―温―
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#401 [向日葵]
―――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/17 02:39 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#402 [向日葵]
「何の用だよ。」

{……そんなの関係あるわけ?お前に。}

受話器を握る手に力が入る。
香月はそんな俺に構わず続ける。

{お前は紅葉を妹ぐらいにしか思ってないんだろ?ならいいんじゃないのか。紅葉が誰とつるもうと。}

「……っ。」

ガチャン!

図星を付かれて、いらだち任せに受話器を置いた。

頭をグシャグシャとかきまわす。
そういえば風呂、まだだった。

⏰:07/09/18 01:28 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#403 [向日葵]
双葉が来るなら、清潔の方がいいだろう。

リビングを出る前、ベランダで空を見上げる紅葉に一回視線を向けて、俺は風呂場へ向かった。

*****************

はぁ……。ちょっと外に出て来ようかな。
……いや今外だけど。
花壇の水やりにでも行ってこようかな。

「こんにちわ。」

「ん?」

下から声がしたから、下を見ると、長い黒髪を風に遊ばせながら彼女さんがにこにこ笑っていた。

⏰:07/09/18 01:35 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#404 [向日葵]
「こん……にちわ。開いてると思いますよ。」

彼女はもう一度にこっと笑って家へと入って行った。
とうとう来たか……。
やっぱり花壇に行って来よう……。

私はベランダからリビングに出て、階段を降りた。
玄関のドアに手をかけた。
「あれ?紅葉。どこ行くの?」

フゥー……と息を吐いて後ろを向くと、静流が上半身裸のびしょ濡れでいた。

最早約束を忘れてる。
何だっつーの……。

⏰:07/09/18 01:42 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#405 [向日葵]
私は静流を無視して外へ出た。

日差しがもうすっかり暑い。
静流の家に引き取られてどれくらい経つんだろう。

夏は嫌い。早く冬が来ればいい。そしたら逃げ場所のベランダに出るのはちょっと辛くなるかも。

「……その時はその時よね……。」

いつものじょうろを持って水を貯める。
ぼーっと水が貯まるのを見ていると、急に涼しくなった。

あぁ雲で太陽が隠れたんだと思ってたら、今度は目の前が真っ暗になった。

⏰:07/09/18 01:51 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#406 [向日葵]
「だぁ〜れだ!」

「はぁっ?!誰よ!」

そう言うと視界が明るくなって、目を覆ってたのが手だと分かった。

そして逆に香月さんが現れた。

「?!」

「よっ!数時間ぶり!」

水を一旦止めて、立ち上がって香月さんとの距離を取った。
まだあの言葉に戸惑いを隠せない。

「フゥ…。警戒しないでよ。力づくでとか思ってないし。」

と香月さんは微笑んだ。

⏰:07/09/18 01:57 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#407 [向日葵]
力づく……。

そう言われてさっきの静流とのキスを思い出してしまった。
忘れる為に、また口をゴシゴシ拭く。

「え?何?どうかしたか?」

急な私の行動にびっくりした香月さんは私の手を止めた。

「……あれ?手当て、しなくていいの?」

香月さんの指が私の頬にある傷近くを撫でる。

思わずビクッとしてしまって、顔が赤くなる。

⏰:07/09/18 02:03 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#408 [向日葵]
「クスクス……。やっぱ可愛いわ紅葉。」

「……っ。」

「おいで。水やりは後。俺がしてあげるよ。」

と私の手を引いて、まるで自分の家みたいに家に入り「おじゃましまーす!」と元気よく挨拶すると階段を駆け上がった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「じゃ消毒からしよっか。」

消毒液をティッシュに二、三回吹きかけてから私の顔や手、足の傷をトントンと拭いていく。

⏰:07/09/18 02:07 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#409 [向日葵]
さっき乱暴にガーゼやらを剥がしたから少し傷が開いたのか、消毒液が傷に当たる度に痛みが走る。

そんな私を気づかってか、拭く強さを優しくしてくれた。

それからは丁寧に包帯を巻いてくれたりバンソーコーを貼ってくれたりした。

「……ありがとう。」

「どーいたしまして!さて、水やりしに行く?」

「もーいい。」

出たり入ったりすんのもうめんどくさい。

「気分は?」

「え?」

⏰:07/09/18 02:15 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#410 [向日葵]
そりゃ頗る悪いけど。

内面的にも。
体的にも……。

「あんまり食事出来ないのにケーキあんだけ食べちゃっただろ?」

「あぁ……。別にどうもない。そんな事吹き飛ばす事があったし。」

最後は小声だ。
なので香月さんの耳には届いてない……筈。

「そっか。」と言って救急箱を元に戻す香月さん。
そしてまた私の隣に来て座った。

そういえば……。

「何しに来たの?」

⏰:07/09/18 02:19 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#411 [向日葵]
「ん?何かさ、電話するより話した方が早いと思って。ちゃんと話した事ってあんまりなかったっしょ?だから一回ゆっくり喋りたいと思って。」

ニカッと笑うと、私の頭を撫でてきた。

静流が真っ直ぐだからその友達も真っ直ぐに気持ちをぶつけてくるみたい。
まさしく類友。

だから私はこの人に対する反応に困ってしまうのだ。
「さてと。まずはお互いの事でも知り合おっか!趣味とかは?」

「あのね。お見合いじゃないんだから……。」

⏰:07/09/18 02:26 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#412 [向日葵]
そこでなんだか笑えてしまって、ハハと軽く笑った。

すると香月さん口がぽかんと開いた。
私は眉を寄せて「何事?」と思った。

「笑った……。めちゃくちゃ可愛い……。」

「なっ……!!」

驚いた。
可愛いなんて初めて言われた。
更にしどろもどろになる。

「趣味知りたいんでしょ!趣味は映画よっ!映画鑑賞!」

「え?マジ?俺も映画超好き!」

⏰:07/09/18 02:31 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#413 [向日葵]
香月さんは最近の最新作とかを沢山教えてくれた。

私は甘ったるいラブストーリーよりもミステリーとかホラーとかが結構好きだった。

「へー。怖そうなのならもうすぐ公開するよ。なんなら見に行く?」

「いいけど……。私、街あんまり好きじゃないし……。」

「穴場知ってるんだ。行こうよ。」

行きたい。
でもそれってデート?
あまり意識したくないけど意識してしまう……。

⏰:07/09/18 02:35 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#414 [向日葵]
「あれ?香月くん来てたの!」

二人で横を向くと、リビングの入口に彼女さんと静流が立ってた。

彼女さんの手にはトレーに乗った二つのコップ。
おそらくジュースが無くなったコップを彼女さんがキッチンに運ぶと持って来て、静流の事だから「いいよ」と止めに着いてきたのだろう。

まんざら間違いでもなさそうな自分の分析に呆れた。

「どうしたのどうしたの?紅葉ちゃんと仲良しなんだね。」

⏰:07/09/18 02:41 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#415 [向日葵]
「映画が好きなんだって。だからその話してたら盛り上がっちゃって!今度ホラー見に行こうって言ってたとこ!」

静流は香月さんの言葉に無言で私を見つめた。
初めて聞いたみたいな顔をして。
当たり前じゃない。
聞かれもしなけりゃ言ってもないもの。

「そうなの?あ!じゃあ、近くのレンタルビデオで怖そうなの借りてこない?ね!紅葉ちゃん!」

え、私?

「ね、行こ!」

「え、ちょっ……。」

有無を言わさず私は彼女さんに引っ張られて家を出た。

⏰:07/09/18 02:46 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#416 [向日葵]
ストレートに気持ちを伝えるだけじゃなくゴーイングマイウェイな人達すぎる……。
振り回される方の身にもなりなさいよ……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「リングとかはやっぱり定番だから見ちゃったかなぁ?」

DVDを両手に持ちながらウキウキ私に喋りかける彼女さん。
静流がいたならそれは「可愛いなぁ」とかって思うんだろう。

「紅葉ちゃん?」

私の目の前で首を傾げる彼女さん。
ハッと自分の世界から帰ってきた。

⏰:07/09/18 02:50 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#417 [向日葵]
「どうぞ彼女さんが怖そうだと思うの選んで下さい。」

「アハハ!やだなぁ。彼女さんだなんて。双葉でいいよ。」

彼女さん、もとい、双葉さんはニカッと笑ってDVDを次から次へと見ていく。

「静流がね。貴方の話をよくするの。」

「え……。」

双葉さんはDVDのあらすじを読みながら話す。
私はその横顔を見つめた。

「貴方がよっぽど好きなのね。」

⏰:07/09/18 02:56 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#418 [向日葵]
優しく微笑む。
でも少し悲しそうだった。

「静流は貴方以外目に入ってませんよ。貴方の話をする静流は、すごく優しい顔しますから。」

「……本当?」

双葉さんの目がきらきらと輝く。
少し興奮してるのか頬が赤くなってる。

恋する乙女って感じだな……。

「本当ですよ。自惚れてもいいほどに。」

そう言うと嬉しそうににこぉっと笑って、カゴにいくつもホラーのDVDを入れていく。

⏰:07/09/18 03:02 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#419 [向日葵]
間違ってない……。
間違ってないでしょ静流。

だから二度と、傷ついたような目で私を見ないでね……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「お!おかえりぃ!」

一番に香月さんが言ってくれた。静流と香月さんはは微妙に離れてソファーに座り、見る準備をしていた。

双葉さんは静流の隣に。
私は香月さんの隣に座った。

順番的に静流、双葉さん。少し離れて香月さん私の順で座っている。

⏰:07/09/18 03:07 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#420 [向日葵]
雰囲気を出す為にカーテンを閉めて、部屋を暗くする。

タイトルが出て、映画が始まった。

静流達の方を見ると、双葉さんはクッションを抱き締めて静流に寄り添ってる。その肩を、静流は抱き寄せている。

視線を泳がせて、もう二度と見ないように体育座りをして、膝の上に顎を乗せて、映画に集中する。

「怖かったらいいなよ。」

香月さんがこそっと私に言う。
座っている距離を縮めながら。

⏰:07/09/18 03:11 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#421 [向日葵]
「平気。慣れてるわ。」

ピシャーン!

映画の始まりは、雷で始まった。

ビクッ!

体が反応する。
実は私、雷が大の苦手だった。

ピシャーン!

何度も雷が画面の中で轟く。いい加減止めてほしい。
すると

「あーまどろっこし。ちょっと早送りすんな。」

静流がリモコンを持って雷の場面を早送りした。

助かった。と内心ホッとした。
香月さんは私が雷に反応してたのには気づいてない。
良かった。

⏰:07/09/18 03:15 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#422 [向日葵]
出来れば自分の弱味を知って欲しくないのが私だ。

それからは順調にホラーらしくなっていった。
はっきり言って怖いってよりグロイって感じ。
ビビりはしなかった。
……雷以外は。

時々双葉さんが「やっ!」とか怖がってたけど、静流が「大丈夫大丈夫。」となだめているのが聞こえた。

とりあえず、二時間ちょいの映画鑑賞はひとまず終えた。
まだ二本借りてきてるけれど、休憩を入れようってことになって、電気をつけて、何か飲む事にした。

⏰:07/09/18 03:22 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#423 [向日葵]
そこでも率先して動いたのは双葉さんだった。
そして静流はそれを手伝う。
私はソファーに座って香月さんさんとさっきの映画の評論をしていた。

「さっきのはいまいちだったー。」

「私も。体きざめばいいってもんじゃないわよね。」

「アハハ。二人ともすごい事言ってる。」

笑いながら双葉さんは静流と双葉さんの分二つを目の前の机に置いた。

「ってかあんなの見てよく平気だよな。」

と静流が私達の分を持ってきて、何故か私と香月さんの間を割ってコップを置いた。

⏰:07/09/18 03:28 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#424 [向日葵]
その行動が妙に気に障って、逆に私はくっついてやった。
不思議そうにする香月さん。

「紅葉、どうかした?」

「え?私何かした?」

しらばっくれて、わざとくっついたと思わせないようにした。

十五分くらいして、また次の映画へと移った。

――――――……

「あー!見終った見終ったぁぁ!」

大きく伸びをする香月さんを見習い、小さくだが私は伸びをした。

「もうこんな時間!」

双葉さんが言ったので、時計を見ると八時半ほどだった。

⏰:07/09/18 03:34 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#425 [向日葵]
「見た後だから帰るの怖い……。」

本当に怖そうな双葉さんを見て、静流が送ると言った。
双葉さんは私と香月さんに別れを告げると帰った。

「じゃあ俺も帰るね。紅葉。」

「はぁ。どうぞ。」

玄関まで見送ろうと下りて、香月さんが靴をはくのを見ていたら、はき終えた香月さんがくるりんと回って私に言った。

「映画、約束ね!」

くしゃって頭を撫でて、香月さんも帰っていった。

そういえば、源さんはどうしただろう。
寝てるのかも。

⏰:07/09/18 03:38 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#426 [向日葵]
階段を上がる時、嫌な音が聞こえた気がした。

ゴロゴロと、まるで何かが起こりそうな音。

上がってきてみて気づく。雨がまた降り始めていた事に。

今帰った二人、それに静流は雨に会ってることだれうなぁ……。
多分帰ってきたらずぶ濡れだ。

ピシャーン!!

「キ、キァァァ!!」

最悪だ!雷雨だと?!
ふざけんなっ!

私の思いに反抗するみたいに、雷はさっきよりも大きな音、眩しい光を放ってまた落ちてきた。

⏰:07/09/18 03:45 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#427 [向日葵]
「イヤァ!!もう何よ!!」

テーブルの下に隠れて耳と目を塞ぐ。

チカチカ……フッ

雷のせいで停電になってしまった。
これじゃあ余計に雷の光が増して見える。

もうやだ……。
今日は散々だ。

静流ぶたれるし。
キスされるし。
忘れろって言われるし。
双葉さんと目の前でイチャつくし。
雷ヤバいし……。

なんで私ばっかりこんな目に会わなくちゃなんないの?!いくら罰でも酷すぎる……っ!!

⏰:07/09/18 03:50 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#428 [向日葵]
「……っ誰か……。」

せめて雷さえおさまればいいのに……っ。
それどころかどんどん酷くなる。

その時だった。
何かが私を包んだ。
どうやら大きなタオルみたい。
そしてテーブルから出されて宙に浮く。

違う。

抱きかかえられてるんだ。

「大丈夫か?」

静流だった。
雨のせいで髪から滴が垂れている。

「帰って……来たの?」

⏰:07/09/18 03:55 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#429 [向日葵]
「さっきね。」と答える静流と重なって、また雷が落ちる。

思わずひしっと静流にしがみついてしまった。
それにすぐに気づき、離れる。

「下ろして。約束忘れた訳じゃないでしょ?」

「今は休戦しようぜ。こんな震えてるくせに。」

知らなかった。
自分の体が震えてるなんて。言われてみればそうだ。

「怖いんだろ?雷。」

「?!ど……して。」

⏰:07/09/18 03:58 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#430 [向日葵]
―――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/18 03:59 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#431 [向日葵]
「今日DVDで雷の場面嫌がってたじゃん。」

「……!それで……。」

あそこを早送りしてくれたの?

自分自身の許しもなく、鼓動が高鳴る。
些細な事で嬉しくなる自分が逆に惨めに感じた。

静流は私を抱えたままソファーに座った。
そのままタオルを頭から被せて雷の恐怖を少しマシにしてくれた。

それ以前に雷なんて既にふっ飛んでしまった。

「雷止むまでこうしててあげるから。文句はそれから聞くよ。」

⏰:07/09/18 13:39 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#432 [向日葵]
背中を大きな手でポンポンと 叩きながら、私の頭を濡れた胸元に押しつける。

今気づいた、
タオルを被したのは雷だけじゃなく自分の濡れた体から避ける為でもあるんだと。

「私なんか、ほっといて……着替えてきなさいよ。」

静流はクスッと笑うと、私を抱き直してまた背中をポンポンと叩く。

「いいからさ。」

「どうせすぐ忘れるでしょ。私の苦手なものなんて。」

⏰:07/09/18 13:46 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#433 [向日葵]
すると静流は黙ってしまった。背中を叩く手も止まる。

雨と少し遠くなった雷の音、それと私達の呼吸が暗闇の中に響く。

しばらく経って、ようやく静流が口を開いた。

「忘れないよ。」

目の前には静流の胸。
顔は見えないけど、その声は真剣味を帯びていて、予想外の反応に私は目を見開いた。

また背中を叩くのを再開しながら、静流がまた言った。

「忘れないから……。」

⏰:07/09/18 13:52 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#434 [向日葵]
―誘―









「俺紅葉が好きだから。」

これはついこの間の香月との会話。
あのDVD鑑賞会の時だ。

双葉と紅葉とが出かけている時に香月が言い出した。

「別にいいよな?狙っても。」

⏰:07/09/18 13:56 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#435 [向日葵]
香月の目がマジだった。
どうやら冗談ではないらしい。

「なんで……。紅葉なんだよ。お前なら、学校にいくらでも告白してくれる奴いるじゃんかよ。」

「いいと思う奴いないし。ってか何?紅葉じゃ駄目な訳?」

「別に……。」

イスに座ってた香月が立ち上がって、俺の目の前まで寄ってきた。

「静流さ。紅葉が好きな訳?」

「え……。」

⏰:07/09/18 14:03 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#436 [向日葵]
香月の顔が、何だか怒っている気がした。

「俺が紅葉に近づく度に、お前はいっつも言葉濁してるじゃんか。」

「それは!紅葉は妹みたいだし、今朝も聞いただろ。アイツはゴミ捨て場に……。」

「だから大切にしたいとでも言うのか?それなら話は早いよな。」

香月は俺の胸ぐらを掴んでぐいっと顔を近づけた。

「お前のそれは同情でも、兄弟愛でもない。恋情だよ。」

と言って胸ぐらを離した。

⏰:07/09/18 14:10 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#437 [向日葵]
恋情……?

俺が紅葉に?

だって俺には……双葉が……。

「そんな筈……ない。」

香月は俺を少し睨んで横を通ると、ソファにドカッと座った。

「どう解釈するかはお前の勝手だ。だけどな、中途半端がどちらの事も傷つける事を知っておけよ。」

*********************

そしてここからがあれから数日後の話。

「ジャーン!」

⏰:07/09/18 14:14 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#438 [向日葵]
と言って源さんが出してきた中くらいの箱。

箱には見た事のあるロゴ。

「これって。」

「そう!携帯だよ!」

開けてみると白い色をした携帯が入っていた。
人生初携帯。
分厚い説明書と共に登場。
「やっぱり今の時代なかったら不便でしょ?」

「はぁ……まぁ。」

「お金なら気にしないで!じゃんじゃん活用したらいいよ!」

⏰:07/09/18 14:20 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#439 [向日葵]
そう言われると逆に使いずらい……。

幸いにも私は機械に強い方だったので説明書を少しパラパラと読めば使えそうだ。

「ありがとう……ございます。」

「どーいたしまして!じゃあ僕下でちょっと仕事してくるね。」

と源さんはカミングアウトした。

私は携帯を取り出して電源を入れる。
「Hello」と画面上に出た。

貰ったからには何かいじりたい。

⏰:07/09/18 14:25 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#440 [向日葵]
「あ、そうだ。」

と電話が近くにある本を開ける。

そこには香月さんのケー番がかかれた紙切れ。

「登録しとこ。」

「何を?」

文字通り飛び上がった。
静流が帰って来て横から顔を出した。

「あ!携帯!しかも最新じゃん。いいなぁ〜。」

「源さんがくれたの。」

携帯を見せながら静流に言った。
静流は携帯をパカパカしたりして隅々まで見る。

⏰:07/09/18 14:33 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#441 [向日葵]
一通り見てから携帯を私に返してくれた。

「で、登録って何を?」

「え?あぁ。香月さんのケー番を。」

と言いながら電話帳を開いたと同時にまた静流に取られた。

止める前に静流が携帯をいじる。
最初の設定のせいでボタン音がピピピピピピと鳴る。

待っているとようやく携帯が戻ってきた。
何をしたのかと電話帳を開いた。

そこには静流のメアドと番号が入ってた。

⏰:07/09/18 14:38 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#442 [向日葵]
「よっしゃー第1号とったー。」

と言って部屋に入って行った。

私は一連の行動に半ば唖然としていて、「あ、メアド決めなきゃ」とか考えてた。

とりあえず香月さんの番号を入れてからメアドを決めて、香月さんに電話することにした。

ボタンを押して、携帯を耳にあてた。
数回呼び出し音が鳴った後

「ハイ?」

といつもの香月さんらしくない声が聞こえてきた。
何か警戒してる様な……。

⏰:07/09/18 14:48 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#443 [向日葵]
「紅葉……です。」

しばらく間が開いて、「あぁ!」と聞こえた。

{知らない番号からだったから誰かなと思ったんだよ。}

あ、そっか。
だからいつもと違ったんだ。

「今携帯を買ったの。だから一応と思って。」

{そっか……。}

受話器越しに「ハハハ」と香月さんの笑い声が聞こえた。
何か面白いことでもあったんだろうか?

{ごめん。ちょっとね……嬉しくて。}

⏰:07/09/18 14:53 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#444 [向日葵]
そう言われると、少し胸が温かくなって、キュゥっとした。

「はぁ……。そ、ですか……。」

{今度メアド教えてよ。映画の事とかでメールしたいし。}

「わかった。じゃあまた……。」

と言って電話を切った。

まだ胸が熱い……。

自分の胸に手を当てながら、実感する。

⏰:07/09/18 15:00 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#445 [向日葵]
[嬉しくて。]

本当に嬉しそうに呟く香月さんの声が、耳に溶けてまだ余韻が残ってる。

……でも、私は……。

「紅葉。父さんは?」

ひょいと顔を覗かせる静流。

私は……静流が好き……。
香月さんは、何故そんな私を?
こんな私でもいいのだろうか。

そんな私を想ってくれる香月さんだからこそ、私は香月さんを選ぶべきではないんだろうか……。

⏰:07/09/18 15:08 📱:SO903i 🆔:EPqLf0/I


#446 [向日葵]
*******************

―――――……

「ねぇ静流!今度紅葉ちゃんと香月くんでダブルデートしてみない?」

学校帰りに双葉が提案した。
突然の申し出に俺はカパッと口を開けてしまった。

「デートって……。ってかそれ以前にアイツら付き合ってないんだぞ?」

「だから!よ。どう見たって、香月くんは紅葉ちゃんが好きみたいだし。協力しましょうよ。」

……協力ねぇ。

[お前のは恋情だ。]

首をブンブン横に振った。
まさか。確かに俺は紅葉が大事だ。
でも恋愛感情とか……そんなのは……。

⏰:07/09/19 02:24 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#447 [向日葵]
[分かった?]

この前の、紅葉の痛々しい笑顔を思い出した途端、胸がギュウッとなった。

「……。ねぇ静流。」

双葉に呼ばれて現実へ戻ってきた。
双葉を見ると、何か不安そうな顔をしていた。

「……私の事、好き?」

ベストの裾を掴みながら聞いてくる双葉に、フッと笑って俺はその手を包んだ。

それだけで気持ちが通じあう。

絶対……恋情なんかじゃない。

⏰:07/09/19 02:37 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#448 [向日葵]
*********************

「紅葉まだぁ〜?」

「……。」

ほとんど毎日通いづめだと言っても過言ではない。と香月さんに対して思う今日この頃。

花壇の水やり最中に「おっす!」と言われて家に侵入。

映画の話をしたいから早く水やり終われとさっきからダダをこねる。

男性の精神年齢が低いと言われているがあながち間違ってないと思う。

呆れながら水やりをしていると

ズルッ!

「あ。」

⏰:07/09/19 02:45 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#449 [向日葵]
水に濡れた芝生のせいで足が滑った。
視界が反転する。

「……っ!」

ガシッ!

「……っとぉ…。大丈夫?」

香月さんが私を抱き止めてくれた。
おかげで水に濡れた芝生に倒れなくてすんだ……けど……。

[嬉しくて。]

あの香月さんを思い出す度、胸の奥が熱くなる。
そして今その本人に抱き止められてる自分。

⏰:07/09/19 02:49 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#450 [向日葵]
香月さんは私を立たせてくれた。

「あ……ありがとう。」

うつ向き加減に言うと、私の様子に気づいた香月さんはからかってくる。

「あっれぇ〜?何赤くなってんの〜?」

「バッ!こ、これは、今日っ暑いから!!」

苦しい言い訳。
何故なら今日はわりかし涼しい方で、爽やかな風が吹いちゃったりなんかしてるからだ。

でも香月さんは、そんな事は追及せず、ただにこにこ笑って私の頭をくしゃくしゃと撫でるだけだった。

⏰:07/09/19 02:52 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#451 [向日葵]
「気をつけなよ。」

時が穏やかに流れる。

やっぱり私は……香月さんを選ぶべきなのかな……。

カシャン

「ただいま。」

門を開いて、静流が帰ってきた。
世界がまた一変。
何故かピリピリしてる感じがした。

「来てたのか。香月…。」

「あぁ。紅葉に会いになっ。」

⏰:07/09/19 02:55 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#452 [向日葵]
更にピリピリ度が増した。

え?何?
この二人ケンカでもしてる訳?

「ちょっと来いよ香月。」

「お?告白かぁ?」

と、ふざけ合ってるようでどこか間合いを取ってる二人は家へと入って行った。
*******************

パタン。

香月を連れ、玄関に入る。階段を上がって、俺らは部屋に入った。

⏰:07/09/19 02:58 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#453 [向日葵]
「なんだよ。俺犯されるとか?」

「なぁ香月。」

俺は香月に向き直る。

「俺はやっぱり、双葉が大事だ。紅葉は……違う。」

香月のふざけムードが一気に消える。
「ふぅーん」と言いながら、俺に歩み寄ってきた。
そして目の前でピタッと止まる。

「だったら闘争心むき出しにしてんじゃねぇよ。」

俺は眉を寄せて香月を見つめる。

「その言葉……忘れんなよ。」

⏰:07/09/19 03:10 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#454 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/19 03:10 📱:SO903i 🆔:1oBm0ns6


#455 [向日葵]
*********************

花壇の水やりを終えた私はリビングに戻っていた。
さっきは花を潤したけど、今度は私の喉を潤したくて水を一杯ゴクゴクと飲んだ。

それにしても、あの二人の険悪なムードは何なんだろうか。

ケンカであるなら早く仲直りするといいんだけど。

といらん心配をしていると、静流の部屋のドアがガチャリと開いた。

あ、部屋にいたのかとイスに座りながら思った。

リビングに顔を出した静流は何だか落ち込んでいた。だから思わず声をかけてしまった。

「そんなにヒドイケンカなの?」

⏰:07/09/21 01:56 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#456 [向日葵]
静流はハッとして私を見ると、苦笑を浮かべながらキッチンへ行って冷蔵庫を開けた。

「ケンカでは……ないんだよなぁー…。」

「ふぅん……?」

冷やした麦茶をコップに注ぎながらも静流は何だか上の空で私の方をぼーっと見ていた。

私は周りに何かあるのかと思い辺りを見回すが、静流の目当ての物と思う物は見当たらなかった。

「なぁ紅葉……。」

「うん?」

「好きって何だと思う?」

――ゴインッ!!

⏰:07/09/21 02:01 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#457 [向日葵]
頭をもろにテーブルにぶつけてしまった。

とうとう静流の頭がおかしくなったんだろうか……。

「彼女いるくせにそんなのもわからないの?」

「うん……。ちょっとさ、今混乱してて……。」

だからって……。
アンタを好きな私に聞くのはそれはなんか……酷じゃないかしら?

「香月さん来てるなら香月さんに聞いてみなさいよ。」

「アイツはお前が好きなんだぞ!」

「――――は?」

キャッチボールが出来てない……。
そして何が言いたいのかも分からない。
ってかなんで静流そんな事知ってんの。

⏰:07/09/21 02:06 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#458 [向日葵]
「なら尚更聞けばいいじゃない。」

「え?……あぁ。そっか。」

あー駄目だ。
私の頭上に今めちゃくちゃハテナが乱舞してる。

何このぐだぐだトーク……。

私がいぶかしんだ顔をしていると、静流はくんでいた麦茶を一気に飲み干す。

「俺さ……。双葉が大事なんだ。」

「……?」

ここで普通は胸が痛む筈……なんだけど、その言葉はまるで自分に言い聞かせてるみたいだった。

⏰:07/09/21 02:10 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#459 [向日葵]
「何?ノロケ?」

「そうじゃなくて……さ。」

静流はキッチンから私の前のイスまで早歩きしてきて座った。
少しテーブルに身を乗り出して、やや興奮気味にまた話だす。

「大事なのに……、他の奴が気になりって……。どういうことだと思う?」

うわぁ。
まさかの好きな人もう一人いる発言。

私双葉さんだけじゃなくてその人に対しても色々堪えなきゃならないの?

⏰:07/09/21 02:15 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#460 [向日葵]
「その人は……どんな人なの?」

半ば投げやりに聞くと、会話が途切れた。

どうしたものかと、呆れてそらしていた視線を静流に戻すと……

――ドクン……

え……?

静流の目が、まっすぐ私を捕えていた。
それも熱く、潤んだ瞳で……。

勘違いしてしまう……。
私の訳がない。
きっと私に似た誰かなのだろう。

……でも。

「どんな……人……?」

⏰:07/09/21 02:19 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#461 [向日葵]
静流は視線をそのままに、テーブルに頬杖をついてまた話だした。

「危なっかしくて……目が離せない子だよ。」

それを聞いて、私は静流の視線を下を向いて遮る。

私じゃないみたい……。
私そんなドジじゃないし。

「好きって自覚はあるの?」

「いや?その子は妹みたいな存在だから……。」

私の頭の引き出しが整理を始める。

まず、静流には彼女である双葉さんがいる。

⏰:07/09/21 02:24 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#462 [向日葵]
しかし最近出来た気になる人は妹みたいな存在の危なっかい子だ。
しかしそれは未だ恋かどうかは定かではない。

「じゃあやっぱり恋じゃないんじゃない?」

「……うん。俺もそう思いたい。双葉……傷つけたくないし。」

私はため息をついた。

双葉さんは静流が私を気に入ってるなんてよく言えたもんだよ。
静流の頭の中は、双葉さんでいっぱいだ……。

「あ!紅葉!」

「え?」

⏰:07/09/21 02:27 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#463 [向日葵]
「デートしないか?!」

――――……

{ダブルデートォ?!}

受話器から香月さんの声が響く。

只今香月さんと携帯でおしゃべり中なのだ。

「双葉さんが提案者らしいです。」

{めんどくさっ!そんなん言わばアイツらのお守りじゃん。}

そこまで手はかからないと思うけど。

静流は不安且つまだOKもしていない楽しみでありそうな双葉さんを見てどうしても断れなかったらしい。

⏰:07/09/21 02:32 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#464 [向日葵]
はっきし言ってやった。

「知るか。」

と。

{ってかさ、紅葉ちゃんは大丈夫なの?今以上のラブラブな二人を見る事になるよ?}

「途中から別行動すりゃあいいんです。」

じゃないとやってられない。
それでなくても家に来る度胸が痛くて息も出来ないくらいなのに……。

それがデートとなれば、定番であるUFOキャッチャー、プリクラはもちろんの事ボーリングに行けばハイタッチ。服を見れば双葉さんが似合いの服を静流に探すだろう。

⏰:07/09/21 02:37 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#465 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/21 02:37 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#466 [向日葵]
{そっか。分かった。じゃあ今度の日曜楽しみにしてる。}

「楽しみ……なの?」

{うん!楽しみ!じゃあまたね。}

何故楽しみなのか聞く前に電話は切られてしまった。

私もそろそろお風呂に入らなければ。
この頃傷が治ってきたのか、傷口が痒い。
だから早くお風呂に入って綺麗にしたい。

「紅葉。風呂入れよ。」

「今から入るとこ。いちいち言わないで。」

⏰:07/09/21 15:21 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#467 [向日葵]
横を通りすぎようとすると、静流は私の腕を掴んだ。
止められた私は静流を眉を寄せて「なんだ。」と言う風に見た。

静流は口を開けては閉めを繰り返して、中々言葉を出してこない。

痺をきらした私は腕を掴む手を振り払った。

「もーっ!何っ?!」

「……ごめん。何でもない。」

そう言って部屋に戻ってしまった。

********************

部屋に戻って、風呂上がりでびちゃびちゃの髪の毛をバスタオルで拭いた。

⏰:07/09/21 15:31 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#468 [向日葵]
ベッドに座り、今日一日を振り返る。

香月とはこじれるし……。訳の分からない気持ちにはイライラするし。

ってか気になる相手が紅葉だって事を本人が気づいてない。
いや、気づかなくていいけど。

今度の日曜で、俺の今のイライラを打ちきる。

俺は双葉を大切にする……。

双葉を悲しませたりは、決してしない……。

*********************

―――――……

そして日曜がやって来た。
暑い日差しの元で、長い時間歩いてられるかが心配だ。

⏰:07/09/21 15:41 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#469 [向日葵]
なんせ久々の遠出。
それに加えあちこち歩き回る。
私の足と体力はもつだろうか。

待ち合わせの場所で、香月さんと双葉さんを待つ。

「なんか心配?」

「体力には自信が無いの。分かってるでしょ?引きこもり生活が長いの。」

「心配しなくて倒れたら家までちゃんと運ぶから。」

「じゃあそうならない様にするわ。」

じゃないとまた双葉さんが悲しむし。

⏰:07/09/21 15:49 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#470 [向日葵]
結局私は、幸せになんかなれないのね。

「お待たせー!静流、紅葉ちゃん!」

「ちょっと手間取ったぁ〜!」

双葉さんと香月さんが一緒に来た。
双葉さんは真っ先に静流の元へ。
見せつける(私にはそう見えた。)様に静流の腕に抱きついた。

私は少しずつ後退して行くと、後ろから肩を静かに掴まれた。

振り返れば、そこに香月さんがいた。

そうだ……。
こういう場面。今日は一日ずっと見なくちゃいけないんだった。

そな覚悟を、もう一度しておくの、忘れてた。

⏰:07/09/21 16:04 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#471 [向日葵]
まだショック状態の私の手を、香月さんは握り締めて歩きだした。
足は、まだ思考についていってくれなくて、おぼつかない。

「昨日はよく寝れた?」

視線を向けると、香月さんは微笑んで私を見ていた。

静流達は後ろにいるらしい。

「普通。私はどっちかって言うと夜行性だから。夜はあまり寝たくないの。」

「へー。じゃあいつ寝るの?」

「……。あまり眠る事は……好きじゃない。」

⏰:07/09/21 16:18 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#472 [向日葵]
今だから、食事同様マシになった。

それでも、やっぱり夜は寝たくない。
これはクセ。

まだ、母さんからの暴力に堪えてた頃。

母さんが私を殴るのが飽きて寝静まった夜が、何より私の救いの時間だった。

寝てしまったら、また朝が来て、殴られる一日が始まる。
だから、私は救いの時間を貪る様に味わう。

単に言えば、眠るのが恐いのだ……。

まだ治りきっていない、腕のいくつかの痣を見つめ、思い返していた。

⏰:07/09/21 16:22 📱:SO903i 🆔:FFR2DAXk


#473 [向日葵]
「夜は……安らぐ。」

「……そっか。」

香月さんはそれ以上は聞いてこなかった。
私の雰囲気で読めたらしい。

「じゃあまた眠れなかったらさ、夜中に電話でもメールでもしといでよ。」

私は香月さんを見上げた。
香月さんはにこりと笑う。

「……ありがとう。」

上手く笑う事が出来ない分、精一杯思いを込めたありがとうを伝えた。

⏰:07/09/22 02:25 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#474 [向日葵]
香月さんも分かったのか、「うん。」と頷いて別の話題を話始めた。

*********************

「静流。どこ行こっか!」

「んー…?……どこでも。」

「……。」

するりと双葉の手が俺の腕を離れた。
不思議に思った俺はどうしたのかと思い、双葉を見ると、隣にはいず、いつの間にか立ち止まって少し後ろにいた。

「双葉?」

「……だ。」

「え?」

⏰:07/09/22 02:29 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#475 [向日葵]
聞こえないので聞き返すと、双葉がキッ!と俺を睨んだ。

「最近の静流はなんかやだ!上の空が多いし、私の事、ホントに好きか……分かんないよ……。」

泣き出しそうに話す双葉に気づいた紅葉と香月も立ち止まり、俺を振り返る。

一瞬、紅葉と目が合ったけど、すぐに双葉に目を戻して頭を撫でてやる。

「ゴメン双葉……。最近寝不足だったんだ。だから、調子出なかったって言うか……。」

「……ホントに?」

「うん……。」

⏰:07/09/22 02:33 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#476 [向日葵]
もちろんこんなのは嘘だ。

でも今双葉に真実を言ってしまったら、きっと双葉は傷つく。

それは嫌だ。

*********************

静流と双葉さんのやりとりを見て、なんだかその姿が遠く見えた。

停止してしまいそうな脳を強制的に動かして、私はまた歩き出した。
今度は私が香月さんを引っ張る形で……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

やって来たのはCDショップ。
香月さんのお目当ての物が発売と言うことで立ち寄った。

⏰:07/09/22 02:37 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#477 [向日葵]
私達は各々好きなように動き出して店内をうろうろし始めた。

香月さんは目当てのCDを。双葉さんはDVD売り場。
静流は音楽雑誌。
そして私は適当に見て回った。

私はどうも時代の最先端に疎く、こういう音楽でも、どのバンドがメジャーだとか分からない。

適当に試聴でもしてみようと思い、女性アーティストのCDがあるヘッドホンを取った。

スタートを押して流れてきたのは暗めのメロディ。

題名は「恋」だった。
恋なのにメロディこんなに暗くていいのかと内心ツッコミを入れた。

⏰:07/09/22 02:44 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#478 [向日葵]
ダラダラした始まりだったので早送りして、サビ近くまで飛ばした。

ありきたりな歌詞は、なんの感動もなかった。
はっきり言って私はあまり歌詞や詞が好きじゃない。

綺麗ごとを並べてる感じが、とてもイライラした。
「愛してる」だの「君だけ」だの……。
もっと本心を歌え。と心がこうなってしまってから、思うようになってしまった。

やはり、私には音楽が向かないらしい。

短くため息をついて、ヘッドホンを元の場所に置いた。

⏰:07/09/22 02:50 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#479 [向日葵]
「何聞いてたんだ?」

びっくりして声がした方に体ごと向くと、静流が立っていた。

私は指差して聞いてた曲を教えた。

静流はそれを手にとって、「ふぅん。」と言ってから元に戻した。

その間、私は静流から離れた。
それに気づいた静流は私について来た。

とっさに双葉さんがいる位置を確かめた。
遠くにいて、まだ私達が一緒にいることに気づいてない。

⏰:07/09/22 02:54 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#480 [向日葵]
「何か用?」

ついトゲトゲしくなる。

「気に入ったのがあるなら買ってやろうと思って。」

「いらない。私こういうの興味無いから。さっさと双葉さんの元に戻ったら?」

やかましい店内。
明るい曲が店内を包む。
でもここだけ空気がやけに冷たい。

「耳あるの?戻れっつってんの。」

「俺が……。しっかりすればいい事だから。」

「は?」

静流はCDが並ぶ棚から私に体を向けて、また話す。

⏰:07/09/22 02:58 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#481 [向日葵]
「俺がしっかりしてないから双葉が不安になったんだ。例え……不安要素がお前だとしても、俺が」

「私のせいって言いたいの?」

何よ不安要素って……。
そんなに私が邪魔って言いたいの?

静流がしっかりしてないのも私のせい?
私の面倒ばっかりで彼女に手が回らなかったから?

「く、紅葉?」

「自分の失敗を……全部私のせいにしないでよ!!」

私はやかましい店内から、暑苦しい外へと出て行った。

⏰:07/09/22 03:02 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#482 [向日葵]
早歩きで街中を通り過ぎる。
陸橋を渡り、信号を渡り、雑踏をくぐり抜けて……。

なんでアンタ達はそんなバカみたいに笑えるの?

子供は楽よね?
泣けばすぐ助けがくるんだから。

皆……
自分が邪魔だとは思わないの?

私は自分が嫌いで、邪魔で、どうにもならないのがもどかしい。

好きな人の……手伝いすらろくに出来ず、逆に足を引っ張り続ける自分。

⏰:07/09/22 03:07 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#483 [向日葵]
私も笑えば楽しくなる?

――楽しいことなんて何もない。

泣けば誰か助けにくるかな?

――そんなヒーロー存在する訳がない。

「卑屈……。」

自嘲しながら、ひしめくビルの街を頼りなく歩いた。
パシッ!

「!」

「可愛いー!ねぇ一人?」

は?ナンパ?
今時ナンパってあるんだ……。

⏰:07/09/22 03:10 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#484 [向日葵]
肩に置かれた手を振り払って、一睨み。

「ベタベタ触んないで。気持ちの悪い。」

「……んだてオイ!」

今度は胸ぐらを掴まれた。

あー近頃の若者はキレやすい……。
って私もキレたばっかか。
殴るんだ。
私を殴るんだ。
頭の隅で……何か聞こえる……。

―――ヤメテェ!!痛イヨ――!!オ母サン!!

やばいなぁ。足が震えてる。

⏰:07/09/22 03:16 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#485 [向日葵]
バキッ!!

胸ぐらが外れて息が楽になったと思ったら、目の前に

「……香月さん。」

「大丈夫?」

チンピラはいつの間にやら逃げた。
逃げ足だけは早い。

「怪我は?どっか痛む?」

私はストンと座り込んでしまった。
泣きそうになる。
でもこんな人の大勢いる場所で泣きたくなんかない。

⏰:07/09/22 03:19 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#486 [向日葵]
「大……丈夫。」

「ハイ嘘ぉー。ハイおいでー。」

と止める間もなく香月さんは私を引っ張ってどこかに歩いて行く。

着いたのは路地裏。
人通りは無いに等しい。

「歩く……の、早い……。」

少々息切れした。

「アハハ!ゴッメン!」

しばしの沈黙が訪れた。

私は息を整えながらさっきまでの事を思い返していた。

双葉さん企画「ダブルデート」は見事におじゃん。
…いや、香月さんが来たからこれで良かった?

⏰:07/09/22 03:25 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#487 [向日葵]
そして私の性格。

卑屈。短気。生意気。
そして邪魔者……。

「香月さん……。」

「ん……?」

「私……。何しに生まれてきたんだろ……。」

邪魔だから捨てられて、拾われて好きな人が出来て、その人の重荷になって……。

もう……疲れた……。

すると香月さんがゆっくり私に近づいて、優しく私を抱き締めた。

「紅葉。そんなお前見てたら俺……、待てないよ。」

⏰:07/09/22 03:31 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#488 [向日葵]
それから力を入れて、ギュッと私の体を腕で縛る。

「俺と付き合おうよ……。紅葉。」

付き合おう……?
香月さんと……?

付き合ったら……もう邪魔にならないかな。
足引っ張らずにすむかな。

静流の事で、泣かないですむのかな……。

私は香月さんの腕の中でゆっくり頷いた。
香月さんの腕に更に力が加わる。

しばらく抱き締めていた香月さんは、私の体を離した。

⏰:07/09/22 03:34 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#489 [向日葵]
知ってる。

今から何をするか。
何が起こるか。

・・・
あの時は、まだ分からなかったけど……。

香月さんの顔が近づいてくる。
それをぼーって見ていると、香月さんが囁いた。

「目……閉じろよ。」

言われるがままに閉じた瞬間、香月さんの唇が触れた。

でも、驚くことも、鼓動が高鳴ることもない。

それはやっぱり、どんなに辛い目にあったとしても、私の心が静流に向いている証拠なのだった……。

⏰:07/09/22 03:39 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#490 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/22 03:39 📱:SO903i 🆔:1kREaRMM


#491 [向日葵]
―醒―











自分の気持ち押し殺すって、以外と難しいことで、息が出来ないくらいに苦しい。

でもそれをも超える想いがもしかしたら存在するのかもしれない。

その僅かな可能性に、私は賭ける事にした。

⏰:07/09/23 00:40 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#492 [向日葵]
今日は中途半端な曇り。
だけど私は外に出かける。

約束があるからだ。

[午後四時半。門前にいてな。]

香月さんからそんな感じのメールが届いた。

私はその通りに動く。
何故なら私は香月さんの彼女だからだ。

カレカノなら、毎日でも会いたくなるのが普通でしょ?
だから私は会いにいく。

例えそれが偽りの気持ちだとしても。

⏰:07/09/23 00:45 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#493 [向日葵]
門前に来て、塀にもたれながら空を見上げた。

きっと私にいつかとてつもない罰が下る。

あんなに優しい香月さんの気持ちを踏みにじって、私は香月さんと付き合う事にした。
香月さんは嫌で仕方ないと思う。

だから私は努力する。
香月さんが好きになれるように。

カシャン

「ただいま。」

ハッとして横を見ると、静流が帰ってきた。

「お……おかえり……。」

「……ん。」

それだけ言って、静流は家に入ってしまった。

静流は何も聞いてこない。

⏰:07/09/23 00:52 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#494 [向日葵]
ダブルデートの日、香月さんと何かあったのかとか。
香月さんと付き合うのかとか……。

*********************

本当は問い正したい気持ちでいっぱいだった。

香月から聞いた時は耳を疑った。
まさか紅葉が香月と付き合うだなんて……。

でも……俺には、関係無いことだから。
俺は……双葉がいるから……。

それでも不思議だった。

もともと紅葉はあまり顔に出ないタイプだけど、好きな人と付き合うって言うのに全然嬉しそうに見えない。

⏰:07/09/23 00:55 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#495 [向日葵]
紅葉は香月が好きなんだろうか……。

ピルルルル!

ビクッ!

携帯だ。
発信者は……

「?もしもし。何で俺に?」

{なんか用事ないとしちゃいけねぇのかよ。}

香月だった。

「そういう訳じゃない。……ただ、紅葉にしないのかと思っただけだ。」

{それについて聞きたいんだ。}

⏰:07/09/23 00:59 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#496 [向日葵]
俺は口を一文字にキュッと縛って香月の言葉を待った。

{最後の忠告だ。俺は確かに紅葉が好きだ。でも、お前は俺と紅葉が付き合って本当に後悔しないのか?}

「……俺は、双葉がいるから……。」

{最近のお前さ、双葉ちゃんを好きって言わないよな。}

――ドクン……

「それが……何だよ。」

{大切だの傷つけたくないだの。お前は今双葉ちゃんを好きなのか?}

⏰:07/09/23 01:03 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#497 [向日葵]
「やめろよっ!!」

家に俺の叫び声が響いた。

やめろ……。
これ以上混乱させないでくれ……。

「お前は念願が叶ったんだから、紅葉と仲良くすればいいだろ……っ!」

目元を片手で覆って、玄関のドアにもたれた。
香月からはまだ返事が来ない。

だってそうだろ?
何でいちいち俺に聞くんだ!俺には双葉って彼女がいて、彼女を幸せにす…………。

待てよ俺……。
今なんて思った?
その言葉の続きは……絶対思っちゃいけないだろ。

⏰:07/09/23 01:07 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#498 [向日葵]
{俺だって……限界があんだよ。}

それだけ言って、香月は電話を切った。

プープーと受話器の向こうになってる音を聞きながら、俺はその場に立ち尽くしていた。

あの言葉の続き……。

彼女を幸せにする……義務がある……と。

義務だなんて、思っちゃいけない。
それはつまり…………双葉が好きじゃなくなったってことだろ?

**********************

携帯のバイブが鳴ったので見てみると、香月さんからメールが入った。

[もうすぐ着くから(^.^)]

⏰:07/09/23 01:12 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#499 [向日葵]
返信をせずに、塀から身を乗り出して遠くを見ると、それらしき人物が見えた。

あちらも私に気づいたのか、軽く走って私の所までやって来た。

「……あれ?」

今日は眼鏡かけてる……。

それに気づいた香月さんは人差し指で眼鏡をトントンと軽く叩いて「あぁコレ?」と言いながら微笑んだ。

「実は目、悪いんだわ。いつもコンタクトなんだけどさ、代えが無くって。だから今日は眼鏡!」

⏰:07/09/23 01:16 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#500 [向日葵]
「似合う?!」って言いながら、黒渕眼鏡をクイッとあげる。

私はコクコクと頷いて肯定した。

すると香月さんが真剣な(顔をしたもんだから、私はドキッとしてしまった。

「無理……してない?」

「え……。」

ザァァァ……と風が吹く。
髪の毛で香月さんの顔が見えなくなるのを防ぐ為に髪の毛を手で抑える。

「静流の事。いいの?」

「……。」

「いいんだよ?フッても。」

⏰:07/09/23 01:21 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#501 [向日葵]
明るく笑って言ってるけど、その顔はとても悲しそうだった。

「そんな顔……しないで。」

香月さんの顔にそっと触れた。

「今は静流でも、香月さんを好きになれると思う。それまで、待ってくれない……?」

香月さんから悲しそうな雰囲気が少し消えて、頬にある私の手の上から私の手を重ねた。

「待つよ。だから早く来て?」

そう言いながら私の掌に唇を押し付けた。

⏰:07/09/23 01:26 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#502 [向日葵]
今日はそれで香月さんは「またメールする」と言って帰ってしまった。

湿気を含んだ風がまた吹く。

きっと好きになれる。

だってホラ……。
こんなにドキドキしてる。

でも本当は知ってた。
静流が触れた時に比べれば、負けてる。
それを、わざと気づかないフリをした。

空がおかしい……。

今晩、何かが起こるかもしれない。

⏰:07/09/23 01:33 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#503 [向日葵]
―――――……

そしてその予感は呆気なく的中してしまった。

それは晩御飯の時。

いつものにこにこ顔で源さんが言った。

「僕明日から出張に行って来ますね。」

ブハ―――――!!!!

お茶を飲もうとしていた私と静流はそれぞれ別の場所にお茶を噴射してしまった。

「いっ!一週間って!なんでだよ父さん!!」

「今度の研究がちょっと手間取ってねぇ。ちょっと研究所に籠ってくる。」

そんなあっさり……。

人生とは本当におかしい。

一番嫌なコンディションの時に一番最悪なシュチュエーションを用意してくれる。

⏰:07/09/23 01:38 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#504 [向日葵]
そして正に今その状態が作り上げられようとしているのだ。

「そんな急に……っ!」

「仲良くするんだよ?ケンカはいけないからね?」

ささーっとお皿を片付けると、明日準備をしに源さんは自分の部屋へと行ってしまった。

リビングに呆然とする悩める子羊が二名に緊張と言う名の狼が襲いかかる。

「なんてこった……。」

と言わずにはいられない。

ソロリと静流を見ると、静流も同じように私を見ていた。

⏰:07/09/23 01:43 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#505 [向日葵]
静流はフゥ……とため息をついた。

「じゃあ明日から一週間、紅葉は洗濯と掃除係な。」

「えー……。洗濯はいつもだけど掃除まで?」

「俺一日の半分は学校だもん。」

と少しふんぞり返って静流は言った。
私は「ハイハイ」と妥協してお皿を片付ける。

こんな微妙な雰囲気で、一週間大丈夫なのかな。

……ん?
私はいいとして、なんで静流までが態度がおかしいんだろう。

⏰:07/09/23 01:48 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#506 [向日葵]
私が怒ってるとでも思ってんのかしら?
それとも香月さんと何かあったのか?

********************

一週間……。
長い。
今の俺にしたら長すぎる……。

自分が嫌になる。
あのダブルデートで気持ちはっきりさせるつもりだったのに。

「男が……ウジウジ……。情けな。」

それもこれも、今日の香月の言葉のせいだ!
俺は……。

一瞬、双葉の笑顔が脳裏をかすった。
そして……。

「静流。早くお皿持って来て。まとめて洗いたいから。」

⏰:07/09/23 01:53 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#507 [向日葵]
俺は紅葉をじっと見た。
そんな俺を不思議がって、眉を寄せてキッチンから見つめる紅葉。

……今度こそだ。
もう二度とは無い。
この一週間で、俺の気持ちを一つに絞る……。

********************

それぞれの思いを胸に、波乱の幕開けである一日目がやって来た。

「じゃあ行ってくるから。」

「気をつけてな。」

にこにこしながら手を振って、源さんは出張へと出かけて行った。

⏰:07/09/23 01:57 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#508 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/23 01:57 📱:SO903i 🆔:NafT.peo


#509 [向日葵]
パタンと閉めて出ていくと同時に私は動き始めた。
静流もそれに合わせて学校へ行く準備を始めた。

「今日は出来るだけ早く帰って来るな。」

「別にいつも通りでいいわよ。普段も変わんないでしょ。」

そう言いながら掃除機をかける準備と、ベランダへ通じる戸を空気替えの為に開けた。

良かった。今日は良い天気だ。

「……ま、戸締まり気をつけろよ。じゃな。」

そして静流も出て行った。

⏰:07/09/24 00:56 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#510 [向日葵]
こっそりベランダの入口辺りから背伸びして静流が行くのを覗く。

覗くと丁度門を出た所だった。
覗いてるってバレるのが嫌で、掃除機をまたかけ始めた。

「紅葉!」

え。

電源を切って、ベランダへ急いで出ると、門から数歩歩いた所で静流がこちらを向いていた。

「忘れ物ぉ?!」

すると静流は微笑みながら首を振った。

「いってきます。」

⏰:07/09/24 01:02 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#511 [向日葵]
―――トクン……。

それ言う為に……?

「行ってらっしゃい」なんて、静流には行った事がなくて、でも今、とても言いたい。

私は静流が見えそうな範囲まで手を上げてぎこちなく手を振った。
私の精一杯の「行ってらっしゃい」を表現する。

でも静流にはそれで十分だったのか、より一層にこぉっと笑って手を振り返した。
そして学校へと行ってしまった。

あぁどうしよう……。

口の筋肉が揺るんでしまうよ……。

⏰:07/09/24 01:07 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#512 [向日葵]
********************

生徒が友達に挨拶する声があちらこちらから聞こえる中、少し汗ばむオデコを手の甲で拭いながら俺は教室へ続く階段を上っていた。

「あ、静流!」

声をかけられた俺は上を見る。
でも逆光のせいで顔が見えない。手を少しかざすと顔が段々見えてきた。

「双葉。おはよう。」

「おはよ!最近どう?紅葉ちゃんとは。」

下りて来て俺の隣まで来た双葉は、また一緒に上りながら俺に話かける。

⏰:07/09/24 01:17 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#513 [向日葵]
「何も。普通だよ。」

と言って、少し早歩きで階段を上った。
それを双葉は、シャツの裾を引っ張って止めた。

グイッと引っ張られて、階段から落ちそうになった俺は手すりにつかまってなんとか堪えた。

「ちょ、双葉!」

「静流が冷たい。」

真剣な顔で双葉が言った。

冷たい?
そんな事ないのに。

でも弁解するのが、なんだかめんどくさかった。

⏰:07/09/24 01:21 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#514 [向日葵]
「気のせいだよ。」

それだけ言って、俺は双葉を置いて階段を上って行った。





残された双葉は静流の異変に不安を隠せなかった。

自分は何かしただろうか。
私の気持ちが重いの?

誰か好きな人が出来たの?

そう思って、心当たりの人物を頭に思い浮かべてみたけれど、どうしても一人しか出てこなかった。

「紅葉……ちゃん……?」

⏰:07/09/24 01:25 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#515 [向日葵]
でも彼女は今香月くんと付き合ってるのに……。





教室に着いて、携帯をマナーにするのを忘れていた事に気づき取り出すと、サブディスプレイにメールのマークがあった。

誰からだ?とパキンと携帯を開けると、紅葉からだった。

<アホ。お弁当忘れてる。>

「あ!」

どうりで鞄が軽いと……っ。

⏰:07/09/24 01:29 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#516 [向日葵]
早打ちでメールを返す。

<昼休みに間に合う様に届けてくんない?!>

送信。
返信はすぐに来た。

<いや。>

超短文。
そりゃ早い訳だ。

「……。」

香月とは……どんなメールしてんだろう。
そんな事を思ってると、本人のお出ましだ。

「おっはよーさん。」

「うす。まだコンタクト無いの?」

⏰:07/09/24 01:34 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#517 [向日葵]
香月は頷いた。
そして開けっぱにして机に置いてあった携帯に目をやる。

隠す必要もないが、さりげなくでも慌てながら携帯を隠した。

「メールしてんだ?」

「弁当忘れたって教えてくれただけだ。」

香月は俺の前の席。席に座ってから後ろを向いた。
俺はなんとか紅葉に頼みのメールを送る。

「で?どうなの?」

「何が?」

香月が不機嫌そうに返してきた。

⏰:07/09/24 01:47 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#518 [向日葵]
「紅葉は……香月に……メロメロ?」

「ブッ!!」

香月が派手に吹き出した。そっぽを向いて肩を揺らす。

ひとしきり笑ったところで、香月はまた俺の方を向いた。

「そんなんじゃないよ。紅葉は……他に好きな奴いるから。」

「え……。」

「ま、フラレても諦めねーけどな。」

そんな香月の顔は、悲しそうだった……。

⏰:07/09/24 01:51 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#519 [向日葵]
*********************

一仕事終えた私はフゥゥ……。と満足の息を吐きながらリビングのフローリングに寝そべった。

「あー疲れた。」

もう11時かぁ……。
午後から何しとこっかな。

ブー ブー

携帯がテーブルと擦れて変な音を立てた。

「また静流?」

お弁当お届けメールの件は私の勝ちで幕を下ろした。でももしかしたらリベンジで送ってきたのかも。

⏰:07/09/24 01:56 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#520 [向日葵]
でも私の予想は外れた。

「香月さん?」

<外見て!>

外?

ベランダの戸越しに外を見る。

「え?!」

私は急いで階段を降りた。途中こけそうになって冷や汗をかいたけど、とりあえず外へ出た。

ガチャン!

「何してんの?!」

そこにいたのは、紛れもなく香月さんだった。

⏰:07/09/24 02:04 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#521 [向日葵]
香月さんはニヒッと笑ってピースした手を前へ突き出した。

「あーその顔見たかったぁ!」

その顔とは、私のうろたえた顔だ。
だって今は学校の時間。
なのに何故?

「暇だったからさ。遊びに来た。」

「暇っ……て。学校あるじゃないっ。」

「サ・ボ・リ。」

茶目っ気たっぷりな目を光らせて香月さんは言った。

⏰:07/09/24 02:07 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#522 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/24 02:08 📱:SO903i 🆔:WTtaMCAA


#523 [向日葵]
「あがっちゃ駄目?」

可愛らしく首を傾けて聞いてくりその仕草に思わずドキッとしてしまった。

香月さんはじっと見つめてくる。

そんな見つめられたら……困るんですけど。

「いいですけど…ちゃんと学校には帰ってくださ…ヒャッ!!」

家に向かおうと香月さんに背中を向けたら、急に後ろから抱き締められた。
香月さんの頬が、こめかみ辺りに当たる。

「冗談。ここでいいよ。」

耳元で喋る香月さんの吐息が耳に入って、背筋がゾクゾクッとしてしまう。

⏰:07/09/25 01:11 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#524 [向日葵]
「ちょ、何っ……?」

「いいじゃん。彼氏なんだし。甘えさせて?」

胸がキュウッと鳴った。
意外に香月さんは美声だ。
頭の中が、おかしくなりそう……。

心臓が徐々に動きを早めた時、香月さんは腕の力を少し入れた。

「なんで黙ってんの?」

さっきより口と耳が近づいたのか、声がやけにダイレクトに響く。

私は無理矢理香月さんをひっぺがして距離をとった。

⏰:07/09/25 01:16 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#525 [向日葵]
顔が赤いのは言うまでもない。

「プッ。アハハハハハ!!紅葉かっわいー!!」

「っな!もう!!早く戻りなさいよ!!」

胸元を叩いて帰る様に促す。すると香月さんは「あ。」と何かを思い出した様に言った。

「あのさ、静流の弁当俺が持ってくわ。」

「え。本当?じゃあちょっと待ってて。」

**********************

香月の奴……どこ行ってんだ?

香月の姿が急になくなった。前の席がポカンと空いている。

⏰:07/09/25 01:21 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#526 [向日葵]
シャーペンを指先でクルクル回しながら、暇な授業が終るまであと30分だなぁ〜とかぼんやり考える。

ガラガラガラ

クラスの視線が一気にドアの方へ集まる。

「遅れてすんませぇ〜ん。」

あ、香月。

「入室届けは?」

と先生が言うと、素っ気無く「ん。」と教壇に置いてスタスタと俺の前の席まで来た。

「香月。どこ行ってたんだよ。」

「便所。」

長ぇよ。

⏰:07/09/25 01:26 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#527 [向日葵]
「クックック。……嘘嘘。また後で話すわ。」

意味あり気な言葉を残して、香月は残り少ない授業を受け始めた。

―――――…………

「静流、お前にプレゼントだ。」

そう言われて差し出されたのは、弁当だった。

「え?!何でお前……。」

「さっきまでお前んちにいたんだよ。」

「は?何しに?」

香月は一瞬キョトンとしてからニヤリと笑った。

⏰:07/09/25 01:30 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#528 [向日葵]
……まさか。

俺の表情を読んだのか、香月はにこりと笑った。

「お前が思ってる通りだよ。だから弁当届けてやったんだ。」

「そっ…………か……。」

何もしてないならと、何故かホッとした。

「紅葉可愛いかったんだぜ!俺が抱き締めたら顔真っ赤にしちゃってさ!」

顔……真っ赤に?
ってか抱き締めたって……。

ショックだった。
色んな意味で潔癖な紅葉が、誰かに抱き締められただなんて……。
聞きたくもなかった。

⏰:07/09/25 01:34 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#529 [向日葵]
しかも顔真っ赤にさせただなんて……。
俺は香月よりも長い間一緒にいるけど、そんな表情、見た事はない。

表現が下手で、少し照れたりするのはあるけど、異性としての反応は全く知らない。

紅葉は……本気で香月が……?







このくらいの意地悪は別にいいだろう。

静流がショックで黙ってしまったのを見ながら香月は思った。

⏰:07/09/25 01:37 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#530 [向日葵]
俺だって相当辛いんだからな。

好きな奴が、他に好きな奴いるのに気持ち押し止めてこちらに見る様を見てるんだ。

紅葉は確かに自分を好きになると努力はしてくれているだろうし、さっきの反応を見れば自分に可能性が無いわけではない。

……でも、やっぱり心は未だ……。

と、静流を見る。

未だ、コイツなんだもんなぁ……。

ついでにもうちょい意地悪してもいいだろうか。

「俺、紅葉とキスしたんだ。」

⏰:07/09/25 01:41 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#531 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/25 01:42 📱:SO903i 🆔:FyVZvjz6


#532 [向日葵]
…………は?

「ま、カレカノだし。当たり前だろ。」

「おま……ふざけっ!」

パシッ

香月は胸ぐらを掴もうとした俺の手を払い落とした。口元に笑みを浮かべたまま、冷たく俺を見てくる。

「なぁ。お前言ったよな。紅葉ちゃんには恋情を抱いちゃいない。って。覚えてんだろ?」

もちろん覚えてる。
俺の優先順位はいつでも双葉が一番だった。

……なのに。

⏰:07/09/26 01:22 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#533 [向日葵]
どうしてだろう。

いつの間にか、紅葉が一番になってて……どうしても側にいて、守ってやりたくて

誰にも……渡したくなくて……。

「ゴメン香月……。俺、紅葉が好きだ……。」

*********************

ブー ブー

「ん?」

ソファでのんびり寝転んでいた私は、テーブルで鳴っている携帯を見た。

メール?

その割りには長い事バイブが鳴っている。

⏰:07/09/26 01:33 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#534 [向日葵]
「電話……っか!」

勢いよく起き上がって、携帯を取る。

「あ、香月さんだ。」

またサボったとか……。はないか。
時計はすでに4時を指している。
学校ならもう終わってるだろう。

「もしもし。」

{ぃよっ。さっきはどうも。}

「こちらこそ、お弁当ありがとう。どうかした?」

そこで香月さんが黙ってしまった。
一瞬電話が途切れたのかとディスプレイを見てみたけど、通話中だったのでまた耳に当てる。

そして当てた途端香月さんは喋りだした。

⏰:07/09/26 01:49 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#535 [向日葵]
{嬉しいニュースだよ。}

そう言いながら香月さんの声のトーンは低い。

私は黙って続きを待った。

{静流が……。静流が、紅葉を好きだって。}








え?

「冗談……止めてよ。」

{冗談じゃない!!}

⏰:07/09/26 01:54 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#536 [向日葵]
目の前が真っ暗だ……。

そんな事あっちゃいけない。

私……私……双葉さんの幸せを取る事になっちゃう……っ!
そんな権利無いのに……っ!!

どうする?
もし今、静流が帰ってきて、私に告白したら……。

私の……私のせいだ……っ!!

いつの間にか、香月さんの声が耳に入らなくなった。ただ自分のせいだと頭を抱え、だからと言ってどうすることも出来なかった。

⏰:07/09/26 01:59 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#537 [向日葵]
【約束だからね……。】

熱を出した時の双葉さんが脳裏に浮かんだ。

――――――約束……。

ガチャ

「ただいまー。」

ハッ!

静流が帰って来た。
どうするの……私。
どうにか二人をくっつけないと……っ。

――何故?

もう一人の私の声が聞こえた。

何故?私は人の幸せを奪い取るほど偉い人間じゃない……っ!

⏰:07/09/26 02:06 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#538 [向日葵]
――イイジャナイ。十分苦シンダノヨ?奪イナサイヨ。アンタダッテ本当はソウシタインデショ?

―――っ!!
違う!!確かに……確かに二人を見るのは辛い!

でも、私は幸運にも大事にしてくれる人が見つかった。これ以上の幸せは求めてはいけない……っ。
こんな幸せ……許されない……。

正直……嬉しかったっ……。

静流も同じ気持ちだって。私が好きなんだって。

でも、私は自分の幸せと引き換えに他人の幸せを取ってしまった。

⏰:07/09/26 02:11 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#539 [向日葵]
【アンタなんか生まれてこなければ良かった。】

そう言い続けられた……。

そう。
……私なんか。

「紅葉?いるんなら返事しろよ。」

静流が微笑んでる。
優しく、いつもの静流に戻ってる。

あぁ……どうしよう。
その私を見る目が、愛しいのにとても憎い……っ。

どうして私なんか好きになってしまったの……?

どうして……。
どうして……。

⏰:07/09/26 02:14 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#540 [向日葵]
―避―









私はどうしたらいい?

右にも左にも、もう道は無くなってしまった。

私がいけないのかな。
私が香月さんを好きにならず、静流をまだ好きでいるから……?

⏰:07/09/26 02:16 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#541 [向日葵]
カチャン

「あ……。」

スプーンを置く音で現実に戻った。

今は晩御飯を食べている最中。
静流は帰って来てから特に静流自身の気持ちを言わない。

その事にホッとした。

それならば双葉さんにはまだ何も言ってないという気がしたからだ。

「なぁ紅葉。」

―――ドキッ……。

「……私、お風呂用意してくる。」

と言って、その場を去ろうとしたけど失敗した。

⏰:07/09/26 02:21 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#542 [向日葵]
静流は椅子に座ったまま私の腕を掴んで私の足を止めた。

「話があるんだ。」

「あとでにして。私……っ。早く寝たいの。」

手を振り払って、逃げる様にお風呂場へ向かった。

間違いなく、あれは告白する気だったんだ。
きっとこの後も、言ってくるかもしれない。
実際私は「あとで」と答えてしまった。

お風呂場にへたりこんで浴槽に貯まるお湯を眺める。気泡が出来たかと思えば飛沫のせいですぐ割れた。

⏰:07/09/26 02:28 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#543 [向日葵]
静流も私が好きだと勘違いしていたと思ったらいい。この気泡みたいにそんな思いが嘘だったかのように無くなればいい。

だからお願い。
私を好きだなんて、絶対言わないで……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

階段を上がると、部屋のドアに静流はもたれていた。

その前を通ろうか迷った私は、通り過ぎる事を決意して早足に進んだ。

静流の前を少し通り過ぎた時だった。

「紅葉。」

⏰:07/09/26 02:31 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#544 [向日葵]
思わず足を止めてしまった。

「何……?」

恐る恐る、静流の方も見ないで尋ねた。

静流が私の後ろにドアから離れて立っているのが分かった。

「俺なんかしたの?」

「……。」

しばらく間を置いた後、私は首を横へ振った。
すると静流はため息を吐いて、一歩私に近づく。

「じゃあ何その態度…。地味に傷つくんだけど。」

⏰:07/09/26 02:35 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#545 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/26 02:35 📱:SO903i 🆔:Xn2WQSXM


#546 [向日葵]
私は小さく深呼吸した。

言葉が見つからない。
私の事好きなのかなんて聞けない。

もしかしたら香月さんの勘違いかもしれない。
「好き」の意味を間違えてるのかもしれない。

「好き」は「好き」でも、よく言うように、LoveじゃなくLikeの方なんじゃ……。

そうだ。
きっとそうだよ!

希望を取り戻した私は静流に向き直った。

「ちょっと、気分が優れないだけよ。気にしないで。」

⏰:07/09/27 13:20 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#547 [向日葵]
そう言うと、静流の顔が、緊張した顔からスッと力が抜けた表情になった。

それを見て、私もホッとした。
でも、安心したのも束の間だった。

急に静流が唇をキュッと閉めて、真剣な目をした。

それを不思議に見ていた私は、ぼんやりしていたせいで逃げる事を忘れた。

静流は私を抱き締めた。
それも、息が出来ないほど、強く……強く……。

抱き締められた瞬間、目を見開いて私は固まった。

静流の体温を、鼓動を感じる……。

⏰:07/09/27 13:35 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#548 [向日葵]
「静流……?」

「紅葉。俺さ。…………。お前が好きだ……。」

目が落ちてしまいそうなくらい、私は目を開いた。

聞いてはいけなかった。
どうして私さっき逃げなかったの……?

静流はゆっくりと私を離した。

「あの……返事は、ゆっくり考えてくれたらいいから。」

返事?
そんなの、考えるほどでもないわよ。

「いい。今言う。」

⏰:07/09/27 13:39 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#549 [向日葵]
静流を見ないで上手く吸えない息を無理矢理肺に入れる。

「答えは……NOよ。分かってんでしょ?私には、香月さんがいる。」

涙……お願いだから出ないでね。

否定の言葉を言う事に集中しなさい私。
じゃないと、溢れて出てしまいそうになる。

私も貴方が大好きだって……。

「静流は、きっと気持ちが麻痺してるの。私が、近くにいたせいね。もう一度、よく考え」

「考えたよっ!」

⏰:07/09/27 13:43 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#550 [向日葵]
次の瞬間、静流は私の肩を掴んでガクガク揺らした。

「なんでそんな冷たい事言うんだよ!人が精一杯の気持ちを……言ってんのに……っ。いいよ。断られるのは…分かってた……。でも、何でそんな、麻痺してるとか言うんだよっ!!」

静流は壁をものすごい音を立てて叩くと、自分の部屋へ戻ってしまった。

結局私は最後まで静流の目を見れずにいた。

「ゴメン……。静流……。」

パタタタタ

床に小さな水溜まりが出来た。

⏰:07/09/27 13:48 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#551 [向日葵]
足が、震える。

初めてだ。あんな悲しそうで、辛そうで、泣きそうな静流の声を聞いたのは……。

これでいい…。
これで…………。

「―――っゴ、ゴメン……っ!!ゴメンネ……っ静流……っ!!」

謝るしか出来ない。

ありがとう。
私なんかを好きになってくれて。
とても嬉しかった。
私も貴方が大好き。

でもね……どうしても自分が幸せになるのが許されない。

⏰:07/09/27 13:51 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#552 [向日葵]
静流はあんなにも温かい心をくれたのに……私は何も返せなくて。

ゴメンネ……ゴメンネ……。


ごめんなさい…………。

外では、雨が降り始めていた。

―――――……

朝起きると、薄手の布団がかけられてた。

当然、あの後だったから、静流の部屋にある自分の布団には行けず、ソファーで寝た。

目が重い……。いっぱい泣いたからかな。

⏰:07/09/27 13:55 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#553 [向日葵]
「あ゛ー……あ゛ー……。」

喉がかすれてる。
声が出しづらい。
体も……重い……。

喉を擦りながら、ゆっくりと体を起こした。

……これからどうしたらいいのかな……。

静流はまた微笑みかけてくれる?
また優しく頭を撫でてくれる?
また……名前を読んでくれる……?

膝を抱えて、その膝に、顔を押しつける。

どうして私は……あんな形で静流に出会ってしまったんだろう。

⏰:07/09/27 17:31 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#554 [向日葵]
普通に出会っていれば、静流の胸に迷わず飛び込んでいけるのに……。

【あんたなんか生まれてこなければ良かった。】

【約束だからね……。】

「……フフ…。ハハハハ……。」

どうやら、私は邪魔者になるのが運命らしい。


*******************

「どういう……こと?」

双葉は顔が真っ白になってた。
それもその筈だった。

⏰:07/09/27 17:34 📱:SO903i 🆔:mIbFwEuo


#555 [向日葵]
「言った通りだ。……ゴメン双葉。別れよう。」

しばらくしてから双葉の目からは大粒の涙がこぼれ始めた。

「やだ……やだやだやだ!どうして?!私…っ何かしたの……っ?」

「してないよ。全部俺が悪い……。俺、紅葉が好きなんだ。」

双葉は涙を流しながら固まった。
白い肌が余計に白くなって行く……。

「……分かった。」

そう言うと双葉は自分の教室へ帰ってしまった。

⏰:07/09/28 00:45 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#556 [向日葵]
足取りがフラフラしている。
大丈夫だろうか……。

ゴメン双葉。
双葉はすっげぇいい奴だし、傷つけたくなんてなかった……。
それでも、自分の気持ちに嘘はつけなくて……。限界なんだ。

俺も教室へ帰った。
すると香月が入口付近に腕を組んで立っていた。

「へぇ……。やっと本気出すんだ。」

大して面白いことなんて無いのに香月は笑っている。

「香月……俺、紅葉に言ったから。好きだって……。」

⏰:07/09/28 00:49 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#557 [向日葵]
「へー。」

香月との今日の会話はこれで終わりだった。

香月との仲が、日に日に悪くなっていってる事が痛いほど分かる。

それも全部、俺のせいだって……分かってるけど……。

家に帰ると紅葉の姿がなかった。
ベランダに出る戸にカーテンがかかってる。
多分外にいるんだろう。

テーブルを見ると小さな字で書かれたメモがあった。

<一人でご飯食べて。私はいらない。>

⏰:07/09/28 15:01 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#558 [向日葵]
一度、ベランダの方を見た。

そして料理を作って、シンとする中で食べる。
結構辛いものだ……。

どうしてこうなったんだろう……。

*********************

そんな風にしながら日は過ぎていった。

足りない頭で私は考えた事がある。

静流が学校へ行ってる間、私は働いてる源さんへ電話をした。

プルルルルル

{もしもし。}

「源さん。紅葉です。」

⏰:07/09/28 15:06 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#559 [向日葵]
「……お願いがあります。」

―――――……

ガチャン

静流が帰ってきた音が聞こえた。

大丈夫。落ち着け。
いつも通りだ。

リビングに来るかと思いきや、静流は部屋へ行ってしまった。

「フ……フゥ―……。」

緊張しすぎだ。

ソファーに座っていた私はずるずると寝転んだ。

⏰:07/09/28 15:09 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#560 [向日葵]
今日は……絶対顔見せよう。
大丈夫。静流ならきっとまたいつも通りでいてくれる。

頭の中でずっと「大丈夫」と唱え続けた。

「あ、いたんだ。」

思わず飛び起きた。

着替えていたらしい静流は、いつの間にか部屋から出ていて上から覗いていた。

「ご飯……食べるか!」

気まずそうに笑い、静流はキッチンへと行った。

私は少しホッとする。
良かった。笑いかけてもらって。
冷たくされるんじゃないかと心配した。

⏰:07/09/28 15:14 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#561 [向日葵]
久々に二人で食べるご飯はとても美味しく感じた。

静流は私に「食べれるか?」とか「大分平気になって良かったな。」と温かい眼差しで言った。

私はウンと答えるしか出来なかったけど、静流には多分伝わっているだろう。

そんな時だった……。

ピンポーン

二人で顔を見合わせた。

「誰だろう。」

私は使ってたフォークを置いて階段を降り、玄関を開けた。

⏰:07/09/28 15:18 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#562 [向日葵]
「双葉さん……。」

「こんばんわ。」

いつもの明るく愛想のいい挨拶をしてくれた。
でもなんだか様子が変だ。

「えと、静流呼んで」

「貴方に話があるの。」

静流がいるだろうと思う所らへんの天井を見た顔を下に下げ、双葉さんを見た。
見て驚いた。
少しの間で、双葉の顔は洗った後みたいに濡れていた。それは涙のせいだ。

「紅葉ちゃんは……ズルイ……。」

⏰:07/09/28 15:22 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#563 [向日葵]
涙でしゃがれた声でそう言われた。
そして瞬時に分かった。
双葉さんは、静流に別れを告げられたんだと。

「こんな近くにいちゃったら……っ誰だってその子を見ちゃうよ!貴方が捨てられてるのを発見してから静流の言葉に貴方の名前が無い日はなかった!!」

―――ズキン

私……ズルイんだ……。

「ひどいよ…っ!!静流が大好きなのに……紅葉ちゃんが横取りするなんて……そんなのひどいよ!!」

「やめろ!!」

⏰:07/09/28 15:26 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#564 [向日葵]
騒ぎで降りてきた静流が後ろで怒鳴った。

私はずっと双葉さんを見たまま体を動かす事も出来ず、固まっていた。

「紅葉のせいじゃない。俺が悪いんだ。双葉を好きでいてやらなかった俺が……。だから、紅葉を責めるのはよせ。」

双葉さんの見開かれた目からは涙が次から次へと流れていった。
そして急にきびすを返して走り去って行ってしまった。

「静流……追ってあげて……。」

「なんで。」

⏰:07/09/28 15:31 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#565 [向日葵]
背中を向いたまま、開かれたドアの向こうを見ながら静流に言った。

「どうして別れたの。」

「……言っただろ。……前に」

「よく考えてみてよっ!!私がここにいなかったら、静流はいつまでも双葉さんと仲良くいたのよ?!私の……私のせいで、別れたりしないでよ!」

「だから違うって言ってんだろっ!!」

大声を出した静流に私はビクッとした。
静流は戸を閉めて私を階段近くまで引っ張った。

⏰:07/09/28 15:36 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#566 [向日葵]
大きな両手で私の顔を包むと、静流は上を向かせた。

「どうして、お前は自分ばかり責めるんだよ。そこまで…自分を傷つけなくていいんだ。」

静流の切ない目が潤んで、とても綺麗に感じた。
私はそれに目が離せなくなる。

「人を好きになるのは誰のせいでもない。だから、頼むから……。俺の気持ち分かってくれよ。」

そう言いながら辛そうに目を瞑り、私のおでこと静流のおでことをコツンと当てた。

⏰:07/09/28 15:42 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#567 [向日葵]
分かる。
好きって気持ちは、ホントどうしようもなくて、押し止めてしまうのが苦しい。

だから言葉が溢れていくんだと思う。

「好き。」

…………と。

静流が目を開けた。

「今……なんて?」

「好き。私は静流が好き。でもね……また違うの。貴方の好きと、私の好きは……。」

静流は一瞬輝かせた目を戻して私の続きを待った。

⏰:07/09/28 15:46 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#568 [向日葵]
「ありがとう。こんな私を好きになってくれて。おやすみなさい。」

私は静流の手を顔から離して横を通り過ぎ、階段を上がって行った。

「紅葉。」

進める足をピタッと止める。下を向くと、さっきのまま静流が私に話しかけている。

「これからも……お前が俺を好きになることは……俺を恋愛対象として見ることは……ないのか?」

あるよ。あるじゃない。
現在進行系で貴方が大好きなの。

――横取りするなんて……っ!

私が双葉さんの立場でも多分そう思う。
私はズルイ。

⏰:07/09/28 15:52 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#569 [向日葵]
静流に大事にされて、優しくされて……。
彼女立場とすれば目の上のタンコブに違いない。

大好きな人の心が、自分に向いてないことは、なんて悲しいんだろう。

「……。ない。」

それだけ言って、私は階段を登って行った。

―――――……

やっと源さんが帰ってくる日。
あれからも態度は変わらない私達。
しかしうっすらと作られてしまった壁。
きっと元に戻る事はない。でもそれでいい。

⏰:07/09/28 15:57 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#570 [向日葵]
源さんは夕方頃にボサボサな頭を更にボサボサにさせて帰ってきた。

「ただいま!仲良く留守番してた?」

「そんな年じゃないっつーの。」

そんな温かい親子を少し微笑みながら見ていた私は、心の中で思った。

――いよいよだ……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜。
良かった事に今日は満月が綺麗に出るほど天気のいい空だ。

ベランダで体育座りをしながら眩しい月を見上げる。

⏰:07/09/28 16:01 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#571 [向日葵]
時間を見れば、夜中の1時。そろそろ静流も寝静まった頃だろう。

リビングを横切り、部屋をそろっと開ける。
予想通り、静流は寝ていた。

暑いのか、布団をあまり被らないで壁側を向いて寝ている。
この方が好都合。
予め用意していた旅行用カバンを持ちながらカチャリとドアを閉めた。

急いで置いてある自分の服、下着をカバンに摘める。

ここまですれば、私が何をするかお分かりだろう。

⏰:07/09/28 16:06 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#572 [向日葵]
そう。

あれは源さんに電話した時だった。

―――――
――――――――……

{旅?}

「そう。一人旅。出来るだけ遠くに行ってみたいの。」

このまま私がいてしまうとダメな気がした私はそう言った。
しばらくの間、静流とも香月さんとも離れて、香月さんはともかく静流にもう一度考えてもらいたかった。

本当に私が好きかどうか……。

⏰:07/09/28 16:10 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#573 [向日葵]
{……。僕の知り合いに、旅館を経営してる人がいるんだ。その人のトコへ行ったらどうかな。}

「じゃあ……そうする。あと、静流には言わないでくれる?」

{?どうして?}

静流が自分のせいだって思って引き止めてしまいそうだから……。なんて言えない。
第一源さんは私達のそんな事情を知らない。

「「子供のくせにまだ早い!」っとか言いそうだから。」

と冗談で返すと、源さんは「確かに。」大笑いした。

⏰:07/09/28 16:16 📱:SO903i 🆔:IaBHbH2A


#574 [向日葵]
もしかしたら源さんは何か感じとってたかもしれない。
でも何も言わず、ただ私の言う事をウンウンと言って聞いてくれた。

私は朝一の新幹線で源さんの知り合いとやらの旅館へ行く事になった。
駅までは一人で行くと源さんに伝えた。

源さんは「じゃあ駅までの地図を当日渡すね」と言って仕事が忙しくなったのかじゃあと言ってから電話を切った。

――――
―――――……

そして今に至る。
私は朝になるまで寝ないつもり。

⏰:07/10/02 23:13 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#575 [向日葵]
その代わりに静流の寝顔をしっかり見ておくの。
次に会う時までの少しの支え。

きっと会いたくなる時があると思う。
でも我慢しないと。

すぐ帰ってしまっては静流の気持ちが変わってないかもしれない。

本心は、変わってほしくなんかないけど……ね。

私はベッドに歩み寄ってストンと座った。
静流は熟睡して寝息をたてている。

そんな静流の顔を、そっと撫でてみた。

⏰:07/10/02 23:17 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#576 [向日葵]
男の子だって言うのに、すごく肌が綺麗なのかスベスベしてる。

私は静流の頬を何度も指先で往復した。
胸が……苦しい……。

パシッ!

「っ!!」

寝てる静流が私の手を掴んだ。
寝てるのに素早い動きだったので私の心臓がバクバクと急に動き出した。

「……れ……。」

「れ?」

何の事か分からない私に教えてくれるように静流はもう一度寝言を言った。

⏰:07/10/02 23:21 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#577 [向日葵]
「く…れ、は……。」

「――っ。」

私の……夢を見てるの?

掴まれた手は、離される気配がない。

静流……私は、どこにも行かない。
また、貴方の前に現れる。それがいつかは分からない。
でも必ず、また来るから……。

ありがとう。

私に優しくしてくれて……好きになってくれて……。

ありがとう……。

⏰:07/10/02 23:24 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#578 [向日葵]
私は唇を、静流のおでこに当てた。

シャンプーの匂いが、鼻をかすめた。

―――――
――――――……

午前4時。

もっと見ていたかった。
静流の、綺麗なその顔。
でももう時間……。

タイムオーバー。

いつまでも掴まれたままだった手を、ゆっくりと外して行った。

「……バイバイ……。」

荷物を持って、私は静流の部屋を静かに出て行った。

⏰:07/10/02 23:28 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#579 [向日葵]
下へ行くと、玄関に源さんがいた。

「静流君に、本当に言わなくていいの?」

私は頷いた。

「朝まで寝かしといてあげたいから。心配しないようにだけ言っておいて。」

「そっか……。あ、ハイ地図。」

渡された地図に目を落とす。
結構時間がかかりそうだ。

地図から目を離し、源さんを少し見てから頭を下げた。

⏰:07/10/02 23:31 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#580 [向日葵]
「わがままを……聞いてくれて、ありがとうございました。」

すると源さんは、悲しそうな微笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。

「いつでも帰ってきてね。君は僕達の家族なんだから。」

家族……。
最初から源さんや静流は前から私がいたみたいに扱ってくれた。

それをとてもありがたく思う。

「行ってきます。」

私は源さんの方は向かずに戸を閉めた。

⏰:07/10/02 23:35 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#581 [向日葵]
門を出て数歩歩いてからまた家を眺めた。

驚くほどの家のでかさ。

いつも自分が愛用していたベランダ。
いつも明るかったリビング。
水やりしていた花壇。


そして……あそこは静流の部屋……。


じって見つめる。
もしかしたら静流が止めにくるかななんて馬鹿な事を思いながら。
そんな事をしたら意味が無くなるのに。

どうしてだろう。

永遠の別れじゃない筈なのに、もう二度と会えない気がする。

⏰:07/10/02 23:39 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#582 [向日葵]
でも、それでもいい……静流さえ幸せになってくれれば、それでいい。

そして私は歩き出した。

6月の早朝はなんだか湿っぽい。

遠くで新聞配達の音が聞こえる。

私のジャリジャリと言う歩く音が聞こえる。

その途端、胸が一杯になった。
涙がボロボロ流れ始める。

「―――っう……っ。ふうぅ……っっ!」

歩くのが何だかもどかしくて、私は走り出した。

⏰:07/10/02 23:43 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#583 [向日葵]
「ハッ!ハァッ!!……んくっ……っ。」

泣いてるせいで、呼吸困難になりそう。
でも走り続けた。

幸せに憧れた。
幸せになりたかった。
もっと一緒にいたかった。
もっと一緒にいてほしかった。

でも私はそれほどの人間でもなく、自分が幸せに敏感なだけに人の幸せを奪うのはどうしても出来なかった。

ずっと頭の中で、そう唱えてた。

【俺は紅葉が好きだ。】

⏰:07/10/02 23:47 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#584 [向日葵]
朝日が見え始め、その光を全身に目一杯浴びる。

静流。
私も好き。大好き。

ゴメンネ。
答えてあげられなくて。

静流……静流……。

「っうあぁぁ!!……ひっ!ハァッハァッ!!」

またね……って、言えない気がする。

だから


さようなら。

⏰:07/10/02 23:50 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#585 [向日葵]
―会―











朝だ……。起きなきゃいけない。

今日も学校だ。

俺はぼんやりしながら体を起こした。

ふと、右手を見てみる。
何か感触が残ってるような。

⏰:07/10/02 23:53 📱:SO903i 🆔:P1FKxZVI


#586 [向日葵]
それが何かなんて、検討もつかない。

そのまま視線を滑らすと、紅葉の布団に紅葉がいない。

彼女は確かにいつも早起きなのだが、起きたような布団の形はしていなかった。
敷いてそのままと言う感じだ。

もしかしたらまたソファーで寝てしまっているのかもしれない。

確認の為、俺は部屋を出た。

リビングに向かうと、シーンと静寂に包まれていた。

⏰:07/10/03 00:00 📱:SO903i 🆔:RMOaFhzI


#587 [向日葵]
寝息のような音すら聞こえない。
でもとりあえず呼んでみる。

「紅葉ー?」

もちろん返事などなかった。

ソファーに一歩一歩近づいて行く。

何故だろう。

心臓が高鳴っていくのがわかる。
胸騒ぎと言ったらいいのだろうか。

予感は的中。

……紅葉が

いない……。

⏰:07/10/03 00:07 📱:SO903i 🆔:RMOaFhzI


#588 [向日葵]
「……れは……?」

よたよたと後退して行き、ザッ!っと体を翻して父さんの部屋へ向かった。

階段をこけそうなくらい早く降りて、廊下を大股で走って行く。

ドンドンドンドン!!

俺は父さんの部屋のドアを思いっきり叩いた。

「父さん!父さん!大変だ!!」

俺がこれだけ混乱してるって言うのに、父さんはゆっくりとドアを開けた。

「父さん……っ?!大変だってば……っ!」

⏰:07/10/03 00:17 📱:SO903i 🆔:RMOaFhzI


#589 [向日葵]
父さんは何故か無表情だった。
そこで俺は分かった。

「知ってんの……?紅葉いないこと……。」

父さんはゆっくりと頷いた。

俺は訳がわからなかった。何故?何故出ていく必要があったんだ?
俺のせい?
俺が好きだとか言ったから?

パニック状態になった俺の表情を読み取った父さんが言った。

「大丈夫。一人旅に出かけただけだから。」

「一人……旅?」

⏰:07/10/04 00:58 📱:SO903i 🆔:InOsgAz6


#590 [向日葵]
「旅がしたかったんだって。心配しなくても、いつか帰ってくるから。」

いつか?

「いつかって……いつ?」

父さんは静かに微笑んで言った。

「いつか……だよ。」

つまり決まってない。

明日帰ってくるかもしれないし、1週間後に帰ってくるかもしれない。

それが、もし、何年も先だったら……?

俺は急いで階段を駆け上がり、携帯を手にした。
リダイアルで紅葉の番号を出し、電話をかけた。

⏰:07/10/04 01:02 📱:SO903i 🆔:InOsgAz6


#591 [向日葵]
コールが鳴り続ける。
紅葉が出る気配が全くない。

プツッ

「!紅葉!今どこに」

{おかけになった電話は、電波の届かない所か、電源が入ってない為……}

携帯アナウンスに失望して、最後まで聞かないまま電話を切った。

どうして、こうなってしまったんだろう……。


*********************

段々と、景色が田舎になってきた。
見る限り、山、田んぼ、山田んぼ……。
緑一色しかない不思議な世界。

⏰:07/10/04 01:06 📱:SO903i 🆔:InOsgAz6


#592 [向日葵]
ぼんやりと、初めて行く場所に向かっていた。

私は途中自販機で買ったミネラルウォーターを一口飲み、しばらく寝ることにした。

なんだか……目が重い気さえした。

*********************

「紅葉が消えた?!」

今朝の出来事を香月に伝えた。
驚いている事から香月にも知らされていなかったらしい。

「何で消えるんだよ!意味分かんねぇぞ?!」

⏰:07/10/04 01:10 📱:SO903i 🆔:InOsgAz6


#593 [向日葵]
「俺だって分かんねぇよ!!」

俺の荒けげた声に、クラスメイト何人かが振り向く。
香月は少しびっくりしていて目を見開いている。

「どこに行ったかとか……聞いてないのか?」

香月の言葉に、俺はうなだれて首を振った。
父さんからはただ一人旅だとしか聞かない。
何故俺には内緒だとか、何故行ってしまったとか、聞きたいのは俺の方だった。

「携帯にも繋がらないんだ……。メールも返ってこねぇし……。」

⏰:07/10/05 14:59 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#594 [向日葵]
「おじさん、行き先知ってるんじゃないのか?」

「さぁ……。」

「「さぁ」っじゃねぇよ!イジイジしてる暇あるんだったら少しは行動して見ろよ!!」

……?
なんで俺が?
いや、行動するのには何も抵抗は無い。
寧ろ動きたくてウズウズしてるくらいだ。

「お前、何で俺の応援してんの?」

問いた時、香月はフゥ……と息を吐いた。

「お前ら、両想いだって知らなかったのか?」

⏰:07/10/05 15:04 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#595 [向日葵]
頭の機能が、停止した。

真っ白になって、視界も何を見てるかなんて分からなかった。

紅葉が……?
だって俺が前、好きになる確率がないかと聞いた時、アイツは

[ない。]

……って……。

なら……どうして?

「ついでプラス、嫌味でお前にある事を教えてやろう。」

香月の声がしたのをきっかけに、俺は現実へ戻ってきた。

⏰:07/10/05 15:08 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#596 [向日葵]
「お前の誕生日の時、紅葉はケーキを買ってきててなぁ。」

腕組みしながら喋る香月に俺は小さく「え?」と返した。

「帰ってきてケーキを見つけたお前が気をつかわないように紅葉は一人で食べたんだ。」

「一人?」

「一人。」ともう一度言って香月は黙った。
俺の様子を見ているらしい。

一方の俺は呆然としていた。

⏰:07/10/05 15:12 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#597 [向日葵]
食べれないのに……一人で、全部……。

「さらに、ついでのついでだ。」

「まだ、あるの?」

「あぁ。俺はお前と違って相談役もしてたからなぁ?」

それを聞いてグッと歯を食い縛った。
よく考えてみれば、自分は紅葉に何をやってあげたんだろうか。

「今思い出した事だ。紅葉はな、お前が自分を好きになってしまったら出ていくって言ってた。丁度そのケーキの件の時だ。」

⏰:07/10/05 15:18 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#598 [向日葵]
血の気が引いていくのが分かる。
まさか自分が原因だったなんて。

でも何故俺は紅葉を好きになっちゃならなかったんだ……?
紅葉も俺を好きなら、それでいいんじゃないのか?

「紅葉はな。」

「ん?」

「優しすぎてんだよ。」

脳裏に紅葉の痛々しい笑顔が蘇る。
今なら、あの笑顔の意味が分かる気がした。

「自分のせいで、双葉ちゃんが悲しい思いをするのが嫌だったんだろうな。」

⏰:07/10/05 15:22 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#599 [向日葵]
「だってそうだろ?」と香月は続けた。

「考えてもみろよ。あの子は捨てられたんだ。しかも自分が邪魔だと親に言われたんだろ?だから、邪魔者にならない様にいつも我慢してたんだよ。」

[私は不要じゃない!]

紅葉を拾って来た時、紅葉が叫んでいた。

「……俺……。」

その時からかもしれない。
紅葉が好きだったの。

放っておけなくて、危なっかしくて……でもどこか愛しくて……。

⏰:07/10/05 15:27 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


#600 [向日葵]
「お前は、よく紅葉を見てんのな……。」

いかに、今まで自分は自分の事しか考えていないかよく分かった。

香月に妬いて出ていけといったり、変な態度をとってケンカしたり、勝手に殴ったり……。
自分はどれだけ紅葉を傷つけたんだろう。

あの痛々しい笑顔以来、紅葉の心から笑った顔は…………見てない……。

ゴンッ!!

頭に激痛。
急な事に目の前にはチカチカ星が飛んでる気がした。

⏰:07/10/05 15:31 📱:SO903i 🆔:Xf33hPuo


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