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#207 [紫津【雨】]
“空が、泣いてるみたい”
雨のことをそんな風に表現したやつを見るのは、初めてだった。
俺は正直今までチャラい男だったし、同じくチャラい女としか付き合ったことがなかったから、
こんなロマンチックな発言を大真面目に言う美里が天然記念物みたいに思えた。
“馬鹿じゃねーの”
そう思ったけどなんとなく忘れられなかったその発言と、なんとも言えない顔で空を見上げる美里の横顔。
雨音だけが強くなっていく灰色の街の中で、
美里の顔だけが白く、美しく浮かんで見えた。
思えば、その時にはもう既に惚れてたのかも知れない。
とにかく俺は、バイト先で知り合ったその女に、産まれて初めての恋をした。
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#208 [紫津【雨】]
半年後、やっと美里と付き合えることになると、美里が好きで好きでたまらなくなった。美里に何かしてやりたいと考えるようになった。
俺は、産まれて初めて人を愛した。
そんな時だ。美里が事故にあったっていう、突然の訃報を聞いたのは。
皮肉にもその時俺が居たのは宝石店。
指輪を見せてもらっていた時のことだった。
それからのことは、よく覚えていない。
病院に行くのに必死で、頭が真っ白だった。
ただ、笑えるのは、なぜか指輪はちゃっかり買っていたってことだ。
青いサファイアのついた、婚約指輪。
………病院についた時、美里は両親に囲まれて、白い布を被っていた。
笑えるくらい……あまりにあっけなくて、涙も出なかった。
まだ暖かい美里の指にサファイアをはめると、俺は静かに病室を出た。
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#209 [紫津【雨】]
俺は、まるで病人みたいに病院の待合室で読みもしない雑誌を手に取って、そのまま膝にのせていた。
空虚な頭の中には、今流行りの音楽が流れていた。
これらのことに意味なんて無い。
……馬鹿みたいだ。
ふと、
窓の外を見ると、灰色の世界に雨が降っていた。
ああ、本当だ。
………空が泣いてる。
終わり(^ω^)
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