クソガキジジイと少年」
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#848 [ザセツポンジュ]
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『おつかれさまで〜す。』
オレが店の戸を開けたと同時に
バイトの人とおぼしき若い女が店を出て行った。
『六さんの店、久しぶりだな。』
席に案内され、座敷に座るなり
目の前にいる中年男は
おしぼりで顔を拭きだした。
『そうだね。父さんと会うのもだいぶ久しぶりだけども。』
そう。そのだいぶ前に
出て行った父さんの顔を拭く姿を見て
老けたな〜と感じ、メニューを開いた。
『隣のおじいちゃんは元気か?あの説教くさいおじいちゃん。』
父さんはおしぼりを置いた。
『ん?元気に決まってるだろ。トミーも元気だよ。。。あと、ジョウジロウも元気。』
:08/06/18 13:24 :PC :Qvr/oogU
#849 [ザセツポンジュ]
家族の事よりも先に
きーさんの事を聞いて来るあたり、
よほどに目の敵にしているに違いない。
『元気か。ジョウジロウ、中2か。荒れてないか?』
寂しそうな顔でメニューを覗き込む父さん。
“松コース”を指差した。
『いいの?無理してない?』
『無理してるに決まってるだろ。いいから頼みなさい。』
えらそうにメニューを閉じた父さんだが、
無理してるとはっきり言われると、返ってスッキリするもんだ。
『すいませ〜ん。』
:08/06/18 13:25 :PC :Qvr/oogU
#850 [ザセツポンジュ]
ヒョイっと顔を出した六さんは、
オレ達の顔を見て、ニッコリ微笑み
テーブルに手をかけた。
六さんの、なんとも言えない優しい顔に
オレはホっとした。
『シンイチロっちゃん。お父さんと、珍しいな。アンタ、元気だったかい?』
ポンと、父さんの肩を叩いた六さん。
父さんは、笑った。
『あぁ。それなりにな。』
一番高い“松コース”を頼んだ後
料理を来るまでの間、黙っていることは
できなかった。
『ジョウジロウ、荒れたりしてないよ。年頃の割りにはいい子だと思うよ。鈴木の姓にも、もういい加減慣れたみたいだしさ。』
父さんは何度も頷いていた。
“それならよかった”と。
:08/06/18 13:26 :PC :Qvr/oogU
#851 [ザセツポンジュ]
『母さんは忙しそうか?』
『忙しそうだよ。帰って来るのも遅いしね。父さんはどうなの?』
父さんは、苦笑いして、こう答えたのだ。
『酒の量もだいぶ減ったな。ひとりきりだしな。会ってくれるのはお前だけだしな。』
オレは少し腹が立った。
何を聞いても腹は立つんだろうけど。
ちょっとした発言でもイラっとするんだろうけど。
父さんだけが、寂しいんじゃない。
自業自得なんだろ。
お前が家を出て行ったんだ。
酒を飲んで暴れて。
自分勝手に怒鳴って。
母さんを殴って。
じーちゃんを突き飛ばして。
ジョウジロウの話も聞かずに。
だけど、オレは。。。
:08/06/18 13:26 :PC :Qvr/oogU
#852 [ザセツポンジュ]
『ジョウジロウはさ、毎日夜になると泣いてたよ。まだ小学校も低学年だったし。小さかったのに父さんと母さんの間割って入ってさ。ジョウジロウは強いと思うよ。オレは母さんにくっついていればいいと思ってたから。どっちかについている方が楽なのに、ジョウジロウはそれをしなかった。なのに父さんはジョウジロウの話を聞かなかった。オレもオレだけど。父さんも父さんだよ。』
いや、オレは今日
誰が一番悪かったと、
決めたかったわけじゃないのに。
父さんを責めに来たんじゃなかったのに。
掘り返して、父さんを悪者にしようと思っていたんじゃなかったのに。
今日は、
今日は、、、。
こんな空気にするつもりじゃなかったのに。
:08/06/18 13:27 :PC :Qvr/oogU
#853 [ザセツポンジュ]
『悪かったな。母さんにも、ジョウジロウにも、、、、お前にもな。父さんな、ホントに悪かったと思ってるよ。』
違うんだ、父さん。
父さん、オレはね、
父さんが出て行って、ジョウジロウが泣く姿を見て
自分が情けなくなったよ。
オレの方がおにいさんなのに、
オレは何にもしなかった。
部屋に隠れて、耳を塞いでいるだけで。
オレには、二人の間に入る勇気なんてなかったし。
:08/06/18 13:28 :PC :Qvr/oogU
#854 [ザセツポンジュ]
ジョウジロウはね、何も知らないんだ。
どっちについていればいいとか、分からないんだ。多分。
戦国時代のお話をいつも聞かせてくれたりしていた大好きな父さんと、
お弁当のおにぎりに、タコさんウインナーを入れてくれていた大好きな母さんが
いがみ合っているのを見ているのが
ただ、嫌だっただけなんだよ。
どっちがどうとか
そんなの思いつきもしてなかったんだよ。
泣きながら、何度も何度も
父さんと母さんの間に割り込んで
止めようとしていたんだ。
真ん中。
二人の真ん中に立って。
:08/06/18 13:29 :PC :Qvr/oogU
#855 [ザセツポンジュ]
オレには、そんな気持ち、きっとなかったから。
いなくなって気付いたんだ。
父さんがいなくなって、オレは気付いたんだ。
父さん、父さんも
ひとりになって分かった事が
いっぱいあるんだろうね。
ひとりにならないと思い知れない事もあるんだろうけど
それに気付いて反省した時に、
もう戻せなくなってしまったものもあると言うこと。
クリスマスの夜に。
:08/06/18 13:29 :PC :Qvr/oogU
#856 [ザセツポンジュ]
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学校一の可愛い女子を
見事自分の彼女として
獲得し、至福の時を過ごした
木田トミオ14歳。
クリスマスとエノモトさん15歳の
誕生日を存分に過ごした。
辺りはもう薄暗い。
『あたしもう帰らなくちゃ。』
『え〜もう帰るの〜。もう俺んち住んじゃえよ。風呂沸かそうぜ。』
と、無理な冗談こそ平気で言ってみるが、
トミーはエノモトさんの手を取った。
『おうちまで送ります。』
『うん!』
二人は手を繋いで、玄関を出た。
:08/06/18 14:22 :PC :Qvr/oogU
#857 [ザセツポンジュ]
《ボケタレ!ワシの目玉焼きの方がよっぽど目玉らしいわ!》
《すーさんの目玉焼きは目玉じゃないわい!下手クソ!》
《も〜。。。じーちゃんもきーさんも無駄使いしないでよ、たまご!目玉焼き選手権なんてやめようよ、クリスマスに!》
《キャハハハ。》
何やら隣のオウチはにぎやかなご様子。
『隣の家うるさいね〜、エノモトさん。』
ガラガラガラ。
『空気が悪いわ!、、、あ!トミオ!どこへ行く!』
ぷ〜んと漂う卵の匂い。
『あの人知ってる?エノモトさん。』
『、、、。トミーのおじいちゃんでしょ。無視していいの?』
エノモトさんは、繋いだ手を気にしながら歩いた。
無視していいわけがあるまい。
:08/06/18 14:23 :PC :Qvr/oogU
#858 [ザセツポンジュ]
ガチャ。
鈴木家の玄関から顔を出した老人二人のお出ましだ。
『おい!あっ!お前ら!セックスしていいと思ってんのか!』
すーさんは、繋いだ手を見るなり、近所迷惑スイッチをONにした。
『すーさんやめてよ。俺の可愛い可愛い彼女が困惑するだろ。セックスはしなかったよ。とても残念だよ。』
きーさんは、これ以上喋らせまいと、すーさんの口を塞いだ。
:08/06/18 14:24 :PC :Qvr/oogU
#859 [ザセツポンジュ]
『トミオ!どこ方面に送るんじゃ!?』
『あっち。北公民館の方面。』
『そうか!その近くに喫茶店があっただろう!そこにケーキも売ってるから、ケーキを買って来い!モンブランと〜、、、あと適当に!必ずだぞ!ほれ、エノモトさんにもあったかいカフェオレ買ってあげなさい。』
トミーにも1万円を渡したきーさん。
かっこつけたいがために気前の良くなるクリスマス。
『ラッキ〜。』
『じゃあな、我が孫トミオよ。』
ガチャン。
すーさんを窒息死させる寸前で
老人達は家へ引っ込んだ。
『なんであたしの事知ってるの?』
『、、、あれ?ホントだ。なんでだろう?』
:08/06/18 14:25 :PC :Qvr/oogU
#860 [ザセツポンジュ]
きーさんは、すーさんをリビングに放り投げ、
玄関の電話の前に立った。
きーさん。携帯電話を購入したのにも
関わらず、家に置き忘れ、人んちの家の電話を使用する。
老人とはそんなものだ。
『090の、、、え〜と、、、』
リビングからホフク前進でしかえしを試みているすーさん。
『おい、木田シゲル。モンブランモンブランって、糖尿病になって死んでしまえ。。。おや?どこに電話しとるんじゃ?』
『トミオの本命の彼女。』
『あぁそう。』
すーさんはそう言って素直に退散し、コタツに戻った。
『、、、もしもし?ワシじゃ。今すーさんちからかけておる。今どこにおるんじゃ?』
:08/06/18 14:26 :PC :Qvr/oogU
#861 [ザセツポンジュ]
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エノモトさんちは少し遠かった。
二人はたわいもない話をしながら
ゆっくり歩いた。
『トミーはいつも音楽何聴いてるの?』
『え〜っとね〜、怪獣のバラード。』
『、、、。それって合唱曲でしょ。CD出てるの?』
『うん、出てる出てる。エノモトさんは?』
『あたし、ジュディマリ。』
『俺もジュディマリ好き〜。ジョウの兄ちゃんにCD借りた事あるんだ。小さな頃からとかね、KISSの温度とかいいよね。』
『ホント!?あたしは、おねーちゃんから教えてもらったの。あ、怪獣のバラードあたしも好きだよ。』
:08/06/18 14:39 :PC :Qvr/oogU
#862 [ザセツポンジュ]
CDはおそらく持っていないだろうが、
木田トミオと言う生意気な少年。
怪獣のバラードと言う歌を
こよなく愛していた。
『でもさ〜怪獣のバラードを歌ったクラスが絶対優勝するじゃん。あれどうにかして欲しいよね〜、、、。あ、自販機。エノモトさん、おいで。』
あったかいカフェオレを飲みながら二人は進んで行った。
吐く息はとても白かった。
『もうすぐウチなの。あの、そこの犬がいるオウチの、、、。隣、、、、。』
エノモトさんの足が止まった。
トミーはエノモトさんの顔を覗き込んで
視線を辿った先、街灯の下に女の人が立っているのが見える。
『おねーちゃん!』
そう叫んでエノモトさんは、走って行く。
振り返ったエノモトさんに、トミーは笑って手を振った。
(会いたい人に会えてよかったね、エノモトさん。)
:08/06/18 14:40 :PC :Qvr/oogU
#863 [ザセツポンジュ]
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ジョウは時計を見てハっとした。
ジジイ二人のドンチャン騒ぎに
付き合っている場合ではないのだ。
こともあろうかエノシタさんは
楽しそうにケタケタ笑っていた。
ジョウはこのままでは
エノシタさんが危ないと思い、
肩を叩いて現実世界へ引き戻した。
『エノシタさん!もう8時が来るよ!』
エノシタさんはやっとこさ
我に返り、帰り支度をした。
『エノシタさん、また目玉焼き選手権しようね〜』
酔っ払ったすーさんはとてもご機嫌。
『また遊びにおいで、エノシタさん。』
きーさんは、ここを自分ちだとでも思っているのだろうか。
ジョウとエノシタさんは、クリスマスと言う冬の道を歩き出した。
:08/06/18 16:48 :PC :1u1mw9wo
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