クソガキジジイと少年」
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#971 [○○&◆.x/9qDRof2]
隠謀

 目を覚まして最初に飛び込んできたのは、縦横(じゅうおう)に溝が走るタイル張りの白い天井と、ほのかに黄ばんだ蛍光灯。耳に入るのは雑多な電子音と、機械が稼働するファンの音。からだを起こそうと上半身に少し力を込めようとして、そこで初めて自分がベッドに寝ている事に気付いた。

⏰:22/10/07 19:02 📱:Android 🆔:GR1soPvw


#972 [○○&◆.x/9qDRof2]
「お目覚めかね?」

 ベッドの脇から、落ち着き払った男の声。見ると、白衣を着た男性が、不敵な笑みで立っている。

「.......ふん」

⏰:22/10/07 19:03 📱:Android 🆔:GR1soPvw


#973 [○○&◆.x/9qDRof2]
口角を片方吊り上げ、目を半月状に細めてこちらを見る男から視線を外し、上半身を起こして辺りを見回す。どこかの研究施設にでもあるようなコンピューターとコンソールの類の機械が、そう広くない室内の壁際にずらりと配置されている。

⏰:22/10/07 19:03 📱:Android 🆔:GR1soPvw


#974 [○○&◆.x/9qDRof2]
「第二の人生を手に入れた気分はどうかね?」

 白衣の男が問い掛ける。わたしは部屋を眺めながら男には目を合わせず、自嘲(じちょう)するように鼻で笑った。

「最悪だな。いますぐ貴様をぶち殺してやりたいくらいには」
「女性があまり汚い言葉を使うべきではないねー。ま、どちらにしろそんな事は不可能だけど.......」

⏰:22/10/07 19:03 📱:Android 🆔:GR1soPvw


#975 [○○&◆.x/9qDRof2]
そう言って白衣の男はくぐもったように笑い、側にあったテーブルのマグカップを手に取った。薄く湯気が立ち上る中身を一口啜り、再び口を開く。

「死人に口なしと言うだろう?」
「.......」

⏰:22/10/07 19:03 📱:Android 🆔:GR1soPvw


#976 [○○&◆.x/9qDRof2]
自分の手のひらに視線を落とす。既に血の通わないそれは青白く澱んでおり、軽く握ると冷ややかな感触が返ってきた。手のひらを自身の胸に当てる。柔らく弾力があり、それなりの大きさもある.......が、しかし、心臓の鼓動は微塵も感じてはくれなかった。

「.......ふん」
「ま、働きには期待しているよ。その為にきみたちを直したのだから」

⏰:22/10/07 19:04 📱:Android 🆔:GR1soPvw


#977 [○○&◆.x/9qDRof2]
そう言いながら、白衣の男が顎先で部屋の中央を指す。そこにはベッドが二つ。即(すなわ)ち自分がいまいるベッドと、その隣。自分が着ている物と同じような、簡素(かんそ)な白い患者衣を着た男が、先刻までの自分と同じように眠っている。その横顔を眺めながら、わたしは無意識のうちに冷たい手を伸ばした。男の頬に指先が触れる.......と、同時に男の眉間に皺(しわ)が寄り、頬に僅かな力が入る。驚いて反射的に手を引いたわたしと、その様子を無表情に眺めていた白衣の男の見守る中、もうひとりの屍(しかばね)が目を覚まそうとしていた。

⏰:22/10/07 19:04 📱:Android 🆔:GR1soPvw


#978 [○○&◆.x/9qDRof2]
 愛しのイザベラ。

 白骨死体になっても美しいきみに魅入られたぼくは二度とここから出られないだろう。


永遠にわたしの傍にいて。

青年の耳に美しいイザベラの声が響いた。

⏰:22/10/07 19:07 📱:Android 🆔:GR1soPvw


#979 [○○&◆.x/9qDRof2]
『雨、恋、盆栽』

 細く単調な雨音が、薄い窓一枚を通して伝わって来る。雨は昨晩からずっと降り続いていた。

 夏の盛りも僅かに陰りを見せ始めた折、まるでそれまで夏の王者として居座っていた太陽の休息を狙うかの如く、雨雲はごく自然に日本全土へと入り込んで、憂鬱な雨を降らしている。
 だが、盆帰省に際して大多数の人間から疎ましがられるであろうそんな天気も、佐々木麻衣には愛おしい時間の一つであった。

⏰:22/10/07 19:07 📱:Android 🆔:GR1soPvw


#980 [○○&◆.x/9qDRof2]
 麻衣は雨が嫌いではない。むしろ、雨が降るとどうにも心が踊るのだ。そして、そういう時は馴染みのカフェでひたすら読書に耽るというのが麻衣の密やかな楽しみだった。

 高級品ではないにしろ、旧き良き時代を感じさせる上品な木製のテーブルセットと煉瓦造りを基調とした落ち着いた雰囲気の店内には、静謐とした空気が流れ、そこにいると時が歩みを緩めたように、ゆっくりと感じられる。

⏰:22/10/07 19:08 📱:Android 🆔:GR1soPvw


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