―温―
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#240 [向日葵]
しっかりしろ。私の体。
壁に手をつきながらソファーまでたどり着く。
そしてそこで座って息を肺が空になるまで吐いた。
紅葉「静流…学校、あるんでしょ?早く行きなさいよ。」
静流は私の前まで来ると膝立ちをして私と目線を合わせる。
あぁ……。静流が二人いる……。
二人の静流は手を上げると私のおでこにその大きな掌を当てた。
:07/09/04 01:42 :SO903i :GkaoQpe.
#241 [向日葵]
静流「今日は父さんも朝から仕事だし、俺今日休んでお前のか」
紅葉「馬鹿言わないで……っ。」
言葉を遮った。
言うと思った。
そんな事絶対いけない。
私の為に時間を使っては……彼女を傷つけてはいけない。
紅葉「寝てろって言うなら寝てるから。……早く、学校に行って。」
:07/09/04 01:46 :SO903i :GkaoQpe.
#242 [向日葵]
静流は何か言いたそうにしてる。
でも私は出来るだけ目を開いて、静流を真っ直ぐ見た。
紅葉「私は寝る。静流は学校へ行く。両方の要望を聞いた条件よ。ね。」
静流はハァ……と息を吐くと、私を抱き上げた。
部屋へ連れて行くらしい。
勝手に寝るからほっといてくれればいいのに。
でも、結構体がヤバめなので実の所はとても楽だった。
:07/09/04 01:51 :SO903i :GkaoQpe.
#243 [向日葵]
ゆっくり私を寝かすと、厚目の布団を私にかけてくれた。
そして微笑みながら私の頭を優しく撫でてくれる。
静流「じゃ、行って来るな。」
私は黙って静流を見る。
静流が三人に増えた……。三人の静流は部屋を出ていく。
階段を降りて、家のドアがパタンと静かに閉まった。
シーンと家が静まりかえる。
:07/09/04 02:00 :SO903i :GkaoQpe.
#244 [向日葵]
ようやく息を我慢することなく出来る。
静流に心配かけまいと、本当は走った後みたいに息があがっていたけれど通常の呼吸をしようとなんとかやってのけた。
部屋に自分の息しか聞こえない。
最悪だ。ここ何年かのせいで虚弱体質になってる。
せめてもっと食事出来れば……。
相変わらず少量だけど食べれるレパートリーは増えつつあった。
:07/09/04 02:04 :SO903i :GkaoQpe.
#245 [向日葵]
これも辛抱強く静流が付き合ってくれてるおかげだ。
そんな事をつらつら考えてると、私は眠りに落ちた。
―――――――……
痛い……。
知ってるこの夢。
母さんが見える。
笑ってる。冷酷な顔で。
何か言ってる。
「邪魔。アンタ邪魔。何で生まれたのよ。」
:07/09/04 02:08 :SO903i :GkaoQpe.
#246 [向日葵]
あぁ……。
私また殴られてるんだ。
でも知ってる。
これは夢。
痛いけど、痛くない。
だから好きなだけ殴りなさいよ。
すると母さんは殴るのを止めた。
そのかわりまだ冷酷な顔で私を嘲笑ってる。
「アンタは本当に邪魔ね。」
知ってる。何回も言われたもの。
:07/09/04 02:10 :SO903i :GkaoQpe.
#247 [向日葵]
「人の幸せを安々と奪うのが好きね。」
母さんの後ろに、一つの影が現れる。
あの人……彼女さんだ……。
虚ろな目をした彼女さんは、口だけしか笑ってない奇妙な笑い方をした。
双葉「静流は私のなのよ……。貴方、横取りする気……?」
―――ドクン
:07/09/04 02:14 :SO903i :GkaoQpe.
#248 [向日葵]
違うと言いたいのに声が出ない。
そんなつもりはない。
ごめんなさい。
静流を好きになったのは確か。
でも決して引き裂こうだなんて事は……!
「嘘ばっかり。本当は思ってるんでしょ?」
母さんの声じゃないみたいに勘高い声で笑う。
違う。思ってない。
絶対!絶対に……っ!
もしそうなら、私はこの家を出る!
全ての原因が私ならば……っ!
:07/09/04 02:18 :SO903i :GkaoQpe.
#249 [向日葵]
――――
――――
今日はここまでにします
:07/09/04 02:19 :SO903i :GkaoQpe.
#250 [向日葵]
「約束だからね……。」
――――――――……
「!」
眠りから覚めた私はあり得ない程の汗をかいていた。
気持ち悪いけど体がダルいから服を着替えたくても起きる元気が全くない。
『約束だからね……。』
まだ耳にこびりついている彼女さんの言葉……。
私は夢の中で約束を交した。
所詮夢の中だと、切り捨てる事が何故か出来なかった。
:07/09/05 22:41 :SO903i :uTSNz6sY
#251 [向日葵]
部屋の時計を見ると、時計の針は十二時を差していた。
あれから結構な時間眠ったらしい。
家は相変わらずシーンとしている。
「ケホッ……。」
喉がイガイガして変な感じ。水でも飲みたい。
着替えもしたいし、気合いを入れて体を動かす事にした。
鉛みたいに思い上、体の節々がなんだか痛い。
多分熱のせいだ。
なんとか体を起こして、引きずる様に体を動かす。
キィ……。
:07/09/05 22:46 :SO903i :uTSNz6sY
#252 [向日葵]
壁に体を預けてフワフワした足取りで進む。
キッチンまで来てコップを持つものの、どこかにつかまってないと平行感覚を見失いそうだった。
とりあえずなんとか水をくんでから一気に飲み干す。
少しだけ意識がはっきりした気がした。
でも体力を全部使ったせいで着替える元気がなかった。
……せめて涼しい場所…。
フラフラしながらベランダの戸を開ける。
涼しげな風が入って来たところで、世界が真っ暗になった……。
:07/09/05 22:50 :SO903i :uTSNz6sY
#253 [向日葵]
―――――――
――――――――……
「――……。」
何?
「…………っ!」
誰か叫んでる。
「紅葉!」
静流?
うっすら目を開けると、文字通り目の前に静流の顔があって、一瞬息が止まった。
「お前こんな所で何寝てんだよ!」
「叫ばないで……頭に響く……。」
:07/09/05 22:54 :SO903i :uTSNz6sY
#254 [向日葵]
頭を抑えながら起き上がると、綺麗な声が聞こえた。
「こんにちは。」
紛れもなく彼女さんだった。綺麗な声に綺麗な顔。
非の打ち所が無いとはこの人みたいな人の事なんだろうな。
「紅葉ちゃん熱引いたの?」
自分の手でおでこに手をやり調べてみるけど全然分からなかった。
「多分……まだ。」
短く返すと、彼女さんはにーっこり笑った。
どうやら私が返事をしてくれた事が嬉しかったらしい。
:07/09/05 22:58 :SO903i :uTSNz6sY
#255 [向日葵]
その笑顔と、夢の中のでの無表情な顔が重なる。
あれは夢……。
現実じゃない。
頭では分かっていても少し身震いした。
「なんか食べたい物ある?私用意するから!」
「いいって!双葉は何もしなくて。」
二人はキッチンへと行った。
仲良さそうに言い合いをしながらキッチンで何かを用意している。
「……。」
服の裾を掴む手に力が入った。
慣れろ。
:07/09/05 23:02 :SO903i :uTSNz6sY
#256 [向日葵]
これが、当たり前。
これが、普通。
私は二人に危害を与える事は出来ない。
……ううん。しない。
バレない様に立ち上がり、部屋へ向かった。
意外にも汗を沢山かいたせいか、少しだけ体が軽くなっていた。
布団に入って、ぐちゃぐちゃ考える前に寝る事に専念した。
でもすぐに寝つけるものでもなかった。
それでも目をギュッと瞑って、夢への扉を探した。
すると
カチャ……
:07/09/05 23:06 :SO903i :uTSNz6sY
#257 [向日葵]
部屋のドアが開いた。
静流?
それとも彼女さん?
「紅葉……?」
それは静流の声だった。
今私の格好は、静流に背を向ける形で寝ている。
ギシギシと私に近づく足音。
今は話す気分じゃなかったので私は寝たフリをした。
静流はそれに気づいてない。
小さく「よいしょ。」と聞こえたと思うと、静流が私の近くに座った。
:07/09/05 23:10 :SO903i :uTSNz6sY
#258 [向日葵]
何か用なのだろうか神経を研ぎ澄ませながら目を瞑り続けた。
次の瞬間、私は目を開きそうになった。
優しく、柔らかく、静流の手が私の頭を撫でている。
それだけで心臓が縮まる感じがしたし、キュウゥっと音が聞こえる気がした。
やめて……。そんな事、彼女がいる今、やらないで……。
手から逃れたくて、寝返りをうつフリをして静流から遠ざかっても、手はしばらくするとついて来てまた私の頭を撫でた。
:07/09/05 23:15 :SO903i :uTSNz6sY
#259 [向日葵]
静流……。
アンタは私をどう言う風に見てるの?
その問いに答えてくれる人なんていなかった。
コンコン
「静流?お粥作ったんだけど……寝ちゃってるみたいね。」
静かに話す彼女さん。
どうやら私に食事を作ってくれたらしい。
私は耳だけを二人に向ける。
「ありがとな。双葉も座りなよ。」
「うん。でも、良かった。大した事無さそうど。」
「ウン。」
:07/09/05 23:19 :SO903i :uTSNz6sY
#260 [向日葵]
少し床が軋み、服が擦れる音が聞こえる。
「……静流?どうかした?」
「ん?ちょっと抱きつきたくなって。」
「フフフ……変なの……。」
やめてよ。わざわざ私の寝てる近くでそんな事しないでよ……っ。
耳だけが、二人が何をしているか分かる手がかり。
その耳を塞ぎたくなった。
しばらく沈黙が続いていた。
何故だか分からなかったけど、次に聞こえてきたのは「チュッ」と言う何かを吸え様な音。
:07/09/05 23:24 :SO903i :uTSNz6sY
#261 [向日葵]
思わず目を開いた。
今後ろで、二人がキスをしている。
その真実が頭を鋭く突き抜けた。
熱のせいじゃないのになんだかクラクラした。
そして、涙が流れた。
知ってる。分かってる。
でも繰り返さないで。
――私が二人の仲を引き裂く権利なんてない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
長い地獄の時間が過ぎて、ようやく彼女さんが帰った。
静流が彼女さんを送り出すのに部屋を出たのを見計らって、私は一階に掛布団だけを持って降りた。
:07/09/05 23:28 :SO903i :uTSNz6sY
#262 [向日葵]
素直に静流の部屋で寝れる気がしなかった。
大体、この家は結構な広さがあるのに何故私は静流と一緒の部屋なのか不思議だった。
聞いてみたら源さんの研究した物でほとんどの部屋は埋め尽されているらしい。
私は見た事がなかったけど、いくつかのドアノブを捻ってみると鍵がかかっていた。
どうやら源さんが管理しているらしい。
仕方なく、何個かのドアノブを捻りまくった。
:07/09/05 23:32 :SO903i :uTSNz6sY
#263 [向日葵]
すると何個か目に……カチャっと開いた。
「……。」
そこは普通の部屋と最初は思った。
でも電気を点けると
「…えぇっ?!」
沢山のぬいぐるみ達が。
めちゃくちゃ大きいのから片手に乗るほどの小さいのまで。
唖然としていると、玄関のドアが開く音が聞こえたので中に入って思わず隠れてしまった。
見つかるのも時間の問題だけど、どうしても静流とは話す事が出来ない。
:07/09/05 23:37 :SO903i :uTSNz6sY
#264 [向日葵]
電気を消す前に、大きなクマのぬいぐるみに狙いを定めた。
出来るだけ陰に隠れてぬいぐるみに埋もれた。
布団をかぶって、クマに寄りかかる。
ってか何でこんなにぬいぐるみがあるんだろう。
「紅葉?!」
静流のパニクっている声が聞こえた。
もしかしたら外まで行っちゃうかな。
でもまぁいいや。
目を瞑ると、何故かすぐに眠れた。
:07/09/05 23:41 :SO903i :uTSNz6sY
#265 [向日葵]
―――
―――――……
「え?」
珍しい。
草原にいるよ私。
「こんにちは。」
後ろから声がしたので振り返ると、髪の長い大人の女性がいた。
とても綺麗。
「こ、こんにちは……。」
「貴方……紅葉ちゃん?」
え?
「何で知って……。」
:07/09/05 23:43 :SO903i :uTSNz6sY
#266 [向日葵]
女性は楽しそうにフフッと笑うと、私の前までスキップで来た。
「さぁて。何ででしょうね。」
まだにこにこ笑っていり女性に、私は不審の目を向けた。
女性は草原に座り、広がる青空に目を向けた。
「貴方は他人を思いやれる優しい子ね。」
まるで私の行動を今まで見ていた様な口ぶりに、私は更に疑った。
「そんな事無いと思いますけど。」
「アラッ。私ならさっきあの場面でじっと寝る事なんて出来ないわ。」
:07/09/05 23:47 :SO903i :uTSNz6sY
#267 [向日葵]
さっき?
静流と彼女さんのキスの事?
「まぁ……人それぞれだし…。別に、私は邪魔する気なんて無いから。……、側にいたいけどいたくないって思ってる事は事実だけど……。」
女性は自分の隣をポンポンと叩き、座れと指示した。素直に私は従う。
「若いのに大人ねぇ。」
「貴方も十分若いと思うけど……。」
「あらそう?!嬉しいー!」
本当に嬉しそうに女性は微笑む。
誰かに似てる気がした。
:07/09/05 23:55 :SO903i :uTSNz6sY
#268 [向日葵]
「貴方はどうして自分を邪魔だと思うの?」
どこまでも広がる草原を遠い目で見ながら、私は答える。
「そう言う扱いを受けて来たから。」
必要として欲しくて、でもそれは無理な願いで。
必要とされる事を願うのを止めた。
だから静流が自分を必要としてくれると言った時、嬉しかった。
でも……
「その人の邪魔をするのだけは……嫌……。」
:07/09/05 23:59 :SO903i :uTSNz6sY
#269 [向日葵]
頬にスルリと冷たい指が触れた。
びっくりして女性を見ると、悲しそうな目で私を見ていた。
「痛いわね……。心が、辛いわね……。」
胸が震えた。
痛くて仕方なかった。
それが自分の決めた道だったから、妥協を何度もして堪え続けた。
「い……痛い……。」
見ず知らずの人の前で涙を流してしまった。
でも分かってくれる人がいると思ったら、すごく安心した。
:07/09/06 00:03 :SO903i :jlgEr3Lg
#270 [向日葵]
女性はゆっくり私を抱き寄せた。
肌は冷たいのに、何故か温かく感じた。
思い出す。
母さんがまだ優しくしてくれた頃を。
「たまには……感情のまま、甘えてみるのもいいのよ。」
「そんなの……っ。出来ない……。」
「大丈夫。出来るわ。」
女性は頭と背中を優しく撫でてくれる。
まるで赤ちゃんをあやすみたいに。
:07/09/06 13:38 :SO903i :jlgEr3Lg
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