―温―
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#311 [向日葵]
静流もいないのに何で……。
そこまで考えると、胸がキィンと痛くなった。
今日、静流は帰ってこない……。
彼女ときっと熱い夜を過ごすんだ。
そして帰って来たらいつも通り笑顔で私のガーゼや包帯を付け直して、膝に乗せてご飯を食べさせる。
まるで何もなかったみたいに……。
彼女に触れたその手で優しく頭を撫で、彼女の唇に触れたその唇で私の名を紡ぐ。
:07/09/13 00:55 :SO903i :i0NKXNbs
#312 [向日葵]
キィンとした胸の痛さの余韻が目に来て、涙が溢れそうになった。
せっかく……ケーキ買ってきたのになぁ……。
肩をがっくり落として、涙を拭いた後、私は家へと入って行った。
リビングに着くと、さっきまでカチャカチャ作業していた源さんの姿が無かった。ふと目を落とすと小さな紙切れが一枚。
<急に仕事が入りました。しかも今日は帰れないかもしれません。静流君と二人で仲良くお留守番して下さいね。>
…………え。
:07/09/13 01:00 :SO903i :i0NKXNbs
#313 [向日葵]
思わず口がひし形になる。
紙切れに書いてある文字を何度も何度も読み返してまた頭が真っ白になる。
つまり……私は今晩一人って……訳?
「なんなら俺がいてあげようか?」
いつの間にか側に来ていた香月さんは紙切れを取りながら私に笑いかけてくる。
「明日土曜だし。女の子一人は不用心でしょ。」
「結構よ。ってか帰って。」
:07/09/13 01:03 :SO903i :i0NKXNbs
#314 [向日葵]
香月さんの背中を押しながら階段へ促す。
香月さんは口を尖らせて「今来たばっかじゃん」とか「釣れないなぁ!」とか文句を言ってる。
やっとの事で玄関へ行ってくれた香月さんは相変わらずにこにこしている。
「寂しくなったらいつでもかけといで!」
そう言って小さな紙を私に握らせて「じゃあね〜。」と去って行った。
台風一過……。騒がしい人だなんて思いながら紙に書かれた文字を読む。
数字ばっかり。明らかにケー番だ。
:07/09/13 01:08 :SO903i :i0NKXNbs
#315 [向日葵]
無言でスカートのポケットに紙を入れて、私はリビングに戻った。
リビングに足を踏み入れると同時に
プルルルル プルルルル
電話が鳴り響く。
私が取るべきか迷った。
もし静流の知り合いなら、私がとったら勘違いされるのでは?
でも急ぎの用ならいけない。そう決断して、私は受話器を取って、ゆっくりと耳に当てた。
「はい…。もしもし。」
{もしもし?紅葉か?何だよ暗いなぁ。どうかしたか?}
:07/09/13 01:12 :SO903i :i0NKXNbs
#316 [向日葵]
静流だった。
「……何?」
込み上げる寂しさ、悲しさ、嫉妬をなんとか噛み砕いて出た言葉がそれだけだった。
{あー。実はさ、今日帰れないかもしんないんだ。ちょっと父さんに代わってくれる?}
「……。」
ここで、源さんが帰って来ないって言ったら……静流は帰ってきてくれるのかな……。
受話器を持ったまま、そんな事を考えた。
:07/09/13 01:16 :SO903i :i0NKXNbs
#317 [向日葵]
「あ……っ……。あのね……。」
{静流?まだ?}
その声でハッとした。
私は何を言うつもりだったんだ……。
{ゴメン双葉。もーちょっと待って。なぁ紅葉}
「源さんには私から言っとくから。」
ガチャン!
私は素早くそれだけ言って受話器を勢いよく置いた。
良かった……。彼女さんの声が聞こえて……。
聞こえてなかったら、私言ってた。
:07/09/13 01:19 :SO903i :i0NKXNbs
#318 [向日葵]
私は……そんな事してはいけないのに。
どんよりしながらテーブルの上にある白い箱を見つめた。
見つめながら、壁に寄りかかって、力なくズリズリ床に座りこんだ。
*****************
ツー……ツー……。
電話を切られた携帯を見ながら静流はボーッとしていた。
何ショック受けてんだ俺……。
紅葉が冷たくあしらうのなんかいつもの事じゃん。
そっか……電話って表情見えないから、余計にか……。
:07/09/13 01:24 :SO903i :i0NKXNbs
#319 [向日葵]
「静流……?」
そっと呼びかける声に静流は反応した。
「あ、ゴメンな。始めよっか。」
すると双葉はにこっと嬉しそうに笑って頷いた。
「じゃあ、はい。プレゼント。」
小さな袋を渡された。
小さなラッピングのリボンを外して中を出すと、革製のブレスレットが入っていた。
ウキウキしながら静流は手首にはめて、双葉に見せた。
「ど?!」
「ウン。似合ってる!」
:07/09/13 01:29 :SO903i :i0NKXNbs
#320 [向日葵]
静流は双葉の頭を撫でて「ありがとう」と言った。
双葉は照れながらそそくさとテーブルへ向かう。
「じゃーん!静流の好きな物、作ってみましたー!」
「おー!すっげぇ!」
テーブルには唐揚げやサラダ、刺身と色々並んでいた。
そして端には中くらいの箱が。
「何それ。」
「あ、これ?これはケーキ!後で食べようね!」
「……。」
無言になる静流をどうかしたのかと見つめる双葉。
:07/09/13 01:33 :SO903i :i0NKXNbs
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