―温―
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#101 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/25 02:25 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#102 [向日葵]
静流「紅葉!」

ビクッとしてリビングの入口を見ると、頭にタオルをかけて湯上がりの静流がいた。

半袖から除いてる少し筋肉がついた腕が、なんだか赤い気がするのは気のせいだろうか。

静流「もう部屋で紅葉が嫌がることはしない。家に帰ってきたらすぐに風呂にだって入る!」

そう言って源さんな隣までくると、ストンと座った。

そして私をじっと見つめる。

静流「だから汚いとか思うなよ?」

⏰:07/08/25 10:59 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#103 [向日葵]
私は息を飲んだ。

静流は痛いほど優しくて真っ直ぐ……

私は反応に困ってしまうけど

唯一、今、私が出来る事。

私は赤く熟れた林檎を一個持って、静流にズイッと渡した。

紅葉「……これ、食べて……みる。」

二人はそれは嬉しそうに笑った。

私が今出来る事。
それは二人がこうして笑ってくれる様に努力すること……。

⏰:07/08/25 11:04 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#104 [向日葵]
源さんはスーパーの袋にまた入ってた物を戻してキッチンへ向かう。

静流「じゃあ……おいで。」

手をさりげなく出す静流。私が拒否するのを怖がってるらしい。

私はその掌を無視して、赤くなってる気がする腕に指先を触れてみた。

すると静流がビクッと体を震わす。

どうかしたのかと静流を見ると、静流は苦笑を浮かべていた。

静流「紅葉が汚いと思わない様に気合い入れて洗い過ぎた。」

⏰:07/08/25 11:08 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#105 [向日葵]
あ……だからか……。

また心臓が痛くなる。

でも辛い痛みじゃない。

なんだか顔の筋肉が緩みきってしまいそうな、そんな痛み……。

私は静流の指先を少し握ってその赤くなってしまった腕を見つめた。

紅葉「……ごめん、なさい。」

静流はため息混じりに微笑む。

静流「触っても平気?」

私が握っていない方の手をちょっと出して、念のために聞いてくる。

⏰:07/08/25 11:12 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#106 [向日葵]
私は腕を見つめたまま小さく頷いた。
すると静流は私をゆっくり抱き上げた。
そしていつもみたいに膝に乗せてくれる。

男は不思議。
私にとって未知の生物。

獣みたいだとか、気持ち悪いと思ったりするけど、実はとっても優しかったり、そして純粋だったり……。

でももっと未知なのは私だ。

今こうして膝に乗れる事が嬉しいのに……。
頭をよぎるあの女の子に同じ事をしてると思ったら

なんだか胸が苦しくなった……。

⏰:07/08/25 11:18 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#107 [向日葵]
―妬―





紅葉「ゲホッ!」

いつも通り、今日も食べる練習。

この前静流が買ってきてくれたヨーグルトに挑戦中。

……が。

紅葉「何このネトネト……。最近なヨーグルトって皆こんなの……?」

昔食べた時はもっと美味しかった記憶があるんだけど……。

⏰:07/08/25 11:21 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#108 [向日葵]
静流は私の口の端についたヨーグルトを布巾で拭いてくれる。

これじゃ完璧幼児扱いだ……。

静流「ヨーグルトは駄目かぁ……。果物系はなんとかギリギリいけたんだけどなぁ。」

林檎とイチゴはなんとか吐くのを堪えながらいけた。
流石にバナナはきつかったけど……。
だってあのニチョニチョした歯ごたえが思い出しただけでも嫌気がさす。

源「そういえば、服はどう?見た所サイズはピッタリだね。」

⏰:07/08/25 11:27 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#109 [向日葵]
サイズはピッタリ……。
だけどデザインは如何な物だろうか……。

源さんはこの間服が無くては不便だろうと言って何十着も買ってきてくれた。

しかし……

まるでどこかの古いお嬢様みたいなフリルが着いたワンピース……ってかもうドレスに近い……。

でもなんだか文句を言えなくてついつい

紅葉「大丈夫。」

と答えてしまった。

紅葉「今日はもうご馳走様…。なんか疲れた。」

⏰:07/08/25 11:31 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#110 [向日葵]
静流「俺も学校行かなきゃな。っとその前に、紅葉。包帯代えよっか。」

静流は私を膝から下ろして、救急箱を持ち出して来た。

私の傷は、食事を余り取らないせいで栄養不足のせいか、傷の治りが遅い。

静流は無い時間を使って、朝早く起きては私の食事のお守りをし、今の様に傷の手当てをしてくれる。

私は申し訳なくて、少し辛い。

私が落ち込んでいるのを察知した静流は、頭を一撫でしてくる。

⏰:07/08/25 11:36 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#111 [向日葵]
静流「焦る事なんて無いだろ?お前はこの家の一員なんだから。」

微笑む静流に困る私。

私はこのままここにいて良いんだろうか……。

今は静流の説得があってか、死のうとは思わない。

でも、ここに居続けてはいけない気が何故かしてる。
傷が治っても、静流は優しいままだろうか……。

静流「じゃ!学校行ってくるわ!父さん、紅葉お願いね。」

源「静流君も気を付けて。」

⏰:07/08/25 11:40 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#112 [向日葵]
私は無言で静流を送る。
じっと見つめていると、静流が少し屈んで私の目の前まで顔を近付けた。

私は思わず少し顔を引く。

静流「紅葉は言ってくれないの?行ってらっしゃい。」

そんなの今まで一度も言った事ないし。
なんで今日に限って?

紅葉「行って来い。」

静流「え?!命令系?!ひっでー。じゃあいい子に待ってろよ?」

バタン

⏰:07/08/27 01:55 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#113 [向日葵]
いい子って……。
完璧な幼児扱いじゃないか……。

別に悪さした覚えもないし……。

不満な顔で源さんを見つめると、源さんはニッコリ笑って私の頭を撫でるだけだった。

頭を撫でられながら、私はどうやら二人にとって幼児なのだなと諦めて納得した。

*****************

「静流おはよー。」

静流「おう!うっす。」
あちらこちらからの朝の挨拶をされた静流は、適当に返して教室に入っていった。

⏰:07/08/27 02:00 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#114 [向日葵]
香月「うっす静流。」

席に着くと、直ぐに友達の香月が静流に寄って来て話かける。

静流「うす。」

香月「前に貸した漫画、持ってきたか?」

…………。

静流は「うす。」と挨拶した時に手をあげたまま固まってしまった。

つまりすっかり忘れていたらしい。

香月の漫画を最後に見たのは自分の机の上だと固まりながら思い出す静流。

⏰:07/08/27 02:05 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#115 [向日葵]
そんな静流に呆れた香月はハァ…とため息をつく。

香月「忘れたんだな。」

静流「すいません。」

謝る静流を横目で見て、香月は「んー。」と何かを考える。

香月「今日、珍しく暇だし。お前んち、寄っていい?」

静流「あー…。どーしようか…。」

前のあの事件があったから静流は思わず考えるが、相手は双葉では無く香月なので大丈夫だと判断した。

いや……逆に男だから駄目なのか?!

⏰:07/08/27 02:09 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#116 [向日葵]
香月「そういえばさ、最近ヤケに早く帰るけど何かあんの?」

静流「まぁーちょっと……。」

歯切れの悪い返事に香月は納得しない様子。
更に詰め寄る。

香月「何だよ幼なじみだろー?!水臭ぇなー!」

静流「俺はデリートなんだから仕方ないだろー!」

香月「まさかお前……新しく好きな人出来たとかか?!」

静流「は…はあっ?!」

思わぬ答えにすっとんきょんな声を出してしまう静流。

⏰:07/08/27 02:15 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#117 [向日葵]
それ以前に彼女いるし!

大体、紅葉は妹って言うか子供って言うか、何かそんな感じであって……って何で俺こんな代弁してるみたいになってんだよ!

香月が更に何かを言う前に、ストップを言う様に静流呼ばれた。

双葉「静流。」

ドアの所には双葉がいた。

内心香月からの尋問から解放されて嬉しい静流は、双葉の所まで一目散に行った。

静流「ん?どした?」

双葉「あのね、今日静流んち寄っていいかな?」

⏰:07/08/27 02:20 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#118 [向日葵]
予想外な展開に目が点になる静流。

香月はともかく双葉はどうだろうか……。
相変わらず紅葉は風呂に入らない限り自分に寄ってこないし。

でも逆に今度は香月が一緒だからいいかもしれない。
よし……。

静流「いいけど今日香月が一緒なんだ。それでもいい?」

双葉「いいよ。じゃあまた帰りにね。授業中こっそりメールするかも。」

へへっと笑う双葉を思わず抱き締めてしまいそうになる静流は必死に堪えた。

⏰:07/08/27 02:24 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#119 [向日葵]
双葉と別れて再び香月の元へ。
また尋問されるかと思ったら、今度は違うかった。
何故か視線は肩くらいにある。

静流「香月?」

香月「なぁ。お前やっぱり浮気?」

静流「はあ?」

何を根拠に言われてるか分からない静流は少し言葉に怒りを込めてしまった。

するとスッと出された香月の指先に、肩にある何かを取られた。

そして静流の目の高さまで上げて、それを見せる。

⏰:07/08/27 02:29 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#120 [向日葵]
香月「これ何?」

見せられたのは一筋の長い髪の毛。
おそらく紅葉の物。
双葉は紅葉程髪の毛が長く無いからだ。

どうやら事情を説明しなくてはならないらしい。

静流はいらない事まで喋らない様に言葉を選んで話した。

香月の顔は話す度にコロコロ変わり、最後には口が半開きになっていた。

香月「はぁー…。なるほどな。」

静流「だから、紅葉の前では、今話した事を気にせず接してくれよな。じゃないとまた俺が困る。」

⏰:07/08/27 02:33 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#121 [向日葵]
香月「何で困る?」

静流「何でって。機嫌そこねたらややこしいから。」

香月「お前にとって妹みたいなもんなんだろ?なら放っておけばいいじゃん。なんでそこまで構う?」

構うと言うよりも俺のは何て言うか子供を育てる親みたいな物であって、簡単に放っておくことが出来ないんだよ……。

静流「保護者だから頑張らないといけないんだよ!」

香月「ふぅーん…。」

意味有り気に頷く香月に首を傾げながらも、先生が来たのでホームルームが始まった。

⏰:07/08/27 02:38 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#122 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/27 02:38 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#123 [向日葵]
*****************

源「じゃあ、紅葉ちゃん。お留守番お願いしますね。」

紅葉「うん。いってらっしゃい。」

源さんは今からどこかへ出かけるらしい。
私はリビングに戻るとテレビをつけた。

何を見るかって?別にそういう訳じゃない。
ただつけただけ。

つまらないニュース。
ドロドロしたドラマ。
見飽きた再放送番組。

何度かチャンネルを流してたら、一つの事にリモコンを持ってる手が止まった。

⏰:07/08/29 01:12 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#124 [向日葵]
それは……幼児虐待のニュースだった。

母親が、3歳の男の子を殴っている事により、男の子は重体。

母親の供述はいつも同じだった。

“泣きやまなくて”
“育児に疲れた”

只のそれだけで、罪も無く、痛めつけられる子供達。泣いてるのは、大人からの愛が欲しかっただけなのに……。

私達が何故犠牲に?

私達は、求められて生まれたんじゃないの?

⏰:07/08/29 01:17 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#125 [向日葵]
生まれた意味なんて全然分からないのに何故

“生まれてきたの?”

そんな事、聞かれなきゃいけないの?

テレビは、アナウンサーの適当なコメントをしてから次のニュースに入った。

私はそれを耳で聞きながらベランダへ出た。

出ないようにしててもここが落ち着くからどうしても来てしまう。

開けたと共に、ふわりと風が入ってきた。
今日も文句無しの快晴。

⏰:07/08/29 01:21 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#126 [向日葵]
私はたまたま偶然運良く源さんに拾ってもらって、静流に優しくしてもらってる。

でも、世の中はそんな幸運には恵まれてない。

今もきっと、助けを求めてる人達が大勢いる。

――私は、いいのかな……。

こんなに幸せで、いいのかな……。
もっと苦しむべきなんじゃないのかな……。

もっと幸せにならなきゃいけない人が、世の中には溢れてるんじゃ…ないのかな……。

神様がもしいるのなら、今苦しんでる人を私の様に幸せにして欲しい……。

⏰:07/08/29 01:26 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#127 [向日葵]
私は入口に座りこんで、戸のヘリにもたれながら空を見上げた。

神様、私は、許されるんでしょうか……。

―――――――……

******************

静流「ただいまー。父さん?紅葉ー?」

静流が香月、双葉と共に帰って来ると家はシーンとしていた。
二人にとりあえず入れと言って、いつも通り二階へ行った。

すると風が爽やかに家を抜けていた。

⏰:07/08/29 01:30 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#128 [向日葵]
静流「紅葉ー。」

リビングに来ると、ベランダ近くに紅葉がいた。
どうやら寝てしまってるらしい。

香月「へー。あの子が言ってた子?」

静流の後ろからヒョコッと顔を出した香月は興味津々に紅葉を見る。

双葉は前の事があってかこっそりと見る程度だ。

静流は「全く」っと言った風にため息をつくと紅葉の近くまで行った。

案の定紅葉は静かな寝息をたてて寝ている。

⏰:07/08/29 01:34 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#129 [向日葵]
フワリとまた風が吹いた。

その時、紅葉の前髪が少しあがる。
静流は驚いた。
整った顔に似合わない、紅葉の額と髪の毛の境目にある、大きな傷。

思わずそれを凝視してしまう。
そんな様子に、後ろの二人がどうしたものかと静流に尋ねる。

香月「静流?」

香月の近づく気配に、静流はつい紅葉が寝ているのを無視して声を張り上げてしまった。

静流「来るな!」

⏰:07/08/29 01:40 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#130 [向日葵]
*******************

…………静流の声?

夢うつつの世界から私は抜け出して現実に意識を戻してきた。

うっすら目を開けると、そこには学校に行ってる筈の静流がいた。

紅葉「静流……?」

声をかけると、静流はハッとして私を見た。
いや、見ていたけど静流の意識もどこかへ飛んでいたみたいだった。

静流「あ、あぁ……ゴメン。起こした?」

私は首を横に振りながら背伸びする。
どうやら寝ていたらしい。

⏰:07/08/29 01:43 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#131 [向日葵]
ふと後ろに目を向けると、見慣れない姿が一つ、一度見たことがある姿が一つあった。

私はとっさに静流の後ろに隠れる。

香月「あーゴメンネ驚かせて。俺は香月!静流のダチだよ。」

警戒しながら頷く。
もう一人に視線を向けると、逆にあっちがビクッとした。

紅葉「……ゆっくり、していって下さい……。」

ぎこちない言葉をなんとか繋げて、私は静流から離れた。

⏰:07/08/29 01:47 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#132 [向日葵]
静流「父さんは?」

紅葉「買い物。」

静流「そっか。なら紅葉も部屋においで。」

手招きされるが、私は首を横に振った。

知らないのが一名。
気まずいのが一名。

そんな状態で部屋と言う密室に堪えれる訳が無い。
ましてや傷だらけの私をジロジロ見られるのも嫌だ。

静流「あーもー聞き訳の無い…っ子ぉ!」

紅葉「ぅわぁっ!」

⏰:07/08/29 01:52 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#133 [向日葵]
静流は軽々私を持ち上げる。その時見えた、彼女の少し傷ついた顔。

馬鹿な静流。彼女の気持ちも知らないで……。

とりあえず部屋に着いたので入る。入った途端当然の様にベッドに座る彼女。
その横には静流。

何なのこの人…。相変わらず図々しいって言うか……。
どうやら私は彼女とソリが合わないらしい。

まぁ彼女ならこれが当然なのかもしれないけど……。

私はドア近くに腰を下ろす。香月さんって言う人も、私の近くに座った。

⏰:07/08/29 01:56 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#134 [向日葵]
香月「名前は?」

一瞬私の事とは知らなかったので、気づくのに数秒かかった。

紅葉「く…くれ…は……。」

香月「紅葉は何歳?」

紅葉「じゅう……ご…。」
香月さんはフッと笑うと「そうかそうか」と頭を撫でた。
よく言えましたねって?
どこまで幼児扱いだ私……。

紅葉「静流。私はいいからリビングに戻る。」

香月「あ、なら俺も〜!」

⏰:07/08/29 02:01 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#135 [向日葵]
はぁ……?!

静流「おい紅葉……っ。」

香月「じゃあね〜。」

パタン……

*****************

何だ?アイツ。

双葉「気、遣ってくれたんじゃない?」

小首を傾げながら言う双葉の頬は、少し赤みがさしていた。

思わず抱き締めそうになるのを必死に我慢する。

これは紅葉との約束だから。と言ってもアイツの布団はもうあるんだけどな。

⏰:07/08/29 02:05 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#136 [向日葵]
何か……守らなきゃいけない気がして。

双葉「どうかした?」

黙ってる静流を気にしたのか、双葉が目の前に迫っていた。

もう少しで唇が触れそうになるのに、双葉は気にせずその場所で話す。

双葉「さっきの……何?」

静流「え……。」

双葉「いつもあんな風に抱き上げてるの?」

双葉が言ってるのは、紅葉を運ぶ際に静流が紅葉を抱き上げた事だ。

⏰:07/08/29 02:08 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#137 [向日葵]
静流「アイツはさ、子供だから。」

双葉「ふーん。……じゃあ何で抱き締めてくれないの?」

静流「はい?」

双葉は一旦顔を離す。
しょげた様に顔をうつ向かせると、上目使いで静流を睨む。

双葉「あの子が……好きになった?」

静流は心の中で紅葉に謝る。

そして双葉を抱き締めた。双葉は急で少し目を見開く。

⏰:07/08/29 02:13 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#138 [向日葵]
ゴメン紅葉……。
双葉があまりに意地らしいからさ……。
抱き締めるだけ勘弁してな……。

静流「そんな訳ないだろ……。」

双葉はそっと微笑んで静流の肩に顔を埋めた。

*********************

香月「あの二人見るの辛い?」

戸を開けたままベランダに出ると、ソファーに座っていた香月さんが話かけてきた。

景色を見渡しながら私は首を横に振る。

⏰:07/08/29 02:16 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#139 [向日葵]
紅葉「辛いとかは別に。……って、辛いって何よ。」

眉を寄せて振り返ると、香月さんはフッと笑って立ち上がり、ベランダまで来て私の隣に付く。

香月「てっきりさ、紅葉ちゃんは静流が好きかと思ったのに。」

好き?
……何だそれ。

紅葉「私は静流には感謝の念しかないし。まだ……完璧に静流を信頼した訳じゃないから……。」

信じようとする一歩手前で止どまらせる裏切りへの恐怖。

⏰:07/08/29 02:20 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#140 [向日葵]
紅葉「そんな感情……随分前に忘れてしまったわ……。」

「フーン」と良いながら、手すりに頬杖を付く香月さん。
それを横目で見ていると、香月さんはニヤッとして私を見た。

香月「静流はさ、随分君の事を気に入ってるみたいだよ。」

私は嘲笑ってしまった。
そんな事ない。

紅葉「私がペットみたいなんでしょ。」

優しさは親心。
決して一人の女の子だからじゃない。

⏰:07/08/29 02:25 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#141 [向日葵]
そう思った途端、胸の奥がチリッと焼ける感覚がした。

紅葉「???」

香月「ならさ。俺と付き合ってみない?」

耳を疑う。
不審者を見る目で香月さんを睨みつけた。

紅葉「白昼夢でも見てるんですか?」

香月さんは人差し指を何回か振るとニッコリ笑った。

香月「ちょっとしたゲームだよ。」

紅葉「ゲーム?」

⏰:07/08/29 02:29 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#142 [向日葵]
香月さんは私に顔を近付ける。
私はそれに合わせて顔を引いた。

香月「静流が君の事をなんとも思ってないかの実験さ。」

紅葉「彼女いるのにそんなのありっこないでしょ。」

香月「こればかりは分からないからねぇ。」

私はまた香月さんを睨みつける。

紅葉「友達で遊ぶなんて最低だわ。」

⏰:07/08/29 02:32 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#143 [向日葵]
香月さんは睨みつける私を何とも思わずにんまり笑う。すると体を引いた。

香月「君もなんか気に入ったし。静流の事は建前で、君を落とすって言う手もある。」

更に嫌な顔をして香月さんを睨みつけた。
すると香月さんは派手に笑う。

香月「じょーっだん!全部冗談だよ。君おもろいね。」

遊ばれた……っ!何て奴!!最初の頃の静流みたい……っ!

香月「まぁ。相談ならいつでものってやるよ。ペットさん?」

⏰:07/08/29 02:36 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#144 [向日葵]
と、指で私のおでこを小突く。

相談なんて……別に悩む様な事絶対無いし。
ってか静流にそんな感情生まれる訳もないし。

香月さんから突かれたおでこに手を当てながらブツクサと考えていると下から声がした。

香月「あ、双葉ちゃん帰るんだ。」

柵から身を乗り出して見ている香月さんの隣で、私はチロリとだけ門前に目を向ける。

楽しそうに話している静流と彼女。

⏰:07/08/29 02:41 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#145 [向日葵]
それならさっき心配する必要なんてなかったかもしれない。

私にもお人好しな部分が残ってたのね。

鼻歌を歌う香月の横で、私は黙って二人を見つめた。

その時、彼女から静流に唇を重ねた。

周りの音が、一切無くなって、二人だけが色鮮やかに見える。

そして何かが耳の奥で聞こえた。

――――触ラナイデ

紅葉「え……?」

⏰:07/08/29 02:44 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#146 [向日葵]
香月「うわー。双葉ちゃん大胆だねぇー。」

その声で、また現実に戻る。

今の声……何……?

ぼーっとしていると、静流達を観覧していた香月さんが声をかけた。

香月「どうかー…した?」

私はハッと香月さんを見て目を泳がせて、また香月さんを見た。

紅葉「何か……聞こえた。」

香月「えぇ?何も聞こえないけど?怪談にはまだ季節が早いんじゃないの?」

⏰:07/08/29 02:48 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#147 [向日葵]
そんな類じゃない。

だって明らかにあれは私の声。
でも私じゃない声……。

さっきの二人のキスシーンを見た瞬間、なんだかお腹辺りが熱くなるような感じがした。

周りはモノクロ。なのに二人だけがやけにはっきり見えて……。

そしたら声が聞こえた。

静流「あれ?香月?」

下にいる静流が声をかけてきた。
何故か私は瞬時に背を向ける。

⏰:07/08/29 02:52 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#148 [向日葵]
―――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/29 02:53 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#149 [向日葵]
*****************

静流はしまったと思い、香月の名を呼んだ後、案の定紅葉が静流に背を向けた。


見られた。風呂入るまでは紅葉に近づけそうにもない。

試しに呼ぶ。

静流「くれ…は……?」

紅葉はビクッとして、肩越しに静流を見た。
その目は怒っていると言うよりむしろ脅えていた。

しかし何に?

すると香月が紅葉に近づき、肩に手を触れた。

⏰:07/08/31 00:26 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#150 [向日葵]
もう少しでおでこが触れそうなくらいに顔を近づけ、紅葉の顔色を伺う。

静流は分かっていた。

香月の行動は紅葉を気遣うものであって、別にやましい意味など無いと。

しかし

うずく表しがたい気持ちを胸に、静流は静かに家へと入って行った。

⏰:07/08/31 00:29 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#151 [向日葵]
―離―







何故か、この頃変だった。

無駄にぎくしゃくするし様子はおかしいし。

でもそれはどちら共に当てはまる事だった。

********************

私は体が言うことを聞かなかった。

静流が私に優しくしてくれる度に胸がモヤモヤして、近づいて欲しいのに近づいて欲しくなくて。

⏰:07/08/31 00:33 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#152 [向日葵]
言葉だって、いつも以上に素っ気なくなってしまう。

******************

俺は変だった。

紅葉に優しくしようとすれば紅葉がぎこちなくなる事に何故か胸が痛んだし、優しくしたいのに優しく出来ない自分がどこかにいた。

何でだ……?

今日の朝でもそうだった。

いつも通り膝で食事をとる紅葉を見ながら何かモヤモヤしていた。

そればかりか、やっとなんとか少量だか食べれる様になった林檎を食べ終えた紅葉の口を拭こうとすれば

紅葉[ふ、拭かなくていい!]

っと拒否された。

⏰:07/08/31 00:38 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#153 [向日葵]
彼女の堅くなな態度ならもう慣れてる筈なのに、何故か胸がチクリとした。

そして視線を紅葉の華奢な肩に向ければ、香月の手が触ったとイライラした。

静流[食べ終わったみたいだし。紅葉どいてくれる?]

紅葉[言われなくても退くわよ!何よ偉そうにっ。]

静流[俺がいつ偉そうにしたよ!]

紅葉[朝からうるさいのよもー!]

と言う風にケンカ勃発……。

⏰:07/08/31 00:42 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#154 [向日葵]
朝の事を思い出していた静流はもう陽が高く暑い日向である教室の窓側にうなだれていた。

何でイライラしてるか自分でも分からなかった。
イライラするのはカルシウム不足と言うが、帰りにスーパーに寄って煮干しでも買おうかと迷う静流。

頭が混乱して少々観点がズレ始めていた。

そんな静流の肩を勢いよく叩く人物がいた。

友人の香月だ。

香月「なぁんだよ冴えねぇ顔して!」

「黙れ元凶。」とボソリと言うが、残念ながら香月の耳には届かない。

⏰:07/08/31 00:47 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#155 [向日葵]
香月はそんな不機嫌な静流を無視してペラペラ喋り始めた。

静流は大半を聞き流していたが、聞いてしばらくして頭で反芻すると今度は静流が香月に喋る。

静流「ちょっと待て。今なんつった?」

香月「ん?だから今日お前んちに遊びに行くなって。」

静流はうなだれていた体をしゃきっと伸ばすと香月に詰め寄った。

静流「何で来んだよ!」

香月「別に行きたいから。前まで理由なくても遊びに行ったじゃん。何気にしてんの?」

⏰:07/08/31 00:55 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#156 [向日葵]
その言葉に静流は「うっ」と唸った。

すると香月は何やらニヤニヤしだした。

香月「もしかして……紅葉ちゃん取られるとか心配な訳?」

静流「はぁっ?!」

香月「紅葉ちゃん可愛いもんなぁ。俺狙おうかなぁ。」

ダァンッ!!

教室中が静まりかえる。
皆の視線が、静流と香月がいる場所に集まる。

香月は静流の意外な行動に驚いていた。
温厚な静流が机をグーで殴ったのはこれが始めてだ。

⏰:07/08/31 01:01 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#157 [向日葵]
静流は射抜きそうな眼光で香月を睨んだ。

香月は少し足を引く。

静流「アイツに何かしてみろ。許さないぞ。」

そんな静流に冷静さをとり戻した香月が問いかける。

香月「なぁ……。お前それどの立場で言ってんだよ。」

静流はかすれた声で「え?」と言った。

確かにそうだ。
自分は何をそこまで怒っている?
何が気に入らない?

⏰:07/08/31 01:05 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#158 [向日葵]
一気に静流は気を静めていった。

静流「ゴメン。何か……。頭、冷やしてくる。」

とだけ言って静流は教室を出て行ってしまった。

そんな静流の後ろ姿を見ながら、香月は静流の心に変化があるのではと感じとっていた。

一方、水道で頭を濡らしながら静流は冷静に分析していた。

さっき怒ったのはつまり……。
半端な気持ちで紅葉に近づくなら許さないって事だ。

⏰:07/08/31 01:10 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#159 [向日葵]
傷ついてる奴を更に傷つけるのなら、兄貴分の自分としては許されないものであって……。

双葉「タオルも持たないで、どうやって頭拭くつもり?」

顔を横に向けると、隣に座りこんで静流を見つめる双葉がいた。

水道を止めた静流に双葉はキャラクターが描かれたタオルを静流に渡した。

静流「ゴメン。タオル駄目にしちまって。」

双葉「別にいいわよ。ん?手、どうしたの?」

ふと静流が右手を見ると、手の甲の骨ら辺が赤くなっていた。

⏰:07/08/31 01:14 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#160 [向日葵]
手を見ながら、またふと考えた。

……どうしたんだろ。俺……。

*****************

やる事が無い私は庭へ出て花壇の水やりをしていた。

じょうろに水を溜める時、自分の腕に巻いてある包帯を見た。

『そういえば、今日はケンカしちゃったからやり変えて貰ってないや。』

今朝はついつい売り言葉に買い言葉になってしまった。

⏰:07/08/31 01:18 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#161 [向日葵]
だって静流の態度が気に入らなかったんですもの。

いつもならヘラヘラしながら自分から下ろす癖に。
今日に限ってなんであんなツッケンドンな態度をとられなくちゃならないのよ。

水がたっぷり溜ったじょうろを持った。
すると

紅葉「あいたっ!」

バシャァン!

まだまだ治りきっていない傷が痛くなった。
反射的に手を離したおかげで足元は水浸し……。

また水を入れなきゃいけなくなった。

⏰:07/08/31 01:22 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#162 [向日葵]
ため息をつきながらじょうろを拾う。

住宅街なので、小学校を終えたガキやら世間話が好きなおばさん達の声が薄く聞こえる。

もしかしたら自分も噂されてるのかもと思うとムカムカした。

何も知らないおばさん風情が脚色つけて何か言ってるに違いない。

しばらく座りこんだまま、私はぼんやりそんな事を考えた。

紅葉「だから……世の中なんて嫌いなのよ……。」

カシャン!

⏰:07/08/31 01:27 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#163 [向日葵]
何か耳慣れた金属音が聞こえた。
多分門の鉄格子の音。

更に耳慣れた声が。

静流「紅葉……っ。」

静流が私の元へ駆け寄って来た。

あぁそうか。もう学校の終わる時間なのね。

静流は心配そうに私を見る。
その姿を見ただけで、さっきのムカつきは収まり、なんだかホッとした。

静流「何かあった?!」

紅葉「じょうろ落としただけよ。」

⏰:07/08/31 01:31 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#164 [向日葵]
立ち上がろうとしたら、気配がした。

目を動かせば、またいる。
例の彼女とミステリアスな香月さん。

静流は私の視線に気づいたのか、少し抱き上げて私を立たすと頭を撫でた。

静流「ゴメンな。また来ちゃってさ。」

痛い……。
この場合、傷が痛いんじゃなくって彼女さんの視線がだ。
どうやら彼女は私に嫉妬してるらしい。

静流の手を軽く振り払って、私は水道に向かった。

⏰:07/08/31 01:38 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#165 [向日葵]
紅葉「早く家に入ったら?」

静流「お前は?」

さっきより少な目に水を入れたじょうろを持って、静流に向き直る。

静流を一旦見てから彼女さんを見た。

不安そうな目で静流と私を交互に見てる。
静流も女の子に鋭いんだか鈍いんだか……。

紅葉「私は水やりがあるの。」

と言って横を過ぎきる事が出来れば良かった。

ズキッ!

紅葉「っいた!」

⏰:07/08/31 01:43 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#166 [向日葵]
今度は足が痛くなった。
カクンと崩れてしまいそうになる時、誰かの腕が私を支えた。

水をまたしても無くしたじょうろが、音を立てて地面に落ちる。

香月「あっぶー…。大丈夫か?」

*****************

紅葉「いたっ!」

その声を聞いて振り向いた時に、静流が手を出すのは遅かった。

何故なら香月が早く反応し、気づけば紅葉の体を支えていたからだ。

⏰:07/08/31 01:46 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#167 [向日葵]
香月「あっぶー…。大丈夫か?」

そのまま香月は紅葉の傷の痛みが引くまで体を支えていた。

一方の静流は、出しかけた行き場の無い手をなかった事にするようにぎこちなく戻した。

静流「……ったく。病人のくせにそんな事すんじゃねぇよ。」

紅葉の体がピクリと動く。
あ、ヤバイ……。これは……。

紅葉「なんですって……?」

⏰:07/08/31 01:50 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#168 [向日葵]
怒った合図だ。

ゴングが良い音を立てて鳴り響いた気がした。

紅葉「少しでもと思ってお手伝いしてるのに何でそんな事言われなくちゃなんないのよっ!」

静流「それでこんな事なってたら意味ないじゃん。無駄だろ。」

紅葉「……っ!静流なんか……キライ!!」

ガコッ!

じょうろを力一杯投げられた静流は不意打ちだったがなんとかすんでの所で止める事が出来た。

⏰:07/08/31 01:53 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#169 [向日葵]
******************

バタン!

力任せにドアを閉めて私は家に入った。

足をダンダン鳴らして階段を上ってやりたいけどまた痛みが走るのが嫌で、歯を食いしばって上った。

直ぐ様カーテンをしてベランダへ出た。
少し、泣きたくなった。

静流[無駄だろ。]

何で、あんな事言われなくちゃいけない訳?
私が何をしたって言うのよ……っ!

彼女はあれだけ大切にしてるくせに、私はこんな粗末にされて……。

⏰:07/08/31 01:59 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#170 [向日葵]
…………。
…………あれ?
何で今彼女が出てきた?

あぁもぅどーでもいぃっ!!
静流なんか、大大大大大っキライ!!!!

香月「あーぁ。静流が紅葉ちゃん泣かした。」

バッと振り返った。いつの間にカーテンやらを開けたんだろう。
ってか今泣かしたって言ったよね?

紅葉「別に泣いてないし!」

すると香月さんはベランダへ出て来て前みたいに私の隣に来ると、並んで座った。

⏰:07/08/31 02:04 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#171 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/31 02:04 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#172 [向日葵]
香月さんは自然に右手を伸ばすと、私の左目の下辺りを撫でた。

そして私目の前に人差し指を持ってきてニヤリと笑う。

香月「泣いてない?ならこの水って何かなぁ?」

慌てて目を擦ると水分があった。

不覚……っ。知らないに等しい人に涙なんて見られた。

香月さんはクスクス笑いながら指についた水分を指を擦り合わせてとる。
そしてその後は黙って私の隣に座ってるだけだった。

⏰:07/09/01 01:12 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#173 [向日葵]
紅葉「静流達は?」

香月「ジュース買いに行った。」

ふぅん。と答えてあとは黙った。

すると香月さんは私を見てニヤニヤ笑ってくる。
何だと思い、睨む。

香月「静流に言われた事、ショックだったの?」

紅葉「……。腹が立っただけ。最近の静流はトゲトゲしいの。でも彼女に優しいのは相変わらずみたいね。」

……。あれ。
私また彼女って言った。

⏰:07/09/01 01:15 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#174 [向日葵]
指先で口元を押さえながら頭には複数のはてなを浮かべる。

私が何が何だか分からなくなっていると、隣から「へー」と声が聞こえた。

香月さんを見ると意地悪そうに笑っていた。

香月「なぁんだ。紅葉ちゃんも嫉妬してるんだ。」

紅葉「はぁ?嫉妬?何で私が嫉妬なん―――……。」

え?今何て?
も?私だけじゃなく、誰かが私に対して嫉妬してるって事?

一瞬頭に浮かんだ相手はあり得なくてすぐ取り消した。あぁ。もしかして彼女の事?

⏰:07/09/01 01:20 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#175 [向日葵]
紅葉「彼女のは不可抗力よ。あれは静流が悪い。」

淡々と喋ると、香月さんが目を丸めた。
まるで私が何か間違った事を行ってるみたいに。

香月「何言ってんの?嫉妬してるのは―――…。」

静流「ただいまー。」

犯人が誰か聞く前に静流で邪魔された。
静流の足音が二階へ来る。
すると香月さんが私の肩をちょいちょいと指で叩いてから自分の肩をポンポンと叩いた。

そして小声で告げる。

⏰:07/09/01 01:25 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#176 [向日葵]
香月「俺の肩に寄りかかって寝たフリしてて。」

紅葉「はぁ?!なん―――っ。」

反論してる途中で強制的に肩に寄りかかる形になった。
仕方ないので指示された寝たフリを決行する。

と同時に静流がリビングに現れた。

静流「……何してんの?」

耳だけで分かる。
静流が何故か怒ってる事。

香月「おう!おかえり!なんか紅葉ちゃん寝ちゃったみたいでさぁ!」

⏰:07/09/01 01:28 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#177 [向日葵]
静流「どけ。」

その声を聞いたと同時に私の体は地面から離れた。

びっくりして目を開けるけど静流は気づいてない。

静流「紅葉にいい加減な気持ちで近づくのだけは止めろ。」

静かにそう告げると静流は歩き出した。
おそらく部屋へ向かうんだろう。

静流「双葉。ゴメンけどドア開けてくんないかな。」

私は寝たフリと気づかれない様にまた目を瞑った。
じゃなきゃ今でも彼女の嫉妬の視線をひしひしと感じるのに、これ以上痛く感じるのはゴメンだ。

⏰:07/09/01 01:33 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#178 [向日葵]
双葉「ハイ。」

静流「ありがとう。」

寝かされたのは静流のベッドだ。

まったく……また無意識に彼女を傷つけることになるぞ。

双葉「閉めとく…ね。」

静流「ウン。ありがとう。」

パタン

……。
あれ。なんで静流出ていかないんだ?
寝たフリも楽じゃないんだからさっさと出て……

静流「起きてんだろ?」

⏰:07/09/01 01:36 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#179 [向日葵]
バレてんじゃん。

私はゆっくり目を開ける。
最初に目に入ったのは天井。その次は怒った静流の顔。

紅葉「何怒ってんの?」

静流「怒ってない。」

紅葉「よく言うよ!怒ってるじゃない!私何か静流にしたかしら?!」

静流は黙って腹立たし気に息を吐く。

腹立ってんのはこっちだっつーの。

静流「知らない男の体に無防備に近づくな。」

⏰:07/09/01 01:40 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#180 [向日葵]
紅葉「なら静流にも近寄っちゃ駄目って事ね。」

静流「そんな事言ってないだろ!」

紅葉「貴方だって知らない男じゃない!!」

息遣いだけが部屋に響く。
お互いを睨み合って、次に出てきた言葉にすぐ対応出来る様に言葉を繋ぎ合わせる。

数分が過ぎた時、静流が口を開いた。

静流「……。わかった。もう好きにしろ。」

は……?何それ。

紅葉「何よ好きにしろって……。まるで私をだだこねてる子供みたいに。」

⏰:07/09/01 01:45 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#181 [向日葵]
静流「口答えするならガキと一緒だろ。」

出た。
静流はいつもこう。

怒ったり気に入らない事があれば冷静なフリして私を子供扱いする。

さも自分が全て正しいと勘違いしてる大人である様に……。

紅葉「私はアンタの子供でもなければこの家の子でもないのよ?!」

すると冷たい静流の目が更に冷たくなった。
次に出てくる静流の言葉に私は頭が真っ白になった。

⏰:07/09/01 01:49 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#182 [向日葵]
静流「じゃあ出て行って好きなように暮らせよ。」

紅葉「……え。」

静流が背中を向けてドアを開ける。

静流「元々そうしたいって言ってたしな。いいじゃん。短い間だったけど楽しかった。じゃあな。」

パタ…………ン……

*****************

リビングで談笑をしていながらも、静流は自分の言った事を頭の中でまた繰り返していた。

俺何言ってんだよ。

⏰:07/09/01 01:52 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#183 [向日葵]
香月はダチだし別に親しくしたっていいじゃんか!

でも俺以外の奴になつくのがなんだか気に入らなくって、こう……飼い犬が他人にめちゃじゃれてるみたいな感覚で……。

双葉「静流……?どうかした?」

色々考えてたらいつの間にか黙ってしまった静流に双葉が呼び掛けた。

静流「あ、いや。何でも。そうだ!見せたいもんがあるんだ。部屋取りに言ってくるわ!」

と言いながら紅葉が気になって静流は部屋へ向かった。

⏰:07/09/01 01:56 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#184 [向日葵]
部屋前で立ち止まって深呼吸した。

紅葉に謝ろう。
それでまた仲直りしたらいつも通りに戻れる。

カチャ

静流「紅葉!さっきは……。」

静流はドア付近で足を止めた。

静まりかえる部屋。
いる筈の姿が、どこにもない……。

そう。紅葉が消えてしまったのだ。

静流はパニックになりそうな自分を抑えて机の下、ベッドの下、クローゼット。全てを探した。

⏰:07/09/01 02:00 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#185 [向日葵]
静流[出ていって好きな様に暮らせよ。]

――――ドクン

まさか……ホントに……?

香月「なぁ静流ー。雨降ってったから俺帰るわぁ。」

と来た香月の肩を勢いよく掴んで静流は言った。

静流「紅葉が……いなくなった。」


******************

あ。雨降ってった。

まぁいいわ。服が洗濯されるし。

⏰:07/09/01 02:04 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#186 [向日葵]
私は当てもなく歩いていた。
急な雨だから傘を持ってない人が沢山いたおかげで私は白い目からは免れた。

静流[出て行って好きなように暮らせよ。]

何よ……。

紅葉「自分から言ったんじゃない。住めって……。なのに出て行けって……。」

自己中にも程がある!
しかも八つ当たりみたいに言い捨てて!

ってか……ここどこ?

意外にも雨は激しくて、一寸先は闇じゃないけど雨でほぼ見えなかった。

⏰:07/09/01 02:08 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#187 [向日葵]
ザー……

ザー……

あぁ……あの日が思い出される。

ザー……
ザー……

今みたいに凄い雨で……。やっと天国に行けると嬉しくなった。

世の中は汚い。

世の中は冷たい。

唯一愛していた肉親にさえ、私は愛されなかった。

痛くて何度も泣いた。
つらくて何度も願った。

⏰:07/09/01 02:11 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#188 [向日葵]
 








温かさを下さいと……

⏰:07/09/01 02:12 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#189 [向日葵]
そんな時、くれたのが静流だった。

優しくて、嬉しくて……私は身を委ねてた。

だから忘れてた。

一線引き忘れていた事。
誓ってた筈なのに、馬鹿だわ私って……。

私はまた、一人ぼっち。

今度こそもう誰も助けてはくれないんだろうな……。

私はどこで命を断つべき?

どうやって命を断つべき?

誰も教えてくれない……。

⏰:07/09/01 02:15 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#190 [向日葵]
静流[生きる努力をしようよ。]

パシャ……

どこまで来ただろう。

私は道端で立ち止まった。
外は灰色の雲に覆われた暗い夜となった。

何も聞こえない。

雨の音と、自分の息遣い以外。

……何も……。

知ってる。分かってる。
自分の息が震えていること。

泣いていること。

⏰:07/09/01 02:19 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#191 [向日葵]
紅葉「……っ。ふぇ……っ。」

もうやだ……。

何で……っ。

ウウン。違う。私は神様に祈った事があった。

誰かの代わりに、私が不幸を背負うと。

なら今誰かが幸せになってるのかな?

でも幸せになってる誰かさん。ごめんなさい。
私やっぱり幸せになりたい。

温かさで包まれたい。
いつしか願ってた。あの家にずっといれたらって。

⏰:07/09/01 02:22 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#192 [向日葵]
紅葉「……ひっ……。う―――っ……。」

それはもう無理だけど。

でも私は、ずっとずっとあの家で温かさを感じて生きていきたい。

そう思った。
思わせてくれた。

それは紛れもなく、静流が……そう思わせてくれたんだ……。

⏰:07/09/01 02:24 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#193 [向日葵]
―解―









静流は探し回っていた。

いなくなった紅葉。
この酷い雨の中、まだ治りきってない傷を負ったまま外へ行ってしまった。

そう仕向けたのは、紛れもなく自分……。

ピリリリリ

ポケットに入れておいた携帯が鳴り響く。

⏰:07/09/01 02:28 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#194 [向日葵]
見つかっったらすぐ知らせれるよう、一緒に探してくれてる香月と双葉に告げた。

発信者は香月からだった。

香月{静流?こっちにはいないみたいだわ。}

静流「そっか。ありがとう……。」

そう言って電話を切る。

静流は頭を抱えた。
何であんな事を……っ。

しかも人間不信が治りきってない紅葉に向かって……。

静流「馬鹿だ……。俺……。」

⏰:07/09/01 02:31 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#195 [向日葵]
その時、また電話が鳴った。

静流「はい……。」

源{静流君?今ドコにいるんだい?帰ってきたら家に誰もいないからびっくりしてさ。}

静流は電話をしながら目を瞑って目元を片手で覆った。
受話器から息子の声が聞こえない源は心配して何度も名前を呼んだ。

源{静流君?どうしたんです?}

静流の重い口がゆっくりと開かれる。

静流「実は……。」

⏰:07/09/01 02:35 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#196 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/01 02:36 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#197 [向日葵]
*****************

紅葉「さ……さむ……。」

ずぶ濡れになった私は近くに公園を発見した。
とりあえず少し休む。

泣いたのと止まない雨とのせいで、私は少々体温を取られていて疲れた。

なんの遊具かはわからないけど、かまくらに穴が空いた様なやつに入って雨が少しでもマシになるまで一休みすることに決めた。

水溜まりがあったけど濡れ続けるよりはまだマシだ。

まぁこれだけ濡れたらいくら濡れても一緒だけど。

⏰:07/09/02 02:23 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#198 [向日葵]
少し休んだら、またどこかへ行こう。

出来るだけ遠くに。

もう二度と母さんや静流に会わないように。

人目につかない場所ってどこかな。

山?崖?

歩きながら考えよう。

考える時間なら、もう沢山出来たのだから。

*****************

源は静流からの話に絶句した。

だけど怒る事はしなかった。今怒っても仕方ないからだ。

⏰:07/09/02 02:27 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#199 [向日葵]
源{とりあえず、紅葉ちゃんが帰ってきたらいけないから家にいるね。}

静流「うん。お願い……。」

静流は電話を切る。

そして雨が降る道に目を向けてまた歩き出した。

隙間や陰を隈無く探す。

あの傷で……しかもこんな雨の中で……。

もしかしたらどこかで倒れてるかもしれないと言う心配が頭をよぎる。

いくら何でも「出て行け。」なんて言うべきじゃなかった。

⏰:07/09/02 02:33 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#200 [向日葵]
雨で少し肩が濡れる。

紅葉はこの雨の中濡れてると言うのに、自分は何傘さしてんだ……。

静流は傘を畳み、走り出す。
走り出すとすぐに雨でびしょびしょになってしまった。

倒れてしまうのも心配だが、誰かに誘拐されてないかも心配だ。
あんな軽いのヒョイと持ち上げたら終りだ。

左右を確認して信号を渡る。
車のヘッドライトがやけに眩しく感じた。

……まさか、事故に遭ったりしてないよな……。

⏰:07/09/02 02:38 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


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