horrorU〜二重連鎖〜
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#80 [輪廻]
第1話『戦慄の序章』
後編・響歌篇
:12/02/29 10:04 :iPhone :b2PBU4DM
#81 [輪廻]
午前1時40分ー
現場にはただならぬ緊張が走っていた。
中学校の同窓会中、深夜墓での肝試し中にナイフを持った男に襲われた蓮と、同級生の安井。
蓮は安井を逃がし、皆の元へ戻ってきた彼女が事情を話すと、今度は響歌と蓮と仲良しである七瀬が、蓮が心配で墓の奥へと走り出す。
七瀬に続いて、男同級生も蓮を助ける為に墓へ。
その際、この肝試しを企画した同窓会の幹事に一喝を入れた。
残された皆は不安になりながらもその場で蓮や、墓に向かった2人の帰りを待っていたー
:12/02/29 10:27 :iPhone :WKal1slg
#82 [輪廻]
『ねぇ…3人共大丈夫なの?』
重い沈黙の中、気の強い女同級生が皆を見回しながら言う。
その質問に誰も答える事はなく、ほとんどがうつむいたまま沈黙を続ける。
だが少しして、石の上に腰かけていた響歌がスッと立ち上がり幹事の方へと歩み寄る。
『…村井ちゃん?』
目の前に立った真顔の響歌を、幹事はおどおどした態度で見下ろす。
:12/03/01 13:54 :iPhone :pWG6U8iw
#83 [輪廻]
響歌は幹事の顔を穴の空くほどしばらく見つめた後、一言放った。
『あなた…誰?』
その響歌の一言に、うつむいていた同級生皆が一斉に2人の方を見た。
『だ、誰って…』
明らかに動揺を見せる幹事の顔から響歌は一時も視線を外さなかった。
:12/03/01 13:55 :iPhone :pWG6U8iw
#84 [輪廻]
『私…旅館にいた時、一人一人の顔見て、この人はこの人だなって懐かしみながら思い出していったの。
でも、どうしてもあなたの顔だけは思い出せなかった。もちろん名前も』
『…………』
幹事はあちこち目を泳がせながら黙りこける。
響歌は視線を外し同級生らの方に向けると、幹事の方を指さして聞いた。
『皆はこの人の事覚えてる? こんな人同級生にいた?』
質問された同級生らは顔を見合わせつつ、徐々に幹事の方に歩み寄って行き、その顔を食い入るように見る。
:12/03/01 14:13 :iPhone :pWG6U8iw
#85 [輪廻]
『ん〜』
その中で、男同級生の一人が眉をしかめる。
そして少し見つめた後に彼も言った。
『言われてみれば……お前誰だっけ?』
『…………』
沈黙を続ける幹事。
:12/03/03 08:38 :iPhone :.AGkMq/.
#86 [輪廻]
ーこの幹事が誰なのか?
それだけで、現場は異様な空気に包まれた。
皆が幹事から遠巻きに離れていく中、響歌は何かを疑うような目つきで彼の顔を見る。
『同窓会の案内が届いた時から変だとは思ってた…。
だって、その案内に幹事の名前が書かれてなかったから。
普通は苗字くらい書いてあるものでしょ』
『…………』
『もう一度聞きます。あなたは誰? 私達の同級生じゃないですよね? 明らかに私達より年上だし』
『…………フ』
下を向いて黙り続けていた幹事は、ここでやっと口を開いたと思うと、力なくほくそ笑んだ。
:12/03/03 08:39 :iPhone :.AGkMq/.
#87 [輪廻]
『…何がおかしいんですか?』
真剣な表情で響歌が尋ねる。
幹事は下を向いたまま口元をひきつるようにして不気味な笑みを浮かべると、ついには声に出して高らかに笑い出した。
『くっ…ふふ……あっはっはっはっはっ!!』
突然の笑い声に、目の前にいた響歌は驚いて、思わずその場から後ずさりする。
『ちょっと…アンタ誰なの?』
響歌に代わり気の強い女同級生が、狂ったように笑っている幹事に近づきながら聞く。
:12/03/03 13:41 :iPhone :V518DNM2
#88 [輪廻]
『……やっぱり……』
幹事はそうポツリと小さくつぶやいた後、同級生らの方を見ると
『やっぱりアンタらと同級生ってのは無理があったか…』
と、観念したように言った。
『は…? じゃあ誰なの?』
女同級生がイライラした様子で聞くと、幹事は大きなため息を一つついてから、話し始めた。
:12/03/05 08:28 :iPhone :pOsPdp4A
#89 [輪廻]
『俺、今デスネットってところでバイトしててさぁ…この同窓会に参加するように言われたんだよね。まあ正確には、幹事をやれって事なんだけど』
『……!!』
言葉の一部を聞いた響歌がピクリと反応する。
『俺、もちろん最初は断わったんだよ? 俺、今年で丁度30だし無理があるって。でもデスネットの奴が……』
幹事がここまで言った時、墓の向こうから七瀬が叫び声をあげながら蓮と共にこちらに向かってきた。
『誰か!!』
『ナナ! 蓮!』
無事に戻ってきた二人を見て、響歌が嬉しそうな顔で近づく。
:12/03/05 08:29 :iPhone :pOsPdp4A
#90 [輪廻]
だが七瀬と蓮の様子がおかしい事に気づくと、その嬉しそうな表情はすぐに引っ込んだ。
『おい、田中はどうしたんだよ!?』
男同級生が墓の奥の方の暗闇を見渡しながら二人に聞く。
『………あの…』
『いい七瀬、俺が話す』
七瀬の言葉を遮り、蓮が皆の方を見て事情を話し始めた。
:12/03/05 08:45 :iPhone :pOsPdp4A
#91 [輪廻]
『安井ちゃんから聞いてると思うけど、安井ちゃんと二人で墓の中歩いてたら木の影に誰かいてさ。
声かけようと思って近づいたら、いきなり飛び出してきたんだよ…。
で、よく見たらそいつなんか刃物みたいなの持ってて…さすがの俺もびっくりしたんだけど、女が隣にいるのにビビってる訳にもいかなくて、そいつの刃物持ってる手をなんとか掴んで安井ちゃんを逃がしたの』
そう言うと皆は、地面にしゃがみ込んで身体を震わせている安井を見る。
『本当危なかったんだね…』
安井を見つめる女同級生が小さくポツリとつぶやく。
:12/03/06 08:44 :iPhone :EKy4GumM
#92 [輪廻]
『それで…田中はどうしたんだよ!?』
男同級生が言うと、再び皆は蓮に視線を戻す。
『田中は…』
それ以上は言えない事態でも起きたのか、蓮はそこで口をつぐんだ。
『桐谷…?』
『…蓮。ここからはあたしが話す…』
今度は蓮に代わって七瀬が口を開いた。
:12/03/06 08:46 :iPhone :EKy4GumM
#93 [輪廻]
『あたし蓮が心配で追いかけて、男の人ともみ合ってる蓮を見て、夢中で二人に飛びかかったの。
あたしの体当たりで男の人が倒れて…そしたらその人があたしの顔見て…「お前だ」って言ったの。
小さい声だったけどちゃんとそう聞こえた…』
『“お前だ”…? ナナはその人知ってるの?』
響歌が首を傾げながら聞く。
『ううん、知らないよ。顔はよく見えなかったけど…声にも聞き覚えなんてないし』
『じゃあ…“お前だ”ってどういう事…?』
『あたしの方が聞きたいよ!』
『それで…どうしたの? 田中君は?』
『あ、うん…それで男の人が地面に落ちた何かを拾って立ち上がって、あたしに襲いかかってこようとしたんだけど…そこに田中君が現れて男の人の前に立ちはだかったの。そしたら………』
そこで七瀬は両手で顔を覆い、地面にしゃがみ込んだ。
:12/03/06 09:15 :iPhone :EKy4GumM
#94 [輪廻]
『もしかして…ナナを庇って…?』
事態を察した響歌がポツリと言うと、七瀬の隣にいた蓮がコクリと頷いた。
『田中が…? 嘘…だろ…桐谷…』
田中の最も親しい友達であろう男同級生が今にも放心状態になりそうな顔で途切れ途切れにそう言いながら蓮に近づく。
『悪い…俺、男が七瀬に襲いかかろうとして、止めようとしたんだけど、いきなり田中が現れたから思わず…』
蓮はその同級生の顔を見つめながら申し訳なさそうに言う。
:12/03/07 12:16 :iPhone :vqFNM0dE
#95 [輪廻]
同級生は蓮の前に立つと
『お…お前のせいじゃないよ…はは…うん…気にすんな…』
半笑いでそう言い、焦点の合っていない目で蓮を見ながら肩をポンと一回叩いた。
そんな中、女同級生の一人が大きな声をあげる。
『とにかく警察呼ばないと! あと救急車も!!』
その声をきっかけに現場は騒然となる。
:12/03/07 12:17 :iPhone :vqFNM0dE
#96 [輪廻]
ある者は慌てふためき、ある者は警察に電話する為かポケットから携帯電話などを取り出す。
『警察は俺が呼ぶからお前は救急車呼べ!』
『わ、わかった…!』
警察を呼ぶと言った男同級生がダイヤルを押そうとした時だった。
『ま、待って! やめてくれ!!』
誰かの叫ぶような声がし、一同はその声のした方を一斉に見る。
:12/03/09 11:48 :iPhone :Bv.Lz60E
#97 [輪廻]
そこには、この同窓会の正体不明の幹事が冷や汗をかいた状態で棒立ちしていた。
『は? アンタこんな時に何言って……』
『頼む! 警察だけは…!!』
気の強い女同級生の言葉を遮り、幹事は携帯電話を握る男同級生に手を合わせて言う。
幹事の動揺が、離れた場所にいてもひしひしと伝わってくるようだった。
『なんでアンタがそんな事言うんすか? 俺らの同級生が知らない奴に殺られたかもしれないんすよ』
『そうだよ! 重森、早く警察呼べよ』
『わかってる!』
幹事の願いも届かぬまま、同級生の重森は110番のダイヤルを押したー
:12/03/09 11:50 :iPhone :Bv.Lz60E
#98 [輪廻]
20分後ー
男同級生の通報により、警察と救急隊が到着した。
七瀬と蓮が警察と共に墓の奥の挌闘があった場所を調べた所、そこに同級生の田中の姿はなかったという。
二人は『この場所で間違いない』と何度も訴えたが、血痕など痕跡が何ひとつ見つからなかった為、この通報はただの若者集団によるイタズラだと決めつけられてしまった。
ー警察や救急車が去り、現場には静寂が訪れる。
『意味わかんねえ…俺らがイタズラで通報したって? ふざけんなよ
…?』
通報した同級生の重森は、誰に言うわけでもなく、ただ地面に向かってつぶやいた。
:12/03/09 12:35 :iPhone :Bv.Lz60E
#99 [輪廻]
『と、とにかく…寒くなってきたし旅館に戻らない?』
女同級生の一人が身体を震わせて尋ねると、一部の人がぞろぞろと歩き出した。
『ナナ…蓮…行こう』
石に座りうつむく七瀬と蓮に声をかける響歌。
『なんで…』
七瀬がものすごく小さな声でポツリと言った。
響歌が何と言ったのか聞き返す間もなく、すぐ響歌の方を見上げる。
その瞳には涙が溢れていた。
:12/03/09 12:36 :iPhone :Bv.Lz60E
#100 [輪廻]
『なんで…信じてくれないの…? 警察は…』
涙声で響歌の目を真っ直ぐ見据えて尋ねる。
『それは…』
それはと前置きしたのはいいものの、なんと答えてあげればいいのかわからなかった。
すると、七瀬の隣に座る蓮が助け舟を出した。
『それは…俺たちにも少し問題があったと思う。だって、こんな真夜中に大勢の若者が墓にいるんだぜ? だからイタズラだと思われても仕方ない部分もあったと思うんだよな…』
『そ…そう、蓮の言う通りだと思う』
響歌が蓮の言葉に賛同した所で、七瀬は少し精神が安定したのか、上を向いて大きな息を吐いた。
:12/03/09 12:37 :iPhone :Bv.Lz60E
#101 [輪廻]
『じゃ、俺達も戻るか。皆行っちまったし』
『そうだね』
蓮が、座っていた石から立ち上がり、七瀬もそれに続いて立ち上がる。
『…………』
そんな二人を、響歌は黙って見つめる。
『ん? どうかした? 村井』
『…え? いや、なんでもないよ。それよりさ…』
『……? なに? 響歌』
ポカーンとした顔で響歌を見る二人。
響歌は、二人が帰ってくる前に聞かされた幹事の告白の事を説明した。
:12/03/10 10:37 :iPhone :klZv3ZOY
#102 [輪廻]
『あの幹事の人いるでしょ?』
『ああ…それがどうかした?』
『あの人…私達の同級生じゃなかったの』
響歌がそう言うと、二人はほぼ同時にえっと驚く。
『まじで? なんでわかったの?』
『実は……』
響歌は事の成り行きを全て話した。
:12/03/10 10:38 :iPhone :klZv3ZOY
#103 [輪廻]
『……あいつがデスネットで…?』
『うん。間違いなくそう言ってた』
『でもさでもさ…ホントは29歳なんだよね? 中学校に集まった時、誰もおかしいと思わなかったのかな?』
七瀬のいう事はごもっともであった。
『それは私も気になってた。私達以外で誰一人不審に思わなかったし…』
『だよな…』
蓮は腕を組んで考え込んだ後、二人を見て
『俺、後であいつと話ししてくるわ。俺達の同級生じゃない奴がなんでこの同窓会を企画したのか、全部聞き出してやる』
そう言いながら拳を作りガッツポーズをすると、それを見た七瀬と響歌はニッコリと微笑んだ。
:12/03/10 11:05 :iPhone :klZv3ZOY
#104 [輪廻]
『な、なんだよ』
『別にぃ〜。ね? 響歌!』
『うん。なんでもないよ!』
『変な奴…』
蓮が最後にそうつぶやき、三人は旅館に向けて歩き出した。
そんな楽しそうな三人を妬むかのように木の影から一人の人影がその姿をじっと見つめていたー
後編・響歌篇【完】
第1話『戦慄の序章』了
:12/03/10 11:12 :iPhone :klZv3ZOY
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