―温―
最新 最初 🆕
#1 [向日葵]
向日葵です

5作目になりました
今回は暗めなんですが、良かったら見てください(◎・ω・◎)

感想よければコチラまでお願いします

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/2481/

⏰:07/08/19 12:51 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#2 [向日葵]
―始―




梅雨が始まる雨が降っていた。

その中で、朦朧とした中、私は横たわっていた。

あぁ……とうとうかぁ……。

⏰:07/08/19 12:53 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#3 [向日葵]
―雨―



良かった。

私やっと天に昇れたんだ……。
あったかい布団にも包まれてて……。

――――え?布団?

体を僅かに動かすと、体のあちこちが痛かった。

「っ!」

「あ、起きた?」

目を開ければ、髪の毛がボサボサの、だけど顔が整っている男性がいた。

⏰:07/08/19 12:57 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#4 [向日葵]
「は……?誰アンタ……。」

「僕は源(げん)だよ。」

知らない。
ってかここどこだよ…。

源「君、覚えてないの……?君は、ゴミ捨て場にいたんだよ。しかも凄い怪我だったし。」

あ……そうか。
予想通りで笑える……。
……。それなら何故。

「なんて事、してくれたのよ。」

源「え?」

私はフカフカのベッドから出て、痛い足を叱咤しながらドアまで走った。

⏰:07/08/19 13:05 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#5 [向日葵]
源「えっ?!ちょ、君!」

タタタタタ

何よこの家。
無駄に広すぎだし。

ってか何よあのボサボサ男。なんで私を助けたりしたの。

最後の記憶は、母さんの拳についた私の血と、さげずむ言葉。

[アンタなんて何で生まれてきたの?]

そんなの知らない。
貴方が産んだんでしょ……。

もういい。人なんて信じれない。

⏰:07/08/19 13:12 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#6 [向日葵]
「ハァ……ハァ……。」

死んで楽になる。
誰も信用なんてしない。
温い感情なんていらない。

「あ、あれ……玄関…っ?!」

足痛い…。顔も、体の節々も……。

その時だった。

ガチャ

「っっ?!」

「ただい…うわっ!」

突然だったので、玄関から入って来た男の子に思いきりぶつかってしまった。

⏰:07/08/19 13:18 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#7 [向日葵]
ぶつかった時に体に激痛が走る。
そのせいで崩れそうになる体を、男の子が支えてくれる。

でも私はその手を逃れて、出て行こうとした。

すると、

フワッ

「ちょっ!」

男の子は難なく私を持ち上げて、まるで赤ちゃんを高い高いするみたいに私を上に上げる。

「なんだお前。」

「離しなさいよちょっと!」

⏰:07/08/19 13:25 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#8 [向日葵]
私が足をバタバタしても全然敵わかった。

源「あ……ハァ……静流(しずる)君……。おかえり……ハァ。」

静流「ただいま父さん。ってか何この軽いの。捨て猫?」

「誰が……っ!」

ってかこのボサボサ男父親?ならこれ息子?

静流「ってかこれ俺のシャツじゃん!」

私の着ているのはブカブカのシャツ。
どうやらこの息子のらしい……。

⏰:07/08/19 13:36 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#9 [向日葵]
「離しなさいよ!なんなのよアンタ達!」

すると静流とか言う息子は私を赤ん坊みたいに抱くと、私をじっと見つめる。

静流「助けてもらったクセに態度デカイぞお前。」

「そんなの頼んでない。私はあのまま死にたかった!」

その言葉に、二人とも黙った。
息子は静かな怒りを込めた目で、私を見つめる。

静流「お前ふざけんなよ…。」

落ち着いてるのに怒ってるその声に私は少し怖じけづいた。

⏰:07/08/19 13:44 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#10 [向日葵]
「ふざけてないわよ。説教する気?」

その静かな攻防に耐えかねた父親が、焦って割って入る。

源「ストップストップ!なら、君、怪我が治るまででいいからここにいなさい!」

怪我が治るまで?
……まぁ、悪くないわね。人前で死んで醜態晒すよりは遠く離れる方がいいし。

「……いいわ。怪我が治るまでね。」

源「よし!じゃあご飯にしようかっ!」

⏰:07/08/19 13:48 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#11 [向日葵]
そう言って父親は奥へ消えて行った。
息子はやっと私を地上へと降ろしてくれた。

静流「おい猫。名前は?」

「誰が猫よ。名前なんかどうでもいいでしょ。いずれ出ていくんだから。」

息子は腕を組んで溜め息をつくとギロリと私を睨んだ。

静流「俺お前みたいな可愛気のない奴嫌いだわ。」

「ありがとう。好いてもらう気も無いし、いずれ出ていくし。」

取り付く島もない様に息子は呆れた顔をした。

⏰:07/08/19 13:56 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#12 [向日葵]
静流「名前。」

「……は。」

静流「え?」

「紅葉(くれは)。」

息子はふぅんと私を見た。
何だよ。この親子は……。

静流「歳は?」

事情聴取みたい。
私別に悪い事してないし。

渋々私は答える。
じゃないと解放して貰えない気がする。

紅葉「15……。」

静流「なんだまだ中坊か。あ、俺は17ね。」

⏰:07/08/19 14:01 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#13 [向日葵]
聞いてないし…。

紅葉「ハァ…。別にそんなのどうでもいいでしょ……?」

静流「ホンット可愛いくないね。嫌いだわ。そーゆーの…。」

……嫌いで十分だ。
好かれ様なんて努力は二度としない。

しても無駄なんだもん……。

私が黙っていると、息子はまた喋りだす。

静流「ちなみに、部屋は当分俺と一緒だからな。」

紅葉「あそ。」

⏰:07/08/19 14:07 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#14 [向日葵]
――――――――

キリます

⏰:07/08/19 14:08 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#15 [向日葵]
関わらない。
ここにいても、コイツらとは関わりたくもない。

嫌い。
どうせ皆汚い思いを心の中に宿しているに決まってる。

私は息子を無視して廊下をツカツカ歩いて行った。

静流「オイ。どこ行くの?」

後ろからついて来てるらしい息子が尋ねるが、私は一切無視だ。

二階に上がってリビングを突っ切り、(ここの家は二階にキッチンがあった。)ベランダへと出る。

⏰:07/08/20 02:32 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#16 [向日葵]
ガラガラ

雨は容赦無く降っていた。空は灰色。

あの時見たのとおんなじ……。

静流「雨が家に入ってくるんだけど。」

私は何も言わず後ろ手で勢いよくベランダのドアを閉めた。

静流「あっぶねーなぁ!」

息子の怒りの声が窓越しに聞こえる。
ついでにカーテンまで閉められた。

そうそう。そうやって溝を作っておいて。

⏰:07/08/20 02:35 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#17 [向日葵]
私はこれっぽっちも仲良くする気なんて無いんだから。

**************

静流「なんなわけあのガキ!!!」

静流は腹立ちついでに源が作ったパスタをがっつく。育ち盛りなのかパスタは大量だ。

源「静流君には悪いけど、あの子の面倒見てあげてくれないかな?」

ボサボサした髪の毛からフワッと優しい微笑みを浮かべて源は笑う。

静流「あぁ!世の中の何も分かってないガキに教育してやるよ!」

そう言うと、静流はパスタをズルズルと勢いよく吸い込む。

⏰:07/08/20 02:39 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#18 [向日葵]
すると源は、少し悲しそうな微笑みを見せた。

源「優しくしてあげてね……。」

静流「は?」

源はフォークとスプーンを静かに置いて、紅葉がいるベランダへと目を移した。

源「あの子……虐待されてたみたいなんだ。」

静流の食事をする手が止まる。

源「新しい怪我はともかく、古い傷もちらほらあってね……。しかも僕が見つけた時、うわ言の様に呟き続けてたんだ。」

⏰:07/08/20 02:42 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#19 [向日葵]
紅葉[母さん…ごめんなさい……。]

二人に沈黙が流れる。
静流はフォークを力なく置いて、ベランダに目を向ける。

小柄な体をした彼女は、ベランダの戸にもたれかかって、灰色の空を見上げていた。

静流「優しくしてやりたいのは山々だけど……アイツ可愛くねぇんだもん!」

そしてまたズゾーッとパスタを膨張る。
そんな静流を源は苦笑して見ていた。

実は彼の母、つまり源の妻は、若くして他界している。

⏰:07/08/20 02:47 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#20 [向日葵]
そのせいで静流は命には敏感になってしまい、簡単に死ぬと言う紅葉を見てやきもきしているのだ。

それを知っているから、源はどちらの味方をする事も出来ないのだ。

源「パスタおかわりあるからね。」

静流「ふん。ふぁんふぅ。」

膨張りながらなので何を言ってるか分からない静流に源は温かく笑った。

すると静流がいきなり立ち上がった。

源「どうかした?」

静流「ちょっとな。」

⏰:07/08/20 02:51 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#21 [向日葵]
*****************

雨の音に耳をすませていると、カーテンが開く音が聞こえて後ろのもたれていない方の戸が開いた。

静流「飯だ。入れよ。」

私は空を見つめたまま息子の言葉を無視した。

呆れた溜め息が聞こえる。

静流「あのさぁ、返事するくらいしたらどうなんだ?じゃないと猫って呼ぶぞ。」

私はクスッと笑った。

静流「なんかウケるとこあったか?」

⏰:07/08/20 02:55 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#22 [向日葵]
私はクスクス一通り笑った。
ううん。笑ってる様な声を出した。

紅葉「捨てられたから猫。捨て猫……。私にピッタリじゃない。紅葉(もみじ)と同じ字の名前よりシックリくるわよ。」

私はまた笑い真似の声を出した。
息子は何も言わず私を見ているみたい。

紅葉「お風呂以外一切何もいらないわ。その方が出ていく時死にやすいから。」

雨の音だけが聞こえる。
他は何も聞こえない。

⏰:07/08/20 02:59 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#23 [向日葵]
すると、独り言の様に息子が呟いた。

静流「勝手にしろ…。」

バンッ!! シャァッ!!

紅葉「乱暴者……。」

いやあんなの乱暴の内に入らないか……。

知ってる。
私は知ってる。
真の乱暴者がどんな者かを……。

『アンタのせいで私は束縛されっぱなしよ!』

ヒステリックになった母の叫び。
止まない暴力。

⏰:07/08/20 03:02 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#24 [向日葵]
ストレス発散物の私は、助けを請うことに疲れてひたすら殴られ続けた。

イタイ……

ヤメテ……

許シテ……

イイ子ニナルカラ……

手の包帯を見つめる。

こんな同情……いらない。

シュッシュル……

巻かれた包帯を乱雑に取り、貼られているガーゼやバンソーコーも剥がす。

傷なんて、これっぽっちも痛くない。

⏰:07/08/20 03:06 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#25 [向日葵]
本当に痛いのは……心だから……。

***************

静流「だぁぁぁぁっもう!!!!」

ベッドに寝転びながら静流はイライラしていた。
そして紅葉の言葉ん頭の中で何度も繰り返す。

[捨てられたから猫。捨て猫。]

[その方が出ていく時死にやすい……。]

『何なんだよアイツ……ッ!くそっ!』

静流の中で二つの思いが交差していた。

⏰:07/08/20 03:11 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#26 [向日葵]
一つは、予想以上に紅葉の傷の闇が深い事。

二つ目は死ぬと言う紅葉がムカつく事。

哀れめばいいのか、憎めばいいのか……。
静流は分からなかった。

でも彼女は優しさを求めているくせに拒否している。それは分かった。

蔑む目に、ちらつく悲しみ。
源にも頼まれた以上、紅葉を放っておく訳にもいかない。

静流は頭をガシガシかくと起き上がり、部屋を出た。

⏰:07/08/20 03:16 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#27 [向日葵]
風呂場に辿り着き、タオルを用意して入る準備をした。

ザパー……

『ん?』

誰もいない筈なのになんで水音が?

風呂場の戸を開けてみると……

カチャ

静流「!!うわぁっ!」

そこには紅葉が入っていた。
幸いなのがお湯が入浴剤のお陰で乳白色だ。

しかし動揺している静流に対して、紅葉は驚きの声すらあげず、ただ黙ってお湯を見つめている。

⏰:07/08/20 03:19 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#28 [向日葵]
静流「お、おま、お前、女ならもうちょっと恥じらうとか反応しろよ!」

紅葉「キャー変態ー。これでいい?ってか別に中坊の裸になんか興味無いでしょ。」

静流の方も向かず紅葉は“反応”を棒読みで言い、また黙ってお湯を見つめる。

怒ろうとした静流の目に、華奢な肩に複数の痣が入る。

肩だけじゃない。
顔、首、背中……。痣や切傷、それに一生消えなさそうな傷さえも……。
しかも今日した怪我もひどかったのに、平然とお湯に浸っている。

⏰:07/08/20 03:25 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#29 [向日葵]
静流「痛く……ないの?」

それには反応したのか、紅葉は目だけを動かして静流を見る。

紅葉「痛かったら万能の薬でも用意してくれるの?それは凄いわね。」

そしてまたお湯に目を向ける。

紅葉「ってかいつまでいるつもり?」

静流はとにかくイライラしてしまって、思わず紅葉の顔を片手で掴んだ。

静流「俺は男だ。なのに抵抗しないなら、それなりの行動に移さしてもらうぞ。」

⏰:07/08/20 03:29 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#30 [向日葵]
すると紅葉の蔑む目がその色を濃くした。

紅葉「後で後悔するのは貴方ですよ。彼女いるんでしょ?」

そこで静流はハッとした。

紅葉「左手の指輪。そうなんでしょ?」

静流は顔を歪ませて風呂場を出た。
脱衣所を出て、そのドアにズルズルともたれながら座りこんだ。

静流「ちくしょー……。」

紅葉の弱音を吐かせようとしただけなのに、ついカッとなってあんな行動に移った自分が情けない……。

⏰:07/08/20 03:33 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#31 [向日葵]
静流「面倒見るどこれか逆に嫌われる要素作ってどうするよ……。」

しかしあれはホントに中学生だろうか。

もう全てを悟りきった様な、そして全てを諦めてしまった様な……。

しばらく紅葉の事を考えていた静流は、また自分の部屋に戻って行った。

***************

紅葉「何よ。根性無し。」

息子が去った後、私はそう呟いた。

傷つけてみるならみなさいよ。もうそんなの慣れっ子で、痛くも痒くもない。

⏰:07/08/20 03:37 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#32 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/20 03:38 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#33 [向日葵]
またデカイシャツ(多分また息子の)を着て、風呂場を出るとリビングにボサボサ男がいた。

源「あ、おかえり。傷は痛まなかった?」

紅葉「……。別に。」

私はまたベランダに出ようとした。
が、ボサボサ男に止められた。

源「出てもいいけど手当てくらいはしようね?」

にこにこヘラヘラしてるけど、このバカっぽい笑顔の裏には何を企んでんのか……。

私は掴まれた手を冷たく乱暴に払いのけた。

⏰:07/08/20 21:56 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#34 [向日葵]
紅葉「結構よ。直に治る筈だし。」

そう言って私はまた雨が降り続けるベランダへと出た。

源「雨好きなの?」

ボサボサ男が尋ねた。

好き?

紅葉「んな訳ないでしょ。バーカ。」

ピシャン!

何を根拠に好きと言えるか。こんな忌まわしいもの。

⏰:07/08/20 22:00 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#35 [向日葵]
でもアンタ達みたいな生温い奴と一緒よりも、雨と共に過ごした方がまだマシだ。

いずれ死ぬ時には必ず雨を選ぶ。

あの人に、雨が来る度思い出させてやるんだから……。
その誓いを忘れない為に、こうしてここにいるの。

***************

静流「あれ。チビ猫は?」

風呂上がりの静流は肩にバスタオルをかけてTシャツとジャージの半パンを履いてリビングに現れた。

⏰:07/08/20 22:06 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#36 [向日葵]
源は少し困った顔をして笑うとベランダの方を指差した。

静流「手当て素直に受けたんだ?」

救急箱を見ながら問うと、源は首をゆっくり横に振った。

源「嫌らしいよ。触れることすら駄目みたい。」

静流「あのバカ…。」

ガラガラ!

静流「オイ!」

紅葉「何よ変態。」

そこで怒鳴りそうになる自分をグッと堪えて、静流は紅葉を抱き上げた。

⏰:07/08/20 22:13 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#37 [向日葵]
***************

紅葉「?!ちょっと!何すんのよのぞき魔!」

肩に担がれて足をジタバタさして抵抗するも息子は降ろそうとはしない。

静流「父さん。救急箱もらうよー。」

そう言って自室へと私を運んだ。
部屋に入るとベッドに丁寧に私を置いた。

静流「傷のトコ出せ。」

救急箱から包帯やらガーゼやらをゴソゴソ出しながら息子が言う。

私は無視して顔を背けた。

⏰:07/08/20 22:17 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#38 [向日葵]
静流「早く治した方がその分早くウチから出られるんだぞ。」

それもそうだ……。

私は仕方なく顔や手足を出す。
手慣れているのか手つきがテキパキしていた。

そんな様子を見ていた私に気づいて、息子はフッと笑った。

静流「父さんが結構おっちょこちょいでさ。俺いつも看護係だったって訳!」

紅葉「別に聞いてないし。」

息子は何がおかしいのかまたフフッと笑った。

⏰:07/08/20 22:21 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#39 [向日葵]
静流「なんか切りないな。逆に笑える。」

息子はクククと笑いながら救急箱をバタンと閉めた。

私はまたベランダに向かおうと立ち上がった。

静流「ハイそうはいきませーん。」

バフッ!

紅葉「?!」

いきなり視界がドアから天井に。
呆然としていると息子が私に布団をかけた。

紅葉「ちょ、勝手な事しないで!私はここで寝るなんて一言も……っ!」

静流「行きたいなら行けば?俺は宿題あるからここにずっといるし、お前を何度でも布団に戻す事は出来る。」

⏰:07/08/20 22:52 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#40 [向日葵]
私は歯と歯を力強く噛み締めて歯ぎしりをした。

ムカつく!
いちいち勘に触る奴!
コイツ嫌い!!

私は布団を頭から被ると息子からそっぽを向いた。
すると私の頭らへんを布団越しにポンポンと叩かれた。

騙されないんだから……。
今優しくしてても、どうせ皆後から化物に変わるんだから……。

―――――……

ザァー……

⏰:07/08/20 22:56 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#41 [向日葵]
雨は一向に止まない。
寧ろ逆に激しくなっている。

私は直ぐに寝る事が出来なくて何度も寝返りをうつ。
すぐ側の机では息子が勉強をしていて、シャーペンと紙が擦れる音が聞こえる。

起き上がってその後ろ姿を見る。
ときどき教科書を見てるのか横顔を見ると眼鏡をかけていた。

なんでコイツは私に構うんだろう……。
無駄にうっとおしい……。
気づいてなさそうだし…、ベランダに行こう。

⏰:07/08/20 23:07 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#42 [向日葵]
そーっとベッドから降りようとした。
トテッとフローリングに足をつける。

静流「動いてんのバレバレ。そんなに相手して欲しいの?」

紅葉「――っ。違うわよ!」

*****************

所詮は子供だな……。

静流は教科書に目を戻してそう思った。
意外にこちらが冷静に対処していれば、紅葉は扱いやすい。

初めは死にたいとか連呼するせいで頭に血が登っていた。

⏰:07/08/21 01:20 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#43 [向日葵]
静流「なぁお前さ、どこに住んでたんだ?」

紅葉「黙秘権。」

静流「言うと思った。別にいいけど。」

問題を解きながら後ろの気配に神経を研ぎ済ます。
以外にも今は大人しくしている。

紅葉「ねぇ息子。」

思わず吹いた。

静流「はぁっ?!それ俺のこと?!」

紅葉「他に誰がいんの。馬鹿ねアンタ。」

静流「俺名前言ったよね?忘れたの?」

⏰:07/08/21 01:25 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#44 [向日葵]
眼鏡を外して紅葉の方を見れば、ベッドではなくドアの方にいて、そこでもたれて体育座りをしていた。

紅葉「覚える気なんてない。どうせアンタ達も同じ。いずれ私がいなくてせいせいすると思う日が来る。」

うつ向きながら言う彼女の声はとても一本調子で、でも寂し気だった。

紅葉「この部屋嫌い。ベランダ行く。」

ガチャ バタン!

静流はただそれを見てるだけだった。
彼女はもしかして、自分からではなく、母親に捨てられた……?

⏰:07/08/21 01:29 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#45 [向日葵]
******************

もう人がいなく、電気が消えたリビングを横切って、私はベランダへ出る。

ザァー……

雨粒が、体に当たる。

さっき問おうとしてた事。それは何故アイツは私に構うかだ。

私なんて放っておけばいいのに…。
私で時間を無駄にしなくていいのに…。

紅葉「ホント馬鹿だ。」

静流「それは俺の事か?」

びっくりして後ろを振り向くと、息子が立って私を見下ろしていた。

⏰:07/08/21 01:34 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#46 [向日葵]
すると息子は私の隣にやって来た。

宿題はどうしたよ……。

紅葉「アンタ以外いないし。」

反論してくるかと思いきや、息子は何も言わず黙ったままだ。

なんだコイツ。

静流「あのさ……。ここで住まない?」

耳を疑った。
思わず笑ってしまう。

紅葉「は?何言ってんのアンタ。頭大丈夫?」

⏰:07/08/21 01:38 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#47 [向日葵]
静流「だって出て行っても行くとこないだろ?」

紅葉「嬉しいながらあるのよ。」

私はそう言って空を差した。

すると凄い力で肩を掴まれて息子の方に体を向けられた。

静流「俺の母さんは…、病気で早くに死んだ。……生きたくても、生きれなかったんだ。」

紅葉「贅沢言わずにお前は生きろとでも言いたいの?アンタの勝手な思想を私に押し付けないでくれる?」

すると掴んでいる手に力がより入る。

⏰:07/08/21 01:42 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#48 [向日葵]
静流「……。生きる努力くらいしようよ。」

努力?

そんなの死ぬほどしたわよ。

紅葉「アンタに……私の何がわかるの……。」

嫌い。
コイツ嫌い。

私は肩に置いてる手を払い除けて手すりに足をかけ、そこに座った。

静流「馬鹿!危ない!」

紅葉「知ってる?!私はね、12歳の頃から母さんに殴られてるの!」

⏰:07/08/21 02:52 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#49 [向日葵]
雨は降り続く。
止むことはない。

息子は驚いた顔で私を見ている。

紅葉「止めてって何度も避けんだ!でもあの人は、まるで私をストレス発散の玩具みたいに扱ったわ!」

記憶が溢れ返る。

痛くて、泣き叫んで、でも誰も助けてくれなくて。

面白がって見る人、怖がって遠ざかる人。
友達と呼べる人すらいなくなった。

紅葉「人は汚い。同情なんていらない。私を必要としてくれないなら、私はもう不要じゃない!」

⏰:07/08/21 02:56 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#50 [向日葵]
いつから?

母さん。私の事、いつから嫌いだった?

私必死にいい子になろうとした。
なのにそれはなんの意味も無くって……母さんはただ嘲笑ってひたすら殴った。

意味をもたないならもういい。
抵抗しなくなったらまた殴る蹴る。それは激しさを増して、私は気を失った。

あの時、やっと天に昇れると思った。
やっとこの汚い世界から逃れられるって。

紅葉「なんで生きなきゃいけない?アンタだって、所詮母親と私を重ねてるだけじゃな……っ。」

⏰:07/08/21 03:00 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#51 [向日葵]
息子が、私を抱き締めた。

静流「俺は……紅葉を必要とするよ……。」

紅葉「何馬鹿な事言ってんの?離してよ。」

静流「もう我慢しなくていいからさ……。泣きなよ。」

腕から逃れたくて、身をよじると力が更に加わった。

紅葉「嫌だ…。同情なんて……いらない。」

静流「同情って思ってていいよ。でも紅葉は、温もりが欲しいんでしょ?なら、俺があげるからさ……。頼むから死ぬなんて言わないで……。」

⏰:07/08/21 03:04 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#52 [向日葵]
紅葉「やだ……やだやだやだ!どうせこんな事して、私がいらなくなるんでしょ?!」

静流「絶対離さない!お前が消えたら見つかるまで探しに行くし、辛いなら頼れる場所を作ってやる!」

なんで……?

私がコイツを嫌いな訳。
コイツの目の奥に、優しさがあるって分かってたから。

優しさに甘えて傷つくのが私は怖い。
裏切られるのが怖い……。

紅葉「彼女いるくせに……そんな台詞吐いていい訳?」

⏰:07/08/21 03:09 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#53 [向日葵]
静流「ハハッ!ホント猫みたい。甘えたいなら甘えたらいいのに。意地っ張りだな。」

頭を優しく撫でられて、最後の最後まで我慢していた何かが外れた。

紅葉「ふ…えぇ……っ。」

カッコ悪い……。泣いてしまうなんて。
散々信じようとしなかった人間を信じてみようだなんて……。

馬鹿だ……。私は馬鹿だ……。

息子は私が泣き止むまで抱きかかえて頭を撫でてくれた。

久しぶりの人の体温は、思ったほど悪くはなかった。

⏰:07/08/21 03:13 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#54 [向日葵]
――男――





静流「紅葉。飯だぞ。」

紅葉「いらない。」

拾われて二日目。
まだ人間不信が少しだけ残ってる私だが、少しずつ信じる努力をしていた。

相変わらずベランダ近くにはいるが、外には出ない様になった。

⏰:07/08/21 03:16 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#55 [向日葵]
静流「お前昨日も食べなかっただろ。ホラ、おいで。」

紅葉「や!ちょっ!」

静流は何かと私が渋ると正に猫が如く抱き上げる。

そして膝の上に乗せる。

紅葉「私は子供じゃない!」

静流「同じようなもんじゃん。」

私達の様子にボサ…じゃなかった。源さんも満足しているらしい。

一番最初に静流に躾られたのは名前。
息子とボサボサ男はNGワード。

⏰:07/08/21 03:20 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#56 [向日葵]
これを守っているのも私の人を信用する練習のようなもの。

そんな事をブツブツ考えてたら、口の前にご飯を乗せたスプーンがあった。

静流「お粥だから。食べてみ?」

紅葉「駄目……。無理!私……吐いちゃうの……。」
うつ向いてそう告げると、静流は溜め息をついて一旦スプーンを置いた。

静流「じゃあ少しずつ食べてみよっか。」

頭を撫でながら優しく言うと、私を一度下ろして何かを取りに行った。

⏰:07/08/21 03:24 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#57 [向日葵]
戻ってくるとアイスを食べるくらいの小さいスプーンを持ってきた。
そしてまた私を抱き上げて膝に乗せる。

静流「これで少しずつ食べる練習しような?」

笑いかけてくれる度に、反応に困る。
しばらくこんな優しくされる事なんてなくって、どうすればいいかなんて忘れてしまった。

紅葉「時間かかるから、静流食べたらいいじゃない。」

静流「ったく!心配してるのが分かんないの?俺なんかどうでもいいから!さっさと口開ける!」

⏰:07/08/21 03:29 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#58 [向日葵]
静流は結構直球人間で、思った事をバンバン言うし、感情も豊かなのか分かりやすい。

それもまた私は苦手で、今みたいに心配だと言われると正直困る。

恐る恐る口を開くと、ホントに少量の米粒が口の中に入ってきた。

……でも。

紅葉「うっ!!」

静流「紅葉?」

私は静流の膝から降りてトイレに直行。
やっぱりリバースした……。

⏰:07/08/21 03:33 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#59 [向日葵]
****************

源「なんか急に素直になったけど、昨日なんかあった?」

紅葉のリバース中、源が尋ねた。

静流「説教も兼ねてちょっとカウンセリング。」

静流を完全に信じる気になってないのは静流自身も分かっている。
でも昨日よりはそれはもう随分マシになって、紅葉は静流に結構なついている。

静流「なんとなくアイツの事分かってさ。なんだか妹が出来たみたいでさ。」

⏰:07/08/21 03:37 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#60 [向日葵]
源はにっこり笑うと、食べた食器を台所に移し出した。

源「とても可愛らしいじゃないですか。僕も娘が出来たみたいで嬉しいよ。」

静流「俺達が大事にしないと駄目だしな!」

もうすっかり紅葉がこの家の一員となってるのを紅葉本人は気づいていないだろう。

少し天邪鬼な所を除けば、ホントに紅葉は可愛く、少し照れ屋なのがまた愛嬌なのだ。

源「静流君は紅葉ちゃんがすっかりお気に入りですね。」

⏰:07/08/21 03:42 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#61 [向日葵]
クスクス笑いながら言う源の言葉に、静流は照れた。

静流「まぁ認めない訳じゃないけどー。ってかアイツ遅いな。」

席を立ってリバースしに行った静流を見て、過保護だなぁと源は笑った。
もともと優しい子なので、妹みたいな存在が出来、それに拍車がかかったらしい。

・・・・・・・・・・・・・

静流「紅葉ー。平気かぁー?」

ノックをしても返事がない。

⏰:07/08/21 03:45 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#62 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/21 03:45 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#63 [向日葵]
ゆっくりと扉を開くと……

静流「!紅葉?!大丈夫か?!」

紅葉はトイレの壁によりかかっていて青ざめていた。

紅葉「ご……め……。」

静流はとりあえず彼女を抱き上げてリビングのソファーに寝かせた。

源「大丈夫……?!お水は飲めるかな?」

紅葉は力なく頷いた。
静流はタオルを濡らして紅葉の頭に乗せてやる。

***************

紅葉「う、うぇーっ!」

⏰:07/08/21 18:51 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#64 [向日葵]
私はまだあの家にいる頃からろくに食事を与えられなくなった。

一度、お腹が空いたと感覚がなくなってしまった時、チョコを内緒で一かじりした事がある。

でも、しばらく食事を与えられてなかった私の体は食べ物を受け付けなかった。その時も、直ぐにトイレに駆け込んでしまった。

紅葉「ぅえっ……。ゴホッ……。」

私こんなのでご飯食べれる様になるのかな……。

そう思ってから、目の前がいきなり暗くなった。

⏰:07/08/21 18:56 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#65 [向日葵]
しばらくすると静流が来て、私を運んでくれた。

私は水を一口含んで落ち着いた。

静流「大丈夫?」

目を開けると静流がいた。いつも私を運ぶ大きな手で私を撫でてくれた。

紅葉「いつもの事だから……。」

吐いた後のせいで声がしゃがれる。

静流「もう寝るか……?」
私はまた力なく頷く。
するとまた静流が運ぼうとするので、私は拒否して自分の足で歩いた。

⏰:07/08/21 19:00 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#66 [向日葵]
静流「無理すんな?」

紅葉「これ以上、醜態さらしたくないから……。」

壁に手を付きながらゆっくり歩く。
その後ろで静流は私が倒れない様に支えてくれる。

静流「子供が無理すんじゃねえよ。俺一応男なんだからさ、お前運ぶくらい軽いっつーの。」

男……ねぇ……。

私の父親は、10歳の時に母と離婚した。
正直いてもいなくても同じ様な影の薄い人だったから、あんまり記憶がない。

12歳の初め頃から暴力を受け続けて、男は愚か、女まで私から遠ざかった。

⏰:07/08/21 19:05 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#67 [向日葵]
――――――――

キリます

⏰:07/08/21 19:06 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#68 [向日葵]
静流くらいの男の子に関わるのは初めてかも。

そう思いながらよろよろ頼りない足取りで行く。
いつもより静流の部屋が遠い気がした。

と、足許から地面が無くなった。

紅葉「え……っ!」

静流「遅い!もう俺が運ぶ。」

軽々私の体を抱えた静流はスタスタ歩いてあっという間に部屋に着いてしまった。
抱えられながら、父親って言うか、兄さんってこんな感じなのかなぁとぼんやり思った。

⏰:07/08/24 00:59 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#69 [向日葵]
静流は私をベッドに座らせて、その前で膝立ちになる。そうすると私の目線とほぼ同じくらいになった。

静流「お前さ、軽すぎだと思ったら拒食症になってんだよ。」

紅葉「きょ……しょく……。」

知ってる。
ご飯が食べられない病気みたいなの。

紅葉「仕方ない。前の家では、死なない程度しか食事を与えてくれなかった。」

私はそう言って左腕に巻かれている包帯を見つめた。

抵抗も、食事も食べなくなってしまった私を良いことに酷くなる一方だった母さんの拳。

⏰:07/08/24 01:06 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#70 [向日葵]
包帯を見ていた視界に、細くて長い指が私の腕に触れるのが見えた。

静流「傷……痛むか?」

包帯を見たままゆっくりと首を振った。

痛くはない。思い出してしまうのが辛いだけだ。

静流は頭をクシャッと撫でると私の頭を少し上げさせた。

静流「明日、学校の帰りに何か食べれそうなの探して来てやるよ。」

紅葉「そんなの……見つかりっこない。」

静流「そんなのわかんねーよ。な?」

⏰:07/08/24 01:11 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#71 [向日葵]
静流は穏やかに微笑んで私を見つめる。

優しくされるのは困るけど嬉しくない訳じゃない。
……でも辛い。

何も答えてあげることが出来ない自分のふがいなさに地団駄を踏みたくもなった……。

*****************

翌日―――……

キーンコーンカーンコーン……

授業終了を告げるチャイムと共に静流は立ち上がる。

「ん?何だよ静流。そわそわしちまって。」

友達の磐城 香月(いわきかつき)が静流に問う。

⏰:07/08/24 01:16 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#72 [向日葵]
静流「わっるい香月。俺帰ったって担任に言っといて!」

香月「あぁ?メンド!それなら俺だって帰るし。って訳で皆おっ先ー。」

クラスのブーイングを受けながら二人は廊下へ出た。すると

「あれ。静流?」

振り向くとそこにいたのは静流の彼女。

静流「あ、双葉。」

双葉は皆から頼れるお姉さんとして人気があり、茶色がかった髪の毛はとても綺麗だ。

⏰:07/08/24 01:24 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#73 [向日葵]
双葉「一緒に帰らないの?」

静流「ちょっとスーパーよらなくちゃいけなくてさ。」

双葉「あ!私も行く!買いたい物があるんだ。」

二人のヤリトリを見ていた香月は「俺は邪魔だな。」と思ったのか自主的にその場を離れた。

静流「じゃあ、行こっか。」

双葉「うん!」

二人は仲良く手を繋いでスーパーまで行くのであった。

⏰:07/08/24 01:28 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#74 [向日葵]
****************

私はベランダの入口で座っていた。

今日は良い天気みたい。
雲は多いけど太陽はちゃんと見える。

後ろでは源さんが何かを作っているのかカチャカチャと音がする。

紅葉「何……してるの?」

源さんはドライバーを置いて私の方へニコッと笑いかけた。

源「未来で役立ちそうなロボットの試作品さ。とっても小さいけどね。」

⏰:07/08/24 01:32 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#75 [向日葵]
私は側に寄って見ると、確かに小さい。
何に役立つんだろう……。家の経済ってそれで成り立ってるのかもしれない……。

源「静流君はどうだい?」

優しく奥深い目が、ボサボサの前髪から覗き私を見る。
どう答えてもいいらしい。

私は顎に手を当てて何度か瞬きしてから口を開いた。

紅葉「良く言えば優しい。悪く言えば過保護。」

そう言うと源さんはハッハッハと笑った。

⏰:07/08/24 01:36 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#76 [向日葵]
紅葉「それと……。」

私が言葉を続けると、源さんは笑うのを止めて「ん?」と言った。

紅葉「男の子って皆あんなの?私、兄さんとかいなかったからわかんなくて……。」

少しズレていた眼鏡をクイッと上げて源さんは少し唸った。

源「男の子ってさ、女の子が思うほど強くなくてね。どっちかと言えば女の子より少しデリケートなんだよ。」

デリケートねぇ……。
デリケートが故に私を心配してくれてるのかしら……。

⏰:07/08/24 01:41 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#77 [向日葵]
源「それと、君がとても可愛いみたい。だからつい構いたくなるんだよ。」

ふにゃあと笑う源さん。

可愛い?私が?
男の子って分かんないなぁ……。
どこをどう見て私が可愛いと言えるだろうか。

眉を寄せてる私に気付いた源さんは、頭を撫でる。

源「君にもいづれ、なんらかの感情に気づく時だってくるさ。」

もう一度微笑むと、源さんはまた作業にとりかかった。

すると足音が聞こえた。

⏰:07/08/24 01:46 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#78 [向日葵]
静流「ただいまー。」

双葉「こんにちはー。」

私はびっくりして源さんの後ろへ隠れた。

誰……この人……。

源「双葉ちゃんいらっしゃい!ゆっくりしていってね。」

双葉「ありがとうございます。ん?……あ!この子ね!静流が話してた子!」

は?私を知ってる?
ってか話したって何?

女の子は興味津々で私に近づく。私はその度に一歩ずつ離れた。

⏰:07/08/24 01:50 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#79 [向日葵]
双葉「初めまして紅葉ちゃん。私は双葉。静流の彼女なんだ。」

これが……彼女……?

双葉「あーホントだー傷だらけ…。痛くない?」

何がホント……?

私は嫌悪感で一杯になって静流を睨む。

紅葉「アンタ……何を離したの……?」

私が怒ってるのに気づいてないのか、静流はしれっとしている。

静流「傷だらけの子を拾って看病してるって言っただけだけど?」

拾った……とか。
間違ってないけどそれをわざわざ第三者に告げる必要がある訳?!

⏰:07/08/24 01:54 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#80 [向日葵]
しかもこの女の子の無駄に馴れ馴れしい態度……。

まるで全て把握して、私を哀れんでいるその目。

私がこの世で一番大嫌いな“同情”。

双葉「紅葉ちゃん。これからよろしくね。」

握手を求められた手を、私はパチンと払いのけた。

紅葉「静流。私の素性をそんなにベラベラだらしなく喋らないでちょうだい!貴方も、初対面なのに馴れ馴れしくしないで!」

私はカーテンを閉めてからベランダに出た。
あの人が出て行くまで姿を見せたくないからだ。

⏰:07/08/24 01:58 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#81 [向日葵]
最低。

静流のバカ。
私は、私を分かってくれる人なんていなくていいんだから……っ!

**************

ベランダに紅葉が出てしまった後、リビングでは気まずい空気が流れた。

双葉「ご、ごめんなさい…。静流……。」

静流「あ、違うよ。俺がちょっと、無神経だったから……。」

やっと自分達に慣れたのだから、少し視野を広げてみてはと思ったんだが、静流は敢えなく失敗してしまった。

⏰:07/08/24 02:04 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#82 [向日葵]
静流「部屋にいこっか……。」

双葉「あ、ウン。おじさんも、ごめんなさい。」

源「構わないよ。」

双葉は弱々しく笑うと、静流と一緒に部屋に行った。

・・・・・・・・・・・・・・

双葉「静流の部屋はいつ見てもシンプルだねー。」

ベッドに座りながら双葉が言った。
カバンを机に置いてから、静流も双葉の隣に座る。

双葉「でもちょっと妬くよ……。」

静「え?」

⏰:07/08/24 02:07 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#83 [向日葵]
照れ笑いを浮かべながら双葉は静流を見つめる。

双葉「妹みたいって思ってるって分かってるけどね……。」

そんな双葉を愛しく思った静流は、優しく双葉を抱き締めた。

双葉も甘える様に静流の背中に手を回して抱き締める。
少し抱き締め合った後、距離を取ってお互いの顔を見つめる。

静流「俺は双葉が好きだから…。」

双葉「ウン…。私も静流が好き…。」

⏰:07/08/24 02:11 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#84 [向日葵]
好きを言い合い、二人の唇が重なった。

***************

ガラガラガラ

ベランダの戸を開けたのは源さんだった。

源「ゴメンネ紅葉ちゃん。」

紅葉「源さんは悪くない。問題は静流よ。」

人の事ベラベラベラベラ勝手に喋って。
プライバシーの侵害よ!

源さんは入口に座ると空を眺めた。

源「証拠だよ……。」

⏰:07/08/24 02:14 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#85 [向日葵]
ポツリと呟く。

私は気のせいかどうか分からなかったので源さんに目を向けた。
すると源さんは穏やかに笑って口を開いた。

源「それだけ静流にとって紅葉ちゃんが家族同然になってるって事だよ……。」

家族……。

耳慣れなうその言葉に、私は反応に困った。

源さんは頭を二回程ポンポンと叩くとまたリビングに戻った。
私もリビングを覗いて見ると、二人の姿はもう無かった。

⏰:07/08/24 02:18 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#86 [向日葵]
空を見上げて一回ため息をついた。

[初対面なのに馴れ馴れしくしないで!]

少し……言い過ぎ…たのかなぁ……。

謝るべきか分からない。
あちらだってこっちの気持ち知らずにベタベタしてきたし……。

私は立ち上がってリビングに入った。
後ろ手に戸を閉めながら、先ほどの彼女とやらを訪ねに行く事にした。

あと、静流にも少し話をしておこう。

トテトテフローリングを歩いていき、部屋前まで行った。

⏰:07/08/24 02:23 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#87 [向日葵]
普段から別にノックなんかしないから、私は普通にドアを開けた。

でも、これが間違いだった。

紅葉「ねえ静……っ!!」

目の前は、お互い服が乱れて唇を熱く重ねる二人が、ベッドに横たわっていた姿だった。

向こうも想定外だった状況にびっくりして、直ぐ様体を起こし、服を整えた。

紅葉「……っ!!」

バタン!!

私はびっくりして、何も言わず、言えず、部屋を出た。

⏰:07/08/24 02:28 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#88 [向日葵]
な、……何……今の……。

私は、あんな事をしてた布団で昨日まで寝てたの……?

その時、何故か私は嘔吐感に襲われて、それをなんとか噛み砕いて、またリビングに戻った。

おかしい……。アイツらもおかしいけど私もおかしい……。

何故か……心臓痛い……。病気かな……。

源「どうかしました?」

源さんに呼ばれて、私はハッとした。

⏰:07/08/24 02:32 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#89 [向日葵]
泣きそうになるのを堪えて首を横に振った後、源さんが座ってるイスの後ろに体育座りをした。

だからだ。
静流が私の体を持ち上げたり、膝に乗せたりするのに慣れていたのは。

そう思った瞬間、なんだか静流がとても汚い物に思えてきて、体がゾーッとした。

・・・・・・・・・・・・・・

双葉「じゃあ、お邪魔しました。」

やっと彼女が帰るらしい。
ベランダでその声を聞きながら私はまだ身震いしていた。

⏰:07/08/24 02:37 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#90 [向日葵]
コンクリートで出来たベランダの柵の隙間から、門前にいる静流と彼女が見えた。

何か話している。
当然声は聞こえない。

そろそろ帰るのかと思った頃、二人はまた唇を重ねた。

別れた後、家に入る静流と目が合った。

自分でも分かるくらい静流を冷たい目で見ている。

しばらくしてから、リビングに静流がやって来た。
と思ったら、案の定こちらにやって来た。

ガラガラ

静流「……。ノック、ぐらい……しろよな。」

⏰:07/08/24 02:42 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#91 [向日葵]
私は口を開かなかった。

まだ媚りついている。
キスに集中している静流の姿……。
考えただけで嫌になった。

すると機嫌をとるかの様に、静流がまた話した。

静流「紅葉が食べれそうなもん選んできたんだ!中に入って見てみろよ!」

紅葉「嫌。」

しばらくの間。

とりあえず今は静流に優しい態度なんか取れやしなかった。

頭に残るのは気持ち悪いって言葉。
胸に残るのは経験した事のない痛み。

⏰:07/08/24 02:47 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#92 [向日葵]
静流「あのさぁ、何が気に食わない訳?お前になんか悪い事でもした?」

紅葉「ほっといて。」

静流「確かにベラベラ喋ったのは謝るけど、そっちだって急に入ってくるし、お互い様だろ?」

紅葉「あんな事してるベッドによく私を寝かせれたよね?!」

私は静流を睨みつけて怒鳴った。
静流は驚いて目を見開いていた。

紅葉「あんな獣みたいにベタベタ体触った手で、よく私を触れたよね?!」

静流「は?!好きなら当たり前の行為してるまでだろ!」

⏰:07/08/24 02:52 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#93 [向日葵]
静流も遂に怒り出して怒鳴り散らす。

紅葉「手慣れた手つきで抱き上げたりして……。私をそこらの女みたいに扱わないで!今の静流は気持ち悪い以外何でもない!!」

そう言って私はベランダの戸をピシャリと閉めた。

静流「意味分かんねぇよ!」

ダァンッ!!と戸のガラスを叩いて、静流はシャッとカーテンを閉めた。

紅葉「馬鹿…静流の馬鹿……。」

私は目に涙を溜めた。

静流が私を優しく扱ってたのは、優しさからくる心遣いじゃなくって手慣れてただけだったんだ。

⏰:07/08/24 02:58 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#94 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/24 02:59 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#95 [向日葵]
私の中で、静流はとても綺麗な存在だった。

そこら辺にいる男を知るほど私は男と関わった事は無いけれど、静流は違う感じがしたんだ。

なのに……

また静流と彼女とのキスシーンが頭をよぎる。

やっぱり静流もそこら辺の男と同じだったんだね……。

いつの間にか暗くなっていった空には月が出ていた。私は孤独に月明かりに照らされる。

紅葉「やっぱり…皆汚いのね……。」

⏰:07/08/25 02:03 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#96 [向日葵]
*************

ザバーン!!

派手に浴槽のお湯を溢れさせながら静流は湯船に浸った。

静流「あぁー!もう!なんだよアイツ!」

そんなに俺が汚く見えるかよっ!
だって仕方ないだろ?!彼女がいる奴なら分かるよな?!彼女が可愛く見えたらそりゃ理性も吹っ飛ぶってなもんだろうがよ!

紅葉[あんな事してるベッドによく私を寝かせれたよね?!]

……でもアイツにとっては、汚いものなのかもしれないな……。

⏰:07/08/25 02:07 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#97 [向日葵]
色んな欲望にまみれた大人に囲まれて、殴られ、なぶられ、捨てられて……。

多分そこからアイツの潔癖な所が生まれたんだろうなぁ……。

首までお湯に入り、口でプクプク気泡を作りながら一人静流は考えていた。

きっと今の調子では紅葉は食べ物を食べるどころか触れる事すら許してくれないだろう。

それならば……。
と思い、静流は勢いよく湯船を出た。

**************

コンコン

振り向くと源さんが手招きしていた。

⏰:07/08/25 02:11 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#98 [向日葵]
少しだけ隙間を開けて、源さんと会話をする。

紅葉「中になら入らないから。」

源「それは困ったな。君に見せたい物があるんだけどなぁ。」

見せたい物?

片方の眉を寄せて源さんを見ると、源さんはテーブルの上から何か物が一杯入ったスーパーの袋を持って来た。

源さんはそれを一個一個出していく。
私はそれをガラスを越しに見た。

それは……。

⏰:07/08/25 02:16 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#99 [向日葵]
紅葉「なんで……こんな……。」

林檎やイチゴを始めとする果物やゼリー、プリン、ケーキ、ヨーグルト……その他も一杯次々に出てきた。

驚いて口を開けたままになった私に源さんが告げる。

源「静流君がね……君の為に買って来たみたいだよ?」

紅葉「私の……為……?」

源さんは大きく頷いた。

何で?私はそこまでしてもらう事ないのに……。

⏰:07/08/25 02:20 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#100 [向日葵]
源「言ったでしょ?君の事が可愛いって……。」

紅葉「そ、んな……。」

そんなの源さんが思ってるだけだと思ってたもの。

静流が優しい事くらい充分分かってた。
でも私の為に……ここまで……。

源「静流君は変わった子でしょ?今時に珍しい真っ直ぐな子でね。」

紅葉「……。」

私、酷い事言った……。
汚いって一杯言ったし、静流の気遣いなんかこれっぽっちも気付かなかった。

⏰:07/08/25 02:24 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#101 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/25 02:25 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#102 [向日葵]
静流「紅葉!」

ビクッとしてリビングの入口を見ると、頭にタオルをかけて湯上がりの静流がいた。

半袖から除いてる少し筋肉がついた腕が、なんだか赤い気がするのは気のせいだろうか。

静流「もう部屋で紅葉が嫌がることはしない。家に帰ってきたらすぐに風呂にだって入る!」

そう言って源さんな隣までくると、ストンと座った。

そして私をじっと見つめる。

静流「だから汚いとか思うなよ?」

⏰:07/08/25 10:59 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#103 [向日葵]
私は息を飲んだ。

静流は痛いほど優しくて真っ直ぐ……

私は反応に困ってしまうけど

唯一、今、私が出来る事。

私は赤く熟れた林檎を一個持って、静流にズイッと渡した。

紅葉「……これ、食べて……みる。」

二人はそれは嬉しそうに笑った。

私が今出来る事。
それは二人がこうして笑ってくれる様に努力すること……。

⏰:07/08/25 11:04 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#104 [向日葵]
源さんはスーパーの袋にまた入ってた物を戻してキッチンへ向かう。

静流「じゃあ……おいで。」

手をさりげなく出す静流。私が拒否するのを怖がってるらしい。

私はその掌を無視して、赤くなってる気がする腕に指先を触れてみた。

すると静流がビクッと体を震わす。

どうかしたのかと静流を見ると、静流は苦笑を浮かべていた。

静流「紅葉が汚いと思わない様に気合い入れて洗い過ぎた。」

⏰:07/08/25 11:08 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#105 [向日葵]
あ……だからか……。

また心臓が痛くなる。

でも辛い痛みじゃない。

なんだか顔の筋肉が緩みきってしまいそうな、そんな痛み……。

私は静流の指先を少し握ってその赤くなってしまった腕を見つめた。

紅葉「……ごめん、なさい。」

静流はため息混じりに微笑む。

静流「触っても平気?」

私が握っていない方の手をちょっと出して、念のために聞いてくる。

⏰:07/08/25 11:12 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#106 [向日葵]
私は腕を見つめたまま小さく頷いた。
すると静流は私をゆっくり抱き上げた。
そしていつもみたいに膝に乗せてくれる。

男は不思議。
私にとって未知の生物。

獣みたいだとか、気持ち悪いと思ったりするけど、実はとっても優しかったり、そして純粋だったり……。

でももっと未知なのは私だ。

今こうして膝に乗れる事が嬉しいのに……。
頭をよぎるあの女の子に同じ事をしてると思ったら

なんだか胸が苦しくなった……。

⏰:07/08/25 11:18 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#107 [向日葵]
―妬―





紅葉「ゲホッ!」

いつも通り、今日も食べる練習。

この前静流が買ってきてくれたヨーグルトに挑戦中。

……が。

紅葉「何このネトネト……。最近なヨーグルトって皆こんなの……?」

昔食べた時はもっと美味しかった記憶があるんだけど……。

⏰:07/08/25 11:21 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#108 [向日葵]
静流は私の口の端についたヨーグルトを布巾で拭いてくれる。

これじゃ完璧幼児扱いだ……。

静流「ヨーグルトは駄目かぁ……。果物系はなんとかギリギリいけたんだけどなぁ。」

林檎とイチゴはなんとか吐くのを堪えながらいけた。
流石にバナナはきつかったけど……。
だってあのニチョニチョした歯ごたえが思い出しただけでも嫌気がさす。

源「そういえば、服はどう?見た所サイズはピッタリだね。」

⏰:07/08/25 11:27 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#109 [向日葵]
サイズはピッタリ……。
だけどデザインは如何な物だろうか……。

源さんはこの間服が無くては不便だろうと言って何十着も買ってきてくれた。

しかし……

まるでどこかの古いお嬢様みたいなフリルが着いたワンピース……ってかもうドレスに近い……。

でもなんだか文句を言えなくてついつい

紅葉「大丈夫。」

と答えてしまった。

紅葉「今日はもうご馳走様…。なんか疲れた。」

⏰:07/08/25 11:31 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#110 [向日葵]
静流「俺も学校行かなきゃな。っとその前に、紅葉。包帯代えよっか。」

静流は私を膝から下ろして、救急箱を持ち出して来た。

私の傷は、食事を余り取らないせいで栄養不足のせいか、傷の治りが遅い。

静流は無い時間を使って、朝早く起きては私の食事のお守りをし、今の様に傷の手当てをしてくれる。

私は申し訳なくて、少し辛い。

私が落ち込んでいるのを察知した静流は、頭を一撫でしてくる。

⏰:07/08/25 11:36 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#111 [向日葵]
静流「焦る事なんて無いだろ?お前はこの家の一員なんだから。」

微笑む静流に困る私。

私はこのままここにいて良いんだろうか……。

今は静流の説得があってか、死のうとは思わない。

でも、ここに居続けてはいけない気が何故かしてる。
傷が治っても、静流は優しいままだろうか……。

静流「じゃ!学校行ってくるわ!父さん、紅葉お願いね。」

源「静流君も気を付けて。」

⏰:07/08/25 11:40 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#112 [向日葵]
私は無言で静流を送る。
じっと見つめていると、静流が少し屈んで私の目の前まで顔を近付けた。

私は思わず少し顔を引く。

静流「紅葉は言ってくれないの?行ってらっしゃい。」

そんなの今まで一度も言った事ないし。
なんで今日に限って?

紅葉「行って来い。」

静流「え?!命令系?!ひっでー。じゃあいい子に待ってろよ?」

バタン

⏰:07/08/27 01:55 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#113 [向日葵]
いい子って……。
完璧な幼児扱いじゃないか……。

別に悪さした覚えもないし……。

不満な顔で源さんを見つめると、源さんはニッコリ笑って私の頭を撫でるだけだった。

頭を撫でられながら、私はどうやら二人にとって幼児なのだなと諦めて納得した。

*****************

「静流おはよー。」

静流「おう!うっす。」
あちらこちらからの朝の挨拶をされた静流は、適当に返して教室に入っていった。

⏰:07/08/27 02:00 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#114 [向日葵]
香月「うっす静流。」

席に着くと、直ぐに友達の香月が静流に寄って来て話かける。

静流「うす。」

香月「前に貸した漫画、持ってきたか?」

…………。

静流は「うす。」と挨拶した時に手をあげたまま固まってしまった。

つまりすっかり忘れていたらしい。

香月の漫画を最後に見たのは自分の机の上だと固まりながら思い出す静流。

⏰:07/08/27 02:05 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#115 [向日葵]
そんな静流に呆れた香月はハァ…とため息をつく。

香月「忘れたんだな。」

静流「すいません。」

謝る静流を横目で見て、香月は「んー。」と何かを考える。

香月「今日、珍しく暇だし。お前んち、寄っていい?」

静流「あー…。どーしようか…。」

前のあの事件があったから静流は思わず考えるが、相手は双葉では無く香月なので大丈夫だと判断した。

いや……逆に男だから駄目なのか?!

⏰:07/08/27 02:09 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#116 [向日葵]
香月「そういえばさ、最近ヤケに早く帰るけど何かあんの?」

静流「まぁーちょっと……。」

歯切れの悪い返事に香月は納得しない様子。
更に詰め寄る。

香月「何だよ幼なじみだろー?!水臭ぇなー!」

静流「俺はデリートなんだから仕方ないだろー!」

香月「まさかお前……新しく好きな人出来たとかか?!」

静流「は…はあっ?!」

思わぬ答えにすっとんきょんな声を出してしまう静流。

⏰:07/08/27 02:15 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#117 [向日葵]
それ以前に彼女いるし!

大体、紅葉は妹って言うか子供って言うか、何かそんな感じであって……って何で俺こんな代弁してるみたいになってんだよ!

香月が更に何かを言う前に、ストップを言う様に静流呼ばれた。

双葉「静流。」

ドアの所には双葉がいた。

内心香月からの尋問から解放されて嬉しい静流は、双葉の所まで一目散に行った。

静流「ん?どした?」

双葉「あのね、今日静流んち寄っていいかな?」

⏰:07/08/27 02:20 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#118 [向日葵]
予想外な展開に目が点になる静流。

香月はともかく双葉はどうだろうか……。
相変わらず紅葉は風呂に入らない限り自分に寄ってこないし。

でも逆に今度は香月が一緒だからいいかもしれない。
よし……。

静流「いいけど今日香月が一緒なんだ。それでもいい?」

双葉「いいよ。じゃあまた帰りにね。授業中こっそりメールするかも。」

へへっと笑う双葉を思わず抱き締めてしまいそうになる静流は必死に堪えた。

⏰:07/08/27 02:24 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#119 [向日葵]
双葉と別れて再び香月の元へ。
また尋問されるかと思ったら、今度は違うかった。
何故か視線は肩くらいにある。

静流「香月?」

香月「なぁ。お前やっぱり浮気?」

静流「はあ?」

何を根拠に言われてるか分からない静流は少し言葉に怒りを込めてしまった。

するとスッと出された香月の指先に、肩にある何かを取られた。

そして静流の目の高さまで上げて、それを見せる。

⏰:07/08/27 02:29 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#120 [向日葵]
香月「これ何?」

見せられたのは一筋の長い髪の毛。
おそらく紅葉の物。
双葉は紅葉程髪の毛が長く無いからだ。

どうやら事情を説明しなくてはならないらしい。

静流はいらない事まで喋らない様に言葉を選んで話した。

香月の顔は話す度にコロコロ変わり、最後には口が半開きになっていた。

香月「はぁー…。なるほどな。」

静流「だから、紅葉の前では、今話した事を気にせず接してくれよな。じゃないとまた俺が困る。」

⏰:07/08/27 02:33 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#121 [向日葵]
香月「何で困る?」

静流「何でって。機嫌そこねたらややこしいから。」

香月「お前にとって妹みたいなもんなんだろ?なら放っておけばいいじゃん。なんでそこまで構う?」

構うと言うよりも俺のは何て言うか子供を育てる親みたいな物であって、簡単に放っておくことが出来ないんだよ……。

静流「保護者だから頑張らないといけないんだよ!」

香月「ふぅーん…。」

意味有り気に頷く香月に首を傾げながらも、先生が来たのでホームルームが始まった。

⏰:07/08/27 02:38 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#122 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/27 02:38 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#123 [向日葵]
*****************

源「じゃあ、紅葉ちゃん。お留守番お願いしますね。」

紅葉「うん。いってらっしゃい。」

源さんは今からどこかへ出かけるらしい。
私はリビングに戻るとテレビをつけた。

何を見るかって?別にそういう訳じゃない。
ただつけただけ。

つまらないニュース。
ドロドロしたドラマ。
見飽きた再放送番組。

何度かチャンネルを流してたら、一つの事にリモコンを持ってる手が止まった。

⏰:07/08/29 01:12 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#124 [向日葵]
それは……幼児虐待のニュースだった。

母親が、3歳の男の子を殴っている事により、男の子は重体。

母親の供述はいつも同じだった。

“泣きやまなくて”
“育児に疲れた”

只のそれだけで、罪も無く、痛めつけられる子供達。泣いてるのは、大人からの愛が欲しかっただけなのに……。

私達が何故犠牲に?

私達は、求められて生まれたんじゃないの?

⏰:07/08/29 01:17 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#125 [向日葵]
生まれた意味なんて全然分からないのに何故

“生まれてきたの?”

そんな事、聞かれなきゃいけないの?

テレビは、アナウンサーの適当なコメントをしてから次のニュースに入った。

私はそれを耳で聞きながらベランダへ出た。

出ないようにしててもここが落ち着くからどうしても来てしまう。

開けたと共に、ふわりと風が入ってきた。
今日も文句無しの快晴。

⏰:07/08/29 01:21 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#126 [向日葵]
私はたまたま偶然運良く源さんに拾ってもらって、静流に優しくしてもらってる。

でも、世の中はそんな幸運には恵まれてない。

今もきっと、助けを求めてる人達が大勢いる。

――私は、いいのかな……。

こんなに幸せで、いいのかな……。
もっと苦しむべきなんじゃないのかな……。

もっと幸せにならなきゃいけない人が、世の中には溢れてるんじゃ…ないのかな……。

神様がもしいるのなら、今苦しんでる人を私の様に幸せにして欲しい……。

⏰:07/08/29 01:26 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#127 [向日葵]
私は入口に座りこんで、戸のヘリにもたれながら空を見上げた。

神様、私は、許されるんでしょうか……。

―――――――……

******************

静流「ただいまー。父さん?紅葉ー?」

静流が香月、双葉と共に帰って来ると家はシーンとしていた。
二人にとりあえず入れと言って、いつも通り二階へ行った。

すると風が爽やかに家を抜けていた。

⏰:07/08/29 01:30 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#128 [向日葵]
静流「紅葉ー。」

リビングに来ると、ベランダ近くに紅葉がいた。
どうやら寝てしまってるらしい。

香月「へー。あの子が言ってた子?」

静流の後ろからヒョコッと顔を出した香月は興味津々に紅葉を見る。

双葉は前の事があってかこっそりと見る程度だ。

静流は「全く」っと言った風にため息をつくと紅葉の近くまで行った。

案の定紅葉は静かな寝息をたてて寝ている。

⏰:07/08/29 01:34 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#129 [向日葵]
フワリとまた風が吹いた。

その時、紅葉の前髪が少しあがる。
静流は驚いた。
整った顔に似合わない、紅葉の額と髪の毛の境目にある、大きな傷。

思わずそれを凝視してしまう。
そんな様子に、後ろの二人がどうしたものかと静流に尋ねる。

香月「静流?」

香月の近づく気配に、静流はつい紅葉が寝ているのを無視して声を張り上げてしまった。

静流「来るな!」

⏰:07/08/29 01:40 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#130 [向日葵]
*******************

…………静流の声?

夢うつつの世界から私は抜け出して現実に意識を戻してきた。

うっすら目を開けると、そこには学校に行ってる筈の静流がいた。

紅葉「静流……?」

声をかけると、静流はハッとして私を見た。
いや、見ていたけど静流の意識もどこかへ飛んでいたみたいだった。

静流「あ、あぁ……ゴメン。起こした?」

私は首を横に振りながら背伸びする。
どうやら寝ていたらしい。

⏰:07/08/29 01:43 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#131 [向日葵]
ふと後ろに目を向けると、見慣れない姿が一つ、一度見たことがある姿が一つあった。

私はとっさに静流の後ろに隠れる。

香月「あーゴメンネ驚かせて。俺は香月!静流のダチだよ。」

警戒しながら頷く。
もう一人に視線を向けると、逆にあっちがビクッとした。

紅葉「……ゆっくり、していって下さい……。」

ぎこちない言葉をなんとか繋げて、私は静流から離れた。

⏰:07/08/29 01:47 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#132 [向日葵]
静流「父さんは?」

紅葉「買い物。」

静流「そっか。なら紅葉も部屋においで。」

手招きされるが、私は首を横に振った。

知らないのが一名。
気まずいのが一名。

そんな状態で部屋と言う密室に堪えれる訳が無い。
ましてや傷だらけの私をジロジロ見られるのも嫌だ。

静流「あーもー聞き訳の無い…っ子ぉ!」

紅葉「ぅわぁっ!」

⏰:07/08/29 01:52 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#133 [向日葵]
静流は軽々私を持ち上げる。その時見えた、彼女の少し傷ついた顔。

馬鹿な静流。彼女の気持ちも知らないで……。

とりあえず部屋に着いたので入る。入った途端当然の様にベッドに座る彼女。
その横には静流。

何なのこの人…。相変わらず図々しいって言うか……。
どうやら私は彼女とソリが合わないらしい。

まぁ彼女ならこれが当然なのかもしれないけど……。

私はドア近くに腰を下ろす。香月さんって言う人も、私の近くに座った。

⏰:07/08/29 01:56 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#134 [向日葵]
香月「名前は?」

一瞬私の事とは知らなかったので、気づくのに数秒かかった。

紅葉「く…くれ…は……。」

香月「紅葉は何歳?」

紅葉「じゅう……ご…。」
香月さんはフッと笑うと「そうかそうか」と頭を撫でた。
よく言えましたねって?
どこまで幼児扱いだ私……。

紅葉「静流。私はいいからリビングに戻る。」

香月「あ、なら俺も〜!」

⏰:07/08/29 02:01 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#135 [向日葵]
はぁ……?!

静流「おい紅葉……っ。」

香月「じゃあね〜。」

パタン……

*****************

何だ?アイツ。

双葉「気、遣ってくれたんじゃない?」

小首を傾げながら言う双葉の頬は、少し赤みがさしていた。

思わず抱き締めそうになるのを必死に我慢する。

これは紅葉との約束だから。と言ってもアイツの布団はもうあるんだけどな。

⏰:07/08/29 02:05 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#136 [向日葵]
何か……守らなきゃいけない気がして。

双葉「どうかした?」

黙ってる静流を気にしたのか、双葉が目の前に迫っていた。

もう少しで唇が触れそうになるのに、双葉は気にせずその場所で話す。

双葉「さっきの……何?」

静流「え……。」

双葉「いつもあんな風に抱き上げてるの?」

双葉が言ってるのは、紅葉を運ぶ際に静流が紅葉を抱き上げた事だ。

⏰:07/08/29 02:08 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#137 [向日葵]
静流「アイツはさ、子供だから。」

双葉「ふーん。……じゃあ何で抱き締めてくれないの?」

静流「はい?」

双葉は一旦顔を離す。
しょげた様に顔をうつ向かせると、上目使いで静流を睨む。

双葉「あの子が……好きになった?」

静流は心の中で紅葉に謝る。

そして双葉を抱き締めた。双葉は急で少し目を見開く。

⏰:07/08/29 02:13 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#138 [向日葵]
ゴメン紅葉……。
双葉があまりに意地らしいからさ……。
抱き締めるだけ勘弁してな……。

静流「そんな訳ないだろ……。」

双葉はそっと微笑んで静流の肩に顔を埋めた。

*********************

香月「あの二人見るの辛い?」

戸を開けたままベランダに出ると、ソファーに座っていた香月さんが話かけてきた。

景色を見渡しながら私は首を横に振る。

⏰:07/08/29 02:16 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#139 [向日葵]
紅葉「辛いとかは別に。……って、辛いって何よ。」

眉を寄せて振り返ると、香月さんはフッと笑って立ち上がり、ベランダまで来て私の隣に付く。

香月「てっきりさ、紅葉ちゃんは静流が好きかと思ったのに。」

好き?
……何だそれ。

紅葉「私は静流には感謝の念しかないし。まだ……完璧に静流を信頼した訳じゃないから……。」

信じようとする一歩手前で止どまらせる裏切りへの恐怖。

⏰:07/08/29 02:20 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#140 [向日葵]
紅葉「そんな感情……随分前に忘れてしまったわ……。」

「フーン」と良いながら、手すりに頬杖を付く香月さん。
それを横目で見ていると、香月さんはニヤッとして私を見た。

香月「静流はさ、随分君の事を気に入ってるみたいだよ。」

私は嘲笑ってしまった。
そんな事ない。

紅葉「私がペットみたいなんでしょ。」

優しさは親心。
決して一人の女の子だからじゃない。

⏰:07/08/29 02:25 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#141 [向日葵]
そう思った途端、胸の奥がチリッと焼ける感覚がした。

紅葉「???」

香月「ならさ。俺と付き合ってみない?」

耳を疑う。
不審者を見る目で香月さんを睨みつけた。

紅葉「白昼夢でも見てるんですか?」

香月さんは人差し指を何回か振るとニッコリ笑った。

香月「ちょっとしたゲームだよ。」

紅葉「ゲーム?」

⏰:07/08/29 02:29 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#142 [向日葵]
香月さんは私に顔を近付ける。
私はそれに合わせて顔を引いた。

香月「静流が君の事をなんとも思ってないかの実験さ。」

紅葉「彼女いるのにそんなのありっこないでしょ。」

香月「こればかりは分からないからねぇ。」

私はまた香月さんを睨みつける。

紅葉「友達で遊ぶなんて最低だわ。」

⏰:07/08/29 02:32 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#143 [向日葵]
香月さんは睨みつける私を何とも思わずにんまり笑う。すると体を引いた。

香月「君もなんか気に入ったし。静流の事は建前で、君を落とすって言う手もある。」

更に嫌な顔をして香月さんを睨みつけた。
すると香月さんは派手に笑う。

香月「じょーっだん!全部冗談だよ。君おもろいね。」

遊ばれた……っ!何て奴!!最初の頃の静流みたい……っ!

香月「まぁ。相談ならいつでものってやるよ。ペットさん?」

⏰:07/08/29 02:36 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#144 [向日葵]
と、指で私のおでこを小突く。

相談なんて……別に悩む様な事絶対無いし。
ってか静流にそんな感情生まれる訳もないし。

香月さんから突かれたおでこに手を当てながらブツクサと考えていると下から声がした。

香月「あ、双葉ちゃん帰るんだ。」

柵から身を乗り出して見ている香月さんの隣で、私はチロリとだけ門前に目を向ける。

楽しそうに話している静流と彼女。

⏰:07/08/29 02:41 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#145 [向日葵]
それならさっき心配する必要なんてなかったかもしれない。

私にもお人好しな部分が残ってたのね。

鼻歌を歌う香月の横で、私は黙って二人を見つめた。

その時、彼女から静流に唇を重ねた。

周りの音が、一切無くなって、二人だけが色鮮やかに見える。

そして何かが耳の奥で聞こえた。

――――触ラナイデ

紅葉「え……?」

⏰:07/08/29 02:44 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#146 [向日葵]
香月「うわー。双葉ちゃん大胆だねぇー。」

その声で、また現実に戻る。

今の声……何……?

ぼーっとしていると、静流達を観覧していた香月さんが声をかけた。

香月「どうかー…した?」

私はハッと香月さんを見て目を泳がせて、また香月さんを見た。

紅葉「何か……聞こえた。」

香月「えぇ?何も聞こえないけど?怪談にはまだ季節が早いんじゃないの?」

⏰:07/08/29 02:48 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#147 [向日葵]
そんな類じゃない。

だって明らかにあれは私の声。
でも私じゃない声……。

さっきの二人のキスシーンを見た瞬間、なんだかお腹辺りが熱くなるような感じがした。

周りはモノクロ。なのに二人だけがやけにはっきり見えて……。

そしたら声が聞こえた。

静流「あれ?香月?」

下にいる静流が声をかけてきた。
何故か私は瞬時に背を向ける。

⏰:07/08/29 02:52 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#148 [向日葵]
―――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/29 02:53 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#149 [向日葵]
*****************

静流はしまったと思い、香月の名を呼んだ後、案の定紅葉が静流に背を向けた。


見られた。風呂入るまでは紅葉に近づけそうにもない。

試しに呼ぶ。

静流「くれ…は……?」

紅葉はビクッとして、肩越しに静流を見た。
その目は怒っていると言うよりむしろ脅えていた。

しかし何に?

すると香月が紅葉に近づき、肩に手を触れた。

⏰:07/08/31 00:26 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#150 [向日葵]
もう少しでおでこが触れそうなくらいに顔を近づけ、紅葉の顔色を伺う。

静流は分かっていた。

香月の行動は紅葉を気遣うものであって、別にやましい意味など無いと。

しかし

うずく表しがたい気持ちを胸に、静流は静かに家へと入って行った。

⏰:07/08/31 00:29 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#151 [向日葵]
―離―







何故か、この頃変だった。

無駄にぎくしゃくするし様子はおかしいし。

でもそれはどちら共に当てはまる事だった。

********************

私は体が言うことを聞かなかった。

静流が私に優しくしてくれる度に胸がモヤモヤして、近づいて欲しいのに近づいて欲しくなくて。

⏰:07/08/31 00:33 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#152 [向日葵]
言葉だって、いつも以上に素っ気なくなってしまう。

******************

俺は変だった。

紅葉に優しくしようとすれば紅葉がぎこちなくなる事に何故か胸が痛んだし、優しくしたいのに優しく出来ない自分がどこかにいた。

何でだ……?

今日の朝でもそうだった。

いつも通り膝で食事をとる紅葉を見ながら何かモヤモヤしていた。

そればかりか、やっとなんとか少量だか食べれる様になった林檎を食べ終えた紅葉の口を拭こうとすれば

紅葉[ふ、拭かなくていい!]

っと拒否された。

⏰:07/08/31 00:38 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#153 [向日葵]
彼女の堅くなな態度ならもう慣れてる筈なのに、何故か胸がチクリとした。

そして視線を紅葉の華奢な肩に向ければ、香月の手が触ったとイライラした。

静流[食べ終わったみたいだし。紅葉どいてくれる?]

紅葉[言われなくても退くわよ!何よ偉そうにっ。]

静流[俺がいつ偉そうにしたよ!]

紅葉[朝からうるさいのよもー!]

と言う風にケンカ勃発……。

⏰:07/08/31 00:42 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#154 [向日葵]
朝の事を思い出していた静流はもう陽が高く暑い日向である教室の窓側にうなだれていた。

何でイライラしてるか自分でも分からなかった。
イライラするのはカルシウム不足と言うが、帰りにスーパーに寄って煮干しでも買おうかと迷う静流。

頭が混乱して少々観点がズレ始めていた。

そんな静流の肩を勢いよく叩く人物がいた。

友人の香月だ。

香月「なぁんだよ冴えねぇ顔して!」

「黙れ元凶。」とボソリと言うが、残念ながら香月の耳には届かない。

⏰:07/08/31 00:47 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#155 [向日葵]
香月はそんな不機嫌な静流を無視してペラペラ喋り始めた。

静流は大半を聞き流していたが、聞いてしばらくして頭で反芻すると今度は静流が香月に喋る。

静流「ちょっと待て。今なんつった?」

香月「ん?だから今日お前んちに遊びに行くなって。」

静流はうなだれていた体をしゃきっと伸ばすと香月に詰め寄った。

静流「何で来んだよ!」

香月「別に行きたいから。前まで理由なくても遊びに行ったじゃん。何気にしてんの?」

⏰:07/08/31 00:55 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#156 [向日葵]
その言葉に静流は「うっ」と唸った。

すると香月は何やらニヤニヤしだした。

香月「もしかして……紅葉ちゃん取られるとか心配な訳?」

静流「はぁっ?!」

香月「紅葉ちゃん可愛いもんなぁ。俺狙おうかなぁ。」

ダァンッ!!

教室中が静まりかえる。
皆の視線が、静流と香月がいる場所に集まる。

香月は静流の意外な行動に驚いていた。
温厚な静流が机をグーで殴ったのはこれが始めてだ。

⏰:07/08/31 01:01 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#157 [向日葵]
静流は射抜きそうな眼光で香月を睨んだ。

香月は少し足を引く。

静流「アイツに何かしてみろ。許さないぞ。」

そんな静流に冷静さをとり戻した香月が問いかける。

香月「なぁ……。お前それどの立場で言ってんだよ。」

静流はかすれた声で「え?」と言った。

確かにそうだ。
自分は何をそこまで怒っている?
何が気に入らない?

⏰:07/08/31 01:05 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#158 [向日葵]
一気に静流は気を静めていった。

静流「ゴメン。何か……。頭、冷やしてくる。」

とだけ言って静流は教室を出て行ってしまった。

そんな静流の後ろ姿を見ながら、香月は静流の心に変化があるのではと感じとっていた。

一方、水道で頭を濡らしながら静流は冷静に分析していた。

さっき怒ったのはつまり……。
半端な気持ちで紅葉に近づくなら許さないって事だ。

⏰:07/08/31 01:10 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#159 [向日葵]
傷ついてる奴を更に傷つけるのなら、兄貴分の自分としては許されないものであって……。

双葉「タオルも持たないで、どうやって頭拭くつもり?」

顔を横に向けると、隣に座りこんで静流を見つめる双葉がいた。

水道を止めた静流に双葉はキャラクターが描かれたタオルを静流に渡した。

静流「ゴメン。タオル駄目にしちまって。」

双葉「別にいいわよ。ん?手、どうしたの?」

ふと静流が右手を見ると、手の甲の骨ら辺が赤くなっていた。

⏰:07/08/31 01:14 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#160 [向日葵]
手を見ながら、またふと考えた。

……どうしたんだろ。俺……。

*****************

やる事が無い私は庭へ出て花壇の水やりをしていた。

じょうろに水を溜める時、自分の腕に巻いてある包帯を見た。

『そういえば、今日はケンカしちゃったからやり変えて貰ってないや。』

今朝はついつい売り言葉に買い言葉になってしまった。

⏰:07/08/31 01:18 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#161 [向日葵]
だって静流の態度が気に入らなかったんですもの。

いつもならヘラヘラしながら自分から下ろす癖に。
今日に限ってなんであんなツッケンドンな態度をとられなくちゃならないのよ。

水がたっぷり溜ったじょうろを持った。
すると

紅葉「あいたっ!」

バシャァン!

まだまだ治りきっていない傷が痛くなった。
反射的に手を離したおかげで足元は水浸し……。

また水を入れなきゃいけなくなった。

⏰:07/08/31 01:22 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#162 [向日葵]
ため息をつきながらじょうろを拾う。

住宅街なので、小学校を終えたガキやら世間話が好きなおばさん達の声が薄く聞こえる。

もしかしたら自分も噂されてるのかもと思うとムカムカした。

何も知らないおばさん風情が脚色つけて何か言ってるに違いない。

しばらく座りこんだまま、私はぼんやりそんな事を考えた。

紅葉「だから……世の中なんて嫌いなのよ……。」

カシャン!

⏰:07/08/31 01:27 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#163 [向日葵]
何か耳慣れた金属音が聞こえた。
多分門の鉄格子の音。

更に耳慣れた声が。

静流「紅葉……っ。」

静流が私の元へ駆け寄って来た。

あぁそうか。もう学校の終わる時間なのね。

静流は心配そうに私を見る。
その姿を見ただけで、さっきのムカつきは収まり、なんだかホッとした。

静流「何かあった?!」

紅葉「じょうろ落としただけよ。」

⏰:07/08/31 01:31 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#164 [向日葵]
立ち上がろうとしたら、気配がした。

目を動かせば、またいる。
例の彼女とミステリアスな香月さん。

静流は私の視線に気づいたのか、少し抱き上げて私を立たすと頭を撫でた。

静流「ゴメンな。また来ちゃってさ。」

痛い……。
この場合、傷が痛いんじゃなくって彼女さんの視線がだ。
どうやら彼女は私に嫉妬してるらしい。

静流の手を軽く振り払って、私は水道に向かった。

⏰:07/08/31 01:38 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#165 [向日葵]
紅葉「早く家に入ったら?」

静流「お前は?」

さっきより少な目に水を入れたじょうろを持って、静流に向き直る。

静流を一旦見てから彼女さんを見た。

不安そうな目で静流と私を交互に見てる。
静流も女の子に鋭いんだか鈍いんだか……。

紅葉「私は水やりがあるの。」

と言って横を過ぎきる事が出来れば良かった。

ズキッ!

紅葉「っいた!」

⏰:07/08/31 01:43 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#166 [向日葵]
今度は足が痛くなった。
カクンと崩れてしまいそうになる時、誰かの腕が私を支えた。

水をまたしても無くしたじょうろが、音を立てて地面に落ちる。

香月「あっぶー…。大丈夫か?」

*****************

紅葉「いたっ!」

その声を聞いて振り向いた時に、静流が手を出すのは遅かった。

何故なら香月が早く反応し、気づけば紅葉の体を支えていたからだ。

⏰:07/08/31 01:46 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#167 [向日葵]
香月「あっぶー…。大丈夫か?」

そのまま香月は紅葉の傷の痛みが引くまで体を支えていた。

一方の静流は、出しかけた行き場の無い手をなかった事にするようにぎこちなく戻した。

静流「……ったく。病人のくせにそんな事すんじゃねぇよ。」

紅葉の体がピクリと動く。
あ、ヤバイ……。これは……。

紅葉「なんですって……?」

⏰:07/08/31 01:50 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#168 [向日葵]
怒った合図だ。

ゴングが良い音を立てて鳴り響いた気がした。

紅葉「少しでもと思ってお手伝いしてるのに何でそんな事言われなくちゃなんないのよっ!」

静流「それでこんな事なってたら意味ないじゃん。無駄だろ。」

紅葉「……っ!静流なんか……キライ!!」

ガコッ!

じょうろを力一杯投げられた静流は不意打ちだったがなんとかすんでの所で止める事が出来た。

⏰:07/08/31 01:53 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#169 [向日葵]
******************

バタン!

力任せにドアを閉めて私は家に入った。

足をダンダン鳴らして階段を上ってやりたいけどまた痛みが走るのが嫌で、歯を食いしばって上った。

直ぐ様カーテンをしてベランダへ出た。
少し、泣きたくなった。

静流[無駄だろ。]

何で、あんな事言われなくちゃいけない訳?
私が何をしたって言うのよ……っ!

彼女はあれだけ大切にしてるくせに、私はこんな粗末にされて……。

⏰:07/08/31 01:59 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#170 [向日葵]
…………。
…………あれ?
何で今彼女が出てきた?

あぁもぅどーでもいぃっ!!
静流なんか、大大大大大っキライ!!!!

香月「あーぁ。静流が紅葉ちゃん泣かした。」

バッと振り返った。いつの間にカーテンやらを開けたんだろう。
ってか今泣かしたって言ったよね?

紅葉「別に泣いてないし!」

すると香月さんはベランダへ出て来て前みたいに私の隣に来ると、並んで座った。

⏰:07/08/31 02:04 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#171 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/31 02:04 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#172 [向日葵]
香月さんは自然に右手を伸ばすと、私の左目の下辺りを撫でた。

そして私目の前に人差し指を持ってきてニヤリと笑う。

香月「泣いてない?ならこの水って何かなぁ?」

慌てて目を擦ると水分があった。

不覚……っ。知らないに等しい人に涙なんて見られた。

香月さんはクスクス笑いながら指についた水分を指を擦り合わせてとる。
そしてその後は黙って私の隣に座ってるだけだった。

⏰:07/09/01 01:12 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#173 [向日葵]
紅葉「静流達は?」

香月「ジュース買いに行った。」

ふぅん。と答えてあとは黙った。

すると香月さんは私を見てニヤニヤ笑ってくる。
何だと思い、睨む。

香月「静流に言われた事、ショックだったの?」

紅葉「……。腹が立っただけ。最近の静流はトゲトゲしいの。でも彼女に優しいのは相変わらずみたいね。」

……。あれ。
私また彼女って言った。

⏰:07/09/01 01:15 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#174 [向日葵]
指先で口元を押さえながら頭には複数のはてなを浮かべる。

私が何が何だか分からなくなっていると、隣から「へー」と声が聞こえた。

香月さんを見ると意地悪そうに笑っていた。

香月「なぁんだ。紅葉ちゃんも嫉妬してるんだ。」

紅葉「はぁ?嫉妬?何で私が嫉妬なん―――……。」

え?今何て?
も?私だけじゃなく、誰かが私に対して嫉妬してるって事?

一瞬頭に浮かんだ相手はあり得なくてすぐ取り消した。あぁ。もしかして彼女の事?

⏰:07/09/01 01:20 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#175 [向日葵]
紅葉「彼女のは不可抗力よ。あれは静流が悪い。」

淡々と喋ると、香月さんが目を丸めた。
まるで私が何か間違った事を行ってるみたいに。

香月「何言ってんの?嫉妬してるのは―――…。」

静流「ただいまー。」

犯人が誰か聞く前に静流で邪魔された。
静流の足音が二階へ来る。
すると香月さんが私の肩をちょいちょいと指で叩いてから自分の肩をポンポンと叩いた。

そして小声で告げる。

⏰:07/09/01 01:25 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#176 [向日葵]
香月「俺の肩に寄りかかって寝たフリしてて。」

紅葉「はぁ?!なん―――っ。」

反論してる途中で強制的に肩に寄りかかる形になった。
仕方ないので指示された寝たフリを決行する。

と同時に静流がリビングに現れた。

静流「……何してんの?」

耳だけで分かる。
静流が何故か怒ってる事。

香月「おう!おかえり!なんか紅葉ちゃん寝ちゃったみたいでさぁ!」

⏰:07/09/01 01:28 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#177 [向日葵]
静流「どけ。」

その声を聞いたと同時に私の体は地面から離れた。

びっくりして目を開けるけど静流は気づいてない。

静流「紅葉にいい加減な気持ちで近づくのだけは止めろ。」

静かにそう告げると静流は歩き出した。
おそらく部屋へ向かうんだろう。

静流「双葉。ゴメンけどドア開けてくんないかな。」

私は寝たフリと気づかれない様にまた目を瞑った。
じゃなきゃ今でも彼女の嫉妬の視線をひしひしと感じるのに、これ以上痛く感じるのはゴメンだ。

⏰:07/09/01 01:33 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#178 [向日葵]
双葉「ハイ。」

静流「ありがとう。」

寝かされたのは静流のベッドだ。

まったく……また無意識に彼女を傷つけることになるぞ。

双葉「閉めとく…ね。」

静流「ウン。ありがとう。」

パタン

……。
あれ。なんで静流出ていかないんだ?
寝たフリも楽じゃないんだからさっさと出て……

静流「起きてんだろ?」

⏰:07/09/01 01:36 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#179 [向日葵]
バレてんじゃん。

私はゆっくり目を開ける。
最初に目に入ったのは天井。その次は怒った静流の顔。

紅葉「何怒ってんの?」

静流「怒ってない。」

紅葉「よく言うよ!怒ってるじゃない!私何か静流にしたかしら?!」

静流は黙って腹立たし気に息を吐く。

腹立ってんのはこっちだっつーの。

静流「知らない男の体に無防備に近づくな。」

⏰:07/09/01 01:40 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#180 [向日葵]
紅葉「なら静流にも近寄っちゃ駄目って事ね。」

静流「そんな事言ってないだろ!」

紅葉「貴方だって知らない男じゃない!!」

息遣いだけが部屋に響く。
お互いを睨み合って、次に出てきた言葉にすぐ対応出来る様に言葉を繋ぎ合わせる。

数分が過ぎた時、静流が口を開いた。

静流「……。わかった。もう好きにしろ。」

は……?何それ。

紅葉「何よ好きにしろって……。まるで私をだだこねてる子供みたいに。」

⏰:07/09/01 01:45 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#181 [向日葵]
静流「口答えするならガキと一緒だろ。」

出た。
静流はいつもこう。

怒ったり気に入らない事があれば冷静なフリして私を子供扱いする。

さも自分が全て正しいと勘違いしてる大人である様に……。

紅葉「私はアンタの子供でもなければこの家の子でもないのよ?!」

すると冷たい静流の目が更に冷たくなった。
次に出てくる静流の言葉に私は頭が真っ白になった。

⏰:07/09/01 01:49 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#182 [向日葵]
静流「じゃあ出て行って好きなように暮らせよ。」

紅葉「……え。」

静流が背中を向けてドアを開ける。

静流「元々そうしたいって言ってたしな。いいじゃん。短い間だったけど楽しかった。じゃあな。」

パタ…………ン……

*****************

リビングで談笑をしていながらも、静流は自分の言った事を頭の中でまた繰り返していた。

俺何言ってんだよ。

⏰:07/09/01 01:52 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#183 [向日葵]
香月はダチだし別に親しくしたっていいじゃんか!

でも俺以外の奴になつくのがなんだか気に入らなくって、こう……飼い犬が他人にめちゃじゃれてるみたいな感覚で……。

双葉「静流……?どうかした?」

色々考えてたらいつの間にか黙ってしまった静流に双葉が呼び掛けた。

静流「あ、いや。何でも。そうだ!見せたいもんがあるんだ。部屋取りに言ってくるわ!」

と言いながら紅葉が気になって静流は部屋へ向かった。

⏰:07/09/01 01:56 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#184 [向日葵]
部屋前で立ち止まって深呼吸した。

紅葉に謝ろう。
それでまた仲直りしたらいつも通りに戻れる。

カチャ

静流「紅葉!さっきは……。」

静流はドア付近で足を止めた。

静まりかえる部屋。
いる筈の姿が、どこにもない……。

そう。紅葉が消えてしまったのだ。

静流はパニックになりそうな自分を抑えて机の下、ベッドの下、クローゼット。全てを探した。

⏰:07/09/01 02:00 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#185 [向日葵]
静流[出ていって好きな様に暮らせよ。]

――――ドクン

まさか……ホントに……?

香月「なぁ静流ー。雨降ってったから俺帰るわぁ。」

と来た香月の肩を勢いよく掴んで静流は言った。

静流「紅葉が……いなくなった。」


******************

あ。雨降ってった。

まぁいいわ。服が洗濯されるし。

⏰:07/09/01 02:04 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#186 [向日葵]
私は当てもなく歩いていた。
急な雨だから傘を持ってない人が沢山いたおかげで私は白い目からは免れた。

静流[出て行って好きなように暮らせよ。]

何よ……。

紅葉「自分から言ったんじゃない。住めって……。なのに出て行けって……。」

自己中にも程がある!
しかも八つ当たりみたいに言い捨てて!

ってか……ここどこ?

意外にも雨は激しくて、一寸先は闇じゃないけど雨でほぼ見えなかった。

⏰:07/09/01 02:08 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#187 [向日葵]
ザー……

ザー……

あぁ……あの日が思い出される。

ザー……
ザー……

今みたいに凄い雨で……。やっと天国に行けると嬉しくなった。

世の中は汚い。

世の中は冷たい。

唯一愛していた肉親にさえ、私は愛されなかった。

痛くて何度も泣いた。
つらくて何度も願った。

⏰:07/09/01 02:11 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#188 [向日葵]
 








温かさを下さいと……

⏰:07/09/01 02:12 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#189 [向日葵]
そんな時、くれたのが静流だった。

優しくて、嬉しくて……私は身を委ねてた。

だから忘れてた。

一線引き忘れていた事。
誓ってた筈なのに、馬鹿だわ私って……。

私はまた、一人ぼっち。

今度こそもう誰も助けてはくれないんだろうな……。

私はどこで命を断つべき?

どうやって命を断つべき?

誰も教えてくれない……。

⏰:07/09/01 02:15 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#190 [向日葵]
静流[生きる努力をしようよ。]

パシャ……

どこまで来ただろう。

私は道端で立ち止まった。
外は灰色の雲に覆われた暗い夜となった。

何も聞こえない。

雨の音と、自分の息遣い以外。

……何も……。

知ってる。分かってる。
自分の息が震えていること。

泣いていること。

⏰:07/09/01 02:19 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#191 [向日葵]
紅葉「……っ。ふぇ……っ。」

もうやだ……。

何で……っ。

ウウン。違う。私は神様に祈った事があった。

誰かの代わりに、私が不幸を背負うと。

なら今誰かが幸せになってるのかな?

でも幸せになってる誰かさん。ごめんなさい。
私やっぱり幸せになりたい。

温かさで包まれたい。
いつしか願ってた。あの家にずっといれたらって。

⏰:07/09/01 02:22 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#192 [向日葵]
紅葉「……ひっ……。う―――っ……。」

それはもう無理だけど。

でも私は、ずっとずっとあの家で温かさを感じて生きていきたい。

そう思った。
思わせてくれた。

それは紛れもなく、静流が……そう思わせてくれたんだ……。

⏰:07/09/01 02:24 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#193 [向日葵]
―解―









静流は探し回っていた。

いなくなった紅葉。
この酷い雨の中、まだ治りきってない傷を負ったまま外へ行ってしまった。

そう仕向けたのは、紛れもなく自分……。

ピリリリリ

ポケットに入れておいた携帯が鳴り響く。

⏰:07/09/01 02:28 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#194 [向日葵]
見つかっったらすぐ知らせれるよう、一緒に探してくれてる香月と双葉に告げた。

発信者は香月からだった。

香月{静流?こっちにはいないみたいだわ。}

静流「そっか。ありがとう……。」

そう言って電話を切る。

静流は頭を抱えた。
何であんな事を……っ。

しかも人間不信が治りきってない紅葉に向かって……。

静流「馬鹿だ……。俺……。」

⏰:07/09/01 02:31 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#195 [向日葵]
その時、また電話が鳴った。

静流「はい……。」

源{静流君?今ドコにいるんだい?帰ってきたら家に誰もいないからびっくりしてさ。}

静流は電話をしながら目を瞑って目元を片手で覆った。
受話器から息子の声が聞こえない源は心配して何度も名前を呼んだ。

源{静流君?どうしたんです?}

静流の重い口がゆっくりと開かれる。

静流「実は……。」

⏰:07/09/01 02:35 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#196 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/01 02:36 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#197 [向日葵]
*****************

紅葉「さ……さむ……。」

ずぶ濡れになった私は近くに公園を発見した。
とりあえず少し休む。

泣いたのと止まない雨とのせいで、私は少々体温を取られていて疲れた。

なんの遊具かはわからないけど、かまくらに穴が空いた様なやつに入って雨が少しでもマシになるまで一休みすることに決めた。

水溜まりがあったけど濡れ続けるよりはまだマシだ。

まぁこれだけ濡れたらいくら濡れても一緒だけど。

⏰:07/09/02 02:23 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#198 [向日葵]
少し休んだら、またどこかへ行こう。

出来るだけ遠くに。

もう二度と母さんや静流に会わないように。

人目につかない場所ってどこかな。

山?崖?

歩きながら考えよう。

考える時間なら、もう沢山出来たのだから。

*****************

源は静流からの話に絶句した。

だけど怒る事はしなかった。今怒っても仕方ないからだ。

⏰:07/09/02 02:27 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#199 [向日葵]
源{とりあえず、紅葉ちゃんが帰ってきたらいけないから家にいるね。}

静流「うん。お願い……。」

静流は電話を切る。

そして雨が降る道に目を向けてまた歩き出した。

隙間や陰を隈無く探す。

あの傷で……しかもこんな雨の中で……。

もしかしたらどこかで倒れてるかもしれないと言う心配が頭をよぎる。

いくら何でも「出て行け。」なんて言うべきじゃなかった。

⏰:07/09/02 02:33 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#200 [向日葵]
雨で少し肩が濡れる。

紅葉はこの雨の中濡れてると言うのに、自分は何傘さしてんだ……。

静流は傘を畳み、走り出す。
走り出すとすぐに雨でびしょびしょになってしまった。

倒れてしまうのも心配だが、誰かに誘拐されてないかも心配だ。
あんな軽いのヒョイと持ち上げたら終りだ。

左右を確認して信号を渡る。
車のヘッドライトがやけに眩しく感じた。

……まさか、事故に遭ったりしてないよな……。

⏰:07/09/02 02:38 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#201 [向日葵]
そういえば……と静流は思った。

自分はまだ、紅葉の笑顔を見た事がない。

自分を卑下した笑いは見た事あっても、心から笑った顔は見た事はなかった。

そう考えると、余計に胸がきしんで仕方なかった……。

今は本人が見つかるまで、心の中で謝るしか出来なかった……。

******************

今何時だろ。

空を見上げても雲が広がり星が見えない。

⏰:07/09/02 02:42 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#202 [向日葵]
かと言って先人の様に星で何時だとか分かる事は出来ないのだけどね。

でも大体夜9時くらいかな。

休む事も出来たし、再び歩こう。

そう思った時だった。

足に昼間と同様激痛が走る。
どうやら歩きすぎにより傷が開き、雨が染みてるみたいだ。

一旦立ったものの、また座りこんでしまう。
何故か無駄に息遣いが荒くなってしまう。

紅葉「いっ…………った……。」

⏰:07/09/02 02:46 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#203 [向日葵]
ハァハァと息を吐いた後、深呼吸をゆっくり何回かした。

大丈夫。
痛くない。痛くない。
気のせい。怪我なんてしてない。

暗示をかけながら立ち上がり、重心を足にかける。

はっきり言って痛くない訳がない。

でも今は出来るだけ遠くに行きたかった。
穴を抜け出して公園の入口へ向かう。

街灯が、虚しく私を照らした。

正に捨て猫ね……と自嘲した。

⏰:07/09/02 02:50 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#204 [向日葵]
街灯に照らされた足を見れば、うっすら包帯が赤みを帯びていた。

血が出ているらしい。

大丈夫。
まだ歩ける。大丈夫。

そう暗示して、歩くしかなかった。

人通りがなくなりつつあるおかげで人の目を気にせずにみっともなく歩けるのが幸いだ。

こんな醜態……晒したくもない……。

そう願っていたのに……。

「やっと見つけたーー。」

⏰:07/09/02 02:54 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#205 [向日葵]
ゆっくり振り向く。

数メートル後ろに立っていた人物に私は驚いた。

紅葉「香月……さん。」

香月「何してんの?プチ家出?」

相手を見ながら後退りした。でも相手はにじりにじり距離を縮めてくる。

香月「ねぇ。帰ろうよ。」

紅葉「……なんで、よ。」

香月さんはとうとうすぐそこまで来てしまっていた。
きっと逃げても今の状態じゃ捕まえられるのがオチだろう。

⏰:07/09/02 02:59 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#206 [向日葵]
香月「静流が心配してたよ?だから早く」

紅葉「嘘よ!」

心配?

自分から出て行けって言ったじゃない。

だから私は出て来た。

もう私はあの家にいてはいけないからって。
静流は私をただの邪魔なガキだと思ったからって。

私はめげずにまだ後退りをしている。

だけど私が逃げれないと知ってるのか、香月さんは捕まえようとはしない。

だだ足を進めるだけ。

⏰:07/09/02 03:02 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#207 [向日葵]
香月「何で嘘つかなきゃなんないの?俺や双葉ちゃんだって一緒に探してたんだよ?ここで嘘ついたって意味無いっしょ?」

何故か香月さんは怒っていた。
私はただ言う通りにしただけなのに……。

紅葉「じゃあ…………。っ……私、どうすればいい?」

これ以上醜態を晒してなるものかと涙と溢れてきそうな鳴咽を我慢する。

香月さんはいぶかしげな顔で私の次の言葉を待ってる様子だ。
私は深呼吸を一回だけして続きの言葉を頭の中で整理した。

⏰:07/09/02 03:07 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#208 [向日葵]
紅葉「静流は私が邪魔なの。消えて欲しいの!なのに心配なんてする筈が無い。また……。……またあの家に戻って、邪魔扱いされたら……。私はどうしたらいいのよ!」

いっぺんに言葉が溢れた。言いたい事を忘れないようにスラスラと。
おかげで少々息が切れてしまってハァハァと肩を揺らす。

そんな私を、香月さんは静かに見つめた。

すごく静かで、逆に怖いくらいで……。

それでも言いたい事言った私は、まだ後退りを止めなかった。

⏰:07/09/02 03:12 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#209 [向日葵]
そして香月さんが口を開いた。

香月「静流が……好きなんだね。……紅葉ちゃんは。」

――――好き?

香月「好きだから、嫌われたくないんでしょ?好きだから……側にいたいんでしょ?」

――初めて、静流と彼女とのベッドシーンまがいを見た時、気持ち悪いって感情と、静流に触らないでって感情があった……。

私はその感情の意味が分からなかった。

静流の言う通り、あれは当たり前の行為だから私が触らないでって言うのはおかしいんだもん。

⏰:07/09/02 03:17 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#210 [向日葵]
彼女が自分から静流にキスした時、心臓が痛かった。

静流に背を向けてしまったのは、静流を見たらまた怒って、傷つけてしまいそうだったから……。

――嫉妬――

そっかぁ……。
私は静流に嫉妬してたんだ……。

そして嫉妬してたのは、静流が

紅葉「す……き……。」

私は既に足を止めて呆然と立ち尽くしていた。

そんな私に微笑んで、香月さんは携帯を取り出した。

⏰:07/09/02 03:21 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#211 [向日葵]
*******************

雨の中、静流の携帯が鳴り響いた。

発信者は香月だった。

走り続けていたために乱れた呼吸を静流は整えながら電話に出た。

静流「ハァ……何?香月。」

香月{紅葉ちゃん。いたよ。}

静流は目を見開く。

携帯を持ちながらあちらこちらにうろうろとする。

静流「ど、どこ、どこに?!」

香月{桜田公園の所。早く来いよ。}

ブツッ。

⏰:07/09/02 03:27 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#212 [向日葵]
先に切ったのは静流の方だ。

桜田公園は確か真っ直ぐ行った所にある。
結構遠くまで紅葉は行ったらしい。

静流はまた走り出した。

****************

香月さんは携帯を切ってから、少し遠くにいる私の元まで歩いてきた。

静流が好きと言う事に驚いてる私はただ何も出来ずにぼーっと立っているだけだった。

香月「大丈夫?」

香月さんの声でやっと我に返った。

⏰:07/09/02 03:31 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#213 [向日葵]
紅葉「香月さん。ごめんなさい。……静流には、よろしく言って。」

私は香月さんに背を向けたけど、今度ばかりは腕を捕まれた。

紅葉「お願いだから……っ離して…………っ!」

香月「静流に君を渡すまでは絶対に離さない。」

無駄だ。
きっと静流はまた私をいらなくなる。
邪魔になる。

可愛い気もなく、ただ無愛想で生意気なガキの人形。
またゴミ箱へ。
そしてゴミ捨て場へ。

⏰:07/09/02 03:35 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#214 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/02 03:36 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#215 [向日葵]
紅葉「私ならもういいの。邪魔扱いされるのは慣れてる。だからどこかに行ったらいいんだか!」

いくら叫んでも、香月さんの手の力は緩まなかった。

早くしないと静流が来てしまう。

もう嫌だ。
あんな冷めた目で見られるくらいなら……このままどこか遠くに行った方がマシだ……!

静流が好きと気づいたなら尚更。

心が静流を求める前に早く消えないと。

⏰:07/09/03 01:51 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#216 [向日葵]
香月「静流が何か言ったなら本心なんかじゃない。」

紅葉「そんなの分かんない!きっと本心だから出て行けって言えたのよ!」

「本心じゃない。」

息を飲んだ。

時間切れだ。
もう手遅れ。
香月さんも手を離してくれない。

私はこのまま引き渡されるんだ……。

香月さん越しに香月さんの後ろを見れば、そこには傘をさしてる香月さんとは違って、ずぶ濡れの静流が立っていた。

⏰:07/09/03 01:55 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#217 [向日葵]
静流「香月。ありがとう。」

香月「おう。じゃあまたな。」

私の手を引っ張って静流に近づけた後、香月さんは自分の家に向かって雨の中に姿を消した。

沈黙が流れる。

耳をつんざく雨の音とは別に、ドクドク言う私の鼓動が耳の奥で聞こえた。

早く……足動かさないと……。
私、また静流にとって邪魔な存在になる。

静流の顔がまともに見れなかった。
自分の足元ばかり。
足のサイズが一回りも二回りも大きい静流の足も見える。

⏰:07/09/03 02:00 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#218 [向日葵]
静流「足……。」

静流の声に体が震えた。
同時に胸の奥がキンと痛んだ。

静流「血……出てる。痛い?」

声が出ない。
香月さんとは平気で話せたのに。
口を開いても、いつの間にか中はカラカラに乾いていた。

ぎしぎしする首をなんとか縦に振って、痛いと肯定。
静流は小さな声で「そっか…。」と呟いた。
そして再び沈黙が訪れる。

⏰:07/09/03 02:04 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#219 [向日葵]
先に口火を切ったのは私だ。

なんとか口内を湿らせて言葉を紡ぐ。

紅葉「帰って……。」

未だ足元を見つめた私でも分かるくらい静流の視線が痛い。

紅葉「大丈夫。じ……さつしようだなんて考えない……し。どこかで……暮らすから。」

嘘。
本当はすぐにでもこの身を絶ってまた空にある極楽へ行こうと考えてた。

でも決して人が来ない所。そうすれば誰にも迷惑はかけない。
体はやがて……土に還る。

⏰:07/09/03 02:09 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#220 [向日葵]
でも嘘をつかないと、きっと私が邪魔だとしても静流は私を離してはくれない。
だから嘘をついた。

静流は何も言わない。
ただ私を睨んでるか、見つめてるか。
もしかしたらさっさと行けって思ってるかもしれない。

それなら話は早いよね。

私が足をゆっくり半歩引いた時だった。

グイッ!!

紅葉「――――っっ!!」

静流は、私を抱き締めた。

⏰:07/09/03 02:12 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#221 [向日葵]
紅葉「静流……。違う……。」

相手が違うでしょ?

そうするのは彼女よ。
私じゃない。
貴方が愛して止まない彼女よ。

邪魔者に……することじゃない。

私は静流の胸を押し返す。でも静流はビクともしない。
寧ろ少し力が増した気がする。

お願いだからやめて……。静流。
静流。

紅葉「静流…っ!離して……っ。」

⏰:07/09/03 02:15 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#222 [向日葵]
静流は黙ったまま私を抱き締めている。

紅葉「どうしてよ…っ。出て行けって言ったじゃない!なのになんで……こんな濡れ……っ。」

言葉が続かなかった。
視界が滲む。
鳴咽で喉が詰まる。
息の仕方が分からなくなる。

紅葉「も……いいから。私なら、もう……いいから……。」

涙か雨だか分からない滴が頬を伝う。
そこで静流がようやく口を開いた。

静流「言ったじゃん……。」

⏰:07/09/03 02:20 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#223 [向日葵]
かすれる声で私は「何を?」と聞いた。
静流は私を離して肩に手を置くと、顔の間近くで私を見つめた。

瞳に吸い込まれそうになる。

静流「見つかるまで探す……って。」

目を見開いた瞬間、何粒もの涙が落ちて行くのが分かった。

静流「あんな事言ってごめん。本心じゃない。それは信じて?俺は……紅葉が大切だよ。」

微笑む静流が見える。
痛い……。心臓が痛い……。

⏰:07/09/03 02:24 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#224 [向日葵]
何故なら早足で脈を打ってるから。
そんな必要どこにもないのに。

だって静流の“大切”は、家族としてで、異性としてじゃないから。

でも、そんな言葉を言ってくれる静流が……
温かい微笑みをくれる静流が……私は大好きなんだ。

紅葉「邪魔…っじゃ、な、い……っ?」

しゃっくりと一緒に言葉を発するせいで子供みたいな泣き方になってしまう。

静流は微笑みをより一層深くする。

⏰:07/09/03 02:28 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#225 [向日葵]
頭を撫でてくれると、また私を抱き締めてくれた。

静流「邪魔なんか思った事もないよ。」

静流の息遣いが耳元で聞こえる。

私は目を瞑って安心感に身を委ねた。

紅葉「ほ……と?」

静流「本当……。」

気持ちがこもってる。
大丈夫。
静流は私を邪魔なんて思ってない。

静流「足痛い?」

また静流が聞いた。
私はゆっくり頷いた。

⏰:07/09/03 02:33 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#226 [向日葵]
「じゃあ。」と、静流は私を抱きかかえた。

静流「家に帰ろっか。」

赤ちゃんの様に抱かれた私は、静流の胸元をギュッと掴んだ。
首に腕を回すことはしてはいけないと思ったから。

静流は歩いてる間私が安心するように背中をポンポンとまるで赤ちゃんを寝かすみたいに叩いた。

それでも私は胸が詰まってただその一定のリズムに耳をすませていた。

しばらく歩いた頃だった。小さな声で静流が「あ。」っと言った。

⏰:07/09/03 02:39 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#227 [向日葵]
視線の先にはあの人……彼女さんがいた。
どうやら私が見つかったのをまだ知らないらしい。
そこら辺をうろうろ見ている。

紅葉「静流。下ろして。」

静流「え。でも……。」

紅葉「いいから。」

私を抱いてる姿を見てしまったら、また彼女は嫉妬してしまう。
二人の仲を引き裂くつもりなんてこれっぽっちもない。
だから私は先手を打った。
紅葉「あ、あの……!」

声をかけると、彼女はこちらを向いた。

⏰:07/09/03 02:42 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#228 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/03 02:43 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#229 [向日葵]
双葉「あ……っ!紅葉ちゃ…。良かった、いたんだ。」

心配してくれる彼女を見てなんだか眩しくて、今まで避けて続けた自分がなんか情けなくてまともに顔を見る事が出来なかった。
視線が泳いでしまう。

紅葉「すいませんでした……。」

それだけ言って私は家に入った。

*****************

紅葉が家に入ってしまった後、静流と双葉は門前に立って喋った。

双葉はずぶ濡れの静流に自分がさしていた傘に入れてやる。

⏰:07/09/04 00:37 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#230 [向日葵]
静流「いいよ。めう意味ないし。」

双葉「クスッ。そうだけど。今日はあったかくして寝てよ?明日風邪で休んだら承知しないんだから。」

静流「ウン。ありがとう……。」

二人の世界に入りつつある。
もう少しで唇を触れる雰囲気になりそうなのに、何かが静流を止めた。

それになんとなく気づいた双葉は話題を変えた。

双葉「あの子の事、大切にするのもいいけど自分も大切にしなよ?」

⏰:07/09/04 00:42 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#231 [向日葵]
静流「双葉も大切にする。」

そう言って双葉のおでこに唇を軽く触れた。

静流はやっぱり唇にするのを何故かためらった。

それでも双葉は満足だった。
最後にもう一度「温かくして寝るように」と双葉から念を押されて二人は別れた。
静流は双葉の姿が見えなくなってから家に入った。

****************

紅葉「ただいまー……。」

小さな声で言いながら二階へ上がると、すぐに私に近づく足音が聞こえた。

源「紅葉ちゃん!」

⏰:07/09/04 00:48 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#232 [向日葵]
源さんは私を見つけるなり、抱きついた。

避ける間もなく私はされるがままに抱き締められた。少し天パ気味の髪の毛が顔にかかってこそばい。

気づけば源さんの私を抱き締める手が震えている事が分かった。

源「良かった……。無事で……。」

まるでどこかに誘拐されてたみたいに源さんはそう言った。

優しい人達……。
私なんかの為にそこまで心配することないのに……。

⏰:07/09/04 00:54 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#233 [向日葵]
すると後ろからも足音が。もちろん静流だ。

源さんは私の後ろに静流が立つのを確認すると、私を解放して右手を軽く掲げた。

パシッ

小さな乾いた音がした。
源さんは弱く静流の頬を叩いたのだった。
私はそれをただ呆然と見ていた。

この人も殴る事なんてあるんだ……。

静流は黙ってうつ向いてる。

源「君もお母さんがいないなら分かるでしょ。家族に出て行けなんて絶対言っちゃいけないよ。」

⏰:07/09/04 01:00 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#234 [向日葵]
静流は下を向いたままコクンと頷いた。
すると静流の濡れた頭を源さんはクシャクシャと撫でた。

お咎めは終わりらしい。

源「さぁ二人共。お風呂に入って温めておいで。」

――――――……

お風呂に入った後、私はリビングのベランダ近くに座っていた。

梅雨真っ只中に入った空は、灰色のままだ。

でもそんなのとは裏腹に、私の心は少しだけ晴れ晴れとしていた。

⏰:07/09/04 01:04 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#235 [向日葵]
何故ならモヤモヤした正体が分かったからだ。

私は静流の事が、異性として好きみたい。
イライラした感情は嫉妬。脈打つ心臓は好意の印。

何故か冷静に判断出来る。
その理由はきっと、この想いが通じる事は無いからだ。

静流「紅葉?」

消えていた電気を点けられた。急で少し目がショボショボする。

静流「なぁにしてんの?」

隣にあぐらをかいて座る静流。お風呂あがりだから熱気が少し漂ってくる。

⏰:07/09/04 01:12 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#236 [向日葵]
紅葉「別に。……何も。」

体育座りをして顎を膝に乗っける。
なんだか少し寒い。

紅葉「静流。明日早いんでしょ?早く寝なさいよ。」

静流は「んー。」と唸って私を見た。
それにつられて私も静流を見てしまった。

静流「紅葉が寝るなら寝るよ。」

……意味が分からない。
さっさと寝ればいいのに。

静流「……?くれ……は?」

⏰:07/09/04 01:18 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#237 [向日葵]
いつの間にか、私の頭は静流の腕に寄りかかっていた。

お風呂あがりの腕は温かくて、とても心地いい。

心地……い……。

ズルッ!

静流「紅葉?!おいっ!」

静流が呼んでる。
うるさいから早く返事しないと。ずっと呼び続けちゃう。

静流「紅葉!」

目、開けられない。
ごめん静流。今は返事出来ない。

⏰:07/09/04 01:25 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#238 [向日葵]
なんか頭の芯がフラフラするの。

世界が揺れて、私が座ってるのかすら分からない。

しっかりしなきゃ。
静流がまた私につきっきりになってしまう。
また彼女より私になってしまう。

私は二人の仲を引き裂こうなんて考えてないの。

理不尽に嫉妬をしてしまうかもしれないけど、それでも考えてない。

私には、幸せを壊す権利なんてないんだから……。

⏰:07/09/04 01:32 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#239 [向日葵]
―堪―









静流「紅葉!」

後ろで怒鳴り声が聞こえる。頭に響くんだからもっと小さい声で呼びなさいよ。
足元がフワフワする。
世界が斜めに見える。

現在の私の体温。38.6℃。

⏰:07/09/04 01:37 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#240 [向日葵]
しっかりしろ。私の体。

壁に手をつきながらソファーまでたどり着く。
そしてそこで座って息を肺が空になるまで吐いた。

紅葉「静流…学校、あるんでしょ?早く行きなさいよ。」

静流は私の前まで来ると膝立ちをして私と目線を合わせる。

あぁ……。静流が二人いる……。

二人の静流は手を上げると私のおでこにその大きな掌を当てた。

⏰:07/09/04 01:42 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#241 [向日葵]
静流「今日は父さんも朝から仕事だし、俺今日休んでお前のか」

紅葉「馬鹿言わないで……っ。」

言葉を遮った。
言うと思った。

そんな事絶対いけない。
私の為に時間を使っては……彼女を傷つけてはいけない。

紅葉「寝てろって言うなら寝てるから。……早く、学校に行って。」

⏰:07/09/04 01:46 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#242 [向日葵]
静流は何か言いたそうにしてる。
でも私は出来るだけ目を開いて、静流を真っ直ぐ見た。

紅葉「私は寝る。静流は学校へ行く。両方の要望を聞いた条件よ。ね。」

静流はハァ……と息を吐くと、私を抱き上げた。
部屋へ連れて行くらしい。

勝手に寝るからほっといてくれればいいのに。
でも、結構体がヤバめなので実の所はとても楽だった。

⏰:07/09/04 01:51 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#243 [向日葵]
ゆっくり私を寝かすと、厚目の布団を私にかけてくれた。

そして微笑みながら私の頭を優しく撫でてくれる。

静流「じゃ、行って来るな。」

私は黙って静流を見る。

静流が三人に増えた……。三人の静流は部屋を出ていく。
階段を降りて、家のドアがパタンと静かに閉まった。

シーンと家が静まりかえる。

⏰:07/09/04 02:00 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#244 [向日葵]
ようやく息を我慢することなく出来る。

静流に心配かけまいと、本当は走った後みたいに息があがっていたけれど通常の呼吸をしようとなんとかやってのけた。

部屋に自分の息しか聞こえない。

最悪だ。ここ何年かのせいで虚弱体質になってる。
せめてもっと食事出来れば……。

相変わらず少量だけど食べれるレパートリーは増えつつあった。

⏰:07/09/04 02:04 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#245 [向日葵]
これも辛抱強く静流が付き合ってくれてるおかげだ。

そんな事をつらつら考えてると、私は眠りに落ちた。

―――――――……

痛い……。

知ってるこの夢。

母さんが見える。
笑ってる。冷酷な顔で。

何か言ってる。

「邪魔。アンタ邪魔。何で生まれたのよ。」

⏰:07/09/04 02:08 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#246 [向日葵]
あぁ……。

私また殴られてるんだ。
でも知ってる。
これは夢。
痛いけど、痛くない。

だから好きなだけ殴りなさいよ。

すると母さんは殴るのを止めた。
そのかわりまだ冷酷な顔で私を嘲笑ってる。

「アンタは本当に邪魔ね。」

知ってる。何回も言われたもの。

⏰:07/09/04 02:10 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#247 [向日葵]
「人の幸せを安々と奪うのが好きね。」

母さんの後ろに、一つの影が現れる。

あの人……彼女さんだ……。

虚ろな目をした彼女さんは、口だけしか笑ってない奇妙な笑い方をした。

双葉「静流は私のなのよ……。貴方、横取りする気……?」

―――ドクン

⏰:07/09/04 02:14 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#248 [向日葵]
違うと言いたいのに声が出ない。

そんなつもりはない。

ごめんなさい。
静流を好きになったのは確か。
でも決して引き裂こうだなんて事は……!

「嘘ばっかり。本当は思ってるんでしょ?」

母さんの声じゃないみたいに勘高い声で笑う。

違う。思ってない。
絶対!絶対に……っ!

もしそうなら、私はこの家を出る!
全ての原因が私ならば……っ!

⏰:07/09/04 02:18 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#249 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/04 02:19 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#250 [向日葵]
「約束だからね……。」

――――――――……

「!」

眠りから覚めた私はあり得ない程の汗をかいていた。
気持ち悪いけど体がダルいから服を着替えたくても起きる元気が全くない。

『約束だからね……。』

まだ耳にこびりついている彼女さんの言葉……。
私は夢の中で約束を交した。

所詮夢の中だと、切り捨てる事が何故か出来なかった。

⏰:07/09/05 22:41 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#251 [向日葵]
部屋の時計を見ると、時計の針は十二時を差していた。
あれから結構な時間眠ったらしい。
家は相変わらずシーンとしている。

「ケホッ……。」

喉がイガイガして変な感じ。水でも飲みたい。

着替えもしたいし、気合いを入れて体を動かす事にした。
鉛みたいに思い上、体の節々がなんだか痛い。
多分熱のせいだ。

なんとか体を起こして、引きずる様に体を動かす。

キィ……。

⏰:07/09/05 22:46 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#252 [向日葵]
壁に体を預けてフワフワした足取りで進む。
キッチンまで来てコップを持つものの、どこかにつかまってないと平行感覚を見失いそうだった。

とりあえずなんとか水をくんでから一気に飲み干す。

少しだけ意識がはっきりした気がした。
でも体力を全部使ったせいで着替える元気がなかった。

……せめて涼しい場所…。

フラフラしながらベランダの戸を開ける。

涼しげな風が入って来たところで、世界が真っ暗になった……。

⏰:07/09/05 22:50 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#253 [向日葵]
―――――――
――――――――……

「――……。」

何?

「…………っ!」

誰か叫んでる。

「紅葉!」

静流?

うっすら目を開けると、文字通り目の前に静流の顔があって、一瞬息が止まった。

「お前こんな所で何寝てんだよ!」

「叫ばないで……頭に響く……。」

⏰:07/09/05 22:54 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#254 [向日葵]
頭を抑えながら起き上がると、綺麗な声が聞こえた。

「こんにちは。」

紛れもなく彼女さんだった。綺麗な声に綺麗な顔。
非の打ち所が無いとはこの人みたいな人の事なんだろうな。

「紅葉ちゃん熱引いたの?」

自分の手でおでこに手をやり調べてみるけど全然分からなかった。

「多分……まだ。」

短く返すと、彼女さんはにーっこり笑った。
どうやら私が返事をしてくれた事が嬉しかったらしい。

⏰:07/09/05 22:58 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#255 [向日葵]
その笑顔と、夢の中のでの無表情な顔が重なる。

あれは夢……。
現実じゃない。

頭では分かっていても少し身震いした。

「なんか食べたい物ある?私用意するから!」

「いいって!双葉は何もしなくて。」

二人はキッチンへと行った。
仲良さそうに言い合いをしながらキッチンで何かを用意している。

「……。」

服の裾を掴む手に力が入った。

慣れろ。

⏰:07/09/05 23:02 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#256 [向日葵]
これが、当たり前。

これが、普通。

私は二人に危害を与える事は出来ない。
……ううん。しない。

バレない様に立ち上がり、部屋へ向かった。
意外にも汗を沢山かいたせいか、少しだけ体が軽くなっていた。

布団に入って、ぐちゃぐちゃ考える前に寝る事に専念した。

でもすぐに寝つけるものでもなかった。
それでも目をギュッと瞑って、夢への扉を探した。

すると

カチャ……

⏰:07/09/05 23:06 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#257 [向日葵]
部屋のドアが開いた。

静流?
それとも彼女さん?

「紅葉……?」

それは静流の声だった。

今私の格好は、静流に背を向ける形で寝ている。

ギシギシと私に近づく足音。
今は話す気分じゃなかったので私は寝たフリをした。
静流はそれに気づいてない。

小さく「よいしょ。」と聞こえたと思うと、静流が私の近くに座った。

⏰:07/09/05 23:10 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#258 [向日葵]
何か用なのだろうか神経を研ぎ澄ませながら目を瞑り続けた。

次の瞬間、私は目を開きそうになった。

優しく、柔らかく、静流の手が私の頭を撫でている。
それだけで心臓が縮まる感じがしたし、キュウゥっと音が聞こえる気がした。

やめて……。そんな事、彼女がいる今、やらないで……。

手から逃れたくて、寝返りをうつフリをして静流から遠ざかっても、手はしばらくするとついて来てまた私の頭を撫でた。

⏰:07/09/05 23:15 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#259 [向日葵]
静流……。

アンタは私をどう言う風に見てるの?

その問いに答えてくれる人なんていなかった。

コンコン

「静流?お粥作ったんだけど……寝ちゃってるみたいね。」

静かに話す彼女さん。
どうやら私に食事を作ってくれたらしい。
私は耳だけを二人に向ける。

「ありがとな。双葉も座りなよ。」

「うん。でも、良かった。大した事無さそうど。」

「ウン。」

⏰:07/09/05 23:19 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#260 [向日葵]
少し床が軋み、服が擦れる音が聞こえる。

「……静流?どうかした?」

「ん?ちょっと抱きつきたくなって。」

「フフフ……変なの……。」

やめてよ。わざわざ私の寝てる近くでそんな事しないでよ……っ。

耳だけが、二人が何をしているか分かる手がかり。
その耳を塞ぎたくなった。
しばらく沈黙が続いていた。

何故だか分からなかったけど、次に聞こえてきたのは「チュッ」と言う何かを吸え様な音。

⏰:07/09/05 23:24 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#261 [向日葵]
思わず目を開いた。

今後ろで、二人がキスをしている。

その真実が頭を鋭く突き抜けた。

熱のせいじゃないのになんだかクラクラした。
そして、涙が流れた。

知ってる。分かってる。
でも繰り返さないで。

――私が二人の仲を引き裂く権利なんてない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

長い地獄の時間が過ぎて、ようやく彼女さんが帰った。

静流が彼女さんを送り出すのに部屋を出たのを見計らって、私は一階に掛布団だけを持って降りた。

⏰:07/09/05 23:28 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#262 [向日葵]
素直に静流の部屋で寝れる気がしなかった。

大体、この家は結構な広さがあるのに何故私は静流と一緒の部屋なのか不思議だった。

聞いてみたら源さんの研究した物でほとんどの部屋は埋め尽されているらしい。

私は見た事がなかったけど、いくつかのドアノブを捻ってみると鍵がかかっていた。

どうやら源さんが管理しているらしい。

仕方なく、何個かのドアノブを捻りまくった。

⏰:07/09/05 23:32 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#263 [向日葵]
すると何個か目に……カチャっと開いた。

「……。」

そこは普通の部屋と最初は思った。
でも電気を点けると

「…えぇっ?!」

沢山のぬいぐるみ達が。
めちゃくちゃ大きいのから片手に乗るほどの小さいのまで。

唖然としていると、玄関のドアが開く音が聞こえたので中に入って思わず隠れてしまった。

見つかるのも時間の問題だけど、どうしても静流とは話す事が出来ない。

⏰:07/09/05 23:37 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#264 [向日葵]
電気を消す前に、大きなクマのぬいぐるみに狙いを定めた。

出来るだけ陰に隠れてぬいぐるみに埋もれた。

布団をかぶって、クマに寄りかかる。

ってか何でこんなにぬいぐるみがあるんだろう。

「紅葉?!」

静流のパニクっている声が聞こえた。
もしかしたら外まで行っちゃうかな。

でもまぁいいや。

目を瞑ると、何故かすぐに眠れた。

⏰:07/09/05 23:41 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#265 [向日葵]
―――
―――――……

「え?」

珍しい。
草原にいるよ私。

「こんにちは。」

後ろから声がしたので振り返ると、髪の長い大人の女性がいた。
とても綺麗。

「こ、こんにちは……。」

「貴方……紅葉ちゃん?」

え?

「何で知って……。」

⏰:07/09/05 23:43 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#266 [向日葵]
女性は楽しそうにフフッと笑うと、私の前までスキップで来た。

「さぁて。何ででしょうね。」

まだにこにこ笑っていり女性に、私は不審の目を向けた。
女性は草原に座り、広がる青空に目を向けた。

「貴方は他人を思いやれる優しい子ね。」

まるで私の行動を今まで見ていた様な口ぶりに、私は更に疑った。

「そんな事無いと思いますけど。」

「アラッ。私ならさっきあの場面でじっと寝る事なんて出来ないわ。」

⏰:07/09/05 23:47 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#267 [向日葵]
さっき?
静流と彼女さんのキスの事?

「まぁ……人それぞれだし…。別に、私は邪魔する気なんて無いから。……、側にいたいけどいたくないって思ってる事は事実だけど……。」

女性は自分の隣をポンポンと叩き、座れと指示した。素直に私は従う。

「若いのに大人ねぇ。」

「貴方も十分若いと思うけど……。」

「あらそう?!嬉しいー!」

本当に嬉しそうに女性は微笑む。
誰かに似てる気がした。

⏰:07/09/05 23:55 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#268 [向日葵]
「貴方はどうして自分を邪魔だと思うの?」

どこまでも広がる草原を遠い目で見ながら、私は答える。

「そう言う扱いを受けて来たから。」

必要として欲しくて、でもそれは無理な願いで。
必要とされる事を願うのを止めた。

だから静流が自分を必要としてくれると言った時、嬉しかった。

でも……

「その人の邪魔をするのだけは……嫌……。」

⏰:07/09/05 23:59 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#269 [向日葵]
頬にスルリと冷たい指が触れた。
びっくりして女性を見ると、悲しそうな目で私を見ていた。

「痛いわね……。心が、辛いわね……。」

胸が震えた。

痛くて仕方なかった。
それが自分の決めた道だったから、妥協を何度もして堪え続けた。

「い……痛い……。」

見ず知らずの人の前で涙を流してしまった。

でも分かってくれる人がいると思ったら、すごく安心した。

⏰:07/09/06 00:03 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#270 [向日葵]
女性はゆっくり私を抱き寄せた。

肌は冷たいのに、何故か温かく感じた。

思い出す。
母さんがまだ優しくしてくれた頃を。

「たまには……感情のまま、甘えてみるのもいいのよ。」

「そんなの……っ。出来ない……。」

「大丈夫。出来るわ。」

女性は頭と背中を優しく撫でてくれる。
まるで赤ちゃんをあやすみたいに。

⏰:07/09/06 13:38 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#271 [向日葵]
「邪魔……なるっ……。」

「ならないわよ。だって静流がそれを望んでいるもの。」

私は囁くくらいの声で「えっ。」と言った。

どうして静流の事まで知って?
私が不思議そうに顔を上げても、女性はただ優しく笑うだけだった。

すると

ピカァッ!!

いきなり空が目を開けられないくらい眩しく光り出した。

⏰:07/09/06 13:43 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#272 [向日葵]
「あら、呼んでるみたいよ紅葉ちゃん。」

「……?」

目をうっすら開けると、光のせいで女性はあまり見えなかったけどにこやかな口元だけが見えた。

「また悩んだら、ここにおいで。」

そして私自身もスゥッと光に包まれて消えていった。

――――
―――――……

眩しい…。目開けれない。

「おい紅葉!」

⏰:07/09/06 13:46 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#273 [向日葵]
眩しさに堪えながら目を開けると、静流がいた。

「何?」

「何じゃねぇよ!お前……っ。」

そこから静流はうつ向いて頭をガシガシかいた。

あ、私発見されちゃったんだ。
よく寝たからか体が軽い。頭ももうしゃっきりしてる。

「心配しただろっ!」

ようやく言葉が浮かんだのか静流は怒鳴りだした。
布団ごと私をぬいぐるみの山から抱き上げる。

⏰:07/09/06 13:50 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#274 [向日葵]
静流はお姫様抱っこをしながら私を抱き締める。

胸が高鳴る。
何故なら静流の顔が近くて、喋れば吐息がかかってしまう。

そんな間近くで見つめられてしまったら、視線を反らしたいのに逆に私も見つめてしまう。

「……っな、何…っ。」

無言で見つめられてから、更に抱き締められる。

私の耳元に、静流の口が近づく。
鼓動が静流にまで聞こえてしまいそう。

「ちょ、静流……っ。」

⏰:07/09/06 13:57 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#275 [向日葵]
「頼むから……。」

搾り出す様な声に体が固まった。

「勝手にいなくならないで……。」

……そうか。
静流は母親が亡くなってるから、急な別れを怖がってるのかもしれない。

だから、私も心配してくれてるのね。

「……はい。」

思わず敬語で返事をしてしまった。

それで終わりかと思った。そろそろ降ろしてくれるもんだと体を立て直す準備をしていた。

⏰:07/09/06 14:07 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#276 [向日葵]
でも、静流はいっこうに降ろしてくれない。

「し、しず……る……?」

******************

自分でもおかしかった。

何でこんなに心臓がバクバクするほど紅葉を心配してるのかとか。
何かを振りきる為に双葉を抱き締めたとか。

紅葉をこのままずって抱き締めていたいだとか。

そんな感情おかしい筈なのに。
俺には双葉がいるのに。

⏰:07/09/06 14:12 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#277 [向日葵]
俺は紅葉に気づかれないように頬のガーゼの上から唇を触れた。

この行動もおかしい事ぐらい気づいてる。

それでも紅葉に触れたくて、どこか心の端で紅葉が大切だと叫んでる。

*****************

「静流……。ねぇ……?」

静流は抱き締めたまま固まってる。
肩にある静流の指先に力が入っていくのが分かった。

どうしちゃったんだろ……。

⏰:07/09/06 14:19 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#278 [向日葵]
顔があんまり見えないけど、なんだか静流が傷ついてる気がした。

片手が上手く動かないけど、伸ばして静流の頭を撫でた。

気づけば初めてだった。
私から静流に触れるのは。
髪の毛が凄くサラサラだ。

「大丈夫……?」

静流はされるがままに私をまだ抱き締めたままでいる。うんともすんとも言わない。

ようやく離れたと思い、手を頭から離した。
また目が合う。

⏰:07/09/06 14:24 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#279 [向日葵]
私は自意識過剰かもしれない。

その目は何かを考えてて、だけど熱くて私を心から大切に思ってる感じがした。

きっとそれは私が静流を好きだから、良いように捕えてるんだ。
本当は「早く降りろ」って思ってるかもしれない。

必死に熱い視線と称するものから逃れて、私は体を動かした。

「降ろしてくれて構わないから。」

そう言って降りようとした。

⏰:07/09/06 14:32 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#280 [向日葵]
でも静流の腕は力を入れたままだった。

「いいから。じっとしてろ。」

そう言うと、やっとこの部屋から出てくれた。

「お、重いでしょっ?!だから、歩くわよ……。」

「病人は病人らしくされるがままになってろ。」

少し怒ってるような口調の静流に私は黙った。
リビングに行って、ソファーへ座らせてくれた。

静流はキッチンへ行って何かゴソゴソやっていた。
何分かしてから手に何かを持ってやって来た。

⏰:07/09/06 14:42 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#281 [向日葵]
「ほら、すり林檎。蜂蜜入りだから体にいいぞ。」

器にすった林檎をいれて静流は私の隣に座った。
器と静流を交互に見る。

いま食べる気分じゃないんだけどなぁ……。

「食べなきゃいけない……?」

静流はハァと息を吐くと、少しすくって私の口に近づけた。

「アーン。」

「は?」

「口開けろっつってんの。」

⏰:07/09/08 00:25 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#282 [向日葵]
アーンって!
何だそりゃ!!

一向に私は口を閉ざしたまま。

なんだかまた熱が出てきそう。
毎日やってる事だけど、アーンとか言われたら自分が今まで普通に食べさせてもらっていた事が恥ずかしくなってきた。

「い、いらないから。」

下を向いて口に入らない様にした。

するとソファー前にあるテーブルに静流が器を静かに置いた。

諦めたのかと思った瞬間、体がピクリと震えた。

⏰:07/09/08 00:28 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#283 [向日葵]
顎にするりと静流の指先が触れたのだ。

そして軽く掴むと、上を向かせて唇の間にスプーンをいれた。

思わず味を確かめずすぐに飲んでしまう。
それほど動揺していた。

まるで何かいけない事をしている気分さえした。

「な、……何…よ。」

「食べる練習だ。じゃないといつまでも林檎ばっかりじゃ駄目だろ?」

そう言うと静流はいつもみたいに膝に私を乗せる。
また静流の体が密着した。

⏰:07/09/08 00:32 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#284 [向日葵]
ドキドキ ドキドキ
心臓がうるさい。

静流はまた私の口にすり林檎を流しこむ。

今度はちゃんと味わえた。

「な、美味いだろ?」

微笑みながら、口端についた林檎をとる。

少しだけ指が唇を撫でた。

私は思わず困った顔になってしまった。
しかも顔の体温は上昇。

こんなの、静流にバレちゃう……っ?

⏰:07/09/08 00:36 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#285 [向日葵]
痛みに堪えるのも忍耐が必要だけど

静流の一挙一動に堪えるのも苦難のわざだった……。

これから、二つの事に、堪え抜いていけるのか心配だった……。

⏰:07/09/08 00:38 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#286 [向日葵]
―生―










「しっずる〜い!」

学校で静流は友人香月から大声で呼ばれて振り向く。
そして抱きつかれる。

「どわ!何だよ!」

「お前今日誕生日だろ?お祝いのハグ。」

⏰:07/09/08 00:44 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#287 [向日葵]
そうなのだ。

梅雨真っ只中の今日。
生憎天気は雨。

そんな中、17年前、静流はこの世に生を受けた。

「いらねぇし……。男のハグなんて嬉しくねぇ。」

「じゃあ誰のだったら言い訳?」

静流は思わず「へ?」と高い声を出してしまった。

香月はとりあえず離れて静流の様子を伺う。

「誰って……。」

「まぁ双葉ちゃんだよな!」

⏰:07/09/08 00:48 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#288 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/08 00:48 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#289 [向日葵]
「え?……あぁ。ウン。」

何でだ……?

俺なんで今紅葉の顔が出てきたんだろ。

「なぁ。そういえば、あの子元気?紅葉ちゃんだっけ。」

自分が考えてた事がバレたかと思って心臓が跳ねた。
冷や汗をかきながら香月に返事をする。

「あぁ。やっと熱もひいたみたいで。あと食事も段々出来るようになったよ。」
「そっか。あ、なぁ。今日遊びに行ってもいい?」

⏰:07/09/09 13:46 📱:SO903i 🆔:7H/AWLK.


#290 [向日葵]
「なんで?」

「ん〜。なんかあの子に会いたくて。」

俺は返事に困る。

どうも香月はこの頃よく遊びにくる。

それは俺と遊ぶ為じゃなく、明らかに紅葉目的で。

もしかして……好きなのか?

「あ、双葉ちゃん。」

香月に反応して勢いよく後ろを見ると、友達と喋りながら歩いてくる双葉の姿があった。

双葉は俺に気づくと、友達に何かを言ってから俺の元へやってくる。

⏰:07/09/09 13:52 📱:SO903i 🆔:7H/AWLK.


#291 [向日葵]
「静流。今日空いてる?」

「?うん。空いてるけど?」

そう言うと、双葉は突然顔を赤らめた。

どうしたのかと首を傾げながら双葉の言葉を待っていると、周りのざわめきで聞こえるか分からないくらいの音量で双葉が喋りだした。

「あの……ね。うちで、お誕生日会、二人でしない?親は、仕事で遅いし……。」

「え……。」

それはつまり……そう言うことで……?

⏰:07/09/09 13:59 📱:SO903i 🆔:7H/AWLK.


#292 [向日葵]
思わず二人で赤くなってしまう。

「いぃんじゃねぇの〜?むしろお泊まりでもしちゃえば?」

と香月が肩に腕を乗せながら二人の話に割り込んできた。
そこで思い出した。

そうだ今日コイツ来るじゃん。

それを察したかのように香月は先手を打つ。

「あ、俺なら気にしないで。って言うか、お前の代わりに紅葉ちゃんの面倒見るし。」

「は?!……お前頼むから余計な事アイツにすんなよ。」

⏰:07/09/09 14:06 📱:SO903i 🆔:7H/AWLK.


#293 [向日葵]
その時少し双葉の顔が歪んだ事を二人は知らない。

「何もしないっつーの。まぁしいて言えば……キスくらい?」

それだけ言い残して機嫌良く教室に入って行った。
その後を追う静流。

「ちょ、香月」

「静流!」

ドアにさしかかった所で、双葉が静流を止めた。
静流もその声に足を止める。

「ん?何?」

微笑みながら双葉に聞き返す。

⏰:07/09/09 14:15 📱:SO903i 🆔:7H/AWLK.


#294 [向日葵]
呼び止めたはいいが、双葉は言葉を詰まらせていた。
「あ、あの……。その……。静流は、紅葉ちゃんを」

キーンコーンカーンコーン……

チャイムが鳴ったので、まだ言い足りなさそうだったがなやむを得なく双葉は自分のクラスへと帰って行った。

静流もなんだったのかと首を少し傾げて教室へ入って行った。

******************

「誕生日?」

私は作業しながら話している源さんに聞き直した。

⏰:07/09/09 14:27 📱:SO903i 🆔:7H/AWLK.


#295 [向日葵]
源さんは相変わらず意味の分からない物をカチャカチャ作りながら私に返す。

「ウン。静流君今日で十七歳なんだ。だからお祝いしようかと思って。」

「ケーキとか……?」

「そうだねー。買って来ようか!」

ペンチを置きながら源さんは言った。

でも確か源さんは何個か作品を作らなきゃいけないから今は忙しい。
ちょっとの時間でも惜しい筈…………なら。

「私、行ってくるわ。源さんはお仕事してて。」

⏰:07/09/09 14:33 📱:SO903i 🆔:7H/AWLK.


#296 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・

とは言ったものの……。

昼間に外へ出るのはホント久しぶり。
出たとしても敷地内だから大して気にならなかった。

みんなの視線が、私の治りかけた傷に張ってあるガーゼや包帯へ行くのが分かる。

じろじろうっとおしい……。

見る人を軽く睨むとすぐに目をそらした。

野次馬根性だけはあるらしい。

⏰:07/09/10 02:48 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#297 [向日葵]
無視する事は出来なかったけど、なるべく気にしないようにしてケーキ屋さんまで歩いて行った。

ケーキ屋さんに着くと、色鮮やかなケーキが沢山あった。

静流はイチゴのホールでいいんだろうか。

「いらっしゃいませ。お決まりでしょうか?」

店員が話かけたので、15センチのイチゴのホールを指さした。

「これ……一つ。」

「ハイ。メッセージはいれられますか?」

⏰:07/09/10 02:52 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#298 [向日葵]
「あー入れて下さい。」

え?と思い、後ろを振り向くと

「香月さん。」

「よ!あ、お姉さん!メッセージは『静流君お誕生日おめでとう』で。あと、語尾にハート入れといて!」

店員は香月さんの注文を承ると、「少々お待ちください」と言って店の奥へと入って行った。

「……。」

あれ?静流がいない。
と私の視線でわかったのか、香月さんはニッと笑うと少し屈んで私と目線を合わせた。

⏰:07/09/10 02:56 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#299 [向日葵]
「静流なら一緒じゃないよ。俺じゃ不満?」

「別になんとも思ってないから。」

すると店員が奥から現れてろうそくをどうするか聞いてきた。
私が答える前に香月さんが「十本入りを三袋下さい」と答えた。
何故三十歳に……?

そして綺麗に飾られた箱を持って、私はケーキ屋さんを後にした。

「あ、持ってあげる。それと、君はこっちに来な。」
箱を奪われ、私は道路じゃない方を歩かされた。

⏰:07/09/10 03:01 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#300 [向日葵]
「別に子供じゃないんだからいいわよ。」

すると香月さんは眉を寄せて私を見てきた。

「子供?別にそんな扱いしたことないけど?」

「嘘よ。静流はするし。」

香月さんは立ち止まるとまた私と目線を合わせた。
しかも距離が近い。

「近いん……だけど。」

「あのさぁ。俺は静流じゃない訳。だから静流と一緒にしないでくれる?」

だから何だ。

私は近寄って来ないよう手を上げて香月さんの前に軽く出した。

⏰:07/09/10 03:05 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#301 [向日葵]
「じゃあ貴方は私を何だと思ってるの?」

呆れ混じりに聞くと、香月さんはキョトンとした顔をした。
そしてフッと笑う。

「決まってんでしょ?女の子。だから荷物は持つし、道路側には歩かせない。鉄則じゃね?」

今度は私がキョトンとしてしまった。

初めて女の子扱いされた。

香月さんは私の頭を撫でるとまた進み始めた。
その横で女の子扱いされた私は、少し戸惑っけど、嬉しかった。

⏰:07/09/10 03:09 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#302 [向日葵]
↑訂正

戸惑っけど×
戸惑ったけど○

――――――――――――

「……そういえば、静流どうしたの?」

「んー……。ケーキ投げないって誓える?」

「は?」

少しイラついて、逆に今投げてしまいそうだ。

「どうでもいいから早く教えて。」

もう家が見えた。
もしかしたら家にいるのかしら。

⏰:07/09/10 03:13 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#303 [向日葵]
香月さんは私が誓うまで教えてくれないらしい。
にこにこしたまま私の言葉を待っている。

叫びたくなる衝動をぐっと堪えて私は呟いた。

「……誓う。」

香月さんはにこーっと笑うと門前で足を止めて私に向き直った。

「双葉ちゃんと二人で誕生日会やるってさ。今日は帰って来ないかもよ?」

その瞬間、誓ったのに私は香月さんが持っているケーキを持って投げつけようとしてしまった。……がそれは阻止された。

⏰:07/09/10 03:18 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#304 [向日葵]
香月さんは胸元に私を引き寄せてケーキは片手で私の手が届かない位まで上げた。

香月さんは余裕の笑みで私に笑ってくる。

「誓ったよね?」

「―――!!」

端から見れば抱き合ってるように見えるのに気づいた私は直ぐ様離れた。

すると香月さんがクスクス笑う。

「顔赤いし……。」

「な……っ!」

図星だった。静流以外の男に抱き締められたのは初めてだったから、内心恥ずかしかった。

⏰:07/09/10 03:22 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#305 [向日葵]
「ねぇ、教えてあげた代わりになんか俺に権利くれない?」

私は赤い顔を直す為、密かに静かに深呼吸して香月さんん見た。

「権利?」

こっちが聞き直してるって言うのに、香月さんは話を進めていた。

「そうだな……。紅葉ちゃんにくっつける権利は?」

「は?何それ。」

人差し指を立てながら香月さんは私の目の前までずいっと寄って来た。
とっさで逃げられなかった私はその場で固まる。

⏰:07/09/10 03:26 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#306 [向日葵]
「静流の次でいいよ。君のお世話する権利を俺にくれない?」

お世話って……。

「やっぱり子供扱いじゃない…。」

「違うよ!例えば紅葉が」

あ、勝手に呼び捨てになった。

「胸を貸してって時に貸す役。つまり、恋人補助みたいな?」

余計訳分からん……。

「ってか静流恋人じゃないし。」

⏰:07/09/10 03:29 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#307 [向日葵]
自分で言って自分で傷つく。
図解して見るとハートに矢が何本もサクサクブサブサ刺さってる状態とでも言ったら分かりやすいかしら。

「違うよ何言ってんの。」

香月さんはハハッと笑うと、急に男の顔でニヤリと笑った。

「恋人候補において欲しいって事。わっかんないかなぁー。」

顔を離すと頭をポリポリかきながらいつもの香月さんに戻った。

は?恋人?候補?

⏰:07/09/10 03:34 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#308 [向日葵]
もう何が何だかさっぱりの私はただただ目が点になってた。

色々分析した結果、冷やかしだと決定して冷ややかな目で香月さんを見た。
ってかこんなの一回前にもあって笑われたし。

「騙されないけど、私そう言う遊び嫌い。」

「そう言うと思った。でも残念ながら本気なんだよね。」

と言いながらまた身を屈めて来た。
何をするのか分からない私はただ香月さんの動きを見ていた。

すると

「……!」

香月さんの唇が、私のおでこに触れた。正式には髪の毛の上からだけど。

⏰:07/09/10 03:39 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#309 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/10 03:40 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#310 [向日葵]
びっくりして、数歩素早く後退りした。
自分でも顔が真っ赤になっていくのが分かる。

「な!……っ何……っっ!」

「分かってくれた?俺の気持ち。」

ニコッと余裕の笑顔。
まるで慣れてるみたいに。
もしかしてこの人タラシ……?

威嚇する様に見つめていると、鼻歌混じりに香月さんは家へ入って行った。

は?!もしかして上がる気?!

⏰:07/09/13 00:52 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#311 [向日葵]
静流もいないのに何で……。

そこまで考えると、胸がキィンと痛くなった。

今日、静流は帰ってこない……。
彼女ときっと熱い夜を過ごすんだ。

そして帰って来たらいつも通り笑顔で私のガーゼや包帯を付け直して、膝に乗せてご飯を食べさせる。

まるで何もなかったみたいに……。

彼女に触れたその手で優しく頭を撫で、彼女の唇に触れたその唇で私の名を紡ぐ。

⏰:07/09/13 00:55 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#312 [向日葵]
キィンとした胸の痛さの余韻が目に来て、涙が溢れそうになった。

せっかく……ケーキ買ってきたのになぁ……。

肩をがっくり落として、涙を拭いた後、私は家へと入って行った。

リビングに着くと、さっきまでカチャカチャ作業していた源さんの姿が無かった。ふと目を落とすと小さな紙切れが一枚。

<急に仕事が入りました。しかも今日は帰れないかもしれません。静流君と二人で仲良くお留守番して下さいね。>

…………え。

⏰:07/09/13 01:00 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#313 [向日葵]
思わず口がひし形になる。

紙切れに書いてある文字を何度も何度も読み返してまた頭が真っ白になる。

つまり……私は今晩一人って……訳?

「なんなら俺がいてあげようか?」

いつの間にか側に来ていた香月さんは紙切れを取りながら私に笑いかけてくる。

「明日土曜だし。女の子一人は不用心でしょ。」

「結構よ。ってか帰って。」

⏰:07/09/13 01:03 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#314 [向日葵]
香月さんの背中を押しながら階段へ促す。
香月さんは口を尖らせて「今来たばっかじゃん」とか「釣れないなぁ!」とか文句を言ってる。

やっとの事で玄関へ行ってくれた香月さんは相変わらずにこにこしている。

「寂しくなったらいつでもかけといで!」

そう言って小さな紙を私に握らせて「じゃあね〜。」と去って行った。

台風一過……。騒がしい人だなんて思いながら紙に書かれた文字を読む。

数字ばっかり。明らかにケー番だ。

⏰:07/09/13 01:08 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#315 [向日葵]
無言でスカートのポケットに紙を入れて、私はリビングに戻った。

リビングに足を踏み入れると同時に

プルルルル プルルルル

電話が鳴り響く。

私が取るべきか迷った。
もし静流の知り合いなら、私がとったら勘違いされるのでは?

でも急ぎの用ならいけない。そう決断して、私は受話器を取って、ゆっくりと耳に当てた。

「はい…。もしもし。」

{もしもし?紅葉か?何だよ暗いなぁ。どうかしたか?}

⏰:07/09/13 01:12 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#316 [向日葵]
静流だった。

「……何?」

込み上げる寂しさ、悲しさ、嫉妬をなんとか噛み砕いて出た言葉がそれだけだった。

{あー。実はさ、今日帰れないかもしんないんだ。ちょっと父さんに代わってくれる?}

「……。」

ここで、源さんが帰って来ないって言ったら……静流は帰ってきてくれるのかな……。

受話器を持ったまま、そんな事を考えた。

⏰:07/09/13 01:16 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#317 [向日葵]
「あ……っ……。あのね……。」

{静流?まだ?}

その声でハッとした。
私は何を言うつもりだったんだ……。

{ゴメン双葉。もーちょっと待って。なぁ紅葉}

「源さんには私から言っとくから。」

ガチャン!

私は素早くそれだけ言って受話器を勢いよく置いた。

良かった……。彼女さんの声が聞こえて……。
聞こえてなかったら、私言ってた。

⏰:07/09/13 01:19 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#318 [向日葵]
私は……そんな事してはいけないのに。

どんよりしながらテーブルの上にある白い箱を見つめた。
見つめながら、壁に寄りかかって、力なくズリズリ床に座りこんだ。

*****************

ツー……ツー……。

電話を切られた携帯を見ながら静流はボーッとしていた。

何ショック受けてんだ俺……。
紅葉が冷たくあしらうのなんかいつもの事じゃん。

そっか……電話って表情見えないから、余計にか……。

⏰:07/09/13 01:24 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#319 [向日葵]
「静流……?」

そっと呼びかける声に静流は反応した。

「あ、ゴメンな。始めよっか。」

すると双葉はにこっと嬉しそうに笑って頷いた。

「じゃあ、はい。プレゼント。」

小さな袋を渡された。
小さなラッピングのリボンを外して中を出すと、革製のブレスレットが入っていた。

ウキウキしながら静流は手首にはめて、双葉に見せた。

「ど?!」

「ウン。似合ってる!」

⏰:07/09/13 01:29 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#320 [向日葵]
静流は双葉の頭を撫でて「ありがとう」と言った。
双葉は照れながらそそくさとテーブルへ向かう。

「じゃーん!静流の好きな物、作ってみましたー!」

「おー!すっげぇ!」

テーブルには唐揚げやサラダ、刺身と色々並んでいた。
そして端には中くらいの箱が。

「何それ。」

「あ、これ?これはケーキ!後で食べようね!」

「……。」

無言になる静流をどうかしたのかと見つめる双葉。

⏰:07/09/13 01:33 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#321 [向日葵]
その視線に気付くと、静流はそっと微笑んだ。

「いや、紅葉がな、ケーキは食べられるのかなぁって思ってさ。」

「……そう。…私、飲み物取ってくる。」

そう言って、双葉はキッチンへ向かった。
冷蔵庫の前では、少し落ち込む双葉の姿があった……。

ザ―――……

まだ梅雨は終わってないと言う様に、急に雨が降ってきた。

*********************

雨だ……とソファーで膝を抱えて寝転びながら思った。

⏰:07/09/13 01:37 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#322 [向日葵]
夕方から夜に近づいていく為か、雨雲のせいか、空は暗くなってきた。

リビングでは電気をつけてもないし、自然の光だけ。
と言っても、明るくないのは確かだけど。
雨の音が、家のシーンとした静けさを消してくれるからなんだかホッとする。

起き上がって、肩越しにチロリとテーブルを見る。

さっきと全く変わらない位置に、箱はあった。

これを見たら、静流はきっと申し訳なく思ってしまう。そして源さんは何故帰って来なかったのかと怒ってしまう。

⏰:07/09/13 01:42 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#323 [向日葵]
私はゆっくりと立ち上がって、箱に近づいた。

そして開ける。

綺麗な赤いイチゴと、デコレーションされた生クリーム……。

手を出して、ケーキへダイブさせた。
掌で、ケーキを掴む。

グチョッと音を立てながら、ぐちゃぐちゃになったケーキを口へ運んだ。
甘ったるくて、まだ完全な体じゃない私の体はケーキを拒否していた。

……でも。

「――……っんぐ!」

⏰:07/09/13 01:46 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#324 [向日葵]
吐くのを必死に堪えて私はケーキを飲み込んだ。
吐かない様に口元を押さえて、よろよろてキッチンまで行く。

コップに水をくんで、一気にケーキを流しこんだ。

そしてまた水をくむ。

これで、丸々一個ケーキを食べてやるつもり。

なんだか意地になってきた。

痛い……痛い……。
胸、凄く苦しい。

ケーキを口に含んでは、水を飲みを繰り返した。
でも一向にケーキは減らない。

⏰:07/09/13 01:54 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#325 [向日葵]
「ん……っう、うっ……。」

吐きそうな声に、鳴咽が混じった。
ケーキが……しょっぱい。

「うぅ……っ。ズッ。うぇぇ……。」

顔が、生クリームと涙でぐしゃぐしゃになる。
それでも、ケーキを食べる手も涙も止むことは無かった。

どうしてこんなに泣かなきゃいけないの?
私知ってる。
泣いても何も変わらない事。

だってずっとそうだった。

⏰:07/09/13 01:58 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#326 [向日葵]
泣いてもわめいても、止むことのなかった母さんの手。

だから私は、涙を流すのを止めた。

なのに……

ここへ来てから、温かさとか、好きな人への恋しさとか、色々知っちゃったから……。

また涙を流す事を思い出してしまった。

「う……っ。んぐんぐ……っ。はぁっ……。うぅぅっっ……。」

私は少し手を止めて、ケーキを掴んでいなかった方の手で目を拭った。

⏰:07/09/13 02:02 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#327 [向日葵]
ケーキは綺麗に、そして皮肉にも、メッセージの「静流」の部分だけが残っていた。

―――――――……

「―――……?」

目を開けると、目を瞑ってた時と変わらなかった。
真っ暗。
雨なので月の光すらない。

どうやら知らずの間に寝ていたらしい。

手には生クリーム。
少し起きればケーキの残骸が見えた。

とりあえず今は食べる気になれないので手を洗った。

⏰:07/09/13 02:07 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#328 [向日葵]
今何時だろう……。

目をこらすも暗くて見えない。

まぁ別にいいだろう。
朝になれば、少しは明るくなるだろうし……。

ベランダの戸を開けた。
湿気が体にまとわりつく。

今、私が前みたいに消えたら、それでも静流は探してくれるのかな……。

ねぇ静流。私、静流と両想いになる事望んでるけど望んでない。

それでも、私が貴方に好きと言ったら、貴方はどうする?

⏰:07/09/13 02:11 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#329 [向日葵]
でもきっと……貴方は彼女がいるからと、断るんだろうね。

苦笑しながら、雨空を見上げた。

すると

キンコーン

私は目を見開く。
うそ……っ。もしかして……。
足が勝手に玄関へ走り出す。

静流……。

静流!

バン!!

「わ!びっくりしたぁ!!」

⏰:07/09/13 02:15 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#330 [向日葵]
「香月……さん。」

そこには傘を畳みながら立っている香月さんがいた。
あまりの自分の体の反応に、笑えた。

「?何かおかしかった?」

「何しに来たの?……あぁ。馬鹿にしに?フラレてやんのー!って?」

イライラしながら叫んで私はリビングへと帰ろうとした。

しかし

香月さんに腕を掴まれてしまった。

⏰:07/09/13 02:19 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#331 [向日葵]
私はそのまま固まる。

玄関のドアを開けたままなので雨の音が大きく聞こえる。
それに重なって、香月さんの声が聞こえた。

「泣いてるかな……って。心配だったんだ。」

息を飲んだ。
でも弱いとこ見られたくなくて、何もない風に振る舞いながら香月さんを振り返る。

「何で?誰の為に?何のメリットがあって?」

香月さんを馬鹿にするように嘲笑いながら言っても、香月さんに通用しなかった。

⏰:07/09/13 02:23 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#332 [向日葵]
それどころか、怒った様な、悲しそうな顔をして私を自分の近くまで引っ張った。

そして指先で目元をなぞる。

思わずビクッとして目を軽く見開いた。

「じゃあなんで目、赤いの?」

「――――!!」

言葉を考えてる余裕なんかなかった。
言い返すにふさわしい言葉が見当たらなかった。

それに、今の状況……。

「……っ。」

⏰:07/09/13 02:28 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#333 [向日葵]
香月さんは自分の胸元に私ね顔を押し付け、抱き締めた。

私は何が怒ってるのか全然分からなくって、息が止まった。

「言ったでしょ。胸貸すって。」

それだけ言うと、更に私をキツク抱き締めた。
昼間の様なふざけた抱き締め方じゃない。

好きな人が傷つかないように、優しく、愛しく……。
私が……ずっと求めていたもの……。

⏰:07/09/13 02:32 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#334 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/13 02:33 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#335 [向日葵]
―拭―











香月さんの体温は暖かくて、すごく安心した。
確かに、私が欲しかった物をくれた。

でも欲しいのは、香月さんからじゃないの……。

玄関を見れば、既に九時を回っていた。

⏰:07/09/14 02:10 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#336 [向日葵]
大分寝てたんだと抱き締められたままぼんやり思った。
香月さんの腕の力が緩む事はない。
ただ黙って、まるで傷ついてる私を優しく消毒してくれているみたいに包んでくれてる。

別に嫌だとかそんな事は不思議と思わなかった。

でもただ、ドキドキと胸の鼓動は聞こえなかった。

あの静流に抱き締められたみたいに……。

「ねぇ。何してたの?」

ようやく口を開いた香月さんが私に聞いた。

⏰:07/09/14 02:14 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#337 [向日葵]
少し距離をとって私は香月さんを見上げた。

「……それより。玄関のドア、閉めて。」

「あ。」っと言い、香月さんは私から完璧に離れてドアを閉めた。

ガチャン

「で。何してたの?」

いつもよりも穏やかな笑みで私に聞いてくる。

その時ばかりは少し空気が違う事に戸惑って、リビングがある上を見上げた。

「……。ケーキ貪ってた。とりあえず上がって。」

⏰:07/09/14 02:18 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#338 [向日葵]
私は先に階段を上った。
その後ろから少し距離を開けて香月さんが来ている。

リビングに来ても明かりはつけなかった。

すると香月さんがまるで自分家であるように慣れた手つきでテーブルだけを照らす部分照明を点けた。

照らされた先には、ケーキの残骸。

あと少し……食べきらないと。

「ここまで、君が全部?」

私は無言で頷いてキッチンでさっきの様に水をくんで戻ってきた。

⏰:07/09/14 02:23 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#339 [向日葵]
私はまた手で掴んでケーキを食べ始めた。

正直胸やけがしてて気分悪い。
でも早く食べて、ケーキの箱をどこか知らない場所に捨てて、私はお風呂に入って甘ったるい匂いを消す作業をしなくちゃいけない。

さっきより更に込み上げる嘔吐感と戦いながら黙々と食べては飲みを繰り返した。

「ねぇ。ちょっと何やってんの?」

それを唖然と見ながら香月さんが言った。
私はそれを無視してケーキを貪る。

⏰:07/09/14 02:33 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#340 [向日葵]
流石に私の頭がイってしまったと感じたのか、香月さんはケーキを掴む私の手を掴んで止めた。

「ケーキを見たら、静流が後悔する。どうして自分は帰って来なかったんだろう。せっかくケーキを買って待っててくれてたのに……。って。」

水を一口飲む。

味に飽きてきた。でも食べなくちゃ。

「そこまで自分苦しめる必要なんか無いだろう?!」

掴まれている手をただなんとなく見ながら私は答えた。

⏰:07/09/14 02:40 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#341 [向日葵]
「自分自身に約束したの。静流がもしも私を好きになる様なことがあればこの家を出て行くって。」

信じられないと言った風に眉を寄せ、香月さんは私を見つめる。
それでも私は続けた。

「私が来てしまったせいで、今の彼女さんの幸せを奪うことがあるなら、私は自分が許せない。私は…………必要以上の幸せを貰うのは苦しい。」

そんな権利すら……きっと無いのだから……。

「手、離して。」

一瞬力が入ったけど、直ぐに手を解放してくれた。
そして私はまた胃に流し込む。

⏰:07/09/14 02:46 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#342 [向日葵]
あと三口くらい。

自分でも短時間でよくここまで頑張ったと思う。

すると、私の三口分を手で一掴みして、香月さんが食べてしまった。

「もう気分悪くならなくていいだろ?」

ニヤッと笑いながら口元の生クリームを指で取って舐める。

私は「そうね。」とだけ言って着替えを持ってシャワーを浴びに行った。

シャンプーのいい匂いで包まれるかと思ったけど、どこか自分が生クリーム臭い気がしてならなかった。

⏰:07/09/14 02:50 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#343 [向日葵]
シャワーを終えて、歯磨きをし、部屋で寝ようとドアノブに手をかけたけどまた引っ込めた。

今日はここで寝る気分じゃない。

リビングに向かうと、ケーキが無くなった箱を香月さんが処理していた。

私は黙ってソファーに座る。

「もう私寝るから帰っていいわよ。」

「んじゃ俺も泊まるわ!」

と言いながら私の隣に座った。
何故と言う気持ちが隠せない顔で香月さんを見ていると、頭を持たれて強制的に膝枕をしてくれた。

⏰:07/09/14 02:55 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#344 [向日葵]
「ハイ、ね〜むれ〜。」

「子守唄歌ってんじゃないわよ!何で私が貴方の膝枕で寝なきゃいけないのよ!ってか帰りなさいよ!」

「今帰っちゃったら、また君泣くんじゃない?」

頭を撫でられながら言われた。
そんな事ないって否定したかった。
でも出来なかった。

「膝枕されてあげてもいいけど私の寝顔見るのだけはやめて。」

「りょーかい。」

言い方が軽かったんでハッタリをかましてるんじゃないかと目を動かすと、口に笑みを残したまま目を瞑っていた。

⏰:07/09/14 03:00 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#345 [向日葵]
そこでようやく私は目を瞑った。

外は、相変わらず雨だ。

*****************

――――――――……

「ん、んー……。あれ?」

狭いベッドに寄り添って寝てた事に気づいた静流は、隣に寝ている双葉を起こさないようにそっとベッドを出た。

カーテンを開ければ夜明け前。
そろそろ帰ろう。近所の目が光ってない今がチャンスだ。

「……ん。……静流?」

「ゴメン。起こした?双葉、俺帰るな。」

⏰:07/09/14 03:04 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#346 [向日葵]
「そっか……。」

双葉は静流の隣に来ると、キュッと抱きついた。

それを見て静流は双葉をからかう。

「なぁーに双葉さん。甘えてんの?」

「ウン。ダメ?」

素直な双葉に穏やかな笑みを返して、静流も双葉を抱き締めた。

「また電話すんね。」

「うん。待ってる。」

そう言葉を交した後、軽く唇を触れて、静流は双葉宅から出て行った。

⏰:07/09/14 03:08 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#347 [向日葵]
帰る時には雨が小雨になっていたので、カバンで雨を防ぐ事なくなんなく帰れた。

実は双葉宅から静流宅までは歩いて30分くらい。

きっと今帰ったら紅葉びっくりするだろうなと想像して、誰もいない道で静流は笑った。

そして自分の家が見えてきた。
鍵を開けて、誰も起こさないように静かにドアを開ける。

心境は寝起きドッキリの気分だ。

「ただーいまー……。」

⏰:07/09/14 03:12 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#348 [向日葵]
後ろ手にドアを出来るだけ音を立てないように閉めた。

靴を揃えて自分の部屋に向かおうと足を進めかけた時だった。

ふと違和感を感じた。
その違和感を感じたのは、さきほどの玄関。

戻って見ると見慣れない靴が……。

……父さんのか?

疑問を抱いたまま二階へ。
あ、寝る前に何か飲もう。そう思いリビングへ足を運んだ。

そして……入口の前で止まる。

⏰:07/09/14 03:17 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#349 [向日葵]
明らかに、父さんでも、紅葉でもない影がそこにはあった。

もしかして……

頭をよぎった人物にまさかと投げかけながら、静流はリビングの電気を点けた。

パチッ

*******************

眩し!

暗闇からいきなりの光は、まだ眠りが浅い私を目覚めさすのには十分だった。

香月さんが点けた?
いやでも自分の頭の下にある物は香月さんのだ。

⏰:07/09/14 03:20 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#350 [向日葵]
香月さんを見ると、香月さんも目を覚ましたらしいのか目をショボショボさせていた。

あ、もしかして源さん?

人物を確認する為に、私は体を起こして電気を点けた本人を発見する。

「……?静流?」

静流は何かに驚いている。多分香月さんだろう。

ソファーから離れて、静流の元へ行く途中時間を確認した。

―――まだ五時……。

「こんな時間にどうしたの?」

⏰:07/09/14 03:24 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#351 [向日葵]
バシン!

……へ?

何が起こったか分からなかった。
ガーゼを張っていない方の頬が熱を帯びている。
そして痛い。

「なぁ。お前何やってんの?」

静流の低い声を聞いて分かった。
私はひっぱたかれたんだと。

静流は私の胸ぐらを掴んで自分へ引き寄せた。

「おい静流?!」

そこで香月さんが私の後ろから止めに入ったが、静流の目は私しか捕えてなかった。

⏰:07/09/14 03:27 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#352 [向日葵]
「何やってんの?」

何が?
私が何をしたって言うの?

「私、静流が怒るような事した覚えないんだけど。」

「じゃあ香月何でいんだよ。しかも父さんは?」

紅葉はぎくっとした。

実は静流は玄関で源の靴が無いのを、今では犯人が分かった靴を見た時に気づいていたのだ。

「仕事で……昨日出て行ったっきり……。」

私がそう言うと、胸ぐらの手を外してくれた。
でも冷たい目からは解放してくれない。

⏰:07/09/14 03:32 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#353 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/14 03:33 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#354 [向日葵]
「なんであげた……。お前一人なら尚更だ。男をあげるなよ!」

は?

「何それ?」

私は呟いた。
怒りが、血となって頭に上りだす。

だってそうでしょ?
私は何も悪いことしてない。
ってかアンタよく自分を棚に上げて言えるわよね。
アンタはどうなのよ。

「私は別に静流の子供でもなければ恋人でもないの!何でアンタにそこまで束縛されなきゃいけないわけ?!」

⏰:07/09/14 11:06 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#355 [向日葵]
「お前な」

「自分だって何よ!こんな時間に帰って来てるくせに!私の事とやかく言う前にアンタ自ら見本見せてみなさいよ!」

まだ早朝なのを忘れて、起きたてであまり働かない脳を必死で動かして言葉を搾りだした。

「俺は……きちんと昨日連絡しただろ。」

「そうね。なら番号知らないのに私に電話かけろって言いたいわけ?私は超能力者じゃないの。」

そこで静流はカッとなったのか、また右手を振り上げた。

⏰:07/09/14 11:12 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#356 [向日葵]
「殴れば済むと思ってんの?」

そこで静流はハッとして、振り上げたまま静止した。

どいつもこいつも気に入らない事があればすぐに暴力なのね。
静流も最近おかしい。
まるで監視されてるみたいでイラつく。

「殴りなさいよ。それで気が済むんでしょ。何度でも殴りなさいよ。そしてまたゴミ捨て場に捨てればいいじゃない。」

静流は目を凍らせたまま右手をゆっくり下ろした。
今度は私が冷たい目で静流を見ている。

⏰:07/09/14 11:16 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#357 [向日葵]
香月さんは初めて聞く私のエピソードに驚いて私を見下ろしていた。

「ごめん……紅葉。」

叩いた方の頬を撫でようとした手を私は乱暴に振り払った。

「お風呂入ってもないのに触らないで。それ以前に、私には当分触れないで。」

そう言ってから久々にベランダへ出て、ピシャリと戸を閉めた。

静流は……何も分かってない。

********************

俺は後悔していた。

⏰:07/09/14 11:21 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#358 [向日葵]
暴力に敏感になってる紅葉に手を上げるなんて、出ていけって言った時と同じくらいしてはいけない事なのに…………。

叩いた右手をギュッと握りしめた。

「なぁ静流……。」

「ん?何?」

香月は紅葉の背中を指差しながら俺に聞いてきた。

「ゴミ捨て場って……。」

「ウン。……本当なんだ。」

香月は紅葉を見つめながら「そっか……。」と呟いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

香月も帰り、家には俺と紅葉だけになった。

⏰:07/09/14 11:26 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#359 [向日葵]
相変わらず紅葉は飽きもせずにベランダにいて、空を見上げている。

「当分触るな宣言」をされていたけど、このままじゃいけないと思ってベランダに近づいた。

放っておくと、雨と一緒に紅葉がどこか行ってしまう気がして……。

紅葉の丁度後ろに座って、ガラス越しに背中に触れる。

「く……紅葉……。」

囁きは聞こえない。

「紅葉っ。」

声を大きめに名前を呼ぶと、聞こえたのか少し身じろぎした。

⏰:07/09/14 11:31 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#360 [向日葵]
戸をゆっくりと開ける。

「なぁ……紅葉。中に入れよ。」

その言葉を紅葉はことごとく無視した。
雨がまた少し強まって降っているのに気づく。

「な?ガーゼも貼り直さなきゃいけないだろ?」

俺は紅葉のすぐ側で膝まずいた。

********************

来ないでよ。
何で放っておいてくれないの。

予想通りだ。
やっぱり静流は帰って来たら優しくそう言うんだ。

⏰:07/09/14 11:37 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#361 [向日葵]
私は首を傾けて膝にフッつぶした。
静流の方は見ないようにして。

「紅葉。ごめんって。」

「そんな安っぽく謝らないで。」

機嫌をとるだけの言葉なんていらない。
でもだからって謝って欲しい訳でもない。

静流に、思い知らしてやりたい。
さっきの行動が、私をどれだけ傷つけたか。

「じゃあ……どうやったら、許してくれる?」

そこで頭を上げて静流を見た。

⏰:07/09/14 11:42 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#362 [向日葵]
静流はぎこちなく微笑む。
でもそんなの今の私にはイラつきの対象の他何でもなかった。

「言った筈よ。私に当分触れないでって。心の中まで触れてくんなって事。……いい?」

静流は傷ついた顔をして私を見つめる。

「紅葉、あの……。」

伸ばしてきた手をまた私は払うんじゃなく叩き落とした。

「日本語が通じるなら早くあっちへ行って。」

静流はゆっくりと立ち上がってベランダを後にした。

⏰:07/09/14 11:49 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#363 [向日葵]
もういい。

私は何なの?
どうしてこんな扱いを?

これは罰?
幸せになろうとしている神様からの罰なの?

……ならば、私は受けるしかないのかもしれない。

少し身動きすると、クシャッと何か紙のような音がした。
ポケットに何か入ってる。
探ると小さな紙切れ。

「香月さんの……。」

そう。あのケー番が書かれた紙。

⏰:07/09/16 01:34 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#364 [向日葵]
お風呂に入った後、洗濯しちゃう服から抜き取って今の服のポケットに入れたのを忘れていた。

そういえば、いつの間にか香月さんがいなくなってる。
少し助けて貰ったのに、お礼言えなかった。

「…………。」

私は立ち上がって、リビングへ入った。
リビングにある電話の子機を持って、下へ降りようと階段へ向かった。

リビングだともし静流が来たら嫌だからだ。

「えっと……090の……。」

⏰:07/09/16 01:39 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#365 [向日葵]
ボタンを押しながら階下へ向かおうとすると、後ろで部屋のドアが開いた。

「紅葉?……あの、どうかした?」

「……。6739と。」

無視してボタンを押し終える。
耳に当てるとプルルルと呼び出し音が鳴っていた。

ガチャ

{ハイ。}

「もしもし。紅葉です。香月さん。」

*******************

「もしもし。紅葉です。香月さん。」

俺は耳を疑った。

⏰:07/09/16 01:44 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#366 [向日葵]
なんで香月の番号を紅葉が?

俺には目もくれず、下へ降りて行く紅葉。
階段を降りる際にチラリと見えた小さな紙。
きっとあれに書いてあるんだろう。

「マジか……。」

一旦ドアを閉めて部屋に入り、ドアにもたれて唖然とした。

香月は……紅葉に本気?

もしかして昨日、二人の間に何かあったとか?

「……あれ?」

無意識に握られた拳を見て、俺は頭に?を浮かべた。

⏰:07/09/16 01:48 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#367 [向日葵]
「なんで俺……。」

怒ってんの……?

掌をグーパーするのを繰り返して、手の力を抜く。

別に紅葉に恋人が出来たって……何らか関係無いじゃないのか?

なんで俺

「こんな胸……痛いんだろ。」

自分の胸に手を当てて、胸が痛まるのが治まるのを待つ。

[なら誰がいいんだよ。]

香月に抱きつかれた時、香月から聞かれた事だった。

⏰:07/09/16 01:53 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#368 [向日葵]
俺なんであの時

―――――紅葉の顔が…………?

********************

私は一番下の階段に座って香月さんと話していた。
香月さんにお礼を言ったら「気にすんな。」と帰ってきた。

{それより、ちゃんと覚えててね?}

「何を?」

{俺が君の恋人になりたいって事。}

返事に困った。
恋だの愛だのそんなもの知らなくて初めての私は上手く返す事が出来ない。

⏰:07/09/16 01:58 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#369 [向日葵]
しばらく沈黙でいると、受話器越しにクスクスと笑い声が聞こえた。

{クスクス。ごめん。困らせた。じゃあまたね。}

それだけ言って、香月さんとの電話は終わった。

好きと言われるのは正直悪い気はしない。

……でも。
この先、叶わない気持ちだと分かってても……やっぱり欲しいのは、一番好きな人がいい……。

上に上がって、静流の部屋の前で立ち止まる。

ドアを見つめながら思った。

⏰:07/09/16 02:02 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#370 [向日葵]
私が……香月さんと付き合えば、静流の事を忘れる事が出来るのかもしれないな……。

そうしたら、神様は許してくれるかな。

私も幸せになっていいって、認めてくれるかな……。

その時。

ガチャ

「!」

「!」

静流の部屋のドアが開いた。お互いに驚いて、見つめ合ったまま時間が流れた。

⏰:07/09/16 02:09 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#371 [向日葵]
「電話……終わった?」

苦笑気味に静流が聞いてくる。
私は何も言わず、ただ静流を見ていた。

一体、この人は私をどう見てるんだろう。
……決まってるか。
子供、もしくはそれに似たものだな。
ペットかもしれない。

「静流。」

「ん?何?」

「……。香月さんってどんな人?」

静流の表情が、何故か硬くなった。
なんだか少し悲しそうにも見える。

⏰:07/09/16 02:13 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#372 [向日葵]
「いい……奴だよ。」

「そーよね。……それなら、問題はないわよね。」

私は子機を置きにリビングへ戻った。
振り向くとすぐそこに静流がいた。
少し不機嫌気味に聞いてみる。

「何?」

「香月が好きなのか?」

……。だったら?
って言っても、その予想は外れているけれど。

好きな人はアンタだって言ったら静流どうするんだろ。

⏰:07/09/16 02:16 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#373 [向日葵]
そんな事、言うのは許されないけど。

「そうだとしても、静流には関係ないでしょ。」

冷たくあしらって、静流の横を通りまたベランダへ出ようとしたら、手を掴まれた。

――ドキ……。

「関係……無いけど。」

静流の顔がうつ向いてて、何か言ったみたいだけどあまり聞こえない。

「ねぇ何?」

静流は無言になる。
ちょっとイライラしてきた。

⏰:07/09/16 02:20 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#374 [向日葵]
「ちょっと!用がないなら離して!ってか約束と違」
「関係無いけど嫌なんだっ!!」

いきなり大きな声を出されて身がビクッとすくんだ。
ようやく上げられた静流の目はとても熱くて、私を射抜く。
まるでこの前ぬいぐるみの山から抱き上げられた時みたいに。

血がドクドクいって全身を駆け巡るのが分かる。
体が、静流の全てに反応してる。

「香月は友達だし……お前にも、幸せになってもらいたい。俺だって双葉がいることくらい分かってる……。」

⏰:07/09/16 02:25 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#375 [向日葵]
一部の言葉に胸がチクリとした。

静流の熱い視線はそのままだけど、悲しそうに、苦しそうに顔は歪む。

「――――分かってるけど……。……お前には、ずっと近くでいて欲しいんだ……。」

胸が震える。
どうしてそんな事言うの……?

「おかしいよ静流……。その言葉……間違ってる。」
だって、それは大切な人に向ける言葉じゃないの……?

「分かってるよ。自分がこの頃おかしいことくらいな。」

⏰:07/09/16 02:29 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#376 [向日葵]
間違ってる。

でも私は今、とても嬉しい。
静流の気持ちが分からなくて、何故ぶたれるのかとか、怒ってるかとか……意味もない行動を取られるよりも……何よりも……。

でも、好きとは違うんだよね……。

「静流。知ってる?」

「何……が?」

掴まれている手首をやんわり外しながら、私は続けた。

「静流が私に構いすぎたら、彼女さんが傷つくの。ううん違う。もう傷ついてる。」

静流の熱い瞳は途絶え、彼女を思う愛しい気持ちが瞳に映る。

⏰:07/09/16 02:34 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#377 [向日葵]
そう……。

これでいい。

これで……。

「私は、言ってみれば赤の他人なの。私より香月さん。香月さんより彼女さんを大事にしてあげなさいよ。」

あぁ……。涙出そう。
昨日のケーキ食べてた時みたい。
すっごい惨め。
すっごい虚しい。

「だから、そんな言葉、私に言ってはダメ。言う相手間違ってんじゃないわよ。」

間違ってほしくなんかなかった。

⏰:07/09/16 02:37 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#378 [向日葵]
その言葉は、私だけに欲しかった。

分かってる。分かってるよ!何度も繰り返した。
私は静流と幸せになってはいけない。
なれっこない。
私のせいで、彼女さんの幸せを取っては駄目。

頭の…心の隅に……ちゃんと刻んで、覚えてる。

でも欲深なの。
幸せの味を覚えてしまえばしまうほど。

もっと――――
もっと……って――――

心が叫ぶのが分かる。
胸が軋むのが分かる。

⏰:07/09/16 02:42 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#379 [向日葵]
ほら……。

笑え……。

「ね?分かった?」

笑えてる?静流。
久々に笑顔を見せれた。

久々すぎて、おかしな事になってないかな?

静流は何度も私の闇を拭いさってくれた。
だからせめて……静流には幸せになってほしいから……。

私は、例え苦しんでくじけそうになっても、いくらでも我慢出来る。

いつまで頑張って笑顔を作ればいいんだろう。
静流の反応が気になる。

⏰:07/09/16 02:46 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#380 [向日葵]
静流を見れば、静流の顔がまるでどこか痛いかのように泣きそうな顔をしていた。

あの、彼女さんを思う愛しい気持ちは消えている。

静流は一歩一歩よろよろと近づいてくる。
そして……そっと大きな手で私の顔を包んだ。

息を飲んで、大きく目を開いた。
顔に熱が集まる。

「初めてだ。……紅葉が笑うの。」

まだ悲しそうな顔で私を見つめながら、静流は力無く微笑む。

⏰:07/09/16 02:51 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#381 [向日葵]
「でも。」と言いながら、静流は私を抱き寄せた。

更に息が出来なくなる。

「し……し、しず……っ。」

「そんな辛そうに笑う紅葉なんか見たくなかったよ……。」

辛そう……だった?私、隠せなかったんだ……。

自己嫌悪に陥っていると、静流の体が離れた。
肩に手を置かれて、またガーゼを貼り直そうとでも言うのかと思った。

でも違った……。
それは、とても予想外な事で、あってはならない事なのに……。

⏰:07/09/16 02:55 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#382 [向日葵]
静流は私に目線を合わすと、熱を帯びていてそれで真剣な目を私に向けてきた。

私はその目を見てからはもう何も考えれなくなって、静流の行動をただ見ておくしかなかった。

だから分からなかった。

静流が……私の唇に触れているだなんて……。

思ってもみなかった……。

触れているのが……静流の唇だなんて……。

⏰:07/09/16 02:58 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#383 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/16 02:59 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#384 [向日葵]
ひとまず安価しておきます良ければお使いください
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-385

⏰:07/09/16 03:12 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#385 [向日葵]
―忘―










あれほど願った。

気持ちが欲しい。
でもそれは許されない。
だから静流。私に構ってはいけないと……。

―――――なのに。

⏰:07/09/17 00:45 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#386 [向日葵]
なのに今……

何が起こってるの……?

熱い……。
柔らかい……。

何これ。

静流の顔が目の前にあって、吐息が口の中に少し入って……。

なんで私……静流とキスしてるの……?

目を開いて、瞬きする事もなく私は固まっていた。

静流の顔が、ようやく離れた。
止まってた息がやっと出来る。でも上手く息が吸えない。

⏰:07/09/17 00:52 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#387 [向日葵]
「……。何……して、るの……。」

声がかすれる。
顔が熱くて、唇には感触が残ってて。

静流を見ると口元を手で隠して目を見開いていた。
まるで自分がしたことに驚いてるみたいに。

冷静になれ私。
動悸止まれ。

「こんなことして……いいと思ってんの?」

静流ん見ても、まだ床を呆然と見ているだけ。
言葉を発してくれない。

何で何も言ってくれないの?
後悔してるって言うの……?

⏰:07/09/17 01:04 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#388 [向日葵]
私は静流の横っ面をパシッと音が鳴る程度に叩いた。

その軽い痛みで静流は我に帰ったらしい。
目の色が変わった。
そして私の顔をゆっくり見る。

「聞いてる?……こんな事、していいの?駄目だよね?」

沈黙が私達を包む。
静流はぎこちなく目を動かして頭を働かせているみたい。

私は黙って静流の言葉を待つ。
隠した手から、口をパクパクとするのが見える。

⏰:07/09/17 01:13 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#389 [向日葵]
やっとの事で出てきたのが、次の台詞。

「……忘れろ。」

そう言って静流は自分の部屋に入ってしまった。

―――忘れろ。

今確かにそう言った。
何よそれ。
勝手に抱き締めて、勝手にキスして。
それで忘れろ?

さっきまでの静流に対する熱が怒りの熱に変わる。

いい加減にしなさいよ……。

バンッ!!

⏰:07/09/17 01:21 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#390 [向日葵]
気づけば静流の部屋のドアを開けていた。

ベッドで寝転んでいた静流は突然の訪問者に驚いて飛び起きた。

「……わよ。」

「え……。」

キッと静流を睨みつけて、顔や手に貼ってあるガーゼと包帯を乱暴に取ってやった。

それを、できるだけ静流の方に投げた。

「言われなくても忘れてやるわよっ!勝手にされて、何の感情もないキスなんか、すぐに忘れてやるわよこのスケベジジィ!!」

⏰:07/09/17 01:30 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#391 [向日葵]
バンッ!!

「ハァッ!ハァッ!」

私は口をゴシゴシ拭いた。

悔しい。
何でこんな思いしなくちゃいけないの?!
私ばっかり振り回されて、胸の中ぐちゃぐちゃにされて……っ!

ポタポタ。

フローリングに滴が落ちる。

こんなに泣いて……。
最近は泣いてばっかり。

静流を好きって知ってからずっと胸が軋む。

⏰:07/09/17 01:36 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#392 [向日葵]
********************

俺は投げ捨てたガーゼと包帯を拾いながら、反省していた。

忘れろと言った事。
抱き締めてしまった事。

……キスしてしまった事。

抱き締めたまでの自分は覚えてる。
でもキスは…………自分でも何故したか分からない。
そっと指先で、自分の唇をなぞる。

そして軽く叩かれた頬……。

⏰:07/09/17 01:42 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#393 [向日葵]
[ね?分かった?]

「……。」

あの痛ましい笑顔……。
抱き締めずにはいられなかった……。

無理して笑ってるのが分かった。
何でそんなに辛そうなのかは分からない。
せっかくの初めての笑顔だったのに……。

「――ごめん……。紅葉……。」

忘れろなんて……本心じゃないよ。
でもその方が、紅葉の為だと思うから。

――ごめん。今はただ謝るしか出来ない。

⏰:07/09/17 01:49 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#394 [向日葵]
ピリリリリ

突然の着信音に、静流の体はビクッとして机に置いてある携帯に手を伸ばす。

サブディスプレイを見れば、双葉からだった。
どうやら電話。

「……もしもし。」

{静流。寝起き?何か元気ないね。}

「実は」

[彼女さんが傷つく。]

紅葉の事を話そうとした時、さっき言われた事を思い出した。

途端に無言になってしまう。

⏰:07/09/17 02:06 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#395 [向日葵]
[言われなくても忘れてやるわよ!]

「……。」

{静流?}

「……ごめん。何でもない。」

*******************

「ただいまー。」

源さんが帰ってきた。
現在の時刻、昼の一時。

「おかえり……なさい。」

ソファーに座っていた私は肩越しに振り返り、挨拶をする。

源さんは嬉しそうに笑って私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
そこであることに気づく。

⏰:07/09/17 02:13 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#396 [向日葵]
「口赤いけどどうかした?それに傷の手当ては?」

「……。ちょっと、かぶれてきたから。外したの。」

源さんはそれ以上は追及せず「そっか。」と言ってシャワーを浴びに行った。
またリビングが静まりかえる。

するとガチャッとドアが開く音が聞こえて、足音がこちらに向かってくる。
大体予想はつく。

「父さん……帰ってきたのか?」

静流の呼び掛けに、私は背中を向けたまま応じた。

⏰:07/09/17 02:18 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#397 [向日葵]
「そうよ。」

そしてまた黙る。
静流は多分リビングの入口にいるんだと思う。

「……今から双葉が来るんだ。それで…紅葉と喋りたい」

「彼女が来るなら。」

そう言いながら私はベランダの戸を開けた。
雨はいつの間にか止んで晴天。青空が広がっていた。

「消毒してもらうといいよ。口。」

振り返って、静流を見る。見たらまた胸が痛んだ。

「過ちを消すには、好きな人からの消毒が一番でしょ。」

それだけ言って戸をピシャリと閉めた。

⏰:07/09/17 02:22 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#398 [向日葵]
きっと大丈夫……。

忘れれる。
違う。忘れろ。

忘れてまたいつもみたいに喋ればいい。
そしたらまたいつもの日常になる。

私が忘れることで、平和になるんだ。

私は空を見上げた。

また雨が降ればいいのに。そしたら全部流れて、無しになって、ゼロからのスタートだ……。

「……神様…。」

これも罰ですか?

⏰:07/09/17 02:28 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#399 [向日葵]
*********************

[過ちを消すには、好きな人からの消毒が一番でしょ。]

言葉を失った。
過ち?そんな…………。

「俺は……そんな事……。」

思ってないのに。

ルルルルルル!

今度は家の電話が鳴った。何だ今日は……。俺は電話係か……。

「もしもし。」

{あ、静流?俺俺。}

⏰:07/09/17 02:35 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#400 [向日葵]
声の主は香月だった。

ってかお前さっき電話してたじゃん。

{紅葉いる?}

は?

「お前今なんつった。」

「だから……紅葉いるか?って。」

おいいつの間に呼び捨てしてんだよお前!
俺は許した覚えないぞ!
大体なんで俺じゃなく紅葉に用があるんだよ。

「いるけど……。」

{代わってくんない?}

⏰:07/09/17 02:38 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#401 [向日葵]
―――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/17 02:39 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#402 [向日葵]
「何の用だよ。」

{……そんなの関係あるわけ?お前に。}

受話器を握る手に力が入る。
香月はそんな俺に構わず続ける。

{お前は紅葉を妹ぐらいにしか思ってないんだろ?ならいいんじゃないのか。紅葉が誰とつるもうと。}

「……っ。」

ガチャン!

図星を付かれて、いらだち任せに受話器を置いた。

頭をグシャグシャとかきまわす。
そういえば風呂、まだだった。

⏰:07/09/18 01:28 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#403 [向日葵]
双葉が来るなら、清潔の方がいいだろう。

リビングを出る前、ベランダで空を見上げる紅葉に一回視線を向けて、俺は風呂場へ向かった。

*****************

はぁ……。ちょっと外に出て来ようかな。
……いや今外だけど。
花壇の水やりにでも行ってこようかな。

「こんにちわ。」

「ん?」

下から声がしたから、下を見ると、長い黒髪を風に遊ばせながら彼女さんがにこにこ笑っていた。

⏰:07/09/18 01:35 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#404 [向日葵]
「こん……にちわ。開いてると思いますよ。」

彼女はもう一度にこっと笑って家へと入って行った。
とうとう来たか……。
やっぱり花壇に行って来よう……。

私はベランダからリビングに出て、階段を降りた。
玄関のドアに手をかけた。
「あれ?紅葉。どこ行くの?」

フゥー……と息を吐いて後ろを向くと、静流が上半身裸のびしょ濡れでいた。

最早約束を忘れてる。
何だっつーの……。

⏰:07/09/18 01:42 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#405 [向日葵]
私は静流を無視して外へ出た。

日差しがもうすっかり暑い。
静流の家に引き取られてどれくらい経つんだろう。

夏は嫌い。早く冬が来ればいい。そしたら逃げ場所のベランダに出るのはちょっと辛くなるかも。

「……その時はその時よね……。」

いつものじょうろを持って水を貯める。
ぼーっと水が貯まるのを見ていると、急に涼しくなった。

あぁ雲で太陽が隠れたんだと思ってたら、今度は目の前が真っ暗になった。

⏰:07/09/18 01:51 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#406 [向日葵]
「だぁ〜れだ!」

「はぁっ?!誰よ!」

そう言うと視界が明るくなって、目を覆ってたのが手だと分かった。

そして逆に香月さんが現れた。

「?!」

「よっ!数時間ぶり!」

水を一旦止めて、立ち上がって香月さんとの距離を取った。
まだあの言葉に戸惑いを隠せない。

「フゥ…。警戒しないでよ。力づくでとか思ってないし。」

と香月さんは微笑んだ。

⏰:07/09/18 01:57 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#407 [向日葵]
力づく……。

そう言われてさっきの静流とのキスを思い出してしまった。
忘れる為に、また口をゴシゴシ拭く。

「え?何?どうかしたか?」

急な私の行動にびっくりした香月さんは私の手を止めた。

「……あれ?手当て、しなくていいの?」

香月さんの指が私の頬にある傷近くを撫でる。

思わずビクッとしてしまって、顔が赤くなる。

⏰:07/09/18 02:03 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#408 [向日葵]
「クスクス……。やっぱ可愛いわ紅葉。」

「……っ。」

「おいで。水やりは後。俺がしてあげるよ。」

と私の手を引いて、まるで自分の家みたいに家に入り「おじゃましまーす!」と元気よく挨拶すると階段を駆け上がった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「じゃ消毒からしよっか。」

消毒液をティッシュに二、三回吹きかけてから私の顔や手、足の傷をトントンと拭いていく。

⏰:07/09/18 02:07 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#409 [向日葵]
さっき乱暴にガーゼやらを剥がしたから少し傷が開いたのか、消毒液が傷に当たる度に痛みが走る。

そんな私を気づかってか、拭く強さを優しくしてくれた。

それからは丁寧に包帯を巻いてくれたりバンソーコーを貼ってくれたりした。

「……ありがとう。」

「どーいたしまして!さて、水やりしに行く?」

「もーいい。」

出たり入ったりすんのもうめんどくさい。

「気分は?」

「え?」

⏰:07/09/18 02:15 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#410 [向日葵]
そりゃ頗る悪いけど。

内面的にも。
体的にも……。

「あんまり食事出来ないのにケーキあんだけ食べちゃっただろ?」

「あぁ……。別にどうもない。そんな事吹き飛ばす事があったし。」

最後は小声だ。
なので香月さんの耳には届いてない……筈。

「そっか。」と言って救急箱を元に戻す香月さん。
そしてまた私の隣に来て座った。

そういえば……。

「何しに来たの?」

⏰:07/09/18 02:19 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#411 [向日葵]
「ん?何かさ、電話するより話した方が早いと思って。ちゃんと話した事ってあんまりなかったっしょ?だから一回ゆっくり喋りたいと思って。」

ニカッと笑うと、私の頭を撫でてきた。

静流が真っ直ぐだからその友達も真っ直ぐに気持ちをぶつけてくるみたい。
まさしく類友。

だから私はこの人に対する反応に困ってしまうのだ。
「さてと。まずはお互いの事でも知り合おっか!趣味とかは?」

「あのね。お見合いじゃないんだから……。」

⏰:07/09/18 02:26 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#412 [向日葵]
そこでなんだか笑えてしまって、ハハと軽く笑った。

すると香月さん口がぽかんと開いた。
私は眉を寄せて「何事?」と思った。

「笑った……。めちゃくちゃ可愛い……。」

「なっ……!!」

驚いた。
可愛いなんて初めて言われた。
更にしどろもどろになる。

「趣味知りたいんでしょ!趣味は映画よっ!映画鑑賞!」

「え?マジ?俺も映画超好き!」

⏰:07/09/18 02:31 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#413 [向日葵]
香月さんは最近の最新作とかを沢山教えてくれた。

私は甘ったるいラブストーリーよりもミステリーとかホラーとかが結構好きだった。

「へー。怖そうなのならもうすぐ公開するよ。なんなら見に行く?」

「いいけど……。私、街あんまり好きじゃないし……。」

「穴場知ってるんだ。行こうよ。」

行きたい。
でもそれってデート?
あまり意識したくないけど意識してしまう……。

⏰:07/09/18 02:35 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#414 [向日葵]
「あれ?香月くん来てたの!」

二人で横を向くと、リビングの入口に彼女さんと静流が立ってた。

彼女さんの手にはトレーに乗った二つのコップ。
おそらくジュースが無くなったコップを彼女さんがキッチンに運ぶと持って来て、静流の事だから「いいよ」と止めに着いてきたのだろう。

まんざら間違いでもなさそうな自分の分析に呆れた。

「どうしたのどうしたの?紅葉ちゃんと仲良しなんだね。」

⏰:07/09/18 02:41 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#415 [向日葵]
「映画が好きなんだって。だからその話してたら盛り上がっちゃって!今度ホラー見に行こうって言ってたとこ!」

静流は香月さんの言葉に無言で私を見つめた。
初めて聞いたみたいな顔をして。
当たり前じゃない。
聞かれもしなけりゃ言ってもないもの。

「そうなの?あ!じゃあ、近くのレンタルビデオで怖そうなの借りてこない?ね!紅葉ちゃん!」

え、私?

「ね、行こ!」

「え、ちょっ……。」

有無を言わさず私は彼女さんに引っ張られて家を出た。

⏰:07/09/18 02:46 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#416 [向日葵]
ストレートに気持ちを伝えるだけじゃなくゴーイングマイウェイな人達すぎる……。
振り回される方の身にもなりなさいよ……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「リングとかはやっぱり定番だから見ちゃったかなぁ?」

DVDを両手に持ちながらウキウキ私に喋りかける彼女さん。
静流がいたならそれは「可愛いなぁ」とかって思うんだろう。

「紅葉ちゃん?」

私の目の前で首を傾げる彼女さん。
ハッと自分の世界から帰ってきた。

⏰:07/09/18 02:50 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#417 [向日葵]
「どうぞ彼女さんが怖そうだと思うの選んで下さい。」

「アハハ!やだなぁ。彼女さんだなんて。双葉でいいよ。」

彼女さん、もとい、双葉さんはニカッと笑ってDVDを次から次へと見ていく。

「静流がね。貴方の話をよくするの。」

「え……。」

双葉さんはDVDのあらすじを読みながら話す。
私はその横顔を見つめた。

「貴方がよっぽど好きなのね。」

⏰:07/09/18 02:56 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#418 [向日葵]
優しく微笑む。
でも少し悲しそうだった。

「静流は貴方以外目に入ってませんよ。貴方の話をする静流は、すごく優しい顔しますから。」

「……本当?」

双葉さんの目がきらきらと輝く。
少し興奮してるのか頬が赤くなってる。

恋する乙女って感じだな……。

「本当ですよ。自惚れてもいいほどに。」

そう言うと嬉しそうににこぉっと笑って、カゴにいくつもホラーのDVDを入れていく。

⏰:07/09/18 03:02 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#419 [向日葵]
間違ってない……。
間違ってないでしょ静流。

だから二度と、傷ついたような目で私を見ないでね……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「お!おかえりぃ!」

一番に香月さんが言ってくれた。静流と香月さんはは微妙に離れてソファーに座り、見る準備をしていた。

双葉さんは静流の隣に。
私は香月さんの隣に座った。

順番的に静流、双葉さん。少し離れて香月さん私の順で座っている。

⏰:07/09/18 03:07 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#420 [向日葵]
雰囲気を出す為にカーテンを閉めて、部屋を暗くする。

タイトルが出て、映画が始まった。

静流達の方を見ると、双葉さんはクッションを抱き締めて静流に寄り添ってる。その肩を、静流は抱き寄せている。

視線を泳がせて、もう二度と見ないように体育座りをして、膝の上に顎を乗せて、映画に集中する。

「怖かったらいいなよ。」

香月さんがこそっと私に言う。
座っている距離を縮めながら。

⏰:07/09/18 03:11 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#421 [向日葵]
「平気。慣れてるわ。」

ピシャーン!

映画の始まりは、雷で始まった。

ビクッ!

体が反応する。
実は私、雷が大の苦手だった。

ピシャーン!

何度も雷が画面の中で轟く。いい加減止めてほしい。
すると

「あーまどろっこし。ちょっと早送りすんな。」

静流がリモコンを持って雷の場面を早送りした。

助かった。と内心ホッとした。
香月さんは私が雷に反応してたのには気づいてない。
良かった。

⏰:07/09/18 03:15 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#422 [向日葵]
出来れば自分の弱味を知って欲しくないのが私だ。

それからは順調にホラーらしくなっていった。
はっきり言って怖いってよりグロイって感じ。
ビビりはしなかった。
……雷以外は。

時々双葉さんが「やっ!」とか怖がってたけど、静流が「大丈夫大丈夫。」となだめているのが聞こえた。

とりあえず、二時間ちょいの映画鑑賞はひとまず終えた。
まだ二本借りてきてるけれど、休憩を入れようってことになって、電気をつけて、何か飲む事にした。

⏰:07/09/18 03:22 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#423 [向日葵]
そこでも率先して動いたのは双葉さんだった。
そして静流はそれを手伝う。
私はソファーに座って香月さんさんとさっきの映画の評論をしていた。

「さっきのはいまいちだったー。」

「私も。体きざめばいいってもんじゃないわよね。」

「アハハ。二人ともすごい事言ってる。」

笑いながら双葉さんは静流と双葉さんの分二つを目の前の机に置いた。

「ってかあんなの見てよく平気だよな。」

と静流が私達の分を持ってきて、何故か私と香月さんの間を割ってコップを置いた。

⏰:07/09/18 03:28 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#424 [向日葵]
その行動が妙に気に障って、逆に私はくっついてやった。
不思議そうにする香月さん。

「紅葉、どうかした?」

「え?私何かした?」

しらばっくれて、わざとくっついたと思わせないようにした。

十五分くらいして、また次の映画へと移った。

――――――……

「あー!見終った見終ったぁぁ!」

大きく伸びをする香月さんを見習い、小さくだが私は伸びをした。

「もうこんな時間!」

双葉さんが言ったので、時計を見ると八時半ほどだった。

⏰:07/09/18 03:34 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#425 [向日葵]
「見た後だから帰るの怖い……。」

本当に怖そうな双葉さんを見て、静流が送ると言った。
双葉さんは私と香月さんに別れを告げると帰った。

「じゃあ俺も帰るね。紅葉。」

「はぁ。どうぞ。」

玄関まで見送ろうと下りて、香月さんが靴をはくのを見ていたら、はき終えた香月さんがくるりんと回って私に言った。

「映画、約束ね!」

くしゃって頭を撫でて、香月さんも帰っていった。

そういえば、源さんはどうしただろう。
寝てるのかも。

⏰:07/09/18 03:38 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#426 [向日葵]
階段を上がる時、嫌な音が聞こえた気がした。

ゴロゴロと、まるで何かが起こりそうな音。

上がってきてみて気づく。雨がまた降り始めていた事に。

今帰った二人、それに静流は雨に会ってることだれうなぁ……。
多分帰ってきたらずぶ濡れだ。

ピシャーン!!

「キ、キァァァ!!」

最悪だ!雷雨だと?!
ふざけんなっ!

私の思いに反抗するみたいに、雷はさっきよりも大きな音、眩しい光を放ってまた落ちてきた。

⏰:07/09/18 03:45 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#427 [向日葵]
「イヤァ!!もう何よ!!」

テーブルの下に隠れて耳と目を塞ぐ。

チカチカ……フッ

雷のせいで停電になってしまった。
これじゃあ余計に雷の光が増して見える。

もうやだ……。
今日は散々だ。

静流ぶたれるし。
キスされるし。
忘れろって言われるし。
双葉さんと目の前でイチャつくし。
雷ヤバいし……。

なんで私ばっかりこんな目に会わなくちゃなんないの?!いくら罰でも酷すぎる……っ!!

⏰:07/09/18 03:50 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#428 [向日葵]
「……っ誰か……。」

せめて雷さえおさまればいいのに……っ。
それどころかどんどん酷くなる。

その時だった。
何かが私を包んだ。
どうやら大きなタオルみたい。
そしてテーブルから出されて宙に浮く。

違う。

抱きかかえられてるんだ。

「大丈夫か?」

静流だった。
雨のせいで髪から滴が垂れている。

「帰って……来たの?」

⏰:07/09/18 03:55 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#429 [向日葵]
「さっきね。」と答える静流と重なって、また雷が落ちる。

思わずひしっと静流にしがみついてしまった。
それにすぐに気づき、離れる。

「下ろして。約束忘れた訳じゃないでしょ?」

「今は休戦しようぜ。こんな震えてるくせに。」

知らなかった。
自分の体が震えてるなんて。言われてみればそうだ。

「怖いんだろ?雷。」

「?!ど……して。」

⏰:07/09/18 03:58 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#430 [向日葵]
―――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/18 03:59 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#431 [向日葵]
「今日DVDで雷の場面嫌がってたじゃん。」

「……!それで……。」

あそこを早送りしてくれたの?

自分自身の許しもなく、鼓動が高鳴る。
些細な事で嬉しくなる自分が逆に惨めに感じた。

静流は私を抱えたままソファーに座った。
そのままタオルを頭から被せて雷の恐怖を少しマシにしてくれた。

それ以前に雷なんて既にふっ飛んでしまった。

「雷止むまでこうしててあげるから。文句はそれから聞くよ。」

⏰:07/09/18 13:39 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#432 [向日葵]
背中を大きな手でポンポンと 叩きながら、私の頭を濡れた胸元に押しつける。

今気づいた、
タオルを被したのは雷だけじゃなく自分の濡れた体から避ける為でもあるんだと。

「私なんか、ほっといて……着替えてきなさいよ。」

静流はクスッと笑うと、私を抱き直してまた背中をポンポンと叩く。

「いいからさ。」

「どうせすぐ忘れるでしょ。私の苦手なものなんて。」

⏰:07/09/18 13:46 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#433 [向日葵]
すると静流は黙ってしまった。背中を叩く手も止まる。

雨と少し遠くなった雷の音、それと私達の呼吸が暗闇の中に響く。

しばらく経って、ようやく静流が口を開いた。

「忘れないよ。」

目の前には静流の胸。
顔は見えないけど、その声は真剣味を帯びていて、予想外の反応に私は目を見開いた。

また背中を叩くのを再開しながら、静流がまた言った。

「忘れないから……。」

⏰:07/09/18 13:52 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#434 [向日葵]
―誘―









「俺紅葉が好きだから。」

これはついこの間の香月との会話。
あのDVD鑑賞会の時だ。

双葉と紅葉とが出かけている時に香月が言い出した。

「別にいいよな?狙っても。」

⏰:07/09/18 13:56 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#435 [向日葵]
香月の目がマジだった。
どうやら冗談ではないらしい。

「なんで……。紅葉なんだよ。お前なら、学校にいくらでも告白してくれる奴いるじゃんかよ。」

「いいと思う奴いないし。ってか何?紅葉じゃ駄目な訳?」

「別に……。」

イスに座ってた香月が立ち上がって、俺の目の前まで寄ってきた。

「静流さ。紅葉が好きな訳?」

「え……。」

⏰:07/09/18 14:03 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#436 [向日葵]
香月の顔が、何だか怒っている気がした。

「俺が紅葉に近づく度に、お前はいっつも言葉濁してるじゃんか。」

「それは!紅葉は妹みたいだし、今朝も聞いただろ。アイツはゴミ捨て場に……。」

「だから大切にしたいとでも言うのか?それなら話は早いよな。」

香月は俺の胸ぐらを掴んでぐいっと顔を近づけた。

「お前のそれは同情でも、兄弟愛でもない。恋情だよ。」

と言って胸ぐらを離した。

⏰:07/09/18 14:10 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#437 [向日葵]
恋情……?

俺が紅葉に?

だって俺には……双葉が……。

「そんな筈……ない。」

香月は俺を少し睨んで横を通ると、ソファにドカッと座った。

「どう解釈するかはお前の勝手だ。だけどな、中途半端がどちらの事も傷つける事を知っておけよ。」

*********************

そしてここからがあれから数日後の話。

「ジャーン!」

⏰:07/09/18 14:14 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#438 [向日葵]
と言って源さんが出してきた中くらいの箱。

箱には見た事のあるロゴ。

「これって。」

「そう!携帯だよ!」

開けてみると白い色をした携帯が入っていた。
人生初携帯。
分厚い説明書と共に登場。
「やっぱり今の時代なかったら不便でしょ?」

「はぁ……まぁ。」

「お金なら気にしないで!じゃんじゃん活用したらいいよ!」

⏰:07/09/18 14:20 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#439 [向日葵]
そう言われると逆に使いずらい……。

幸いにも私は機械に強い方だったので説明書を少しパラパラと読めば使えそうだ。

「ありがとう……ございます。」

「どーいたしまして!じゃあ僕下でちょっと仕事してくるね。」

と源さんはカミングアウトした。

私は携帯を取り出して電源を入れる。
「Hello」と画面上に出た。

貰ったからには何かいじりたい。

⏰:07/09/18 14:25 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#440 [向日葵]
「あ、そうだ。」

と電話が近くにある本を開ける。

そこには香月さんのケー番がかかれた紙切れ。

「登録しとこ。」

「何を?」

文字通り飛び上がった。
静流が帰って来て横から顔を出した。

「あ!携帯!しかも最新じゃん。いいなぁ〜。」

「源さんがくれたの。」

携帯を見せながら静流に言った。
静流は携帯をパカパカしたりして隅々まで見る。

⏰:07/09/18 14:33 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#441 [向日葵]
一通り見てから携帯を私に返してくれた。

「で、登録って何を?」

「え?あぁ。香月さんのケー番を。」

と言いながら電話帳を開いたと同時にまた静流に取られた。

止める前に静流が携帯をいじる。
最初の設定のせいでボタン音がピピピピピピと鳴る。

待っているとようやく携帯が戻ってきた。
何をしたのかと電話帳を開いた。

そこには静流のメアドと番号が入ってた。

⏰:07/09/18 14:38 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#442 [向日葵]
「よっしゃー第1号とったー。」

と言って部屋に入って行った。

私は一連の行動に半ば唖然としていて、「あ、メアド決めなきゃ」とか考えてた。

とりあえず香月さんの番号を入れてからメアドを決めて、香月さんに電話することにした。

ボタンを押して、携帯を耳にあてた。
数回呼び出し音が鳴った後

「ハイ?」

といつもの香月さんらしくない声が聞こえてきた。
何か警戒してる様な……。

⏰:07/09/18 14:48 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#443 [向日葵]
「紅葉……です。」

しばらく間が開いて、「あぁ!」と聞こえた。

{知らない番号からだったから誰かなと思ったんだよ。}

あ、そっか。
だからいつもと違ったんだ。

「今携帯を買ったの。だから一応と思って。」

{そっか……。}

受話器越しに「ハハハ」と香月さんの笑い声が聞こえた。
何か面白いことでもあったんだろうか?

{ごめん。ちょっとね……嬉しくて。}

⏰:07/09/18 14:53 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#444 [向日葵]
そう言われると、少し胸が温かくなって、キュゥっとした。

「はぁ……。そ、ですか……。」

{今度メアド教えてよ。映画の事とかでメールしたいし。}

「わかった。じゃあまた……。」

と言って電話を切った。

まだ胸が熱い……。

自分の胸に手を当てながら、実感する。

⏰:07/09/18 15:00 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#445 [向日葵]
[嬉しくて。]

本当に嬉しそうに呟く香月さんの声が、耳に溶けてまだ余韻が残ってる。

……でも、私は……。

「紅葉。父さんは?」

ひょいと顔を覗かせる静流。

私は……静流が好き……。
香月さんは、何故そんな私を?
こんな私でもいいのだろうか。

そんな私を想ってくれる香月さんだからこそ、私は香月さんを選ぶべきではないんだろうか……。

⏰:07/09/18 15:08 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#446 [向日葵]
*******************

―――――……

「ねぇ静流!今度紅葉ちゃんと香月くんでダブルデートしてみない?」

学校帰りに双葉が提案した。
突然の申し出に俺はカパッと口を開けてしまった。

「デートって……。ってかそれ以前にアイツら付き合ってないんだぞ?」

「だから!よ。どう見たって、香月くんは紅葉ちゃんが好きみたいだし。協力しましょうよ。」

……協力ねぇ。

[お前のは恋情だ。]

首をブンブン横に振った。
まさか。確かに俺は紅葉が大事だ。
でも恋愛感情とか……そんなのは……。

⏰:07/09/19 02:24 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#447 [向日葵]
[分かった?]

この前の、紅葉の痛々しい笑顔を思い出した途端、胸がギュウッとなった。

「……。ねぇ静流。」

双葉に呼ばれて現実へ戻ってきた。
双葉を見ると、何か不安そうな顔をしていた。

「……私の事、好き?」

ベストの裾を掴みながら聞いてくる双葉に、フッと笑って俺はその手を包んだ。

それだけで気持ちが通じあう。

絶対……恋情なんかじゃない。

⏰:07/09/19 02:37 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#448 [向日葵]
*********************

「紅葉まだぁ〜?」

「……。」

ほとんど毎日通いづめだと言っても過言ではない。と香月さんに対して思う今日この頃。

花壇の水やり最中に「おっす!」と言われて家に侵入。

映画の話をしたいから早く水やり終われとさっきからダダをこねる。

男性の精神年齢が低いと言われているがあながち間違ってないと思う。

呆れながら水やりをしていると

ズルッ!

「あ。」

⏰:07/09/19 02:45 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#449 [向日葵]
水に濡れた芝生のせいで足が滑った。
視界が反転する。

「……っ!」

ガシッ!

「……っとぉ…。大丈夫?」

香月さんが私を抱き止めてくれた。
おかげで水に濡れた芝生に倒れなくてすんだ……けど……。

[嬉しくて。]

あの香月さんを思い出す度、胸の奥が熱くなる。
そして今その本人に抱き止められてる自分。

⏰:07/09/19 02:49 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#450 [向日葵]
香月さんは私を立たせてくれた。

「あ……ありがとう。」

うつ向き加減に言うと、私の様子に気づいた香月さんはからかってくる。

「あっれぇ〜?何赤くなってんの〜?」

「バッ!こ、これは、今日っ暑いから!!」

苦しい言い訳。
何故なら今日はわりかし涼しい方で、爽やかな風が吹いちゃったりなんかしてるからだ。

でも香月さんは、そんな事は追及せず、ただにこにこ笑って私の頭をくしゃくしゃと撫でるだけだった。

⏰:07/09/19 02:52 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#451 [向日葵]
「気をつけなよ。」

時が穏やかに流れる。

やっぱり私は……香月さんを選ぶべきなのかな……。

カシャン

「ただいま。」

門を開いて、静流が帰ってきた。
世界がまた一変。
何故かピリピリしてる感じがした。

「来てたのか。香月…。」

「あぁ。紅葉に会いになっ。」

⏰:07/09/19 02:55 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#452 [向日葵]
更にピリピリ度が増した。

え?何?
この二人ケンカでもしてる訳?

「ちょっと来いよ香月。」

「お?告白かぁ?」

と、ふざけ合ってるようでどこか間合いを取ってる二人は家へと入って行った。
*******************

パタン。

香月を連れ、玄関に入る。階段を上がって、俺らは部屋に入った。

⏰:07/09/19 02:58 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#453 [向日葵]
「なんだよ。俺犯されるとか?」

「なぁ香月。」

俺は香月に向き直る。

「俺はやっぱり、双葉が大事だ。紅葉は……違う。」

香月のふざけムードが一気に消える。
「ふぅーん」と言いながら、俺に歩み寄ってきた。
そして目の前でピタッと止まる。

「だったら闘争心むき出しにしてんじゃねぇよ。」

俺は眉を寄せて香月を見つめる。

「その言葉……忘れんなよ。」

⏰:07/09/19 03:10 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#454 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/19 03:10 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#455 [向日葵]
*********************

花壇の水やりを終えた私はリビングに戻っていた。
さっきは花を潤したけど、今度は私の喉を潤したくて水を一杯ゴクゴクと飲んだ。

それにしても、あの二人の険悪なムードは何なんだろうか。

ケンカであるなら早く仲直りするといいんだけど。

といらん心配をしていると、静流の部屋のドアがガチャリと開いた。

あ、部屋にいたのかとイスに座りながら思った。

リビングに顔を出した静流は何だか落ち込んでいた。だから思わず声をかけてしまった。

「そんなにヒドイケンカなの?」

⏰:07/09/21 01:56 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#456 [向日葵]
静流はハッとして私を見ると、苦笑を浮かべながらキッチンへ行って冷蔵庫を開けた。

「ケンカでは……ないんだよなぁー…。」

「ふぅん……?」

冷やした麦茶をコップに注ぎながらも静流は何だか上の空で私の方をぼーっと見ていた。

私は周りに何かあるのかと思い辺りを見回すが、静流の目当ての物と思う物は見当たらなかった。

「なぁ紅葉……。」

「うん?」

「好きって何だと思う?」

――ゴインッ!!

⏰:07/09/21 02:01 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#457 [向日葵]
頭をもろにテーブルにぶつけてしまった。

とうとう静流の頭がおかしくなったんだろうか……。

「彼女いるくせにそんなのもわからないの?」

「うん……。ちょっとさ、今混乱してて……。」

だからって……。
アンタを好きな私に聞くのはそれはなんか……酷じゃないかしら?

「香月さん来てるなら香月さんに聞いてみなさいよ。」

「アイツはお前が好きなんだぞ!」

「――――は?」

キャッチボールが出来てない……。
そして何が言いたいのかも分からない。
ってかなんで静流そんな事知ってんの。

⏰:07/09/21 02:06 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#458 [向日葵]
「なら尚更聞けばいいじゃない。」

「え?……あぁ。そっか。」

あー駄目だ。
私の頭上に今めちゃくちゃハテナが乱舞してる。

何このぐだぐだトーク……。

私がいぶかしんだ顔をしていると、静流はくんでいた麦茶を一気に飲み干す。

「俺さ……。双葉が大事なんだ。」

「……?」

ここで普通は胸が痛む筈……なんだけど、その言葉はまるで自分に言い聞かせてるみたいだった。

⏰:07/09/21 02:10 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#459 [向日葵]
「何?ノロケ?」

「そうじゃなくて……さ。」

静流はキッチンから私の前のイスまで早歩きしてきて座った。
少しテーブルに身を乗り出して、やや興奮気味にまた話だす。

「大事なのに……、他の奴が気になりって……。どういうことだと思う?」

うわぁ。
まさかの好きな人もう一人いる発言。

私双葉さんだけじゃなくてその人に対しても色々堪えなきゃならないの?

⏰:07/09/21 02:15 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#460 [向日葵]
「その人は……どんな人なの?」

半ば投げやりに聞くと、会話が途切れた。

どうしたものかと、呆れてそらしていた視線を静流に戻すと……

――ドクン……

え……?

静流の目が、まっすぐ私を捕えていた。
それも熱く、潤んだ瞳で……。

勘違いしてしまう……。
私の訳がない。
きっと私に似た誰かなのだろう。

……でも。

「どんな……人……?」

⏰:07/09/21 02:19 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#461 [向日葵]
静流は視線をそのままに、テーブルに頬杖をついてまた話だした。

「危なっかしくて……目が離せない子だよ。」

それを聞いて、私は静流の視線を下を向いて遮る。

私じゃないみたい……。
私そんなドジじゃないし。

「好きって自覚はあるの?」

「いや?その子は妹みたいな存在だから……。」

私の頭の引き出しが整理を始める。

まず、静流には彼女である双葉さんがいる。

⏰:07/09/21 02:24 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#462 [向日葵]
しかし最近出来た気になる人は妹みたいな存在の危なっかい子だ。
しかしそれは未だ恋かどうかは定かではない。

「じゃあやっぱり恋じゃないんじゃない?」

「……うん。俺もそう思いたい。双葉……傷つけたくないし。」

私はため息をついた。

双葉さんは静流が私を気に入ってるなんてよく言えたもんだよ。
静流の頭の中は、双葉さんでいっぱいだ……。

「あ!紅葉!」

「え?」

⏰:07/09/21 02:27 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#463 [向日葵]
「デートしないか?!」

――――……

{ダブルデートォ?!}

受話器から香月さんの声が響く。

只今香月さんと携帯でおしゃべり中なのだ。

「双葉さんが提案者らしいです。」

{めんどくさっ!そんなん言わばアイツらのお守りじゃん。}

そこまで手はかからないと思うけど。

静流は不安且つまだOKもしていない楽しみでありそうな双葉さんを見てどうしても断れなかったらしい。

⏰:07/09/21 02:32 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#464 [向日葵]
はっきし言ってやった。

「知るか。」

と。

{ってかさ、紅葉ちゃんは大丈夫なの?今以上のラブラブな二人を見る事になるよ?}

「途中から別行動すりゃあいいんです。」

じゃないとやってられない。
それでなくても家に来る度胸が痛くて息も出来ないくらいなのに……。

それがデートとなれば、定番であるUFOキャッチャー、プリクラはもちろんの事ボーリングに行けばハイタッチ。服を見れば双葉さんが似合いの服を静流に探すだろう。

⏰:07/09/21 02:37 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#465 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/21 02:37 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#466 [向日葵]
{そっか。分かった。じゃあ今度の日曜楽しみにしてる。}

「楽しみ……なの?」

{うん!楽しみ!じゃあまたね。}

何故楽しみなのか聞く前に電話は切られてしまった。

私もそろそろお風呂に入らなければ。
この頃傷が治ってきたのか、傷口が痒い。
だから早くお風呂に入って綺麗にしたい。

「紅葉。風呂入れよ。」

「今から入るとこ。いちいち言わないで。」

⏰:07/09/21 15:21 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#467 [向日葵]
横を通りすぎようとすると、静流は私の腕を掴んだ。
止められた私は静流を眉を寄せて「なんだ。」と言う風に見た。

静流は口を開けては閉めを繰り返して、中々言葉を出してこない。

痺をきらした私は腕を掴む手を振り払った。

「もーっ!何っ?!」

「……ごめん。何でもない。」

そう言って部屋に戻ってしまった。

********************

部屋に戻って、風呂上がりでびちゃびちゃの髪の毛をバスタオルで拭いた。

⏰:07/09/21 15:31 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#468 [向日葵]
ベッドに座り、今日一日を振り返る。

香月とはこじれるし……。訳の分からない気持ちにはイライラするし。

ってか気になる相手が紅葉だって事を本人が気づいてない。
いや、気づかなくていいけど。

今度の日曜で、俺の今のイライラを打ちきる。

俺は双葉を大切にする……。

双葉を悲しませたりは、決してしない……。

*********************

―――――……

そして日曜がやって来た。
暑い日差しの元で、長い時間歩いてられるかが心配だ。

⏰:07/09/21 15:41 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#469 [向日葵]
なんせ久々の遠出。
それに加えあちこち歩き回る。
私の足と体力はもつだろうか。

待ち合わせの場所で、香月さんと双葉さんを待つ。

「なんか心配?」

「体力には自信が無いの。分かってるでしょ?引きこもり生活が長いの。」

「心配しなくて倒れたら家までちゃんと運ぶから。」

「じゃあそうならない様にするわ。」

じゃないとまた双葉さんが悲しむし。

⏰:07/09/21 15:49 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#470 [向日葵]
結局私は、幸せになんかなれないのね。

「お待たせー!静流、紅葉ちゃん!」

「ちょっと手間取ったぁ〜!」

双葉さんと香月さんが一緒に来た。
双葉さんは真っ先に静流の元へ。
見せつける(私にはそう見えた。)様に静流の腕に抱きついた。

私は少しずつ後退して行くと、後ろから肩を静かに掴まれた。

振り返れば、そこに香月さんがいた。

そうだ……。
こういう場面。今日は一日ずっと見なくちゃいけないんだった。

そな覚悟を、もう一度しておくの、忘れてた。

⏰:07/09/21 16:04 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#471 [向日葵]
まだショック状態の私の手を、香月さんは握り締めて歩きだした。
足は、まだ思考についていってくれなくて、おぼつかない。

「昨日はよく寝れた?」

視線を向けると、香月さんは微笑んで私を見ていた。

静流達は後ろにいるらしい。

「普通。私はどっちかって言うと夜行性だから。夜はあまり寝たくないの。」

「へー。じゃあいつ寝るの?」

「……。あまり眠る事は……好きじゃない。」

⏰:07/09/21 16:18 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#472 [向日葵]
今だから、食事同様マシになった。

それでも、やっぱり夜は寝たくない。
これはクセ。

まだ、母さんからの暴力に堪えてた頃。

母さんが私を殴るのが飽きて寝静まった夜が、何より私の救いの時間だった。

寝てしまったら、また朝が来て、殴られる一日が始まる。
だから、私は救いの時間を貪る様に味わう。

単に言えば、眠るのが恐いのだ……。

まだ治りきっていない、腕のいくつかの痣を見つめ、思い返していた。

⏰:07/09/21 16:22 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#473 [向日葵]
「夜は……安らぐ。」

「……そっか。」

香月さんはそれ以上は聞いてこなかった。
私の雰囲気で読めたらしい。

「じゃあまた眠れなかったらさ、夜中に電話でもメールでもしといでよ。」

私は香月さんを見上げた。
香月さんはにこりと笑う。

「……ありがとう。」

上手く笑う事が出来ない分、精一杯思いを込めたありがとうを伝えた。

⏰:07/09/22 02:25 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#474 [向日葵]
香月さんも分かったのか、「うん。」と頷いて別の話題を話始めた。

*********************

「静流。どこ行こっか!」

「んー…?……どこでも。」

「……。」

するりと双葉の手が俺の腕を離れた。
不思議に思った俺はどうしたのかと思い、双葉を見ると、隣にはいず、いつの間にか立ち止まって少し後ろにいた。

「双葉?」

「……だ。」

「え?」

⏰:07/09/22 02:29 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#475 [向日葵]
聞こえないので聞き返すと、双葉がキッ!と俺を睨んだ。

「最近の静流はなんかやだ!上の空が多いし、私の事、ホントに好きか……分かんないよ……。」

泣き出しそうに話す双葉に気づいた紅葉と香月も立ち止まり、俺を振り返る。

一瞬、紅葉と目が合ったけど、すぐに双葉に目を戻して頭を撫でてやる。

「ゴメン双葉……。最近寝不足だったんだ。だから、調子出なかったって言うか……。」

「……ホントに?」

「うん……。」

⏰:07/09/22 02:33 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#476 [向日葵]
もちろんこんなのは嘘だ。

でも今双葉に真実を言ってしまったら、きっと双葉は傷つく。

それは嫌だ。

*********************

静流と双葉さんのやりとりを見て、なんだかその姿が遠く見えた。

停止してしまいそうな脳を強制的に動かして、私はまた歩き出した。
今度は私が香月さんを引っ張る形で……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

やって来たのはCDショップ。
香月さんのお目当ての物が発売と言うことで立ち寄った。

⏰:07/09/22 02:37 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#477 [向日葵]
私達は各々好きなように動き出して店内をうろうろし始めた。

香月さんは目当てのCDを。双葉さんはDVD売り場。
静流は音楽雑誌。
そして私は適当に見て回った。

私はどうも時代の最先端に疎く、こういう音楽でも、どのバンドがメジャーだとか分からない。

適当に試聴でもしてみようと思い、女性アーティストのCDがあるヘッドホンを取った。

スタートを押して流れてきたのは暗めのメロディ。

題名は「恋」だった。
恋なのにメロディこんなに暗くていいのかと内心ツッコミを入れた。

⏰:07/09/22 02:44 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#478 [向日葵]
ダラダラした始まりだったので早送りして、サビ近くまで飛ばした。

ありきたりな歌詞は、なんの感動もなかった。
はっきり言って私はあまり歌詞や詞が好きじゃない。

綺麗ごとを並べてる感じが、とてもイライラした。
「愛してる」だの「君だけ」だの……。
もっと本心を歌え。と心がこうなってしまってから、思うようになってしまった。

やはり、私には音楽が向かないらしい。

短くため息をついて、ヘッドホンを元の場所に置いた。

⏰:07/09/22 02:50 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#479 [向日葵]
「何聞いてたんだ?」

びっくりして声がした方に体ごと向くと、静流が立っていた。

私は指差して聞いてた曲を教えた。

静流はそれを手にとって、「ふぅん。」と言ってから元に戻した。

その間、私は静流から離れた。
それに気づいた静流は私について来た。

とっさに双葉さんがいる位置を確かめた。
遠くにいて、まだ私達が一緒にいることに気づいてない。

⏰:07/09/22 02:54 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#480 [向日葵]
「何か用?」

ついトゲトゲしくなる。

「気に入ったのがあるなら買ってやろうと思って。」

「いらない。私こういうの興味無いから。さっさと双葉さんの元に戻ったら?」

やかましい店内。
明るい曲が店内を包む。
でもここだけ空気がやけに冷たい。

「耳あるの?戻れっつってんの。」

「俺が……。しっかりすればいい事だから。」

「は?」

静流はCDが並ぶ棚から私に体を向けて、また話す。

⏰:07/09/22 02:58 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#481 [向日葵]
「俺がしっかりしてないから双葉が不安になったんだ。例え……不安要素がお前だとしても、俺が」

「私のせいって言いたいの?」

何よ不安要素って……。
そんなに私が邪魔って言いたいの?

静流がしっかりしてないのも私のせい?
私の面倒ばっかりで彼女に手が回らなかったから?

「く、紅葉?」

「自分の失敗を……全部私のせいにしないでよ!!」

私はやかましい店内から、暑苦しい外へと出て行った。

⏰:07/09/22 03:02 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#482 [向日葵]
早歩きで街中を通り過ぎる。
陸橋を渡り、信号を渡り、雑踏をくぐり抜けて……。

なんでアンタ達はそんなバカみたいに笑えるの?

子供は楽よね?
泣けばすぐ助けがくるんだから。

皆……
自分が邪魔だとは思わないの?

私は自分が嫌いで、邪魔で、どうにもならないのがもどかしい。

好きな人の……手伝いすらろくに出来ず、逆に足を引っ張り続ける自分。

⏰:07/09/22 03:07 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#483 [向日葵]
私も笑えば楽しくなる?

――楽しいことなんて何もない。

泣けば誰か助けにくるかな?

――そんなヒーロー存在する訳がない。

「卑屈……。」

自嘲しながら、ひしめくビルの街を頼りなく歩いた。
パシッ!

「!」

「可愛いー!ねぇ一人?」

は?ナンパ?
今時ナンパってあるんだ……。

⏰:07/09/22 03:10 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#484 [向日葵]
肩に置かれた手を振り払って、一睨み。

「ベタベタ触んないで。気持ちの悪い。」

「……んだてオイ!」

今度は胸ぐらを掴まれた。

あー近頃の若者はキレやすい……。
って私もキレたばっかか。
殴るんだ。
私を殴るんだ。
頭の隅で……何か聞こえる……。

―――ヤメテェ!!痛イヨ――!!オ母サン!!

やばいなぁ。足が震えてる。

⏰:07/09/22 03:16 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#485 [向日葵]
バキッ!!

胸ぐらが外れて息が楽になったと思ったら、目の前に

「……香月さん。」

「大丈夫?」

チンピラはいつの間にやら逃げた。
逃げ足だけは早い。

「怪我は?どっか痛む?」

私はストンと座り込んでしまった。
泣きそうになる。
でもこんな人の大勢いる場所で泣きたくなんかない。

⏰:07/09/22 03:19 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#486 [向日葵]
「大……丈夫。」

「ハイ嘘ぉー。ハイおいでー。」

と止める間もなく香月さんは私を引っ張ってどこかに歩いて行く。

着いたのは路地裏。
人通りは無いに等しい。

「歩く……の、早い……。」

少々息切れした。

「アハハ!ゴッメン!」

しばしの沈黙が訪れた。

私は息を整えながらさっきまでの事を思い返していた。

双葉さん企画「ダブルデート」は見事におじゃん。
…いや、香月さんが来たからこれで良かった?

⏰:07/09/22 03:25 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#487 [向日葵]
そして私の性格。

卑屈。短気。生意気。
そして邪魔者……。

「香月さん……。」

「ん……?」

「私……。何しに生まれてきたんだろ……。」

邪魔だから捨てられて、拾われて好きな人が出来て、その人の重荷になって……。

もう……疲れた……。

すると香月さんがゆっくり私に近づいて、優しく私を抱き締めた。

「紅葉。そんなお前見てたら俺……、待てないよ。」

⏰:07/09/22 03:31 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#488 [向日葵]
それから力を入れて、ギュッと私の体を腕で縛る。

「俺と付き合おうよ……。紅葉。」

付き合おう……?
香月さんと……?

付き合ったら……もう邪魔にならないかな。
足引っ張らずにすむかな。

静流の事で、泣かないですむのかな……。

私は香月さんの腕の中でゆっくり頷いた。
香月さんの腕に更に力が加わる。

しばらく抱き締めていた香月さんは、私の体を離した。

⏰:07/09/22 03:34 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#489 [向日葵]
知ってる。

今から何をするか。
何が起こるか。

・・・
あの時は、まだ分からなかったけど……。

香月さんの顔が近づいてくる。
それをぼーって見ていると、香月さんが囁いた。

「目……閉じろよ。」

言われるがままに閉じた瞬間、香月さんの唇が触れた。

でも、驚くことも、鼓動が高鳴ることもない。

それはやっぱり、どんなに辛い目にあったとしても、私の心が静流に向いている証拠なのだった……。

⏰:07/09/22 03:39 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#490 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/22 03:39 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#491 [向日葵]
―醒―











自分の気持ち押し殺すって、以外と難しいことで、息が出来ないくらいに苦しい。

でもそれをも超える想いがもしかしたら存在するのかもしれない。

その僅かな可能性に、私は賭ける事にした。

⏰:07/09/23 00:40 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#492 [向日葵]
今日は中途半端な曇り。
だけど私は外に出かける。

約束があるからだ。

[午後四時半。門前にいてな。]

香月さんからそんな感じのメールが届いた。

私はその通りに動く。
何故なら私は香月さんの彼女だからだ。

カレカノなら、毎日でも会いたくなるのが普通でしょ?
だから私は会いにいく。

例えそれが偽りの気持ちだとしても。

⏰:07/09/23 00:45 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#493 [向日葵]
門前に来て、塀にもたれながら空を見上げた。

きっと私にいつかとてつもない罰が下る。

あんなに優しい香月さんの気持ちを踏みにじって、私は香月さんと付き合う事にした。
香月さんは嫌で仕方ないと思う。

だから私は努力する。
香月さんが好きになれるように。

カシャン

「ただいま。」

ハッとして横を見ると、静流が帰ってきた。

「お……おかえり……。」

「……ん。」

それだけ言って、静流は家に入ってしまった。

静流は何も聞いてこない。

⏰:07/09/23 00:52 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#494 [向日葵]
ダブルデートの日、香月さんと何かあったのかとか。
香月さんと付き合うのかとか……。

*********************

本当は問い正したい気持ちでいっぱいだった。

香月から聞いた時は耳を疑った。
まさか紅葉が香月と付き合うだなんて……。

でも……俺には、関係無いことだから。
俺は……双葉がいるから……。

それでも不思議だった。

もともと紅葉はあまり顔に出ないタイプだけど、好きな人と付き合うって言うのに全然嬉しそうに見えない。

⏰:07/09/23 00:55 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#495 [向日葵]
紅葉は香月が好きなんだろうか……。

ピルルルル!

ビクッ!

携帯だ。
発信者は……

「?もしもし。何で俺に?」

{なんか用事ないとしちゃいけねぇのかよ。}

香月だった。

「そういう訳じゃない。……ただ、紅葉にしないのかと思っただけだ。」

{それについて聞きたいんだ。}

⏰:07/09/23 00:59 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#496 [向日葵]
俺は口を一文字にキュッと縛って香月の言葉を待った。

{最後の忠告だ。俺は確かに紅葉が好きだ。でも、お前は俺と紅葉が付き合って本当に後悔しないのか?}

「……俺は、双葉がいるから……。」

{最近のお前さ、双葉ちゃんを好きって言わないよな。}

――ドクン……

「それが……何だよ。」

{大切だの傷つけたくないだの。お前は今双葉ちゃんを好きなのか?}

⏰:07/09/23 01:03 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#497 [向日葵]
「やめろよっ!!」

家に俺の叫び声が響いた。

やめろ……。
これ以上混乱させないでくれ……。

「お前は念願が叶ったんだから、紅葉と仲良くすればいいだろ……っ!」

目元を片手で覆って、玄関のドアにもたれた。
香月からはまだ返事が来ない。

だってそうだろ?
何でいちいち俺に聞くんだ!俺には双葉って彼女がいて、彼女を幸せにす…………。

待てよ俺……。
今なんて思った?
その言葉の続きは……絶対思っちゃいけないだろ。

⏰:07/09/23 01:07 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#498 [向日葵]
{俺だって……限界があんだよ。}

それだけ言って、香月は電話を切った。

プープーと受話器の向こうになってる音を聞きながら、俺はその場に立ち尽くしていた。

あの言葉の続き……。

彼女を幸せにする……義務がある……と。

義務だなんて、思っちゃいけない。
それはつまり…………双葉が好きじゃなくなったってことだろ?

**********************

携帯のバイブが鳴ったので見てみると、香月さんからメールが入った。

[もうすぐ着くから(^.^)]

⏰:07/09/23 01:12 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#499 [向日葵]
返信をせずに、塀から身を乗り出して遠くを見ると、それらしき人物が見えた。

あちらも私に気づいたのか、軽く走って私の所までやって来た。

「……あれ?」

今日は眼鏡かけてる……。

それに気づいた香月さんは人差し指で眼鏡をトントンと軽く叩いて「あぁコレ?」と言いながら微笑んだ。

「実は目、悪いんだわ。いつもコンタクトなんだけどさ、代えが無くって。だから今日は眼鏡!」

⏰:07/09/23 01:16 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#500 [向日葵]
「似合う?!」って言いながら、黒渕眼鏡をクイッとあげる。

私はコクコクと頷いて肯定した。

すると香月さんが真剣な(顔をしたもんだから、私はドキッとしてしまった。

「無理……してない?」

「え……。」

ザァァァ……と風が吹く。
髪の毛で香月さんの顔が見えなくなるのを防ぐ為に髪の毛を手で抑える。

「静流の事。いいの?」

「……。」

「いいんだよ?フッても。」

⏰:07/09/23 01:21 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#501 [向日葵]
明るく笑って言ってるけど、その顔はとても悲しそうだった。

「そんな顔……しないで。」

香月さんの顔にそっと触れた。

「今は静流でも、香月さんを好きになれると思う。それまで、待ってくれない……?」

香月さんから悲しそうな雰囲気が少し消えて、頬にある私の手の上から私の手を重ねた。

「待つよ。だから早く来て?」

そう言いながら私の掌に唇を押し付けた。

⏰:07/09/23 01:26 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#502 [向日葵]
今日はそれで香月さんは「またメールする」と言って帰ってしまった。

湿気を含んだ風がまた吹く。

きっと好きになれる。

だってホラ……。
こんなにドキドキしてる。

でも本当は知ってた。
静流が触れた時に比べれば、負けてる。
それを、わざと気づかないフリをした。

空がおかしい……。

今晩、何かが起こるかもしれない。

⏰:07/09/23 01:33 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#503 [向日葵]
―――――……

そしてその予感は呆気なく的中してしまった。

それは晩御飯の時。

いつものにこにこ顔で源さんが言った。

「僕明日から出張に行って来ますね。」

ブハ―――――!!!!

お茶を飲もうとしていた私と静流はそれぞれ別の場所にお茶を噴射してしまった。

「いっ!一週間って!なんでだよ父さん!!」

「今度の研究がちょっと手間取ってねぇ。ちょっと研究所に籠ってくる。」

そんなあっさり……。

人生とは本当におかしい。

一番嫌なコンディションの時に一番最悪なシュチュエーションを用意してくれる。

⏰:07/09/23 01:38 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#504 [向日葵]
そして正に今その状態が作り上げられようとしているのだ。

「そんな急に……っ!」

「仲良くするんだよ?ケンカはいけないからね?」

ささーっとお皿を片付けると、明日準備をしに源さんは自分の部屋へと行ってしまった。

リビングに呆然とする悩める子羊が二名に緊張と言う名の狼が襲いかかる。

「なんてこった……。」

と言わずにはいられない。

ソロリと静流を見ると、静流も同じように私を見ていた。

⏰:07/09/23 01:43 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#505 [向日葵]
静流はフゥ……とため息をついた。

「じゃあ明日から一週間、紅葉は洗濯と掃除係な。」

「えー……。洗濯はいつもだけど掃除まで?」

「俺一日の半分は学校だもん。」

と少しふんぞり返って静流は言った。
私は「ハイハイ」と妥協してお皿を片付ける。

こんな微妙な雰囲気で、一週間大丈夫なのかな。

……ん?
私はいいとして、なんで静流までが態度がおかしいんだろう。

⏰:07/09/23 01:48 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#506 [向日葵]
私が怒ってるとでも思ってんのかしら?
それとも香月さんと何かあったのか?

********************

一週間……。
長い。
今の俺にしたら長すぎる……。

自分が嫌になる。
あのダブルデートで気持ちはっきりさせるつもりだったのに。

「男が……ウジウジ……。情けな。」

それもこれも、今日の香月の言葉のせいだ!
俺は……。

一瞬、双葉の笑顔が脳裏をかすった。
そして……。

「静流。早くお皿持って来て。まとめて洗いたいから。」

⏰:07/09/23 01:53 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#507 [向日葵]
俺は紅葉をじっと見た。
そんな俺を不思議がって、眉を寄せてキッチンから見つめる紅葉。

……今度こそだ。
もう二度とは無い。
この一週間で、俺の気持ちを一つに絞る……。

********************

それぞれの思いを胸に、波乱の幕開けである一日目がやって来た。

「じゃあ行ってくるから。」

「気をつけてな。」

にこにこしながら手を振って、源さんは出張へと出かけて行った。

⏰:07/09/23 01:57 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#508 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/23 01:57 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#509 [向日葵]
パタンと閉めて出ていくと同時に私は動き始めた。
静流もそれに合わせて学校へ行く準備を始めた。

「今日は出来るだけ早く帰って来るな。」

「別にいつも通りでいいわよ。普段も変わんないでしょ。」

そう言いながら掃除機をかける準備と、ベランダへ通じる戸を空気替えの為に開けた。

良かった。今日は良い天気だ。

「……ま、戸締まり気をつけろよ。じゃな。」

そして静流も出て行った。

⏰:07/09/24 00:56 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#510 [向日葵]
こっそりベランダの入口辺りから背伸びして静流が行くのを覗く。

覗くと丁度門を出た所だった。
覗いてるってバレるのが嫌で、掃除機をまたかけ始めた。

「紅葉!」

え。

電源を切って、ベランダへ急いで出ると、門から数歩歩いた所で静流がこちらを向いていた。

「忘れ物ぉ?!」

すると静流は微笑みながら首を振った。

「いってきます。」

⏰:07/09/24 01:02 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#511 [向日葵]
―――トクン……。

それ言う為に……?

「行ってらっしゃい」なんて、静流には行った事がなくて、でも今、とても言いたい。

私は静流が見えそうな範囲まで手を上げてぎこちなく手を振った。
私の精一杯の「行ってらっしゃい」を表現する。

でも静流にはそれで十分だったのか、より一層にこぉっと笑って手を振り返した。
そして学校へと行ってしまった。

あぁどうしよう……。

口の筋肉が揺るんでしまうよ……。

⏰:07/09/24 01:07 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#512 [向日葵]
********************

生徒が友達に挨拶する声があちらこちらから聞こえる中、少し汗ばむオデコを手の甲で拭いながら俺は教室へ続く階段を上っていた。

「あ、静流!」

声をかけられた俺は上を見る。
でも逆光のせいで顔が見えない。手を少しかざすと顔が段々見えてきた。

「双葉。おはよう。」

「おはよ!最近どう?紅葉ちゃんとは。」

下りて来て俺の隣まで来た双葉は、また一緒に上りながら俺に話かける。

⏰:07/09/24 01:17 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#513 [向日葵]
「何も。普通だよ。」

と言って、少し早歩きで階段を上った。
それを双葉は、シャツの裾を引っ張って止めた。

グイッと引っ張られて、階段から落ちそうになった俺は手すりにつかまってなんとか堪えた。

「ちょ、双葉!」

「静流が冷たい。」

真剣な顔で双葉が言った。

冷たい?
そんな事ないのに。

でも弁解するのが、なんだかめんどくさかった。

⏰:07/09/24 01:21 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#514 [向日葵]
「気のせいだよ。」

それだけ言って、俺は双葉を置いて階段を上って行った。





残された双葉は静流の異変に不安を隠せなかった。

自分は何かしただろうか。
私の気持ちが重いの?

誰か好きな人が出来たの?

そう思って、心当たりの人物を頭に思い浮かべてみたけれど、どうしても一人しか出てこなかった。

「紅葉……ちゃん……?」

⏰:07/09/24 01:25 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#515 [向日葵]
でも彼女は今香月くんと付き合ってるのに……。





教室に着いて、携帯をマナーにするのを忘れていた事に気づき取り出すと、サブディスプレイにメールのマークがあった。

誰からだ?とパキンと携帯を開けると、紅葉からだった。

<アホ。お弁当忘れてる。>

「あ!」

どうりで鞄が軽いと……っ。

⏰:07/09/24 01:29 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#516 [向日葵]
早打ちでメールを返す。

<昼休みに間に合う様に届けてくんない?!>

送信。
返信はすぐに来た。

<いや。>

超短文。
そりゃ早い訳だ。

「……。」

香月とは……どんなメールしてんだろう。
そんな事を思ってると、本人のお出ましだ。

「おっはよーさん。」

「うす。まだコンタクト無いの?」

⏰:07/09/24 01:34 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#517 [向日葵]
香月は頷いた。
そして開けっぱにして机に置いてあった携帯に目をやる。

隠す必要もないが、さりげなくでも慌てながら携帯を隠した。

「メールしてんだ?」

「弁当忘れたって教えてくれただけだ。」

香月は俺の前の席。席に座ってから後ろを向いた。
俺はなんとか紅葉に頼みのメールを送る。

「で?どうなの?」

「何が?」

香月が不機嫌そうに返してきた。

⏰:07/09/24 01:47 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#518 [向日葵]
「紅葉は……香月に……メロメロ?」

「ブッ!!」

香月が派手に吹き出した。そっぽを向いて肩を揺らす。

ひとしきり笑ったところで、香月はまた俺の方を向いた。

「そんなんじゃないよ。紅葉は……他に好きな奴いるから。」

「え……。」

「ま、フラレても諦めねーけどな。」

そんな香月の顔は、悲しそうだった……。

⏰:07/09/24 01:51 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#519 [向日葵]
*********************

一仕事終えた私はフゥゥ……。と満足の息を吐きながらリビングのフローリングに寝そべった。

「あー疲れた。」

もう11時かぁ……。
午後から何しとこっかな。

ブー ブー

携帯がテーブルと擦れて変な音を立てた。

「また静流?」

お弁当お届けメールの件は私の勝ちで幕を下ろした。でももしかしたらリベンジで送ってきたのかも。

⏰:07/09/24 01:56 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#520 [向日葵]
でも私の予想は外れた。

「香月さん?」

<外見て!>

外?

ベランダの戸越しに外を見る。

「え?!」

私は急いで階段を降りた。途中こけそうになって冷や汗をかいたけど、とりあえず外へ出た。

ガチャン!

「何してんの?!」

そこにいたのは、紛れもなく香月さんだった。

⏰:07/09/24 02:04 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#521 [向日葵]
香月さんはニヒッと笑ってピースした手を前へ突き出した。

「あーその顔見たかったぁ!」

その顔とは、私のうろたえた顔だ。
だって今は学校の時間。
なのに何故?

「暇だったからさ。遊びに来た。」

「暇っ……て。学校あるじゃないっ。」

「サ・ボ・リ。」

茶目っ気たっぷりな目を光らせて香月さんは言った。

⏰:07/09/24 02:07 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#522 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/24 02:08 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#523 [向日葵]
「あがっちゃ駄目?」

可愛らしく首を傾けて聞いてくりその仕草に思わずドキッとしてしまった。

香月さんはじっと見つめてくる。

そんな見つめられたら……困るんですけど。

「いいですけど…ちゃんと学校には帰ってくださ…ヒャッ!!」

家に向かおうと香月さんに背中を向けたら、急に後ろから抱き締められた。
香月さんの頬が、こめかみ辺りに当たる。

「冗談。ここでいいよ。」

耳元で喋る香月さんの吐息が耳に入って、背筋がゾクゾクッとしてしまう。

⏰:07/09/25 01:11 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#524 [向日葵]
「ちょ、何っ……?」

「いいじゃん。彼氏なんだし。甘えさせて?」

胸がキュウッと鳴った。
意外に香月さんは美声だ。
頭の中が、おかしくなりそう……。

心臓が徐々に動きを早めた時、香月さんは腕の力を少し入れた。

「なんで黙ってんの?」

さっきより口と耳が近づいたのか、声がやけにダイレクトに響く。

私は無理矢理香月さんをひっぺがして距離をとった。

⏰:07/09/25 01:16 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#525 [向日葵]
顔が赤いのは言うまでもない。

「プッ。アハハハハハ!!紅葉かっわいー!!」

「っな!もう!!早く戻りなさいよ!!」

胸元を叩いて帰る様に促す。すると香月さんは「あ。」と何かを思い出した様に言った。

「あのさ、静流の弁当俺が持ってくわ。」

「え。本当?じゃあちょっと待ってて。」

**********************

香月の奴……どこ行ってんだ?

香月の姿が急になくなった。前の席がポカンと空いている。

⏰:07/09/25 01:21 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#526 [向日葵]
シャーペンを指先でクルクル回しながら、暇な授業が終るまであと30分だなぁ〜とかぼんやり考える。

ガラガラガラ

クラスの視線が一気にドアの方へ集まる。

「遅れてすんませぇ〜ん。」

あ、香月。

「入室届けは?」

と先生が言うと、素っ気無く「ん。」と教壇に置いてスタスタと俺の前の席まで来た。

「香月。どこ行ってたんだよ。」

「便所。」

長ぇよ。

⏰:07/09/25 01:26 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#527 [向日葵]
「クックック。……嘘嘘。また後で話すわ。」

意味あり気な言葉を残して、香月は残り少ない授業を受け始めた。

―――――…………

「静流、お前にプレゼントだ。」

そう言われて差し出されたのは、弁当だった。

「え?!何でお前……。」

「さっきまでお前んちにいたんだよ。」

「は?何しに?」

香月は一瞬キョトンとしてからニヤリと笑った。

⏰:07/09/25 01:30 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#528 [向日葵]
……まさか。

俺の表情を読んだのか、香月はにこりと笑った。

「お前が思ってる通りだよ。だから弁当届けてやったんだ。」

「そっ…………か……。」

何もしてないならと、何故かホッとした。

「紅葉可愛いかったんだぜ!俺が抱き締めたら顔真っ赤にしちゃってさ!」

顔……真っ赤に?
ってか抱き締めたって……。

ショックだった。
色んな意味で潔癖な紅葉が、誰かに抱き締められただなんて……。
聞きたくもなかった。

⏰:07/09/25 01:34 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#529 [向日葵]
しかも顔真っ赤にさせただなんて……。
俺は香月よりも長い間一緒にいるけど、そんな表情、見た事はない。

表現が下手で、少し照れたりするのはあるけど、異性としての反応は全く知らない。

紅葉は……本気で香月が……?







このくらいの意地悪は別にいいだろう。

静流がショックで黙ってしまったのを見ながら香月は思った。

⏰:07/09/25 01:37 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#530 [向日葵]
俺だって相当辛いんだからな。

好きな奴が、他に好きな奴いるのに気持ち押し止めてこちらに見る様を見てるんだ。

紅葉は確かに自分を好きになると努力はしてくれているだろうし、さっきの反応を見れば自分に可能性が無いわけではない。

……でも、やっぱり心は未だ……。

と、静流を見る。

未だ、コイツなんだもんなぁ……。

ついでにもうちょい意地悪してもいいだろうか。

「俺、紅葉とキスしたんだ。」

⏰:07/09/25 01:41 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#531 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/25 01:42 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#532 [向日葵]
…………は?

「ま、カレカノだし。当たり前だろ。」

「おま……ふざけっ!」

パシッ

香月は胸ぐらを掴もうとした俺の手を払い落とした。口元に笑みを浮かべたまま、冷たく俺を見てくる。

「なぁ。お前言ったよな。紅葉ちゃんには恋情を抱いちゃいない。って。覚えてんだろ?」

もちろん覚えてる。
俺の優先順位はいつでも双葉が一番だった。

……なのに。

⏰:07/09/26 01:22 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#533 [向日葵]
どうしてだろう。

いつの間にか、紅葉が一番になってて……どうしても側にいて、守ってやりたくて

誰にも……渡したくなくて……。

「ゴメン香月……。俺、紅葉が好きだ……。」

*********************

ブー ブー

「ん?」

ソファでのんびり寝転んでいた私は、テーブルで鳴っている携帯を見た。

メール?

その割りには長い事バイブが鳴っている。

⏰:07/09/26 01:33 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#534 [向日葵]
「電話……っか!」

勢いよく起き上がって、携帯を取る。

「あ、香月さんだ。」

またサボったとか……。はないか。
時計はすでに4時を指している。
学校ならもう終わってるだろう。

「もしもし。」

{ぃよっ。さっきはどうも。}

「こちらこそ、お弁当ありがとう。どうかした?」

そこで香月さんが黙ってしまった。
一瞬電話が途切れたのかとディスプレイを見てみたけど、通話中だったのでまた耳に当てる。

そして当てた途端香月さんは喋りだした。

⏰:07/09/26 01:49 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#535 [向日葵]
{嬉しいニュースだよ。}

そう言いながら香月さんの声のトーンは低い。

私は黙って続きを待った。

{静流が……。静流が、紅葉を好きだって。}








え?

「冗談……止めてよ。」

{冗談じゃない!!}

⏰:07/09/26 01:54 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#536 [向日葵]
目の前が真っ暗だ……。

そんな事あっちゃいけない。

私……私……双葉さんの幸せを取る事になっちゃう……っ!
そんな権利無いのに……っ!!

どうする?
もし今、静流が帰ってきて、私に告白したら……。

私の……私のせいだ……っ!!

いつの間にか、香月さんの声が耳に入らなくなった。ただ自分のせいだと頭を抱え、だからと言ってどうすることも出来なかった。

⏰:07/09/26 01:59 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#537 [向日葵]
【約束だからね……。】

熱を出した時の双葉さんが脳裏に浮かんだ。

――――――約束……。

ガチャ

「ただいまー。」

ハッ!

静流が帰って来た。
どうするの……私。
どうにか二人をくっつけないと……っ。

――何故?

もう一人の私の声が聞こえた。

何故?私は人の幸せを奪い取るほど偉い人間じゃない……っ!

⏰:07/09/26 02:06 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#538 [向日葵]
――イイジャナイ。十分苦シンダノヨ?奪イナサイヨ。アンタダッテ本当はソウシタインデショ?

―――っ!!
違う!!確かに……確かに二人を見るのは辛い!

でも、私は幸運にも大事にしてくれる人が見つかった。これ以上の幸せは求めてはいけない……っ。
こんな幸せ……許されない……。

正直……嬉しかったっ……。

静流も同じ気持ちだって。私が好きなんだって。

でも、私は自分の幸せと引き換えに他人の幸せを取ってしまった。

⏰:07/09/26 02:11 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#539 [向日葵]
【アンタなんか生まれてこなければ良かった。】

そう言い続けられた……。

そう。
……私なんか。

「紅葉?いるんなら返事しろよ。」

静流が微笑んでる。
優しく、いつもの静流に戻ってる。

あぁ……どうしよう。
その私を見る目が、愛しいのにとても憎い……っ。

どうして私なんか好きになってしまったの……?

どうして……。
どうして……。

⏰:07/09/26 02:14 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#540 [向日葵]
―避―









私はどうしたらいい?

右にも左にも、もう道は無くなってしまった。

私がいけないのかな。
私が香月さんを好きにならず、静流をまだ好きでいるから……?

⏰:07/09/26 02:16 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#541 [向日葵]
カチャン

「あ……。」

スプーンを置く音で現実に戻った。

今は晩御飯を食べている最中。
静流は帰って来てから特に静流自身の気持ちを言わない。

その事にホッとした。

それならば双葉さんにはまだ何も言ってないという気がしたからだ。

「なぁ紅葉。」

―――ドキッ……。

「……私、お風呂用意してくる。」

と言って、その場を去ろうとしたけど失敗した。

⏰:07/09/26 02:21 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#542 [向日葵]
静流は椅子に座ったまま私の腕を掴んで私の足を止めた。

「話があるんだ。」

「あとでにして。私……っ。早く寝たいの。」

手を振り払って、逃げる様にお風呂場へ向かった。

間違いなく、あれは告白する気だったんだ。
きっとこの後も、言ってくるかもしれない。
実際私は「あとで」と答えてしまった。

お風呂場にへたりこんで浴槽に貯まるお湯を眺める。気泡が出来たかと思えば飛沫のせいですぐ割れた。

⏰:07/09/26 02:28 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#543 [向日葵]
静流も私が好きだと勘違いしていたと思ったらいい。この気泡みたいにそんな思いが嘘だったかのように無くなればいい。

だからお願い。
私を好きだなんて、絶対言わないで……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

階段を上がると、部屋のドアに静流はもたれていた。

その前を通ろうか迷った私は、通り過ぎる事を決意して早足に進んだ。

静流の前を少し通り過ぎた時だった。

「紅葉。」

⏰:07/09/26 02:31 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#544 [向日葵]
思わず足を止めてしまった。

「何……?」

恐る恐る、静流の方も見ないで尋ねた。

静流が私の後ろにドアから離れて立っているのが分かった。

「俺なんかしたの?」

「……。」

しばらく間を置いた後、私は首を横へ振った。
すると静流はため息を吐いて、一歩私に近づく。

「じゃあ何その態度…。地味に傷つくんだけど。」

⏰:07/09/26 02:35 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#545 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/26 02:35 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#546 [向日葵]
私は小さく深呼吸した。

言葉が見つからない。
私の事好きなのかなんて聞けない。

もしかしたら香月さんの勘違いかもしれない。
「好き」の意味を間違えてるのかもしれない。

「好き」は「好き」でも、よく言うように、LoveじゃなくLikeの方なんじゃ……。

そうだ。
きっとそうだよ!

希望を取り戻した私は静流に向き直った。

「ちょっと、気分が優れないだけよ。気にしないで。」

⏰:07/09/27 13:20 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#547 [向日葵]
そう言うと、静流の顔が、緊張した顔からスッと力が抜けた表情になった。

それを見て、私もホッとした。
でも、安心したのも束の間だった。

急に静流が唇をキュッと閉めて、真剣な目をした。

それを不思議に見ていた私は、ぼんやりしていたせいで逃げる事を忘れた。

静流は私を抱き締めた。
それも、息が出来ないほど、強く……強く……。

抱き締められた瞬間、目を見開いて私は固まった。

静流の体温を、鼓動を感じる……。

⏰:07/09/27 13:35 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#548 [向日葵]
「静流……?」

「紅葉。俺さ。…………。お前が好きだ……。」

目が落ちてしまいそうなくらい、私は目を開いた。

聞いてはいけなかった。
どうして私さっき逃げなかったの……?

静流はゆっくりと私を離した。

「あの……返事は、ゆっくり考えてくれたらいいから。」

返事?
そんなの、考えるほどでもないわよ。

「いい。今言う。」

⏰:07/09/27 13:39 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#549 [向日葵]
静流を見ないで上手く吸えない息を無理矢理肺に入れる。

「答えは……NOよ。分かってんでしょ?私には、香月さんがいる。」

涙……お願いだから出ないでね。

否定の言葉を言う事に集中しなさい私。
じゃないと、溢れて出てしまいそうになる。

私も貴方が大好きだって……。

「静流は、きっと気持ちが麻痺してるの。私が、近くにいたせいね。もう一度、よく考え」

「考えたよっ!」

⏰:07/09/27 13:43 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#550 [向日葵]
次の瞬間、静流は私の肩を掴んでガクガク揺らした。

「なんでそんな冷たい事言うんだよ!人が精一杯の気持ちを……言ってんのに……っ。いいよ。断られるのは…分かってた……。でも、何でそんな、麻痺してるとか言うんだよっ!!」

静流は壁をものすごい音を立てて叩くと、自分の部屋へ戻ってしまった。

結局私は最後まで静流の目を見れずにいた。

「ゴメン……。静流……。」

パタタタタ

床に小さな水溜まりが出来た。

⏰:07/09/27 13:48 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#551 [向日葵]
足が、震える。

初めてだ。あんな悲しそうで、辛そうで、泣きそうな静流の声を聞いたのは……。

これでいい…。
これで…………。

「―――っゴ、ゴメン……っ!!ゴメンネ……っ静流……っ!!」

謝るしか出来ない。

ありがとう。
私なんかを好きになってくれて。
とても嬉しかった。
私も貴方が大好き。

でもね……どうしても自分が幸せになるのが許されない。

⏰:07/09/27 13:51 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#552 [向日葵]
静流はあんなにも温かい心をくれたのに……私は何も返せなくて。

ゴメンネ……ゴメンネ……。


ごめんなさい…………。

外では、雨が降り始めていた。

―――――……

朝起きると、薄手の布団がかけられてた。

当然、あの後だったから、静流の部屋にある自分の布団には行けず、ソファーで寝た。

目が重い……。いっぱい泣いたからかな。

⏰:07/09/27 13:55 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#553 [向日葵]
「あ゛ー……あ゛ー……。」

喉がかすれてる。
声が出しづらい。
体も……重い……。

喉を擦りながら、ゆっくりと体を起こした。

……これからどうしたらいいのかな……。

静流はまた微笑みかけてくれる?
また優しく頭を撫でてくれる?
また……名前を読んでくれる……?

膝を抱えて、その膝に、顔を押しつける。

どうして私は……あんな形で静流に出会ってしまったんだろう。

⏰:07/09/27 17:31 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#554 [向日葵]
普通に出会っていれば、静流の胸に迷わず飛び込んでいけるのに……。

【あんたなんか生まれてこなければ良かった。】

【約束だからね……。】

「……フフ…。ハハハハ……。」

どうやら、私は邪魔者になるのが運命らしい。


*******************

「どういう……こと?」

双葉は顔が真っ白になってた。
それもその筈だった。

⏰:07/09/27 17:34 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#555 [向日葵]
「言った通りだ。……ゴメン双葉。別れよう。」

しばらくしてから双葉の目からは大粒の涙がこぼれ始めた。

「やだ……やだやだやだ!どうして?!私…っ何かしたの……っ?」

「してないよ。全部俺が悪い……。俺、紅葉が好きなんだ。」

双葉は涙を流しながら固まった。
白い肌が余計に白くなって行く……。

「……分かった。」

そう言うと双葉は自分の教室へ帰ってしまった。

⏰:07/09/28 00:45 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#556 [向日葵]
足取りがフラフラしている。
大丈夫だろうか……。

ゴメン双葉。
双葉はすっげぇいい奴だし、傷つけたくなんてなかった……。
それでも、自分の気持ちに嘘はつけなくて……。限界なんだ。

俺も教室へ帰った。
すると香月が入口付近に腕を組んで立っていた。

「へぇ……。やっと本気出すんだ。」

大して面白いことなんて無いのに香月は笑っている。

「香月……俺、紅葉に言ったから。好きだって……。」

⏰:07/09/28 00:49 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#557 [向日葵]
「へー。」

香月との今日の会話はこれで終わりだった。

香月との仲が、日に日に悪くなっていってる事が痛いほど分かる。

それも全部、俺のせいだって……分かってるけど……。

家に帰ると紅葉の姿がなかった。
ベランダに出る戸にカーテンがかかってる。
多分外にいるんだろう。

テーブルを見ると小さな字で書かれたメモがあった。

<一人でご飯食べて。私はいらない。>

⏰:07/09/28 15:01 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#558 [向日葵]
一度、ベランダの方を見た。

そして料理を作って、シンとする中で食べる。
結構辛いものだ……。

どうしてこうなったんだろう……。

*********************

そんな風にしながら日は過ぎていった。

足りない頭で私は考えた事がある。

静流が学校へ行ってる間、私は働いてる源さんへ電話をした。

プルルルルル

{もしもし。}

「源さん。紅葉です。」

⏰:07/09/28 15:06 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#559 [向日葵]
「……お願いがあります。」

―――――……

ガチャン

静流が帰ってきた音が聞こえた。

大丈夫。落ち着け。
いつも通りだ。

リビングに来るかと思いきや、静流は部屋へ行ってしまった。

「フ……フゥ―……。」

緊張しすぎだ。

ソファーに座っていた私はずるずると寝転んだ。

⏰:07/09/28 15:09 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#560 [向日葵]
今日は……絶対顔見せよう。
大丈夫。静流ならきっとまたいつも通りでいてくれる。

頭の中でずっと「大丈夫」と唱え続けた。

「あ、いたんだ。」

思わず飛び起きた。

着替えていたらしい静流は、いつの間にか部屋から出ていて上から覗いていた。

「ご飯……食べるか!」

気まずそうに笑い、静流はキッチンへと行った。

私は少しホッとする。
良かった。笑いかけてもらって。
冷たくされるんじゃないかと心配した。

⏰:07/09/28 15:14 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#561 [向日葵]
久々に二人で食べるご飯はとても美味しく感じた。

静流は私に「食べれるか?」とか「大分平気になって良かったな。」と温かい眼差しで言った。

私はウンと答えるしか出来なかったけど、静流には多分伝わっているだろう。

そんな時だった……。

ピンポーン

二人で顔を見合わせた。

「誰だろう。」

私は使ってたフォークを置いて階段を降り、玄関を開けた。

⏰:07/09/28 15:18 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#562 [向日葵]
「双葉さん……。」

「こんばんわ。」

いつもの明るく愛想のいい挨拶をしてくれた。
でもなんだか様子が変だ。

「えと、静流呼んで」

「貴方に話があるの。」

静流がいるだろうと思う所らへんの天井を見た顔を下に下げ、双葉さんを見た。
見て驚いた。
少しの間で、双葉の顔は洗った後みたいに濡れていた。それは涙のせいだ。

「紅葉ちゃんは……ズルイ……。」

⏰:07/09/28 15:22 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#563 [向日葵]
涙でしゃがれた声でそう言われた。
そして瞬時に分かった。
双葉さんは、静流に別れを告げられたんだと。

「こんな近くにいちゃったら……っ誰だってその子を見ちゃうよ!貴方が捨てられてるのを発見してから静流の言葉に貴方の名前が無い日はなかった!!」

―――ズキン

私……ズルイんだ……。

「ひどいよ…っ!!静流が大好きなのに……紅葉ちゃんが横取りするなんて……そんなのひどいよ!!」

「やめろ!!」

⏰:07/09/28 15:26 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#564 [向日葵]
騒ぎで降りてきた静流が後ろで怒鳴った。

私はずっと双葉さんを見たまま体を動かす事も出来ず、固まっていた。

「紅葉のせいじゃない。俺が悪いんだ。双葉を好きでいてやらなかった俺が……。だから、紅葉を責めるのはよせ。」

双葉さんの見開かれた目からは涙が次から次へと流れていった。
そして急にきびすを返して走り去って行ってしまった。

「静流……追ってあげて……。」

「なんで。」

⏰:07/09/28 15:31 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#565 [向日葵]
背中を向いたまま、開かれたドアの向こうを見ながら静流に言った。

「どうして別れたの。」

「……言っただろ。……前に」

「よく考えてみてよっ!!私がここにいなかったら、静流はいつまでも双葉さんと仲良くいたのよ?!私の……私のせいで、別れたりしないでよ!」

「だから違うって言ってんだろっ!!」

大声を出した静流に私はビクッとした。
静流は戸を閉めて私を階段近くまで引っ張った。

⏰:07/09/28 15:36 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#566 [向日葵]
大きな両手で私の顔を包むと、静流は上を向かせた。

「どうして、お前は自分ばかり責めるんだよ。そこまで…自分を傷つけなくていいんだ。」

静流の切ない目が潤んで、とても綺麗に感じた。
私はそれに目が離せなくなる。

「人を好きになるのは誰のせいでもない。だから、頼むから……。俺の気持ち分かってくれよ。」

そう言いながら辛そうに目を瞑り、私のおでこと静流のおでことをコツンと当てた。

⏰:07/09/28 15:42 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#567 [向日葵]
分かる。
好きって気持ちは、ホントどうしようもなくて、押し止めてしまうのが苦しい。

だから言葉が溢れていくんだと思う。

「好き。」

…………と。

静流が目を開けた。

「今……なんて?」

「好き。私は静流が好き。でもね……また違うの。貴方の好きと、私の好きは……。」

静流は一瞬輝かせた目を戻して私の続きを待った。

⏰:07/09/28 15:46 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#568 [向日葵]
「ありがとう。こんな私を好きになってくれて。おやすみなさい。」

私は静流の手を顔から離して横を通り過ぎ、階段を上がって行った。

「紅葉。」

進める足をピタッと止める。下を向くと、さっきのまま静流が私に話しかけている。

「これからも……お前が俺を好きになることは……俺を恋愛対象として見ることは……ないのか?」

あるよ。あるじゃない。
現在進行系で貴方が大好きなの。

――横取りするなんて……っ!

私が双葉さんの立場でも多分そう思う。
私はズルイ。

⏰:07/09/28 15:52 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#569 [向日葵]
静流に大事にされて、優しくされて……。
彼女立場とすれば目の上のタンコブに違いない。

大好きな人の心が、自分に向いてないことは、なんて悲しいんだろう。

「……。ない。」

それだけ言って、私は階段を登って行った。

―――――……

やっと源さんが帰ってくる日。
あれからも態度は変わらない私達。
しかしうっすらと作られてしまった壁。
きっと元に戻る事はない。でもそれでいい。

⏰:07/09/28 15:57 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#570 [向日葵]
源さんは夕方頃にボサボサな頭を更にボサボサにさせて帰ってきた。

「ただいま!仲良く留守番してた?」

「そんな年じゃないっつーの。」

そんな温かい親子を少し微笑みながら見ていた私は、心の中で思った。

――いよいよだ……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜。
良かった事に今日は満月が綺麗に出るほど天気のいい空だ。

ベランダで体育座りをしながら眩しい月を見上げる。

⏰:07/09/28 16:01 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#571 [向日葵]
時間を見れば、夜中の1時。そろそろ静流も寝静まった頃だろう。

リビングを横切り、部屋をそろっと開ける。
予想通り、静流は寝ていた。

暑いのか、布団をあまり被らないで壁側を向いて寝ている。
この方が好都合。
予め用意していた旅行用カバンを持ちながらカチャリとドアを閉めた。

急いで置いてある自分の服、下着をカバンに摘める。

ここまですれば、私が何をするかお分かりだろう。

⏰:07/09/28 16:06 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#572 [向日葵]
そう。

あれは源さんに電話した時だった。

―――――
――――――――……

{旅?}

「そう。一人旅。出来るだけ遠くに行ってみたいの。」

このまま私がいてしまうとダメな気がした私はそう言った。
しばらくの間、静流とも香月さんとも離れて、香月さんはともかく静流にもう一度考えてもらいたかった。

本当に私が好きかどうか……。

⏰:07/09/28 16:10 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#573 [向日葵]
{……。僕の知り合いに、旅館を経営してる人がいるんだ。その人のトコへ行ったらどうかな。}

「じゃあ……そうする。あと、静流には言わないでくれる?」

{?どうして?}

静流が自分のせいだって思って引き止めてしまいそうだから……。なんて言えない。
第一源さんは私達のそんな事情を知らない。

「「子供のくせにまだ早い!」っとか言いそうだから。」

と冗談で返すと、源さんは「確かに。」大笑いした。

⏰:07/09/28 16:16 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#574 [向日葵]
もしかしたら源さんは何か感じとってたかもしれない。
でも何も言わず、ただ私の言う事をウンウンと言って聞いてくれた。

私は朝一の新幹線で源さんの知り合いとやらの旅館へ行く事になった。
駅までは一人で行くと源さんに伝えた。

源さんは「じゃあ駅までの地図を当日渡すね」と言って仕事が忙しくなったのかじゃあと言ってから電話を切った。

――――
―――――……

そして今に至る。
私は朝になるまで寝ないつもり。

⏰:07/10/02 23:13 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#575 [向日葵]
その代わりに静流の寝顔をしっかり見ておくの。
次に会う時までの少しの支え。

きっと会いたくなる時があると思う。
でも我慢しないと。

すぐ帰ってしまっては静流の気持ちが変わってないかもしれない。

本心は、変わってほしくなんかないけど……ね。

私はベッドに歩み寄ってストンと座った。
静流は熟睡して寝息をたてている。

そんな静流の顔を、そっと撫でてみた。

⏰:07/10/02 23:17 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#576 [向日葵]
男の子だって言うのに、すごく肌が綺麗なのかスベスベしてる。

私は静流の頬を何度も指先で往復した。
胸が……苦しい……。

パシッ!

「っ!!」

寝てる静流が私の手を掴んだ。
寝てるのに素早い動きだったので私の心臓がバクバクと急に動き出した。

「……れ……。」

「れ?」

何の事か分からない私に教えてくれるように静流はもう一度寝言を言った。

⏰:07/10/02 23:21 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#577 [向日葵]
「く…れ、は……。」

「――っ。」

私の……夢を見てるの?

掴まれた手は、離される気配がない。

静流……私は、どこにも行かない。
また、貴方の前に現れる。それがいつかは分からない。
でも必ず、また来るから……。

ありがとう。

私に優しくしてくれて……好きになってくれて……。

ありがとう……。

⏰:07/10/02 23:24 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#578 [向日葵]
私は唇を、静流のおでこに当てた。

シャンプーの匂いが、鼻をかすめた。

―――――
――――――……

午前4時。

もっと見ていたかった。
静流の、綺麗なその顔。
でももう時間……。

タイムオーバー。

いつまでも掴まれたままだった手を、ゆっくりと外して行った。

「……バイバイ……。」

荷物を持って、私は静流の部屋を静かに出て行った。

⏰:07/10/02 23:28 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#579 [向日葵]
下へ行くと、玄関に源さんがいた。

「静流君に、本当に言わなくていいの?」

私は頷いた。

「朝まで寝かしといてあげたいから。心配しないようにだけ言っておいて。」

「そっか……。あ、ハイ地図。」

渡された地図に目を落とす。
結構時間がかかりそうだ。

地図から目を離し、源さんを少し見てから頭を下げた。

⏰:07/10/02 23:31 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#580 [向日葵]
「わがままを……聞いてくれて、ありがとうございました。」

すると源さんは、悲しそうな微笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。

「いつでも帰ってきてね。君は僕達の家族なんだから。」

家族……。
最初から源さんや静流は前から私がいたみたいに扱ってくれた。

それをとてもありがたく思う。

「行ってきます。」

私は源さんの方は向かずに戸を閉めた。

⏰:07/10/02 23:35 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#581 [向日葵]
門を出て数歩歩いてからまた家を眺めた。

驚くほどの家のでかさ。

いつも自分が愛用していたベランダ。
いつも明るかったリビング。
水やりしていた花壇。


そして……あそこは静流の部屋……。


じって見つめる。
もしかしたら静流が止めにくるかななんて馬鹿な事を思いながら。
そんな事をしたら意味が無くなるのに。

どうしてだろう。

永遠の別れじゃない筈なのに、もう二度と会えない気がする。

⏰:07/10/02 23:39 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#582 [向日葵]
でも、それでもいい……静流さえ幸せになってくれれば、それでいい。

そして私は歩き出した。

6月の早朝はなんだか湿っぽい。

遠くで新聞配達の音が聞こえる。

私のジャリジャリと言う歩く音が聞こえる。

その途端、胸が一杯になった。
涙がボロボロ流れ始める。

「―――っう……っ。ふうぅ……っっ!」

歩くのが何だかもどかしくて、私は走り出した。

⏰:07/10/02 23:43 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#583 [向日葵]
「ハッ!ハァッ!!……んくっ……っ。」

泣いてるせいで、呼吸困難になりそう。
でも走り続けた。

幸せに憧れた。
幸せになりたかった。
もっと一緒にいたかった。
もっと一緒にいてほしかった。

でも私はそれほどの人間でもなく、自分が幸せに敏感なだけに人の幸せを奪うのはどうしても出来なかった。

ずっと頭の中で、そう唱えてた。

【俺は紅葉が好きだ。】

⏰:07/10/02 23:47 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#584 [向日葵]
朝日が見え始め、その光を全身に目一杯浴びる。

静流。
私も好き。大好き。

ゴメンネ。
答えてあげられなくて。

静流……静流……。

「っうあぁぁ!!……ひっ!ハァッハァッ!!」

またね……って、言えない気がする。

だから


さようなら。

⏰:07/10/02 23:50 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#585 [向日葵]
―会―











朝だ……。起きなきゃいけない。

今日も学校だ。

俺はぼんやりしながら体を起こした。

ふと、右手を見てみる。
何か感触が残ってるような。

⏰:07/10/02 23:53 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#586 [向日葵]
それが何かなんて、検討もつかない。

そのまま視線を滑らすと、紅葉の布団に紅葉がいない。

彼女は確かにいつも早起きなのだが、起きたような布団の形はしていなかった。
敷いてそのままと言う感じだ。

もしかしたらまたソファーで寝てしまっているのかもしれない。

確認の為、俺は部屋を出た。

リビングに向かうと、シーンと静寂に包まれていた。

⏰:07/10/03 00:00 📱:SO903i 🆔:RMOaFhzI


#587 [向日葵]
寝息のような音すら聞こえない。
でもとりあえず呼んでみる。

「紅葉ー?」

もちろん返事などなかった。

ソファーに一歩一歩近づいて行く。

何故だろう。

心臓が高鳴っていくのがわかる。
胸騒ぎと言ったらいいのだろうか。

予感は的中。

……紅葉が

いない……。

⏰:07/10/03 00:07 📱:SO903i 🆔:RMOaFhzI


#588 [向日葵]
「……れは……?」

よたよたと後退して行き、ザッ!っと体を翻して父さんの部屋へ向かった。

階段をこけそうなくらい早く降りて、廊下を大股で走って行く。

ドンドンドンドン!!

俺は父さんの部屋のドアを思いっきり叩いた。

「父さん!父さん!大変だ!!」

俺がこれだけ混乱してるって言うのに、父さんはゆっくりとドアを開けた。

「父さん……っ?!大変だってば……っ!」

⏰:07/10/03 00:17 📱:SO903i 🆔:RMOaFhzI


#589 [向日葵]
父さんは何故か無表情だった。
そこで俺は分かった。

「知ってんの……?紅葉いないこと……。」

父さんはゆっくりと頷いた。

俺は訳がわからなかった。何故?何故出ていく必要があったんだ?
俺のせい?
俺が好きだとか言ったから?

パニック状態になった俺の表情を読み取った父さんが言った。

「大丈夫。一人旅に出かけただけだから。」

「一人……旅?」

⏰:07/10/04 00:58 📱:SO903i 🆔:InOsgAz6


#590 [向日葵]
「旅がしたかったんだって。心配しなくても、いつか帰ってくるから。」

いつか?

「いつかって……いつ?」

父さんは静かに微笑んで言った。

「いつか……だよ。」

つまり決まってない。

明日帰ってくるかもしれないし、1週間後に帰ってくるかもしれない。

それが、もし、何年も先だったら……?

俺は急いで階段を駆け上がり、携帯を手にした。
リダイアルで紅葉の番号を出し、電話をかけた。

⏰:07/10/04 01:02 📱:SO903i 🆔:InOsgAz6


#591 [向日葵]
コールが鳴り続ける。
紅葉が出る気配が全くない。

プツッ

「!紅葉!今どこに」

{おかけになった電話は、電波の届かない所か、電源が入ってない為……}

携帯アナウンスに失望して、最後まで聞かないまま電話を切った。

どうして、こうなってしまったんだろう……。


*********************

段々と、景色が田舎になってきた。
見る限り、山、田んぼ、山田んぼ……。
緑一色しかない不思議な世界。

⏰:07/10/04 01:06 📱:SO903i 🆔:InOsgAz6


#592 [向日葵]
ぼんやりと、初めて行く場所に向かっていた。

私は途中自販機で買ったミネラルウォーターを一口飲み、しばらく寝ることにした。

なんだか……目が重い気さえした。

*********************

「紅葉が消えた?!」

今朝の出来事を香月に伝えた。
驚いている事から香月にも知らされていなかったらしい。

「何で消えるんだよ!意味分かんねぇぞ?!」

⏰:07/10/04 01:10 📱:SO903i 🆔:InOsgAz6


#593 [向日葵]
「俺だって分かんねぇよ!!」

俺の荒けげた声に、クラスメイト何人かが振り向く。
香月は少しびっくりしていて目を見開いている。

「どこに行ったかとか……聞いてないのか?」

香月の言葉に、俺はうなだれて首を振った。
父さんからはただ一人旅だとしか聞かない。
何故俺には内緒だとか、何故行ってしまったとか、聞きたいのは俺の方だった。

「携帯にも繋がらないんだ……。メールも返ってこねぇし……。」

⏰:07/10/05 14:59 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#594 [向日葵]
「おじさん、行き先知ってるんじゃないのか?」

「さぁ……。」

「「さぁ」っじゃねぇよ!イジイジしてる暇あるんだったら少しは行動して見ろよ!!」

……?
なんで俺が?
いや、行動するのには何も抵抗は無い。
寧ろ動きたくてウズウズしてるくらいだ。

「お前、何で俺の応援してんの?」

問いた時、香月はフゥ……と息を吐いた。

「お前ら、両想いだって知らなかったのか?」

⏰:07/10/05 15:04 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#595 [向日葵]
頭の機能が、停止した。

真っ白になって、視界も何を見てるかなんて分からなかった。

紅葉が……?
だって俺が前、好きになる確率がないかと聞いた時、アイツは

[ない。]

……って……。

なら……どうして?

「ついでプラス、嫌味でお前にある事を教えてやろう。」

香月の声がしたのをきっかけに、俺は現実へ戻ってきた。

⏰:07/10/05 15:08 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#596 [向日葵]
「お前の誕生日の時、紅葉はケーキを買ってきててなぁ。」

腕組みしながら喋る香月に俺は小さく「え?」と返した。

「帰ってきてケーキを見つけたお前が気をつかわないように紅葉は一人で食べたんだ。」

「一人?」

「一人。」ともう一度言って香月は黙った。
俺の様子を見ているらしい。

一方の俺は呆然としていた。

⏰:07/10/05 15:12 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#597 [向日葵]
食べれないのに……一人で、全部……。

「さらに、ついでのついでだ。」

「まだ、あるの?」

「あぁ。俺はお前と違って相談役もしてたからなぁ?」

それを聞いてグッと歯を食い縛った。
よく考えてみれば、自分は紅葉に何をやってあげたんだろうか。

「今思い出した事だ。紅葉はな、お前が自分を好きになってしまったら出ていくって言ってた。丁度そのケーキの件の時だ。」

⏰:07/10/05 15:18 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#598 [向日葵]
血の気が引いていくのが分かる。
まさか自分が原因だったなんて。

でも何故俺は紅葉を好きになっちゃならなかったんだ……?
紅葉も俺を好きなら、それでいいんじゃないのか?

「紅葉はな。」

「ん?」

「優しすぎてんだよ。」

脳裏に紅葉の痛々しい笑顔が蘇る。
今なら、あの笑顔の意味が分かる気がした。

「自分のせいで、双葉ちゃんが悲しい思いをするのが嫌だったんだろうな。」

⏰:07/10/05 15:22 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#599 [向日葵]
「だってそうだろ?」と香月は続けた。

「考えてもみろよ。あの子は捨てられたんだ。しかも自分が邪魔だと親に言われたんだろ?だから、邪魔者にならない様にいつも我慢してたんだよ。」

[私は不要じゃない!]

紅葉を拾って来た時、紅葉が叫んでいた。

「……俺……。」

その時からかもしれない。
紅葉が好きだったの。

放っておけなくて、危なっかしくて……でもどこか愛しくて……。

⏰:07/10/05 15:27 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#600 [向日葵]
「お前は、よく紅葉を見てんのな……。」

いかに、今まで自分は自分の事しか考えていないかよく分かった。

香月に妬いて出ていけといったり、変な態度をとってケンカしたり、勝手に殴ったり……。
自分はどれだけ紅葉を傷つけたんだろう。

あの痛々しい笑顔以来、紅葉の心から笑った顔は…………見てない……。

ゴンッ!!

頭に激痛。
急な事に目の前にはチカチカ星が飛んでる気がした。

⏰:07/10/05 15:31 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#601 [向日葵]
「ぃいっってぇぇ……。」

「だって殴ったもん。当たり前だろ。」

平然と言ってのける香月を頭を抑えながらキッと睨む。
その視線を涼しい顔でサラリと流されてしまった。

「落ち込んでる場合か。俺なんか何を言っても紅葉の心はお前ほど動かせないんだぞ。」

改めて思った。

「お前ってカッコイイよな。」

「だって人気あるもん。」

よく分からん答えだ。

⏰:07/10/05 15:36 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#602 [向日葵]
**********************

プシュー……

「着いた……。」

新幹線で3時間。バスで2時間。計5時間の道のりに私はぐったりしていた。

目の前にはドでかい旅館。まるで千と千尋の●隠し……。
ついでに頭がデカイおばあさんとか出てくるのかしら……。

旅館のすぐ近くには海があった。
防波堤を越えれば砂浜があるだろう。
風が穏やかなので波は高くなさそうだ。

⏰:07/10/05 15:40 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#603 [向日葵]
荷物置いたら後で出てみようかしら。

そう思いながら足を進め、旅館へ入って行った。

「……こんにちわ……。」

受付の人におずおず挨拶をした。

「あ、いらっしゃいませ。ご予約してますか?」

着物を来た四十歳くらいの女の人に、私はコクコク頷いた。

「えっと……源さんって、ご存知でしょうか?」

「あぁ!貴方ね!ようこそ、おいでくださいました。お部屋に案内しますね。」

⏰:07/10/05 15:45 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#604 [向日葵]
部屋に案内される間、従業員の後ろを歩きながら私は館内を見渡した。

オレンジ色をした証明は家なんかにある蛍光灯よりホッと落ち着く気がした。

下の赤いフワフワした床は硬い石のような物よりも好きだなぁと思った。

やがてついた部屋は、一人じゃ勿体無いほどの広い部屋で、畳の匂いがすごくした。
目の前にはさっき見た海が見えた。

「何かありましたらお呼び下さいね。」

「あ……どうも……。」

⏰:07/10/07 19:43 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#605 [向日葵]
スタンと戸が閉められて、部屋が静かになった。
窓を開けてみると、潮風が入ってきて、波の音が聞こえた。

「のどか……。」

「失礼しまーす!」

いきなり誰か入ってきて、私はバッと振り向いた。

そこには私服の背の高い女の子がいた。

「貴方が紅葉?」

「はぁ……。」

女の子はニコッと笑って私の元へやって来ると握手を求めているのか手を出した。

「私は渚!18!ここの旅館の娘で、貴方のお世話をすることになってるの!」

⏰:07/10/07 19:48 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#606 [向日葵]
私は急な展開についていけず、渚と名のる女の子を凝視した。
女の子は変わらずににこにこしていて、握手を無理矢理してきた。
そして私の隣について海を眺める。

「綺麗でしょ?私もこの街が大好きなの。」


18の彼女は、18と思えない様な無邪気な表情でそう言った。
そんな彼女をうらやましくも思った。

私の中の無邪気な心は、どこかへ置いてきてしまったから……。

「貴方は、紅葉は、どうしてここへ来たの?」

⏰:07/10/07 19:53 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#607 [向日葵]
彼女の方を見ると、私の方は見ずに海を見ながら私に問いていた。

私はまた海に目を移して、青い海に映った静流の面影を見ながらぼそりと言った。

「何も考えたくなくなったから……。」

そう答えてからは、また黙った。
渚さんもそれ以上は何も聞いてはこなかった。

そこで思った。

ここに来るお客は、私の様なのが多いんではないかと。

源さんもそれを分かっていたからここに私を預けたのかもしれない。

⏰:07/10/07 19:58 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#608 [向日葵]
私にとって、有難いことだ。でなければきっと浮いて、注目を浴びていたことになるだろうから。

*********************

「父さん!」

父さんの部屋のドアをノックもせずに開けた。
しかし父さんの姿はなかった。
どうやら仕事に行ってるみたいだ。

頭をガシガシかいて、自分の部屋へと向かった。

携帯を見ても、センターに問い合わせても、電話もメールも何も無かった。
きっと気づかないてない上に電源も切ったままなんだろう。

⏰:07/10/07 20:02 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#609 [向日葵]
「はぁ……なんだよ……。」

こんなに想ってんの俺だけかよ……。

……いや、違うか。
紅葉も俺を想ってくれてたんだろう。
だからあんなに気をつかって、そして静かに身を消した……。

思い出さなければ紅葉が今までいたかどうかも忘れてしまいそうだ。

いなくなったのは今日の筈なのにもう一ヶ月ほど会ってない気分だ。

試しに電話をもう一度かけてみた。
でもやっぱり出るのはガイダンスの無機質な声だった。

⏰:07/10/07 20:07 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#610 [向日葵]
またため息を深々とついて携帯をパキンとたたんでベッドに身を沈める。

頼むから……

声を聞かせてくれ。
姿を見せてくれ。

もう一度、好きだと言わせてくれ。

胸の中がむしゃくしゃして、それから逃れたくなって目を瞑った。

いつの間に、紅葉が側にいることが当たり前になってたんだろう。

だから香月の彼女になってしまった時に、事の、気持ちの重大さに気付いたんだろうと思う。

⏰:07/10/07 20:18 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#611 [向日葵]
「情けな……。」

自分はどうして、いつも気づくのがこうも遅いんだろうか。

*******************

夕方になり、海に太陽が沈んで行くのを砂浜で見ていた。

砂浜はゴミが全然なく、とても綺麗だった為普通に座った。

あぁ……やっと一日が終わった。
なんだか長く感じた。
きっと朝早くから動いてるせいだろう。

意味もなく、砂を掴んでサラサラと落とすのを何回も繰り返した。

⏰:07/10/07 20:23 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#612 [向日葵]
こんな風にサラサラになって、どこかへ飛んでいけたなら、私は何に気負う事もなく生きていけただろうに……。

どこで歯車がズレてしまったのだろう。

「く―――れは―――!」

どこからか私を呼ぶ声が聞こえた。
すると私の部屋の窓から渚さんが身を乗り出して手を振っていた。

「ご飯だよ―――!」

私はそこまで叫ぶ元気などなかったから、立ち上がり、旅館の方へ行く事で肯定の意味を示した。

⏰:07/10/07 20:29 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#613 [向日葵]
ご飯って言っても私の食べる物は限られていた。
いくら前に静流宛てのケーキを食べてのけたと言ってもまだ体調事態は完璧ではない。
寧ろあのあと2、3日胸やけと吐気に襲われたぐらいだ。

渚さんは私と一緒に食事をとった。
お世話と言うより友達の様な感じで。
「血液型は?」とか「好きな漫画は?」とか他愛のないことを話してきた。

私は短文でしか返せなかったけど、渚さんは満足してくれたのか話ははずんでいった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

布団を敷いて、寝る準備が出来た。

⏰:07/10/08 01:17 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#614 [向日葵]
これからこんな生活が続くのかと思うと、あまり悪くないと思った。

ベランダがわりとなる海があるのが救いなのかもしれない。

電気を消そうとしたら、また最初みたいに渚さんが布団を抱えてやって来た。

「え……。まさか……一緒に?」

「そうよっ!悪い?」

悪いって言うか……。私は出来れば一人でいたい。

「だってアンタ一人にしとくとなんだか危ないんだもん。」

まるで私の心を読んだみたいに渚さんはそう言った。

⏰:07/10/08 01:21 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#615 [向日葵]
電気を消して、私は布団へ潜りこんだ。

「アンタさ、悩みでもあるわけ?」

「なんで?」

「んー。暗いからっ。」

「ふーん。」

暗いっ……かぁ。

「若いくせに何うだうだ悩んでんだか!」

「……うるさい。黙って。」

これにはカチンと来てしまった。
何も知らないくせに、軽い事なんて言ってほしくない。

⏰:07/10/08 01:24 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#616 [向日葵]
黙ってと言ったのに、渚さんは黙ってはくれなかった。

「不幸面してても幸せなんかやって来ないんだよ。それとも不幸を同情して欲しい?」

「黙ってって言ってるの!日本語通じないのっっ?!」

シーンと部屋が静まりかえる。
部屋は月明かりで少し明るく、耳をすませば波の音がザザーって聞こえた。

「じゃあ最後にひとつ。」
そう言って渚さんは私に背を向けて寝る体勢にはいった。

⏰:07/10/08 01:28 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#617 [向日葵]
「私、ここんちの本当の娘じゃないから。」

……っ!

「え?!」

「おやすみー。」

驚く私をそのままにして、渚さんは一人で先に寝てしまった。

**********************

父さんが帰ってきたのは次の日の夕方だった。

ヘロヘロになってる父さんを早く休ませてあげたいけど、その前にどうしても聞きたい事があった。

「紅葉ちゃんの事かな?」

⏰:07/10/08 01:32 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#618 [向日葵]
しばらく間を開けて俺は頷いた。

父さんはにこぉっと笑って俺の頭を撫でた。

「ゴメンネ。それは教えてあげられないんだ。」

「――っ!!どうして……っ!!」

「紅葉ちゃん。しばらく一人になりたいから旅に出たんだ。なのに静流君が早々と連れ戻しちゃったら、旅に出た意味がないでしょ?」

それは……そうだけど、と言葉を失う。

父さんはそんな俺の頭をポンポンと叩いてから部屋に入った。

⏰:07/10/08 01:35 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#619 [向日葵]
しばらく父さんの部屋前へ立たずんでいた。

やっぱり待つしかないのか?
俺には……何も出来ないんだな……。

フラリと歩きながら、俺は部屋へ戻って行った。

********************

渚さんの衝撃発言を聞いてから四日が経ったのだけれど、あれ以降、渚さんが姿を現さなくなった。

何故か自分のせいかと責任を感じていた私は、外に出ることもなく、ただ部屋をそわそわと動き回っていた。

「……って何で私が責任感じなきゃならないのよっ!」

⏰:07/10/08 01:41 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#620 [向日葵]
イライラしつつい独り言を言ってしまった。
もちろんこれに答えてくれる人などいなかった。

……そういえば。

机の上に置いてある携帯を見た。
新幹線に乗った時のまま。なので電源を入れておくのを忘れていた。

とりあえず何かあってはと思い、電源スイッチを長押しする。

画面が出て数秒後、メール受信のマークが入り、メール受信が行われた。

そしてメールの数に驚く。なんと15件。

何この数字……と思わずツッコミを入れる。

⏰:07/10/08 01:49 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#621 [向日葵]
開いていくと……

「……っ。なんで……。」

全て、静流からのものだった。

<紅葉!どこにいるんだ!>
<居場所教えてくれ。>
<どうして勝手に出て行った。>

<怒らないから連絡しろ。>

そんな内容のメールがいくつもいくつもあった。

そして最後のメールを開く。

<……会いたい。>

⏰:07/10/10 00:33 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#622 [向日葵]
「紅葉ー。久しぶ……っどうしたの?!」

いつの間にか流れていた涙を見て、渚さんはとても驚いていた。

離れて薄れさせようとした静流の想い。
しかしそれは薄れるばかりか強まっている事が、この短文なメールいくつかで分かってしまった。

それが嬉しくて、でも歯がゆかった。

―――――……

久しぶりに一緒に寝に来た渚さんが、こんな事を話してくれた。

「私捨て子なのよ。10の頃くらいまで弧児院にいてね。」

⏰:07/10/10 00:38 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#623 [向日葵]
私は渚さんの方を首だけ向いて話を聞いていた。
渚さんは天井を向いて話している。

「それで、私、親の顔知らないの。」

「え……っ。」

「赤ん坊の頃から捨てられてたみたい。気がついたらずっとあそこだったから。」

渚さんは笑いながら喋っているけど、同じ様な仕打にあった私としては無理をしてるんじゃないかと気を遣った。

「あの頃はそれは自分が嫌だったわよ。丁度、今のアンタみたいな状態。誰も寄せ付けたくない。自分には幸せなんてないんだーみたいな感じ。」

⏰:07/10/10 00:43 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#624 [向日葵]
「……。」

「でもね……。ここで過ごしていくうちに、思ったの。絶対、自分に求める幸せの温かさは手に入るんだ。って。それは、何かを犠牲にするんじゃなくって、自然とそう仕向けられるのよ。よく言うでしょ?この世に偶然は無くって全てが必然で成り立ってるって。」

私は渚さんの話にただ耳を傾けていた。
時々入る波の音が、頭の中のごちゃごちゃした感情を一掃してくれる気がした。
「紅葉が、何に悩んでるかは聞かないけど、自分の幸せと、その周りの幸せを大切にしていけばいいのよ。」

⏰:07/10/10 00:48 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#625 [向日葵]
「周りの……幸せ……。」

ボツリと呟いた。

源さんは私がいて幸せだったのかな。

静流は……私といて幸せだったのかな。

********************

紅葉がいなくなって2週間が経とうとしていた。

そんなある水曜日の事。

痺を切らした俺は父さんに詰め寄った。

「いい加減にしてくれっ!場所くらい教えてくれてもいいじゃないかっ!!」

⏰:07/10/10 00:52 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#626 [向日葵]
父さんはリビングにある机で新聞を見ていた。

「場所を教えたら君は行ってしまうでしょう?」

「当たり前じゃないかっ!」

「それじゃ紅葉ちゃんの希望に沿わない。だから却下。」

色んな感情が渦巻いて、俺はダンッ!!と足を鳴らしてから自室へ向かった。

居場所は分からない。
連絡もつかない。

いらだちで頭が狂いそうになっていた。

どうして紅葉の態度に気づいてやれなかったのかと今更後悔する。

⏰:07/10/10 00:57 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#627 [向日葵]
「ハァ……。……。――あっ!!」

俺は急いで携帯を手に取った。

********************

ブー ブー

携帯のバイブが鳴ったのに気づいた私は外を眺めるのを止めて携帯を手に取った。

「もしもし。」

{久しぶり。やっと繋がったよ。……元気?}

「!!香月さん……っ。」

あの日以来、私は香月さんと連絡は取らずにいた。
彼女と言う立場でありながら自分でもいけないと思った。

⏰:07/10/10 01:01 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#628 [向日葵]
{今何処にいるの?}

「……。」

{クスクス。心配しなくても連れ戻したりなんかしないから。}

先に気持ちを読み取った香月さんはそう言った。
前と変わらない穏やかな声で。

「明星岬ってとこの旅館にいる。」

{あぁ。あそこね。随分遠くまで行ったんだね。}

なんだか、会話が続かなかった。
何を言えばいいか。
ううん。言う事なんか決まってた。
でも、言い出せなかった。

⏰:07/10/10 01:05 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#629 [向日葵]
{ゴメンネ。}

!!

「ど…して、謝るの?」

{紅葉を困らせた。分かってるよ。もう、決心してんだろ?}

ここで泣いたら卑怯な気がして、私は携帯を持ってない手をギュッと握りしめて涙を強制的に出ない様にした。

「ごめんなさい……っ。やっぱり……静流を諦めれなかったっ……。ダメって、分かってても、苦しんでも……。」

心は一つ。ただ真っ直ぐに静流のもとへ。

⏰:07/10/10 01:09 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#630 [向日葵]
こんな優しい人の気持ちを踏みにじって、私は苦しい道を選んでる。

{アホ!誰が諦めるっつったよ。言っておくけど、まだ挽回のチャンスなんていくらでもあるんだからな!}

いつもと変わらない香月さんの口調。
でも知ってる。
私に気を遣ってくれてるんだね……。
そんな香月さんに惹かれていた事は事実だった。

「……ありがとう。」

いつも背中を押してくれて……大事にしてくれて……。

⏰:07/10/10 01:13 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#631 [向日葵]
{おぅ。じゃあまたな。}

短い時間の深いやりとりはあっけなく終わった。

香月さんの声がまだ耳に残ってる。

周りの幸せ……。
香月さんは、幸せでしたか?私といて、楽しかったのかなぁ……。

まだ……迷路の途中……。

********************

寝静まった時に、事は動いた。

携帯の着信音で夢の中から現実に引き戻された。

⏰:07/10/10 01:17 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#632 [向日葵]
「ンン……?――もしもし?香月?」

{この野郎。呑気に寝てやがったな。}

「そりゃ夜は睡眠が為に暗くなるんだもん。」と答えると、香月は「馬鹿。」と短く返した。

代々今は夜中2時。テストで一夜漬けする訳でも無し、不眠症になってる訳でも無し。かと言って夜行性な訳でも無い。

「なんかあったの?」

{あぁ。そりゃもう大収穫だ。}

「畑仕事の話なら明日聞いてやるよ。」

⏰:07/10/11 11:57 📱:SO903i 🆔:fYkeSG8s


#633 [向日葵]
冗談混じりに言った俺は、次の香月の言葉にベッドから飛び起きた。

{分かったぞ。紅葉の場所。}

「―――っ!!ど、どこにっ!!!」

香月は紅葉の居場所、それに泊まっている所まで教えてくれた。
俺は香月に一旦待ったをかけて、教えてくれた場所をメモにとった。

しかし……

「……お前、行かないのか?」

{……今日、別れたから。それに、アイツが待ってんの俺じゃねーし…。}

⏰:07/10/11 12:01 📱:SO903i 🆔:fYkeSG8s


#634 [向日葵]
「……ありがとう。」

それだけ言って、俺は電話を切った。

香月に悪いと分かっていても、居場所を知った俺の胸は希望で高まっていた。

今週の土曜……。父さんには内緒で……



紅葉を、迎えに行く。


――――――――……

準備をしている間、幸いにも父さんは仕事で家にはいなかった。

急に喜びで顔色が変わった俺としては願ってもない事だ。

⏰:07/10/11 12:05 📱:SO903i 🆔:fYkeSG8s


#635 [向日葵]
カバンにある程度の荷物を詰め込みながら、俺は物思いにふけっていた。

紅葉に会ったら、アイツはどんな風に思うだろう。

自分の予想としては、きっと怒鳴り散らされるだろう。

どうして放っておいてくれないのかとか、何でここまで来ているのかとか。

それでも……いい。

帰っておいで?紅葉。
だって言ったじゃん俺。

お前を必要とするってさ……。

********************

あまりにグータラするのは如何なもんかと思い、自分の部屋だけでも掃除しようと畳の上を掃いていた。

⏰:07/10/11 12:09 📱:SO903i 🆔:fYkeSG8s


#636 [向日葵]
ホントは旅館の何かを手伝った方がいいんだろうけど、今日は土曜日。宿泊客が多い為、旅館はフル回転で動き回っていた。

「紅葉!」

襖を開けて、旅館の手伝いで忙しそうな渚さんが顔を出した。

「悪いんだけどさ、砂浜のゴミ拾いして来てくんない?私の日課なんだけど手が回んなくてさ!」

「ウン。分かった。」

そして渚さんはまた手伝いに行ってしまった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ゴミ袋と、なんか挟むやつを持って砂浜へ。

⏰:07/10/11 12:14 📱:SO903i 🆔:fYkeSG8s


#637 [向日葵]
夏の風物詩、花火の欠片がちらほら落ちている。

そうか……もう七月だもんなぁ。

花火なんて、いつからやってないだろう。

そう思いながら、ペイッとゴミ袋へゴミを入れていく。
時々砂浜を見るのに飽きて、海を眺める。それを繰り返しながら、少しずつだがゴミを拾って行った。

その途中、立派な貝殻を発見。波の音が聞こえるか手を伸ばすと、違う手が先に掴んでしまった。

顔を上げてその手の人物に、私は目を疑った。

⏰:07/10/11 12:18 📱:SO903i 🆔:fYkeSG8s


#638 [向日葵]
「欲しいの?これ。」

久しぶりの低い声。

「……っ、し、ずる……。」

そこにはあの静流の姿があった。
変わらない柔らかい微笑みを浮かべて、さっき拾おうとしていた貝殻を骨張った大きな手で持っている。

「すっげー疲れたぁー!」

そう言いながら動揺を隠せない私をよそに体一杯背伸びをする。

「……っ。な、どーして……。」

「香月が教えてくれた。」

⏰:07/10/11 12:23 📱:SO903i 🆔:fYkeSG8s


#639 [向日葵]
教えないって言ってたくせに……っ。
でも私が聞きたいのはそういうんじゃない。

「ゴミ拾い?なら俺も」と言って袋を掴もうとした静流の手を私は振り払った。

「どーしてここに来てるの?!何で放っておいてくれないのっ?!」

「……言うと思った。」

静かに微笑む静流の顔は、口元に笑みを残したまま真剣な顔になった。

「好きだからだよ。」

「……っ。」

「紅葉が好きだ。だから、帰ろう?」

⏰:07/10/11 12:28 📱:SO903i 🆔:fYkeSG8s


#640 [向日葵]
私は居ても立ってもいられなくなって、ゴミ袋と挟むやつを放り投げて静流から逃れる様に走った。

「えっ?ちょ、紅葉っ?!」

靴が砂浜に埋もれそうで走りにくい。
私は走りながら靴を脱いで、暑くなった砂浜を走って行く。

「おい紅葉!待てってっ!!」

待つ訳がない。

会いたかった。
会いたくなかった。
来てくれた。
来て欲しくなかった。

⏰:07/10/11 12:31 📱:SO903i 🆔:fYkeSG8s


#641 [向日葵]
肯定と否定の気持ち、二つが胸の中で渦巻く。

早く旅館へ逃げ込まないとと思う前に、静流の指が、私の腕に絡んだ。

その表紙に私達は転んでしまって、波打ち際へダイブした。
おかげでビショビショ……。

「ハァ……ハァ……。」

「待てっ……て、言って……んだ、ろ……。」

二人とも息切れで、まともに喋れない。

それでも私は静流から早く離れたかった。

⏰:07/10/11 12:38 📱:SO903i 🆔:fYkeSG8s


#642 [向日葵]
一見端から見ればじゃれあってる様に見えるかもしれないけど、本人達にはそんなつもりはさらさらなかった。

静流から逃げようと試みるが、そんな事静流が許す訳なかった。

静流は私の腕を引っ張り、私を包みこんだ。

もちろん私は暴れた。

「や……っ!やだっ!静流やだぁっ!!」

「絶対もう離さないからな。」

「私じゃ……静流を……。」

⏰:07/10/12 15:06 📱:SO903i 🆔:a0mS0CVM


#643 [向日葵]
幸せになんか出来ない。

恐いの。
幸せに出来ない自分が。
愛されてしまう自分が……。

「お願い……双葉さんの元に」

「帰らないぞ!!」

いきなり大声を出されて、私はビクッとした。
静流は私の肩を掴んで自分から離し、至近距離で私を見つめた。

静流の目に、綺麗に小さな私が映っていて、思わず吸い込まれそうになる。

「俺はもう、紅葉じゃなきゃ嫌なんだ!何回好きって言わなきゃ気づいてくるないんだよっ!」

⏰:07/10/12 15:10 📱:SO903i 🆔:a0mS0CVM


#644 [向日葵]
「そ……な……。」

喉が乾ききってしまって上手く言葉が出ない。

「お前がそういう事に関して臆病になってんのは知ってる!でも俺は……お前が側にいないと……嫌なんだよ……っ!」

私は目を見開いた。
静流が私の頬を濡れた両手で包む。

「紅葉。好きだ……。誓うよ。お前を手放さないって……。ずっと側にいて?」

私の目からボロボロ涙が溢れる。

あぁ……ずっと求めてた。

温度がある、その言葉を。

⏰:07/10/12 15:15 📱:SO903i 🆔:a0mS0CVM


#645 [向日葵]
静流なら、信じられる。
もう迷う事はしたくない。

気づいた。私は幸せにすることを端から諦めていて、もう一度踏み出す事を恐れ、逃げていたんだ。

静流はいつでも、私に一歩踏み出す勇気をくれる……。

「ごめ……なさ……。勝手ばっかりして、ごめんなさい……。」

「紅葉……。」

静流の唇が、優しく私の唇に触れた。
今度は驚きでも何でもない。

⏰:07/10/12 15:18 📱:SO903i 🆔:a0mS0CVM


#646 [向日葵]
やっと通じ合えた、その喜びが、私の胸を一杯にする。

「私も静流が……好き。」

幸せに出来るかどうかなんて、誰しもが悩み、自信のないこと。

だけど幸せに「したい。」じゃなく、「する。」と言う断定をすれば、必ずしも言葉は胸に響いていく。

それこそが、皆が求める温かい温度なのだ……。

⏰:07/10/12 15:22 📱:SO903i 🆔:a0mS0CVM


#647 [向日葵]
 


―温―



*Fin*

⏰:07/10/12 15:23 📱:SO903i 🆔:a0mS0CVM


#648 [向日葵]
アンカーです
良ければお使い下さい

>>2-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>600-700

⏰:07/10/12 15:32 📱:SO903i 🆔:a0mS0CVM


#649 [ゆか]
読ませて
下さい(p3q`)
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500
>>501-550
>>551-600
>>601-750

⏰:07/12/16 15:18 📱:W52SH 🆔:zcvKz1SI


#650 [向日葵]
ゆかさん

アンカーありがとうございました

⏰:07/12/19 18:59 📱:SO903i 🆔:e3ZSxgWs


#651 [りい]
あげ

⏰:09/07/27 07:33 📱:SH904i 🆔:jVZoAoVU


#652 [あき]
失礼します
>>2-200
>>201-400
>>401-600
>>601-800

⏰:09/07/28 18:53 📱:N02A 🆔:s969qvJY


#653 [偽 ア リ ス 。]
あげ

⏰:09/07/31 15:49 📱:N02A 🆔:9eV765GE


#654 [*紫陽花*]
>>1-200
>>201-400
>>401-600
>>601-800
>>801-1000

⏰:09/08/07 17:32 📱:N02A 🆔:xhzALeAY


#655 [*]
∩^ω^∩

⏰:09/10/11 00:54 📱:N02A 🆔:4Km8bYrc


#656 [*]
あげます(*´・ω・`)
>>1-200
>>201-400
>>401-600
>>601-800
>>801-1000

⏰:10/01/24 01:15 📱:N02A 🆔:Q9Ft8Mzk


#657 [我輩は匿名である]
いい話!!

⏰:10/12/30 20:51 📱:N08A3 🆔:D.o6utXY


#658 [我輩は匿名である]
>>300-400

⏰:10/12/30 21:26 📱:N08A3 🆔:D.o6utXY


#659 [&◆JJNmA2e1As]
完〜👩‍✈️👨‍🚒

⏰:22/09/30 18:46 📱:Android 🆔:AHulHGHk


#660 [&◆JJNmA2e1As]
👨‍🌾👨‍🍳👩‍🍳👩‍🎓👨‍🎓👩‍🎤👷💂‍♀️💂🕵️‍♀️

⏰:22/10/01 17:14 📱:Android 🆔:rYsbLV12


#661 [&◆JJNmA2e1As]
[完]👷👨👩‍🦱👨‍🦱👂🦻🧠👱‍♀️👨‍🦰😻👩‍🦰👄

⏰:22/10/01 17:59 📱:Android 🆔:rYsbLV12


#662 [&◆JJNmA2e1As]
(´∀`∩)↑age↑

⏰:22/10/01 18:16 📱:Android 🆔:rYsbLV12


#663 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑

⏰:22/10/01 21:58 📱:Android 🆔:rYsbLV12


#664 [○○&◆.x/9qDRof2]
⏰:10/12/18 20:54

⏰:22/10/04 18:31 📱:Android 🆔:nH.OoPsQ


#665 [○○&◆.x/9qDRof2]
↑(*゚∀゚*)

⏰:22/10/20 09:24 📱:Android 🆔:nvDpRiyU


#666 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>1-30

⏰:22/10/20 09:24 📱:Android 🆔:nvDpRiyU


#667 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>600-630

⏰:22/10/20 09:24 📱:Android 🆔:nvDpRiyU


#668 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>630-650

⏰:22/10/20 09:25 📱:Android 🆔:nvDpRiyU


#669 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>300-330

⏰:22/10/20 09:25 📱:Android 🆔:nvDpRiyU


#670 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>200-230

⏰:22/10/20 09:26 📱:Android 🆔:nvDpRiyU


#671 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>270-300

⏰:22/10/20 09:26 📱:Android 🆔:nvDpRiyU


#672 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>240-270

⏰:22/10/20 09:27 📱:Android 🆔:nvDpRiyU


#673 [○○&◆.x/9qDRof2]
>>250-280

⏰:22/10/20 09:27 📱:Android 🆔:nvDpRiyU


#674 [わをん◇◇]
人形…?

父をその場で殺すことも出来たと思う。でもやっぱり私の親だから、こんなに汚い人間でも。

あの時は母を殺された怒りに溺れて、父を殺そうと思ったけど
やっぱり出来ない。
殺したいほど憎いはずなのに。
母の仇なのに。

⏰:22/11/03 18:40 📱:Android 🆔:DPKzmpdw


#675 [わをん◇◇]
(´∀`∩)↑age↑

⏰:23/01/01 20:50 📱:Android 🆔:2rUS2lJ.


#676 [わをん◇◇]
(´∀`∩)↑age↑

⏰:23/01/10 10:08 📱:Android 🆔:nQ6dQ5MU


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194