―温―
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#2 [向日葵]
―始―




梅雨が始まる雨が降っていた。

その中で、朦朧とした中、私は横たわっていた。

あぁ……とうとうかぁ……。

⏰:07/08/19 12:53 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#3 [向日葵]
―雨―



良かった。

私やっと天に昇れたんだ……。
あったかい布団にも包まれてて……。

――――え?布団?

体を僅かに動かすと、体のあちこちが痛かった。

「っ!」

「あ、起きた?」

目を開ければ、髪の毛がボサボサの、だけど顔が整っている男性がいた。

⏰:07/08/19 12:57 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#4 [向日葵]
「は……?誰アンタ……。」

「僕は源(げん)だよ。」

知らない。
ってかここどこだよ…。

源「君、覚えてないの……?君は、ゴミ捨て場にいたんだよ。しかも凄い怪我だったし。」

あ……そうか。
予想通りで笑える……。
……。それなら何故。

「なんて事、してくれたのよ。」

源「え?」

私はフカフカのベッドから出て、痛い足を叱咤しながらドアまで走った。

⏰:07/08/19 13:05 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#5 [向日葵]
源「えっ?!ちょ、君!」

タタタタタ

何よこの家。
無駄に広すぎだし。

ってか何よあのボサボサ男。なんで私を助けたりしたの。

最後の記憶は、母さんの拳についた私の血と、さげずむ言葉。

[アンタなんて何で生まれてきたの?]

そんなの知らない。
貴方が産んだんでしょ……。

もういい。人なんて信じれない。

⏰:07/08/19 13:12 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#6 [向日葵]
「ハァ……ハァ……。」

死んで楽になる。
誰も信用なんてしない。
温い感情なんていらない。

「あ、あれ……玄関…っ?!」

足痛い…。顔も、体の節々も……。

その時だった。

ガチャ

「っっ?!」

「ただい…うわっ!」

突然だったので、玄関から入って来た男の子に思いきりぶつかってしまった。

⏰:07/08/19 13:18 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#7 [向日葵]
ぶつかった時に体に激痛が走る。
そのせいで崩れそうになる体を、男の子が支えてくれる。

でも私はその手を逃れて、出て行こうとした。

すると、

フワッ

「ちょっ!」

男の子は難なく私を持ち上げて、まるで赤ちゃんを高い高いするみたいに私を上に上げる。

「なんだお前。」

「離しなさいよちょっと!」

⏰:07/08/19 13:25 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#8 [向日葵]
私が足をバタバタしても全然敵わかった。

源「あ……ハァ……静流(しずる)君……。おかえり……ハァ。」

静流「ただいま父さん。ってか何この軽いの。捨て猫?」

「誰が……っ!」

ってかこのボサボサ男父親?ならこれ息子?

静流「ってかこれ俺のシャツじゃん!」

私の着ているのはブカブカのシャツ。
どうやらこの息子のらしい……。

⏰:07/08/19 13:36 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#9 [向日葵]
「離しなさいよ!なんなのよアンタ達!」

すると静流とか言う息子は私を赤ん坊みたいに抱くと、私をじっと見つめる。

静流「助けてもらったクセに態度デカイぞお前。」

「そんなの頼んでない。私はあのまま死にたかった!」

その言葉に、二人とも黙った。
息子は静かな怒りを込めた目で、私を見つめる。

静流「お前ふざけんなよ…。」

落ち着いてるのに怒ってるその声に私は少し怖じけづいた。

⏰:07/08/19 13:44 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#10 [向日葵]
「ふざけてないわよ。説教する気?」

その静かな攻防に耐えかねた父親が、焦って割って入る。

源「ストップストップ!なら、君、怪我が治るまででいいからここにいなさい!」

怪我が治るまで?
……まぁ、悪くないわね。人前で死んで醜態晒すよりは遠く離れる方がいいし。

「……いいわ。怪我が治るまでね。」

源「よし!じゃあご飯にしようかっ!」

⏰:07/08/19 13:48 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#11 [向日葵]
そう言って父親は奥へ消えて行った。
息子はやっと私を地上へと降ろしてくれた。

静流「おい猫。名前は?」

「誰が猫よ。名前なんかどうでもいいでしょ。いずれ出ていくんだから。」

息子は腕を組んで溜め息をつくとギロリと私を睨んだ。

静流「俺お前みたいな可愛気のない奴嫌いだわ。」

「ありがとう。好いてもらう気も無いし、いずれ出ていくし。」

取り付く島もない様に息子は呆れた顔をした。

⏰:07/08/19 13:56 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#12 [向日葵]
静流「名前。」

「……は。」

静流「え?」

「紅葉(くれは)。」

息子はふぅんと私を見た。
何だよ。この親子は……。

静流「歳は?」

事情聴取みたい。
私別に悪い事してないし。

渋々私は答える。
じゃないと解放して貰えない気がする。

紅葉「15……。」

静流「なんだまだ中坊か。あ、俺は17ね。」

⏰:07/08/19 14:01 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#13 [向日葵]
聞いてないし…。

紅葉「ハァ…。別にそんなのどうでもいいでしょ……?」

静流「ホンット可愛いくないね。嫌いだわ。そーゆーの…。」

……嫌いで十分だ。
好かれ様なんて努力は二度としない。

しても無駄なんだもん……。

私が黙っていると、息子はまた喋りだす。

静流「ちなみに、部屋は当分俺と一緒だからな。」

紅葉「あそ。」

⏰:07/08/19 14:07 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#14 [向日葵]
――――――――

キリます

⏰:07/08/19 14:08 📱:SO903i 🆔:NfUWlfOw


#15 [向日葵]
関わらない。
ここにいても、コイツらとは関わりたくもない。

嫌い。
どうせ皆汚い思いを心の中に宿しているに決まってる。

私は息子を無視して廊下をツカツカ歩いて行った。

静流「オイ。どこ行くの?」

後ろからついて来てるらしい息子が尋ねるが、私は一切無視だ。

二階に上がってリビングを突っ切り、(ここの家は二階にキッチンがあった。)ベランダへと出る。

⏰:07/08/20 02:32 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#16 [向日葵]
ガラガラ

雨は容赦無く降っていた。空は灰色。

あの時見たのとおんなじ……。

静流「雨が家に入ってくるんだけど。」

私は何も言わず後ろ手で勢いよくベランダのドアを閉めた。

静流「あっぶねーなぁ!」

息子の怒りの声が窓越しに聞こえる。
ついでにカーテンまで閉められた。

そうそう。そうやって溝を作っておいて。

⏰:07/08/20 02:35 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#17 [向日葵]
私はこれっぽっちも仲良くする気なんて無いんだから。

**************

静流「なんなわけあのガキ!!!」

静流は腹立ちついでに源が作ったパスタをがっつく。育ち盛りなのかパスタは大量だ。

源「静流君には悪いけど、あの子の面倒見てあげてくれないかな?」

ボサボサした髪の毛からフワッと優しい微笑みを浮かべて源は笑う。

静流「あぁ!世の中の何も分かってないガキに教育してやるよ!」

そう言うと、静流はパスタをズルズルと勢いよく吸い込む。

⏰:07/08/20 02:39 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#18 [向日葵]
すると源は、少し悲しそうな微笑みを見せた。

源「優しくしてあげてね……。」

静流「は?」

源はフォークとスプーンを静かに置いて、紅葉がいるベランダへと目を移した。

源「あの子……虐待されてたみたいなんだ。」

静流の食事をする手が止まる。

源「新しい怪我はともかく、古い傷もちらほらあってね……。しかも僕が見つけた時、うわ言の様に呟き続けてたんだ。」

⏰:07/08/20 02:42 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#19 [向日葵]
紅葉[母さん…ごめんなさい……。]

二人に沈黙が流れる。
静流はフォークを力なく置いて、ベランダに目を向ける。

小柄な体をした彼女は、ベランダの戸にもたれかかって、灰色の空を見上げていた。

静流「優しくしてやりたいのは山々だけど……アイツ可愛くねぇんだもん!」

そしてまたズゾーッとパスタを膨張る。
そんな静流を源は苦笑して見ていた。

実は彼の母、つまり源の妻は、若くして他界している。

⏰:07/08/20 02:47 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#20 [向日葵]
そのせいで静流は命には敏感になってしまい、簡単に死ぬと言う紅葉を見てやきもきしているのだ。

それを知っているから、源はどちらの味方をする事も出来ないのだ。

源「パスタおかわりあるからね。」

静流「ふん。ふぁんふぅ。」

膨張りながらなので何を言ってるか分からない静流に源は温かく笑った。

すると静流がいきなり立ち上がった。

源「どうかした?」

静流「ちょっとな。」

⏰:07/08/20 02:51 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#21 [向日葵]
*****************

雨の音に耳をすませていると、カーテンが開く音が聞こえて後ろのもたれていない方の戸が開いた。

静流「飯だ。入れよ。」

私は空を見つめたまま息子の言葉を無視した。

呆れた溜め息が聞こえる。

静流「あのさぁ、返事するくらいしたらどうなんだ?じゃないと猫って呼ぶぞ。」

私はクスッと笑った。

静流「なんかウケるとこあったか?」

⏰:07/08/20 02:55 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#22 [向日葵]
私はクスクス一通り笑った。
ううん。笑ってる様な声を出した。

紅葉「捨てられたから猫。捨て猫……。私にピッタリじゃない。紅葉(もみじ)と同じ字の名前よりシックリくるわよ。」

私はまた笑い真似の声を出した。
息子は何も言わず私を見ているみたい。

紅葉「お風呂以外一切何もいらないわ。その方が出ていく時死にやすいから。」

雨の音だけが聞こえる。
他は何も聞こえない。

⏰:07/08/20 02:59 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#23 [向日葵]
すると、独り言の様に息子が呟いた。

静流「勝手にしろ…。」

バンッ!! シャァッ!!

紅葉「乱暴者……。」

いやあんなの乱暴の内に入らないか……。

知ってる。
私は知ってる。
真の乱暴者がどんな者かを……。

『アンタのせいで私は束縛されっぱなしよ!』

ヒステリックになった母の叫び。
止まない暴力。

⏰:07/08/20 03:02 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#24 [向日葵]
ストレス発散物の私は、助けを請うことに疲れてひたすら殴られ続けた。

イタイ……

ヤメテ……

許シテ……

イイ子ニナルカラ……

手の包帯を見つめる。

こんな同情……いらない。

シュッシュル……

巻かれた包帯を乱雑に取り、貼られているガーゼやバンソーコーも剥がす。

傷なんて、これっぽっちも痛くない。

⏰:07/08/20 03:06 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#25 [向日葵]
本当に痛いのは……心だから……。

***************

静流「だぁぁぁぁっもう!!!!」

ベッドに寝転びながら静流はイライラしていた。
そして紅葉の言葉ん頭の中で何度も繰り返す。

[捨てられたから猫。捨て猫。]

[その方が出ていく時死にやすい……。]

『何なんだよアイツ……ッ!くそっ!』

静流の中で二つの思いが交差していた。

⏰:07/08/20 03:11 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#26 [向日葵]
一つは、予想以上に紅葉の傷の闇が深い事。

二つ目は死ぬと言う紅葉がムカつく事。

哀れめばいいのか、憎めばいいのか……。
静流は分からなかった。

でも彼女は優しさを求めているくせに拒否している。それは分かった。

蔑む目に、ちらつく悲しみ。
源にも頼まれた以上、紅葉を放っておく訳にもいかない。

静流は頭をガシガシかくと起き上がり、部屋を出た。

⏰:07/08/20 03:16 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#27 [向日葵]
風呂場に辿り着き、タオルを用意して入る準備をした。

ザパー……

『ん?』

誰もいない筈なのになんで水音が?

風呂場の戸を開けてみると……

カチャ

静流「!!うわぁっ!」

そこには紅葉が入っていた。
幸いなのがお湯が入浴剤のお陰で乳白色だ。

しかし動揺している静流に対して、紅葉は驚きの声すらあげず、ただ黙ってお湯を見つめている。

⏰:07/08/20 03:19 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#28 [向日葵]
静流「お、おま、お前、女ならもうちょっと恥じらうとか反応しろよ!」

紅葉「キャー変態ー。これでいい?ってか別に中坊の裸になんか興味無いでしょ。」

静流の方も向かず紅葉は“反応”を棒読みで言い、また黙ってお湯を見つめる。

怒ろうとした静流の目に、華奢な肩に複数の痣が入る。

肩だけじゃない。
顔、首、背中……。痣や切傷、それに一生消えなさそうな傷さえも……。
しかも今日した怪我もひどかったのに、平然とお湯に浸っている。

⏰:07/08/20 03:25 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#29 [向日葵]
静流「痛く……ないの?」

それには反応したのか、紅葉は目だけを動かして静流を見る。

紅葉「痛かったら万能の薬でも用意してくれるの?それは凄いわね。」

そしてまたお湯に目を向ける。

紅葉「ってかいつまでいるつもり?」

静流はとにかくイライラしてしまって、思わず紅葉の顔を片手で掴んだ。

静流「俺は男だ。なのに抵抗しないなら、それなりの行動に移さしてもらうぞ。」

⏰:07/08/20 03:29 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#30 [向日葵]
すると紅葉の蔑む目がその色を濃くした。

紅葉「後で後悔するのは貴方ですよ。彼女いるんでしょ?」

そこで静流はハッとした。

紅葉「左手の指輪。そうなんでしょ?」

静流は顔を歪ませて風呂場を出た。
脱衣所を出て、そのドアにズルズルともたれながら座りこんだ。

静流「ちくしょー……。」

紅葉の弱音を吐かせようとしただけなのに、ついカッとなってあんな行動に移った自分が情けない……。

⏰:07/08/20 03:33 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#31 [向日葵]
静流「面倒見るどこれか逆に嫌われる要素作ってどうするよ……。」

しかしあれはホントに中学生だろうか。

もう全てを悟りきった様な、そして全てを諦めてしまった様な……。

しばらく紅葉の事を考えていた静流は、また自分の部屋に戻って行った。

***************

紅葉「何よ。根性無し。」

息子が去った後、私はそう呟いた。

傷つけてみるならみなさいよ。もうそんなの慣れっ子で、痛くも痒くもない。

⏰:07/08/20 03:37 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#32 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/20 03:38 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#33 [向日葵]
またデカイシャツ(多分また息子の)を着て、風呂場を出るとリビングにボサボサ男がいた。

源「あ、おかえり。傷は痛まなかった?」

紅葉「……。別に。」

私はまたベランダに出ようとした。
が、ボサボサ男に止められた。

源「出てもいいけど手当てくらいはしようね?」

にこにこヘラヘラしてるけど、このバカっぽい笑顔の裏には何を企んでんのか……。

私は掴まれた手を冷たく乱暴に払いのけた。

⏰:07/08/20 21:56 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#34 [向日葵]
紅葉「結構よ。直に治る筈だし。」

そう言って私はまた雨が降り続けるベランダへと出た。

源「雨好きなの?」

ボサボサ男が尋ねた。

好き?

紅葉「んな訳ないでしょ。バーカ。」

ピシャン!

何を根拠に好きと言えるか。こんな忌まわしいもの。

⏰:07/08/20 22:00 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#35 [向日葵]
でもアンタ達みたいな生温い奴と一緒よりも、雨と共に過ごした方がまだマシだ。

いずれ死ぬ時には必ず雨を選ぶ。

あの人に、雨が来る度思い出させてやるんだから……。
その誓いを忘れない為に、こうしてここにいるの。

***************

静流「あれ。チビ猫は?」

風呂上がりの静流は肩にバスタオルをかけてTシャツとジャージの半パンを履いてリビングに現れた。

⏰:07/08/20 22:06 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#36 [向日葵]
源は少し困った顔をして笑うとベランダの方を指差した。

静流「手当て素直に受けたんだ?」

救急箱を見ながら問うと、源は首をゆっくり横に振った。

源「嫌らしいよ。触れることすら駄目みたい。」

静流「あのバカ…。」

ガラガラ!

静流「オイ!」

紅葉「何よ変態。」

そこで怒鳴りそうになる自分をグッと堪えて、静流は紅葉を抱き上げた。

⏰:07/08/20 22:13 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#37 [向日葵]
***************

紅葉「?!ちょっと!何すんのよのぞき魔!」

肩に担がれて足をジタバタさして抵抗するも息子は降ろそうとはしない。

静流「父さん。救急箱もらうよー。」

そう言って自室へと私を運んだ。
部屋に入るとベッドに丁寧に私を置いた。

静流「傷のトコ出せ。」

救急箱から包帯やらガーゼやらをゴソゴソ出しながら息子が言う。

私は無視して顔を背けた。

⏰:07/08/20 22:17 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#38 [向日葵]
静流「早く治した方がその分早くウチから出られるんだぞ。」

それもそうだ……。

私は仕方なく顔や手足を出す。
手慣れているのか手つきがテキパキしていた。

そんな様子を見ていた私に気づいて、息子はフッと笑った。

静流「父さんが結構おっちょこちょいでさ。俺いつも看護係だったって訳!」

紅葉「別に聞いてないし。」

息子は何がおかしいのかまたフフッと笑った。

⏰:07/08/20 22:21 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#39 [向日葵]
静流「なんか切りないな。逆に笑える。」

息子はクククと笑いながら救急箱をバタンと閉めた。

私はまたベランダに向かおうと立ち上がった。

静流「ハイそうはいきませーん。」

バフッ!

紅葉「?!」

いきなり視界がドアから天井に。
呆然としていると息子が私に布団をかけた。

紅葉「ちょ、勝手な事しないで!私はここで寝るなんて一言も……っ!」

静流「行きたいなら行けば?俺は宿題あるからここにずっといるし、お前を何度でも布団に戻す事は出来る。」

⏰:07/08/20 22:52 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#40 [向日葵]
私は歯と歯を力強く噛み締めて歯ぎしりをした。

ムカつく!
いちいち勘に触る奴!
コイツ嫌い!!

私は布団を頭から被ると息子からそっぽを向いた。
すると私の頭らへんを布団越しにポンポンと叩かれた。

騙されないんだから……。
今優しくしてても、どうせ皆後から化物に変わるんだから……。

―――――……

ザァー……

⏰:07/08/20 22:56 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#41 [向日葵]
雨は一向に止まない。
寧ろ逆に激しくなっている。

私は直ぐに寝る事が出来なくて何度も寝返りをうつ。
すぐ側の机では息子が勉強をしていて、シャーペンと紙が擦れる音が聞こえる。

起き上がってその後ろ姿を見る。
ときどき教科書を見てるのか横顔を見ると眼鏡をかけていた。

なんでコイツは私に構うんだろう……。
無駄にうっとおしい……。
気づいてなさそうだし…、ベランダに行こう。

⏰:07/08/20 23:07 📱:SO903i 🆔:MmQkyVrg


#42 [向日葵]
そーっとベッドから降りようとした。
トテッとフローリングに足をつける。

静流「動いてんのバレバレ。そんなに相手して欲しいの?」

紅葉「――っ。違うわよ!」

*****************

所詮は子供だな……。

静流は教科書に目を戻してそう思った。
意外にこちらが冷静に対処していれば、紅葉は扱いやすい。

初めは死にたいとか連呼するせいで頭に血が登っていた。

⏰:07/08/21 01:20 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#43 [向日葵]
静流「なぁお前さ、どこに住んでたんだ?」

紅葉「黙秘権。」

静流「言うと思った。別にいいけど。」

問題を解きながら後ろの気配に神経を研ぎ済ます。
以外にも今は大人しくしている。

紅葉「ねぇ息子。」

思わず吹いた。

静流「はぁっ?!それ俺のこと?!」

紅葉「他に誰がいんの。馬鹿ねアンタ。」

静流「俺名前言ったよね?忘れたの?」

⏰:07/08/21 01:25 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#44 [向日葵]
眼鏡を外して紅葉の方を見れば、ベッドではなくドアの方にいて、そこでもたれて体育座りをしていた。

紅葉「覚える気なんてない。どうせアンタ達も同じ。いずれ私がいなくてせいせいすると思う日が来る。」

うつ向きながら言う彼女の声はとても一本調子で、でも寂し気だった。

紅葉「この部屋嫌い。ベランダ行く。」

ガチャ バタン!

静流はただそれを見てるだけだった。
彼女はもしかして、自分からではなく、母親に捨てられた……?

⏰:07/08/21 01:29 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#45 [向日葵]
******************

もう人がいなく、電気が消えたリビングを横切って、私はベランダへ出る。

ザァー……

雨粒が、体に当たる。

さっき問おうとしてた事。それは何故アイツは私に構うかだ。

私なんて放っておけばいいのに…。
私で時間を無駄にしなくていいのに…。

紅葉「ホント馬鹿だ。」

静流「それは俺の事か?」

びっくりして後ろを振り向くと、息子が立って私を見下ろしていた。

⏰:07/08/21 01:34 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#46 [向日葵]
すると息子は私の隣にやって来た。

宿題はどうしたよ……。

紅葉「アンタ以外いないし。」

反論してくるかと思いきや、息子は何も言わず黙ったままだ。

なんだコイツ。

静流「あのさ……。ここで住まない?」

耳を疑った。
思わず笑ってしまう。

紅葉「は?何言ってんのアンタ。頭大丈夫?」

⏰:07/08/21 01:38 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#47 [向日葵]
静流「だって出て行っても行くとこないだろ?」

紅葉「嬉しいながらあるのよ。」

私はそう言って空を差した。

すると凄い力で肩を掴まれて息子の方に体を向けられた。

静流「俺の母さんは…、病気で早くに死んだ。……生きたくても、生きれなかったんだ。」

紅葉「贅沢言わずにお前は生きろとでも言いたいの?アンタの勝手な思想を私に押し付けないでくれる?」

すると掴んでいる手に力がより入る。

⏰:07/08/21 01:42 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#48 [向日葵]
静流「……。生きる努力くらいしようよ。」

努力?

そんなの死ぬほどしたわよ。

紅葉「アンタに……私の何がわかるの……。」

嫌い。
コイツ嫌い。

私は肩に置いてる手を払い除けて手すりに足をかけ、そこに座った。

静流「馬鹿!危ない!」

紅葉「知ってる?!私はね、12歳の頃から母さんに殴られてるの!」

⏰:07/08/21 02:52 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#49 [向日葵]
雨は降り続く。
止むことはない。

息子は驚いた顔で私を見ている。

紅葉「止めてって何度も避けんだ!でもあの人は、まるで私をストレス発散の玩具みたいに扱ったわ!」

記憶が溢れ返る。

痛くて、泣き叫んで、でも誰も助けてくれなくて。

面白がって見る人、怖がって遠ざかる人。
友達と呼べる人すらいなくなった。

紅葉「人は汚い。同情なんていらない。私を必要としてくれないなら、私はもう不要じゃない!」

⏰:07/08/21 02:56 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#50 [向日葵]
いつから?

母さん。私の事、いつから嫌いだった?

私必死にいい子になろうとした。
なのにそれはなんの意味も無くって……母さんはただ嘲笑ってひたすら殴った。

意味をもたないならもういい。
抵抗しなくなったらまた殴る蹴る。それは激しさを増して、私は気を失った。

あの時、やっと天に昇れると思った。
やっとこの汚い世界から逃れられるって。

紅葉「なんで生きなきゃいけない?アンタだって、所詮母親と私を重ねてるだけじゃな……っ。」

⏰:07/08/21 03:00 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#51 [向日葵]
息子が、私を抱き締めた。

静流「俺は……紅葉を必要とするよ……。」

紅葉「何馬鹿な事言ってんの?離してよ。」

静流「もう我慢しなくていいからさ……。泣きなよ。」

腕から逃れたくて、身をよじると力が更に加わった。

紅葉「嫌だ…。同情なんて……いらない。」

静流「同情って思ってていいよ。でも紅葉は、温もりが欲しいんでしょ?なら、俺があげるからさ……。頼むから死ぬなんて言わないで……。」

⏰:07/08/21 03:04 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#52 [向日葵]
紅葉「やだ……やだやだやだ!どうせこんな事して、私がいらなくなるんでしょ?!」

静流「絶対離さない!お前が消えたら見つかるまで探しに行くし、辛いなら頼れる場所を作ってやる!」

なんで……?

私がコイツを嫌いな訳。
コイツの目の奥に、優しさがあるって分かってたから。

優しさに甘えて傷つくのが私は怖い。
裏切られるのが怖い……。

紅葉「彼女いるくせに……そんな台詞吐いていい訳?」

⏰:07/08/21 03:09 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#53 [向日葵]
静流「ハハッ!ホント猫みたい。甘えたいなら甘えたらいいのに。意地っ張りだな。」

頭を優しく撫でられて、最後の最後まで我慢していた何かが外れた。

紅葉「ふ…えぇ……っ。」

カッコ悪い……。泣いてしまうなんて。
散々信じようとしなかった人間を信じてみようだなんて……。

馬鹿だ……。私は馬鹿だ……。

息子は私が泣き止むまで抱きかかえて頭を撫でてくれた。

久しぶりの人の体温は、思ったほど悪くはなかった。

⏰:07/08/21 03:13 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#54 [向日葵]
――男――





静流「紅葉。飯だぞ。」

紅葉「いらない。」

拾われて二日目。
まだ人間不信が少しだけ残ってる私だが、少しずつ信じる努力をしていた。

相変わらずベランダ近くにはいるが、外には出ない様になった。

⏰:07/08/21 03:16 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#55 [向日葵]
静流「お前昨日も食べなかっただろ。ホラ、おいで。」

紅葉「や!ちょっ!」

静流は何かと私が渋ると正に猫が如く抱き上げる。

そして膝の上に乗せる。

紅葉「私は子供じゃない!」

静流「同じようなもんじゃん。」

私達の様子にボサ…じゃなかった。源さんも満足しているらしい。

一番最初に静流に躾られたのは名前。
息子とボサボサ男はNGワード。

⏰:07/08/21 03:20 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#56 [向日葵]
これを守っているのも私の人を信用する練習のようなもの。

そんな事をブツブツ考えてたら、口の前にご飯を乗せたスプーンがあった。

静流「お粥だから。食べてみ?」

紅葉「駄目……。無理!私……吐いちゃうの……。」
うつ向いてそう告げると、静流は溜め息をついて一旦スプーンを置いた。

静流「じゃあ少しずつ食べてみよっか。」

頭を撫でながら優しく言うと、私を一度下ろして何かを取りに行った。

⏰:07/08/21 03:24 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#57 [向日葵]
戻ってくるとアイスを食べるくらいの小さいスプーンを持ってきた。
そしてまた私を抱き上げて膝に乗せる。

静流「これで少しずつ食べる練習しような?」

笑いかけてくれる度に、反応に困る。
しばらくこんな優しくされる事なんてなくって、どうすればいいかなんて忘れてしまった。

紅葉「時間かかるから、静流食べたらいいじゃない。」

静流「ったく!心配してるのが分かんないの?俺なんかどうでもいいから!さっさと口開ける!」

⏰:07/08/21 03:29 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#58 [向日葵]
静流は結構直球人間で、思った事をバンバン言うし、感情も豊かなのか分かりやすい。

それもまた私は苦手で、今みたいに心配だと言われると正直困る。

恐る恐る口を開くと、ホントに少量の米粒が口の中に入ってきた。

……でも。

紅葉「うっ!!」

静流「紅葉?」

私は静流の膝から降りてトイレに直行。
やっぱりリバースした……。

⏰:07/08/21 03:33 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#59 [向日葵]
****************

源「なんか急に素直になったけど、昨日なんかあった?」

紅葉のリバース中、源が尋ねた。

静流「説教も兼ねてちょっとカウンセリング。」

静流を完全に信じる気になってないのは静流自身も分かっている。
でも昨日よりはそれはもう随分マシになって、紅葉は静流に結構なついている。

静流「なんとなくアイツの事分かってさ。なんだか妹が出来たみたいでさ。」

⏰:07/08/21 03:37 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#60 [向日葵]
源はにっこり笑うと、食べた食器を台所に移し出した。

源「とても可愛らしいじゃないですか。僕も娘が出来たみたいで嬉しいよ。」

静流「俺達が大事にしないと駄目だしな!」

もうすっかり紅葉がこの家の一員となってるのを紅葉本人は気づいていないだろう。

少し天邪鬼な所を除けば、ホントに紅葉は可愛く、少し照れ屋なのがまた愛嬌なのだ。

源「静流君は紅葉ちゃんがすっかりお気に入りですね。」

⏰:07/08/21 03:42 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#61 [向日葵]
クスクス笑いながら言う源の言葉に、静流は照れた。

静流「まぁ認めない訳じゃないけどー。ってかアイツ遅いな。」

席を立ってリバースしに行った静流を見て、過保護だなぁと源は笑った。
もともと優しい子なので、妹みたいな存在が出来、それに拍車がかかったらしい。

・・・・・・・・・・・・・

静流「紅葉ー。平気かぁー?」

ノックをしても返事がない。

⏰:07/08/21 03:45 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#62 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/21 03:45 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#63 [向日葵]
ゆっくりと扉を開くと……

静流「!紅葉?!大丈夫か?!」

紅葉はトイレの壁によりかかっていて青ざめていた。

紅葉「ご……め……。」

静流はとりあえず彼女を抱き上げてリビングのソファーに寝かせた。

源「大丈夫……?!お水は飲めるかな?」

紅葉は力なく頷いた。
静流はタオルを濡らして紅葉の頭に乗せてやる。

***************

紅葉「う、うぇーっ!」

⏰:07/08/21 18:51 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#64 [向日葵]
私はまだあの家にいる頃からろくに食事を与えられなくなった。

一度、お腹が空いたと感覚がなくなってしまった時、チョコを内緒で一かじりした事がある。

でも、しばらく食事を与えられてなかった私の体は食べ物を受け付けなかった。その時も、直ぐにトイレに駆け込んでしまった。

紅葉「ぅえっ……。ゴホッ……。」

私こんなのでご飯食べれる様になるのかな……。

そう思ってから、目の前がいきなり暗くなった。

⏰:07/08/21 18:56 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#65 [向日葵]
しばらくすると静流が来て、私を運んでくれた。

私は水を一口含んで落ち着いた。

静流「大丈夫?」

目を開けると静流がいた。いつも私を運ぶ大きな手で私を撫でてくれた。

紅葉「いつもの事だから……。」

吐いた後のせいで声がしゃがれる。

静流「もう寝るか……?」
私はまた力なく頷く。
するとまた静流が運ぼうとするので、私は拒否して自分の足で歩いた。

⏰:07/08/21 19:00 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#66 [向日葵]
静流「無理すんな?」

紅葉「これ以上、醜態さらしたくないから……。」

壁に手を付きながらゆっくり歩く。
その後ろで静流は私が倒れない様に支えてくれる。

静流「子供が無理すんじゃねえよ。俺一応男なんだからさ、お前運ぶくらい軽いっつーの。」

男……ねぇ……。

私の父親は、10歳の時に母と離婚した。
正直いてもいなくても同じ様な影の薄い人だったから、あんまり記憶がない。

12歳の初め頃から暴力を受け続けて、男は愚か、女まで私から遠ざかった。

⏰:07/08/21 19:05 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#67 [向日葵]
――――――――

キリます

⏰:07/08/21 19:06 📱:SO903i 🆔:ZlIFEGwM


#68 [向日葵]
静流くらいの男の子に関わるのは初めてかも。

そう思いながらよろよろ頼りない足取りで行く。
いつもより静流の部屋が遠い気がした。

と、足許から地面が無くなった。

紅葉「え……っ!」

静流「遅い!もう俺が運ぶ。」

軽々私の体を抱えた静流はスタスタ歩いてあっという間に部屋に着いてしまった。
抱えられながら、父親って言うか、兄さんってこんな感じなのかなぁとぼんやり思った。

⏰:07/08/24 00:59 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#69 [向日葵]
静流は私をベッドに座らせて、その前で膝立ちになる。そうすると私の目線とほぼ同じくらいになった。

静流「お前さ、軽すぎだと思ったら拒食症になってんだよ。」

紅葉「きょ……しょく……。」

知ってる。
ご飯が食べられない病気みたいなの。

紅葉「仕方ない。前の家では、死なない程度しか食事を与えてくれなかった。」

私はそう言って左腕に巻かれている包帯を見つめた。

抵抗も、食事も食べなくなってしまった私を良いことに酷くなる一方だった母さんの拳。

⏰:07/08/24 01:06 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#70 [向日葵]
包帯を見ていた視界に、細くて長い指が私の腕に触れるのが見えた。

静流「傷……痛むか?」

包帯を見たままゆっくりと首を振った。

痛くはない。思い出してしまうのが辛いだけだ。

静流は頭をクシャッと撫でると私の頭を少し上げさせた。

静流「明日、学校の帰りに何か食べれそうなの探して来てやるよ。」

紅葉「そんなの……見つかりっこない。」

静流「そんなのわかんねーよ。な?」

⏰:07/08/24 01:11 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#71 [向日葵]
静流は穏やかに微笑んで私を見つめる。

優しくされるのは困るけど嬉しくない訳じゃない。
……でも辛い。

何も答えてあげることが出来ない自分のふがいなさに地団駄を踏みたくもなった……。

*****************

翌日―――……

キーンコーンカーンコーン……

授業終了を告げるチャイムと共に静流は立ち上がる。

「ん?何だよ静流。そわそわしちまって。」

友達の磐城 香月(いわきかつき)が静流に問う。

⏰:07/08/24 01:16 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#72 [向日葵]
静流「わっるい香月。俺帰ったって担任に言っといて!」

香月「あぁ?メンド!それなら俺だって帰るし。って訳で皆おっ先ー。」

クラスのブーイングを受けながら二人は廊下へ出た。すると

「あれ。静流?」

振り向くとそこにいたのは静流の彼女。

静流「あ、双葉。」

双葉は皆から頼れるお姉さんとして人気があり、茶色がかった髪の毛はとても綺麗だ。

⏰:07/08/24 01:24 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#73 [向日葵]
双葉「一緒に帰らないの?」

静流「ちょっとスーパーよらなくちゃいけなくてさ。」

双葉「あ!私も行く!買いたい物があるんだ。」

二人のヤリトリを見ていた香月は「俺は邪魔だな。」と思ったのか自主的にその場を離れた。

静流「じゃあ、行こっか。」

双葉「うん!」

二人は仲良く手を繋いでスーパーまで行くのであった。

⏰:07/08/24 01:28 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#74 [向日葵]
****************

私はベランダの入口で座っていた。

今日は良い天気みたい。
雲は多いけど太陽はちゃんと見える。

後ろでは源さんが何かを作っているのかカチャカチャと音がする。

紅葉「何……してるの?」

源さんはドライバーを置いて私の方へニコッと笑いかけた。

源「未来で役立ちそうなロボットの試作品さ。とっても小さいけどね。」

⏰:07/08/24 01:32 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#75 [向日葵]
私は側に寄って見ると、確かに小さい。
何に役立つんだろう……。家の経済ってそれで成り立ってるのかもしれない……。

源「静流君はどうだい?」

優しく奥深い目が、ボサボサの前髪から覗き私を見る。
どう答えてもいいらしい。

私は顎に手を当てて何度か瞬きしてから口を開いた。

紅葉「良く言えば優しい。悪く言えば過保護。」

そう言うと源さんはハッハッハと笑った。

⏰:07/08/24 01:36 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#76 [向日葵]
紅葉「それと……。」

私が言葉を続けると、源さんは笑うのを止めて「ん?」と言った。

紅葉「男の子って皆あんなの?私、兄さんとかいなかったからわかんなくて……。」

少しズレていた眼鏡をクイッと上げて源さんは少し唸った。

源「男の子ってさ、女の子が思うほど強くなくてね。どっちかと言えば女の子より少しデリケートなんだよ。」

デリケートねぇ……。
デリケートが故に私を心配してくれてるのかしら……。

⏰:07/08/24 01:41 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#77 [向日葵]
源「それと、君がとても可愛いみたい。だからつい構いたくなるんだよ。」

ふにゃあと笑う源さん。

可愛い?私が?
男の子って分かんないなぁ……。
どこをどう見て私が可愛いと言えるだろうか。

眉を寄せてる私に気付いた源さんは、頭を撫でる。

源「君にもいづれ、なんらかの感情に気づく時だってくるさ。」

もう一度微笑むと、源さんはまた作業にとりかかった。

すると足音が聞こえた。

⏰:07/08/24 01:46 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#78 [向日葵]
静流「ただいまー。」

双葉「こんにちはー。」

私はびっくりして源さんの後ろへ隠れた。

誰……この人……。

源「双葉ちゃんいらっしゃい!ゆっくりしていってね。」

双葉「ありがとうございます。ん?……あ!この子ね!静流が話してた子!」

は?私を知ってる?
ってか話したって何?

女の子は興味津々で私に近づく。私はその度に一歩ずつ離れた。

⏰:07/08/24 01:50 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#79 [向日葵]
双葉「初めまして紅葉ちゃん。私は双葉。静流の彼女なんだ。」

これが……彼女……?

双葉「あーホントだー傷だらけ…。痛くない?」

何がホント……?

私は嫌悪感で一杯になって静流を睨む。

紅葉「アンタ……何を離したの……?」

私が怒ってるのに気づいてないのか、静流はしれっとしている。

静流「傷だらけの子を拾って看病してるって言っただけだけど?」

拾った……とか。
間違ってないけどそれをわざわざ第三者に告げる必要がある訳?!

⏰:07/08/24 01:54 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#80 [向日葵]
しかもこの女の子の無駄に馴れ馴れしい態度……。

まるで全て把握して、私を哀れんでいるその目。

私がこの世で一番大嫌いな“同情”。

双葉「紅葉ちゃん。これからよろしくね。」

握手を求められた手を、私はパチンと払いのけた。

紅葉「静流。私の素性をそんなにベラベラだらしなく喋らないでちょうだい!貴方も、初対面なのに馴れ馴れしくしないで!」

私はカーテンを閉めてからベランダに出た。
あの人が出て行くまで姿を見せたくないからだ。

⏰:07/08/24 01:58 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#81 [向日葵]
最低。

静流のバカ。
私は、私を分かってくれる人なんていなくていいんだから……っ!

**************

ベランダに紅葉が出てしまった後、リビングでは気まずい空気が流れた。

双葉「ご、ごめんなさい…。静流……。」

静流「あ、違うよ。俺がちょっと、無神経だったから……。」

やっと自分達に慣れたのだから、少し視野を広げてみてはと思ったんだが、静流は敢えなく失敗してしまった。

⏰:07/08/24 02:04 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#82 [向日葵]
静流「部屋にいこっか……。」

双葉「あ、ウン。おじさんも、ごめんなさい。」

源「構わないよ。」

双葉は弱々しく笑うと、静流と一緒に部屋に行った。

・・・・・・・・・・・・・・

双葉「静流の部屋はいつ見てもシンプルだねー。」

ベッドに座りながら双葉が言った。
カバンを机に置いてから、静流も双葉の隣に座る。

双葉「でもちょっと妬くよ……。」

静「え?」

⏰:07/08/24 02:07 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#83 [向日葵]
照れ笑いを浮かべながら双葉は静流を見つめる。

双葉「妹みたいって思ってるって分かってるけどね……。」

そんな双葉を愛しく思った静流は、優しく双葉を抱き締めた。

双葉も甘える様に静流の背中に手を回して抱き締める。
少し抱き締め合った後、距離を取ってお互いの顔を見つめる。

静流「俺は双葉が好きだから…。」

双葉「ウン…。私も静流が好き…。」

⏰:07/08/24 02:11 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#84 [向日葵]
好きを言い合い、二人の唇が重なった。

***************

ガラガラガラ

ベランダの戸を開けたのは源さんだった。

源「ゴメンネ紅葉ちゃん。」

紅葉「源さんは悪くない。問題は静流よ。」

人の事ベラベラベラベラ勝手に喋って。
プライバシーの侵害よ!

源さんは入口に座ると空を眺めた。

源「証拠だよ……。」

⏰:07/08/24 02:14 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#85 [向日葵]
ポツリと呟く。

私は気のせいかどうか分からなかったので源さんに目を向けた。
すると源さんは穏やかに笑って口を開いた。

源「それだけ静流にとって紅葉ちゃんが家族同然になってるって事だよ……。」

家族……。

耳慣れなうその言葉に、私は反応に困った。

源さんは頭を二回程ポンポンと叩くとまたリビングに戻った。
私もリビングを覗いて見ると、二人の姿はもう無かった。

⏰:07/08/24 02:18 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#86 [向日葵]
空を見上げて一回ため息をついた。

[初対面なのに馴れ馴れしくしないで!]

少し……言い過ぎ…たのかなぁ……。

謝るべきか分からない。
あちらだってこっちの気持ち知らずにベタベタしてきたし……。

私は立ち上がってリビングに入った。
後ろ手に戸を閉めながら、先ほどの彼女とやらを訪ねに行く事にした。

あと、静流にも少し話をしておこう。

トテトテフローリングを歩いていき、部屋前まで行った。

⏰:07/08/24 02:23 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#87 [向日葵]
普段から別にノックなんかしないから、私は普通にドアを開けた。

でも、これが間違いだった。

紅葉「ねえ静……っ!!」

目の前は、お互い服が乱れて唇を熱く重ねる二人が、ベッドに横たわっていた姿だった。

向こうも想定外だった状況にびっくりして、直ぐ様体を起こし、服を整えた。

紅葉「……っ!!」

バタン!!

私はびっくりして、何も言わず、言えず、部屋を出た。

⏰:07/08/24 02:28 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#88 [向日葵]
な、……何……今の……。

私は、あんな事をしてた布団で昨日まで寝てたの……?

その時、何故か私は嘔吐感に襲われて、それをなんとか噛み砕いて、またリビングに戻った。

おかしい……。アイツらもおかしいけど私もおかしい……。

何故か……心臓痛い……。病気かな……。

源「どうかしました?」

源さんに呼ばれて、私はハッとした。

⏰:07/08/24 02:32 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#89 [向日葵]
泣きそうになるのを堪えて首を横に振った後、源さんが座ってるイスの後ろに体育座りをした。

だからだ。
静流が私の体を持ち上げたり、膝に乗せたりするのに慣れていたのは。

そう思った瞬間、なんだか静流がとても汚い物に思えてきて、体がゾーッとした。

・・・・・・・・・・・・・・

双葉「じゃあ、お邪魔しました。」

やっと彼女が帰るらしい。
ベランダでその声を聞きながら私はまだ身震いしていた。

⏰:07/08/24 02:37 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#90 [向日葵]
コンクリートで出来たベランダの柵の隙間から、門前にいる静流と彼女が見えた。

何か話している。
当然声は聞こえない。

そろそろ帰るのかと思った頃、二人はまた唇を重ねた。

別れた後、家に入る静流と目が合った。

自分でも分かるくらい静流を冷たい目で見ている。

しばらくしてから、リビングに静流がやって来た。
と思ったら、案の定こちらにやって来た。

ガラガラ

静流「……。ノック、ぐらい……しろよな。」

⏰:07/08/24 02:42 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#91 [向日葵]
私は口を開かなかった。

まだ媚りついている。
キスに集中している静流の姿……。
考えただけで嫌になった。

すると機嫌をとるかの様に、静流がまた話した。

静流「紅葉が食べれそうなもん選んできたんだ!中に入って見てみろよ!」

紅葉「嫌。」

しばらくの間。

とりあえず今は静流に優しい態度なんか取れやしなかった。

頭に残るのは気持ち悪いって言葉。
胸に残るのは経験した事のない痛み。

⏰:07/08/24 02:47 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#92 [向日葵]
静流「あのさぁ、何が気に食わない訳?お前になんか悪い事でもした?」

紅葉「ほっといて。」

静流「確かにベラベラ喋ったのは謝るけど、そっちだって急に入ってくるし、お互い様だろ?」

紅葉「あんな事してるベッドによく私を寝かせれたよね?!」

私は静流を睨みつけて怒鳴った。
静流は驚いて目を見開いていた。

紅葉「あんな獣みたいにベタベタ体触った手で、よく私を触れたよね?!」

静流「は?!好きなら当たり前の行為してるまでだろ!」

⏰:07/08/24 02:52 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#93 [向日葵]
静流も遂に怒り出して怒鳴り散らす。

紅葉「手慣れた手つきで抱き上げたりして……。私をそこらの女みたいに扱わないで!今の静流は気持ち悪い以外何でもない!!」

そう言って私はベランダの戸をピシャリと閉めた。

静流「意味分かんねぇよ!」

ダァンッ!!と戸のガラスを叩いて、静流はシャッとカーテンを閉めた。

紅葉「馬鹿…静流の馬鹿……。」

私は目に涙を溜めた。

静流が私を優しく扱ってたのは、優しさからくる心遣いじゃなくって手慣れてただけだったんだ。

⏰:07/08/24 02:58 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#94 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/24 02:59 📱:SO903i 🆔:xMnB1jfs


#95 [向日葵]
私の中で、静流はとても綺麗な存在だった。

そこら辺にいる男を知るほど私は男と関わった事は無いけれど、静流は違う感じがしたんだ。

なのに……

また静流と彼女とのキスシーンが頭をよぎる。

やっぱり静流もそこら辺の男と同じだったんだね……。

いつの間にか暗くなっていった空には月が出ていた。私は孤独に月明かりに照らされる。

紅葉「やっぱり…皆汚いのね……。」

⏰:07/08/25 02:03 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#96 [向日葵]
*************

ザバーン!!

派手に浴槽のお湯を溢れさせながら静流は湯船に浸った。

静流「あぁー!もう!なんだよアイツ!」

そんなに俺が汚く見えるかよっ!
だって仕方ないだろ?!彼女がいる奴なら分かるよな?!彼女が可愛く見えたらそりゃ理性も吹っ飛ぶってなもんだろうがよ!

紅葉[あんな事してるベッドによく私を寝かせれたよね?!]

……でもアイツにとっては、汚いものなのかもしれないな……。

⏰:07/08/25 02:07 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#97 [向日葵]
色んな欲望にまみれた大人に囲まれて、殴られ、なぶられ、捨てられて……。

多分そこからアイツの潔癖な所が生まれたんだろうなぁ……。

首までお湯に入り、口でプクプク気泡を作りながら一人静流は考えていた。

きっと今の調子では紅葉は食べ物を食べるどころか触れる事すら許してくれないだろう。

それならば……。
と思い、静流は勢いよく湯船を出た。

**************

コンコン

振り向くと源さんが手招きしていた。

⏰:07/08/25 02:11 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#98 [向日葵]
少しだけ隙間を開けて、源さんと会話をする。

紅葉「中になら入らないから。」

源「それは困ったな。君に見せたい物があるんだけどなぁ。」

見せたい物?

片方の眉を寄せて源さんを見ると、源さんはテーブルの上から何か物が一杯入ったスーパーの袋を持って来た。

源さんはそれを一個一個出していく。
私はそれをガラスを越しに見た。

それは……。

⏰:07/08/25 02:16 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#99 [向日葵]
紅葉「なんで……こんな……。」

林檎やイチゴを始めとする果物やゼリー、プリン、ケーキ、ヨーグルト……その他も一杯次々に出てきた。

驚いて口を開けたままになった私に源さんが告げる。

源「静流君がね……君の為に買って来たみたいだよ?」

紅葉「私の……為……?」

源さんは大きく頷いた。

何で?私はそこまでしてもらう事ないのに……。

⏰:07/08/25 02:20 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#100 [向日葵]
源「言ったでしょ?君の事が可愛いって……。」

紅葉「そ、んな……。」

そんなの源さんが思ってるだけだと思ってたもの。

静流が優しい事くらい充分分かってた。
でも私の為に……ここまで……。

源「静流君は変わった子でしょ?今時に珍しい真っ直ぐな子でね。」

紅葉「……。」

私、酷い事言った……。
汚いって一杯言ったし、静流の気遣いなんかこれっぽっちも気付かなかった。

⏰:07/08/25 02:24 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#101 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/25 02:25 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#102 [向日葵]
静流「紅葉!」

ビクッとしてリビングの入口を見ると、頭にタオルをかけて湯上がりの静流がいた。

半袖から除いてる少し筋肉がついた腕が、なんだか赤い気がするのは気のせいだろうか。

静流「もう部屋で紅葉が嫌がることはしない。家に帰ってきたらすぐに風呂にだって入る!」

そう言って源さんな隣までくると、ストンと座った。

そして私をじっと見つめる。

静流「だから汚いとか思うなよ?」

⏰:07/08/25 10:59 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#103 [向日葵]
私は息を飲んだ。

静流は痛いほど優しくて真っ直ぐ……

私は反応に困ってしまうけど

唯一、今、私が出来る事。

私は赤く熟れた林檎を一個持って、静流にズイッと渡した。

紅葉「……これ、食べて……みる。」

二人はそれは嬉しそうに笑った。

私が今出来る事。
それは二人がこうして笑ってくれる様に努力すること……。

⏰:07/08/25 11:04 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#104 [向日葵]
源さんはスーパーの袋にまた入ってた物を戻してキッチンへ向かう。

静流「じゃあ……おいで。」

手をさりげなく出す静流。私が拒否するのを怖がってるらしい。

私はその掌を無視して、赤くなってる気がする腕に指先を触れてみた。

すると静流がビクッと体を震わす。

どうかしたのかと静流を見ると、静流は苦笑を浮かべていた。

静流「紅葉が汚いと思わない様に気合い入れて洗い過ぎた。」

⏰:07/08/25 11:08 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#105 [向日葵]
あ……だからか……。

また心臓が痛くなる。

でも辛い痛みじゃない。

なんだか顔の筋肉が緩みきってしまいそうな、そんな痛み……。

私は静流の指先を少し握ってその赤くなってしまった腕を見つめた。

紅葉「……ごめん、なさい。」

静流はため息混じりに微笑む。

静流「触っても平気?」

私が握っていない方の手をちょっと出して、念のために聞いてくる。

⏰:07/08/25 11:12 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#106 [向日葵]
私は腕を見つめたまま小さく頷いた。
すると静流は私をゆっくり抱き上げた。
そしていつもみたいに膝に乗せてくれる。

男は不思議。
私にとって未知の生物。

獣みたいだとか、気持ち悪いと思ったりするけど、実はとっても優しかったり、そして純粋だったり……。

でももっと未知なのは私だ。

今こうして膝に乗れる事が嬉しいのに……。
頭をよぎるあの女の子に同じ事をしてると思ったら

なんだか胸が苦しくなった……。

⏰:07/08/25 11:18 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#107 [向日葵]
―妬―





紅葉「ゲホッ!」

いつも通り、今日も食べる練習。

この前静流が買ってきてくれたヨーグルトに挑戦中。

……が。

紅葉「何このネトネト……。最近なヨーグルトって皆こんなの……?」

昔食べた時はもっと美味しかった記憶があるんだけど……。

⏰:07/08/25 11:21 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#108 [向日葵]
静流は私の口の端についたヨーグルトを布巾で拭いてくれる。

これじゃ完璧幼児扱いだ……。

静流「ヨーグルトは駄目かぁ……。果物系はなんとかギリギリいけたんだけどなぁ。」

林檎とイチゴはなんとか吐くのを堪えながらいけた。
流石にバナナはきつかったけど……。
だってあのニチョニチョした歯ごたえが思い出しただけでも嫌気がさす。

源「そういえば、服はどう?見た所サイズはピッタリだね。」

⏰:07/08/25 11:27 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#109 [向日葵]
サイズはピッタリ……。
だけどデザインは如何な物だろうか……。

源さんはこの間服が無くては不便だろうと言って何十着も買ってきてくれた。

しかし……

まるでどこかの古いお嬢様みたいなフリルが着いたワンピース……ってかもうドレスに近い……。

でもなんだか文句を言えなくてついつい

紅葉「大丈夫。」

と答えてしまった。

紅葉「今日はもうご馳走様…。なんか疲れた。」

⏰:07/08/25 11:31 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#110 [向日葵]
静流「俺も学校行かなきゃな。っとその前に、紅葉。包帯代えよっか。」

静流は私を膝から下ろして、救急箱を持ち出して来た。

私の傷は、食事を余り取らないせいで栄養不足のせいか、傷の治りが遅い。

静流は無い時間を使って、朝早く起きては私の食事のお守りをし、今の様に傷の手当てをしてくれる。

私は申し訳なくて、少し辛い。

私が落ち込んでいるのを察知した静流は、頭を一撫でしてくる。

⏰:07/08/25 11:36 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#111 [向日葵]
静流「焦る事なんて無いだろ?お前はこの家の一員なんだから。」

微笑む静流に困る私。

私はこのままここにいて良いんだろうか……。

今は静流の説得があってか、死のうとは思わない。

でも、ここに居続けてはいけない気が何故かしてる。
傷が治っても、静流は優しいままだろうか……。

静流「じゃ!学校行ってくるわ!父さん、紅葉お願いね。」

源「静流君も気を付けて。」

⏰:07/08/25 11:40 📱:SO903i 🆔:Tib/Thss


#112 [向日葵]
私は無言で静流を送る。
じっと見つめていると、静流が少し屈んで私の目の前まで顔を近付けた。

私は思わず少し顔を引く。

静流「紅葉は言ってくれないの?行ってらっしゃい。」

そんなの今まで一度も言った事ないし。
なんで今日に限って?

紅葉「行って来い。」

静流「え?!命令系?!ひっでー。じゃあいい子に待ってろよ?」

バタン

⏰:07/08/27 01:55 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#113 [向日葵]
いい子って……。
完璧な幼児扱いじゃないか……。

別に悪さした覚えもないし……。

不満な顔で源さんを見つめると、源さんはニッコリ笑って私の頭を撫でるだけだった。

頭を撫でられながら、私はどうやら二人にとって幼児なのだなと諦めて納得した。

*****************

「静流おはよー。」

静流「おう!うっす。」
あちらこちらからの朝の挨拶をされた静流は、適当に返して教室に入っていった。

⏰:07/08/27 02:00 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#114 [向日葵]
香月「うっす静流。」

席に着くと、直ぐに友達の香月が静流に寄って来て話かける。

静流「うす。」

香月「前に貸した漫画、持ってきたか?」

…………。

静流は「うす。」と挨拶した時に手をあげたまま固まってしまった。

つまりすっかり忘れていたらしい。

香月の漫画を最後に見たのは自分の机の上だと固まりながら思い出す静流。

⏰:07/08/27 02:05 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#115 [向日葵]
そんな静流に呆れた香月はハァ…とため息をつく。

香月「忘れたんだな。」

静流「すいません。」

謝る静流を横目で見て、香月は「んー。」と何かを考える。

香月「今日、珍しく暇だし。お前んち、寄っていい?」

静流「あー…。どーしようか…。」

前のあの事件があったから静流は思わず考えるが、相手は双葉では無く香月なので大丈夫だと判断した。

いや……逆に男だから駄目なのか?!

⏰:07/08/27 02:09 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#116 [向日葵]
香月「そういえばさ、最近ヤケに早く帰るけど何かあんの?」

静流「まぁーちょっと……。」

歯切れの悪い返事に香月は納得しない様子。
更に詰め寄る。

香月「何だよ幼なじみだろー?!水臭ぇなー!」

静流「俺はデリートなんだから仕方ないだろー!」

香月「まさかお前……新しく好きな人出来たとかか?!」

静流「は…はあっ?!」

思わぬ答えにすっとんきょんな声を出してしまう静流。

⏰:07/08/27 02:15 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#117 [向日葵]
それ以前に彼女いるし!

大体、紅葉は妹って言うか子供って言うか、何かそんな感じであって……って何で俺こんな代弁してるみたいになってんだよ!

香月が更に何かを言う前に、ストップを言う様に静流呼ばれた。

双葉「静流。」

ドアの所には双葉がいた。

内心香月からの尋問から解放されて嬉しい静流は、双葉の所まで一目散に行った。

静流「ん?どした?」

双葉「あのね、今日静流んち寄っていいかな?」

⏰:07/08/27 02:20 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#118 [向日葵]
予想外な展開に目が点になる静流。

香月はともかく双葉はどうだろうか……。
相変わらず紅葉は風呂に入らない限り自分に寄ってこないし。

でも逆に今度は香月が一緒だからいいかもしれない。
よし……。

静流「いいけど今日香月が一緒なんだ。それでもいい?」

双葉「いいよ。じゃあまた帰りにね。授業中こっそりメールするかも。」

へへっと笑う双葉を思わず抱き締めてしまいそうになる静流は必死に堪えた。

⏰:07/08/27 02:24 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#119 [向日葵]
双葉と別れて再び香月の元へ。
また尋問されるかと思ったら、今度は違うかった。
何故か視線は肩くらいにある。

静流「香月?」

香月「なぁ。お前やっぱり浮気?」

静流「はあ?」

何を根拠に言われてるか分からない静流は少し言葉に怒りを込めてしまった。

するとスッと出された香月の指先に、肩にある何かを取られた。

そして静流の目の高さまで上げて、それを見せる。

⏰:07/08/27 02:29 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#120 [向日葵]
香月「これ何?」

見せられたのは一筋の長い髪の毛。
おそらく紅葉の物。
双葉は紅葉程髪の毛が長く無いからだ。

どうやら事情を説明しなくてはならないらしい。

静流はいらない事まで喋らない様に言葉を選んで話した。

香月の顔は話す度にコロコロ変わり、最後には口が半開きになっていた。

香月「はぁー…。なるほどな。」

静流「だから、紅葉の前では、今話した事を気にせず接してくれよな。じゃないとまた俺が困る。」

⏰:07/08/27 02:33 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#121 [向日葵]
香月「何で困る?」

静流「何でって。機嫌そこねたらややこしいから。」

香月「お前にとって妹みたいなもんなんだろ?なら放っておけばいいじゃん。なんでそこまで構う?」

構うと言うよりも俺のは何て言うか子供を育てる親みたいな物であって、簡単に放っておくことが出来ないんだよ……。

静流「保護者だから頑張らないといけないんだよ!」

香月「ふぅーん…。」

意味有り気に頷く香月に首を傾げながらも、先生が来たのでホームルームが始まった。

⏰:07/08/27 02:38 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#122 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/27 02:38 📱:SO903i 🆔:8FlyYNT.


#123 [向日葵]
*****************

源「じゃあ、紅葉ちゃん。お留守番お願いしますね。」

紅葉「うん。いってらっしゃい。」

源さんは今からどこかへ出かけるらしい。
私はリビングに戻るとテレビをつけた。

何を見るかって?別にそういう訳じゃない。
ただつけただけ。

つまらないニュース。
ドロドロしたドラマ。
見飽きた再放送番組。

何度かチャンネルを流してたら、一つの事にリモコンを持ってる手が止まった。

⏰:07/08/29 01:12 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#124 [向日葵]
それは……幼児虐待のニュースだった。

母親が、3歳の男の子を殴っている事により、男の子は重体。

母親の供述はいつも同じだった。

“泣きやまなくて”
“育児に疲れた”

只のそれだけで、罪も無く、痛めつけられる子供達。泣いてるのは、大人からの愛が欲しかっただけなのに……。

私達が何故犠牲に?

私達は、求められて生まれたんじゃないの?

⏰:07/08/29 01:17 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#125 [向日葵]
生まれた意味なんて全然分からないのに何故

“生まれてきたの?”

そんな事、聞かれなきゃいけないの?

テレビは、アナウンサーの適当なコメントをしてから次のニュースに入った。

私はそれを耳で聞きながらベランダへ出た。

出ないようにしててもここが落ち着くからどうしても来てしまう。

開けたと共に、ふわりと風が入ってきた。
今日も文句無しの快晴。

⏰:07/08/29 01:21 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#126 [向日葵]
私はたまたま偶然運良く源さんに拾ってもらって、静流に優しくしてもらってる。

でも、世の中はそんな幸運には恵まれてない。

今もきっと、助けを求めてる人達が大勢いる。

――私は、いいのかな……。

こんなに幸せで、いいのかな……。
もっと苦しむべきなんじゃないのかな……。

もっと幸せにならなきゃいけない人が、世の中には溢れてるんじゃ…ないのかな……。

神様がもしいるのなら、今苦しんでる人を私の様に幸せにして欲しい……。

⏰:07/08/29 01:26 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#127 [向日葵]
私は入口に座りこんで、戸のヘリにもたれながら空を見上げた。

神様、私は、許されるんでしょうか……。

―――――――……

******************

静流「ただいまー。父さん?紅葉ー?」

静流が香月、双葉と共に帰って来ると家はシーンとしていた。
二人にとりあえず入れと言って、いつも通り二階へ行った。

すると風が爽やかに家を抜けていた。

⏰:07/08/29 01:30 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#128 [向日葵]
静流「紅葉ー。」

リビングに来ると、ベランダ近くに紅葉がいた。
どうやら寝てしまってるらしい。

香月「へー。あの子が言ってた子?」

静流の後ろからヒョコッと顔を出した香月は興味津々に紅葉を見る。

双葉は前の事があってかこっそりと見る程度だ。

静流は「全く」っと言った風にため息をつくと紅葉の近くまで行った。

案の定紅葉は静かな寝息をたてて寝ている。

⏰:07/08/29 01:34 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#129 [向日葵]
フワリとまた風が吹いた。

その時、紅葉の前髪が少しあがる。
静流は驚いた。
整った顔に似合わない、紅葉の額と髪の毛の境目にある、大きな傷。

思わずそれを凝視してしまう。
そんな様子に、後ろの二人がどうしたものかと静流に尋ねる。

香月「静流?」

香月の近づく気配に、静流はつい紅葉が寝ているのを無視して声を張り上げてしまった。

静流「来るな!」

⏰:07/08/29 01:40 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#130 [向日葵]
*******************

…………静流の声?

夢うつつの世界から私は抜け出して現実に意識を戻してきた。

うっすら目を開けると、そこには学校に行ってる筈の静流がいた。

紅葉「静流……?」

声をかけると、静流はハッとして私を見た。
いや、見ていたけど静流の意識もどこかへ飛んでいたみたいだった。

静流「あ、あぁ……ゴメン。起こした?」

私は首を横に振りながら背伸びする。
どうやら寝ていたらしい。

⏰:07/08/29 01:43 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#131 [向日葵]
ふと後ろに目を向けると、見慣れない姿が一つ、一度見たことがある姿が一つあった。

私はとっさに静流の後ろに隠れる。

香月「あーゴメンネ驚かせて。俺は香月!静流のダチだよ。」

警戒しながら頷く。
もう一人に視線を向けると、逆にあっちがビクッとした。

紅葉「……ゆっくり、していって下さい……。」

ぎこちない言葉をなんとか繋げて、私は静流から離れた。

⏰:07/08/29 01:47 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#132 [向日葵]
静流「父さんは?」

紅葉「買い物。」

静流「そっか。なら紅葉も部屋においで。」

手招きされるが、私は首を横に振った。

知らないのが一名。
気まずいのが一名。

そんな状態で部屋と言う密室に堪えれる訳が無い。
ましてや傷だらけの私をジロジロ見られるのも嫌だ。

静流「あーもー聞き訳の無い…っ子ぉ!」

紅葉「ぅわぁっ!」

⏰:07/08/29 01:52 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#133 [向日葵]
静流は軽々私を持ち上げる。その時見えた、彼女の少し傷ついた顔。

馬鹿な静流。彼女の気持ちも知らないで……。

とりあえず部屋に着いたので入る。入った途端当然の様にベッドに座る彼女。
その横には静流。

何なのこの人…。相変わらず図々しいって言うか……。
どうやら私は彼女とソリが合わないらしい。

まぁ彼女ならこれが当然なのかもしれないけど……。

私はドア近くに腰を下ろす。香月さんって言う人も、私の近くに座った。

⏰:07/08/29 01:56 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#134 [向日葵]
香月「名前は?」

一瞬私の事とは知らなかったので、気づくのに数秒かかった。

紅葉「く…くれ…は……。」

香月「紅葉は何歳?」

紅葉「じゅう……ご…。」
香月さんはフッと笑うと「そうかそうか」と頭を撫でた。
よく言えましたねって?
どこまで幼児扱いだ私……。

紅葉「静流。私はいいからリビングに戻る。」

香月「あ、なら俺も〜!」

⏰:07/08/29 02:01 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#135 [向日葵]
はぁ……?!

静流「おい紅葉……っ。」

香月「じゃあね〜。」

パタン……

*****************

何だ?アイツ。

双葉「気、遣ってくれたんじゃない?」

小首を傾げながら言う双葉の頬は、少し赤みがさしていた。

思わず抱き締めそうになるのを必死に我慢する。

これは紅葉との約束だから。と言ってもアイツの布団はもうあるんだけどな。

⏰:07/08/29 02:05 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#136 [向日葵]
何か……守らなきゃいけない気がして。

双葉「どうかした?」

黙ってる静流を気にしたのか、双葉が目の前に迫っていた。

もう少しで唇が触れそうになるのに、双葉は気にせずその場所で話す。

双葉「さっきの……何?」

静流「え……。」

双葉「いつもあんな風に抱き上げてるの?」

双葉が言ってるのは、紅葉を運ぶ際に静流が紅葉を抱き上げた事だ。

⏰:07/08/29 02:08 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#137 [向日葵]
静流「アイツはさ、子供だから。」

双葉「ふーん。……じゃあ何で抱き締めてくれないの?」

静流「はい?」

双葉は一旦顔を離す。
しょげた様に顔をうつ向かせると、上目使いで静流を睨む。

双葉「あの子が……好きになった?」

静流は心の中で紅葉に謝る。

そして双葉を抱き締めた。双葉は急で少し目を見開く。

⏰:07/08/29 02:13 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#138 [向日葵]
ゴメン紅葉……。
双葉があまりに意地らしいからさ……。
抱き締めるだけ勘弁してな……。

静流「そんな訳ないだろ……。」

双葉はそっと微笑んで静流の肩に顔を埋めた。

*********************

香月「あの二人見るの辛い?」

戸を開けたままベランダに出ると、ソファーに座っていた香月さんが話かけてきた。

景色を見渡しながら私は首を横に振る。

⏰:07/08/29 02:16 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#139 [向日葵]
紅葉「辛いとかは別に。……って、辛いって何よ。」

眉を寄せて振り返ると、香月さんはフッと笑って立ち上がり、ベランダまで来て私の隣に付く。

香月「てっきりさ、紅葉ちゃんは静流が好きかと思ったのに。」

好き?
……何だそれ。

紅葉「私は静流には感謝の念しかないし。まだ……完璧に静流を信頼した訳じゃないから……。」

信じようとする一歩手前で止どまらせる裏切りへの恐怖。

⏰:07/08/29 02:20 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#140 [向日葵]
紅葉「そんな感情……随分前に忘れてしまったわ……。」

「フーン」と良いながら、手すりに頬杖を付く香月さん。
それを横目で見ていると、香月さんはニヤッとして私を見た。

香月「静流はさ、随分君の事を気に入ってるみたいだよ。」

私は嘲笑ってしまった。
そんな事ない。

紅葉「私がペットみたいなんでしょ。」

優しさは親心。
決して一人の女の子だからじゃない。

⏰:07/08/29 02:25 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#141 [向日葵]
そう思った途端、胸の奥がチリッと焼ける感覚がした。

紅葉「???」

香月「ならさ。俺と付き合ってみない?」

耳を疑う。
不審者を見る目で香月さんを睨みつけた。

紅葉「白昼夢でも見てるんですか?」

香月さんは人差し指を何回か振るとニッコリ笑った。

香月「ちょっとしたゲームだよ。」

紅葉「ゲーム?」

⏰:07/08/29 02:29 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#142 [向日葵]
香月さんは私に顔を近付ける。
私はそれに合わせて顔を引いた。

香月「静流が君の事をなんとも思ってないかの実験さ。」

紅葉「彼女いるのにそんなのありっこないでしょ。」

香月「こればかりは分からないからねぇ。」

私はまた香月さんを睨みつける。

紅葉「友達で遊ぶなんて最低だわ。」

⏰:07/08/29 02:32 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#143 [向日葵]
香月さんは睨みつける私を何とも思わずにんまり笑う。すると体を引いた。

香月「君もなんか気に入ったし。静流の事は建前で、君を落とすって言う手もある。」

更に嫌な顔をして香月さんを睨みつけた。
すると香月さんは派手に笑う。

香月「じょーっだん!全部冗談だよ。君おもろいね。」

遊ばれた……っ!何て奴!!最初の頃の静流みたい……っ!

香月「まぁ。相談ならいつでものってやるよ。ペットさん?」

⏰:07/08/29 02:36 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#144 [向日葵]
と、指で私のおでこを小突く。

相談なんて……別に悩む様な事絶対無いし。
ってか静流にそんな感情生まれる訳もないし。

香月さんから突かれたおでこに手を当てながらブツクサと考えていると下から声がした。

香月「あ、双葉ちゃん帰るんだ。」

柵から身を乗り出して見ている香月さんの隣で、私はチロリとだけ門前に目を向ける。

楽しそうに話している静流と彼女。

⏰:07/08/29 02:41 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#145 [向日葵]
それならさっき心配する必要なんてなかったかもしれない。

私にもお人好しな部分が残ってたのね。

鼻歌を歌う香月の横で、私は黙って二人を見つめた。

その時、彼女から静流に唇を重ねた。

周りの音が、一切無くなって、二人だけが色鮮やかに見える。

そして何かが耳の奥で聞こえた。

――――触ラナイデ

紅葉「え……?」

⏰:07/08/29 02:44 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#146 [向日葵]
香月「うわー。双葉ちゃん大胆だねぇー。」

その声で、また現実に戻る。

今の声……何……?

ぼーっとしていると、静流達を観覧していた香月さんが声をかけた。

香月「どうかー…した?」

私はハッと香月さんを見て目を泳がせて、また香月さんを見た。

紅葉「何か……聞こえた。」

香月「えぇ?何も聞こえないけど?怪談にはまだ季節が早いんじゃないの?」

⏰:07/08/29 02:48 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#147 [向日葵]
そんな類じゃない。

だって明らかにあれは私の声。
でも私じゃない声……。

さっきの二人のキスシーンを見た瞬間、なんだかお腹辺りが熱くなるような感じがした。

周りはモノクロ。なのに二人だけがやけにはっきり見えて……。

そしたら声が聞こえた。

静流「あれ?香月?」

下にいる静流が声をかけてきた。
何故か私は瞬時に背を向ける。

⏰:07/08/29 02:52 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#148 [向日葵]
―――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/29 02:53 📱:SO903i 🆔:TKb7JjA2


#149 [向日葵]
*****************

静流はしまったと思い、香月の名を呼んだ後、案の定紅葉が静流に背を向けた。


見られた。風呂入るまでは紅葉に近づけそうにもない。

試しに呼ぶ。

静流「くれ…は……?」

紅葉はビクッとして、肩越しに静流を見た。
その目は怒っていると言うよりむしろ脅えていた。

しかし何に?

すると香月が紅葉に近づき、肩に手を触れた。

⏰:07/08/31 00:26 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#150 [向日葵]
もう少しでおでこが触れそうなくらいに顔を近づけ、紅葉の顔色を伺う。

静流は分かっていた。

香月の行動は紅葉を気遣うものであって、別にやましい意味など無いと。

しかし

うずく表しがたい気持ちを胸に、静流は静かに家へと入って行った。

⏰:07/08/31 00:29 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#151 [向日葵]
―離―







何故か、この頃変だった。

無駄にぎくしゃくするし様子はおかしいし。

でもそれはどちら共に当てはまる事だった。

********************

私は体が言うことを聞かなかった。

静流が私に優しくしてくれる度に胸がモヤモヤして、近づいて欲しいのに近づいて欲しくなくて。

⏰:07/08/31 00:33 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#152 [向日葵]
言葉だって、いつも以上に素っ気なくなってしまう。

******************

俺は変だった。

紅葉に優しくしようとすれば紅葉がぎこちなくなる事に何故か胸が痛んだし、優しくしたいのに優しく出来ない自分がどこかにいた。

何でだ……?

今日の朝でもそうだった。

いつも通り膝で食事をとる紅葉を見ながら何かモヤモヤしていた。

そればかりか、やっとなんとか少量だか食べれる様になった林檎を食べ終えた紅葉の口を拭こうとすれば

紅葉[ふ、拭かなくていい!]

っと拒否された。

⏰:07/08/31 00:38 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#153 [向日葵]
彼女の堅くなな態度ならもう慣れてる筈なのに、何故か胸がチクリとした。

そして視線を紅葉の華奢な肩に向ければ、香月の手が触ったとイライラした。

静流[食べ終わったみたいだし。紅葉どいてくれる?]

紅葉[言われなくても退くわよ!何よ偉そうにっ。]

静流[俺がいつ偉そうにしたよ!]

紅葉[朝からうるさいのよもー!]

と言う風にケンカ勃発……。

⏰:07/08/31 00:42 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#154 [向日葵]
朝の事を思い出していた静流はもう陽が高く暑い日向である教室の窓側にうなだれていた。

何でイライラしてるか自分でも分からなかった。
イライラするのはカルシウム不足と言うが、帰りにスーパーに寄って煮干しでも買おうかと迷う静流。

頭が混乱して少々観点がズレ始めていた。

そんな静流の肩を勢いよく叩く人物がいた。

友人の香月だ。

香月「なぁんだよ冴えねぇ顔して!」

「黙れ元凶。」とボソリと言うが、残念ながら香月の耳には届かない。

⏰:07/08/31 00:47 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#155 [向日葵]
香月はそんな不機嫌な静流を無視してペラペラ喋り始めた。

静流は大半を聞き流していたが、聞いてしばらくして頭で反芻すると今度は静流が香月に喋る。

静流「ちょっと待て。今なんつった?」

香月「ん?だから今日お前んちに遊びに行くなって。」

静流はうなだれていた体をしゃきっと伸ばすと香月に詰め寄った。

静流「何で来んだよ!」

香月「別に行きたいから。前まで理由なくても遊びに行ったじゃん。何気にしてんの?」

⏰:07/08/31 00:55 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#156 [向日葵]
その言葉に静流は「うっ」と唸った。

すると香月は何やらニヤニヤしだした。

香月「もしかして……紅葉ちゃん取られるとか心配な訳?」

静流「はぁっ?!」

香月「紅葉ちゃん可愛いもんなぁ。俺狙おうかなぁ。」

ダァンッ!!

教室中が静まりかえる。
皆の視線が、静流と香月がいる場所に集まる。

香月は静流の意外な行動に驚いていた。
温厚な静流が机をグーで殴ったのはこれが始めてだ。

⏰:07/08/31 01:01 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#157 [向日葵]
静流は射抜きそうな眼光で香月を睨んだ。

香月は少し足を引く。

静流「アイツに何かしてみろ。許さないぞ。」

そんな静流に冷静さをとり戻した香月が問いかける。

香月「なぁ……。お前それどの立場で言ってんだよ。」

静流はかすれた声で「え?」と言った。

確かにそうだ。
自分は何をそこまで怒っている?
何が気に入らない?

⏰:07/08/31 01:05 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#158 [向日葵]
一気に静流は気を静めていった。

静流「ゴメン。何か……。頭、冷やしてくる。」

とだけ言って静流は教室を出て行ってしまった。

そんな静流の後ろ姿を見ながら、香月は静流の心に変化があるのではと感じとっていた。

一方、水道で頭を濡らしながら静流は冷静に分析していた。

さっき怒ったのはつまり……。
半端な気持ちで紅葉に近づくなら許さないって事だ。

⏰:07/08/31 01:10 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#159 [向日葵]
傷ついてる奴を更に傷つけるのなら、兄貴分の自分としては許されないものであって……。

双葉「タオルも持たないで、どうやって頭拭くつもり?」

顔を横に向けると、隣に座りこんで静流を見つめる双葉がいた。

水道を止めた静流に双葉はキャラクターが描かれたタオルを静流に渡した。

静流「ゴメン。タオル駄目にしちまって。」

双葉「別にいいわよ。ん?手、どうしたの?」

ふと静流が右手を見ると、手の甲の骨ら辺が赤くなっていた。

⏰:07/08/31 01:14 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#160 [向日葵]
手を見ながら、またふと考えた。

……どうしたんだろ。俺……。

*****************

やる事が無い私は庭へ出て花壇の水やりをしていた。

じょうろに水を溜める時、自分の腕に巻いてある包帯を見た。

『そういえば、今日はケンカしちゃったからやり変えて貰ってないや。』

今朝はついつい売り言葉に買い言葉になってしまった。

⏰:07/08/31 01:18 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#161 [向日葵]
だって静流の態度が気に入らなかったんですもの。

いつもならヘラヘラしながら自分から下ろす癖に。
今日に限ってなんであんなツッケンドンな態度をとられなくちゃならないのよ。

水がたっぷり溜ったじょうろを持った。
すると

紅葉「あいたっ!」

バシャァン!

まだまだ治りきっていない傷が痛くなった。
反射的に手を離したおかげで足元は水浸し……。

また水を入れなきゃいけなくなった。

⏰:07/08/31 01:22 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#162 [向日葵]
ため息をつきながらじょうろを拾う。

住宅街なので、小学校を終えたガキやら世間話が好きなおばさん達の声が薄く聞こえる。

もしかしたら自分も噂されてるのかもと思うとムカムカした。

何も知らないおばさん風情が脚色つけて何か言ってるに違いない。

しばらく座りこんだまま、私はぼんやりそんな事を考えた。

紅葉「だから……世の中なんて嫌いなのよ……。」

カシャン!

⏰:07/08/31 01:27 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#163 [向日葵]
何か耳慣れた金属音が聞こえた。
多分門の鉄格子の音。

更に耳慣れた声が。

静流「紅葉……っ。」

静流が私の元へ駆け寄って来た。

あぁそうか。もう学校の終わる時間なのね。

静流は心配そうに私を見る。
その姿を見ただけで、さっきのムカつきは収まり、なんだかホッとした。

静流「何かあった?!」

紅葉「じょうろ落としただけよ。」

⏰:07/08/31 01:31 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#164 [向日葵]
立ち上がろうとしたら、気配がした。

目を動かせば、またいる。
例の彼女とミステリアスな香月さん。

静流は私の視線に気づいたのか、少し抱き上げて私を立たすと頭を撫でた。

静流「ゴメンな。また来ちゃってさ。」

痛い……。
この場合、傷が痛いんじゃなくって彼女さんの視線がだ。
どうやら彼女は私に嫉妬してるらしい。

静流の手を軽く振り払って、私は水道に向かった。

⏰:07/08/31 01:38 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#165 [向日葵]
紅葉「早く家に入ったら?」

静流「お前は?」

さっきより少な目に水を入れたじょうろを持って、静流に向き直る。

静流を一旦見てから彼女さんを見た。

不安そうな目で静流と私を交互に見てる。
静流も女の子に鋭いんだか鈍いんだか……。

紅葉「私は水やりがあるの。」

と言って横を過ぎきる事が出来れば良かった。

ズキッ!

紅葉「っいた!」

⏰:07/08/31 01:43 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#166 [向日葵]
今度は足が痛くなった。
カクンと崩れてしまいそうになる時、誰かの腕が私を支えた。

水をまたしても無くしたじょうろが、音を立てて地面に落ちる。

香月「あっぶー…。大丈夫か?」

*****************

紅葉「いたっ!」

その声を聞いて振り向いた時に、静流が手を出すのは遅かった。

何故なら香月が早く反応し、気づけば紅葉の体を支えていたからだ。

⏰:07/08/31 01:46 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#167 [向日葵]
香月「あっぶー…。大丈夫か?」

そのまま香月は紅葉の傷の痛みが引くまで体を支えていた。

一方の静流は、出しかけた行き場の無い手をなかった事にするようにぎこちなく戻した。

静流「……ったく。病人のくせにそんな事すんじゃねぇよ。」

紅葉の体がピクリと動く。
あ、ヤバイ……。これは……。

紅葉「なんですって……?」

⏰:07/08/31 01:50 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#168 [向日葵]
怒った合図だ。

ゴングが良い音を立てて鳴り響いた気がした。

紅葉「少しでもと思ってお手伝いしてるのに何でそんな事言われなくちゃなんないのよっ!」

静流「それでこんな事なってたら意味ないじゃん。無駄だろ。」

紅葉「……っ!静流なんか……キライ!!」

ガコッ!

じょうろを力一杯投げられた静流は不意打ちだったがなんとかすんでの所で止める事が出来た。

⏰:07/08/31 01:53 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#169 [向日葵]
******************

バタン!

力任せにドアを閉めて私は家に入った。

足をダンダン鳴らして階段を上ってやりたいけどまた痛みが走るのが嫌で、歯を食いしばって上った。

直ぐ様カーテンをしてベランダへ出た。
少し、泣きたくなった。

静流[無駄だろ。]

何で、あんな事言われなくちゃいけない訳?
私が何をしたって言うのよ……っ!

彼女はあれだけ大切にしてるくせに、私はこんな粗末にされて……。

⏰:07/08/31 01:59 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#170 [向日葵]
…………。
…………あれ?
何で今彼女が出てきた?

あぁもぅどーでもいぃっ!!
静流なんか、大大大大大っキライ!!!!

香月「あーぁ。静流が紅葉ちゃん泣かした。」

バッと振り返った。いつの間にカーテンやらを開けたんだろう。
ってか今泣かしたって言ったよね?

紅葉「別に泣いてないし!」

すると香月さんはベランダへ出て来て前みたいに私の隣に来ると、並んで座った。

⏰:07/08/31 02:04 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#171 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/08/31 02:04 📱:SO903i 🆔:4Pp19vdY


#172 [向日葵]
香月さんは自然に右手を伸ばすと、私の左目の下辺りを撫でた。

そして私目の前に人差し指を持ってきてニヤリと笑う。

香月「泣いてない?ならこの水って何かなぁ?」

慌てて目を擦ると水分があった。

不覚……っ。知らないに等しい人に涙なんて見られた。

香月さんはクスクス笑いながら指についた水分を指を擦り合わせてとる。
そしてその後は黙って私の隣に座ってるだけだった。

⏰:07/09/01 01:12 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#173 [向日葵]
紅葉「静流達は?」

香月「ジュース買いに行った。」

ふぅん。と答えてあとは黙った。

すると香月さんは私を見てニヤニヤ笑ってくる。
何だと思い、睨む。

香月「静流に言われた事、ショックだったの?」

紅葉「……。腹が立っただけ。最近の静流はトゲトゲしいの。でも彼女に優しいのは相変わらずみたいね。」

……。あれ。
私また彼女って言った。

⏰:07/09/01 01:15 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#174 [向日葵]
指先で口元を押さえながら頭には複数のはてなを浮かべる。

私が何が何だか分からなくなっていると、隣から「へー」と声が聞こえた。

香月さんを見ると意地悪そうに笑っていた。

香月「なぁんだ。紅葉ちゃんも嫉妬してるんだ。」

紅葉「はぁ?嫉妬?何で私が嫉妬なん―――……。」

え?今何て?
も?私だけじゃなく、誰かが私に対して嫉妬してるって事?

一瞬頭に浮かんだ相手はあり得なくてすぐ取り消した。あぁ。もしかして彼女の事?

⏰:07/09/01 01:20 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#175 [向日葵]
紅葉「彼女のは不可抗力よ。あれは静流が悪い。」

淡々と喋ると、香月さんが目を丸めた。
まるで私が何か間違った事を行ってるみたいに。

香月「何言ってんの?嫉妬してるのは―――…。」

静流「ただいまー。」

犯人が誰か聞く前に静流で邪魔された。
静流の足音が二階へ来る。
すると香月さんが私の肩をちょいちょいと指で叩いてから自分の肩をポンポンと叩いた。

そして小声で告げる。

⏰:07/09/01 01:25 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#176 [向日葵]
香月「俺の肩に寄りかかって寝たフリしてて。」

紅葉「はぁ?!なん―――っ。」

反論してる途中で強制的に肩に寄りかかる形になった。
仕方ないので指示された寝たフリを決行する。

と同時に静流がリビングに現れた。

静流「……何してんの?」

耳だけで分かる。
静流が何故か怒ってる事。

香月「おう!おかえり!なんか紅葉ちゃん寝ちゃったみたいでさぁ!」

⏰:07/09/01 01:28 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#177 [向日葵]
静流「どけ。」

その声を聞いたと同時に私の体は地面から離れた。

びっくりして目を開けるけど静流は気づいてない。

静流「紅葉にいい加減な気持ちで近づくのだけは止めろ。」

静かにそう告げると静流は歩き出した。
おそらく部屋へ向かうんだろう。

静流「双葉。ゴメンけどドア開けてくんないかな。」

私は寝たフリと気づかれない様にまた目を瞑った。
じゃなきゃ今でも彼女の嫉妬の視線をひしひしと感じるのに、これ以上痛く感じるのはゴメンだ。

⏰:07/09/01 01:33 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#178 [向日葵]
双葉「ハイ。」

静流「ありがとう。」

寝かされたのは静流のベッドだ。

まったく……また無意識に彼女を傷つけることになるぞ。

双葉「閉めとく…ね。」

静流「ウン。ありがとう。」

パタン

……。
あれ。なんで静流出ていかないんだ?
寝たフリも楽じゃないんだからさっさと出て……

静流「起きてんだろ?」

⏰:07/09/01 01:36 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#179 [向日葵]
バレてんじゃん。

私はゆっくり目を開ける。
最初に目に入ったのは天井。その次は怒った静流の顔。

紅葉「何怒ってんの?」

静流「怒ってない。」

紅葉「よく言うよ!怒ってるじゃない!私何か静流にしたかしら?!」

静流は黙って腹立たし気に息を吐く。

腹立ってんのはこっちだっつーの。

静流「知らない男の体に無防備に近づくな。」

⏰:07/09/01 01:40 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#180 [向日葵]
紅葉「なら静流にも近寄っちゃ駄目って事ね。」

静流「そんな事言ってないだろ!」

紅葉「貴方だって知らない男じゃない!!」

息遣いだけが部屋に響く。
お互いを睨み合って、次に出てきた言葉にすぐ対応出来る様に言葉を繋ぎ合わせる。

数分が過ぎた時、静流が口を開いた。

静流「……。わかった。もう好きにしろ。」

は……?何それ。

紅葉「何よ好きにしろって……。まるで私をだだこねてる子供みたいに。」

⏰:07/09/01 01:45 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#181 [向日葵]
静流「口答えするならガキと一緒だろ。」

出た。
静流はいつもこう。

怒ったり気に入らない事があれば冷静なフリして私を子供扱いする。

さも自分が全て正しいと勘違いしてる大人である様に……。

紅葉「私はアンタの子供でもなければこの家の子でもないのよ?!」

すると冷たい静流の目が更に冷たくなった。
次に出てくる静流の言葉に私は頭が真っ白になった。

⏰:07/09/01 01:49 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#182 [向日葵]
静流「じゃあ出て行って好きなように暮らせよ。」

紅葉「……え。」

静流が背中を向けてドアを開ける。

静流「元々そうしたいって言ってたしな。いいじゃん。短い間だったけど楽しかった。じゃあな。」

パタ…………ン……

*****************

リビングで談笑をしていながらも、静流は自分の言った事を頭の中でまた繰り返していた。

俺何言ってんだよ。

⏰:07/09/01 01:52 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#183 [向日葵]
香月はダチだし別に親しくしたっていいじゃんか!

でも俺以外の奴になつくのがなんだか気に入らなくって、こう……飼い犬が他人にめちゃじゃれてるみたいな感覚で……。

双葉「静流……?どうかした?」

色々考えてたらいつの間にか黙ってしまった静流に双葉が呼び掛けた。

静流「あ、いや。何でも。そうだ!見せたいもんがあるんだ。部屋取りに言ってくるわ!」

と言いながら紅葉が気になって静流は部屋へ向かった。

⏰:07/09/01 01:56 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#184 [向日葵]
部屋前で立ち止まって深呼吸した。

紅葉に謝ろう。
それでまた仲直りしたらいつも通りに戻れる。

カチャ

静流「紅葉!さっきは……。」

静流はドア付近で足を止めた。

静まりかえる部屋。
いる筈の姿が、どこにもない……。

そう。紅葉が消えてしまったのだ。

静流はパニックになりそうな自分を抑えて机の下、ベッドの下、クローゼット。全てを探した。

⏰:07/09/01 02:00 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#185 [向日葵]
静流[出ていって好きな様に暮らせよ。]

――――ドクン

まさか……ホントに……?

香月「なぁ静流ー。雨降ってったから俺帰るわぁ。」

と来た香月の肩を勢いよく掴んで静流は言った。

静流「紅葉が……いなくなった。」


******************

あ。雨降ってった。

まぁいいわ。服が洗濯されるし。

⏰:07/09/01 02:04 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#186 [向日葵]
私は当てもなく歩いていた。
急な雨だから傘を持ってない人が沢山いたおかげで私は白い目からは免れた。

静流[出て行って好きなように暮らせよ。]

何よ……。

紅葉「自分から言ったんじゃない。住めって……。なのに出て行けって……。」

自己中にも程がある!
しかも八つ当たりみたいに言い捨てて!

ってか……ここどこ?

意外にも雨は激しくて、一寸先は闇じゃないけど雨でほぼ見えなかった。

⏰:07/09/01 02:08 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#187 [向日葵]
ザー……

ザー……

あぁ……あの日が思い出される。

ザー……
ザー……

今みたいに凄い雨で……。やっと天国に行けると嬉しくなった。

世の中は汚い。

世の中は冷たい。

唯一愛していた肉親にさえ、私は愛されなかった。

痛くて何度も泣いた。
つらくて何度も願った。

⏰:07/09/01 02:11 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#188 [向日葵]
 








温かさを下さいと……

⏰:07/09/01 02:12 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#189 [向日葵]
そんな時、くれたのが静流だった。

優しくて、嬉しくて……私は身を委ねてた。

だから忘れてた。

一線引き忘れていた事。
誓ってた筈なのに、馬鹿だわ私って……。

私はまた、一人ぼっち。

今度こそもう誰も助けてはくれないんだろうな……。

私はどこで命を断つべき?

どうやって命を断つべき?

誰も教えてくれない……。

⏰:07/09/01 02:15 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#190 [向日葵]
静流[生きる努力をしようよ。]

パシャ……

どこまで来ただろう。

私は道端で立ち止まった。
外は灰色の雲に覆われた暗い夜となった。

何も聞こえない。

雨の音と、自分の息遣い以外。

……何も……。

知ってる。分かってる。
自分の息が震えていること。

泣いていること。

⏰:07/09/01 02:19 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#191 [向日葵]
紅葉「……っ。ふぇ……っ。」

もうやだ……。

何で……っ。

ウウン。違う。私は神様に祈った事があった。

誰かの代わりに、私が不幸を背負うと。

なら今誰かが幸せになってるのかな?

でも幸せになってる誰かさん。ごめんなさい。
私やっぱり幸せになりたい。

温かさで包まれたい。
いつしか願ってた。あの家にずっといれたらって。

⏰:07/09/01 02:22 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#192 [向日葵]
紅葉「……ひっ……。う―――っ……。」

それはもう無理だけど。

でも私は、ずっとずっとあの家で温かさを感じて生きていきたい。

そう思った。
思わせてくれた。

それは紛れもなく、静流が……そう思わせてくれたんだ……。

⏰:07/09/01 02:24 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#193 [向日葵]
―解―









静流は探し回っていた。

いなくなった紅葉。
この酷い雨の中、まだ治りきってない傷を負ったまま外へ行ってしまった。

そう仕向けたのは、紛れもなく自分……。

ピリリリリ

ポケットに入れておいた携帯が鳴り響く。

⏰:07/09/01 02:28 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#194 [向日葵]
見つかっったらすぐ知らせれるよう、一緒に探してくれてる香月と双葉に告げた。

発信者は香月からだった。

香月{静流?こっちにはいないみたいだわ。}

静流「そっか。ありがとう……。」

そう言って電話を切る。

静流は頭を抱えた。
何であんな事を……っ。

しかも人間不信が治りきってない紅葉に向かって……。

静流「馬鹿だ……。俺……。」

⏰:07/09/01 02:31 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#195 [向日葵]
その時、また電話が鳴った。

静流「はい……。」

源{静流君?今ドコにいるんだい?帰ってきたら家に誰もいないからびっくりしてさ。}

静流は電話をしながら目を瞑って目元を片手で覆った。
受話器から息子の声が聞こえない源は心配して何度も名前を呼んだ。

源{静流君?どうしたんです?}

静流の重い口がゆっくりと開かれる。

静流「実は……。」

⏰:07/09/01 02:35 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#196 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/01 02:36 📱:SO903i 🆔:89ZHPoiE


#197 [向日葵]
*****************

紅葉「さ……さむ……。」

ずぶ濡れになった私は近くに公園を発見した。
とりあえず少し休む。

泣いたのと止まない雨とのせいで、私は少々体温を取られていて疲れた。

なんの遊具かはわからないけど、かまくらに穴が空いた様なやつに入って雨が少しでもマシになるまで一休みすることに決めた。

水溜まりがあったけど濡れ続けるよりはまだマシだ。

まぁこれだけ濡れたらいくら濡れても一緒だけど。

⏰:07/09/02 02:23 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#198 [向日葵]
少し休んだら、またどこかへ行こう。

出来るだけ遠くに。

もう二度と母さんや静流に会わないように。

人目につかない場所ってどこかな。

山?崖?

歩きながら考えよう。

考える時間なら、もう沢山出来たのだから。

*****************

源は静流からの話に絶句した。

だけど怒る事はしなかった。今怒っても仕方ないからだ。

⏰:07/09/02 02:27 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#199 [向日葵]
源{とりあえず、紅葉ちゃんが帰ってきたらいけないから家にいるね。}

静流「うん。お願い……。」

静流は電話を切る。

そして雨が降る道に目を向けてまた歩き出した。

隙間や陰を隈無く探す。

あの傷で……しかもこんな雨の中で……。

もしかしたらどこかで倒れてるかもしれないと言う心配が頭をよぎる。

いくら何でも「出て行け。」なんて言うべきじゃなかった。

⏰:07/09/02 02:33 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#200 [向日葵]
雨で少し肩が濡れる。

紅葉はこの雨の中濡れてると言うのに、自分は何傘さしてんだ……。

静流は傘を畳み、走り出す。
走り出すとすぐに雨でびしょびしょになってしまった。

倒れてしまうのも心配だが、誰かに誘拐されてないかも心配だ。
あんな軽いのヒョイと持ち上げたら終りだ。

左右を確認して信号を渡る。
車のヘッドライトがやけに眩しく感じた。

……まさか、事故に遭ったりしてないよな……。

⏰:07/09/02 02:38 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


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