-Castaway-
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#206 [◆vzApYZDoz6]
アリサが立ち上がり、少し伸びをする。
バニッシ「あ、送ってくわ」
そう言うとバニッシも立ち上がって玄関へ向かう。
バニッシの気持ちは嬉しかったが、アリサは今日これ以上バニッシと一緒にいると泣きそうな気分がした。
アリサ「あー…いいよ、うん。まだそんなに暗くないし。大丈夫!」
バニッシ「…そうか?」
頑張って作った笑顔が不自然に見えたのか、バニッシが怪しむようにアリサの顔を覗き込む。
アリサは自分の顔が赤くなっていくのがはっきり分かった。
:08/01/04 19:12 :P903i :ba3mTFuU
#207 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「大丈夫だって!あたしだって一応パンデモの人間なんだよ?」
バニッシ「いやそれ、ここら辺の人間全員そうだと思うけど」
アリサ「とにかくいいから!大丈夫!」
恥ずかしがってか視線を合わせないアリサ。
そんなアリサから何かを感じ取ったのか、バニッシが不意に言った。
バニッシ「…じゃあ俺、今から散歩行くわ」
そう言って、座って靴を履いているアリサの横に座る。
アリサには、無言で靴を履くバニッシの行動の意図がよく分からなかった。
アリサ「へっ?何で?どこに行くの?」
バニッシ「適当に行く。別に理由はない」
:08/01/04 19:24 :P903i :ba3mTFuU
#208 [◆vzApYZDoz6]
アリサは自分の家に向かって歩いていく。バニッシは何も言わずに、アリサと肩を並べて歩いていた。
アリサ「…ねぇ、どこ行くの?」
バニッシ「気の向くままに」
一応聞いてみたが、態度は少し素っ気ない。もしかして、と思ってはいたが、やはり家まで送る気だろう。
自分の右を歩くバニッシとの距離は、少し腕を伸ばせば手を繋げられそうなくらい近い。そのせいか、背が高いバニッシが余計に高く見えた。
アリサは少し俯いて、嬉しそうに笑った。
:08/01/05 03:20 :P903i :0gAfYohg
#209 [◆vzApYZDoz6]
軈てアリサの家が見えてきた。
パンデモの中でも五指に入るバニッシの家系程ではないが、アリサも上流家系の人間で、家は大きめ。
アリサは家の鳥居のような門の前で止まって振り返った。
アリサ「えっと…どうするの?」
訊かれたバニッシは無言で俯いている。アリサも暫く黙っていると、突然バニッシがアリサの手を引き歩き出した。
アリサ「えっ?ちょっと、どうしたの?」
バニッシ「いいからついてきて」
バニッシが少し早足で何処かへ歩いていく。アリサは小走りになりながら肩を並べてついていった。
:08/01/05 03:30 :P903i :0gAfYohg
#210 [◆vzApYZDoz6]
向かった先は修練場だった。崖に囲まれた空間を横切り、真っ直ぐに撃ち込み用の丸太のある場所まで歩いていく。
アリサ「ちょっと、もしかして今から修行でもする気?」
バニッシ「違うよ」
そう言うと、アリサの脇の下に腕を回し、抱き上げた。
突然抱かれたアリサは、少し顔を赤くして狼狽えた。
アリサ「えっ、何?」
バニッシ「捕まってろよ」
アリサ「へっ?…きゃっ!」
バニッシがアリサを抱えて、4mはあろうかという崖を一足で乗り越えた。
突然感じた浮遊感に、アリサが反射的に瞼を閉じる。どうなったのかとゆっくり目を開けると、眼下に修練場が見えていた。
:08/01/05 03:42 :P903i :0gAfYohg
#211 [◆vzApYZDoz6]
バニッシが抱えていたアリサを地に下ろす。
崖の上には、雑木林が広がっていた。日は殆ど沈んでいるため真っ暗で、奥の方は殆ど見えない。
修練場の方を振り返ると、集落のほぼ全景が見渡せた。パンデモの集落は谷の合間にあるため、緩やかな階段状になっている。修練場は集落の外れ、一番上に存在した。
パンデモの集落となるのは、その修練場の崖まで。そこを越えてどこへ行くのだろうか。
アリサがまた振り返ると、バニッシは既に雑木林を歩いている。
アリサ「ちょっと、先々行かないでよ!」
慌ててバニッシの後を追い掛け、雑木林に入っていた。
:08/01/05 04:00 :P903i :0gAfYohg
#212 [◆vzApYZDoz6]
雑木林の中は、外から見るよりもさらに暗い。目の前を歩くバニッシの姿もよく見えないぐらいだ。
灯りとなるものも持っていなかったので、地面に転がっている石に躓きそうになる。
それを見ていたバニッシが手を差し出してきたので、恥ずかしそうに手を繋いだ。
バニッシが躓きもせずに歩けるのは何でだろう、とアリサが少し感心していた時、バニッシが不意に止まった。アリサはすぐ後ろを歩いていたので、バニッシの背中に鼻をぶつけた。
アリサ「いたっ!…ちょっと急に止まらないでよ!」
バニッシ「見てみな」
バニッシが、背中に埋まるアリサに顔を向けながら、前方を指差した。
:08/01/05 13:04 :P903i :0gAfYohg
#213 [◆vzApYZDoz6]
アリサがバニッシの背中から顔を覗かせ、指の先を辿る。
そこは今まで歩いてきた場所と違い明るい。数m先に小川が流れているのがはっきり分かった。
明るみの正体は、小さなエメラルドグリーンの光。点々と幾つもの光が舞うその様は、まるで動く星郡のようだ。
アリサ「すごい綺麗…」
バニッシ「ここ座れよ」
バニッシが小川の側の木の下へ、アリサを宛がう。
アリサは言われるままに、ちょこんと三角座りをして、動く光を眺めた。
バニッシ「あれ、実は『ホタル』っていう虫だったり」
アリサ「そうなの?でも綺麗ねー…」
バニッシ「今日お前を起こすの忘れてたお詫び、かな」
:08/01/05 23:08 :P903i :0gAfYohg
#214 [◆vzApYZDoz6]
アリサ「へっ?」
バニッシ「何でもない」
驚いたアリサが目を丸くして、左隣に座るバニッシの方を向く。バニッシは木に凭れ掛かって左を向いていて、顔は見えない。
そんなバニッシの様子を見ていると、恥ずかしさと嬉しさが同時に込み上げてくる。膝の間に顔を埋めたが、軈て嬉しそうな笑みを浮かべながら、再びホタルを眺めた。
少しの恥ずかしさからか、バニッシの反対側を向いてホタルを眺める。
バニッシもホタルを眺めているのか、小川のせせらぎ以外の音は聞こえない。
:08/01/06 00:36 :P903i :PrtJ6fdI
#215 [◆vzApYZDoz6]
沈黙が続く中、アリサは俯いた。
自分の気持ちを、今なら言えるかも知れない。
バニッシの親とアリサの親は仲が良く、家族ぐるみの付き合いをしている。物心ついた時には既に、少し年上のバニッシがいつも側にいた。
幼い頃は、本当の兄だと思っていた。遊ぶ時も、ご飯の時も、寝る時も一緒だった気がする。
バニッシを意識し始めたのはいつ頃からだろう。年齢よりも大人っぽく感じるバニッシの言動に、年齢よりも子供っぽいアリサは、いつもどきどきしていた。
:08/01/06 00:57 :P903i :PrtJ6fdI
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