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#19 [賭け(1/3)]
俺はその日、1人でバーで呑んでいた。
特に理由は無い。ただ何となく、1人でいたかっただけだ。
カクテルの入ったグラスを静かに回していると、隣に1人の男が座って話し掛けてきた。
「君、もしよければ僕と賭けをしないか?」
フォーマルなスーツを着た、ごくごく普通の男。
いきなり何を言ってるのだろうか、と普段なら思っていただろう。
聞く気になったのは俺が酔っていたからだろうか。
「どんな賭けだい?」
「なぁに、簡単な賭けさ。君は何があっても顔が上を向いてはいけない。上を向いたら負けだ」
上を向いたら負け?そんなの向く訳無いだろう。
だが、今日初めて会ったばかりのこの男がどう上を向かせるかは、なかなか面白そうだ。
その時は文字通り酔狂だった俺は、賭けに応じる事にした。
「で、何を賭けるんだい?」
「この店で呑んだ代金さ。君が上を向いたら君が僕の代金を奢る。向かなければ逆だ」
なるほど、それなら例え負けてもそんなにダメージにはならないな。
「よし分かった」
「なら、今からスタートだ」
:08/03/03 03:38 :P903i :zBYy/l0.
#20 [賭け(2/3)]
賭けが始まった。
男はスーツの上着を脱いで、早速俺に話し掛けてきた。
内容は別段他愛のない世間話のようなものだが、男の話術に引き込まれてしまう。
だがこれは罠だ。きっと巧みに話しくるめて上を向かせるのだろう。
俺はそう思い、いつ仕掛けてくるか警戒しながら、男の話に耳を傾けていた。
それから、1時間程が経った。
男はまだ仕掛けてこない。
話の内容も、先程と話題は変わってはいるが特におかしな点はない。
そろそろ仕掛けてきてもいいと思うのだが。本当に俺を負かす気があるのか?
もしかしてただの暇潰しだろうか。
いや、そう思わせるのが罠に違いない。きっとそろそろ上を向かしにかかってくるはずだ。
そう考えていた時、男が腕時計を見ながら言った。
「おや…もう時間だ。悪いが賭けはおまいだ」
おしまい?俺はまだ上を向いてはいないが。
……という事は。
「…賭けは、俺の勝ちって事になるのか?」
「悔しいけどそうだね」
あっさりすぎて、なんとも拍子抜けだ。
だが、これで呑み代が浮くしまぁいいか。
「悪いが行かないと駄目でね。これで払っておいてくれるかな?」
男はそう言って財布から1万円札を取り出し、俺の前に置いた。
「今日はどうも。君と話せて楽しかった」
男が俺の前に手を差し出してきた。
「そうだな、俺も楽しかったよ。ありがとな」
またいつか会いたいものだ。
そう思いながら、男とがっちりと握手を交わした。
:08/03/03 03:39 :P903i :zBYy/l0.
#21 [賭け(3/3)]
代金は2人合わせて8000円。1万円でお釣りが出る。
呑み代が浮いたどころか、少し儲かった。自然と顔が綻んでくる。
足取り軽くレジへ向かう。
だが、男から貰った1万円札を出そうとした時に、1万円札がおかしい事に気が付いた。
なんというか、紙質が違う。厚みも少し違う気がする。
「…もしかしてあいつ、偽札を!?」
慌てて1万円札を電灯の光にかざして、透かしを見る。
そこに写っていたのは福沢諭吉ではなく。
『ほら上を向いた ごちそうさま』
こう書かれていただけだった。
:08/03/03 03:39 :P903i :zBYy/l0.
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