-Castaway-
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#219 [◆vzApYZDoz6]
理由は分からない。でも、何故か自分はパンデモを出なければいけない気がした。幼い頃から、自分は何かを為し遂げなければならない、と誰かに言われてる気さえした。
なぜそんな気がしたのかは全く分からない。だが、その分からぬ答を探すためにも、バニッシはパンデモを出る事を決意した。修行に明け暮れるのも、パンデモを出る事が理由だった。
そして、これは自分1人の問題。何があるか分からないのにアリサを巻き込む訳にもいかない。
どうせ叶わない想いなら、忘れた方がいい。
だが、いつからだろうか。そんな自分の気持ちとは裏腹に、日に日にアリサとの距離は縮まっていった。
:08/01/06 01:37 :P903i :PrtJ6fdI
#220 [◆vzApYZDoz6]
アリサは、俺の胸中を知ればどうするだろうか。
いや、答えは分かってる。好奇心の強いアリサの事、危険を知ってでも必ずついてくるだろう。
…こうなったら、俺の気持ちを話してみようか。
必ず戻る自信も無いのに、待ってろとは言えない。だが、ついてくるなら、全力をかけて守ればいいだけだ。
バニッシが溜め息混じりの笑みを溢した。
今日の自分はどこかおかしい。こんな事を考える自体、今まで無かっただろう。
こんな気分になれるのも、今日が最後かも知れない。
:08/01/06 01:44 :P903i :PrtJ6fdI
#221 [◆vzApYZDoz6]
どちらにしたって、アリサはいつか自分に気持ちを伝える。
だが、俺の気持ちをアリサが知らない限りは、黙って断るしかないだろう。
それは絶対に嫌だ。
バニッシは、今まで黙っていた自分の気持ちを、自分の目的を話そうと、アリサの方を向く。
アリサは少し俯いて、何か考えているようだ。
バニッシが口を開きかけたその時、背後で一瞬だけ何かを感じた。
不安を駆り立てるような、形容しがたい何かの気配。
驚いて気配の方向に視線を向けるが、そこには何もないし誰もいない。
:08/01/06 01:51 :P903i :PrtJ6fdI
#222 [◆vzApYZDoz6]
アリサは俯いたままで、恐らく気配には気付いていない。
バニッシは神経を研ぎ澄ませ、ゆっくりと音をたてずに立ち上がる。小川を背にして、雑木林の暗がりを静かに見つめた。ホタルの光に照らされて、ぼんやりと見えるその場所には何も見えない。
だが、確実に『何か』がいる。
隠れているのかどうかは分からないが、底知れぬ不安感がバニッシを包んだ。
こちらには気付いているのだろうか。もし来るようであれば、アリサだけでも逃がさないといけない。
バニッシが静かに拳を握り、ゆっくりと腰を落とす。
アリサ「何やってんのそんなところで?」
:08/01/06 02:03 :P903i :PrtJ6fdI
#223 [◆vzApYZDoz6]
不意にアリサの声がした。振り返ると、アリサが首を傾げて立っている。バニッシがいない事に気付き、探していたようだ。
バニッシが我に帰ったように辺りを見回した。
謎の気配は、既に消え失せている。一応確認してみるが、勿論そこには誰もいないし何もない。気のせいだろうか。
だが、底知れぬ不安感はまだ残っている。なにか、悪い事が起きる。そんな気がしてならなかった。
アリサ「ちょっと、どうしたのよ?」
アリサが後ろで焦れったそうにしている。
アリサは何も分かっていないようだし、わざわざ話す必要も無いだろう。
:08/01/06 12:33 :P903i :PrtJ6fdI
#224 [◆vzApYZDoz6]
バニッシ「何でもない」
バニッシが元の場所に座る。アリサもそれに倣って隣に座った。
アリサ「本当にー?さっきから『何でもない』って言ってばっかりじゃない」
バニッシ「本当に何でもないって」
アリサ「また言った」
バニッシ「いやいや、今のは違うし。つうか別に…」
アリサ「『もういいって』でしょ?」
バニッシ「いや、まぁ…」
言葉を遮られて、困ったように後頭部を掻きながら俯くバニッシを見ながら、アリサが小さく呟いた。
アリサ「…まだあたしは話してないのに、よくないよ」
:08/01/06 15:29 :P903i :PrtJ6fdI
#225 [◆vzApYZDoz6]
バニッシ「えっ、何て?」
頭を上げて聞き直すバニッシに、意地悪に微笑んだ。
アリサ「何でもない」
バニッシ「お前も言ってるじゃん」
アリサ「さっきのお返し」
そう言うと、アリサはそっぽを向いたように再びホタルを眺めた。アリサの表情を見たバニッシは、はにかむように笑みを溢し宙を見上げる。
さっきよりも数が増えたホタルの光がより一層辺りを目映く照らし、静かに響く小川のせせらぎは耳に心地好い。
バニッシは、ずっとこのまま時が止まればいいのに、と思った。
:08/01/06 15:36 :P903i :PrtJ6fdI
#226 [◆vzApYZDoz6]
ホタルを眺めるバニッシは、さっきの気配の事は頭から離れていた。
気のせい等ではなく、気配を感じた場所には本当は人が居たというのに。
?A「…なかなか勘の鋭い若造だな」
?B「こんなところに人が居るとは思ってはいませんでしたが…まぁ問題はないでしょう」
謎の2人が話をするのは、気配を感じた場所の上。2人は密集する木の枝の上で、今度は完全に気配を殺して、バニッシとアリサを見下ろしていた。
(グラシア。今はまだ組織にはなっていないウォルサーの、総司令官です)
(クルサ。地球に『扉』を出現させ、京介と藍をディフェレスに移動させた張本人です)
:08/01/07 04:18 :P903i :lqpkon9E
#227 [◆vzApYZDoz6]
グラシア「まぁ気付いてないようだしな。早いとこ移動するぞ」
クルサ「分かりました」
クルサは返事をすると背を向け、枝から枝へ次々と縫うように素早く、しかし静かに飛び移っていく。残像だけが残り、あっという間に姿が見えなくなった。
グラシアは踵を返して顔だけ振り向き、眼下のバニッシとアリサを一瞥する。
楽しそうにホタルを指差すアリサを、バニッシが優しい表情で見ている。
グラシア(…そうだな。間接的に、あの娘を少し利用してやるか。…若造が嘆き叫ぶ顔を見るのが、今から楽しみだ)
グラシアが唇を歪め歯を見せ、声を出さずに含み笑いをする。
そのまま振り向いて枝を飛び移っていき、闇夜の雑木林に中に消えていった。
:08/01/07 04:37 :P903i :lqpkon9E
#228 [◆vzApYZDoz6]
グラシアは枝を飛び移って、どんどんとパンデモに近付いていく。軈て雑木林を抜け、拓けた崖の上に出た。
グラシアが出たのは修練場。中央には、既にクルサが立っていた。グラシアも崖を飛び降り、クルサに近付く。
歩いてくるグラシアにクルサが話し掛けた。
クルサ「誰でもいいのですか?」
グラシア「いや…さっきの若造の隣にいた娘の母親だ。知ってるか?」
クルサ「あの男はバニッシ、娘はアリサ、アリサの母親はイルリナです」
クルサが無表情に答える。
グラシアは嘸機嫌がいい、といった感じに含み笑いをした。
グラシア「お前を連れてきたのは正解だ」
:08/01/07 17:38 :P903i :lqpkon9E
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