―温―
最新 最初 🆕
#1 [向日葵]
向日葵です

5作目になりました
今回は暗めなんですが、良かったら見てください(◎・ω・◎)

感想よければコチラまでお願いします

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/2481/

⏰:07/08/19 12:51 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#2 [向日葵]
―始―




梅雨が始まる雨が降っていた。

その中で、朦朧とした中、私は横たわっていた。

あぁ……とうとうかぁ……。

⏰:07/08/19 12:53 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#3 [向日葵]
―雨―



良かった。

私やっと天に昇れたんだ……。
あったかい布団にも包まれてて……。

――――え?布団?

体を僅かに動かすと、体のあちこちが痛かった。

「っ!」

「あ、起きた?」

目を開ければ、髪の毛がボサボサの、だけど顔が整っている男性がいた。

⏰:07/08/19 12:57 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#4 [向日葵]
「は……?誰アンタ……。」

「僕は源(げん)だよ。」

知らない。
ってかここどこだよ…。

源「君、覚えてないの……?君は、ゴミ捨て場にいたんだよ。しかも凄い怪我だったし。」

あ……そうか。
予想通りで笑える……。
……。それなら何故。

「なんて事、してくれたのよ。」

源「え?」

私はフカフカのベッドから出て、痛い足を叱咤しながらドアまで走った。

⏰:07/08/19 13:05 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#5 [向日葵]
源「えっ?!ちょ、君!」

タタタタタ

何よこの家。
無駄に広すぎだし。

ってか何よあのボサボサ男。なんで私を助けたりしたの。

最後の記憶は、母さんの拳についた私の血と、さげずむ言葉。

[アンタなんて何で生まれてきたの?]

そんなの知らない。
貴方が産んだんでしょ……。

もういい。人なんて信じれない。

⏰:07/08/19 13:12 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#6 [向日葵]
「ハァ……ハァ……。」

死んで楽になる。
誰も信用なんてしない。
温い感情なんていらない。

「あ、あれ……玄関…っ?!」

足痛い…。顔も、体の節々も……。

その時だった。

ガチャ

「っっ?!」

「ただい…うわっ!」

突然だったので、玄関から入って来た男の子に思いきりぶつかってしまった。

⏰:07/08/19 13:18 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#7 [向日葵]
ぶつかった時に体に激痛が走る。
そのせいで崩れそうになる体を、男の子が支えてくれる。

でも私はその手を逃れて、出て行こうとした。

すると、

フワッ

「ちょっ!」

男の子は難なく私を持ち上げて、まるで赤ちゃんを高い高いするみたいに私を上に上げる。

「なんだお前。」

「離しなさいよちょっと!」

⏰:07/08/19 13:25 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#8 [向日葵]
私が足をバタバタしても全然敵わかった。

源「あ……ハァ……静流(しずる)君……。おかえり……ハァ。」

静流「ただいま父さん。ってか何この軽いの。捨て猫?」

「誰が……っ!」

ってかこのボサボサ男父親?ならこれ息子?

静流「ってかこれ俺のシャツじゃん!」

私の着ているのはブカブカのシャツ。
どうやらこの息子のらしい……。

⏰:07/08/19 13:36 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#9 [向日葵]
「離しなさいよ!なんなのよアンタ達!」

すると静流とか言う息子は私を赤ん坊みたいに抱くと、私をじっと見つめる。

静流「助けてもらったクセに態度デカイぞお前。」

「そんなの頼んでない。私はあのまま死にたかった!」

その言葉に、二人とも黙った。
息子は静かな怒りを込めた目で、私を見つめる。

静流「お前ふざけんなよ…。」

落ち着いてるのに怒ってるその声に私は少し怖じけづいた。

⏰:07/08/19 13:44 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#10 [向日葵]
「ふざけてないわよ。説教する気?」

その静かな攻防に耐えかねた父親が、焦って割って入る。

源「ストップストップ!なら、君、怪我が治るまででいいからここにいなさい!」

怪我が治るまで?
……まぁ、悪くないわね。人前で死んで醜態晒すよりは遠く離れる方がいいし。

「……いいわ。怪我が治るまでね。」

源「よし!じゃあご飯にしようかっ!」

⏰:07/08/19 13:48 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#11 [向日葵]
そう言って父親は奥へ消えて行った。
息子はやっと私を地上へと降ろしてくれた。

静流「おい猫。名前は?」

「誰が猫よ。名前なんかどうでもいいでしょ。いずれ出ていくんだから。」

息子は腕を組んで溜め息をつくとギロリと私を睨んだ。

静流「俺お前みたいな可愛気のない奴嫌いだわ。」

「ありがとう。好いてもらう気も無いし、いずれ出ていくし。」

取り付く島もない様に息子は呆れた顔をした。

⏰:07/08/19 13:56 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#12 [向日葵]
静流「名前。」

「……は。」

静流「え?」

「紅葉(くれは)。」

息子はふぅんと私を見た。
何だよ。この親子は……。

静流「歳は?」

事情聴取みたい。
私別に悪い事してないし。

渋々私は答える。
じゃないと解放して貰えない気がする。

紅葉「15……。」

静流「なんだまだ中坊か。あ、俺は17ね。」

⏰:07/08/19 14:01 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#13 [向日葵]
聞いてないし…。

紅葉「ハァ…。別にそんなのどうでもいいでしょ……?」

静流「ホンット可愛いくないね。嫌いだわ。そーゆーの…。」

……嫌いで十分だ。
好かれ様なんて努力は二度としない。

しても無駄なんだもん……。

私が黙っていると、息子はまた喋りだす。

静流「ちなみに、部屋は当分俺と一緒だからな。」

紅葉「あそ。」

⏰:07/08/19 14:07 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#14 [向日葵]
――――――――

キリます

⏰:07/08/19 14:08 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#15 [向日葵]
関わらない。
ここにいても、コイツらとは関わりたくもない。

嫌い。
どうせ皆汚い思いを心の中に宿しているに決まってる。

私は息子を無視して廊下をツカツカ歩いて行った。

静流「オイ。どこ行くの?」

後ろからついて来てるらしい息子が尋ねるが、私は一切無視だ。

二階に上がってリビングを突っ切り、(ここの家は二階にキッチンがあった。)ベランダへと出る。

⏰:07/08/20 02:32 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#16 [向日葵]
ガラガラ

雨は容赦無く降っていた。空は灰色。

あの時見たのとおんなじ……。

静流「雨が家に入ってくるんだけど。」

私は何も言わず後ろ手で勢いよくベランダのドアを閉めた。

静流「あっぶねーなぁ!」

息子の怒りの声が窓越しに聞こえる。
ついでにカーテンまで閉められた。

そうそう。そうやって溝を作っておいて。

⏰:07/08/20 02:35 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#17 [向日葵]
私はこれっぽっちも仲良くする気なんて無いんだから。

**************

静流「なんなわけあのガキ!!!」

静流は腹立ちついでに源が作ったパスタをがっつく。育ち盛りなのかパスタは大量だ。

源「静流君には悪いけど、あの子の面倒見てあげてくれないかな?」

ボサボサした髪の毛からフワッと優しい微笑みを浮かべて源は笑う。

静流「あぁ!世の中の何も分かってないガキに教育してやるよ!」

そう言うと、静流はパスタをズルズルと勢いよく吸い込む。

⏰:07/08/20 02:39 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#18 [向日葵]
すると源は、少し悲しそうな微笑みを見せた。

源「優しくしてあげてね……。」

静流「は?」

源はフォークとスプーンを静かに置いて、紅葉がいるベランダへと目を移した。

源「あの子……虐待されてたみたいなんだ。」

静流の食事をする手が止まる。

源「新しい怪我はともかく、古い傷もちらほらあってね……。しかも僕が見つけた時、うわ言の様に呟き続けてたんだ。」

⏰:07/08/20 02:42 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#19 [向日葵]
紅葉[母さん…ごめんなさい……。]

二人に沈黙が流れる。
静流はフォークを力なく置いて、ベランダに目を向ける。

小柄な体をした彼女は、ベランダの戸にもたれかかって、灰色の空を見上げていた。

静流「優しくしてやりたいのは山々だけど……アイツ可愛くねぇんだもん!」

そしてまたズゾーッとパスタを膨張る。
そんな静流を源は苦笑して見ていた。

実は彼の母、つまり源の妻は、若くして他界している。

⏰:07/08/20 02:47 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#20 [向日葵]
そのせいで静流は命には敏感になってしまい、簡単に死ぬと言う紅葉を見てやきもきしているのだ。

それを知っているから、源はどちらの味方をする事も出来ないのだ。

源「パスタおかわりあるからね。」

静流「ふん。ふぁんふぅ。」

膨張りながらなので何を言ってるか分からない静流に源は温かく笑った。

すると静流がいきなり立ち上がった。

源「どうかした?」

静流「ちょっとな。」

⏰:07/08/20 02:51 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#21 [向日葵]
*****************

雨の音に耳をすませていると、カーテンが開く音が聞こえて後ろのもたれていない方の戸が開いた。

静流「飯だ。入れよ。」

私は空を見つめたまま息子の言葉を無視した。

呆れた溜め息が聞こえる。

静流「あのさぁ、返事するくらいしたらどうなんだ?じゃないと猫って呼ぶぞ。」

私はクスッと笑った。

静流「なんかウケるとこあったか?」

⏰:07/08/20 02:55 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#22 [向日葵]
私はクスクス一通り笑った。
ううん。笑ってる様な声を出した。

紅葉「捨てられたから猫。捨て猫……。私にピッタリじゃない。紅葉(もみじ)と同じ字の名前よりシックリくるわよ。」

私はまた笑い真似の声を出した。
息子は何も言わず私を見ているみたい。

紅葉「お風呂以外一切何もいらないわ。その方が出ていく時死にやすいから。」

雨の音だけが聞こえる。
他は何も聞こえない。

⏰:07/08/20 02:59 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#23 [向日葵]
すると、独り言の様に息子が呟いた。

静流「勝手にしろ…。」

バンッ!! シャァッ!!

紅葉「乱暴者……。」

いやあんなの乱暴の内に入らないか……。

知ってる。
私は知ってる。
真の乱暴者がどんな者かを……。

『アンタのせいで私は束縛されっぱなしよ!』

ヒステリックになった母の叫び。
止まない暴力。

⏰:07/08/20 03:02 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#24 [向日葵]
ストレス発散物の私は、助けを請うことに疲れてひたすら殴られ続けた。

イタイ……

ヤメテ……

許シテ……

イイ子ニナルカラ……

手の包帯を見つめる。

こんな同情……いらない。

シュッシュル……

巻かれた包帯を乱雑に取り、貼られているガーゼやバンソーコーも剥がす。

傷なんて、これっぽっちも痛くない。

⏰:07/08/20 03:06 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#25 [向日葵]
本当に痛いのは……心だから……。

***************

静流「だぁぁぁぁっもう!!!!」

ベッドに寝転びながら静流はイライラしていた。
そして紅葉の言葉ん頭の中で何度も繰り返す。

[捨てられたから猫。捨て猫。]

[その方が出ていく時死にやすい……。]

『何なんだよアイツ……ッ!くそっ!』

静流の中で二つの思いが交差していた。

⏰:07/08/20 03:11 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#26 [向日葵]
一つは、予想以上に紅葉の傷の闇が深い事。

二つ目は死ぬと言う紅葉がムカつく事。

哀れめばいいのか、憎めばいいのか……。
静流は分からなかった。

でも彼女は優しさを求めているくせに拒否している。それは分かった。

蔑む目に、ちらつく悲しみ。
源にも頼まれた以上、紅葉を放っておく訳にもいかない。

静流は頭をガシガシかくと起き上がり、部屋を出た。

⏰:07/08/20 03:16 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#27 [向日葵]
風呂場に辿り着き、タオルを用意して入る準備をした。

ザパー……

『ん?』

誰もいない筈なのになんで水音が?

風呂場の戸を開けてみると……

カチャ

静流「!!うわぁっ!」

そこには紅葉が入っていた。
幸いなのがお湯が入浴剤のお陰で乳白色だ。

しかし動揺している静流に対して、紅葉は驚きの声すらあげず、ただ黙ってお湯を見つめている。

⏰:07/08/20 03:19 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#28 [向日葵]
静流「お、おま、お前、女ならもうちょっと恥じらうとか反応しろよ!」

紅葉「キャー変態ー。これでいい?ってか別に中坊の裸になんか興味無いでしょ。」

静流の方も向かず紅葉は“反応”を棒読みで言い、また黙ってお湯を見つめる。

怒ろうとした静流の目に、華奢な肩に複数の痣が入る。

肩だけじゃない。
顔、首、背中……。痣や切傷、それに一生消えなさそうな傷さえも……。
しかも今日した怪我もひどかったのに、平然とお湯に浸っている。

⏰:07/08/20 03:25 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#29 [向日葵]
静流「痛く……ないの?」

それには反応したのか、紅葉は目だけを動かして静流を見る。

紅葉「痛かったら万能の薬でも用意してくれるの?それは凄いわね。」

そしてまたお湯に目を向ける。

紅葉「ってかいつまでいるつもり?」

静流はとにかくイライラしてしまって、思わず紅葉の顔を片手で掴んだ。

静流「俺は男だ。なのに抵抗しないなら、それなりの行動に移さしてもらうぞ。」

⏰:07/08/20 03:29 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#30 [向日葵]
すると紅葉の蔑む目がその色を濃くした。

紅葉「後で後悔するのは貴方ですよ。彼女いるんでしょ?」

そこで静流はハッとした。

紅葉「左手の指輪。そうなんでしょ?」

静流は顔を歪ませて風呂場を出た。
脱衣所を出て、そのドアにズルズルともたれながら座りこんだ。

静流「ちくしょー……。」

紅葉の弱音を吐かせようとしただけなのに、ついカッとなってあんな行動に移った自分が情けない……。

⏰:07/08/20 03:33 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#31 [向日葵]
静流「面倒見るどこれか逆に嫌われる要素作ってどうするよ……。」

しかしあれはホントに中学生だろうか。

もう全てを悟りきった様な、そして全てを諦めてしまった様な……。

しばらく紅葉の事を考えていた静流は、また自分の部屋に戻って行った。

***************

紅葉「何よ。根性無し。」

息子が去った後、私はそう呟いた。

傷つけてみるならみなさいよ。もうそんなの慣れっ子で、痛くも痒くもない。

⏰:07/08/20 03:37 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#32 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/20 03:38 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#33 [向日葵]
またデカイシャツ(多分また息子の)を着て、風呂場を出るとリビングにボサボサ男がいた。

源「あ、おかえり。傷は痛まなかった?」

紅葉「……。別に。」

私はまたベランダに出ようとした。
が、ボサボサ男に止められた。

源「出てもいいけど手当てくらいはしようね?」

にこにこヘラヘラしてるけど、このバカっぽい笑顔の裏には何を企んでんのか……。

私は掴まれた手を冷たく乱暴に払いのけた。

⏰:07/08/20 21:56 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#34 [向日葵]
紅葉「結構よ。直に治る筈だし。」

そう言って私はまた雨が降り続けるベランダへと出た。

源「雨好きなの?」

ボサボサ男が尋ねた。

好き?

紅葉「んな訳ないでしょ。バーカ。」

ピシャン!

何を根拠に好きと言えるか。こんな忌まわしいもの。

⏰:07/08/20 22:00 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#35 [向日葵]
でもアンタ達みたいな生温い奴と一緒よりも、雨と共に過ごした方がまだマシだ。

いずれ死ぬ時には必ず雨を選ぶ。

あの人に、雨が来る度思い出させてやるんだから……。
その誓いを忘れない為に、こうしてここにいるの。

***************

静流「あれ。チビ猫は?」

風呂上がりの静流は肩にバスタオルをかけてTシャツとジャージの半パンを履いてリビングに現れた。

⏰:07/08/20 22:06 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#36 [向日葵]
源は少し困った顔をして笑うとベランダの方を指差した。

静流「手当て素直に受けたんだ?」

救急箱を見ながら問うと、源は首をゆっくり横に振った。

源「嫌らしいよ。触れることすら駄目みたい。」

静流「あのバカ…。」

ガラガラ!

静流「オイ!」

紅葉「何よ変態。」

そこで怒鳴りそうになる自分をグッと堪えて、静流は紅葉を抱き上げた。

⏰:07/08/20 22:13 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#37 [向日葵]
***************

紅葉「?!ちょっと!何すんのよのぞき魔!」

肩に担がれて足をジタバタさして抵抗するも息子は降ろそうとはしない。

静流「父さん。救急箱もらうよー。」

そう言って自室へと私を運んだ。
部屋に入るとベッドに丁寧に私を置いた。

静流「傷のトコ出せ。」

救急箱から包帯やらガーゼやらをゴソゴソ出しながら息子が言う。

私は無視して顔を背けた。

⏰:07/08/20 22:17 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#38 [向日葵]
静流「早く治した方がその分早くウチから出られるんだぞ。」

それもそうだ……。

私は仕方なく顔や手足を出す。
手慣れているのか手つきがテキパキしていた。

そんな様子を見ていた私に気づいて、息子はフッと笑った。

静流「父さんが結構おっちょこちょいでさ。俺いつも看護係だったって訳!」

紅葉「別に聞いてないし。」

息子は何がおかしいのかまたフフッと笑った。

⏰:07/08/20 22:21 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#39 [向日葵]
静流「なんか切りないな。逆に笑える。」

息子はクククと笑いながら救急箱をバタンと閉めた。

私はまたベランダに向かおうと立ち上がった。

静流「ハイそうはいきませーん。」

バフッ!

紅葉「?!」

いきなり視界がドアから天井に。
呆然としていると息子が私に布団をかけた。

紅葉「ちょ、勝手な事しないで!私はここで寝るなんて一言も……っ!」

静流「行きたいなら行けば?俺は宿題あるからここにずっといるし、お前を何度でも布団に戻す事は出来る。」

⏰:07/08/20 22:52 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#40 [向日葵]
私は歯と歯を力強く噛み締めて歯ぎしりをした。

ムカつく!
いちいち勘に触る奴!
コイツ嫌い!!

私は布団を頭から被ると息子からそっぽを向いた。
すると私の頭らへんを布団越しにポンポンと叩かれた。

騙されないんだから……。
今優しくしてても、どうせ皆後から化物に変わるんだから……。

―――――……

ザァー……

⏰:07/08/20 22:56 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#41 [向日葵]
雨は一向に止まない。
寧ろ逆に激しくなっている。

私は直ぐに寝る事が出来なくて何度も寝返りをうつ。
すぐ側の机では息子が勉強をしていて、シャーペンと紙が擦れる音が聞こえる。

起き上がってその後ろ姿を見る。
ときどき教科書を見てるのか横顔を見ると眼鏡をかけていた。

なんでコイツは私に構うんだろう……。
無駄にうっとおしい……。
気づいてなさそうだし…、ベランダに行こう。

⏰:07/08/20 23:07 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#42 [向日葵]
そーっとベッドから降りようとした。
トテッとフローリングに足をつける。

静流「動いてんのバレバレ。そんなに相手して欲しいの?」

紅葉「――っ。違うわよ!」

*****************

所詮は子供だな……。

静流は教科書に目を戻してそう思った。
意外にこちらが冷静に対処していれば、紅葉は扱いやすい。

初めは死にたいとか連呼するせいで頭に血が登っていた。

⏰:07/08/21 01:20 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#43 [向日葵]
静流「なぁお前さ、どこに住んでたんだ?」

紅葉「黙秘権。」

静流「言うと思った。別にいいけど。」

問題を解きながら後ろの気配に神経を研ぎ済ます。
以外にも今は大人しくしている。

紅葉「ねぇ息子。」

思わず吹いた。

静流「はぁっ?!それ俺のこと?!」

紅葉「他に誰がいんの。馬鹿ねアンタ。」

静流「俺名前言ったよね?忘れたの?」

⏰:07/08/21 01:25 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#44 [向日葵]
眼鏡を外して紅葉の方を見れば、ベッドではなくドアの方にいて、そこでもたれて体育座りをしていた。

紅葉「覚える気なんてない。どうせアンタ達も同じ。いずれ私がいなくてせいせいすると思う日が来る。」

うつ向きながら言う彼女の声はとても一本調子で、でも寂し気だった。

紅葉「この部屋嫌い。ベランダ行く。」

ガチャ バタン!

静流はただそれを見てるだけだった。
彼女はもしかして、自分からではなく、母親に捨てられた……?

⏰:07/08/21 01:29 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#45 [向日葵]
******************

もう人がいなく、電気が消えたリビングを横切って、私はベランダへ出る。

ザァー……

雨粒が、体に当たる。

さっき問おうとしてた事。それは何故アイツは私に構うかだ。

私なんて放っておけばいいのに…。
私で時間を無駄にしなくていいのに…。

紅葉「ホント馬鹿だ。」

静流「それは俺の事か?」

びっくりして後ろを振り向くと、息子が立って私を見下ろしていた。

⏰:07/08/21 01:34 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#46 [向日葵]
すると息子は私の隣にやって来た。

宿題はどうしたよ……。

紅葉「アンタ以外いないし。」

反論してくるかと思いきや、息子は何も言わず黙ったままだ。

なんだコイツ。

静流「あのさ……。ここで住まない?」

耳を疑った。
思わず笑ってしまう。

紅葉「は?何言ってんのアンタ。頭大丈夫?」

⏰:07/08/21 01:38 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#47 [向日葵]
静流「だって出て行っても行くとこないだろ?」

紅葉「嬉しいながらあるのよ。」

私はそう言って空を差した。

すると凄い力で肩を掴まれて息子の方に体を向けられた。

静流「俺の母さんは…、病気で早くに死んだ。……生きたくても、生きれなかったんだ。」

紅葉「贅沢言わずにお前は生きろとでも言いたいの?アンタの勝手な思想を私に押し付けないでくれる?」

すると掴んでいる手に力がより入る。

⏰:07/08/21 01:42 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#48 [向日葵]
静流「……。生きる努力くらいしようよ。」

努力?

そんなの死ぬほどしたわよ。

紅葉「アンタに……私の何がわかるの……。」

嫌い。
コイツ嫌い。

私は肩に置いてる手を払い除けて手すりに足をかけ、そこに座った。

静流「馬鹿!危ない!」

紅葉「知ってる?!私はね、12歳の頃から母さんに殴られてるの!」

⏰:07/08/21 02:52 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#49 [向日葵]
雨は降り続く。
止むことはない。

息子は驚いた顔で私を見ている。

紅葉「止めてって何度も避けんだ!でもあの人は、まるで私をストレス発散の玩具みたいに扱ったわ!」

記憶が溢れ返る。

痛くて、泣き叫んで、でも誰も助けてくれなくて。

面白がって見る人、怖がって遠ざかる人。
友達と呼べる人すらいなくなった。

紅葉「人は汚い。同情なんていらない。私を必要としてくれないなら、私はもう不要じゃない!」

⏰:07/08/21 02:56 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#50 [向日葵]
いつから?

母さん。私の事、いつから嫌いだった?

私必死にいい子になろうとした。
なのにそれはなんの意味も無くって……母さんはただ嘲笑ってひたすら殴った。

意味をもたないならもういい。
抵抗しなくなったらまた殴る蹴る。それは激しさを増して、私は気を失った。

あの時、やっと天に昇れると思った。
やっとこの汚い世界から逃れられるって。

紅葉「なんで生きなきゃいけない?アンタだって、所詮母親と私を重ねてるだけじゃな……っ。」

⏰:07/08/21 03:00 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194