―温―
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#401 [向日葵]
―――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/17 02:39 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#402 [向日葵]
「何の用だよ。」

{……そんなの関係あるわけ?お前に。}

受話器を握る手に力が入る。
香月はそんな俺に構わず続ける。

{お前は紅葉を妹ぐらいにしか思ってないんだろ?ならいいんじゃないのか。紅葉が誰とつるもうと。}

「……っ。」

ガチャン!

図星を付かれて、いらだち任せに受話器を置いた。

頭をグシャグシャとかきまわす。
そういえば風呂、まだだった。

⏰:07/09/18 01:28 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#403 [向日葵]
双葉が来るなら、清潔の方がいいだろう。

リビングを出る前、ベランダで空を見上げる紅葉に一回視線を向けて、俺は風呂場へ向かった。

*****************

はぁ……。ちょっと外に出て来ようかな。
……いや今外だけど。
花壇の水やりにでも行ってこようかな。

「こんにちわ。」

「ん?」

下から声がしたから、下を見ると、長い黒髪を風に遊ばせながら彼女さんがにこにこ笑っていた。

⏰:07/09/18 01:35 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#404 [向日葵]
「こん……にちわ。開いてると思いますよ。」

彼女はもう一度にこっと笑って家へと入って行った。
とうとう来たか……。
やっぱり花壇に行って来よう……。

私はベランダからリビングに出て、階段を降りた。
玄関のドアに手をかけた。
「あれ?紅葉。どこ行くの?」

フゥー……と息を吐いて後ろを向くと、静流が上半身裸のびしょ濡れでいた。

最早約束を忘れてる。
何だっつーの……。

⏰:07/09/18 01:42 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#405 [向日葵]
私は静流を無視して外へ出た。

日差しがもうすっかり暑い。
静流の家に引き取られてどれくらい経つんだろう。

夏は嫌い。早く冬が来ればいい。そしたら逃げ場所のベランダに出るのはちょっと辛くなるかも。

「……その時はその時よね……。」

いつものじょうろを持って水を貯める。
ぼーっと水が貯まるのを見ていると、急に涼しくなった。

あぁ雲で太陽が隠れたんだと思ってたら、今度は目の前が真っ暗になった。

⏰:07/09/18 01:51 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#406 [向日葵]
「だぁ〜れだ!」

「はぁっ?!誰よ!」

そう言うと視界が明るくなって、目を覆ってたのが手だと分かった。

そして逆に香月さんが現れた。

「?!」

「よっ!数時間ぶり!」

水を一旦止めて、立ち上がって香月さんとの距離を取った。
まだあの言葉に戸惑いを隠せない。

「フゥ…。警戒しないでよ。力づくでとか思ってないし。」

と香月さんは微笑んだ。

⏰:07/09/18 01:57 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#407 [向日葵]
力づく……。

そう言われてさっきの静流とのキスを思い出してしまった。
忘れる為に、また口をゴシゴシ拭く。

「え?何?どうかしたか?」

急な私の行動にびっくりした香月さんは私の手を止めた。

「……あれ?手当て、しなくていいの?」

香月さんの指が私の頬にある傷近くを撫でる。

思わずビクッとしてしまって、顔が赤くなる。

⏰:07/09/18 02:03 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#408 [向日葵]
「クスクス……。やっぱ可愛いわ紅葉。」

「……っ。」

「おいで。水やりは後。俺がしてあげるよ。」

と私の手を引いて、まるで自分の家みたいに家に入り「おじゃましまーす!」と元気よく挨拶すると階段を駆け上がった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「じゃ消毒からしよっか。」

消毒液をティッシュに二、三回吹きかけてから私の顔や手、足の傷をトントンと拭いていく。

⏰:07/09/18 02:07 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#409 [向日葵]
さっき乱暴にガーゼやらを剥がしたから少し傷が開いたのか、消毒液が傷に当たる度に痛みが走る。

そんな私を気づかってか、拭く強さを優しくしてくれた。

それからは丁寧に包帯を巻いてくれたりバンソーコーを貼ってくれたりした。

「……ありがとう。」

「どーいたしまして!さて、水やりしに行く?」

「もーいい。」

出たり入ったりすんのもうめんどくさい。

「気分は?」

「え?」

⏰:07/09/18 02:15 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#410 [向日葵]
そりゃ頗る悪いけど。

内面的にも。
体的にも……。

「あんまり食事出来ないのにケーキあんだけ食べちゃっただろ?」

「あぁ……。別にどうもない。そんな事吹き飛ばす事があったし。」

最後は小声だ。
なので香月さんの耳には届いてない……筈。

「そっか。」と言って救急箱を元に戻す香月さん。
そしてまた私の隣に来て座った。

そういえば……。

「何しに来たの?」

⏰:07/09/18 02:19 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#411 [向日葵]
「ん?何かさ、電話するより話した方が早いと思って。ちゃんと話した事ってあんまりなかったっしょ?だから一回ゆっくり喋りたいと思って。」

ニカッと笑うと、私の頭を撫でてきた。

静流が真っ直ぐだからその友達も真っ直ぐに気持ちをぶつけてくるみたい。
まさしく類友。

だから私はこの人に対する反応に困ってしまうのだ。
「さてと。まずはお互いの事でも知り合おっか!趣味とかは?」

「あのね。お見合いじゃないんだから……。」

⏰:07/09/18 02:26 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#412 [向日葵]
そこでなんだか笑えてしまって、ハハと軽く笑った。

すると香月さん口がぽかんと開いた。
私は眉を寄せて「何事?」と思った。

「笑った……。めちゃくちゃ可愛い……。」

「なっ……!!」

驚いた。
可愛いなんて初めて言われた。
更にしどろもどろになる。

「趣味知りたいんでしょ!趣味は映画よっ!映画鑑賞!」

「え?マジ?俺も映画超好き!」

⏰:07/09/18 02:31 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#413 [向日葵]
香月さんは最近の最新作とかを沢山教えてくれた。

私は甘ったるいラブストーリーよりもミステリーとかホラーとかが結構好きだった。

「へー。怖そうなのならもうすぐ公開するよ。なんなら見に行く?」

「いいけど……。私、街あんまり好きじゃないし……。」

「穴場知ってるんだ。行こうよ。」

行きたい。
でもそれってデート?
あまり意識したくないけど意識してしまう……。

⏰:07/09/18 02:35 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#414 [向日葵]
「あれ?香月くん来てたの!」

二人で横を向くと、リビングの入口に彼女さんと静流が立ってた。

彼女さんの手にはトレーに乗った二つのコップ。
おそらくジュースが無くなったコップを彼女さんがキッチンに運ぶと持って来て、静流の事だから「いいよ」と止めに着いてきたのだろう。

まんざら間違いでもなさそうな自分の分析に呆れた。

「どうしたのどうしたの?紅葉ちゃんと仲良しなんだね。」

⏰:07/09/18 02:41 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#415 [向日葵]
「映画が好きなんだって。だからその話してたら盛り上がっちゃって!今度ホラー見に行こうって言ってたとこ!」

静流は香月さんの言葉に無言で私を見つめた。
初めて聞いたみたいな顔をして。
当たり前じゃない。
聞かれもしなけりゃ言ってもないもの。

「そうなの?あ!じゃあ、近くのレンタルビデオで怖そうなの借りてこない?ね!紅葉ちゃん!」

え、私?

「ね、行こ!」

「え、ちょっ……。」

有無を言わさず私は彼女さんに引っ張られて家を出た。

⏰:07/09/18 02:46 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#416 [向日葵]
ストレートに気持ちを伝えるだけじゃなくゴーイングマイウェイな人達すぎる……。
振り回される方の身にもなりなさいよ……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「リングとかはやっぱり定番だから見ちゃったかなぁ?」

DVDを両手に持ちながらウキウキ私に喋りかける彼女さん。
静流がいたならそれは「可愛いなぁ」とかって思うんだろう。

「紅葉ちゃん?」

私の目の前で首を傾げる彼女さん。
ハッと自分の世界から帰ってきた。

⏰:07/09/18 02:50 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#417 [向日葵]
「どうぞ彼女さんが怖そうだと思うの選んで下さい。」

「アハハ!やだなぁ。彼女さんだなんて。双葉でいいよ。」

彼女さん、もとい、双葉さんはニカッと笑ってDVDを次から次へと見ていく。

「静流がね。貴方の話をよくするの。」

「え……。」

双葉さんはDVDのあらすじを読みながら話す。
私はその横顔を見つめた。

「貴方がよっぽど好きなのね。」

⏰:07/09/18 02:56 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#418 [向日葵]
優しく微笑む。
でも少し悲しそうだった。

「静流は貴方以外目に入ってませんよ。貴方の話をする静流は、すごく優しい顔しますから。」

「……本当?」

双葉さんの目がきらきらと輝く。
少し興奮してるのか頬が赤くなってる。

恋する乙女って感じだな……。

「本当ですよ。自惚れてもいいほどに。」

そう言うと嬉しそうににこぉっと笑って、カゴにいくつもホラーのDVDを入れていく。

⏰:07/09/18 03:02 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#419 [向日葵]
間違ってない……。
間違ってないでしょ静流。

だから二度と、傷ついたような目で私を見ないでね……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「お!おかえりぃ!」

一番に香月さんが言ってくれた。静流と香月さんはは微妙に離れてソファーに座り、見る準備をしていた。

双葉さんは静流の隣に。
私は香月さんの隣に座った。

順番的に静流、双葉さん。少し離れて香月さん私の順で座っている。

⏰:07/09/18 03:07 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#420 [向日葵]
雰囲気を出す為にカーテンを閉めて、部屋を暗くする。

タイトルが出て、映画が始まった。

静流達の方を見ると、双葉さんはクッションを抱き締めて静流に寄り添ってる。その肩を、静流は抱き寄せている。

視線を泳がせて、もう二度と見ないように体育座りをして、膝の上に顎を乗せて、映画に集中する。

「怖かったらいいなよ。」

香月さんがこそっと私に言う。
座っている距離を縮めながら。

⏰:07/09/18 03:11 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#421 [向日葵]
「平気。慣れてるわ。」

ピシャーン!

映画の始まりは、雷で始まった。

ビクッ!

体が反応する。
実は私、雷が大の苦手だった。

ピシャーン!

何度も雷が画面の中で轟く。いい加減止めてほしい。
すると

「あーまどろっこし。ちょっと早送りすんな。」

静流がリモコンを持って雷の場面を早送りした。

助かった。と内心ホッとした。
香月さんは私が雷に反応してたのには気づいてない。
良かった。

⏰:07/09/18 03:15 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#422 [向日葵]
出来れば自分の弱味を知って欲しくないのが私だ。

それからは順調にホラーらしくなっていった。
はっきり言って怖いってよりグロイって感じ。
ビビりはしなかった。
……雷以外は。

時々双葉さんが「やっ!」とか怖がってたけど、静流が「大丈夫大丈夫。」となだめているのが聞こえた。

とりあえず、二時間ちょいの映画鑑賞はひとまず終えた。
まだ二本借りてきてるけれど、休憩を入れようってことになって、電気をつけて、何か飲む事にした。

⏰:07/09/18 03:22 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#423 [向日葵]
そこでも率先して動いたのは双葉さんだった。
そして静流はそれを手伝う。
私はソファーに座って香月さんさんとさっきの映画の評論をしていた。

「さっきのはいまいちだったー。」

「私も。体きざめばいいってもんじゃないわよね。」

「アハハ。二人ともすごい事言ってる。」

笑いながら双葉さんは静流と双葉さんの分二つを目の前の机に置いた。

「ってかあんなの見てよく平気だよな。」

と静流が私達の分を持ってきて、何故か私と香月さんの間を割ってコップを置いた。

⏰:07/09/18 03:28 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#424 [向日葵]
その行動が妙に気に障って、逆に私はくっついてやった。
不思議そうにする香月さん。

「紅葉、どうかした?」

「え?私何かした?」

しらばっくれて、わざとくっついたと思わせないようにした。

十五分くらいして、また次の映画へと移った。

――――――……

「あー!見終った見終ったぁぁ!」

大きく伸びをする香月さんを見習い、小さくだが私は伸びをした。

「もうこんな時間!」

双葉さんが言ったので、時計を見ると八時半ほどだった。

⏰:07/09/18 03:34 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#425 [向日葵]
「見た後だから帰るの怖い……。」

本当に怖そうな双葉さんを見て、静流が送ると言った。
双葉さんは私と香月さんに別れを告げると帰った。

「じゃあ俺も帰るね。紅葉。」

「はぁ。どうぞ。」

玄関まで見送ろうと下りて、香月さんが靴をはくのを見ていたら、はき終えた香月さんがくるりんと回って私に言った。

「映画、約束ね!」

くしゃって頭を撫でて、香月さんも帰っていった。

そういえば、源さんはどうしただろう。
寝てるのかも。

⏰:07/09/18 03:38 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#426 [向日葵]
階段を上がる時、嫌な音が聞こえた気がした。

ゴロゴロと、まるで何かが起こりそうな音。

上がってきてみて気づく。雨がまた降り始めていた事に。

今帰った二人、それに静流は雨に会ってることだれうなぁ……。
多分帰ってきたらずぶ濡れだ。

ピシャーン!!

「キ、キァァァ!!」

最悪だ!雷雨だと?!
ふざけんなっ!

私の思いに反抗するみたいに、雷はさっきよりも大きな音、眩しい光を放ってまた落ちてきた。

⏰:07/09/18 03:45 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#427 [向日葵]
「イヤァ!!もう何よ!!」

テーブルの下に隠れて耳と目を塞ぐ。

チカチカ……フッ

雷のせいで停電になってしまった。
これじゃあ余計に雷の光が増して見える。

もうやだ……。
今日は散々だ。

静流ぶたれるし。
キスされるし。
忘れろって言われるし。
双葉さんと目の前でイチャつくし。
雷ヤバいし……。

なんで私ばっかりこんな目に会わなくちゃなんないの?!いくら罰でも酷すぎる……っ!!

⏰:07/09/18 03:50 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#428 [向日葵]
「……っ誰か……。」

せめて雷さえおさまればいいのに……っ。
それどころかどんどん酷くなる。

その時だった。
何かが私を包んだ。
どうやら大きなタオルみたい。
そしてテーブルから出されて宙に浮く。

違う。

抱きかかえられてるんだ。

「大丈夫か?」

静流だった。
雨のせいで髪から滴が垂れている。

「帰って……来たの?」

⏰:07/09/18 03:55 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#429 [向日葵]
「さっきね。」と答える静流と重なって、また雷が落ちる。

思わずひしっと静流にしがみついてしまった。
それにすぐに気づき、離れる。

「下ろして。約束忘れた訳じゃないでしょ?」

「今は休戦しようぜ。こんな震えてるくせに。」

知らなかった。
自分の体が震えてるなんて。言われてみればそうだ。

「怖いんだろ?雷。」

「?!ど……して。」

⏰:07/09/18 03:58 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#430 [向日葵]
―――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/18 03:59 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#431 [向日葵]
「今日DVDで雷の場面嫌がってたじゃん。」

「……!それで……。」

あそこを早送りしてくれたの?

自分自身の許しもなく、鼓動が高鳴る。
些細な事で嬉しくなる自分が逆に惨めに感じた。

静流は私を抱えたままソファーに座った。
そのままタオルを頭から被せて雷の恐怖を少しマシにしてくれた。

それ以前に雷なんて既にふっ飛んでしまった。

「雷止むまでこうしててあげるから。文句はそれから聞くよ。」

⏰:07/09/18 13:39 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#432 [向日葵]
背中を大きな手でポンポンと 叩きながら、私の頭を濡れた胸元に押しつける。

今気づいた、
タオルを被したのは雷だけじゃなく自分の濡れた体から避ける為でもあるんだと。

「私なんか、ほっといて……着替えてきなさいよ。」

静流はクスッと笑うと、私を抱き直してまた背中をポンポンと叩く。

「いいからさ。」

「どうせすぐ忘れるでしょ。私の苦手なものなんて。」

⏰:07/09/18 13:46 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#433 [向日葵]
すると静流は黙ってしまった。背中を叩く手も止まる。

雨と少し遠くなった雷の音、それと私達の呼吸が暗闇の中に響く。

しばらく経って、ようやく静流が口を開いた。

「忘れないよ。」

目の前には静流の胸。
顔は見えないけど、その声は真剣味を帯びていて、予想外の反応に私は目を見開いた。

また背中を叩くのを再開しながら、静流がまた言った。

「忘れないから……。」

⏰:07/09/18 13:52 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#434 [向日葵]
―誘―









「俺紅葉が好きだから。」

これはついこの間の香月との会話。
あのDVD鑑賞会の時だ。

双葉と紅葉とが出かけている時に香月が言い出した。

「別にいいよな?狙っても。」

⏰:07/09/18 13:56 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#435 [向日葵]
香月の目がマジだった。
どうやら冗談ではないらしい。

「なんで……。紅葉なんだよ。お前なら、学校にいくらでも告白してくれる奴いるじゃんかよ。」

「いいと思う奴いないし。ってか何?紅葉じゃ駄目な訳?」

「別に……。」

イスに座ってた香月が立ち上がって、俺の目の前まで寄ってきた。

「静流さ。紅葉が好きな訳?」

「え……。」

⏰:07/09/18 14:03 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#436 [向日葵]
香月の顔が、何だか怒っている気がした。

「俺が紅葉に近づく度に、お前はいっつも言葉濁してるじゃんか。」

「それは!紅葉は妹みたいだし、今朝も聞いただろ。アイツはゴミ捨て場に……。」

「だから大切にしたいとでも言うのか?それなら話は早いよな。」

香月は俺の胸ぐらを掴んでぐいっと顔を近づけた。

「お前のそれは同情でも、兄弟愛でもない。恋情だよ。」

と言って胸ぐらを離した。

⏰:07/09/18 14:10 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#437 [向日葵]
恋情……?

俺が紅葉に?

だって俺には……双葉が……。

「そんな筈……ない。」

香月は俺を少し睨んで横を通ると、ソファにドカッと座った。

「どう解釈するかはお前の勝手だ。だけどな、中途半端がどちらの事も傷つける事を知っておけよ。」

*********************

そしてここからがあれから数日後の話。

「ジャーン!」

⏰:07/09/18 14:14 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#438 [向日葵]
と言って源さんが出してきた中くらいの箱。

箱には見た事のあるロゴ。

「これって。」

「そう!携帯だよ!」

開けてみると白い色をした携帯が入っていた。
人生初携帯。
分厚い説明書と共に登場。
「やっぱり今の時代なかったら不便でしょ?」

「はぁ……まぁ。」

「お金なら気にしないで!じゃんじゃん活用したらいいよ!」

⏰:07/09/18 14:20 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#439 [向日葵]
そう言われると逆に使いずらい……。

幸いにも私は機械に強い方だったので説明書を少しパラパラと読めば使えそうだ。

「ありがとう……ございます。」

「どーいたしまして!じゃあ僕下でちょっと仕事してくるね。」

と源さんはカミングアウトした。

私は携帯を取り出して電源を入れる。
「Hello」と画面上に出た。

貰ったからには何かいじりたい。

⏰:07/09/18 14:25 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#440 [向日葵]
「あ、そうだ。」

と電話が近くにある本を開ける。

そこには香月さんのケー番がかかれた紙切れ。

「登録しとこ。」

「何を?」

文字通り飛び上がった。
静流が帰って来て横から顔を出した。

「あ!携帯!しかも最新じゃん。いいなぁ〜。」

「源さんがくれたの。」

携帯を見せながら静流に言った。
静流は携帯をパカパカしたりして隅々まで見る。

⏰:07/09/18 14:33 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#441 [向日葵]
一通り見てから携帯を私に返してくれた。

「で、登録って何を?」

「え?あぁ。香月さんのケー番を。」

と言いながら電話帳を開いたと同時にまた静流に取られた。

止める前に静流が携帯をいじる。
最初の設定のせいでボタン音がピピピピピピと鳴る。

待っているとようやく携帯が戻ってきた。
何をしたのかと電話帳を開いた。

そこには静流のメアドと番号が入ってた。

⏰:07/09/18 14:38 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#442 [向日葵]
「よっしゃー第1号とったー。」

と言って部屋に入って行った。

私は一連の行動に半ば唖然としていて、「あ、メアド決めなきゃ」とか考えてた。

とりあえず香月さんの番号を入れてからメアドを決めて、香月さんに電話することにした。

ボタンを押して、携帯を耳にあてた。
数回呼び出し音が鳴った後

「ハイ?」

といつもの香月さんらしくない声が聞こえてきた。
何か警戒してる様な……。

⏰:07/09/18 14:48 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#443 [向日葵]
「紅葉……です。」

しばらく間が開いて、「あぁ!」と聞こえた。

{知らない番号からだったから誰かなと思ったんだよ。}

あ、そっか。
だからいつもと違ったんだ。

「今携帯を買ったの。だから一応と思って。」

{そっか……。}

受話器越しに「ハハハ」と香月さんの笑い声が聞こえた。
何か面白いことでもあったんだろうか?

{ごめん。ちょっとね……嬉しくて。}

⏰:07/09/18 14:53 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#444 [向日葵]
そう言われると、少し胸が温かくなって、キュゥっとした。

「はぁ……。そ、ですか……。」

{今度メアド教えてよ。映画の事とかでメールしたいし。}

「わかった。じゃあまた……。」

と言って電話を切った。

まだ胸が熱い……。

自分の胸に手を当てながら、実感する。

⏰:07/09/18 15:00 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#445 [向日葵]
[嬉しくて。]

本当に嬉しそうに呟く香月さんの声が、耳に溶けてまだ余韻が残ってる。

……でも、私は……。

「紅葉。父さんは?」

ひょいと顔を覗かせる静流。

私は……静流が好き……。
香月さんは、何故そんな私を?
こんな私でもいいのだろうか。

そんな私を想ってくれる香月さんだからこそ、私は香月さんを選ぶべきではないんだろうか……。

⏰:07/09/18 15:08 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#446 [向日葵]
*******************

―――――……

「ねぇ静流!今度紅葉ちゃんと香月くんでダブルデートしてみない?」

学校帰りに双葉が提案した。
突然の申し出に俺はカパッと口を開けてしまった。

「デートって……。ってかそれ以前にアイツら付き合ってないんだぞ?」

「だから!よ。どう見たって、香月くんは紅葉ちゃんが好きみたいだし。協力しましょうよ。」

……協力ねぇ。

[お前のは恋情だ。]

首をブンブン横に振った。
まさか。確かに俺は紅葉が大事だ。
でも恋愛感情とか……そんなのは……。

⏰:07/09/19 02:24 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#447 [向日葵]
[分かった?]

この前の、紅葉の痛々しい笑顔を思い出した途端、胸がギュウッとなった。

「……。ねぇ静流。」

双葉に呼ばれて現実へ戻ってきた。
双葉を見ると、何か不安そうな顔をしていた。

「……私の事、好き?」

ベストの裾を掴みながら聞いてくる双葉に、フッと笑って俺はその手を包んだ。

それだけで気持ちが通じあう。

絶対……恋情なんかじゃない。

⏰:07/09/19 02:37 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#448 [向日葵]
*********************

「紅葉まだぁ〜?」

「……。」

ほとんど毎日通いづめだと言っても過言ではない。と香月さんに対して思う今日この頃。

花壇の水やり最中に「おっす!」と言われて家に侵入。

映画の話をしたいから早く水やり終われとさっきからダダをこねる。

男性の精神年齢が低いと言われているがあながち間違ってないと思う。

呆れながら水やりをしていると

ズルッ!

「あ。」

⏰:07/09/19 02:45 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#449 [向日葵]
水に濡れた芝生のせいで足が滑った。
視界が反転する。

「……っ!」

ガシッ!

「……っとぉ…。大丈夫?」

香月さんが私を抱き止めてくれた。
おかげで水に濡れた芝生に倒れなくてすんだ……けど……。

[嬉しくて。]

あの香月さんを思い出す度、胸の奥が熱くなる。
そして今その本人に抱き止められてる自分。

⏰:07/09/19 02:49 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#450 [向日葵]
香月さんは私を立たせてくれた。

「あ……ありがとう。」

うつ向き加減に言うと、私の様子に気づいた香月さんはからかってくる。

「あっれぇ〜?何赤くなってんの〜?」

「バッ!こ、これは、今日っ暑いから!!」

苦しい言い訳。
何故なら今日はわりかし涼しい方で、爽やかな風が吹いちゃったりなんかしてるからだ。

でも香月さんは、そんな事は追及せず、ただにこにこ笑って私の頭をくしゃくしゃと撫でるだけだった。

⏰:07/09/19 02:52 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


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