―温―
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#300 [向日葵]
「別に子供じゃないんだからいいわよ。」

すると香月さんは眉を寄せて私を見てきた。

「子供?別にそんな扱いしたことないけど?」

「嘘よ。静流はするし。」

香月さんは立ち止まるとまた私と目線を合わせた。
しかも距離が近い。

「近いん……だけど。」

「あのさぁ。俺は静流じゃない訳。だから静流と一緒にしないでくれる?」

だから何だ。

私は近寄って来ないよう手を上げて香月さんの前に軽く出した。

⏰:07/09/10 03:05 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#301 [向日葵]
「じゃあ貴方は私を何だと思ってるの?」

呆れ混じりに聞くと、香月さんはキョトンとした顔をした。
そしてフッと笑う。

「決まってんでしょ?女の子。だから荷物は持つし、道路側には歩かせない。鉄則じゃね?」

今度は私がキョトンとしてしまった。

初めて女の子扱いされた。

香月さんは私の頭を撫でるとまた進み始めた。
その横で女の子扱いされた私は、少し戸惑っけど、嬉しかった。

⏰:07/09/10 03:09 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#302 [向日葵]
↑訂正

戸惑っけど×
戸惑ったけど○

――――――――――――

「……そういえば、静流どうしたの?」

「んー……。ケーキ投げないって誓える?」

「は?」

少しイラついて、逆に今投げてしまいそうだ。

「どうでもいいから早く教えて。」

もう家が見えた。
もしかしたら家にいるのかしら。

⏰:07/09/10 03:13 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#303 [向日葵]
香月さんは私が誓うまで教えてくれないらしい。
にこにこしたまま私の言葉を待っている。

叫びたくなる衝動をぐっと堪えて私は呟いた。

「……誓う。」

香月さんはにこーっと笑うと門前で足を止めて私に向き直った。

「双葉ちゃんと二人で誕生日会やるってさ。今日は帰って来ないかもよ?」

その瞬間、誓ったのに私は香月さんが持っているケーキを持って投げつけようとしてしまった。……がそれは阻止された。

⏰:07/09/10 03:18 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#304 [向日葵]
香月さんは胸元に私を引き寄せてケーキは片手で私の手が届かない位まで上げた。

香月さんは余裕の笑みで私に笑ってくる。

「誓ったよね?」

「―――!!」

端から見れば抱き合ってるように見えるのに気づいた私は直ぐ様離れた。

すると香月さんがクスクス笑う。

「顔赤いし……。」

「な……っ!」

図星だった。静流以外の男に抱き締められたのは初めてだったから、内心恥ずかしかった。

⏰:07/09/10 03:22 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#305 [向日葵]
「ねぇ、教えてあげた代わりになんか俺に権利くれない?」

私は赤い顔を直す為、密かに静かに深呼吸して香月さんん見た。

「権利?」

こっちが聞き直してるって言うのに、香月さんは話を進めていた。

「そうだな……。紅葉ちゃんにくっつける権利は?」

「は?何それ。」

人差し指を立てながら香月さんは私の目の前までずいっと寄って来た。
とっさで逃げられなかった私はその場で固まる。

⏰:07/09/10 03:26 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#306 [向日葵]
「静流の次でいいよ。君のお世話する権利を俺にくれない?」

お世話って……。

「やっぱり子供扱いじゃない…。」

「違うよ!例えば紅葉が」

あ、勝手に呼び捨てになった。

「胸を貸してって時に貸す役。つまり、恋人補助みたいな?」

余計訳分からん……。

「ってか静流恋人じゃないし。」

⏰:07/09/10 03:29 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#307 [向日葵]
自分で言って自分で傷つく。
図解して見るとハートに矢が何本もサクサクブサブサ刺さってる状態とでも言ったら分かりやすいかしら。

「違うよ何言ってんの。」

香月さんはハハッと笑うと、急に男の顔でニヤリと笑った。

「恋人候補において欲しいって事。わっかんないかなぁー。」

顔を離すと頭をポリポリかきながらいつもの香月さんに戻った。

は?恋人?候補?

⏰:07/09/10 03:34 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#308 [向日葵]
もう何が何だかさっぱりの私はただただ目が点になってた。

色々分析した結果、冷やかしだと決定して冷ややかな目で香月さんを見た。
ってかこんなの一回前にもあって笑われたし。

「騙されないけど、私そう言う遊び嫌い。」

「そう言うと思った。でも残念ながら本気なんだよね。」

と言いながらまた身を屈めて来た。
何をするのか分からない私はただ香月さんの動きを見ていた。

すると

「……!」

香月さんの唇が、私のおでこに触れた。正式には髪の毛の上からだけど。

⏰:07/09/10 03:39 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#309 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/10 03:40 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#310 [向日葵]
びっくりして、数歩素早く後退りした。
自分でも顔が真っ赤になっていくのが分かる。

「な!……っ何……っっ!」

「分かってくれた?俺の気持ち。」

ニコッと余裕の笑顔。
まるで慣れてるみたいに。
もしかしてこの人タラシ……?

威嚇する様に見つめていると、鼻歌混じりに香月さんは家へ入って行った。

は?!もしかして上がる気?!

⏰:07/09/13 00:52 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#311 [向日葵]
静流もいないのに何で……。

そこまで考えると、胸がキィンと痛くなった。

今日、静流は帰ってこない……。
彼女ときっと熱い夜を過ごすんだ。

そして帰って来たらいつも通り笑顔で私のガーゼや包帯を付け直して、膝に乗せてご飯を食べさせる。

まるで何もなかったみたいに……。

彼女に触れたその手で優しく頭を撫で、彼女の唇に触れたその唇で私の名を紡ぐ。

⏰:07/09/13 00:55 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#312 [向日葵]
キィンとした胸の痛さの余韻が目に来て、涙が溢れそうになった。

せっかく……ケーキ買ってきたのになぁ……。

肩をがっくり落として、涙を拭いた後、私は家へと入って行った。

リビングに着くと、さっきまでカチャカチャ作業していた源さんの姿が無かった。ふと目を落とすと小さな紙切れが一枚。

<急に仕事が入りました。しかも今日は帰れないかもしれません。静流君と二人で仲良くお留守番して下さいね。>

…………え。

⏰:07/09/13 01:00 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#313 [向日葵]
思わず口がひし形になる。

紙切れに書いてある文字を何度も何度も読み返してまた頭が真っ白になる。

つまり……私は今晩一人って……訳?

「なんなら俺がいてあげようか?」

いつの間にか側に来ていた香月さんは紙切れを取りながら私に笑いかけてくる。

「明日土曜だし。女の子一人は不用心でしょ。」

「結構よ。ってか帰って。」

⏰:07/09/13 01:03 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#314 [向日葵]
香月さんの背中を押しながら階段へ促す。
香月さんは口を尖らせて「今来たばっかじゃん」とか「釣れないなぁ!」とか文句を言ってる。

やっとの事で玄関へ行ってくれた香月さんは相変わらずにこにこしている。

「寂しくなったらいつでもかけといで!」

そう言って小さな紙を私に握らせて「じゃあね〜。」と去って行った。

台風一過……。騒がしい人だなんて思いながら紙に書かれた文字を読む。

数字ばっかり。明らかにケー番だ。

⏰:07/09/13 01:08 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#315 [向日葵]
無言でスカートのポケットに紙を入れて、私はリビングに戻った。

リビングに足を踏み入れると同時に

プルルルル プルルルル

電話が鳴り響く。

私が取るべきか迷った。
もし静流の知り合いなら、私がとったら勘違いされるのでは?

でも急ぎの用ならいけない。そう決断して、私は受話器を取って、ゆっくりと耳に当てた。

「はい…。もしもし。」

{もしもし?紅葉か?何だよ暗いなぁ。どうかしたか?}

⏰:07/09/13 01:12 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#316 [向日葵]
静流だった。

「……何?」

込み上げる寂しさ、悲しさ、嫉妬をなんとか噛み砕いて出た言葉がそれだけだった。

{あー。実はさ、今日帰れないかもしんないんだ。ちょっと父さんに代わってくれる?}

「……。」

ここで、源さんが帰って来ないって言ったら……静流は帰ってきてくれるのかな……。

受話器を持ったまま、そんな事を考えた。

⏰:07/09/13 01:16 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#317 [向日葵]
「あ……っ……。あのね……。」

{静流?まだ?}

その声でハッとした。
私は何を言うつもりだったんだ……。

{ゴメン双葉。もーちょっと待って。なぁ紅葉}

「源さんには私から言っとくから。」

ガチャン!

私は素早くそれだけ言って受話器を勢いよく置いた。

良かった……。彼女さんの声が聞こえて……。
聞こえてなかったら、私言ってた。

⏰:07/09/13 01:19 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#318 [向日葵]
私は……そんな事してはいけないのに。

どんよりしながらテーブルの上にある白い箱を見つめた。
見つめながら、壁に寄りかかって、力なくズリズリ床に座りこんだ。

*****************

ツー……ツー……。

電話を切られた携帯を見ながら静流はボーッとしていた。

何ショック受けてんだ俺……。
紅葉が冷たくあしらうのなんかいつもの事じゃん。

そっか……電話って表情見えないから、余計にか……。

⏰:07/09/13 01:24 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#319 [向日葵]
「静流……?」

そっと呼びかける声に静流は反応した。

「あ、ゴメンな。始めよっか。」

すると双葉はにこっと嬉しそうに笑って頷いた。

「じゃあ、はい。プレゼント。」

小さな袋を渡された。
小さなラッピングのリボンを外して中を出すと、革製のブレスレットが入っていた。

ウキウキしながら静流は手首にはめて、双葉に見せた。

「ど?!」

「ウン。似合ってる!」

⏰:07/09/13 01:29 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#320 [向日葵]
静流は双葉の頭を撫でて「ありがとう」と言った。
双葉は照れながらそそくさとテーブルへ向かう。

「じゃーん!静流の好きな物、作ってみましたー!」

「おー!すっげぇ!」

テーブルには唐揚げやサラダ、刺身と色々並んでいた。
そして端には中くらいの箱が。

「何それ。」

「あ、これ?これはケーキ!後で食べようね!」

「……。」

無言になる静流をどうかしたのかと見つめる双葉。

⏰:07/09/13 01:33 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#321 [向日葵]
その視線に気付くと、静流はそっと微笑んだ。

「いや、紅葉がな、ケーキは食べられるのかなぁって思ってさ。」

「……そう。…私、飲み物取ってくる。」

そう言って、双葉はキッチンへ向かった。
冷蔵庫の前では、少し落ち込む双葉の姿があった……。

ザ―――……

まだ梅雨は終わってないと言う様に、急に雨が降ってきた。

*********************

雨だ……とソファーで膝を抱えて寝転びながら思った。

⏰:07/09/13 01:37 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#322 [向日葵]
夕方から夜に近づいていく為か、雨雲のせいか、空は暗くなってきた。

リビングでは電気をつけてもないし、自然の光だけ。
と言っても、明るくないのは確かだけど。
雨の音が、家のシーンとした静けさを消してくれるからなんだかホッとする。

起き上がって、肩越しにチロリとテーブルを見る。

さっきと全く変わらない位置に、箱はあった。

これを見たら、静流はきっと申し訳なく思ってしまう。そして源さんは何故帰って来なかったのかと怒ってしまう。

⏰:07/09/13 01:42 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#323 [向日葵]
私はゆっくりと立ち上がって、箱に近づいた。

そして開ける。

綺麗な赤いイチゴと、デコレーションされた生クリーム……。

手を出して、ケーキへダイブさせた。
掌で、ケーキを掴む。

グチョッと音を立てながら、ぐちゃぐちゃになったケーキを口へ運んだ。
甘ったるくて、まだ完全な体じゃない私の体はケーキを拒否していた。

……でも。

「――……っんぐ!」

⏰:07/09/13 01:46 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#324 [向日葵]
吐くのを必死に堪えて私はケーキを飲み込んだ。
吐かない様に口元を押さえて、よろよろてキッチンまで行く。

コップに水をくんで、一気にケーキを流しこんだ。

そしてまた水をくむ。

これで、丸々一個ケーキを食べてやるつもり。

なんだか意地になってきた。

痛い……痛い……。
胸、凄く苦しい。

ケーキを口に含んでは、水を飲みを繰り返した。
でも一向にケーキは減らない。

⏰:07/09/13 01:54 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#325 [向日葵]
「ん……っう、うっ……。」

吐きそうな声に、鳴咽が混じった。
ケーキが……しょっぱい。

「うぅ……っ。ズッ。うぇぇ……。」

顔が、生クリームと涙でぐしゃぐしゃになる。
それでも、ケーキを食べる手も涙も止むことは無かった。

どうしてこんなに泣かなきゃいけないの?
私知ってる。
泣いても何も変わらない事。

だってずっとそうだった。

⏰:07/09/13 01:58 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#326 [向日葵]
泣いてもわめいても、止むことのなかった母さんの手。

だから私は、涙を流すのを止めた。

なのに……

ここへ来てから、温かさとか、好きな人への恋しさとか、色々知っちゃったから……。

また涙を流す事を思い出してしまった。

「う……っ。んぐんぐ……っ。はぁっ……。うぅぅっっ……。」

私は少し手を止めて、ケーキを掴んでいなかった方の手で目を拭った。

⏰:07/09/13 02:02 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#327 [向日葵]
ケーキは綺麗に、そして皮肉にも、メッセージの「静流」の部分だけが残っていた。

―――――――……

「―――……?」

目を開けると、目を瞑ってた時と変わらなかった。
真っ暗。
雨なので月の光すらない。

どうやら知らずの間に寝ていたらしい。

手には生クリーム。
少し起きればケーキの残骸が見えた。

とりあえず今は食べる気になれないので手を洗った。

⏰:07/09/13 02:07 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#328 [向日葵]
今何時だろう……。

目をこらすも暗くて見えない。

まぁ別にいいだろう。
朝になれば、少しは明るくなるだろうし……。

ベランダの戸を開けた。
湿気が体にまとわりつく。

今、私が前みたいに消えたら、それでも静流は探してくれるのかな……。

ねぇ静流。私、静流と両想いになる事望んでるけど望んでない。

それでも、私が貴方に好きと言ったら、貴方はどうする?

⏰:07/09/13 02:11 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#329 [向日葵]
でもきっと……貴方は彼女がいるからと、断るんだろうね。

苦笑しながら、雨空を見上げた。

すると

キンコーン

私は目を見開く。
うそ……っ。もしかして……。
足が勝手に玄関へ走り出す。

静流……。

静流!

バン!!

「わ!びっくりしたぁ!!」

⏰:07/09/13 02:15 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#330 [向日葵]
「香月……さん。」

そこには傘を畳みながら立っている香月さんがいた。
あまりの自分の体の反応に、笑えた。

「?何かおかしかった?」

「何しに来たの?……あぁ。馬鹿にしに?フラレてやんのー!って?」

イライラしながら叫んで私はリビングへと帰ろうとした。

しかし

香月さんに腕を掴まれてしまった。

⏰:07/09/13 02:19 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


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