッという音と共に向こうは電話に出た、と同時に聞き覚えのある声がした。


『お電話ありがとうございます。ご用件をどうぞ』

そう。あの機械で喋る女性の声である。

⏰:11/12/31 23:53 📱:Android 🆔:z6b5A5a6


#48 [輪廻]
 
 
『あの…責任者の人をお願いします』

先ほど電話した男性の名前は聞いていなかったので、とりあえずデスネットの責任者の人を出して貰うよう伝える。


『かしこまりました、少々お待ちください』

向こうがそう言い、しばらく音楽が流れた後、あの男性が電話に出た。


『お電話代わりました。デスネットの日向と申します』

『あの…大槻と言いますが…』

『大槻……ああ、先ほどの。どうかされましたか?』

またいつ怒鳴られるかわからないが、狂也は息をのんでから思い切って切り出す。


『お、お金はいらないので…遺体を埋める仕事が終わったらデスネットを辞めさせてください!』

⏰:11/12/31 23:54 📱:Android 🆔:z6b5A5a6


#49 [輪廻]
 
 
言ってしまった。

絶対に怒鳴られる…そう思って携帯電話を耳から少し離す。


だが、あの『オイ!』などという一喝は聞こえてこなかった。

再び携帯電話を耳に近づける。

男性は少し無言の状態を続けた後、冷静に口を開いた。


『それは……殺されても良い、という事ですね? 』

『……え?』

何かの聞き間違えだろうかと思い、聞き返す。


『ですから…殺されても良いという事ですよね? 』

やはり聞き間違いではなかった。

⏰:12/01/01 00:03 📱:Android 🆔:sM1doH3s


#50 [輪廻]
 
 
なぜ、仕事を辞める=殺されるという結論になるのか理解できない狂也は、怒鳴られるのを覚悟で問う。


『なんで辞めるって言ったくらいで殺されなきゃならないんですか?』

なぜだか腹が立ってきて少し強気に言うと、男性は電話の向こうで、鼻で小さくフッと笑った。


『大槻様…あなた、お年は?』

『え……に、24歳ですけど』

『まだまだガキって事ですね。社会のルールもわからないのでは、この先苦労しますよ?』

そう語る男性に“人に遺体を埋める仕事をさせる奴が何を言っているんだ”と思った。

⏰:12/01/01 00:10 📱:Android 🆔:VmOWdgJU


#51 [輪廻]
『どうなさいますか? 辞退という事であれば…さきほど申し上げた通り…』

『わ、わかりました…やります』

向こう…デスネットは自分の個人情報を握っている。

ここでその仕事を辞退すれば、後々とんでもない事になるのは火を見るより明らかだった。


『わかりました。では本日、指定の場所へよろしくお願い致します』

そう言って電話は切られた。

⏰:12/02/16 09:29 📱:iPhone 🆔:fMUUjEps


#52 [輪廻]
 
 
狂也は持っていた携帯電話を耳から離すと、今にも潰れそうな勢いで電話をぎゅっと握りしめた。

そしてあの広告もビリビリに破き、悲鳴にも似た叫び声をあげた。


『くそおおおおおおお!!』

後悔の念がぐっと押し寄せる。


だが後悔した時にはすでに遅かったー
 
 

⏰:12/02/16 09:48 📱:iPhone 🆔:fMUUjEps


#53 [輪廻]
 
 
PM6:55ー


電車を使い、指定された南3丁目のコンビニへやって来た狂也。

周りを気にしながらふと駐車場の方に目をやる。


すると、電話の男が言っていた通りの黒いワゴン車がそこに一台停車していた。


狂也は一瞬その場から今にも逃げ出したい衝動にかられたが身体が徐々に震え出し、いう事をきかず、一歩一歩ゆっくりとそのワゴン車の方に近づいて行く。

⏰:12/02/17 11:48 📱:iPhone 🆔:zyEBEpdQ


#54 [輪廻]
 
 
カーテンでもかけられているのか、こちらから車内の様子は全くわからない。


それで狂也は確信した。

この車内には、これから遺棄しようとしている死体があるのだとー


その瞬間

『“今ならまだ間に合う。コンビニの店員に言って警察を呼んでもらうなら今しかない”』

心の中のもう一人の自分がそう言った気がした。

⏰:12/02/17 12:01 📱:iPhone 🆔:zyEBEpdQ


#55 [輪廻]
 
 
だが身体は相変わらずいう事をきかず、ついに狂也の足は車の目の前まで来た。

車の運転席にもカーテンがかかっており、中の様子を伺う事は一切できない。

こちらから何かしら合図を示さなくては反応がなさそうである。

心の中のもう一人の自分はまだ

『“よく考えろ”』

と何度も警告している気がした。

⏰:12/02/18 17:15 📱:iPhone 🆔:P0qxpD7c


#56 [輪廻]
 
 
だが、もしここで逃げてしまったら…という事を考えると、考えたくもない事が自分の身に降りかかってしまうー

狂也は意を決して、車の運転席の窓を軽くノックした。


少しして運転席にかかっているカーテンがシャッと開かれ、窓越しに年齢50代くらいと思われる小太りの男性の顔が覗いた。

どこにでもいるサラリーマンのような男の顔を見た狂也は、心なしか安心する。

⏰:12/02/18 17:16 📱:iPhone 🆔:P0qxpD7c


#57 [輪廻]
 
 
やがて窓がスーッと開き、男が顔を出すと『乗れ』と手で助手席の方を示す合図をする。

狂也は言われた通り、車の後ろから回り込み助手席の方へ小走りで向かう。

ドアを開け、すぐ乗り込むと車はすぐに発車した。


走り出して数分が経った時、ようやく運転席の男が顔を前に向けたまま口を開いた。


『……名前は?』

そう冷静な口調で尋ねられた狂也は、それとは裏腹にあたふたしながら返答する。


『お…大槻狂也です』

『…電話で言ってた名前で間違いねえか』

男はそう独り言のようにつぶやいたのを最後に、車内は再び無言状態になった。

⏰:12/02/18 19:20 📱:iPhone 🆔:K03n5Vow


#58 [輪廻]
 
 
こちらから聞きたい事は沢山あるのだが、このなんともいえない雰囲気に飲み込まれ、口を開くことができない。

この車内に人間の死体があるのだと思うと、余計に。


出発して小一時間ほどが経過した頃、車は街を大きく外れ、暗い山道に差し掛かった。

死体を埋めるには最適と言わんばかりの夜の山。

自分はこれから犯罪者の手伝いをしなくてはならないのかと思った矢先、車は木々で囲まれた小さな駐車場で停車した。

⏰:12/02/19 10:02 📱:iPhone 🆔:SvRFADbc


#59 [輪廻]
 
 
『降りろ』

エンジンを止めて男がそう言い、狂也はドアを開けて外へと出た。

男は後部座席のドアを開け、何かゴソゴソとやっているのが聞こえる。

ついに人間の死体が出てくるのかと身体を小さく震わせていると、男は大きな頑丈そうなシャベルを狂也に渡してきた。


『それ使え』

そう言うと再び後部座席の方に戻り、またゴソゴソと始める。

⏰:12/02/19 10:18 📱:iPhone 🆔:SvRFADbc


#60 [輪廻]
 
 
少しして、ガサガサとビニール袋の音がし、男はそれを車内から引っ張り出した。

それは黒く長い、所々ヒモで巻かれたビニール袋。

中に何が入っているのかは安易に想像できた。


男は引っ張り出したそれを一旦地面に置いてから再び持ち上げ、肩に担ぐ。


『こっちだ。行くぞ』

そう言って男は木々だらけの暗い林の方へ向かって歩き出した。

狂也もシャベルを片手に、男の後に続いた。

⏰:12/02/19 23:51 📱:iPhone 🆔:0XqFC2nc


#61 [輪廻]
 
 
静まり返る林の中に、狂也と男の落ち葉や枝を踏みつけながら歩く音だけがやけに大きく響く。


『ここいらでいいか』

先頭を歩く男がそうつぶやいたのは、歩き出して10分ほどが経過した頃。

男は担いでいた、死体が入っていると思われるビニール袋を地面に置いて狂也の方を見ると


『ここらへんを掘ってくれ』

と、自身の足元の地面を指さして言った。

⏰:12/02/19 23:53 📱:iPhone 🆔:0XqFC2nc


#62 [輪廻]
 
 
『は、はいっ!』

裏返りそうな声で答え、男の指さす方へ近づく。


『ここ…でいいんですよね?』

『ああ。早くしろ』

狂也は左手に持っていたシャベルを右手に持ち変え、腰をかがめながら足元の地面を掘り始めた。


それを男は両腕を組みながら黙って見下ろす。

⏰:12/02/20 00:27 📱:iPhone 🆔:6fxgN5ZU


#63 [輪廻]
  
とっとと終わらせようと力いっぱいにシャベルを地面に突き刺し、掘り続ける狂也。


所々で男の『さっさとしろ』という心の声が聞こえてくるようだった。


そんなプレッシャーを肌に感じつつ掘り続ける。


数十分後ー

やっと人一人が入れそうな深い穴ができた頃、狂也の土を掘る姿を黙って見ていた男がついに行動に出る。


死体の入ったビニール袋を軽々と片手で持ち上げると、今掘ってできた穴の中に投げ入れた。


そして狂也の方を見る。

暗くてよくわからなかったが、その男は不気味に微笑んでいるように見えた。

⏰:12/02/20 12:17 📱:iPhone 🆔:m1BlL9s6


#64 [輪廻]
 
 
一方の狂也は、どんな表情をしていいのかわからず、足元の穴に落ちたビニール袋を呆然と見つめる。


『じゃあ最後の仕事だ』

どこか楽しげな口調で言った男の方に目をやる。


『またこの穴を塞げばいいんですよね?』

彼の言いたい事を悟り、先に切り出した狂也。

すると男は、ますます不気味な笑みを浮かべ

『わかってるじゃんか。でも、もう一つあるんだな』

と、意味深な発言をした。

⏰:12/02/20 12:18 📱:iPhone 🆔:m1BlL9s6


#65 [輪廻]
 
 
『え…』

一体この穴を塞ぐ他に何があるのだろうと首を傾げつつ男を見つめる。


暗闇に目が慣れてきたのか、今なら男の表情がハッキリと見える。


彼は『お楽しみはこれからだ』と言わんばかりの笑みを狂也に向けていた。


『一体…どんな事をするんですか?』

『まあそれは後でいいから。とりあえず先に穴を埋めてくれよ』

最初と比べてやけに口数が多くなってきた男に安心感と不安感を同時に抱きながらも、死体入りのビニール袋が入った穴を先ほど出した土を使って埋めた。

⏰:12/02/20 12:18 📱:iPhone 🆔:m1BlL9s6


#66 [輪廻]
 
 
こういった力仕事は経験がない為、埋め終わった時には息切れ寸前であった。


持っていたシャベルを地面に投げ捨て、その場に尻もちをつくようにしてへたり込む。


『お疲れさん』

男は、疲れきった狂也を面白がっているような口調で言いながら肩をポンと叩いた。


『それで…次は何をしたら…いいんですか?』

今度は力を使う作業でない事を祈りながら問う。

するとその祈りが通じたのか、男は狂也の捨てたシャベルを拾いあげて言った。


『今度は楽だから安心しな』

その言葉を聞いてホッと安心のため息をついた狂也だったが、次の男の一言でそれは束の間の一安心だった事になる。


『君とは共犯者って事になったけど、もしもの時もあるからさ…君も今ここで死んでくれないか?』

そう言って重いシャベルを上に振り上げたと思うと、それを狂也めがけて思い切り振り下ろしたー

⏰:12/02/20 12:20 📱:iPhone 🆔:m1BlL9s6


#67 [輪廻]
 
 
叫び声をあげる間もない、まさに一瞬の出来事。

だがシャベルを振り下ろすスピードは狂也にとってはそれほど早く感じなかった為、素早くそれをかわす事ができた。


予想外な男の行動に驚いている暇もなく、狂也は地面につけた肘の力を使って立ち上がり、男に背を向けその場から一目散に来た道へ向かって走り、逃げ出した。

走っている間、後ろから追ってくる気配はあったが、それは走り続ける内に徐々に消えていったー


男は50代くらいの小太りの男。

少し走れば疲れが出てくるのは当然だろうと思い、足を止めて後ろを振り返る。

⏰:12/02/20 22:03 📱:iPhone 🆔:w9S590UQ


#68 [輪廻]
 
 
そこには真っ暗闇が広がっているだけで、男の姿も気配もない。


安心したと同時に脚全体に疲労が来て、その場に再びへたり込む。


が、自分の命が狙われているのにこんな所で休んではいられないと思った狂也は、座り込んで10秒も経たない内に膝を抑えながらゆっくり立ち上がった。


そしてふらふらとしながらも歩き出し、男の車が停まっている駐車場を目指した。

⏰:12/02/20 22:04 📱:iPhone 🆔:w9S590UQ


#69 [輪廻]
 

 
途中から取り出した携帯電話のわずかなライトを頼りに進むと先ほどの駐車場が見え、その片隅に男の黒いワゴン車が停まっていた。


免許は持っていない為に運転はできないが、車内に何かないか探す事にした。


幸いな事に車の助手席側のドアには鍵はかかっておらず、狂也はその車内の探索を始める。


早くしなければあの男が来てしまうー

そんなプレッシャーと戦いながら携帯電話のライトを使って車内を照らす。

⏰:12/02/21 13:26 📱:iPhone 🆔:8biSCrPU


#70 [輪廻]
 
 
今まで見られなかった後部座席を主に調べていると、土木や建設関係に使われるような材料が無造作に置かれている。


それで、あの男はそういった職業なのだろうと納得した。


そんな様々な材料の中、携帯電話のライトに反射して、チェーンソーの刃が見えた。


男に襲われた場合の武器に最適かもしれないー

一瞬そう思ったが、これは立派な刃物。

自分は殺人者にはなりたくないというのもあり、チェーンソーを手にするのはやめる事にした。

別の方向にライトを照らそうとした時、チェーンソーの刃の一部に何か見えたような気がして、そこにライトを当て直す。

⏰:12/02/21 13:28 📱:iPhone 🆔:8biSCrPU


#71 [輪廻]
 
 
その刃先には薄黒い血のようなものに混じって、何かがこびりついていた。


『うっ…』

それを見て思わず声を出し、口元を手で抑えつつ、こびりついたものに顔とライトを近づける。


『(うわ…これ…)』

それは、何かの肉片のようなものだった。

それが血と一緒にこびりついているという事はー

背筋が一瞬にして凍りついた。


人は、予想外の事が起こったり、予想外の結論に至った時、一瞬思考が停止するー

まさにその通りの事が起きた。

⏰:12/02/22 18:54 📱:iPhone 🆔:V9qdvDAI


#72 [輪廻]
 
 
同時に身体がまるで金縛りにあったかのようにいう事がきかなくなり、唯一動く視線だけを車内のあちこちに向ける。


そこで、さっきは気づかなかったが、よく見ると座席には所々に斑点模様のようにできた薄黒い血のようなものが付着しているのに気づいた。


『(まさか…)』

それを見て、考えたくもない結論に達する。


“あの埋められた死体は、生前この車内であの男に殺られたもの?”


それも、このチェーンソーを使って…

⏰:12/02/22 18:55 📱:iPhone 🆔:V9qdvDAI


#73 [輪廻]
 
 
そんな外国のホラー映画のような事があるのかと疑いたくはなったが、事実ここに今、刃先に血と肉片がこびりついたチェーンソーが存在しているのだ。


自分は今までそんな残虐な殺し方をする男と一緒にいたのだと思うと、余計に背筋が凍った。


そんな時ー

林の向こうから木の葉や枝を踏みつけながらこちらに向かってくる足音が聞こえた。


逃げなければー

それしか選択肢はなかった。

途端にさっきまで動かなかった身体がフッと動くようになり、後部座席に向けていた首を引っ込め、助手席側から素早く外に出る。

⏰:12/02/23 10:10 📱:iPhone 🆔:q7HgzDwU


#74 [輪廻]
 
 
大きな足音を立てないように駐車場を出て道に出ると、そこから離れるべくダッシュで最初にきた道の方向へと走った。


走っている最中は段々と、家に着いたらデスネットの会社に自分の命が狙われそうになったと苦情を入れたい一心になり、怒りに任せて走り続ける。


途中、別の車が通ったら乗せてもらおうかとも思ったが、夜になぜこんな山の中に一人でいるのだと不審に思われかねない。

当然その理由を言える訳もないし、別の言い訳も思いつかない。


ここは逆に、人に見つかってはならないと踏んだ。

⏰:12/02/24 10:42 📱:iPhone 🆔:6cuUJ.72


#75 [輪廻]
 
 
15分ほど走り息も切れかかってきたところで、ポケットに入れていた携帯電話のバイブが鳴った。


バイブに気づいた狂也は、ふらふらと道の脇に移動し、足を止めて携帯電話を取り出す。


“03-XXXX-XXXX”

ディスプレイに表示されている番号。

デスネットからの着信だった。

こちらも言いたい事があったので丁度いいと思い、すぐ電話に出る。


『はい』

不機嫌かつ、疲れた声で狂也が言うと

『大槻様ですか? こちらデスネットの日向ですが』

狂也の今の状況を知ってか知らずか冷静な紳士的口調で返す日向。

⏰:12/02/24 10:44 📱:iPhone 🆔:6cuUJ.72


#76 [輪廻]
 
 
『はい、大槻です』

『大槻様。現在どちらにいらっしゃいますか?』

『え…』

日向の質問に、言葉に詰まる狂也。

あの男がデスネットに、自分が逃げ出した事を報告したのだろうという事はすぐわかった。


狂也も負けじと殺されそうになった事を説明する。


『実はさっき、死体を埋めた男に殺されそうになって…思わず逃げちゃったんですけど』

そう説明すると向こうは少し間を置いた後…


『なるほど、そうでしたか。しかし先ほどその男性から電話がありましてね。彼は、大槻様…あなたが仕事を途中放棄して逃走されたと仰られていましたが…』

『…え?』

『仕事の途中放棄はデスネットでは禁止行為となっております。この意味、わかっていますね?』

『いやちょっと…!俺は…!』

『仮にあなたが殺されそうになったのだとしても、そういった依頼者側の私情につきましてはデスネットは一切の責任を負わない事となっておりますので』

日向の一方的かつ不条理な説明を聞いて、狂也は携帯電話を耳に当てたまま呆然と立ちつくす。

⏰:12/02/26 07:01 📱:iPhone 🆔:DkYIXvO.


#77 [輪廻]
 
 
『もしもし大槻様? おわかり頂けましたか?』

『……けんな…』

『はい? なんですって?』

狂也は片方の拳を強く握り、ぶるぶると震わせた。


そしてー

『ふざけんな! 人に死体埋める仕事させといて何が責任負えないだよ!! アンタの会社頭おかしいんじゃねぇの!?』

大声で怒りを電話の向こうの日向にぶつけた。

相手が冷静な口調だからこそ、怒りは倍になる。

⏰:12/02/26 07:02 📱:iPhone 🆔:DkYIXvO.


#78 [輪廻]
 
 
夜の山に狂也の大声がこだまするように響く。

一方、電話口越しに大声を出された日向は狂也の豹変ぶりに驚いたのか、黙っている。

が、すぐに口を開いた。


『大槻様。お言葉ですが、お金はそう楽に手に入るものではありません。
それなりの報酬にはそれなりのお仕事がある訳です。
それに元々あなたの方から求人広告をご覧になった上で我が会社にお電話した訳ですよね?
ご自分の事を棚に上げて、頭がおかしいと仰られるのは誠に心外ですね』

日向は態度を変える事なく冷静な口調で長々と返した。

狂也は反論しようにも、頭の中は、あの男に命を狙われているという恐怖感とデスネットに対する怒りで混乱し、思うように声が出ない。


『もしもし、大槻様? 大槻…』

ピッー

ここで狂也は電源ボタンを連打し通話を切ると、携帯電話を地面に思い切り強く叩きつけた。

⏰:12/02/29 09:54 📱:iPhone 🆔:b2PBU4DM


#79 [輪廻]
 
 
同時に髪をくしゃくしゃに掻き毟りながらその場にしゃがみ込む。


数分して、地面に転がっていた携帯電話のバイブが鳴った。

ゆっくり手を伸ばして拾い上げ、画面を見る。


“090-XXXX-XXXX”

今度は見知らぬ携帯電話からの着信だった。

だが、狂也がそれに応答する事はなかったー

電源ボタンを押し通話を切り、長押しして携帯電話の電源をも切ると、それをポケットに入れて立ち上がる。

そしてそこからとぼとぼと街へ向けて歩き出したー



前編・狂也篇【完】

⏰:12/02/29 09:59 📱:iPhone 🆔:b2PBU4DM


#80 [輪廻]
 
 
 
第1話『戦慄の序章』
 

後編・響歌篇
 
 
 

⏰:12/02/29 10:04 📱:iPhone 🆔:b2PBU4DM


#81 [輪廻]
 
 
午前1時40分ー

現場にはただならぬ緊張が走っていた。


中学校の同窓会中、深夜墓での肝試し中にナイフを持った男に襲われた蓮と、同級生の安井。

蓮は安井を逃がし、皆の元へ戻ってきた彼女が事情を話すと、今度は響歌と蓮と仲良しである七瀬が、蓮が心配で墓の奥へと走り出す。

七瀬に続いて、男同級生も蓮を助ける為に墓へ。

その際、この肝試しを企画した同窓会の幹事に一喝を入れた。


残された皆は不安になりながらもその場で蓮や、墓に向かった2人の帰りを待っていたー

⏰:12/02/29 10:27 📱:iPhone 🆔:WKal1slg


#82 [輪廻]
 
 
『ねぇ…3人共大丈夫なの?』

重い沈黙の中、気の強い女同級生が皆を見回しながら言う。


その質問に誰も答える事はなく、ほとんどがうつむいたまま沈黙を続ける。

だが少しして、石の上に腰かけていた響歌がスッと立ち上がり幹事の方へと歩み寄る。


『…村井ちゃん?』

目の前に立った真顔の響歌を、幹事はおどおどした態度で見下ろす。

⏰:12/03/01 13:54 📱:iPhone 🆔:pWG6U8iw


#83 [輪廻]
 
 
響歌は幹事の顔を穴の空くほどしばらく見つめた後、一言放った。


『あなた…誰?』

その響歌の一言に、うつむいていた同級生皆が一斉に2人の方を見た。


『だ、誰って…』

明らかに動揺を見せる幹事の顔から響歌は一時も視線を外さなかった。

⏰:12/03/01 13:55 📱:iPhone 🆔:pWG6U8iw


#84 [輪廻]
 
 
『私…旅館にいた時、一人一人の顔見て、この人はこの人だなって懐かしみながら思い出していったの。
でも、どうしてもあなたの顔だけは思い出せなかった。もちろん名前も』

『…………』

幹事はあちこち目を泳がせながら黙りこける。


響歌は視線を外し同級生らの方に向けると、幹事の方を指さして聞いた。


『皆はこの人の事覚えてる? こんな人同級生にいた?』

質問された同級生らは顔を見合わせつつ、徐々に幹事の方に歩み寄って行き、その顔を食い入るように見る。

⏰:12/03/01 14:13 📱:iPhone 🆔:pWG6U8iw


#85 [輪廻]
 
 
『ん〜』

その中で、男同級生の一人が眉をしかめる。

そして少し見つめた後に彼も言った。


『言われてみれば……お前誰だっけ?』

『…………』

沈黙を続ける幹事。

⏰:12/03/03 08:38 📱:iPhone 🆔:.AGkMq/.


#86 [輪廻]
 
 
ーこの幹事が誰なのか?

それだけで、現場は異様な空気に包まれた。


皆が幹事から遠巻きに離れていく中、響歌は何かを疑うような目つきで彼の顔を見る。


『同窓会の案内が届いた時から変だとは思ってた…。
だって、その案内に幹事の名前が書かれてなかったから。
普通は苗字くらい書いてあるものでしょ』

『…………』

『もう一度聞きます。あなたは誰? 私達の同級生じゃないですよね? 明らかに私達より年上だし』

『…………フ』

下を向いて黙り続けていた幹事は、ここでやっと口を開いたと思うと、力なくほくそ笑んだ。

⏰:12/03/03 08:39 📱:iPhone 🆔:.AGkMq/.


#87 [輪廻]
 
 
『…何がおかしいんですか?』

真剣な表情で響歌が尋ねる。

幹事は下を向いたまま口元をひきつるようにして不気味な笑みを浮かべると、ついには声に出して高らかに笑い出した。


『くっ…ふふ……あっはっはっはっはっ!!』

突然の笑い声に、目の前にいた響歌は驚いて、思わずその場から後ずさりする。


『ちょっと…アンタ誰なの?』

響歌に代わり気の強い女同級生が、狂ったように笑っている幹事に近づきながら聞く。

⏰:12/03/03 13:41 📱:iPhone 🆔:V518DNM2


#88 [輪廻]
 
 
『……やっぱり……』

幹事はそうポツリと小さくつぶやいた後、同級生らの方を見ると


『やっぱりアンタらと同級生ってのは無理があったか…』

と、観念したように言った。


『は…? じゃあ誰なの?』

女同級生がイライラした様子で聞くと、幹事は大きなため息を一つついてから、話し始めた。

⏰:12/03/05 08:28 📱:iPhone 🆔:pOsPdp4A


#89 [輪廻]
 
 
『俺、今デスネットってところでバイトしててさぁ…この同窓会に参加するように言われたんだよね。まあ正確には、幹事をやれって事なんだけど』

『……!!』

言葉の一部を聞いた響歌がピクリと反応する。


『俺、もちろん最初は断わったんだよ? 俺、今年で丁度30だし無理があるって。でもデスネットの奴が……』

幹事がここまで言った時、墓の向こうから七瀬が叫び声をあげながら蓮と共にこちらに向かってきた。

『誰か!!』

『ナナ! 蓮!』

無事に戻ってきた二人を見て、響歌が嬉しそうな顔で近づく。

⏰:12/03/05 08:29 📱:iPhone 🆔:pOsPdp4A


#90 [輪廻]
 
 
だが七瀬と蓮の様子がおかしい事に気づくと、その嬉しそうな表情はすぐに引っ込んだ。


『おい、田中はどうしたんだよ!?』

男同級生が墓の奥の方の暗闇を見渡しながら二人に聞く。

『………あの…』

『いい七瀬、俺が話す』

七瀬の言葉を遮り、蓮が皆の方を見て事情を話し始めた。

⏰:12/03/05 08:45 📱:iPhone 🆔:pOsPdp4A


#91 [輪廻]
 
 
『安井ちゃんから聞いてると思うけど、安井ちゃんと二人で墓の中歩いてたら木の影に誰かいてさ。
声かけようと思って近づいたら、いきなり飛び出してきたんだよ…。
で、よく見たらそいつなんか刃物みたいなの持ってて…さすがの俺もびっくりしたんだけど、女が隣にいるのにビビってる訳にもいかなくて、そいつの刃物持ってる手をなんとか掴んで安井ちゃんを逃がしたの』

そう言うと皆は、地面にしゃがみ込んで身体を震わせている安井を見る。


『本当危なかったんだね…』

安井を見つめる女同級生が小さくポツリとつぶやく。

⏰:12/03/06 08:44 📱:iPhone 🆔:EKy4GumM


#92 [輪廻]
 
 
『それで…田中はどうしたんだよ!?』

男同級生が言うと、再び皆は蓮に視線を戻す。


『田中は…』

それ以上は言えない事態でも起きたのか、蓮はそこで口をつぐんだ。


『桐谷…?』

『…蓮。ここからはあたしが話す…』

今度は蓮に代わって七瀬が口を開いた。

⏰:12/03/06 08:46 📱:iPhone 🆔:EKy4GumM


#93 [輪廻]
 
 
『あたし蓮が心配で追いかけて、男の人ともみ合ってる蓮を見て、夢中で二人に飛びかかったの。
あたしの体当たりで男の人が倒れて…そしたらその人があたしの顔見て…「お前だ」って言ったの。
小さい声だったけどちゃんとそう聞こえた…』

『“お前だ”…? ナナはその人知ってるの?』

響歌が首を傾げながら聞く。


『ううん、知らないよ。顔はよく見えなかったけど…声にも聞き覚えなんてないし』

『じゃあ…“お前だ”ってどういう事…?』

『あたしの方が聞きたいよ!』

『それで…どうしたの? 田中君は?』

『あ、うん…それで男の人が地面に落ちた何かを拾って立ち上がって、あたしに襲いかかってこようとしたんだけど…そこに田中君が現れて男の人の前に立ちはだかったの。そしたら………』

そこで七瀬は両手で顔を覆い、地面にしゃがみ込んだ。

⏰:12/03/06 09:15 📱:iPhone 🆔:EKy4GumM


#94 [輪廻]
 
 
『もしかして…ナナを庇って…?』

事態を察した響歌がポツリと言うと、七瀬の隣にいた蓮がコクリと頷いた。


『田中が…? 嘘…だろ…桐谷…』

田中の最も親しい友達であろう男同級生が今にも放心状態になりそうな顔で途切れ途切れにそう言いながら蓮に近づく。


『悪い…俺、男が七瀬に襲いかかろうとして、止めようとしたんだけど、いきなり田中が現れたから思わず…』

蓮はその同級生の顔を見つめながら申し訳なさそうに言う。

⏰:12/03/07 12:16 📱:iPhone 🆔:vqFNM0dE


#95 [輪廻]
 
 
同級生は蓮の前に立つと

『お…お前のせいじゃないよ…はは…うん…気にすんな…』

半笑いでそう言い、焦点の合っていない目で蓮を見ながら肩をポンと一回叩いた。


そんな中、女同級生の一人が大きな声をあげる。

『とにかく警察呼ばないと! あと救急車も!!』

その声をきっかけに現場は騒然となる。

⏰:12/03/07 12:17 📱:iPhone 🆔:vqFNM0dE


#96 [輪廻]
 
 
ある者は慌てふためき、ある者は警察に電話する為かポケットから携帯電話などを取り出す。


『警察は俺が呼ぶからお前は救急車呼べ!』

『わ、わかった…!』

警察を呼ぶと言った男同級生がダイヤルを押そうとした時だった。


『ま、待って! やめてくれ!!』

誰かの叫ぶような声がし、一同はその声のした方を一斉に見る。

⏰:12/03/09 11:48 📱:iPhone 🆔:Bv.Lz60E


#97 [輪廻]
 
 
そこには、この同窓会の正体不明の幹事が冷や汗をかいた状態で棒立ちしていた。


『は? アンタこんな時に何言って……』

『頼む! 警察だけは…!!』

気の強い女同級生の言葉を遮り、幹事は携帯電話を握る男同級生に手を合わせて言う。

幹事の動揺が、離れた場所にいてもひしひしと伝わってくるようだった。


『なんでアンタがそんな事言うんすか? 俺らの同級生が知らない奴に殺られたかもしれないんすよ』

『そうだよ! 重森、早く警察呼べよ』

『わかってる!』

幹事の願いも届かぬまま、同級生の重森は110番のダイヤルを押したー

⏰:12/03/09 11:50 📱:iPhone 🆔:Bv.Lz60E


#98 [輪廻]
 
 
20分後ー

男同級生の通報により、警察と救急隊が到着した。

七瀬と蓮が警察と共に墓の奥の挌闘があった場所を調べた所、そこに同級生の田中の姿はなかったという。

二人は『この場所で間違いない』と何度も訴えたが、血痕など痕跡が何ひとつ見つからなかった為、この通報はただの若者集団によるイタズラだと決めつけられてしまった。


ー警察や救急車が去り、現場には静寂が訪れる。


『意味わかんねえ…俺らがイタズラで通報したって? ふざけんなよ
…?』

通報した同級生の重森は、誰に言うわけでもなく、ただ地面に向かってつぶやいた。

⏰:12/03/09 12:35 📱:iPhone 🆔:Bv.Lz60E


#99 [輪廻]
 
 
『と、とにかく…寒くなってきたし旅館に戻らない?』

女同級生の一人が身体を震わせて尋ねると、一部の人がぞろぞろと歩き出した。


『ナナ…蓮…行こう』

石に座りうつむく七瀬と蓮に声をかける響歌。


『なんで…』

七瀬がものすごく小さな声でポツリと言った。

響歌が何と言ったのか聞き返す間もなく、すぐ響歌の方を見上げる。

その瞳には涙が溢れていた。

⏰:12/03/09 12:36 📱:iPhone 🆔:Bv.Lz60E


#100 [輪廻]
 
 
『なんで…信じてくれないの…? 警察は…』

涙声で響歌の目を真っ直ぐ見据えて尋ねる。


『それは…』

それはと前置きしたのはいいものの、なんと答えてあげればいいのかわからなかった。


すると、七瀬の隣に座る蓮が助け舟を出した。


『それは…俺たちにも少し問題があったと思う。だって、こんな真夜中に大勢の若者が墓にいるんだぜ? だからイタズラだと思われても仕方ない部分もあったと思うんだよな…』

『そ…そう、蓮の言う通りだと思う』

響歌が蓮の言葉に賛同した所で、七瀬は少し精神が安定したのか、上を向いて大きな息を吐いた。

⏰:12/03/09 12:37 📱:iPhone 🆔:Bv.Lz60E


#101 [輪廻]
 
 
『じゃ、俺達も戻るか。皆行っちまったし』

『そうだね』

蓮が、座っていた石から立ち上がり、七瀬もそれに続いて立ち上がる。


『…………』

そんな二人を、響歌は黙って見つめる。


『ん? どうかした? 村井』

『…え? いや、なんでもないよ。それよりさ…』

『……? なに? 響歌』

ポカーンとした顔で響歌を見る二人。

響歌は、二人が帰ってくる前に聞かされた幹事の告白の事を説明した。

⏰:12/03/10 10:37 📱:iPhone 🆔:klZv3ZOY


#102 [輪廻]
 
 
『あの幹事の人いるでしょ?』

『ああ…それがどうかした?』

『あの人…私達の同級生じゃなかったの』

響歌がそう言うと、二人はほぼ同時にえっと驚く。


『まじで? なんでわかったの?』

『実は……』

響歌は事の成り行きを全て話した。

⏰:12/03/10 10:38 📱:iPhone 🆔:klZv3ZOY


#103 [輪廻]
 
 
『……あいつがデスネットで…?』

『うん。間違いなくそう言ってた』

『でもさでもさ…ホントは29歳なんだよね? 中学校に集まった時、誰もおかしいと思わなかったのかな?』

七瀬のいう事はごもっともであった。


『それは私も気になってた。私達以外で誰一人不審に思わなかったし…』

『だよな…』


蓮は腕を組んで考え込んだ後、二人を見て

『俺、後であいつと話ししてくるわ。俺達の同級生じゃない奴がなんでこの同窓会を企画したのか、全部聞き出してやる』

そう言いながら拳を作りガッツポーズをすると、それを見た七瀬と響歌はニッコリと微笑んだ。

⏰:12/03/10 11:05 📱:iPhone 🆔:klZv3ZOY


#104 [輪廻]
 
 
『な、なんだよ』

『別にぃ〜。ね? 響歌!』

『うん。なんでもないよ!』


『変な奴…』

蓮が最後にそうつぶやき、三人は旅館に向けて歩き出した。


そんな楽しそうな三人を妬むかのように木の影から一人の人影がその姿をじっと見つめていたー



後編・響歌篇【完】


第1話『戦慄の序章』了

⏰:12/03/10 11:12 📱:iPhone 🆔:klZv3ZOY


#105 [輪廻]
プロローグ・狂也篇
>>2-10

プロローグ2・響歌篇
>>11-35

第1話・狂也篇
>>36-79

第1話・響歌篇
>>80-104

ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。
しばらく更新できなくなりますので、しばらくの間お待ちくださると幸いですm(_ _)m

⏰:12/03/10 11:25 📱:iPhone 🆔:klZv3ZOY


#106 [輪廻]
 
 
 
第2話『惨劇の次章』
 

前編・狂也篇
 
 
 

⏰:12/03/13 19:28 📱:iPhone 🆔:Jl18ci6I


#107 [輪廻]
 
 
狂也が自分の住むアパートに着いた時には、時刻はすでに深夜2時を回っていた。

散々歩き疲れが溜まっているせいか、あの悪夢のような出来事の事は忘れかけていた。

重い足取りで階段を上がり、ポケットに入れていた鍵を取り出し、部屋のドアを開け中に入る。


部屋全体が暗い中、真っ先に向かったのは、いつも出しっぱなしにしている布団だった。

そのまま倒れるように布団の上に寝転がると、朦朧と意識が薄れていき、そのまま眠りについたー

⏰:12/03/14 09:21 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#108 [輪廻]
 
 
ーピンポーン…ピンポーン

何度目かのインターホンの音で目が覚めた。

薄く開けた目で辺りを見ると、窓の外から明るい日差しが差し込んでいる。

仰向けになっている身体をゆっくり上げて、時刻を確認する為に携帯電話を探す。

だが、いつも枕のそばに置いてあるはずの携帯電話が見当たらない。

鳴り続けるインターホンをそっちのけで電話を探す。


ーピンポーン

『ッ! うるせーな…』

寝起きが悪い狂也は、何度も鳴らされるインターホンの音に頭に来、サッと立ち上がると玄関の方へドスドスと大きな足音を立てながら向かった。

⏰:12/03/14 09:23 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#109 [輪廻]
 
 
イライラしていた狂也は、ドアについている覗き穴を確認する事もなく鍵を開け、ドアをバッと強く開いた。


『誰っすか…! あ…』

そこに立っていた人物を見て、一瞬にして身体と思考が停止する。


『おはようさん』

いつも忘れっぽい狂也だが、その人物とその声には当然覚えがあった。

その人物はまぎれもなく、昨夜狂也に人間の死体を埋めるのを手伝わせた男だった。

さらにはその後、この自分をも殺そうとしていた。

⏰:12/03/14 09:24 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#110 [輪廻]
 
 
昨晩の事を思い出し、もしかしてこの男は自分を殺しに来たのだと思い、急いでドアを閉めようとした時、男はすかさずそれを足でブロックした。


ドアを何度も内側に引くが、男のドアの下部分にかける足の力は強く、閉まらない。


狂也は思わず叫んだ。


『け、警察呼びますよ!!』

だが、男は怯む事なくニヤニヤ笑いで狂也の顔を見つめている。

⏰:12/03/14 09:25 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#111 [輪廻]
 
 
周りに人がいれば助けを呼ぼうと辺りを見回したが、そこに人っ子一人見当たらない。


まるでこの世に自分とその男しか存在していないのかと思うほどに、辺りは車の音も聞こえずひっそりとしている。


狂也はなんとか平静を保とうと、下を向いて深呼吸をしてから、男に話しかけた。

『な、なんの用なんですか…あの仕事なら昨日ちゃんと…』

そう言うと男はニッと歯を思い切り出し不気味な笑みを浮かべると、着ていた黒いダウンポケットの中に手を入れ何かを取り出そうとする。

⏰:12/03/14 09:26 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#112 [輪廻]
 
 
そして、男が取り出したものを見て再び身体が固まった。


『これ…何かわかる?』

答えるまでもなく、それは中型サイズのスタンガンだった。


やばいー

直感的にそう思い、何か抵抗できるようなものを探す為、男に背を向けて室内に戻ろうとした時…


バチバチバチィー!!

その背を向けたわずか一瞬で、男はスタンガンを狂也の背中に当てた。

ものすごい音と共に、身体に何十万ボルトもの電流が流れ、狂也の身体は力が抜けたように床に倒れ込む。

その瞬間は、まるでスローモーションのように、とてもゆっくりに感じられたー

⏰:12/03/14 09:27 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#113 [輪廻]
 
 
…………。

…………。

…………。


ドン、と床に頭をぶつけたような感覚と共にハッと目を覚ます。


視線だけを動かして辺りを見る。

そこはまぎれもなく自分の自室であった。


窓の外からは心地良く思えるような朝の日差しが室内に差し込んでいる。


『(……あれ?)』

頭がボンヤリとしていて、夢なのか現実なのかハッキリしない。

⏰:12/03/14 09:29 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#114 [輪廻]
 
 
とりあえず布団から身体を起こし、自分の手足や服装を確認する。

次に手を後ろに回し、背中を確認。

…何もない。

そこで、あの男が自分の部屋に訪ねてきた事とスタンガンで背中を狙われた事は完全な夢だったんだと理解できた。


それにしてもいやにハッキリした夢だったなと思い、頭をポリポリと掻く。

しばらくボーっと部屋の中を見つめた後、夢で見つからなかった携帯電話の事を思い出し、それを探す。

⏰:12/03/14 09:30 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#115 [輪廻]
 
 
が、夢では見つからなかった電話は意外にもすぐに見つかった。

昨日から履きっぱなしのジーパンのポケットを触ると多少の膨らみがあり、それを取り出し画面を見る。

画面は真っ暗で、変わりに自分の眠そうな顔が反射してハッキリと映り込んでいる。


ボタンを押しても反応がなかったので、電源ボタンを長押しして電源を入れた。


画面が点いたのを確認してから、携帯電話をそばに置いて布団から立ち上がる。

⏰:12/03/14 09:31 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#116 [輪廻]
 
 
その場で両手を大きく上に伸ばし欠伸を一回すると、眠たい目をこすりながらトイレへと向かう。


トイレは玄関の脇にあり、そこへ行くと再び欠伸をしてからトイレのドアノブに手をかけた…

その時であったー


ーピンポーン

部屋のインターホンが一回、鳴らされた。

狂也は一瞬ドキッとし、ドアノブに手をかけた状態で玄関のドアの方に顔だけを向ける。


すると再び…


ーピンポーン

二度目のインターホンが鳴った。

⏰:12/03/14 09:32 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#117 [輪廻]
 
 
狂也のコメカミから、一筋の嫌な汗が流れた。


しばらくドアを見つめたまま様子を見ていると、向こうに立っている人物の声ですぐ安心する事になる。


『大槻さんいる〜? 大家だけど!』

大きな声でそう言う聞き覚えのある男性の声を聞いた瞬間、途端に力が抜けたようにトイレのドアノブにかけていた手をパッと離す。


『あ、はい! 今開けます』

夢と同じようにドアについた覗き穴も確認する事なく、大きくドアを開いた。


そこに立っていたのはあの男ではなく、このアパートを管理する50代の大家の男性だった。

⏰:12/03/14 09:33 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#118 [輪廻]
 
 
大家は、狂也の顔を見ると何やら難しい顔をして言った。

『大槻さんこれ…アンタに来てる荷物じゃないのかい?』

そう言ってドアの脇に視線をやったので、狂也もそちらを見る。


そこに、口がガムテープでしっかり止められた大きなダンボール箱がポツンと置かれていた。


『あれ…? いつの間に…』

外に出て、しゃがみ込んでそのダンボールを隅々まで見る。


差出人の名前も何も書かれていない無地のダンボール。

狂也には覚えがあるわけもなく…


『こんなの…俺知りませんけど』

キッパリそう言うと、大家はますます難しい顔をした。

⏰:12/03/14 09:34 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#119 [輪廻]
 
 
『うーん…でもねえ、一応アンタの部屋の前に置いてあったから、アンタへの荷物だと思うんだけどねぇ〜』

『いやそう言われても…』

『とりあえずね、ここに置かれていると他の住人さんが通る時に邪魔になるからね、一旦アンタの部屋に置いといてくれんかね?』

無茶を言う大家に、朝からキレそうになったものの、断ったら部屋を追い出されてしまうと思い、あえて何も言わずしぶしぶ了承した。

『わかりました。でももし俺宛ての荷物じゃなかったらどうすればいいですか?』

狂也の問いに、大家はダンボールをじっと見ながら腕を組んでなにやら少し考えた後、視線を狂也に向け直し…

『ん〜、まっ! その時は適当に処分すればいいんじゃないかね?』

と、これでもかというくらい無責任な発言をした。

⏰:12/03/14 09:36 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#120 [輪廻]
 
 
『はあ……』

面倒くさそうなため息を漏らすと、大家は優しい笑みを浮かべて狂也の耳元で、突然囁いた。

『まあ頼むね。今月の家賃、大槻さんだけ半額でいいから』

『…………マジですか?』

大家の予想外すぎる甘い言葉に、狂也の表情にも自然と笑みがこぼれていく。


『ほんとほんと。男に二言はないよ。ではまたね』

最後に狂也の肩をポンと叩くと、大家はご機嫌そうに自室へと戻っていったー

⏰:12/03/14 09:37 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#121 [輪廻]
 
 
しばらくはニヤニヤしながら今の大家の発言の余韻に浸っていたが、再びダンボールに視線を送った所ですぐ我に帰った。


『はあ…』

再度しゃがみ込み、ダンボールの両側下部分に両手をかけ、持ち上げる。

大きなサイズの割に重力は3〜4キロほどと対した事はなく、楽々と持ち、それを部屋の中へと運んだ。


『よっこらしょと…』

布団のそばに置き、口に止めてあるガムテープに手をかけ、それを強い力で剥がしていく。

⏰:12/03/14 09:38 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#122 [輪廻]
 
 
そして口をゆっくりと開き中を覗いた瞬間…

『うっ!!』

ダンボールの中から突然、肉の腐ったような異臭が放たれ、思わずその場から身を引いた。


『…んだよ…これ…』

立ち上がり、鼻に手を抑えながら再びダンボールの中を見る。


中には、何かを包んでいるような新聞紙が数個入っていた。

心臓が高鳴る。


この新聞紙の中に一体何が包まれているのかー?

そして、この中から放たれる肉の腐ったような異臭ー


なぜかその新聞紙を開いてはいけないような気がしたが、中身を確認しない事には処分する際に分別のしようがないと思い、顔を遠ざけ腕だけを伸ばす形でダンボールの中の、何かを包んだ新聞紙の一つを手に取った。

⏰:12/03/14 09:39 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#123 [輪廻]
 
 
手に取った感触は硬くもなく柔らかくもない。

ゴクリと息を呑み、ゆっくり手で新聞紙の包みを開けていく。


その瞬間…


『…………ッ!?』

中からチラリと覗いたそれを見て、狂也は言葉を失ったー


新聞紙の中には、薄黒く乾いた血で染まった人間の足首から下と思われる部位が入っていた。

⏰:12/03/14 09:40 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#124 [輪廻]
>>121 訂正
重力 ×
重量 ○
ーーーーーーーーーー


『うわっ!!』

反射的にそれを手から離し、床に投げつけるように落とす。

想定外のものが入っていた事で、またもや思考が停止する。


『………………』

床に転がった新聞紙の包みを見て唖然呆然としていると、ふいに布団に置いてあった携帯電話のバイブが鳴った。


震えた手で携帯電話を手に取り、画面を見る。

⏰:12/03/14 09:55 📱:iPhone 🆔:Y8b7jttI


#125 [輪廻]
 
 
“03-XXXX-XXXX”

デスネットの番号からの着信だった。

まさかこのダンボールを自分の部屋の前に置いた者の正体はー


そう考えると、ジワジワと頭に血が登り、狂也は迷う事なく通話ボタンを押した。


『……はい』

『大槻様でございますか? こちらデスネットの日向ですが』

出るなり不機嫌そうな声で言うと、相変わらずの紳士的な言葉が返ってくる。

その言葉遣いにも無性に腹が立ち、狂也は日向とは対照的な言葉遣いで問いただした。

⏰:12/03/16 11:43 📱:iPhone 🆔:AmfSeBOM


#126 [輪廻]
 
 
『おい! アンタの仕業だろ! 俺の部屋の前に…こんなものを…!』

『……はい? 一体何のお話でしょうか?』

『とぼけんな! こんな事すんのアンタの会社くらいしかないだろうがッ!!』

ガンガン問いただすが、日向はあくまで否定する。


『それは心外ですね。身も蓋もない話でございます』

『…チッ!』

冷静な口調で否定する日向にイラ立ちを隠せず、向こうに聞こえるように大きく舌打ちをする。


『大槻様。人を疑って責める前に、まず自分のした事を悔い改める事ですね』

『……だから俺はあの仕事は最後までちゃんとやったって言ってんだろ!』

『そう言われましてもね。依頼者様が、ああ仰っていますので』

あくまで、その依頼者の話を信じ優先させるデスネットの日向。

⏰:12/03/16 11:45 📱:iPhone 🆔:AmfSeBOM


#127 [輪廻]
 
 
もう話にならないと通話を切りたくなったが、この人体のパーツが入ったダンボールの送り主は絶対にデスネットに間違いはないと確信していた為、その事が解決するまでは電話を終えるわけにはいかない…そう思った。


『大槻様…このままお認めにならない場合、こちらとしてはそれそうの手段を取らざるを得ません』

『それそうの…手段?』

大体は予想できるが、なんとなくポツリとつぶやくように訊ねた。


『昨晩も申し上げました通り、デスネットにおけるお仕事の途中放棄はこちらでは立派な禁止行為となっております。
しかし大槻様はまだ一度しかそれをとっていないので、もしそれを今ここで悔い改めるのならば…まだチャンスはあると思って頂いて結構ですが?』

向こうは、こちらが認める認めない以前に、もう狂也が仕事を途中放棄しているのを決定づけているようだった。

⏰:12/03/16 11:46 📱:iPhone 🆔:AmfSeBOM


#128 [狂也]
 
 
『…………』

納得できないという意味を込めて、狂也は沈黙する。


『大槻様、どう致しますか? このままですと、こちら側としてはそれそうの処置を…』

日向がそこまで口にした時、電話の向こうで女性と思われる高い声が聞こえてきた。


その女性は日向に小声で何やら話しかけているようだった。


受話器から耳を離したのか、日向と女性の声は更に小さくなる。


『……ああ………いいよ………』

『そう…………ね…』

だが小声ながらも、途切れ途切れに会話が聞こえてくる。


『…………から………あった……?』

『……いえ……です………ね』

『………かった……。ったく………くせえな』

ここで向こうが受話器を取る音が聞こえた。

⏰:12/03/19 10:17 📱:iPhone 🆔:bee06Hc6


#129 [狂也]
 
 
『もしもし、失礼致しました。では大槻様、また後ほど連絡させて頂きます。それまでお待ちください、では』

急いでいるのか、そう早口で言うと、向こうから一方的に電話を切った。

ツー、ツーと通話の切れた音だけが虚しく鳴る。


狂也は携帯電話を耳から離すと、力の抜けたように電話を持った手をだらりと下ろした。

反射的にあのダンボール箱に視線をやる。

開いた口からは相変わらずの異臭が漂ってくる。


デスネットの日向はこのダンボールについて全く知らないそぶりを見せていたが、狂也には絶対の確信があった。

自分の周りには、こんな事をイタズラ感覚でするような友人、知人はいない。

自分の住所を知っていて、なおかつ人間の死体を埋めさせるようなアルバイトを行っているデスネットこそが、その実行犯であると。

⏰:12/03/19 10:18 📱:iPhone 🆔:bee06Hc6


#130 [狂也]
 
 
狂也は、人間の死体を埋めるのを手伝った事よりも、どんな会社もわからない所に自分の個人情報を与えてしまった事にものすごく後悔した。

事前にネットで検索してどんな会社なのかを調べてさえいればこんな事にはならなかったとー


だがそれももう遅い。


自分はこれから、そんな会社にビクビクしながら生きていかなければならないのかー?


デスネットから逃れる一番の有効打は、向こうに住所が知られているこのアパートから引っ越す事だが、自分はただのアルバイト。

そんな金も貯金もあるはずもなく…その考えは一瞬にして蹴られた。

⏰:12/03/19 10:19 📱:iPhone 🆔:bee06Hc6


#131 [輪廻]
 
 
実家へ帰ろうにも、そもそもこのアパートへは高校卒業後に一人暮らしに憧れ、親に無理を言ってお金を借り、契約・入居した為に、今さら部屋を引き払って帰るなど受け入れてくれるわけもない。


『くそ…どうしたら…!』

狂也は頭を抱えた。

その時、また携帯電話のバイブ音が鳴った。


眉間にシワを寄せながら手元の携帯電話の画面に目をやる。


“090-XXXX-XXXX”

それは覚えのない番号からの着信だった。

⏰:12/03/19 20:39 📱:iPhone 🆔:wfuZmsyc


#132 [輪廻]
 
 
アドレス帳に登録されていない番号からの電話。

出るのに一瞬躊躇ったが、もしかするとデスネットの日向の携帯電話の番号かもしれないと思い、恐る恐る通話ボタンを押し、電話を耳に近づけた。


『……はい』

『おう…大槻狂也か?』

電話の向こうでした低い男の声…それはまぎれもなく昨晩、死体を埋めるのを手伝わせた、あの小太り男性のものだったー


思わず息を呑む。

⏰:12/03/19 20:40 📱:iPhone 🆔:wfuZmsyc


#133 [輪廻]
 
 
『な、なんでこの番号…』

狂也は当然の疑問を男にぶつける。


『ああ? んな事どうだっていいだろ』

『(デスネットか…)』

わざわざ訊かなくてもある程度予想はできていた。


『んな事よりさ…昨日のお礼の品は受け取ってもらえたかな?』

男は唐突に優しい声で意味不明な発言をしたが、“お礼の品”と聞いて突如、全身に嫌な汗が流れ始める。

⏰:12/03/19 21:10 📱:iPhone 🆔:wfuZmsyc


#134 [輪廻]
 
 
もしかするとー

あのダンボールにチラリと視線をやる。


この男は自分の携帯番号を知っていた。

住所もデスネットから聞き出していてもおかしくはない。


『まさか…これ置いたのって…』

恐る恐る男に尋ねる。

すると、男から予想した発言が返ってきた。


『昨日手伝ってくれたお礼にと思ってよ。その声だと…中身はもう見てくれたみたいだな?』

からかうように楽しげな口調で言う男に、狂也は携帯電話を握る手をぶるぶると震わせる。

それは恐怖心からでもなんでもなく、ただ怒りが込み上げてきたからである。

⏰:12/03/20 12:19 📱:iPhone 🆔:/ksCmhCM


#135 [輪廻]
 
 
『テメェ…! ふざけんじゃねーぞ! こんな事していいと思ってんのかよ!?』

感情任せに、電話の向こうの男に向かって大声で怒鳴りつける。

だが男は怯む事はなく、半笑いしながら言葉を返してきた。


『お前もケツの青い餓鬼だな。
お前も“高収入”って言葉につられてあの会社に入会したんだろ?
ウマい話にゃ裏がつきものだってのに、んな事に疑いもせず楽して金稼ごうなんて甘いんだよクソ餓鬼が。
あの会社に入会した時点で、お前も有無言わず犯罪者の一員になったんだよ。
わかったか? クソ餓鬼』

『…………』

言い返すに言い返せなかった。

⏰:12/03/20 12:21 📱:iPhone 🆔:/ksCmhCM


#136 [輪廻]
 
 
男は、狂也が言い返せない事を確信した後、最後に言い放った。


『ま、これからは人の死体を一緒に埋めた者同士仲良くしていこうや、大槻君?』

『…………』

男の発言はただの脅しにしか聞こえず、黙りを続けていると、電話は切られた。


切る直前、男はフフッと不気味に笑ったー

⏰:12/04/11 13:04 📱:iPhone 🆔:ZoSRGg1w


#137 [輪廻]
 
 
携帯電話を耳から放し、あのダンボール箱に再び目をやる。

ダンボールの開いた口からは、相変わらず鼻をつく異臭が漂ってくる。


とにかく、それをどうにかしなければと思った狂也は行動に出た。


台所からゴム手袋を取り、それを手にはめると、さきほど驚いた拍子に床に投げつけるように落としてしまった、新聞紙に包まれた足首から下の部位を拾いあげる。


片方の手で鼻を抑え、もう片方の手でそれを持ち上げると、さっさとそのダンボールの中に入れた。


続いて箱の口を塞ぐ為、棚の中からガムテープを取り出し、顔を少し引いた状態でダンボールの口を塞ぐ。

⏰:12/04/11 13:05 📱:iPhone 🆔:ZoSRGg1w


#138 [輪廻]
 
 
最後に、部屋に漂う異臭を消す為、身体の臭いを消すのに用いる消臭スプレーを、これまでかというくらい部屋全体に吹き付けた。


5分足らずでその作業を終え、布団の上に大の字に寝転び、大きなため息をついたその時…


ーピンポーン

部屋のインターホンが一回鳴らされた。

一瞬息を止める。

もしかしたらあの男なのか…?と思い、しばらく様子を見ていると、今度はドアをノックする音と共に聞き覚えのある声が響いた。


『大槻さ〜ん! 大家だけど! 何度もごめんねぇ〜! ちょっといいか〜い?』

先ほど狂也の部屋を訪ねてきた大家の声を聞いた途端、身体の力がスーッと抜け、再び大きなため息をついた。

⏰:12/04/11 13:07 📱:iPhone 🆔:ZoSRGg1w


#139 [輪廻]
 
 
身体を起こして玄関へ向かう。


『はい、なんですか?』

ドアを開けると同時に言うと、大家はまたもや難しい顔で狂也の顔を見ていた。


『大槻さん、これ…』

大家はそう言いながら、手にしていた茶封筒を狂也に差し出した。


『これ…なんすか?』

『いやワタシにもわからんよ。さっきそこいらを掃除してたら、見知らぬ男が現れて、これアンタに渡してくれ言われてさ』

『…ちょっとそれいいですか?』

狂也は、大家からその茶封筒を受け取ると、閉じられていた上口の部分を横に破いていき、中をそっと覗いてみた。

⏰:12/04/11 13:30 📱:iPhone 🆔:ZoSRGg1w


#140 [輪廻]
 
 
中には写真のようなものが数枚入れられていた。

茶封筒の中に手を入れ、中身を引っ張り出す。


それはやはり写真だったが、その中に写った一枚を見て、思わずそれらを封筒の中に押し戻した。


『ん? どうかしたのかい?』

大家は不思議そうな顔をしながら言い、狂也の顔と茶封筒を交互に見る。


『お、大家さん…その男って…どんな人でした?』

狂也が震えた声で尋ねる。

⏰:12/04/11 13:39 📱:iPhone 🆔:ZoSRGg1w


#141 [輪廻]
 
 
『いやあ…それがなんだけどね…』

だが大家は、その質問に答えるのを躊躇うような態度を見せた。


『…なんですか?』

『いや…ね。誠に言いづらいんだけど…それ渡された時に、自分を見たことは秘密にして欲しいって言われてねぇ…』

『…口止めって事ですか?』

狂也が眉をしかめて言うと、大家は申し訳なさそうな表情をしながら黙って頷いた。

⏰:12/04/12 09:45 📱:iPhone 🆔:.cw6gBWY


#142 [輪廻]
 
 
『…………』

『…………』

お互い黙り込み、二人の間にしばしの沈黙が支配する。


少しして突然、大家が何かを思い出したように慌てて口を開く。


『あっ! じゃあワタシ掃除の途中だから…失礼しますわ!』

そう言って大家は、履いているサンダルをタンタンと鳴らしながら階段をかけ降りていった。


狂也はその姿を強張った顔で見届けてから、再度、写真が入った茶封筒に目をやる。

⏰:12/04/12 09:46 📱:iPhone 🆔:.cw6gBWY


#143 [輪廻]
 
 
手にしたまま部屋に戻り、布団の上に座ると、封筒の中から写真をそっと取り出す。


先ほどは大家もいた事もあり、写真に写ったものを見せれる訳はなく、出してすぐ引っ込めてしまった写真を改めて見る。


一枚目の写真は、どこかの工場のような場所で撮られていて、地面にはバラバラにされているであろう、あちこちに散りばめられた人体の部位が写っていた。

他の写真も、思わず目を背けたくなるようなものばかりだった。

⏰:12/04/12 09:47 📱:iPhone 🆔:.cw6gBWY


#144 [輪廻]
 
 
一通り見終えた後、再び一枚目の写真を手に取って見る。

バラバラにされた人間の腕、手首から下、足首から下…これらが写された写真を見て狂也はある確信をした。


視線をゆっくりと写真から、あのダンボールに移す。


『もしかして…』

“あのダンボールの中身は、この写真に写っているものだ”…そう確信したのだ。

⏰:12/04/12 09:47 📱:iPhone 🆔:.cw6gBWY


#145 [輪廻]
 
 
そう思った瞬間、何だかわからない悪寒が突如、狂也を襲った。


同時に昨晩の出来事がフラッシュバックする。


昨晩、死体遺棄現場から逃げ出し、あの男の車の元へ辿りつき、車内を探索した。

そこにあった、刃先に血と肉片のようなものがこびりついていたチェーンソーを見つけた。


そこからある結論に達する事ができる。


昨晩埋めた死体は、あのチェーンソーで手首、足首などの部位を切られた状態のもので、その部位は今ここにあるダンボールの中身なのではないかと。


自分は、そんな猟奇的な殺し方をした男と昨晩を共にしていたー

それ以上の身が凍る思いなどあるだろうかと、狂也は自分自身に問いたい気分だった。

⏰:12/04/12 09:49 📱:iPhone 🆔:.cw6gBWY


#146 [輪廻]
 
 
写真を封筒に戻し、シーンと静まり返った部屋で、あのダンボールを見つめる。


今度はこのダンボールの処分方法を考えなければいけなかった。


どこかへ捨てに行こうにも、これだけ大きく目立つダンボールならば、すぐ人目についてしまうだろう。


そもそも、こんなダンボールを抱えて歩いているだけでも充分に人目につく。


狂也は必死に頭を働かせた。

⏰:12/04/13 15:15 📱:iPhone 🆔:XD5LpQdg


#147 [輪廻]
 
 
5分…10分…と時間だけが刻々と過ぎていく。

どれだけ考えてもダンボールの処分方法は思いつかない…と思われたが、一つだけ簡単な方法を思いついた。


狂也は部屋を見回し、そこいらに無造作に捨ててあるコンビニ袋をできるだけかき集め、先ほど使ったゴム手袋をはめた。


こんな大きなダンボールをわざわざ持ち歩く必要なく処分する…

それはダンボールに入った中身を、今集めたコンビニ袋に移し、残ったダンボールは潰して、それぞれ別の場所に捨てる…という方法だった。

⏰:12/04/13 15:17 📱:iPhone 🆔:XD5LpQdg


#148 [輪廻]
 
 
狂也はダンボールをそばに引き寄せ、先ほど貼ったガムテープを再度剥がし、箱の口を開いた。

開けると同時に再び、とてつもない異臭が放たれたが、狂也は我慢しつつ顔を引き、片手で中身を取り出すと、もう片手に持ったコンビニ袋にその新聞紙に包まれた物を入れていく。

放たれる異臭と戦いながら、その作業を始めて5分が過ぎた。


中には、腐食して感触がぐにゃりとするものもあり、鳥肌が立ちつつもどうにか中身を全てコンビニ袋に移し変える事ができた。


最後に、残ったダンボール箱の底を開き、なるべく小さくなるまで折りたたむ。


『……はあ』

計15分ほどでその作業を終え、安心したようなため息をつく。

⏰:12/04/13 15:18 📱:iPhone 🆔:XD5LpQdg


#149 [輪廻]
 
 
『(あとは、これを夜にでもどっかに捨てにいけばいいか…)』

中身が入ったコンビニ袋と、小さくたたまれたダンボールを手にしながらそう思い、ひとまず…とそれらを浴室に移動させた。


再度部屋の中に漂った異臭を別の消臭スプレーで消した後、どっと疲れた狂也は布団に倒れるようにして寝込んだー

⏰:12/04/13 15:19 📱:iPhone 🆔:XD5LpQdg


#150 [輪廻]
 
 
…けたたましく鳴る救急車の音でふと目を覚ました。


寝ぼけ眼で窓の方に視線をやる。

外は薄暗く、大粒の雨がザアザアと降りしきっていた。


仰向けの状態で、手探りで携帯電話を探す。

すぐそれを見つけて手に取り画面を見ると

PM5:48ー

昼前からすっかり寝入っていた。


携帯電話の画面に目をやったまま身体を起こし、しばらくボーッと画面を見つめた後、ふとあのコンビニ袋とダンボールの事を思い出し、立ち上がると、浴室へ向かった。

⏰:12/04/13 15:20 📱:iPhone 🆔:XD5LpQdg


#151 [輪廻]
 
 
隅に置いておいたそれを手に取り、今度は玄関へ向かう。

ダンボールを右の小脇に抱え、コンビニ袋も右手に持ち、玄関の脇から傘を手にすると、狂也は大雨の降る外へと踏み出した。


これらを処分する作業から人目をつきにくするには、外が暗く雨が降る状況が有利だと思ったからだった。

⏰:12/04/15 11:08 📱:iPhone 🆔:fvn71Mrg


#152 [輪廻]
 
 
大雨の中、狂也は部屋の鍵を閉め自宅アパートを後にし、なるべく人通りの少ない道を通り、これらを処分できるような場所を目指し歩き出した。


強く降り続ける雨の中、15分ほど歩いた所で、昼間でも全く人通りのない路地裏へ到着する。

辺りをザッと見回すと、2メートル先ほどの所に、大きめなゴミ箱が設置されているのが見えた。

狂也は念の為に辺りを警戒しながらそのゴミ箱に近づく。


人がいない事を確認すると、持っていたダンボールとコンビニ袋を一旦地面に置き、ゴミ箱の蓋をそっと開けた。

⏰:12/04/15 11:11 📱:iPhone 🆔:0TMA46hU


#153 [輪廻]
 
 
ゴミ箱の中を覗くと、透明なゴミ袋の中に食べ物の残りのようなものが入っていた。

痛んですっかり色あせた野菜のくずや、牛か豚のであろう、こちらもすっかり色落ちした肉の片。

それらがギッシリとゴミ袋に詰め込まれていた。


『(そういやこの裏ってファミレスだっけ)』

そんな風に思い納得し終えると、狂也は地面に置いたコンビニ袋を取り上げ、なるべく音をたてないようにそれをゴミ箱の中の奥の方へと押し込んだ。


最後に蓋をしっかり閉じ、折りたたまれたダンボールはそのゴミ箱の脇にポツンと置き、早々にその場を後にしようと元来た方向へ振り返った、その時だったー

⏰:12/04/15 11:12 📱:iPhone 🆔:0TMA46hU


#154 [輪廻]
 
 
『なにしてるんすか…?』

狂也の前に、両手に、中身が入った大きなゴミ袋を持ち、ポカーンとした顔で狂也を見つめる若い男性が立っていて、声をかけてきた。

よく見るとその男性は、緑色のエプロン姿で、頭にもこれまた緑色のツバつき帽子をかぶっている。

その姿を見て狂也はすぐ、彼がファミレス店員だという事を悟った。


『え…いや…』

狂也があたふたとしていると、ファミレス店員の男性は、狂也のそばに置いてあるゴミ箱に視線をやった後、再び狂也の方に視線を戻す。

⏰:12/04/15 11:13 📱:iPhone 🆔:0TMA46hU


#155 [輪廻]
 
 
『なにやってたんすか?』

男性は、まるで変なものでも見るような目で狂也の顔を凝視し尋ねる。

しまった…と思った。


必死に言い訳を考えるが、男性から送られる強い視線のせいか、思いつかない。


考えた末…

『別になんでもないっすよ…』

今の狂也にはそれしか言う事ができなかった。

⏰:12/04/15 11:14 📱:iPhone 🆔:0TMA46hU


#156 [輪廻]
 
 
そう言うと、反応を見る前にその男性の横を素通りし、少し距離を置いた所で、狂也は走り出した。


アパートの近所まで走ってきた所で足を緩め、ゆっくりと歩きながら考える。


先ほどの男性に、辺りが暗かったとはいえ顔をハッキリ見られ、覚えられてしまったかもしれないという不安と、雨と傘の助けもあり、もしかしたらハッキリと見えていなかったかもしれない…という安心の両方が同時に狂也の心を煽る。


そうこう考えている内に自宅アパートへ着いた。


傘を閉じ、胸の中をモヤモヤさせたまま重い足取りで階段を上がり、部屋の前で鍵を取り出そうと上着のポケットに手を入れる。

⏰:12/04/16 11:50 📱:iPhone 🆔:/nN/OqRI


#157 [輪廻]
 
 
だがしかしー


『(あれ? 鍵…)』

部屋を出る時、鍵を閉めた後ポケットの中に入れたはずの鍵が見当たらない。

部屋の前でジーパンのポケットなどにも手をやったが、鍵は忽然とその姿を消していた。


…嫌な汗が額から流れる。


どこかで落としてきたのか…それとも元々鍵をかけずに部屋を出たのか…

後者に少なからずの期待をしドアノブに手をかけ、回す。

⏰:12/04/16 11:51 📱:iPhone 🆔:/nN/OqRI


#158 [輪廻]
 
 
ドアは…しっかり鍵がかけられていて開かなかった。


鍵をかけてこなかった可能性が消えた今、可能性は必然的に“どこかで落とした”の一択になった。


鍵をなくしてしまった事を大家が知ったら、このアパートを追い出されるかもしれない…そんな大袈裟な不安が込み上げる。


とにかく鍵を探すしかないと率直に思った狂也は、階段を降り、帰りに通った道を思い出しながら歩いた。

⏰:12/04/16 11:52 📱:iPhone 🆔:/nN/OqRI


#159 [輪廻]
 
 
懐中電灯も、部屋に置いてきた為、ライト付きの携帯電話もない。

暗い雨の中、全神経を自分のこの目だけに集中させて地面を見ながら進む。


それから30分ほど見て回ったが、鍵は一向に見つからなかったー


こうなれば大家さんに正直に謝り、マスターキーで部屋を開けてもらおうと思い、その場から回れ右をして自宅アパート方面へと歩いた。

⏰:12/04/16 11:53 📱:iPhone 🆔:/nN/OqRI


#160 [輪廻]
 
 
『はぁ…』

アパート前に着き足を止め、自分の部屋の方を見上げてため息をつく。


傘を閉じ、階段を登ろうと一歩踏み出そうとした時ー


『おぅ』

背後…狂也のすぐ真後ろで男の声が呼びかけた。


後ろを振り返るとそこには…あの男がニタニタと怪しい笑みを浮かべながら立っていたー

⏰:12/04/16 11:54 📱:iPhone 🆔:/nN/OqRI


#161 [輪廻]
 
 
『……!?』

その男と数秒間目を合わせた後、すぐ階段を駆け上がろうとしたが、男の手が素早く狂也の腕を掴む。


『……にすんだよ!!』

男の手を振りほどこうとするも、向こうの力は強く、離せない。


『はなせよ…くそがッ!!』

大声で言うと少しして、一階にある奥の部屋のドアが開き、住人の男性が顔を出した。


狂也はドアの開く音のした方に顔だけを向けると、何事かと二人を見る男性に向かって叫ぶ。


『け、警察呼んでくださいッ!!』

⏰:12/04/17 17:52 📱:iPhone 🆔:zJABlpLw


#162 [輪廻]
 
 
『えっ? あぁ…っと…』

住人の男性は、状況がイマイチ掴めずあたふたする。


『佐藤さん早くッ!!』

再度、大声で叫ぶ狂也。


『…なっ、何がどういう事…なんですか?』

『…いいから早くッ! 警察ッ!!』

『あ…は、はぁ』

そう言って部屋に戻る住人を見た男は小さく舌打ちをすると、狂也の耳元で脅すように言った。


『いいのか? 警察なんて呼んで。昨日の事、忘れてないだろうな?』

『…………』

狂也の全身からサーっと血の気が引いていく。

⏰:12/04/17 17:53 📱:iPhone 🆔:zJABlpLw


#163 [輪廻]
 
 
『ま、これだけは忘れるなよ。お前が警察に俺を突き出すって事は、お前もデスネットから消される事になるって事をさ…』

『……デスネットから…消される?』

男から意味不明な事を言われ、思わず聞き返す。


『あれ? 知らねえの? デスネット会員には、守らなきゃならない暗黙のルールってのがあんだよ。ま、そのルールの内容は自分で調べる事だな』

男はそう言い、『ククク』と意味ありげに笑うと、掴んでいる狂也の腕ごと身体をドンと前に押し、その場を去っていったー

⏰:12/04/17 17:55 📱:iPhone 🆔:zJABlpLw


#164 [輪廻]
 
 
前に押されて倒れそうになった狂也は、素早く階段の手すりに手をかけ、なんとか体制を整える。


そして男の言った言葉を思い返すと、真意は定かではないが、率直にマズイと思い、警察に電話をしにいった男性の半開きになったドアをバッと開け放って玄関に入る。


『ちょ、ちょっと佐藤さん! 待ってくださいッ!!』

玄関で、血相を変え大声で男性を呼ぶ。


少しして、携帯電話を手にした男性が玄関へやってきた。


『な、なんですか? 警察ならもう呼びましたけど…』

『……そんな……』

『え…? だって、お宅が警察を呼べと仰るから…』

⏰:12/04/17 17:57 📱:iPhone 🆔:zJABlpLw


#165 [輪廻]
 
 
狂也はその場に崩れ落ちた。


『ちょ、ちょっと! 大丈夫ですか? 大槻さん!?』

男性がそばにかけより、あたふたしながら声をかけ続ける。


数分ほどその状態が続いた後、遠くからかすかにパトカーのサイレンが聞こえ始めた。


『あ、あの。もう警察が来るみたいですけど…どうするんですか?』

男性の問いかけにさきほどからずっと反応を見せなかった狂也は、ここでやっと男性の方に顔を向け、応える。


『ありがとうございました…』

そう一言だけ言い、力なく微笑むと、立ち上がり男性の部屋を出た。

⏰:12/04/17 17:58 📱:iPhone 🆔:zJABlpLw


#166 [輪廻]
 
 
背後で男性の何度か呼び止める声が聞こえたが、狂也は振り返る事はなかった。


やがてアパートの前に一台のパトカーが停車し、警察官二人が中から降りてきた。

警官は辺りを見回し、階段付近に立ち尽くす狂也に気づくと、そばに駆け寄る。


『通報したのはあなたですか?』

中年の警官が尋ねる。


狂也はコクリと頷き、事情を話したが、『男に襲われそうになった。顔は暗くて全く見えなかった』と警官に説明した。


話し終えると、念のためこの付近のパトロールを強化するという事を伝えられ、警官二人は10分としない内にその場を去っていった。

⏰:12/04/20 20:53 📱:iPhone 🆔:vBj0gYWs


#167 [輪廻]
 
 
パトカーのサイレンが聞こえなくなるまで見送った後、狂也は一階の大家の部屋のインターホンを押す。


ドアが開き、大家がひょっこりと顔を出した。


『おや、大槻さん。どうかしたのかい?』

『…すいません。部屋の鍵…なくしちゃって…』

正直に頭を下げながらそう話すと


『あれまぁ…そうかい』

大家は怒る事なく、にこやかな笑顔で言った。

⏰:12/04/20 20:54 📱:iPhone 🆔:vBj0gYWs


#168 [輪廻]
 
 
『合鍵の代金は俺が責任持って出すんで、大家さんのマスターキーで部屋の鍵開けてくれませんか?』

『いやいや、そんなの気にせんでもいいよ!』

『いえ、なくしたのは俺なので。その変わり…っていうのはなんですけど、一つだけ教えて欲しい事があるんです』

『…ん? なんだい改まって?』


狂也は真顔で大家を見て、予想を確信に変える為に単刀直入に質問をぶつける。

『今日…大家さんに封筒を渡した男って、小太りな感じで黒のスーツを着た人じゃなかったですか?』

『…………』

当たりなのか、さきほどまで笑顔だった大家の表情が一瞬にして曇ったのを狂也は見逃さなかった。

⏰:12/04/20 20:56 📱:iPhone 🆔:vBj0gYWs


#169 [輪廻]
 
 
『そうなんですよね?』

狂也は顔を強張らせ、大家に詰め寄る。


『ぬぅ…若い人にはかなわないな、こりゃ…』

やがて観念したように大家は、頭をぽりぽりと掻きながら苦笑いを浮かべて答えた。


『うん大槻さんの言うとおりの人だったわ。大槻さんはその男性に覚えがあるのかい?』

『……はい、ちょっと…』

あの男とは“一緒に人間の死体を埋めた関係”とは口が裂けても言えず、それ以上は何も言わなかった。

⏰:12/04/20 20:57 📱:iPhone 🆔:vBj0gYWs


#170 [輪廻]
 
 
『とりあえず…俺の部屋の鍵、開けてもらっていいですか?』

『ああ、ハイハイ。今、鍵持ってくるからちょっと待っててちょうだいな!』

再び笑顔に戻った大家はそそくさと部屋の中に入っていく。


ふと空を見ると、雨はすでにあがりかけていた。


一分もしない内に、中から大家が戻ってくる足音がした。


『お待たせね。さ、じゃあ二階行きましょうか』

大家が先に階段を上がるのを見て、狂也もそれに続く。

⏰:12/04/20 20:57 📱:iPhone 🆔:vBj0gYWs


#171 [輪廻]
 
 
部屋の前に着くと、鍵を鍵穴に差し込む前に大家がドアノブを回す。


『うん、しっかり鍵かけられてるね』

そう独り言のように言うと、手にしていたマスターキーを鍵穴に入れ、回す。


『ガチャリ』と鍵が開く音を聞いた狂也は、心の中で安堵のため息をついた。


『はい、これで大丈夫ね。鍵は明日にでも作りに行ってくるから、今日だけ我慢してね』

『…ありがとうございました』

深く頭を下げる狂也に『いいからいいから』と笑顔で言う大家。

⏰:12/04/20 21:31 📱:iPhone 🆔:vBj0gYWs


#172 [輪廻]
 
 
『じゃ、ワタシこれからご飯だから失礼するよ。あ、中から鍵かけるの忘れないようにしなさいよ』

『あ、はい』

階段を降りる大家を見届けた後、狂也は部屋へ入り、中から鍵をしっかりとかけた。


居間に戻り、布団の上に胡座をかく。


『(俺も腹減ったな…)』

そう思いながらお腹を抑えつつ、枕元に置いてある携帯電話を手に取る。


真っ暗だった画面を点灯させると、いつもの好きな歌手の待ち受け画面が現れる。

着信履歴が一つも残っていない事に安心したが、逆に、あれからデスネットから電話がなかったのが不思議に思えた。

⏰:12/04/20 21:31 📱:iPhone 🆔:vBj0gYWs


#173 [輪廻]
 
 
“デスネット”…

去年、コンビニへ向かう途中ふと見つけたアルバイトの広告の紙。

そこに書かれていた『高収入』という言葉に一度は疑いを持った狂也だったが、何日もするとその疑いとアルバイト広告の事は次第に忘れていった。


そして今年一月…つい数日前にズボンのポケットからその紙を見つけ、疑いもせず電話をかけた。

結果、高収入アルバイトだけに仕事の内容もそれなりのものがあり、そこで初めて経験したアルバイトが『死体遺棄』


つまり、自分は犯罪者の片棒を担いでしまったのだ。

⏰:12/04/20 21:32 📱:iPhone 🆔:vBj0gYWs


#174 [輪廻]
 
 
警察へ、自分に死体遺棄を依頼した男の事を通報をしようにも、それは死体遺棄を手伝った自分も罪に問われる事になる。

デスネットが請け負っているアルバイトの内容を通報しようにも、向こうはこちらの個人情報を握っている為、デスネットは通報した人物を特定し、やがては自分の事を消しに来るかもしれない為、どちらの行動も起こす事はできない。


ここでふと狂也は、さきほどあの男が言っていた事を思い出した。


それは『デスネット会員には暗黙のルールがある』という男の言葉だった。

⏰:12/04/20 21:33 📱:iPhone 🆔:vBj0gYWs


#175 [輪廻]
 
 
狂也は携帯電話をネットに繋げると、Yahooのトップページから

“デスネット ルール”

で検索をかけた。


出てきたいくつかの検索結果のページを下へスクロールしていくと
…とあるタイトルと、その下に表示されている説明文の所で手が止まった。


タイトルには『○○奮闘記』と、一般ブログのような表記がされており、下の説明文には『一週間前に友達が行方不明になりました。その友達はデスネットという…』と表示されている。

狂也は、迷わずそのリンクをクリックした。

⏰:12/04/20 21:34 📱:iPhone 🆔:vBj0gYWs


#176 [輪廻]
 
 
ブログのタイトルに『友達が…』と書かれ、ゴクリと息を呑んでから以下の長文に最初からじっくりと目を通す。


『“友達が…”

久しぶりの更新です。

突然ですが…一週間前に友達が行方不明になりました。

その友達は二週間前くらいから、デスネットという会社でバイトを始めたらしいのですが、どんな仕事をする所なのかって私が聞いても教えてくれませんでした。

そんな会社の名前は聞いた事がなかったので、一度ネットで検索してみました。

そして色々調べてみたら、デスネットって、なんか裏アルバイトをさせる所みたいで…ある日心配になって携帯に電話をしたら、その子のお母さんが出て、行方不明になった事を聞かされました。

それが二日前の事でした。

その子が行方不明になって今日でちょうど一週間が経ちます。

未だに友達は見つかっていません…。

私は、友達が行方不明になったのは、そのデスネットっていう会社が関係してるんじゃないかと思って、デスネットについての情報を集め続けました。

⏰:12/04/20 21:35 📱:iPhone 🆔:vBj0gYWs


#177 [輪廻]
 
 
すると、デスネット会員に関するルール…というか、規則みたいな事が書かれているサイトを見つけました。

そこに書かれていた規則というのは次の三つだったと思います。

1、何人かには必ず紹介する
2、仕事は最後までやる
3、会員に罪を問わせてはならない

確かこんな感じだったと思います。

1と2はなんとなく理解はできるのですが、3の“会員に罪を問わせてはならない”という部分がよくわかりません。


そして衝撃的だったのが、この規則を破ったらどうなるのか…という事です。

⏰:12/04/20 21:36 📱:iPhone 🆔:vBj0gYWs


#178 [輪廻]
 
 
それは次の記事で書こうと思います。

念のため、記事には閲覧制限をつけたいと思います。

他のサイトに転載されたら嫌なので…。


最後に…

いつもこのブログを見てくれてる友達や知り合いの方へ

次の記事のパスワードは私の生年月日です。

私の周りの人達はこんな事するような方々ではないのはわかっていますが、一応言っておきます。

他のサイトや、不特定多数の人が見るような掲示板に、次に書く記事を転載するような事はやめてください。


次の記事に書かれている事は、私が短期間で集めたデスネットの裏側です。

もしこんなのを書いたのを、デスネットの関係者に見られたら私は終わりです…。

ですので、絶対に秘密厳守でお願いします』


本文はここで終わった。

⏰:12/04/20 21:37 📱:iPhone 🆔:vBj0gYWs


#179 [輪廻]
 
 
記事を読み終えた狂也の身体から大量の汗がにじみ出る中、続けて記事の一番下へスクロールしていき、ブログのトップページに移動する。


そこには、記事に書いてあった通り、鍵のマークがついた記事のリンクがあった。

クリックしたものの『閲覧パスワードを入力してください』と表示され、肝心の記事は読めない。


この記事が最新のもので、日付は去年11月のものだった。

なんとか、ブログを書いている本人に連絡はとれないだろうかと考えながらトップページを下へ下へとスクロールしていくと、ページの最下部に『mail』と書かれたリンクを発見した。

⏰:12/04/20 21:38 📱:iPhone 🆔:vBj0gYWs


#180 [輪廻]
 
 
そのリンクをクリックすると、名前やメールアドレスなどを記入する欄があった。


狂也は躊躇う事なく、その欄に適切に記入していく。


ーーーーーーーーーー
名前:K
タイトル:パスワード希望

本文:
はじめまして、Kと言います。
デスネットの事を調べようとしたら、このブログを発見したので連絡させてもらいました。

俺は数日前に、デスネットのアルバイト広告を見て電話してしまい、電話をしただけで強制的に登録させられてしまいました。

一度そのアルバイトも経験しました。
内容は言えませんが、とても後悔しています。

そこで、申し訳ないのですが、そちらがブログで言っていたデスネットの裏側というのを書いた記事のパスワードを教えてもらえないでしょうか?
もちろん、記事を他に転載するなどといった事はしません。

よければ返信お待ちしています。
ーーーーーーーーーー


丁寧語でしっかり入力し、最後に送信ボタンを押した。

⏰:12/04/20 21:39 📱:iPhone 🆔:vBj0gYWs


#181 [輪廻]
 
 
ー送信が完了しました

その表示を見ると、返信が来る事を信じて携帯電話を置いた。


ーPM7:34

朝から何も食べていない狂也は携帯電話と、鞄の中から財布を手にすると、夜食を買う為コンビニへと向かった。


どこかにあの男が潜んでいるかもしれない為、辺りを警戒しながらなるべく人通りの多い通りを歩く。


5分ほどして、いつも行くコンビニの近くの道で足を止めた。


そういえば去年、デスネットのアルバイト広告の紙を見つけたのはここらへんだった事を思い出し、地面に視線を落とす。

⏰:12/04/22 12:10 📱:iPhone 🆔:y/eoSUTE


#182 [輪廻]
 
 
同時に、あの日あの紙さえ拾わなければこんな事にはなっていなかった…と後悔の念が押し寄せる。


広告に書かれた“高収入”という言葉に一度は疑いを抱いたものの、自分の忘れやすい性格が災いし、気づくと疑った事すらも忘れて電話をしてしまっていた。


更には、どんな会社なのか下調べもせず自分の個人情報を教えてしまった。

それも、少しの疑いを抱く事なくー

⏰:12/04/22 12:11 📱:iPhone 🆔:y/eoSUTE


#183 [輪廻]
 
 
何もない地面を呆然と見つめながら、これからデスネットとあの男に怯えながら生きていくくらいなら、いっそこのままどこか遠くへ行きたいと思った。

幸か不幸か実家の住所は知られていない為、実家へ変える手もあるが、家族から無理を言って大金を借りて一人暮らしをした為、今更帰ると言っても親に拒否される事はわかっている。


やはりデスネットやあの男から逃げるには、お金をしっかり貯めて別のアパートへ引っ越すという方法しかないと思った。


まだ先は長いと思うと足取りも一層重くなり、とぼとぼとコンビニへ向かって歩き出す。

⏰:12/04/22 12:11 📱:iPhone 🆔:y/eoSUTE


#184 [輪廻]
 
 
アパートの部屋の鍵は閉まっていない為、あの男に侵入されるかもしれないという恐れから、いつもする本の立ち読みをやめ、おにぎりやパンなど夜食を適当に手にし、それらを買うと早々とコンビニを後にした。


アパート前に着くと、辺りを警戒しながら階段の方へゆっくり歩み寄る。


辺りはひっそりとしていて、人の気配はない。


とりあえず一安心すると、大きな足音をたてて階段をかけあがり、部屋に入って鍵をかける。


『ふぅ…』

小さなため息をつき、靴を脱ごうと廊下側へ振り向こうとした瞬間…


『……おかえり』

廊下の奥から聞き覚えのある声がし、同時に狂也の身体がピタッと停止した。

⏰:12/04/22 12:13 📱:iPhone 🆔:y/eoSUTE


#185 [輪廻]
 
 
冷や汗が流れるー


狂也の視線は下にあり、恐る恐る顔を声のした方にゆっくりと上げる。


そこには…誰もいなかった。


いつもの、電気が点いた明るい廊下が一直線に見える。


今の声は幻聴だったのだろうか。

いや…もしかしたらと思った狂也は、男が潜んでいた時の為に応戦できるようにと、玄関の脇に立ててある傘を手にし、靴をそっと脱いで中に足を踏み入れた。

⏰:12/04/22 12:14 📱:iPhone 🆔:y/eoSUTE


#186 [輪廻]
 
 
まず向かったのは浴室。

電気は点いていないものの、点いていないからこそ隠れている可能性は充分にあると思ったからだ。


まず浴室の透明なガラス製のドア越しに耳を当て、人の気配がないか様子を探る。


…………

…………

…………


…物音は、一つもしない。

⏰:12/04/22 12:15 📱:iPhone 🆔:y/eoSUTE


#187 [輪廻]
 
 
念の為、ドアを開けてみる。


…そこはいつものように浴槽とシャワーがあるだけの空間だった。

だがまだ安心するのは早いと思い、次はトイレへ向かった。


トイレは浴室の隣にあるドア。

今度はそちらに聞き耳を立てる。


…………

…………

…………

こちらも物音はしない。

そっとドアを開ける…が、そこにも便器が一つ置いてあるだけで人の姿はなかった。

⏰:12/04/22 12:16 📱:iPhone 🆔:y/eoSUTE


#188 [輪廻]
 
 
やはりさっき聞いた声はただの幻聴であり、あの男がいる気がするというのも全て自分の思い込みなのだろうかと思い始めると、なんだかどっと疲れが押し寄せてきた。

途端にお腹も大きく鳴り出す。


さっきの声などは、お腹が空いている事と疲れている事で幻聴となって聞こえてしまったのだろうと思う事にし、傘を元の場所に戻してから居間へ向かった。


いつものように布団の上に胡座をかき、コンビニ袋から夜食であるおにぎりを取り出す。


コンビニでおにぎりを買う際、急いでいた為に温めるのをしなかった事を少し後悔した。

電子レンジは買っていない為、温める方法はなく、諦めて冷えたままおにぎりを頬張った。

⏰:12/04/22 12:17 📱:iPhone 🆔:y/eoSUTE


#189 [輪廻]
 
 
おにぎりを食べ終わり、パンの袋に手をかけた時、ポケットに入れてある携帯電話のバイブが鳴った。


嫌な予感がして、パンの袋を開けようとする手が止まったー


あの男からか…デスネットからか…


バイブ音が鳴り止むまで待ち、止まった所でポケットから取り出して画面を見る。


“○○物流”

その表示名を見て、狂也は慌てた。

⏰:12/04/22 12:18 📱:iPhone 🆔:y/eoSUTE


#190 [輪廻]
 
 
『やべっ…バイト先…』

独り言のように言うと、すぐにその番号へかけ直した。


バイト先からの電話の内容は、急な仕事が入ったから明日から出勤して欲しい…という事だった。


それを聞いた狂也は、もう正月休みは終わりかという思いと、仕事をすればデスネットの事など少しでも忘れる事ができるかもしれないという二つの思いが交差した。


『……はい、では明日7時っすね…』

向こうが電話を切ったのを確認してから、こちらも切る。

⏰:12/04/22 12:19 📱:iPhone 🆔:y/eoSUTE


#191 [輪廻]
 
 
携帯電話を置くと、パンの袋を開け、中身を頬張る。


それから就寝するまでデスネットやあの男から電話がかかってくる事はなかった。



翌朝ー

AM5時を告げる携帯電話のアラーム音がけたたましく鳴り響いた。


ハッと目を開け、枕元で鳴っている携帯電話を手探りで取ると、電源ボタンを押してアラームを止めた。

⏰:12/04/28 19:55 📱:iPhone 🆔:EiiJByvo


#192 [輪廻]
 
 
寝ぼけ眼で画面の時刻を確認した後、そのまま再び目を閉じようとしたが、すぐに昨日のアルバイト先からの電話の事を思い出し、布団から身体を起こす。


窓の外を見るとまだ薄暗く、雨がポツポツと滴る音がしている。


しばらく布団の中で携帯電話を見た後、洗面所へ顔を洗いに向かった。


両手の掌に溜めた冷たい水で顔を何度も洗い流し、再び部屋へ戻ると、アルバイト先へ向かう時間までの間いつものように携帯電話のワンセグでテレビ視聴をしながら準備を始めた。

⏰:12/04/28 20:18 📱:iPhone 🆔:EiiJByvo


#193 [輪廻]
 
 
ワンセグテレビで今日の天気や経済に関するニュースをラジオ感覚で視聴しながら準備して1時間ほどが経過した頃、女性キャスターが何やら事件についての記事を読み上げ始めていた。


『はい、では次です。
今日午前4時20分頃、生川山の山中で若い男性が死んでいるのをタケノコ取りに来た男性が発見し、警察に通報しました。
遺体はうつ伏せ状態で倒れており、背中には刃渡り五センチほどの果物ナイフが刺さっていたという事で、警察は殺人事件として捜査を進める方針です』

そんなニュースを耳で聞きながら、朝から嫌な話だなと思いながら準備を進める。


だが、女性キャスターが続けて読み上げた内容を聞いて、狂也の身体と手が一瞬にして止まる。


『えぇ、被害者の男性は田中槇二さん22歳。遺体が発見された場所から数キロ離れた所にある杉村旅館に宿泊していたという事で、警察は旅館の従業員や宿泊している客一人一人に話を聞くと共に被害者の交友関係についても調べるという事です。以上です』


『…………え? 田中?』

被害者の名前にピンと来て、すぐ画面に目をやったが、女性キャスターはすでに別のニュースの報道に移っていた。

⏰:12/04/29 09:43 📱:iPhone 🆔:Y8iAPrXw


#194 [輪廻]
 
 
『…………は?』

画面に向かって首をかしげる。

しばらく唖然とした後、我に戻り、ワンセグを終了して携帯電話の電話帳を開く。


ーーーーーーーーーー
田中

携帯:090-XXXX-XXXX
ーーーーーーーーーー

なぜか嫌な予感と胸騒ぎがし、すぐにその番号に発信した。


呼び出し音が鳴る…だが応答はない。


『田中って……え?』

首をかしげながら再確認するように言い、ひたすら応答を待つ。

⏰:12/04/29 09:43 📱:iPhone 🆔:Y8iAPrXw


#195 [輪廻]
 
 
それから携帯電話を耳に当ててしばらく待ってみたが、田中が電話に出る事はなかった。


嫌な予感は的中しそうだったが、もしかするとただの同姓同名かもしれないと無理に自分を納得させようにも、狂也の知っている田中の年齢は、先ほど女性キャスターが読み上げたように“22歳”と年も一致していた為、ただの偶然だとは決めつけられなくなった。


心に何かひっかかったまま、狂也は次に会社の専務に電話をかけた。


“プルルルル”と呼び出し音が四回鳴った所で向こうは電話に出た。

⏰:12/04/29 09:45 📱:iPhone 🆔:Y8iAPrXw


#196 [輪廻]
 
 
「あい! 和田ですが」

『あの、専務…大槻ですけど』

「ああ大槻か。どうした?』

『あの、ニュースって見ました?』

「…ニュース? なんだいきなり」

『あ、見てないですか…』

「ああ見てないけど。なしたのよ?」


狂也は、先ほどのニュースでやっていた事件と被害者の事を専務に話した。 

⏰:12/05/07 16:38 📱:PC 🆔:FRxzPDtY


#197 [輪廻]
 
 
「…田中が? まさかぁ!」

専務は、真剣な狂也の話を軽く笑い飛ばす。


『いやでも…携帯も繋がらないですし』

「田中の事だからまだ寝てんだろ。あいつは明日からの出勤だしな」

『そうでしょうか…?』

「気にしすぎだ。ところで、正月休みはゆっくりできたか?」

『あ、はい…まあ』

「そうか。じゃあ今日からまた頼むな」


結局、事件の被害者の話は軽く流されてしまい、専務との通話は終了した。

⏰:12/05/07 16:46 📱:PC 🆔:FRxzPDtY


#198 [輪廻]
 
 
数十分後、胸騒ぎを覚えたまま準備を終え自宅アパートを後にした。


通勤途中も、田中の携帯電話にいくらかかけてみたが、繋がる気配は全くと言っていいほどなかった。


こんな調子で仕事ができるのだろうかと思ったが、もしかしたら自分のただの思い込みかもしれないとも思うと、余計に仕事がはかどる訳がないと感じた。


駅に着き、電車を待つホームで狂也は少し考えた後、手にしていた携帯電話で専務に電話をかけた。


“先ほど実家の父から連絡があり、母が倒れた”と、ありがちな口実を作り、実家に看病しに行かなければならなくなったので仕事を休ませて欲しいと専務に伝えた。


それを聞いた専務は「お大事に」と言いつつも、どこか半信半疑な口調であり余所余所しくもあるが、今の狂也にとってはそんな事はどうでもよかった。

⏰:12/05/08 14:20 📱:PC 🆔:Y1YU.uzw


#199 [輪廻]
 
 
休みの許可が下り、通話を終えた狂也は、乗るはずだった電車を見過ごした後、その駅を後にした。


駅を出て、自宅方面とは逆方向へ歩き出し、ある目的地へと向かう。


その間も狂也は、田中の携帯電話に電話をかけ続けた―




前編・狂也篇【完】

⏰:12/05/08 15:07 📱:PC 🆔:Y1YU.uzw


#200 [輪廻]
 
 
 
 
第2話『惨劇の次章』



後編・響歌篇
 
 
 

⏰:12/05/08 15:14 📱:PC 🆔:Y1YU.uzw


#201 [輪廻]
深夜3時を過ぎ、旅館の部屋に戻った響歌達一同。


室内の雰囲気は暗く、しばらくの間誰も言葉を交わす事はなかった。

響歌と七瀬が部屋の隅で体育座りをして黙っている中、蓮が立ち上がって幹事の元に寄ると、声をかけた。



『なぁ、あんたさ…色々と聞きたいことがあんだけど』

『……聞きたいこと?』

幹事が蓮を顔を見上げて尋ねる。


『ここじゃなんだし、ちょっと廊下に出ようぜ』

そう言って幹事に背を向けると、部屋の障子を開けて廊下へと出ていった。

⏰:12/05/10 02:01 📱:PC 🆔:G4zzLrhw


#202 [輪廻]
 
 
『ねえ響歌…あたし達もいかない?』

蓮を見届けた七瀬が小声で響歌の耳元で囁く。


『え、でも…蓮は“俺に任せろ”って言ってたし…』

『そうだけどさ…。でも、あの幹事の人がなんでこの同窓会に参加したのか響歌も気になるでしょ?』

『それは…気になるけど…』

二人が小声で話し合っていると、幹事がスッと立ち上がり、今さっき蓮が開け放って出て行った方へ歩き出し、廊下へと消えていった。

⏰:12/05/10 02:14 📱:PC 🆔:G4zzLrhw


#203 [輪廻]
 
幹事が廊下へ出て障子の戸を閉めたのを見て七瀬は、体育座りから四つん這いになり、二人が出て行った戸の方へと向かっていく。


『ちょっと、ナナ…!』

呼び止めようと、思わず大きな声を出してしまい、他の同級生らが一斉に響歌の方を見る。


『…どうしたの?』

女同級生の一人が首を傾げながら尋ねる。


『い、いや…なんでもないよ…』

苦笑いしながらそう答え、戸の方を見やると、戸を少しだけ開け廊下の様子を伺っている七瀬がいた。
 

⏰:12/05/10 02:35 📱:PC 🆔:G4zzLrhw


#204 [輪廻]
 
 
『ナナ…』

それを見て「はあ」と溜め息をついてから静かに七瀬の元へいく。


『ナナ…やめなよ。蓮に任せたほうがいいって…』

戸のわずかな隙間から廊下に首だけを突き出した状態の七瀬にそう声をかけると、七瀬はすぐに首を引っ込め響歌の方へ向きかえると、不安そうな声で言った。


『二人共いない…どこまで話しに行ったのかな?』

『さぁ…。とにかく、私たちはおとなしく待ってた方が……』

響歌がここまで口にすると、七瀬がそれを遮り大声を出した。


『あたし、やっぱり心配だから様子見に行ってくる!』

そう言って立ち上がると、響歌が止める間もなく七瀬は障子の戸を開け放ち廊下へと飛び出していった。

⏰:12/05/10 02:52 📱:PC 🆔:G4zzLrhw


#205 [輪廻]
     
     
『ちょ、ちょっとナナ!?』

廊下を小走りで駆けていく七瀬の後ろ姿に向かって呼び止めようと叫んだが、それは届く事なく、七瀬は廊下の突き当たりを曲がり、その姿を消した。


『どしたの?』

響歌も、仕方なくその後を追おうと廊下へ出ようした時、後ろから女同級生の声が響歌を呼びかける。

後ろを振り返ると、同級生のほとんどが不思議そうな表情で響歌の顔を凝視していた。


そんな皆の表情をしかと見た響歌はしばらく黙った後、背を向けて障子をスッと閉め、皆の方へ向き直し、なんでもないと言わんばかりに首を横に振った。

⏰:12/08/21 16:31 📱:iPhone 🆔:qrYe7oV.


#206 [輪廻]
  
  
部屋の中に、重い空気と沈黙が流れたまま、時間だけが刻々と過ぎていくー

皆、同級生の田中の安否が心配なのか、表情も暗い。


一方の響歌は、部屋の隅に一人しゃがみ込み、携帯電話を見ていた。


ネットを開き、検索ページから

「デスネット」

と検索をかける。

⏰:12/08/21 16:32 📱:iPhone 🆔:qrYe7oV.


#207 [輪廻]
 
 
検索結果をスクロールしていくと、とある結果の表記部分で、手と目を止めた。


『(一週間前に友達が行方不明になりました。その友達はデスネットという…)』

検索結果のタイトルの下に書かれた説明文を黙読した響歌は、迷う事なくそのページを開く。


ページを開くと『○○奮闘記』と表記されたブログが姿を現す。


更新は、去年の11月で途絶えている。

その中でも、説明文に書かれていたものであろう『友達が…』という記事タイトルのページを押す。

⏰:12/08/21 17:12 📱:iPhone 🆔:qrYe7oV.


#208 [輪廻]
 
 
そこには、デスネットが原因で行方不明になったと思われる友達についての内容が、長文でびっしりと書かれていた。


最初から最後まで、響歌はじっくりとその記事に目を通す。


最後の方で

『いつもこのブログを見てくれてる友達や知り合いの方へ

次の記事のパスワードは私の生年月日です。

私の周りの人達はこんな事するような方々ではないのはわかっていますが、一応言っておきます。

他のサイトや、不特定多数の人が見るような掲示板に、次に書く記事を転載するような事はやめてください。


次の記事に書かれている事は、私が短期間で集めたデスネットの裏側です。

もしこんなのを書いたのを、デスネットの関係者に見られたら私は終わりです…。

ですので、絶対に秘密厳守でお願いします』

と書かれ、下部の『次の記事へ』
と表記されたボタンを押すと


『閲覧パスワードを入力してください』
と表記された閲覧制限つきのページが姿を現す。

⏰:12/08/21 17:13 📱:iPhone 🆔:qrYe7oV.


#209 [輪廻]
 
 
仕方なく前の記事のページへ戻り、その記事にコメントを残そうとコメントボタンを探すが、見当たらない。


『(え…コメントできないの?)』

内心ガッカリすると同時に、なんとか本人に連絡は取れないかと、手段を考える。


......……。


しばらくの間携帯電話の画面をじっと凝視し続けていると、その響歌の隣に安井が腰を下ろして座った。


『響歌…ちょっといいかな?』

まだショックから立ち直れないのか、体育座りをしてうつむき加減の安井から声をかけられ、響歌はそちらを見る。

⏰:12/08/25 13:26 📱:iPhone 🆔:nkISRZ5I


#210 [輪廻]
 
 
『うん、いいよ。どうしたの?』

携帯電話を閉じて、身体も安井の方へ向ける。


安井は、下を向いたまま話はじめた。


『肝試しで、桐谷くんと歩いてた時に聞かれたんだけど…。
響歌達、デスネットが原因で色々と怖い目に合ったんだって…?』

『…………』

響歌は、そう聞かれると一瞬視線を反らした。

安井は更に話を続ける。


『あたし…デスネットがそういう危ない会社だって知らなかった…。
だから…だから……』

安井は、そこで口ごもった。

⏰:12/08/25 13:27 📱:iPhone 🆔:nkISRZ5I


#211 [輪廻]
>>210 訂正
私 ○
あたし ×
ーーーーーーーーーー

  
『…“だから”……なに? 』


…嫌な予感がした。

…いや、嫌な予感しかしなかった。


『私…私……』

口ごもり動揺する安井の表情が段々と青ざめていくのを響歌は間近で見ていた。


『どうしよう…私…。
全部…私の…せい……』

やがて安井は、焦点の合っていない目で響歌の方を向き、ぶつぶつと独り言のようにつぶやきはじめた。


そんなただならぬ事態に、響歌は必死に彼女に『落ち着いて』と何度も声をかける。

⏰:12/08/25 13:30 📱:iPhone 🆔:nkISRZ5I


#212 [輪廻]
そんな二人のやりとりを見て、強張った表情をしながら女同級生の一人が近寄る。


『なに? こんな時にケンカ?』

そんな同級生の言葉に、響歌は首を思い切り横に振る。


『違うよ…眞美が…』

響歌が否定すると、女同級生は安井の方に視線をやる。


そして、取り乱した安井の顔をジッと見ていると、背後から数人の同級生が『何事だ』と言わんばかりに近寄ってくる。

⏰:12/11/12 10:13 📱:iPhone 🆔:0WTTYZhI


#213 [輪廻]
 
 
安田は相変わらず身体をぶるぶると震わせている。



『なに? 眞美なしたのさ?』

女同級生がそう言いながら安田の隣に座り声をかけるも、安田は焦点の合ってない目で床の畳を見つめている。


そんな安井の状態に尋常じゃないと感じたその女同級生は、それ以上何も言えずに立ち上がり、その場から何歩か離れた。


『は? なに? なんなの?』

気の強い女同級生は、何が起こっているのか全くわからないという反応を示しながら、安井と、立ち上がった女同級生を交互に見る。

⏰:12/11/12 10:30 📱:iPhone 🆔:0WTTYZhI


#214 [輪廻]
>>213 訂正
安井 ◯
安田 ×
ーーーーーーー


響歌が横で黙って安井の横顔を見つめる中、同級生らは、下を向く安井の顔をまじまじと覗き込む。


『…え? 安井、大丈夫か?』

その中で、長身の男同級生が心配そうな声で話しかける。


安井は、何を言われても一つの反応を見せない。


すると、同級生の重森が前に出てきて安井を見ながら


『同級生の田中が殺されたかもしれねぇんだ…こうなんのも無理もねぇよ…』

と、暗い声でつぶやくように言った。

⏰:12/11/12 10:52 📱:iPhone 🆔:0WTTYZhI


#215 [輪廻]
 
 
『とにかく、安井寝かした方がいいんじゃない?』

『うん、そうした方がいいと思う』

『じゃあウチ、布団出してくれるようにここの人に言ってくるね』

同級生らは安井を心配し、行動に出た。


『(そういえばナナと蓮は…?)』

響歌は安井の事も心配であったが、なによりも蓮と七瀬の安否が心配だった。


もし、あの年上の同級生でもなんでもない見知らぬ幹事が逆上して二人を…と思うと、気が気でならなかった。


安井を同級生らに任せ響歌は立ち上がると、皆の騒ついた行動のどさくさに紛れ、廊下へと出る。

⏰:12/11/12 11:08 📱:iPhone 🆔:0WTTYZhI


#216 [輪廻]
 
 
薄暗い廊下へ出ると、先ほど七瀬が向かった突き当たりへと早歩きをする。


一歩踏み出す度にミシミシと軋む音が鳴る廊下は、響歌に、以前恐怖の体験をさせたあの旅館での記憶の扉を無理矢理こじ開けさせようとしていた。



池崎旅館ー

あの旅館の名前と、そこで失った大切な人の顔が、一瞬頭をよぎる。


『(吉田さん……雪乃……)』

その他にも、自分の身近にいながらも命を奪われてしまった人達の顔が次々と脳裏に焼きつく。

⏰:12/11/15 00:45 📱:iPhone 🆔:dBTWA2ew


#217 [輪廻]
 
 
全ての始まりとも思える、高校時代、ふとしたきっかけで知り合った黒川奈穂…


以前同じ職場で同僚として働いており、自分に好意を持ってくれていた中野敬太…


あの旅館から離れた山道で、ある男に追われている時、山の中の車道で出会い、自分を助けてくれた蓮の兄、桐谷剛史…


そしてその車に同乗していた桐谷剛史の恋人、杉本麗奈…



自分の身近にいる人達の命が次々と奪われていく…。

今回の同窓会でもまた一人…同級生の命が奪われたかもしれない…そう思うと、こんな自分を呪いたくなった。

⏰:12/11/15 00:49 📱:iPhone 🆔:dBTWA2ew


#218 [輪廻]
 
 
今にも泣き出したい気持ちをグッと堪えながら廊下を進んでいくと、突き当たりに出た。


左右の方向を交互に見る。

人のいる気配はなく、声も聞こえてこない。


一体どこへ話をしにいったのかと首を傾げていると、当然後ろから肩を指でツンとされた。



『きゃっ!』

驚いて肩をビクっとさせると同時に小さな悲鳴をあげる。


響歌の肩に指をやった人物もその悲鳴に驚いたらしく、その場に数歩後ずさりをした。

⏰:12/11/15 00:51 📱:iPhone 🆔:dBTWA2ew


#219 [輪廻]
 
 
『だ、誰っ!?』

廊下は薄暗い為、ある程度目が慣れてこないと目の前に立つ人物の顔さえ認識できない状態だった。


響歌がその人物に向かって警戒するように言うと、目の前の人物は後ずさりした分、再び数歩響歌の方に向かってくると、声をかけた。


『驚かしてごめん。あたし。七瀬だよ』


『……! はぁ……』

聞き覚えのあるその声を聞くと、徐々に肩の力が抜け、その場にしゃがみ込んだ。

⏰:12/11/15 00:52 📱:iPhone 🆔:dBTWA2ew


#220 [匿名]
あげる

⏰:12/12/28 14:31 📱:KYL21 🆔:☆☆☆


#221 [輪廻]
 

『ナナ、勘弁してよ…心臓止まるかと思った…』

『ごめんね。立てる?』

七瀬はそう言いながら手を差し伸べ、響歌はその手を取るとゆっくりと立ち上がる。


『ふぅ。ところでナナ…蓮は? いた?』

『…それが…どこにもいないの』

七瀬は下を向いて答えた。



『どこまで話しに行ったんだろうね。
…私、今ナナ達を探しに行こうと思ってたの。
てっきり、蓮を見つけて一緒にいるんじゃないかと思ってたんだけど…』

『…………』

『もう一回、私達で探してみようよ。…ね?』

うつむく七瀬にそう声をかけると、目が慣れてきたのか七瀬が首を立てに振って頷くのが見えた。

⏰:13/01/11 14:33 📱:iPhone 🆔:xqlyJyD6


#222 [輪廻]
5年ぶりに続き書きます。
ずっと忙しくて書けなかったので、覚えてる方、読んでくれてた方いましたら引き続きよろしくお願い致しますm(__)m

⏰:18/04/10 19:27 📱:iPhone 🆔:FOMomahs


#223 [輪廻]
ミシミシと音が鳴る廊下を過ぎ、フロントへやってきた二人。


キョロキョロとしている二人に、フロントにいる女将が声をかけてきた。



『あの、お客様。どうかなされましたか?』


響歌が言葉を返す前に七瀬がいち早く口を開く。



『あの!ここに男の人が2人通ったりしませんでした?』


七瀬がそう聞くと、女将は少し首を傾げた後
何かを思い出したように目を見開いた。

⏰:18/04/10 19:55 📱:iPhone 🆔:FOMomahs


#224 [輪廻]
『ああ、はいはい。確かに。つい10分前ほどになりますかね』


そう聞くと七瀬は女将のすぐ近くに歩み寄る。



『その2人がどこに行ったかわかりませんか?』


『…そうでございますね。男性お二方はそこで少し話しをしてましたが、片方の男性が私と顔を合わせるなり、そそくさとお風呂場の方へ歩いてお行きになりました。もう片方の男性もその後に続いておいでになられましたね』


『……ありがとうございます!』


響歌と七瀬は顔を見合わせ、女将に軽く頭を下げると、さっさとお風呂場の方へと急いだ。

⏰:18/04/10 20:08 📱:iPhone 🆔:FOMomahs


#225 [輪廻]
『…蓮!いるの?!』

"男湯"と書かれたのれんがある場所まで来ると、七瀬が大声で叫ぶように言う。


…だが返事はない。



『響歌、行こう』

『…え?男湯だけど…いいのかな…』

『今はそんな事考えてる時じゃないよ。
なんだか…すごい胸騒ぎがするの…』

『…………』

響歌は少し考えたが、胸騒ぎするのは自身も同じであった。



『……そうだね。ナナ、行こう』


覚悟を決めた二人はのれんを手で払いのけ、男湯の脱衣所へと足を踏み入れる。

⏰:18/04/10 20:30 📱:iPhone 🆔:FOMomahs


#226 [輪廻]
『……蓮!!』

七瀬が叫びながら脱衣所へ来ると、着替え途中の数人の客が一斉にこちらを見る。


『…ナナ、やっぱりマズかったかも…』

響歌が顔を赤くして七瀬の方を見る。


『…でもこっちに2人が来たのは間違いないみたいだし』

『もしかしたら風呂に入ってるのかも』


響歌がそう言い下を向いてじっとしてる中、七瀬は辺りをキョロキョロと見回し2人を探す。

⏰:18/04/10 20:45 📱:iPhone 🆔:FOMomahs


#227 [輪廻]
だが、2人は見当たらない。


『ナナ、やっぱりお風呂に入ってるかもしれないから出て来るまで外で待ってようよ…』


響歌は下を向いているが、客の視線が痛いほど2人を突いてくるのがわかる。



『…そうだね』

ポツリと言い、2人は脱衣所を出る。


フロント前のソファに腰掛けると、2人が来るのを待った。

時刻はすでに明け方午前4時30分を回っていた。


その間、七瀬は男湯ののれんからずっと目を離さず、響歌は下を向いてじっとする。

⏰:18/04/10 20:56 📱:iPhone 🆔:FOMomahs


#228 [輪廻]
どれくらい待っただろうか。

5分、10分、20分…


朝というだけあり、風呂場へ向かう客と上がって戻ってくる客が忙しなく行き交う。



『もう5時過ぎだけど、2人共上がってこないね…』

30分ほどの長い沈黙の後、響歌がやっと口を開く。



『一旦部屋に戻ろうか…』


七瀬が疲れた声で言い、2人で立ち上がろうとしたまさにその時であった。

⏰:18/04/10 21:29 📱:iPhone 🆔:FOMomahs


#229 [輪廻]
旅館の入り口の自動ドアが開いたと思うと、2人の警察官が中に入ってきた。



『…?!』

響歌と七瀬が驚いたようにそちらを見る。



警官の1人がフロントの女将の元へと駆け寄ると、『警察です』と言いながら警察手帳を見せている。


もう1人の警官は辺りをキョロキョロ見回す。



『…何?なんなの?』

七瀬がポカーンとしながら警官を見つめ呟いていると、2人の視線に気がついたのかその警官がこちらに寄ってきた。

⏰:18/04/22 08:28 📱:iPhone 🆔:bZq4VFrI


#230 [輪廻]
『警察ですが、少しお話を聞かせて貰ってもいいですか?』

そう言って深く被っていた帽子のつばを上げる警官。



『……!?』

その警官の顔をまじまじと見た響歌は言葉を失った。


…そう。

あの警官であった。



『どうしてここに…』

警官の顔を見つめながら声を震わせポツリと呟く。


隣の七瀬は、警官と響歌の顔を交互に見ながら「?」マークを浮かべる。

⏰:18/04/23 06:59 📱:iPhone 🆔:p47YuG4A


#231 [輪廻]
『…響歌?どうしたの?』

その声にハッとして七瀬に視線をやる。


それと同時にフロントで女将に話を聞いていた警官がこちらに駆け寄ってきた。


男は再び帽子を深く被り、駆け寄る警官に視線を戻す。



『被害者が泊まってた旅館で間違いないみたいだ』

『了解です。すぐ本部に連絡と応援を呼びます』


そう言って無線機を取り出す。

そんな2人の警官のやりとりを黙って見る響歌と七瀬。

⏰:18/04/23 07:07 📱:iPhone 🆔:p47YuG4A


#232 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑age↑

⏰:22/10/02 03:24 📱:Android 🆔:Ltpo.xA.


#233 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>1-30

⏰:22/10/07 21:00 📱:Android 🆔:GR1soPvw


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