-Castaway-
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#366 [◆vzApYZDoz6]
ハル・レインが横目でグラシアを警戒しながらリーザを手招きし、何やら耳打ちした。
レイン「……ってな具合だ。ちなみに、今はスキルは?」
リーザ「発動中ですわ」
レイン「よっしゃ。行くぞライン、対オヤジ戦法だ」
ライン「おっ、久しぶりにやるか兄貴」
3人が小声の会話を終えて、グラシアに向き合う。会話する3人に特に何もせず、むしろ余裕といった感じに立ち尽くしていた。
グラシア「作戦タイムは終わったかな?」
レイン「待ってくれるとはいい奴だな」
グラシア「何…君達が負けるという結果は変わらない」
レイン「ならやってやろうか。…2人ともタイミングを合わせろ、行くぞ!」
:08/01/28 16:44 :P903i :b5xYdHV2
#367 [◆vzApYZDoz6]
3人が一斉に駆け出す。ハル兄弟が平行に並んで走り、その後ろをリーザが追う形。
今グラシアが使用しているスキル『レッドデーモン』は、ハル兄弟の父親のスキル。ハル兄弟はそれ故に、対処方を熟知していた。
発動中は外皮が鉄のような硬さを持ち、1対1では到底敵わず、また外部からいくら打撃を与えても大したダメージにはならない。
そんなスキル発動中の人間に攻撃を当てる方法は限られている。鋼鉄の皮膚をも裂く程の威力の攻撃を叩き込むか、若しくは皮膚の硬さなど関係ない肉体内部に直接ダメージを与えるか。
藍を抱えているグラシアには、後者の方法を使うしかない。
:08/01/28 16:55 :P903i :b5xYdHV2
#368 [◆vzApYZDoz6]
グラシアが兄弟を迎え撃つために右腕を振り上げた。
その時、左を走ってきていたハル・レインが、一瞬視界から消え去る。次の瞬間には、グラシアの眼前にまで飛び上がっていた。
グラシア「小癪な!」
回し蹴りを繰り出すハル・レインに向かって、振り上げた拳を叩き付ける。が、またしても拳が当たる寸前に視界から消え失せた。
と同時にハル・ラインが踏み込み、一気に懐まで入り込んだ。グラシアが舌打ちをしながら、自分の顔の前にあった右拳を振り下ろすように叩き付ける。が、それも空振り。
グラシア「ちっ…小賢しい!」
ライン「後ろだよ赤鬼野郎!」
:08/01/28 17:13 :P903i :b5xYdHV2
#369 [◆vzApYZDoz6]
声に反応し後ろを向いた瞬間。
レイン「ツインキャンサー大鵬打撃奥義!」
振り下ろして地面を砕き割り、地面にめり込むように止まっていた右拳の上に、ハル・レインが拳を腰に据えながら着地した。
後ろを向いた時に一瞬見えたハル・ラインに気を取られ、拳に着地したハル・レインへの反応が遅れる。
それを見計らったかのように兄弟が同時に胸部に飛び込み、拳を握り締めた。
狙うは――心臓。
レイン&ライン「――ハートブレイク・ショット!」
ハル・レインが前から、ハル・ラインが後ろから、裏当てを使って心臓を撃ち抜いた。
:08/01/28 17:24 :P903i :b5xYdHV2
#370 [◆vzApYZDoz6]
力点と作用点を『ずらす』のが裏当て。
胸筋と背筋に撃ち込まれた拳の威力は皮膚を突き抜け、グラシアの心臓で互いにぶつかり合い炸裂した。
グラシアの心臓は体内で弾け散り、嘔吐感と共に大量の血液が食堂をさかのぼる。
グラシア「ぐっ…がはっ!!」
体内に致命傷を食らい、片膝をついて血を吐き出した。
降り注ぐ鮮血を避けるように、懐に入っていたハル・レインが後ろに飛び退いた。
ハル・レインが退がる隣を、リーザが鞘に納まれた刀の柄に手を掛けながら駆け抜ける。懐に入り込み、止まらぬ血を吐き出し続けるグラシアの無防備な大口に向かって、神速の刺突を繰り出した。
:08/01/28 17:36 :P903i :b5xYdHV2
#371 [◆vzApYZDoz6]
突き出された刀の切っ先は、外皮の硬さが影響しない口の中を通って脳に到達する。
リーザは、5階から窓を破って降りてきたグラシアに攻撃した後に、刀を鞘に納めてスキルを発動した。以降この瞬間まで抜刀される事はなく、刀は納めっぱなしにされていた。
その時間、約4分30秒。戦闘前に兄弟とグラシアが言い争っていたのが、思わぬ功を奏した。
リーザが素早く剣を引き抜き、刀身を鞘に滑らせて刀を納めていく。
リーザ「その残忍な頭脳…一度シェイクして差し上げましょう」
チン、という小さな鍔鳴りの音と同時に、グラシアの脳に届いた裂傷が頭蓋の中で大爆発を起こした。
:08/01/28 18:00 :P903i :b5xYdHV2
#372 [◆vzApYZDoz6]
グラシアが頭をガクガクと奮わせて白目を向いた。頭部のあちこちに亀裂が走り、どす黒い血液が筋となって噴き出していく。
噴き出した血はグラシアが吐き出した血と混ざりあい大きな血溜りとなり、そこへグラシアがゆっくりと俯せに沈んでいった。
グラシアの赤く硬い皮膚の内側で、心臓は完膚なきまでにその機能を停止させ、脳は原型が分からぬ程に磨り潰され、その体は最早生物的に死んでいた。
グラシアは、今自分が倒れた事すら分かっていないだろう。
3人は血の海に臥すグラシアを一瞥して、交互にハイタッチを交わした。
:08/01/28 22:08 :P903i :b5xYdHV2
#373 [◆vzApYZDoz6]
リーザ「ふふっ、少し可哀想な事をしてしまいましたね」
ライン「いや、俺達をタダ働きさせた罰だぜ」
レイン「全くだ。これがオヤジなら今頃コブラツイスト掛けられてるな」
談笑しながらも、ハル兄弟の顔はどこか浮いていなかった。
ハル兄弟のハートブレイク・ショットは壮絶な親子喧嘩の末に編み出された技。だが相手が父親なら踏み込んだ時点でハル・レインは跳ぶ前に撃墜され、ハル・ラインは懐に入る前に蹴り飛ばされていただろう。
無論、ハル兄弟も父親も本気で戦った事など無い。
父親へだけの技だったハートブレイク・ショットを本気で使ったのが、少し悲しかった。
:08/01/28 22:35 :P903i :b5xYdHV2
#374 [◆vzApYZDoz6]
レイン「さーて、とっとと帰るか」
ライン「先にお袋迎えに行かないとな」
リーザ「あっ、私も藍さんを助けないと」
リーザが慌ててグラシアの元へ駆けていく。それを見ながらハル・レインが伸びをして、階段の元へ踵を返した。
そこへちょうど、息を切らしながら京介達が降りてきた。
こいつらより先にグラシアを倒したのは不味かったかな、等と考えていたハル・レインの視界に写っていたのは、予想外に険しい顔をしている京介や内藤の姿。
どうしたのかと思い話し掛けようとすると、内藤が不意に叫んだ。
内藤「リーザ!!」
:08/01/28 22:58 :P903i :b5xYdHV2
#375 [◆vzApYZDoz6]
内藤の叫び声とほぼ同時に、何かが潰れるような鈍い音が背後から響いた。
ハル・レインが驚いて振り返る。グラシアを倒したと思い、気を抜いて藍を引っ張り出そうとしていたリーザが、赤く膨れ上がった巨大な右手に捕まれていた。
脳を破壊され死んでいた目には光が戻り、心臓を破壊されしぼみかけていた体は再び膨らみ始めている。
リーザの腹部にはグラシアの太い爪が食い込んでいた。
リーザ「かっ…ぐぅ…!」
ライン「馬鹿な!?」
グラシア「くくく、その程度か?」
グラシアが膝をつきながらゆっくりと立ち上がる。藍を左脇に抱えたまま、リーザを掴む右腕を振り回した。
:08/01/29 00:46 :P903i :mb3nTzbM
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