―温―
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#250 [向日葵]
「約束だからね……。」

――――――――……

「!」

眠りから覚めた私はあり得ない程の汗をかいていた。
気持ち悪いけど体がダルいから服を着替えたくても起きる元気が全くない。

『約束だからね……。』

まだ耳にこびりついている彼女さんの言葉……。
私は夢の中で約束を交した。

所詮夢の中だと、切り捨てる事が何故か出来なかった。

⏰:07/09/05 22:41 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#251 [向日葵]
部屋の時計を見ると、時計の針は十二時を差していた。
あれから結構な時間眠ったらしい。
家は相変わらずシーンとしている。

「ケホッ……。」

喉がイガイガして変な感じ。水でも飲みたい。

着替えもしたいし、気合いを入れて体を動かす事にした。
鉛みたいに思い上、体の節々がなんだか痛い。
多分熱のせいだ。

なんとか体を起こして、引きずる様に体を動かす。

キィ……。

⏰:07/09/05 22:46 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#252 [向日葵]
壁に体を預けてフワフワした足取りで進む。
キッチンまで来てコップを持つものの、どこかにつかまってないと平行感覚を見失いそうだった。

とりあえずなんとか水をくんでから一気に飲み干す。

少しだけ意識がはっきりした気がした。
でも体力を全部使ったせいで着替える元気がなかった。

……せめて涼しい場所…。

フラフラしながらベランダの戸を開ける。

涼しげな風が入って来たところで、世界が真っ暗になった……。

⏰:07/09/05 22:50 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#253 [向日葵]
―――――――
――――――――……

「――……。」

何?

「…………っ!」

誰か叫んでる。

「紅葉!」

静流?

うっすら目を開けると、文字通り目の前に静流の顔があって、一瞬息が止まった。

「お前こんな所で何寝てんだよ!」

「叫ばないで……頭に響く……。」

⏰:07/09/05 22:54 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#254 [向日葵]
頭を抑えながら起き上がると、綺麗な声が聞こえた。

「こんにちは。」

紛れもなく彼女さんだった。綺麗な声に綺麗な顔。
非の打ち所が無いとはこの人みたいな人の事なんだろうな。

「紅葉ちゃん熱引いたの?」

自分の手でおでこに手をやり調べてみるけど全然分からなかった。

「多分……まだ。」

短く返すと、彼女さんはにーっこり笑った。
どうやら私が返事をしてくれた事が嬉しかったらしい。

⏰:07/09/05 22:58 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#255 [向日葵]
その笑顔と、夢の中のでの無表情な顔が重なる。

あれは夢……。
現実じゃない。

頭では分かっていても少し身震いした。

「なんか食べたい物ある?私用意するから!」

「いいって!双葉は何もしなくて。」

二人はキッチンへと行った。
仲良さそうに言い合いをしながらキッチンで何かを用意している。

「……。」

服の裾を掴む手に力が入った。

慣れろ。

⏰:07/09/05 23:02 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#256 [向日葵]
これが、当たり前。

これが、普通。

私は二人に危害を与える事は出来ない。
……ううん。しない。

バレない様に立ち上がり、部屋へ向かった。
意外にも汗を沢山かいたせいか、少しだけ体が軽くなっていた。

布団に入って、ぐちゃぐちゃ考える前に寝る事に専念した。

でもすぐに寝つけるものでもなかった。
それでも目をギュッと瞑って、夢への扉を探した。

すると

カチャ……

⏰:07/09/05 23:06 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#257 [向日葵]
部屋のドアが開いた。

静流?
それとも彼女さん?

「紅葉……?」

それは静流の声だった。

今私の格好は、静流に背を向ける形で寝ている。

ギシギシと私に近づく足音。
今は話す気分じゃなかったので私は寝たフリをした。
静流はそれに気づいてない。

小さく「よいしょ。」と聞こえたと思うと、静流が私の近くに座った。

⏰:07/09/05 23:10 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#258 [向日葵]
何か用なのだろうか神経を研ぎ澄ませながら目を瞑り続けた。

次の瞬間、私は目を開きそうになった。

優しく、柔らかく、静流の手が私の頭を撫でている。
それだけで心臓が縮まる感じがしたし、キュウゥっと音が聞こえる気がした。

やめて……。そんな事、彼女がいる今、やらないで……。

手から逃れたくて、寝返りをうつフリをして静流から遠ざかっても、手はしばらくするとついて来てまた私の頭を撫でた。

⏰:07/09/05 23:15 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#259 [向日葵]
静流……。

アンタは私をどう言う風に見てるの?

その問いに答えてくれる人なんていなかった。

コンコン

「静流?お粥作ったんだけど……寝ちゃってるみたいね。」

静かに話す彼女さん。
どうやら私に食事を作ってくれたらしい。
私は耳だけを二人に向ける。

「ありがとな。双葉も座りなよ。」

「うん。でも、良かった。大した事無さそうど。」

「ウン。」

⏰:07/09/05 23:19 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#260 [向日葵]
少し床が軋み、服が擦れる音が聞こえる。

「……静流?どうかした?」

「ん?ちょっと抱きつきたくなって。」

「フフフ……変なの……。」

やめてよ。わざわざ私の寝てる近くでそんな事しないでよ……っ。

耳だけが、二人が何をしているか分かる手がかり。
その耳を塞ぎたくなった。
しばらく沈黙が続いていた。

何故だか分からなかったけど、次に聞こえてきたのは「チュッ」と言う何かを吸え様な音。

⏰:07/09/05 23:24 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#261 [向日葵]
思わず目を開いた。

今後ろで、二人がキスをしている。

その真実が頭を鋭く突き抜けた。

熱のせいじゃないのになんだかクラクラした。
そして、涙が流れた。

知ってる。分かってる。
でも繰り返さないで。

――私が二人の仲を引き裂く権利なんてない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

長い地獄の時間が過ぎて、ようやく彼女さんが帰った。

静流が彼女さんを送り出すのに部屋を出たのを見計らって、私は一階に掛布団だけを持って降りた。

⏰:07/09/05 23:28 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#262 [向日葵]
素直に静流の部屋で寝れる気がしなかった。

大体、この家は結構な広さがあるのに何故私は静流と一緒の部屋なのか不思議だった。

聞いてみたら源さんの研究した物でほとんどの部屋は埋め尽されているらしい。

私は見た事がなかったけど、いくつかのドアノブを捻ってみると鍵がかかっていた。

どうやら源さんが管理しているらしい。

仕方なく、何個かのドアノブを捻りまくった。

⏰:07/09/05 23:32 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#263 [向日葵]
すると何個か目に……カチャっと開いた。

「……。」

そこは普通の部屋と最初は思った。
でも電気を点けると

「…えぇっ?!」

沢山のぬいぐるみ達が。
めちゃくちゃ大きいのから片手に乗るほどの小さいのまで。

唖然としていると、玄関のドアが開く音が聞こえたので中に入って思わず隠れてしまった。

見つかるのも時間の問題だけど、どうしても静流とは話す事が出来ない。

⏰:07/09/05 23:37 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#264 [向日葵]
電気を消す前に、大きなクマのぬいぐるみに狙いを定めた。

出来るだけ陰に隠れてぬいぐるみに埋もれた。

布団をかぶって、クマに寄りかかる。

ってか何でこんなにぬいぐるみがあるんだろう。

「紅葉?!」

静流のパニクっている声が聞こえた。
もしかしたら外まで行っちゃうかな。

でもまぁいいや。

目を瞑ると、何故かすぐに眠れた。

⏰:07/09/05 23:41 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#265 [向日葵]
―――
―――――……

「え?」

珍しい。
草原にいるよ私。

「こんにちは。」

後ろから声がしたので振り返ると、髪の長い大人の女性がいた。
とても綺麗。

「こ、こんにちは……。」

「貴方……紅葉ちゃん?」

え?

「何で知って……。」

⏰:07/09/05 23:43 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#266 [向日葵]
女性は楽しそうにフフッと笑うと、私の前までスキップで来た。

「さぁて。何ででしょうね。」

まだにこにこ笑っていり女性に、私は不審の目を向けた。
女性は草原に座り、広がる青空に目を向けた。

「貴方は他人を思いやれる優しい子ね。」

まるで私の行動を今まで見ていた様な口ぶりに、私は更に疑った。

「そんな事無いと思いますけど。」

「アラッ。私ならさっきあの場面でじっと寝る事なんて出来ないわ。」

⏰:07/09/05 23:47 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#267 [向日葵]
さっき?
静流と彼女さんのキスの事?

「まぁ……人それぞれだし…。別に、私は邪魔する気なんて無いから。……、側にいたいけどいたくないって思ってる事は事実だけど……。」

女性は自分の隣をポンポンと叩き、座れと指示した。素直に私は従う。

「若いのに大人ねぇ。」

「貴方も十分若いと思うけど……。」

「あらそう?!嬉しいー!」

本当に嬉しそうに女性は微笑む。
誰かに似てる気がした。

⏰:07/09/05 23:55 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#268 [向日葵]
「貴方はどうして自分を邪魔だと思うの?」

どこまでも広がる草原を遠い目で見ながら、私は答える。

「そう言う扱いを受けて来たから。」

必要として欲しくて、でもそれは無理な願いで。
必要とされる事を願うのを止めた。

だから静流が自分を必要としてくれると言った時、嬉しかった。

でも……

「その人の邪魔をするのだけは……嫌……。」

⏰:07/09/05 23:59 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#269 [向日葵]
頬にスルリと冷たい指が触れた。
びっくりして女性を見ると、悲しそうな目で私を見ていた。

「痛いわね……。心が、辛いわね……。」

胸が震えた。

痛くて仕方なかった。
それが自分の決めた道だったから、妥協を何度もして堪え続けた。

「い……痛い……。」

見ず知らずの人の前で涙を流してしまった。

でも分かってくれる人がいると思ったら、すごく安心した。

⏰:07/09/06 00:03 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#270 [向日葵]
女性はゆっくり私を抱き寄せた。

肌は冷たいのに、何故か温かく感じた。

思い出す。
母さんがまだ優しくしてくれた頃を。

「たまには……感情のまま、甘えてみるのもいいのよ。」

「そんなの……っ。出来ない……。」

「大丈夫。出来るわ。」

女性は頭と背中を優しく撫でてくれる。
まるで赤ちゃんをあやすみたいに。

⏰:07/09/06 13:38 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#271 [向日葵]
「邪魔……なるっ……。」

「ならないわよ。だって静流がそれを望んでいるもの。」

私は囁くくらいの声で「えっ。」と言った。

どうして静流の事まで知って?
私が不思議そうに顔を上げても、女性はただ優しく笑うだけだった。

すると

ピカァッ!!

いきなり空が目を開けられないくらい眩しく光り出した。

⏰:07/09/06 13:43 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#272 [向日葵]
「あら、呼んでるみたいよ紅葉ちゃん。」

「……?」

目をうっすら開けると、光のせいで女性はあまり見えなかったけどにこやかな口元だけが見えた。

「また悩んだら、ここにおいで。」

そして私自身もスゥッと光に包まれて消えていった。

――――
―――――……

眩しい…。目開けれない。

「おい紅葉!」

⏰:07/09/06 13:46 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#273 [向日葵]
眩しさに堪えながら目を開けると、静流がいた。

「何?」

「何じゃねぇよ!お前……っ。」

そこから静流はうつ向いて頭をガシガシかいた。

あ、私発見されちゃったんだ。
よく寝たからか体が軽い。頭ももうしゃっきりしてる。

「心配しただろっ!」

ようやく言葉が浮かんだのか静流は怒鳴りだした。
布団ごと私をぬいぐるみの山から抱き上げる。

⏰:07/09/06 13:50 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#274 [向日葵]
静流はお姫様抱っこをしながら私を抱き締める。

胸が高鳴る。
何故なら静流の顔が近くて、喋れば吐息がかかってしまう。

そんな間近くで見つめられてしまったら、視線を反らしたいのに逆に私も見つめてしまう。

「……っな、何…っ。」

無言で見つめられてから、更に抱き締められる。

私の耳元に、静流の口が近づく。
鼓動が静流にまで聞こえてしまいそう。

「ちょ、静流……っ。」

⏰:07/09/06 13:57 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#275 [向日葵]
「頼むから……。」

搾り出す様な声に体が固まった。

「勝手にいなくならないで……。」

……そうか。
静流は母親が亡くなってるから、急な別れを怖がってるのかもしれない。

だから、私も心配してくれてるのね。

「……はい。」

思わず敬語で返事をしてしまった。

それで終わりかと思った。そろそろ降ろしてくれるもんだと体を立て直す準備をしていた。

⏰:07/09/06 14:07 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#276 [向日葵]
でも、静流はいっこうに降ろしてくれない。

「し、しず……る……?」

******************

自分でもおかしかった。

何でこんなに心臓がバクバクするほど紅葉を心配してるのかとか。
何かを振りきる為に双葉を抱き締めたとか。

紅葉をこのままずって抱き締めていたいだとか。

そんな感情おかしい筈なのに。
俺には双葉がいるのに。

⏰:07/09/06 14:12 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#277 [向日葵]
俺は紅葉に気づかれないように頬のガーゼの上から唇を触れた。

この行動もおかしい事ぐらい気づいてる。

それでも紅葉に触れたくて、どこか心の端で紅葉が大切だと叫んでる。

*****************

「静流……。ねぇ……?」

静流は抱き締めたまま固まってる。
肩にある静流の指先に力が入っていくのが分かった。

どうしちゃったんだろ……。

⏰:07/09/06 14:19 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#278 [向日葵]
顔があんまり見えないけど、なんだか静流が傷ついてる気がした。

片手が上手く動かないけど、伸ばして静流の頭を撫でた。

気づけば初めてだった。
私から静流に触れるのは。
髪の毛が凄くサラサラだ。

「大丈夫……?」

静流はされるがままに私をまだ抱き締めたままでいる。うんともすんとも言わない。

ようやく離れたと思い、手を頭から離した。
また目が合う。

⏰:07/09/06 14:24 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#279 [向日葵]
私は自意識過剰かもしれない。

その目は何かを考えてて、だけど熱くて私を心から大切に思ってる感じがした。

きっとそれは私が静流を好きだから、良いように捕えてるんだ。
本当は「早く降りろ」って思ってるかもしれない。

必死に熱い視線と称するものから逃れて、私は体を動かした。

「降ろしてくれて構わないから。」

そう言って降りようとした。

⏰:07/09/06 14:32 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#280 [向日葵]
でも静流の腕は力を入れたままだった。

「いいから。じっとしてろ。」

そう言うと、やっとこの部屋から出てくれた。

「お、重いでしょっ?!だから、歩くわよ……。」

「病人は病人らしくされるがままになってろ。」

少し怒ってるような口調の静流に私は黙った。
リビングに行って、ソファーへ座らせてくれた。

静流はキッチンへ行って何かゴソゴソやっていた。
何分かしてから手に何かを持ってやって来た。

⏰:07/09/06 14:42 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


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