―温―
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#551 [向日葵]
足が、震える。

初めてだ。あんな悲しそうで、辛そうで、泣きそうな静流の声を聞いたのは……。

これでいい…。
これで…………。

「―――っゴ、ゴメン……っ!!ゴメンネ……っ静流……っ!!」

謝るしか出来ない。

ありがとう。
私なんかを好きになってくれて。
とても嬉しかった。
私も貴方が大好き。

でもね……どうしても自分が幸せになるのが許されない。

⏰:07/09/27 13:51 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#552 [向日葵]
静流はあんなにも温かい心をくれたのに……私は何も返せなくて。

ゴメンネ……ゴメンネ……。


ごめんなさい…………。

外では、雨が降り始めていた。

―――――……

朝起きると、薄手の布団がかけられてた。

当然、あの後だったから、静流の部屋にある自分の布団には行けず、ソファーで寝た。

目が重い……。いっぱい泣いたからかな。

⏰:07/09/27 13:55 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#553 [向日葵]
「あ゛ー……あ゛ー……。」

喉がかすれてる。
声が出しづらい。
体も……重い……。

喉を擦りながら、ゆっくりと体を起こした。

……これからどうしたらいいのかな……。

静流はまた微笑みかけてくれる?
また優しく頭を撫でてくれる?
また……名前を読んでくれる……?

膝を抱えて、その膝に、顔を押しつける。

どうして私は……あんな形で静流に出会ってしまったんだろう。

⏰:07/09/27 17:31 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#554 [向日葵]
普通に出会っていれば、静流の胸に迷わず飛び込んでいけるのに……。

【あんたなんか生まれてこなければ良かった。】

【約束だからね……。】

「……フフ…。ハハハハ……。」

どうやら、私は邪魔者になるのが運命らしい。


*******************

「どういう……こと?」

双葉は顔が真っ白になってた。
それもその筈だった。

⏰:07/09/27 17:34 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#555 [向日葵]
「言った通りだ。……ゴメン双葉。別れよう。」

しばらくしてから双葉の目からは大粒の涙がこぼれ始めた。

「やだ……やだやだやだ!どうして?!私…っ何かしたの……っ?」

「してないよ。全部俺が悪い……。俺、紅葉が好きなんだ。」

双葉は涙を流しながら固まった。
白い肌が余計に白くなって行く……。

「……分かった。」

そう言うと双葉は自分の教室へ帰ってしまった。

⏰:07/09/28 00:45 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#556 [向日葵]
足取りがフラフラしている。
大丈夫だろうか……。

ゴメン双葉。
双葉はすっげぇいい奴だし、傷つけたくなんてなかった……。
それでも、自分の気持ちに嘘はつけなくて……。限界なんだ。

俺も教室へ帰った。
すると香月が入口付近に腕を組んで立っていた。

「へぇ……。やっと本気出すんだ。」

大して面白いことなんて無いのに香月は笑っている。

「香月……俺、紅葉に言ったから。好きだって……。」

⏰:07/09/28 00:49 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#557 [向日葵]
「へー。」

香月との今日の会話はこれで終わりだった。

香月との仲が、日に日に悪くなっていってる事が痛いほど分かる。

それも全部、俺のせいだって……分かってるけど……。

家に帰ると紅葉の姿がなかった。
ベランダに出る戸にカーテンがかかってる。
多分外にいるんだろう。

テーブルを見ると小さな字で書かれたメモがあった。

<一人でご飯食べて。私はいらない。>

⏰:07/09/28 15:01 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#558 [向日葵]
一度、ベランダの方を見た。

そして料理を作って、シンとする中で食べる。
結構辛いものだ……。

どうしてこうなったんだろう……。

*********************

そんな風にしながら日は過ぎていった。

足りない頭で私は考えた事がある。

静流が学校へ行ってる間、私は働いてる源さんへ電話をした。

プルルルルル

{もしもし。}

「源さん。紅葉です。」

⏰:07/09/28 15:06 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#559 [向日葵]
「……お願いがあります。」

―――――……

ガチャン

静流が帰ってきた音が聞こえた。

大丈夫。落ち着け。
いつも通りだ。

リビングに来るかと思いきや、静流は部屋へ行ってしまった。

「フ……フゥ―……。」

緊張しすぎだ。

ソファーに座っていた私はずるずると寝転んだ。

⏰:07/09/28 15:09 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#560 [向日葵]
今日は……絶対顔見せよう。
大丈夫。静流ならきっとまたいつも通りでいてくれる。

頭の中でずっと「大丈夫」と唱え続けた。

「あ、いたんだ。」

思わず飛び起きた。

着替えていたらしい静流は、いつの間にか部屋から出ていて上から覗いていた。

「ご飯……食べるか!」

気まずそうに笑い、静流はキッチンへと行った。

私は少しホッとする。
良かった。笑いかけてもらって。
冷たくされるんじゃないかと心配した。

⏰:07/09/28 15:14 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#561 [向日葵]
久々に二人で食べるご飯はとても美味しく感じた。

静流は私に「食べれるか?」とか「大分平気になって良かったな。」と温かい眼差しで言った。

私はウンと答えるしか出来なかったけど、静流には多分伝わっているだろう。

そんな時だった……。

ピンポーン

二人で顔を見合わせた。

「誰だろう。」

私は使ってたフォークを置いて階段を降り、玄関を開けた。

⏰:07/09/28 15:18 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#562 [向日葵]
「双葉さん……。」

「こんばんわ。」

いつもの明るく愛想のいい挨拶をしてくれた。
でもなんだか様子が変だ。

「えと、静流呼んで」

「貴方に話があるの。」

静流がいるだろうと思う所らへんの天井を見た顔を下に下げ、双葉さんを見た。
見て驚いた。
少しの間で、双葉の顔は洗った後みたいに濡れていた。それは涙のせいだ。

「紅葉ちゃんは……ズルイ……。」

⏰:07/09/28 15:22 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#563 [向日葵]
涙でしゃがれた声でそう言われた。
そして瞬時に分かった。
双葉さんは、静流に別れを告げられたんだと。

「こんな近くにいちゃったら……っ誰だってその子を見ちゃうよ!貴方が捨てられてるのを発見してから静流の言葉に貴方の名前が無い日はなかった!!」

―――ズキン

私……ズルイんだ……。

「ひどいよ…っ!!静流が大好きなのに……紅葉ちゃんが横取りするなんて……そんなのひどいよ!!」

「やめろ!!」

⏰:07/09/28 15:26 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#564 [向日葵]
騒ぎで降りてきた静流が後ろで怒鳴った。

私はずっと双葉さんを見たまま体を動かす事も出来ず、固まっていた。

「紅葉のせいじゃない。俺が悪いんだ。双葉を好きでいてやらなかった俺が……。だから、紅葉を責めるのはよせ。」

双葉さんの見開かれた目からは涙が次から次へと流れていった。
そして急にきびすを返して走り去って行ってしまった。

「静流……追ってあげて……。」

「なんで。」

⏰:07/09/28 15:31 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#565 [向日葵]
背中を向いたまま、開かれたドアの向こうを見ながら静流に言った。

「どうして別れたの。」

「……言っただろ。……前に」

「よく考えてみてよっ!!私がここにいなかったら、静流はいつまでも双葉さんと仲良くいたのよ?!私の……私のせいで、別れたりしないでよ!」

「だから違うって言ってんだろっ!!」

大声を出した静流に私はビクッとした。
静流は戸を閉めて私を階段近くまで引っ張った。

⏰:07/09/28 15:36 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#566 [向日葵]
大きな両手で私の顔を包むと、静流は上を向かせた。

「どうして、お前は自分ばかり責めるんだよ。そこまで…自分を傷つけなくていいんだ。」

静流の切ない目が潤んで、とても綺麗に感じた。
私はそれに目が離せなくなる。

「人を好きになるのは誰のせいでもない。だから、頼むから……。俺の気持ち分かってくれよ。」

そう言いながら辛そうに目を瞑り、私のおでこと静流のおでことをコツンと当てた。

⏰:07/09/28 15:42 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#567 [向日葵]
分かる。
好きって気持ちは、ホントどうしようもなくて、押し止めてしまうのが苦しい。

だから言葉が溢れていくんだと思う。

「好き。」

…………と。

静流が目を開けた。

「今……なんて?」

「好き。私は静流が好き。でもね……また違うの。貴方の好きと、私の好きは……。」

静流は一瞬輝かせた目を戻して私の続きを待った。

⏰:07/09/28 15:46 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#568 [向日葵]
「ありがとう。こんな私を好きになってくれて。おやすみなさい。」

私は静流の手を顔から離して横を通り過ぎ、階段を上がって行った。

「紅葉。」

進める足をピタッと止める。下を向くと、さっきのまま静流が私に話しかけている。

「これからも……お前が俺を好きになることは……俺を恋愛対象として見ることは……ないのか?」

あるよ。あるじゃない。
現在進行系で貴方が大好きなの。

――横取りするなんて……っ!

私が双葉さんの立場でも多分そう思う。
私はズルイ。

⏰:07/09/28 15:52 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#569 [向日葵]
静流に大事にされて、優しくされて……。
彼女立場とすれば目の上のタンコブに違いない。

大好きな人の心が、自分に向いてないことは、なんて悲しいんだろう。

「……。ない。」

それだけ言って、私は階段を登って行った。

―――――……

やっと源さんが帰ってくる日。
あれからも態度は変わらない私達。
しかしうっすらと作られてしまった壁。
きっと元に戻る事はない。でもそれでいい。

⏰:07/09/28 15:57 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#570 [向日葵]
源さんは夕方頃にボサボサな頭を更にボサボサにさせて帰ってきた。

「ただいま!仲良く留守番してた?」

「そんな年じゃないっつーの。」

そんな温かい親子を少し微笑みながら見ていた私は、心の中で思った。

――いよいよだ……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜。
良かった事に今日は満月が綺麗に出るほど天気のいい空だ。

ベランダで体育座りをしながら眩しい月を見上げる。

⏰:07/09/28 16:01 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#571 [向日葵]
時間を見れば、夜中の1時。そろそろ静流も寝静まった頃だろう。

リビングを横切り、部屋をそろっと開ける。
予想通り、静流は寝ていた。

暑いのか、布団をあまり被らないで壁側を向いて寝ている。
この方が好都合。
予め用意していた旅行用カバンを持ちながらカチャリとドアを閉めた。

急いで置いてある自分の服、下着をカバンに摘める。

ここまですれば、私が何をするかお分かりだろう。

⏰:07/09/28 16:06 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#572 [向日葵]
そう。

あれは源さんに電話した時だった。

―――――
――――――――……

{旅?}

「そう。一人旅。出来るだけ遠くに行ってみたいの。」

このまま私がいてしまうとダメな気がした私はそう言った。
しばらくの間、静流とも香月さんとも離れて、香月さんはともかく静流にもう一度考えてもらいたかった。

本当に私が好きかどうか……。

⏰:07/09/28 16:10 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#573 [向日葵]
{……。僕の知り合いに、旅館を経営してる人がいるんだ。その人のトコへ行ったらどうかな。}

「じゃあ……そうする。あと、静流には言わないでくれる?」

{?どうして?}

静流が自分のせいだって思って引き止めてしまいそうだから……。なんて言えない。
第一源さんは私達のそんな事情を知らない。

「「子供のくせにまだ早い!」っとか言いそうだから。」

と冗談で返すと、源さんは「確かに。」大笑いした。

⏰:07/09/28 16:16 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#574 [向日葵]
もしかしたら源さんは何か感じとってたかもしれない。
でも何も言わず、ただ私の言う事をウンウンと言って聞いてくれた。

私は朝一の新幹線で源さんの知り合いとやらの旅館へ行く事になった。
駅までは一人で行くと源さんに伝えた。

源さんは「じゃあ駅までの地図を当日渡すね」と言って仕事が忙しくなったのかじゃあと言ってから電話を切った。

――――
―――――……

そして今に至る。
私は朝になるまで寝ないつもり。

⏰:07/10/02 23:13 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#575 [向日葵]
その代わりに静流の寝顔をしっかり見ておくの。
次に会う時までの少しの支え。

きっと会いたくなる時があると思う。
でも我慢しないと。

すぐ帰ってしまっては静流の気持ちが変わってないかもしれない。

本心は、変わってほしくなんかないけど……ね。

私はベッドに歩み寄ってストンと座った。
静流は熟睡して寝息をたてている。

そんな静流の顔を、そっと撫でてみた。

⏰:07/10/02 23:17 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#576 [向日葵]
男の子だって言うのに、すごく肌が綺麗なのかスベスベしてる。

私は静流の頬を何度も指先で往復した。
胸が……苦しい……。

パシッ!

「っ!!」

寝てる静流が私の手を掴んだ。
寝てるのに素早い動きだったので私の心臓がバクバクと急に動き出した。

「……れ……。」

「れ?」

何の事か分からない私に教えてくれるように静流はもう一度寝言を言った。

⏰:07/10/02 23:21 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#577 [向日葵]
「く…れ、は……。」

「――っ。」

私の……夢を見てるの?

掴まれた手は、離される気配がない。

静流……私は、どこにも行かない。
また、貴方の前に現れる。それがいつかは分からない。
でも必ず、また来るから……。

ありがとう。

私に優しくしてくれて……好きになってくれて……。

ありがとう……。

⏰:07/10/02 23:24 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#578 [向日葵]
私は唇を、静流のおでこに当てた。

シャンプーの匂いが、鼻をかすめた。

―――――
――――――……

午前4時。

もっと見ていたかった。
静流の、綺麗なその顔。
でももう時間……。

タイムオーバー。

いつまでも掴まれたままだった手を、ゆっくりと外して行った。

「……バイバイ……。」

荷物を持って、私は静流の部屋を静かに出て行った。

⏰:07/10/02 23:28 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#579 [向日葵]
下へ行くと、玄関に源さんがいた。

「静流君に、本当に言わなくていいの?」

私は頷いた。

「朝まで寝かしといてあげたいから。心配しないようにだけ言っておいて。」

「そっか……。あ、ハイ地図。」

渡された地図に目を落とす。
結構時間がかかりそうだ。

地図から目を離し、源さんを少し見てから頭を下げた。

⏰:07/10/02 23:31 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#580 [向日葵]
「わがままを……聞いてくれて、ありがとうございました。」

すると源さんは、悲しそうな微笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。

「いつでも帰ってきてね。君は僕達の家族なんだから。」

家族……。
最初から源さんや静流は前から私がいたみたいに扱ってくれた。

それをとてもありがたく思う。

「行ってきます。」

私は源さんの方は向かずに戸を閉めた。

⏰:07/10/02 23:35 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#581 [向日葵]
門を出て数歩歩いてからまた家を眺めた。

驚くほどの家のでかさ。

いつも自分が愛用していたベランダ。
いつも明るかったリビング。
水やりしていた花壇。


そして……あそこは静流の部屋……。


じって見つめる。
もしかしたら静流が止めにくるかななんて馬鹿な事を思いながら。
そんな事をしたら意味が無くなるのに。

どうしてだろう。

永遠の別れじゃない筈なのに、もう二度と会えない気がする。

⏰:07/10/02 23:39 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#582 [向日葵]
でも、それでもいい……静流さえ幸せになってくれれば、それでいい。

そして私は歩き出した。

6月の早朝はなんだか湿っぽい。

遠くで新聞配達の音が聞こえる。

私のジャリジャリと言う歩く音が聞こえる。

その途端、胸が一杯になった。
涙がボロボロ流れ始める。

「―――っう……っ。ふうぅ……っっ!」

歩くのが何だかもどかしくて、私は走り出した。

⏰:07/10/02 23:43 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#583 [向日葵]
「ハッ!ハァッ!!……んくっ……っ。」

泣いてるせいで、呼吸困難になりそう。
でも走り続けた。

幸せに憧れた。
幸せになりたかった。
もっと一緒にいたかった。
もっと一緒にいてほしかった。

でも私はそれほどの人間でもなく、自分が幸せに敏感なだけに人の幸せを奪うのはどうしても出来なかった。

ずっと頭の中で、そう唱えてた。

【俺は紅葉が好きだ。】

⏰:07/10/02 23:47 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#584 [向日葵]
朝日が見え始め、その光を全身に目一杯浴びる。

静流。
私も好き。大好き。

ゴメンネ。
答えてあげられなくて。

静流……静流……。

「っうあぁぁ!!……ひっ!ハァッハァッ!!」

またね……って、言えない気がする。

だから


さようなら。

⏰:07/10/02 23:50 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#585 [向日葵]
―会―











朝だ……。起きなきゃいけない。

今日も学校だ。

俺はぼんやりしながら体を起こした。

ふと、右手を見てみる。
何か感触が残ってるような。

⏰:07/10/02 23:53 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#586 [向日葵]
それが何かなんて、検討もつかない。

そのまま視線を滑らすと、紅葉の布団に紅葉がいない。

彼女は確かにいつも早起きなのだが、起きたような布団の形はしていなかった。
敷いてそのままと言う感じだ。

もしかしたらまたソファーで寝てしまっているのかもしれない。

確認の為、俺は部屋を出た。

リビングに向かうと、シーンと静寂に包まれていた。

⏰:07/10/03 00:00 📱:SO903i 🆔:RMOaFhzI


#587 [向日葵]
寝息のような音すら聞こえない。
でもとりあえず呼んでみる。

「紅葉ー?」

もちろん返事などなかった。

ソファーに一歩一歩近づいて行く。

何故だろう。

心臓が高鳴っていくのがわかる。
胸騒ぎと言ったらいいのだろうか。

予感は的中。

……紅葉が

いない……。

⏰:07/10/03 00:07 📱:SO903i 🆔:RMOaFhzI


#588 [向日葵]
「……れは……?」

よたよたと後退して行き、ザッ!っと体を翻して父さんの部屋へ向かった。

階段をこけそうなくらい早く降りて、廊下を大股で走って行く。

ドンドンドンドン!!

俺は父さんの部屋のドアを思いっきり叩いた。

「父さん!父さん!大変だ!!」

俺がこれだけ混乱してるって言うのに、父さんはゆっくりとドアを開けた。

「父さん……っ?!大変だってば……っ!」

⏰:07/10/03 00:17 📱:SO903i 🆔:RMOaFhzI


#589 [向日葵]
父さんは何故か無表情だった。
そこで俺は分かった。

「知ってんの……?紅葉いないこと……。」

父さんはゆっくりと頷いた。

俺は訳がわからなかった。何故?何故出ていく必要があったんだ?
俺のせい?
俺が好きだとか言ったから?

パニック状態になった俺の表情を読み取った父さんが言った。

「大丈夫。一人旅に出かけただけだから。」

「一人……旅?」

⏰:07/10/04 00:58 📱:SO903i 🆔:InOsgAz6


#590 [向日葵]
「旅がしたかったんだって。心配しなくても、いつか帰ってくるから。」

いつか?

「いつかって……いつ?」

父さんは静かに微笑んで言った。

「いつか……だよ。」

つまり決まってない。

明日帰ってくるかもしれないし、1週間後に帰ってくるかもしれない。

それが、もし、何年も先だったら……?

俺は急いで階段を駆け上がり、携帯を手にした。
リダイアルで紅葉の番号を出し、電話をかけた。

⏰:07/10/04 01:02 📱:SO903i 🆔:InOsgAz6


#591 [向日葵]
コールが鳴り続ける。
紅葉が出る気配が全くない。

プツッ

「!紅葉!今どこに」

{おかけになった電話は、電波の届かない所か、電源が入ってない為……}

携帯アナウンスに失望して、最後まで聞かないまま電話を切った。

どうして、こうなってしまったんだろう……。


*********************

段々と、景色が田舎になってきた。
見る限り、山、田んぼ、山田んぼ……。
緑一色しかない不思議な世界。

⏰:07/10/04 01:06 📱:SO903i 🆔:InOsgAz6


#592 [向日葵]
ぼんやりと、初めて行く場所に向かっていた。

私は途中自販機で買ったミネラルウォーターを一口飲み、しばらく寝ることにした。

なんだか……目が重い気さえした。

*********************

「紅葉が消えた?!」

今朝の出来事を香月に伝えた。
驚いている事から香月にも知らされていなかったらしい。

「何で消えるんだよ!意味分かんねぇぞ?!」

⏰:07/10/04 01:10 📱:SO903i 🆔:InOsgAz6


#593 [向日葵]
「俺だって分かんねぇよ!!」

俺の荒けげた声に、クラスメイト何人かが振り向く。
香月は少しびっくりしていて目を見開いている。

「どこに行ったかとか……聞いてないのか?」

香月の言葉に、俺はうなだれて首を振った。
父さんからはただ一人旅だとしか聞かない。
何故俺には内緒だとか、何故行ってしまったとか、聞きたいのは俺の方だった。

「携帯にも繋がらないんだ……。メールも返ってこねぇし……。」

⏰:07/10/05 14:59 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#594 [向日葵]
「おじさん、行き先知ってるんじゃないのか?」

「さぁ……。」

「「さぁ」っじゃねぇよ!イジイジしてる暇あるんだったら少しは行動して見ろよ!!」

……?
なんで俺が?
いや、行動するのには何も抵抗は無い。
寧ろ動きたくてウズウズしてるくらいだ。

「お前、何で俺の応援してんの?」

問いた時、香月はフゥ……と息を吐いた。

「お前ら、両想いだって知らなかったのか?」

⏰:07/10/05 15:04 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#595 [向日葵]
頭の機能が、停止した。

真っ白になって、視界も何を見てるかなんて分からなかった。

紅葉が……?
だって俺が前、好きになる確率がないかと聞いた時、アイツは

[ない。]

……って……。

なら……どうして?

「ついでプラス、嫌味でお前にある事を教えてやろう。」

香月の声がしたのをきっかけに、俺は現実へ戻ってきた。

⏰:07/10/05 15:08 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#596 [向日葵]
「お前の誕生日の時、紅葉はケーキを買ってきててなぁ。」

腕組みしながら喋る香月に俺は小さく「え?」と返した。

「帰ってきてケーキを見つけたお前が気をつかわないように紅葉は一人で食べたんだ。」

「一人?」

「一人。」ともう一度言って香月は黙った。
俺の様子を見ているらしい。

一方の俺は呆然としていた。

⏰:07/10/05 15:12 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#597 [向日葵]
食べれないのに……一人で、全部……。

「さらに、ついでのついでだ。」

「まだ、あるの?」

「あぁ。俺はお前と違って相談役もしてたからなぁ?」

それを聞いてグッと歯を食い縛った。
よく考えてみれば、自分は紅葉に何をやってあげたんだろうか。

「今思い出した事だ。紅葉はな、お前が自分を好きになってしまったら出ていくって言ってた。丁度そのケーキの件の時だ。」

⏰:07/10/05 15:18 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#598 [向日葵]
血の気が引いていくのが分かる。
まさか自分が原因だったなんて。

でも何故俺は紅葉を好きになっちゃならなかったんだ……?
紅葉も俺を好きなら、それでいいんじゃないのか?

「紅葉はな。」

「ん?」

「優しすぎてんだよ。」

脳裏に紅葉の痛々しい笑顔が蘇る。
今なら、あの笑顔の意味が分かる気がした。

「自分のせいで、双葉ちゃんが悲しい思いをするのが嫌だったんだろうな。」

⏰:07/10/05 15:22 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#599 [向日葵]
「だってそうだろ?」と香月は続けた。

「考えてもみろよ。あの子は捨てられたんだ。しかも自分が邪魔だと親に言われたんだろ?だから、邪魔者にならない様にいつも我慢してたんだよ。」

[私は不要じゃない!]

紅葉を拾って来た時、紅葉が叫んでいた。

「……俺……。」

その時からかもしれない。
紅葉が好きだったの。

放っておけなくて、危なっかしくて……でもどこか愛しくて……。

⏰:07/10/05 15:27 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#600 [向日葵]
「お前は、よく紅葉を見てんのな……。」

いかに、今まで自分は自分の事しか考えていないかよく分かった。

香月に妬いて出ていけといったり、変な態度をとってケンカしたり、勝手に殴ったり……。
自分はどれだけ紅葉を傷つけたんだろう。

あの痛々しい笑顔以来、紅葉の心から笑った顔は…………見てない……。

ゴンッ!!

頭に激痛。
急な事に目の前にはチカチカ星が飛んでる気がした。

⏰:07/10/05 15:31 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


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