―温―
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#600 [向日葵]
「お前は、よく紅葉を見てんのな……。」

いかに、今まで自分は自分の事しか考えていないかよく分かった。

香月に妬いて出ていけといったり、変な態度をとってケンカしたり、勝手に殴ったり……。
自分はどれだけ紅葉を傷つけたんだろう。

あの痛々しい笑顔以来、紅葉の心から笑った顔は…………見てない……。

ゴンッ!!

頭に激痛。
急な事に目の前にはチカチカ星が飛んでる気がした。

⏰:07/10/05 15:31 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#601 [向日葵]
「ぃいっってぇぇ……。」

「だって殴ったもん。当たり前だろ。」

平然と言ってのける香月を頭を抑えながらキッと睨む。
その視線を涼しい顔でサラリと流されてしまった。

「落ち込んでる場合か。俺なんか何を言っても紅葉の心はお前ほど動かせないんだぞ。」

改めて思った。

「お前ってカッコイイよな。」

「だって人気あるもん。」

よく分からん答えだ。

⏰:07/10/05 15:36 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#602 [向日葵]
**********************

プシュー……

「着いた……。」

新幹線で3時間。バスで2時間。計5時間の道のりに私はぐったりしていた。

目の前にはドでかい旅館。まるで千と千尋の●隠し……。
ついでに頭がデカイおばあさんとか出てくるのかしら……。

旅館のすぐ近くには海があった。
防波堤を越えれば砂浜があるだろう。
風が穏やかなので波は高くなさそうだ。

⏰:07/10/05 15:40 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#603 [向日葵]
荷物置いたら後で出てみようかしら。

そう思いながら足を進め、旅館へ入って行った。

「……こんにちわ……。」

受付の人におずおず挨拶をした。

「あ、いらっしゃいませ。ご予約してますか?」

着物を来た四十歳くらいの女の人に、私はコクコク頷いた。

「えっと……源さんって、ご存知でしょうか?」

「あぁ!貴方ね!ようこそ、おいでくださいました。お部屋に案内しますね。」

⏰:07/10/05 15:45 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#604 [向日葵]
部屋に案内される間、従業員の後ろを歩きながら私は館内を見渡した。

オレンジ色をした証明は家なんかにある蛍光灯よりホッと落ち着く気がした。

下の赤いフワフワした床は硬い石のような物よりも好きだなぁと思った。

やがてついた部屋は、一人じゃ勿体無いほどの広い部屋で、畳の匂いがすごくした。
目の前にはさっき見た海が見えた。

「何かありましたらお呼び下さいね。」

「あ……どうも……。」

⏰:07/10/07 19:43 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#605 [向日葵]
スタンと戸が閉められて、部屋が静かになった。
窓を開けてみると、潮風が入ってきて、波の音が聞こえた。

「のどか……。」

「失礼しまーす!」

いきなり誰か入ってきて、私はバッと振り向いた。

そこには私服の背の高い女の子がいた。

「貴方が紅葉?」

「はぁ……。」

女の子はニコッと笑って私の元へやって来ると握手を求めているのか手を出した。

「私は渚!18!ここの旅館の娘で、貴方のお世話をすることになってるの!」

⏰:07/10/07 19:48 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#606 [向日葵]
私は急な展開についていけず、渚と名のる女の子を凝視した。
女の子は変わらずににこにこしていて、握手を無理矢理してきた。
そして私の隣について海を眺める。

「綺麗でしょ?私もこの街が大好きなの。」


18の彼女は、18と思えない様な無邪気な表情でそう言った。
そんな彼女をうらやましくも思った。

私の中の無邪気な心は、どこかへ置いてきてしまったから……。

「貴方は、紅葉は、どうしてここへ来たの?」

⏰:07/10/07 19:53 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#607 [向日葵]
彼女の方を見ると、私の方は見ずに海を見ながら私に問いていた。

私はまた海に目を移して、青い海に映った静流の面影を見ながらぼそりと言った。

「何も考えたくなくなったから……。」

そう答えてからは、また黙った。
渚さんもそれ以上は何も聞いてはこなかった。

そこで思った。

ここに来るお客は、私の様なのが多いんではないかと。

源さんもそれを分かっていたからここに私を預けたのかもしれない。

⏰:07/10/07 19:58 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#608 [向日葵]
私にとって、有難いことだ。でなければきっと浮いて、注目を浴びていたことになるだろうから。

*********************

「父さん!」

父さんの部屋のドアをノックもせずに開けた。
しかし父さんの姿はなかった。
どうやら仕事に行ってるみたいだ。

頭をガシガシかいて、自分の部屋へと向かった。

携帯を見ても、センターに問い合わせても、電話もメールも何も無かった。
きっと気づかないてない上に電源も切ったままなんだろう。

⏰:07/10/07 20:02 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#609 [向日葵]
「はぁ……なんだよ……。」

こんなに想ってんの俺だけかよ……。

……いや、違うか。
紅葉も俺を想ってくれてたんだろう。
だからあんなに気をつかって、そして静かに身を消した……。

思い出さなければ紅葉が今までいたかどうかも忘れてしまいそうだ。

いなくなったのは今日の筈なのにもう一ヶ月ほど会ってない気分だ。

試しに電話をもう一度かけてみた。
でもやっぱり出るのはガイダンスの無機質な声だった。

⏰:07/10/07 20:07 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#610 [向日葵]
またため息を深々とついて携帯をパキンとたたんでベッドに身を沈める。

頼むから……

声を聞かせてくれ。
姿を見せてくれ。

もう一度、好きだと言わせてくれ。

胸の中がむしゃくしゃして、それから逃れたくなって目を瞑った。

いつの間に、紅葉が側にいることが当たり前になってたんだろう。

だから香月の彼女になってしまった時に、事の、気持ちの重大さに気付いたんだろうと思う。

⏰:07/10/07 20:18 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#611 [向日葵]
「情けな……。」

自分はどうして、いつも気づくのがこうも遅いんだろうか。

*******************

夕方になり、海に太陽が沈んで行くのを砂浜で見ていた。

砂浜はゴミが全然なく、とても綺麗だった為普通に座った。

あぁ……やっと一日が終わった。
なんだか長く感じた。
きっと朝早くから動いてるせいだろう。

意味もなく、砂を掴んでサラサラと落とすのを何回も繰り返した。

⏰:07/10/07 20:23 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#612 [向日葵]
こんな風にサラサラになって、どこかへ飛んでいけたなら、私は何に気負う事もなく生きていけただろうに……。

どこで歯車がズレてしまったのだろう。

「く―――れは―――!」

どこからか私を呼ぶ声が聞こえた。
すると私の部屋の窓から渚さんが身を乗り出して手を振っていた。

「ご飯だよ―――!」

私はそこまで叫ぶ元気などなかったから、立ち上がり、旅館の方へ行く事で肯定の意味を示した。

⏰:07/10/07 20:29 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#613 [向日葵]
ご飯って言っても私の食べる物は限られていた。
いくら前に静流宛てのケーキを食べてのけたと言ってもまだ体調事態は完璧ではない。
寧ろあのあと2、3日胸やけと吐気に襲われたぐらいだ。

渚さんは私と一緒に食事をとった。
お世話と言うより友達の様な感じで。
「血液型は?」とか「好きな漫画は?」とか他愛のないことを話してきた。

私は短文でしか返せなかったけど、渚さんは満足してくれたのか話ははずんでいった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

布団を敷いて、寝る準備が出来た。

⏰:07/10/08 01:17 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#614 [向日葵]
これからこんな生活が続くのかと思うと、あまり悪くないと思った。

ベランダがわりとなる海があるのが救いなのかもしれない。

電気を消そうとしたら、また最初みたいに渚さんが布団を抱えてやって来た。

「え……。まさか……一緒に?」

「そうよっ!悪い?」

悪いって言うか……。私は出来れば一人でいたい。

「だってアンタ一人にしとくとなんだか危ないんだもん。」

まるで私の心を読んだみたいに渚さんはそう言った。

⏰:07/10/08 01:21 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#615 [向日葵]
電気を消して、私は布団へ潜りこんだ。

「アンタさ、悩みでもあるわけ?」

「なんで?」

「んー。暗いからっ。」

「ふーん。」

暗いっ……かぁ。

「若いくせに何うだうだ悩んでんだか!」

「……うるさい。黙って。」

これにはカチンと来てしまった。
何も知らないくせに、軽い事なんて言ってほしくない。

⏰:07/10/08 01:24 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#616 [向日葵]
黙ってと言ったのに、渚さんは黙ってはくれなかった。

「不幸面してても幸せなんかやって来ないんだよ。それとも不幸を同情して欲しい?」

「黙ってって言ってるの!日本語通じないのっっ?!」

シーンと部屋が静まりかえる。
部屋は月明かりで少し明るく、耳をすませば波の音がザザーって聞こえた。

「じゃあ最後にひとつ。」
そう言って渚さんは私に背を向けて寝る体勢にはいった。

⏰:07/10/08 01:28 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#617 [向日葵]
「私、ここんちの本当の娘じゃないから。」

……っ!

「え?!」

「おやすみー。」

驚く私をそのままにして、渚さんは一人で先に寝てしまった。

**********************

父さんが帰ってきたのは次の日の夕方だった。

ヘロヘロになってる父さんを早く休ませてあげたいけど、その前にどうしても聞きたい事があった。

「紅葉ちゃんの事かな?」

⏰:07/10/08 01:32 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#618 [向日葵]
しばらく間を開けて俺は頷いた。

父さんはにこぉっと笑って俺の頭を撫でた。

「ゴメンネ。それは教えてあげられないんだ。」

「――っ!!どうして……っ!!」

「紅葉ちゃん。しばらく一人になりたいから旅に出たんだ。なのに静流君が早々と連れ戻しちゃったら、旅に出た意味がないでしょ?」

それは……そうだけど、と言葉を失う。

父さんはそんな俺の頭をポンポンと叩いてから部屋に入った。

⏰:07/10/08 01:35 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#619 [向日葵]
しばらく父さんの部屋前へ立たずんでいた。

やっぱり待つしかないのか?
俺には……何も出来ないんだな……。

フラリと歩きながら、俺は部屋へ戻って行った。

********************

渚さんの衝撃発言を聞いてから四日が経ったのだけれど、あれ以降、渚さんが姿を現さなくなった。

何故か自分のせいかと責任を感じていた私は、外に出ることもなく、ただ部屋をそわそわと動き回っていた。

「……って何で私が責任感じなきゃならないのよっ!」

⏰:07/10/08 01:41 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#620 [向日葵]
イライラしつつい独り言を言ってしまった。
もちろんこれに答えてくれる人などいなかった。

……そういえば。

机の上に置いてある携帯を見た。
新幹線に乗った時のまま。なので電源を入れておくのを忘れていた。

とりあえず何かあってはと思い、電源スイッチを長押しする。

画面が出て数秒後、メール受信のマークが入り、メール受信が行われた。

そしてメールの数に驚く。なんと15件。

何この数字……と思わずツッコミを入れる。

⏰:07/10/08 01:49 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#621 [向日葵]
開いていくと……

「……っ。なんで……。」

全て、静流からのものだった。

<紅葉!どこにいるんだ!>
<居場所教えてくれ。>
<どうして勝手に出て行った。>

<怒らないから連絡しろ。>

そんな内容のメールがいくつもいくつもあった。

そして最後のメールを開く。

<……会いたい。>

⏰:07/10/10 00:33 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#622 [向日葵]
「紅葉ー。久しぶ……っどうしたの?!」

いつの間にか流れていた涙を見て、渚さんはとても驚いていた。

離れて薄れさせようとした静流の想い。
しかしそれは薄れるばかりか強まっている事が、この短文なメールいくつかで分かってしまった。

それが嬉しくて、でも歯がゆかった。

―――――……

久しぶりに一緒に寝に来た渚さんが、こんな事を話してくれた。

「私捨て子なのよ。10の頃くらいまで弧児院にいてね。」

⏰:07/10/10 00:38 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#623 [向日葵]
私は渚さんの方を首だけ向いて話を聞いていた。
渚さんは天井を向いて話している。

「それで、私、親の顔知らないの。」

「え……っ。」

「赤ん坊の頃から捨てられてたみたい。気がついたらずっとあそこだったから。」

渚さんは笑いながら喋っているけど、同じ様な仕打にあった私としては無理をしてるんじゃないかと気を遣った。

「あの頃はそれは自分が嫌だったわよ。丁度、今のアンタみたいな状態。誰も寄せ付けたくない。自分には幸せなんてないんだーみたいな感じ。」

⏰:07/10/10 00:43 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#624 [向日葵]
「……。」

「でもね……。ここで過ごしていくうちに、思ったの。絶対、自分に求める幸せの温かさは手に入るんだ。って。それは、何かを犠牲にするんじゃなくって、自然とそう仕向けられるのよ。よく言うでしょ?この世に偶然は無くって全てが必然で成り立ってるって。」

私は渚さんの話にただ耳を傾けていた。
時々入る波の音が、頭の中のごちゃごちゃした感情を一掃してくれる気がした。
「紅葉が、何に悩んでるかは聞かないけど、自分の幸せと、その周りの幸せを大切にしていけばいいのよ。」

⏰:07/10/10 00:48 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#625 [向日葵]
「周りの……幸せ……。」

ボツリと呟いた。

源さんは私がいて幸せだったのかな。

静流は……私といて幸せだったのかな。

********************

紅葉がいなくなって2週間が経とうとしていた。

そんなある水曜日の事。

痺を切らした俺は父さんに詰め寄った。

「いい加減にしてくれっ!場所くらい教えてくれてもいいじゃないかっ!!」

⏰:07/10/10 00:52 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#626 [向日葵]
父さんはリビングにある机で新聞を見ていた。

「場所を教えたら君は行ってしまうでしょう?」

「当たり前じゃないかっ!」

「それじゃ紅葉ちゃんの希望に沿わない。だから却下。」

色んな感情が渦巻いて、俺はダンッ!!と足を鳴らしてから自室へ向かった。

居場所は分からない。
連絡もつかない。

いらだちで頭が狂いそうになっていた。

どうして紅葉の態度に気づいてやれなかったのかと今更後悔する。

⏰:07/10/10 00:57 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#627 [向日葵]
「ハァ……。……。――あっ!!」

俺は急いで携帯を手に取った。

********************

ブー ブー

携帯のバイブが鳴ったのに気づいた私は外を眺めるのを止めて携帯を手に取った。

「もしもし。」

{久しぶり。やっと繋がったよ。……元気?}

「!!香月さん……っ。」

あの日以来、私は香月さんと連絡は取らずにいた。
彼女と言う立場でありながら自分でもいけないと思った。

⏰:07/10/10 01:01 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#628 [向日葵]
{今何処にいるの?}

「……。」

{クスクス。心配しなくても連れ戻したりなんかしないから。}

先に気持ちを読み取った香月さんはそう言った。
前と変わらない穏やかな声で。

「明星岬ってとこの旅館にいる。」

{あぁ。あそこね。随分遠くまで行ったんだね。}

なんだか、会話が続かなかった。
何を言えばいいか。
ううん。言う事なんか決まってた。
でも、言い出せなかった。

⏰:07/10/10 01:05 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#629 [向日葵]
{ゴメンネ。}

!!

「ど…して、謝るの?」

{紅葉を困らせた。分かってるよ。もう、決心してんだろ?}

ここで泣いたら卑怯な気がして、私は携帯を持ってない手をギュッと握りしめて涙を強制的に出ない様にした。

「ごめんなさい……っ。やっぱり……静流を諦めれなかったっ……。ダメって、分かってても、苦しんでも……。」

心は一つ。ただ真っ直ぐに静流のもとへ。

⏰:07/10/10 01:09 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#630 [向日葵]
こんな優しい人の気持ちを踏みにじって、私は苦しい道を選んでる。

{アホ!誰が諦めるっつったよ。言っておくけど、まだ挽回のチャンスなんていくらでもあるんだからな!}

いつもと変わらない香月さんの口調。
でも知ってる。
私に気を遣ってくれてるんだね……。
そんな香月さんに惹かれていた事は事実だった。

「……ありがとう。」

いつも背中を押してくれて……大事にしてくれて……。

⏰:07/10/10 01:13 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


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