―温―
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#616 [向日葵]
黙ってと言ったのに、渚さんは黙ってはくれなかった。

「不幸面してても幸せなんかやって来ないんだよ。それとも不幸を同情して欲しい?」

「黙ってって言ってるの!日本語通じないのっっ?!」

シーンと部屋が静まりかえる。
部屋は月明かりで少し明るく、耳をすませば波の音がザザーって聞こえた。

「じゃあ最後にひとつ。」
そう言って渚さんは私に背を向けて寝る体勢にはいった。

⏰:07/10/08 01:28 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#617 [向日葵]
「私、ここんちの本当の娘じゃないから。」

……っ!

「え?!」

「おやすみー。」

驚く私をそのままにして、渚さんは一人で先に寝てしまった。

**********************

父さんが帰ってきたのは次の日の夕方だった。

ヘロヘロになってる父さんを早く休ませてあげたいけど、その前にどうしても聞きたい事があった。

「紅葉ちゃんの事かな?」

⏰:07/10/08 01:32 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#618 [向日葵]
しばらく間を開けて俺は頷いた。

父さんはにこぉっと笑って俺の頭を撫でた。

「ゴメンネ。それは教えてあげられないんだ。」

「――っ!!どうして……っ!!」

「紅葉ちゃん。しばらく一人になりたいから旅に出たんだ。なのに静流君が早々と連れ戻しちゃったら、旅に出た意味がないでしょ?」

それは……そうだけど、と言葉を失う。

父さんはそんな俺の頭をポンポンと叩いてから部屋に入った。

⏰:07/10/08 01:35 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#619 [向日葵]
しばらく父さんの部屋前へ立たずんでいた。

やっぱり待つしかないのか?
俺には……何も出来ないんだな……。

フラリと歩きながら、俺は部屋へ戻って行った。

********************

渚さんの衝撃発言を聞いてから四日が経ったのだけれど、あれ以降、渚さんが姿を現さなくなった。

何故か自分のせいかと責任を感じていた私は、外に出ることもなく、ただ部屋をそわそわと動き回っていた。

「……って何で私が責任感じなきゃならないのよっ!」

⏰:07/10/08 01:41 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#620 [向日葵]
イライラしつつい独り言を言ってしまった。
もちろんこれに答えてくれる人などいなかった。

……そういえば。

机の上に置いてある携帯を見た。
新幹線に乗った時のまま。なので電源を入れておくのを忘れていた。

とりあえず何かあってはと思い、電源スイッチを長押しする。

画面が出て数秒後、メール受信のマークが入り、メール受信が行われた。

そしてメールの数に驚く。なんと15件。

何この数字……と思わずツッコミを入れる。

⏰:07/10/08 01:49 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#621 [向日葵]
開いていくと……

「……っ。なんで……。」

全て、静流からのものだった。

<紅葉!どこにいるんだ!>
<居場所教えてくれ。>
<どうして勝手に出て行った。>

<怒らないから連絡しろ。>

そんな内容のメールがいくつもいくつもあった。

そして最後のメールを開く。

<……会いたい。>

⏰:07/10/10 00:33 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#622 [向日葵]
「紅葉ー。久しぶ……っどうしたの?!」

いつの間にか流れていた涙を見て、渚さんはとても驚いていた。

離れて薄れさせようとした静流の想い。
しかしそれは薄れるばかりか強まっている事が、この短文なメールいくつかで分かってしまった。

それが嬉しくて、でも歯がゆかった。

―――――……

久しぶりに一緒に寝に来た渚さんが、こんな事を話してくれた。

「私捨て子なのよ。10の頃くらいまで弧児院にいてね。」

⏰:07/10/10 00:38 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#623 [向日葵]
私は渚さんの方を首だけ向いて話を聞いていた。
渚さんは天井を向いて話している。

「それで、私、親の顔知らないの。」

「え……っ。」

「赤ん坊の頃から捨てられてたみたい。気がついたらずっとあそこだったから。」

渚さんは笑いながら喋っているけど、同じ様な仕打にあった私としては無理をしてるんじゃないかと気を遣った。

「あの頃はそれは自分が嫌だったわよ。丁度、今のアンタみたいな状態。誰も寄せ付けたくない。自分には幸せなんてないんだーみたいな感じ。」

⏰:07/10/10 00:43 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#624 [向日葵]
「……。」

「でもね……。ここで過ごしていくうちに、思ったの。絶対、自分に求める幸せの温かさは手に入るんだ。って。それは、何かを犠牲にするんじゃなくって、自然とそう仕向けられるのよ。よく言うでしょ?この世に偶然は無くって全てが必然で成り立ってるって。」

私は渚さんの話にただ耳を傾けていた。
時々入る波の音が、頭の中のごちゃごちゃした感情を一掃してくれる気がした。
「紅葉が、何に悩んでるかは聞かないけど、自分の幸せと、その周りの幸せを大切にしていけばいいのよ。」

⏰:07/10/10 00:48 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


#625 [向日葵]
「周りの……幸せ……。」

ボツリと呟いた。

源さんは私がいて幸せだったのかな。

静流は……私といて幸せだったのかな。

********************

紅葉がいなくなって2週間が経とうとしていた。

そんなある水曜日の事。

痺を切らした俺は父さんに詰め寄った。

「いい加減にしてくれっ!場所くらい教えてくれてもいいじゃないかっ!!」

⏰:07/10/10 00:52 📱:SO903i 🆔:220qOU2E


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