―温―
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#201 [向日葵]
そういえば……と静流は思った。

自分はまだ、紅葉の笑顔を見た事がない。

自分を卑下した笑いは見た事あっても、心から笑った顔は見た事はなかった。

そう考えると、余計に胸がきしんで仕方なかった……。

今は本人が見つかるまで、心の中で謝るしか出来なかった……。

******************

今何時だろ。

空を見上げても雲が広がり星が見えない。

⏰:07/09/02 02:42 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#202 [向日葵]
かと言って先人の様に星で何時だとか分かる事は出来ないのだけどね。

でも大体夜9時くらいかな。

休む事も出来たし、再び歩こう。

そう思った時だった。

足に昼間と同様激痛が走る。
どうやら歩きすぎにより傷が開き、雨が染みてるみたいだ。

一旦立ったものの、また座りこんでしまう。
何故か無駄に息遣いが荒くなってしまう。

紅葉「いっ…………った……。」

⏰:07/09/02 02:46 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#203 [向日葵]
ハァハァと息を吐いた後、深呼吸をゆっくり何回かした。

大丈夫。
痛くない。痛くない。
気のせい。怪我なんてしてない。

暗示をかけながら立ち上がり、重心を足にかける。

はっきり言って痛くない訳がない。

でも今は出来るだけ遠くに行きたかった。
穴を抜け出して公園の入口へ向かう。

街灯が、虚しく私を照らした。

正に捨て猫ね……と自嘲した。

⏰:07/09/02 02:50 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#204 [向日葵]
街灯に照らされた足を見れば、うっすら包帯が赤みを帯びていた。

血が出ているらしい。

大丈夫。
まだ歩ける。大丈夫。

そう暗示して、歩くしかなかった。

人通りがなくなりつつあるおかげで人の目を気にせずにみっともなく歩けるのが幸いだ。

こんな醜態……晒したくもない……。

そう願っていたのに……。

「やっと見つけたーー。」

⏰:07/09/02 02:54 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#205 [向日葵]
ゆっくり振り向く。

数メートル後ろに立っていた人物に私は驚いた。

紅葉「香月……さん。」

香月「何してんの?プチ家出?」

相手を見ながら後退りした。でも相手はにじりにじり距離を縮めてくる。

香月「ねぇ。帰ろうよ。」

紅葉「……なんで、よ。」

香月さんはとうとうすぐそこまで来てしまっていた。
きっと逃げても今の状態じゃ捕まえられるのがオチだろう。

⏰:07/09/02 02:59 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#206 [向日葵]
香月「静流が心配してたよ?だから早く」

紅葉「嘘よ!」

心配?

自分から出て行けって言ったじゃない。

だから私は出て来た。

もう私はあの家にいてはいけないからって。
静流は私をただの邪魔なガキだと思ったからって。

私はめげずにまだ後退りをしている。

だけど私が逃げれないと知ってるのか、香月さんは捕まえようとはしない。

だだ足を進めるだけ。

⏰:07/09/02 03:02 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#207 [向日葵]
香月「何で嘘つかなきゃなんないの?俺や双葉ちゃんだって一緒に探してたんだよ?ここで嘘ついたって意味無いっしょ?」

何故か香月さんは怒っていた。
私はただ言う通りにしただけなのに……。

紅葉「じゃあ…………。っ……私、どうすればいい?」

これ以上醜態を晒してなるものかと涙と溢れてきそうな鳴咽を我慢する。

香月さんはいぶかしげな顔で私の次の言葉を待ってる様子だ。
私は深呼吸を一回だけして続きの言葉を頭の中で整理した。

⏰:07/09/02 03:07 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#208 [向日葵]
紅葉「静流は私が邪魔なの。消えて欲しいの!なのに心配なんてする筈が無い。また……。……またあの家に戻って、邪魔扱いされたら……。私はどうしたらいいのよ!」

いっぺんに言葉が溢れた。言いたい事を忘れないようにスラスラと。
おかげで少々息が切れてしまってハァハァと肩を揺らす。

そんな私を、香月さんは静かに見つめた。

すごく静かで、逆に怖いくらいで……。

それでも言いたい事言った私は、まだ後退りを止めなかった。

⏰:07/09/02 03:12 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#209 [向日葵]
そして香月さんが口を開いた。

香月「静流が……好きなんだね。……紅葉ちゃんは。」

――――好き?

香月「好きだから、嫌われたくないんでしょ?好きだから……側にいたいんでしょ?」

――初めて、静流と彼女とのベッドシーンまがいを見た時、気持ち悪いって感情と、静流に触らないでって感情があった……。

私はその感情の意味が分からなかった。

静流の言う通り、あれは当たり前の行為だから私が触らないでって言うのはおかしいんだもん。

⏰:07/09/02 03:17 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#210 [向日葵]
彼女が自分から静流にキスした時、心臓が痛かった。

静流に背を向けてしまったのは、静流を見たらまた怒って、傷つけてしまいそうだったから……。

――嫉妬――

そっかぁ……。
私は静流に嫉妬してたんだ……。

そして嫉妬してたのは、静流が

紅葉「す……き……。」

私は既に足を止めて呆然と立ち尽くしていた。

そんな私に微笑んで、香月さんは携帯を取り出した。

⏰:07/09/02 03:21 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#211 [向日葵]
*******************

雨の中、静流の携帯が鳴り響いた。

発信者は香月だった。

走り続けていたために乱れた呼吸を静流は整えながら電話に出た。

静流「ハァ……何?香月。」

香月{紅葉ちゃん。いたよ。}

静流は目を見開く。

携帯を持ちながらあちらこちらにうろうろとする。

静流「ど、どこ、どこに?!」

香月{桜田公園の所。早く来いよ。}

ブツッ。

⏰:07/09/02 03:27 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#212 [向日葵]
先に切ったのは静流の方だ。

桜田公園は確か真っ直ぐ行った所にある。
結構遠くまで紅葉は行ったらしい。

静流はまた走り出した。

****************

香月さんは携帯を切ってから、少し遠くにいる私の元まで歩いてきた。

静流が好きと言う事に驚いてる私はただ何も出来ずにぼーっと立っているだけだった。

香月「大丈夫?」

香月さんの声でやっと我に返った。

⏰:07/09/02 03:31 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#213 [向日葵]
紅葉「香月さん。ごめんなさい。……静流には、よろしく言って。」

私は香月さんに背を向けたけど、今度ばかりは腕を捕まれた。

紅葉「お願いだから……っ離して…………っ!」

香月「静流に君を渡すまでは絶対に離さない。」

無駄だ。
きっと静流はまた私をいらなくなる。
邪魔になる。

可愛い気もなく、ただ無愛想で生意気なガキの人形。
またゴミ箱へ。
そしてゴミ捨て場へ。

⏰:07/09/02 03:35 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#214 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/02 03:36 📱:SO903i 🆔:T7pfKsTk


#215 [向日葵]
紅葉「私ならもういいの。邪魔扱いされるのは慣れてる。だからどこかに行ったらいいんだか!」

いくら叫んでも、香月さんの手の力は緩まなかった。

早くしないと静流が来てしまう。

もう嫌だ。
あんな冷めた目で見られるくらいなら……このままどこか遠くに行った方がマシだ……!

静流が好きと気づいたなら尚更。

心が静流を求める前に早く消えないと。

⏰:07/09/03 01:51 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#216 [向日葵]
香月「静流が何か言ったなら本心なんかじゃない。」

紅葉「そんなの分かんない!きっと本心だから出て行けって言えたのよ!」

「本心じゃない。」

息を飲んだ。

時間切れだ。
もう手遅れ。
香月さんも手を離してくれない。

私はこのまま引き渡されるんだ……。

香月さん越しに香月さんの後ろを見れば、そこには傘をさしてる香月さんとは違って、ずぶ濡れの静流が立っていた。

⏰:07/09/03 01:55 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#217 [向日葵]
静流「香月。ありがとう。」

香月「おう。じゃあまたな。」

私の手を引っ張って静流に近づけた後、香月さんは自分の家に向かって雨の中に姿を消した。

沈黙が流れる。

耳をつんざく雨の音とは別に、ドクドク言う私の鼓動が耳の奥で聞こえた。

早く……足動かさないと……。
私、また静流にとって邪魔な存在になる。

静流の顔がまともに見れなかった。
自分の足元ばかり。
足のサイズが一回りも二回りも大きい静流の足も見える。

⏰:07/09/03 02:00 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#218 [向日葵]
静流「足……。」

静流の声に体が震えた。
同時に胸の奥がキンと痛んだ。

静流「血……出てる。痛い?」

声が出ない。
香月さんとは平気で話せたのに。
口を開いても、いつの間にか中はカラカラに乾いていた。

ぎしぎしする首をなんとか縦に振って、痛いと肯定。
静流は小さな声で「そっか…。」と呟いた。
そして再び沈黙が訪れる。

⏰:07/09/03 02:04 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#219 [向日葵]
先に口火を切ったのは私だ。

なんとか口内を湿らせて言葉を紡ぐ。

紅葉「帰って……。」

未だ足元を見つめた私でも分かるくらい静流の視線が痛い。

紅葉「大丈夫。じ……さつしようだなんて考えない……し。どこかで……暮らすから。」

嘘。
本当はすぐにでもこの身を絶ってまた空にある極楽へ行こうと考えてた。

でも決して人が来ない所。そうすれば誰にも迷惑はかけない。
体はやがて……土に還る。

⏰:07/09/03 02:09 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#220 [向日葵]
でも嘘をつかないと、きっと私が邪魔だとしても静流は私を離してはくれない。
だから嘘をついた。

静流は何も言わない。
ただ私を睨んでるか、見つめてるか。
もしかしたらさっさと行けって思ってるかもしれない。

それなら話は早いよね。

私が足をゆっくり半歩引いた時だった。

グイッ!!

紅葉「――――っっ!!」

静流は、私を抱き締めた。

⏰:07/09/03 02:12 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#221 [向日葵]
紅葉「静流……。違う……。」

相手が違うでしょ?

そうするのは彼女よ。
私じゃない。
貴方が愛して止まない彼女よ。

邪魔者に……することじゃない。

私は静流の胸を押し返す。でも静流はビクともしない。
寧ろ少し力が増した気がする。

お願いだからやめて……。静流。
静流。

紅葉「静流…っ!離して……っ。」

⏰:07/09/03 02:15 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#222 [向日葵]
静流は黙ったまま私を抱き締めている。

紅葉「どうしてよ…っ。出て行けって言ったじゃない!なのになんで……こんな濡れ……っ。」

言葉が続かなかった。
視界が滲む。
鳴咽で喉が詰まる。
息の仕方が分からなくなる。

紅葉「も……いいから。私なら、もう……いいから……。」

涙か雨だか分からない滴が頬を伝う。
そこで静流がようやく口を開いた。

静流「言ったじゃん……。」

⏰:07/09/03 02:20 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#223 [向日葵]
かすれる声で私は「何を?」と聞いた。
静流は私を離して肩に手を置くと、顔の間近くで私を見つめた。

瞳に吸い込まれそうになる。

静流「見つかるまで探す……って。」

目を見開いた瞬間、何粒もの涙が落ちて行くのが分かった。

静流「あんな事言ってごめん。本心じゃない。それは信じて?俺は……紅葉が大切だよ。」

微笑む静流が見える。
痛い……。心臓が痛い……。

⏰:07/09/03 02:24 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#224 [向日葵]
何故なら早足で脈を打ってるから。
そんな必要どこにもないのに。

だって静流の“大切”は、家族としてで、異性としてじゃないから。

でも、そんな言葉を言ってくれる静流が……
温かい微笑みをくれる静流が……私は大好きなんだ。

紅葉「邪魔…っじゃ、な、い……っ?」

しゃっくりと一緒に言葉を発するせいで子供みたいな泣き方になってしまう。

静流は微笑みをより一層深くする。

⏰:07/09/03 02:28 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#225 [向日葵]
頭を撫でてくれると、また私を抱き締めてくれた。

静流「邪魔なんか思った事もないよ。」

静流の息遣いが耳元で聞こえる。

私は目を瞑って安心感に身を委ねた。

紅葉「ほ……と?」

静流「本当……。」

気持ちがこもってる。
大丈夫。
静流は私を邪魔なんて思ってない。

静流「足痛い?」

また静流が聞いた。
私はゆっくり頷いた。

⏰:07/09/03 02:33 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#226 [向日葵]
「じゃあ。」と、静流は私を抱きかかえた。

静流「家に帰ろっか。」

赤ちゃんの様に抱かれた私は、静流の胸元をギュッと掴んだ。
首に腕を回すことはしてはいけないと思ったから。

静流は歩いてる間私が安心するように背中をポンポンとまるで赤ちゃんを寝かすみたいに叩いた。

それでも私は胸が詰まってただその一定のリズムに耳をすませていた。

しばらく歩いた頃だった。小さな声で静流が「あ。」っと言った。

⏰:07/09/03 02:39 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#227 [向日葵]
視線の先にはあの人……彼女さんがいた。
どうやら私が見つかったのをまだ知らないらしい。
そこら辺をうろうろ見ている。

紅葉「静流。下ろして。」

静流「え。でも……。」

紅葉「いいから。」

私を抱いてる姿を見てしまったら、また彼女は嫉妬してしまう。
二人の仲を引き裂くつもりなんてこれっぽっちもない。
だから私は先手を打った。
紅葉「あ、あの……!」

声をかけると、彼女はこちらを向いた。

⏰:07/09/03 02:42 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#228 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/03 02:43 📱:SO903i 🆔:WQXhAmnc


#229 [向日葵]
双葉「あ……っ!紅葉ちゃ…。良かった、いたんだ。」

心配してくれる彼女を見てなんだか眩しくて、今まで避けて続けた自分がなんか情けなくてまともに顔を見る事が出来なかった。
視線が泳いでしまう。

紅葉「すいませんでした……。」

それだけ言って私は家に入った。

*****************

紅葉が家に入ってしまった後、静流と双葉は門前に立って喋った。

双葉はずぶ濡れの静流に自分がさしていた傘に入れてやる。

⏰:07/09/04 00:37 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#230 [向日葵]
静流「いいよ。めう意味ないし。」

双葉「クスッ。そうだけど。今日はあったかくして寝てよ?明日風邪で休んだら承知しないんだから。」

静流「ウン。ありがとう……。」

二人の世界に入りつつある。
もう少しで唇を触れる雰囲気になりそうなのに、何かが静流を止めた。

それになんとなく気づいた双葉は話題を変えた。

双葉「あの子の事、大切にするのもいいけど自分も大切にしなよ?」

⏰:07/09/04 00:42 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#231 [向日葵]
静流「双葉も大切にする。」

そう言って双葉のおでこに唇を軽く触れた。

静流はやっぱり唇にするのを何故かためらった。

それでも双葉は満足だった。
最後にもう一度「温かくして寝るように」と双葉から念を押されて二人は別れた。
静流は双葉の姿が見えなくなってから家に入った。

****************

紅葉「ただいまー……。」

小さな声で言いながら二階へ上がると、すぐに私に近づく足音が聞こえた。

源「紅葉ちゃん!」

⏰:07/09/04 00:48 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#232 [向日葵]
源さんは私を見つけるなり、抱きついた。

避ける間もなく私はされるがままに抱き締められた。少し天パ気味の髪の毛が顔にかかってこそばい。

気づけば源さんの私を抱き締める手が震えている事が分かった。

源「良かった……。無事で……。」

まるでどこかに誘拐されてたみたいに源さんはそう言った。

優しい人達……。
私なんかの為にそこまで心配することないのに……。

⏰:07/09/04 00:54 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#233 [向日葵]
すると後ろからも足音が。もちろん静流だ。

源さんは私の後ろに静流が立つのを確認すると、私を解放して右手を軽く掲げた。

パシッ

小さな乾いた音がした。
源さんは弱く静流の頬を叩いたのだった。
私はそれをただ呆然と見ていた。

この人も殴る事なんてあるんだ……。

静流は黙ってうつ向いてる。

源「君もお母さんがいないなら分かるでしょ。家族に出て行けなんて絶対言っちゃいけないよ。」

⏰:07/09/04 01:00 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#234 [向日葵]
静流は下を向いたままコクンと頷いた。
すると静流の濡れた頭を源さんはクシャクシャと撫でた。

お咎めは終わりらしい。

源「さぁ二人共。お風呂に入って温めておいで。」

――――――……

お風呂に入った後、私はリビングのベランダ近くに座っていた。

梅雨真っ只中に入った空は、灰色のままだ。

でもそんなのとは裏腹に、私の心は少しだけ晴れ晴れとしていた。

⏰:07/09/04 01:04 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#235 [向日葵]
何故ならモヤモヤした正体が分かったからだ。

私は静流の事が、異性として好きみたい。
イライラした感情は嫉妬。脈打つ心臓は好意の印。

何故か冷静に判断出来る。
その理由はきっと、この想いが通じる事は無いからだ。

静流「紅葉?」

消えていた電気を点けられた。急で少し目がショボショボする。

静流「なぁにしてんの?」

隣にあぐらをかいて座る静流。お風呂あがりだから熱気が少し漂ってくる。

⏰:07/09/04 01:12 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#236 [向日葵]
紅葉「別に。……何も。」

体育座りをして顎を膝に乗っける。
なんだか少し寒い。

紅葉「静流。明日早いんでしょ?早く寝なさいよ。」

静流は「んー。」と唸って私を見た。
それにつられて私も静流を見てしまった。

静流「紅葉が寝るなら寝るよ。」

……意味が分からない。
さっさと寝ればいいのに。

静流「……?くれ……は?」

⏰:07/09/04 01:18 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#237 [向日葵]
いつの間にか、私の頭は静流の腕に寄りかかっていた。

お風呂あがりの腕は温かくて、とても心地いい。

心地……い……。

ズルッ!

静流「紅葉?!おいっ!」

静流が呼んでる。
うるさいから早く返事しないと。ずっと呼び続けちゃう。

静流「紅葉!」

目、開けられない。
ごめん静流。今は返事出来ない。

⏰:07/09/04 01:25 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#238 [向日葵]
なんか頭の芯がフラフラするの。

世界が揺れて、私が座ってるのかすら分からない。

しっかりしなきゃ。
静流がまた私につきっきりになってしまう。
また彼女より私になってしまう。

私は二人の仲を引き裂こうなんて考えてないの。

理不尽に嫉妬をしてしまうかもしれないけど、それでも考えてない。

私には、幸せを壊す権利なんてないんだから……。

⏰:07/09/04 01:32 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#239 [向日葵]
―堪―









静流「紅葉!」

後ろで怒鳴り声が聞こえる。頭に響くんだからもっと小さい声で呼びなさいよ。
足元がフワフワする。
世界が斜めに見える。

現在の私の体温。38.6℃。

⏰:07/09/04 01:37 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#240 [向日葵]
しっかりしろ。私の体。

壁に手をつきながらソファーまでたどり着く。
そしてそこで座って息を肺が空になるまで吐いた。

紅葉「静流…学校、あるんでしょ?早く行きなさいよ。」

静流は私の前まで来ると膝立ちをして私と目線を合わせる。

あぁ……。静流が二人いる……。

二人の静流は手を上げると私のおでこにその大きな掌を当てた。

⏰:07/09/04 01:42 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#241 [向日葵]
静流「今日は父さんも朝から仕事だし、俺今日休んでお前のか」

紅葉「馬鹿言わないで……っ。」

言葉を遮った。
言うと思った。

そんな事絶対いけない。
私の為に時間を使っては……彼女を傷つけてはいけない。

紅葉「寝てろって言うなら寝てるから。……早く、学校に行って。」

⏰:07/09/04 01:46 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#242 [向日葵]
静流は何か言いたそうにしてる。
でも私は出来るだけ目を開いて、静流を真っ直ぐ見た。

紅葉「私は寝る。静流は学校へ行く。両方の要望を聞いた条件よ。ね。」

静流はハァ……と息を吐くと、私を抱き上げた。
部屋へ連れて行くらしい。

勝手に寝るからほっといてくれればいいのに。
でも、結構体がヤバめなので実の所はとても楽だった。

⏰:07/09/04 01:51 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#243 [向日葵]
ゆっくり私を寝かすと、厚目の布団を私にかけてくれた。

そして微笑みながら私の頭を優しく撫でてくれる。

静流「じゃ、行って来るな。」

私は黙って静流を見る。

静流が三人に増えた……。三人の静流は部屋を出ていく。
階段を降りて、家のドアがパタンと静かに閉まった。

シーンと家が静まりかえる。

⏰:07/09/04 02:00 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#244 [向日葵]
ようやく息を我慢することなく出来る。

静流に心配かけまいと、本当は走った後みたいに息があがっていたけれど通常の呼吸をしようとなんとかやってのけた。

部屋に自分の息しか聞こえない。

最悪だ。ここ何年かのせいで虚弱体質になってる。
せめてもっと食事出来れば……。

相変わらず少量だけど食べれるレパートリーは増えつつあった。

⏰:07/09/04 02:04 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#245 [向日葵]
これも辛抱強く静流が付き合ってくれてるおかげだ。

そんな事をつらつら考えてると、私は眠りに落ちた。

―――――――……

痛い……。

知ってるこの夢。

母さんが見える。
笑ってる。冷酷な顔で。

何か言ってる。

「邪魔。アンタ邪魔。何で生まれたのよ。」

⏰:07/09/04 02:08 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#246 [向日葵]
あぁ……。

私また殴られてるんだ。
でも知ってる。
これは夢。
痛いけど、痛くない。

だから好きなだけ殴りなさいよ。

すると母さんは殴るのを止めた。
そのかわりまだ冷酷な顔で私を嘲笑ってる。

「アンタは本当に邪魔ね。」

知ってる。何回も言われたもの。

⏰:07/09/04 02:10 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#247 [向日葵]
「人の幸せを安々と奪うのが好きね。」

母さんの後ろに、一つの影が現れる。

あの人……彼女さんだ……。

虚ろな目をした彼女さんは、口だけしか笑ってない奇妙な笑い方をした。

双葉「静流は私のなのよ……。貴方、横取りする気……?」

―――ドクン

⏰:07/09/04 02:14 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#248 [向日葵]
違うと言いたいのに声が出ない。

そんなつもりはない。

ごめんなさい。
静流を好きになったのは確か。
でも決して引き裂こうだなんて事は……!

「嘘ばっかり。本当は思ってるんでしょ?」

母さんの声じゃないみたいに勘高い声で笑う。

違う。思ってない。
絶対!絶対に……っ!

もしそうなら、私はこの家を出る!
全ての原因が私ならば……っ!

⏰:07/09/04 02:18 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#249 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/04 02:19 📱:SO903i 🆔:GkaoQpe.


#250 [向日葵]
「約束だからね……。」

――――――――……

「!」

眠りから覚めた私はあり得ない程の汗をかいていた。
気持ち悪いけど体がダルいから服を着替えたくても起きる元気が全くない。

『約束だからね……。』

まだ耳にこびりついている彼女さんの言葉……。
私は夢の中で約束を交した。

所詮夢の中だと、切り捨てる事が何故か出来なかった。

⏰:07/09/05 22:41 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#251 [向日葵]
部屋の時計を見ると、時計の針は十二時を差していた。
あれから結構な時間眠ったらしい。
家は相変わらずシーンとしている。

「ケホッ……。」

喉がイガイガして変な感じ。水でも飲みたい。

着替えもしたいし、気合いを入れて体を動かす事にした。
鉛みたいに思い上、体の節々がなんだか痛い。
多分熱のせいだ。

なんとか体を起こして、引きずる様に体を動かす。

キィ……。

⏰:07/09/05 22:46 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#252 [向日葵]
壁に体を預けてフワフワした足取りで進む。
キッチンまで来てコップを持つものの、どこかにつかまってないと平行感覚を見失いそうだった。

とりあえずなんとか水をくんでから一気に飲み干す。

少しだけ意識がはっきりした気がした。
でも体力を全部使ったせいで着替える元気がなかった。

……せめて涼しい場所…。

フラフラしながらベランダの戸を開ける。

涼しげな風が入って来たところで、世界が真っ暗になった……。

⏰:07/09/05 22:50 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#253 [向日葵]
―――――――
――――――――……

「――……。」

何?

「…………っ!」

誰か叫んでる。

「紅葉!」

静流?

うっすら目を開けると、文字通り目の前に静流の顔があって、一瞬息が止まった。

「お前こんな所で何寝てんだよ!」

「叫ばないで……頭に響く……。」

⏰:07/09/05 22:54 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#254 [向日葵]
頭を抑えながら起き上がると、綺麗な声が聞こえた。

「こんにちは。」

紛れもなく彼女さんだった。綺麗な声に綺麗な顔。
非の打ち所が無いとはこの人みたいな人の事なんだろうな。

「紅葉ちゃん熱引いたの?」

自分の手でおでこに手をやり調べてみるけど全然分からなかった。

「多分……まだ。」

短く返すと、彼女さんはにーっこり笑った。
どうやら私が返事をしてくれた事が嬉しかったらしい。

⏰:07/09/05 22:58 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#255 [向日葵]
その笑顔と、夢の中のでの無表情な顔が重なる。

あれは夢……。
現実じゃない。

頭では分かっていても少し身震いした。

「なんか食べたい物ある?私用意するから!」

「いいって!双葉は何もしなくて。」

二人はキッチンへと行った。
仲良さそうに言い合いをしながらキッチンで何かを用意している。

「……。」

服の裾を掴む手に力が入った。

慣れろ。

⏰:07/09/05 23:02 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#256 [向日葵]
これが、当たり前。

これが、普通。

私は二人に危害を与える事は出来ない。
……ううん。しない。

バレない様に立ち上がり、部屋へ向かった。
意外にも汗を沢山かいたせいか、少しだけ体が軽くなっていた。

布団に入って、ぐちゃぐちゃ考える前に寝る事に専念した。

でもすぐに寝つけるものでもなかった。
それでも目をギュッと瞑って、夢への扉を探した。

すると

カチャ……

⏰:07/09/05 23:06 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#257 [向日葵]
部屋のドアが開いた。

静流?
それとも彼女さん?

「紅葉……?」

それは静流の声だった。

今私の格好は、静流に背を向ける形で寝ている。

ギシギシと私に近づく足音。
今は話す気分じゃなかったので私は寝たフリをした。
静流はそれに気づいてない。

小さく「よいしょ。」と聞こえたと思うと、静流が私の近くに座った。

⏰:07/09/05 23:10 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#258 [向日葵]
何か用なのだろうか神経を研ぎ澄ませながら目を瞑り続けた。

次の瞬間、私は目を開きそうになった。

優しく、柔らかく、静流の手が私の頭を撫でている。
それだけで心臓が縮まる感じがしたし、キュウゥっと音が聞こえる気がした。

やめて……。そんな事、彼女がいる今、やらないで……。

手から逃れたくて、寝返りをうつフリをして静流から遠ざかっても、手はしばらくするとついて来てまた私の頭を撫でた。

⏰:07/09/05 23:15 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#259 [向日葵]
静流……。

アンタは私をどう言う風に見てるの?

その問いに答えてくれる人なんていなかった。

コンコン

「静流?お粥作ったんだけど……寝ちゃってるみたいね。」

静かに話す彼女さん。
どうやら私に食事を作ってくれたらしい。
私は耳だけを二人に向ける。

「ありがとな。双葉も座りなよ。」

「うん。でも、良かった。大した事無さそうど。」

「ウン。」

⏰:07/09/05 23:19 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#260 [向日葵]
少し床が軋み、服が擦れる音が聞こえる。

「……静流?どうかした?」

「ん?ちょっと抱きつきたくなって。」

「フフフ……変なの……。」

やめてよ。わざわざ私の寝てる近くでそんな事しないでよ……っ。

耳だけが、二人が何をしているか分かる手がかり。
その耳を塞ぎたくなった。
しばらく沈黙が続いていた。

何故だか分からなかったけど、次に聞こえてきたのは「チュッ」と言う何かを吸え様な音。

⏰:07/09/05 23:24 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#261 [向日葵]
思わず目を開いた。

今後ろで、二人がキスをしている。

その真実が頭を鋭く突き抜けた。

熱のせいじゃないのになんだかクラクラした。
そして、涙が流れた。

知ってる。分かってる。
でも繰り返さないで。

――私が二人の仲を引き裂く権利なんてない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

長い地獄の時間が過ぎて、ようやく彼女さんが帰った。

静流が彼女さんを送り出すのに部屋を出たのを見計らって、私は一階に掛布団だけを持って降りた。

⏰:07/09/05 23:28 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#262 [向日葵]
素直に静流の部屋で寝れる気がしなかった。

大体、この家は結構な広さがあるのに何故私は静流と一緒の部屋なのか不思議だった。

聞いてみたら源さんの研究した物でほとんどの部屋は埋め尽されているらしい。

私は見た事がなかったけど、いくつかのドアノブを捻ってみると鍵がかかっていた。

どうやら源さんが管理しているらしい。

仕方なく、何個かのドアノブを捻りまくった。

⏰:07/09/05 23:32 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#263 [向日葵]
すると何個か目に……カチャっと開いた。

「……。」

そこは普通の部屋と最初は思った。
でも電気を点けると

「…えぇっ?!」

沢山のぬいぐるみ達が。
めちゃくちゃ大きいのから片手に乗るほどの小さいのまで。

唖然としていると、玄関のドアが開く音が聞こえたので中に入って思わず隠れてしまった。

見つかるのも時間の問題だけど、どうしても静流とは話す事が出来ない。

⏰:07/09/05 23:37 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#264 [向日葵]
電気を消す前に、大きなクマのぬいぐるみに狙いを定めた。

出来るだけ陰に隠れてぬいぐるみに埋もれた。

布団をかぶって、クマに寄りかかる。

ってか何でこんなにぬいぐるみがあるんだろう。

「紅葉?!」

静流のパニクっている声が聞こえた。
もしかしたら外まで行っちゃうかな。

でもまぁいいや。

目を瞑ると、何故かすぐに眠れた。

⏰:07/09/05 23:41 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#265 [向日葵]
―――
―――――……

「え?」

珍しい。
草原にいるよ私。

「こんにちは。」

後ろから声がしたので振り返ると、髪の長い大人の女性がいた。
とても綺麗。

「こ、こんにちは……。」

「貴方……紅葉ちゃん?」

え?

「何で知って……。」

⏰:07/09/05 23:43 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#266 [向日葵]
女性は楽しそうにフフッと笑うと、私の前までスキップで来た。

「さぁて。何ででしょうね。」

まだにこにこ笑っていり女性に、私は不審の目を向けた。
女性は草原に座り、広がる青空に目を向けた。

「貴方は他人を思いやれる優しい子ね。」

まるで私の行動を今まで見ていた様な口ぶりに、私は更に疑った。

「そんな事無いと思いますけど。」

「アラッ。私ならさっきあの場面でじっと寝る事なんて出来ないわ。」

⏰:07/09/05 23:47 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#267 [向日葵]
さっき?
静流と彼女さんのキスの事?

「まぁ……人それぞれだし…。別に、私は邪魔する気なんて無いから。……、側にいたいけどいたくないって思ってる事は事実だけど……。」

女性は自分の隣をポンポンと叩き、座れと指示した。素直に私は従う。

「若いのに大人ねぇ。」

「貴方も十分若いと思うけど……。」

「あらそう?!嬉しいー!」

本当に嬉しそうに女性は微笑む。
誰かに似てる気がした。

⏰:07/09/05 23:55 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#268 [向日葵]
「貴方はどうして自分を邪魔だと思うの?」

どこまでも広がる草原を遠い目で見ながら、私は答える。

「そう言う扱いを受けて来たから。」

必要として欲しくて、でもそれは無理な願いで。
必要とされる事を願うのを止めた。

だから静流が自分を必要としてくれると言った時、嬉しかった。

でも……

「その人の邪魔をするのだけは……嫌……。」

⏰:07/09/05 23:59 📱:SO903i 🆔:uTSNz6sY


#269 [向日葵]
頬にスルリと冷たい指が触れた。
びっくりして女性を見ると、悲しそうな目で私を見ていた。

「痛いわね……。心が、辛いわね……。」

胸が震えた。

痛くて仕方なかった。
それが自分の決めた道だったから、妥協を何度もして堪え続けた。

「い……痛い……。」

見ず知らずの人の前で涙を流してしまった。

でも分かってくれる人がいると思ったら、すごく安心した。

⏰:07/09/06 00:03 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#270 [向日葵]
女性はゆっくり私を抱き寄せた。

肌は冷たいのに、何故か温かく感じた。

思い出す。
母さんがまだ優しくしてくれた頃を。

「たまには……感情のまま、甘えてみるのもいいのよ。」

「そんなの……っ。出来ない……。」

「大丈夫。出来るわ。」

女性は頭と背中を優しく撫でてくれる。
まるで赤ちゃんをあやすみたいに。

⏰:07/09/06 13:38 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#271 [向日葵]
「邪魔……なるっ……。」

「ならないわよ。だって静流がそれを望んでいるもの。」

私は囁くくらいの声で「えっ。」と言った。

どうして静流の事まで知って?
私が不思議そうに顔を上げても、女性はただ優しく笑うだけだった。

すると

ピカァッ!!

いきなり空が目を開けられないくらい眩しく光り出した。

⏰:07/09/06 13:43 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#272 [向日葵]
「あら、呼んでるみたいよ紅葉ちゃん。」

「……?」

目をうっすら開けると、光のせいで女性はあまり見えなかったけどにこやかな口元だけが見えた。

「また悩んだら、ここにおいで。」

そして私自身もスゥッと光に包まれて消えていった。

――――
―――――……

眩しい…。目開けれない。

「おい紅葉!」

⏰:07/09/06 13:46 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#273 [向日葵]
眩しさに堪えながら目を開けると、静流がいた。

「何?」

「何じゃねぇよ!お前……っ。」

そこから静流はうつ向いて頭をガシガシかいた。

あ、私発見されちゃったんだ。
よく寝たからか体が軽い。頭ももうしゃっきりしてる。

「心配しただろっ!」

ようやく言葉が浮かんだのか静流は怒鳴りだした。
布団ごと私をぬいぐるみの山から抱き上げる。

⏰:07/09/06 13:50 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#274 [向日葵]
静流はお姫様抱っこをしながら私を抱き締める。

胸が高鳴る。
何故なら静流の顔が近くて、喋れば吐息がかかってしまう。

そんな間近くで見つめられてしまったら、視線を反らしたいのに逆に私も見つめてしまう。

「……っな、何…っ。」

無言で見つめられてから、更に抱き締められる。

私の耳元に、静流の口が近づく。
鼓動が静流にまで聞こえてしまいそう。

「ちょ、静流……っ。」

⏰:07/09/06 13:57 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#275 [向日葵]
「頼むから……。」

搾り出す様な声に体が固まった。

「勝手にいなくならないで……。」

……そうか。
静流は母親が亡くなってるから、急な別れを怖がってるのかもしれない。

だから、私も心配してくれてるのね。

「……はい。」

思わず敬語で返事をしてしまった。

それで終わりかと思った。そろそろ降ろしてくれるもんだと体を立て直す準備をしていた。

⏰:07/09/06 14:07 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#276 [向日葵]
でも、静流はいっこうに降ろしてくれない。

「し、しず……る……?」

******************

自分でもおかしかった。

何でこんなに心臓がバクバクするほど紅葉を心配してるのかとか。
何かを振りきる為に双葉を抱き締めたとか。

紅葉をこのままずって抱き締めていたいだとか。

そんな感情おかしい筈なのに。
俺には双葉がいるのに。

⏰:07/09/06 14:12 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#277 [向日葵]
俺は紅葉に気づかれないように頬のガーゼの上から唇を触れた。

この行動もおかしい事ぐらい気づいてる。

それでも紅葉に触れたくて、どこか心の端で紅葉が大切だと叫んでる。

*****************

「静流……。ねぇ……?」

静流は抱き締めたまま固まってる。
肩にある静流の指先に力が入っていくのが分かった。

どうしちゃったんだろ……。

⏰:07/09/06 14:19 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#278 [向日葵]
顔があんまり見えないけど、なんだか静流が傷ついてる気がした。

片手が上手く動かないけど、伸ばして静流の頭を撫でた。

気づけば初めてだった。
私から静流に触れるのは。
髪の毛が凄くサラサラだ。

「大丈夫……?」

静流はされるがままに私をまだ抱き締めたままでいる。うんともすんとも言わない。

ようやく離れたと思い、手を頭から離した。
また目が合う。

⏰:07/09/06 14:24 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#279 [向日葵]
私は自意識過剰かもしれない。

その目は何かを考えてて、だけど熱くて私を心から大切に思ってる感じがした。

きっとそれは私が静流を好きだから、良いように捕えてるんだ。
本当は「早く降りろ」って思ってるかもしれない。

必死に熱い視線と称するものから逃れて、私は体を動かした。

「降ろしてくれて構わないから。」

そう言って降りようとした。

⏰:07/09/06 14:32 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#280 [向日葵]
でも静流の腕は力を入れたままだった。

「いいから。じっとしてろ。」

そう言うと、やっとこの部屋から出てくれた。

「お、重いでしょっ?!だから、歩くわよ……。」

「病人は病人らしくされるがままになってろ。」

少し怒ってるような口調の静流に私は黙った。
リビングに行って、ソファーへ座らせてくれた。

静流はキッチンへ行って何かゴソゴソやっていた。
何分かしてから手に何かを持ってやって来た。

⏰:07/09/06 14:42 📱:SO903i 🆔:jlgEr3Lg


#281 [向日葵]
「ほら、すり林檎。蜂蜜入りだから体にいいぞ。」

器にすった林檎をいれて静流は私の隣に座った。
器と静流を交互に見る。

いま食べる気分じゃないんだけどなぁ……。

「食べなきゃいけない……?」

静流はハァと息を吐くと、少しすくって私の口に近づけた。

「アーン。」

「は?」

「口開けろっつってんの。」

⏰:07/09/08 00:25 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#282 [向日葵]
アーンって!
何だそりゃ!!

一向に私は口を閉ざしたまま。

なんだかまた熱が出てきそう。
毎日やってる事だけど、アーンとか言われたら自分が今まで普通に食べさせてもらっていた事が恥ずかしくなってきた。

「い、いらないから。」

下を向いて口に入らない様にした。

するとソファー前にあるテーブルに静流が器を静かに置いた。

諦めたのかと思った瞬間、体がピクリと震えた。

⏰:07/09/08 00:28 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#283 [向日葵]
顎にするりと静流の指先が触れたのだ。

そして軽く掴むと、上を向かせて唇の間にスプーンをいれた。

思わず味を確かめずすぐに飲んでしまう。
それほど動揺していた。

まるで何かいけない事をしている気分さえした。

「な、……何…よ。」

「食べる練習だ。じゃないといつまでも林檎ばっかりじゃ駄目だろ?」

そう言うと静流はいつもみたいに膝に私を乗せる。
また静流の体が密着した。

⏰:07/09/08 00:32 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#284 [向日葵]
ドキドキ ドキドキ
心臓がうるさい。

静流はまた私の口にすり林檎を流しこむ。

今度はちゃんと味わえた。

「な、美味いだろ?」

微笑みながら、口端についた林檎をとる。

少しだけ指が唇を撫でた。

私は思わず困った顔になってしまった。
しかも顔の体温は上昇。

こんなの、静流にバレちゃう……っ?

⏰:07/09/08 00:36 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#285 [向日葵]
痛みに堪えるのも忍耐が必要だけど

静流の一挙一動に堪えるのも苦難のわざだった……。

これから、二つの事に、堪え抜いていけるのか心配だった……。

⏰:07/09/08 00:38 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#286 [向日葵]
―生―










「しっずる〜い!」

学校で静流は友人香月から大声で呼ばれて振り向く。
そして抱きつかれる。

「どわ!何だよ!」

「お前今日誕生日だろ?お祝いのハグ。」

⏰:07/09/08 00:44 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#287 [向日葵]
そうなのだ。

梅雨真っ只中の今日。
生憎天気は雨。

そんな中、17年前、静流はこの世に生を受けた。

「いらねぇし……。男のハグなんて嬉しくねぇ。」

「じゃあ誰のだったら言い訳?」

静流は思わず「へ?」と高い声を出してしまった。

香月はとりあえず離れて静流の様子を伺う。

「誰って……。」

「まぁ双葉ちゃんだよな!」

⏰:07/09/08 00:48 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#288 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/08 00:48 📱:SO903i 🆔:qrBbq8eE


#289 [向日葵]
「え?……あぁ。ウン。」

何でだ……?

俺なんで今紅葉の顔が出てきたんだろ。

「なぁ。そういえば、あの子元気?紅葉ちゃんだっけ。」

自分が考えてた事がバレたかと思って心臓が跳ねた。
冷や汗をかきながら香月に返事をする。

「あぁ。やっと熱もひいたみたいで。あと食事も段々出来るようになったよ。」
「そっか。あ、なぁ。今日遊びに行ってもいい?」

⏰:07/09/09 13:46 📱:SO903i 🆔:7H/AWLK.


#290 [向日葵]
「なんで?」

「ん〜。なんかあの子に会いたくて。」

俺は返事に困る。

どうも香月はこの頃よく遊びにくる。

それは俺と遊ぶ為じゃなく、明らかに紅葉目的で。

もしかして……好きなのか?

「あ、双葉ちゃん。」

香月に反応して勢いよく後ろを見ると、友達と喋りながら歩いてくる双葉の姿があった。

双葉は俺に気づくと、友達に何かを言ってから俺の元へやってくる。

⏰:07/09/09 13:52 📱:SO903i 🆔:7H/AWLK.


#291 [向日葵]
「静流。今日空いてる?」

「?うん。空いてるけど?」

そう言うと、双葉は突然顔を赤らめた。

どうしたのかと首を傾げながら双葉の言葉を待っていると、周りのざわめきで聞こえるか分からないくらいの音量で双葉が喋りだした。

「あの……ね。うちで、お誕生日会、二人でしない?親は、仕事で遅いし……。」

「え……。」

それはつまり……そう言うことで……?

⏰:07/09/09 13:59 📱:SO903i 🆔:7H/AWLK.


#292 [向日葵]
思わず二人で赤くなってしまう。

「いぃんじゃねぇの〜?むしろお泊まりでもしちゃえば?」

と香月が肩に腕を乗せながら二人の話に割り込んできた。
そこで思い出した。

そうだ今日コイツ来るじゃん。

それを察したかのように香月は先手を打つ。

「あ、俺なら気にしないで。って言うか、お前の代わりに紅葉ちゃんの面倒見るし。」

「は?!……お前頼むから余計な事アイツにすんなよ。」

⏰:07/09/09 14:06 📱:SO903i 🆔:7H/AWLK.


#293 [向日葵]
その時少し双葉の顔が歪んだ事を二人は知らない。

「何もしないっつーの。まぁしいて言えば……キスくらい?」

それだけ言い残して機嫌良く教室に入って行った。
その後を追う静流。

「ちょ、香月」

「静流!」

ドアにさしかかった所で、双葉が静流を止めた。
静流もその声に足を止める。

「ん?何?」

微笑みながら双葉に聞き返す。

⏰:07/09/09 14:15 📱:SO903i 🆔:7H/AWLK.


#294 [向日葵]
呼び止めたはいいが、双葉は言葉を詰まらせていた。
「あ、あの……。その……。静流は、紅葉ちゃんを」

キーンコーンカーンコーン……

チャイムが鳴ったので、まだ言い足りなさそうだったがなやむを得なく双葉は自分のクラスへと帰って行った。

静流もなんだったのかと首を少し傾げて教室へ入って行った。

******************

「誕生日?」

私は作業しながら話している源さんに聞き直した。

⏰:07/09/09 14:27 📱:SO903i 🆔:7H/AWLK.


#295 [向日葵]
源さんは相変わらず意味の分からない物をカチャカチャ作りながら私に返す。

「ウン。静流君今日で十七歳なんだ。だからお祝いしようかと思って。」

「ケーキとか……?」

「そうだねー。買って来ようか!」

ペンチを置きながら源さんは言った。

でも確か源さんは何個か作品を作らなきゃいけないから今は忙しい。
ちょっとの時間でも惜しい筈…………なら。

「私、行ってくるわ。源さんはお仕事してて。」

⏰:07/09/09 14:33 📱:SO903i 🆔:7H/AWLK.


#296 [向日葵]
・・・・・・・・・・・・・・・・

とは言ったものの……。

昼間に外へ出るのはホント久しぶり。
出たとしても敷地内だから大して気にならなかった。

みんなの視線が、私の治りかけた傷に張ってあるガーゼや包帯へ行くのが分かる。

じろじろうっとおしい……。

見る人を軽く睨むとすぐに目をそらした。

野次馬根性だけはあるらしい。

⏰:07/09/10 02:48 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#297 [向日葵]
無視する事は出来なかったけど、なるべく気にしないようにしてケーキ屋さんまで歩いて行った。

ケーキ屋さんに着くと、色鮮やかなケーキが沢山あった。

静流はイチゴのホールでいいんだろうか。

「いらっしゃいませ。お決まりでしょうか?」

店員が話かけたので、15センチのイチゴのホールを指さした。

「これ……一つ。」

「ハイ。メッセージはいれられますか?」

⏰:07/09/10 02:52 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#298 [向日葵]
「あー入れて下さい。」

え?と思い、後ろを振り向くと

「香月さん。」

「よ!あ、お姉さん!メッセージは『静流君お誕生日おめでとう』で。あと、語尾にハート入れといて!」

店員は香月さんの注文を承ると、「少々お待ちください」と言って店の奥へと入って行った。

「……。」

あれ?静流がいない。
と私の視線でわかったのか、香月さんはニッと笑うと少し屈んで私と目線を合わせた。

⏰:07/09/10 02:56 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#299 [向日葵]
「静流なら一緒じゃないよ。俺じゃ不満?」

「別になんとも思ってないから。」

すると店員が奥から現れてろうそくをどうするか聞いてきた。
私が答える前に香月さんが「十本入りを三袋下さい」と答えた。
何故三十歳に……?

そして綺麗に飾られた箱を持って、私はケーキ屋さんを後にした。

「あ、持ってあげる。それと、君はこっちに来な。」
箱を奪われ、私は道路じゃない方を歩かされた。

⏰:07/09/10 03:01 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#300 [向日葵]
「別に子供じゃないんだからいいわよ。」

すると香月さんは眉を寄せて私を見てきた。

「子供?別にそんな扱いしたことないけど?」

「嘘よ。静流はするし。」

香月さんは立ち止まるとまた私と目線を合わせた。
しかも距離が近い。

「近いん……だけど。」

「あのさぁ。俺は静流じゃない訳。だから静流と一緒にしないでくれる?」

だから何だ。

私は近寄って来ないよう手を上げて香月さんの前に軽く出した。

⏰:07/09/10 03:05 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#301 [向日葵]
「じゃあ貴方は私を何だと思ってるの?」

呆れ混じりに聞くと、香月さんはキョトンとした顔をした。
そしてフッと笑う。

「決まってんでしょ?女の子。だから荷物は持つし、道路側には歩かせない。鉄則じゃね?」

今度は私がキョトンとしてしまった。

初めて女の子扱いされた。

香月さんは私の頭を撫でるとまた進み始めた。
その横で女の子扱いされた私は、少し戸惑っけど、嬉しかった。

⏰:07/09/10 03:09 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#302 [向日葵]
↑訂正

戸惑っけど×
戸惑ったけど○

――――――――――――

「……そういえば、静流どうしたの?」

「んー……。ケーキ投げないって誓える?」

「は?」

少しイラついて、逆に今投げてしまいそうだ。

「どうでもいいから早く教えて。」

もう家が見えた。
もしかしたら家にいるのかしら。

⏰:07/09/10 03:13 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#303 [向日葵]
香月さんは私が誓うまで教えてくれないらしい。
にこにこしたまま私の言葉を待っている。

叫びたくなる衝動をぐっと堪えて私は呟いた。

「……誓う。」

香月さんはにこーっと笑うと門前で足を止めて私に向き直った。

「双葉ちゃんと二人で誕生日会やるってさ。今日は帰って来ないかもよ?」

その瞬間、誓ったのに私は香月さんが持っているケーキを持って投げつけようとしてしまった。……がそれは阻止された。

⏰:07/09/10 03:18 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#304 [向日葵]
香月さんは胸元に私を引き寄せてケーキは片手で私の手が届かない位まで上げた。

香月さんは余裕の笑みで私に笑ってくる。

「誓ったよね?」

「―――!!」

端から見れば抱き合ってるように見えるのに気づいた私は直ぐ様離れた。

すると香月さんがクスクス笑う。

「顔赤いし……。」

「な……っ!」

図星だった。静流以外の男に抱き締められたのは初めてだったから、内心恥ずかしかった。

⏰:07/09/10 03:22 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#305 [向日葵]
「ねぇ、教えてあげた代わりになんか俺に権利くれない?」

私は赤い顔を直す為、密かに静かに深呼吸して香月さんん見た。

「権利?」

こっちが聞き直してるって言うのに、香月さんは話を進めていた。

「そうだな……。紅葉ちゃんにくっつける権利は?」

「は?何それ。」

人差し指を立てながら香月さんは私の目の前までずいっと寄って来た。
とっさで逃げられなかった私はその場で固まる。

⏰:07/09/10 03:26 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#306 [向日葵]
「静流の次でいいよ。君のお世話する権利を俺にくれない?」

お世話って……。

「やっぱり子供扱いじゃない…。」

「違うよ!例えば紅葉が」

あ、勝手に呼び捨てになった。

「胸を貸してって時に貸す役。つまり、恋人補助みたいな?」

余計訳分からん……。

「ってか静流恋人じゃないし。」

⏰:07/09/10 03:29 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#307 [向日葵]
自分で言って自分で傷つく。
図解して見るとハートに矢が何本もサクサクブサブサ刺さってる状態とでも言ったら分かりやすいかしら。

「違うよ何言ってんの。」

香月さんはハハッと笑うと、急に男の顔でニヤリと笑った。

「恋人候補において欲しいって事。わっかんないかなぁー。」

顔を離すと頭をポリポリかきながらいつもの香月さんに戻った。

は?恋人?候補?

⏰:07/09/10 03:34 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#308 [向日葵]
もう何が何だかさっぱりの私はただただ目が点になってた。

色々分析した結果、冷やかしだと決定して冷ややかな目で香月さんを見た。
ってかこんなの一回前にもあって笑われたし。

「騙されないけど、私そう言う遊び嫌い。」

「そう言うと思った。でも残念ながら本気なんだよね。」

と言いながらまた身を屈めて来た。
何をするのか分からない私はただ香月さんの動きを見ていた。

すると

「……!」

香月さんの唇が、私のおでこに触れた。正式には髪の毛の上からだけど。

⏰:07/09/10 03:39 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#309 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/10 03:40 📱:SO903i 🆔:9xBi8V7I


#310 [向日葵]
びっくりして、数歩素早く後退りした。
自分でも顔が真っ赤になっていくのが分かる。

「な!……っ何……っっ!」

「分かってくれた?俺の気持ち。」

ニコッと余裕の笑顔。
まるで慣れてるみたいに。
もしかしてこの人タラシ……?

威嚇する様に見つめていると、鼻歌混じりに香月さんは家へ入って行った。

は?!もしかして上がる気?!

⏰:07/09/13 00:52 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#311 [向日葵]
静流もいないのに何で……。

そこまで考えると、胸がキィンと痛くなった。

今日、静流は帰ってこない……。
彼女ときっと熱い夜を過ごすんだ。

そして帰って来たらいつも通り笑顔で私のガーゼや包帯を付け直して、膝に乗せてご飯を食べさせる。

まるで何もなかったみたいに……。

彼女に触れたその手で優しく頭を撫で、彼女の唇に触れたその唇で私の名を紡ぐ。

⏰:07/09/13 00:55 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#312 [向日葵]
キィンとした胸の痛さの余韻が目に来て、涙が溢れそうになった。

せっかく……ケーキ買ってきたのになぁ……。

肩をがっくり落として、涙を拭いた後、私は家へと入って行った。

リビングに着くと、さっきまでカチャカチャ作業していた源さんの姿が無かった。ふと目を落とすと小さな紙切れが一枚。

<急に仕事が入りました。しかも今日は帰れないかもしれません。静流君と二人で仲良くお留守番して下さいね。>

…………え。

⏰:07/09/13 01:00 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#313 [向日葵]
思わず口がひし形になる。

紙切れに書いてある文字を何度も何度も読み返してまた頭が真っ白になる。

つまり……私は今晩一人って……訳?

「なんなら俺がいてあげようか?」

いつの間にか側に来ていた香月さんは紙切れを取りながら私に笑いかけてくる。

「明日土曜だし。女の子一人は不用心でしょ。」

「結構よ。ってか帰って。」

⏰:07/09/13 01:03 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#314 [向日葵]
香月さんの背中を押しながら階段へ促す。
香月さんは口を尖らせて「今来たばっかじゃん」とか「釣れないなぁ!」とか文句を言ってる。

やっとの事で玄関へ行ってくれた香月さんは相変わらずにこにこしている。

「寂しくなったらいつでもかけといで!」

そう言って小さな紙を私に握らせて「じゃあね〜。」と去って行った。

台風一過……。騒がしい人だなんて思いながら紙に書かれた文字を読む。

数字ばっかり。明らかにケー番だ。

⏰:07/09/13 01:08 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#315 [向日葵]
無言でスカートのポケットに紙を入れて、私はリビングに戻った。

リビングに足を踏み入れると同時に

プルルルル プルルルル

電話が鳴り響く。

私が取るべきか迷った。
もし静流の知り合いなら、私がとったら勘違いされるのでは?

でも急ぎの用ならいけない。そう決断して、私は受話器を取って、ゆっくりと耳に当てた。

「はい…。もしもし。」

{もしもし?紅葉か?何だよ暗いなぁ。どうかしたか?}

⏰:07/09/13 01:12 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#316 [向日葵]
静流だった。

「……何?」

込み上げる寂しさ、悲しさ、嫉妬をなんとか噛み砕いて出た言葉がそれだけだった。

{あー。実はさ、今日帰れないかもしんないんだ。ちょっと父さんに代わってくれる?}

「……。」

ここで、源さんが帰って来ないって言ったら……静流は帰ってきてくれるのかな……。

受話器を持ったまま、そんな事を考えた。

⏰:07/09/13 01:16 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#317 [向日葵]
「あ……っ……。あのね……。」

{静流?まだ?}

その声でハッとした。
私は何を言うつもりだったんだ……。

{ゴメン双葉。もーちょっと待って。なぁ紅葉}

「源さんには私から言っとくから。」

ガチャン!

私は素早くそれだけ言って受話器を勢いよく置いた。

良かった……。彼女さんの声が聞こえて……。
聞こえてなかったら、私言ってた。

⏰:07/09/13 01:19 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#318 [向日葵]
私は……そんな事してはいけないのに。

どんよりしながらテーブルの上にある白い箱を見つめた。
見つめながら、壁に寄りかかって、力なくズリズリ床に座りこんだ。

*****************

ツー……ツー……。

電話を切られた携帯を見ながら静流はボーッとしていた。

何ショック受けてんだ俺……。
紅葉が冷たくあしらうのなんかいつもの事じゃん。

そっか……電話って表情見えないから、余計にか……。

⏰:07/09/13 01:24 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#319 [向日葵]
「静流……?」

そっと呼びかける声に静流は反応した。

「あ、ゴメンな。始めよっか。」

すると双葉はにこっと嬉しそうに笑って頷いた。

「じゃあ、はい。プレゼント。」

小さな袋を渡された。
小さなラッピングのリボンを外して中を出すと、革製のブレスレットが入っていた。

ウキウキしながら静流は手首にはめて、双葉に見せた。

「ど?!」

「ウン。似合ってる!」

⏰:07/09/13 01:29 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#320 [向日葵]
静流は双葉の頭を撫でて「ありがとう」と言った。
双葉は照れながらそそくさとテーブルへ向かう。

「じゃーん!静流の好きな物、作ってみましたー!」

「おー!すっげぇ!」

テーブルには唐揚げやサラダ、刺身と色々並んでいた。
そして端には中くらいの箱が。

「何それ。」

「あ、これ?これはケーキ!後で食べようね!」

「……。」

無言になる静流をどうかしたのかと見つめる双葉。

⏰:07/09/13 01:33 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#321 [向日葵]
その視線に気付くと、静流はそっと微笑んだ。

「いや、紅葉がな、ケーキは食べられるのかなぁって思ってさ。」

「……そう。…私、飲み物取ってくる。」

そう言って、双葉はキッチンへ向かった。
冷蔵庫の前では、少し落ち込む双葉の姿があった……。

ザ―――……

まだ梅雨は終わってないと言う様に、急に雨が降ってきた。

*********************

雨だ……とソファーで膝を抱えて寝転びながら思った。

⏰:07/09/13 01:37 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#322 [向日葵]
夕方から夜に近づいていく為か、雨雲のせいか、空は暗くなってきた。

リビングでは電気をつけてもないし、自然の光だけ。
と言っても、明るくないのは確かだけど。
雨の音が、家のシーンとした静けさを消してくれるからなんだかホッとする。

起き上がって、肩越しにチロリとテーブルを見る。

さっきと全く変わらない位置に、箱はあった。

これを見たら、静流はきっと申し訳なく思ってしまう。そして源さんは何故帰って来なかったのかと怒ってしまう。

⏰:07/09/13 01:42 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#323 [向日葵]
私はゆっくりと立ち上がって、箱に近づいた。

そして開ける。

綺麗な赤いイチゴと、デコレーションされた生クリーム……。

手を出して、ケーキへダイブさせた。
掌で、ケーキを掴む。

グチョッと音を立てながら、ぐちゃぐちゃになったケーキを口へ運んだ。
甘ったるくて、まだ完全な体じゃない私の体はケーキを拒否していた。

……でも。

「――……っんぐ!」

⏰:07/09/13 01:46 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#324 [向日葵]
吐くのを必死に堪えて私はケーキを飲み込んだ。
吐かない様に口元を押さえて、よろよろてキッチンまで行く。

コップに水をくんで、一気にケーキを流しこんだ。

そしてまた水をくむ。

これで、丸々一個ケーキを食べてやるつもり。

なんだか意地になってきた。

痛い……痛い……。
胸、凄く苦しい。

ケーキを口に含んでは、水を飲みを繰り返した。
でも一向にケーキは減らない。

⏰:07/09/13 01:54 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#325 [向日葵]
「ん……っう、うっ……。」

吐きそうな声に、鳴咽が混じった。
ケーキが……しょっぱい。

「うぅ……っ。ズッ。うぇぇ……。」

顔が、生クリームと涙でぐしゃぐしゃになる。
それでも、ケーキを食べる手も涙も止むことは無かった。

どうしてこんなに泣かなきゃいけないの?
私知ってる。
泣いても何も変わらない事。

だってずっとそうだった。

⏰:07/09/13 01:58 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#326 [向日葵]
泣いてもわめいても、止むことのなかった母さんの手。

だから私は、涙を流すのを止めた。

なのに……

ここへ来てから、温かさとか、好きな人への恋しさとか、色々知っちゃったから……。

また涙を流す事を思い出してしまった。

「う……っ。んぐんぐ……っ。はぁっ……。うぅぅっっ……。」

私は少し手を止めて、ケーキを掴んでいなかった方の手で目を拭った。

⏰:07/09/13 02:02 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#327 [向日葵]
ケーキは綺麗に、そして皮肉にも、メッセージの「静流」の部分だけが残っていた。

―――――――……

「―――……?」

目を開けると、目を瞑ってた時と変わらなかった。
真っ暗。
雨なので月の光すらない。

どうやら知らずの間に寝ていたらしい。

手には生クリーム。
少し起きればケーキの残骸が見えた。

とりあえず今は食べる気になれないので手を洗った。

⏰:07/09/13 02:07 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#328 [向日葵]
今何時だろう……。

目をこらすも暗くて見えない。

まぁ別にいいだろう。
朝になれば、少しは明るくなるだろうし……。

ベランダの戸を開けた。
湿気が体にまとわりつく。

今、私が前みたいに消えたら、それでも静流は探してくれるのかな……。

ねぇ静流。私、静流と両想いになる事望んでるけど望んでない。

それでも、私が貴方に好きと言ったら、貴方はどうする?

⏰:07/09/13 02:11 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#329 [向日葵]
でもきっと……貴方は彼女がいるからと、断るんだろうね。

苦笑しながら、雨空を見上げた。

すると

キンコーン

私は目を見開く。
うそ……っ。もしかして……。
足が勝手に玄関へ走り出す。

静流……。

静流!

バン!!

「わ!びっくりしたぁ!!」

⏰:07/09/13 02:15 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#330 [向日葵]
「香月……さん。」

そこには傘を畳みながら立っている香月さんがいた。
あまりの自分の体の反応に、笑えた。

「?何かおかしかった?」

「何しに来たの?……あぁ。馬鹿にしに?フラレてやんのー!って?」

イライラしながら叫んで私はリビングへと帰ろうとした。

しかし

香月さんに腕を掴まれてしまった。

⏰:07/09/13 02:19 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#331 [向日葵]
私はそのまま固まる。

玄関のドアを開けたままなので雨の音が大きく聞こえる。
それに重なって、香月さんの声が聞こえた。

「泣いてるかな……って。心配だったんだ。」

息を飲んだ。
でも弱いとこ見られたくなくて、何もない風に振る舞いながら香月さんを振り返る。

「何で?誰の為に?何のメリットがあって?」

香月さんを馬鹿にするように嘲笑いながら言っても、香月さんに通用しなかった。

⏰:07/09/13 02:23 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#332 [向日葵]
それどころか、怒った様な、悲しそうな顔をして私を自分の近くまで引っ張った。

そして指先で目元をなぞる。

思わずビクッとして目を軽く見開いた。

「じゃあなんで目、赤いの?」

「――――!!」

言葉を考えてる余裕なんかなかった。
言い返すにふさわしい言葉が見当たらなかった。

それに、今の状況……。

「……っ。」

⏰:07/09/13 02:28 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#333 [向日葵]
香月さんは自分の胸元に私ね顔を押し付け、抱き締めた。

私は何が怒ってるのか全然分からなくって、息が止まった。

「言ったでしょ。胸貸すって。」

それだけ言うと、更に私をキツク抱き締めた。
昼間の様なふざけた抱き締め方じゃない。

好きな人が傷つかないように、優しく、愛しく……。
私が……ずっと求めていたもの……。

⏰:07/09/13 02:32 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#334 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/13 02:33 📱:SO903i 🆔:i0NKXNbs


#335 [向日葵]
―拭―











香月さんの体温は暖かくて、すごく安心した。
確かに、私が欲しかった物をくれた。

でも欲しいのは、香月さんからじゃないの……。

玄関を見れば、既に九時を回っていた。

⏰:07/09/14 02:10 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#336 [向日葵]
大分寝てたんだと抱き締められたままぼんやり思った。
香月さんの腕の力が緩む事はない。
ただ黙って、まるで傷ついてる私を優しく消毒してくれているみたいに包んでくれてる。

別に嫌だとかそんな事は不思議と思わなかった。

でもただ、ドキドキと胸の鼓動は聞こえなかった。

あの静流に抱き締められたみたいに……。

「ねぇ。何してたの?」

ようやく口を開いた香月さんが私に聞いた。

⏰:07/09/14 02:14 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#337 [向日葵]
少し距離をとって私は香月さんを見上げた。

「……それより。玄関のドア、閉めて。」

「あ。」っと言い、香月さんは私から完璧に離れてドアを閉めた。

ガチャン

「で。何してたの?」

いつもよりも穏やかな笑みで私に聞いてくる。

その時ばかりは少し空気が違う事に戸惑って、リビングがある上を見上げた。

「……。ケーキ貪ってた。とりあえず上がって。」

⏰:07/09/14 02:18 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#338 [向日葵]
私は先に階段を上った。
その後ろから少し距離を開けて香月さんが来ている。

リビングに来ても明かりはつけなかった。

すると香月さんがまるで自分家であるように慣れた手つきでテーブルだけを照らす部分照明を点けた。

照らされた先には、ケーキの残骸。

あと少し……食べきらないと。

「ここまで、君が全部?」

私は無言で頷いてキッチンでさっきの様に水をくんで戻ってきた。

⏰:07/09/14 02:23 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#339 [向日葵]
私はまた手で掴んでケーキを食べ始めた。

正直胸やけがしてて気分悪い。
でも早く食べて、ケーキの箱をどこか知らない場所に捨てて、私はお風呂に入って甘ったるい匂いを消す作業をしなくちゃいけない。

さっきより更に込み上げる嘔吐感と戦いながら黙々と食べては飲みを繰り返した。

「ねぇ。ちょっと何やってんの?」

それを唖然と見ながら香月さんが言った。
私はそれを無視してケーキを貪る。

⏰:07/09/14 02:33 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#340 [向日葵]
流石に私の頭がイってしまったと感じたのか、香月さんはケーキを掴む私の手を掴んで止めた。

「ケーキを見たら、静流が後悔する。どうして自分は帰って来なかったんだろう。せっかくケーキを買って待っててくれてたのに……。って。」

水を一口飲む。

味に飽きてきた。でも食べなくちゃ。

「そこまで自分苦しめる必要なんか無いだろう?!」

掴まれている手をただなんとなく見ながら私は答えた。

⏰:07/09/14 02:40 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#341 [向日葵]
「自分自身に約束したの。静流がもしも私を好きになる様なことがあればこの家を出て行くって。」

信じられないと言った風に眉を寄せ、香月さんは私を見つめる。
それでも私は続けた。

「私が来てしまったせいで、今の彼女さんの幸せを奪うことがあるなら、私は自分が許せない。私は…………必要以上の幸せを貰うのは苦しい。」

そんな権利すら……きっと無いのだから……。

「手、離して。」

一瞬力が入ったけど、直ぐに手を解放してくれた。
そして私はまた胃に流し込む。

⏰:07/09/14 02:46 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#342 [向日葵]
あと三口くらい。

自分でも短時間でよくここまで頑張ったと思う。

すると、私の三口分を手で一掴みして、香月さんが食べてしまった。

「もう気分悪くならなくていいだろ?」

ニヤッと笑いながら口元の生クリームを指で取って舐める。

私は「そうね。」とだけ言って着替えを持ってシャワーを浴びに行った。

シャンプーのいい匂いで包まれるかと思ったけど、どこか自分が生クリーム臭い気がしてならなかった。

⏰:07/09/14 02:50 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#343 [向日葵]
シャワーを終えて、歯磨きをし、部屋で寝ようとドアノブに手をかけたけどまた引っ込めた。

今日はここで寝る気分じゃない。

リビングに向かうと、ケーキが無くなった箱を香月さんが処理していた。

私は黙ってソファーに座る。

「もう私寝るから帰っていいわよ。」

「んじゃ俺も泊まるわ!」

と言いながら私の隣に座った。
何故と言う気持ちが隠せない顔で香月さんを見ていると、頭を持たれて強制的に膝枕をしてくれた。

⏰:07/09/14 02:55 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#344 [向日葵]
「ハイ、ね〜むれ〜。」

「子守唄歌ってんじゃないわよ!何で私が貴方の膝枕で寝なきゃいけないのよ!ってか帰りなさいよ!」

「今帰っちゃったら、また君泣くんじゃない?」

頭を撫でられながら言われた。
そんな事ないって否定したかった。
でも出来なかった。

「膝枕されてあげてもいいけど私の寝顔見るのだけはやめて。」

「りょーかい。」

言い方が軽かったんでハッタリをかましてるんじゃないかと目を動かすと、口に笑みを残したまま目を瞑っていた。

⏰:07/09/14 03:00 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#345 [向日葵]
そこでようやく私は目を瞑った。

外は、相変わらず雨だ。

*****************

――――――――……

「ん、んー……。あれ?」

狭いベッドに寄り添って寝てた事に気づいた静流は、隣に寝ている双葉を起こさないようにそっとベッドを出た。

カーテンを開ければ夜明け前。
そろそろ帰ろう。近所の目が光ってない今がチャンスだ。

「……ん。……静流?」

「ゴメン。起こした?双葉、俺帰るな。」

⏰:07/09/14 03:04 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#346 [向日葵]
「そっか……。」

双葉は静流の隣に来ると、キュッと抱きついた。

それを見て静流は双葉をからかう。

「なぁーに双葉さん。甘えてんの?」

「ウン。ダメ?」

素直な双葉に穏やかな笑みを返して、静流も双葉を抱き締めた。

「また電話すんね。」

「うん。待ってる。」

そう言葉を交した後、軽く唇を触れて、静流は双葉宅から出て行った。

⏰:07/09/14 03:08 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#347 [向日葵]
帰る時には雨が小雨になっていたので、カバンで雨を防ぐ事なくなんなく帰れた。

実は双葉宅から静流宅までは歩いて30分くらい。

きっと今帰ったら紅葉びっくりするだろうなと想像して、誰もいない道で静流は笑った。

そして自分の家が見えてきた。
鍵を開けて、誰も起こさないように静かにドアを開ける。

心境は寝起きドッキリの気分だ。

「ただーいまー……。」

⏰:07/09/14 03:12 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#348 [向日葵]
後ろ手にドアを出来るだけ音を立てないように閉めた。

靴を揃えて自分の部屋に向かおうと足を進めかけた時だった。

ふと違和感を感じた。
その違和感を感じたのは、さきほどの玄関。

戻って見ると見慣れない靴が……。

……父さんのか?

疑問を抱いたまま二階へ。
あ、寝る前に何か飲もう。そう思いリビングへ足を運んだ。

そして……入口の前で止まる。

⏰:07/09/14 03:17 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#349 [向日葵]
明らかに、父さんでも、紅葉でもない影がそこにはあった。

もしかして……

頭をよぎった人物にまさかと投げかけながら、静流はリビングの電気を点けた。

パチッ

*******************

眩し!

暗闇からいきなりの光は、まだ眠りが浅い私を目覚めさすのには十分だった。

香月さんが点けた?
いやでも自分の頭の下にある物は香月さんのだ。

⏰:07/09/14 03:20 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#350 [向日葵]
香月さんを見ると、香月さんも目を覚ましたらしいのか目をショボショボさせていた。

あ、もしかして源さん?

人物を確認する為に、私は体を起こして電気を点けた本人を発見する。

「……?静流?」

静流は何かに驚いている。多分香月さんだろう。

ソファーから離れて、静流の元へ行く途中時間を確認した。

―――まだ五時……。

「こんな時間にどうしたの?」

⏰:07/09/14 03:24 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#351 [向日葵]
バシン!

……へ?

何が起こったか分からなかった。
ガーゼを張っていない方の頬が熱を帯びている。
そして痛い。

「なぁ。お前何やってんの?」

静流の低い声を聞いて分かった。
私はひっぱたかれたんだと。

静流は私の胸ぐらを掴んで自分へ引き寄せた。

「おい静流?!」

そこで香月さんが私の後ろから止めに入ったが、静流の目は私しか捕えてなかった。

⏰:07/09/14 03:27 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#352 [向日葵]
「何やってんの?」

何が?
私が何をしたって言うの?

「私、静流が怒るような事した覚えないんだけど。」

「じゃあ香月何でいんだよ。しかも父さんは?」

紅葉はぎくっとした。

実は静流は玄関で源の靴が無いのを、今では犯人が分かった靴を見た時に気づいていたのだ。

「仕事で……昨日出て行ったっきり……。」

私がそう言うと、胸ぐらの手を外してくれた。
でも冷たい目からは解放してくれない。

⏰:07/09/14 03:32 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#353 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/14 03:33 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#354 [向日葵]
「なんであげた……。お前一人なら尚更だ。男をあげるなよ!」

は?

「何それ?」

私は呟いた。
怒りが、血となって頭に上りだす。

だってそうでしょ?
私は何も悪いことしてない。
ってかアンタよく自分を棚に上げて言えるわよね。
アンタはどうなのよ。

「私は別に静流の子供でもなければ恋人でもないの!何でアンタにそこまで束縛されなきゃいけないわけ?!」

⏰:07/09/14 11:06 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#355 [向日葵]
「お前な」

「自分だって何よ!こんな時間に帰って来てるくせに!私の事とやかく言う前にアンタ自ら見本見せてみなさいよ!」

まだ早朝なのを忘れて、起きたてであまり働かない脳を必死で動かして言葉を搾りだした。

「俺は……きちんと昨日連絡しただろ。」

「そうね。なら番号知らないのに私に電話かけろって言いたいわけ?私は超能力者じゃないの。」

そこで静流はカッとなったのか、また右手を振り上げた。

⏰:07/09/14 11:12 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#356 [向日葵]
「殴れば済むと思ってんの?」

そこで静流はハッとして、振り上げたまま静止した。

どいつもこいつも気に入らない事があればすぐに暴力なのね。
静流も最近おかしい。
まるで監視されてるみたいでイラつく。

「殴りなさいよ。それで気が済むんでしょ。何度でも殴りなさいよ。そしてまたゴミ捨て場に捨てればいいじゃない。」

静流は目を凍らせたまま右手をゆっくり下ろした。
今度は私が冷たい目で静流を見ている。

⏰:07/09/14 11:16 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#357 [向日葵]
香月さんは初めて聞く私のエピソードに驚いて私を見下ろしていた。

「ごめん……紅葉。」

叩いた方の頬を撫でようとした手を私は乱暴に振り払った。

「お風呂入ってもないのに触らないで。それ以前に、私には当分触れないで。」

そう言ってから久々にベランダへ出て、ピシャリと戸を閉めた。

静流は……何も分かってない。

********************

俺は後悔していた。

⏰:07/09/14 11:21 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#358 [向日葵]
暴力に敏感になってる紅葉に手を上げるなんて、出ていけって言った時と同じくらいしてはいけない事なのに…………。

叩いた右手をギュッと握りしめた。

「なぁ静流……。」

「ん?何?」

香月は紅葉の背中を指差しながら俺に聞いてきた。

「ゴミ捨て場って……。」

「ウン。……本当なんだ。」

香月は紅葉を見つめながら「そっか……。」と呟いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

香月も帰り、家には俺と紅葉だけになった。

⏰:07/09/14 11:26 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#359 [向日葵]
相変わらず紅葉は飽きもせずにベランダにいて、空を見上げている。

「当分触るな宣言」をされていたけど、このままじゃいけないと思ってベランダに近づいた。

放っておくと、雨と一緒に紅葉がどこか行ってしまう気がして……。

紅葉の丁度後ろに座って、ガラス越しに背中に触れる。

「く……紅葉……。」

囁きは聞こえない。

「紅葉っ。」

声を大きめに名前を呼ぶと、聞こえたのか少し身じろぎした。

⏰:07/09/14 11:31 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#360 [向日葵]
戸をゆっくりと開ける。

「なぁ……紅葉。中に入れよ。」

その言葉を紅葉はことごとく無視した。
雨がまた少し強まって降っているのに気づく。

「な?ガーゼも貼り直さなきゃいけないだろ?」

俺は紅葉のすぐ側で膝まずいた。

********************

来ないでよ。
何で放っておいてくれないの。

予想通りだ。
やっぱり静流は帰って来たら優しくそう言うんだ。

⏰:07/09/14 11:37 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#361 [向日葵]
私は首を傾けて膝にフッつぶした。
静流の方は見ないようにして。

「紅葉。ごめんって。」

「そんな安っぽく謝らないで。」

機嫌をとるだけの言葉なんていらない。
でもだからって謝って欲しい訳でもない。

静流に、思い知らしてやりたい。
さっきの行動が、私をどれだけ傷つけたか。

「じゃあ……どうやったら、許してくれる?」

そこで頭を上げて静流を見た。

⏰:07/09/14 11:42 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#362 [向日葵]
静流はぎこちなく微笑む。
でもそんなの今の私にはイラつきの対象の他何でもなかった。

「言った筈よ。私に当分触れないでって。心の中まで触れてくんなって事。……いい?」

静流は傷ついた顔をして私を見つめる。

「紅葉、あの……。」

伸ばしてきた手をまた私は払うんじゃなく叩き落とした。

「日本語が通じるなら早くあっちへ行って。」

静流はゆっくりと立ち上がってベランダを後にした。

⏰:07/09/14 11:49 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#363 [向日葵]
もういい。

私は何なの?
どうしてこんな扱いを?

これは罰?
幸せになろうとしている神様からの罰なの?

……ならば、私は受けるしかないのかもしれない。

少し身動きすると、クシャッと何か紙のような音がした。
ポケットに何か入ってる。
探ると小さな紙切れ。

「香月さんの……。」

そう。あのケー番が書かれた紙。

⏰:07/09/16 01:34 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#364 [向日葵]
お風呂に入った後、洗濯しちゃう服から抜き取って今の服のポケットに入れたのを忘れていた。

そういえば、いつの間にか香月さんがいなくなってる。
少し助けて貰ったのに、お礼言えなかった。

「…………。」

私は立ち上がって、リビングへ入った。
リビングにある電話の子機を持って、下へ降りようと階段へ向かった。

リビングだともし静流が来たら嫌だからだ。

「えっと……090の……。」

⏰:07/09/16 01:39 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#365 [向日葵]
ボタンを押しながら階下へ向かおうとすると、後ろで部屋のドアが開いた。

「紅葉?……あの、どうかした?」

「……。6739と。」

無視してボタンを押し終える。
耳に当てるとプルルルと呼び出し音が鳴っていた。

ガチャ

{ハイ。}

「もしもし。紅葉です。香月さん。」

*******************

「もしもし。紅葉です。香月さん。」

俺は耳を疑った。

⏰:07/09/16 01:44 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#366 [向日葵]
なんで香月の番号を紅葉が?

俺には目もくれず、下へ降りて行く紅葉。
階段を降りる際にチラリと見えた小さな紙。
きっとあれに書いてあるんだろう。

「マジか……。」

一旦ドアを閉めて部屋に入り、ドアにもたれて唖然とした。

香月は……紅葉に本気?

もしかして昨日、二人の間に何かあったとか?

「……あれ?」

無意識に握られた拳を見て、俺は頭に?を浮かべた。

⏰:07/09/16 01:48 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#367 [向日葵]
「なんで俺……。」

怒ってんの……?

掌をグーパーするのを繰り返して、手の力を抜く。

別に紅葉に恋人が出来たって……何らか関係無いじゃないのか?

なんで俺

「こんな胸……痛いんだろ。」

自分の胸に手を当てて、胸が痛まるのが治まるのを待つ。

[なら誰がいいんだよ。]

香月に抱きつかれた時、香月から聞かれた事だった。

⏰:07/09/16 01:53 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#368 [向日葵]
俺なんであの時

―――――紅葉の顔が…………?

********************

私は一番下の階段に座って香月さんと話していた。
香月さんにお礼を言ったら「気にすんな。」と帰ってきた。

{それより、ちゃんと覚えててね?}

「何を?」

{俺が君の恋人になりたいって事。}

返事に困った。
恋だの愛だのそんなもの知らなくて初めての私は上手く返す事が出来ない。

⏰:07/09/16 01:58 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#369 [向日葵]
しばらく沈黙でいると、受話器越しにクスクスと笑い声が聞こえた。

{クスクス。ごめん。困らせた。じゃあまたね。}

それだけ言って、香月さんとの電話は終わった。

好きと言われるのは正直悪い気はしない。

……でも。
この先、叶わない気持ちだと分かってても……やっぱり欲しいのは、一番好きな人がいい……。

上に上がって、静流の部屋の前で立ち止まる。

ドアを見つめながら思った。

⏰:07/09/16 02:02 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#370 [向日葵]
私が……香月さんと付き合えば、静流の事を忘れる事が出来るのかもしれないな……。

そうしたら、神様は許してくれるかな。

私も幸せになっていいって、認めてくれるかな……。

その時。

ガチャ

「!」

「!」

静流の部屋のドアが開いた。お互いに驚いて、見つめ合ったまま時間が流れた。

⏰:07/09/16 02:09 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#371 [向日葵]
「電話……終わった?」

苦笑気味に静流が聞いてくる。
私は何も言わず、ただ静流を見ていた。

一体、この人は私をどう見てるんだろう。
……決まってるか。
子供、もしくはそれに似たものだな。
ペットかもしれない。

「静流。」

「ん?何?」

「……。香月さんってどんな人?」

静流の表情が、何故か硬くなった。
なんだか少し悲しそうにも見える。

⏰:07/09/16 02:13 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#372 [向日葵]
「いい……奴だよ。」

「そーよね。……それなら、問題はないわよね。」

私は子機を置きにリビングへ戻った。
振り向くとすぐそこに静流がいた。
少し不機嫌気味に聞いてみる。

「何?」

「香月が好きなのか?」

……。だったら?
って言っても、その予想は外れているけれど。

好きな人はアンタだって言ったら静流どうするんだろ。

⏰:07/09/16 02:16 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#373 [向日葵]
そんな事、言うのは許されないけど。

「そうだとしても、静流には関係ないでしょ。」

冷たくあしらって、静流の横を通りまたベランダへ出ようとしたら、手を掴まれた。

――ドキ……。

「関係……無いけど。」

静流の顔がうつ向いてて、何か言ったみたいだけどあまり聞こえない。

「ねぇ何?」

静流は無言になる。
ちょっとイライラしてきた。

⏰:07/09/16 02:20 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#374 [向日葵]
「ちょっと!用がないなら離して!ってか約束と違」
「関係無いけど嫌なんだっ!!」

いきなり大きな声を出されて身がビクッとすくんだ。
ようやく上げられた静流の目はとても熱くて、私を射抜く。
まるでこの前ぬいぐるみの山から抱き上げられた時みたいに。

血がドクドクいって全身を駆け巡るのが分かる。
体が、静流の全てに反応してる。

「香月は友達だし……お前にも、幸せになってもらいたい。俺だって双葉がいることくらい分かってる……。」

⏰:07/09/16 02:25 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#375 [向日葵]
一部の言葉に胸がチクリとした。

静流の熱い視線はそのままだけど、悲しそうに、苦しそうに顔は歪む。

「――――分かってるけど……。……お前には、ずっと近くでいて欲しいんだ……。」

胸が震える。
どうしてそんな事言うの……?

「おかしいよ静流……。その言葉……間違ってる。」
だって、それは大切な人に向ける言葉じゃないの……?

「分かってるよ。自分がこの頃おかしいことくらいな。」

⏰:07/09/16 02:29 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#376 [向日葵]
間違ってる。

でも私は今、とても嬉しい。
静流の気持ちが分からなくて、何故ぶたれるのかとか、怒ってるかとか……意味もない行動を取られるよりも……何よりも……。

でも、好きとは違うんだよね……。

「静流。知ってる?」

「何……が?」

掴まれている手首をやんわり外しながら、私は続けた。

「静流が私に構いすぎたら、彼女さんが傷つくの。ううん違う。もう傷ついてる。」

静流の熱い瞳は途絶え、彼女を思う愛しい気持ちが瞳に映る。

⏰:07/09/16 02:34 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#377 [向日葵]
そう……。

これでいい。

これで……。

「私は、言ってみれば赤の他人なの。私より香月さん。香月さんより彼女さんを大事にしてあげなさいよ。」

あぁ……。涙出そう。
昨日のケーキ食べてた時みたい。
すっごい惨め。
すっごい虚しい。

「だから、そんな言葉、私に言ってはダメ。言う相手間違ってんじゃないわよ。」

間違ってほしくなんかなかった。

⏰:07/09/16 02:37 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#378 [向日葵]
その言葉は、私だけに欲しかった。

分かってる。分かってるよ!何度も繰り返した。
私は静流と幸せになってはいけない。
なれっこない。
私のせいで、彼女さんの幸せを取っては駄目。

頭の…心の隅に……ちゃんと刻んで、覚えてる。

でも欲深なの。
幸せの味を覚えてしまえばしまうほど。

もっと――――
もっと……って――――

心が叫ぶのが分かる。
胸が軋むのが分かる。

⏰:07/09/16 02:42 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#379 [向日葵]
ほら……。

笑え……。

「ね?分かった?」

笑えてる?静流。
久々に笑顔を見せれた。

久々すぎて、おかしな事になってないかな?

静流は何度も私の闇を拭いさってくれた。
だからせめて……静流には幸せになってほしいから……。

私は、例え苦しんでくじけそうになっても、いくらでも我慢出来る。

いつまで頑張って笑顔を作ればいいんだろう。
静流の反応が気になる。

⏰:07/09/16 02:46 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#380 [向日葵]
静流を見れば、静流の顔がまるでどこか痛いかのように泣きそうな顔をしていた。

あの、彼女さんを思う愛しい気持ちは消えている。

静流は一歩一歩よろよろと近づいてくる。
そして……そっと大きな手で私の顔を包んだ。

息を飲んで、大きく目を開いた。
顔に熱が集まる。

「初めてだ。……紅葉が笑うの。」

まだ悲しそうな顔で私を見つめながら、静流は力無く微笑む。

⏰:07/09/16 02:51 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#381 [向日葵]
「でも。」と言いながら、静流は私を抱き寄せた。

更に息が出来なくなる。

「し……し、しず……っ。」

「そんな辛そうに笑う紅葉なんか見たくなかったよ……。」

辛そう……だった?私、隠せなかったんだ……。

自己嫌悪に陥っていると、静流の体が離れた。
肩に手を置かれて、またガーゼを貼り直そうとでも言うのかと思った。

でも違った……。
それは、とても予想外な事で、あってはならない事なのに……。

⏰:07/09/16 02:55 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#382 [向日葵]
静流は私に目線を合わすと、熱を帯びていてそれで真剣な目を私に向けてきた。

私はその目を見てからはもう何も考えれなくなって、静流の行動をただ見ておくしかなかった。

だから分からなかった。

静流が……私の唇に触れているだなんて……。

思ってもみなかった……。

触れているのが……静流の唇だなんて……。

⏰:07/09/16 02:58 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#383 [向日葵]
――――――――

今日はここまでにします

⏰:07/09/16 02:59 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#384 [向日葵]
ひとまず安価しておきます良ければお使いください
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-385

⏰:07/09/16 03:12 📱:SO903i 🆔:2t8n8oBQ


#385 [向日葵]
―忘―










あれほど願った。

気持ちが欲しい。
でもそれは許されない。
だから静流。私に構ってはいけないと……。

―――――なのに。

⏰:07/09/17 00:45 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#386 [向日葵]
なのに今……

何が起こってるの……?

熱い……。
柔らかい……。

何これ。

静流の顔が目の前にあって、吐息が口の中に少し入って……。

なんで私……静流とキスしてるの……?

目を開いて、瞬きする事もなく私は固まっていた。

静流の顔が、ようやく離れた。
止まってた息がやっと出来る。でも上手く息が吸えない。

⏰:07/09/17 00:52 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#387 [向日葵]
「……。何……して、るの……。」

声がかすれる。
顔が熱くて、唇には感触が残ってて。

静流を見ると口元を手で隠して目を見開いていた。
まるで自分がしたことに驚いてるみたいに。

冷静になれ私。
動悸止まれ。

「こんなことして……いいと思ってんの?」

静流ん見ても、まだ床を呆然と見ているだけ。
言葉を発してくれない。

何で何も言ってくれないの?
後悔してるって言うの……?

⏰:07/09/17 01:04 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#388 [向日葵]
私は静流の横っ面をパシッと音が鳴る程度に叩いた。

その軽い痛みで静流は我に帰ったらしい。
目の色が変わった。
そして私の顔をゆっくり見る。

「聞いてる?……こんな事、していいの?駄目だよね?」

沈黙が私達を包む。
静流はぎこちなく目を動かして頭を働かせているみたい。

私は黙って静流の言葉を待つ。
隠した手から、口をパクパクとするのが見える。

⏰:07/09/17 01:13 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#389 [向日葵]
やっとの事で出てきたのが、次の台詞。

「……忘れろ。」

そう言って静流は自分の部屋に入ってしまった。

―――忘れろ。

今確かにそう言った。
何よそれ。
勝手に抱き締めて、勝手にキスして。
それで忘れろ?

さっきまでの静流に対する熱が怒りの熱に変わる。

いい加減にしなさいよ……。

バンッ!!

⏰:07/09/17 01:21 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#390 [向日葵]
気づけば静流の部屋のドアを開けていた。

ベッドで寝転んでいた静流は突然の訪問者に驚いて飛び起きた。

「……わよ。」

「え……。」

キッと静流を睨みつけて、顔や手に貼ってあるガーゼと包帯を乱暴に取ってやった。

それを、できるだけ静流の方に投げた。

「言われなくても忘れてやるわよっ!勝手にされて、何の感情もないキスなんか、すぐに忘れてやるわよこのスケベジジィ!!」

⏰:07/09/17 01:30 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#391 [向日葵]
バンッ!!

「ハァッ!ハァッ!」

私は口をゴシゴシ拭いた。

悔しい。
何でこんな思いしなくちゃいけないの?!
私ばっかり振り回されて、胸の中ぐちゃぐちゃにされて……っ!

ポタポタ。

フローリングに滴が落ちる。

こんなに泣いて……。
最近は泣いてばっかり。

静流を好きって知ってからずっと胸が軋む。

⏰:07/09/17 01:36 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#392 [向日葵]
********************

俺は投げ捨てたガーゼと包帯を拾いながら、反省していた。

忘れろと言った事。
抱き締めてしまった事。

……キスしてしまった事。

抱き締めたまでの自分は覚えてる。
でもキスは…………自分でも何故したか分からない。
そっと指先で、自分の唇をなぞる。

そして軽く叩かれた頬……。

⏰:07/09/17 01:42 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#393 [向日葵]
[ね?分かった?]

「……。」

あの痛ましい笑顔……。
抱き締めずにはいられなかった……。

無理して笑ってるのが分かった。
何でそんなに辛そうなのかは分からない。
せっかくの初めての笑顔だったのに……。

「――ごめん……。紅葉……。」

忘れろなんて……本心じゃないよ。
でもその方が、紅葉の為だと思うから。

――ごめん。今はただ謝るしか出来ない。

⏰:07/09/17 01:49 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#394 [向日葵]
ピリリリリ

突然の着信音に、静流の体はビクッとして机に置いてある携帯に手を伸ばす。

サブディスプレイを見れば、双葉からだった。
どうやら電話。

「……もしもし。」

{静流。寝起き?何か元気ないね。}

「実は」

[彼女さんが傷つく。]

紅葉の事を話そうとした時、さっき言われた事を思い出した。

途端に無言になってしまう。

⏰:07/09/17 02:06 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#395 [向日葵]
[言われなくても忘れてやるわよ!]

「……。」

{静流?}

「……ごめん。何でもない。」

*******************

「ただいまー。」

源さんが帰ってきた。
現在の時刻、昼の一時。

「おかえり……なさい。」

ソファーに座っていた私は肩越しに振り返り、挨拶をする。

源さんは嬉しそうに笑って私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
そこであることに気づく。

⏰:07/09/17 02:13 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#396 [向日葵]
「口赤いけどどうかした?それに傷の手当ては?」

「……。ちょっと、かぶれてきたから。外したの。」

源さんはそれ以上は追及せず「そっか。」と言ってシャワーを浴びに行った。
またリビングが静まりかえる。

するとガチャッとドアが開く音が聞こえて、足音がこちらに向かってくる。
大体予想はつく。

「父さん……帰ってきたのか?」

静流の呼び掛けに、私は背中を向けたまま応じた。

⏰:07/09/17 02:18 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#397 [向日葵]
「そうよ。」

そしてまた黙る。
静流は多分リビングの入口にいるんだと思う。

「……今から双葉が来るんだ。それで…紅葉と喋りたい」

「彼女が来るなら。」

そう言いながら私はベランダの戸を開けた。
雨はいつの間にか止んで晴天。青空が広がっていた。

「消毒してもらうといいよ。口。」

振り返って、静流を見る。見たらまた胸が痛んだ。

「過ちを消すには、好きな人からの消毒が一番でしょ。」

それだけ言って戸をピシャリと閉めた。

⏰:07/09/17 02:22 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#398 [向日葵]
きっと大丈夫……。

忘れれる。
違う。忘れろ。

忘れてまたいつもみたいに喋ればいい。
そしたらまたいつもの日常になる。

私が忘れることで、平和になるんだ。

私は空を見上げた。

また雨が降ればいいのに。そしたら全部流れて、無しになって、ゼロからのスタートだ……。

「……神様…。」

これも罰ですか?

⏰:07/09/17 02:28 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#399 [向日葵]
*********************

[過ちを消すには、好きな人からの消毒が一番でしょ。]

言葉を失った。
過ち?そんな…………。

「俺は……そんな事……。」

思ってないのに。

ルルルルルル!

今度は家の電話が鳴った。何だ今日は……。俺は電話係か……。

「もしもし。」

{あ、静流?俺俺。}

⏰:07/09/17 02:35 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


#400 [向日葵]
声の主は香月だった。

ってかお前さっき電話してたじゃん。

{紅葉いる?}

は?

「お前今なんつった。」

「だから……紅葉いるか?って。」

おいいつの間に呼び捨てしてんだよお前!
俺は許した覚えないぞ!
大体なんで俺じゃなく紅葉に用があるんだよ。

「いるけど……。」

{代わってくんない?}

⏰:07/09/17 02:38 📱:SO903i 🆔:3VM2u4cU


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