―温―
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#301 [向日葵]
「じゃあ貴方は私を何だと思ってるの?」

呆れ混じりに聞くと、香月さんはキョトンとした顔をした。
そしてフッと笑う。

「決まってんでしょ?女の子。だから荷物は持つし、道路側には歩かせない。鉄則じゃね?」

今度は私がキョトンとしてしまった。

初めて女の子扱いされた。

香月さんは私の頭を撫でるとまた進み始めた。
その横で女の子扱いされた私は、少し戸惑っけど、嬉しかった。

⏰:07/09/10 03:09 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#302 [向日葵]
↑訂正

戸惑っけど×
戸惑ったけど○

――――――――――――

「……そういえば、静流どうしたの?」

「んー……。ケーキ投げないって誓える?」

「は?」

少しイラついて、逆に今投げてしまいそうだ。

「どうでもいいから早く教えて。」

もう家が見えた。
もしかしたら家にいるのかしら。

⏰:07/09/10 03:13 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#303 [向日葵]
香月さんは私が誓うまで教えてくれないらしい。
にこにこしたまま私の言葉を待っている。

叫びたくなる衝動をぐっと堪えて私は呟いた。

「……誓う。」

香月さんはにこーっと笑うと門前で足を止めて私に向き直った。

「双葉ちゃんと二人で誕生日会やるってさ。今日は帰って来ないかもよ?」

その瞬間、誓ったのに私は香月さんが持っているケーキを持って投げつけようとしてしまった。……がそれは阻止された。

⏰:07/09/10 03:18 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#304 [向日葵]
香月さんは胸元に私を引き寄せてケーキは片手で私の手が届かない位まで上げた。

香月さんは余裕の笑みで私に笑ってくる。

「誓ったよね?」

「―――!!」

端から見れば抱き合ってるように見えるのに気づいた私は直ぐ様離れた。

すると香月さんがクスクス笑う。

「顔赤いし……。」

「な……っ!」

図星だった。静流以外の男に抱き締められたのは初めてだったから、内心恥ずかしかった。

⏰:07/09/10 03:22 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#305 [向日葵]
「ねぇ、教えてあげた代わりになんか俺に権利くれない?」

私は赤い顔を直す為、密かに静かに深呼吸して香月さんん見た。

「権利?」

こっちが聞き直してるって言うのに、香月さんは話を進めていた。

「そうだな……。紅葉ちゃんにくっつける権利は?」

「は?何それ。」

人差し指を立てながら香月さんは私の目の前までずいっと寄って来た。
とっさで逃げられなかった私はその場で固まる。

⏰:07/09/10 03:26 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#306 [向日葵]
「静流の次でいいよ。君のお世話する権利を俺にくれない?」

お世話って……。

「やっぱり子供扱いじゃない…。」

「違うよ!例えば紅葉が」

あ、勝手に呼び捨てになった。

「胸を貸してって時に貸す役。つまり、恋人補助みたいな?」

余計訳分からん……。

「ってか静流恋人じゃないし。」

⏰:07/09/10 03:29 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#307 [向日葵]
自分で言って自分で傷つく。
図解して見るとハートに矢が何本もサクサクブサブサ刺さってる状態とでも言ったら分かりやすいかしら。

「違うよ何言ってんの。」

香月さんはハハッと笑うと、急に男の顔でニヤリと笑った。

「恋人候補において欲しいって事。わっかんないかなぁー。」

顔を離すと頭をポリポリかきながらいつもの香月さんに戻った。

は?恋人?候補?

⏰:07/09/10 03:34 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#308 [向日葵]
もう何が何だかさっぱりの私はただただ目が点になってた。

色々分析した結果、冷やかしだと決定して冷ややかな目で香月さんを見た。
ってかこんなの一回前にもあって笑われたし。

「騙されないけど、私そう言う遊び嫌い。」

「そう言うと思った。でも残念ながら本気なんだよね。」

と言いながらまた身を屈めて来た。
何をするのか分からない私はただ香月さんの動きを見ていた。

すると

「……!」

香月さんの唇が、私のおでこに触れた。正式には髪の毛の上からだけど。

⏰:07/09/10 03:39 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#309 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/10 03:40 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#310 [向日葵]
びっくりして、数歩素早く後退りした。
自分でも顔が真っ赤になっていくのが分かる。

「な!……っ何……っっ!」

「分かってくれた?俺の気持ち。」

ニコッと余裕の笑顔。
まるで慣れてるみたいに。
もしかしてこの人タラシ……?

威嚇する様に見つめていると、鼻歌混じりに香月さんは家へ入って行った。

は?!もしかして上がる気?!

⏰:07/09/13 00:52 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#311 [向日葵]
静流もいないのに何で……。

そこまで考えると、胸がキィンと痛くなった。

今日、静流は帰ってこない……。
彼女ときっと熱い夜を過ごすんだ。

そして帰って来たらいつも通り笑顔で私のガーゼや包帯を付け直して、膝に乗せてご飯を食べさせる。

まるで何もなかったみたいに……。

彼女に触れたその手で優しく頭を撫で、彼女の唇に触れたその唇で私の名を紡ぐ。

⏰:07/09/13 00:55 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#312 [向日葵]
キィンとした胸の痛さの余韻が目に来て、涙が溢れそうになった。

せっかく……ケーキ買ってきたのになぁ……。

肩をがっくり落として、涙を拭いた後、私は家へと入って行った。

リビングに着くと、さっきまでカチャカチャ作業していた源さんの姿が無かった。ふと目を落とすと小さな紙切れが一枚。

<急に仕事が入りました。しかも今日は帰れないかもしれません。静流君と二人で仲良くお留守番して下さいね。>

…………え。

⏰:07/09/13 01:00 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#313 [向日葵]
思わず口がひし形になる。

紙切れに書いてある文字を何度も何度も読み返してまた頭が真っ白になる。

つまり……私は今晩一人って……訳?

「なんなら俺がいてあげようか?」

いつの間にか側に来ていた香月さんは紙切れを取りながら私に笑いかけてくる。

「明日土曜だし。女の子一人は不用心でしょ。」

「結構よ。ってか帰って。」

⏰:07/09/13 01:03 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#314 [向日葵]
香月さんの背中を押しながら階段へ促す。
香月さんは口を尖らせて「今来たばっかじゃん」とか「釣れないなぁ!」とか文句を言ってる。

やっとの事で玄関へ行ってくれた香月さんは相変わらずにこにこしている。

「寂しくなったらいつでもかけといで!」

そう言って小さな紙を私に握らせて「じゃあね〜。」と去って行った。

台風一過……。騒がしい人だなんて思いながら紙に書かれた文字を読む。

数字ばっかり。明らかにケー番だ。

⏰:07/09/13 01:08 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#315 [向日葵]
無言でスカートのポケットに紙を入れて、私はリビングに戻った。

リビングに足を踏み入れると同時に

プルルルル プルルルル

電話が鳴り響く。

私が取るべきか迷った。
もし静流の知り合いなら、私がとったら勘違いされるのでは?

でも急ぎの用ならいけない。そう決断して、私は受話器を取って、ゆっくりと耳に当てた。

「はい…。もしもし。」

{もしもし?紅葉か?何だよ暗いなぁ。どうかしたか?}

⏰:07/09/13 01:12 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#316 [向日葵]
静流だった。

「……何?」

込み上げる寂しさ、悲しさ、嫉妬をなんとか噛み砕いて出た言葉がそれだけだった。

{あー。実はさ、今日帰れないかもしんないんだ。ちょっと父さんに代わってくれる?}

「……。」

ここで、源さんが帰って来ないって言ったら……静流は帰ってきてくれるのかな……。

受話器を持ったまま、そんな事を考えた。

⏰:07/09/13 01:16 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#317 [向日葵]
「あ……っ……。あのね……。」

{静流?まだ?}

その声でハッとした。
私は何を言うつもりだったんだ……。

{ゴメン双葉。もーちょっと待って。なぁ紅葉}

「源さんには私から言っとくから。」

ガチャン!

私は素早くそれだけ言って受話器を勢いよく置いた。

良かった……。彼女さんの声が聞こえて……。
聞こえてなかったら、私言ってた。

⏰:07/09/13 01:19 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#318 [向日葵]
私は……そんな事してはいけないのに。

どんよりしながらテーブルの上にある白い箱を見つめた。
見つめながら、壁に寄りかかって、力なくズリズリ床に座りこんだ。

*****************

ツー……ツー……。

電話を切られた携帯を見ながら静流はボーッとしていた。

何ショック受けてんだ俺……。
紅葉が冷たくあしらうのなんかいつもの事じゃん。

そっか……電話って表情見えないから、余計にか……。

⏰:07/09/13 01:24 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#319 [向日葵]
「静流……?」

そっと呼びかける声に静流は反応した。

「あ、ゴメンな。始めよっか。」

すると双葉はにこっと嬉しそうに笑って頷いた。

「じゃあ、はい。プレゼント。」

小さな袋を渡された。
小さなラッピングのリボンを外して中を出すと、革製のブレスレットが入っていた。

ウキウキしながら静流は手首にはめて、双葉に見せた。

「ど?!」

「ウン。似合ってる!」

⏰:07/09/13 01:29 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#320 [向日葵]
静流は双葉の頭を撫でて「ありがとう」と言った。
双葉は照れながらそそくさとテーブルへ向かう。

「じゃーん!静流の好きな物、作ってみましたー!」

「おー!すっげぇ!」

テーブルには唐揚げやサラダ、刺身と色々並んでいた。
そして端には中くらいの箱が。

「何それ。」

「あ、これ?これはケーキ!後で食べようね!」

「……。」

無言になる静流をどうかしたのかと見つめる双葉。

⏰:07/09/13 01:33 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#321 [向日葵]
その視線に気付くと、静流はそっと微笑んだ。

「いや、紅葉がな、ケーキは食べられるのかなぁって思ってさ。」

「……そう。…私、飲み物取ってくる。」

そう言って、双葉はキッチンへ向かった。
冷蔵庫の前では、少し落ち込む双葉の姿があった……。

ザ―――……

まだ梅雨は終わってないと言う様に、急に雨が降ってきた。

*********************

雨だ……とソファーで膝を抱えて寝転びながら思った。

⏰:07/09/13 01:37 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#322 [向日葵]
夕方から夜に近づいていく為か、雨雲のせいか、空は暗くなってきた。

リビングでは電気をつけてもないし、自然の光だけ。
と言っても、明るくないのは確かだけど。
雨の音が、家のシーンとした静けさを消してくれるからなんだかホッとする。

起き上がって、肩越しにチロリとテーブルを見る。

さっきと全く変わらない位置に、箱はあった。

これを見たら、静流はきっと申し訳なく思ってしまう。そして源さんは何故帰って来なかったのかと怒ってしまう。

⏰:07/09/13 01:42 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#323 [向日葵]
私はゆっくりと立ち上がって、箱に近づいた。

そして開ける。

綺麗な赤いイチゴと、デコレーションされた生クリーム……。

手を出して、ケーキへダイブさせた。
掌で、ケーキを掴む。

グチョッと音を立てながら、ぐちゃぐちゃになったケーキを口へ運んだ。
甘ったるくて、まだ完全な体じゃない私の体はケーキを拒否していた。

……でも。

「――……っんぐ!」

⏰:07/09/13 01:46 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#324 [向日葵]
吐くのを必死に堪えて私はケーキを飲み込んだ。
吐かない様に口元を押さえて、よろよろてキッチンまで行く。

コップに水をくんで、一気にケーキを流しこんだ。

そしてまた水をくむ。

これで、丸々一個ケーキを食べてやるつもり。

なんだか意地になってきた。

痛い……痛い……。
胸、凄く苦しい。

ケーキを口に含んでは、水を飲みを繰り返した。
でも一向にケーキは減らない。

⏰:07/09/13 01:54 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#325 [向日葵]
「ん……っう、うっ……。」

吐きそうな声に、鳴咽が混じった。
ケーキが……しょっぱい。

「うぅ……っ。ズッ。うぇぇ……。」

顔が、生クリームと涙でぐしゃぐしゃになる。
それでも、ケーキを食べる手も涙も止むことは無かった。

どうしてこんなに泣かなきゃいけないの?
私知ってる。
泣いても何も変わらない事。

だってずっとそうだった。

⏰:07/09/13 01:58 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#326 [向日葵]
泣いてもわめいても、止むことのなかった母さんの手。

だから私は、涙を流すのを止めた。

なのに……

ここへ来てから、温かさとか、好きな人への恋しさとか、色々知っちゃったから……。

また涙を流す事を思い出してしまった。

「う……っ。んぐんぐ……っ。はぁっ……。うぅぅっっ……。」

私は少し手を止めて、ケーキを掴んでいなかった方の手で目を拭った。

⏰:07/09/13 02:02 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#327 [向日葵]
ケーキは綺麗に、そして皮肉にも、メッセージの「静流」の部分だけが残っていた。

―――――――……

「―――……?」

目を開けると、目を瞑ってた時と変わらなかった。
真っ暗。
雨なので月の光すらない。

どうやら知らずの間に寝ていたらしい。

手には生クリーム。
少し起きればケーキの残骸が見えた。

とりあえず今は食べる気になれないので手を洗った。

⏰:07/09/13 02:07 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#328 [向日葵]
今何時だろう……。

目をこらすも暗くて見えない。

まぁ別にいいだろう。
朝になれば、少しは明るくなるだろうし……。

ベランダの戸を開けた。
湿気が体にまとわりつく。

今、私が前みたいに消えたら、それでも静流は探してくれるのかな……。

ねぇ静流。私、静流と両想いになる事望んでるけど望んでない。

それでも、私が貴方に好きと言ったら、貴方はどうする?

⏰:07/09/13 02:11 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#329 [向日葵]
でもきっと……貴方は彼女がいるからと、断るんだろうね。

苦笑しながら、雨空を見上げた。

すると

キンコーン

私は目を見開く。
うそ……っ。もしかして……。
足が勝手に玄関へ走り出す。

静流……。

静流!

バン!!

「わ!びっくりしたぁ!!」

⏰:07/09/13 02:15 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#330 [向日葵]
「香月……さん。」

そこには傘を畳みながら立っている香月さんがいた。
あまりの自分の体の反応に、笑えた。

「?何かおかしかった?」

「何しに来たの?……あぁ。馬鹿にしに?フラレてやんのー!って?」

イライラしながら叫んで私はリビングへと帰ろうとした。

しかし

香月さんに腕を掴まれてしまった。

⏰:07/09/13 02:19 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#331 [向日葵]
私はそのまま固まる。

玄関のドアを開けたままなので雨の音が大きく聞こえる。
それに重なって、香月さんの声が聞こえた。

「泣いてるかな……って。心配だったんだ。」

息を飲んだ。
でも弱いとこ見られたくなくて、何もない風に振る舞いながら香月さんを振り返る。

「何で?誰の為に?何のメリットがあって?」

香月さんを馬鹿にするように嘲笑いながら言っても、香月さんに通用しなかった。

⏰:07/09/13 02:23 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#332 [向日葵]
それどころか、怒った様な、悲しそうな顔をして私を自分の近くまで引っ張った。

そして指先で目元をなぞる。

思わずビクッとして目を軽く見開いた。

「じゃあなんで目、赤いの?」

「――――!!」

言葉を考えてる余裕なんかなかった。
言い返すにふさわしい言葉が見当たらなかった。

それに、今の状況……。

「……っ。」

⏰:07/09/13 02:28 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#333 [向日葵]
香月さんは自分の胸元に私ね顔を押し付け、抱き締めた。

私は何が怒ってるのか全然分からなくって、息が止まった。

「言ったでしょ。胸貸すって。」

それだけ言うと、更に私をキツク抱き締めた。
昼間の様なふざけた抱き締め方じゃない。

好きな人が傷つかないように、優しく、愛しく……。
私が……ずっと求めていたもの……。

⏰:07/09/13 02:32 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#334 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/13 02:33 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#335 [向日葵]
―拭―











香月さんの体温は暖かくて、すごく安心した。
確かに、私が欲しかった物をくれた。

でも欲しいのは、香月さんからじゃないの……。

玄関を見れば、既に九時を回っていた。

⏰:07/09/14 02:10 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#336 [向日葵]
大分寝てたんだと抱き締められたままぼんやり思った。
香月さんの腕の力が緩む事はない。
ただ黙って、まるで傷ついてる私を優しく消毒してくれているみたいに包んでくれてる。

別に嫌だとかそんな事は不思議と思わなかった。

でもただ、ドキドキと胸の鼓動は聞こえなかった。

あの静流に抱き締められたみたいに……。

「ねぇ。何してたの?」

ようやく口を開いた香月さんが私に聞いた。

⏰:07/09/14 02:14 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#337 [向日葵]
少し距離をとって私は香月さんを見上げた。

「……それより。玄関のドア、閉めて。」

「あ。」っと言い、香月さんは私から完璧に離れてドアを閉めた。

ガチャン

「で。何してたの?」

いつもよりも穏やかな笑みで私に聞いてくる。

その時ばかりは少し空気が違う事に戸惑って、リビングがある上を見上げた。

「……。ケーキ貪ってた。とりあえず上がって。」

⏰:07/09/14 02:18 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#338 [向日葵]
私は先に階段を上った。
その後ろから少し距離を開けて香月さんが来ている。

リビングに来ても明かりはつけなかった。

すると香月さんがまるで自分家であるように慣れた手つきでテーブルだけを照らす部分照明を点けた。

照らされた先には、ケーキの残骸。

あと少し……食べきらないと。

「ここまで、君が全部?」

私は無言で頷いてキッチンでさっきの様に水をくんで戻ってきた。

⏰:07/09/14 02:23 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#339 [向日葵]
私はまた手で掴んでケーキを食べ始めた。

正直胸やけがしてて気分悪い。
でも早く食べて、ケーキの箱をどこか知らない場所に捨てて、私はお風呂に入って甘ったるい匂いを消す作業をしなくちゃいけない。

さっきより更に込み上げる嘔吐感と戦いながら黙々と食べては飲みを繰り返した。

「ねぇ。ちょっと何やってんの?」

それを唖然と見ながら香月さんが言った。
私はそれを無視してケーキを貪る。

⏰:07/09/14 02:33 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#340 [向日葵]
流石に私の頭がイってしまったと感じたのか、香月さんはケーキを掴む私の手を掴んで止めた。

「ケーキを見たら、静流が後悔する。どうして自分は帰って来なかったんだろう。せっかくケーキを買って待っててくれてたのに……。って。」

水を一口飲む。

味に飽きてきた。でも食べなくちゃ。

「そこまで自分苦しめる必要なんか無いだろう?!」

掴まれている手をただなんとなく見ながら私は答えた。

⏰:07/09/14 02:40 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#341 [向日葵]
「自分自身に約束したの。静流がもしも私を好きになる様なことがあればこの家を出て行くって。」

信じられないと言った風に眉を寄せ、香月さんは私を見つめる。
それでも私は続けた。

「私が来てしまったせいで、今の彼女さんの幸せを奪うことがあるなら、私は自分が許せない。私は…………必要以上の幸せを貰うのは苦しい。」

そんな権利すら……きっと無いのだから……。

「手、離して。」

一瞬力が入ったけど、直ぐに手を解放してくれた。
そして私はまた胃に流し込む。

⏰:07/09/14 02:46 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#342 [向日葵]
あと三口くらい。

自分でも短時間でよくここまで頑張ったと思う。

すると、私の三口分を手で一掴みして、香月さんが食べてしまった。

「もう気分悪くならなくていいだろ?」

ニヤッと笑いながら口元の生クリームを指で取って舐める。

私は「そうね。」とだけ言って着替えを持ってシャワーを浴びに行った。

シャンプーのいい匂いで包まれるかと思ったけど、どこか自分が生クリーム臭い気がしてならなかった。

⏰:07/09/14 02:50 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#343 [向日葵]
シャワーを終えて、歯磨きをし、部屋で寝ようとドアノブに手をかけたけどまた引っ込めた。

今日はここで寝る気分じゃない。

リビングに向かうと、ケーキが無くなった箱を香月さんが処理していた。

私は黙ってソファーに座る。

「もう私寝るから帰っていいわよ。」

「んじゃ俺も泊まるわ!」

と言いながら私の隣に座った。
何故と言う気持ちが隠せない顔で香月さんを見ていると、頭を持たれて強制的に膝枕をしてくれた。

⏰:07/09/14 02:55 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#344 [向日葵]
「ハイ、ね〜むれ〜。」

「子守唄歌ってんじゃないわよ!何で私が貴方の膝枕で寝なきゃいけないのよ!ってか帰りなさいよ!」

「今帰っちゃったら、また君泣くんじゃない?」

頭を撫でられながら言われた。
そんな事ないって否定したかった。
でも出来なかった。

「膝枕されてあげてもいいけど私の寝顔見るのだけはやめて。」

「りょーかい。」

言い方が軽かったんでハッタリをかましてるんじゃないかと目を動かすと、口に笑みを残したまま目を瞑っていた。

⏰:07/09/14 03:00 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#345 [向日葵]
そこでようやく私は目を瞑った。

外は、相変わらず雨だ。

*****************

――――――――……

「ん、んー……。あれ?」

狭いベッドに寄り添って寝てた事に気づいた静流は、隣に寝ている双葉を起こさないようにそっとベッドを出た。

カーテンを開ければ夜明け前。
そろそろ帰ろう。近所の目が光ってない今がチャンスだ。

「……ん。……静流?」

「ゴメン。起こした?双葉、俺帰るな。」

⏰:07/09/14 03:04 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#346 [向日葵]
「そっか……。」

双葉は静流の隣に来ると、キュッと抱きついた。

それを見て静流は双葉をからかう。

「なぁーに双葉さん。甘えてんの?」

「ウン。ダメ?」

素直な双葉に穏やかな笑みを返して、静流も双葉を抱き締めた。

「また電話すんね。」

「うん。待ってる。」

そう言葉を交した後、軽く唇を触れて、静流は双葉宅から出て行った。

⏰:07/09/14 03:08 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#347 [向日葵]
帰る時には雨が小雨になっていたので、カバンで雨を防ぐ事なくなんなく帰れた。

実は双葉宅から静流宅までは歩いて30分くらい。

きっと今帰ったら紅葉びっくりするだろうなと想像して、誰もいない道で静流は笑った。

そして自分の家が見えてきた。
鍵を開けて、誰も起こさないように静かにドアを開ける。

心境は寝起きドッキリの気分だ。

「ただーいまー……。」

⏰:07/09/14 03:12 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#348 [向日葵]
後ろ手にドアを出来るだけ音を立てないように閉めた。

靴を揃えて自分の部屋に向かおうと足を進めかけた時だった。

ふと違和感を感じた。
その違和感を感じたのは、さきほどの玄関。

戻って見ると見慣れない靴が……。

……父さんのか?

疑問を抱いたまま二階へ。
あ、寝る前に何か飲もう。そう思いリビングへ足を運んだ。

そして……入口の前で止まる。

⏰:07/09/14 03:17 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#349 [向日葵]
明らかに、父さんでも、紅葉でもない影がそこにはあった。

もしかして……

頭をよぎった人物にまさかと投げかけながら、静流はリビングの電気を点けた。

パチッ

*******************

眩し!

暗闇からいきなりの光は、まだ眠りが浅い私を目覚めさすのには十分だった。

香月さんが点けた?
いやでも自分の頭の下にある物は香月さんのだ。

⏰:07/09/14 03:20 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#350 [向日葵]
香月さんを見ると、香月さんも目を覚ましたらしいのか目をショボショボさせていた。

あ、もしかして源さん?

人物を確認する為に、私は体を起こして電気を点けた本人を発見する。

「……?静流?」

静流は何かに驚いている。多分香月さんだろう。

ソファーから離れて、静流の元へ行く途中時間を確認した。

―――まだ五時……。

「こんな時間にどうしたの?」

⏰:07/09/14 03:24 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#351 [向日葵]
バシン!

……へ?

何が起こったか分からなかった。
ガーゼを張っていない方の頬が熱を帯びている。
そして痛い。

「なぁ。お前何やってんの?」

静流の低い声を聞いて分かった。
私はひっぱたかれたんだと。

静流は私の胸ぐらを掴んで自分へ引き寄せた。

「おい静流?!」

そこで香月さんが私の後ろから止めに入ったが、静流の目は私しか捕えてなかった。

⏰:07/09/14 03:27 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#352 [向日葵]
「何やってんの?」

何が?
私が何をしたって言うの?

「私、静流が怒るような事した覚えないんだけど。」

「じゃあ香月何でいんだよ。しかも父さんは?」

紅葉はぎくっとした。

実は静流は玄関で源の靴が無いのを、今では犯人が分かった靴を見た時に気づいていたのだ。

「仕事で……昨日出て行ったっきり……。」

私がそう言うと、胸ぐらの手を外してくれた。
でも冷たい目からは解放してくれない。

⏰:07/09/14 03:32 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#353 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/14 03:33 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#354 [向日葵]
「なんであげた……。お前一人なら尚更だ。男をあげるなよ!」

は?

「何それ?」

私は呟いた。
怒りが、血となって頭に上りだす。

だってそうでしょ?
私は何も悪いことしてない。
ってかアンタよく自分を棚に上げて言えるわよね。
アンタはどうなのよ。

「私は別に静流の子供でもなければ恋人でもないの!何でアンタにそこまで束縛されなきゃいけないわけ?!」

⏰:07/09/14 11:06 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#355 [向日葵]
「お前な」

「自分だって何よ!こんな時間に帰って来てるくせに!私の事とやかく言う前にアンタ自ら見本見せてみなさいよ!」

まだ早朝なのを忘れて、起きたてであまり働かない脳を必死で動かして言葉を搾りだした。

「俺は……きちんと昨日連絡しただろ。」

「そうね。なら番号知らないのに私に電話かけろって言いたいわけ?私は超能力者じゃないの。」

そこで静流はカッとなったのか、また右手を振り上げた。

⏰:07/09/14 11:12 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#356 [向日葵]
「殴れば済むと思ってんの?」

そこで静流はハッとして、振り上げたまま静止した。

どいつもこいつも気に入らない事があればすぐに暴力なのね。
静流も最近おかしい。
まるで監視されてるみたいでイラつく。

「殴りなさいよ。それで気が済むんでしょ。何度でも殴りなさいよ。そしてまたゴミ捨て場に捨てればいいじゃない。」

静流は目を凍らせたまま右手をゆっくり下ろした。
今度は私が冷たい目で静流を見ている。

⏰:07/09/14 11:16 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#357 [向日葵]
香月さんは初めて聞く私のエピソードに驚いて私を見下ろしていた。

「ごめん……紅葉。」

叩いた方の頬を撫でようとした手を私は乱暴に振り払った。

「お風呂入ってもないのに触らないで。それ以前に、私には当分触れないで。」

そう言ってから久々にベランダへ出て、ピシャリと戸を閉めた。

静流は……何も分かってない。

********************

俺は後悔していた。

⏰:07/09/14 11:21 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#358 [向日葵]
暴力に敏感になってる紅葉に手を上げるなんて、出ていけって言った時と同じくらいしてはいけない事なのに…………。

叩いた右手をギュッと握りしめた。

「なぁ静流……。」

「ん?何?」

香月は紅葉の背中を指差しながら俺に聞いてきた。

「ゴミ捨て場って……。」

「ウン。……本当なんだ。」

香月は紅葉を見つめながら「そっか……。」と呟いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

香月も帰り、家には俺と紅葉だけになった。

⏰:07/09/14 11:26 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#359 [向日葵]
相変わらず紅葉は飽きもせずにベランダにいて、空を見上げている。

「当分触るな宣言」をされていたけど、このままじゃいけないと思ってベランダに近づいた。

放っておくと、雨と一緒に紅葉がどこか行ってしまう気がして……。

紅葉の丁度後ろに座って、ガラス越しに背中に触れる。

「く……紅葉……。」

囁きは聞こえない。

「紅葉っ。」

声を大きめに名前を呼ぶと、聞こえたのか少し身じろぎした。

⏰:07/09/14 11:31 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#360 [向日葵]
戸をゆっくりと開ける。

「なぁ……紅葉。中に入れよ。」

その言葉を紅葉はことごとく無視した。
雨がまた少し強まって降っているのに気づく。

「な?ガーゼも貼り直さなきゃいけないだろ?」

俺は紅葉のすぐ側で膝まずいた。

********************

来ないでよ。
何で放っておいてくれないの。

予想通りだ。
やっぱり静流は帰って来たら優しくそう言うんだ。

⏰:07/09/14 11:37 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#361 [向日葵]
私は首を傾けて膝にフッつぶした。
静流の方は見ないようにして。

「紅葉。ごめんって。」

「そんな安っぽく謝らないで。」

機嫌をとるだけの言葉なんていらない。
でもだからって謝って欲しい訳でもない。

静流に、思い知らしてやりたい。
さっきの行動が、私をどれだけ傷つけたか。

「じゃあ……どうやったら、許してくれる?」

そこで頭を上げて静流を見た。

⏰:07/09/14 11:42 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#362 [向日葵]
静流はぎこちなく微笑む。
でもそんなの今の私にはイラつきの対象の他何でもなかった。

「言った筈よ。私に当分触れないでって。心の中まで触れてくんなって事。……いい?」

静流は傷ついた顔をして私を見つめる。

「紅葉、あの……。」

伸ばしてきた手をまた私は払うんじゃなく叩き落とした。

「日本語が通じるなら早くあっちへ行って。」

静流はゆっくりと立ち上がってベランダを後にした。

⏰:07/09/14 11:49 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#363 [向日葵]
もういい。

私は何なの?
どうしてこんな扱いを?

これは罰?
幸せになろうとしている神様からの罰なの?

……ならば、私は受けるしかないのかもしれない。

少し身動きすると、クシャッと何か紙のような音がした。
ポケットに何か入ってる。
探ると小さな紙切れ。

「香月さんの……。」

そう。あのケー番が書かれた紙。

⏰:07/09/16 01:34 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#364 [向日葵]
お風呂に入った後、洗濯しちゃう服から抜き取って今の服のポケットに入れたのを忘れていた。

そういえば、いつの間にか香月さんがいなくなってる。
少し助けて貰ったのに、お礼言えなかった。

「…………。」

私は立ち上がって、リビングへ入った。
リビングにある電話の子機を持って、下へ降りようと階段へ向かった。

リビングだともし静流が来たら嫌だからだ。

「えっと……090の……。」

⏰:07/09/16 01:39 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#365 [向日葵]
ボタンを押しながら階下へ向かおうとすると、後ろで部屋のドアが開いた。

「紅葉?……あの、どうかした?」

「……。6739と。」

無視してボタンを押し終える。
耳に当てるとプルルルと呼び出し音が鳴っていた。

ガチャ

{ハイ。}

「もしもし。紅葉です。香月さん。」

*******************

「もしもし。紅葉です。香月さん。」

俺は耳を疑った。

⏰:07/09/16 01:44 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#366 [向日葵]
なんで香月の番号を紅葉が?

俺には目もくれず、下へ降りて行く紅葉。
階段を降りる際にチラリと見えた小さな紙。
きっとあれに書いてあるんだろう。

「マジか……。」

一旦ドアを閉めて部屋に入り、ドアにもたれて唖然とした。

香月は……紅葉に本気?

もしかして昨日、二人の間に何かあったとか?

「……あれ?」

無意識に握られた拳を見て、俺は頭に?を浮かべた。

⏰:07/09/16 01:48 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#367 [向日葵]
「なんで俺……。」

怒ってんの……?

掌をグーパーするのを繰り返して、手の力を抜く。

別に紅葉に恋人が出来たって……何らか関係無いじゃないのか?

なんで俺

「こんな胸……痛いんだろ。」

自分の胸に手を当てて、胸が痛まるのが治まるのを待つ。

[なら誰がいいんだよ。]

香月に抱きつかれた時、香月から聞かれた事だった。

⏰:07/09/16 01:53 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#368 [向日葵]
俺なんであの時

―――――紅葉の顔が…………?

********************

私は一番下の階段に座って香月さんと話していた。
香月さんにお礼を言ったら「気にすんな。」と帰ってきた。

{それより、ちゃんと覚えててね?}

「何を?」

{俺が君の恋人になりたいって事。}

返事に困った。
恋だの愛だのそんなもの知らなくて初めての私は上手く返す事が出来ない。

⏰:07/09/16 01:58 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#369 [向日葵]
しばらく沈黙でいると、受話器越しにクスクスと笑い声が聞こえた。

{クスクス。ごめん。困らせた。じゃあまたね。}

それだけ言って、香月さんとの電話は終わった。

好きと言われるのは正直悪い気はしない。

……でも。
この先、叶わない気持ちだと分かってても……やっぱり欲しいのは、一番好きな人がいい……。

上に上がって、静流の部屋の前で立ち止まる。

ドアを見つめながら思った。

⏰:07/09/16 02:02 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#370 [向日葵]
私が……香月さんと付き合えば、静流の事を忘れる事が出来るのかもしれないな……。

そうしたら、神様は許してくれるかな。

私も幸せになっていいって、認めてくれるかな……。

その時。

ガチャ

「!」

「!」

静流の部屋のドアが開いた。お互いに驚いて、見つめ合ったまま時間が流れた。

⏰:07/09/16 02:09 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#371 [向日葵]
「電話……終わった?」

苦笑気味に静流が聞いてくる。
私は何も言わず、ただ静流を見ていた。

一体、この人は私をどう見てるんだろう。
……決まってるか。
子供、もしくはそれに似たものだな。
ペットかもしれない。

「静流。」

「ん?何?」

「……。香月さんってどんな人?」

静流の表情が、何故か硬くなった。
なんだか少し悲しそうにも見える。

⏰:07/09/16 02:13 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#372 [向日葵]
「いい……奴だよ。」

「そーよね。……それなら、問題はないわよね。」

私は子機を置きにリビングへ戻った。
振り向くとすぐそこに静流がいた。
少し不機嫌気味に聞いてみる。

「何?」

「香月が好きなのか?」

……。だったら?
って言っても、その予想は外れているけれど。

好きな人はアンタだって言ったら静流どうするんだろ。

⏰:07/09/16 02:16 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#373 [向日葵]
そんな事、言うのは許されないけど。

「そうだとしても、静流には関係ないでしょ。」

冷たくあしらって、静流の横を通りまたベランダへ出ようとしたら、手を掴まれた。

――ドキ……。

「関係……無いけど。」

静流の顔がうつ向いてて、何か言ったみたいだけどあまり聞こえない。

「ねぇ何?」

静流は無言になる。
ちょっとイライラしてきた。

⏰:07/09/16 02:20 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#374 [向日葵]
「ちょっと!用がないなら離して!ってか約束と違」
「関係無いけど嫌なんだっ!!」

いきなり大きな声を出されて身がビクッとすくんだ。
ようやく上げられた静流の目はとても熱くて、私を射抜く。
まるでこの前ぬいぐるみの山から抱き上げられた時みたいに。

血がドクドクいって全身を駆け巡るのが分かる。
体が、静流の全てに反応してる。

「香月は友達だし……お前にも、幸せになってもらいたい。俺だって双葉がいることくらい分かってる……。」

⏰:07/09/16 02:25 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#375 [向日葵]
一部の言葉に胸がチクリとした。

静流の熱い視線はそのままだけど、悲しそうに、苦しそうに顔は歪む。

「――――分かってるけど……。……お前には、ずっと近くでいて欲しいんだ……。」

胸が震える。
どうしてそんな事言うの……?

「おかしいよ静流……。その言葉……間違ってる。」
だって、それは大切な人に向ける言葉じゃないの……?

「分かってるよ。自分がこの頃おかしいことくらいな。」

⏰:07/09/16 02:29 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#376 [向日葵]
間違ってる。

でも私は今、とても嬉しい。
静流の気持ちが分からなくて、何故ぶたれるのかとか、怒ってるかとか……意味もない行動を取られるよりも……何よりも……。

でも、好きとは違うんだよね……。

「静流。知ってる?」

「何……が?」

掴まれている手首をやんわり外しながら、私は続けた。

「静流が私に構いすぎたら、彼女さんが傷つくの。ううん違う。もう傷ついてる。」

静流の熱い瞳は途絶え、彼女を思う愛しい気持ちが瞳に映る。

⏰:07/09/16 02:34 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#377 [向日葵]
そう……。

これでいい。

これで……。

「私は、言ってみれば赤の他人なの。私より香月さん。香月さんより彼女さんを大事にしてあげなさいよ。」

あぁ……。涙出そう。
昨日のケーキ食べてた時みたい。
すっごい惨め。
すっごい虚しい。

「だから、そんな言葉、私に言ってはダメ。言う相手間違ってんじゃないわよ。」

間違ってほしくなんかなかった。

⏰:07/09/16 02:37 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#378 [向日葵]
その言葉は、私だけに欲しかった。

分かってる。分かってるよ!何度も繰り返した。
私は静流と幸せになってはいけない。
なれっこない。
私のせいで、彼女さんの幸せを取っては駄目。

頭の…心の隅に……ちゃんと刻んで、覚えてる。

でも欲深なの。
幸せの味を覚えてしまえばしまうほど。

もっと――――
もっと……って――――

心が叫ぶのが分かる。
胸が軋むのが分かる。

⏰:07/09/16 02:42 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#379 [向日葵]
ほら……。

笑え……。

「ね?分かった?」

笑えてる?静流。
久々に笑顔を見せれた。

久々すぎて、おかしな事になってないかな?

静流は何度も私の闇を拭いさってくれた。
だからせめて……静流には幸せになってほしいから……。

私は、例え苦しんでくじけそうになっても、いくらでも我慢出来る。

いつまで頑張って笑顔を作ればいいんだろう。
静流の反応が気になる。

⏰:07/09/16 02:46 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#380 [向日葵]
静流を見れば、静流の顔がまるでどこか痛いかのように泣きそうな顔をしていた。

あの、彼女さんを思う愛しい気持ちは消えている。

静流は一歩一歩よろよろと近づいてくる。
そして……そっと大きな手で私の顔を包んだ。

息を飲んで、大きく目を開いた。
顔に熱が集まる。

「初めてだ。……紅葉が笑うの。」

まだ悲しそうな顔で私を見つめながら、静流は力無く微笑む。

⏰:07/09/16 02:51 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#381 [向日葵]
「でも。」と言いながら、静流は私を抱き寄せた。

更に息が出来なくなる。

「し……し、しず……っ。」

「そんな辛そうに笑う紅葉なんか見たくなかったよ……。」

辛そう……だった?私、隠せなかったんだ……。

自己嫌悪に陥っていると、静流の体が離れた。
肩に手を置かれて、またガーゼを貼り直そうとでも言うのかと思った。

でも違った……。
それは、とても予想外な事で、あってはならない事なのに……。

⏰:07/09/16 02:55 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#382 [向日葵]
静流は私に目線を合わすと、熱を帯びていてそれで真剣な目を私に向けてきた。

私はその目を見てからはもう何も考えれなくなって、静流の行動をただ見ておくしかなかった。

だから分からなかった。

静流が……私の唇に触れているだなんて……。

思ってもみなかった……。

触れているのが……静流の唇だなんて……。

⏰:07/09/16 02:58 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#383 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/16 02:59 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#384 [向日葵]
ひとまず安価しておきます良ければお使いください
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-385

⏰:07/09/16 03:12 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#385 [向日葵]
―忘―










あれほど願った。

気持ちが欲しい。
でもそれは許されない。
だから静流。私に構ってはいけないと……。

―――――なのに。

⏰:07/09/17 00:45 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


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