―温―
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#610 [向日葵]
またため息を深々とついて携帯をパキンとたたんでベッドに身を沈める。
頼むから……
声を聞かせてくれ。
姿を見せてくれ。
もう一度、好きだと言わせてくれ。
胸の中がむしゃくしゃして、それから逃れたくなって目を瞑った。
いつの間に、紅葉が側にいることが当たり前になってたんだろう。
だから香月の彼女になってしまった時に、事の、気持ちの重大さに気付いたんだろうと思う。
:07/10/07 20:18 :SO903i :vgFsuTWk
#611 [向日葵]
「情けな……。」
自分はどうして、いつも気づくのがこうも遅いんだろうか。
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夕方になり、海に太陽が沈んで行くのを砂浜で見ていた。
砂浜はゴミが全然なく、とても綺麗だった為普通に座った。
あぁ……やっと一日が終わった。
なんだか長く感じた。
きっと朝早くから動いてるせいだろう。
意味もなく、砂を掴んでサラサラと落とすのを何回も繰り返した。
:07/10/07 20:23 :SO903i :vgFsuTWk
#612 [向日葵]
こんな風にサラサラになって、どこかへ飛んでいけたなら、私は何に気負う事もなく生きていけただろうに……。
どこで歯車がズレてしまったのだろう。
「く―――れは―――!」
どこからか私を呼ぶ声が聞こえた。
すると私の部屋の窓から渚さんが身を乗り出して手を振っていた。
「ご飯だよ―――!」
私はそこまで叫ぶ元気などなかったから、立ち上がり、旅館の方へ行く事で肯定の意味を示した。
:07/10/07 20:29 :SO903i :vgFsuTWk
#613 [向日葵]
ご飯って言っても私の食べる物は限られていた。
いくら前に静流宛てのケーキを食べてのけたと言ってもまだ体調事態は完璧ではない。
寧ろあのあと2、3日胸やけと吐気に襲われたぐらいだ。
渚さんは私と一緒に食事をとった。
お世話と言うより友達の様な感じで。
「血液型は?」とか「好きな漫画は?」とか他愛のないことを話してきた。
私は短文でしか返せなかったけど、渚さんは満足してくれたのか話ははずんでいった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
布団を敷いて、寝る準備が出来た。
:07/10/08 01:17 :SO903i :vo1b5URk
#614 [向日葵]
これからこんな生活が続くのかと思うと、あまり悪くないと思った。
ベランダがわりとなる海があるのが救いなのかもしれない。
電気を消そうとしたら、また最初みたいに渚さんが布団を抱えてやって来た。
「え……。まさか……一緒に?」
「そうよっ!悪い?」
悪いって言うか……。私は出来れば一人でいたい。
「だってアンタ一人にしとくとなんだか危ないんだもん。」
まるで私の心を読んだみたいに渚さんはそう言った。
:07/10/08 01:21 :SO903i :vo1b5URk
#615 [向日葵]
電気を消して、私は布団へ潜りこんだ。
「アンタさ、悩みでもあるわけ?」
「なんで?」
「んー。暗いからっ。」
「ふーん。」
暗いっ……かぁ。
「若いくせに何うだうだ悩んでんだか!」
「……うるさい。黙って。」
これにはカチンと来てしまった。
何も知らないくせに、軽い事なんて言ってほしくない。
:07/10/08 01:24 :SO903i :vo1b5URk
#616 [向日葵]
黙ってと言ったのに、渚さんは黙ってはくれなかった。
「不幸面してても幸せなんかやって来ないんだよ。それとも不幸を同情して欲しい?」
「黙ってって言ってるの!日本語通じないのっっ?!」
シーンと部屋が静まりかえる。
部屋は月明かりで少し明るく、耳をすませば波の音がザザーって聞こえた。
「じゃあ最後にひとつ。」
そう言って渚さんは私に背を向けて寝る体勢にはいった。
:07/10/08 01:28 :SO903i :vo1b5URk
#617 [向日葵]
「私、ここんちの本当の娘じゃないから。」
……っ!
「え?!」
「おやすみー。」
驚く私をそのままにして、渚さんは一人で先に寝てしまった。
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父さんが帰ってきたのは次の日の夕方だった。
ヘロヘロになってる父さんを早く休ませてあげたいけど、その前にどうしても聞きたい事があった。
「紅葉ちゃんの事かな?」
:07/10/08 01:32 :SO903i :vo1b5URk
#618 [向日葵]
しばらく間を開けて俺は頷いた。
父さんはにこぉっと笑って俺の頭を撫でた。
「ゴメンネ。それは教えてあげられないんだ。」
「――っ!!どうして……っ!!」
「紅葉ちゃん。しばらく一人になりたいから旅に出たんだ。なのに静流君が早々と連れ戻しちゃったら、旅に出た意味がないでしょ?」
それは……そうだけど、と言葉を失う。
父さんはそんな俺の頭をポンポンと叩いてから部屋に入った。
:07/10/08 01:35 :SO903i :vo1b5URk
#619 [向日葵]
しばらく父さんの部屋前へ立たずんでいた。
やっぱり待つしかないのか?
俺には……何も出来ないんだな……。
フラリと歩きながら、俺は部屋へ戻って行った。
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渚さんの衝撃発言を聞いてから四日が経ったのだけれど、あれ以降、渚さんが姿を現さなくなった。
何故か自分のせいかと責任を感じていた私は、外に出ることもなく、ただ部屋をそわそわと動き回っていた。
「……って何で私が責任感じなきゃならないのよっ!」
:07/10/08 01:41 :SO903i :vo1b5URk
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