クソガキジジイと少年」
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#982 [○○&◆.x/9qDRof2]
ふと、麻衣は人の気配を感じた。と、同時にコトッと小さな音が耳に届き、目の前の木製のテーブルに覚えのないグラスが置かれた。
「――集中するのはいいけどね」
そんな言葉とともにテーブルの上に現れたもう一つのグラスと文庫本。誘われるように、麻衣は顔を上げていた。
「温くなってしまって、もったいないよ、佐々木」
:22/10/07 19:08 :Android :GR1soPvw
#983 [○○&◆.x/9qDRof2]
ここのアイスコーヒーは美味しいんだから――耳に心地好く響く低音に乗せて、彼は微かに笑った。
「……英輔」
麻衣の呟きに返事を返して、彼――木戸英輔は麻衣の対面に腰を下ろした。
「コーヒー、ありがとう」
「ああ」
:22/10/07 19:09 :Android :GR1soPvw
#984 [○○&◆.x/9qDRof2]
早速ストローの封を切って、新しく渡されたグラスに差し込む。
黒色の中に仄かな褐色を残した液体は、掻き混ぜるごとに小さく渦を巻いていた。口に含めば、先程までの水に薄まったそれとは比べものにならない刺激が、冷たく舌を刺す。
新鮮なブラック特有の苦味と酸味に、麻衣は満足した溜息を零していた。
そんな麻衣を一通り見遣ってから、英輔もグラスを傾ける。麻衣のようにストローは使わなかった。
:22/10/07 19:09 :Android :GR1soPvw
#985 [○○&◆.x/9qDRof2]
「……さっきから何度も呼んでたんだけど」
「そうなの? ……ごめん。気が付かなかった」
「だろうね。どうせ、それを読んで別の世界にでも行ってたんだろう」
英輔が麻衣の手元を指差す。閉じられた本の背表紙が見えた。
:22/10/07 19:09 :Android :GR1soPvw
#986 [○○&◆.x/9qDRof2]
「それ、面白いの?」
「それ」と英輔に称されたのは、麻衣も初めて知ったような無名の作家が書いた「365日盆栽白書」。
「盆栽のことが書かれた小説ねぇ……」
声に小さな笑いが混じっていたことに、麻衣はむっとした。
「……別にいいじゃない」
「まぁね。けど、相変わらず、オッサンだね」
:22/10/07 19:09 :Android :GR1soPvw
#987 [○○&◆.x/9qDRof2]
オッサンとは、二十代をまだ半ばしか過ぎていない女性に対して、失礼である。
が、自分に対する評価としては言い得て妙だと麻衣は思った。自身の趣向が一般からは少し外れたものだということは、麻衣自身、常々認識していたからだ。
:22/10/07 19:10 :Android :GR1soPvw
#988 [○○&◆.x/9qDRof2]
麻衣は盆栽が好きなのだ。昨今女性にも人気のあるミニ盆栽などという可愛いものではない。もちろん、大品盆栽――樹の高さが五十センチメートル以上になる種類――だ。それも「松臣」や「桜御膳」など、鉢一つ一つに名前を付ける程の凝りよう。
:22/10/07 19:10 :Android :GR1soPvw
#989 [○○&◆.x/9qDRof2]
「普通、盆栽が題材の小説なんか買わないよ。しかもタイトルだけで衝動買いって」
「煩い」
「黙ってたら美人なのに」
「煩いってば」
暗に麻衣の恋愛経験値の低さを言われたようで、英輔の言葉に麻衣は羞恥に頬を染めた。
英輔の言うように、麻衣は美人だった。
:22/10/07 19:10 :Android :GR1soPvw
#990 [○○&◆.x/9qDRof2]
無駄がなく涼しげな顎の湾曲に合わせたかのように、きゅっと持ち上がった勝ち気そうな唇とその上に乗った切れ長の瞳。
身長もあり全体的に細く、長く艶やかな黒髪が一層華奢に見せている。だが、その身体つきに似合わず、胴体のラインは緩やかな曲線を描き意外にもボリューム豊かなことが一目でわかる。
正に容姿端麗を地でいくような恵まれた容姿。
:22/10/07 19:10 :Android :GR1soPvw
#991 [○○&◆.x/9qDRof2]
それなのに、口を開けば出てくる言葉は盆栽関連のものばかり。晴れた休日は盆栽の剪定に精を出し、日がな一日盆栽を愛でて恍惚の眼差しを向ける。一言で言えば変わっていた。
過去に付き合った男で一月と保った者はなく、またその人数も片手だけでも余るくらいだ。
:22/10/07 19:11 :Android :GR1soPvw
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