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#266 [兄(1/2)◆vzApYZDoz6]
「お前はこの家の人間じゃない」
唐突に父が兄に言い放った。
そのときの父の目が怒りに満ちていたのを、僕は今でもはっきりと覚えている。
訳が分からず、父と兄に交互に視線を巡らせた。
こんな空気は一度たりとも感じたことがない。
なぜ、今まで気付かなかったのだろうか。
この空気は、ひどく汚れていて重たかった。
「出て行け。今すぐに、だ」
父の言葉は殆んど動詞だけで構成されていた。ひどく冷たく短い文。
なぜ、父はこんな言葉を兄に向けられるのだろうか。
兄はそんな人だったのだろうか。
僕の中で、思い出がぐるぐると回転する。それに合わせて頭が混乱する。
いつから、どうして、こんなことになったのだろうか。
「ハッ」
戸惑う僕をよそに、兄は父を馬鹿にしたように鼻で笑った。
そしてその笑いとは全く別の、とても暖かな笑顔を僕に向ける。
思い出の中の兄は、いつもこんな風に笑っていてくれていた。
だけど、いつも何処か悲しそうで。
僕は、言葉も出なかった。
兄が笑顔を崩さず、何も言わずに、僕の頭をひどく優しく撫でる。
なんというか、雰囲気的にこれが最後だと、僕の脳細胞が告げていた。
:08/04/03 14:35 :P903i :xEGH5/Ds
#267 [兄(2/2)◆vzApYZDoz6]
そこへ父が割り込んで、また暴言を吐いた。
「そいつに触るなぁ!!」
今までに聞いたことがない凄まじい父の怒号に、僕の体がビクリと跳ねる。
その叫びと同時に母がやって来て、涙を流しながら訴えに近い声を出した。
その時の母は、僕が今まで見てきた母の中でも一番苦しそうで。
もう、誰が被害者なのか分からなかった。
「どうして…そんな風になっちゃったの?」
兄は一瞬目を伏せて、僕から手を離す。
兄の手を掴もうと思ったけど、なぜかそれはできなかった。
もう、完全にこれが最後だと理解した。
今にも崩れ落ちそうな母を見て、兄が目を細めた。
そのときの兄は、とても冷たく、そしてひどく悲しそうに見えた。
いつもそうだ。今にして思えば、兄は何をしていても、笑っていても、どこか悲しげだった。
それに僕がもっと早く気付いていれば、こうはならなかったのだろうか。
兄が母に向かって口を開く。父に向けたような冷たい笑顔を母に終始向けながら。
おいおい、と話し出す。
「自分で作っといて何言ってんの? オバサン」
そうとだけ言い放って、兄はこの家を出た。
帰って来ることは、もう二度となかった。
:08/04/03 14:37 :P903i :xEGH5/Ds
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