-Castaway-
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#272 [◆vzApYZDoz6]
バニッシは土煙が完全に晴れてもまだ、アリサがいた場所を見つめていた。
自分に力が無いせいで、親友と愛友が連れ去られた。バニッシはやるせなさと呆れから、溜め息が止まらなかった。

バン「兄ちゃん、溜め息吐いたら幸せ逃げるよ」

後ろからバンの声がした。振り返ると、ハルキンを引き連れて、バンが腰に手を当てて立っている。
自分もアリサに同じ事を言っていた思い出し、思わず笑みが溢れた。

バニッシ「やっぱり兄弟だな」
バン「え?」
バニッシ「何でもない」

そう言ってバンの頭を押さえ付けるように撫でながら、ハルキンと向き合った。

⏰:08/01/16 02:27 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#273 [◆vzApYZDoz6]
バニッシ「こいつを助けてくれてありがとう。あんたは…」
ハルキン「ハルキンだ」
バニッシ「ああ。ハルキンはなぜここに…」

バニッシが言いかけた時、バニッシの頭上を何かが飛び越えた。その何かは、そのままハルキンの足下に擦り寄った。

ハルキン「お、スティーブ。探したぞ」

ハルキンが、スティーブと呼ぶ動物を片手で抱き上げた。
スティーブは見たところ犬のようだが、犬にしては体が小さく、ハルキンの片手に収まるぐらいの大きさしかない。薄い紫色の体毛がふわふわと揺れている。
パンデモにも犬はいる。しかし、バニッシはこんな犬は見たことがなかった。

⏰:08/01/16 17:49 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#274 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンは、スティーブを一頻り撫でて肩に乗せ、話し出した。

ハルキン「今逃げていった奴…グラシアは、いつか必ず『事』を起こす」

視線をバニッシとバンに交互に向けながら、ゆっくりと話す。

ハルキン「今みたく偶々出会っても、あいつは逃げ足が早いからな。奴が『事』を起こす前に、奴に対抗できる戦力を探さないといけない」
バニッシ「なら、俺も連れていってくれ!」
ハルキン「お前では力不足だ」

ハルキンは冷たく言い捨て、踵を返した。

バン「待って!」

バンが修練場を後にしようとするハルキンに飛び付くようにしがみついて、ハルキンの動きを止めた。

⏰:08/01/16 18:36 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#275 [◆vzApYZDoz6]
バン「アリサ姉ちゃんとクルサ兄ちゃんは?どうなったの?」

バンがハルキンを見上げる。
ハルキンはやれやれ、といったように頭を掻き、しゃがみこんでバンの頭を撫でた。

ハルキン「助けたいか?」
バン「当たり前じゃん!だってさっきの人って悪い奴なんでしょ?」

ハルキンはそれを聞いて、満足そうに含み笑いをした。立ち上がり、こちらを見ているバニッシを一瞥して再び踵を返した。

ハルキン「……1年後、もう1度ここに来よう。『必ずそこへ行ってやる』んだろ?」

そう言い残し、バニッシは修練場を出ていった。

⏰:08/01/16 18:43 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#276 [◆vzApYZDoz6]
バニッシは修練場を出ていったハルキンを見て、ふっと溜め息をついた。

バニッシ「1年後、か…」

バニッシに、ある1つの考えが過る。
そこへバンが走って近付いてきた。

バン「兄ちゃん!」
バニッシ「バン、母さんと父さんに、1年後に帰ってくるって伝えといてくれ」
バン「えっ?」

バニッシはバンの肩を叩き、修練場を出ていく。
早足で歩くバニッシを、バンが小走りになりながら追い掛けた。

バン「兄ちゃん、どこ行くんだよ?」
バニッシ「パンデモを出る。修行だ、修行」

あっけらかんと言うバニッシに、バンが目を丸くした。

⏰:08/01/16 18:53 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#277 [◆vzApYZDoz6]
バン「待ってよ!俺はどうするんだよ!てゆうか別に今すぐ出なくても…準備とかは?」
バニッシ「時間が惜しいからな。準備なしで出るのも修行だ」

バンは、バニッシがおかしくなったのかと思った。
ずかずかと歩いていくバニッシは、とうとうパンデモの集落の入口へついた。
振り返り、小走りで自分を追ってきたせいか、少し肩で息をしているバンに向き直った。

バニッシ「お前はまだ小さいから危険だ。お前は、ここで強くなれ」

バンが膝に手をつきながらバニッシを見上げる。
バニッシの目に、覚悟の焔が宿っていた。

⏰:08/01/16 19:00 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#278 [◆vzApYZDoz6]
バン「…分かったよ。父ちゃん達には伝えとく」
バニッシ「悪いな」
バン「その代わり、約束」

バンが小さな手に拳を握り、前に突き出した。

バン「絶対強くなってくる事」
バニッシ「…お前に言われなくても、なってやるよ。約束だ」

バニッシが笑いながら、自分の拳をバンの拳に軽くぶつけた。
そのまま踵を返す。

バン「気を付けなよ、兄ちゃん!」
バニッシ「ああ。じゃあな」

バニッシが、生まれ故郷を後にする。
親友を助けるために。
愛友との約束を守るために。

バンは、集落を出て山を下るバニッシを、いつまでも見送った。

⏰:08/01/16 19:07 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#279 [◆vzApYZDoz6]

1年後。

バンは、集落の入口の門の前に立っていた。
今日がバニッシが出てからちょうど1年経った日であり、ハルキンが出てから1年経った日でもあった。
暫く立っていると人影が見えてきた。バンが駆け寄っていく。

バン「あっ、ハルキンさんと…誰?」
ハルキン「お前は…あの時のちびっこか。ちょっと背が伸びたんじゃないか?」

バンの視線は、ハルキンの両脇にいるバイクに乗った人物に向けられていた。
ハルキンがバンに気付き、頭を撫でながら言った。

ハルキン「…ああ、こいつらは俺が見付けてきた連中だ」

⏰:08/01/16 19:19 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#280 [◆vzApYZDoz6]
「俺が兄のジェイト・ブロックだ」
「俺は弟のジェイト・フラット。よろしくな」

ジェイト兄弟が挨拶代わりといったようにスロットルを回し、エンジン音を響かせた。

バン「何これ?」

バンが興味深そうにバイクを眺める。
パンデモに文明機器は存在しないので、バンは当然バイクなど見たこともなかった。

ブロック「これはバイクだ。凄い速く走れるぜ」
ハルキン「なんでもいいがエンジンは切っといてやれ」

ジェイト兄弟を諌めるハルキンを見て、バンがある事に気付いた。

バン「あれっ、スティーブは?」
ハルキン「勿論いるぞ。呼んでやろうか」

⏰:08/01/16 19:48 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


#281 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンが親指と人差し指で輪を作って口にくわえ、音を鳴らした。
すると、ハルキンの背後の山道の草陰から、大きな動物が飛び出してきた。
スティーブは1年前に比べ、とても大きくなっていた。サイズは、ジェイト兄弟の乗るバイクと同じぐらい。
威嚇している訳でもないのに、紫の体毛が逆立ち、針鼠のようになっている。
そのままハルキンに飛び付いて擦り寄った。

バン「何て言うか…デカくなってない?」
ハルキン「そうか?」
ブロック「いや普通にデカくなってるし」
フラット「てゆうかスティーブって絶対犬じゃない気がするんだけど」

⏰:08/01/16 19:55 📱:P903i 🆔:QnaipzGw


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