―温―
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#336 [向日葵]
大分寝てたんだと抱き締められたままぼんやり思った。
香月さんの腕の力が緩む事はない。
ただ黙って、まるで傷ついてる私を優しく消毒してくれているみたいに包んでくれてる。

別に嫌だとかそんな事は不思議と思わなかった。

でもただ、ドキドキと胸の鼓動は聞こえなかった。

あの静流に抱き締められたみたいに……。

「ねぇ。何してたの?」

ようやく口を開いた香月さんが私に聞いた。

⏰:07/09/14 02:14 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#337 [向日葵]
少し距離をとって私は香月さんを見上げた。

「……それより。玄関のドア、閉めて。」

「あ。」っと言い、香月さんは私から完璧に離れてドアを閉めた。

ガチャン

「で。何してたの?」

いつもよりも穏やかな笑みで私に聞いてくる。

その時ばかりは少し空気が違う事に戸惑って、リビングがある上を見上げた。

「……。ケーキ貪ってた。とりあえず上がって。」

⏰:07/09/14 02:18 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#338 [向日葵]
私は先に階段を上った。
その後ろから少し距離を開けて香月さんが来ている。

リビングに来ても明かりはつけなかった。

すると香月さんがまるで自分家であるように慣れた手つきでテーブルだけを照らす部分照明を点けた。

照らされた先には、ケーキの残骸。

あと少し……食べきらないと。

「ここまで、君が全部?」

私は無言で頷いてキッチンでさっきの様に水をくんで戻ってきた。

⏰:07/09/14 02:23 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#339 [向日葵]
私はまた手で掴んでケーキを食べ始めた。

正直胸やけがしてて気分悪い。
でも早く食べて、ケーキの箱をどこか知らない場所に捨てて、私はお風呂に入って甘ったるい匂いを消す作業をしなくちゃいけない。

さっきより更に込み上げる嘔吐感と戦いながら黙々と食べては飲みを繰り返した。

「ねぇ。ちょっと何やってんの?」

それを唖然と見ながら香月さんが言った。
私はそれを無視してケーキを貪る。

⏰:07/09/14 02:33 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#340 [向日葵]
流石に私の頭がイってしまったと感じたのか、香月さんはケーキを掴む私の手を掴んで止めた。

「ケーキを見たら、静流が後悔する。どうして自分は帰って来なかったんだろう。せっかくケーキを買って待っててくれてたのに……。って。」

水を一口飲む。

味に飽きてきた。でも食べなくちゃ。

「そこまで自分苦しめる必要なんか無いだろう?!」

掴まれている手をただなんとなく見ながら私は答えた。

⏰:07/09/14 02:40 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#341 [向日葵]
「自分自身に約束したの。静流がもしも私を好きになる様なことがあればこの家を出て行くって。」

信じられないと言った風に眉を寄せ、香月さんは私を見つめる。
それでも私は続けた。

「私が来てしまったせいで、今の彼女さんの幸せを奪うことがあるなら、私は自分が許せない。私は…………必要以上の幸せを貰うのは苦しい。」

そんな権利すら……きっと無いのだから……。

「手、離して。」

一瞬力が入ったけど、直ぐに手を解放してくれた。
そして私はまた胃に流し込む。

⏰:07/09/14 02:46 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#342 [向日葵]
あと三口くらい。

自分でも短時間でよくここまで頑張ったと思う。

すると、私の三口分を手で一掴みして、香月さんが食べてしまった。

「もう気分悪くならなくていいだろ?」

ニヤッと笑いながら口元の生クリームを指で取って舐める。

私は「そうね。」とだけ言って着替えを持ってシャワーを浴びに行った。

シャンプーのいい匂いで包まれるかと思ったけど、どこか自分が生クリーム臭い気がしてならなかった。

⏰:07/09/14 02:50 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#343 [向日葵]
シャワーを終えて、歯磨きをし、部屋で寝ようとドアノブに手をかけたけどまた引っ込めた。

今日はここで寝る気分じゃない。

リビングに向かうと、ケーキが無くなった箱を香月さんが処理していた。

私は黙ってソファーに座る。

「もう私寝るから帰っていいわよ。」

「んじゃ俺も泊まるわ!」

と言いながら私の隣に座った。
何故と言う気持ちが隠せない顔で香月さんを見ていると、頭を持たれて強制的に膝枕をしてくれた。

⏰:07/09/14 02:55 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#344 [向日葵]
「ハイ、ね〜むれ〜。」

「子守唄歌ってんじゃないわよ!何で私が貴方の膝枕で寝なきゃいけないのよ!ってか帰りなさいよ!」

「今帰っちゃったら、また君泣くんじゃない?」

頭を撫でられながら言われた。
そんな事ないって否定したかった。
でも出来なかった。

「膝枕されてあげてもいいけど私の寝顔見るのだけはやめて。」

「りょーかい。」

言い方が軽かったんでハッタリをかましてるんじゃないかと目を動かすと、口に笑みを残したまま目を瞑っていた。

⏰:07/09/14 03:00 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


#345 [向日葵]
そこでようやく私は目を瞑った。

外は、相変わらず雨だ。

*****************

――――――――……

「ん、んー……。あれ?」

狭いベッドに寄り添って寝てた事に気づいた静流は、隣に寝ている双葉を起こさないようにそっとベッドを出た。

カーテンを開ければ夜明け前。
そろそろ帰ろう。近所の目が光ってない今がチャンスだ。

「……ん。……静流?」

「ゴメン。起こした?双葉、俺帰るな。」

⏰:07/09/14 03:04 📱:SO903i 🆔:Bf6JTbxA


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