horrorU〜二重連鎖〜
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#36 [輪廻]
 
 
 
第1話『戦慄の序章』
 

前編・狂也篇
 
 
 

⏰:11/12/29 09:52 📱:Android 🆔:fIZxwcg.


#37 [輪廻]
朝っぱらから鳴り響く携帯電話の着信音。

狂也は発信者番号を少し見つめてから、眠たい目をこすりながら通話ボタンを押して電話に出る。


『はい……もしもし……』

ダルそうな声で出ると…


『大槻様でいらっしゃいますか? こちらデスネットの者ですが』

今度は機械を通した女性の声ではなく、男性の肉声が返ってきた。


『ああ…はい、そうですけど…』

寝ぼけ眼と声で言い返すと、電話の向こうの男性は少し間を空けてから…

『おいコラ、なんじゃその態度は! ボケ!』

と、突然豹変し怒鳴り声をあげてきた。

⏰:11/12/29 09:54 📱:Android 🆔:gmdcApg.


#38 [輪廻]
 
 
その声に驚いた狂也は、携帯電話を耳に当てたまま反射的に布団からガバッと起き上がる。

その一喝で眠気が一気に吹き飛んだのは言うまでもなかった。


『ご…ごめんなさい、ごめんなさい!!』

その場で、頭を何度もペコペコと下げながら謝る。

すると男性は、また間を空けてから…

『では大槻様。今回は、いくつかご紹介できるお仕事が見つかりましたので御電話を差し上げました』

さっきまでの怒鳴り声とは一変して、再び紳士的な声に戻った。

⏰:11/12/29 09:57 📱:Android 🆔:bJyDVTGE


#39 [輪廻]
 
 
『…………』

その声の変わり様に、狂也はしばらく口をポカーンと開けたまま黙る。


『大槻様?』

『あ! は、はい! すみません!』

『では早速、いくつかのお仕事の内容を説明をさせて頂きます。メモなどに取っておいてください』

『は、はい!』

またいつ怒鳴り声が飛んでくるかわからない恐怖にすっかり縮こまりながらも、その辺にある紙とボールペンを素早く手にする。


『いいですか? では……』

どんな仕事なのかとドキドキしながら息をのむ。

そして、少し間を空けてから言った男性の言葉に、狂也の身体が一瞬にして固まる…


『一つ目。内容は簡単です。
……女性の遺体を山に埋めてください』

⏰:11/12/29 10:07 📱:Android 🆔:6yBJBiY.


#40 [輪廻]
 
 
“は? この人は何を言っているんだ?”と思った。


『……遺体を…埋める……?』

『そうです。簡単ですよね?』

この時“この会社もこの人もまともではない”と直感で思った。

しばらく無言のままでいると…


『おいコラ! …聞いてます?』

再びヤクザのような声で一喝した後、また紳士的な声に戻す。


『や…やめます…いいです!』

さすがにヤバいと感じた狂也は、パニックになりながら震えた声で断った。

⏰:11/12/29 10:10 📱:Android 🆔:sND6McsE


#41 [輪廻]
 
 
一つ目から有り得ない内容の仕事なのだから、他も同じようなものに違いないと。


しばらくして電話の男性は、怒鳴る事なく冷静にこう言い放った。

『あなた…殺しますよ?』

そのやんわりとした口調と、言った言葉の内容にどこか気味悪さを感じ、一瞬背筋が凍った狂也だったが、冷静に思い返してみる。


『(…殺しにくる? 場所もわからないのにどうやって殺しに来るっていうんだよ)』

そう考えると自然に笑みがこぼれてきたが、次の男性の一言でその笑みはすぐに引っ込む事になる。

⏰:11/12/30 14:10 📱:Android 🆔:j9L9UqqY


#42 [輪廻]
 
 
『どうせハッタリだ…とか思っていられるのでしょうが、そちらの個人情報等はすべてこちらの方で保管されていますので、調べればすぐにわかりますよ…住所くらい』

そう言われて、冷や汗をかく狂也。

そして思い出したのだ。

求人の紙を見て電話をする際に、名前や住所など向こうに完璧に教えた事に…。


1月の始めだというのに、狂也の顔や身体からは大量の汗が吹き出ていた。


『…や…やります…』

自分のやった事に後悔しつつも、声と身体を震わせながら呟くように言う。

すると男性は何事もなかったかのように再び仕事の話をし始めた。

⏰:11/12/30 14:11 📱:Android 🆔:j9L9UqqY


#43 [輪廻]
 
 
仕事の内容は2つ目以降になるにつれ、狂也の思った通り、猟奇的なものであったり、残虐なものだったりと、絶対に関わりたくはないようなものばかりだった。

『お仕事の内容は以上です。ではこの中からおひとつお選び頂いたら改めて電話を頂けますでしょうか?』

『…あ、あの…今すぐ決めちゃってもいいですか?』

『はあ、構いませんが』

仕事は全部で5つ。

狂也は一つ目の“女性の遺体を山に埋める”以降の仕事はあまりにも残虐でできそうにないので、これ以外は考えられなかった。

『一つ目の…遺体を埋める仕事というのを…お願いします…』

⏰:11/12/30 14:12 📱:Android 🆔:j9L9UqqY


#44 [輪廻]
 
 
『了解致しました。では早速、本日午後7時に指定された場所へご足労願いますか?』

『えっ? 今日…ですか?』

『…何かご予定でも?』

『いえ、特には…』

『では、本日午後7時にセブンイレブン南3丁目店の駐車場へお願いします。
目印は黒いワゴン車との事ですので、お忘れのないよう…』

男性が丁寧にそう言うと、電話はプツッと切られた。


『南3丁目……遠い』

真っ暗になった携帯電話の画面を見つめながら呟く…と同時に何か違和感を感じた。

⏰:11/12/30 14:13 📱:Android 🆔:j9L9UqqY


#45 [輪廻]
 
 
何に対して違和感を抱いたのかは、忘れっぽい所がある狂也でもすぐにわかった。

『目印は黒いワゴン車…“との事”?』

この“との事”という部分が引っ掛かったのだ。


それというのも、指定場所へ来るのは当然デスネットの関係者だと思っていたからだった。

だが今の言葉はまるで、女性の遺体を埋めて欲しい別の何者かがいるという事を感じさせる。


狂也は違和感の正体に気づいたと同時に不安感、そして恐怖感へと変わっていった―

⏰:11/12/30 14:14 📱:Android 🆔:j9L9UqqY


#46 [輪廻]
 
 
どうすればいい…?

頭を抱えて必死に考える。


しばらくして、顔をゆっくり上げ…

『(警察…。こういうのって警察に言えばなんとかしてくれるよな…)』

という安心な方法を思いついたのだが、もしも警察に通報してしまうと、通報したという事で今後、自分の命が狙われるかもしれない。

そう考えると、あまりにもリスクが高すぎて通報するのを躊躇ってしまう。


だからといって“女性の遺体を埋める”という行為をしてしまった時点で、自分は犯罪者になってしまう。

どの道、逃げ場はないと思った。

⏰:11/12/31 23:51 📱:Android 🆔:z6b5A5a6


#47 [輪廻]
 
 
個人情報を向こうが握っている以上、彼らに従うしかないのか、と自分に問いかける。

いや、でもでも…と再び頭を抱える。

それの繰り返しだった。


そんな状態が30分ほど続き、考えた結果、狂也はある事を決めた。

机に置いた携帯電話をサッと手に取り、着信履歴からデスネットへ電話をかける。


数秒呼び出し音が鳴った後、ガチャッという音と共に向こうは電話に出た、と同時に聞き覚えのある声がした。


『お電話ありがとうございます。ご用件をどうぞ』

そう。あの機械で喋る女性の声である。

⏰:11/12/31 23:53 📱:Android 🆔:z6b5A5a6


#48 [輪廻]
 
 
『あの…責任者の人をお願いします』

先ほど電話した男性の名前は聞いていなかったので、とりあえずデスネットの責任者の人を出して貰うよう伝える。


『かしこまりました、少々お待ちください』

向こうがそう言い、しばらく音楽が流れた後、あの男性が電話に出た。


『お電話代わりました。デスネットの日向と申します』

『あの…大槻と言いますが…』

『大槻……ああ、先ほどの。どうかされましたか?』

またいつ怒鳴られるかわからないが、狂也は息をのんでから思い切って切り出す。


『お、お金はいらないので…遺体を埋める仕事が終わったらデスネットを辞めさせてください!』

⏰:11/12/31 23:54 📱:Android 🆔:z6b5A5a6


#49 [輪廻]
 
 
言ってしまった。

絶対に怒鳴られる…そう思って携帯電話を耳から少し離す。


だが、あの『オイ!』などという一喝は聞こえてこなかった。

再び携帯電話を耳に近づける。

男性は少し無言の状態を続けた後、冷静に口を開いた。


『それは……殺されても良い、という事ですね? 』

『……え?』

何かの聞き間違えだろうかと思い、聞き返す。


『ですから…殺されても良いという事ですよね? 』

やはり聞き間違いではなかった。

⏰:12/01/01 00:03 📱:Android 🆔:sM1doH3s


#50 [輪廻]
 
 
なぜ、仕事を辞める=殺されるという結論になるのか理解できない狂也は、怒鳴られるのを覚悟で問う。


『なんで辞めるって言ったくらいで殺されなきゃならないんですか?』

なぜだか腹が立ってきて少し強気に言うと、男性は電話の向こうで、鼻で小さくフッと笑った。


『大槻様…あなた、お年は?』

『え……に、24歳ですけど』

『まだまだガキって事ですね。社会のルールもわからないのでは、この先苦労しますよ?』

そう語る男性に“人に遺体を埋める仕事をさせる奴が何を言っているんだ”と思った。

⏰:12/01/01 00:10 📱:Android 🆔:VmOWdgJU


#51 [輪廻]
『どうなさいますか? 辞退という事であれば…さきほど申し上げた通り…』

『わ、わかりました…やります』

向こう…デスネットは自分の個人情報を握っている。

ここでその仕事を辞退すれば、後々とんでもない事になるのは火を見るより明らかだった。


『わかりました。では本日、指定の場所へよろしくお願い致します』

そう言って電話は切られた。

⏰:12/02/16 09:29 📱:iPhone 🆔:fMUUjEps


#52 [輪廻]
 
 
狂也は持っていた携帯電話を耳から離すと、今にも潰れそうな勢いで電話をぎゅっと握りしめた。

そしてあの広告もビリビリに破き、悲鳴にも似た叫び声をあげた。


『くそおおおおおおお!!』

後悔の念がぐっと押し寄せる。


だが後悔した時にはすでに遅かったー
 
 

⏰:12/02/16 09:48 📱:iPhone 🆔:fMUUjEps


#53 [輪廻]
 
 
PM6:55ー


電車を使い、指定された南3丁目のコンビニへやって来た狂也。

周りを気にしながらふと駐車場の方に目をやる。


すると、電話の男が言っていた通りの黒いワゴン車がそこに一台停車していた。


狂也は一瞬その場から今にも逃げ出したい衝動にかられたが身体が徐々に震え出し、いう事をきかず、一歩一歩ゆっくりとそのワゴン車の方に近づいて行く。

⏰:12/02/17 11:48 📱:iPhone 🆔:zyEBEpdQ


#54 [輪廻]
 
 
カーテンでもかけられているのか、こちらから車内の様子は全くわからない。


それで狂也は確信した。

この車内には、これから遺棄しようとしている死体があるのだとー


その瞬間

『“今ならまだ間に合う。コンビニの店員に言って警察を呼んでもらうなら今しかない”』

心の中のもう一人の自分がそう言った気がした。

⏰:12/02/17 12:01 📱:iPhone 🆔:zyEBEpdQ


#55 [輪廻]
 
 
だが身体は相変わらずいう事をきかず、ついに狂也の足は車の目の前まで来た。

車の運転席にもカーテンがかかっており、中の様子を伺う事は一切できない。

こちらから何かしら合図を示さなくては反応がなさそうである。

心の中のもう一人の自分はまだ

『“よく考えろ”』

と何度も警告している気がした。

⏰:12/02/18 17:15 📱:iPhone 🆔:P0qxpD7c


#56 [輪廻]
 
 
だが、もしここで逃げてしまったら…という事を考えると、考えたくもない事が自分の身に降りかかってしまうー

狂也は意を決して、車の運転席の窓を軽くノックした。


少しして運転席にかかっているカーテンがシャッと開かれ、窓越しに年齢50代くらいと思われる小太りの男性の顔が覗いた。

どこにでもいるサラリーマンのような男の顔を見た狂也は、心なしか安心する。

⏰:12/02/18 17:16 📱:iPhone 🆔:P0qxpD7c


#57 [輪廻]
 
 
やがて窓がスーッと開き、男が顔を出すと『乗れ』と手で助手席の方を示す合図をする。

狂也は言われた通り、車の後ろから回り込み助手席の方へ小走りで向かう。

ドアを開け、すぐ乗り込むと車はすぐに発車した。


走り出して数分が経った時、ようやく運転席の男が顔を前に向けたまま口を開いた。


『……名前は?』

そう冷静な口調で尋ねられた狂也は、それとは裏腹にあたふたしながら返答する。


『お…大槻狂也です』

『…電話で言ってた名前で間違いねえか』

男はそう独り言のようにつぶやいたのを最後に、車内は再び無言状態になった。

⏰:12/02/18 19:20 📱:iPhone 🆔:K03n5Vow


#58 [輪廻]
 
 
こちらから聞きたい事は沢山あるのだが、このなんともいえない雰囲気に飲み込まれ、口を開くことができない。

この車内に人間の死体があるのだと思うと、余計に。


出発して小一時間ほどが経過した頃、車は街を大きく外れ、暗い山道に差し掛かった。

死体を埋めるには最適と言わんばかりの夜の山。

自分はこれから犯罪者の手伝いをしなくてはならないのかと思った矢先、車は木々で囲まれた小さな駐車場で停車した。

⏰:12/02/19 10:02 📱:iPhone 🆔:SvRFADbc


#59 [輪廻]
 
 
『降りろ』

エンジンを止めて男がそう言い、狂也はドアを開けて外へと出た。

男は後部座席のドアを開け、何かゴソゴソとやっているのが聞こえる。

ついに人間の死体が出てくるのかと身体を小さく震わせていると、男は大きな頑丈そうなシャベルを狂也に渡してきた。


『それ使え』

そう言うと再び後部座席の方に戻り、またゴソゴソと始める。

⏰:12/02/19 10:18 📱:iPhone 🆔:SvRFADbc


#60 [輪廻]
 
 
少しして、ガサガサとビニール袋の音がし、男はそれを車内から引っ張り出した。

それは黒く長い、所々ヒモで巻かれたビニール袋。

中に何が入っているのかは安易に想像できた。


男は引っ張り出したそれを一旦地面に置いてから再び持ち上げ、肩に担ぐ。


『こっちだ。行くぞ』

そう言って男は木々だらけの暗い林の方へ向かって歩き出した。

狂也もシャベルを片手に、男の後に続いた。

⏰:12/02/19 23:51 📱:iPhone 🆔:0XqFC2nc


#61 [輪廻]
 
 
静まり返る林の中に、狂也と男の落ち葉や枝を踏みつけながら歩く音だけがやけに大きく響く。


『ここいらでいいか』

先頭を歩く男がそうつぶやいたのは、歩き出して10分ほどが経過した頃。

男は担いでいた、死体が入っていると思われるビニール袋を地面に置いて狂也の方を見ると


『ここらへんを掘ってくれ』

と、自身の足元の地面を指さして言った。

⏰:12/02/19 23:53 📱:iPhone 🆔:0XqFC2nc


#62 [輪廻]
 
 
『は、はいっ!』

裏返りそうな声で答え、男の指さす方へ近づく。


『ここ…でいいんですよね?』

『ああ。早くしろ』

狂也は左手に持っていたシャベルを右手に持ち変え、腰をかがめながら足元の地面を掘り始めた。


それを男は両腕を組みながら黙って見下ろす。

⏰:12/02/20 00:27 📱:iPhone 🆔:6fxgN5ZU


#63 [輪廻]
  
とっとと終わらせようと力いっぱいにシャベルを地面に突き刺し、掘り続ける狂也。


所々で男の『さっさとしろ』という心の声が聞こえてくるようだった。


そんなプレッシャーを肌に感じつつ掘り続ける。


数十分後ー

やっと人一人が入れそうな深い穴ができた頃、狂也の土を掘る姿を黙って見ていた男がついに行動に出る。


死体の入ったビニール袋を軽々と片手で持ち上げると、今掘ってできた穴の中に投げ入れた。


そして狂也の方を見る。

暗くてよくわからなかったが、その男は不気味に微笑んでいるように見えた。

⏰:12/02/20 12:17 📱:iPhone 🆔:m1BlL9s6


#64 [輪廻]
 
 
一方の狂也は、どんな表情をしていいのかわからず、足元の穴に落ちたビニール袋を呆然と見つめる。


『じゃあ最後の仕事だ』

どこか楽しげな口調で言った男の方に目をやる。


『またこの穴を塞げばいいんですよね?』

彼の言いたい事を悟り、先に切り出した狂也。

すると男は、ますます不気味な笑みを浮かべ

『わかってるじゃんか。でも、もう一つあるんだな』

と、意味深な発言をした。

⏰:12/02/20 12:18 📱:iPhone 🆔:m1BlL9s6


#65 [輪廻]
 
 
『え…』

一体この穴を塞ぐ他に何があるのだろうと首を傾げつつ男を見つめる。


暗闇に目が慣れてきたのか、今なら男の表情がハッキリと見える。


彼は『お楽しみはこれからだ』と言わんばかりの笑みを狂也に向けていた。


『一体…どんな事をするんですか?』

『まあそれは後でいいから。とりあえず先に穴を埋めてくれよ』

最初と比べてやけに口数が多くなってきた男に安心感と不安感を同時に抱きながらも、死体入りのビニール袋が入った穴を先ほど出した土を使って埋めた。

⏰:12/02/20 12:18 📱:iPhone 🆔:m1BlL9s6


#66 [輪廻]
 
 
こういった力仕事は経験がない為、埋め終わった時には息切れ寸前であった。


持っていたシャベルを地面に投げ捨て、その場に尻もちをつくようにしてへたり込む。


『お疲れさん』

男は、疲れきった狂也を面白がっているような口調で言いながら肩をポンと叩いた。


『それで…次は何をしたら…いいんですか?』

今度は力を使う作業でない事を祈りながら問う。

するとその祈りが通じたのか、男は狂也の捨てたシャベルを拾いあげて言った。


『今度は楽だから安心しな』

その言葉を聞いてホッと安心のため息をついた狂也だったが、次の男の一言でそれは束の間の一安心だった事になる。


『君とは共犯者って事になったけど、もしもの時もあるからさ…君も今ここで死んでくれないか?』

そう言って重いシャベルを上に振り上げたと思うと、それを狂也めがけて思い切り振り下ろしたー

⏰:12/02/20 12:20 📱:iPhone 🆔:m1BlL9s6


#67 [輪廻]
 
 
叫び声をあげる間もない、まさに一瞬の出来事。

だがシャベルを振り下ろすスピードは狂也にとってはそれほど早く感じなかった為、素早くそれをかわす事ができた。


予想外な男の行動に驚いている暇もなく、狂也は地面につけた肘の力を使って立ち上がり、男に背を向けその場から一目散に来た道へ向かって走り、逃げ出した。

走っている間、後ろから追ってくる気配はあったが、それは走り続ける内に徐々に消えていったー


男は50代くらいの小太りの男。

少し走れば疲れが出てくるのは当然だろうと思い、足を止めて後ろを振り返る。

⏰:12/02/20 22:03 📱:iPhone 🆔:w9S590UQ


#68 [輪廻]
 
 
そこには真っ暗闇が広がっているだけで、男の姿も気配もない。


安心したと同時に脚全体に疲労が来て、その場に再びへたり込む。


が、自分の命が狙われているのにこんな所で休んではいられないと思った狂也は、座り込んで10秒も経たない内に膝を抑えながらゆっくり立ち上がった。


そしてふらふらとしながらも歩き出し、男の車が停まっている駐車場を目指した。

⏰:12/02/20 22:04 📱:iPhone 🆔:w9S590UQ


#69 [輪廻]
 

 
途中から取り出した携帯電話のわずかなライトを頼りに進むと先ほどの駐車場が見え、その片隅に男の黒いワゴン車が停まっていた。


免許は持っていない為に運転はできないが、車内に何かないか探す事にした。


幸いな事に車の助手席側のドアには鍵はかかっておらず、狂也はその車内の探索を始める。


早くしなければあの男が来てしまうー

そんなプレッシャーと戦いながら携帯電話のライトを使って車内を照らす。

⏰:12/02/21 13:26 📱:iPhone 🆔:8biSCrPU


#70 [輪廻]
 
 
今まで見られなかった後部座席を主に調べていると、土木や建設関係に使われるような材料が無造作に置かれている。


それで、あの男はそういった職業なのだろうと納得した。


そんな様々な材料の中、携帯電話のライトに反射して、チェーンソーの刃が見えた。


男に襲われた場合の武器に最適かもしれないー

一瞬そう思ったが、これは立派な刃物。

自分は殺人者にはなりたくないというのもあり、チェーンソーを手にするのはやめる事にした。

別の方向にライトを照らそうとした時、チェーンソーの刃の一部に何か見えたような気がして、そこにライトを当て直す。

⏰:12/02/21 13:28 📱:iPhone 🆔:8biSCrPU


#71 [輪廻]
 
 
その刃先には薄黒い血のようなものに混じって、何かがこびりついていた。


『うっ…』

それを見て思わず声を出し、口元を手で抑えつつ、こびりついたものに顔とライトを近づける。


『(うわ…これ…)』

それは、何かの肉片のようなものだった。

それが血と一緒にこびりついているという事はー

背筋が一瞬にして凍りついた。


人は、予想外の事が起こったり、予想外の結論に至った時、一瞬思考が停止するー

まさにその通りの事が起きた。

⏰:12/02/22 18:54 📱:iPhone 🆔:V9qdvDAI


#72 [輪廻]
 
 
同時に身体がまるで金縛りにあったかのようにいう事がきかなくなり、唯一動く視線だけを車内のあちこちに向ける。


そこで、さっきは気づかなかったが、よく見ると座席には所々に斑点模様のようにできた薄黒い血のようなものが付着しているのに気づいた。


『(まさか…)』

それを見て、考えたくもない結論に達する。


“あの埋められた死体は、生前この車内であの男に殺られたもの?”


それも、このチェーンソーを使って…

⏰:12/02/22 18:55 📱:iPhone 🆔:V9qdvDAI


#73 [輪廻]
 
 
そんな外国のホラー映画のような事があるのかと疑いたくはなったが、事実ここに今、刃先に血と肉片がこびりついたチェーンソーが存在しているのだ。


自分は今までそんな残虐な殺し方をする男と一緒にいたのだと思うと、余計に背筋が凍った。


そんな時ー

林の向こうから木の葉や枝を踏みつけながらこちらに向かってくる足音が聞こえた。


逃げなければー

それしか選択肢はなかった。

途端にさっきまで動かなかった身体がフッと動くようになり、後部座席に向けていた首を引っ込め、助手席側から素早く外に出る。

⏰:12/02/23 10:10 📱:iPhone 🆔:q7HgzDwU


#74 [輪廻]
 
 
大きな足音を立てないように駐車場を出て道に出ると、そこから離れるべくダッシュで最初にきた道の方向へと走った。


走っている最中は段々と、家に着いたらデスネットの会社に自分の命が狙われそうになったと苦情を入れたい一心になり、怒りに任せて走り続ける。


途中、別の車が通ったら乗せてもらおうかとも思ったが、夜になぜこんな山の中に一人でいるのだと不審に思われかねない。

当然その理由を言える訳もないし、別の言い訳も思いつかない。


ここは逆に、人に見つかってはならないと踏んだ。

⏰:12/02/24 10:42 📱:iPhone 🆔:6cuUJ.72


#75 [輪廻]
 
 
15分ほど走り息も切れかかってきたところで、ポケットに入れていた携帯電話のバイブが鳴った。


バイブに気づいた狂也は、ふらふらと道の脇に移動し、足を止めて携帯電話を取り出す。


“03-XXXX-XXXX”

ディスプレイに表示されている番号。

デスネットからの着信だった。

こちらも言いたい事があったので丁度いいと思い、すぐ電話に出る。


『はい』

不機嫌かつ、疲れた声で狂也が言うと

『大槻様ですか? こちらデスネットの日向ですが』

狂也の今の状況を知ってか知らずか冷静な紳士的口調で返す日向。

⏰:12/02/24 10:44 📱:iPhone 🆔:6cuUJ.72


#76 [輪廻]
 
 
『はい、大槻です』

『大槻様。現在どちらにいらっしゃいますか?』

『え…』

日向の質問に、言葉に詰まる狂也。

あの男がデスネットに、自分が逃げ出した事を報告したのだろうという事はすぐわかった。


狂也も負けじと殺されそうになった事を説明する。


『実はさっき、死体を埋めた男に殺されそうになって…思わず逃げちゃったんですけど』

そう説明すると向こうは少し間を置いた後…


『なるほど、そうでしたか。しかし先ほどその男性から電話がありましてね。彼は、大槻様…あなたが仕事を途中放棄して逃走されたと仰られていましたが…』

『…え?』

『仕事の途中放棄はデスネットでは禁止行為となっております。この意味、わかっていますね?』

『いやちょっと…!俺は…!』

『仮にあなたが殺されそうになったのだとしても、そういった依頼者側の私情につきましてはデスネットは一切の責任を負わない事となっておりますので』

日向の一方的かつ不条理な説明を聞いて、狂也は携帯電話を耳に当てたまま呆然と立ちつくす。

⏰:12/02/26 07:01 📱:iPhone 🆔:DkYIXvO.


#77 [輪廻]
 
 
『もしもし大槻様? おわかり頂けましたか?』

『……けんな…』

『はい? なんですって?』

狂也は片方の拳を強く握り、ぶるぶると震わせた。


そしてー

『ふざけんな! 人に死体埋める仕事させといて何が責任負えないだよ!! アンタの会社頭おかしいんじゃねぇの!?』

大声で怒りを電話の向こうの日向にぶつけた。

相手が冷静な口調だからこそ、怒りは倍になる。

⏰:12/02/26 07:02 📱:iPhone 🆔:DkYIXvO.


#78 [輪廻]
 
 
夜の山に狂也の大声がこだまするように響く。

一方、電話口越しに大声を出された日向は狂也の豹変ぶりに驚いたのか、黙っている。

が、すぐに口を開いた。


『大槻様。お言葉ですが、お金はそう楽に手に入るものではありません。
それなりの報酬にはそれなりのお仕事がある訳です。
それに元々あなたの方から求人広告をご覧になった上で我が会社にお電話した訳ですよね?
ご自分の事を棚に上げて、頭がおかしいと仰られるのは誠に心外ですね』

日向は態度を変える事なく冷静な口調で長々と返した。

狂也は反論しようにも、頭の中は、あの男に命を狙われているという恐怖感とデスネットに対する怒りで混乱し、思うように声が出ない。


『もしもし、大槻様? 大槻…』

ピッー

ここで狂也は電源ボタンを連打し通話を切ると、携帯電話を地面に思い切り強く叩きつけた。

⏰:12/02/29 09:54 📱:iPhone 🆔:b2PBU4DM


#79 [輪廻]
 
 
同時に髪をくしゃくしゃに掻き毟りながらその場にしゃがみ込む。


数分して、地面に転がっていた携帯電話のバイブが鳴った。

ゆっくり手を伸ばして拾い上げ、画面を見る。


“090-XXXX-XXXX”

今度は見知らぬ携帯電話からの着信だった。

だが、狂也がそれに応答する事はなかったー

電源ボタンを押し通話を切り、長押しして携帯電話の電源をも切ると、それをポケットに入れて立ち上がる。

そしてそこからとぼとぼと街へ向けて歩き出したー



前編・狂也篇【完】

⏰:12/02/29 09:59 📱:iPhone 🆔:b2PBU4DM


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